ガンダム二次創作パロディ!ドレンが主役だ!!
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「機密宙域/難民コロニーの謀略」

謎の攻撃・軍事衛星の怪……!
Scene1
緊急事態発生!
それはまったくの予期せぬ出来事であった。
この知らせを受けた時、まだ自室でまどろんでいたこの俺だ。
シャア艦隊旗艦付き副司令、その名をドレン。
そう!
ひとから語られるほどの名はなくとも確かな働きをする右腕として、推しの少佐、シャア・アズナブルそのひとからは、確かな信頼を得ているものと自負するおじさんだ。
まあ、たぶんだが……!
ことの一報を受けてから、ものの五分でブリッジまで復帰したこの俺の視界に入ったのは、スリープモードからゆっくりと立ち上がるブリッジの景色と、まだまばらなクルーたちの人影だ。
艦橋中央の高い位置に据えられたキャプテン・シートにはいまだ主の姿はなく、中央戦略オペレーターもこのひとりが席につくくらいか。
フロアを強く蹴ってブリッジ奥の入り口から、おのれの定位置であるMS作戦指示ブースへとひとっ飛びで取り付く。
MSの作戦行動における補助を担う特設の指揮所ブースは、この真横に付ける操舵士のそれとほぼ一体だ。
そしてそこにはすでに若い大柄な若者が、仁王立ちしてこの年配の副艦長を最敬礼で迎えてくれる。
いやはや、寝坊なんてしたことないんだろうな!
勝手に感心しつつはじめ無言で敬礼を返す俺は、この若い操舵士が温厚でひとのいいのにつけ込んで頼み事をしてしまう。
「早いな! だが今現在、エンジンは微速前進、ほぼ止まっているんだろ? 舵は俺が握ってやるから、悪いがひとつ頼まれてくれないか? もちろん、少佐の許可は得ている!」
「……!」
この真顔でのお願いには、すぐさま太い首をこくりとうなずかせる下士官の操舵士だ。
もとい、はじめちょっとだけ困惑の色を太い眉のあたりに浮かべたが、さてはこのおじさんに舵を譲るのが心配だったのか?
バルダはみずからの舵取りを手早くオートに切り替えて、その場を駆け足するかのように俊敏に無重力をかき分けていく。
途中ブリッジに入ってきた少佐に敬礼して、即座にその姿を消した。
だがすぐに帰ってくるだろう。
ちょっとしたオマケを引き連れて――。
一方、真紅の衣装を華麗に着こなす仮面の貴公子は、どこにも無駄のない身のこなしでみずからの身をブリッジ中央の艦長席に沈めると、高くから周りを睥睨する。
仮面に邪魔されてその視線の先までは追えないが、優雅でもきりりとスキのない眼差しでこの場のすべてを掌握しているのだろう。
ただちに背筋をピンと正す俺は、ビシッと敬礼を返しつつ少佐からの指示を待つ。こちらに視線をくれているらしい我が推しは、かすかに細いアゴをうなずかせて無言で了解してくれる。
あえて声に出さないのが彼らしくクールだった。
くううっ、シビれる!! シビれます、少佐っ!!
その若き将は一部のスキもないさまでブリッジ内の空気を凜と震わせる。張りのある低音はよどみもなくひたすら心地よくこの耳に響く。俺の気のせいじゃないだろう。
「状況は? 偵察のザク隊が被弾したとのことだが?」
「は、はっ! 三番艦からの報告によりますと、三機編成の偵察部隊の内一機が何者かの攻撃により中程度の破損! 幸い撃墜にまでは至らず。現在は全機帰投、この収容を終えているとのことです。パイロットに目立ったケガはなし!!」
「そうか……! ザクとは言え大事な機体なのだが、これ以上の戦力ダウンは避けたいものだな? 対処は貴様に任せる。敵の詳細は?」
半ばから背後に振り返って、そこで僚艦との通信にいそしむ戦術オペレーターに話の続きを振る少佐だ。
良かった。さすがわかってらっしゃる!
取り急ぎブリッジに上がったばかりでまだすべてを把握できているわけでないこの俺は、ふうっと胸をなで下ろして、ただちにみずからの任務に取りかかる。
こちらはこちらでやることがあるのだ。
よって、さっきより背後のブースからぶうぶうと文句を垂れている、真っ黒いヘルメット野郎に迷惑げな視線を向けた。
うるっせえな! 空気読めよ!!
「わかってる! そっちはもう出せるのか?」
やや不機嫌に聴いてしまうが、あちらも負けず劣らず不機嫌に返してくるヒゲづらのエースパイロットだ。
「とっくだよ。さっから言ってるだろう? さっさと発艦許可を出しやがれ……!」
ひどいむくれっ面でぞんざいなモノの言いに内心で舌打ちする俺は、背後の少佐をちらと伺う。
まだ声をかけずらいタイミングだなと察してまた前に向かった。リック・ドム小隊の隊長機、ガイアに確認!
「今回は単機での出撃だが、敵の詳細はいまだ不明! マッシュとオルテガ機は艦隊の守備の都合、出すわけにいかんのだが、待機だけはさせておくか?」
「かまわねえよ。寝かせておけ。そもそもが三番艦のザク隊どもの不始末だろう。ならこのオレだけで十分だ……!」
「了解。ただし油断はするなよ? 無理に交戦をする必要もない! 三番艦からはきっちりとフォローを入れさせる!」
「いらねえだろ。足手まといはいたところで余計な世話が焼けるだけだ。この09のスピードに付いてこれもしねえのろまどもに用はない……んっ」
「ゼロキュウ……ああっ」
相手のセリフの一部に引っかかって、すぐさまこれを理解する俺は内心どころか現実に舌打ちしてしまう。イラッっとして。
いやだから素直にドムって言えよ! このガノタが!!
モニターの中のMS隊長に内心で毒づきながら、そのヒゲづらが何やら怪訝にこっちを見返しているのに気づく。
「どうした?」
「いや、隣にいるはずのあの目障りなのがいねえな? いっつもちょくちょく横から顔を出してきやがるのに」
「目障りってなんだ! いいや、それならもうじき帰ってくるだろう……ほら、来たぞ?」
「……ん、なんでそいつがそこにいるんだ??」
ちょうどいいタイミングで戻ってきた操舵士と、それに連れらてブリッジに上がって来た見知った人間の顔に、なおさら怪訝にモニターの中で眉をひそめるリック・ドム隊隊長だ。
確かにヤツが不可解に思うのも無理はない。
本来ならブリッジにいるはずなどがない他部署のクルーだ。
正規のブリッジクルー以外がこの艦橋に立ち入ることなど、およそ許されることではないのだからな……!
だからこそ目を丸くしたガイアが問うてくる。
「なんでおまえがそこにいるんだ? ついさっきまですぐそこでこの機体の発艦準備してただろう??」
ガイアたちリック・ドムの整備専門のエンジニアで、つまりは黒い三連星専属となる若いメカニックマン、デーミスの存在が不思議でならないらしい。
俺はにんまりとほくそ笑んで応じる。
「今回だけ特別だ! おそらくは? もろもろの都合で、そこのバルダに連れて来てもらった。いわゆるオブザーバーというヤツだな! 専門的なメカニックの知識を持った人間がいたらどうなるか、なかなかに興味深いだろう?」
「なんだそりゃ? あまり期待はできねえが、好きにすればいいだろう。それよりも発艦許可! いつまで待たせるんだ?」
ちょっと呆れた感じでありながらとりあえず納得した風なガイアを前に、借りてきた猫みたいに大柄な身体を縮こまらせるブサイクくんは所在なげにその声をか細く震わせる。
「じ、じぶんはここにいて良いのでありましょうか? す、すんごい浮いてる気がします……!」
「浮いているさ! だが気にするな! いいんだよ、我らが少佐も認めてくれているんだから!」
「しょ、少佐っ……!!」
おっかなびっくりで周りの様子を見ているデーミスは、この背後に視線を向けてなおのこと挙動不審に陥る。
しまいには横からバルダにどうどうと背中をなでられてた。
こっちのほうがいくぶんかお兄ちゃんの先輩なんだな!
横合いからMSの通信オペレーターが少佐に声を発する。
さてはしびれを切らしたガイアが催促したな。
「少佐! ガイア大尉のリック・ドム壱番機が本艦からの発艦許可を求めています!」
するとこれには背後の艦隊統御オペと会話をしていた少佐は、こちらに仮面のクールな面差しを向けて静かに言うのだ。
「ドレン、そちらは貴様に任せていたはずだ……!」
あ! 俺は内心の焦りを顔には出さずに静かにメットをうなずかせる。メットのひさしで相手からの視界を遮るかたちにだな。
おっと、そうだった! いかんいかん!!
周りの若い部下たちにも悟られまいとやたらにはっきりと腹の底から声を絞りだして高く号令を発する!
「ガイア機、ただちに出撃せよ!!」
手元のディスプレイでは何か言いたげなリック・ドムの隊長どのが真顔でこっちを見ていたが、目をあわせないようにまっすぐブリッジから臨める夜空をひたすら凝視する。
何やら小さなため息みたいなのが聞こえたか?
無視する俺に感情のない棒読みの返事が返る。
「了解」
リック・ドム出撃!
おおっ!と子供のように目を輝かせるデーミスの肩のあたりをがっちりと掴んで、おまえの推しの活躍をしっかりとその目と脳裏に刻み込んでおけよ!とひたすら強く念じる俺だった。
暗闇に走るロケットブースターの長い軌跡を目で追いながら、ぽつりとつぶやきもする推し活おじさんである。
「ああ、こんな特等席で一番のファンが応援しているんだから、ちゃんとファンサしろよ? 黒い三連星のガイアよ……!」
たった今、戦いの火ぶたは切って墜とされた……!
Scene2
PartA
ガイアのリック・ドムが旗艦から出撃して、当該の宙域地点にまで到達するのには、さほどの時間はかからなかった。
ひたすら一直線の軌道の先――。
そこは本来は何も目立ったものがないはずのいわば宇宙の公海上なのだが、一番機の各種レーダーにもこれと目立った反応らしきはなし……!
それをこちらの戦術パネルの観測計器表示でも視認しつつ、息をひそめてことの成り行きを見守るふたりの若い兵卒と、遠くの現場のベテランMSパイロットへとも向けて静かに問いかける。
「ううむ、標準宙海図の座標軸上ではそこが我が方のザク隊が襲撃を受けた交戦ポイントとはなるのだが、それらしい標的はこれと見当たらないな? 敵対的な意思があるのはほぼ確定だから、それらしい形跡があっても良さそうなものなのだが……?」
巡洋艦の索敵レーダー網にも、MSの各種レーダーにもやはりさしたる反応がないのに不可解に思うこの俺、ドレンだ。
まさか二度も不意打ち食らうまいと目を皿にして計器類を凝視するに、スピーカー越しに小型モニターの中で冷めた顔したヒゲのおやっさんが憮然と返してくる。
「ま、見ての通りだ。動体センサー、熱源反応、各種レーダー波長これと変化なし。とどのつまりで、何もねえな?」
みずからのヘルメットのバイザーをオープンにして素顔をさらしてくれるヒゲづらのエースパイロットは、浮かないさまでじっと視線をこちらのカメラに向けてくれる。
その視線をカメラのモニター越しに受けて、思わず思ったことをまんま口にしてしまう俺だ。
「そうだな! ……ん、ところで、おまえの今のそれってのは、ファンサか?」
絶賛警戒態勢中なのにわざわざメットのシールドを全開にして表情がわかりやすいようにしているのが、あえて見ている側を意識してのことなのか?
いかんせん偏光バイザーで目隠しされたメットではパイロットの表情が分かりづらい。ここらへん、当人からしても息苦しいから極力下ろさないなんてヤツもいるらしいから、さしたる意識はないのかもしれないが……どうなんだ?
「は? 何を言ってやがる? まじめにやれ。ま、このオレの勘からしたら、少々きな臭くはあるがな? やけに静かなあたり。あとしいてひとつ言うのであれば……」
違ったか。しごく納得しながら歴戦の凄腕パイロットの言葉に耳を傾ける。周りの操舵士とメカニックもごくりと息をのんだ。
「ここから見て11時やや上方の方角、アステロイドでもなんでもない、でかい宇宙ゴミがいくつもあるだろう? コロニーの残骸みたいな? だが植民地サイドでもなんでもないこの宙域にこんなものがあるのは、オレからしたら違和感でしかない。よそから流れ着いたにしても、ゴミの構成自体が不自然だ……!」
「そうなのか? ザク隊のドライブレコーダーのデータでは、どれもすでに存在していたオブジェクトだが。攻撃自体は真裏の反対側、背中から攻撃を受けている! それでも関係があると?」
俺の問いかけに、周りの若いヤツらもまた神妙な顔つきでモニターの中のヘルメットに注目する。するとそんな視線を邪魔っけに思ったのか、ヘルメットのバイザーをしれっと下ろして意味深な口ぶりするリック・ドムの隊長さんだ。
「ああん、それじゃ、試しにやってみようか? 無駄ダマ撃つのは気が引けるが、こいつがきっかけになるかも知れない……! そっちもモニターを怠るなよ?」
タタタタタッ、ダン!
手早い操作でみずからのMSに攻撃シークエンスをたたき込むガイアだ。どうやら肩に担いだジャイアント・バズーカを任意のポイントに向けて射撃するらしい。
さては話にもあった例のでかい残骸にか?
幸いにも当該の宙域はミノフスキー粒子の濃度が低いために、通信にはさしたる障害がない。
リック・ドムからの解析データをまんまで受け取れていた。
「そおらよっ!!」
ドオンッ!!
真空の宇宙空間ではそもそも伝播する空気がないから音は伝わらない。発射時の派手な発砲音は当然マイクに拾われることはないのだが、この振動を受ける機体の揺れとコクピットの空気を伝ってかすかなそれらしきものが、画面越しにも見て取れたか?
固唾を呑んで見守るこちらは無言になるが、バイザー越しのドムのパイロットはメットの中でニヤリと笑ったようだ。
「当たりだな……!」
言うが早いか、自機のセンサーが警告を発するよりも早くに機体に回避機動を取らせる凄腕のパイロットだ。
判断が早い!
この俺あたりからすれば、神業みたいな手さばきでレバーとスイッチを指先の感覚だけでまさぐり機体の姿勢を制御しつつ、間髪入れずに足下のペダルを限界一杯まで踏み抜いた!
股の下から掴み上げた操縦桿を胸元一杯まで引き上げる!
背中のロケットブースターを全開にしてフルスピードで宇宙の虚空に大きな弧を描くリック・ドムだ。
片や、突如としてレーダーサイト内に現出した熱源反応から立て続けに吐き出される一陣の烈風!!
こちらからは荒いモザイクのかかった何かしらの塊の連なりとして映るが、それが音速の何倍もの速さで斉射された弾丸の軌跡だと理解するのは、一瞬のタイムラグの後のことだ。
軍人ならかろうじて理解が追いつく。
行く手を阻む大気(空気)の障壁がないから、威力もスピードも減速減退なしで迫る鋼鉄の銃弾である。
だからこそこれを事前の回避行動もなしに避けるのはしごく困難、その上でかすりもさせずにまた元の位置に機体を静止させるのはさすがだな!
無謀に突っ込むこともなく、ピタリと止まった機体のレーダーを前方の敵影に向ける余裕と胆力もまたさすがだ。
それきりにただ黙ってこちらからの回答を待っているのが小憎らしいベテランに、モニターに表示される観測データを読み取る俺は頭をフル回転させながら声を絞り出す。
ぶっちゃけ、ちょっと後悔していた。
しまった! マッシュの二番機も付けておくべきだったか?
敵機情報の収集解析が得意な偵察支援機タイプならば、もっと正確な一次データが取得できたのだが……!
「ガイア機、何者かと会敵、ただちに戦闘状態に突入!」
状況を高らかに宣言することで、ブリッジ内の緊張感が高まる。すぐ隣でパチパチと目を見合わせる若輩者たちに焦るなよと目配せして、モニターの中で冷静にこちらを見返す黒いヘルメットに返す俺だ。
「MSではないな! 連邦の機体のマシンガンではどれも適合しない威力推定値と連射速度ならびに弾数だ。より大型の戦艦クラスの機銃カテゴリーに相当! おそらくは……!」
正面の作戦図表ディスプレイの中で、今しもゆっくとりその形が特定されてゆく未確認オブジェクトを凝視。
そのいびつな形状の敵影に言葉を失う俺だった。
コイツは、どうして……??
頭の中が疑問符で一杯になるが、答えは闇の中だ。
不気味な沈黙の中に、短く舌打ちが響く。
ふたたびヘルメットのバイザーを開けたエース級のパイロットはやはり厳しい表情でそれに見入る。
察するに、この胸の内の思いは同じようだな?
「なんかめんどくせえのが出てきやがったな? 意味がわからん。こんなご丁寧に偽装して、目的不明もいいところだ……」
もやもやした思いをはっきりと言葉にしてくれる。
これに俺もただうなずいていた。
ことここにおよび、前回の連邦部隊と同様、厄介な敵が立ちはだかるのをはっきりと理解する、おじさんたちなのだった。
Scene2
PartB

航海宇宙図(スペース・マップ)上では何もないはずの宙域で、突如としてこの行く手を阻む、敵対的な謎の存在……!
これに単身で挑んだ黒い三連星のガイアのリック・ドムの前に現れたのは、所属不明の攻撃型軍事衛星であった。
ドムからのリアルタイムの情報解析により、このおおよその形が雑なワイヤーフレームで描き出されたディスプレイの図面に、みんなでしげしげと見入ってしまうブリッジ組の俺たちだ。
それはあまりにも意外なものだった。
よって通信ディスプレイの中のヒゲづら、現場組のガイアも渋い顔つきでそれを見ながらに舌打ち混じりで言うのだ。
『なんかえらいやかましいヤツが出てきやがったな? いろいろと厄介なものを載っけてやがるだろ、どいつもMSの装備よりも格上のヤツだな……!』
ガイア機の観測機器による解析が進むにつれ、こちらのモニターの中の乱雑なフレーム表示もそれらしい形を整えていく。
見た感じがバリバリの軍事衛星のそれは、機体の各部に強力な装備らしきを備えているのがこれまた一目瞭然だ。
ガイヤが言っていたとおりのMSのそれよりも、むしろ戦艦にこそ搭載されているべきものだな!
まことに厄介なこときわまりない。
この俺も表情を苦めて現場のパイロットに注意喚起する。
「威力が強力だということは、当然この射程においてもあちらが上ということだ! 注意されたし、ガイア大尉! おそらくは拠点防衛用の攻撃衛星なのだろうが、今の単機ではバリバリ戦闘態勢でいきった駆逐艦に挑むのとそう大差もないだろう? どうする??」
この期に及んでいささか間抜けながらそんな問いかけをしてしまうに、あちらからはさも呆れた顔つきでこちらを見返してくるガイア大尉どのだ。
『この手のヤツは通称でハリネズミとか言うんだよな? 確かに厄介な装備がてんこ盛りだが、あるのはあれ一機のみだろう。なら怖がることはありやしない! おまえ、このオレを誰だと思っている?』
百戦錬磨のドムのパイロットがくれるただの強がりでもない自信に満ちた返答に、即座に了解してうなずく俺だ。
「了解! できる限りのサポートはする。ただし危うい場合は即座の撤退も勧告するからそのつもりでな? ちなみにこの正体はおおよそでわかったが、その背景がさっぱりわからん!」
またも難しい表情で年齢柄の肥満による太い首周りを傾げてしまう俺に、あちらのヒゲづらは嫌気がさした表情でメットのバイザーを下ろしてしまう。
通信終了か?
だがおちおち考えるまでもなく、場が動いた。
横で息をひそめていた若い兵卒たちがなおさら緊張して、目の前のモニターに釘付けとなる。できたらもっと参考になる意見なりを言ってほしいのだが、ほぼ新人に近いのだからはなから期待しても無駄なのか。あきらめかけたところでだが奇しくも新人のメカニックマンがこの口を開いた。
「敵衛星、攻撃再開! たぶん、多連装ポッドからのミサイルであります!! 一番機に向けて複数発射! 大尉どの! ただちに回避されたしであります!!」
「おっ、おおっ……!」
オペレーターもさながらでいきなりそれらしいことを言い出すのを、ちょっとどっちらけて見るこのおじさんだったが、向こうの現場のおじさんはしっかりとこれに反応してくれた。
『言われなくてもやっている! ブリッジクルーでもないヤツが出しゃばるな!! 手持ちのバズで打ち落とすのはちと困難だが、こいつの機動力なら無難にやり過ごしてやれる!!』
この時点ですでに身体に相当なGを掛けているらしい重MSのパイロットだ。アクセルペダルをぶち抜く勢いで自慢の愛機のリック・ドムを急速旋回させていた。
そう、いかに追尾機能があるミサイルでも急な加速で旋回機動されればこれにぴたりと追いつくのは困難だろう。
加速度はそのままで突き進むのだから、ミサイル自体が追尾できる角度にもレーダーの探知範囲にも限度がある。
推進剤も無限ではないのだからな。
都合、三発撃たれたミサイルはどれも初速が遅く、すっかりこの目標を見失っているものと思われたのだが……!
突如、リック・ドムのコクピットに緊急を知らせるアラートが響いて敵ミサイルに変化があることが、こちらでもリアルタイムに知覚できる。三つあったはずの敵マークが激しく明滅を繰り返し、おまけにいくつにも分裂、その数を一気に増加!
およそ倍どころじゃない勢いでだ。
どうやら複数弾頭を備えた多弾頭ミサイルが、この内蔵した小型弾頭をガイア機めがけて盛大にぶちまけたらしい。
数も知れない無数の矢印がガイアのリック・ドムへと殺到する。もはや完全に囲まれていた。
「くっ、こいつは……!」
ほぞをかむ思いとはこのことか。
よもやここまで厄介だったとは!
本当に軍事拠点を防衛するかの勢いだが、何を守るんだ?
その場の全員が目を見開いていただろう。
急制動をかけてバックしたんじゃ間に合わないタイミングだ。
その瞬間、鋭い舌打ちがしたのを聞き逃さない俺は、手に汗握ってモニターに声を上げていた。
「よけろっ、大尉!!」
『簡単に言うんじゃない! どうやって避けるんだよ? ええい、ふざけやがって! 多少の被弾は覚悟で突っ込むか??』
息の荒い反発が鼓膜をしたたかに打つ。
要するに破れかぶれでミサイルの嵐を突っ切って、本体の衛星に一発食らわしてやるってことだよな? この短絡オヤジめ!!
かなりやばいことをどさまぎで抜かしてくれる隊長機に、この俺は愕然として返す言葉もなかったが、すぐ隣で顔を真っ赤に赤らめる黒い三連星推しのメカニックが再び声を張り上げた。

「……はっ! 大尉どのっ! 胸部の拡散粒子砲があるであります!! 収束率ゼロの最大解放、かつオートのフルバーストで三連射でありますっ!! 正面から突破できるでありますっっ!!」
「はっ、なんだ? 何を言っている!?」
いきなりしゃべり始めたな!
はじめちんぷんかんぷんで聞き返してしまうこの俺だが、正面のモニターをにらんだままのメカニック、デーミスはまるで気にもとめない。
そんなあたふたするこちらをほっといて、だが当のドムのパイロットめは即座に理解したらしい。若いメカニックの若造の意見に四の五の言わずにただちに了解、即応する。
『! む、なるほど! その手があったな!! あんな字面だけ立派でそのクセに目くらまし程度にしかならないへなちょこ装備には頼る気がしないが、こいつら相手なら!!』
MSドムの胴体(ボディ)の胸部あたりに一門装備された、拡散型ビーム兵器――。
その名も『拡散粒子砲』はその響きだけで言ったらかなりの決め技みたいに聞こえるが、実際はさほどの威力があるわけではなかった。
言ってしまえばオマケみたいなもので、MS相手の決め手にはならず、実際は目くらましとして使用されることが大半だ。
ただし今回のような小型のミサイル群が相手となるとてきめんにこの効果を発揮! メカニックが言うように短い間隔の三回連続の拡散ビームの斉射で、群がる矢印をまとめてはたき落としてガイア機の正面に突破口を切り開くのだった。
「で、でかしたっ、デーミス!! すごいじゃないか!!」
『やったのは俺だろう? ま、そいつの手柄でもあるが!』
すぐ隣の新人くんに言ったのをまんざらでもなさげ、気分良さげに応じる隊長は、ミサイルの嵐を見事にかいくぐった先の空間を見据えながらにまた続ける。
『どうれ、しっかり捉えたぞ? また反撃される前に一発お見舞いしてやるが、かまわないよな? ……ちっ、外したか!』
言いざま、自機の真正面に捉えた敵攻撃衛星めがけてドムのジャイアント・バズーカを斉射するガイアだが、すぐにも舌打ちして目つきを細める。いつに間にやらかまたメットのバイザーを上げていたから素顔が丸見えだ。
はあん、どうやらしゃべる時は、バイザーを開けるクセがあるらしいな? このエースパイロットどのは!
「あいにくターゲットの衛星本体ではありませんが、この側面のミサイルポッドを撃破したものと思われます! 外された理由は、この衛星が自機の姿勢制御システムで機体を急旋回、本体への直接のダメージを辛くも避けたものと推測!!」
ドムの搭載する観測機器類とメインカメラからの画像にかじりつく若いメカニックのデーミスが、即座に状況を解析!
あれ、なんかコイツさっきからやけにしゃべるな?
若干だけ気にかかりながらもおそらくはそのとおりなのだろうと了解しつつ、俺も俺なりにカメラの向こうのヒゲの隊長さんに言ってやる。
「長々と解説ご苦労! あともうひとつ言うならば、敵さんが体勢を変えてくれたからポッドの反対側に位置する近接戦闘用のバルカン砲の射線上からもまんまと外れてくれた! 畳がけるなら今だな!!」
絶好のチャンスだと意気込むのだが、あいにくカメラの向こうの真顔のパイロットはあまり乗り気ではないらしい。
『まだ頭のビーム・キャノンがあるだろう? あれが一番厄介だ! 近づいて確実に一撃くれてやりたいところだが、この距離なら虎の子のバズでトドメもさしてやれるか……ん!!』
さらにバズーカを見舞ってやるべく射撃体勢に入るガイアのドムの真正面、機体の姿勢の保持に苦労しているらしい衛星めが、この頭に装備したビームカノンらしきを身震いさせる。
さては射撃の兆候か!?
これに反射的に息を呑む俺たちの目の前で、思いも寄らない挙動を見せる敵攻撃衛星だ。てっきりビームで反撃と思わせて、これに反射的に身構えるガイアの表情が愕然となる。
『なんだっ、こついめっ、分離しやがったぞ! ビームの砲座だけが本体から外れて飛び出しやがった!! わけがわからんっ!!』
ちょっと泡を食ったさまの隊長にだがそれを冷静に見つめる俺である。果てはひどく納得してしきりとうなずくのだった。
「今どき分離式の砲座ぐらいなくもないだろう? むしろこれで納得がいった! はじめのザク隊が背後から攻撃を受けたのはこういうことだったんだな? 遠隔攻撃可能な軍事衛星か!」
『む? ああそうか、だったらこっちもそれなりに応戦させてもらう! もとよりクロスレンジで詰めてしまえばこちらのものだ、あとついでに……!!』
言うなり間髪おかずで衛星本体に急接近するガイアのドムは、その右肩に装備したヒートブレードを空いた左手でスラリと抜くなりこれを真横に一閃させる!
ただしそれは衛星本体を狙ったものではなく、その真上のもはや何もない空間であった。やや不可解に見るこの俺に、舌打ちまじりで言ってくれる当のドム隊隊長さまだ。
『ああん、手応えがねえな? 有線式の移動砲台ならエネルギーの供給と機体制御を兼ねた接続ラインを切っちまえばそれで終わりのはずだろう? 何もねえぞ!』
「ん、どういうことだ? まさか無線式? だがこの衛星自体はあくまで無人で放置された固定配置型のはずだろう?」
ちょっと動揺してしまうおじさんたちに、この時、背後からは不意に凜とした涼やかな声が走る。それまで黙ってこの場を静観していた少佐が、ついにその口を開くのだった。
「ドレン! ……いや、無線式でないこともないだろう、可能性として? ならば分離した砲台自体は生きているものとして、標的が二つに分かれただけだ。とりあえず手近の衛星本体を停止、分かれた砲台は後からの対処でかまうまいさ……!」
突如とした推しの背後からの的確な指示に慌てて迎合してしまうしがない一ファンであり下士官の俺に、あいにく反骨精神むき出しのヒゲづらパイロットがしかめ面で応じる。
「はっ、は! 了解であります、大尉っ!」
「ふん! 聞こえてら! だったらそうらよっ……どうだ?」
一度は空しく空を斬ったしゃく熱のロングブレードを、再び一気に衛星の本体部めがけてざっくりと打ち下ろすガイアのリック・ドム! 片手でも楽々と衛星の装甲を貫いていた。
デーミスから聞いた話じゃ、一番機は特に近接戦闘に特化した仕様でパワーがあるというが、まさしくだな。
衛星の本体もその中心部に深々と突き刺さるのがこちらからもそのカメラ越しに見て取れた。これにより衛星自体の挙動もおおよそがピタリと停止するのが見て取れる。
おそらくはこの中枢の制御システムをヒットしたのか?
それでてっきり片が付いたかと思いきや、すぐ横のメカニックが甲高い声を発した。
おいおい……!
「砲台、いまだ健在! 生きているであります!!」
ただちに鳴り響く鋭い警告音と共に、ガイアのリック・ドムのほぼ背後からの反撃、白熱する強力なビームが斉射される。
威力はほぼ駆逐艦のそれに相当するものと思われた。
ただし本体から分離した単体での攻撃では射撃精度が劣るものなのか、どこかあさっての方角に射線が向いていたが、角度を補正、ただいまは次の二撃目へとチャージしているのだろう。
絶妙な間がブリッジを覆う……!
これにキャプテンシートに深くその身を落としていた我らが少佐、シャア・アズナブルがかすかに身じろぎして言うのだ。
「これは、におうな……! もはやこのわたしも出たほうがいいものか? ガイア大尉!」
ともすれば今にもその腰を上げそうな言いようでだな?
推しの出撃が目の当たりにできるのかと、俺は緊張してことの成り行きを見つめるばかりだが、あいにくでドムのやさぐれパイロットは真っ向から拒否の姿勢だ。
「余計なお世話だっ! それ、ざまあカンカン!!」
わざと相手の攻撃を誘っていたのか?
相手からの二撃目のビーム斉射と同時に機体を翻すガイアのリック・ドムは背後にした衛星本体にこのビームを直撃させる。
言うなればまんまと相撃ちだが、これにより完全に衛星の機能を停止させるに至るのだった。
中枢の制御システムが完全にダウンしたのが傍目にもそれとわかるほどの損傷度合い。復元は到底不可能だな。
ああ、にも関わらず……!
「分離した砲台、いまだ健在であります!! しっかり動いているであります!! 位置を変えつつもさらに三度目の砲撃体勢、注意されたしでありますっ!!」
デーミスの再三の注意喚起にカメラの向こうのヘルメットが口やかましく文句をがなり立てる。
盛大にツバをまき散らして元気な中年だ。
口の端が泡立ってやがる。
どうやらバイザーにツバが飛ぶのがイヤでメットをオープンにしているようだな、このオヤジは?
『デーミス、おまえちょっと黙ってろ! ちいっ、あんな小さな的を射抜かなけりゃならんのか? そもそもなんで動いてやがる、あのビーム砲台は?? 本体はこうしてしっかりとつぶしてあるんだぞ!!』
「わからん! こっちが聞きたいくらいだ! どこかに操作している人間がいるのか、あるいはどこか遠方から遠隔操作されているのか……?」
可能性としてはどちらも低いのだが、この時、またすぐ横合いの方から強い視線を感じてそちらに目を向ける俺だった。
角度的にデーミスじゃないな? 今やすっかり前のめりで後頭部をさらしているメカニックくんだ。
見るとそれまでずっと沈黙を守っていたはず操舵士のバルダのやつが、やたらな目ぢからでこの俺を見つめている。
てか、にらんでるのか?
何を言いたいのかさっぱりだが、図体でかいのに性格が無口でおとなしいこの若者ときたら、ひたすら無言で手元のディスプレイ類の一角を指し示す。
はじめはてなと思う俺だが、無言のバルダは何ごとが必死に訴えているようだ。
いや、おまえはもっとしゃべれよ! どんだけシャイなんだ?
内心でツッコミながら手元のディスプレイの表示を凝視する。
それでようやく理解ができた。
「……んっ、何かしら通信を傍受しているのか、ひょっとして? どこからか?? いや、バルダ、もっと早くに言えよ、あと言いたいことはちゃんと口に出せ!!」
「砲台停止、攻撃機動が解除された模様、熱源反応が低下してるであります! 破壊された衛星から停戦信号を感知したであります!!」
とかく出しゃばりなメカニックからの早口の戦況報告にいよいよ愕然となる副艦長だ。
てか、おまえのそれ、本来のオペレーターの役目を奪っているだろう? 連れてきたの失敗だったか??
他のブリッジクルーからの突き上げみたいなのを予感しながら、苦い顔つきで考えを巡らせた挙げ句に路頭に迷う。
「衛星から? まだ生きているのか!? ん、おい、こいつは停戦というよりか、むしろ救難信号なんじゃないのか?? ええいわけがわからないぞっ!!」
『なら撃っていいか? めんどくせーから?』
「ちょっと待て! 今通信の内容をきちんと解析してもらうから! 少佐っ……!!」
背後を振り返ると、すっくとシートから立ち上がったシャア少佐そのひとが、こくり、無言で深くうなずく。
その単純な動作のひとつで、混乱しかけたこの俺とブリッジの空気が静かに落ち着きを取り戻す。
これには内心で最敬礼で向き会うおじさんである。
おおっ、さすがすぎます、少佐!!
結果、少佐の出撃を見送ることとなるこの俺、ドレンだった。