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「オフィシャル・ゾンビ」⑥

  オフィシャル・ゾンビ
  ーOfficial Zombieー

OpenSeaのコレクションでもNFTをお安く展開中!!

https://opensea.io/collection/officialzombie

オフィシャル・ゾンビ⑥(めんどくさいので今回からこのかたちにしました(^^)) 


 シンと静まり返った楽屋で、そこでは得体の知れない二体の何者かが物も言わずに相対していた。

 つい何時間か前にはそこにはそれなり名の知れたふたりのテレビタレントがいたはずなのだが、そんな面影はもはやどこにもありはしない。

 かたや毛深い毛むくじゃらの二本の足で仁王立ちして相手を見下ろすクマに、かたや四つん這いでうずくまる、こちらも毛むくじゃらでなんとも正体が知れない何かしらだ。

 力なくがっくりとうなだれているからこの顔つきがまだ定かではない。双方、見た目がケダモノで身体中毛だらけなのは同じだが、二体のバケモノたちはそれぞれが違ったカタチの衣装らしきをその身にまとっていた。

 それがまた異様さに拍車をかけているのだが、見ようによっては昔の武人が身にまとう鎧のようでもあり、頑丈な見てくれのアーマーと古めかしい装束の合わさったようなかなり独特なものだ。

 相変わらず黙りこくるクマが見ている前で、畳に突っ伏すケダモノが低いうめきを発する……!

「ううっ、う、ううう~~~っ……! な、なんだ、どうなったんだ、俺、どうして……ん、なんだ、これ??」

 突然のことに恐怖と混乱から反射的に身を固くしてその場にうずくまったそのケダモノ、もとい鬼沢だ。

 それだからようやくうっすらと目を開けて、まずそこに飛び込んで来たものにさも怪訝そうにこの顔つきをしかめる。

 ちょっと前までテレビでは人気のタレントだったはず芸人さんは目の前にあった見覚えのない毛むくじゃらの何かしら、おそらくは二本の腕らしきをしげしげと見つめるのだ。

 じいっと……!

 それが誰のものなのか認識がそれとできないままに、両手をグー、パー、グー、パーさせたりして、またしばし考え込んだ。

「……えっ! え、え、え、え???」

 ギョッとして、顔面に冷や汗じみたものを浮かべたのはこの直後のことだ。顔も全体くまなく毛むくじゃらなのに、イヤな汗をかいているのが傍から見てもはっきりとわかった。

 間近で見ているクマのバケモノ、元は日下部はうんうん、わかりますよときっと内心では頷いてたのだろうか。

 よって裏返った悲鳴を発する、その元は鬼沢のバケモノだ。

「なっ、なんだこれ!? これ、まさか俺か?? いやいやいやっ、そんなわけないっ! んなわけないじゃん!!」

 ブルブルと震える両腕がそれがどちらも自分のものだとはっきりとこの身体の感覚として、そこに伝わる神経がまざまざと教えてくれるが、感情がそれを一切拒否、頭の認識がまるで追いつかない中堅どころの芸人だ。

 わなわなと全身を震わせながら、やがてハッとした表情で、次にはおそるおそるしてその毛むくじゃらの腕でみずからの顔を触ることとあいなる……。

「……っ!!?」

 生まれてこのかた、自分の身体からは一度たりとも感じたことがない毛むくじゃらの毛皮(?)の感触とまるで見覚えのない凹凸をなす顔の造形、いわゆる動物、ケダモノのそれにいよいよ絶句してしまうおじさんだ。

 腰を抜かして背後の畳にぺたりと尻を付けてしまう。

 見上げる視線の先に謎のクマ、茶色いバケモノがいたが、今となってはそこに一切の驚きを感じられなかった。
 もはやどうでもいいくらいだ。

 言葉もないままにうつろな視線でどこをともなく見つめてしまうが、この視界の左の端に見切れるものに自然と焦点が合う。

 太い毛玉のような、神社の坊主が晴れの日に振り回すみたいなでかい毛筆のかなり特大のヤツがひくひくとひくついていた。

 それだけやけに異質だが、身体の感覚がやはりそれが自分の身体の一部であることをしっかりと教えてくれた。

 そう。人間には唯一なくて、ケダモノにはあるもの――。

 それが自分の尻のあたりから生えていることを、左手でグニュッとモノを掴んでその厳然たる事実をはっきりと自覚させられるのだ。

「う、これ、シッポ……か? ウソだろ、俺のケツから太いのが伸びてるぞ? 夢だろ?? そうに違いないよ、こんなの、ありえない……! おい、日下部、こんなの、冗談だよな??」

 

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「オフィシャル・ゾンビ」⑤

  オフィシャル・ゾンビ
  ーOfficial Zombieー

OpenSeaのNFTコレクションでも展開中!!

https://opensea.io/collection/officialzombie

 ※第一話はこちら↓↓

-さいしょのおはなしの、つづきの4-


 カポッ……!

 目の前にほらと示されたのは、例のあの金色の輪っかだ。

 これをそのままこのみずからのまあるい坊主頭にスポンとはめられた中堅どころのテレビタレントは、はじめぽかんとしたさまで目の前の何食わぬさまのバケモノ、その実は後輩のお笑い芸人である日下部(くさかべ)らしきを見上げる。

 すると見れば見るほどにいかつい異形のバケモノは、もはや当たり前みたいにその場にいてくれるのだが、内心でもやもやしたものが渦巻く鬼沢は困惑したさまでもようやく聞いた。

「は……なに、コレ?」

 サイズがぴたりで計ったみたいにジャストフィットする冷たい感触に、状況はそれと理解できるが、この意味がまったくもって理解ができないと目で訴えかける。

 相手のクマ(?)は知った風な顔してうなずいてくれた。

「はい。特典のX-NFT、説明するのは難しいので今は省きますけどの検出作業です。このおれの輪っか、通称「金魂環(キンコンカン)」はひとの、もといゾンビの隠された能力を現実に導き出すちからがあるんです。はは、便利ですよね? このおれ自身に限らず、こうして他人に対しても有効ってあたり……!」

「は? さっぱりわかんないんだけど?? おまえが言ってることちんぷんかんぷんで、こんなんじゃ俺どうにもできやしないよ。なあ、あと何より今のこの俺のありさまって、傍から見たらかなりお間抜けなんじゃないのか?」

 怪訝も怪訝の顔つきで見上げてくる鬼沢に、クマの日下部はちょっとだけ左右の肩をすくめてからそのくせ平然と受け答える。

「ああ、まあ、大丈夫ですよ。隠しカメラなんてどこにもありませんから。あとお間抜けな姿の鬼沢さんより、まずはこのおれに視線が釘付けになるんじゃないですか? だから制限かけてるわけでもあって、機密はちゃんと保持されてますから。いかに鬼沢さんがお間抜けなカッコしてても」

「どの口が言うんだよ? で、だからこれで何がどうなるんだ? そもそも特典特典て、俺、別にそんなの欲しくないんだけど」

 完全に覚めたまなざしで言うのに、こちらも覚めた目で見返すクマはマイペースなさまをいっかなに崩さない。

「欲しい欲しくないに限らずに、ゾンビたる者ひとつは持っていてしかるべきものですよ。特にオフィシャルに限っては、それが何よりの証明になるものですから? 個人個人でまるで違うものですから、どんなものかはそれこそが”ガチャ”でピンからキリまでさまざまなんですけど……ちょっとドキドキしますね!」

「全然。俺はまったくときめかない。まず意味がわらいないし、そのエックス、えー、なんちゃら、だったっけか?」

「んーと、あ、”魂魄霊子顕現化錬金合成物質”……だったかな? とにかく”X-NFT”とだけ覚えておいてくれれば問題ありません。そろそろかな? 頭のキンコンカン、輪っかが点滅してるでしょう。それってアイテムの錬金合成ができてるサインですよ。ちなみにぼくらの業界用語、いわゆる隠語ってヤツではこれを”神具羅”、カグラとも言うんですけど」

「おい、ほんとにさっぱりわからないぞ。でも確かに、俺の頭、ピカピカなってるのか? でもできてるって、どこにも何もないじゃないか? まさかどっかから宅配で送られてきたりするのか、それって??」

「無理です。たとえ武装したアマゾンやウーバーイーツでも入って来られないくらいに厳重な警戒態勢下ですから、ここって。それよりも身体のどこかしらに異変とか、感じないんですか、鬼沢さん? おれは感じてますけど、ほのかな気配、みたいな?」

「武装したアマゾンの配達員なんて見たことあるのか? 異変て、頭がピカピカなってる以外は何も変わらないだろう? うざいな! もう取ってもいいか、この頭の輪っか、ん……!」

 頭の上のコブでも見るように険しくした視線を上向けていた鬼沢は、そこから不意にこの足下へと目線を急降下させる。

 はたと小首を傾げながらに何かしらの変化らしきに気が付いたらしい。それだからこの足下から徐々に視線を上げていき、みずからの腰回りでぴたりと目線とこの身動きが止まる。

 怪訝なさまで、自身の地味な灰色のスラックスの尻の部分、おそらくは後ろポケットへとこの手を潜らせるのだ。

 ただ無言でそのさまを見守る日下部、クマのバケモノがちょっと緊張したさまでごくりと息を飲むのが伝わる。

 そんなに注目されてしまうとみずからの挙動もやや緊張してぎこちなくなる見た目よりメンタル繊細な坊主は、途中からやや困惑顔しておのれの利き手でつまみ出したものを目の前にかざす。

 直後、かすかな沈黙がその場を支配した。

「……あれ、これって……??」

 何の変哲もない白い無地のハンカチがそこにはあった。

 きれいにアイロンがかけられて折り畳まれたものがだ。

「それは……鬼沢さんの私物ですか?」

 全身モサモサとした剛毛の毛だらけのクマのバケモノが聞いてくるのに、さっぱりした丸坊主のこやじが答える。

「そうだよ。当たり前だろう、ひとの物のはずがないじゃん。て言うか、なんだよ、コレ! まさかこんなのが特典だなんて言いやしないよな?? あと頭のこの邪魔なの、いい加減さっさと取ってくれ!」

「ああ、まだそのままにしておいてください。その輪っかの反応からしたら、たぶんそれに間違いないですから。と言うことは鬼沢さんのそれって、おれみたいに疑似物体を現出させる具現化型なんかではなくて、もとからあるものを変質変化させる、変化型なんですかね? いいからもっとよく見てくださいよ、それってほんとにただのハンカチですか?」

 なにやらひとりでしきりと納得しているさまのクマに、まるで納得がいかないおじさん芸人は憮然としたさまだ。
 そんなものだから手元のハンカチをぞんざいに振り乱してくれる。良く見るも何もただのハンカチだろうと言いかけたその口が唖然と開かれたままになっていた。

「だからっ、見たまんまだろうっ……! え、あれ、あ??」

 サイズで言ったらたかが知れているはずのハンカチが、だがこれをいざ開いてみたら結構な大きさで、胸の高さから腰を超えて足下までも届くのにギョッと目を見開いてしまう。

 ハンカチと言うよりはいっそシーツに近いくらいの布面積だ。

「な、なんだコレ!? ハンカチだったよな? シーツになってる?? でもこんなの俺のうちにないぞ、あれ、まだ大きくなってる? なんだこれ??」

 ひどい困惑顔で見上げるのに、見下ろすクマはやはり何食わぬさまで思案顔だ。

「……はい。鬼沢さんの特典ですね。まぎれもなく。その効果や使い方は自分で研究、会得していってください。実戦的な能力だったらいいですね。特典はひとつとは限らないし、変わることもありますから。それにつき相談には乗りますが、あくまで自己責任です。あと必ずしも申請する義務はありません。ここらへん、適当なウソでもわかりませんからね?」

「え、いや、だって? なにがなんだか、ほんとにシーツになっちゃったじゃん! こんなのがズボンのポッケに入ってたのか? なんか気持ち悪いな!! いらないよこんなのっ……あれ?」

 気味悪がって手放した途端に畳の上でシュルシュルと元のサイズにもどるハンカチだ。
 目がひたすら点になるお笑い芸人に、同じく芸人にして今は正体不明のクマのバケモノが納得顔で言った。

「はい。やっぱり鬼沢さんの能力ですね。ハンカチ自体が特典なのではなくて、鬼沢さんが身につけたものが特典化、つまりはX-NFT化するってことです。まさしく変化型かと。もちろんなんでもってわけではなくて、この場合はうすっぺらい布状のものなんですかね、おそらくは? 手放すとただちに効果がなくなるあたりは、術者本人の唾液や血液を付けることでより効果を持続させることができるかも知れないです。このおれの推測では……」

「は? は?? は??? いや、悪いけどさっぱりわかんない……! 俺、一体全体、どうなっちゃったの??」

「心中お察ししますが、慣れてもらうしかないです。あと、これからが本番ですから、いよいよ本日のメインイベントですよ」

 真顔で言ってくれるクマに、内心の焦燥があらわな中堅タレントはこの表情が血の気の失せた紫から興奮した赤へと変わる。

「はっ、なにが? は、あれ、なんだ、なんだか身体が……あっつくなってきてる? 熱があるみたいな、頭だけじゃなくて、ほんとに身体全体がっ、なんだこれ? コワイコワイっ!!」

「落ち着いてください。あんまりパニクった状態でゾンビ化しちゃうとそのまま闇落ちしちゃうかも知れないので……! 熱いのはそれすなわち身体が変化しているためで、ごく自然な反応ですから。すぐに元に戻りますよ。その代わりに見た目がすっかり変わってしまうんですけど、それもまた自然の流れですから」

「あっ、頭が痛い! 取ってくれコレ!! みんなコイツのせいなんだろうっ、おおいっ、日下部!!」

「よくわかってらっしゃいますね? 隠されたゾンビのちからを導き出すってのは、姿そのものを顕現化させることでもあるんです。おれがアンバサダーの仲介役を任命されている一番の理由ですね! 変化したら自然と外れますよ。もう用がないですから」

「おお、おいっ、うお、あ、あああああっ、ああああああ!!」

 苦しげなうめきを上げて身もだえする鬼沢はついにはその場にがっくりと両膝を付いてしまう。

 がくんと畳に突っ伏すかたちで頭を垂れた頭頂部から金色の輪っかが抜け落ちるが、その瞬間にひときわに強い輝きを放って畳に落ちる前にそれ自体は空気へと溶けていくのだった。

 そのまばゆい輝きに働き盛りのおじさん芸人が包まれて、光りが消えた後に残されていのは、それはそれまでとは似ても似つかないまったく別の何者かだった。

 一言で言ってしまえば、もはや人間ではない。

 かくてここ一番の沈黙がその場を長らく支配するのだが、目をまん丸くしてまじまじと見つめるクマのバケモノに、おそるおそるにこの顔を上げる毛むくじゃらの何者かは、みずからの異変にしばし理解が追い付かなかったのだろう。

 まず人間のそれとは明らかに違ったみずからの両手の異様なありさまに絶句して、すぐ目の前で固唾を飲んで見守るクマと互いの目線を見合わせる。

 ぼんやりしたさまのクマは、言葉を失うその元先輩芸人の何者か、この場に出現したまた新たなるバケモノに当たり障りのない感じで言ってくれた。

「ようこそ、鬼沢さん。こちら側の世界に……!」

 これに全身を小刻みに震わせる鬼沢らしきは、ただちに全身の毛を逆立てて喉から干上がった悲鳴を発した。

「な、なっ、な、なな、なあんだこれぇええええええっっ!?」

 日常を粉みじんに吹き飛ばす混迷と混乱はその絶頂に達したのだった。


            次回に続く……!



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「オフィシャル・ゾンビ」④

  オフィシャル・ゾンビ
  ーOfficial Zombieー

-さいしょのおはなしの、つづきの3-


 シーン……!

 あたりは静けさに包まれていた。

 おおよそ二時間後、相変わらずそこだけ人気のない某テレビ局のフロアに一仕事終えて戻ってくる坊主頭のタレントさんだ。

 マネージャーくらいは待ち構えてるものかと思っていたのが、肩すかしを食らってため息交じりに楽屋の扉に手をかける。

「はあっ……えっと、この後ってなんか入ってるんだっけ? いや、これで今日はもうおしまいだったような気が……あ」

 この後のスケジュールを頭の中でうんうんと思い返しながら、ガチャリと何の気も無しに開けたはず扉の向こう、その何の気も無しに見た楽屋の景色にそこが異常事態だったことを思いだす。

 まざまざとだ。

 はじめそれが何かまったく理解できないままにその場に釘付けで、しばしそのさまを見つめてしまった。

 結果、およそ10秒くらはそのままの姿勢で固まって、ただちに喉の奥から乾いた悲鳴みたいなものを発する芸人さんだ。

「ひっ、あ、あああああっ、なんかいる!? な、なんだアレ? ちょっと待てよ、さっきまでここにいたの、日下部だよな? おれとおんなじお笑い芸人の? あいつどこ行ったんだ?? そして何よりアレはなにっ!?」

 完全にのけぞって入りかけた出入り口から大きくこの上体を反らしてしまうが、足がすくんでそれ以上は動けなかった。

 本来ならばそれこそが大声を上げてその場から逃げ出してしまうところなのだが……!

 それまでの複雑ないきさつがあって、それもままならないと泣きそうな顔でおそるおそるにまた部屋の中をのぞき込む。

 やっぱりいた。何かが……!!

「なにアレ、なんだよアレ? ひとの楽屋で何やってんの!? 不審者どころの騒ぎじゃないじゃん! バケモンじゃん!!」

 何か得体の知れないものが部屋の奥に陣取っているのをまじまじと凝視する鬼沢は、それが何なのかまったく理解できないままにひたすらに考えを巡らせた。

「に、逃げたほうがいいよな? スタッフなんて呼んでも誰も来てくれないだろうし、来たってあんなのどうにもならないし! ほんとになんなのっ!? お、俺、知らないぞっ、なんか寝てるみたいだし、のんきにひとの楽屋で! 日下部もきっと逃げたんだよな? それじゃ俺もとっとと……」

 ゆっくりと扉を閉ざして何も見なかったことにしようとする中堅の芸人は、閉める寸前でまたひきつった顔で中をのぞき込む。

 その顔面全体に絶望の暗い陰が落ちた。

「……ダメだ。大事な荷物、部屋の中に置いたままだった。てか、あのバケモンがしっかり抱えてるじゃん! 俺のトートバッグ!! なんでだよ!? あの中にお財布とかスマホとか貴重なもの全部入ってるから、なくしたりしたらかみさんに怒られちゃう。へそくり用の内緒の通帳とハンコとかも入れてたっけ??」

 頭を抱えてこの世の終わりみたいな巨大な絶望感にさいなまれる三十代半ばのおじさんだ。

 人影のない廊下を見回して、仕方も無しに単身で立ち向かうべく正体不明の存在が居座る楽屋にそろりと足を踏み入れる。

 幸い相手は寝ているみたいだからどうにかバッグだけ奪取してこの場を逃げ去ろうと土足のままで畳に上がり込む。

 なんだかよくわからないでかくておまけ人型の何者かは、耳を澄ませばかすかな寝息みたいなものを立てているようだ。

 ひとの楽屋でふざけた話だが、なぜだかすっかり就寝中なのをいいことにこのバカでかい頭からつま先までをしげしげとガン見してやる鬼沢は、困惑も極致のさまで声を震わせる。

「ひっ、なんだこれ? クマ? 犬? ネコ……じゃないよな? いやいやっ、でかさで言ったらたぶんクマだけど、こんなの見たことない! ありえないよ、ほんとにバケモノとしか言いようがないじゃないかこんなの、寝ている、んだよな? くそっ、返せよ、ひとのトートバッグ! く、もうちょいっ……!」

 不自然な前屈みの姿勢で、目の前のいかつくて毛むくじゃらでおまけ丸太のように太い二本の腕でしっかりとホールドされたバッグの取っ手までどうにか指先を伸ばしてこれを掴むものの、ちょっと力を込めたくらいではビクともしなかった。

 完全に一体化している。

 もはやバッグは諦めて、この中身を救出するのが賢明かと取っ手てから内側に手を入れかけて、だがそこで何かしらの視線みたいなものを感じてふと目の前へと顔を上げる鬼沢だ。

「……あっ」

 正体不明のクマだかなんだかと思い切りにこの目線が合って、それきりフリーズしてしまう芸歴10年オーバーの芸人さん。

 リアクションが取れないことを責めるのはやはり酷だろう。

 完全に思考が停止していたが、謎のクマ(?)が不意にその大きな口をがばりと開いたのには飛び上がって悲鳴を上げる。

 コンマ1秒とズレのないさすがのリアクションだった。

「ひゃあああああっ! ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、ごめんなさあいっっ!! おいしくないからどうか食べないでえええええっ!!! ……あれ?」

 足がもつれてその場に尻をついてしまうのだが、一度大口を開けた相手がそれきりきょとんとしたさまでこちらを見ているのには、こちらも不可思議に見返してしまう。

 どうやらさっきのはただの大きなあくびだったらしいことに今になって気づく鬼沢だ。

 そのさなかにもでっかいクマのバケモノはのっそりとした動作で仰向けで寝ていた身体をよっこらと起こして立ち上がった。

 やっぱり、でかい……!!

 見上げる鬼沢はひたすらぽかんとしたさまで開いた口がふさがらない。
 そのさまをやはり覚めたまなざしで見下ろすバケモノは、野太いうなり、もとい声で何事かのたまうのだった。

 そう。

 びっくりしたこと、ひと、人間の言葉をだ。

 目が点になる中堅芸人は頭の中が余計に真っ白になった。

↑日下部の亜人(ゾンビ)化した状態の姿のイメージです。とりあえずこんなカンジのカラーリングを考えています。ちなみにOpenSeaではこの他のカラーパターンもお安くNFT化して公開、販売中です(^^) 画像にリンクあり♥

「……ああ、もう終わったんですか、収録? お疲れ様でした。なんだかひどく慌ててるみたいでしたが、何かあったんですか? 収録で滑り倒したとか??」

「は? え、ええ?? なんで喋れるの、ひとの言葉? て、ま、まさか……おまえ、日下部か???」

 鳩が実際に豆鉄砲くらったらきっとこんな顔をするんだろうみたいな絶妙な表情でおそるおそる聞く鬼沢に、どうやら日下部らしきクマのバケモノは大きな頭をただちにはいとうなずかせた。

 当たり前みたいな調子でまたひとの言葉を吐いてくれる。

 見た目、完全なクマのバケモノが。

「はい。いやだって、他に誰がいるって言うんですか? ここで待っていると言ってたじゃないですか、おれ。何をそんなに驚くことがあるんですか?」

 いかにも不思議そうに太い首を傾げるのに、だが全身が総毛立つ鬼沢はおよそまともなリアクションの取りようがない。

 傍から見ていてもパニック必死の光景だった。

「な、なっ、ななな、なんだよそれ、ふざけてるだろ? なんかのドッキリだったりするのか、でないと納得のしようがない!」

 完全に腰が抜けてその場に脱力したきり、途方に暮れるお笑い芸人だ。こんな困惑することしきりの先輩に、後輩のお笑いタレントはにべない調子で言ってくれる。

「ドッキリじゃないですよ。だってこんなの放送コードに引っかかるでしょう? コンプライアンス的にも、完全アウトじゃないんですかね、いくらこのおれがオフィシャルなゾンビのアンバサダーでも?? 本来は人目に触れさせちゃいけない姿ですから」

「本来はって、ほんとに日下部なのか? どうして?? どう見たってそんなの……お化けじゃん」

「ま、ものは言いようですよね? 話を円滑に進める以上やむなくこうしてこの姿をさらしているわけですけど、アンバサダーの性格上、この姿で活動することもままあるんですよ? もちろん、それは鬼沢さんも同様です……!」

 目を白黒させるばかりのお笑い芸人に、こちらもお笑い芸人にしてクマのバケモノはみずからの太い手を差し出してくる。

「そのままじゃあれですから、どうぞ立ち上がってください。対等な立場でお話しましょう。なんならお茶でも飲んで?」

「あ、え、いや、何も喉を通らないよ。あ、ありがとうっ、おまえ、すごいな、ほんとに日下部なのか? はあ、ゾンビ、だったっけ?? いやはや、こんなことになっちゃうんだ……」

「あいにくちゃんと生きていますけどね。ピンピンしてます。それでは早速、お返事聞かせてもえらますか? 鬼沢さん、このおれと一緒に、オフィシャル・ゾンビのアンバサダーになってもらえますよね? 見ての通りでおれはここまでさらしています。だから鬼沢さんも……」

 まじまじと相手の姿を見つめて暗い顔つきになる鬼沢は、苦い目つきをよそへと投じる。それから嫌々でまた目の前のバケモノ、もとい日下部に向き直って、言えることだけを言った。

「なんだよ、もう……いや、それよりまずは俺のトートバッグ、返してよ。さっきからずっと握りしめてるけど、お前に預けたような覚えはありゃしないぞ? だから、れっきとしたブランド物なんだからな! おいっ、返せよ?」

 利き手の逆でしっかりと保持したままの私物の所有権を主張してやるに、相手は聞く耳持たないとばかりに黙り込む。

 さながら人質にしているみたいにだ。

 眉間に深い縦ジワが寄る先輩芸人はいっそ力ずくで取り返してやりたい気分だが、やるだけ無駄なのを察してため息と舌打ちまじりに言った。ほんとに嫌々でだ。

「はあっ、ち、わかったよ! なるよ、なればいいんだろう、アンバサダー! なんのことかさっぱりだけど、あと今のおまえもわけがわかんないけど、なればいろいろと保証してもらえるんだろ。ちゃんと責任取れよな! あと返せ、俺のバッグ!!」

 憮然とした顔で右手を差し出すのに、するとこれにはすんなりと私物のバッグが突き返されてくる。見上げるクマは満面の笑みであるのがわかるがそれがまたおっかなかった。

「あは、良かったです! もうちょっと強硬な手段を取らないとダメかと思っていたんですけど、さすがは鬼沢さん、世間一般のイメージと一緒でとっても物わかりがいいひとです」

「おい、さんざん脅して人質まで取っていただろう? 中身、元のまんまだよな? 一応確認するから、あっち向いてろよ」

「見られちゃまずいものでも入っているんですか? 興味ないから見やしませんよ。どうせこの場におきっぱで、後から来るマネージャーさんに回収してもらうんですから、意味ないです」

「は? なに言ってんの?? て言うか、おまえが言うアンバサダーってそもそも何?? 何すればいいの?? 俺、こう見えてわりかし売れっ子のタレントだから、そんなにヒマなんてありゃしないよ?」

「わあ、うらやましいですね、そういうのしれっと言ってのけられちゃうの! さすがは鬼沢さん。でも心配ないです。時間はちゃんと都合を付けてもらえますから。アンバサダーがらみの案件が入った場合は、ギャラはむしろアップしますよ。仕事も代わりのひとが担ってくれますし。昨今のコロナの都合でその手の対応はみんなお手の物でしょう」

「は~ん、事務所も局もきっちりと現場対応してくれるんだ? まさかダマでは無理だもんな、こんなわけがわからないこと! て言うかさ、おまえ、ほんとに何がどうなってそんなことになってるんだよ?」

「ああ、まあ、それはこれからわかることです。イヤでも。ええっと、そうだ、まずはアンバサダー就任の特典の付与からいきましょうか? では、はい!」

「は? なにこれ?? これっておまえのあの例の輪っかだろ? もらえんの??」

「違います。特典を交付するのにこれが必要なだけです。つまりは、こういうことですね……!」

「は??」

 いまだ他に人気のないフロアと楽屋で、おじさんとバケモノのドタバタはさらなる混迷を深めることとなる。

 哀れ中堅お笑い芸人の明日はいかなるものが待ち受けるのか?

        ※次回に続く……!

  ※第一話はこちら↓


 

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METAL POLYDONs ②

元祖ポリドンのシリーズ、とっちらかってきちゃったのでこちらにNo.041からリスタート、ミント&リストしたものから公開します!

https://opensea.io/collection/metalpolydons

No.041 POLYDON ORIGIN SILKYPINK-RED