カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア○記/Lumania W○× Record #024

新キャラ登場!

新メカも登場!!



 #024

  Part1


 朝から快晴。

 打ち寄せる波もいたって穏やか。

 言うなれば比較的大型の軍用艦だから揺れなどさして気になることはないが、たまには外に出て日光浴くらいしたいものだ。

 なのに周りを金属の分厚い装甲板で囲まれた薄暗いアーマー格納庫の中で、息をつまらせながら待機しているのに若干の嫌気がさす若いネコ族の女子パイロットだった。

 油臭く湿った空気は肺に取り入れるのも億劫だ。

 どうせならもうみずからのアーマーに乗り込んでしまおうかと待機所からデッキに顔を出す。

 外に出るとなおさらに油と金属の匂いが色濃くなるのに眉をしかめながら、細くて長いキャットウォークを早足で音も立てずにするすると渡っていく。

「……!」

 見渡す道の途中で見知ったでかい影が立ちはだかるのが薄暗闇にもわかるが、邪魔だなと思いながらそのすぐ手前までつけた。

 ビクともしない影はこちらに見向きもしない。

 これをじっとその横顔を見上げてしばし無言でみつめるネコ族の女子だ。

 あいにくであちらは微動だにしないのだが……。

 相手はクマ族のこちらもまだ若い男で、それがのんきなさまでいつまでも突っ立ているのにやがてかすかなため息を漏らす。

 大抵が性格のおおざっぱなクマ族だからなのか、生まれつき鈍感なのか、仕方もなしにこちらから声をかけた。

 欲を言えばさっさと気が付いて道を開けてほしかったのだが。

 もはやいつものことながら。

「カノンさん。道、開けてくれない? こんな細い通路でそんなとこに突っ立ってられたら、邪魔でどうにもならんのよ。ね?」

 問うてもまるで無関心なさまに、相手がうすらとぼけているわけではなくてご機嫌に音楽か何かを聴いているのだと気づく。

 良く耳を澄ましてみればその口元からいささか調子っぱずれな鼻歌が聞こえるし、左右の耳もイヤホンで塞がれていた。

 こいつなめてるのか?

 内心でイラッとしながら、ちょんちょんと相手の肘のあたりを指先で小突く女の子だ。

 これにようやく相手に気が付いたらしい大柄なクマ族、それもかなりの肥満の部類に入るだろう太っちょのアーマーパイロットの青年は、そこではじめてちょっと意外そうな顔でこのネコ族のパイロットスーツを見下ろす。

 それでどうやらやっと認識してくれたものらしく。

 やっぱなめとるやん!

 見上げるネコ族の目つきが険しくなる。

「……おお、イワック、いたのか? 背が小さいし普段から気配がないからわからんかったのじゃ。で、なにをしておるんじゃ? そんなところにぼさっと突っ立って??」

 でかい大男が男にしてはちょっとクセのある高めの声でかなりのんきなさまでぬかしてくれたセリフに、またため息ついてだらだらと文句を垂れるネコ族のイワックだ。

「はあ、それはこっちのセリフなんよね! もう準待機から戦闘待機に変わっているんだから、わたしらパイロットはさっさと持ち場につかなきゃならんのよ。そもそもカノンさんのアーマーはこの下の一番デッキにあるんだから、そっちの通路を使えばいいってわたしいつも言ってるはずよね? あっちのほうが道幅も広いし!」

 責めるような目つきと言葉つきできつめに言ってやるが、相手の神経ことさら鈍感なクマ族はまるでひとごとみたいにえへらとかわしてくれる。まるで気にしたふうがないのが丸わかりだ。

 ネコ族のイライラゲージがまた一つ上がった。

「おお、悪いがこの下の通路はメンテのキョカスが使うからほぼ一方通行なんじゃ。あいつはおれよりもでかくて太っちょるから、これと鉢合わせたら引き返す意外に道がないんじゃ。ちょっと遠回りだけど確実なルートだから、それにこの高いところからの景色がおれはとっても好きなんじゃあ!」

「はあ? おかげでカノンさんの専用道になっとるがね! わたしが迷惑してるんよ、何度言ったらわかってくれるの? あと景色って、こんな薄暗くて殺風景なアーマーデッキじゃ、見るものなんてなんにもありゃしないがね。ほんとにあきれるくらいにのんきだよね? そんなんでこの先一緒に戦っていけるのか、ほんとに不安になってくるよっ……!」

 思わず嘆いてしまうネコ族の女子に、とことんマイペースのクマ族どんまい男子はどんとみずからの胸を叩いて大口叩く。

「ははん。心配ないんじゃ、イワックは心配性が過ぎる。ネコ族はほんに小心者ばかりじゃの! おれのようにゆったりかまえていないと、何かにつけて神経をすり減らして戦場では生き残っていけないのじゃむしろ。心配せんでもおまえの背中はこのおれがきっちりと守ってやるのじゃあ!」

「口先だけで終わる時があるからこわいんよ。ああもう、後衛よりも前衛のほうがより危険にさらされるし、致命打も受けやすいのもほんとに理解できてるんかね? このわたしが敵にやられて落とされちゃったら、次はカノンさんの番なんだよ?」

「その時はその時じゃあ! 地獄でまた会おうなんじゃ!」

「ああ、もうほんとに……! あのさ、せめてあの世にしてよ。天国とか贅沢言わないから! はあっ、もういいや、さっさと戦闘配置につこうよ。どいて。邪魔だから。はじめに出るのはでかくて足がのろいカノンさんのアーマーでしょ?」

 これ以上やりあったら頭の回路がショートしてしまうと内心のイライラを必死に押さえて不毛な立ち話を終わらせるのに、相手ものんきなさまで鷹揚にうなずいてくれる。

「おう。おまえの出撃ルートはきっちりとこのおれが確保しておいてやるんじゃ。ほんに腕が鳴るのう! バリバリの新型機を拝領して今日がようやくの実戦なんじゃから、このおれたちは。言ったらコンビでそろって初陣なんじゃな! 記念すべき?」

「初陣……なのかな? あんまり実感がないけど、慣れない実験機の演習死ぬほどやってきたから! それじゃとにかく頑張ろうね。あたしの背中、カノンさんに任せるよ。間違えて撃ったら許さないからね? 大事な時にいつもテンパるんだからさ」

「おわわ、化け猫のたたりは勘弁ねがうんじゃあ! イワックは本当に化けて出て来そうだからこわいんじゃ。でもその時はおれも死んでる可能性が高いから、やっぱり地獄で会うんじゃな? わざわざ化けて出なくてもばっちし会えるんじゃ!」

「だから地獄はやめようよ。あと縁起でも無いこと言わないで。わたしこんなところでさらさら死ぬ気ないし。もういいからとにかくがんばろ」

 しまいには肩を落として微妙な顔つきの相棒に、片や明るい笑顔でおう!と応ずるクマ族のカノンだ。それがくるりと大きな背中を向けてのっしのっしと通路を揺らして歩いて行く。

 でかい影が隠していたじぶんの機体へのタラップをようやくこの視界の中に取り戻して、そちらに向かいながら相棒のクマ族の背中に言葉をかけるネコ族だった。

「カノンさん! 耳のイヤホンちゃんと取りなよ! それ付けたまんまじゃ艦長に怒られるからね? 軍の規則で私物の持ち込みは禁止になってるでしょうに、アーマー内にはさ!」

 おう!と片腕上げて気楽に応ずる背中がそのまま暗闇に溶けるのを見送って、タラップをタッタと早足で降りるとその先でキャノピーの大きく開かれたみずからの機体にただちに身を滑り込ませるイワックだ。

 後からバタバタと忙しい足音が聞こえるのに、今頃になってメカニックたちが駆けつけてきたのかとこれを横目で見ながら、さっさとコクピットのキャノピーを閉じた。

 今の今までのんきにタバコだとかを吸っていたのだろうから、ヤニ臭い匂いをかがされるのはゴメンである。

 どうして男ってこんなんばっかりなんだろうと恨み言こぼしながら、出撃の時を待つネコ族の女子パイロットだった。


 Part2


 耳にガンガンと響くかまびすしいサイレンが、広いデッキ内に延々とこだまする。

 だが外部から分厚い装甲で隔離密閉されたアーマーのコクピットの中は、穏やかな静けさに包まれていた。

 ようやく気を落ち着けてみずからのパイロットシートに身をゆだねるネコ族の女子パイロットだ。

 そのイワックは、今は澄ました顔でただ目の前の大画面のモニターディスプレイを見つめていた。

 よくよく耳を澄ませばこのコクピットのキャノピー越しになにやらガヤガヤとした気配や声らしきも聞こえてきたが、もはや何もないものとして完全に無視する。

 どうせろくなものでもないのだろうから。

 良く見知った間柄のメカニックマンたちが無駄な気勢を吐いているだけに違いない。

 そういわゆる体育会系男子のノリで。

 正直、付き合ってやる気分じゃなかった。

 折しもそこで短い警告音が鳴って、アーマーの出撃シークエンスが開始されたことを知らされる彼女は、しごく落ち着いた心もちでディスプレイに映し出される景色のみを眺める。

 軍用艦としてはとかく特徴的なでっぷりとしたフォルムの中規模航空母艦は、このアーマー射出カタパルトが艦の中央にひとつだけ据えられており、まずはこの遮蔽されたアーマー・デッキの先端部分に大きな口がガポリと開いていくのがわかる。

 暗闇に太い光りの束が差し込み、画像を拡大すればその先に青い空と海がまぶしく広がるのがわかるだろう。

 それがつまりはアーマーの出撃時の発射口で、カタパルトはこの内部から外へとジェットコースターのレールのようにまっすぐ長くせり出すのだった。

 それに機体を預けて果ては強力なGを受けながら一瞬にして青空の彼方へとたたき出されるのだが、大気との摩擦抵抗で激震する機体の安定確保や減速なしでの最大戦速機動などはおよそ一朝一夕にできるものではない。

 新型の機体でようやく満足な出撃アプローチができるようになったイワックは、じぶんよりも大型のアーマーで今しもそれに臨もうとする相棒のクマ族の機体を無言で見つめていた。

 じぶんの乗る機体よりも下側のデッキに固定された全体がやけにゴツゴツとしたいびつなカタチのアーマーは、その機体各部の固定ボルトを外されて、まさしくデッキ中央のカタパルト射出台へとそのでかい身柄を移送されていくところである。

 出撃まではおよそ秒読み段階。

 発進コースクリア、機体、カタパルトともにオールグリーンのパイロットランプが表示されるのも横目で確認。

 まずは先行して出撃する同僚に、行ってらっしゃい!と心の中で激励するネコ族の細めた目元がだがわずかに見開かれる。

 直後、すっかり静けさに満ちていたはずコクピットに、その大型機のコクピットからの通信回線が開かれた。

 出撃間際なのに。

 それだから出し抜け耳朶を打つ甲高いハイトーンボイスに思わず面食らうネコ族の女の子だ。

「ああー、こちら、ガマ・ガーエルのカノン! おい、イワック、聞いておるか? なんだか静か過ぎて息が詰まるんじゃあ! ちょっとはしゃべってくれんかのう? でないと出撃をミスってしまうかもしれん、おれはこう見えて繊細な心の持ち主なんじゃ! とってもとってもデリケートなんじゃあ!!」

「はっ? 知らないよ! めちゃくちゃしゃべっとるじゃん! あのね、そんなんじゃ舌噛むよ? いいからさっさと行ってよ、後がつかえているんだからさ!!」

「そういういらちは戦場では孤立して往生するんじゃが! もっと気を楽にして臨まないと、実力の半分もだせんのじゃろう? 気が強くとも緊張しいなんじゃから、おかげで後ろから見てるおれもガチガチにテンパってしまうんじゃ! 射撃精度がだだ下がりなんじゃあ!! たのむ、おれを安心させてほしいのじゃ!」

「ほんとに知らないよ! そんなのカノンさんの勝手な都合じゃん、わたしにどげんしろっちゅうのよ? ああ、もうっ、ここで言い合っても仕方ないんだからさっさと行ってよ! 行って! でないといつまでたってもこのわたしがっ……!」

 出撃前からしょうもない言い争うになってしまう若気の至りの若者たちだった。

 だがすると不意の短い警告音が鳴って、これを仲裁するべくした第三者が忽然と現れる。

 真正面のディスプレイに四角く開いた窓枠にバストアップの大写しで現れた犬族の士官の姿に、ハッと緊張するイワックだ。

 落ち着いた真顔にかすかな笑みを浮かべるベテランの上官はこの戦艦の艦長で、詰まるとこで場を仕切る最高責任者である。

 これまでのやり取りがダダ漏れで筒抜けだったのがわかって、内心でバツが悪い思いに駆られる根が真面目なネコ族の准尉は、これに反射的に利き手で敬礼をしてしまう。

 空いているほうの手でさりげなくパネルを操作してこの見かけ渋い中年イヌ族の隣に同僚の若手パイロットのクマ族を並べてやるが、すると思ったとおりぼけっとしたさまで口が半開きのでぶちん丸メガネの少尉どのだった。

 おい、ちゃんとしろよ、デブ!

 内心でヤジって表面上は落ち着きはらった体裁を取りなす。

 そんなじぶんの内心を見透かしたかのようなかすかな苦笑いを目元と口元に浮かべる艦長のシブおじは、怒るでもなくむしろおどけたふうなやんわりした口調でスピーカーを震わせてくれた。

「……フフッ、ほんとに元気なぼうやたちねぇ? 失敬、ひとりおじょうちゃんもいたものかしら? で、あなたたち、出撃も何もまずは艦長であるこのわたしに挨拶するのがスジなんじゃないの? ブリッジの出撃命令も聞かずに出ていっちゃうつもりなのかしら? この状況もろくすっぽわからないまんま??」

「あっ、いやあ……!」

「ほうれ、だから言ったんじゃあ! 短気は損気じゃって!!」

「言ってないよ! カノンさんは黙ってて!! 艦長、お言葉ですが敵がこちらに向かってくるとの情報を得ての出撃だと聞いております。ならばなるべく迅速に出撃して、これを速やかに迎撃するのが得策なのではないかと考えられますが……!」

 大まじめに思ったことをまんま率直に言ってやるに、モニターの中の渋い中年士官はちょっと意外そうにこれを聞いてくれる。

「あらま、ほんとにいらちなのね? まあいいわ。あなたの言ってることもちろん間違いではないけど、急いてはことを仕損じるとも言うのよね。ふたりともちょっと深呼吸してお聞きなさい」

「はい……?」

 何やらもったいつけた相手の言葉に、きょとんとした目で見上げるネコ族の女子なのだが、対して相棒のクマ族などはすっとぼけたさまで生まれついての天然ぶりを発揮させる。

 ただちに相棒ににらみ付けられた。

「ならおれはもう出てしまってもいいじゃろうかのう? さっきからカタパルトがゴーサインを出しっぱなしなんじゃが?」

「カノンさん! 空気読んでよ! リスタートすればいいじゃんさっ、艦長の話を聞いてからでいいでしょうがっ!?」

「ふふ、まあそんなに大した話じゃないのだけどね。そう、このわたしからあなたたちに言うべきことは、ベストを尽くすこと、決してあきらめないこと、そしてどんな手を使ってでも生き延びることよ。あなたたちの代わりはどこにもいないんだから、ね? ちゃんとここに生きて戻ってこられたなら、それだけで後はもう何も望むことはないわ」

「はい??」

 てっきり迎撃するにあたっての作戦概要や敵アーマーの諸元などが指示されるのかと思いきや、なんだかやけにおっとりとした言いようでぼんやりしたオーダーである。

 これにはじめ目をパチパチとしばたたかせてしまうイワックだった。

 優しいまなざしのおじさんの隣で、同僚のクマ族もぽかんとしたありさまだ。

 言わんとしていることはわかるのだが、あんまり戦場を陣頭指揮する司令官の口から出たとは思えないゆるいお題目である。

「ま、平たく言っちゃえば、テキトーでいいから死なない程度に頑張って、今をどうにか乗り切りなさいってお話よ。戦場は誰しも命がけだけど、実際に命を落とすのは馬鹿らしいってこと。ね、この意味、あなたたちにもわかるでしょ?」

 果ては完全に肩の力の抜けたさまでひょうひょうとぶっちゃけ発言かますそれは大ベテランのイヌ族艦長だ。

 対してちょっと当惑したさまでこの目をひたすら白黒させるネコ族のパイロットだった。

「え? ちょ、なんですかその軍人らしからぬふざけたもの言いは? テキトーって、上官が言ったら一番ダメなワードでしょ! ハザマー艦長はいっつもそうやってちゃらんぽらんだけど、もっとまじめにやってくれないとわたしたちが困りますよっ、遊びで戦争してるわけじゃないがね! だってこどもの遠足とはものがちがうでしょうが!?」

「ま、遠足でひとは殺さないものね? 死ぬこともないし」

 日頃からとかくひょうひょうとしておどけた態度口ぶりがデフォルトの食えないおじさんに思わず噛みつくが、相手はニヒルな笑みで口元をニッとゆがませるばかり。

 カノンが天然発言するのもむなしく響いた。

「いいや、おれはそんなハザマー艦長のゆるいところとっても好きじゃあ、頭ごなしに言われるよりよっぽど腑に落ちるし、元気が湧いてくるんじゃが? 出撃はちゃんと母艦に返ってくるまでが出撃なんじゃ! イワックもそうは思うわんのか?」

「それは遠足のときに校長先生が生徒に向かって言うヤツだよ? ここは戦場なんだから、そんなゆるいノリじゃ乗り越えられるはずないんよ。もういいよ、さっさと行って、カノンさん!」

「おう、いいんじゃが? 何を不機嫌になっとるんじゃ?」

「いいから!」

 プイと横を向いて視線を逸らす同僚の女の子に、きょとんとしたさまでクマ族は艦長のイヌ族と画面越しに目を見合わせる。

 ひどい苦笑いで頭の帽子のツバを目元へと落とす艦長のハザマーは、片方の細めた目だけでふたりを見て意味深な口ぶりだ。

「ほんとにいらちなおじょうちゃんね。でも無理はしないで、欲張らずにやれるだけのことに努めるのよ? 今回はそれで十分。こちらの有効射程ギリギリいっぱいで迎撃機動に専念、決して深追いはしないこと……! ふたりともくれぐれも気をつけてね。それじゃあ、いってらっしゃい!」

「なっ……!?」

 それって、家を出るこどもにオカンがいうことやがね!

 内心でもやもやがイライラに変わる渋い面のイワックに、今しもカタパルトを大空へと走らせる相棒のカノンが追い打ちする。

「よっし! そいじゃあ、カノン、ガマ・ガーエルで出るのじゃ! 頑張って元気に、行って来まあああ~~~すっ!!」

「ああもうっ、すっかり遠足のノリになっとるがね! こっちはすぐ横でメカニックたちがどんちゃん騒ぎしてるし!! まじめなやつがひとりもいないがね!!」

「ふふふ、あなた、そんないらちだとケガするんじゃないの?」

「しません! それじゃあイワック、アマ・ガーエル、カノン機に引き続いて行ってまいります! とっとと出撃するがね!!」

 いつもより短いスパンで出撃する二機のアーマーコンビ。

 これを今はモニターではなく肉眼でブリッジからこの航跡を見やる艦長のハザマーだ。

 苦い笑いはそのままに、ふと視線を落としてふたりに問いかける。通信はとうに切れたままにだ。

「こんな不甲斐ない艦長さんでごめんなさいね。でもね、あなたたちの悪いようにはしないから。約束する。わたしはね、疲れてしまったのよ。あなたたちのような前途ある若者たちが戦場で力尽きていくのを見続けることに……! だから、そう――」

 手元の小型ディスプレイにいくつかの画像を映し出すイヌ族は、そこに虚無的な目線を投じてひそかな決意を吐露した。

「どんなにわずかな希望でも、それが決して許されないことであっても、それに賭けることにしたのよ。わたしはね? この意味のない長い戦いをここで終わらせるために。だから生き延びてちょうだい、今のこの時を、道は必ず、あるはずだから……!」

 静かに手元のディスプレイを閉じるハザマーは、それまでにない険しい視線で部下たちの消えて行った遠い空を見上げる。

 どこまでも晴れ渡る青い空に、刹那、二つのきら星がかすかなまたたきを見せたか?

 若者たちの戦いが今、はじまった――。


 Part3


 灼熱の大陸のすべてが乾いた内陸平野部から、目指すは、はるかな海岸線のさらにその先、水平線の向こうまで……!

 この機体をひたすらまっすぐに北上させていたクマ族のパイロット、ニッシーはやがて手元のディスプレイが表示するレーダーサイトに次次と現出する反応をそれと察知。

 海岸線もすぐ間近の高空に、複数のアーマーの機体反応をレーダーが検知したことを短い警告音とともに認識する。

 おのれから見ておおよそ北西、厳密には北北西の方角か。

 その高度にしておよそ1,500から5,000メートルの間で、複数の赤やら青やらの点が明滅しながら複雑に交錯している。

 青や緑は友軍機、それ以外の赤やオレンジは敵軍のそれだ。

 周囲のモニターがただちにそれら複数のデータを表示するのをマジマジと凝視して、それらがやはり友軍の機体と敵軍のものだとはっきりと識別。

 大空を舞台にすでにそこでは熾烈なアーマー同士の戦いが行われているのを、目の前のメインモニターでも視認する!

 戦いの様子を克明に映し出す映像を食い入るように見ながら、すっとんきょうな声をあげる新人のクマ族パイロットだ。

「わお! 見ろよ社長っ、もうはじまってやがるぜ! すげえ派手にやり合ってんじゃん? おまけにどれも見たことないアーマーばっかじゃね? おっかね、あんな中に混じってやんのかよ、おれたち??」

「バカね! あんな中もこんな中も、やるしかないじゃない? そのためにアーマーに乗ってるんだから、ここ戦場よ? まさか今さら臆病風に吹かれたなんていいやしないわよね?」

 ちょっと面食らったさまでおどけた口ぶりする社員に、だが雇用主の女社長はその本気なんだか軽口なんだかわからない文句をあっさりとはたき返す。

 若いくせに静かな口調ながら有無を言わさぬ迫力があった。

 当のクマ族は苦笑いでペロリと赤い舌を出す。

 まだ余裕はあるようだった。

「へへ、さすがにブルっちまうよな? ゲームと違ってやり直しがきかないってあたり! ゲームと実戦は違うって言うけど、やっぱりそうなんだな? ちょっと足下が震えてやがるぜ……!」

「それって武者震いってことでいいのよね? 高い金かけて高性能なアーマー一式そろえてやってるんだから、無駄になんてするんじゃないわよ。それに前線に立つのはこのわたしで、あんたは後ろからネチネチとタマ撃ってればいいんだから、ビビることなんてないでしょう!」

 それぞれの機体の特性から、女社長の高機動型アーマーが前線での攻撃機動を担い、平社員の新米くんが間接攻撃を主体とした大型アーマーでの援護射撃と防御機動に専念するユニット運用とはあらかじめ決められていた。

 目の前のアーマーバトルがあまりに激しいものだから横槍を入れるタイミングが掴みかねたが、意を決して地獄のさなかに突撃しようとするイヌ族の女戦士サラだ。だがその出鼻を部下のクマ族、ニッシーがとぼけた調子でくじかれてしまう。

「……あ、ちょっと待った! なあ社長、良く見たら反応ほかにもあるけど、これって敵じゃね? レーダーのサイト最大に広げてたからたまたま拾っちまったけど、このふたつ、そうだろ?」

「! 待って、そんな反応こっちには……!」一時くらいの方角とあいまいなことを言われて怪訝な顔でそちらに視線を向けるサラだが、すぐにもみずからのレーダーにもその敵影をキャッチして目つきが鋭くなる。














ニッシー、サラ(高度説明、フィート?→方位は360にして、Ftにするたとえば方位335 高度5000ft?) → カノン、イワック → ベアランド、ザニー、ダッツ

プロット
 カノン、イワック登場。戦艦航空巡洋艦「ガーエル」
メカニック、ネコ族男イットス(相棒はイヌ族男、ハッター)、クマ族?男キョカス、ネコ族?男サーダイ

 臨戦態勢→出撃→海上で会敵(サラ、ニッシー)

カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 ファンタジーノベル ルマニア戦記

ルマニア○記/Lumania W○× Record #023


#023

  Part1


 翌日、正午過ぎ――。

 第一小隊への出撃命令は、予期せぬタイミングで発令された。

 これと行く当てもなく本国を出航した大型巡洋艦は、今やしてどこにも歓迎されることもなく、ただ虚しく時間を過ごすのみかと思われていたのだが、人気ない砂漠で休めていたその羽根をふたたび大空へと羽ばたかせることになる。

 アーマー隊の緊急出撃で慌ただしくなるハンガー・デッキで、既にみずからの大型の機体のコクピットで戦いの準備につく若いクマ族の隊長だ。

 太いベルトでみずからの身体をがっちりとシートにくくりつけるベアランドは、いつでも出撃ができる臨戦態勢のままでブリッジに通信回線を開く。

「こちら第一小隊隊長、ベアランド。ブリッジのンクス艦長に通信求む! いいかい?」

 はっきりとマイクに向けて言ってやるのに、さしたる間もなくあちらからはやけに渋い老人の声で返事が返ってくる。

「……何だね? ベアランドくん」

 その返事とほぼ同時に目の前の大型ディスプレイに当人の顔がバストアップで映し出された。

 大ベテランの老年のスカンク族の艦長だ。

 それが真顔でこちらを見ている絵面に臆することもない若いクマ族のエースパイロットは、まっすぐに見つめながらもの申す。

「いくらなんでもいきなりすぎるんじゃないのかい? いきなり艦を離陸させた挙げ句、何の説明もないままに出撃だなんて? そもそもでどこに向かうのかも、標的が何なのかも知らされてないんだけど、ぼくたちは?」

 若干の呆れみたいなものがうかがえる表情と声つきで言ってやるに、真顔を少しも崩すこともないモニターの中の上官どのは、しれっとしたさまでまたもや不可解な言葉を返してくれた。

「ああ、それは今現在、検討中だ。おおよそで向かう先は決まっているのだが、もろもろの都合でこれを変更せざる負えない場合もある。パイロット諸君には手間をかけるが、それぞれ状況に合わせて最善の行動をしてほしい……!」

「え?」

 これには思わずきょとんとしてモニターの中のスカンク族をマジマジと見返してしまうクマ族の隊長だが、周囲のスピーカーからもおなじような反応の声が、次次とだだ漏れてきた。

「ほええ、決まっとらんのかい? でもそやったら、隊長、ぼくらどこで誰と戦えばええんですかぁ?」

「アホちゃう? わけわからへんやんけ!」

「ぶううっ! だったらなんでわざわざ離陸したんだぶう?」

 他の隊員たちからのもっともなブーイングに、ブリッジにまで聞こえてなければいいんだけどなと思ったのもつかの間、しっかりとそれについての反応が返ってきた。

 ただしこちらは艦長ではなく、通信士の若いイヌ族のそれだ。

「いやいや、みなさんお言葉ですがね、こちらとしてもこのままでは艦の補給もままならないし、潮時なのは確かなんですよ! 何より……その、アストリオン政府からの正式な要請でありますし、周辺の自治都市群からの強い要請でもあります!」

「え、それって、もうぼくらに用はないからとっとと消え失せてくれって、そういうことなのかい? 昨日の今日で?」

 ちょっと唖然とした隊長のクマ族の言葉に、また別の場所からリアクションが返ってきた。

 こちらはこのデッキフロアのコントロール・ルームから、いいトシのおじさんのクマ族のメカニックのそれだ。

「おいおい、つい先日、どこぞの街に出没した反乱軍の残党のアーマーどもを駆逐してやったのは、このおれたちだろう? 用済みだからって、はい、さよなら!は、あんまりなんじゃないのか? 文句言ってやれよ!」

 これもブリッジにダダ漏れなんじゃないのかと内心で思いながら、この意見自体はこちらにしているのだろうからあっけらかんと返してやる。

「誰に? まあ、でも用がないのはお互いさまなんだから、別にいいんじゃないのかな? こんな大食らいの戦艦、補給のことをマジメに考えたら、もっと資源が豊富で物流のいいどこかの港湾都市あたりにつけるのが、やっぱり妥当だと思えるし……」

 半ばから真顔で考え込むクマ族の隊長さんに、ふたたびブリッジの御大将から渋い調子のセリフが告げられてきた。

「無論、そのつもりではある。ただしこの行く先はかなり限られるのだが……!」

 重たい言葉の続きを、若いブリッジのクルーが引き継いだ。

「ああ、候補地としてはいくつかあるのだが、その最有力であり、この大陸の西岸域で一番大きな港街である、ベリファには直接つけることを拒否されている。そのためこの比較的近隣に所在する、いずれかの港湾を目指すことになる予定なのだが……了解、願えるだろうか、ベアランド少尉どの?」

 艦長や通信士ではない第三者の声に、長らく不在だったこの艦の副艦長どののイヌ族のそれだと気がついて、自然とその口元のあたりが苦くほころびる隊長だった。

 いろんなことを考えてしまう。

「そうか、大陸の西岸域は現政権に反旗をひるがえした新興勢力の本拠地があって、これと紛争が激化中だから、ヘタに刺激したくないんだよね? 確かにこんな大きな軍艦があからさまに出て来たら、敵も身構えるってもので! アストリオンとしても都合が悪いんだ? つまりは決め打ちなのかな、これって?」

 副艦がこれまでどこで何をしていたのか、いろいろと勘ぐってしまうが、そこはあえて聞かずにぼやかしておく。

 そもそも永世中立を謳うこの国がやすやすとこのよそ者のじぶんたちを受け入れたのは、何かしらの裏工作とさまざまな目論見があってのことなのは容易に予測ができた。

 それこそが本来の進撃ルートでは立ち寄ることなどなかったはずの土地なのだ……!

「とりあえずはこの中央大陸の北西方面に向けて、ぼくらはこの艦の護衛としてこれを警戒警護、エスコートすればいいってわけだ。それにつき敵は出るか出ないかわからないとして?」

 ざっくばらんに今回の出撃内容をまとめてやるに、ブリッジから通信士のイヌ族による補足説明がまたぬかりもなく入った。

「ただしですね? このアーマーによる戦闘は、本大陸、えー、つまりはアストリオン領空領土内ではなく、極力この外で、えー、つまるところ領海、できれば公海上でやってほしいとのことであります! えー、えー、できますでしょうか?」

 この顔を見なくてもかなり当惑しているのがわかるビーグル族のどこかうろたえたような言葉に、目がいよいよ丸くなるクマ族のエースパイロットだった。

「え、それ、いくらなんでも注文が過ぎるんじゃないのかい? 公海上って、そこに出るまでに遭遇しちゃったらどうにもならないし、だったらこの砂漠地帯でやり合ったほうが話が早いよ。誰にも迷惑かからないってあたり。敵がこっちの都合に合わせてくれるのなら別だけど?」

 周りのスピーカーがまたもざわめくのを気にかけながら、正面に映るスカンク族の艦長の顔を見やったところ、相変わらず真顔の老人は澄ました顔で言ってのけた。

「この艦の存在自体が迷惑だと認識されている、と言ってしまえば元も子もないのだが、わかるだろう。とにかく本艦は、これより最大戦速でこの大陸の北の公海上まで直進。その後に艦の安全を確保しつつ、受け入れ先の港湾都市に接岸する。以上だ」

「受け入れ先が見つからなかったら?」

「その時は、その時だ。案ずるより産むが易し、とにかくやってみるより他あるまい。諸君らの健闘を祈る」

「あーと、そっちの副艦さんはいったいどんな交渉をアストリオンのお偉いさんがたとやってきたんだい? さすがに、あっ!」

 かなり強引に話しを打ち切ろうとする艦長に思わず食い下がるアーマー隊の隊長だが、あいにくと通信自体が強引に断ち切られてしまった。

 目の前のウィンドウが真っ暗な砂嵐となり、変な間があいて、仕方も無しに周りのスピーカーに問いかけるベアランドだ。

「……てことらしいんだけど、みんなわかったかな? えー、とにかく大急ぎでこの大陸から出て、そこで場合に寄ってはアーマーバトルなんだって! この隊長としては、そんなのいないことを願うばかりだけど……!」

 周りからはなんとなく疲れたような声が届くが、気を取り直してコントロール・ルームに声をかけるベアランドだ。

「ま、てことで、ただちに出撃の準備を頼むよ! 今回は新顔さんが二名ほどまざっているから、そこらへんも気をつけてお願いするね! リドルに、イージュン!!」

 するとコントロール・ルームからはただちに了解の応答と共に、テキパキとしたアーマーの出撃シークエンスへとデッキ・オペレーションが移行される。

 自分の機体が格納されたハンガー・デッキの対面にあるデッキの大型の機体がロックを解除され、まずは出撃態勢へと移るのをはじめ物珍しげに眺めていた隊長だが、やがてムッとあやしげに眉をひそめることとなるのだった。

 喧噪にまみれたデッキがなおさらにやかましい怒号に満たされるのはこの直後のことだ。

 挙げ句、たまぎる悲鳴と罵詈雑言が交錯し……!

 おかげでこの後に続くはず隊長機の出撃は、この予定を大幅にオーバーすることとなる。

 のっけから波乱含みの展開で、クマ族が主力の飛行部隊はその先でまたさらなる波乱に見舞われることとなるのだった。



  Part2


 大型機専用のハンガー・デッキから解放された大型の機体は、そこからゆっくりと中央デッキの中心部である、機体射出チェンバーへと移動、その後に機体各部をしっかりと固定される。

 あとはこの機体が射出されるのを待つのみなのだが、そのアーマーのコクピットシートにがっちりと身体を固定されたまま、額にじっとりと大粒の汗を浮かべるパイロットだ。

 今日が初陣だという若手のクマ族のパイロット、ニッシーは挙動不審なさまでせわしなくその視線をうろつかせながら、やがてひどくうわずった声でデッキのコントロール・ルームへとおそるおそるに問いかけた。

 何故か半泣きだった。

「あ、あのっ、これって、なんか思ってたのとまるで違うんスけど? なんスか、おれのこのアーマー、カタパルトで出撃するんじゃないんですか? なんかすげー大仰なシステムに周りをがっちり固められちまってるんスけど??」 

 ただならぬ危機感を感じているのか、かなり焦ったさまで訴える新人くんに、だが正面のディスプレイにぬっと現れるベテランのクマ族のおやじは、冷め切った表情でにべもない返事だ。

 これになおのことクマ族の新人パイロットの顔が青ざめる。

「……は、見たまんまだろ? あー、ニッシーくん、あいにくときみの機体はでかすぎて通常のカタパルトシステムじゃどうにもならない。よって専用の射出ドライバーを使うことになるのだが、もうすでに技術的な面はクリアしているから、安心していい。そっちの大型機の隊長どのが身をもって証明してくれているからな。ただし機体、人員ともに多少の負荷はかかるから、せいぜい舌を噛まないように気をつけるんだぞ?」

「え、いやいや! 聞いてないんスけど? 射出ドライバーって、いわゆるマスドライバーみたいに強制的にモノを遠くにぶん投げるってことっスか? 技術的って、安全面は? いやいや、マジ、無理だって! こっちは中に人間乗ってるんだから! マジで死ぬって!!」

 かなり取り乱したさまでわめき立てる新人パイロットだ。

 するとコントロール・ルームからは、また別の落ち着いた声が届く。

 こちらもクマ族でじぶんよりも若いメンテナンスの補足説明なのだが、あいにくでまったくもって安心するには至らなかった。

「落ち着いてくださいっ、ニッシーさん! 確かに機体にかなりの負荷が掛かるかなり危険なドライブシステムで、パイロットの負担も相当なものなのですが、この出力さえ落とせば、そう無理もなく射出できるものと思われます! 加えてそちらは今回が初めての出撃射出となりますが、本来はちゃんと予行演習がしたかったです! なのでご武運を祈ります!!」

「なっ、おまえ、ちょっと待てよ! まさかの運頼みになってるんじゃねえのかっ、それって!? マジでないって、ちょっと社長! いっぺんやめさせてくれっ、このままだとおれたぶん死んじまうっ!! たったひとりしかいないこの平社員がっ!?」

 この場にはいないイヌ族の女社長に助けを求めるが、あいにくと別のデッキで出撃待機している相棒からの返事はなかった。

 代わりに聞こえてくるのは、メカニックのクマ族たちのやけに落ち着き払ったひとごとみたいなやり取りだ。

「イージュンさん、今回は大事を取って、出力30パーセントくらいで臨んだほうがいいと思うのですが、どうでしょうか?」

「もっといけんじゃね? 半分くらいよりちょい多めでいいだろう? あんまり大事にしても機体が慣れないし、いざって時に泡を食うことになりかねない。そっちはもう80パーセントとか余裕でやってんだろう? あんな完全な自殺行為をさ!」

「自殺行為言った! 自殺行為言ったあ!! ぎゃあっ、やだやだ! 降ろしてくれっ、おれまだやり残したことが山ほどあるんだっ! てかこんなところで無駄に死にたくない!!」

 しまいにはガチャガチャとシートベルトに手をかけ始めるニッシーだが、その後に続いた冷酷な老人の声に、完全に身体が凍り付く。

「ふん。どうでもいいだろう。とっとと放り出せ! そもそもわたしが設計したわたしのアーマーのための高速弾道射出システムだ。そんなゴミも同然のちんけなアーマーごとき、どうなろうが知ったことではない……!」

「……はい? なんスか? 今のむかつくジジイのセリフ! てめえこっち来てみろよっ、てめえが設計したとか言ったよな? このくされキチガイが!! てめえが造ったあのブサイクなアーマーと違って、こっちはデリケートなんだよ!! なんかあったらタダじゃおかねえからな!!」

「フッ……、アーマーがゴミなら、パイロットはクズだな? いい、とっとと撃ち出せ! 遠慮などいらない、空中で派手に爆散するくらいの出力でただちに放り出してしまえ!!」

 売り言葉に買い言葉でデッドヒートするいいトシの博士に、ちょっと引きかけるリドルは苦笑いで手元のスイッチを操作する。

「はあ、まあ、はじめは大事を取って、半分以下でいきたいと思います。ニッシーさんの精神衛生面も考慮して! とりあえずじゃあ、35パーくらいで?」

「50でいいだろう? あんまり新米を甘やかすもんじゃない」

「100で行け! わたしが許す!! ヤツの機体を跡形もないくらい木っ端みじんにしてやれ!!」

「てめえマジでぶっ殺す!! 表に出やがれ! あとおれを表に出して!! お願いだから無茶しないで!!」

 さまざまな怒号が飛び交うデッキに、ついにはまた第三者の声までが混じる。

「あー、どうでもいいけど、後がつっかえているから、みんな早くしてくれないかな? もう予定の時刻をだいぶオーバーしてるけど? このままだとアーマーの出撃を待たずして、このトライ・アゲイン自体がまんま海に出ちゃうんじゃないのかい?」

 呆れた感じのアーマー隊隊長のクマ族の言葉に、社長の女イヌ族の声までもが重なった。

「あんたいい加減にしなさいよ! あんたが出ないとこっちも出撃できないんだからね? 出撃オーダーちゃんと見てないの? あんたの機体はでかくてのろいから、そのぶん早くに出ないと交戦ポイントに乗り遅れるのよ! 戦況は刻々と変わるんだから、それじゃただの足手まといじゃない!」

「そ、そんなっ、あんまりだぜ! おれ初心者なんだから……」

 辛辣なセリフに部下のクマ族の若者は半泣きで訴えるものの、すかさずにした横からの横槍にまんまとうっちゃられる。

「申し訳ありません! 少尉どの! ですがトライ・アゲインが最大戦速に移るのはそちらのアーマー隊が出撃を終えた後になりますので、まだ猶予はあるものと思われます! どうか今しばらくお待ちくださいっ」

「つうか、出撃前に最大戦速なんかに移行されたら、このデッキの中が大嵐になってメチャクチャになっちまうだろう? デッキの扉とか全部どっかに飛んでいっちまって? あと吐き出したそのどんガメが加速したこの船に後ろからはね飛ばされちまうし。それこそが木っ端みじんに? てか、ブリッジからそろそろクレームが来るんじゃないか? とっとと出しちまえよ」

「ああっ、ちょっと、ちょっと待って! まだ心の準備が! あとそこのジジイ、ちゃんとその首洗って待ってやがれよ!!」

「いいっ、とっと出せ! その目障りなゴミをわたしの視界から遠ざけろ、出力の調整などはみじんも必要ない!! それっ!」

「あっ、ちょっと博士! 勝手にいじらないでください!! あ、今、なにを押しました? あ、出撃モード実行しちゃった! ニッシーさん、身体をしっかりとシートに預けて意識を飛ばされないように気をつけてください! 出力、あ……」

「あ? あってなに? ちょっと、ちょっ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!?」

 若いメカニックの手元のディスプレイが表示する出力ゲージはじぶんが思っていたものよりもかなり高いものであったのだが、あえて口にはしなかった。

 もはや本人がその身でもって体感しているのだから……!

 心の中でごめんなさいと言いつつ、すぐに気持ちを切り替えて、次の段取りに移るリドルであった。


 Part3


 それまで人里離れた荒野に停泊していた重巡洋艦が緊急離陸の後、これが擁するアーマー部隊の飛行艇第一小隊の緊急発進!

 そのほとんどがクマ族で一部、イヌ族とブタ族が混ざる混成部隊は、その出だしだけつまづきはしたものの、おおむねは順調にこの母艦を飛び立ったものと思われた。

 口火を切った若いクマ族の新人パイロットに続いて、小隊隊長のこちらもまだ若手のクマ族が飛び立つのだが、その裏では、ちょっとした小競り合いがあったのをこの隊長は知らなかったか。 

 部下の社員、厳密には契約パイロットのクマ族のニッシーが、ひいひい言いながらも無事に飛び立ったことを確認。

 その後にみずからもこのアーマーを飛び立たせるべく発進準備に臨もうとする、雇い主の女社長だ。

 だがこの時、若いイヌ族の女子パイロットであるサラは、デッキの出撃カタパルトへの進入許可が、知らぬ間にレッドサインの不可で取り消された状態となるディスプレイ表示を、冷めたまなざしで眺めていた。

 そのためか機体にもロックがかかっていることを確認。

 それから今しもそのカタパルトを使用して艦から飛び立とうとしている赤い機体のアーマーを不可解げに見つめるのだった。

 確か発進順のオーダーとしては、相棒のクマ族が飛び立ってから、その次にじぶんの機体が発艦のはずだったのだが……?

 間違いは無い。

 手元のサブディスプレイにもはっきりとそのように表示されているだから。

 それだからムッとした不服げな目つき顔つきで、おまけセリフにもそれがわかるくらいの声のトーンで、当のベテランのクマ族が乗るアーマーに向けてもの申した。

 こういうところ、たとえ相手が目上でも引け目を感じたりはしない、至って勝ち気なやり手の起業家兼パイロットだ。

「あのう、次ってこのわたしのアーマーの発進のはずなんですけど? そっちは隊長のクマ族さんが出てからのはずなんでは?」

 なるべくつんけんしないように言ったつもりなのだが、その言葉の端々に不平不満があるのはしっかりと伝わったか?

 相手のおじさんパイロットはちょっと失笑気味のくぐもった笑いをマイクにこもらせて、さもおかしげに返してくれた。

「ほえ、なんや、お嬢ちゃんがやけにまごまごしてるから、先にいってもうてややんかと思ったんやがな? ちゃうかった? ぼくらの隊長さんも、もう出てもうてるし……!」

 いっかな悪びれるでもなくさっさとカタパルトに乗り込んで発進シークエンスに入る派手な赤いアーマーに、こちらも派手さでは負けず劣らずの全身ピンクの機体のアーマーの女主は、マイクに拾われないくらいのかすかな舌打ちしてどうしたものかと思案する。

 だがどうにも思いつかずにかすかに細い肩をすくめさせた。

 大きな戦艦の左右にあるメイン・カタパルトの管制は本来、ブリッジ・クルーが指揮するのだが、確か一度だけ見たことがあった、同じイヌ族のビーグル種のなにがしかは、今やすっかりと息をひそめて我関せずのありさまだ。

 これにもチッと舌打ちする彼女だが、やはりどうにもできずに相手のベテランパイロットを見送ることにした。

 ここで揉めるよりも、早くこの次ぎに出て先行している平社員のクマ族パイロットと合流することが先決だと考えたからだ。

 出撃を控えて、今は遠くの反対側の一番デッキに機体を回しているもうひとりのベテランパイロットのクマ族のオヤジが、通信回線越しに皮肉めいたヤジを飛ばしてきた。

 またも舌打ちするサラだ。

「ひゃは! いじわるしいなや? そんな若いお嬢ちゃんに、嫌われてまうで? でもさっさと出えへんかったんはそっちの責任やさかい、しゃあないんちゃうの? せやろ、なあ?」

「ふっ、そういうこっちゃ! じゃ、お先に。お嬢ちゃんはそないに無理せんとゆっくりきいや? あのボンボンの新人のパイロットくんと仲良うしてな! 若い子がそないに気い張らんと、難しいことはこのぼくらに任せてくれたらええさかいに……!」

 穏やかな物腰で、そのクセひとを小馬鹿にしてるのがありありとわかる物の言いようだ。

 これにはさすがにカチンと来て言い返そうとするのだが、低い笑いを残してカタパルトを高速発進させるクマ族たちだった。

「ちょっと、おじさんたち! あっ、行っちゃった、なによ、それってやり逃げなんじゃない? 若い女だからって、言いたいこと言ってくれちゃって。モラハラじゃん……!」

 思わず不満を漏らすのに、天井のスピーカーからおそるおそるしたイヌ族の士官の声が咳払いとともに降ってくる。

「おほんっ、あー、それではサラ准尉、発進準備はよろしいでしょうか? コースはすでにクリアなので、そちらのタイミングで発艦願います!」

「今やってるでしょう! ちょっと、あんた今の今までだんまり決め込んでおいて、今さらなんなのよ。ブリッジで聞いてたんでしょう? あと准尉って、わたし社長なんですけど?」

「あー、あー、おほん、おほんっ……」

 鋭い目つきで見上げて毒づいてやるに、天井からはひどく気まずげにした咳払いだけが虚しく響く。


 これにじぶんがやっていることがただの八つ当たりだと気付かされて、内心で強く舌打ちする女社長だった。

 向こうに悪気がないのはわかるのだが、どうしても言葉がきつくなってしまうのを抑えきれない。

 社長や社員では収まりが悪いので、軍務規定上、便宜的に士官クラスの階級をあてがわれるのは聞いていたが、いざこうして実際に耳にすると心地が良いものではなかった。

「わたしとヒラ(平社員)のあいつが同じ階級だってのも、引っかかるのよね? せめて少尉さんくらいにしてほしかったわ。でもそうなるとあのクマの隊長さんに並んじゃうんだ? さっきのおっさんたちは中尉だっけ? 階級あっちのほうが上じゃん! ほんとにわけがわからないわっ……」

 ぶつくさと文句を垂れながら、みずからの機体をカタパルト・システムに乗り上げ、これをロックする。

 機体を固定していたハンガーとのロック解放確認。

 その後に機体をデッキ後方まで後退させてそこから高速発進の態勢に移る。もはやブリッジからの応答がないのをいいことに、じぶんの好き勝手なタイミングで発進準備を進めるサラだ。

 薄暗いデッキ内にまっすぐな一本のレールとこれを照らすライトだけが浮かび上がり、ずっと先に見える外部へと解放されたデッキの射出口がディスプレイの中央に固定された。

 システム・オールグリーンの緑色の表示を横目で確認しては、さっさと手元のレバーを引き上げてカタパルトを発進させる女社長、もとい准尉どのだった。

「それじゃあ、さっさと行かせてもらうわよ! サラ・フリーラ・シャッチョス! ドンペリ・ピンク発進!!」

 派手なピンクの機体が轟音と共に青空を一直線に切り裂いてゆく!

 

 Part4


 気を失っていたのは、果たしてどのくらいのことなのか?

 うすらぼんやりした意識の中で、不意にどこからかかまびすしく鳴り響く警告音が脳内を揺さぶる。

 直後、ふっと目の前に広がる青一色の青空を映すディスプレイ画面にようやくこの焦点が合わさる若手のクマ族パイロット、ニッシーだった。

 ぼやっとしている間もなく警告音はさらに甲高くコクピット内にこだまする!

「ん、あ、あれ……? おれ、どうして……??」

 いまだに意識が判然としないが、さすがに惚けてばかりもいられない。

 反射的に目をパチパチとしばたたかせた。

 喪失していた意識と記憶を必死に呼び起こす。

 しまいには手元のレバーが勝手に左へと振れて、この機体も左へと大きく傾ぐのに大慌てでこれを両手の中に取り戻すのだ。

 反射的に右に切り返して水平を保とうとするが、あいにくで機体が言うことを聞いてくれない。またどこからかピピピッ!と警告音が鳴って、何かしらの注意喚起らしきをされてしまう。

 本人的にはわけがわからないのだが?

 内心でパニックになりかけながら、いつぞやのでかいクマ族のメカニックマンの言葉が、ぬっとばかりにこの脳裏に浮かび上がってきた。

 いわく、はじめに艦を出撃したらば、機体が安定すると同時にこのコースを大きく左右どちらかへと開けること。

 でなければ後続のクマ族の第一小隊隊長のバケモノじみたアーマーに問答無用ではね飛ばされるぞ、と……!

「うわっ、ヤバイヤバイ! もう来てんの? いやっ、おれそんな気ぃ失ってた? とにかく回避しなくちゃっ……あっ」

 機体の予期せぬ傾きがこの回避運動を自動でやってくれていたことに今になって思い当たるが、後続のアーマーがギリギリではじめの直線コースをかすめていったのはそれとほぼ同時だった。

 間一髪で大惨事を免れたようだ。

 思わず胸をなで下ろして、ディスプレイの中で一瞬にして小さい点になっていくそれは猛烈なスピードの友軍機の大型アーマーの後ろ姿を目をまん丸くして見送る新人パイロットくんだ。

 驚きにひどい呆れが混ざってか声がひっくり返っていた。

「速ええな! バカみたいなスピード出てんじゃん? おれもあんなんで飛び出して来たの? うっそ、マジかよ、ただの自殺行為じゃんか、おっかねえ!! て、この機体はどうなんだ?」

 機体のレーダーの索敵範囲からすっかり外れてこちらからは目視すらもできなくなった味方の隊長機はもはや置いておいて、とりあえずはじぶんの身の回りに意識を向ける。

 一時的な回避機動は解除されて、今はコントロールが手元に戻った操縦桿を握り直すと周囲のディスプレイと各種計器類に視線を流してゆく。

 どこにもこれと目立った異常はなし。

 手元のマルチディスプレイでパイロットのバイタルデータにも何らアラートが出てないことを確認。

 この身体にも機体にも先ほどの無理矢理な出撃による異常や不具合は検知されないことを確認して、またほっと大きく胸をなでおろす。

 ひとまず額の汗をぬぐって、この後に自分がなすべきことをあらためていちから思い起こすニッシーだ。

 ここらへんが実にとろくさいのがいかにも新人らしいが、こんなところを見られたら、あの口やかましい若手の女社長の相棒が黙ってやしないなと苦い顔つきになる。

 それでふっとこのあとの行動を思い出す平社員は、後ろの後部モニターを振り返って、そこに当の雇用主の姿を探していた。

 作戦中はふたりで戦闘行動をするためになるべく速やかに合流、目標のポイントへと進軍するはずなのだった。

 ただしこんな大きな機体だから簡単に見つけられて、放っておいてもあちらから来てくれるだろうことはわかりきっていたが、それっぽいモーションは取っておかないと今期のボーナスの査定に響くかなとレーダーの索敵モードをより広範囲に広げるサラリーマンだ。

 追いつかれるよりも先に相手を感知してこちらから通信回線を開くくらいのことはしてやりたい。
 
 でないとなにを言われるかわかったものじゃないのだから。

 そうして意識を正面モニターのレーダーサイトに集中するとすぐさま反応が出てくるのだが、思ったのとちょっと違うのにかすかに眉をひそめる灰色グマのでぶちんくんだ。

 母艦がいた方向から凄まじい勢いで距離を詰めてくるアーマーの反応は何故かふたつあり、それがあっと言う間に追いついておまけあっさりとこちらを追い抜かしてゆく。

 派手な真っ赤と真っ青な機体のアーマーはベテランのクマ族たちのそれで、先に追い越して行った隊長の後を追いかけているのだとわかったが、この時、開こうとしていた回線をむしろそっと閉ざすニッシーだ。

 相手はアーマーのヘッドのカメラをピカピカと光らせてこちらに何かしらの合図らしきを送っていたが、それにつき出会ってからこれまであんまりいいイメージを抱いていないビビリの新人パイロットは、あえて見なかったフリを決め込む。

 結果、無言でやり過ごした。

 あちらも急いでいる都合、これに何かしらの文句を言うべくもなく。

 すっかり正面のモニターの中で小さな点と点になるのを見送っていると、また背後から新たに近づいてくる機体があるのをレーダーが検知!

 今度こそはと正面のディスプレイに背面カメラの画像をまわし込むと、そこには見知らぬ緑色のぼろっちいアーマーが、やや低空を直進で進んでいるのが見て取れる。

 しばし微妙な顔つきで考えているうちに、それが若いブタ族の乗るものであるのが予測できるニッシーだ。

 おそらく間違いないだろう。

 名前がいまいち思い出せなかったが、無論、無視した。

 構ってやる義理はない。

 それきり変化のないコクピットの中でしばしのだんまり。

「…………???」

 発艦順のオーダーからしたらじぶんの次だったはず相棒の機体がいまだ確認できないのに内心ではたと首を傾げてしまう。

 だがその直後には、そんなことを悠長に考えている場合ではないのをひときわに大きな音量の警告音に気付かされる。

 それまでのどかな青一色だった画面が、不意に赤やら緑やらのアラートでやかましく塗りたくられていた。

 同時に味方ではない機体の情報がいくつもの警告とともに目の前でめまぐるしく展開される!

 これにまずは目を白黒させてひたすらにのけぞるクマ族だ。

 シロウト丸出しだった。

「うえっ、ちょっ、会敵!? こんなとこで? 待てって、どっから来たんだよ? 西側?? 敵は北にいるんだろ! 言ってたのとぜんぜん違うじゃん!! おおい社長っ、今どこにいるんだよ!?」

 完全にパニックになりかけてあたふたと操縦桿やら周りのスイッチやらを意味もなくなで回すが、これとはっきりした迎撃行動を起こすまでもなく、ただモニターの中の小さな点がアーマーのそれらしい色かたちを整えるのをマジマジと見つめてしまう。

 頭の中が真っ白になる新兵くんだ。

 まともな回避行動を起こす発想さえ浮かばない。

 本来なら致命的な初動ミスなのだが、この時ばかりはそれが功を奏したことをこの時の彼は知る由もなかった……!


 他方、単独で高空を進軍する機体めがけて一直線にみずからの機体のエンジンスロットを全開にしていたパイロット、まだ若いのらしいキツネ族の上級士官は、手元のモニターが表示するデータを一瞥するにつけかすかな舌打ちをする。

 目の前の大画面ディスプレイに映る機体を目視でそれと確認すると、口元に苦いほころびを刻んで視線をぷいと反らせた。

 もはやそれきり興味はないとでも言いたげ、この手元の操縦桿をぞんざいに左へと傾ける。

 正面に捉えていた機体がただちに右手のディスプレイへと流れるのもいっさい見もせずに、意識を青い空へとただ向ける。

 相手機がこれといった迎撃行動に出ないこともあって、完全にこれをないものとして片付けていた。

 すると多少のラグがあってその場に駆けつけた二機の後続たちが、ちょっと戸惑った感じで互いのカメラを見合わせて、その後この隊長機に食らいつくべくエンジンを再点火する。

 その内の赤い機体のベテランパイロットが通信を開いてくるのも、さして気にもとめずに高速機動型の愛機のジェットエンジンをふかすキツネ族だ。

 後ろからするタヌキ族のオヤジのしゃがれただみ声には適当にだけ相づち打った。

「おや、なんかいかにも敵っぽいのがいやすが、いいんですかい? ダンナ、無視しちまっても? こんなでけえのよ!」

 半笑いの声からするに、そう言ってる当人も大した興味はなさげだ。

 だからこちらもまったく気のないさまで吐き捨ててくれる。

「……よい。捨て置け。無駄弾よ。我が目的はひとつのみ。他はすべてくれてやる。貴様らの好きにすればよいだろう……」

「いやいや、それやってると完全に置いていかれちまうんで! あとそれで言ったらこのおれっちらの目的もこんなデカブツくんなんかじゃなしに、なあ、ごのじ(五の字)よう?」

「はあ、ほんとにでかいな? おまけに見たことないし、新型機か? ん? なんか言ったか、ぶんのじ(文の字)??」

 赤いアーマーのタヌキ族がしたり顔して同僚の青いアーマーのイタチ族に回線を振るが、こちらはこちらで物珍しげに敵とおぼしき機体を背後に眺めていた。

 やはりさしたる興味はないさまでだ。

「ちゃんと集中しろよ! これから楽しくなるんだ。なんたってこの赤と青のアーマーコンビの頂上決戦をやるんだからな!」

「?」

 あんまりピンと来てないふうな相棒は白けた間があくのに、威勢のいいタヌキおやじはツバ飛ばしてまくし立てる。

「だからダンナの狙ってるヤツにいつもくっついてるあの赤と青の機体、今になって思い出したんだが、あいつらってな、結構な有名人だろ?」

「赤と青? ああ、そういやいたな、いつも決まって横からうざがらみしてくるやつらだろ? このおれたちとなんでかおんなじカラーリングしてやがるなと思ったけど、それがなんなんだ?」

 首を傾げているらしいのんびりした相棒に、せっかちなでぶの中年オヤジはなおのことやかましく食らいつく。

「だから! 近頃さっぱり聞かないと思ってたんだが、東の空で敵なしとかほざいていたクマ族野郎のコンビどもだよ! それで間違いないだろう? いわく、赤い疾風のザニーと、青い迅雷のダッツてな! へへ、おもしれえじゃねえか、ひさかたぶりにこのブンブさまの腹と肩が鳴るってもんよ!!」

「腹が鳴るのは違くないか? あと腕だろ? ああ、そういやそんなやつらもいたっけかな? ふうん……てか、あの機体、今ここで見逃しても結局この先でやり合うじゃないのか、おれたちと??」

「そんなの他の奴らにやらせときゃいいんだよ!! 集中しろって! とにかくこのおれさまたち泣く子も黙る空の猛者、赤鬼のブンブと青鬼のゴッペに敵うものはいねえってのをあまねく大空に知らしめてやるんだからな!!」

「そう言ってるのはおれたちだけだろう? てか、おまえだけな。あと、いいのか、ダンナ、もう見えなくなっちまうぞ?」

「おっ、あ、ダンナ! そりゃないぜ! このおれの機体がドンガメなのを知ってるくせに、ほんとにキツネの若様はドSが過ぎるぜえ~~~~!!」

「いいから、さっさとエンジンふかせよ!」

 結果として目の前の大型機には目もくれずにさっさと戦域を離脱していく敵のアーマーたちだった。

 その先で激しい戦いがはじまるのは、もはや新米のニッシーの知る限りではない。

 こちらはこちらで結構な展開が待ち構えているのだから。

 しばらく目の前のディスプレイに釘づけで身体を凝固させいてたクマ族の新人パイロットは、レーダーの有効半径から三機の敵影が完全に消え去ると深くため息をついてどっと背後のシートにもたれかかる。

 顔面が冷や汗でびっしょりだが、息つく間もなくまた新たな警告音がコクピット内に鳴り響く。

 いい加減、心臓に悪いタイミング続きだった。

 それだから反射的にビクンと跳ね起きて視線を右往左往させるニッシーである。

「またかよ! 今度はなんだよっ!? ん、社長のアーマーか! 今さらかよっ、今までなにやってたんだよ、やい社長!!」

 やっと味方らしい味方が現れたことに泣き言を言う平社員だが、相手の直属の上司の機体からは冷たい返事がカウンター気味に返ってくる。

 甲高い女のイヌ族の声音がキン!とクマ族の男の耳朶を打つ。

「悪かったわね! こっちもいろいろあるのよ! まったく空気読めないおっさんたちに勝手にオーダー変えられて、挙げ句にブタ族ののろくさい補給機の護衛まで押しつけられて! 元はと言えばあんたがもたもたしてたことが原因なんだから、文句なんて言われる筋合いひとつもありゃしないわ!!」

「うひいっ、なんか怒ってる?? わ、悪かったよ! でもおれ新人なんだかんな? ちょっとは手加減してくれよ……!」

「そんな泣き言、この戦場で通用すると思っているの? 言っておくけどそんなボンクラ、一日だって生き延びていけやしないからね! さっさと態勢を立て直して、目標のポイントまでアーマーを走らせるわよ。出だしでしくじるなんてありえない。ちゃんと戦功を立てて周りのなめたヤツらを黙らせないと!!」

「あひいっ、やっぱり怒ってる? でもおれそんなテンションになれないぜっ、だって初陣だもん。まだこのアーマーにだって慣れてないし。初日は多めに見てもらわないと……」

「あんた、まさかコンビニのバイトの初日気分で戦場に出て来たの? ありえないわ。そのアーマーから降りてさっさと帰りなさいよ! わざわざ高い金を出して使えないバイトなんて雇った覚えはひとつもありゃしないわ!!」

「ひいいっ、絶対怒ってるぜ! おれそんなに悪いことした? わかった、わかった、わかりました! おおせの通りにするから、その機嫌悪いのどうにか直してくれよ、社長! これから命がけの戦いになるってのに、そんなんじゃテンションだだ下がりでほんとに生きた心地がしないぜっ……! わあ、待ってくれって! 置いていかないで!! おれ右も左もわからない新米なんだから!!」

「右か左かくらいはバイトだってわかるでしょう? イライラさせてるのあんたじゃん! いいこと、その機体にキズのひとつでもつけたら、全額あんたのボーナスからさっ引くからね! あとあたしの足を引っ張らないこと! いいわね、あんたは新米だけどその機体はバリバリの一級品なんだから、それに見合った働きをするのよ? できないなら給料減額!! 機体と待遇を死守しなさい!!」

「ひいいいいいいっ!? 待って、それは厳しすぎるって、あとマジで待って、待ってってば! 社長、コワイから置いていかないでえええっ!!!」

 とかくやかましいでこぼこパイロットコンビが会敵するのは、これからしばしした後のことになる。

 まこと今日が初出撃のニッシーからしたら、もはや忘れられないど派手な戦場デビューであった。


                次回に続く……!

 

 



 サラ ザニー ダッツ

 ニッシー ベアランド ザニーダッツ キュウビ部隊 サラ

 沿岸で会敵? 



#023 プロット

翌日、早朝、トライ・アゲイン緊急離陸。
アーマー隊、飛行部隊の緊急出撃命令。

出撃 第一小隊 ベアランド、ダッツ、ザニー、タルクス

   新加入組、サラ、ニッシー

 出撃間際、艦長のンクスと状況の説明。
  離陸理由、近隣の街からの要請。アストリオン政府からの要請。内陸ではなく、海沿いの港湾都市付近に着岸されたし。
ビグルス 補給の都合もあるからそうでないと不都合
ンクス アーマーも数がそろってきたから本格的な戦闘行動に移りたい
ベアランド めぼしいところは? 北東の港湾都市 ???
      新興勢力 ブルメガ? アゼルタが加勢して攻勢
      ジーロが応戦するも厳しい状況? タキノン?

 出撃 → ニッシー、大型機で強制射出型ドライバーにクレーム イヌ族の博士と大げんか 無理矢理射出される。
 第一小隊は出撃して キュウビ小隊と遭遇? 
    サラは出撃時に、ザニーとちょっとした小競り合い?

    サラとニッシーは新型機で初陣となるが、これにおなじく新型機で初陣となる、イワックとカノンの男女コンビと会敵する。航空巡洋艦「ガーエル」 たまたまトライ・アゲインが向かった先の公海上に停泊中の敵艦と遭遇?

カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 キャラクターデザイン ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア○記/Lumania W○× Record #022

   新キャラ登場!!

   新メカも登場!!

 #022

  Part1


 翌朝

 反政府ゲリラの残党を掃討する作戦から一夜明けて、いつものように朝起きてみずからの居室(セル)がある居住区画から、いざ仕事場のデッキ・ブロックまで降りて来たらば――。

 そこはいつになくものものしくした、第一アーマー小隊のハンガー・デッキである。

 そのひどくやかましい様子に、まずは目を丸くするクマ族の第一小隊隊長のベアランドだ。

 見た感じいつもとはまるで違う景色とそこに見慣れないでかいアーマーらしきがあるのに、驚くよりも半ば感心したさまでこれをしげしげと眺めてしまう。

 これまではずっと空だったはず大型機の専用ハンガーに、いつの間にやら運び込まれていたものだ。

「……ああ、もう運び込んでいたんだ? 昨日の晩に艦長に了解を取り付けたばっかりなのに、早いな! それにこんなバカでっかいの、ハンガーに収容するのも一苦労だっただろうにさ?」

 思ったままの感想を口にしながら、自然とこのパイロットの姿を目で探してしまうが、あいにくとどこにもそれらしき人間の姿はない。

 確か聞いた話ではお客さんは二人組で、若い男女のパイロット・コンビだったと聞いているのだが……?

 するとその代わりに同じようにこちらもまた微妙な顔つきでその大型アーマーを見上げる、巨漢でかつ肥満体のクマ族のチーフメカニックのおやじと目が合ってしまうベアランドだ。

 何やらイヤな予感がするが、おはようの挨拶もそこそこに、やはりであちらからはひどく冷めた視線と文句が飛んできた。

 予感的中だ。

「おい、どうするんだよ、これ? こんないかついものを持ち込んでくれやがって、運び込むのにも一苦労だったぞ?」

 かなり迷惑そうな物の言いように、こちらはひどい苦笑いで応じるばかりの若い隊長さんだ。

「あはは。そうは言っても好きでしょ? イージュン、こんなでかいおもちゃを目にしたら、機械屋としての血が騒ぐってもんでさ! でも思ったよりもでかくてビックリしてるけど、これって一人乗りなのかな? 確か相方はまた別のアーマーを持っているらしいから、おのずとそうなるんだろうけど……」

「ふん。このおれたちとおんなじ、クマ族の若造だったぞ? なんか冴えないカンジのな! 相方は見ていない。イヌ族らしいが、女とか言ってたかな? 他のメカニックのはなしによると」

 朝っぱらからやけにかったるそうなおやじの話に、また目を大きく見開く隊長だ。

「そうなんだ? はあ~……! まあ何であれ、こんな見てくれ立派でどでかいの、戦力としては期待大なんじゃないのかな? 艦長もビックリしてるかもね! メンテするメカニックはなおさらだろうけど……」

 そう言いながらデブのおやじの反応を見てみるに、浮かない顔つきでまた当のでかいアーマーを見上げるチーフ・メカニックは、小さな舌打ちしながらこちらに冷ややかな視線をくれる。

「おまえんとこのチーフはそっちのでかいのにてんてこ舞いで、こんなものにまでは手が出せないんだろ? てか、あいつそれでなくても、あのゴリラとネコのわけわかんないアーマーにちょっかい出そうとして、追い返されてたじゃないか? おれもひとのこと言えないが、あいつも大概だぞ? しゃあねえな……!」

 いかにも渋々と言った感じでありながら、内心ではその実、嬉々としているのではないかと疑うベアランドだった。

 実際、パイロットスーツばりに仕立てのいいメカニックスーツのお尻からちょこんと飛び出たまん丸いシッポが、上下にピクピクと小刻みに動いているのだから……!


 ネコ族やイヌ族がそうであるように、上機嫌の時にはシッポがぶんぶんと元気に振れるのは、彼らクマ族も同様だった。 

 ただシッポが短いからわかりにくいだけで、目の前のおやじさんは今やでかいおもちゃを手に入れたお子様ばりにその胸の内がときめいているのに違いない。

 良く見たら、この口元がかすかにゆるんでいた。

 やっぱり生粋の機械屋なんだなと納得するベアランドだ。

「それじゃ、そういうことで、イージュンにお願いするよ。うちのリドルはやることがてんこ盛りだから! あのゴリラくんとネコちゃんにまでちょっかい出してるのは意外だったけど? あ、あと他にもまた新しいアーマーがこれと一緒に来ているんだよね。そっちはまだ見てないんだけど……どんなだろ?」

「どんなだっていいだろ! さすがにそこまで手は回らないから、あっちのゴリラやネコちゃんみたいに自分でやってもらえばいいんじゃないのか? あいつらそれをいいことに最後尾のアッパーデッキを占有しちまってるんだから! まあ確かに、あそこなら邪魔にはならないが、飛行ユニットもろくに持たない陸戦型アーマーどもが、あんなとこに居ても仕方がないんだがな?」

「ロフトに上がって艦の守備隊として動くぶんには都合がいいんじゃないのかい? 流しの若い傭兵さんが何故だか艦長の信認もあるみたいだし、それだからこその特別待遇だよ。気になるならリドルと一緒に押しかけてみればいいんじゃないのかな?」

 冗談めかして言ったセリフに、これにはただちに不機嫌面でフン!と鼻を鳴らしちゃ、への字口で応じるメカニックだ。

「は! あんなひとの言うことを聞かなそうな生意気な若造どもはゴメン被る。おれはせいぜいこっちのとろそうなクマ族のあんちゃんのアーマーと遊ばせてもらうさ。第二小隊のあのオオカミはやたらに口やかましいし、部下のワンちゃんどもは気が弱すぎて始末に負えない。ははん、まったくストレス解消には持ってこいのシロモノだよな!」

「結局そっちのパイロットの好き嫌いの問題じゃないのかい? 構わないけど、あんまりいじめたら泣かれちゃうよ。こんなゴリゴリのクマ族のおじさんにさ! まあいいや、それじゃこっちも用事があるから、失礼させてもらうよ。リドルや中尉どのたちが待っているんだ。これから大事なミーティングがあるからね? 昨日の出撃の総括も込みにした!」

「デッキでやるのか? わざわざ? 昨日の総括って、そっちのベテラン勢はふたりともお留守番だったのに? そういやあの坊主、こっちには目もくれずにそっちのアーマーにさっさと向かって行ったな。少しは手伝えってもんなのによ!」

「いろいろと忙しいんだよ、あの子は。今回のブリーフィング・ルームには特別な場所を用意してあるから。その都合もね! あっと、噂をすればなんとやら、向こうでリドルが呼んでるや!」

 背後からの呼びかけにそちらを振り返って、その先にあるみずからの大型アーマーを見上げるアーマー隊大隊長だ。

 彼らが乗る船には大型アーマー用のハンガーデッキがふたつあり、この隊長の彼のものと、今回、新しく運び込まれたものが残っていたもうひとつに収まるかたちとなった。

 それじゃと軽く手を振って、みずからのアーマーの元へと大股で歩いていく背中に、背後のおやじからは普通に上っていけよ!と声が掛けられるが、返事をするよりも適当にパイロットスーツを着込んだ尻の頭に顔を出す、まあるいシッポを動かしてやる。

 相手は気付いたものか?

 相棒の大型アーマーの格納されたハンガー・デッキに近づくと、このコクピット・ブロックに相当する、ずっと高い場所から若いクマ族の青年メカニックが手を振っているのを認める。

 その左右には、ベテランのクマ族のおじさんたちが真顔でこっちを見下ろしているのも見て取れた。

 みんなそろっているようだ。

 すぐに合流するとうなずくベアランドだが、左右にあるデッキのタラップやエレベーターをちらりとだけ一瞥して、またすぐに真上に向き直ると、ちょっとだけ苦笑いになる。

 素直にそちらを使えばいいのだが、めんどくさいのでショートカットをすることにした。

 普通はやらないやつだ。

 さっき普通に上がれよと言われたばかりなのに、その場でおもむろ思い切りにこの上体をかがめさせて、両脚にぐっと力を込めるやんちゃな若い隊長さんだ。

 直後には、フロアからドバン!と上階にあるデッキのフロアにまで一足飛びに大ジャンプする。

 およそ尋常でない跳躍力だった。

 過酷な状況下でのアーマーの運用と戦闘を強いられるパイロットは、一般の民間人よりも強靱な肉体と、優れた身体能力を有しているのは知られているが、このクマ族に関しては、その範疇にはちょっと収まらないのだろう。

 乗っているアーマーもただごとでなければ、この本人自体もただものではないのだ。

 涼しい顔して一瞬で目の前に現れたでかいクマ族の隊長さんに、反射的にびっくりしてのけ反るメカニックマンだった。

 この左右のおじさんたちも、のわっと上体がのけ反っていたが、その顔には出さないで平静を装っていられるのは、きっともう慣れているからだろうか。

 悪びれることもない笑顔の隊長に、ちょっとだけ呆れた顔つきで敬礼をするリドルだった。

「おはようございます! 少尉どの、お待ちしておりました。ですがこちらのデッキには、できればまともな方法で上がっていただきたいのですが……!」

 そんな苦笑いの青年クマ族のセリフに、この横からおじさんのクマ族たちもちょっと困惑顔しては口々に言ってくれる。

「ほんまやわ、隊長、ウサギさんちゃうんやから、もっとふつうに上がってきてくださいよ。重たいクマ族はそないな無茶なジャンプはせえへんよって。心臓に悪いわ……!」

「ザニー、ザニー! ウサギ族でもあないなジャンプはようせんって! この隊長さんだけや。ほんまにこのおばけアーマーと一緒で、規格がゴリゴリにおかしいんやって……!」

 そんなゴチャゴチャ言ってるおじさんたちにはとりあえず苦い笑いで返して、ハッチの大きく開かれたみずからのアーマーのコクピット内を目で示すベアランドだった。

「それじゃあ、早速はじめようか! 今回のブリーフィング・ルームは、ぼくのこのランタンのコクピットだね! さあさ、みんな遠慮せずに入ってよ」

 そのように促しながら、まずはじぶんから大きくハッチが開かれた操縦室の中へと潜り込んでいく。

 真ん中の操縦席にただちに慣れた調子で腰を据えると、外からこの中をのぞき込む三人のクマ族たちに目で合図する。

 通常のアーマーのコクピットは、パイロットひとりがせいぜいのところなのだが、このクマ族の隊長のそれは縦にも横にも余裕があり、まだ三人くらいは楽に入れるだけのスペースがあった。  

 まずメカニックのリドルがお邪魔します!とベアランドのすぐ隣につけて、おっかなびっくりに残りのおじさんたちがのそのそと内部に入り込んでくる。

 クマ族は一般に大柄で人一倍に場所を取るのだが、それでもまだ十分な広さがあるコクピットに、ちょっと驚いたさまの中尉どのたちだ。

 着座した隊長の左右に陣取って、物珍しげに周囲のディスプレイやこの手元のコンソール、操作盤などを眺め回している。

 年季の入ったおじさんたちにしてみれば、最新式のアーマーのコクピット自体が珍しいのかも知れない。

「ほえ、ほんまにコクピットでやりはるんかと思ったら、こないに広いんですか? これなら納得やわ……!」

「こないなもんコクピットちゃうやろ! 広すぎやて、ここで普通に寝泊まりできるんちゃう? ビックリやわ! ちゅうか、ここまで来たらぶっちゃけデッドスペースなんちゃうか?」

「ははは、確かにね! ふたりはこの中に入るの初めてだろうけど、どうか気楽にしてってよ。それじゃ、早速、ミーティングに入ろうか。タルクスはあえて呼んでないけど、あの子はぼくと直にあの時の現場を見ているからさ? だから今回は、ダッツとザニー両中尉どのたちの見解を聞きたいんだよね♡」

 ベアランドの言葉にこの横につけるリドルがはいと了解して、手元のコンソールを手早くパチパチと操作する。

 するとそれまで開かれていたコクピットの分厚いハッチが音もなく閉ざされていき、これによって正面に現れた大型のディスプレイモニターにすぐにも明かりが灯る。

 同時に左右、背後にもある大小のモニター類にも光りが灯って、照明がなくとも十分な視界が保たれることになる。

 はじめ外部の様子を映していたモニターの中にいくつものウィンドウが立て続けに現れて、それらの中にさまざまな動画や各種のデータが次次と映し出された。

 中にあるのは、見知らぬ街中に紛れ込む、どこかで見たことがあるような特徴的なカタチをした黒い二機のアーマーたちだ。

 それらが空から俯瞰した図で表示されるのを、みんなでしげしげと見入るクマ族たちである。

 つまりは新しく艦に編入された傭兵部隊のネコ族とゴリラ族のものだったが、これの考察をクマ族だらけの第一小隊でしようというのが、今回のミーティングの主な目的だった。

 やるからにはマジメにやるのだが、半ば面白い動画をみんなで見て盛り上がろうという、ちょっとしたレクリエーションか気晴らし的な意味合いも、あるにはあっただろうか。

 昨日、現場の戦場を上からつぶさにモニターして、それらの動画や各種のデータを採取した張本人のクマ族の隊長さんが言う。

「見ればわかると思うんだけど、とにかく面白いんだよね! あのゴリラくんとネコちゃんの、どっちともw こんなゴミゴミした狭い街中の通りをけっこうな勢いで走り抜けてるじゃないか? おまけに敵を軽々と撃破しながら!」

 嬉々とした言いように、真顔のリドルが補足の説明を付け加える。

「第二小隊のウルフハウンド少尉どのが三機撃破、残りの七機を、イッキャさんが四機、ベリラさんが三機の内訳となります! すべてビーグルⅤです。ちなみに本作戦でのこちら側の損害は、皆無となります」

「めっちゃ優秀ですやんけ。ちゅうか、あの若いワンちゃんたちは何してはったんですか? 新型のアーマー乗りがふたりもおって、ひとつも星をあげられへんなんて?」

「そゆことゆうたるなよ! あるて、そんなこと。無傷で返ってこれたんだからそれだけでもええやんけ?」

 ベテランのおじさんたちのとかく皮肉めいた言いように、だがこれには隊長である若いクマ族があっけらかんと答える。

 元はこのベテラン勢が来るまでは彼の直属の部下でもあった新人の隊員たちだ。名誉を傷つけたままではしのびない。

「ああ、それ、コルクたちは悪くないよ? ぼくが上からそうするようにお願いしちゃったから! シーサーの了解も得てね。なんせ相手のビーグルⅤがコルクたちのⅥとおんなじカラーリングだったから、まぎらわしくて仕方なくてさ! 同士討ちとか目も当てられないだろう? よそさまも加わってる今回の作戦じゃ」

 これに果たして納得したのかしないのか、やや微妙な顔つきのザニー中尉だ。

「なんでそないなめんどくさいカラーリングにしてもうたんですか? こっちのビーグルⅤが茶色っちゅうのは、知ってたことなんちゃいます? ちゅうか、なんでビーグルⅤなんですの? それ、ぼくらのお国の現行の主力兵器やないですかぁ」

 それにはリドルが答える。

「はい。友邦国のアストリオンにルマニアがアーマーを輸出しているのは有名な話であります。ただしこちらの環境に適応した砂漠地戦仕様であり、あのようなカラーになります。反政府勢力がビーグルⅤを使用しているのは、どれもこれらが敵により拿捕された機体であるものと思われます!」

「あのぶうちゃんもそないなこと言ってたよな? せやなくて、なんでワンちゃんたちのⅥは、あないなカラーなんや?」

 ダッツの相棒と同様にした問いかけには、ベアランドがまたもあっけらかんと返すのだった。

「ああ、はじめはピカピカの銀色だったのに、それじゃ目立って仕方がないからって、イージュンが気を利かして全身渋く塗ってくれたんだよね! カラーは本人の好みによるんじゃないのかな? ただ単に! 当のコルクやケンスはそこらへんあまりこだわりとかないみたいだしw 隊長のシーサーは興味ないしww」

「ほえぇ……」

 呆れた感じで互いに目を見合わせるおじさんたちはもはやほっといて、さっさとこの話を進める隊長さんだ。

「それよりも、ほら! あのふたりの操るアーマー、めちゃくちゃ動きが機敏で敵のビーグルⅤを圧倒してやしないかい? コンビとしての連携もきっちり取れてるし、若い割にはとっても練度が高いアーマー乗りたちだよ。この機体もかなり高性能で、これと言った弱点も見当たらないし! ね?」

 みんなに問いかけるに、おじさんたちからは低いうなりみたいな声が聞こえるが、メカニックマンとしての見地でものを見ているリドルがこれに強く同調する。

 昨日の内に彼なりに戦績データを解析していた若いクマ族の青年は、このアーマー乗りたちとその保有するアーマーをかなり高く評価しているようだった。

「はい! ベアランドさんが言うとおり、とっても優秀な機体であります。特に市街地戦に特化しているらしく、至近距離での格闘戦と、距離を置いた中距離の間接攻撃とこの役割をはっきりと分担している点も、とても合理的であります。おそらく高出力エンジンにより発生させたフィールドバリアも併用しながら、機体の防御力を最大限に高めているものと思われます!」

「ああ、それってこの機体に搭載されたフィールドジェネレーターとおんなじ機能を持っているってことだよね? 上から見ていてやけにセンサーの反応が鈍いと思ってたら、周りにバンバン電磁フィールド張ってたんだ! 恐れ入ったね♡ おまけに特殊なギミックが機体各部にてんこ盛りみたいだしw」

 いかにも楽しげにした若いクマのパイロットの感想に、じっと黙って目の前のモニターの動画に見入っていた赤毛のおじさんグマが、やがて真顔で応じる。

「……ほえ、あのゴリラくんのごっつい機体、敵からの銃撃をものともせずに近寄っていきよるの、機体の強度が高いだけちゃいますよね? なんか肩のあたり、プロペラみたいなんがグルグルまわってはるし、妙な武器を持ってはるの、あれをクルクルまわしてタマをはじいたり相手をどついたりしてはるんや? えらいいかつい戦い方しよるわ! まさしくゴリ押しやんけ」

 みずからの乗る機体が防御力重視の仕様であるからか、とても興味深そうにまさしくゴリラみたいな見てくれのアーマーに見入るベテランパイロットだ。

 それとは逆に、攻撃力重視の機体を操る灰色グマのおじさんが、もう一方のネコ型っぽい見てくれのアーマーに言及した。

「こっちはこっちで、えらい命中精度で弾丸ぶっばなしとるで! 死角から攻められても飛んだり跳ねたり、おまけに無茶苦茶な角度から応戦しとるやんけ? どないなっとるんや、機体のバランス制御! 長距離射程の装備はなさそうやけど、あないにめまぐるしく動かれては狙いを定めるのもしんどいて!」

 ふたりともしっかりと傭兵部隊の実力を感じているようだ。

 これを聞く部隊長のエースパイロットは、やけにしたり顔して了解する。

「確かにね! あのふたりの実力に関しては、アーマーも含めてもはや十分なんだろう。スタンドプレイに走られるのは困りものだけど、別個の部隊として稼働するには問題がないはずで……。出身がイマイチわからないのがアレなんだけど、あれだけ特徴があるアーマーなら探れないこともないのかな? 時にリドル、あの博士の意見とかは聞けているのかい?」

 基本は艦の最後尾のエンジンブロックにこもりっきりの、イヌ族の老博士のことを聞いてみるに、問われたチーフメカニックはちょっと困った顔でこの首を左右に振るのだった。

「いえ、シュルツ博士は少尉のアーマー以外には興味がないとのことで、とりあってはもえらませんでした。逆に余計なものに関わるなと怒られてしまいまして……!」

「ああ、あの博士らしいな! まあいいや、ゴリラくんとネコちゃんのことはこのあたりにしておいて、自分たちのことに専念しよう。ダッツとザニーはこれからは、ぼくよりもむしろタルクスと連携しなくちゃいけなくなるし、戦い方のバリエーションも増やしていかないとね?」 
 
 おおよそでミーティングを締めくくりながら、手元のスイッチをパチッとはじいて周りのモニター群の明かりを消すと、閉ざされたコクピットハッチを再び開いてそこから外気を取り込む。

 あいにくと新鮮な空気ではなくて機械油くさい気流に鼻先をヒクヒクさせながら、開かれた視界の先にあった見慣れない大型アーマーを見て、そこでまたしても苦笑いになる隊長だった。

 背後のベテランのおじさんの内のひとりが、おなじくそれを見てぽつりと感想を述べる。

「ほえ、わけわからんアーマーならまだおりましたわな……! しかもまたふたつも? あのネコちゃんたちの紹介っちゅうはなしやったけど、ほんまに信用してええんですか?」

「ほんまにわけわからん! ちょっと様子を見てみたけど、どっちも見たことも聞いたこともないアーマーやったで? あんなもん、パイロットどないなやつやねん? ほんまにこんなんとおれたち連携せなあかんのですか、隊長??」

 なおさら苦笑いになるベアランドは、一度大きく肩をすくめてミーティングの終わりを告げた。

「今回のネコちゃんとゴリラくん同様、実際にお手並みを拝見させてもうしかないよね? すぐに機会はやってくるんだろうし。ちなみにパイロットはどっちも若いクマ族とイヌ族の男女コンビらしいよ? ネコちゃんによると、おまけに会社経営みたいな? なんだろうね。ま、会えばわかるよ。あとみんなが先に出ていってくれないと、この席から立ち上がれないから、さ!」

 言われてぞろぞろとコクピットを退出していく仲間たちを見送って、みずからはだが手元の操作盤を操作する。

 右手のサイドモニターにまた何かしらを映し出すクマ族だ。

「ふうむ、でもあのどっちもやたらに金が掛かっているアーマーの存在を考慮したら、うちの経歴複雑な艦長とあのふたりのアーマー乗りの接点て、たぶんこのあたりに集約されるんだよな……おそらくは?」

 それきり真顔でしばし考え込むのであった。


  Part2


 新型のアーマーのまっさらなコクピットは、とても居心地が良くて快適で、この新品の革張りの操縦席もまるで高級ホテルの重厚なソファのような座り心地で格別だった。

 じぶんが居た安普請のボロアパートの備え付けのベッドよりもはるかに寝心地が良くて、気が付いたら、うとうとしたまどろみの中ですっかり寝落ちしてしまった、新人パイロットだ。

 だらしなくも大口開けて、でかいいびきを立てながら爆睡していると、心地よい夢の中でどこからか誰かしらの声が聞こえてきた。

 どうやら見知らぬ男の声のようだ。

 バンバン!と何かを叩く音も聞こえてくる。


 シートがほぼフラットになるくらいにまでリクライニングさせて完全に寝こけていた若者は、かすかに表情をピクつかせて、この夢の中から聞こえてくる正体不明のおどろおどろしい声にうならせられる。 

 その声は言った。

「おい! 中のパイロット、とっとと出てこい!! いつまで中にこもっていやがるんだ? 機体の格納は終わったんだから、あとはおまえがアーマーの個人ロックを解除して、こっちに引き渡すだけなんだよ! いいからこのコクピットのハッチ開けろ!!」

 さながら憎悪に満ちた罵詈雑言か?

 やけに現実感がある長ゼリフに、ただならぬ違和感を感じる。

 弛緩しきっていた手足がピクピクとなるパイロットだ。

 さすがにいびきをやめて、無意識ながらも周囲の状況にぼんやりながら注意を向ける。どこからか確かな殺気めいたものまで感じて、薄目で身の回りを確認するのだった。

 するとまず目に飛び込んで来るのは、正面ディスプレイに大写しになった巨漢のクマ族の恐ろしい顔面のドアップだった……!

 これに一瞬で眠気が覚める若者だ。

 ただし状況の正確な把握にまでは至っていなかったが。

「……!? はあっ、お、鬼っ? 鬼がいやがるっ!?」

 バッと上体を起こして周囲に目を向けると、この前面のみならず、左右の大型ディスプレイにもおなじ形相のドアップの顔面が張り付いて、こちらをにらみ付けている。

 完全にパニックになる若いクマ族だった。

「ひいっ、なんかおっかねえ鬼みたいなのが3匹もいやがるぞっ!? 3匹!!? どうなってるんだよこの戦艦!!」

 とりあえずじぶんが新型のアーマーに搭乗して、この大型の最新鋭艦にまで乗り込んだのは覚えているのだが、その後がさっぱりで今のこの状況である。

 慌てふためくばかりのパイロットに、モニターにでかでかと映し出された当の鬼、もとい実際はどでかいクマ族のおやじさんが冷めた目つきで言ってくる。

「鬼ってなんだよ? は、いませんけど、鬼なんて? ひょっとしてこの俺のことを言っているんなら、おまえ、それなりに覚悟はできているんだよな? あとさっさと面を見せろ。開けろよ、このハッチ」

 もはや怒りを通り越した、何かしらの呆れか嘆きみたいなものまでにじませてくる年配のクマ族の言葉に、顔からサッと血の気が引いていく若いクマ族だ。

「は、はいっ? あの、えっと、あれ? 今って……おれ、ひょっとして寝ちゃってた??」

「ひょっとしなくてもそうだろう? まあさぞかしいい寝起きの面をしてるんだろうな? とにかく、開けろ。話はそれからだ」

 とかく冷静な相手の言いように、だが内心で完全にパニくっててるパイロットは操作盤を操る手元もあやふやで、まったく関係のないスイッチやレバーを引いてしまう。

 さらにパニックに陥った。

「え、あ、あのっ、ちょっと待って! 今開けます! 開けますから!! えっと、えっと……これか! あ、ハッチの前に立っているんなら、ちょっとそこからのいてくださいっ!!」

 画面に向かって反射的にペコペコと謝りながら、ようやくコクピットハッチのスイッチを探り当てる。

 その結果、ゆっくりと音を立てて開いていく大きな扉の向こうには、この真正面にそれは鬼さながらの迫力で、見るからに巨漢のいかついクマ族が腕組みして待ち構えていた。

 不意なハッチの開閉に跳ねられるほど間抜けではないらしく。 

 そそくさとシートベルトを外してなるたけ速やかにコクピットからデッキに降り立つ。

 そこでどうやらメカニックマンらしいその巨漢の男と向き合うのだが、これとまともに目を合わせることができずに、ひたすら萎縮するばかりのパイロットスーツだ。

 のっけからやらかしてしまったみずからの不甲斐なさに嘆くことしきりなのだが、うまく弁明する言葉も見つからない。

 うわ、詰んだ……!

 内心で白旗を揚げていた。

 おまけ本来ならば、みずから名前を名乗ってしかるべきなのだろうが、不覚にも不機嫌ヅラした目の前のオヤジからそれを聞かされることになる……!

「今日は。気分はどうだい、良く寝られたからいいんだろう? こっちはこんなでかいアーマーをデッキに収容するのにてんてこ舞いだったのに、パイロットさまはお気楽さまでいいもんだ。なあ、ニッシーくん? 何か言うことはあるかな?」

 まっすぐ真顔で見つめられて問われるのに、なおさら目を合わせられずにすくみ上がる青年クマ族、ニッシーだった。

「あ、いや、とくに、その、言うことは……すんませんでした。反省してます。二度とないように努めますので、ご気分を害されたのなら、なにとぞご勘弁を……とにかくすんませんでした」

 完全に観念したさまでうなだれる若いパイロットに、熟練の整備士は軽く咳払いすると、とかく鷹揚にうなずいてくれる。

「ああ、そう。そうね。うん。わかったのならいいのだけど、まずはここにサインして、これからお世話になるこのクマ族のメンテナンスのおじさんに礼儀正しく挨拶をしようか? これって基本だよね?」

 差し出されたボードに慌てて飛びついてみずからの名前をサインするクマ族のニッシーは、おなじクマ族のおやじにおそるおそるにそれを差し出して返す。

 その上で、改めておのれの名を名乗るのだった。

 おそるおそるに。

「ええ、あの、じぶんは、ニッシーであります! フルネームは、ニッシー・ロックデーモ・ナイ! 階級はありません! じぶんは正規の軍人ではなく、民間の戦場派遣会社の所属でありますので。加えてまだ新人であります。ですのでご教授、ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!!」

 生粋の軍人ではないから敬礼ではなく深々とお辞儀して、おっかなびっくりにこの顔をあげる。

 相変わらず仏頂面したデブのおやじは、何食わぬさまで新人の自己紹介を受け流しておいてから、その上でダメ押しみたいなセリフを低い調子でささやいてくれる。

「あ、そう。軍人でなくても敬礼くらいは覚えておけよ。あとメカニックの機嫌を損ねるようなマネはするな。命取りだぞ? こいつは脅しじゃない。心からの忠告だ。この意味、ペーペーの新人くんでもわかるよな?」

 これに心底、震え上がる若手のパイロットだ。

 返す言葉が思わずうわずってしまう。

「は、はいっ! もちろんでありますっ、ひいいっ、あの、いえ、あの、その、えっと……!」

 しまいには言葉に詰まるのに、はじめそれを怪訝に見ていたベテランのメカニックは、ああ、と納得して返す。

「ああ、そうか。そういやまだ名乗っていなかったな? 俺はおまえのアーマーのメインのメカニック担当の、イージュンだ。見ての通りのクマ族のおじさんで、ついでにベテランだな。以後、よろしく。ペーペーのニッシーくん! 新人だろうが容赦しねえからな?」

「は、はいっ……どうぞ、お手柔らかに……」

 最後にドスの利いた低い声でトドメを刺されて、完全に意気消沈するど新人のクマ族だった。

 がっくりと視線が床にまで落ちていたから、この目の前のおやじの口元がかすかに緩んでいたのに気が付かなかっただろう。

 努めて真顔のおやじさんはバンバンと新人の肩をぶっ叩いて、お互いの上下関係をはっきりと確かなものにしてくれる。

「ま、ここでのことなら何でもこの俺に聞いてくれればいい。おまえはこの俺の仕事に差し支えないようにすればいいだけだ。このあたりはギブ・アンド・テイクってやつだよな? あとそうだな、一番大事なことを教えてやるよ。これが一番の協力だ」

「?」

 顔色の冴えない新人は、怯えた表情で目の前のおやじの真顔を見返す。どんな恐ろしい要求が出てくるのかと身構えていると、ひどく深刻な顔つきになるクマ族のおやじはやがて言った。

「死ぬなよ。これが一番肝心。あと、アーマーを無駄に傷つけるな。それすなわちおまえの身体が傷つけられたと思え。言ったら一蓮托生なんだから、当然だよな。あと俺も面倒だし……!」

 最後にニヤリと笑ってくれるのに、感情がまんまと揺さぶられる単純な新人パイロットのニッシーだ。

「は、はいっ! 肝に銘じます!! あとっ、あと師匠と呼ばせてください、イージュンのおやっさん!!」

 挙げ句、いきなりなついてシッポを振ってくるのには、ちょっと意外げに目を見張るイージュンなのだが、内心ではにんまりとほくそ笑むのだった。

「良かった。こいつとんでもねえバカだ! おまけにすんげえ鍛え甲斐がありやがる……!」

「はい?」

「ん、いや。あっと、あっちから誰か来るぞ? 誰だあいつ? とんでもねえ派手なパイロットスーツ着てやがるな?」

 おやじのクマ族の視線に従って背後を振り返る若いクマ族は、その先に確認したそれは良く見知った人物の姿に声を上げる。

「ああ、社長! こっちこっち! そんなとこで何してんだよ? ひょっとして迷子になったってか?」

 デッキの通路をスタスタと歩いてくる細身のパイロットスーツは、その特徴的なフォルムから女性のそれだとわかる。

 しかも全身派手なオレンジ色の。

 言えば肥満体のでっぷりした若いクマ族のすぐ目の前につけるイヌ族の女パイロットは、すらりとした立ち姿で、とかくきっぱりとした口調で返す。

「バカね! あんたがいつまで経っても来ないから、こっちからわざわざ探しに来てやったんじゃない? はじめにこっちに集合って言っておいたでしょう。あんたみたいな平社員がこの社長のわたしを待たせるだなんて、どういうつもりよ?」

 口を開くなりそんなベラベラと勢い良くまくし立てられて、ちょっとげんなり顔して肩をすくめさせるニッシーだ。

「ああ、はいはいっ……!」

 その背後から、イージュンがややいぶかしげにふたりの新人パイロットを見比べる。

「社長? え、こいつおまえの雇い主なのか、まさかの? おまえとそんなにトシ変わらねえじゃん? てか、社長がなんでパイロットスーツなんか着てるんだよ?」

 思ったまんまの疑問をそのまんま口にするおじさんだ。

 これに慣れたそぶりのイヌ族の女子は、軽く一礼してビジネスライクなスマイルで答えてくれる。

「あたしもパイロットなんで。まだ小さい会社だから、社長でもバリバリ現役で戦場に繰り出します。お見受けしたところ、メカニックの方ですか? うちのバカ、もとい社員が失礼しました。わたしは戦場派遣会社「ミカン・ペースト」の代表取締役社長、サラと申します。以後、お見知りおきを……!」

「バカってなんだよ? ピンチだったんだぞ、社長だったらもっと早く駆けつけてくれよ!」

 ぶうたれるクマ族を冷ややかな視線で見返す女社長は、声高にピシャリと言い放つ。

 しかも思い切りの断言だ。

 有無を言わさぬ迫力があった。

「そんなのいちいち面倒見切れるわけないでしょう! どうせあんたがヘマしたに決まってるんだから。おおかたアーマーのコクピットでそのまま寝落ちとかして、そっちのでかいメカニックさんに迷惑かけたって、そんなところなんじゃないの?」

 ズバリで図星を突かれて黙り込むニッシーに、軽く咳払いするイージュンがその言葉を引き取った。

「まんまだよ。それじゃその新人くんを引き連れて、さっさとしかるべきところへ行ってくれ。お互いヒマじゃないんだろう? こっちはこれからやる事がてんこ盛りなんだ。なんせこのバカでかいアーマーをいちいちチェックしないとならないんだからな」 

 それきり背を向けるでかい背中に、了解してこちらもさっさときびすを返す女社長のイヌ族だ。

 これにクマ族の平社員が慌てて追いすがる。

「お、おいっ、どこ行くんだよ? こんなバカでかい戦艦、おれたちみたいなよそ者がヘタにうろついてたら怪しまれるんじゃないのか?」

「いいのよ。もうとっくに怪しまれてるから。あのおっさんもそんな顔してたじゃん? こっちはこっちでやる事あるから、こんなところでのんびりしてなんかいられないのよ!」

「だからどこ行くんだよ! 待てって! 道もわからないのにそんなスタスタ早足でよく歩けるよな? おまえらイヌ族ってほんと……!」

 ブチブチと文句をたれるのに、険しい表情で振り返るイヌ族の女パイロットは立ち止まってただちに詰め寄ってくる。

 視線が泳ぐクマ族に低い声で言った。

「だったらあんたが誰かに道を聞けばいいんじゃない? 社員なんだからそれくらい当然でしょ? ほら!」

「だ、誰かって、誰もいやしねえじゃねえかっ?」

 うろたえるクマに食ってかかるイヌはしれっと言ってのける。

「いるじゃん? そこに、ほら!」

「え……?」

 おのれの背後を視線で示されて、そちらを振り返ると、そこには今しもこちらに向かってドタバタと駆けってくる誰かしらの人影がある。

 よく見れば何故か太ったブタ族のそれで、それがまた何故だか満面の笑みで迷わず一直線に走り寄ってくるのだ。

 ぽかんとした表情でそれを見るニッシーは、あのはじめの巨漢のメカニックといい、ここにはやっぱりまともなヤツがいないんじゃないのか?と本気で疑ってしまうのだった。


 Part3

 見知らぬブタ族は、とかく人なつこい笑みで困惑するクマ族のニッシーのもとにまで駆け寄ると、元気に声をかけてくる。

「ぶう! おはようなんだぶう!! て、あれ、てっきり灰色のクマさんだからダッツ中尉かと思ったら、まるで別人なんだぶう! あとおまけに知らない女のイヌ族もいるんだぶう! おまえたち誰なんだぶうぅ?」

 おそろしく脳天気なさまで問われて、完全に腰が引ける平社員だった。

「やべえやべぇ、なんかおかしなブタ族がいやがるぞ? 誰って、そっちこそ誰なんだよ! おれはブタ族に知り合いなんかいやしねえって、そもそもなんでこのルマニアの戦艦にアストリオンのブタ族なんかがいやがるんだよ! 密航者か?」

「そんなわけねーじゃん! あんた、少しは頭を働かせたらどうなの? アストリオンとルマニアは非公式につながってるの、みんな知ってるでしょう? ちっともおかしくないわよ」

 背後から冷めた言葉を浴びせられるものの、まだ動揺が収まらないでやたらにひとなつこいブタ族にビビリまくるクマ族だ。

「このおれのいるアストリオンは永世中立なんだぶう! でもルマニアとは相互に不可侵の戦時協定を結んでいるんだぶう! だからみんなおともだちなんだぶう! よろしくなんだぶう! ところでおまえは誰なんだぶう!」

「ぶうぶううっせえ! おまえこそ誰なんだよっ、おまえみたいなうさんくさいブタ族なんぞと仲良くする義理はねえぜっ、このおれには!!」

「あんたほんとにバカなの? せっかくなんだからこのブタ族さんにいろいろ教わればいいじゃない。ルマニアの連中にヘタに世話になるより気が楽だわ。いつまでいられるかわからないんだし、こんな大仰な巡洋艦!」

 三者三様で、まったくもって話がかみ合わない。

 途方に暮れるニッシーに、ブタ族が底抜けに明るいさまでまたもや言った。だがこれでやっと話が進展し始める。

「おれはアストリオンのロイヤル・ガード・ムンクの、タルクス准尉なんだぶう! ここには国家元首のイン様の命令で、援軍として乗り込んでいるんだぶう! 見たところおまえたちもアーマー乗りみたいだけど、どこから来たんだぶう?」

「うわ、マジでぶうぶううっせえ! なんなんだよ、あとなんでそんなになれなれしいんだよ? おまえ今、名前名乗ったか? 話がややこしくてまったく聞き取れなかったんだけど!?」

 なかばやけっぱちでわめき散らすくクマ族の平社員に、イヌ族の若い女社長が冷静に割って入った。

「タルクスって言ってたでしょ? しかもそう、アストリオンのロイヤル・ガード・ムンクだなんて超エリートじゃん! 見た目じゃさっぱりわからないけど? それじゃあよろしくお願いするわ。わたしはサラ。そしてこっちが、ただの平社員だから気にしないで」

「ぶう? 平社員??」

 途端にきょとんとしたさまのブタ族に、現状まったくうだつのあがらない平社員のクマ族、ニッシーはやや憤慨してわめく。

「平社員ってなんだよ! おれにはニッシーっていう立派な名前がある! あとそれだと説明するのが返ってめんどくせえだろう? 社員にわざわざ平とかつけるなよ、モラハラだからな?」

「はいはい。ただ事実をそのまま言ってやっただけでしょう? あんたはわたしに雇われているいち社員で、わたしは社長。ただそれだけのことよ。それよりも今は、このタルクスにここを案内してもらうのが先決だわ」

「こんなのに頼って平気なのか? つうか、何を案内してもらうんだよ?」

 あからさまに不満顔の平社員に、まるで意にも介さない社長さんはこのクマ族の肩越しにみずからの鼻先を突き出して、相手のブタ族のアーマー乗りの様子をしげしげと観察する。

 簡易的に造られた狭苦しいデッキの通路では、デブの相棒とふたりで並ぶことはほぼ不可能だった。おなじく恰幅のいいブタ族などとはすれ違うことも難しいだろう。

 これに対して通路の真ん中にでんと仁王立ちするタルクスは、とことんフレンドリーなさまで笑顔がまぶしいくらいだった。

 初対面を相手に警戒心がまるでないのが、見ていて心配になるくらいにだ。

「ぶうっ、サラに、ニッシーっていうんだぶうか? よろしくなんだぶう! おれもここではまだ日が浅いけど、知ってることはなんでも答えるから、なんでも聞いてくれなんだぶう!」

「サンキュー! だったら早速だけど、わたしたちは今日ここに赴任したばかりで、まずは上と顔合わせをしたいんだけど、あいにくとここの艦長とは直接は会えないって言われてるのよね? まずはこっちのアーマー隊のお偉いさんたちと話をしろってことなんだけど、わかる?」

 何食わぬさまをしたサラの問いかけに、当のタルクスはこれに大きくうなずいては親身になって返事をしてくれる。

 ほんとにバカ正直でただのいいやつなんだ!とこれを真正面でマジマジと見るニッシーは、目がひたすらにまん丸くなる。


 ただし感心するよりも呆れのほうが勝っていたか?

「それならたぶん、このおれのいる第一アーマー小隊のでっかいクマ族の隊長さんのことなんだぶう! おれもその隊長さんに会いに来たんだけど、あいにくここにはもういないみたいなんだぶう! おれも探しているから、一緒に行くんだぶう! たぶんみんなでブリーフィングルームか、食堂あたりにいるはずなんだぶう! 何故かおれだけ仲間はずれにされて、やっとひとり見つけたと思ったら、まるで違うただの平社員だったんだぶう! あの中尉どのはもっとイケてる渋いおじさんなんだぶう!!」

「おい、平社員ってなんだ? おまえなんかに平社員呼ばわりされるいわれはねえぞ! あとぶうぶうべらべら良くしゃべるよな? そんなんだから仲間はずれにされてんじゃねえのか? 距離感もだいぶイカれてるみたいだしな? なあ、ぶうちゃん?」

 かなり剣つくばったもの言いで威嚇するのだが、まるで気にもしない根明なブタ族めは、なおさらその身を乗り出して相手のクマ族の格好を上から下までじろじろとねめ回すのだった。

「ところでどうしてニッシーはそのパイロットスーツを着ているんだぶう? 懐かしいから人違いでなくとも声をかけてしまうんだぶう! クマ族が着ているのははじめて見たから、とってもめずらしいんだぶう!」

「は?」

「……あ!」

 怪訝に聞き返す自分の真後ろで、社長のサラが変な声をだすのに、これまた怪訝にそっちを振り返る。

 何だよ?と目で問いかけるに、ちょっとバツが悪そうな顔をしたイヌ族の女子は、仕方もさなげに言うのだった。

「そっか。アストリオンのブタ族なら当然わかるわよね? これじゃごまかしようがないわ。あんたのそのスーツ、軍用の払い下げ品だってあたし言ってたわよね? 入社したての新人に新品のアーマースーツをくれてやるような余裕はないからって……」

「ああ、言ってたな? それが? どうしたんだよ、ちゃんとこの身体にピッタリで着心地も悪くはないぜ? なんかケモノくせえけど、おれだってひとのこと言えやしねえからな? これと問題はないってもんで、あ、でもそっか、このケツのシッポのあたりがやけにキツくて窮屈ってぐらいか?」

「ああ、それ、たぶんブタ族用のスーツだからでしょ。アストリオンの軍の払い下げ品の専用サイトで見つけた備品だったのよ、それって。ほぼ新品で出されてたから。ブタ族用ならデブのあんたにもきっとお似合いかと思って……!」

「は、なんだよそれ! ブタ族用? これ、元はぶうちゃんが着てたスーツなのか??」

 社長の思いも寄らぬぶっちゃけ発言に、びっくり仰天するニッシーだ。加えてタルクスが満面の笑みで言ってくれた補足説明には、なおさらげんなりとなる。

「とっても似合っているんだぶう! ものはとってもいいものなんだぶう! それは一世代前の仕様で、今はこのおれが着ているスーツが正式なアストリオンの装備なんだぶう! でもそれも根強いファンがいるとってもいいパイロットスーツなんだぶう!」

「え、じゃあ、このケツが窮屈なのは、クマじゃなくてブタ族用にあつらえたものだからってことか? 最悪じゃねえか!!」

「おれたちブタ族とは限らないんだぶう! もしかしたらイノシシ族かもしれないし、イノブタやアグーかもしれないんだぶう!!」

「変わりゃしねえだろうが! このおれはクマ族なんだよっ!! なにが悲しゅうてよその族のスーツを着なけりゃならねえんだっ、これって立派なアイデンティティー・クライシスだぜ!」

 さんざんに嘆く社員に、見かねた社長が声を荒げる。

「ヒラのくせにそんな美品をあてがってもらって文句言うんじゃないよ! 型落ちのスーツでもアストリオン製ときたら結構なプレミアがつくんだからね? ケツの穴が小さいくらい、じぶんでどうにかしなさいよ。だからって壊しでもしたら、ボーナスから修理費まんまさっ引くからね!」

「ケツの穴って……! テンション下がるぜっ……」

 ぴしゃりと言われて黙るクマ族の新人パイロットだ。

 それきりがっくりと肩を落とすのに、相変わらず陽気なブタ族がこの肩をポンと叩いてぬかしてくれる。

「それじゃふたりともこのおれの後についてくるんだぶう! たぶん大食いばかりのクマ族部隊だから、みんな食堂に集まっているはずなんだぶう! おれもハラが減ってきたから、みんなで朝ご飯を食べるんだぶう!!」

「なんか、目的が違ってきてやしねえか?」

「ま、なんでもいいんじゃない?」

 意気揚々と先頭に立ってスタスタと歩いて行くブタ族に、お互いに肩をすくめてこの後についていく、若いクマ族とイヌ族のコンビだった。


  Part4 


 ブタ族のタルクスに導かれるままに艦のデッキフロアから、乗組員たちの平時の居住区画であるセンターブロックの大食堂まで案内された、ふたりの新人パイロットたちだ。

 そこでアーマー部隊を取り仕切る隊長のクマ族と、晴れて対面することになる。

 大きな戦艦の食堂とは言いながらも、そこはやたら広大なスペースがあり、特に士官クラスが集う場所はまたさらに奥へと歩いてゆくのに内心で呆れかえる若いクマ族のニッシーだった。

 この戦艦自体がもはや尋常ではない規模であり、まだ経験の浅い新人パイロットにしか過ぎないじぶんにはどうにも不釣り合いなところだとしか思えない。

 それだから今も、目の前にしている見た目がやたらにいかつくて大柄なクマ族のパイロットに、この身が完全にすくみあがっているのを意識していた。

 なのに目の前の若いイヌ族の女子であるはず、相棒のサラはまるで気にしたふうもなく、堂々と相手のクマ族と相対しているのに感心とも呆れともつかない感情を抱いてしまう。

 小柄な相棒の背中に隠れてビクビクしながら相手の様子をうかがうが、でかい食卓についているのはみんなじぶんと同じクマ族であり、どれもいかつくて迫力があるそれはただならぬ猛者たちであるのがもはや素人目にもそれとわかった。

 きっとじぶんなどとはまったく住む世界が違うクマ族なのだと勝手に思い込むへたれの若者だ。

 その別世界のクマ族の隊長とおぼしき男はまだ比較的若いように見えたが、口を開けば威圧感たっぷりな低い声音に、なおのこと身体が萎縮するニッシーだった。

 自分たちをここまで案内したブタ族によると、ベアランドというらしい若いクマ族の隊長は屈託のないさまで言うのだった。

「やあ、ふたりとも思ったよりも早い到着だったね? 昨日の今日で、ちょっとびっくりしちゃったよ。しかもあんなに大型のアーマーまで連れてきてくれるだなんて! おまけにこんなに若いコンビだったんだ? イヌ族の女子に、そっちのほうは、ぼくらとおんなじクマ族でいいんだよね? てか、なんでそんな後ろに隠れているんだい?」

 そんな不思議そうな顔つきで問いかけられて、思わずひいっと声が出るしがない平社員のクマ族に、女社長のイヌ族が一度冷めた視線を背後に流しながらもあらためて前へと応じるのだった。

「お招きにあずかりまして光栄です。わたくしは戦場派遣会社「ミカン・ペースト」の代表取締役社長、サラ、サラ・フリーラ・シャッチョスと申します。アーマーのパイロット兼任で、わたし自身は高速機動型のアーマーを1機保有。攻撃主体のフリーランサーとなります。それでは以後、お見知りおきを……!」

 軽やかに一礼して、ベアランドをはじめとしたクマ族ばかりの小隊メンバーたちにこの視線を流して送る。

 どうやら食事中だったらしく、大皿に盛られたごちそうをおあずけされているクマ族の中年パイロットたちは、どちらも微妙な感じで互いに目を見合わせたりしている。

 ここらへん、若い女のイヌ族のパイロットにはさしたる興味を向けてもらえないのはこれまでの経験上わかりきっていた。

 それだから気にもとめずに、背後の相棒の平社員、もといクマ族のパイロットにも自己紹介するようにうながすサラだ。

 だがこれにもじもじしてばかりいるニッシーである。

 余計に尻込みしはじめる相棒に、目つきのキツくなるサラはこのつま先をかかとで踏んづけて、前へと突き出す。

「ほら、さっさと自己紹介しなさいよ! あんたの番でしょう? まさかおんなじクマ族がコワイだなんて言わないでしょうね」

「あっつ、いや、コワイだろう、こんなのフツーに! あ、いや、ははは! あの、おれはただの平社員のニッシーです。まだペーペーの新人パイロットなんで、どうぞお気になさらずにお願いします!」

「新人? 確かにふたりともまだ若いみたいだけど、まるで経験がないってわけでもないんだろう? あんな大型のアーマーを持ってるってからには。そういやイージュンにはもう会ったのかい? でっかいクマ族のおやじさんのメカニックマン!」

 とっても気さくに聞いてくれるクマ族の隊長さんに、問われた新米パイロットはなおさら落ち込んださまで視線を逸らす。

「ああ、はい……! しっかり絞られました。しょっぱなからおれがヘマしちまったんで。ついでに気が付いたら師匠と弟子の間柄にもなってました。この先が不安でなりません……」

「?」

 ひどく落胆したさまに目がきょとんとなるクマの隊長だが、新人のパイロットを前にイージュンがちょっとした茶目っ気を出したのだろうくらいに了解して、みずからの部下たちへと視線を向ける。

「紹介するよ。ぼくの小隊のメンバーで、ベテランのザニー中尉と、ダッツ中尉だよ。よろしくね! なぜか少尉のぼくが隊長なんだけど、そこらへんは気にしないでおくれよ。あと、そっちのアストリオンのタルクスと、こっちがうちのチーフメカニックの、リドルだよ。まあ、顔合わせはまだ他にもいろいろいるんだけど、その都度、じぶんたちでやっていってよ。あと察するに、この艦のブリッジには上がれなかったんだね?」

 ちょっとだけ苦く笑うベアランドに、浮かない顔のサラはこくりとうなずく。

「はい。とりあえずこちらのアーマー隊の方々によろしく言っておいてくれとのことでしたので。わたしたちのようなよそ者のアーマー乗りはそう簡単には艦長には会えないとのことでした」

「おれは会わなくたってぜんぜんいいけどな? あっつ!」

 背後からニッシーがぼやくのには、またこのつま先を踏んづけて、やや不満げな顔をクマ族の面々に向けるサラだ。

 これにそれまで黙っていた傍観者のクマ族、赤毛のベテランがおもむろにこの口を開く。

「ほえ、そんなのあたりまえなんちゃう? たかが新参者の傭兵さんなんておいそれとブリッジにあげられへんやろ。ここ、仮にも軍の最新鋭艦で、おまけに旗艦、フラッグ・シップやで? そうでなくとも軍内部じゃ有名人のおひとで、現場方じゃ一、二を争うっちゅう実力者なんやから。いちパイロットにしかすぎへんお嬢ちゃんなんかお呼びにならへんわ……!」

「せやな! 戦場派遣なんちゃらなんてようわからん怪しいヤツやったらなおさらや! きみら、顔洗って出直してきたほうがええんちゃうか? いくら社長さんやか平社員やか知らんけど、対等に張り合うには早すぎるて! ひゃはっ」

 二マリとした表情で少々辛辣なもの言いに、もうひとりの灰色のクマ族も茶化してこれをせせら笑うかのようだ。

 それきり興味なさげに視線をそらすと、それきりどちらもおもむろに目の前の食事に手をつけ始めた。

 これには隊長のベアランドが苦笑いでかすかに肩をすくめるが、まあ仕方がないよね?と目つきで言って憮然としたサラに返した。

「まあ、ブリッジに上がれなくとも、場合によったらあっちから降りてきてくれるかもしれないよ? 戦績次第かな? そのあたりについてはそっちの社長さんは結構な腕前みたいだけど、クマ族の彼はこれと目立ったデータが見当たらないね?」

「あ、ああ、それはっ……!」

 ジロリと見られて挙動不審になるクマ族のパイロットに、イヌ族の女アーマー乗りがこの視線をさえぎって間に入る。

「ああ、コイツはほんとに新人で、これからが生まれてはじめての初陣になりますから。このあたしがスカウトした第一号の社員、派遣アーマー乗りなんで」

「それって傭兵と何が違うんだぶう? あとひとりだけなんだぶう?」

 横合いから無邪気に横槍を入れるブタ族に痛いところを突かれながら、顔にはまったく出さないサラがさらりと返す。

「ふたりよ。まだ興したばかりの会社だから、あたしと経理と、このバカ、じゃなくて平社員しかいない少数精鋭部隊なのよ。問題ないでしょ? アーマーだけはしっかりしたのをちゃんとそろえているし」

「アーマーだけじゃ仕方がないんじゃないのかい? ほんとにパイロットとしての経験が皆無なのか、それって……」

 ちょっと驚いたさまでおなじく目を見張るとなりの若いクマ族のメカニックと思わず顔を見合わせる隊長に、やはり澄ましたさまでその鼻先を上向ける女社長だ。

「どうぞご心配なく。みなさまの足を引っ張るようなマネはいたしませんから。必ずやご期待に添える働きをして見せますので」

 これには大口開けて肉やら野菜やら腹に詰め込んでいた赤毛と灰色のベテランぐまが、いかがわしげに口をとがらせる。

「えらい自信やな? それ戦場で空回りするヤツなんちゃう? おっかないわ。そもそもがその彼のどこらへんが見込みあるっちゅうんや、ぼくにはただのビビリくんにしか見られへんのけど」

「きみ、どこでスカウトされたんや? なんで断らへんかってん? いくら体力あるクマ族さんでもいきなりはしんどいでえ、聞いただけでしんどいしんどい! フラグ立ってるて!」

「まあ、ちょっと興味あるかな? 未経験の初見であんなデカブツを扱おうだなんて、ある意味自殺行為に近い気がするし。実際の戦場はゲームみたいには行かないから……」

 ふたりのベテラン勢にはあんまり挑発しないようにと目で制しながら、ちょっと危ぶむような色がこの顔に出るベアランドだ。

 それがニッシーと呼ばれる若い新米パイロットの吐いた言葉には、えっと思い切り声に出てしまう。

「あ、おれ、ゲーセンでスカウトされたんすけど? すんません。提示された額に思わず飛び付いちまって、挙げ句の果てが今のこれっすわ……思ってたよりも大事になっちまって、正直、逃げたいけど、契約があるから逃げられないです……」

「あたりまえでしょう! あんたもういくら経費使い込んでるのよ? せめて今の赤字とあのアーマーの取得費用をペイするまでは死んでもらっちゃ困るのよ。逃げるなんてありえない!」

「敵前逃亡は死刑なんだぶう!」

 何の悪気もなく言ってくれたタルクスのツッコミに震え上がるニッシーだが、渋い面でこちらを見ているベアランドには居場所がないような心地で肩をすくめる。

「ゲーセンで? えっと、それっていわゆる、ゲームセンターって理解でいいのかい? なんで?」

 はっきりと困惑が顔に出るアーマー隊隊長に、あくまでも澄ましたさまでしれっと言ってのける女社長だった。

「あ、これ、今はあるあるなんですよ? ゲーセンで高得点をたたき出してるゲームランカーを軍のエージェントがパイロットとしてスカウトってのは。実例がここにもいるように?」

 そんなまるで当たり前みたいに言われても、やはり困惑顔で今度は当人に聞くベアランドだ。

「なんで?」

「なんででしょう……」

「あるあるなん?」

「知らん。聞いたことあらへん」

 ダッツとザニーもお互いの鼻っ面をつきあわせるのに、どこまでもしらを切るサラは、ここでまたきっぱりと言い切った。

「パイロットとしての特性を測る上でこれ以上に出来たシステムないって、軍や保障会社の人事が言ってるくらいですからね? 今じゃもっぱらそれ向けに開発されたゲームがあるくらいだし。それにこのヒラは、あたしが望んでいたニーズを満点で実現してくれた逸材ですから!」

「ヒラってなんだよ? それって褒めてるんだよな?」

 ちょっと微妙な空気があたりを満たすが、そんな中におじさんたちのくっくと身体を震わせる含み笑いがうっすらと響いた。

「ふふっ、ほんまにしんどいこっちゃ! きみらわかってゆうてんのか、ゲームと現実はまるで違うで?」

「アホちゃう? 戦場なめすぎ、夢見過ぎやって、嬢ちゃんもうっかりくんも!」

 怪訝に見返す気丈な女社長のイヌ族に、赤毛のベテランパイロットは利き手の人差し指をクイクイとやりながら意味深に笑う。

「これまでさんざん言われてきたことやからあれなんやけど、まさしくやわ。いわく、撃っていいのは、撃たれる覚悟があるヤツだけ……その覚悟を、そないなゲーセン上がりのえせパイロットくんごときが持てるっちゅうんか?」

「大丈夫です。コイツはバカですから!」

「は?」

 迷わずきっぱりと即答するサラを、このすぐ隣でニッシーが不満げな顔で見るが、ザニーとダッツの両中尉どのたちは失笑気味に視線をそらしてもはやそれきりだった。

 両者を見比べて口元のあたりやや苦笑いになるベアランドが、かすかにこの肩を揺らすとはなしを締めくくる。

「まあ、実戦で実証してもらうほかありはしないよね? それはさておき、ぼくらは朝食中なのだけど、せっかくだからきみたちも一緒にどうだい? もちろんそこのタルクスも!」

「ぶう! おなかペコペコなんだぶう!!」

「おおっ、ありがてえ! おれもペコペコだぜ、しかもこんなたくさんのごちそうの山、まるで夢みたいだって、あれ?」

 隊長からの誘いにブタ族が大喜びで空いている席に着こうとするが、あまり乗り気でないようなイヌ族の女子は、その場から一歩引いてみずからの細い首を左右に振るのだった。

 相棒のクマ族は舌なめずりしてすっかりその気なのに、横目できつく睨んでこれを制止する。

「いいえ。せっかくのお誘いですが、わたしたちはまだやることがあるので……! 荷物の整理だとか居場所の確保だとかが済んでから、ごちそうになりたいと思います。それでは」

 ぺこりと一礼して頑なに拒否する社長さんに部下の平社員はかなり不満げだったが、しぶしぶと出した利き足を引っ込める。

 さっさとごちそうにありつくブタ族を恨めしげに見ていた。

 相手のすげない態度を気にすることもないベアランドは了解してまたサラに問う。

「わかった。でもそうは言ってもふたりはこの艦のことはまだ不慣れなんだよね? じぶんたちにあてがわれた専用のセル(居室)だとか、わかるのかい? パイロットだからアンダーフロアのデッキよりにあるんだろうけど、広いよ? あと荷物とか、じぶんのアーマーに積んで来たのかな? あの大きなアーマーならいくらでも入るんだろうけど……」

 若いのに世話好きなクマ族の気遣いに、とかく性格サバサバとしたイヌ族の社長は何食わぬ顔で応じる。

 負けん気が強いのが態度にわりかしはっきりと出ていた。

「恐れ入ります。でもご心配なく。そのためのこの平社員ですから。これから荷下ろしして、さっさと身支度整えます。ほら行くよ、平社員!」

「な、なんだよっ! さっきからヒラヒラヒラヒラ! また戻るのかよ? 道わかるのか? またあのでかいクマのおやっさんにどやされるのは勘弁だぜっ! あとおれ、道おぼえてねえからな?」

 途端にドタバタやりはじめる若い男女コンビに、また肩をすくめてはしょうもなさげに隣のメカニックの青年を見る隊長だ。

 するとその若いクマ族は、すんなりとうなずいて了解する。

 みずからすっくと席を立つと、ちょっとした内輪もめをしているイヌとクマに声を掛けた。

「じぶんが案内させていただきます! 個人の端末に艦内情報やおおよその見取り図は入っているのですが、見慣れない人間がうろついていると無駄に怪しまれたりするので、顔が知れているじぶんがいたほうが何かと都合がいいと思われますので……!」

 するとはじめとても意外そうに若いメカニックマンを見るふたりなのだが、ベアランドが大きくうなずく。

「そのリドルの言うとおりだよ。まずは部屋まで案内してもらって、そこで一息ついてから仕事に取りかかればいいよ。それじゃあリドル、ふたりのことはよろしくたのんだよ!」

「はい! お任せくださいっ、少尉どの」

 元気に了解してふたりに向き直る若いクマ族に、ここは素直に納得する女社長であった。

 おまけ目の前の相手がじぶんよりも年下だろうと踏んで、けっこうなため口で好き勝手な言いようしてくれる。

「あ、そう。それじゃよろしく頼むわ。部屋ってどのくらいの広さがあるの? ひょっとして相部屋とか言わないわよね?」

「お、おまえ、あんまりワガママ言ってるなよ? ここ、言ったらまだアウェーだぜ、おれたち?」

「社長におまえとかいわないでよ。平社員のぶんざいでさ!」

「おまえもひとのこと平社員とか言って、バカにしてるだろ!」

「あんたは実際に平社員なんだから、何も悪くないでしょう?」

「このじぶんも伍長でありますから、言ったら平社員さんみたいなものであります! おなじ階級同士、よろしくお願いします」

「軍人さんが入って来たらわけわかんねえ! それって平社員なの? いや平社員ってなんだよ? 社員にわざわざヒラとかつけんなよ!!」

「うるさいわね? 平社員はどこまで行ったって平社員でしょう? いいからさっさと歩きなさいよ、この社長をエスコートするのがあんたの役目じゃないの? 平社員なんだから!」

 やかましい言い合いは彼らが食堂を離れるまで続いた。

 
  Part5

 はじめの食堂を後にすると、若いメカニックの案内のおかげで目的の場所にはいともたやすくたどり着いた、新人のパイロットコンビたちだ。

 艦内は恐ろしいほどの広さがありこの構造が込み入っていたが、マップの案内を見るまでもなくすんなりとふたりのアーマー乗りにあてがわれた個室へと導かれる。

 その道中に何度かすれ違った船員たちに振り向かれはしたが、リドルという若いクマ族の青年がいてくれたことで問題なくスルーできた。

 話にあった個人が所有できる小型端末は、艦から専用のものが提供されるとのことで、そこには個人用の専用IDなどが入っているから紛失には気をつけてくださいという、クマ族にしてはやけにやせ形のメカニックの言葉には、ちょっと不審げに聞き返すイヌ族の女社長のサラだった。

「そうなんだ。あ、でもちょっと待って? わたしたち、そんな端末なんて渡されてないんだけど? それがないとこの艦のマップ確認や本人の証明もできないんでしょ、どうすればいいの?」

 そのように聞き返すに、前から振り返るクマ族の青年は、屈託のない笑顔でとても明瞭に答えてくれる。

「いえ、ご心配なく。端末はそれぞれの部屋にひとつずつ備え付けてありますので、どうぞそちらをご利用ください。はじめに個人認証だけやってもらえれば、問題なく使用できるはずです! それではどうぞ、お部屋の確認をおねがいします」

 イヌ族の女アーマー乗りに部屋の入り口をはいと示して見せると、そのドア横のプレートにある名前がみずからのものと一致することを確認して、軽くうなずくサラだった。

 相棒のクマ族の部屋は、ちょうどその向かいにあるのも確認。

 とりあえず相部屋ではなかったことに軽く胸をなでおろした。

 扉の前に立つと自動ドアではなかったことに少しして気が付いて、メカニックの青年とちょっとだけ苦い顔を見合わせる女社長だ。社員のクマ族は、さえない表情でどことも知れない場所を眺めていたが、腹の音を鳴らしてがっくりとこの肩を落とす。

 さてはさきほどの食堂のごちそうにありつけなかったのをいまだに悔やんでいるらしいが、さっさとあんたもやることやりなさいよ!キツい目で睨んで、みずからの手で自室のドアを開けた。

 ニッシーのことはもはや完全に無視して、まずはおのれにあてがわれた部屋の様子をぐるりと見回すサラである。

 見た感じまだ新品の室内は、イヌ族の彼女からしてもさしたるニオイがないまっさらな状態で、過不足のない調度品とそれなりの広さがあった。

 ひとりで生活するには快適だろうことがうかがえる。

 部屋の中央に立ってしばらく周りを見回してから、とても満足のいった調子で感想を口にする社長さんだった。

「ふうん、思ったよりも悪くないじゃん! 広さもそれなりあるし、ベッドが格納タイプだからへんなデッドスペースも生まれないし。下のデッキが近いとは言っても、ヘタな騒音も伝わってこないみたいだしねぇ?」

 悦に入った感じで言ってやると、ちょっと離れたところから返事を返すメカニックの青年に、妙な顔をして出口を見返すイヌ族の女子だった。

「ねえ、なんでいつまでもそんなドアの外にいるの? 別に入ったってかまわないわよ? 女子の部屋だからって遠慮してるなら、そんなの余計な気遣いだし! ほら、入っておいでよ? 今さら廊下で立ち話もなんでしょう?」

 そう言って入室を促すのに、さっさと身を乗り出して入ってきたのは、招いてもいないはずのやぼったいぼさ髪のクマ族の男だった。

「へえ、意外と広いじゃん? 良かったな、社長、こんだけあれば何するにも不自由しねえだろ、てことはこのおれの部屋もおんなじで広いんだよな!」

「なんであんたが入ってくんのよ! 平社員!!」

 ほぼ反射的にカウンターのストレートを相手のアゴに向けて放つ気の強い女社長だった。対して慌てて身をのけ反らすクマ族の平社員、もといニッシーであった。

 当のメカニックのクマ族の青年が、後から苦笑いで入ってくると、右手の壁にある小型端末らしきを指さして言うのだ。

「これが端末です。新品ですよね? 認証作業ははじめの内にやってしまえば、デッキブロックの出入りや、食堂やその他の施設もフリーパスで使えるようになります。やらないといつまで経ってもよそ者扱いされてしまうので。おふたりの荷物を取りにデッキに降りることもできませんからね……!」

 にこやかに説明してくれるそれは性格の律儀で温厚なクマ族に、こっちのほうが社員としてほしいわー、とか口にしながら、笑顔で首を振るサラであった。

 みずからの足下を見ながらに言ってくれる。

「ううん。その必要はあいにくとないみたい。見て、ちゃんと荷物が届いているじゃん! ラッキーよね?」

「ラッキーって、なんでそんなもん届いているんだよ? そんなサービスまで完備してるのか、この軍艦は?」

 ひどく不可思議そうな顔つきする社員のクマ族と、おなじくきょとんとしたさまのメカニックのクマ族に向けて、そこは生まれつき商魂のたくましい女イヌ族である。

 いけしゃあしゃあと言ってくれた。

「こっちにアーマーで乗り込んで来た時に、たまたまデッキでおんなじイヌ族の若いパイロットたちと遭遇したんだけど、なんか見てたらやけに気が弱そうだったから、ためしに荷物運びをお願いしてみたのよね! そしたらこの通り、ちゃんときれいに全部運び込んでくれたんだわ。後でちゃんとお礼を言っておかないとね?」

 ぱちりとウィンクするやり手の女社長に、どん引きするニッシーとやや苦笑いのリドルだ。

 メカニックの彼にはそのパイロットたちに思い当たるところが少なからずあって、頭の中では第二小隊の若手のイヌ族コンビを思い描いていた。特に気が弱そうというところがもろに当てはまって、なおさら苦い表情になるのだった。

「はあ、たぶん、コルク准尉どのと、ケンス准尉どのたちですね、それって? どちらも第二小隊のパイロットさんです。災難だったな。これ、けっこう荷物としては大きいですよね。ぼくも手伝わなけりゃならないと思ってたから、後でお礼を言っておかなくちゃ……!」

「やだ、あんたってほんとに律儀ね! マジで気に入ったわ。どう、あたしのところに引き抜かれない? そんな若いのにもうこんなでかい軍艦のメカニックだなんて、腕もそれなりのものなんでしょう? 悪い条件は言いやしないから、良かったらこのわたしのアーマーのメカニックもやってみてよ?」

 出し抜け思いも寄らぬ提案に、びっくりした顔のメカニックマンだったが、これに横から新米パイロットのクマ族がしたり顔してたたみがける。

「そうだな、おれも歓迎するぜ? おまえとならいいコンビを組めそうだ! 年下だろ? あとついでにこのおれの荷物を運び込むのも手伝ってくれよ? もとからそのつもりだったんだろ、な、な?」

 調子のいいことをぬかすのに、これにも笑顔ではいとうなずくお人好しの青年クマ族であったが、社長のサラによってきっぱりと拒否された。

「あんたはじぶんでやんなさいよ! もしくはあのデカブツのおじさんメカニックに運んでもらったら? あんたのアーマーを専門で見てくれるんでしょう? よかったわね。まあでもその前にまずはじぶんの部屋の中をのぞいてみれば?」

「?」

 はじめ辛辣なサラのそのくせどこか意味深なもの言いに目を丸くするニッシーだったが、その後の言葉には狂喜乱舞して部屋を飛び出していくのだった。

「とりあえずあんたの荷物も運んでくれるようにお願いはしておいたから。新しく入ったでかいアーマーって言えば、わからないことなんてないでしょう? このぶんなら、たぶんやってくれたんじゃない? ほんとに気弱な感じでやたらに首を縦に振っていたから。特に毛むくじゃらで顔色の暗いイヌ族のほう!」

「それ、絶対にコルクさんだ……! ほんとに災難だったな」

 ちょっとかわいそうに思いながら、この話を第二小隊のオオカミ族の隊長が聞いたら、なんだかめんどくさいことになるんじゃないだろうか?と気がかりにもなってくるリドルだ。

 そんな暗い顔の横で、パッと顔つきが明るくなるもうひとりのクマ族は、ガッツポーズを取って部屋を後にしていく。

「ひゃっほー! 社長最高だぜ!! 腹すかしたまんまで力仕事だなんて一番の拷問だもんな? とっとと荷物をほどいてさっさと食堂に行ってやるぜ! 戦艦グルメをひとりじめ!!」

 好き勝手にほざいて向かいの部屋に入った途端にまたそこから調子外れな絶叫が聞こえてくる。

 残されたクマ族の青年と目を見合わせてちょっとだけ肩をすくめる社長さんだった。

 どうやら律儀で気弱なイヌ族たちは、見ず知らずのクマ族の荷物までもきちんと運び込んでくれたのらしい。

 何はともあれでとりあえずやることは終えたらしいと理解するクマ族のメカニックマンは、一礼して部屋を後にすることを伝える。

 もう引き留める理由もない若い女社長も笑顔でうんとうなずくのだが、それがなぜか真顔になってリドルに聞くのだった。

 これにはたと首を傾げる青年クマ族だ。

「あ、そうだ。この戦艦の乗組員に、もしかしてゴリラ族って複数いたりする? いわゆるパイロットとかじゃなくてさ?」

「はい? ゴリラ族の方、ですか……?」

 怪訝に首を傾げる彼に、イヌ族のサラは何やら険しい視線を投げかけるが、それが実はじぶんではなく、その奥の入り口に向けてのことだと察してそちらを振り返るリドルだ。

 するとそこには、いつの間にかある人物が立っていたのに目を丸くする。そんな気配はまるで感じられなかったはずなのだが。

 扉の前には華奢でやや小柄な身体つきをしたネコ族の男が立っていた。

 果たして一体、いつからそこにいたのか?

 ネコ族とは言いながら、かなり特徴的な見た目と格好をしているで、それがごく最近にこの船に乗り込んできたアーマー乗りのひとりだとすぐにも理解はするものの、はじめ言葉に詰まる若いクマ族だった。

 小隊のメンバーたちとの今朝方のブリーフィングでの会話にもあった通り、まったく知らないわけではない。

 実際、この彼自身も彼らの乗るアーマーへの興味本位から、このアーマーデッキに足を運んだりしたこともあるのだが、その時はろくに会話するまでもなく、あっさりと追い返されてしまったのだ。

 それだからちょっと気まずいカンジで尻込みしていると、すぐ隣にまでつけるこの部屋の主の女社長のイヌ族が、毅然としたさまで言ってくれる。

「レディの部屋に来たのなら、ノックくらいしてくれるものなんじゃない? いくら見知った仲でもね! あと、その後ろに隠れているヤツも、とっとと姿を現したら?」

 若いのに堂々としたさまにちょっと感心してしまうリドルだが、何食わぬ顔をした当のネコ族は悪びれるでもなく、かすかにこの肩をすくめさせた。

 そうして鋭い目つきをおのれに横に差し向けると、見えない壁の向こうで何かしらの気配が動いて、高いところからのっそりともうひとりの影がこの顔を出てくる。

 異様に大きな身体つきした相棒のゴリラ族のパイロットだった。全身が毛むくじゃらで、筋骨隆々としたマッチョマンだ。

 それがちょっと照れたような顔でこちらに会釈してくる。

 気配を消していたのになんでわかったの?とでも言いたげな顔つきに、イヌ族のサラは冷めた調子で答える。

「イヌ族が鼻が利くのはみんな知ってるでしょう? あんたみたいにでかくて体臭がきついゴリラ族だったらなおさらだわ!」

「えっ、そうなんですか? ぼく、ぜんぜん気がつきませんでした! ベリラさんて、臭うんだ??」

 サラの言葉を真に受けた挙げ句、なんか違う方向でまでビックリするクマ族の青年に、ゴリラがあからさまにげんなりしたさまでガックリとしょげる。

「うほ、おれってそんなに臭うかな……? ちょっとショックなんだけど」

「気にするなだにゃ! オレはおまえがそんなに体臭きついだなんて、思ったことないのだにゃ!」

 目つきの冷めたネコ族がどうでもよさげにあしらうのに、サラがくっくと鼻先で笑う。

「冗談よ。体臭っていうよりは、むしろバナナの匂いよね? いつも食べてるから身体に染みついているんでしょう! ちょっと問題よね。そんなんで隠密行動なんてされても一発で見抜かれちゃうわ、わたしたちみたいなイヌ族なんかにはね!」

「うほ? そうなの? 確かにさっきも食べたばっかりだけど、そんなに臭うかな? でもバナナはいい匂いだから、問題ないよね? エチケット的には?」

 なんか的外れな言い分に、なおさら目つきが冷たくなるネコ族のイッキャだ。

「ダイエットするにゃ! 全身から甘い匂いのするアーマーパイロットなんて、なめられるだけなのだにゃ。オレの評価も下がるのだにゃ!」

「オシャレでいいんじゃない? 汗臭かったりケモノ臭かったりするよりは女子受けぜんぜんマシなはずよ。ていうか、ふたりしてわざわざ何の用なの? ひょっとしてご近所さんだからご挨拶だとか?」

 あまり歓迎しているそぶりがない素っ気ないイヌ族の女子のセリフに、なんかいずらい雰囲気を感じてしまうクマ族のメカニックは愛想笑い浮かべてイッキャに向かう。

 部屋を出て行くにもこのネコ族が邪魔でどうにもならない。

 向かいの部屋のサラの相棒のクマ族は、すっかり影をひそめていた。気がついていないのか、関わる気がないのか?

「おふたりはデッキが艦の後方だから、こちらのエリアにいるんですよね? てか、勝手に荷物を持ち込んで占拠したとかブリッジ・クルーのビグルスさんが怒ってましたけど?」

 控えめなそぶりと目つきでどいてくださいとお願いしたつもりが、相手はまるで気にもせずで入り口前で仁王立ちだ。

 むすりとした顔つきのネコ族は、若いクマ族など眼中にないさまでとなりのイヌ族に向けてものを申す。

「悪いがちょっと話があるのだにゃ。ここではなんだから、下のデッキで話すのだにゃ!」

「ここではできない話なの? ふうん、ま、別に構わないけど、今すぐにってのは急なはなしよね。まあ、あなたたちにはここを紹介してもらった恩義もあるから、聞いてやらないこともないけれど……?」

 いかがわしげな目つきのサラは、横で困ったそぶりのリドルと目が合うと、かすかに細い肩をすくめさせて了解した。

「オッケー! なんかメカニックくんが困ってるから、今からでも聞いてあげるわ。行きましょう。じゃ、メカニックくんはここでさよならね! いろいろ親切にありがとう♡」

 軽くシッポをひとふりしてその場を後にしようとするサラに、これを後ろから見送ることになるリドルは、なぜだかちょっと心配になって、思わず声をかけてしまった。

「あ、あの、じぶんもご一緒させてください! その、イッキャさんやベリラさんのアーマーに興味があるので、ちょっとだけ眺めさせてもらいたいなって……! よろしければ?」

 意外なことを申し出るクマ族のメカニックに、振り返るイヌ族の女社長はちょっと目を丸くして見返すが、相手がことさら真顔なのにクスリと笑ってネコ族とゴリラ族のコンビに申し出る。

「オッケー! わたしは構わないわ。オブザーバーとしての参加を認めてあげるけれど、そっちも問題ないわよね? それとも何か聞かれちゃまずいことでもあるってのかしら?」

「…………」

 するとふたりはしばし微妙な顔つきでお互いに見合うのに、あ、なんかマズイことを話すんだな?と内心で感づくリドルなのだが、顔には出さないで三人の後に続いた。

 向かいの部屋のクマ族の平社員にも声をかけたほうがいいかなとは思ったが、サラがさっさとその場を離れるのにこのふたりの関係性みたいなものもなんか理解したような気がして、黙ってこの後に続くのだった。


               ※次回に続く……!

 



ニッシー、サラ、タルクスに案内されて、食堂の第一小隊メンバーと合流。二人は個人の居室(セル)にリドルの案内で向かう。相部屋だったのに、サラが反発? 

イッキャとベリラに遭遇?

ニッシー(ジンジャ・エル)とイージュンの掛け合い
サラ合流 タルクス合流


 




   22プロット

 今回からさらに戦場派遣会社「ミカン・ペースト」の女社長サラと平社員のニッシーが新たに加わる。←先に入ってきたイッキャの紹介。ニッシーの搭乗するアーマーは、大型機なので、ペアランドのランタンと同じ、大型機用のハンガー・デッキに収まる。出撃時も、通常のカタパルトは使用できないので、ベアランドと同じ強制射出システムを共用。本人はすごくイヤがる。

 ニッシーのパイロットスーツはわけあり。←タルクスがバラす。

 ベアランドは収集したデータをランタンのコクピット内でリドル、ザニー、ダッツと共にミーティングで考察する。

 ミーティング後に、ニッシーとサラが登場。

 ニッシーの大型機は、イージュンが担当することになる。

 ベリラとイッキャは基本は艦の守備部隊として、後方のアッパーデッキを勝手に占有。←リドル

 敵の示威行動… アーマー出撃、カノンとイワックと会敵?

カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 キャラクターデザイン ファンタジーノベル メカニックデザイン ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア○記/Lumania W○× Record #021

 リドルの補給機をタルクスが引き継いで出撃!

※今回から新しく第一小隊のメンバーになった、ブタ族のタルクスくんの乗るアーマーのデザインが決まりました(^^)

 メインキャラなのに見た目が雑なモブキャラだった、メカニックマンの「リドル」くんのデザインを全身刷新しました!!

第二小隊のギガ・アーマー、ビーグルⅥのデザイン完成!

遅ればせながら、イヌ族の若手パイロットキャラ、コルクとケンスの搭乗する新型(?)の戦闘ロボのイメージ決定!ただしこちらは飛行型で、#021以降の陸戦型仕様とはちょっと異なりますw


 #021


  Part1


 超弩級の大型軍用艦の広い艦内に、それはけたたましい音量のサイレンが鳴り響いた……!

 耳をつんざき腹に響くような重厚な音圧は、それが現在、艦内全域が戦闘態勢に突入したことを知らしめるものだ。

 それだから音の大小はあれ、今やブリッジから機関室まで、ところ構わず鳴り響いているのに違いない。

 そしてそれはまたもちろん、このパイロットたちが出撃を待つアーマーデッキにまでガンガンと轟いていた。

「いくら臨戦態勢とは言っても、今回はぼくらアーマー隊の出撃だけで、このトライ・アゲイン自体は動かないんだから、こんなに盛大に鳴らさなくてもいいもんなのにね……!」

 みずからの大型アーマーのコクピットの中にその身をあずける第一小隊の隊長であるクマ族のパイロットが、そんな自嘲気味に言っては周囲のモニターに視線を送る。

 分厚い何重もの装甲に閉ざされたコクピットの内部には本来、外部からの騒音など聞こえないものなのだが、スピーカー越しにははっきりと聞き取れるのだった。

 そのほかの異音も、この耳には届いていたが。

 正面の大型モニターの真ん中のあたりを四角く切り取ったウィンドウの中で、その真ん中に映っていた若いクマ族のチーフメカニックが、こちらもやや苦笑い気味に応じてくれる。

 前面の天井に埋め込まれたスピーカーからそちらの音声が聞こえてくるが、この彼の声以外にも、サイレンやら怒鳴り声やらがやかましくまとわりつくのに、これを聞かされるエースパイロットどのもやや苦笑いだ。

「はい。ですがこの警報はじきに止むものと思われます。とりあえず今回の作戦のメインとなります、第二小隊のアーマーが各機出撃しましたら……!」

 そう言いながら何かしら含むところがあるような表情のチーフメカニックのリドルに、したり顔したニヤニヤが止まらないクマ族の若いパイロット、ベアランドは言ってやる。

「そちらさんは、いざ出撃するにもてんてこまいみたいだね? さっきからそっちでやかましくギャアギャアとわめいているの、イージュンだろ? さては第二小隊の隊長のシーサーと揉めているんだw ま、いつものことだよね?」

 ちょっと困り顔ではぁとうなずくリドルは、みずからの背後、コントロール・ルームの二番滑走路の管制ブースを巨体で占拠してコンソールに食らいついては、今も怒鳴り散らしているベテランのメカニックマンに、ちらりと困った視線を投げかける。

 やがて仕方もなしに真顔で返すのだった。

「……はい。じぶんはこちらの管制に専念します! はじめの予定の通り、そちらのセンターデッキからベアランド少尉どのが出撃、その後に一番滑走路から今回はタルクス准尉どのが、じぶんのビーグルⅣでの出撃となります! それではどちらも準備よろしいでしょうか?」

「もちろん! てか、今回は、じゃなくてこれからずっとだろ? リドルのビーグルは戦場での補給担当としてこれをタルクスがまんま引き継いだんだから。ちゃんと引き継ぎはふたりで済ませたんだよね?」

 ただちにはい!とうなずくリドルの声に、右手のスピーカーからは新しく小隊に編入された、こちらはブタ族の若いパイロットの声が重なる。

「こっちも準備OKなんだぶう! いつでもオーライなんだぶう!! ちなみにこれがオレの初陣なんだぶうっ!!」

 とっても陽気で元気一杯の返事に、対してこちらはちょっと意外げに聞き返すベアランドだ。

「へえ、初陣って、戦場にアーマーで繰り出すのはこれが初めてなのかい? 大丈夫かな……リドル、ちゃんとレクチャーは済ませてあるんだよね、その機体、とにかくいじくり回して機体制御がめんどくさくなってるんだろ? いかに補給機とは言え!」

 正面のモニターに問いかけるのに、かしこまった若いメカニックマンはやや戸惑いながらの返答だ。

「は、はい! ひととおりは……ですが自分は本来のパイロットではありませんので、補給機としての機動所作だけであります。だからそれ以上のことは……」

「それで十分だよ。あとはタルクスがどうかにしてくれるだろ? 仮にもこのアストリオンの正規兵のパイロットなんだから」

「もちろんなんだぶー! バッチコイなんだぶうっ!!」

 ちょっとおっちょこちょいな感じのノリの返事に、右手のモニターに映ったブタ族くんをちらりと見てしまう隊長さんだ。

 モニターに映ったその顔を見るには、初陣とは言いながらどこにも余計な力が入っていない慣れたそぶりで余裕綽々の表情のブタだ。ちょっとだけ肩をすくめて小声で独り言を漏らす。

「ま、基本は補給活動だもんね。そっち向きの訓練はきっちり受けてるわけで、無茶するわけじゃないから。あれ、本来のタルクスのアーマーって、いつ頃届くのかな? あと他にも援軍が来るってはなしだったけど……」

 ちょっと考え込んでいたら、サイレンや怒号の中に混じって、何やら気の抜けたようなおじさんの声までも入って来た。

 正面のスピーカーからだ。

 四角いウィンドウの真ん中に腰を据えるリドルの両脇に、いつからか半分だけ見切れたふたりぶんのパイロットスーツ姿があって、おそらくはこの白地に赤のラインの入ったクマ族のベテランパイロットのなまり混じりのセリフであった。

「隊長、今回はぼくらはお留守番でええんですかあ? なんやヒマで死にそうなんですけどぉ……」

 そんなどこかおとぼけたザニー中尉の言葉に、半ば呆れ顔で返す隊長の少尉どのだ。

「死ぬことはないだろう? せっかくなんだから楽しんでおきなよ。あいにくで遊べるようなレジャーはないけど」

 適当にうっちゃってやったセリフに、もう片方の白地に青のラインが入ったパイロットスーツ姿が、ダッツ中尉が答える。

 やっぱり独特ななまり混じりでだ。

「はいはーい、ほなら、ヒマつぶしにおれらでぶうちゃんの監督をやっときますよって、隊長はこころおきなくじぶんのお仕事に専念しはってください! ひゃは、なんやごっつおもろいことになりそうやんけ、ぶうちゃん、ビシバシいくでえ!!」

「あ、それじゃよろしく頼むよ。そのタルクスは主にふたりの補給役になるんだものね! とりあえず第二小隊が出てから出たいんだけど、まだかかるのかな? えらい手こずってる??」

 ちょっと不審げに聞くベアランドに、正面で問われた若いクマ族は苦笑いでまたちらりとだけこの背後に視線を向ける。

 結果、何を言うでもなく肩をすくめさせるのに、それと了解する隊長だ。

 代わりにまたこの場で気になっていたことを聞いてやった。

「ああ、そう言えば、シーサーたちとは別働隊で出撃することになってた、あのゴリラくんとネコちゃんのコンビはどうしているのかな? ひょっとしてもう出撃していたりするのかい、あのどっちも正体不明の謎のアーマーで? こっちのシーサーたちがもたもたしているあいだにさっさとさ?」

 これにまたしても困惑顔する若いメカニックマンは、本来のアーマー部隊を統括指揮するクマ族の隊長を前にやや言いづらそうに言ってくれた。

 ちょっと目をまん丸くして聞くベアランドだ。

「ああ、はい。そちらのおふたりでしたら、もう既に甲板後部のリフターデッキを使用して艦外に出られております! 加えておふたりいわく、第二小隊とは連携を取らない完全に独立した部隊として行動するとのことで、こちらからの管制もあまり聞き入れてはもらえませんでした……!」

「あ、そ、みんな勝手だなあ! あれ、でも艦の守備隊や飛行部隊が使うようなあの射出型のリフターじゃ、せいぜいこの甲板の上の屋根に登るってだけのことじゃないのかな? どうやってそこから目的地に向かうんだい??」

「はい。もともとどちらも本艦デッキのカタパルトを使用できるような機体ではありませんので、本来なら緊急発着用のアンダーデッキから地上に降りるのが相当なのでしょうが、なんでもその、ショートカットをするとのことでして……」

 自分で言いながらもなおさら困惑顔するリドルに、なおさらきょとんとした顔で聞き返すベアランドだ。

「ショートカット? え、何を言っているんだい??」

 心底不可解げな隊長に、ひたすら困惑するばかりのメカニックだが、この横からベテランのパイロットが助け船を出す。

「ほえ、ほれ、小僧くん、説明するのはしんどいから、むしろ見てもろうたほうが早いんちゃう?? それしかないやろ、今ちょうど、その最中なんやし……!」

 ザニーにそう促されて、仕方も無しに手元のコンソールを操作する若いクマ族だ。微妙な顔つきで言いながら、四角くくりぬかれたウィンドウの画像が、がらりと別のものに切り替わる。

「そちらは本艦ブリッジからの映像になります……! ええ、見ての通りで、二機のアーマー、艦の甲板の屋根から崖に飛びついて、そちらからさらにこの西側の断崖と山を超えてゆくものだと思われます。むちゃくちゃですね……」

「あらら、素直に地面のルートを伝っていくんじゃなくて、山越えで文字通りのショートカットをしようってのかい? あんな切り立った断崖、アーマーで越えるのはムリってものだけど、実はその先にいい抜け道があったりするのかな? 山岳や丘陵地帯を大回りしないで平野まで突っ切れるのならば、それは確かに近道ではあるのだけど……?」

「じぶんにはわかりかねます……」

 若いメカニックが困惑して返すさなかにも、二対の戦闘ロボは器用に断崖を登って、その先の林の中へと姿をくらましてゆく。 

 この一部始終をのんびり眺めながら、とりあえずで了解するベアランドだ。

「ブリッジの艦長はどんな顔してこの映像を見ているのかね? まあいいや、現場で合流すればいいことだし、上空から見ていればちゃんとモニターできるよね! 今回はこのふたりのお目付役で、この実力のほどをそれとはかるのがぼくらの役目だし。リドルもこちらからの映像を見て確かめておいておくれよ? あとついでに、ザニーとダッツも!」

「了解!」

 正面の映像がふたたび切り替わって、元に戻ったコントロールルームの中でピシリと敬礼するメカニックマンだ。

 なんならあのイヌ族の博士さんにも見てもらいたいくらいだが、あいにくと当人はみずからの研究室にこもっているらしい。

 さてはじぶんの研究対象以外にはまったく興味はないらしく。

 そうこうしているうちに、あんなにかまびすしく鳴り響いていた警報が、今やぱったりと途絶えていた。

 どうやら第二小隊のオオカミとイヌ族コンビがようやく出撃を済ませたものらしい。

 お次はじぶんの番だと了解するクマ族の隊長は周りのモニターから余計な情報を削除して、前面のメインモニター一杯に大写しで映っていた正面のアーマー射出口が開いていくのを視認する。

 先に見えるのは乾燥地帯の枯れ果てた大地と、青い空だ。

 空飛ぶ軍艦は今は陸地に停泊しているから、いつもと比べたらずっと低い位置からの出撃となった。

 画面から消え失せて、今や声だけとなったメカニックが天井のスピーカーからはきはきと指示を飛ばしてくる。

「それでは今回はミッションの性質上、少尉どのはアーマーの強制射出システムを使用しないでの、自力での発進となります! ゲート、フルオープン確認、アーマーの各部ロック解除、各種システム、機体ともにオールグリーン、いつでもどうぞ!!」

「了解!」

 コンソール手前で赤く灯っていたパイロットランプが、管制からのゴーサインと同時に緑色に切り替わる。

 こちらもきっぱり応じてから、みずからの握る操縦桿を手元に引き寄せるクマ族の隊長だ。

 それまで機体を固定されていたデッキからその巨体を持ち上げるアーマーが、そのまま微速前進、ゆっくりと正面口からこの外部へとせり出してゆく。

 完全に艦の外へと離脱してから、特殊な飛行システムを搭載した大型の機体がさらにゆっくりと大空をめざして上昇してゆく。

 一番最後に戦場に駆けつけるくらいでいい今回のような作戦なら、このくらいゆっくりとした立ち上がりでも問題はなかった。

 背後から後続のブタ族くんの機体も無事に発艦したのを見届けて、目的のポイントへと向けて機体を回頭、そこまでまっすぐに突っ切るコースでアーマーを前進させるベアランドだった。

 はるか足下に見える地面の荒野では、先行したウルフハウンドたちの第二小隊が丘陵地帯から早くも平野へと突入するのを確認もする。はじめのもたつきを完全に挽回する急ピッチだ。

 何かと性急で強引なオオカミ族の隊長どのに、あの気弱な若いイヌ族くんたちが泣かされていなければいいなとやや苦笑いで思いながら、それ以外の周囲に視線を向ける。

 肝心のふたりの傭兵部隊の姿を見失っていたが、それもこの先で見つけられるだろうと、意識をはるか平野の先でポツポツと見渡せる街らしきに向けた。

 中でもこの一番手前に見えるものが、今回の作戦域となる予定のポイントであった。

 通称・ポイントX……!

 戦場まではそう遠くはない。


  Part2


 時刻はおよそ正午過ぎ。

 コクピット前面の視界モニター一杯に雲一つとなく晴れ渡った青空が広がる。

 空高くから広く平野を見渡せる高度にまで機体を上昇させて、この眼下に広がる乾ききった茶色一色の砂漠地帯の景色を眺めるクマ族のパイロットだ。
 
 母艦の周囲を取り巻いていた切り立った山岳や丘陵地帯から抜け出して、今は緑のまばらな荒野に一本だけ長く走る灰色の直線、あまり整備の行き届いていない国道らしきを注目――。

 やがてそこにふたつばかりの違和感を見つけることとなる。

 広角のロングで捉えた画像の中ではただの小さな黒い点であったものだが、これをいざ望遠でズームアップすると、例のあの黒い不格好な二体のアーマーであることがはっきりとわかる。

 道なりに荒野を西へとひた走る二機のアーマーの後ろ姿をしげしげと眺めながら、ちょっと感心した口ぶりの隊長さんだ。

「あらら、もうあんなところにいるよ、あのおふたりさん! 本当に基地の周りの山岳地帯をまっすぐ突っ切って平野に出てきたんだ。まいったね……!」

 誰にともなし言ってやったセリフに、右手のスピーカーからただちに明るい返事が返ってくる。

「おれたちみたいな空を飛べる飛行型ユニットでもないのに山越えだなんてすごいんだぶう!  おまけに今は陸地をすごいスピードで走っているんだぶう!!」

 後続の僚機から発信されるごくごくのんきで陽気なブタ族の返答に、こちらもしごく素直にうなずくベアランドだ。

「ほんどだな。あんな見るからに特徴的なスタイルのアーマーで長い距離を移動できるのか不思議でならなかったんだけど、ちゃんとどっちも脚部に高速機動用のモジュールが仕込んであったんだ? でも見たところはやりのホバーなんかじゃなくて、いわゆる単純な車輪(ホイール)式の走行タイプみたいだね?」

 正面モニターの画像からそうじぶんなりに推測してやるに、すると今度はこの背後につけた機体よりか、ずっと後方に控えている母艦のデッキから返事が返ってきた。

 チーフメカニックの若いクマ族、リドルのものだ。

 こちらでモニターしている画像やデータをまんまあちらでも共有しているので、同時におなじものを見ながらそれぞれに考察や解析ができるのだった。一緒にいるはずの居残り組のダッツやザニーはだんまりだったが、ひょっとしたら別の管制ブースで後ろのタルクスに絡んでいるのかもしれない。

「はい。じぶんにもそのように思われます! ですがその場合、タイヤの構成素材がなんであるのかが気になりますが? とりあえず舗装路だから可能なことなのかもしれません……!」

「つまりはあくまで市街地用の装備ってことか……う~ん、さすがにそこまではここからじゃ見分けがつかないな? あんまり近づいたら気になるだろうし、敵に居場所を教えちゃうようなものだからね? 実際に戦闘に入らなければ、おちおち近づいてモニターもできないよ。でもネコちゃんの機体はスムーズに走ってるけど、でっかいゴリラくんの機体は、なんか大変そうだな? ずっと上体よれながら必死に食らいついているような??」

 ちょっと首を傾げながらの感想に、するとまたよそからこちらはおじさんの声で補足が入る。

 あの二体の謎のアーマーに興味があるのは彼らだけではなかったようで、みずからが担当する第二小隊の出撃を無事に見送って、今やすっかり手ぶらになった中年クマ族のチーフ・メカニックマンだ。

 それが何やら少し冷めた調子で言ってくれる。

「走行用の内部機構(モジュール)とは言っても、おかざりみたいなもんだろう。おれが見たところじゃ、どっちもガチガチの格闘戦を主眼に置いた機体だ。よってちゃちなお飾り程度のカッチカチのタイヤがせり出してるくらいなもんだな! 乗り心地は最悪だろうよ? 酔い止めは飲んでるのかね?」

 冷めた視線でかなりの皮肉交じりの文句に、あいまいにうなずいて了解するベアランドだ。無言でも苦笑しているのが気配でわかる若手のメカニックも、おおよそで同意見なのだろう。

「まあ、なんでも機能を詰め込むのは限界があるからね? ムリでもなんでもあのくらいのスピードで長いこと航行ができるのなら、及第点なんじゃないのかな。今のところは?」

 そうしたり顔して言ってやるのに、左のスピーカーからはやはり皮肉めいたおじさんのだみ声である。

「ああ。ただしメカニックの立場からしたら、あまりおすすめできたもんじゃありゃしないな。特にあのでかいゴリラくんの機体、あんなの無理矢理すぎて居住性が最悪だろ! およそタイヤの大きさが釣り合ってないんだよ、ケツが痛くて仕方ない」

「あはは……!」

 反対側のスピーカーからリドルのお追従笑いみたいなものが聞こえるが、たぶんその通りなのだろう。

 内心で思わず、お気の毒さま……!とそのモニターの中の二機のアーマーの後ろ姿を眺めるクマ族だった。

 一方、その当のふたりのアーマー乗りたちといえば――。


 激しく小刻みに揺れるアーマーのコクピット内で、大きな身体を前のめりの姿勢で正面のモニターに食らいつくゴリラ族のパイロットだ。

 太い手足をシートやペダル周りに踏ん張らせて、身体の姿勢を保ちながら、ひたすらに目の前のモニターをガン見していた。

 地図の上では主要な国道ルートとは言っても、実際はおよそでこぼこで道としての役目を果たしてもいない道なき道だ。

 あいにく荒れ地を走るようには作られていないみずからのアーマーのちゃちな三輪型車輪機構では、ちょっと油断したらすぐにでもバランスを崩して転倒しかねない……!

 額にイヤな汗を浮かべながら、必死に前を走る相棒のアーマーの後ろ姿を追いかけるが、ちょっと弱音を吐きそうだった。

 だがそんなもの言ったところで、前の機体は振り向きもせずにさっさと行ってしまうのだろう。

 長年の付き合いで、相手の性格は熟知していた。

 ちょっとそっちに気を取られていたら、ガクンと大きく機体が揺れて、ただでさえ前のめりだった頭が思わず正面のモニターに突撃しそうになる。さてはくたびれてひからびた舗装路に大きめの亀裂(クラック)が走っていたのだろう。

 思わず舌打ちして、ちょっと距離の空いた相棒の背中に向けて文句をたれていた。

「うわっと! なんだよ……うほ、あのさぁ、イッキャ、道にクラック走ってるんなら、教えてくんない? こっちはただでさえこんなバランス悪いのにムリしてるんだから、転倒しちゃうじゃないか。この速度だったら最悪、大破とかもありえるよ?」

 なるべく内心のイライラを声に出さないようにお願いしたはずなのだが、前の機体からはかすかな舌打ちめいたものがして、その後につっけんどな返答が返ってきた。

 おもわず眉間にシワが寄って、げんなりするゴリラだ。

「それはおまえが間抜けなだけなんだにゃ! 四の五の言わずにさっさとついてくるにゃ! 気付いていると思うが、背後で上からあのクマの隊長が見ているにゃ! 間抜けなさまは見せられない。できたらもっとスピードをあげて、あいつらを巻いてやりたいくらいなんだにゃ!!」

「それじゃこっちが置いていかれちゃうよ! まったく、山を越えたらショートカットだとか言っておいて、目的地まではさして変わらないじゃないか? ぶっちゃけあのオオカミさんの部隊のほうが早く着いているかもよ?」

「それはむしろこちらの思惑どおりなんだにゃ!」

 ちっとも悪びれるでもないネコ族の返事に、ちょっと怪訝に口をとがらせて聞き返すゴリラ族のベリラだ。

「え? なんで??」

 ふたりきりの部隊の中ではリーダー格となる小柄なネコ族、イッキャはニヤリとしてみずからのコクピットの前面モニターの中で太い首を傾げるゴリラ、もといベリラに返した。

「まずはじめはあのオオカミとイヌ族のコンビたちに戦わせておいて、敵の意識がそちらに向いている隙に、おれたちはこの背後から忍び寄って奇襲攻撃をかけるにゃ! まんまと挟み撃ちにしてやるのだにゃw 慌てたやつらは総崩れになるのにちがいがないのだにゃ! 楽勝なのだにゃ!」

「はあ~……! 相変わらずそういう悪知恵が働くよね? まともにやってもおれたちならそう苦労はしないはずなのに、あの上で見張っているクマの隊長さんはどう思うのかな? もはやコソコソしながらなのは性分なのかな、このおれたちの……!」

 何やら自嘲気味な相棒のセリフに、まるで気にするでもないネコ族はしれっとした口ぶりで言ってくれた。

「要は勝てばいいのだにゃ! 相手は手負いの敗残兵なのだから、オオカミたちが正面で戦っている間に、裏からさっさとケリをつけてやるにゃ! このおれとおまえのアーマーの力を持ってすれば、簡単なのだにゃ!」

「だったらこんなこそ泥みたいなやり口でなくてもいいんじゃない? 前の陸軍基地を襲った時もそうだったけど、いちいちめんどくさいんだよなあ、イッキャのやってることって……!」

 思わず思ったまんまを口にしたら、不意に前を走るアーマーがさらにスピードを上げはじめた。おまけに捨て台詞みたいな言葉を発して、通信を閉ざすリーダーのネコ族だ。

「おまえが何も考えないから、このおれが作戦を立てているのだにゃ! 文句は一切、受け付けないのだにゃ、おまえは黙ってこのおれについてくればいいのだにゃ!」

「あ、ちょっと、待ってって! そんなに急いだらせっかくのズボラ奇襲大作戦がうまくいかないんじゃない? てか、あの上で見ているクマさんたちのアーマーが目立って、はなっからそんなの成立してないような……? あ、だから待ってってば! 置いてかないでよ、イッキャ!!」

 荒野をひたすらに走る二機のアーマーは、そのはるか先に目的地となる街、通称ポイントXがあるのをこの機体の頭部のカメラの視界に捉えつつあった。


 Part3

 今回のアーマー部隊出撃の目的、その目標は、近隣のオアシス都市に反政府ゲリラのアーマーが複数出現したことにより、この討伐と街からの撃退を要請されたことによるものだった。

 この中央大陸「アストリオン」の友邦国の軍艦として今はこの大陸連邦の領空領土に無条件でお邪魔させてもらっている都合、無下にはできないとのンクス艦長の判断であった。

 ちなみにもっと厳密に言うのであれば、ゲリラのアーマーとはそもそもは彼らが占領しようとしていた、今は完全に廃墟と化している元陸軍基地の守備隊たちであり、その敗残兵が野党と化して近隣の街の脅威となっていると言うのがより正確なところだ。

 ただしこの基地の占領(破壊?)に関してはもろもろ他の要素も強く関わっているのだが、傍から見れば彼ら、ベアランドたちの行いによるものと思われるのは致し方がないところではある。

 それによる後始末という側面も強くあったが、そのあたりについては今さら言っても仕方が無いし、その当事者と思われるアーマー乗りたちも、今回の作戦にはしっかりと参加しているのだから、どうこう言うつもりはないクマ族の隊長だった。

 それはある意味、本人がきちんと責任をもってその責務を果たすということでもあっただろう。


 ひたすらに続く悪路の果てがついに見えてきた……!

 母艦のトライ・アゲインを飛び出してからこれまでずっと代わり映えしない、干からびた乾燥地帯をひた走ってきた機体のメインモニターが、その中に不意に四角いアラートゾーンを現出!

 自機が目標地点に近づいたことをパイロットに警告する。

 それをチラとだけ一瞥して、コクピットの中で軽快なランニングのステップを踏むオオカミ族の小隊長どのは、ペロリと舌なめずりして鼻息をフンとだけ鳴らす。

 ちょうどウォーミングアップは済んだところであった。

 通常のアーマーのコクピットは真ん中に操縦席があって、そこにパイロットは着座するものなのだが、彼のそれはかなり独特な仕様で、シートから立ち上がった状態でのランニングスタイルの機体操作が可能なものとなっていた。

 それは身体がでかくて鈍重なクマ族などにはおよそ考えられないものだ。

 直感と瞬発力重視のセンスが何より求められる機体の操縦機構は、目下、この彼だけのものである。

 目標が目前に迫ろうともみずからの走りのペースを緩めないオオカミ族の隊長、ウルフハウンドは、後続の二機の僚機、若いイヌ族の隊員たちへと向けて、戦場に到達したことを教えてやる。

「おい、ワンちゃんども、準備は出来ているな? 目標の敵アーマーは街中の至る所に潜んでいると思われるが、構うことはありゃしねえ、見つけ次第にこれを各個に撃破だ! 数は不明だが、中古のビーグルⅤごときはオレらの敵じゃねえ、間違っても反撃なんざくらうんじゃねえぞ? あと今回はよそ者の部隊も参加しちゃいるが、そんなヤツらに遅れを取ることは許されねえ。どっちもしっかりと星を稼げよっ!」

 半ば吐き捨てるように言うことだけ言って、それきり目の前のモニターに映る景色に意識を集中するオオカミだ。

 すると天井のスピーカーからは、ちょっとの間を置いて、かなり困惑したふうな部下の声が響いてきた。

 はじめのひどく動揺した息づかいとその次にやけにおどおどとしたものの言いようが、それだけで全身毛むくじゃらで臆病者のコルクのものだとわかる。

 内心イラッとはするものの、へんにどやしても返ってパニックするだけだろうから、黙って聞き流してやった。

「……えっ、あの、その、ええっと……しょ、少尉どの、それだけでありましょうか? なにか、その、作戦は……?」

 モニターにその表情を映さなくても臆病風に吹かれているのがわかる新米のパイロットに、やはり内心で舌打ちしながら、ぶっきらぼうに返してやる。

「そんなものは必要ありゃしねえだろうが? ただ街の中をしらみつぶしに探索して、敵を見つけたらただちにこれを撃破する! ただそれだけだ。十分だろう?」

「えっと、その、あの、だって、あの……」

 まったく要領を得ないイヌ族の代わりに、これの同僚でこちらはやけにさっぱりとした見てくれの細身のイヌ族のケンスが通信を開いた。普段からの落ち着いた若者は、はっきりとした言葉付きで相棒の言わんとしていたことを端的に申してくれる。

「ウルフハウンド少尉どの! それではこのじぶんたちは、隊長どのを背後からサポートする役割でよろしいのでしょうか?」

 性格が何かととっちらかった毛むくじゃらと比べたらずっと律儀でまともな部下の質問に、だがぞんざいに答えてやる上官だ。

「そんなわけがあるか! おまえらみたいなひよっこにサポートとしてもらうなんざ、どんなシチュエーションなんだ? このオレの足を引っ張らないこと。各自に判断して状況を乗り切ることがおまえらの役目だ! ごたくはいいからとっととやれ!」

「あ、隊長! 行っちゃった……!! いやでも、そんなこといきなり言われたって、おれ、どうしたらいいかわからないよ……」

 目標地点の街、ポイントXに到達するやいなや強引に正面突破をはかるウルフハウンドの銀色の機体は、それきり砂煙と共に街中へと消えて行った。

 後には新米の若手パイロットの新型アーマーが二機とも虚しく取り残される。途方にくれるコルクだったが、どうしたものかと正面モニターの右上に映る、同僚のイヌ族に目線をやった。

 モニター越しにこの目が合うケンスは、ちょっと肩をすくめ加減にして、半ば呆れたような調子で言ってくれた。

「あっと言う間にいっちまったな? 高速機動用のホバージェットもなしに二本の脚で! アーマーをあんな風に走らせることができるヤツなんて、オレはお前以外に見たことがないよ! てか、あれってぶっちゃけお前よりも速いんじゃないのか?」

 皮肉か冗談まじりみたいなセリフに、顔色がいまいち冴えない毛むくじゃらのイヌ族は、うわずった声で応じる。

「ああっ、おれも敵わないと思う……! でも正直、うらやましい。おれもあんな風にアーマーを走らせたい。このホバー、直線的な動きしかできないし、飛んだり跳ねたりしてタマをかわしたりできないんだもの!!」

「それが普通なんだよ! ドタバタ動いたりするのが苦手なアーマーが速く走るためにあるんだから。そもそも飛行型のオレたちのアーマーじゃ、走るどころか歩くのだって一苦労じゃないか」 

 もっともらしい同僚のセリフに、ため息まじりの毛むくじゃらは心底、心もとなげに弱音を吐く。

「これからどうすればいいんだろう……! ウルフハウンド少尉どのとははぐれちゃったし、おれ、自信がないよ。なんで飛行部隊のおれたちが、こんなおかしな陸戦仕様のアーマーで、こんな街中で戦わなくちゃならないんだろ?」

「しっ! 隊長どのに聞かれてるかも知れないぜ? あと他にもベアランド少尉どのたちも上で見張ってるんだろ? こんなサマ見られたら、後で何て言って笑われるか。とにかくオレたちも戦いに参加しよう、オレが先行するから、おまえは後からバックアップをすればいいさ!」

「い、いや! おれが先に行くよ。後ろが誰もいないとコワイから! ケンスが見張っててよ、ふたりで強力して乗り切ろう!」

「ははっ、おまえほんとに面白いよな! 了解!」

 隊長どのの突入から遅れておよそ2分半後、部下たちのアーマーも散発的な発砲音が鳴り響く乾いた戦場に突入していった。

 
  Part4


 中央大陸の南西部に位置し、アストリオンの現政権中央府とこれに反抗する西岸域一帯の新興都市国家群がにらみ合う緩衝地帯となる地域で、その中でも最大の規模を誇る商業都市が今回の戦場となっていた。

 この大陸出身のブタ族のタルクスから言わせると、アルベラと呼ばれるらしいが、基本よそ者ばかりで地元の地理に長けていない隊員たちからは、便宜上、ポイントXと呼ばれていた。

 街を東西に分ける大通りが南北に長く走り、中央の広場から蜘蛛の巣状に細い路地が走る田舎にありがちなレトロな街並みの中は、突然の野党のアーマーの襲撃にあって、今はどこも人気なく静まり返っていた。

 避難命令が出されているのか戒厳令が敷かれてるのか知らないが、アーマー同士の戦いをする身からすればありがたいことだ。

 およそ人的な被害を出さずに済むあたり。

 物的損害に関しては、無論、出さないように努めるものだが、相手はそうも言ってはくれないのだから、もはや多少の被害は止む無しと諦めてもらうしかない。

 そうすっかりとたかをくくった隊長のオオカミ族、ウルフハウンドはぬかりなく周囲のモニターを睨みながら、スピーカー越しに聞こえる外部からの音にも左右の耳をそばだてる。

 広くて見晴らしのいい大通りには人影どころかアーマーのそれもなくてて、敵はこぞって建物の裏手の影に潜んでいるのがはじめの予測のとおりだった。

 それこそ街中をしらみつぶしに探し出して敵を撃破すると言ったとおりの展開である。

 古い建物に周囲を囲まれた路地裏で、アーマーが一機通るのがせいぜいのところをさしたる足音も立てずにみずからの機体を進ませるウルフハウンドは、この目前、T字路の先に大きな影が揺らぐのを素早く察知する。

 現状、敵は攻める気がまるでなく、逃げに走ってばかりで完全に一方的な追いかけっこになっていた。

 ゆっくりとした抜き足差し足の動作から一気に素早い突撃のモーションに移って、角の突き当たりに飛び出すとほぼ同時に左に機体を回頭させる。

 モニターには慌ててそこから逃げようとする、それは良く見知ったはずアーマーの背中が大写しで映し出されるが、迷うことなくその背中めがけてハンドカノンを斉射していた。

 前のめりにつんのめった敵機が道の真ん中で見事に爆発炎上、この原型もわからないくらいに大破する。

 機体の戦況解析コンピュータが状況から敵機撃破を解析判定するまでもなく、またひとつ星を上げたことを確信する隊長は、ぬかりなく周りを見回しながら軽くガッツポーズを取る。

 調子は上々だ。

「よっしゃ! これで三機目!! ロートルの機体が相手とは言え、まるで歯ごたえがありゃしねえな? よりにもよって友軍のはずのビーグルⅤとは、全部で何機いやがるんだ? おっと、いつものクセで突っ走り気味か。味方のワンちゃんたちは……!」

 手前のモニターの状況表示一覧を一瞥するなり、難しい顔で愚痴をこぼす小隊長どのだ。

「なんだあいつら、どっちもまだ星がついてねえじゃねえか? 仮にも新型の機体で情けがねえ! ん、星がついたか? いや、こいつは……! 傭兵どものうさんくさいアーマーか。どうやらオレたちとは逆の街の北側から入ってきたみたいだが……!」

 ますます険しい顔つきでモニターを睨みつけるウルフハウンドだが、そこによそからの通信を知らせる、短いアラームが鳴る。  

 頭上から聞こえてきたどこか脳天気な声に、どことなしに天井に視線を上向けるオオカミ族だ。

「シーサー、聞こえるかい? ずいぶんと派手にやってるみたいだけど、ちょっとだけいいかな。おりいってお願いがあるんだけど……!」

「あん、なんだよ、大将? 今忙しいんだから、後にしてくれ! こっちは戦いの真っ最中なんだ。のんきに世間話なんかしてるヒマはねえぜっ……」

 露骨にイヤそうな顔で返してやるのに、相手の第一小隊のクマ族の隊長さんときたらば、まるで臆面も無く話を続ける。

「いや、そっちのコルクとケンスのことなんだけど、今は分かれているんだろ。別行動なんだ? それでなんだけど……」

 相手の隊長がしつこく続けようとするのをただちに阻止する気が短いオオカミは、反射的に声を荒げていた。

「悪いがガキのおもりなんかする気はねえよ。足を引っ張られるのもゴメンだ! オレは一匹狼な性分なんだよ。甘ったれたワンちゃんどもなんか引き連れていたくはねえっ」

「ひどいな! そんなに見所なくもないだろう、ふたりとも? いやそうじゃなくて、今回はあのふたりには引っ込んでてもらおうと思ってさ! なんせ状況が状況だから?」

「?」

 意外なことを言い出すクマ族に、灰色オオカミはいぶかしくモニターに映ってもいない相手をじっとにらみ付ける。

 そんな相手の剣幕を雰囲気から感じているのか、ちょっと困ったふうなクマの隊長は苦笑い気味のセリフを続ける。

「今、シーサーたちが戦っているビーグルⅤって、機体のカラーリングがぼくらが見慣れたナショナルカラーのグリーンじゃなくて、茶色、ブラウン主体じゃないか? タルクスに聞いたら、ルマニアから輸入したあれって、いわゆる砂漠仕様であんなカラーリングらしいんだけど、今のコルクやケンスのビーグルⅥのそれとまんまかぶってるじゃないか? 見てわかるとおり?」

「……だからなんだよ?」

 怪訝に聞くオオカミに、心配性なクマはどこかいいずらそうにまた続けた。

「ひょっとしたら、同士討ちとかになっちゃわないかと? 特にコルクがパニックしたりして。とにかくふたりには一度引っ込んでもらって、なんならシーサーにも引っ込んでもらいたいんだよね?」

「は? 何を言っているんだよ??」

 ちょっと険悪に聞き返すのに、まるでてらいもなくみずからの都合をぶっちゃけてくれるそれはのんきなクマのリーダーだ。

「今回の作戦の目的は、確かに民間に紛れ込んだ残党のアーマーの撃退だけど、裏テーマとしては、あのネコちゃんとゴリラくんの腕試しってのもあるじゃないか?」

「そんなのこのオレの知ったことじゃありゃしねえよ! あんな得体の知れねえヤツらに任せてたら被害が拡大するだけじゃねえのか? 好き勝手に暴れ回って結果、街が半壊だなんてことになっても責任が取れねえだろうっ」

 いっそ吐き捨ててやるのに、しかしながら天井のスピーカーからはしごく落ち着いた返事が返ってきた。

「……そうは言うけど、シーサー、今、ビーグルⅤを派手に大破させたよね? 街中で大爆発させるみたいな?」

 手痛い指摘にぐっと言葉に詰まるウルフハウンドは、苦々しい顔でこの天井のどこともしれない空をにらみ付ける。

「良く見ていやがるな? いやらしいったらありゃしねえ! そこまで派手じゃなかっただろう? 建物はどこもまだ半壊なんかしちゃいねえぜっ」

「その前の二機も、思いっきり大破させてたじゃないか? もう十分だよ。今回はこの場をあのおふたりさんにゆずって、後は三人で残党のアーマーが逃げられないように包囲網を作っておいてくれないかな。コルクとケンスにはこちらから言っておくから! それじゃ、そういうことでよろしくね♡」

「あっ、何を勝手なこと……切りやがった! たく、しょうがねえな……」

 好き勝手なことを言ってそれきり通信を閉ざす同僚のクマ族だ。これに不満顔で天井を見上げるオオカミ族だが、舌打ちして機体を反転、来た道をゆっくりと引き返していくのだった。


 Part5

 ※主役の乗るメカをリテイクすることになりました!
  理由はブサイクすぎるから(^^;)

 補給機のタルクスを伴ってみずからが街の上空に到達したときには、すでに戦況は刻々と変化していた。

 こちらにおおむね有利に事態が進んでいるのはほぼ想定していた通りだが、街に入るなりに肝心の黒いアーマーを二機とも見失ってしまったのには、内心で少なからず焦るベアランドだ。

 大通りからゴミゴミとした路地裏に入り込まれては、真っ黒い機体は保護色も同然でほとんど見分けが付かない。

 どうにかすべくうんぬんかんぬん頭をひねって、どうにか第二小隊のオオカミ族の了解を取り付けるまでこぎ着けた。

 クマ族の隊長はしたり顔してみずからのアーマーのモニター越しに見下ろした街の様子と、この手元の戦況表示ディスプレイをしげしげと見比べる。

「ああ、早々とシーサーが三機も撃墜しちゃったけど、これでいいんだよね。コルクとケンスは今回は残念だったけど! おかげで肝心のあのコンビさんたちに集中できるよ。なんか気が付いたらもう一機、撃破しちゃってるし?」

 おおよそで十機はいるものと思われた敵の数は、これでほぼ半減したことになる。ネコ族とゴリラ族のアーマーコンビは、第二小隊のウルフハウンドたちとは打って変わって、こちらはとてもしっかりとした連携プレイで敵を追い詰めているようだ。

 ギリギリまで機体の高度を下げてこの様子をうかがうベアランドに、このすぐ後方に控えた補給機のパイロット、ブタ族のタルクスが明るい声音で通信を開いてきた。

「こんなに近づいているのに気付かれていないなんてすごいんだぶう! あの勘の鋭そうなオオカミの隊長さんも気がついていなかったんだぶう! すごいステルス性能なんだぶー!!」

「あ、でも限界はあるよ? 通常の戦闘中なら難しいんじゃ無いかな? 今回みたいに戦わないで傍観しているだけなら、エネルギーのロスを心配しないでフィールド・ジェネレーターをフル稼働できるから、結果としての副産物だよね、これって」

「機体の周囲に張り巡らせたフィールドバリアでステルスまで生み出すだなんて、でかい戦艦のエンジンでも難しいんだぶう? アーマー単体でこれができるだなんて、そんなのうちのボスのイン様のゲシュタルトンくらいしか思いつかないんだぶう! あ、今のはただのひとりごとなんだぶう!」

 ちょっと慌ててすっとぼけるブタ族の若手パイロットに、クマのエースパイロットは苦笑いして受け答えた。

「とにかくなりをひそめていないとバレちゃうから、しっかりこのランタンの後ろに隠れていてくれよ? みんな市街地戦に夢中で空なんか見上げる余裕なんてないから気付かれないのもあるわけだし。あとそっちの国家元首さまが秘密裏に開発してるって言う決戦兵器みたいな大型アーマーは、知識としては入っているからそんな隠さなくともいいしね。みんな噂じゃ知ってるんだろ? ある種の都市伝説か陰謀論的な?」

「失言だったんだぶう~!」

 茶化した言いように、こちらも苦笑いで応じるブタ族だ。

「ははは! とにかくここからは、あのネコちゃんとゴリラくんの戦いに集中しないとね? なんせこれが今回の一番の目的でもあるんだから、て、言ってる間にまた一機撃破されちゃったみたいだよ! おそらくはネコちゃんのアーマーが敵を追い立てて、その先で先回りしてるゴリラくんのあのいかついアーマーが仕留めているのかな? あ、ネコちゃんのアーマー、発見!!」

 言っているさなかにも、眼前のモニター一杯に映し出された入り組んだ街中の裏手の通りの画像の中に、小型の真っ黒いアーマーが軽やかなステップで駆け抜けるのを認めるベアランドだ。

 おまけその先の1ブロックほど離れた場所にある、ちょっとした広場らしきに、この相棒となる大型のこれまた真っ黒いアーマーも補足する。

 それだからなるべくこの絵をズームで拡大して離れた母艦のメカニックたちにもわかるように努めるのだが、標的は結構なスピードで街中を右へ左へと縦横無尽に駆け抜けていく……!

 そのさなかにもまた一機、見慣れたはずの機影でも茶色なのが違和感だらけのビーグルⅤをいともたやすく撃破するのに内心で舌を巻くクマ族の隊長さんだ。

 戦場の第一線で現役バリバリの量産型アーマーは言うなれば彼らルマニア軍の主力兵器に位置づけられるのだが、まるでいいところなしのやられキャラと化している。

 背後のタルクスはもはや状況がめまぐるしくて目が追いつかないらしい。すっかり黙ったきりだった。

 かくして外野からこれをモニターするのも一苦労だと、額にうっすらと汗を浮かべるクマ族たちの一方で――。

              ☆

 足場の整った市街地に入ったことにより、それまでの荒れ果てた砂地よりも格段に動きが良くなった自慢のアーマーのコクピットの中で、素早い手さばきでレバーとコンソールを巧みに操るネコ族だ。

 目の前の高精細モニターに映し出したターゲットスコープの真ん中で、無様にその背中をさらす敵アーマーに向けてロックオンしたハンドカノンの引き金をただちに引き絞る。

 コンピュータが相手の撃破を解析判定する間もなくその場をダッシュして、身軽なアーマーを暗闇に溶け込ませるのだった。

 まるで人間かのような素早い身のこなしでアーマーを疾駆させるが、次の標的へと意識を向ける目つきの鋭いネコの耳元に、手元のスピーカーからは相棒のゴリラ族の、やけにのんびりとした音声通信が入ってくる。

「……イッキャ? 今どこにいるの? こっちはずっと待ちぼうけしてるんだけど、早いとこ敵さんをこっちに誘い込んでよ。さっきからひとりでずっと楽しんでない? さっき後ろから一機現れてビックリしたんだけど、あれってイッキャは関係ないよね? ま、あっさり片付けてやったから問題なかったけど……」

 なんかやる気なさげなクレームじみた催促に、若干ムッとした表情になるネコ族のイッキャは、通信相手の身体がでかくて何かとマイペースなゴリラ、もといベリラに向けて返した。

「問題ないのならそれでいいのだにゃ! おまえはそこで黙って敵が現れるのを待ち構えておくのだにゃ! このオレが確実に敵どもを追い込んでいるのだから、四の五の言うななのだにゃ」

「その敵が来ないんですけど? こっちはなんか良くわからない広場だか公園だかでずっとひとりきりなんですけど? そんなに広くもないからさ、敵を倒すついでに、なんか子供の遊具みたいなのもペチャンコにしちゃったんですけど? これって後で弁償とか言われないよねぇ?」

「そんなものはこのオレたちには関係がないのだにゃ! 放っておけばいいのだにゃ!」

「もちろん、そのつもりだけど。でもイッキャばっかりずるくない? ひとりで星を稼いでるじゃないか。こっちにも何機かちょうだいよ、あと、こっちのセンサーで見ているに、イッキャ、ひょっとしてダミーを飛ばしてたりしない? すごいやりづらいんだけど、それやられると??」

 ぐちぐちと文句をたれる相棒のゴリラに、額のあたりにうっすらと血管が浮き上がるネコ族は、声にもイライラを出しながらついにはつっけんどんに言い放った。

「何をどうしようがこのオレの自由なのだにゃ! おまえにどうこう言われる筋合いはないのだにゃ! そう言うおまえこそこっちのセンサーではやたらに明るい波形がでているが、エネルギーを無駄にロスしているんじゃないのかにゃ?」

 鋭くツッコんでやるのに、受け答えるゴリラ、もといベリラは慌てるようなこともなく開き直った言いようで返した。

「これがあるからここまでほとんど無傷でこれたんじゃない。おれたち。超高出力のジェネレーターが結界さながらのバリアフィールドを展開、おまけに機体の電磁カモフラージュまでしてくれるだなんてさ……!」

「だが絶対ではないのだにゃ! あと上でオレたちを見張っているクマの隊長も、おんなじようなことをやっているようなのだにゃ? それじゃとっとと片をつけるのだにゃ! 残りを追い立ててまとめて大通りに誘導するから、おまえもそこから通りに出るのだにゃ! ここからは早い者勝ちなのだにゃ!!」

 言うなり通信をブチ切るネコ族は、機体に激しいステップを踏ませつつも空へと向けて何発かの銃弾を見舞う。

 それが号砲だとでも言うかのようにだ。

 これに即座に応じるゴリラが乗っていたいかついアーマーが、前屈みのすさまじい勢いで狭い裏路地を疾駆する。

 そこからわずか数分で、全ての決着はつくこととなるのだ。

 かくして無事、作戦終了……!


                ※次回に続く……!









 ベアランド、タルクス、(リドル、ダッツ、ザニー)

 ベリラ、イッキャ……

 ウルフハウンド小隊、

 ポイントX アルベラ  西 エルスト? 北 カイトス?
 

 

 艦内 サイレン ベアランド タルクス リドル ダッツ ザニー

 21プロット
概要‐ベアランドたちの降り立った基地の周辺の町(仮称Point X)に残存兵のアーマーが襲撃、これを撃退すべく出撃!
 敵アーマー、ルマニアのビーグルⅤ(カラーは緑ではなく、黄土色?)
 メインは第二小隊のウルフハウンド少尉率いる陸戦部隊アーマー。ここに今回から参加した傭兵部隊のイッキャとベリラのアーマーコンビも出撃。ベアランドは今回はこのふたりのお目付役として、上空からアーマーでこの行動、戦いぶりを監視。
 ダッツとザニーは今回はお留守番。補給部隊として出撃したタルクスにリモートでツッコミする。
 敵、アーマー部隊を撃破したところで、終了。
 22 サラとニッシーがいきなり登場?


×ブリッジクルー 今回は特に出番なし。

◎デッキクルー 第二小隊(ウルフハウンド(ギャングスター)、コルク、ケンス(共に、ビーグルⅥ陸戦型仕様機=ホバーユニット装備型))、傭兵部隊(イッキャ(リトル・ガンマン)、ベリラ(カンフー・キッド))がメイン。   
 第一小隊 ベアランド(ランタン)、タルクス(補給機改装型ビーグルⅣ) 

 ベアランド、センタードライバーから、システムを使用しないで自力で発進、タルクス、レフトデッキから出撃~

 ウルフハウンド小隊、ライトデッキから各機出撃

 イッキャとベリラは、アッパーデッキから、基地を囲む断崖を伝って、現場に潜入?









カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 キャラクターデザイン ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス

新規のキャラクター、メカニックデザイン

スピン・オフを含め、これから出てくる予定のキャラをまとめています!

中央大陸・アストリオン勢

ルマニアがある東大陸から戦いの場を移し、主役のベアランドたちが現在いる、中央大陸・「アストリオン」のキャラクターたち! #019以降のキャラとメカたち~

~アストリオン国家元首とその直属の配下たち~

●アストリオン国家元首。ブタ族。「イン・ラジオスタール・ザッツ・ガックン・アストリオン」現代正当後継者。

◎可変型イン専用大型ギガ・アーマー。「ゲシュタルトン」

◎ブタ族。インの直属の若手の部下。「タルクス・ザキオッカス」

◎リドルの補給機を暫定的にタルクスに引き継ぎ。
 ビーグルⅣ(全面改修型補給機)

◎タルクス専用ギガ・アーマー。「オーク・プロト・ワン」

●タヌキ族。「モーグ・ズク・シャーキンス」

◎バンブギン量産型?ギガ・アーマー。「王将」

●キツネ族。「カッター・ウォルタリバーン・ビジュバンス」

◎可変型ギガ・アーマー。「ハットトリック」

※上記の二人はコンビで、以下はトリオの一般兵。
●クマ族(ヒグマ系?)「ダイル・オルベガ少尉」

◎空中戦仕様型ギガ・アーマー。「Hi-GUMA(ヒグマ)」

●イヌ族(シバイヌ系?)「アッキス・コントラ少尉」

●イヌ族(シェパード系?)「キクター・ムカン・シーン少尉」

H部隊

クマ族(灰色熊系?)パイロット。「ハンマー大尉」

◎近接戦闘特化型ギガ・アーマー、「クラッシャー」

クマ族(ヒグマ系?)パイロット。「オムスン准尉」

◎近・中距離戦闘型ギガ・アーマー。「????」

●イヌ族(??系)「モルザス准尉」

◎可変型・ギガ・アーマー。「????」

K部隊

●クマ族(ツキノワグマ系?)「カノン・シューン」

◎大型・中・長距離支援用ギガ・アーマー。「ガマ・ガーエル」

○ネコ族(??系)「イワック・ラー」

◎空中戦仕様型ギガ・アーマー。「アマ・ガーエル」

L部隊

○イヌ族(??系)「サラ・フリーラ・シャッチョス」

◎空中戦仕様ギガ・アーマー。「ドンペリ・ピンク」

●クマ族(ヒグマ系?)「ニッシー・ロックデーモ・ナイ」

◎大型・長距離支援用ギガ・アーマー。「ジン・ジャエル」

T部隊

●イヌ族(雑種・ミックス系)「タッカー少尉」

◎水上作戦仕様ギガ・アーマー。「イルカ」

イヌ族(雑種・ミックス系)「トッシー少尉」

◎水上作戦仕様ギガ・アーマー。「オルカ」

タキノン艦所属 A部隊

●クマ族(シロクマ)「ザッキー・カラーノ少尉」

◎万能型?ギガ・アーマー。「オルソ・ビアンコ」

●オオカミ族「シーバ・アンタルシア」

◎ギガ・アーマー「」

P/R PP部隊

敵か味方か…?

謎のトリオ…!

出番はいつのことやら??

カテゴリー
DigitalIllustration Novel オリジナルノベル SF小説 Uncategorized ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア○記/Lumania W○× Record #020

今回からの新キャラ&メカ!!


 #020

※これまでのあらすじ※

 海を越えて新天地の中央大陸に足を踏み入れるなり、海岸線から一気にその内陸部にあるという、敵基地への進軍と奇襲攻撃、そしてこの地域一帯の占領――。


 因縁続きの強敵たちとの海上の攻防戦から立て続けのハードな作戦が、だが意外にも、いともあっさりと遂げられてしまった。

 この作戦の先鋒部隊として突入したベアランドたちクマ族のアーマー小隊は、そこでこの大陸「アストリオン」の若手の正規軍兵士、ブタ族のタルクスと出会い、それによって連れられてきたある重要人物、イヌ族のシュルツ博士とも無事に合流。


 その後に彼らの母艦であるトライ・アゲインとも合流し、今は完全に廃墟と化した元陸軍基地の滑走路に停泊する母艦の中で、それぞれがひとときの余暇を過ごしていた。


 Part1


 クマ族たちが属するルマニア軍の中でも、最大規模と性能を誇る、超大型の最新重巡洋艦の、そこは広大なハンガー・デッキ。

 その中にいつの間にか見たこともないような巨大な人影があるのを、神妙な顔つきで見上げる、ふたりのクマ族の姿があった。

 どちらもクマ族の中ではかなり大柄で、共にしげしげと興味深げに見上げては、その二体の人型戦闘ロボットを観察している。

 その中のひとり、濃緑色のアーマー・パイロットスーツにその身を包んだ、若いクマ族が言った。


「ほんとにどこからどう見ても、どこにもさっぱり見覚えがない機体だよな、このどちらとも? 実際、どこの国の軍隊にだってこんなおかしな見てくれのアーマー、ありゃしないよね? てことは完全にオリジナルの機体、なのかな??」

 そう心底いぶかしげにこの隣に立つクマ族、じぶんよりもさらに大柄でふとっちょなチーフ・メカニックマンに聞くのだった。

 すると聞かれたもう一方、メカニックマンのくせにパイロットスーツみたいな、やけにがっちりとした作業着を着込んだ巨漢のクマ族、年齢的にはもういいおじさんのイージュンは、さも気のない返事で答える。

 目の前の巨大な人型戦闘ロボに、果たして興味があるのかないのかわからないようなそぶりだが、本心はどうだかわからない。

「……オレも、こんなのは初めてお目に掛かったよ。できればどっちも全身バラして細かいところまで見てやりたいもんだが、これ以上、仕事を増やされてもたまらない! かと言えあの機械小僧のおチビちゃんも、今はおまえさんのおばけアーマーにかかりっきりで、ろくすっぽ手が回らないんだろう?」

 じゃあどうするんだよ? と逆に冷めた目つきで聞かれてしまって、さあ? とばかりに、みずからの大きな肩をすくめさせる若手のエースパイロットの隊長さんだ。

「まあね? でも向こうさん、あの若いネコ族とゴリラ族くんたちも、じぶんたちのアーマーには勝手に触らないで欲しいって話だったから、いいんじゃないのかな? アーマーを収容するデッキさえあれば、後はじぶんたちでやってくれるらしいよ。きっと慣れてるんだね♡」

「そんなもんかね? 言えば流しで戦場を渡り歩いてる傭兵くずれどもなんだろう? こんな見るからに怪しい珍奇なアーマーを道連れにしてちゃ、往生することばかりだろうにな……!」

 半ば呆れ混じりの言葉に、内心ですっかりと同意して苦笑気味にうなずくベアランドだ。


「ま、いろいろと訳ありみたいだね。でもどうしてかうちのボス、艦長とも知り合いみたいなカンジだったけど? 違うのかな??」

「ああ、そういや、我らが総大将の艦長さまがわざわざブリッジから降りてきたんだろう? あのならず者達に会うために??」

 やけに不可解げなメカニックマンのセリフに、こちらもさも不可思議そうに目をまん丸くして答えてやる。

「まあ、素性のわからない人間をおいそれと旗艦のブリッジに上げるわけにもいかないから、便宜上そうなったんだろうけど、詳しくはわからないな。あのふたりに聞いてみないことには。でもふたりともきょとんとしていたような? あんな大御所のスカンク族さまが、一方的な知り合いってことでもないだろうにさ!」

 いいながらこの太い首を傾げて、ちょっと前のことに思いを巡らせるベアランドだ。

 そう、このじぶんの立ち会いのもと、デッキのブリーフィングルームで相対した老年のスカンク族の艦長と、若いふたりのアーマー乗りたちは、そこではろくに言葉をかわすこともなかった。

  だが、そこでふとしたひょうしに顔色を和ませる艦長どのが、確かにこう言っていたはずなのだ。

『ん、おまえたち、大きくなったな……!』

『??』


 それを傍でいぶかしく聞くクマ族なのだが、しかし当のネコ族とゴリラ族も意外げなさまで、この目を互いに見合わせていた。

 あまり意思の疎通らしきは感じられない。

 果たしてこの艦長だけが得心したさまで、その場を後にするのだった。このあたり、たぶん当人たちに聞いたところで、わからないのだろうと推測するクマの隊長さんだ。

 しきりに正体不明のアーマーを見ているにつけ、不意にこのとなりででかい身体を身じろぎさせるメカニックマンがささやいてきた。

「お、噂をすればなんとやらだ。やっこさんたちが戻ってきたぞ? てか、あいつらっておまえのとこにつくのか? それともあの口やかましいオオカミ野郎か? 面倒だからおまえのとこに入れてほしいな。第二小隊だったらこのオレの受け持ちになっちまうだろ!」

 ちょっとイヤそうな口ぶりに、これまた苦笑いでそちら、右手に視線を流すクマ族の第一小隊隊長どのだ。

「ああ、ブリッジから艦長と一緒に降りてきたオペレーターのイヌ族くんに、この艦のおおよそのところを教わってきたんだろ? ちなみにふたりともぼくらとは独立した、別個の部隊編成になるはずだよ。いきなり編入してもうまく部隊として機能するはずがないし、はじめは守備部隊くらいでいいんじゃないのかな?」

「それがいいな。仕事を増やされたくないし、アーマーを独立して運用するんなら、どうかデッキのすみっこでやってもらいたい。いつまでいるかも怪しいんだろ、ぶっちゃけ?」

「どうだか? できたら本人たちといろいろと話したいんだけど、あいにくで今はまた、別のお客さんが来ているから……!」

「ああ、あの例のキチガイ博士さまか、ちんけなイヌ族の! ん、噂をすればこれまたなんとやらだ。お出ましになったぞ?」

 この船幅が通常よりも倍くらいもある超大型艦の構造として、大きく左右に分かれたデッキを中央でつなぐセンターブロックにあるエレベーターから姿を現した、二人の新参者たち。

 そしてそこにこれまた新たな新参者、こちらはやけに小柄な人影が、おとなりのもうひとつのエレベーターから出現する。

 こちらはおまけでお供の若いブタ族を引き連れていたが、それを置き去りに早足で突き進むイヌ族の博士は、脇目も振らずでまっすぐにこちらに向かってくる。

 それに後から大慌てでこれに追いすがろうとするブタ族、名前は確かタルクスとか言ったはずの若手のパイロットなのだが、いきなりけつまづいてはそれきりあえなくその場にいたゴリラ族とネコ族にとっ捕まっていた。

 なにやら騒動になっている。

 もはや独りよがりなイヌ族には、すっかりと見放されていた。

 新人同士のブタくんはいっそそちらに任せて、まずはこちらに向かってくる問題児のイヌ族と向き合うベアランドだ。

 隣のイージュンは浮かない顔で、ただじっと目配せしてくる。

 つまるところでお前に任せると言っているようだ。

 確かこのベテランの技術屋の師匠は、こちらのお抱えの若手技術主任とも共通で、おまけに同じイヌ族ながら問題の博士とは、それこそが犬猿の仲で有名だったはずだ。

 どうやら弟子の立場からしても苦々しい存在らしい。

 混ぜるな危険……!

 言われるまでもなくそれと察するクマ族だった。

 それだからリドルと博士には互いにこのことは伏せておこうと心に固く誓うベアランドだ。

「ほんとにこれ以上めんどくさくなるのは勘弁願いたいからね! うわ、すんごい真顔だな? 博士、どうも♡ ところで何をそんなに急いでいるんだい?」

 適当に当たらず障らずして語りかけてやったところ、すぐにもこの脇を通り過ぎる勢いの白衣の老人は、だがそこでピタリと立ち止まる。挙げ句こちらを見上げたかと思えば、つまらないものを見るようなひたすらな真顔で言ってくれた。

「ふん、おまえこそ何をそんなところでのんびりしているのだ? 時間は有限、一秒たりとも無駄にはできないものを……! ならばさっさとこのわたしをきさまのアーマーのところまで案内しろ。無論、主任のメカニックにも招集をかけてだな! この艦の構造からすればあちらなのだろう? ゆくぞ!!」

「あ、そんな急がなくても……行っちゃった!」

「いいから行ってこいよ、ゴリラと猫と、あとついでにあのぶぅちゃんの相手はオレがしてやるから!」

 ベテランのメカニックにそう促されて、やれやれとその場を後にするクマ族のパイロットだ。

 見ればイヌ族の博士はシッポを左右に大きく揺らしながら遠くの角をさっさと曲がってこの姿を消す。

 いいトシなのに元気だよなあw。

 とか言いながら、独りよがりで偏屈な博士が行った先でおかしな問題を起こしていないかを想像したら、自然とじぶんも早足になっていた。

 そして案の定、その先でやはりちょっとした騒ぎが巻き起こるのをリアルタイムで目撃することとなる隊長さんは、またしてもやれやれとみずからの肩をすくめてしまうのだった。


  Part2


 いわく、弱い犬ほどよくわめく……!

 まさしくその通りで、角を曲がった先でそれはキャンキャンとやかましくわめき立てる、小柄な白衣姿のイヌ族の老人だ。

 これに内心でいささかげんなりとなるベアランドだった。

 そこにはまたおなじくげんなりしたさまのおじさんのクマ族たちがふたり、より近くにいるものだからなおさらに耳が痛そうな顔して、この老博士を眺めていた。

 またおなじくクマ族でこちらはずっと若いクマ族のメカニックスーツの青年も、かなり困惑したさまで小柄な毛むくじゃらの犬族にいいようにギャンギャンと噛みつかれている。

 いっそ本当に噛みつきそうな剣幕に、やれやれと苦笑いして仲裁に入る隊長さんだ。

「やれやれ、穏やかじゃないな? どうしたんだい、リドル、そちらの博士さまになにか失礼なことでもやらかしたのかい?」

 そうあっけらかんしとた軽口みたいにいいながら、実際にはそんなはずはないだろうことは重々承知している。

 そんな苦笑いの小隊リーダーどのに、対して小隊のアーマーを一手に引き受ける天才的メカニックの青年、もっと言ってしまえば少年のクマ族は、慌てて敬礼して返してくれるのだ。

 陰険にして口さがない博士とは打って変わったとっても律儀で礼儀正しいさまに、またしても、あはは! と苦笑いしてしまうベアランドだった。


「はっ、少尉どの! ああ、いえ、その、じぶんは何も失礼なことなどはっ、て、博士どの? なのでありますか、こちらが?? それは失礼いたしましたっ……ですがいきなりどこからか現れて、このじぶんのことを見るなりに大きくわめかれて……!」

 若いクマ族がかなり困惑したさまでおろおろするのをはじめどうにもおかしく眺めてしまうが、それをやはり傍でながめているおじさんのクマ族たちのうんざりした顔つきを見ているにつけ、状況をそれと把握する若いクマ族の隊長さんだ。

「そうか。二人とも今日が初対面だったよね? もっと早くに引き合わせておくべきだったかな。確かにどちらもびっくりだ。こんな小柄なおじいちゃんの博士と、こんなやたらに若くしたチーフメカニックくんじゃ!!」

 そう笑い飛ばしてやるのに、当の博士はあからさまに不機嫌なさまでにらみ付けてくる。加えてまたキャンキャンとやかましくのたまうのだった。 

 それだから広いアーマーのハンガー・デッキの中をキンキンとこだまする老人の癇癪を、右から左に聞き流してはただ鷹揚にうなずくパイロットだ。

「フン、誰がおじいちゃんだ、失敬な! それよりもなんだこの貧相な小僧は? よもやこんな青二才がチーフメカニックだなどとほざくのではあるまいな? まったく飛んだ茶番だ。艦長を呼べ! わざわざこのわたしが出向いてやったのに、みずからの持ち場を留守にしておったあのうつけものをだな!!」

「ひどいな? ああ、そうか、ンクス艦長とは入れ違いになっちゃったんだ。ならもう今頃はブリッジに戻っているはずだけど? でも呼んだところで来てはくれないんじゃないのかな。それにそっちこそ失礼なんじゃないのかい、うちの自慢の天才メカニックさまをただの小僧呼ばわりだなんて! ね?」

 そう言って傍で傍観者を決め込んでいる、ふたりのベテランパイロットに同意を求めてやるに、当のおじさんのクマ族たちは、ちょっと慌てて互いの目を見合わせる。

「はぇ? ああ、確かに、見た目はめっさ若いんやけど腕は立派なもんちゃいますか? ぼくらのアーマーを見た時も、機体の特徴や整備のクセを、一発でそれと見抜いてくれはりましたから」

「せやんな! わざわざ言わんでもかゆいところに手が届きよるし、何より、アレなんやろ? この子の師匠はん、めっちゃ有名なブルドックのおじいやんな? なんちゅうたっけ、確かドルスとか、ブルースとか……?」

 ザニーのセリフに相づち打つかたちでダッツもうまいこと同調してくれるのだが、あまり触れては欲しくないところまにで突っ込んでくれるのには、顔つきが微妙なものになるベアランドだ。

 相棒のザニーもちょっと微妙な面持ちでもってダッツに返す。

 ただしそれがだめ押しの決定打となった。

「ブルース・ドルツちゃう? 名機の影にこのひとありと歌われた、泣く子も黙る鬼の整備士(メカニック)! ちゅうか、それってゆうてええんか? そのひと、この博士さんとは犬猿の仲やったんちゃうん?」

「あ、せやった! 有名やんな、めっちゃ! あれ、マズイことゆうてもうたか、おれ??」

「あらら……!」

 慌てた調子で見返されても、返事に困る隊長さんだ。

 リドルだけがきょとんとしたさまで周りのクマ族の反応を見つめている。ある地方のひなびた陸軍基地で身寄りの無いのを拾って育ててくれた犬族の老人は、まだ現役の凄腕メカニックであれども、みずからの過去の偉業は語ることがなかったらしい。

 この目の前の性格冷血にして冷徹な博士と、とかく人情家の機械屋とでは、たとえ同じイヌ族であれど、火と油で交わることがないのは考えなくともわかるだろう。

 おかげで微妙な空気がその場を支配するが、仏頂面した博士がやがて目の前の若い整備士に鋭い視線を投げかける。

 余計にカンに障ってしまったものかと内心でヒヤヒヤするクマ族のパイロットたちが見守る中で、だがイヌ族の老博士は何食わぬさまで言うのだった。

「ブルース、だと……? ふん、あのくだらないおよそ数値にもならぬ感情やら感覚ばかりをほざくブルドックの機械屋めか? ならばまったく愚にも付かぬ世迷い言ばかりでこのわたしにことごとく楯突いた、あのおおたわけめの教え子だと言うのだな? 貴様は??」

「は、はい? ああ、ブルースは確かにこのぼくの育ての親であり師でもありますが、その父と何か関係がおありなのですか? でもあんまり良好な関係ではなさそうな……!」

 ひどく怪訝な青年に、思わずうんうんと頷いてしまう隊長さんだが、この後に続いた博士の言葉には目をまん丸くしていた。

「ふん。いいだろう……! いささか性格に難ありではあったが、整備士としての腕は確かに一流ではあった。それだけは認めてやれる。それ以外はもはや全否定だが、それの弟子であるのならば、それなりのものは期待ができると推測はできるのだろう? ならばこのわたしが直々に見定めてやろう、貴様の価値、ちゃんと数値化したまごうことなきその真価をだな!!」

「は、はい??」

 おじいちゃんの博士から真顔で言い放たれたセリフにすっかり面食らって、もはやちんぷんかんぷんのリドルだが、それをおなじく意外に聞くベアランドは、そのくちもとにこれまでとはまた違った苦笑いを浮かべていた。

「へえ、おやおや……!」

 意外と気に入ってくれたものらしいとリドルにウィンクしてやる。やっぱりぽかんとしたさまの整備士だ。

「おじい、気に入ってるやん? おれらのチーフのこと!」

「ほえ、それはそれで微妙ちゃう? 正直めんどいでぇ、こないないらちなひと! ぼくやったらパスやわ、パス」

 ダッツとザニーが小声で皮肉めいたことをぼそぼそ言っているが、そんなもの一切聞く耳持たない博士はさらに鋭く言い放つ。

「まずはアレの戦術解析データを見せてもらおうか。これまでのものをすべてだな? メインのコントロール・ルームに案内しろ。わたしのラボのメインコンピューターとただちにシステムを同期させ、以後はすべてこちらの指示に従ってもらう……!!」

「ラボ、でありますか?」

 まったく話の流れについて行けてない整備士くんに、隊長さんがしたり顔して大きくうなずく。

「ああ、特別に博士専用の研究室を割り当ててもらったんだよね? みずからの個室(セル)じゃなくて、ちゃんとした作業場ってヤツをさ? でも場所がみんなの居住区じゃなくて、ひとりだけ機関室、つまりはこの艦のメイン・エンジンのすぐ隣りの、言ったらデッドスペースの倉庫だったけ??」

「倉庫ではない。ラボだ。ちゃんと資材や装置は運び込まれている。十分なスペースを確保するのにそこしかなかっだけの話」

「は、機関室のおとなりって、ひとが住めるようなとこやないんちゃうか? めっさ揺れるし、音もおっきいやろ??」

「ほえ、あとおまけに暑いんちゃう? そないなとこでアーマーの研究とか落ち着いてできへんのちゃうんけ??」

「まあね……!」

 若干引き気味のおじさんたちにはこちらも疲れた苦笑いして、いやはやと肩をすくめる隊長だ。

 だが何事でもなさげな博士は、周囲からのつまらない指摘をことごとく聞き流す。おまけしれっと言ってのけた。

「騒音や振動ごときは気にしなければいいだけの話だろう? よもや心頭滅却すれば火もまた涼し、という言葉を知らんのか?」

 完全にどん引きするクマ族パイロットたちを尻目に若いクマ族の整備士にくってかかる博士は、しまいには付いてこいとばかりにシッポを一振りして、いずこかへと足早に突き進んでいく。

 ただの当てずっぽうでだ。

 さっき案内しろとか言っておいて身勝手な振る舞いにびっくりする整備士くんだが、慌ててこの後に追いすがる。

「あ、待ってくださいっ、博士! そちらはただの資材倉庫ですから、コントロール・ルームはあちらになります!!」

「早く言え! この役立たずめが!!」

 クマ族のパイロットたちだけが取り残された場には、それきり嵐が過ぎ去ったような静けさがわだかまる。

 やがて中でもベテランの赤毛のクマ族が言った。

「ええんですか? 大事な大事なぼくらのメカニックくんを、あないなしょうもないイヌ族のおじいに預けてもうて??」

「……ああ、いいんじゃないのかな? 意外と相性が良さそうな気がしてきたし。あのリドルをキライになる人間なんてそうそういはしないよ。あとあの子の腕の確かさを見れば、博士は決して邪険にはしないさ。そういう人間だよ」

「なんかビミョーやな……?」

 あんまり納得がいかないような浮かない顔つきで目を見合わせるクマ族のおじさんたちには、やはり仕方がないよと肩をすくめるしかない、おなじくクマ族の若い隊長さんだった。


 Part3

 終始マイペースでなおかつキャンキャンとやかましいイヌ族の老博士と、これに慌てて追従するまだ若い青年クマ族の整備班長の気配は、まだしばらくはそこかしこに感じられた。

 そこにかすかな反響音(エコー)を伴って。


 だがさすがにこの視界からすっかりと消え失せたらば、それきり辺りはシンとした静けさに見舞われる。

 おそらくはこの真上の上層階にあたる、目的のコントロール・ルームへと入ったのだろう。そこはハンガーデッキからの出撃射出時のカタパルトの集中制御と、収容された各アーマーのデータが集積される、戦闘を担う現場方の頭脳とも呼べる場所だ。

 関係者以外は立ち入り禁止で、立ち入ることができるのはデッキクルーの中でもごく一部に限られる。そこになにかとやかましい博士のわめき声も厳重に密閉されたのだろう。

 かくしてかすかにため息ついてその場に取り残された者同士、お互いの目を見合わせるクマ族のパイロットたちだ。

 ちょっと疲れた感じで微妙な表情のベテランたちには、ま、仕方が無いよ……! と肩をすくめるばかりの隊長のベアランドだが、折しも背後からはまた新たなる気配がするのにそちらを振り返る。

 軍用艦としても縦にも横にも馬鹿げた大きさでひたすらに広い艦内、必要がないところは極力照明が落とされた暗がりの中に、やがて大小さまざまな人影が浮かび上がるのをじっと見つめる。

 おおよそでこの予測はついていたが。

 よって、今度は博士以外の新人さんたちがこぞってこの場に顔を出してくるのを、まずはただ黙って迎え入れてやった。

 背後で低いしゃがれ声が上がるのがわかったが、そう、本国ではなかなか見かけることがない、だが今となってはすっかり見慣れた若いブタ族以外にも、かなりレアな種族がまじっているのにおかしな感慨じみた感想をくちぐちに漏らすおじさんたちだ。

 三人いる人影の中でも一番最後につけている、ひときわ大柄な真っ黒い毛だるま、もとい毛むくじゃらでおまけ筋骨隆々としたのは、これが遠目にもひと目でそれとわかる、ゴリラ族である。

 言うなればこのクマ族たちの出身地である東の大陸でもそうはお目にはかかれないレア種であり、見たところまだ若いのだろうに、何やら言いしれぬ迫力みたいなものがあった。

 まずこの顔だけ見たら、やたらにコワイ……!

 その手前に肥満体型のブタ族のタルクスと、こちらは見てくれシュッとした細身で小柄なネコ族がいたが、いやはや後ろの筋肉だるまに見た目において圧倒されて、まるでこの存在感が目立たない。

 ただし良く良く見れば、ネコ族でもこれまたレアな見てくれした、かなりクセのある雰囲気の出で立ちなのだが……。

 おじさんたちの目にはまるで入らないようだ。

「ほええ、あのゴリラ族のアーマー乗りの子、思うたよりもほんまにゴリラゴリラしてるんやなあ? ちゅうか、ゴリラ過ぎるんちゃう? あんなのケンカしたら勝たれへんて!」

「しっ、聞こえてまうで! まっぴらやわ、あんなゴリゴリの筋肉ダルマとバチボコやり合うなんて、ロケットランチャー必要やんけ! うちの隊長さんくらいなんちゃうか、あんなんと生身で対決できるんは?」


「ぼくらの隊長さんでもキツいんちゃう? 何より顔がコワすぎるわ、愛されへんて、あの顔でバナナが大好きなんやろ?」

「それはええやんけ! ギャップがカワイイやろ、てか、バナナあげればええんやな? バナナであのガタイもちよるんか??」

 そんなベテラン勢のしょうもないひそひそ声に苦笑いしながら、新人のパイロットたちに声をかける第一部隊の隊長さんだ。

「やあ、ふたりともこの艦の内部に少しは慣れたのかい? えっと、後ろのいかついゴリラ族がベリラくんで、前のはネコ族の、イッキャくんだったよね? 歓迎するよ、本艦のアーマー部隊大隊長として! 見ての通りで人手が足りなくて困っていたところだからね? もちろん、タルクスも!」

 すっかり意気投合した、と言うよりはやや相手に押され気味で足下がおぼつかないブタ族がブウ!と返事をするが、あいにくとでかいゴリラと小柄なネコの反応は希薄だった。

 だがここらへん、元から仲良しこよしをする気もないクマの隊長も、まるで気にせずに相手からの返事を待つ。

 するとしばしの間を開けて、真っ黒い山みたいなシルエットのゴリラ族くんが、みずからの眉間を右手でポリポリ掻きながらにのんびりした調子の言葉を返してくれる。

「まあ、こちらこそこうしてお世話になるからには頑張らせてもらって、ここの艦長さんからもついさっき破格の待遇を示してもらってるし……! やけに気前がいいのがなんだかビックリだったけど、ねえ、イッキャ??」

「ああ、それはこっちもおんなじだよ、というかやっぱり、思い当たるところがないって感じなんだな? はて……」

 相棒のゴリラの言葉にも、細身のネコは曖昧なさまでかすかにうなずくのみだ。そんな相手の口ぶりからこのふたりよりも、むしろ当艦の艦長どの自身に探りを入れたほうが話が早いようだと考えあぐねる。

 やはり少しは気にはなったし、このアーマー乗りたちの乗る妙ちくりんなアーマーもかなりのクセがあって、ならばいっそそこら辺からも多少は手がかりが見いだせるかも知れない。

 さっきは興味がないとか言っておきながら、今頃はこっそりとでかい図体をそのあいだに潜り込ませて、見慣れない機体をあれやこれや詮索しているにちがいない。あの機械オタクのクマ族のおじさんメカニックに聞いてみれば、それなりにおもしろい答えが返ってくるかもしれなかった。

 だったらちゃんとこの時間を稼いでやらなければね!と内心でペロリと舌なめずりするベアランドに、対して小柄なネコ族めがやや怪訝な目つきで見上げながらに返してきた。

 見てくれそぶりがやけにのんびりしたゴリラ族とは違って、こちらはかなりカンが利くほうなのかも知れなかった。

「……そうだニャ。ただしありがたく使わせてもらうが、あくまでやり方はこちらにまかせてもらうのだニャ! 余計な指図はやめてもらって、それでも十分なパフォーマンスを出せるはずなんだニャ、このオレたちにゃら!」

 真顔でとかくきっぱりとした言いように、背後からまたおじさんたちの声が上がる。

「ほぇ、聞いたか、やけに小生意気なネコちゃんやな? 顔つきからしてえらいふてぶてしいっちゃうか。相棒のゴリラくんはのんびりしてるけど! さてはバナナ切れてるんか? こないな子らとうまく連携なんて取られへんのちゃう、ぼくら?」

「ちゅうかおれらは関係あらへんのやないか? 空なんて飛ばれへんのやろ、あのアーマーどっちも? むしろ地べたかけずり回ってる第二小隊の、あっこの気むずかしいオオカミさんとビビリのワンちゃんたちなんちゃうん、知らんけど!」

「ほえ、そやったらなおさらムリなんちゃうんけ?? ほんまに相性最悪やで! くわばらくわばらや……」

 もはや結構でかめのひそひそ声には若干肩をすくめながら、あくまで鷹揚に応えてやるアーマー部隊の隊長さんだ。

「そうかい。なら楽しみにしてるよ。あとメンテナンスは自分たちでできるってことだけど、まともなメカニックがひとりもいないんじゃさすがにアレだろ? とりあえずとびっきりの腕利きをひとり紹介したいんだけど、本人も興味あるような口ぶりだったから。もちろん、余計なことなんてしやしないからさ!」

 いかにも軽いノリで言ったそぶりの提案に、果たしてあちらはやや怪訝な面持ちでこの太い首を傾げるゴリラ族だ。

「え、別にそんな気をつかってもらわなくても……? よっぽど大破とかしちゃったらアレだけど、ここっていわゆる最新式のフルオートのマルチ・メンテナンス・デッキだから、ヘタなメーカーのそれよりかよっぽど設備としては整っているもんね?」

 嫌がるほどではないがあまり乗り気でないさまなのに、無理強いしたら勘ぐられるなとそれ以上はしつこく言及しないベアランドだ。当たり障りのないことをうそぶいてやる。

「まあね! オートにしても限度はあるから、最終チェックもかねて要所要所でメカニックがいるんだけど、若い子の勉強がてらになったらいいと思って。ま、トシが近そうだからお互いに気も合うと思うし」

「へぇー……」


 あんまりピンと来てないふうなゴリラ族、ベリラと名乗ったアーマー乗りはこの場の話し合いにもさして興味がないらしい。

 しまいにはてんで明後日のほうに目線が向くのに、こちらもこれ以上の追撃は諦めて、手前にいるネコちゃんのほうに目線を落とした。見ると何やらもの言いたげなそぶりでこちらを見ていたネコ族のパイロットだ。

 あとついでに何やら居心地の悪そうにしているブタ族にもみずからの背後を目線で示してほらと促した。

「タルクスは自前のアーマーがまだないんだから、うちの整備主任の補給機を引き継ぐんだよね。だったらそっちのザニーとダッツに連れていってもらえばいいよ。実戦ではこのふたりのベテランたちとつるむんだから、しっかりと話し合っておかなきゃ♡」

「ぶっ、ブウ! ああ、そう言われてみればそうだったんだぶう、それじゃよろしく頼むんだぶう! 先輩のクマさんたち!」

 ベテランのおじさんたちと合流して、そこからがやがや騒ぎながらの気配がやがてこの上階へと流れていくのに、そこであらためてネコ族に向き直るクマ族の隊長だ。

 するとネコ族、細身で小柄の簡易的なパイロットスーツに身を包んだイッキャは、鋭いまなざしで意味深な口ぶりだ。ちなみに相棒のゴリラ族とは色違いの同一仕様のラフなスタイルである。

「メンテナンスのはなしは聞くだけ聞いておくニャ! しかしそれならこちらも耳よりな話があるのだニャ。うんっ、そう、それは腕利きのパイロットと強力なアーマーの……! 見たところどうやら人手不足らしいから、こちらも悪い話ではないはずニャ」

「ああ、あいつらのコト? 話しちゃうんだ? 確かにあの女社長、クライアントに飢えてるとか言ってはいたけど……」

「ここなら文句のつけようがないニャ。オレたちのアーマーが引き受けられるなら、当然あいつらのアレもいけるはずニャ」

「?」

 出し抜けにした何やら思ってもみない話の向きに、はじめただきょとんとしてふたりを見返すベアランドだが、マイペースなアーマー乗りのコンビはふたりだけで話を進めていく。

「ううっほ、確かにさ、ここって大型機が入るデッキがふたつもあって、その内のひとつは空いてるとか言ってたっけ? あれ、これって誰の話だったけかな? ん~……でもほんとにひとつ空っぽみたいだから、入るちゃっあ、入るのかなあ??」

「しっ、余計なことは言わなくていいんだニャ! だが戦力は少しでも多いに越したことはないはずニャ。あいつらはおいしい仕事にありつけてウハウハ、こちらは腕利きのパイロットが確保できてウハウハ、おれたちはどっちにもいい顔ができておまけに恩まで売れて、これまたウハウハのウィンウィンウィンにゃ!」

「あいつらって腕利きなのかな? そこだけが引っかかるけど」

 ここに来てやや目つきが怪しげになるベアランドだ。

「あれ、勝手に話が決まりかけてないかい? さっぱりわからないんだけど。まあ、ならとにかく聞かせてもらって、その上でアーマー隊長として判断してから上の艦長に、ああ、もとい、その前にこのデッキを仕切るチーフメンテや、第二部隊の隊長のシーサーの了解も取り付けないといけないし。本国からの援軍が当分見込めないから傭兵部隊の参加はいつでも大歓迎なんだけど、いきなりの飛び込みはさすがにアレだものねえ?」

 やんわりと前置きしてからしっかりと釘も差した。

「あと、それで言ったらきみらの実力もまだわからないままだし……!」

「それはおいおい示してやれるのニャ。この艦は常に戦場の最前線を突き進むと艦長が言っていたはずニャ、それならオレたちアーマー乗りの戦いにも事欠かないはずニャ……」

「うほ、だから破格の報酬を確約してもらえるんだものねぇ? なんかドキドキしてきちゃうな。武者震いっていうのか、あんなコソコソしないで正々堂々と戦場に立てるのって、いつくらいぶりだろ? もしかしたら初めてじゃない??」

「だから余計な話はするなだニャ!」

 意味深な口ぶりで目を見合わせるゴリラとネコに、それを傍から見ているクマはしれっとかまをかける。

「ああ、そうだ。そういや、ここの基地を襲撃してまんまと壊滅に追いやったのって、さてはきみらの仕業なんだろ? いわゆる正当派のアストリオンに対立する新興革命派の最前線で、これに反抗する地元の現王権支持のレジスタンス勢力が活発に動いているって話だけど、いっぱしの軍隊相手に素手の野党がかなうはずがない。ましてこの前線基地を墜とすだなんて、腕利きの傭兵を雇わないことには、ね?」

 もはや決めつけた言いように、果たしてふたりの傭兵たちは無言で目を見合わせた後に、やはり意味深な笑みを浮かべてこちらを見返してきた。

 これと言及はないが、顔にはそれと書いてある

 決まりだな……!

 予想していた通りなのをはっきりと確信して、それ以上は何も言わないベアランドだ。よってその実力があるのも了解して、ならばあちらの話の信憑性もそれなりには見込めるのだろうとネコ族の提案を聞いてやることにするのだった。

 そうして実際にこのアーマー乗りたちの実力を確かめることになるのは、この数日後のことである。

 ベアランドたちクマ族ばかりのアーマー小隊に新しく加わった、ブタ族のタルクスの初陣も含めて。

                  ※次回に続く…!





 プロット
ベアランド ダッツ ザニー  →博士とリドル、離脱。
     ←イッキャ、ベリラ、タルクス 合流。

イッキャ ベアランドに話しがある。タルクスはダッツとザニーと打ち合わせの予定。タルクスはリドルのビーグルⅣを引き継ぐ段取り。

 

 






 






プロット

#020 プロット
トライ・アゲインのハンガー・デッキにて……
登場人物 ベアランド、イージュン、イッキャ、ベリラ、博士、タルクス、ザニー、ダッツ、リドル、(ウルフハウンド、コルク、ケンス?)

 お話の冒頭で、いきなりベリラとイッキャが登場。このアーマーもおなじく登場。レジスタンスの一味として砂漠の陸軍基地を攻略したものの、後から来たトライ・アゲインに占拠されてしまい、この奪還を試みたものの、あっさりと見つかってしまう。
 口からでまかせ?でフリーの戦術アドバイザーを名乗り、人手の足りない主人公たちの戦艦にノリと流れで乗り込んでしまう。

 二つ並んでアーマー、リトル・ガンマンとカンフー・キッドを見上げながら、ベアランドとイージュンのだべり。
 イッキャとベリラの元に、ブリッジから艦長、ンクスが降りてくる。「大きくなったな……!」謎の言葉を残して。
 博士は、艦長と入れ違いでブリッジからデッキに降りてくる。
タルクスも護衛として同伴。タルクスはアーマーがないので、便宜的にリドルの補給機、ビーグルⅣを乗機とする。

 ザニーとダッツ、めんどくさい博士を見送ってからイッキャ、ベリラ、タルクス(博士の後をおっかけてずっこけたところをつかまる)と合流。アーマーのお話で盛り上がる。

 ベアランド、博士とリドルの引き合わせ。ダッツとザニー
  ベアランド、リドル ← ベリラ、イッキャ タルクス


パート②
アーマー部隊出撃。イッキャとベリラも出撃。ベアランドはお目付役として上空から待機。
 

カテゴリー
DigitalIllustration NFTart Novel オリジナルノベル SF小説 ファンタジーノベル ルマニア戦記

ルマニア○記/Lumania W○× Record #019


 Part1

 これまでの話の流れ……

 強敵であるライバルのキツネ族、キュウビ・カタナ少佐率いるキュウビ部隊を海上の空中戦で辛くも撃退、そのまま目指すアストリオン中央大陸に上陸したベアランド達、第一小隊の面々。

 途中、小隊のチーフメカニックの青年クマ族、リドルの補給機からの補給を受けて、いざひたすら目標となる「ポイントX」へと向けて、それぞれのアーマーを進ませるのだった。


 その始まりこそ、強敵の敵アーマー部隊の襲来と激しい空中戦で幕を開けたが、いざそれが過ぎ去れば、あとはすんなりと目標となる地点――。

 中央大陸の広大な砂漠地帯のおよそ真ん中にあるターゲット地点まで無事、この駒を進めることができたベアランドたちクマ族小隊だった。

 かくしてみずからが搭乗するアーマーのコクピットの中、上空からこの目標地点をモニター越しに見下ろしながら、ちょっと気の抜けた感じの言葉を漏らす部隊長だ。


「ふうん、いざたどり着いたのはいいものの、思っていたのとは大部この様相が違うな? 敵基地を空から強襲する作戦ってはずだったのに、まるで敵さんからの歓迎がないじゃないか……! おまけに見た感じ、なんだかひどくさびれた感じがするけど、実はもう無人だったりするのかな、あのベース??」


 そんな疑問を口にしながら左右のスピーカーに耳を澄ますが、ちょっとの間を置いて聞こえたのは部下のおじさんクマ族たちの、これまたどこか気の抜けたような返事だった。

 モニターにはあいにくこの顔が映らないが、さてはどちらも冴えない表情しているのがよくわかる。

 まずは明るい赤毛のクマ族が、のんきなものいいで言った。

「ほえ、なんやようわりませんが、敵さんのわんさかおる秘密の軍事基地っちゅうよりは、ただの野ざらしの廃墟みたいにぼくには見えますさかいに。知らんけど? 実際、ひとっこひとりおらへんのちゃいますぅ?」

「せやんな! ただのくたびれたあばら屋やで、あんなん! あないなボロッボロの建物、軍事拠点とは言われへんやんけ? マジでひとの気配あらへんし!!」

 名うてのベテラン・パイロット専用にあつらえた赤い機体に乗り込んだザニー中尉の言葉に続いて、こちらもまた専用の青い機体のおなじく中尉どののダッツも、思ったまんまの感想を口にしてくれる。

 これにひとしきり納得して頷く隊長のベアランドも、手元のコンソール周りを見回しながらなおのこと不可思議に考え込む。

     https://xrp.cafe/collection/lumania01

「そうだね……! 各種センサー類はなんらの反応や異常も感知しないし、こうしてぼくらに上空を制圧されてもまるで無反応。あえておびき寄せているのにしても、ここまで偽装する必要はないし、リスクが高すぎるよ。それどころかあれってのはもはや、陸軍基地の体裁をなしてないものね!」

「ほんまにボッコボコにされてんのとちゃいます? どこの誰かはわからんけど、実際に戦闘の形跡なんちゅうもんもそこかしかに見られますやんけ! ほんまに誰や!?」

 何かと性格がツッコミ性分で口やかましいダッツに、それとは逆にこちらはボケ気質で、のんびりした口調のザニーが返す。

「知らんがな。せやけど手間が省けたのには違いないような? てっきりぼくらが空と基地の周りをまとめて制圧して、後からやって来るあの口うるさいオオカミの隊長さんとこの第二小隊が、ガチガチの特攻かけるんかと思ってたんやけど?」

「せやったんか??」


「知らんけど」

「なんやねん!」

 そんなのんきなおじさんたちの好き勝手ないいようにまだどこか顔つきの冴えない小隊長は、だがやんわりとそれを否定する。


「いいや。今のシーサー達の機体はあくまで海上作戦仕様のそれだから、おいそれとこの陸上まではね? 海岸線からずっと内陸のここまでどのくらい時間がかかるかわらないし、一旦は母艦に戻って、『トライ・アゲイン』と一緒に来るはずだよ。そうさ、今頃は元の地上戦仕様にリドルやイージュンたちが、それこそてんてこまいで換装し直しているんじゃないのかな?」

「そないですか。でも灰色オオカミさんの機体はいざ知らず、わんちゃんたちのビーグルⅥは、元はぼくらとおんなじ機体の空中戦特化型やから、さてはそっちに戻しはるんですか?」

「はあ、せやったら空中戦仕様ばっかりになってまうやんけ!」


 どこまでものんきなおじさんたちの言いように、ちょっと困った感じの若手のクマ族は、おざなりな返事を返してやる。

「さすがにそれはね? ちゃんと陸上作戦用のパーツがあるはずだし、中尉たちのとおんなじ同型機とは言っても、ぶっちゃけあの子たちのはあんまり空中戦には向かないみたいだから……! てか、全身フルカスタムのその機体は、一発でこれがビーグルⅥだって見抜けるひと、そうそういないんじゃないのかな?」

「ふふん、それもそうですな! 昔のちみっちゃいビーグルⅤとはちごうてぼくらクマ族さん専用に作られた機体やから。言わば新型のⅥのプロトタイプそれこそが元祖みたいなもんで。おかげさんでめっさ気に入っておりますわぁ」

「そいつは良かった! 裏じゃ走る棺桶だなんて呼ばれてたⅤは、そもそもしてこのぼくら大柄なクマ族が乗るにはおよそ適していないボディサイズだったからね? 今のリドルが乗ってる旧式のⅣとは、あきらかに犬族たち向けにサイズダウンしたみたいな……」

「せやせや! 軍の犬族のお偉いさんがなんやわしらクマ族をきろうてそうしたって、もっぱら噂になってたやんけ! う~ん、なんやめっちゃむかつく話やけど」

「知らんがな。今はどうでもいいこっちゃ。で、どないします、隊長??」 


 左のスピーカー、もはや緊張感なんてものがどこにもないザニー中尉の問いかけに、果たして困り顔でうなるベアランドだ。

 このまま後続の本隊が来るのを待つのも芸がないかと、仕方もなしに荒れ果てた見てくれの目標地点を機体の右手で指さして、状況の確認をするように部下のおじさんたちを促す。



「なんだかこれはこれで返って手間が増えた気がするけど、ぼくらで基地の状況を把握して後続の母艦を誘導しよう。安全が確保されないままじゃ、艦長も艦をおいそれとこの場に着艦させられないし、どうせその役を負うのははじめにここにたどり着いた、このぼくらなんだし?」

 はいはい、と冴えないおじさんたちの返事を左右から聞きながら、いざどこに着地したものかと正面のメインモニターを凝視する。すると普段からのんびりしたもの言いが性格おっとりしているようで、その実は意外と目端の利く、明るい赤毛のクマ族のザニーが気をきかして言うのだった。


「そないですか。でもせやったらまずはじめにこのぼくらが降りますよって、隊長はどうぞ後から降りてきてください。不意打ちなんてあらへんのやろうけど、みんなそろうて待ち伏せくろうたら面倒ですさかいに?」

「せやんな! じゃ、お先に、隊長! わははっ」

「あ、そうか、了解! 確かに見れば見るほどにいかがわしい感じだけど、やっぱり投棄されているんだよな、あの基地って?」

「実際に中をのぞいたらわかるんちゃいます? じゃ、ぼくらが場所を確保したら、そのごっついかついアーマーで降りてきてもろうて。それともじきに艦が来るまでそこで待ちはります?」

「いいよ。ぼくもなんやかんやで興味があるから。せっかくだからみんなであのでっかいお化け屋敷の探索としゃれこもう♡」


 およそ迷いのない慣れた操作で、深い渓谷の谷間に造られた軍事拠点に向けて降りていく二機のアーマーを見ながら、みずからはぬかりなく周囲を見回しながらに冗談を言ってやる。

 あいにく無言のスピーカーからは、ゆるい空気とぬるい息づかいだけが聞こえた。


 おじさんたちはどうやら苦笑気味らしい。

 やがてすんなりと地面に着地した二機のアーマーからOKの手振りと頭部カメラのライトの明滅を見て取って、自身も大型の機体を谷間の底へと下ろしていく、若いクマ族の隊長さんだった。


 Part2


 仲間たちの誘導によって、空から地上に降り立った大型アーマーからこのコクピットハッチを開けるなり、まずは周囲のありさまをマジマジとおのれの肉眼で確認するベアランドだ。

 すでにこの脇に降り立っていた仲間のダッツとザニーはみずからのアーマーからも降りて、真下の日に焼けた大地がむき出しの地面からこちらを見上げていた。

 あたりは乾燥した砂漠地帯だ。

 乾いた空気が鼻先をなでるのを感じながら、やはり危険らしき兆候はないことを確認してこのクマ族の隊長も自機から地面へと降り立つのだった。

 しっかりとした固い大地の感触を久しぶりに踏みしめる。

 正面の視界一杯に廃墟よろしく荒廃した敵軍の軍事基地、この右を見れば見渡す限りが切り立った断崖絶壁、その反対に視線をやればそこには広くて平たい乾いた地平が拓けている。

 いわゆる空軍やアーマーの離着陸向けの滑走路なのだろうが、放棄されてどのくらいが経ったものか、そこかしこに砂漠の砂らしきが降り積もっていた。

 この場が放棄されているのが丸わかりだ。


 また乾いた風が吹くと、あたりに砂埃が舞うのにちょっとだけ顔つきをしかめるクマ族たちだった。

 ただでさえ剛毛で毛深い身体にまとわりついた乾いた細かな砂のつぶは、真水では洗い流すのがひと苦労だ。アーマーのコクピットに戻る前にひととおり払い落としておかなければならない。

 顔の前の砂気混じりの空気をうざったげに手で払いながら、いつもののんびりしたさまでザニーがとぼけたセリフを吐く。

 すぐに相棒のダッツに横から突っ込まれたが。

「ほんまにお化け屋敷みたいやんな? 静か過ぎてちょっと気味が悪いわ。なんや出てきよったらどないしよう?」

「なんやってなんや? なんもおらへんやろ。あんなんただの廃墟やんけ! どこをどう見てもよう?」

「知らんわ。ほなら隊長、どないしましょ。やっぱり内部をのぞかないけませんか? ……隊長、どないしました?」

 そう背後を振り返った赤毛のクマ族の中尉どのに問われて、何の気無しの返事を返す隊長さんなのだが、みずからが見つめるてんで見当違いの方角を指で示しながらに逆に問いかけていた。

「ああ、いやっ……! というか、あっちのあそこに停めてあるあれってのは、いわゆるジープ、だよね? しかもおそらくは友軍の?」

「はい? ああ、ほんまや、一台あんなとこにおったんや。ほならバッくれた敵さんがたまたま残していったんちゃいますか?」

 遠くの滑走路とひび割れた地面の境界線のあたりに停められた、明らかに軍用車両然としたそれに、今になって気づいたらしきおじさんのベテランパイロットも、はあ、と気のない返事だ。


「いや、でも敵軍の車両は、アゼルタのは基本あんな色はしてないはずだから。ぼくらとおんなじ系統の緑色で、元はルマニアの車両なのかな? あれだけやけに見てくれきちんとしているんだけど、外部から乗り込んできたのかね、ぼくらとおんなじで? まだ砂埃をかぶってないから、比較的つい今し方にさ……!」

「ちゅうても誰もおらへんやんけ。持ち主はどこ行ったんや? てことは不審者がおるっちゅうことなんか? めんどいのう!」

 怪訝なさまでダッツも後ろから顔を出して文句をたれるのに、なんとも言えない顔つきのベアランドは肩をすくめるばかりだ。


「まあ、何であれ用心するにこしたことはないね? 敵対者とは限らないけど、誰かしら第三者がここにいることは間違いなさそうだ。しかもあちらさんもこのぼくらの存在に気づいているだろうし、ね?」

「はあ、無防備にめっさ砂煙を巻き上げてアーマーで降りてきてまいましたからな? そんなもんで隠れるんならやっぱり……」

「あっこのお化け屋敷しかないやんけ! ほんまにめんどいわ。白兵戦なんかアーマーのパイロットがやることちゃうやんけ」

「だから敵対者とは限らないだろう? まあいいや、それなり気をつけながら、予定通りにいざ探検に繰り出すとしようよ。基地の状況の把握と安全の確保が第一だ。お客さんは無理に正体を追求しなくとも、後続の味方に任せてもいいわけだし」

「了解」


 果たして目の前の廃墟とし化した目標の軍事拠点へと、三人で大股でのっしのっしと歩き出すいかついクマ族小隊だ。

 あちこちが朽ちかけたコンクリの建物の、出入り口の一つと思われるものへと歩み寄って、その大型の鉄製の扉を見上げる。

 分厚い鋼鉄の扉はだがこれが微妙にゆがんでいて、外側へと若干傾いでいるのが見て取れる。おまけにひとがひとり通れるくらいの隙間が空いているのに、先頭に立つザニーがちょっとおっかなそうに中の暗闇をのぞき込む。


「ほえ、とりあえずここから入れそうですわ。お客さんもこっから入ってたりして? ほんなら誰から入ります??」

「暗いな? てか、誰からでもいいよ」


「おまえから行けよ! いいトシのおっさんがお化けがコワイとか言うんちゃうやろ? そら、邪魔やからさっさと行けって、早うせいやっ、て、おわっ、いきなりコケんなや!!」

 相棒の灰色熊にムリクリ押されて内部に入った途端にそろって何かにけつまずいたらしい。せわしないおじさんたちの後からのっそりとひときわ大柄な身体を潜り込ませるベアランドだ。

「ふたりとも落ち着きなよ。いいおじさんがみっともないてか、あらら、ほんとに真っ暗だな……!」

 あたりはやはり真っ暗闇で、照明はおろかどこにも非常灯の明かりらしきすらなかったが、少しすれば目が闇に慣れるだろうとぼんやりした辺りを見回してみる。

 人の気配はどこにもなく、すっかりと廃れたそれこそが廃墟であるのが肌身で感じ取れた。

 ゴタゴタしながらその場に立ち上がるおじさんたちとまだ慣れない視界で気配だけで意思の疎通を図るが、いいや、直後にはみんなでぱちぱちとお互いの目を見合わせることになっていた。

「……おっ、明かりがついたね? いきなり! お客さんの仕業かな? 察するにどうやら中の様子に詳しいようだ。何でだろ? それにこの基地の主電源と動力部はまだ生きてるらしい。敵勢から奪還した後はそのまま本来の主のアストリオン側に引き渡す予定だったから、よしよし、破壊された廃屋をただくれてやるよりはまだ面目ってものがたったね!」

 舌なめずりしてひとりでほくそ笑む隊長に、はじめまぶしげに天井の照明を見上げる部下のおじさんたちは、これがやけに微妙な顔つきでうさん臭げにあたりを見回す。

「ちゅうか、なんかイヤな感じですわ。まんまと内部におびき寄せられたような、あっちの手のひらの上で遊ばれてるような、敵でないんなら堂々と姿を現せばよろしいのに……!」

「ほんまやな! いけ好かんわ。みんなでドツキ回したらな!」

「いいじゃないか。こうやってわざわざ明かりを点けてくれるあたり、不意打ちする気はないってわけで、ひょっとしたらそもそもぼくらのことに気付いてなかったりするんじゃないのかな? 何かぼくらとは別の目的で侵入したんだと推測できるよ、もはや♡ 見つけたら仲良くしてあげよう」

「ほんまですか? そやかてぼくらはどないするんです、これと言って目的もなしにいたずらに入り込んでしもうて」

「目的ないんか? なんで入ったんや??」

「探索だろ? ほんとに敵はいないのか、現実に投棄された基地なのか、内部にあぶないモノが残されたりしてないか……なさそうだけど」

 気楽に雑談しながらこれと行く当てもなしに建物の内部の奥深くへと無防備なさまでのそのそ歩いて行くクマ族たちだ。

 とは言えさすがにアーマーのパイロットともなるとそれぞれに腕に覚えありの強者だったから、ちょっとやそっとのものと出くわしても無難に対処ができる。

 で、入ってから三つ目の角を右に折れたところでだ。


 思いも寄らぬものとまんまと真正面で出くわして、思わず悲鳴を発するザニーと謎の闖入者だった。


 Part3



 これと言った気配もさしたる足音もなしに、だがそれは忽然といきなり彼らの目の前に現れた……!

 もとい、もっとしっかりと周囲に気を払ってさえいれば、事前に察知ができたのかも知れない。

 なにはともあれ、無作為に見たまんまのT字路となる通路の角をひょいと右に折れた先で、まさかの謎の先客、潜入者との突然の邂逅を果たした明るい赤毛のクマ族のおじさんだった。

 一番先頭に立って先導していたものだから、正体不明の相手とは、一番はじめに接近遭遇を果たすこととなるザニー中尉だ。

 おまけに真正面からもろにこれと衝突した挙げ句、のわっと背後にのけぞっては後続の二人の仲間のクマ族にこの背中をすっかりと預けることとあいなる。

 ドンっという鈍い衝撃音と、ザニーのくぐもった悲鳴と、何故か、ぶうっ!といったおかしな悲鳴が、ほぼ同時に発生する。

 ただしこの頃には辺りにはしっかりと照明が灯っていたこともあり、緊迫感は希薄なのだが。


 相手はいかついクマ族のおやじの体当たりをこちらもまた不意だったのか、それはまともに食らって派手に背後にのけ反っては、ただちにそのまま背中からそれは大げさに転倒していた。

 すってんころりん!

 さながらマンガみたいなありさまでだ。

「うわっ、いきなりなんだい? 大丈夫かい、ザニー中尉! あと、いまのぶうっておかしな悲鳴みたいなのは……誰だろ??」

 見れば、ずてんと大の字で仰向けにひっくり返る何者かを、全身の赤毛を逆立たせてびっくり仰天! そんないまだに身体ごとのけ反るザニーの背中越しに、はてなと見下ろす隊長さんだ。

 拍子抜けしてちょっと呆れた感じに見つめてしまった。

 すると仲間のもうひとりの中尉どの、灰色熊のダッツがこれまた呆れまじりの罵声を浴びせる。

 こちらはおのれの相方のクマ族に向けてだったが。


「おう、しっかりせいや! おもっいきりぶつかってもうてるやんけ? 油断しすぎやろ、ちゅうか、いま誰とぶつかったんや? なんやおもっくそぶちのめしてるやんけ! ええんか?」

「し、知らんわ! ほええ、びっくりしたぁ! ほんまにどないなこっちゃ、いきなりぶつかってこられてよけるヒマあらへんかった。不意打ちすぎるやろ……!?」


 ふうっと胸をなで下ろしながらようやく落ち着いた様子のベテランパイロットのおじさんに、背後からこれを支える若手のクマ族は小首を傾げながらに視線で謎の第三者を指し示して言った。

「不意打ちだったのかな? 今のって?? ともあれ見たところじゃ相手は、まあ、どうやら敵さんなんかじゃないみたいだね? だってそうとも、あれっておそらくは……」

 不可思議な目線で見ているさなか、地べたに尻餅ついた何者かからはおかしな悲鳴ともうめきともつかない声が発せられる。



「ぶううううううっ! いきなりなんなんだブウっ!? ブッ、ふっ、不審者がいるんだブウっ、しかも三人も!? おまけにみんなでかくてとっても人相が悪そうなクマ族なんだブウっ!! わわっ、おっかないんだブウっ、ピンチなんだブウウっ!!」

 あんまり聞き慣れないもの言いと驚きようで、はじめこちらをひっくり返ったまんま顔だけで見上げてくる何者かは、顔面を真っ青にしながら反射的にその場にいそいそと立ち上がる。

 見るからにひどく動揺している不審者だった。


 おまけやけにたじろいださまで明らかに視線では逃げ道を探し始めるのに、対してちょっと困惑した顔で、とりあえずこちらに敵意はないことを両手を挙げて見せるベアランドである。

 寄っかかるザニーをとりあえず背後に押しのけて、みずからが正面に立ってこの場のとっちらかった状況をとりなした。
 
「いやいや、そんなに怖がることないだろう? ほら、言ったら味方同士じゃないか、ぼくら? なんたって見たとおりルマニアの正規軍のぼくらに、そっちはこの大陸の、そうさ見たところじゃアストリオン公国の正規兵だろう、そこのきみってば?」

「ほんまや! あんまり見たことないアーマースーツ着とるけど、もろブタ族やんけ! じぶん? ぶうちゃん丸出しや!!」

「ほえ、アストリオンはブタ族が主流っちゅうんは、ほんまやったんですか? せや、やたらにぶうぶうゆうてるし、一番はじめに出会うたのがこのぶたさんちゅうことは、ほんまに多数派なんや? ちゅうか、人相が悪そうなクマ族ってどえらい人聞き悪いことゆうてるけど、じぶんみたいな顔面ぶっさいくなぶうちゃんに言われたないわ、そないなこと?」


 ようやく事態がそれと飲み込めたらしく、ここに至ってちょっとしかめ面でお互いの顔を見合わせる中尉どのたちだ。

 おかげでなおのこと人相が悪く見えるが、それを横目で見ながらやれやれと肩をすくめる隊長のおなじくクマ族だった。

 それから目の前でおびえてすくみ上がるばかりの当のブタ族、その実はまだ若いのだろう青年兵士に向けて言うのだった。

「まあまあ。ひと口にブタ族とは言っても、いろいろあるらしいんだけどね? そうか、きみって見たところかなり正当派の純血のブタ族と見受けるけど、そんなブタ族さんがこんなところで何をしているんだい? おまけにたったのひとりきりで??」

 とりあえず同盟を結んでいる友邦国家の人間同士、なるべく紳士的に臨んでやるのだが、三匹、もとい三人のクマ族の中でも特に背が高くてがっちりした体格のクマさんのもの言いには、これが如実に引きつった表情で二歩三歩と後ずさる若いブタ族だ。

「ひいいっ、た、食べられてしまうんだブウっ!! ぶぶうっ、誰か、助けてくれなんだブウ!!!」

「そんなわけがないじゃないか! ほんとに人聞きが悪いな!?」

 不覚にもついには目をむいてわめいてしまう。

 かくして閑散とした通路に響き渡るおのれの声に、はっと我を取り戻すクマ族の隊長だ。

 一度わざとらしく咳払いなんかして、改めて目の前のブタ族に向き直るのだった。 

「おほん! いいから落ち着きなよ、いい加減に? お互いに偶然にもこうして鉢合わせしてしまったわけだけど、それぞれにそれなりの理由があってのことだろう? だったらきみはどこの誰で、何の目的でここに潜入しているんだい? そう、あとついでにここがこんな状態なのも、それと説明ができるなら是非とも聞かせてもらいたいもんだよな……!」

「ぶっ、ぶううううっ……! 敵ではないんだブウ? いきなりだからびっくりしてまったブウけど、怪しい見てくれだから味方とはわからなかったんだブウ、ほんとに味方なんだブウ?」


 ひとの言葉をどうにも信用しかねるように不信感があらわなぶたっ鼻をひくひくとひくつかせるブタ族である。

 対してこちらはみずからの太い首をはてなと傾げるクマ族だ。

「? 怪しい見てくれって、あ、後ろのふたりのおじさんたちのことかい? ひょっとして?? まあ、確かにこのぼくなんかと比べたらだいぶ派手なカッコをしてはいるけど……」

 言いながらぐるりと背後を見回すのに、これに目と目が合うふたりの部下のおじさんたちは、どちらも納得したような釈然としないような何やらビミョーな面持ちだ。

「ほぇ、つまりはこのぼくらのカッコのことゆうてるんですか、そこのぶうちゃん? なるほど、かつての王宮付きの特務戦術曲技団、ひと呼んで〝サーカス・ナイツ〟の衣装やから確かにレアなんやと思うけど、そないにビビらんでもよろしいのに」

「なんやっ、人相が悪いやらカッコがダサいやら、ほんまに言いたい放題やんけ! ほんまに焼き豚にして食ろうたろか?」

「ダサいとまでは言われてへんのちゃう??」

「ひええっ! やっぱりおっかないんだぶう!!」

「やめなよ。話が進まないじゃないか? ん、それじゃこちらから話すよ。とにかく良く聞いてくれ。ぼくらはルマニアから派遣された、独立遊撃戦術戦隊のアーマー部隊パイロットで、後ろにいるのが仲間のザニー中尉とおなじくダッツ中尉どのだよ。ちなみにこのぼくが隊長のベアランド、少尉だよ。よろしくね!」

 相手からの自己紹介にあって、それまでの驚きの表情の中に今度はまた違った別種の驚きみたいなものが浮かぶブタくんだ。

「隊長、ベアランド? ブゥ、えらい中尉がふたりもいて、なのにこの若い少尉どのが隊長さんなんだブウか? 確かに一番強そんなカンジはしてるんだブウけど……?」


 いざここまでにいたる複雑な経緯も含め、いろいろとワケありの寄せ集め部隊だからほうぼうに違和感はあるのだが、いちいち説明するのが面倒なのでこの顔つき苦めるだけの隊長さんだ。

 挙げ句、後ろでひそひそ話が聞こえてくるのにはいっそうのこと苦笑いになる。



「ほうれ、困惑しとるで? あのぶうちゃん! そりゃそうや、階級下の若手のクマさんが階級上のベテランのおっさんふたりも従えとるもんやから、わけわからへんのやろ! それをゆうてるこのおれもわけわからんし!!」

「ええんちゃう? いざ外に出て、おのおのが乗っかってるギガ・アーマー見たら、それで一発でわかるんやろうし。あないにいかついお化けアーマーや。それをひとりで切り盛りしてるっちゅうたら、アーマー乗りならすぐにも目の前のおひとの実力のほどっちゅうもんが、イヤでも理解できるんやろ」

「ははは……っ、で、そっちはどうなんだい? さすがにもう落ち着いただろ?」

 左右の肩をすくめ加減に聞いてやるに、相手のやや小柄だが丸っこい太った体格のブタ族は、まだ緊張の取れない真顔でありながら鼻息荒く言葉を返してきた。

 とりあえず落ち着いては来たようだ。

 それだからビッと敬礼返しながらにうわずった声を張り上げる若手のぶうちゃん、もとい兵士である。

「これは失礼しましたんだブウ! じぶんはアストリオン大公国宮廷直属・近衛師団所属のガードムンク、タルクス・ザキオッカス准尉なんだブウ! 見ての通りのアーマー・パイロットで、友邦国の援軍に加勢するべくはるばる駆けつけて来たんだブウ!!」

「へえ、そう言えばそんなこと言ってたっけ? ぼくらの艦長(ボス)?? 確かにここでお互いに落ち合う予定ではあったんだけど、なんか大番狂わせでどっちらけちゃったな? なにせ攻略するべき基地はこんなありさまだし、あときみ、合流部隊はたったひとりだけなのかい? おまけにアーマーもなしに??」

 そんなちょっと白けたふうな顔で見返しながら、だったら基地の外に停めてあったあのジープはきみのやつかい? とついでに聞いてやったところ、ビクンと大きく跳ね上がってなおさらに声を荒げるブタ族くんなのだった。

「ブウ? ああ、あいにくじぶんの新型アーマーはまだ調整が間に合わなくて……あ! そうじゃなくて、じぶんは大事な役目を負ってここにはせ参じたんだブウ!! ある大切なVIPの護衛とこれを無事にルマニアからの援軍部隊に引き渡すために! ブウ、でもそれなのに肝心のそのひとが……!」

「ビップ? あ、それってひょっとして……」

 頭のどこかに引っかかりを覚えたらしいクマ族のビミョーな表情に、なおさら切羽詰まった形相のブタ族がわめいた。

 クマ族たちはみんな顔を見合わせてしまうのだが。

「ぶううっ、絶対に無事に送り届けるようにと言われたその要人と、気が付いたらはぐれてしまったんだブウっ!! 一生の不覚なんだブウっ、何かあったらただじゃ済まされないんだブウっ! だから大慌てで探していたんだブウっ!!」

「なんや、それであないに勢い込んでぶつかってきたっちゅうんか? えらい人騒がせなこっちゃ、こっちは心臓破けるくらいにびっくらこいてもうて、しんどいわあっ……このブウちゃん!」

「迷惑なこっちゃで! あと大事な任務をもろしくじっとるやんけ? ほんまに大丈夫なんか、じぶん??」


「ビップってのがやけに引っかかるけど、ぼくの頭の中の人物と一致するなら、ちょっと同情しちゃうかな? 話には聞いていたけど、すっかり忘れていたよ。ここど合流する予定だったんだ、あの根性ひねくれた天才博士、もういいトシした犬族のマッド・サイエンティストとは……!」

「?」


 おじさんたちが背後で顔を見合わせるのに、肩をすくめて会えばわかるよ、とことさらにビミョーな顔で視線をよそへと流すベアランドだ。げんなりした雰囲気がなぜか全身から伝わった。

 それから改めてブタ族の若い士官と向き合う。


「この中ではぐれたのかい? だったらそう遠くには行ってないだろう、相手はけっこうな年寄りで、軍人でもないんだから」

「博士のことを知っているんだブウ? とりあえず中を探索して、動力室を探り当ててこの電源を復活させたら、そこで忽然とその姿を消していたんだブウ! 外で気配がするとかなんとか最後に言い残して……」

「気配? あ、それってもしかしたら……! この中でかくれんぼするのならかなりの一苦労だけど、それだったらむしろ来た道をまんま戻ってこの外に出ればいいんじゃないのかな? 他に行くあてなんてないだろうし、あの根性ひねくれた博士さんの興味を引きそうなものって、もはやアレしかないわけだし!」

「?」


 なおさら首を傾げて目を見合わせる仲間のクマ族たちには、とにかく出ればわかるよ、とひたすら苦笑いの隊長さんだ。

 それだから新しく仲間に加わったブタ族を引き連れて来た道をまんま後戻りすることとなる。


「さあ、それじゃタルクス、だったっけ? ぼくらと一緒に来ればいいよ。お目当ての要人にはきっとそこで再会ができるから。ちょっと急ごう。まかり間違っておかしなことされたら厄介だし、あの偏屈で有名な天才開発者の興味本位なんかでさ!」

「わ、わかったんだブウ! よろしくお願いするんだブウ!!」

「ほんまにぶうぶうやかましいぶうちゃんだぶう、やのうて、ブタくんやわ。おかげでうつってまいそうや」

「ちゅうか、もろにうつされとるやんけ! にしてもここまで来てまた戻るんか? なんやめんどいのう」

 ちょっと早足で先を急ぐ若いクマ族に、ベテランのクマ族たちとブタ族がぞろぞろと続いて廃墟と化した基地の通路のチリやらゴミやらをドタバタと踏みしだく。

 かくして何事もなく外に出たところで、そこでまた新たなる人物と遭遇するベアランドたち一行なのだった。 

 

 Part4



 もと来た道を来たままにたどって、早足で最初の建物の入り口にまでたどり着いた、ベアランドたち第一小隊の面々だ。

 半開きの扉から見える外界の乾いた景色はそこにこれと言った変化は見受けられない。なのではあるが、いざ外に出る時にはちょっとだけ慎重にあたりを見回してからの行動となった。

 この直前、外部でおかしな物音と、かすかな振動が伝わったのに皆が一様にその顔つきをしかめる場面もあって。

 その時、キョロキョロと鼻先を揺らしながらのダッツ中尉の言葉には、その場の誰もがいぶかしく首を傾げていた。


「いま、なんや発砲音みたいなもんがせんかった? ちょっと振動みたいなもんも伝わってきたし?? この足下、ちょい揺れたよな、なあ」

「知らんけど。なんや他にもおるんかの、おかしなもんが?」

「いや、今のはきっとぼくのランタンだね? どうやら外の何かしらに反応して自己防衛動作を発動したみたいだ。すぐに戻って来いって、異常感知のアラームも出てるし。ほら!」

 自前の携帯端末の黒い画面の真ん中に、短く赤い警告文が出ているのを示しながら、入り口の手前で深呼吸してまずみずからが慎重に内部から乾いた外の大地に足を踏み出す。

「ん……!」

 相変わらず乾いた風が吹くあたりには、これと目立った変化は見受けられなかったろう。

 だがしかるに、それまではなかったはずのものが、ひとりの人影らしきがほどなく離れた場所に、ぽつん、とあるのを見つけるのだ。

 用心してうかがうに、それ自体にはこれと危険性みたいなものは感じられなかった。見たところはあるひとりの小柄な男性らしきそれは、場違いな全体が白一色で裾と袖のやけに長い特徴的な見てくれした衣服で、つまりは白衣のそれだとわかる。

 人気もなく殺伐としたこの場にはおよそふさわしくない、そのいかにもドクター然とした様相に、頭の中にあった人物のそれとすっかり合致するのを確信するクマ族の隊長だ。

 おなじくそちらを見ている背後のおじさんたちが、さては怪訝な表情してるのがはっきりと気配で伝わったが、さらにその後ろからは、ぶひっと興奮したブタ族の声まで上がったりする。

「ぶううっ、いたんだブウ! あのひとなんだブウ! 博士っ!!」

「やっぱりね! いや、でもあの博士にわざわざ反応したってわけじゃあないんだよな、このぼくのランタンは? まあ、あれも立派な危険人物には違いはないんだけど……?」

 ちょっと間の抜けた顔つきでジロジロと眺めてしまうのに、当の相手はなぜだかどこかあさっての方角を向いたまま、こちらにはてんで見向きもしない。

 気配ではとっくに気付いているはずなのだが?


 それに焦った護衛のブタ族くんがドタドタと駆けよってわめき立てて、はじめてこちらに身体を向ける白衣の人物だった。

「ぶうううっ! まさかこんなところにいたんだブウか? おかげで心配したんだブウっ、あんなにこのおれからは離れないでいてくれって、何度もお願いしてたのに!! ぶうっ!!」

 ブタ族の護衛、タルクスのそれはあわ食った言葉にあって、だがあいにくでこれをただ怪訝な表情で見上げる相手の博士だ。

 小柄で華奢な身を白衣に包んだ、かなり年配の犬族をちょっと真顔になって見つめながら、背後のおじさんクマ族たちには、ほらね?と意味深な目線をくれるベアランドである。


「VIPとも言われていた通り、かなりの重要人物ではあるんだけど、同時にまたかなりの問題児でもあるんだよね! あ、その顔つきからしたら、ふたりとも会うのは今日がはじめてなのかい? なら用心したほうがいいよ、いろんな意味合いで、ね?」

 声のトーンを落として何やらやけに含むところがあるもの言いに、やや困惑気味のおじさんたちは冴えない面持ちで返す。

「なんやどないなひとかと思いきや、ただの貧相な犬族のおじいですやんけ? 吹けば飛ぶよな? なにがあかんのですか?」

「いや、それやったら噂くらいでは聞いたことありますわ。こうしてじかに見るのははじめてやけど。人畜無害っぽいちみっちゃいワンちゃん、ちゅうか、味方の技術者のえらい先生ちゃいます? それがこないな前線にまでわざわざ出てきはったんや」

 反応ひどく冷め切ってこれと興味感心が希薄なベテラン勢に、それにつきすでに一度面識がある若手のエースパイロットは、若干のうんざり顔でついにはみずからの口元をひん曲げる。

「それってどんな噂だったんだい? 確かにルマニアきっての天才的科学者だけど、その性格や人となりが破綻しまっくってて、むしろそっちのほうが有名なんだよね。他に類を見ないほど独創的で革新的なアーマーの設計理論と思想がとにかくひとりよがりで独善的、かつこの言動が冷血にして非人道的な文字通りのマッド・サイエンティストってね……!」

 ちょっとため息まじりでまた問題の上着の白衣が見かけ紳士然とした犬族をみてやるのに、こちらのことなどまるで意にも介さないような憮然とした態度面持ちの博士だ。

 小柄だから見上げるブタ族に向けてぞんざいに言い放つ。


「やかましいぞ、この目障りなブタ族め。ひとを責めるよりもまずじぶんのふがいなさを恥じればいいだろう。護衛とは名ばかりで何の役にも立たない足手まといのこわっぱめが、片腹痛いわ」

 みじんも容赦がない毒舌、聞きようによってはいわれのないただの誹謗中傷だ。それだからこれを真正面でもろに食らったブタ族のパイロット、タルクスは身体ごとのけ反っておののいた。

 後ろで聞いてるクマ族たちからしてもどん引きだ。

「ぶううっ!? なんてことを言うんだぶうっ! 信じられないぶうっ、確かに護衛ではあるけど、そんな相手の一挙手一投足をいちいち見張ってなんかいられないんだぶうっ!! そっちこそ子供じゃないんだからちょっとは歩み寄ってくれないとっ……」

 傍から聞いているぶんには納得のもの言いなのだが、独りよがりが服を着て歩いているかの犬族さまにはまるで通じない。

 言い切る前にあっさりとはたき落とされていた。

 おまけなおさら窮地に追い立てられる新兵くんだ。

「黙れ、たわけが。およそ無駄口と耳障りな鼻息だけだろう、きさまにできることは? おまけに図体ばかりでろくに空気が読めもしない、クマ族などという余計なものをぞろぞろと引き連れてきおって、つくづく役に立たないエスコートだな。言葉の意味、わかっているのか?」 

「ぶううううううっ!?」

 あえなく卒倒しかけて言葉を失う友邦国の友軍パイロットに、やむなく横からこの口を挟む若いクマ族の隊長さんだ。

「あらら、このままじゃお互いの友好関係が崩れちゃいそうだな? せっかくの援軍のパイロットくんとの! おまけに身内であるはずぼくらまでぶった切られちゃってるけど、ならさっさとこの身柄を引き渡してもらっちゃおうか! とっとと首根っこ掴んで黙らせたほうがいい……!」

「はあ、なんや気い悪いわあ! 言いたい放題やんけ?」

「ほええ、あないに噛みつかれてまうんですかぁ? 普通に口を聞いただけでえ? ほんまにしんどいわあ……」


「まあまあ、このぼくが相手をすればいいだけのことだから」

 頼んます! とただちに敬礼されてすっかり任されてしまう。  

 ちょっと苦笑いしてから改めて小柄な犬族の老人に向き直る。


 すると何か言うよりもこちらを低くからジロリと見上げてくる博士ときたら、有無も無きまま仏頂面して悪態の口火を切った。
 
 やはり味方相手でもおかまいなしだ。


「ん、そもそもが貴様、何を間抜け面してそんなところに立っている? お前がいるべき場所はとうに決まっているはずだろう。まったく職務放棄もはなはだしい。まともなヤツが誰一人としておりはしないのか、このわたしを除いては?」

「ひどいな! みんないたってまともだろうさ、博士ひとりをのぞいては? あ、じゃなくて、博士、無事で良かったよ。護衛のこのタルクスとはぐれてどこぞかで迷ってるって話だったから? 見たところじゃ余計なこともまだしてないみたいだし、ぼくのランタンとかにさ!」

 ほとほと困って苦笑いの対応に終始するクマ族に、札付きのクレーマーの犬族は不機嫌極まりないさまでのたまう。

「ふん、迷っていたのはそこの愚図のブタ族だろう。余計なこととはなんだ? 久しぶりの対面にある種の感慨にふけっていただけのこと。そうとも、このわたしの最高傑作たるギガ・アーマーとのだな?」

「ああ、王陣の番兵ならいたって健在だよ。バンブギン……あいにく今はランタンて呼ばれてるけど。やっぱり懐かしいのかい? あとぼくのこともしっかり覚えていてくれたみたいだし」


「ふん。貴様らのくだらない番犬など造った覚えは無い。大仰な名など、ただのお飾りでなんの意味も持ちはしないのだから。あいにく貴様の名前も覚えてはいないしな。ただ現状で唯一あれを動かせるパイロットとしての意義なら、無論、理解はしている。それ以外、貴様に意味などありはしないだろう?」

「ほんとにひどいな!! 名前くらい覚えておいてくれよ、ベアランド、こんなに覚えやすい名前もあったもんじゃないんだからさ。ぼくらの国じゃあ、ね、シュルツ博士? どうしてこんなところで合流したのか理由を聞きたいけど、どうせろくなことじゃないんだろう?」

 ひどく苦い顔してあえて聞くまいと視線を逸らしてから、改めて小柄な犬族に問いかけた。

「ああ、そうだ、ぼくのランタンが今し方に警戒行動に出たはずなんだけど、まさか博士を相手にしてってわけじゃないよね? いくら危険人物か知らないけど、たかが人間相手に反応することはないはずだから。だったらこの場で果たして何に警戒したのか、博士、何か心当たりがあったりはしないかい?」

「知るか。このわたしの知ったことではない。わたしの興味は目下あそこにあるアレにしかないのだから。見たところではそれなりマシに扱えているようだな? メンテナンスはさぞかし腕がいいようだ。余計なアレンジを加えていないところを見ると……」

 何を聞こうがどこまでも小憎らしく横柄な態度でつっぱのける博士は、あくまで自分の言い分をまくし立てるのみだ。

 対して顔つきがげんなりとなる隊長だった。

「はあ、頭のてっぺんからつま先まで完全オリジナルで、他に共有できる機体がないんだから、アレンジなんかやりようがないじゃないか。それに見たらビックリするよ。ただし内気な子だからお手柔らかにね……あ、聞いてるかい? 博士!」

 およそ他人の言葉を聞いてるのかいなのか、さっさとその場からきびすを返す犬族の老人にいよいよ匙を投げかけるクマ族だ。

「ふん……貴様らの艦はまだ来ないのか? そろって愚図ばかりだな。早くドックに収納してあれの運用データを見たいところなのだが。貴様の評価はその後でだ。良ければ名前の一つでも覚えてやる……!」

「今さっき名乗ったばかりじゃないか! あ、ボディ、たぶん熱くなってるから不用意に触らないでくれよ。手が焼けちゃうし、ヘタにいじられたくもないから! ああ、ほんとにこらえ性がないじいさんだな! 完全に自分を中心にして世界が回ってると思ってるよ……」

 最後の悪態は小声でこの足下にだけ落として、左手にそろって直立する三体のアーマーの、中でもこの一番奥に控える大型の巨人へと早足でにじり寄る小柄な影をみやる。

 背後でおじさんたちが文句をぶうたれるの聞き流しながら、ぐるりと辺りに視線を送る隊長だ。

「なんや、おれらのアーマーは完全に素通りしていきよったで、あのおいぼれのせんせ? ほんまに気い悪いわ! 仮にもアーマーの設計者ゆうんなら少しは気にせいよ」

「ええんちゃう? 絡まれたら厄介やし。こっちもあないな偏屈なおじいと絡みたないし。少尉どのにお任せやわ」

「まあ、そうだね……!」

 辺りにおかしな気配がないことを改めて確認しながら、ちょっとだけ内心で首を傾げる部隊長だ。

 鼻先をくすぐる乾いた風にかすかな違和感じみたものがあるのは気のせいか?と風の吹き寄せる彼方を見やる。

 虚空に目を懲らしてもそこに何も答えるものはない。

 ならじきに母艦が来るだろうことを考慮して、そちらに意識を向けるのだった。ここまではおおむねで良好だ。

 ブタ族の青年に博士のおもりを今しばらく頑張ってもらって、それぞれがみずからの持ち場に戻るように指示する。 

 背後の建物、放棄された基地の裏手の絶壁、その頂上から静かに見つめる何者かの目線があるのは気付かないまま……!


                  ※次回に続く…!

アストリオン・中央大陸(ルマニア・東大陸/アゼルタ・西大陸)
アストリオン・種族構成・ブタ族、イノシシ族、イノブタ族などがおよそ半数を占める。アストリオン自体は宗教色の強い、宗教国家でもある。元首・イン ラジオスタール アストリアス(家)

アストリオン・大陸構成
東側 アストリオン 60%
中央砂漠 空白地帯 25%
西側 ピゲル大公家 15%
 西側は過去にあったルマニア(タキノンが領事だった?→後のタルマとの確執になる?)とアゼルタのゴタゴタで独立を宣言したピゲル公爵の独立領となり、後にアゼルタと同盟関係になる。

主人公、ベアランドたちが目指すのは、大陸の北岸地域から侵入して、大陸内陸部の中央砂漠にあるアーマー基地。今は西の大公家と結びついたアゼルタの支配下にあるのだが…?
 実は無人化している?? レジスタンス(ベリラ、イッキャ?)の暗躍…!?

カテゴリー
DigitalIllustration Novel オリジナルノベル SF小説 ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア○記/Lumania W○× Record #018

#018 ※今回からグーグル アドセンスの都合でタイトルの表記が一部修正されています(^^;) はちゃ~…!

 Part1

 
 晴れ渡る空の下、西から吹く風はとても穏やかだ。

 海面から高度およそ1000メートルの空中での対峙から両者、しばしの沈黙――。

 まずはどちらから動くこともなく、しごく冷静に互いの隙をうかがう二機の隊長機だった。

 その内の一方で、とかく大型で全体が濃緑色をした新型アーマーを駆るクマ族の若きエースパイロットは、ペロリと舌なめずりしてひとりごちする。

 背後でやたらドタバタしているらしいベテランのおじさんパイロットたちのわめき声が今も左右のスピーカーからリアルタイムで垂れ流しだったが、そんなこと一切気にもとめずで正面のメインモニターをひたすらに注視していた。

「ふうむ、やっこさん、さっきからまるで動くそぶりが無いけど、どうしよっうてのかな? このまんまにらめっこするわけじゃないだろうに、さてはこっちから仕掛けるのを待ってる……なんて受け身なヤツでもありゃしないよね? んっ……!」

 不意に耳朶を打つ、どこからか通信が入ったことを知らせる短い電子音とともに、メインモニターの一角にこの通知ウィンドウが表示される。

 ただの一瞥してそれが目の前に仁王立ちする敵アーマーからのものだと理解するベアランドだが、やや苦笑いしてどうしたものかと考え込んだ。

「あらら、軍用でなくてちゃちな民間用の一般回線なんかで通信してきてるよ……! 確かにあちらさんの軍用回線のコードなんてわからないから、これが一番手っ取り早いんだろうけど、えらく割り切った隊長さんだな? どうしたもんだか……」

 言いながらも手元のコンソールに利き手を伸ばしてスイッチをあっさりとオンにするクマ族の隊長だ。

 こちらもとかくあっさりとした性格の持ち主だった。

 するとただちに目の前の画面に見たこともない若い軍服姿の男が、このバストアップで出現するのだった。

 てっきり音声でのみの交信をするものだと思っていた若いクマ族は、目をまん丸くして思わずそれに見入ってしまう。

 ぱっと見ではもっさりとした見てくれの地味なカーキと焦げ茶の軍服、いわゆるパイロットスーツであったが、その実はすらりとしたスリムな体型であることがうかがえる男は見たところまだ若いキツネ族で、それがやけに落ち着き払ったさまでこちらを見返してくれている。

 堂とした相手のさまに、片や内心でビックリしているのを見透かされてはいまいかと前のめりだった姿勢を背後へと落ち着けて冷静を装うのだが、ちょっと苦笑いして肩をすくめてしまった。


「あらら、まさかの画像付きで顔まで拝めるとは思ってもみなかったね! ビックリしちゃったよ。あ、てことは当然、こっちの顔もバレちゃってるんだ? いやはやまったく、誰でも傍受可能な一般の通信回線で、隊長さんがやるようなことじゃないだろうさ……!」


 今さらだと取り繕うのをやめて思ったことをまんまぶっちゃけてやるに、この表情がぴくりとも変わらない相手機の隊長、こちらもまだ若いのだろうキツネ族の男は、済ましたさまで静かな口ぶりのもの言いをしてくれた。

「フッ……! このような見え透いた挑発にいともたやすく乗ってくれるあたり、貴様もなかなかのうつけなのであろう? そのふざけた見てくれのアーマーといい、相手にとって不足はなし。あらためて気に入ったぞ……」

 それはやけに雰囲気のあるさまで、おまけ勝手に何かしらの納得をしたものか?
 
 静かに左右の目を閉じる、キツネ族の男だ。

 アーマー同士の戦闘中に大した度胸だった。

 このあたり、えっ?と妙な違和感を感じる若いクマ族は、とてもビミョーな感じでそれを見てしまうが、真顔で瞳を開ける相手のキツネはまたさらに好き勝手な言いようでのたまうのだった。

 静かな口ぶりでやたらな凄みがあるが、一方的に聞かされるクマ族の耳には、もはやちょっと痛い感じで聞こえていたか?

「名を名乗れ……! この場を限りに切って捨てるつもりだったが、いいや、貴様とは長い付き合いになるのやもしれん……そうよ、これまでの戦いが物語っている。不敵な面構えがやはりあなどれぬ男よ、違うか、クマ族の隊長どの」

「は? 何、言ってんの?? 名を名乗れっていきなり……! そういうのってまずはそっちから名乗るものなんじゃないのかな? 別に構わないんだけど、名乗らないとはじまらなかったりするのかな?? なんかおかしな展開になってきちゃったよ。通信に出たの、ひょっとして失敗だったかな……」

 また大きく肩をすくめてしまうのに、モニターの中でこちらと対面する見てくれシュッとしたさまのキツネ族は、相変わらずひたすら静かなまなざしでこちらを見ている。

 内心で舌を巻くベアランドだ。

「やれやれ、わかったよ。名乗ればいいんだろう? 戦場でのんきに名刺交換もありゃしないもんだけど、ぼくの名前はベアランドだよ。呼ぶならそう呼んでくれ。まんまで笑っちゃうよね! よもやフルネームは必要ないんだろう? なんならこのスリーサイズも教えてあげようか??」

 そう観念したかに告げてやるに、だが茶化したセリフは一切、聞き入れないひたすら真顔のキツネ族は、どこまでも落ち着き払ったセリフまわしでまたほざくのだった。

「ベアランド、とな……なるほど。心に留め置いてやろう。この場で果てるような見かけ倒しの腰抜けではないと見越して……! わたしの名は、キュウビ・カタナ……カタナと呼ぶがいい」

「あらら、ご丁寧にフルネームで! でもそんなの呼ぶ機会はお互いにないんじゃないのかな? とりあえず覚えておくけど。なんの時間だったんだ。もう切ってもいいよね? この通信??」

「フッ、それがこの戦いのはじまりだと、貴様がとくと理解しているのであればな……好きにするがいい」

「あ、そ! じゃあね!! 背後のおじさんたちがえらくはしゃいじゃってるし作戦遂行中だから、遠慮無く切らせてもうよ! お互いに後悔しないように全力を尽くそうね、気取ったキツネのイケメン隊長さん!!」

「カタナだ。そう呼ぶことを今し方、許したはず……」

 もはや聞く耳持たないクマ族の若い隊長さんだ。

「ようし、ランタン、パワー全開でただちに戦闘機動だ! あのおかしな白いアーマー、やたらにすかしたキツネ族の隊長さんをとっとととっちめてやるぞ!! 全砲門開いてお前の本気をしっかりと見せてやれっ!!」

 Part2


 ※ベアランド小隊、ダッツとザニー、キュウビ小隊、チャガマとゴッペのコンビのアーマー・バトル!時間があれば…!!  
             保留w


 Part3


 大空に縦横無尽に無数の光りが走り、轟音がとどろく!

 ビームと銃弾が激しく交錯する二機のアーマー同士の決闘は、いよいよ佳境を迎えつつあった。

 ベアランドが搭乗する新型アーマーの周囲を凄まじいスピードで駆け巡り、四方八方から銃弾を見舞う敵のキツネ族のアーマーは、一瞬だけその動きを止めて、また互いに正面でこの機体を向かい合わせる。

 白の可変型アーマーが今はスリムな人型のロボット形態となって空中に直立して静止。そのコクピットの中で正面のモニターをにらみ据える若きキツネ族の隊長は、異様な見てくれをした緑色の大型アーマーに向けて言葉を発するのだった。

 あいにくとあちらからの通信は切られていたので聞こえはしないのだが……。

「フッ……! どうした、まだその実力の全てを見せてはいないのだろう、貴様は? のらりくらりと攻撃をかわすだけでは戦には勝てはしないぞ。いい加減に本気を出すがいい……!!」

 いいざま殺気を放って操縦桿を手前に引き寄せる、自らをカタナと名乗ったキツネ族は目に止まらぬ足裁きと利き手のクイックモーションで機体をジェットフライヤーに変形、急上昇させる!

 対するクマ族の隊長、ベアランドは飛行タイプで特攻さながらに急接近する敵影、これを反射的に真正面から受けてやろうと待ち構えるが、それが突如として目の前で急停止、おまけロボットのアーマー形態で対峙するのにちょっとだけ意表をつかれる。



「そんな無理矢理な突撃かけようがパワーとガタイのでかさじゃこっちが上さ! はたき落としてくれるっ……て、なんだ、いきなり急停止してそんな見つめられても? て、また!!」

 つかの間の静寂だけ感じさせてさっさと飛行形態に変形、かつ上空へと逃げ去る敵影を一度は視線だけで追いかけるが、また直後には舌打ち混じりに背後へとその視線を転じていた。

 目にも止まらぬ素早い機動で相手を攪乱した後、この死角を突いてくる敵のやり口はとっくに理解していた。

 よって思ったとおりにこの機体の背後に上空から急襲かけてくる白いアーマーの影を、目の端でチラとだけ確認するなり迷わず手元のトリガーを引き絞るベアランドだ。

「ほんとにひとのバックを取るのが上手だな! いやらしいったらありゃしないよっ、でもあいにくとコイツに死角なんてありゃしないんだ! そら、ランタン、一発食らわせてやれ!!」

 ドドンッ……!!

 大きくていかつい見てくれの機体の至る所、果ては背後にまで装備した高出力のビームカノンを一斉射して不意打ち見舞ってやるが、憎らしいこと相手はかするでもなくこれを難なく回避してのける。

 だがおよそ山勘で撃ったのは、はなからただの牽制のつもりだったクマ族のエースパイロットは、その隙に大型の機体をぐるりと反転させてまた敵のアーマーと真正面で対峙する。

 ここでまたつかの間のにらみ合い……!

 その末にもはやいっそゼロ距離射程での肉弾戦、ドッグファイトに持ち込もうかと図体のでかい機体のスロットルを利き足で踏み込むベアランドだが、あいにくと敵の白い影はこの姿をまたしてもやでいずこかへとくらましていた。

 スピードではいささか分が悪いのがイヤでも思い知らされる。

「あらら! こりゃあらちがあかないな? いつまで経っても無意味な追いかけっこのまんまだよ。ひょっとしたらこっちのエネルギー切れを狙ってたりして? あの異常なスピードに対抗するのはできなくはないけど、一か八かなんだよな……!」

 通常よりも巨大な機体の鈍重さを補うためのギミックとして、それすなわち本体から切り離して遠隔操作が可能な、両腕の独立機動型のハンドアームカノンがそれを担っていたが、これは既にネタがバレているので無闇やたらには使えないと承知していた。

 相手のただならぬ力量から察するに、これ見よがしなロケットパンチは簡単によけられた挙げ句にまんまと撃ち落とされたりしかねない。母艦でこの帰りを待っている若いクマ族のチーフメカニックの青ざめた顔が脳裏によぎって、かなりためらわれた。

 おまけ壊れたパーツを海から引き上げて持ち帰るのもかなりの難儀だ。開発経緯が何かと特異な新型機では従来機との部品の共有も困難だった。

 内心で舌打ちしてしまうが、ふっと正面のメインモニターの左の隅で何やらやたらにガチャガチャとした光景が見切れた気がして、そちらに意識を向ける隊長のクマ族だ。

 すっかり失念していたが、同じ部隊のメンバーのベテランのおじさんクマ族たちがかなり混乱したさまで自機のアーマーを右往左往させているのにパチパチと目を白黒させる。

「あっ、ダッツ中尉とザニー中尉どの、経験豊富なやり手のクマさんコンビがずいぶんと苦戦してるみたいだな? 意外と?? そういや相手のおんなじ赤と青のカラーリングのアーマー、どっちもかなり特殊な兵装だったけど、出撃前のブリーフィングで説明してなかったけ?? 所見でアレは確かにしんどいか……!」

 左右のスピーカーはやたらとうるさいから今はオフにしていたのだが、あらためてオンにすると思った通りだ。

 やかましいおやじたちのわめき声が左右の耳をつんざいた。

 やはりこれまた思った通りの展開らしい。

 それにつき、ははん、とひとりで納得する隊長さんだ。

「そうそう。あの赤い大型のアーマー、相手からのビームのエネルギーを機体前部にあるあのおかしな形のシールド・ジェネレーターで吸収して、おまけに跳ね返すだなんて反則じみたマネをするんだよね! それを相棒のあのやたらに身軽で小回りがきく青い小型のアーマーがさらに空中ではじき返して、あらぬ方向からカウンター攻撃を繰り出すだなんてこれまたとんでも戦法で相手を攪乱するという……あ、そっか! その手があったか!!」

 ピンと何かしら閃いた顔つきでペロリと舌なめずり。

 おまけに頭の左右の耳を楽しげピクピクさせるクマ族は、にんまり顔でもう傍らの白いアーマーへと向き直る。

「へっへ、いいこと思いついちゃった! 毎度毎度で申し訳ないんだけど、この場をお開きにするとっておきの戦法がぼくらにはできるんだよね? 思えば前回もピンチをこれでまんまと切り抜けたし♡ あの赤いアーマーくんには悪いんだけどさ……!」

 アーマーの主動力源、メインエンジンのパワーバランサーを素早く片手で操作しながら手元の通信機のスイッチをオンにする。

 すると通常の一般回線のそれはまだ生きていたようで、そちらに向けてしたり顔して言ってやる。

「おほんっ、ええ、聞いてるかい、キツネ族のやり手の隊長さん! ん、カタナ、だったけ? あいにくとこの場で決着はつけられなかったけど、とりあえずで判定勝ちくらいは決めさせてもらうよ。当然このぼくらのね!」

「……貴様、何を言っている? うつけたことを……」

 やや間を置いて聞こえてきた怪訝な相手の返答には一切、耳を貸さずに一気にまくしたてた。

「悪いけどこっちもいろいろと忙しいんだ! 本来の目標はもっと先だし、なるべくならみんな無傷でたどり着きたい。ここでこんな消耗戦は望まないんだ。戦場は広いんだから、またしかるべき時にしかるべき場所でお相手するよ。それじゃまたね!」

 言うなり今度は左右のスピーカーに向けてがなるクマ族だ。

「ダッツ、ザニー、両中尉とも流れ弾に気をつけてくれよ! ちょっと無茶なことをするから、とにかく全力で回避してね!! それじゃっ、ランタン!」

 いきなりのおまけ何やらただならぬものの言いに、左右の耳にはびっくりしたようなおじさんたちの声が絡みつくが、やはり一切気にせずで握った両手の操縦桿に力込めるベアランドだ。

「よっし、なんの予行練習もなしにいきなりでアレなんだけど、フルパワーで全砲門一斉射撃だ! フルレンジバースト! ついでにメインのコアブラスターも完全解放、拡散なしの一点集中でぶちかますよっ、狙いは当然、あの赤いアーマーの突き出た土手っ腹のジェネレーターだ!!」

 一度深呼吸しながら手前に引き寄せて、雄叫び発してただちにそれらを思い切りに押し倒す。

「そおらっ、ゆくぞ、ランタン! おおおおっ、フルバーストしてからのおっ、はああっ、ライトニングボルトぉおおっ!!!」

 その瞬間、すさまじいエネルギーの圧がその機体の全身から吹き上がるのがよそからでもはっきりと見てとれただろう。

 巨大な身体中の至る所に装備された無数の砲門が一斉に光りの光弾を四方八方へと吐き散らす。

 それはそれは壮観な眺めだが、その場に居合わせた周りからしてみればおよそただ事ではない大惨事だ。

 敵味方お構いなしに放射状に放たれる光りの束、ひとつひとつが戦艦の主砲さながらの灼熱のエネルギー弾は、ただの一発食らえば機体が粉みじんになりかねない。

 しゃがれたおじさんたちのたまぎる悲鳴や怒号が聞こえたが、そこにはひとつも耳を貸さないで画面の左の奥にターゲットした目標をにらみ付ける隊長だ。

 機体前面下部、腹からやや下のおよそ股関節あたりに位置する固定型の大型キャノンはここぞという時のための奥の手で、ひとたび唸りを上げれば射線上にあるもの全てを灰燼と化すほどの飛び抜けた威力を秘めていた。

 ただしその代わりにひとたび撃てばエネルギーの損失が激しく連発は不能、かつこれ以降の機体の戦闘機動にかなりの支障を来したりもした。

 ぶっちゃけ機体上部に装備した戦艦ばりの大出力シールドジェネレーター(バリア)の稼働がしばらく不可能になるほどの大食らいなのだが、そこにつけ込まれてはかなりキビシイ局面におちいる。

 言うなれば諸刃の剣だった。

 よって右手のモニターに映る敵の隊長機を目の端っこだけで意識しながら、だがこの焦点はしっかりと赤いアーマーにのみこの意識を集中させるやり手のクマ族だ。

 してやったりと右の拳でガッツポーズをつくる。

「やったね! 大当たり!! ど真ん中にど直球でぶち込んでやれたよっ、さすがにキツいだろう? 戦艦の主砲を何発もまとめて食らった大ダメージはいかにエネルギー吸収型の新型ジェネレーター搭載機でも無事でいられるはずがない! ほうらね!!」

 機体各部から白い煙か蒸気みたいなものを発する赤いでぶっちょのアーマーに、にまりとほくそえむ隊長さんだ。

 左右のスピーカーからは部下のおじさんたちからあわ食った声が聞こえるが、やはりしれっと聞き流した。

 そうしてぐるりと視線を左手のモニターへと向かわせる。

「ちょちょちょっ、なんやねんっ、いきなり!? びっくりしたあ!!」

「た、た、隊長、いきなりなんですの? わけがわからへん、どないして??」

「いいから! ぼくらの勝ちだよ、それだけだ! 見てればわかるさ♡」

「なんでぇ?」

「ほええ??」

 ひどく動揺したおやじたちの声をやり過ごしながら、相手の隊長機の挙動にのみ意識を集中――。

 するとつないだままの通常回線からかすかな舌打ちめいたものが聞こえたようで、回線をぶち切るなりに白いアーマーはあらぬ方向へとこの向きを転じる。

「ハッ、やっぱり、そうなるよね? 前回の時もそうだったけど……!」

 頭のメインカメラが追尾する景色、およそこちらからの射程を外れた大回りの機動で被弾した仲間の元へと合流する白いアーマーは、息も絶え絶えかのような赤い大型アーマーと青い小型アーマーに転進を命じて、みずからはダッツとザニーのアーマーに威嚇の射撃を食らわせながら自身の機体もじりじりと後退させる。

 これにて勝負ありだ。

 負けじと気を吐くふたりのおじさんクマ族たちには深追いはするなと伝えながら、遠ざかっていく三機のアーマーをモニター越しに見送るベアランドだった。

「ふうむ、ああやって負傷した部下を見過ごしておけないってあたり、やっぱりいい隊長さんなんだよな? 性格的にあんまりおともだちにはなりたくないけど。やれやれだ! さすがに3度目はもう通用しないだろうから、また他の手を考えなくちゃね。そもそもリドルはこんな無茶なやり方、あんまり賛成はしてくれなさそうだし……」

 いいながらちょっとだけ思案を巡らせて、残る仲間の機体に向けて通信を開く。

「それじゃ、ダッツにザニー中尉、休む間もなしにアレなんだけど、見たところどっちも機体に目立った損傷はなさそうだからこのまま目的地のアストリオンに……ん?」

 不意にモニターの真ん中に浮かび上がる注意喚起のビックリマークと短い電子音の警告に、場の空気がちょっとだけ静まりかえる。

「え、今さら新手かい? いや、なんだろう、何かがぼくらの背後からやけに低速で近づいてくるぞ? これって……」

 機体をぐるりと背後へと巡らせて、メインカメラが改めて捉えた映像に見入るクマ族の隊長はややもせずに納得していた。

「あ! あれって、ビーグルⅣだよな? リドルの補給機か! わざわざここまで追っかけてきてくれたのか、ありがたいな♡ 燃料と弾薬の補給ができるし、日が暮れる前までに内陸のポイントまで行けそうだ。それじゃ、合流するよ、我らが天才メカニックくんのお世話になろう、まさかの空中補給とは、でもこれはこれでいい訓練だよね!」

 強敵との戦いから仲間の補助を受けて、また新たな任務、本来の目的へと駒を進めるベアランド小隊であった。

 目的地の中央大陸はひたすらな広がりを見せて大海に横たわる。

 その遙か内陸の地に、目指すべきターゲットがあった。

 戦いはこれからなのだと弛みかけた気を引き締めるクマ族小隊である。

              ※次回に続く……!
 

プロット  ベアランド vs キュウビ
     お互いに通常回線でのやり取り、
     ランタンとゼロシキの空中戦
     ダッツ、ザニー vs チャガマ、ゴッペ

※本記事はまだ執筆途中です(^^;) 創作過程をニコ生ライブで絶賛公開中!オリジナルのキャラクターと話せたりキャラが歌ったりするよ♪

カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record NFTart NFTartist Novel オリジナルノベル SF小説 ファンタジーノベル メカニックデザイン ルマニア戦記 ワードプレス 寄せキャラ

ルマニア戦記/Lumania War Record #017

#017


 Part1


 若いクマ族の小隊長が見ているさなか、おじさんのベテラン・クマ族コンビと、対してこちらはまだ若手なのだろう、敵アーマー・パイロットたちによる、新型アーマー同士の空中戦は、いざ始まればすぐにもこの大勢が決しようとしていた。

 経験値の差もさることながら、それぞれのアーマー自体の性能差がもはや歴然、結果はやはり、はなから知れていたらしい。

 よってあと少しで勝敗がつくのではと思われたところでだ。

 だが不意に、それぞれのコクピット内に短い警告音、甲高いアラートが鳴り響く……!

 これに反射的に目にした手元のレーダーサイトには、目指す大陸の西海岸域方面から出現したとおぼしき、また新たなる複数の敵影が、こちらに向けてまっすぐ急接近するのがはっきりと見て取れる。

 これによりようやく今回の本命が登場、本番が始まったのだなと気を引き締めて正面のモニターに臨む、隊長のベアランドだ。

 当人としても、そろそろだろうと予期はしていた。

 迫り来る影は、いつぞやに見たものとまさしく同一であることを、それとしっかり視認もする……!

 強敵だった。


 ベアランド小隊(第一小隊) 隊長・ベアランド少尉(クマ族)、部下・ダッツ中尉(クマ族)、ザニー中尉(クマ族)と、その搭乗するアーマーのイメージ図。ベテランクマ族コンビのアーマーに、めでたく色が付きました!

※↑上のイラストは、OpenSeaでもNFTアートとしてリリース予定! はじめはお安くするので、興味のある方はのぞいてみてください(^^) ↓

https://opensea.io/oonukitatsuya


 接近する影は都合、三つ。

 そのどれもが以前に会敵したことがあるものと同じであることを、正面のメインモニターに一時的に浮かび上がる、戦況表示ディスプレイがそれと教えてくれる。

 アーマーの頭脳たる高度集積戦術コンピューターが相手機のデータを適宜に解析、覚えていたものと100%の確率で完全適合。

 それらの中でもこの先陣を切ってこちらに突撃してくる高速機動型のアーマーは、これがなかなかにあなどれない実力者であることを、もはやその身をもって経験している隊長さんだ。

 これはさしもの腕利きのベテランクマ族コンビでも、油断していたら一撃でのされかねないな……!!


 と、それまで背後に控えさせていたみずからの大型アーマーを、慎重にゆっくりと微速前進させる。

 どちらも戦いの最前線を渡り歩いてきた有力者たちなだけに、何かと我が強い、ダッツとザニーの両中尉どのたちだ。


 よってこれにさてなんと言ってこの場を説明したものかと内心で頭をひねるのだが、何か言うよりもあちらのほうから何やらして、いささか気の抜けような声が通信機越しに入ってきた。

「はえ、なんやようわからんけど、相手のひょろっこいアーマー、どちらも下がっていきよるでぇ? カトンボが気配を殺して姿をくらますみたいによう? 隊長ぉ、どないしましょ??」

「え、そうなのかい? あ、ほんとだ! あっさり引いていくね? まったく引き際がいいやら、やる気がないのやら??」

 これまでダッツとザニーの相手をしていたはず、モニターの正面に捉えられていた二機の飛行型アーマーは、そのどちらともが新手が入ってくるのと入れ替わりに、この機体を我先にとその場の戦闘空域から離脱して遠ざかっていく。

 すぐにもただの点と点になるのだった。

 事実、目の前のレーダーサイトからも、この機影がことごとくして消失……! 

 援軍の到着に、これ幸いとしっぽを巻いて逃げるかのごとくにだ。傍目にはあからさまな敵前逃亡かのようにも見えたが、新手の敵影ときれいに入れ替わるさまからすれば、必ずしもそういうわけではないらしい。

 はなからそうする算段だったのかと首を傾げるベアランドだ。

 そう、つまるところで主力がこの場に到着するまでのただの時間稼ぎ、言うなれば〝噛ませ犬〟だったのか?

 するとこのあたりにつき、もうひとりのベテランのクマ族のパイロットザニーがこともなげに言ってくれる。

「ほぇ、ほんだらばあないなザコちゃんアーマー、ほっといてええんちゃう? それよりもまた勢いのあるのがようさんよそから来ておるさかいに? 言うてまえばあちらさんが本命なんやろ」

 こちらの隊長にではなく、同僚のおじさんに向けて言ったものとおぼしきセリフには、思わず苦笑いして同意する。

「あ、するどいな! それじゃここからは、あの後からぞろぞろやって来たのにみんなで集中だね! ちなみにぼくは既にやり合ったことがあるんだけど、どれもなかなかの強敵ぞろいだよ?」

 その瞬間、通信機越しにやや張り詰めた空気が伝わるが、おびえよりも低いうなり声とやる気がみなぎる。

 ここら辺、やはりどちらもやり手のアーマーパイロットだ。

 先日のまだなりたての犬族の新人コンビたちとは明らかに戦場での身のこなしが違う。これにまずは安心しつつも、また脳裏にある種の不安もよぎるベアランドだ。

 そうこうしている間にも、迫り来る敵アーマーがこちらとの交戦空域に入ったことが、甲高いビープ音ともに知らされる。

 中でも特にスピードの速い高速機動型のアーマーが、やはり単身で突っ込んでくるかたちだった。

 前に会った時のままのそれはやる気の有り余るさまに、対して内心でひどくげんなりとなるクマ族だ。

 どうにも執念深いことで、もはや目の敵にされているのがありありと伝わってくる。

 これに即座に対応しようとするベテラン勢には、あ、いや、ちょっと待って!と、やや慌ててツバを飛ばす悩める隊長さんだ。

「あ、待った、それは無視してくれて構わないや! なんたって速くて強くて厄介だし、どうせこのぼくがお目当てなんだからさ? 中尉たちは後からおっかけてくるあっちの子分のアーマーたちをお願いするよ。あれはあれでまた厄介なんだけど……!」

「ほえ? 無視してええんですか? ぼくらはその後にやってくるやつらを相手にせいっちゅうことでぇ?」

「なんやようわからん! あないなただ速いだけのジェットフライヤー、おれらの敵やあらへんやけ? そないなもん、どないして避けなあかんの??」

 通信機越しに左右のスピーカーからはどちらもややいぶかしがった返事が返るのに、内心で動揺しながらもあくまでベテラン勢を刺激しないような言葉を選ぶ、ベアランドだ。

「ああ、いや、あちらさんはもともとこのぼくだけに用があるみたいだから、そっちのほうははなっから完全に無視してくれちゃうと思うんだよね? だからその、無理して中尉たちが横から絡まなくてもいいってわけで! あとあれってのはああは見えて、現実はそう、ただのフライヤーじゃあ、ないからっ……!!」

 これまでの戦いから、この歴戦の勇者たちの力をもってしても、ひょっとしたら危ういかもしれないと直感的に悟っていた。

 その動揺を悟られまいと平静を装った態度そぶりに努めるのだが、あいにくと相手のおじさんクマ族たちからは、何故だろう、わずかな沈黙が通信機のスピーカー越しに伝わってくる。

 その瞬間、果たして何を考えたものか?

 ふたりのベテランパイロットたちは、みずからの顔を映したモニター越しの視線のやり取りだけで、何やら互いにはっきりとした意思の疎通をしてくれたらしい。

 この時、イヤな予感が脳裏によぎりまくる隊長さんなのだが、果たして同時にその顔に不敵な笑みを浮かべる中尉どのたちだ。

 よってこちらの忠告もそっちのけで、向かってくる見てくれ戦闘機タイプの敵めがけてみずからのアーマーを急速発進させる。

 もうやる気が満々だった。

 この部隊リーダーの意図などは完全に無視だ。

 はじめげんなりしてそのさまを見るベアランドは、焦りと困惑で思わず声をうわずらせる。

「ああっ、だから、それは無視していいんだって! このぼくの担当なんだからさ!! 強いしとっても厄介なんだから!!」

「わはは、せやったらなおさらおもいろやんけ! 隊長の相手だけやのうて、こっちもしっかりサービスしてほしいもんや、バリバリ歓迎してやるさかいに!!」

「せやんな、ほな隊長さんはそこでよう見といてください。ぼくらでしっかりおもてなししてやりますよって。元よりあないなジェットフライヤーごときに遅れを取るよなこのぼくらやないですさかいに……!」

「いやいや、だから違うんだって!! ああ、もう、ろくにお互いの連携が取れないんじゃひどい混戦になっちゃうじゃないか? これってれっきとした上官に対しての命令無視だよ!?」

 しまいにはちょっと嘆いてしまうのに、ずっと年上で経験に勝るパイロットたちは、やはりいっかなに聞く耳を持たない。

 どちらのスピーカーからか、上官ちゅうかそっちのほうが階級下やんけ!みたいな本音が漏れていたが、それはあえて聞こえなかったことにする若手の部隊長だ。 

 そんなものだから慌てる隊長が見ているさなかにもさっさと敵の先鋒、その実をして一番の強敵と交戦状態に突入していた。

 挙げ句、左右のスピーカーからどわっと驚いた声が上がったのは、その直後のことだ……!

「んん、なんやそれ!? ちょちょ、ちょい待ちぃ!!」

「ほえ、なんや、いきなり変形しおったで? ただのジェットフライヤーちゃうんかったんけ?? ぬぐおおおおおっ!?」

「ああっ、もう、だから言ったじゃないか!!」

 およそ危惧していた通りの展開に、思わず天を仰いでがなってしまう。

 二機の僚機のすぐ手前まで猛然と突撃をかけてきた戦闘機型の敵機は、あわや衝突すると思わせてこの直前でピタリと急停止!

 もとい、そのカタチをまったくもって別のモノへと変えながらに、おまけ悠然と空中に立ち止まってくれる。

 ただし制止したのはコンマ1秒以下だ。

 そのいかにもアーマー然とした人型のプロポーションを見せつけた直後、直角の軌道を描いてさらに高い上空へと舞い上がる。

 それは見事な操縦テクニックだったが、それとあわせて実はただの戦闘機が瞬時に戦闘ロボットへと華麗なる変身を遂げたのには、あんぐりと口を開けたまま、目を白黒させるばかりのふたりの熟練パイロットたちだった。

 ただその瞬間、口では驚きの声を発しながらもアーマーの操作自体はぬかりなく対処していたのはさすがだが、見ているこちらは冷や冷やものだった。

 おまけそれで肝を冷やすほどの臆病者でもないクマ族のおやじたちに、タチが悪いやつらばかりだと内心で舌打ちしてしまう。

 上空でこちらを見下ろす敵のアーマー、おそらくはこれが隊長機とおぼしき機体は、やはり悠然としたさまでその場で対峙するかにこのアーマーをまたもや空中に制止させる。

 その視線の先にあるのはこちらの大型アーマーなのだろうが、相変わらず空気が読めない仲間のクマ族たちが、うなりを発して上空の相手を威嚇する。

 声は届かないが雰囲気としてはばっちり伝わったのだろう。

 かくして相手をしてやるとでも言うかにしてふたりを待ち受ける、それはこしゃくな敵方の隊長機だ。

「まったく、どいつもこいつも好き勝手にやってくれちゃって! どうする、無理矢理に割って入って乱戦に持っていくか? あっちの後続は……あらら、しっかりスキをうかがっているね! これじゃヘタなことなんてできやしないか……!」

 後からやってきた後続の敵のアーマーは、どちらも一定の距離を保ってこちらの様子をうかがっているのが、なおさらカンに障る。

 さては親分格の指示なのだろうが、だいぶ聞き分けのいいあたりがこちらとはまるで正反対だ。

 それがまたなおさらカンに障って仕方が無いクマ族の隊長は、実際に大きな舌打ちしてしまう。

 この先の展開に、一気に暗雲がかかってくるのを、もはやはっきりと意識していた。



※以下のイラストははじめの線画バージョンです(^^)
 すでにOpenSeaでNFTとして販売中!

https://opensea.io/assets/matic/0x2953399124f0cbb46d2cbacd8a89cf0599974963/88047277089427635657081635585532914949557992380650193262688159140125509419018/



Part2


 混乱するクマ族たちのアーマー部隊に対して、また一方――。

 その直前にあった先の知れた戦いに割って入った敵方のエースパイロットは、とかく冷めたまなざしで正面のメインモニターの中の情景を眺める。

 キツネ族の若い士官は見下ろす眼下の敵の機体、青と赤の色違いの同型アーマーをつまらないものを見るようにしばしねめつけたが、やがて仕方もなさげに吐き捨てた。

「ふん、こしゃくなやつばらどもめ……! だがそうやってこのわたしの前に立ちはだかると言うことは、それ相応の覚悟は出来ているのだろうな?」 

 あくまでみずからのターゲットをその奥の緑色の大型アーマーのみに絞っていたのを、ようやく手前の二機に意識を向ける。

 そこに後方からは、後続の同僚機からの通信が入った。

 こちらはトシのいったおやじのものらしきだみ声がキツネ族の男のピンと尖った耳に親しげにまとわりつく。 

「へっへ、ダンナ! 見た感じだいぶごちゃついてるみたいだが、俺たちはここで高見の見物してていいんですかい?」

「は、いいもなにも、そうするしかありゃしないだろ? ヘタに手出しなんぞしたら巻き添え食ってこっちが落とされちまう!」

 もうひとりの年配の男の声が入るのに、何食わぬさまのクールなキツネ族の隊長は冷然と言ってのけるのだった。

「フ、無論だ。こちらへの手出しは一切、無用……! 中尉たちはそこで立ち見しているがいい。このわたしとあれの戦いを邪魔立てするやつばらだけはそちらに任せる」

「了解っ! ……てことは、おこぼれはこっちでいただいちまっていいってわけですかい? そんじゃ、おい、あの青いのと赤いの、どっちをやる? どっちも面白そうで捨てがたいが……!」

「は、おれはどっちでも構わねえよ! ダンナに落とされちまわなかったらの話だが、せいぜい楽しませてくれるのかねぇ?」


 他愛のない世間話でもするかのように獲物を物色する部下たちに、何かと無愛想な部隊長は適当な相づちだけ打ってくれる。

「もとよりザコを相手にするつもりはない。危うくなればあやつが我が物顔をして出てくるのだ。その時は……」

「こっちでおいしく料理させてもらいますわ! 見たところそれなりに戦績上げてそうだから、でかい星が挙げられそうだぜ」

「はっ、調子に乗ってヘマすんなよ、ブンの字? この前みたいな情けないザマ、二度とゴメンだぜ?」

「ああ、誰に言ってやがんだ、五の字よ? もうアーマーも元通り、こっちに死角はありゃしないぜ! もとよりあんな見え見えの手はもう二度と食わない」


 タヌキ族とイタチ族のベテランのパイロットたちの掛け合いに、まるで聞く耳を持たないキツネ族の青年は冷めたさまで通信を終わらせた。

「頼みにはしている。どちらも全力を尽くすがいい。あのような見かけ倒しのアーマーによもや遅れを取ることはあるまいが、かく言うこのわたしも全身全霊をもってあれを迎え撃つ……!」

「了解!!」


 言うが速いか急降下で襲いかかるキツネ族のアーマーに、対するクマ族のベテランパイロットたちのアーマーが真っ向から応じる。

 おのおのが命を賭けたしのぎを削るアーマー・バトル、その第二回戦の火ぶたが切って落とされた。

 ベアランドたちの強敵として立ちはだかるライバルキャラ!
隊長にして凄腕パイロットのキツネ族、キュウビ・カタナとその部下のベテランパイロット、タヌキ族のチャガマ・ブンブ、イタチ族のスカシ・ゴッペとそれらが乗るギガ・アーマーのイメージ!


 Part3

 これまで幾多の戦場の最前線で腕を鳴らしてきた、百戦錬磨のベテラン・パイロットのダッツとザニーだ。
 
 だがこれを相手に果敢にも単機で挑む敵のアーマーは、やはりあなどれない強さをふたりの勇猛なクマ族に対しても見せつけるのだった。

 互いに肩を並べた横一列のフォーメーションでぬかりなくハンドカノンの銃口を向ける青と赤のアーマーの周囲を、それはすさまじいまでの速度の機動をかけて攪乱、半ば翻弄する白の飛行型可変アーマーである。

 変幻自在に戦闘機とアーマーにその姿形を変えては、目にも止まらぬ高速機動で熟練のパイロットたちをあざ笑うかにターゲットサイトからその姿をくらます。

 かくして強い舌打ちが左右のスピーカーから漏れるのに、みずからもかすかな舌打ちが出てしまう隊長のベアランドだ。

「ああ、もう完全に押されてるいるよな? にしてもよくもあんなにガチャガチャと変形しながらあちこち動き回れたもんだよ! もはや操作ミスったら一瞬で空中分解しちゃうんじゃないのかな? これはどうにも……!」

 苦い顔つきで何事かアクションを起こしかけたところで、左のスピーカーからさも苛立たしげなおやじの文句ががなられる。

「ちょちょちょっ! ほんまムカつくわ! やたらに動き回って気が付いたらいっつも背後の死角におるやんけ!? どないなっとるんや? あないにふざけた高速機動、反則やろ!!」

「落ち着きや……! 空中戦ならぼくらの十八番やろ? せやったら、そや、そないにちょこまか動き回れんようにさしたらええんちゃう?」

「どないして? あないに速うやられてもうたら、キャノンの照準もろくすっぽ合わせられへんで??」

「そやから落ち着きや。ぼくらはふたりおるんやから、こないに固まっておらんでもやりようがあるやろ? もとより昔から空中戦で鳴らしたこのクマさんコンビやさかい、あないな新参者に負けるわけがあらへんちゅうもんや……!!」

「せやったな! あないなワケわからんくされアーマー、ふたりでボッコボコにしたろ!!」

 左右のスピーカーからやかましく流れる、ふたりのおじさんの部下たちのやり取りに内心でヒヤヒヤしながら、さてこれはどうしたものかといよいよ考えあぐねる隊長さんだ。

 おまけにこちらの階級がひとつ下なのもあって、実質上官のあちらは聞く耳持たないような節が少なからずあったりするもまた事実だ。

「ああ、もう参ったな……!!」


 険しい表情で正面のメインモニターを睨みつけるベアランドだが、そうやって観ているさなかにも青と赤のアーマーは散開して大空を左右へと散らばる。

 さては単機である敵機を左右から挟み撃ちにする算段なのだろうが、相手がうまいこと乗ってくれるものかと固唾を飲んだ。


 かくして敵の白いアーマーを真ん中に挟んで、この同心円上で広く展開する、ダッツとザニーの両中尉どのたちだ。

 都合、二対一で優位に立っているように見えるが、内実はそうでもないことは手をこまねいてこれを見るばかりの隊長の少尉どのにも、またすぐさまはっきりと見て取れるようになる。

 そう。相手はまさしくもっての強敵なのだった……!


「よっしゃ、捉えたで! ざまあカンカンっ……!?」

「これで終いや……! んっ?」


 薄暗いアーマーのコクピットの中でみずからの射撃が必中することを確信するベテランのクマ族たちだが、引き金に人差し指が触れる寸前、この照準サイトがロックオンのオレンジから危険注意の激しい赤の点滅へと切り替わる。

 しっかりと相手を挟み撃ちにした状態で、プレッシャーを掛けながらもこの攻撃機動(アタック)はことごとく失敗に終わっていた。

 両者ともにだ。

 今や完全にロボットの人型形態に固定された相手機は、空中で微動だにしない直立状態でありながら、空中戦を得意とするクマ族たちが照準を絞った直後にはこの姿をターゲットスコープから忽然とくらましていた……!

 こちらの思惑を見透かしたかにした機体さばきでまるでふたりのクマ族の同士討ちを狙うかのごとくにだ。

 静観していた若いクマ族の頭に乗っかるふたつの耳に、ややもせぬ内にひどく苛立ったおじさんたちの文句が絡みついた。

「おおい、さっきからやたらに真っ赤なのがチョロチョロ見切れておって、ほんまうざいでじぶん? わざとやっておるんか?」

「こっちのセリフやろが? 引き金しぼろうとした途端にブサイクなツラを出してきおって、青い機体が青空にまんま溶けてもうて見づらいったらあらへんわ! ほんまに撃ったろうか?」

 互いに相手を牽制しながら毒づき合うおじさんコンビだ。

「稚拙な……! どうした、貴様は動かないのか?」

 他方、敵方の隊長であるキツネ族のエリートパイロットは、左右前後からのプレッシャーをものともせずに、いまだ戦いには参戦していない緑の大型アーマーを正面のディスプレイに捉えて睨みすえる。それからまたつまらないものを見るかに左右のディスプレイの色違いの敵アーマーを一瞥してくれるのだった。

「フッ、無駄に距離ばかりを取って、まるで覇気を感じぬ。つまらん。もしや貴様らはただのお遊戯会をしているのか……」

 言いざま、機体の両手に保持したハンドカノンを一斉射!

 それが的確に二機の機影を捉える。


 あわや撃墜かと隊長のクマ族が見ているさなか、どちらもギリギリでこの直撃を避けたものの、ダッツはただちに泡を食ったセリフをがなり散らす。

「んなっ! コイツ、むっちゃくちゃやんけ!! おおい、さっきからいいように遊ばれとるで、若い隊長さんの目の前でごっつ情けないわ!! どないしたろかっ」

「せやから落ち着けや。ええわ、照準が定まらへんのやったら、いっそ撃ってまえばええ。ただしお互いギリギリまで引きつけてからや。このぼくの言うてること、わかるやろ?」

「ん、せやけど……! ええんか? 万一逃げられてもうたら、こっちは火力がでかいぶんにじぶんにまで届いてまうで?」

「せやな。ただしその代わりにこっちは防御力っちゅうんが人一倍やさかい。いけるやろ?」

 互いのアーマーの性能の違いを考慮した思考を巡らせるのに、ザニーが相棒を促して決定づける。

「一発勝負や。あの隊長さんにしっかりと見せたろ、このぼくらの腕前が決してあなどれんっちゅうことを……!」

「よっしゃ、了解や!」

 相棒の応答をきっかけ、両者の機体が敵影へと向けてじりじりとこの距離を詰める。もはやただならぬやる気がうかがえた。

 手に汗握って外野からそのさまを見守るベアランドだ。

 相手の高速機動型アーマーはこれを悠然と直立静止したままで待ち構えるが、まるでビクともしないのがふてぶてしかった。

 おのおのが殺気をこめてアーマーの機銃の照準を中心に居座る敵アーマーに定める。

 撃てば必中の間合いだった。

 まずダッツの青い機体が正面に構えた大型のライフルを一斉射!

「おおら、いてまえ!!」

 一直線に敵を貫くと思われた赤い光弾は、だが結果として敵影をかすめもせずに虚しく宙を走る。

 そしてその先にあったものは……!


 それを尻目に見やる敵パイロット、キツネ族のキュウビ・カタナはさもつまらなさげにこの尖った鼻先から息を吐く。

「フン、同士討ちとは……無様だな……む?」

 一直線に流れる敵弾は、同じ敵の赤い機体へと吸い込まれるようにヒットしたのを確信もするが、同時にかすかな違和感をも感知して機体をそちらへと巡らせていた。

 その刹那、ただちに四肢に力をこめて回避機動へと転じる。

 味方からの流れ弾を真正面に受けるかたちになって、全身に冷や汗をかく普段からポーカーフェイスの赤毛のクマは、この時ばかりはいびつな口元からキバがのぞく。

「こなくそっ、やっぱりよけるんかい! だがこっちもやられへんで、シールドパワー全開でしのいで食らわしたるわ!!」

 機体の胴体前部に装備したシールド・ジェネレーターを真紅に輝かせて流れ弾をはじき返すや、みずからのハンドカノンの銃弾をただちに正面の白い機体へとお見舞いする!

「おうし、やったれ! むうっ、あ、あわわわわわわっ!?」

 青い機体の相棒がここぞとかけ声を発するが、これがすぐさま慌てくさったおじさんの悲鳴へと変わる。

 これまで同士討ちを危惧してこの攻撃がままならなかったクマ族たちだ。それをあえて同士討ちに見せかけることで起死回生の反撃を狙ったのだが、そのトリッキーな攻撃ですらもあっさりと躱されて、それがまたダッツの機体へと襲いかかることになろうとは……!!

 すっかり勝ちを確信していた灰色熊は、狭いコクピットの中で機体の制御を失うくらいに操縦桿をバタつかせて味方からの流れ弾をぎりぎりで背後へとやり過ごす。

 だが敵からの攻撃を受ければ即墜落くらいにきりもみ状態で落下しかけた機体を大汗かいてコントロールする。

 敵からの追撃がなかったのは幸いだったが、もはや旗色が悪いのは誰の目にも明らかだった。

 悲鳴と怒号がかまびすしく交差する薄暗いコクピットの中で、若いクマ族の隊長は、険しい表情で操縦桿を強く握りこむ。

「あらら、もう任せてはいられないな! 中尉どのたちには悪いけど、こっちから割り込ませてもらうよ。でないと……ん!」

 敵の隊長格とおぼしき可変式飛行型アーマーに狙いを定めて大型の自機を進ませようとしたところに、奇しくもレーダーサイトに新たな動きと短いアラームが鳴り響く。

 こちら同様、距離を取って様子見していたはずの残りの敵影、二機がともに味方と敵に割り込む形で急速接近してくる。

 どうやら向こうはこちらと同じ思惑のようだが、味方の助けに入ると言うよりは、むしろ苦戦してばかりのダッツとザニーに止めを刺すくらいの勢いだった。

 そして案の定、敵の青と赤のアーマーが入るのと入れ替わりで、白の隊長機はまんまとその場を離脱、この姿を正面モニターからくらましていた。


 これを半ば呆れた顔で見ていたベアランドは、その後にこのみずからの機体の向きを背後へと巡らせる。

「やっぱりこっちが狙い、本命だったか……! ほんとにしつこい隊長さんだよね? ルマニアの大陸の僻地からこんな海の果てまで、呆れちゃうよ、このぼくってのはそんなに魅力的かい?」

 見れば上空からひらりと舞い降りる敵の隊長機のアーマーへと向けて、皮肉っぽく笑ってそう問うてやる。

 そう果たしてこれで何度目の対峙となるものか?

 背後でベテランのクマ族たちが新手を相手に声を荒げるのはもうそちらに任せしまって、本来のターゲットとなるアーマーと正面切ってやりあうべく、これと真っ向から対峙する。

 もう何度目かになる決戦の幕が切って落とされた……!

     
                  ※次回に続く……!







Part4


「ライトニング……!!」

「こういう使い方はリドルは嫌がるのかな……?」


 



 

 





 



 

 






#17プロット
 
 ライバルキャラ、キュウビ、ブンブ、ゴッペ再登場!
 キュウビ VS ダッツ & ザニー  空中戦!
 前哨戦の犬族キャラ、モーリィとリーンはしれっと退却。
 
 ベテランのクマ族コンビはエースパイロットのキツネ族には大苦戦、やむなく隊長のベアランドと交代…!
 ベアランド VS キュウビ

 ダッツ & ザニー VS ブンブ & ゴッペ

 持久戦の末に、キュウビ小隊退却…!
 とりあえずベアランド隊の勝利?

 補給機(リドル操縦)にダッツとザニーが補給(プロペラントタンク装備?)された上で、アストリオン北部海岸線から大陸に侵入、そのまま内陸の目的地へと向かう……
 

「アストリオン上陸作戦」プロット
  アストリオン情勢

アストリオン・中央大陸(ルマニア・東大陸/アゼルタ・西大陸)
アストリオン・種族構成・ブタ族、イノシシ族、イノブタ族などがおよそ半数を占める。アストリオン自体は宗教色の強い、宗教国家でもある。元首・イン ラジオスタール アストリアス(家)

アストリオン・大陸構成
東側 アストリオン 60%
中央砂漠 空白地帯 25%
西側 ピゲル大公家 15%
 西側は過去にあったルマニア(タキノンが領事だった?→タルマとの確執になる?)とアゼルタのゴタゴタで独立を宣言したピゲル公爵の独立領となり、後にアゼルタと同盟関係になる。

主人公、ベアランドたちが目指すのは、大陸の北岸地域から侵入して、大陸内陸部の中央砂漠にあるアーマー基地。今は西の大公家と結びついたアゼルタの支配下にあるのだが…?
 実は無人化している?? レジスタンス(ベリラ、イッキャ?)の暗躍…!

Part2 ベアランド小隊、
 敵キャラ、モーリーとリーンに遭遇
 
          ↑
#17→     キュウビ小隊、出現!!
    キュウビVSダッツ、ザニー…!


    移行、アストリオンに上陸……
  基地の占領完了と同時に、アストリオンからの守備部隊と合流?←ジーロ艦に合流したダイル?

   タルクス、シュルツ博士登場!

プロット
ベアランド小隊、出撃 ベアランド、ダッツ、ザニー
ウルフハウンド小隊、出撃 ウルフハウンド、コルク、ケンス

ブリッジ 艦長 ンクス、オペレーター ビグルス
     副艦長は何故か不在?

 友邦国のアストリオンの北岸域から侵入
 内陸の基地を奪還、そのまま寄港するべく

 海と空の戦い キュウビ小隊出現

カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record NFTart NFTartist Novel オリジナルノベル OpenSeaartist SF小説 キャラクターデザイン ファンタジーノベル メカニックデザイン ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア戦記/Lumania War Record #016

#016


Part1


 小隊に新しくベテランのクマ族たちが加わって、貧弱だった部隊編成が見違えるほどに強化されたのだが、これが実際にみなでそろって出撃するのは、それから実に三日も後のことであった。

 もろもろの都合、母国を遠く離れた彼らの母艦が公海上にしばしの足止めを食らうことになったのと、パイロットが万全だからとこの機体の調整までが万全とまでは行かなかったことがあり。

 加えて全てが新型開発機ばかりのアーマー部隊は、この機体のマッチングに非常な手間暇がかかるのだ。

 よって晴れてハンガーデッキの格納庫から海風をともなった外界を臨めたのは、およそ70時間も後のことなのであった。

 言ってしまえば寄せ集め部隊なのだが、性格おおざっぱなクマ族たちが仕切り直しをするには、およそ十分な時間である。

 ベアランド小隊(第一小隊) 隊長・ベアランド少尉(クマ族)、部下・ダッツ中尉(クマ族)、ザニー中尉(クマ族)

 広く視界の開けた専用の中央カタパルトからモニター越しの外界を眺めるアーマー部隊の隊長は、楽しげに舌なめずりした。

「さあて、いよいよ出撃だね! 予定通り、ここからずっと先に見えるあの大陸の内陸部を目指すんだけど、ぼくのランタンはいいとして、そっちのビーグルは燃料、大丈夫かな? どっちも股の下にくっついてた、あのばかでっかいプロペラントを外しちゃったでしょ?」

 見た目にずいぶんな幅を利かせていた燃料タンクをすっかりと取り外されていたのを思い返して、なにげに聞いてやるのに、左右のスピーカーからは問題ないとのおじさんたちの返事がただちに返ってくる。

「かましまへん。よっぽど過酷な最前線ならいざ知らず、まだ序の口でありますよって……! せやからどうかぼくらのことは気にせんといてください」

「ここも最前線なんちゃう? まあ問題あらしまへんわ。おれたち新人のワンちゃんたちとちゃいますから! ふふん、見といてください、バリバリ活躍してやりまっせ!!」

「そいつは良かった♡ それじゃあミーティングのとおり、ぼくらは派手に暴れ回るとしようか! あらかた近海の敵を蹴散らしてから、母艦をともなっていざ目指す南の大陸、アストリオンに上陸と……!!」

「了解!!」

 あいにくとここからではどちらも機体が見えないのだが、左右のハンガーデッキに分かれて待機している、青と赤の機体のクマ族たちからの返事に満足して、みずからも出撃に備えるベアランドだ。

 すると上面のスピーカーからは短いアラームと共に、この艦の主の声が響いてくる。

「ん、ブリッジのンクスだ。各機とも準備いいな? ただいまより〝アストリオン上陸作戦〟を開始する。各自健闘を祈る! 第一、第二部隊、共に必ず本艦に戻ってくるように……!!」

「もちろん! 了解♡ ……て、横にいるはずのあの副官どのは今はいないんだね? どこで何をしているんだか」

 小声で言ってマイクには入らないように配慮したはずが、正面のモニターの中のスカンク族の上官どのは、これが小さく咳払いするのに、ちょっと苦笑いで了解する隊長だ。

 無用な詮索はしないことだと……!

 画面の横のほうでちょっとだけ見切れている犬族のオペレーターが発進のコールを送るのに、また了解して正面に向き直る。

「少尉どの! こちらは制御室のリドルです! ランタン、発進準備OK、ランチャーカタパルト、今回は70で行きます!! よろしいですか?」

 艦長に代わって響いてきた、カタパルトデッキのアーマー発進制御室に詰めている若いクマ族の言葉には笑顔で応じる隊長だ。

「そんな遠慮しないで100でいいのに! それじゃ、先に行ってるよ! ふたりとも後から急いで追いかけて来てくれ、こっちはいざ走り出したら止まれないからね?」

「了解! て、ランチャーなんちゃらって、なんのこっちゃ?」

「知らん。見てればわかるんちゃう?」


「なら見て驚けよ。ただごとじゃありゃしないから……!」

「あはは! それじゃ、システム発動、健闘を!!」

「了解!!」


 どうやら第二部隊の巨漢のクマ族のメカニックも通信に混じっているらしいのに、なおさら笑顔になって身体中に力を入れる。

 一瞬後には巨大なGが全身に掛かりながら機体が弾丸のようにカタパルトからはき出されるのを体感していた。

 ベアランド機出撃!!

 カタパルトから発射されて、これがあっという間に見えなくなる隊長機の後ろ姿に、後から発進を控えた部下のクマ族たちは、騒然となってこれを見送った。

「はああっ、ちょ、ちょいまち! なんや今のあれぇ? あの隊長、いったいなにしてはるん??」

「わからん。あんなのアーマーの発進とちゃうんやない? ほんまにどうないなことになってはりますのん??」

 カタパルトの左右で困惑した通信を交わすクマ族たちに、デッキの中央コントロール・ルームの巨漢のクマが答えた。

「ふん、しょせんは人間わざじゃありゃしないのさ。あの機体じゃなければ空中分解必至の、弾丸ミサイル級の強引なマスドライバー発進、もとい、強制発射システムだ。おい、間違っても真似しようだなんて思うなよ?」

「思わへんて! あないなもんシャレにならへんやないですか? ちびりそうや、発進するのがこわなってきた!!」

「いいえ、ご心配なく、そちらのカタパルトシステムはごく通常のものですから! それではダッツ中尉、ザニー中尉、どちらも準備はよろしいですか?」

「ほえ、ちょい焦ったけどかまへんよ。お好きなタイミングでどうぞ。ぼくら同時の発進でかまへんから。はよせんと追いつかないやろ、あれ?」

「それ以前にこっちの第二部隊が待ってるんだ。早いところカタパルトを空けてくれ。ほら、とっとと出しちまえよ!」

「あ、はい、それでは健闘を祈ります! 両機ともカウント3で同時発進、3、2、1、カタパルト・Go!!」

「了解!!」

 全身を青と赤で塗りたくられたいかつい人型の機体が、左右のカタパルトから青空へと向けて同時に飛び立っていく!

 先に飛び立って行った緑色の隊長機を追って、どちらもまっすぐに白い軌跡の飛行機雲を描くのだった。

 これこそがいかついクマ族のみで編成されたアーマー小隊の記念すべき初陣であり、後に赤、青、緑の鬼の三原色部隊と恐れられる飛行編隊の誕生なのであった。


 Part2



 雲一つもなくした快晴の青空。

 轟音を立てて緑色の巨大な機体が大気を切り裂く。

 周りの空気との激しい摩擦で赤い蒸気めいたものをその全身にまとわりつかせながらにだ。

 耳を澄ませば風切り音もしてきそうなコクピットの中、目指す大陸の目前でゆっくりと操縦桿に手を伸ばして、しっかりとこの両手に掴み取る。

 深呼吸をひとつして機体のコントロールをみずからに手に持ち直すクマ族だ。

「よっしと……! 予定通りのポイントに無事到着、このぼくが一番乗りだね!! 敵さんもまだ見当たらないし?」
 
 まずは母艦から単機で先行して、無理矢理な出力と加速度にもてあそばれる機体とこの速度が、やがて通常に落ちるところまで安定させてから、いざ周囲の状況を見回すベアランドだ。

 レーダーサイトには今のところこれと言った反応がないが、じきにやかましく警告音が鳴り響くのはわかりきっていた。

 弾道ミサイルさながらの強引にして急速なアーマー発進は、敵の裏をかくのには便利だが、味方をことごとく置いてけぼりしてしまうのがたまにキズだ。

 よって静かなモニターの向こうに広がる大陸を見ながら、誰にともなしひとりごとみたいな文句を発する隊長のクマ族だった。

「は~ん、こうして見てみると、目標の空軍基地ってのはほんとに内陸にあるんだな? ここからじゃまだ確認ができないよ。もっと高度を上げれば見えるのかな? どうしたもんだか……! このまま単機で先行しても良さそうだけど、やっぱりベテランのパイロットさんたちを待ってたほうがいいよね?」

 言っているそばからレーダーサイトに複数の反応が出現!

 敵を表す赤の点(ドット)と、味方を表すそれとがほぼ同時にサイトの中に前と後ろからポツポツと発生するのだった。

 中でもサイトの後ろ側、背後から追いついてきた味方の友軍機の二機のアーマーのパイロットたちからただちに通信が入る。

 お国言葉のなまりが激しいおじさんのクマ族たちだ。

 緊張感をみじんも感じないお気楽なセリフを発してくれた。


「戦場の青いイナズマ! ダッツ・ゴイスン、ただいま到着! やっと追いつきましたわあ、隊長さん、早すぎやって!! 」

「ほんまに早いわあ! ひとりで何をそんなに急いでますのん? ひと呼んで赤い旋風のザニー・ムッツリーニ、おなじく到着しました、そいで敵さんも、もうぼちぼち来てはるんですな?」

 はじめに青い機体のクマ族の威勢のいい文句が耳朶を打つ。

 到着するなり回りの状況を適宜に把握しているこちらは赤い機体のクマ族のベテランパイロットの言葉に、すぐさま了解してモニターがマークする敵の機影を確認するベアランドだ。

ベアランドの乗機、バンブギン、通称ランタンと、ザニーとダッツの乗機、ビーグルⅥ・プロトタイプ(まだ描き掛け)


 おそらくはどこか遠くの洋上の母艦か、さらに遠くの大陸の西海岸の敵基地から飛び立ったものとおぼしき航空機いくつかが、こちらに向けて急速に接近してくるのをそれと認める。

 よって完全に慣れきったおじさんたち同様、こちらもいささかも焦ることもなくして、こともなげに言ってやるのだった。


「ああ、ジェット・フライヤーか! ああいう航空機タイプって、大抵は無人機なんだよね? 本命のアーマーが到着するまでの時間稼ぎぐらいなもので。だったら、さっさと落としちゃお♡ それじゃ主役のアーマーが来たら、各自で対応お願いね!」

 言いながら操縦桿のトリガーを二回、三回と引いて、迫り来るジェット機をことごとく打ち落とす隊長の緑の大型アーマーだ。

 そのまるで容赦がなくあっさりとしたさまに半ば感心したようなおじさんクマ族たちの返事が返る。

「了解! にしてもなんやちょろい作戦みたいやんな? 思うたよりも敵さんおらへんし、このまま海岸線の先まであっさり突破できそうやわ!!」

「せやんな、隊長さんのそのアーマーやったら敵なんかおらへんのちゃう? あ、来ましたで、本命のアーマー部隊! なんかひょろっちいのがこっちに向かって来てはるけど、あんなんおったったけ??」

「ん、ああ、あの見覚えのあるカトンボは、敵の新型機だね! 以前に会敵したことがあって、そんなには苦戦しなかったんだけど、あれとおんなじか別の同型機なのかな? どっちにしろそっちのビーグルで十分に対応できると思うよ」

 正面のメインモニターの中央に捉えた、どちらも見覚えるのある特徴的な細身のデザインの二機の軽量級アーマーに、だがこちらはまるで感心なさげに答えるベアランドだ。

 形状がまったく同じ見てくれのふたつの敵影は、おそらくは以前にやり合ったものと同一の機体なのではないかと思われた。

 前回、さして苦労することもなく撃退していたこともあり、こちらの経験豊富なベテラン勢ならそう手こずることもないだろうと確信する隊長さんだ。

 これに手練れのクマ族のパイロットたちが即座に応ずる。

「カトンボでっか? ふう~ん、なるほどや、ほなここはこのぼくらに任せてもらいましょうか、よって隊長さんはそこで気楽に見といてください」

「よっしゃ、やったるでえ! あないなひょろっちいザコちゃんアーマー、一発どついたらそれでしまいや!!」

 モニターの左右で不敵な笑みを浮かべる赤毛のクマと灰色グマをいかにも頼もしげに見ながら、こちらは若干の苦笑いになる茶色の若いクマ族だ。

「あんまり油断してると機体にキズをつけちゃうかも知れないよ? まだ初戦なんだからなるべく手堅く行ってよね! それじゃ、お言葉に甘えてぼくは高みの見物させてもらうけど、第二小隊のシーサーがなんか下からやかましく言ってるから、ちょっと高度を上げてぼくらはもっと上空でやり合おうか?」

 天井のスピーカーから何やらやかましい文句が入って来たのは、後発の第二小隊が追いついたその直後のことだ。

 小隊隊長のウルフハウンドのものだったが、これに傍で聞いていた赤い機体のパイロットのクマ族が了解してくれる。

「ああ、それやったらこっちにもテキストで入電しておりますな? なんやえらい怒ってはるようやけど?」

「尻にくっつけとる新人のワンちゃんたちがやりづらあてしゃあないから、おれたちみたいな邪魔もんはどっか遠くに行ってくれゆうてはるんやろ? なんやめっちゃひとりよがりやんなあ、そないなもんはそっちで面倒みたれよ!」

「まあまあ、言ってること自体は間違ってはいないんだから! あんまり混戦状態になったら同士討ちもありうるし、距離はちゃんと取っておこう。それにこのぼくのカンだとそろそろやっかいなのも出てきそうな頃だから、いざそっちに対応するためにも、スペースはなるたけ広く取っておかないとね♡」

「はあ? なんのこっちゃ? お、カトンボが早速こっちに来よったで! 相方、ようやっとこの腕の見せ所や、ぼくらの得意の空中殺法、ヤツらにガツンとお見舞いしたろ!」

「ガッテン!!」

 さすがにお互い息の合った熟練パイロットたちだ。

 同時にこの機体を海上からさらに上空へと舞い上がらせていく。

 するとこれを追いかけるかたちで敵の二体のアーマーも次次に上空へと導かれるように機体を上昇、一定の距離を保ちながら互いににらみ合うかたちとなった。 

 やかましく通信交わしながら機体高度を一気に上空にまで押し上げて新型機同士の一騎打ち、もとい、コンビ対コンビの空中戦タッグマッチが始まるのだった。


Part3


 ところ変わってこちらは対戦相手となる、敵側のアーマーパイロット、犬族のモーリィがいまいましげな愚痴ともひとりごとともつかないセリフを正面のモニターに向けてがなっていた。

 年の頃で言えば青年の若手パイロットはとかく血気盛んだ。

「ん、ちょい待ち、あっこにやなヤツがおるでぇ? いつぞやのでっかいお化けアーマー! おまけに子分を2匹も連れとるやんけ!! しんどいわあ、このまま知らん顔して帰ったろか? やってられへんやろ!!」

 あっさりと敵前逃亡をほのめかすのに、これを受ける相棒のこれまた犬族の、もさもさ顔したリーンが明るく答える。

「銃殺刑にされるんちゃう? せやったら少しは相手をしたらな! あのでっかいのは手をつけられへんとしても、子分さんはどうにかできるんちゃうん? なんや見たこともないようなアーマーやけど!」

「はん、しょせんはひとさまの領土やゆうて、みんなで開発機の実験しとるんかいな? えげつないわあ! せやけどあっちはやる気まんまんらしいから、それなり相手してやらな失礼になるんかの? ええわ、そやったらこっちも星を挙げて正規軍の仲間入りさせてもらお!」

「なんや、結局はやるんかいな!」


「当ったり前やろ! ちょうど二対二でええ勝負できそうやし、大ボスはずっと後ろに構えてはるから手を出す気はないんちゃう? 前もやる気なさそうやったから、ひょっとしたら本調子ちゃうのかも知れへんやん。こっちは本命の後続部隊が来よるまで持たせたればいいゆうてはったから、のんびり持久戦としゃれ込ませてもらお!」

「せやんな! ちゅうかわしら真打ち登場までの噛ませ犬かい」

「ええわ、ほな噛ませ犬もあなどれんちゅうことを見せたるわい!」

 再び登場! 関西弁の犬族キャラコンビ、モーリィとリーンの若手パイロット! アーマーは新型のロータードライブ型!!


 さも息の合った漫才みたいな掛け合いをしながら、じりじりと相手との距離を詰める、二体の飛行型アーマーだ。

 緑の大型アーマーを奥に控えさせた状態でこの前に立ちはだかる二機の青と赤のアーマーに、それぞれが個々に狙いを定める。

 果たしてはじめに仕掛けるのはどちらなのか?

 抜けるような青空の下で息もつかせぬ緊張感が高まった。

 これを傍から見ていた隊長のベアランドは、その静かな立ち会いに、それでも結果は知れていると周囲への警戒を怠らない。

「悪いけどその華奢で非力なアーマーじゃ、うちの大ベテランのおじさんたちには敵わないよね。むしろ問題はその後で……! 西岸の本拠地からより強力な増援部隊が来るのは明白で、本番はきっとそこからなんだ」

 そう言っているさなかにも眺めているモニターの中では、青いアーマーが瞬時に素早い機動に入るのだった。

 こちらにより先行していた敵のアーマーに向けて、ただちに一直線の突撃機動、激しいチャージをかける!

 空中での接近戦を果敢に挑むのをただじっと眺めていた。

 胸の内ではちょっとした胸騒ぎを感じながらにだ。

 大気を震わす轟音が鳴り響いた。

 戦場の青いイナズマ!ダッツと、赤い旋風、ザニーの専用ギガ・アーマーの図、とりあえずこんなカンジ?


 みずからを青いイナズマと言った通り、強力なターボジェットエンジンをいくつも搭載したアーマーは、そのずんぐりした見てくれによらない、急速発進と加速度で一瞬にして敵アーマーとの間を詰める。

 そのままショルダーチャージでも仕掛けそうな勢いだったが、すんでの所で急停止してアーマーの右手に装備したハンドカノンを相手めがけて振りかざす、ダッツの青いアーマーだ。

 その名を「ブルー・サンダー」。

 歴戦の勇者である中尉が、その幾多の戦火の中で勝ち得た、数ある異名の中の一つだと、そうベアランドは聞かされていた。

 まさしくだなと思う反面、さっさとケリをつけないでもったいつけたように相手にその銃口をちらつかせただけなのには、内心であれれ?と首を傾げてしまう。

 言ってしまえばまだ本気の本調子ではない、およそ遊んでいるような印象を受けるのだった。

「あらら、大丈夫かね? 窮鼠猫を噛むって言うし、あんまりなめてちゃいけないんじゃないのかな??」

 ちょっと突っ込んでやろうかと通信をオンにした途端、左側のスピーカーからやかましいがなり声が響いて面食らう隊長だ。

『見たかおんどれぇ! ビビッてんちゃうんか? 次はマジでやったるから覚悟せいよ、おおら行くで、おらおうらおらぁ!!』

「わっ! びっくりした……まあ、心配ないみたいだね?」

 結果、何も言わずに通信をオフにする隊長さんだった。

 ダッツからの猛攻に明らかに動揺する灰色の飛行型アーマーの中で、若い犬族のモーリィはあられもない悲鳴を上げてどたばたとのたうちまわっていた。

「わ、なんや! いきなりそないなむちゃくちゃしくさりおって、ぶつかってまうやないか!? は、挑発としるんけ? ええ根性やな、ええわ、やったるわ!! おおおおおおおおおうらあっ!!」

 機体の小回りを活かした空中の接近戦ならいくらでも勝ち目があるとあえて相手の挑発に乗ってやる若手のビーグル族だが、負けん気が強いのが今は仇となりつつあるようだった。

 空中での制止機動や上下運動が得意なロータードライブの利点を最大限に用いて右へ左へと機体を揺らして相手を翻弄するはずが、目の前のスピードとパワーが取り柄なだけのジェットドライブタイプはなんら苦も無くこちらの動きについて来ている。

 むしろこちらが翻弄されかけて、相手の構えた銃口の照準をずらすのに今はただただ必死のモーリィだった。

 ギリッと厳しく結んだ口元から、果ては言葉にならない悲鳴じみたものが漏れ出る。

 これにこちらが押していることを確信してますます本調子になる青のアーマー、ベテランパイロットのクマ族のダッツは舌なめずりして正面のモニターに凄みを利かせた。

「かっか、いい気味や! 小型で小回りが利くからこないなドッグファイトやったらじぶんのほうが有利やと思っとったんやろ? ざまあかんかん!! ジェットのパワーを最大限にかましながらの縦横無尽の空中殺法がこの青いイナズマこと、ダッツ・ゴイスンさまの最も得意とするところやからの! じぶん、もうフラグ立っとるでぇ? 観念しいや!!」

 あと一押し、ないしふた押ししたらばっちり照準を定められると勢い込んだところに、甲高いアラーム、警告音が鳴り響く!

「んっ、ちっ! おおい、いいところなんやから邪魔させんなや! あとのヤツはおのれの領分ちゃんけ?」

『わあっとるわ! そうやって間で遊ばれとるからやりづらいだけで、もうこっちもええとこまで追い詰めとる……!』

 片やお互いに距離を置いての銃撃戦にいそしんでいた赤いアーマーの相棒が、通信機越しにやや不機嫌な返事をよこしてくる。

『レッド・ストーム』と自身の異名から取ってつけた赤いジェットドライブ・タイプのアーマーは、相棒の青い機体のそれとは一部の仕様が異なるだけで、見た目ほぼ同一タイプの機体だった。

 背後から赤い一条の閃光が一直線に走ると、それきりやかましい警告音がピタリと鳴り止む。

 後方支援に回っている敵アーマーの射撃マークが外れたのが直感的に理解できたが、実際にてんで見当違いの方向に銃弾がばらまかれるのに相方の援護が適正に働いたのを現実にも理解する。

 舌なめずりするダッツは鋭い視線をモニターの正面に据えた。

 相手の灰色の機体は前後左右へと激しく回避運動をするのに、そのさまが今は獲物の子鹿が震えているかのように見えていた。

 そしてこのさまを傍から自機のコクピットの中でのんびりと構えて見ていたベアランドは、決着がじきに着くだろうことをそれと予感していた。

 言うだけあってさすがベテランのクマ族コンビは、それは腕利きのパイロットたちだ。

 激しい戦火を幾度もくぐり抜けて来ただけのことはある。

 思っていた通りかそれ以上の出来に内心で満足しつつ、目ではてんでよその方向を見ながらに、またもうひとつの予感が現実になりつつあることをそれと確信するベアランドだ。

「やっぱり、おいでなすったか……! まさしく今回の本命、さしずめ真打ち登場って感じなのかな?」

 目の前のレーダーサイトには、大陸の北西部の方角からこちらに向けて急スピードで接近する、三機のアーマーらしき点滅が灯っていた。

 抜けるような青空の下、暗雲が立ちこめるのをただひとりだけ実感しつつある若いクマ族の隊長だった。


  次回に続く……!




状況 海上 ベアランド 単機でアストリオンの北岸域へ…
  ダッツ、ザニーと合流の後、敵方のモーリー、リーンと交戦
  第二部隊が合流、上空へ ← キュウビ小隊

「アストリオン上陸作戦」プロット
  アストリオン情勢

アストリオン・中央大陸(ルマニア・東大陸/アゼルタ・西大陸)
アストリオン・種族構成・ブタ族、イノシシ族、イノブタ族などがおよそ半数を占める。アストリオン自体は宗教色の強い、宗教国家でもある。元首・イン ラジオスタール アストリアス(家)

アストリオン・大陸構成
東側 アストリオン 60%
中央砂漠 空白地帯 25%
西側 ピゲル大公家 15%
 西側は過去にあったルマニア(タキノンが領事だった?→タルマとの確執になる?)とアゼルタのゴタゴタで独立を宣言したピゲル公爵の独立領となり、後にアゼルタと同盟関係になる。

主人公、ベアランドたちが目指すのは、大陸の北岸地域から侵入して、大陸内陸部の中央砂漠にあるアーマー基地。今は西の大公家と結びついたアゼルタの支配下にあるのだが…?
 実は無人化している?? レジスタンス(ベリラ、イッキャ?)の暗躍…!

Part2 ベアランド小隊、
 敵キャラ、モーリーとリーンに遭遇 
          ↑
Part3     キュウビ小隊、出現!!
    キュウビVSダッツ、ザニー…!

    移行、アストリオンに上陸……
  基地の占領完了と同時に、アストリオンからの守備部隊と合流?←ジーロ艦に合流したダイル?

プロット
ベアランド小隊、出撃 ベアランド、ダッツ、ザニー
ウルフハウンド小隊、出撃 ウルフハウンド、コルク、ケンス

ブリッジ 艦長 ンクス、オペレーター ビグルス
     副艦長は何故か不在?

 友邦国のアストリオンの北岸域から侵入
 内陸の基地を奪還、そのまま寄港するべく

 海と空の戦い キュウビ小隊出現