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DigitalIllustration NFTart Novel オリジナルノベル SF小説 ファンタジーノベル ルマニア戦記

ルマニア○記/Lumania W○× Record #019


 Part1

 これまでの話の流れ……

 強敵であるライバルのキツネ族、キュウビ・カタナ少佐率いるキュウビ部隊を海上の空中戦で辛くも撃退、そのまま目指すアストリオン中央大陸に上陸したベアランド達、第一小隊の面々。

 途中、小隊のチーフメカニックの青年クマ族、リドルの補給機からの補給を受けて、いざひたすら目標となる「ポイントX」へと向けて、それぞれのアーマーを進ませるのだった。


 その始まりこそ、強敵の敵アーマー部隊の襲来と激しい空中戦で幕を開けたが、いざそれが過ぎ去れば、あとはすんなりと目標となる地点――。

 中央大陸の広大な砂漠地帯のおよそ真ん中にあるターゲット地点まで無事、この駒を進めることができたベアランドたちクマ族小隊だった。

 かくしてみずからが搭乗するアーマーのコクピットの中、上空からこの目標地点をモニター越しに見下ろしながら、ちょっと気の抜けた感じの言葉を漏らす部隊長だ。


「ふうん、いざたどり着いたのはいいものの、思っていたのとは大部この様相が違うな? 敵基地を空から強襲する作戦ってはずだったのに、まるで敵さんからの歓迎がないじゃないか……! おまけに見た感じ、なんだかひどくさびれた感じがするけど、実はもう無人だったりするのかな、あのベース??」


 そんな疑問を口にしながら左右のスピーカーに耳を澄ますが、ちょっとの間を置いて聞こえたのは部下のおじさんクマ族たちの、これまたどこか気の抜けたような返事だった。

 モニターにはあいにくこの顔が映らないが、さてはどちらも冴えない表情しているのがよくわかる。

 まずは明るい赤毛のクマ族が、のんきなものいいで言った。

「ほえ、なんやようわりませんが、敵さんのわんさかおる秘密の軍事基地っちゅうよりは、ただの野ざらしの廃墟みたいにぼくには見えますさかいに。知らんけど? 実際、ひとっこひとりおらへんのちゃいますぅ?」

「せやんな! ただのくたびれたあばら屋やで、あんなん! あないなボロッボロの建物、軍事拠点とは言われへんやんけ? マジでひとの気配あらへんし!!」

 名うてのベテラン・パイロット専用にあつらえた赤い機体に乗り込んだザニー中尉の言葉に続いて、こちらもまた専用の青い機体のおなじく中尉どののダッツも、思ったまんまの感想を口にしてくれる。

 これにひとしきり納得して頷く隊長のベアランドも、手元のコンソール周りを見回しながらなおのこと不可思議に考え込む。

     https://xrp.cafe/collection/lumania01

「そうだね……! 各種センサー類はなんらの反応や異常も感知しないし、こうしてぼくらに上空を制圧されてもまるで無反応。あえておびき寄せているのにしても、ここまで偽装する必要はないし、リスクが高すぎるよ。それどころかあれってのはもはや、陸軍基地の体裁をなしてないものね!」

「ほんまにボッコボコにされてんのとちゃいます? どこの誰かはわからんけど、実際に戦闘の形跡なんちゅうもんもそこかしかに見られますやんけ! ほんまに誰や!?」

 何かと性格がツッコミ性分で口やかましいダッツに、それとは逆にこちらはボケ気質で、のんびりした口調のザニーが返す。

「知らんがな。せやけど手間が省けたのには違いないような? てっきりぼくらが空と基地の周りをまとめて制圧して、後からやって来るあの口うるさいオオカミの隊長さんとこの第二小隊が、ガチガチの特攻かけるんかと思ってたんやけど?」

「せやったんか??」


「知らんけど」

「なんやねん!」

 そんなのんきなおじさんたちの好き勝手ないいようにまだどこか顔つきの冴えない小隊長は、だがやんわりとそれを否定する。


「いいや。今のシーサー達の機体はあくまで海上作戦仕様のそれだから、おいそれとこの陸上まではね? 海岸線からずっと内陸のここまでどのくらい時間がかかるかわらないし、一旦は母艦に戻って、『トライ・アゲイン』と一緒に来るはずだよ。そうさ、今頃は元の地上戦仕様にリドルやイージュンたちが、それこそてんてこまいで換装し直しているんじゃないのかな?」

「そないですか。でも灰色オオカミさんの機体はいざ知らず、わんちゃんたちのビーグルⅥは、元はぼくらとおんなじ機体の空中戦特化型やから、さてはそっちに戻しはるんですか?」

「はあ、せやったら空中戦仕様ばっかりになってまうやんけ!」


 どこまでものんきなおじさんたちの言いように、ちょっと困った感じの若手のクマ族は、おざなりな返事を返してやる。

「さすがにそれはね? ちゃんと陸上作戦用のパーツがあるはずだし、中尉たちのとおんなじ同型機とは言っても、ぶっちゃけあの子たちのはあんまり空中戦には向かないみたいだから……! てか、全身フルカスタムのその機体は、一発でこれがビーグルⅥだって見抜けるひと、そうそういないんじゃないのかな?」

「ふふん、それもそうですな! 昔のちみっちゃいビーグルⅤとはちごうてぼくらクマ族さん専用に作られた機体やから。言わば新型のⅥのプロトタイプそれこそが元祖みたいなもんで。おかげさんでめっさ気に入っておりますわぁ」

「そいつは良かった! 裏じゃ走る棺桶だなんて呼ばれてたⅤは、そもそもしてこのぼくら大柄なクマ族が乗るにはおよそ適していないボディサイズだったからね? 今のリドルが乗ってる旧式のⅣとは、あきらかに犬族たち向けにサイズダウンしたみたいな……」

「せやせや! 軍の犬族のお偉いさんがなんやわしらクマ族をきろうてそうしたって、もっぱら噂になってたやんけ! う~ん、なんやめっちゃむかつく話やけど」

「知らんがな。今はどうでもいいこっちゃ。で、どないします、隊長??」 


 左のスピーカー、もはや緊張感なんてものがどこにもないザニー中尉の問いかけに、果たして困り顔でうなるベアランドだ。

 このまま後続の本隊が来るのを待つのも芸がないかと、仕方もなしに荒れ果てた見てくれの目標地点を機体の右手で指さして、状況の確認をするように部下のおじさんたちを促す。



「なんだかこれはこれで返って手間が増えた気がするけど、ぼくらで基地の状況を把握して後続の母艦を誘導しよう。安全が確保されないままじゃ、艦長も艦をおいそれとこの場に着艦させられないし、どうせその役を負うのははじめにここにたどり着いた、このぼくらなんだし?」

 はいはい、と冴えないおじさんたちの返事を左右から聞きながら、いざどこに着地したものかと正面のメインモニターを凝視する。すると普段からのんびりしたもの言いが性格おっとりしているようで、その実は意外と目端の利く、明るい赤毛のクマ族のザニーが気をきかして言うのだった。


「そないですか。でもせやったらまずはじめにこのぼくらが降りますよって、隊長はどうぞ後から降りてきてください。不意打ちなんてあらへんのやろうけど、みんなそろうて待ち伏せくろうたら面倒ですさかいに?」

「せやんな! じゃ、お先に、隊長! わははっ」

「あ、そうか、了解! 確かに見れば見るほどにいかがわしい感じだけど、やっぱり投棄されているんだよな、あの基地って?」

「実際に中をのぞいたらわかるんちゃいます? じゃ、ぼくらが場所を確保したら、そのごっついかついアーマーで降りてきてもろうて。それともじきに艦が来るまでそこで待ちはります?」

「いいよ。ぼくもなんやかんやで興味があるから。せっかくだからみんなであのでっかいお化け屋敷の探索としゃれこもう♡」


 およそ迷いのない慣れた操作で、深い渓谷の谷間に造られた軍事拠点に向けて降りていく二機のアーマーを見ながら、みずからはぬかりなく周囲を見回しながらに冗談を言ってやる。

 あいにく無言のスピーカーからは、ゆるい空気とぬるい息づかいだけが聞こえた。


 おじさんたちはどうやら苦笑気味らしい。

 やがてすんなりと地面に着地した二機のアーマーからOKの手振りと頭部カメラのライトの明滅を見て取って、自身も大型の機体を谷間の底へと下ろしていく、若いクマ族の隊長さんだった。


 Part2


 仲間たちの誘導によって、空から地上に降り立った大型アーマーからこのコクピットハッチを開けるなり、まずは周囲のありさまをマジマジとおのれの肉眼で確認するベアランドだ。

 すでにこの脇に降り立っていた仲間のダッツとザニーはみずからのアーマーからも降りて、真下の日に焼けた大地がむき出しの地面からこちらを見上げていた。

 あたりは乾燥した砂漠地帯だ。

 乾いた空気が鼻先をなでるのを感じながら、やはり危険らしき兆候はないことを確認してこのクマ族の隊長も自機から地面へと降り立つのだった。

 しっかりとした固い大地の感触を久しぶりに踏みしめる。

 正面の視界一杯に廃墟よろしく荒廃した敵軍の軍事基地、この右を見れば見渡す限りが切り立った断崖絶壁、その反対に視線をやればそこには広くて平たい乾いた地平が拓けている。

 いわゆる空軍やアーマーの離着陸向けの滑走路なのだろうが、放棄されてどのくらいが経ったものか、そこかしこに砂漠の砂らしきが降り積もっていた。

 この場が放棄されているのが丸わかりだ。


 また乾いた風が吹くと、あたりに砂埃が舞うのにちょっとだけ顔つきをしかめるクマ族たちだった。

 ただでさえ剛毛で毛深い身体にまとわりついた乾いた細かな砂のつぶは、真水では洗い流すのがひと苦労だ。アーマーのコクピットに戻る前にひととおり払い落としておかなければならない。

 顔の前の砂気混じりの空気をうざったげに手で払いながら、いつもののんびりしたさまでザニーがとぼけたセリフを吐く。

 すぐに相棒のダッツに横から突っ込まれたが。

「ほんまにお化け屋敷みたいやんな? 静か過ぎてちょっと気味が悪いわ。なんや出てきよったらどないしよう?」

「なんやってなんや? なんもおらへんやろ。あんなんただの廃墟やんけ! どこをどう見てもよう?」

「知らんわ。ほなら隊長、どないしましょ。やっぱり内部をのぞかないけませんか? ……隊長、どないしました?」

 そう背後を振り返った赤毛のクマ族の中尉どのに問われて、何の気無しの返事を返す隊長さんなのだが、みずからが見つめるてんで見当違いの方角を指で示しながらに逆に問いかけていた。

「ああ、いやっ……! というか、あっちのあそこに停めてあるあれってのは、いわゆるジープ、だよね? しかもおそらくは友軍の?」

「はい? ああ、ほんまや、一台あんなとこにおったんや。ほならバッくれた敵さんがたまたま残していったんちゃいますか?」

 遠くの滑走路とひび割れた地面の境界線のあたりに停められた、明らかに軍用車両然としたそれに、今になって気づいたらしきおじさんのベテランパイロットも、はあ、と気のない返事だ。


「いや、でも敵軍の車両は、アゼルタのは基本あんな色はしてないはずだから。ぼくらとおんなじ系統の緑色で、元はルマニアの車両なのかな? あれだけやけに見てくれきちんとしているんだけど、外部から乗り込んできたのかね、ぼくらとおんなじで? まだ砂埃をかぶってないから、比較的つい今し方にさ……!」

「ちゅうても誰もおらへんやんけ。持ち主はどこ行ったんや? てことは不審者がおるっちゅうことなんか? めんどいのう!」

 怪訝なさまでダッツも後ろから顔を出して文句をたれるのに、なんとも言えない顔つきのベアランドは肩をすくめるばかりだ。


「まあ、何であれ用心するにこしたことはないね? 敵対者とは限らないけど、誰かしら第三者がここにいることは間違いなさそうだ。しかもあちらさんもこのぼくらの存在に気づいているだろうし、ね?」

「はあ、無防備にめっさ砂煙を巻き上げてアーマーで降りてきてまいましたからな? そんなもんで隠れるんならやっぱり……」

「あっこのお化け屋敷しかないやんけ! ほんまにめんどいわ。白兵戦なんかアーマーのパイロットがやることちゃうやんけ」

「だから敵対者とは限らないだろう? まあいいや、それなり気をつけながら、予定通りにいざ探検に繰り出すとしようよ。基地の状況の把握と安全の確保が第一だ。お客さんは無理に正体を追求しなくとも、後続の味方に任せてもいいわけだし」

「了解」


 果たして目の前の廃墟とし化した目標の軍事拠点へと、三人で大股でのっしのっしと歩き出すいかついクマ族小隊だ。

 あちこちが朽ちかけたコンクリの建物の、出入り口の一つと思われるものへと歩み寄って、その大型の鉄製の扉を見上げる。

 分厚い鋼鉄の扉はだがこれが微妙にゆがんでいて、外側へと若干傾いでいるのが見て取れる。おまけにひとがひとり通れるくらいの隙間が空いているのに、先頭に立つザニーがちょっとおっかなそうに中の暗闇をのぞき込む。


「ほえ、とりあえずここから入れそうですわ。お客さんもこっから入ってたりして? ほんなら誰から入ります??」

「暗いな? てか、誰からでもいいよ」


「おまえから行けよ! いいトシのおっさんがお化けがコワイとか言うんちゃうやろ? そら、邪魔やからさっさと行けって、早うせいやっ、て、おわっ、いきなりコケんなや!!」

 相棒の灰色熊にムリクリ押されて内部に入った途端にそろって何かにけつまずいたらしい。せわしないおじさんたちの後からのっそりとひときわ大柄な身体を潜り込ませるベアランドだ。

「ふたりとも落ち着きなよ。いいおじさんがみっともないてか、あらら、ほんとに真っ暗だな……!」

 あたりはやはり真っ暗闇で、照明はおろかどこにも非常灯の明かりらしきすらなかったが、少しすれば目が闇に慣れるだろうとぼんやりした辺りを見回してみる。

 人の気配はどこにもなく、すっかりと廃れたそれこそが廃墟であるのが肌身で感じ取れた。

 ゴタゴタしながらその場に立ち上がるおじさんたちとまだ慣れない視界で気配だけで意思の疎通を図るが、いいや、直後にはみんなでぱちぱちとお互いの目を見合わせることになっていた。

「……おっ、明かりがついたね? いきなり! お客さんの仕業かな? 察するにどうやら中の様子に詳しいようだ。何でだろ? それにこの基地の主電源と動力部はまだ生きてるらしい。敵勢から奪還した後はそのまま本来の主のアストリオン側に引き渡す予定だったから、よしよし、破壊された廃屋をただくれてやるよりはまだ面目ってものがたったね!」

 舌なめずりしてひとりでほくそ笑む隊長に、はじめまぶしげに天井の照明を見上げる部下のおじさんたちは、これがやけに微妙な顔つきでうさん臭げにあたりを見回す。

「ちゅうか、なんかイヤな感じですわ。まんまと内部におびき寄せられたような、あっちの手のひらの上で遊ばれてるような、敵でないんなら堂々と姿を現せばよろしいのに……!」

「ほんまやな! いけ好かんわ。みんなでドツキ回したらな!」

「いいじゃないか。こうやってわざわざ明かりを点けてくれるあたり、不意打ちする気はないってわけで、ひょっとしたらそもそもぼくらのことに気付いてなかったりするんじゃないのかな? 何かぼくらとは別の目的で侵入したんだと推測できるよ、もはや♡ 見つけたら仲良くしてあげよう」

「ほんまですか? そやかてぼくらはどないするんです、これと言って目的もなしにいたずらに入り込んでしもうて」

「目的ないんか? なんで入ったんや??」

「探索だろ? ほんとに敵はいないのか、現実に投棄された基地なのか、内部にあぶないモノが残されたりしてないか……なさそうだけど」

 気楽に雑談しながらこれと行く当てもなしに建物の内部の奥深くへと無防備なさまでのそのそ歩いて行くクマ族たちだ。

 とは言えさすがにアーマーのパイロットともなるとそれぞれに腕に覚えありの強者だったから、ちょっとやそっとのものと出くわしても無難に対処ができる。

 で、入ってから三つ目の角を右に折れたところでだ。


 思いも寄らぬものとまんまと真正面で出くわして、思わず悲鳴を発するザニーと謎の闖入者だった。


 Part3



 これと言った気配もさしたる足音もなしに、だがそれは忽然といきなり彼らの目の前に現れた……!

 もとい、もっとしっかりと周囲に気を払ってさえいれば、事前に察知ができたのかも知れない。

 なにはともあれ、無作為に見たまんまのT字路となる通路の角をひょいと右に折れた先で、まさかの謎の先客、潜入者との突然の邂逅を果たした明るい赤毛のクマ族のおじさんだった。

 一番先頭に立って先導していたものだから、正体不明の相手とは、一番はじめに接近遭遇を果たすこととなるザニー中尉だ。

 おまけに真正面からもろにこれと衝突した挙げ句、のわっと背後にのけぞっては後続の二人の仲間のクマ族にこの背中をすっかりと預けることとあいなる。

 ドンっという鈍い衝撃音と、ザニーのくぐもった悲鳴と、何故か、ぶうっ!といったおかしな悲鳴が、ほぼ同時に発生する。

 ただしこの頃には辺りにはしっかりと照明が灯っていたこともあり、緊迫感は希薄なのだが。


 相手はいかついクマ族のおやじの体当たりをこちらもまた不意だったのか、それはまともに食らって派手に背後にのけ反っては、ただちにそのまま背中からそれは大げさに転倒していた。

 すってんころりん!

 さながらマンガみたいなありさまでだ。

「うわっ、いきなりなんだい? 大丈夫かい、ザニー中尉! あと、いまのぶうっておかしな悲鳴みたいなのは……誰だろ??」

 見れば、ずてんと大の字で仰向けにひっくり返る何者かを、全身の赤毛を逆立たせてびっくり仰天! そんないまだに身体ごとのけ反るザニーの背中越しに、はてなと見下ろす隊長さんだ。

 拍子抜けしてちょっと呆れた感じに見つめてしまった。

 すると仲間のもうひとりの中尉どの、灰色熊のダッツがこれまた呆れまじりの罵声を浴びせる。

 こちらはおのれの相方のクマ族に向けてだったが。


「おう、しっかりせいや! おもっいきりぶつかってもうてるやんけ? 油断しすぎやろ、ちゅうか、いま誰とぶつかったんや? なんやおもっくそぶちのめしてるやんけ! ええんか?」

「し、知らんわ! ほええ、びっくりしたぁ! ほんまにどないなこっちゃ、いきなりぶつかってこられてよけるヒマあらへんかった。不意打ちすぎるやろ……!?」


 ふうっと胸をなで下ろしながらようやく落ち着いた様子のベテランパイロットのおじさんに、背後からこれを支える若手のクマ族は小首を傾げながらに視線で謎の第三者を指し示して言った。

「不意打ちだったのかな? 今のって?? ともあれ見たところじゃ相手は、まあ、どうやら敵さんなんかじゃないみたいだね? だってそうとも、あれっておそらくは……」

 不可思議な目線で見ているさなか、地べたに尻餅ついた何者かからはおかしな悲鳴ともうめきともつかない声が発せられる。



「ぶううううううっ! いきなりなんなんだブウっ!? ブッ、ふっ、不審者がいるんだブウっ、しかも三人も!? おまけにみんなでかくてとっても人相が悪そうなクマ族なんだブウっ!! わわっ、おっかないんだブウっ、ピンチなんだブウウっ!!」

 あんまり聞き慣れないもの言いと驚きようで、はじめこちらをひっくり返ったまんま顔だけで見上げてくる何者かは、顔面を真っ青にしながら反射的にその場にいそいそと立ち上がる。

 見るからにひどく動揺している不審者だった。


 おまけやけにたじろいださまで明らかに視線では逃げ道を探し始めるのに、対してちょっと困惑した顔で、とりあえずこちらに敵意はないことを両手を挙げて見せるベアランドである。

 寄っかかるザニーをとりあえず背後に押しのけて、みずからが正面に立ってこの場のとっちらかった状況をとりなした。
 
「いやいや、そんなに怖がることないだろう? ほら、言ったら味方同士じゃないか、ぼくら? なんたって見たとおりルマニアの正規軍のぼくらに、そっちはこの大陸の、そうさ見たところじゃアストリオン公国の正規兵だろう、そこのきみってば?」

「ほんまや! あんまり見たことないアーマースーツ着とるけど、もろブタ族やんけ! じぶん? ぶうちゃん丸出しや!!」

「ほえ、アストリオンはブタ族が主流っちゅうんは、ほんまやったんですか? せや、やたらにぶうぶうゆうてるし、一番はじめに出会うたのがこのぶたさんちゅうことは、ほんまに多数派なんや? ちゅうか、人相が悪そうなクマ族ってどえらい人聞き悪いことゆうてるけど、じぶんみたいな顔面ぶっさいくなぶうちゃんに言われたないわ、そないなこと?」


 ようやく事態がそれと飲み込めたらしく、ここに至ってちょっとしかめ面でお互いの顔を見合わせる中尉どのたちだ。

 おかげでなおのこと人相が悪く見えるが、それを横目で見ながらやれやれと肩をすくめる隊長のおなじくクマ族だった。

 それから目の前でおびえてすくみ上がるばかりの当のブタ族、その実はまだ若いのだろう青年兵士に向けて言うのだった。

「まあまあ。ひと口にブタ族とは言っても、いろいろあるらしいんだけどね? そうか、きみって見たところかなり正当派の純血のブタ族と見受けるけど、そんなブタ族さんがこんなところで何をしているんだい? おまけにたったのひとりきりで??」

 とりあえず同盟を結んでいる友邦国家の人間同士、なるべく紳士的に臨んでやるのだが、三匹、もとい三人のクマ族の中でも特に背が高くてがっちりした体格のクマさんのもの言いには、これが如実に引きつった表情で二歩三歩と後ずさる若いブタ族だ。

「ひいいっ、た、食べられてしまうんだブウっ!! ぶぶうっ、誰か、助けてくれなんだブウ!!!」

「そんなわけがないじゃないか! ほんとに人聞きが悪いな!?」

 不覚にもついには目をむいてわめいてしまう。

 かくして閑散とした通路に響き渡るおのれの声に、はっと我を取り戻すクマ族の隊長だ。

 一度わざとらしく咳払いなんかして、改めて目の前のブタ族に向き直るのだった。 

「おほん! いいから落ち着きなよ、いい加減に? お互いに偶然にもこうして鉢合わせしてしまったわけだけど、それぞれにそれなりの理由があってのことだろう? だったらきみはどこの誰で、何の目的でここに潜入しているんだい? そう、あとついでにここがこんな状態なのも、それと説明ができるなら是非とも聞かせてもらいたいもんだよな……!」

「ぶっ、ぶううううっ……! 敵ではないんだブウ? いきなりだからびっくりしてまったブウけど、怪しい見てくれだから味方とはわからなかったんだブウ、ほんとに味方なんだブウ?」


 ひとの言葉をどうにも信用しかねるように不信感があらわなぶたっ鼻をひくひくとひくつかせるブタ族である。

 対してこちらはみずからの太い首をはてなと傾げるクマ族だ。

「? 怪しい見てくれって、あ、後ろのふたりのおじさんたちのことかい? ひょっとして?? まあ、確かにこのぼくなんかと比べたらだいぶ派手なカッコをしてはいるけど……」

 言いながらぐるりと背後を見回すのに、これに目と目が合うふたりの部下のおじさんたちは、どちらも納得したような釈然としないような何やらビミョーな面持ちだ。

「ほぇ、つまりはこのぼくらのカッコのことゆうてるんですか、そこのぶうちゃん? なるほど、かつての王宮付きの特務戦術曲技団、ひと呼んで〝サーカス・ナイツ〟の衣装やから確かにレアなんやと思うけど、そないにビビらんでもよろしいのに」

「なんやっ、人相が悪いやらカッコがダサいやら、ほんまに言いたい放題やんけ! ほんまに焼き豚にして食ろうたろか?」

「ダサいとまでは言われてへんのちゃう??」

「ひええっ! やっぱりおっかないんだぶう!!」

「やめなよ。話が進まないじゃないか? ん、それじゃこちらから話すよ。とにかく良く聞いてくれ。ぼくらはルマニアから派遣された、独立遊撃戦術戦隊のアーマー部隊パイロットで、後ろにいるのが仲間のザニー中尉とおなじくダッツ中尉どのだよ。ちなみにこのぼくが隊長のベアランド、少尉だよ。よろしくね!」

 相手からの自己紹介にあって、それまでの驚きの表情の中に今度はまた違った別種の驚きみたいなものが浮かぶブタくんだ。

「隊長、ベアランド? ブゥ、えらい中尉がふたりもいて、なのにこの若い少尉どのが隊長さんなんだブウか? 確かに一番強そんなカンジはしてるんだブウけど……?」


 いざここまでにいたる複雑な経緯も含め、いろいろとワケありの寄せ集め部隊だからほうぼうに違和感はあるのだが、いちいち説明するのが面倒なのでこの顔つき苦めるだけの隊長さんだ。

 挙げ句、後ろでひそひそ話が聞こえてくるのにはいっそうのこと苦笑いになる。



「ほうれ、困惑しとるで? あのぶうちゃん! そりゃそうや、階級下の若手のクマさんが階級上のベテランのおっさんふたりも従えとるもんやから、わけわからへんのやろ! それをゆうてるこのおれもわけわからんし!!」

「ええんちゃう? いざ外に出て、おのおのが乗っかってるギガ・アーマー見たら、それで一発でわかるんやろうし。あないにいかついお化けアーマーや。それをひとりで切り盛りしてるっちゅうたら、アーマー乗りならすぐにも目の前のおひとの実力のほどっちゅうもんが、イヤでも理解できるんやろ」

「ははは……っ、で、そっちはどうなんだい? さすがにもう落ち着いただろ?」

 左右の肩をすくめ加減に聞いてやるに、相手のやや小柄だが丸っこい太った体格のブタ族は、まだ緊張の取れない真顔でありながら鼻息荒く言葉を返してきた。

 とりあえず落ち着いては来たようだ。

 それだからビッと敬礼返しながらにうわずった声を張り上げる若手のぶうちゃん、もとい兵士である。

「これは失礼しましたんだブウ! じぶんはアストリオン大公国宮廷直属・近衛師団所属のガードムンク、タルクス・ザキオッカス准尉なんだブウ! 見ての通りのアーマー・パイロットで、友邦国の援軍に加勢するべくはるばる駆けつけて来たんだブウ!!」

「へえ、そう言えばそんなこと言ってたっけ? ぼくらの艦長(ボス)?? 確かにここでお互いに落ち合う予定ではあったんだけど、なんか大番狂わせでどっちらけちゃったな? なにせ攻略するべき基地はこんなありさまだし、あときみ、合流部隊はたったひとりだけなのかい? おまけにアーマーもなしに??」

 そんなちょっと白けたふうな顔で見返しながら、だったら基地の外に停めてあったあのジープはきみのやつかい? とついでに聞いてやったところ、ビクンと大きく跳ね上がってなおさらに声を荒げるブタ族くんなのだった。

「ブウ? ああ、あいにくじぶんの新型アーマーはまだ調整が間に合わなくて……あ! そうじゃなくて、じぶんは大事な役目を負ってここにはせ参じたんだブウ!! ある大切なVIPの護衛とこれを無事にルマニアからの援軍部隊に引き渡すために! ブウ、でもそれなのに肝心のそのひとが……!」

「ビップ? あ、それってひょっとして……」

 頭のどこかに引っかかりを覚えたらしいクマ族のビミョーな表情に、なおさら切羽詰まった形相のブタ族がわめいた。

 クマ族たちはみんな顔を見合わせてしまうのだが。

「ぶううっ、絶対に無事に送り届けるようにと言われたその要人と、気が付いたらはぐれてしまったんだブウっ!! 一生の不覚なんだブウっ、何かあったらただじゃ済まされないんだブウっ! だから大慌てで探していたんだブウっ!!」

「なんや、それであないに勢い込んでぶつかってきたっちゅうんか? えらい人騒がせなこっちゃ、こっちは心臓破けるくらいにびっくらこいてもうて、しんどいわあっ……このブウちゃん!」

「迷惑なこっちゃで! あと大事な任務をもろしくじっとるやんけ? ほんまに大丈夫なんか、じぶん??」


「ビップってのがやけに引っかかるけど、ぼくの頭の中の人物と一致するなら、ちょっと同情しちゃうかな? 話には聞いていたけど、すっかり忘れていたよ。ここど合流する予定だったんだ、あの根性ひねくれた天才博士、もういいトシした犬族のマッド・サイエンティストとは……!」

「?」


 おじさんたちが背後で顔を見合わせるのに、肩をすくめて会えばわかるよ、とことさらにビミョーな顔で視線をよそへと流すベアランドだ。げんなりした雰囲気がなぜか全身から伝わった。

 それから改めてブタ族の若い士官と向き合う。


「この中ではぐれたのかい? だったらそう遠くには行ってないだろう、相手はけっこうな年寄りで、軍人でもないんだから」

「博士のことを知っているんだブウ? とりあえず中を探索して、動力室を探り当ててこの電源を復活させたら、そこで忽然とその姿を消していたんだブウ! 外で気配がするとかなんとか最後に言い残して……」

「気配? あ、それってもしかしたら……! この中でかくれんぼするのならかなりの一苦労だけど、それだったらむしろ来た道をまんま戻ってこの外に出ればいいんじゃないのかな? 他に行くあてなんてないだろうし、あの根性ひねくれた博士さんの興味を引きそうなものって、もはやアレしかないわけだし!」

「?」


 なおさら首を傾げて目を見合わせる仲間のクマ族たちには、とにかく出ればわかるよ、とひたすら苦笑いの隊長さんだ。

 それだから新しく仲間に加わったブタ族を引き連れて来た道をまんま後戻りすることとなる。


「さあ、それじゃタルクス、だったっけ? ぼくらと一緒に来ればいいよ。お目当ての要人にはきっとそこで再会ができるから。ちょっと急ごう。まかり間違っておかしなことされたら厄介だし、あの偏屈で有名な天才開発者の興味本位なんかでさ!」

「わ、わかったんだブウ! よろしくお願いするんだブウ!!」

「ほんまにぶうぶうやかましいぶうちゃんだぶう、やのうて、ブタくんやわ。おかげでうつってまいそうや」

「ちゅうか、もろにうつされとるやんけ! にしてもここまで来てまた戻るんか? なんやめんどいのう」

 ちょっと早足で先を急ぐ若いクマ族に、ベテランのクマ族たちとブタ族がぞろぞろと続いて廃墟と化した基地の通路のチリやらゴミやらをドタバタと踏みしだく。

 かくして何事もなく外に出たところで、そこでまた新たなる人物と遭遇するベアランドたち一行なのだった。 

 

 Part4



 もと来た道を来たままにたどって、早足で最初の建物の入り口にまでたどり着いた、ベアランドたち第一小隊の面々だ。

 半開きの扉から見える外界の乾いた景色はそこにこれと言った変化は見受けられない。なのではあるが、いざ外に出る時にはちょっとだけ慎重にあたりを見回してからの行動となった。

 この直前、外部でおかしな物音と、かすかな振動が伝わったのに皆が一様にその顔つきをしかめる場面もあって。

 その時、キョロキョロと鼻先を揺らしながらのダッツ中尉の言葉には、その場の誰もがいぶかしく首を傾げていた。


「いま、なんや発砲音みたいなもんがせんかった? ちょっと振動みたいなもんも伝わってきたし?? この足下、ちょい揺れたよな、なあ」

「知らんけど。なんや他にもおるんかの、おかしなもんが?」

「いや、今のはきっとぼくのランタンだね? どうやら外の何かしらに反応して自己防衛動作を発動したみたいだ。すぐに戻って来いって、異常感知のアラームも出てるし。ほら!」

 自前の携帯端末の黒い画面の真ん中に、短く赤い警告文が出ているのを示しながら、入り口の手前で深呼吸してまずみずからが慎重に内部から乾いた外の大地に足を踏み出す。

「ん……!」

 相変わらず乾いた風が吹くあたりには、これと目立った変化は見受けられなかったろう。

 だがしかるに、それまではなかったはずのものが、ひとりの人影らしきがほどなく離れた場所に、ぽつん、とあるのを見つけるのだ。

 用心してうかがうに、それ自体にはこれと危険性みたいなものは感じられなかった。見たところはあるひとりの小柄な男性らしきそれは、場違いな全体が白一色で裾と袖のやけに長い特徴的な見てくれした衣服で、つまりは白衣のそれだとわかる。

 人気もなく殺伐としたこの場にはおよそふさわしくない、そのいかにもドクター然とした様相に、頭の中にあった人物のそれとすっかり合致するのを確信するクマ族の隊長だ。

 おなじくそちらを見ている背後のおじさんたちが、さては怪訝な表情してるのがはっきりと気配で伝わったが、さらにその後ろからは、ぶひっと興奮したブタ族の声まで上がったりする。

「ぶううっ、いたんだブウ! あのひとなんだブウ! 博士っ!!」

「やっぱりね! いや、でもあの博士にわざわざ反応したってわけじゃあないんだよな、このぼくのランタンは? まあ、あれも立派な危険人物には違いはないんだけど……?」

 ちょっと間の抜けた顔つきでジロジロと眺めてしまうのに、当の相手はなぜだかどこかあさっての方角を向いたまま、こちらにはてんで見向きもしない。

 気配ではとっくに気付いているはずなのだが?


 それに焦った護衛のブタ族くんがドタドタと駆けよってわめき立てて、はじめてこちらに身体を向ける白衣の人物だった。

「ぶうううっ! まさかこんなところにいたんだブウか? おかげで心配したんだブウっ、あんなにこのおれからは離れないでいてくれって、何度もお願いしてたのに!! ぶうっ!!」

 ブタ族の護衛、タルクスのそれはあわ食った言葉にあって、だがあいにくでこれをただ怪訝な表情で見上げる相手の博士だ。

 小柄で華奢な身を白衣に包んだ、かなり年配の犬族をちょっと真顔になって見つめながら、背後のおじさんクマ族たちには、ほらね?と意味深な目線をくれるベアランドである。


「VIPとも言われていた通り、かなりの重要人物ではあるんだけど、同時にまたかなりの問題児でもあるんだよね! あ、その顔つきからしたら、ふたりとも会うのは今日がはじめてなのかい? なら用心したほうがいいよ、いろんな意味合いで、ね?」

 声のトーンを落として何やらやけに含むところがあるもの言いに、やや困惑気味のおじさんたちは冴えない面持ちで返す。

「なんやどないなひとかと思いきや、ただの貧相な犬族のおじいですやんけ? 吹けば飛ぶよな? なにがあかんのですか?」

「いや、それやったら噂くらいでは聞いたことありますわ。こうしてじかに見るのははじめてやけど。人畜無害っぽいちみっちゃいワンちゃん、ちゅうか、味方の技術者のえらい先生ちゃいます? それがこないな前線にまでわざわざ出てきはったんや」

 反応ひどく冷め切ってこれと興味感心が希薄なベテラン勢に、それにつきすでに一度面識がある若手のエースパイロットは、若干のうんざり顔でついにはみずからの口元をひん曲げる。

「それってどんな噂だったんだい? 確かにルマニアきっての天才的科学者だけど、その性格や人となりが破綻しまっくってて、むしろそっちのほうが有名なんだよね。他に類を見ないほど独創的で革新的なアーマーの設計理論と思想がとにかくひとりよがりで独善的、かつこの言動が冷血にして非人道的な文字通りのマッド・サイエンティストってね……!」

 ちょっとため息まじりでまた問題の上着の白衣が見かけ紳士然とした犬族をみてやるのに、こちらのことなどまるで意にも介さないような憮然とした態度面持ちの博士だ。

 小柄だから見上げるブタ族に向けてぞんざいに言い放つ。


「やかましいぞ、この目障りなブタ族め。ひとを責めるよりもまずじぶんのふがいなさを恥じればいいだろう。護衛とは名ばかりで何の役にも立たない足手まといのこわっぱめが、片腹痛いわ」

 みじんも容赦がない毒舌、聞きようによってはいわれのないただの誹謗中傷だ。それだからこれを真正面でもろに食らったブタ族のパイロット、タルクスは身体ごとのけ反っておののいた。

 後ろで聞いてるクマ族たちからしてもどん引きだ。

「ぶううっ!? なんてことを言うんだぶうっ! 信じられないぶうっ、確かに護衛ではあるけど、そんな相手の一挙手一投足をいちいち見張ってなんかいられないんだぶうっ!! そっちこそ子供じゃないんだからちょっとは歩み寄ってくれないとっ……」

 傍から聞いているぶんには納得のもの言いなのだが、独りよがりが服を着て歩いているかの犬族さまにはまるで通じない。

 言い切る前にあっさりとはたき落とされていた。

 おまけなおさら窮地に追い立てられる新兵くんだ。

「黙れ、たわけが。およそ無駄口と耳障りな鼻息だけだろう、きさまにできることは? おまけに図体ばかりでろくに空気が読めもしない、クマ族などという余計なものをぞろぞろと引き連れてきおって、つくづく役に立たないエスコートだな。言葉の意味、わかっているのか?」 

「ぶううううううっ!?」

 あえなく卒倒しかけて言葉を失う友邦国の友軍パイロットに、やむなく横からこの口を挟む若いクマ族の隊長さんだ。

「あらら、このままじゃお互いの友好関係が崩れちゃいそうだな? せっかくの援軍のパイロットくんとの! おまけに身内であるはずぼくらまでぶった切られちゃってるけど、ならさっさとこの身柄を引き渡してもらっちゃおうか! とっとと首根っこ掴んで黙らせたほうがいい……!」

「はあ、なんや気い悪いわあ! 言いたい放題やんけ?」

「ほええ、あないに噛みつかれてまうんですかぁ? 普通に口を聞いただけでえ? ほんまにしんどいわあ……」


「まあまあ、このぼくが相手をすればいいだけのことだから」

 頼んます! とただちに敬礼されてすっかり任されてしまう。  

 ちょっと苦笑いしてから改めて小柄な犬族の老人に向き直る。


 すると何か言うよりもこちらを低くからジロリと見上げてくる博士ときたら、有無も無きまま仏頂面して悪態の口火を切った。
 
 やはり味方相手でもおかまいなしだ。


「ん、そもそもが貴様、何を間抜け面してそんなところに立っている? お前がいるべき場所はとうに決まっているはずだろう。まったく職務放棄もはなはだしい。まともなヤツが誰一人としておりはしないのか、このわたしを除いては?」

「ひどいな! みんないたってまともだろうさ、博士ひとりをのぞいては? あ、じゃなくて、博士、無事で良かったよ。護衛のこのタルクスとはぐれてどこぞかで迷ってるって話だったから? 見たところじゃ余計なこともまだしてないみたいだし、ぼくのランタンとかにさ!」

 ほとほと困って苦笑いの対応に終始するクマ族に、札付きのクレーマーの犬族は不機嫌極まりないさまでのたまう。

「ふん、迷っていたのはそこの愚図のブタ族だろう。余計なこととはなんだ? 久しぶりの対面にある種の感慨にふけっていただけのこと。そうとも、このわたしの最高傑作たるギガ・アーマーとのだな?」

「ああ、王陣の番兵ならいたって健在だよ。バンブギン……あいにく今はランタンて呼ばれてるけど。やっぱり懐かしいのかい? あとぼくのこともしっかり覚えていてくれたみたいだし」


「ふん。貴様らのくだらない番犬など造った覚えは無い。大仰な名など、ただのお飾りでなんの意味も持ちはしないのだから。あいにく貴様の名前も覚えてはいないしな。ただ現状で唯一あれを動かせるパイロットとしての意義なら、無論、理解はしている。それ以外、貴様に意味などありはしないだろう?」

「ほんとにひどいな!! 名前くらい覚えておいてくれよ、ベアランド、こんなに覚えやすい名前もあったもんじゃないんだからさ。ぼくらの国じゃあ、ね、シュルツ博士? どうしてこんなところで合流したのか理由を聞きたいけど、どうせろくなことじゃないんだろう?」

 ひどく苦い顔してあえて聞くまいと視線を逸らしてから、改めて小柄な犬族に問いかけた。

「ああ、そうだ、ぼくのランタンが今し方に警戒行動に出たはずなんだけど、まさか博士を相手にしてってわけじゃないよね? いくら危険人物か知らないけど、たかが人間相手に反応することはないはずだから。だったらこの場で果たして何に警戒したのか、博士、何か心当たりがあったりはしないかい?」

「知るか。このわたしの知ったことではない。わたしの興味は目下あそこにあるアレにしかないのだから。見たところではそれなりマシに扱えているようだな? メンテナンスはさぞかし腕がいいようだ。余計なアレンジを加えていないところを見ると……」

 何を聞こうがどこまでも小憎らしく横柄な態度でつっぱのける博士は、あくまで自分の言い分をまくし立てるのみだ。

 対して顔つきがげんなりとなる隊長だった。

「はあ、頭のてっぺんからつま先まで完全オリジナルで、他に共有できる機体がないんだから、アレンジなんかやりようがないじゃないか。それに見たらビックリするよ。ただし内気な子だからお手柔らかにね……あ、聞いてるかい? 博士!」

 およそ他人の言葉を聞いてるのかいなのか、さっさとその場からきびすを返す犬族の老人にいよいよ匙を投げかけるクマ族だ。

「ふん……貴様らの艦はまだ来ないのか? そろって愚図ばかりだな。早くドックに収納してあれの運用データを見たいところなのだが。貴様の評価はその後でだ。良ければ名前の一つでも覚えてやる……!」

「今さっき名乗ったばかりじゃないか! あ、ボディ、たぶん熱くなってるから不用意に触らないでくれよ。手が焼けちゃうし、ヘタにいじられたくもないから! ああ、ほんとにこらえ性がないじいさんだな! 完全に自分を中心にして世界が回ってると思ってるよ……」

 最後の悪態は小声でこの足下にだけ落として、左手にそろって直立する三体のアーマーの、中でもこの一番奥に控える大型の巨人へと早足でにじり寄る小柄な影をみやる。

 背後でおじさんたちが文句をぶうたれるの聞き流しながら、ぐるりと辺りに視線を送る隊長だ。

「なんや、おれらのアーマーは完全に素通りしていきよったで、あのおいぼれのせんせ? ほんまに気い悪いわ! 仮にもアーマーの設計者ゆうんなら少しは気にせいよ」

「ええんちゃう? 絡まれたら厄介やし。こっちもあないな偏屈なおじいと絡みたないし。少尉どのにお任せやわ」

「まあ、そうだね……!」

 辺りにおかしな気配がないことを改めて確認しながら、ちょっとだけ内心で首を傾げる部隊長だ。

 鼻先をくすぐる乾いた風にかすかな違和感じみたものがあるのは気のせいか?と風の吹き寄せる彼方を見やる。

 虚空に目を懲らしてもそこに何も答えるものはない。

 ならじきに母艦が来るだろうことを考慮して、そちらに意識を向けるのだった。ここまではおおむねで良好だ。

 ブタ族の青年に博士のおもりを今しばらく頑張ってもらって、それぞれがみずからの持ち場に戻るように指示する。 

 背後の建物、放棄された基地の裏手の絶壁、その頂上から静かに見つめる何者かの目線があるのは気付かないまま……!


                  ※次回に続く…!

アストリオン・中央大陸(ルマニア・東大陸/アゼルタ・西大陸)
アストリオン・種族構成・ブタ族、イノシシ族、イノブタ族などがおよそ半数を占める。アストリオン自体は宗教色の強い、宗教国家でもある。元首・イン ラジオスタール アストリアス(家)

アストリオン・大陸構成
東側 アストリオン 60%
中央砂漠 空白地帯 25%
西側 ピゲル大公家 15%
 西側は過去にあったルマニア(タキノンが領事だった?→後のタルマとの確執になる?)とアゼルタのゴタゴタで独立を宣言したピゲル公爵の独立領となり、後にアゼルタと同盟関係になる。

主人公、ベアランドたちが目指すのは、大陸の北岸地域から侵入して、大陸内陸部の中央砂漠にあるアーマー基地。今は西の大公家と結びついたアゼルタの支配下にあるのだが…?
 実は無人化している?? レジスタンス(ベリラ、イッキャ?)の暗躍…!?

カテゴリー
DigitalIllustration Novel オリジナルノベル SF小説 ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア○記/Lumania W○× Record #018

#018 ※今回からグーグル アドセンスの都合でタイトルの表記が一部修正されています(^^;) はちゃ~…!

 Part1

 
 晴れ渡る空の下、西から吹く風はとても穏やかだ。

 海面から高度およそ1000メートルの空中での対峙から両者、しばしの沈黙――。

 まずはどちらから動くこともなく、しごく冷静に互いの隙をうかがう二機の隊長機だった。

 その内の一方で、とかく大型で全体が濃緑色をした新型アーマーを駆るクマ族の若きエースパイロットは、ペロリと舌なめずりしてひとりごちする。

 背後でやたらドタバタしているらしいベテランのおじさんパイロットたちのわめき声が今も左右のスピーカーからリアルタイムで垂れ流しだったが、そんなこと一切気にもとめずで正面のメインモニターをひたすらに注視していた。

「ふうむ、やっこさん、さっきからまるで動くそぶりが無いけど、どうしよっうてのかな? このまんまにらめっこするわけじゃないだろうに、さてはこっちから仕掛けるのを待ってる……なんて受け身なヤツでもありゃしないよね? んっ……!」

 不意に耳朶を打つ、どこからか通信が入ったことを知らせる短い電子音とともに、メインモニターの一角にこの通知ウィンドウが表示される。

 ただの一瞥してそれが目の前に仁王立ちする敵アーマーからのものだと理解するベアランドだが、やや苦笑いしてどうしたものかと考え込んだ。

「あらら、軍用でなくてちゃちな民間用の一般回線なんかで通信してきてるよ……! 確かにあちらさんの軍用回線のコードなんてわからないから、これが一番手っ取り早いんだろうけど、えらく割り切った隊長さんだな? どうしたもんだか……」

 言いながらも手元のコンソールに利き手を伸ばしてスイッチをあっさりとオンにするクマ族の隊長だ。

 こちらもとかくあっさりとした性格の持ち主だった。

 するとただちに目の前の画面に見たこともない若い軍服姿の男が、このバストアップで出現するのだった。

 てっきり音声でのみの交信をするものだと思っていた若いクマ族は、目をまん丸くして思わずそれに見入ってしまう。

 ぱっと見ではもっさりとした見てくれの地味なカーキと焦げ茶の軍服、いわゆるパイロットスーツであったが、その実はすらりとしたスリムな体型であることがうかがえる男は見たところまだ若いキツネ族で、それがやけに落ち着き払ったさまでこちらを見返してくれている。

 堂とした相手のさまに、片や内心でビックリしているのを見透かされてはいまいかと前のめりだった姿勢を背後へと落ち着けて冷静を装うのだが、ちょっと苦笑いして肩をすくめてしまった。


「あらら、まさかの画像付きで顔まで拝めるとは思ってもみなかったね! ビックリしちゃったよ。あ、てことは当然、こっちの顔もバレちゃってるんだ? いやはやまったく、誰でも傍受可能な一般の通信回線で、隊長さんがやるようなことじゃないだろうさ……!」


 今さらだと取り繕うのをやめて思ったことをまんまぶっちゃけてやるに、この表情がぴくりとも変わらない相手機の隊長、こちらもまだ若いのだろうキツネ族の男は、済ましたさまで静かな口ぶりのもの言いをしてくれた。

「フッ……! このような見え透いた挑発にいともたやすく乗ってくれるあたり、貴様もなかなかのうつけなのであろう? そのふざけた見てくれのアーマーといい、相手にとって不足はなし。あらためて気に入ったぞ……」

 それはやけに雰囲気のあるさまで、おまけ勝手に何かしらの納得をしたものか?
 
 静かに左右の目を閉じる、キツネ族の男だ。

 アーマー同士の戦闘中に大した度胸だった。

 このあたり、えっ?と妙な違和感を感じる若いクマ族は、とてもビミョーな感じでそれを見てしまうが、真顔で瞳を開ける相手のキツネはまたさらに好き勝手な言いようでのたまうのだった。

 静かな口ぶりでやたらな凄みがあるが、一方的に聞かされるクマ族の耳には、もはやちょっと痛い感じで聞こえていたか?

「名を名乗れ……! この場を限りに切って捨てるつもりだったが、いいや、貴様とは長い付き合いになるのやもしれん……そうよ、これまでの戦いが物語っている。不敵な面構えがやはりあなどれぬ男よ、違うか、クマ族の隊長どの」

「は? 何、言ってんの?? 名を名乗れっていきなり……! そういうのってまずはそっちから名乗るものなんじゃないのかな? 別に構わないんだけど、名乗らないとはじまらなかったりするのかな?? なんかおかしな展開になってきちゃったよ。通信に出たの、ひょっとして失敗だったかな……」

 また大きく肩をすくめてしまうのに、モニターの中でこちらと対面する見てくれシュッとしたさまのキツネ族は、相変わらずひたすら静かなまなざしでこちらを見ている。

 内心で舌を巻くベアランドだ。

「やれやれ、わかったよ。名乗ればいいんだろう? 戦場でのんきに名刺交換もありゃしないもんだけど、ぼくの名前はベアランドだよ。呼ぶならそう呼んでくれ。まんまで笑っちゃうよね! よもやフルネームは必要ないんだろう? なんならこのスリーサイズも教えてあげようか??」

 そう観念したかに告げてやるに、だが茶化したセリフは一切、聞き入れないひたすら真顔のキツネ族は、どこまでも落ち着き払ったセリフまわしでまたほざくのだった。

「ベアランド、とな……なるほど。心に留め置いてやろう。この場で果てるような見かけ倒しの腰抜けではないと見越して……! わたしの名は、キュウビ・カタナ……カタナと呼ぶがいい」

「あらら、ご丁寧にフルネームで! でもそんなの呼ぶ機会はお互いにないんじゃないのかな? とりあえず覚えておくけど。なんの時間だったんだ。もう切ってもいいよね? この通信??」

「フッ、それがこの戦いのはじまりだと、貴様がとくと理解しているのであればな……好きにするがいい」

「あ、そ! じゃあね!! 背後のおじさんたちがえらくはしゃいじゃってるし作戦遂行中だから、遠慮無く切らせてもうよ! お互いに後悔しないように全力を尽くそうね、気取ったキツネのイケメン隊長さん!!」

「カタナだ。そう呼ぶことを今し方、許したはず……」

 もはや聞く耳持たないクマ族の若い隊長さんだ。

「ようし、ランタン、パワー全開でただちに戦闘機動だ! あのおかしな白いアーマー、やたらにすかしたキツネ族の隊長さんをとっとととっちめてやるぞ!! 全砲門開いてお前の本気をしっかりと見せてやれっ!!」

 Part2


 ※ベアランド小隊、ダッツとザニー、キュウビ小隊、チャガマとゴッペのコンビのアーマー・バトル!時間があれば…!!  
             保留w


 Part3


 大空に縦横無尽に無数の光りが走り、轟音がとどろく!

 ビームと銃弾が激しく交錯する二機のアーマー同士の決闘は、いよいよ佳境を迎えつつあった。

 ベアランドが搭乗する新型アーマーの周囲を凄まじいスピードで駆け巡り、四方八方から銃弾を見舞う敵のキツネ族のアーマーは、一瞬だけその動きを止めて、また互いに正面でこの機体を向かい合わせる。

 白の可変型アーマーが今はスリムな人型のロボット形態となって空中に直立して静止。そのコクピットの中で正面のモニターをにらみ据える若きキツネ族の隊長は、異様な見てくれをした緑色の大型アーマーに向けて言葉を発するのだった。

 あいにくとあちらからの通信は切られていたので聞こえはしないのだが……。

「フッ……! どうした、まだその実力の全てを見せてはいないのだろう、貴様は? のらりくらりと攻撃をかわすだけでは戦には勝てはしないぞ。いい加減に本気を出すがいい……!!」

 いいざま殺気を放って操縦桿を手前に引き寄せる、自らをカタナと名乗ったキツネ族は目に止まらぬ足裁きと利き手のクイックモーションで機体をジェットフライヤーに変形、急上昇させる!

 対するクマ族の隊長、ベアランドは飛行タイプで特攻さながらに急接近する敵影、これを反射的に真正面から受けてやろうと待ち構えるが、それが突如として目の前で急停止、おまけロボットのアーマー形態で対峙するのにちょっとだけ意表をつかれる。



「そんな無理矢理な突撃かけようがパワーとガタイのでかさじゃこっちが上さ! はたき落としてくれるっ……て、なんだ、いきなり急停止してそんな見つめられても? て、また!!」

 つかの間の静寂だけ感じさせてさっさと飛行形態に変形、かつ上空へと逃げ去る敵影を一度は視線だけで追いかけるが、また直後には舌打ち混じりに背後へとその視線を転じていた。

 目にも止まらぬ素早い機動で相手を攪乱した後、この死角を突いてくる敵のやり口はとっくに理解していた。

 よって思ったとおりにこの機体の背後に上空から急襲かけてくる白いアーマーの影を、目の端でチラとだけ確認するなり迷わず手元のトリガーを引き絞るベアランドだ。

「ほんとにひとのバックを取るのが上手だな! いやらしいったらありゃしないよっ、でもあいにくとコイツに死角なんてありゃしないんだ! そら、ランタン、一発食らわせてやれ!!」

 ドドンッ……!!

 大きくていかつい見てくれの機体の至る所、果ては背後にまで装備した高出力のビームカノンを一斉射して不意打ち見舞ってやるが、憎らしいこと相手はかするでもなくこれを難なく回避してのける。

 だがおよそ山勘で撃ったのは、はなからただの牽制のつもりだったクマ族のエースパイロットは、その隙に大型の機体をぐるりと反転させてまた敵のアーマーと真正面で対峙する。

 ここでまたつかの間のにらみ合い……!

 その末にもはやいっそゼロ距離射程での肉弾戦、ドッグファイトに持ち込もうかと図体のでかい機体のスロットルを利き足で踏み込むベアランドだが、あいにくと敵の白い影はこの姿をまたしてもやでいずこかへとくらましていた。

 スピードではいささか分が悪いのがイヤでも思い知らされる。

「あらら! こりゃあらちがあかないな? いつまで経っても無意味な追いかけっこのまんまだよ。ひょっとしたらこっちのエネルギー切れを狙ってたりして? あの異常なスピードに対抗するのはできなくはないけど、一か八かなんだよな……!」

 通常よりも巨大な機体の鈍重さを補うためのギミックとして、それすなわち本体から切り離して遠隔操作が可能な、両腕の独立機動型のハンドアームカノンがそれを担っていたが、これは既にネタがバレているので無闇やたらには使えないと承知していた。

 相手のただならぬ力量から察するに、これ見よがしなロケットパンチは簡単によけられた挙げ句にまんまと撃ち落とされたりしかねない。母艦でこの帰りを待っている若いクマ族のチーフメカニックの青ざめた顔が脳裏によぎって、かなりためらわれた。

 おまけ壊れたパーツを海から引き上げて持ち帰るのもかなりの難儀だ。開発経緯が何かと特異な新型機では従来機との部品の共有も困難だった。

 内心で舌打ちしてしまうが、ふっと正面のメインモニターの左の隅で何やらやたらにガチャガチャとした光景が見切れた気がして、そちらに意識を向ける隊長のクマ族だ。

 すっかり失念していたが、同じ部隊のメンバーのベテランのおじさんクマ族たちがかなり混乱したさまで自機のアーマーを右往左往させているのにパチパチと目を白黒させる。

「あっ、ダッツ中尉とザニー中尉どの、経験豊富なやり手のクマさんコンビがずいぶんと苦戦してるみたいだな? 意外と?? そういや相手のおんなじ赤と青のカラーリングのアーマー、どっちもかなり特殊な兵装だったけど、出撃前のブリーフィングで説明してなかったけ?? 所見でアレは確かにしんどいか……!」

 左右のスピーカーはやたらとうるさいから今はオフにしていたのだが、あらためてオンにすると思った通りだ。

 やかましいおやじたちのわめき声が左右の耳をつんざいた。

 やはりこれまた思った通りの展開らしい。

 それにつき、ははん、とひとりで納得する隊長さんだ。

「そうそう。あの赤い大型のアーマー、相手からのビームのエネルギーを機体前部にあるあのおかしな形のシールド・ジェネレーターで吸収して、おまけに跳ね返すだなんて反則じみたマネをするんだよね! それを相棒のあのやたらに身軽で小回りがきく青い小型のアーマーがさらに空中ではじき返して、あらぬ方向からカウンター攻撃を繰り出すだなんてこれまたとんでも戦法で相手を攪乱するという……あ、そっか! その手があったか!!」

 ピンと何かしら閃いた顔つきでペロリと舌なめずり。

 おまけに頭の左右の耳を楽しげピクピクさせるクマ族は、にんまり顔でもう傍らの白いアーマーへと向き直る。

「へっへ、いいこと思いついちゃった! 毎度毎度で申し訳ないんだけど、この場をお開きにするとっておきの戦法がぼくらにはできるんだよね? 思えば前回もピンチをこれでまんまと切り抜けたし♡ あの赤いアーマーくんには悪いんだけどさ……!」

 アーマーの主動力源、メインエンジンのパワーバランサーを素早く片手で操作しながら手元の通信機のスイッチをオンにする。

 すると通常の一般回線のそれはまだ生きていたようで、そちらに向けてしたり顔して言ってやる。

「おほんっ、ええ、聞いてるかい、キツネ族のやり手の隊長さん! ん、カタナ、だったけ? あいにくとこの場で決着はつけられなかったけど、とりあえずで判定勝ちくらいは決めさせてもらうよ。当然このぼくらのね!」

「……貴様、何を言っている? うつけたことを……」

 やや間を置いて聞こえてきた怪訝な相手の返答には一切、耳を貸さずに一気にまくしたてた。

「悪いけどこっちもいろいろと忙しいんだ! 本来の目標はもっと先だし、なるべくならみんな無傷でたどり着きたい。ここでこんな消耗戦は望まないんだ。戦場は広いんだから、またしかるべき時にしかるべき場所でお相手するよ。それじゃまたね!」

 言うなり今度は左右のスピーカーに向けてがなるクマ族だ。

「ダッツ、ザニー、両中尉とも流れ弾に気をつけてくれよ! ちょっと無茶なことをするから、とにかく全力で回避してね!! それじゃっ、ランタン!」

 いきなりのおまけ何やらただならぬものの言いに、左右の耳にはびっくりしたようなおじさんたちの声が絡みつくが、やはり一切気にせずで握った両手の操縦桿に力込めるベアランドだ。

「よっし、なんの予行練習もなしにいきなりでアレなんだけど、フルパワーで全砲門一斉射撃だ! フルレンジバースト! ついでにメインのコアブラスターも完全解放、拡散なしの一点集中でぶちかますよっ、狙いは当然、あの赤いアーマーの突き出た土手っ腹のジェネレーターだ!!」

 一度深呼吸しながら手前に引き寄せて、雄叫び発してただちにそれらを思い切りに押し倒す。

「そおらっ、ゆくぞ、ランタン! おおおおっ、フルバーストしてからのおっ、はああっ、ライトニングボルトぉおおっ!!!」

 その瞬間、すさまじいエネルギーの圧がその機体の全身から吹き上がるのがよそからでもはっきりと見てとれただろう。

 巨大な身体中の至る所に装備された無数の砲門が一斉に光りの光弾を四方八方へと吐き散らす。

 それはそれは壮観な眺めだが、その場に居合わせた周りからしてみればおよそただ事ではない大惨事だ。

 敵味方お構いなしに放射状に放たれる光りの束、ひとつひとつが戦艦の主砲さながらの灼熱のエネルギー弾は、ただの一発食らえば機体が粉みじんになりかねない。

 しゃがれたおじさんたちのたまぎる悲鳴や怒号が聞こえたが、そこにはひとつも耳を貸さないで画面の左の奥にターゲットした目標をにらみ付ける隊長だ。

 機体前面下部、腹からやや下のおよそ股関節あたりに位置する固定型の大型キャノンはここぞという時のための奥の手で、ひとたび唸りを上げれば射線上にあるもの全てを灰燼と化すほどの飛び抜けた威力を秘めていた。

 ただしその代わりにひとたび撃てばエネルギーの損失が激しく連発は不能、かつこれ以降の機体の戦闘機動にかなりの支障を来したりもした。

 ぶっちゃけ機体上部に装備した戦艦ばりの大出力シールドジェネレーター(バリア)の稼働がしばらく不可能になるほどの大食らいなのだが、そこにつけ込まれてはかなりキビシイ局面におちいる。

 言うなれば諸刃の剣だった。

 よって右手のモニターに映る敵の隊長機を目の端っこだけで意識しながら、だがこの焦点はしっかりと赤いアーマーにのみこの意識を集中させるやり手のクマ族だ。

 してやったりと右の拳でガッツポーズをつくる。

「やったね! 大当たり!! ど真ん中にど直球でぶち込んでやれたよっ、さすがにキツいだろう? 戦艦の主砲を何発もまとめて食らった大ダメージはいかにエネルギー吸収型の新型ジェネレーター搭載機でも無事でいられるはずがない! ほうらね!!」

 機体各部から白い煙か蒸気みたいなものを発する赤いでぶっちょのアーマーに、にまりとほくそえむ隊長さんだ。

 左右のスピーカーからは部下のおじさんたちからあわ食った声が聞こえるが、やはりしれっと聞き流した。

 そうしてぐるりと視線を左手のモニターへと向かわせる。

「ちょちょちょっ、なんやねんっ、いきなり!? びっくりしたあ!!」

「た、た、隊長、いきなりなんですの? わけがわからへん、どないして??」

「いいから! ぼくらの勝ちだよ、それだけだ! 見てればわかるさ♡」

「なんでぇ?」

「ほええ??」

 ひどく動揺したおやじたちの声をやり過ごしながら、相手の隊長機の挙動にのみ意識を集中――。

 するとつないだままの通常回線からかすかな舌打ちめいたものが聞こえたようで、回線をぶち切るなりに白いアーマーはあらぬ方向へとこの向きを転じる。

「ハッ、やっぱり、そうなるよね? 前回の時もそうだったけど……!」

 頭のメインカメラが追尾する景色、およそこちらからの射程を外れた大回りの機動で被弾した仲間の元へと合流する白いアーマーは、息も絶え絶えかのような赤い大型アーマーと青い小型アーマーに転進を命じて、みずからはダッツとザニーのアーマーに威嚇の射撃を食らわせながら自身の機体もじりじりと後退させる。

 これにて勝負ありだ。

 負けじと気を吐くふたりのおじさんクマ族たちには深追いはするなと伝えながら、遠ざかっていく三機のアーマーをモニター越しに見送るベアランドだった。

「ふうむ、ああやって負傷した部下を見過ごしておけないってあたり、やっぱりいい隊長さんなんだよな? 性格的にあんまりおともだちにはなりたくないけど。やれやれだ! さすがに3度目はもう通用しないだろうから、また他の手を考えなくちゃね。そもそもリドルはこんな無茶なやり方、あんまり賛成はしてくれなさそうだし……」

 いいながらちょっとだけ思案を巡らせて、残る仲間の機体に向けて通信を開く。

「それじゃ、ダッツにザニー中尉、休む間もなしにアレなんだけど、見たところどっちも機体に目立った損傷はなさそうだからこのまま目的地のアストリオンに……ん?」

 不意にモニターの真ん中に浮かび上がる注意喚起のビックリマークと短い電子音の警告に、場の空気がちょっとだけ静まりかえる。

「え、今さら新手かい? いや、なんだろう、何かがぼくらの背後からやけに低速で近づいてくるぞ? これって……」

 機体をぐるりと背後へと巡らせて、メインカメラが改めて捉えた映像に見入るクマ族の隊長はややもせずに納得していた。

「あ! あれって、ビーグルⅣだよな? リドルの補給機か! わざわざここまで追っかけてきてくれたのか、ありがたいな♡ 燃料と弾薬の補給ができるし、日が暮れる前までに内陸のポイントまで行けそうだ。それじゃ、合流するよ、我らが天才メカニックくんのお世話になろう、まさかの空中補給とは、でもこれはこれでいい訓練だよね!」

 強敵との戦いから仲間の補助を受けて、また新たな任務、本来の目的へと駒を進めるベアランド小隊であった。

 目的地の中央大陸はひたすらな広がりを見せて大海に横たわる。

 その遙か内陸の地に、目指すべきターゲットがあった。

 戦いはこれからなのだと弛みかけた気を引き締めるクマ族小隊である。

              ※次回に続く……!
 

プロット  ベアランド vs キュウビ
     お互いに通常回線でのやり取り、
     ランタンとゼロシキの空中戦
     ダッツ、ザニー vs チャガマ、ゴッペ

※本記事はまだ執筆途中です(^^;) 創作過程をニコ生ライブで絶賛公開中!オリジナルのキャラクターと話せたりキャラが歌ったりするよ♪

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ルマニア戦記/Lumania War Record #017

#017


 Part1


 若いクマ族の小隊長が見ているさなか、おじさんのベテラン・クマ族コンビと、対してこちらはまだ若手なのだろう、敵アーマー・パイロットたちによる、新型アーマー同士の空中戦は、いざ始まればすぐにもこの大勢が決しようとしていた。

 経験値の差もさることながら、それぞれのアーマー自体の性能差がもはや歴然、結果はやはり、はなから知れていたらしい。

 よってあと少しで勝敗がつくのではと思われたところでだ。

 だが不意に、それぞれのコクピット内に短い警告音、甲高いアラートが鳴り響く……!

 これに反射的に目にした手元のレーダーサイトには、目指す大陸の西海岸域方面から出現したとおぼしき、また新たなる複数の敵影が、こちらに向けてまっすぐ急接近するのがはっきりと見て取れる。

 これによりようやく今回の本命が登場、本番が始まったのだなと気を引き締めて正面のモニターに臨む、隊長のベアランドだ。

 当人としても、そろそろだろうと予期はしていた。

 迫り来る影は、いつぞやに見たものとまさしく同一であることを、それとしっかり視認もする……!

 強敵だった。


 ベアランド小隊(第一小隊) 隊長・ベアランド少尉(クマ族)、部下・ダッツ中尉(クマ族)、ザニー中尉(クマ族)と、その搭乗するアーマーのイメージ図。ベテランクマ族コンビのアーマーに、めでたく色が付きました!

※↑上のイラストは、OpenSeaでもNFTアートとしてリリース予定! はじめはお安くするので、興味のある方はのぞいてみてください(^^) ↓

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 接近する影は都合、三つ。

 そのどれもが以前に会敵したことがあるものと同じであることを、正面のメインモニターに一時的に浮かび上がる、戦況表示ディスプレイがそれと教えてくれる。

 アーマーの頭脳たる高度集積戦術コンピューターが相手機のデータを適宜に解析、覚えていたものと100%の確率で完全適合。

 それらの中でもこの先陣を切ってこちらに突撃してくる高速機動型のアーマーは、これがなかなかにあなどれない実力者であることを、もはやその身をもって経験している隊長さんだ。

 これはさしもの腕利きのベテランクマ族コンビでも、油断していたら一撃でのされかねないな……!!


 と、それまで背後に控えさせていたみずからの大型アーマーを、慎重にゆっくりと微速前進させる。

 どちらも戦いの最前線を渡り歩いてきた有力者たちなだけに、何かと我が強い、ダッツとザニーの両中尉どのたちだ。


 よってこれにさてなんと言ってこの場を説明したものかと内心で頭をひねるのだが、何か言うよりもあちらのほうから何やらして、いささか気の抜けような声が通信機越しに入ってきた。

「はえ、なんやようわからんけど、相手のひょろっこいアーマー、どちらも下がっていきよるでぇ? カトンボが気配を殺して姿をくらますみたいによう? 隊長ぉ、どないしましょ??」

「え、そうなのかい? あ、ほんとだ! あっさり引いていくね? まったく引き際がいいやら、やる気がないのやら??」

 これまでダッツとザニーの相手をしていたはず、モニターの正面に捉えられていた二機の飛行型アーマーは、そのどちらともが新手が入ってくるのと入れ替わりに、この機体を我先にとその場の戦闘空域から離脱して遠ざかっていく。

 すぐにもただの点と点になるのだった。

 事実、目の前のレーダーサイトからも、この機影がことごとくして消失……! 

 援軍の到着に、これ幸いとしっぽを巻いて逃げるかのごとくにだ。傍目にはあからさまな敵前逃亡かのようにも見えたが、新手の敵影ときれいに入れ替わるさまからすれば、必ずしもそういうわけではないらしい。

 はなからそうする算段だったのかと首を傾げるベアランドだ。

 そう、つまるところで主力がこの場に到着するまでのただの時間稼ぎ、言うなれば〝噛ませ犬〟だったのか?

 するとこのあたりにつき、もうひとりのベテランのクマ族のパイロットザニーがこともなげに言ってくれる。

「ほぇ、ほんだらばあないなザコちゃんアーマー、ほっといてええんちゃう? それよりもまた勢いのあるのがようさんよそから来ておるさかいに? 言うてまえばあちらさんが本命なんやろ」

 こちらの隊長にではなく、同僚のおじさんに向けて言ったものとおぼしきセリフには、思わず苦笑いして同意する。

「あ、するどいな! それじゃここからは、あの後からぞろぞろやって来たのにみんなで集中だね! ちなみにぼくは既にやり合ったことがあるんだけど、どれもなかなかの強敵ぞろいだよ?」

 その瞬間、通信機越しにやや張り詰めた空気が伝わるが、おびえよりも低いうなり声とやる気がみなぎる。

 ここら辺、やはりどちらもやり手のアーマーパイロットだ。

 先日のまだなりたての犬族の新人コンビたちとは明らかに戦場での身のこなしが違う。これにまずは安心しつつも、また脳裏にある種の不安もよぎるベアランドだ。

 そうこうしている間にも、迫り来る敵アーマーがこちらとの交戦空域に入ったことが、甲高いビープ音ともに知らされる。

 中でも特にスピードの速い高速機動型のアーマーが、やはり単身で突っ込んでくるかたちだった。

 前に会った時のままのそれはやる気の有り余るさまに、対して内心でひどくげんなりとなるクマ族だ。

 どうにも執念深いことで、もはや目の敵にされているのがありありと伝わってくる。

 これに即座に対応しようとするベテラン勢には、あ、いや、ちょっと待って!と、やや慌ててツバを飛ばす悩める隊長さんだ。

「あ、待った、それは無視してくれて構わないや! なんたって速くて強くて厄介だし、どうせこのぼくがお目当てなんだからさ? 中尉たちは後からおっかけてくるあっちの子分のアーマーたちをお願いするよ。あれはあれでまた厄介なんだけど……!」

「ほえ? 無視してええんですか? ぼくらはその後にやってくるやつらを相手にせいっちゅうことでぇ?」

「なんやようわからん! あないなただ速いだけのジェットフライヤー、おれらの敵やあらへんやけ? そないなもん、どないして避けなあかんの??」

 通信機越しに左右のスピーカーからはどちらもややいぶかしがった返事が返るのに、内心で動揺しながらもあくまでベテラン勢を刺激しないような言葉を選ぶ、ベアランドだ。

「ああ、いや、あちらさんはもともとこのぼくだけに用があるみたいだから、そっちのほうははなっから完全に無視してくれちゃうと思うんだよね? だからその、無理して中尉たちが横から絡まなくてもいいってわけで! あとあれってのはああは見えて、現実はそう、ただのフライヤーじゃあ、ないからっ……!!」

 これまでの戦いから、この歴戦の勇者たちの力をもってしても、ひょっとしたら危ういかもしれないと直感的に悟っていた。

 その動揺を悟られまいと平静を装った態度そぶりに努めるのだが、あいにくと相手のおじさんクマ族たちからは、何故だろう、わずかな沈黙が通信機のスピーカー越しに伝わってくる。

 その瞬間、果たして何を考えたものか?

 ふたりのベテランパイロットたちは、みずからの顔を映したモニター越しの視線のやり取りだけで、何やら互いにはっきりとした意思の疎通をしてくれたらしい。

 この時、イヤな予感が脳裏によぎりまくる隊長さんなのだが、果たして同時にその顔に不敵な笑みを浮かべる中尉どのたちだ。

 よってこちらの忠告もそっちのけで、向かってくる見てくれ戦闘機タイプの敵めがけてみずからのアーマーを急速発進させる。

 もうやる気が満々だった。

 この部隊リーダーの意図などは完全に無視だ。

 はじめげんなりしてそのさまを見るベアランドは、焦りと困惑で思わず声をうわずらせる。

「ああっ、だから、それは無視していいんだって! このぼくの担当なんだからさ!! 強いしとっても厄介なんだから!!」

「わはは、せやったらなおさらおもいろやんけ! 隊長の相手だけやのうて、こっちもしっかりサービスしてほしいもんや、バリバリ歓迎してやるさかいに!!」

「せやんな、ほな隊長さんはそこでよう見といてください。ぼくらでしっかりおもてなししてやりますよって。元よりあないなジェットフライヤーごときに遅れを取るよなこのぼくらやないですさかいに……!」

「いやいや、だから違うんだって!! ああ、もう、ろくにお互いの連携が取れないんじゃひどい混戦になっちゃうじゃないか? これってれっきとした上官に対しての命令無視だよ!?」

 しまいにはちょっと嘆いてしまうのに、ずっと年上で経験に勝るパイロットたちは、やはりいっかなに聞く耳を持たない。

 どちらのスピーカーからか、上官ちゅうかそっちのほうが階級下やんけ!みたいな本音が漏れていたが、それはあえて聞こえなかったことにする若手の部隊長だ。 

 そんなものだから慌てる隊長が見ているさなかにもさっさと敵の先鋒、その実をして一番の強敵と交戦状態に突入していた。

 挙げ句、左右のスピーカーからどわっと驚いた声が上がったのは、その直後のことだ……!

「んん、なんやそれ!? ちょちょ、ちょい待ちぃ!!」

「ほえ、なんや、いきなり変形しおったで? ただのジェットフライヤーちゃうんかったんけ?? ぬぐおおおおおっ!?」

「ああっ、もう、だから言ったじゃないか!!」

 およそ危惧していた通りの展開に、思わず天を仰いでがなってしまう。

 二機の僚機のすぐ手前まで猛然と突撃をかけてきた戦闘機型の敵機は、あわや衝突すると思わせてこの直前でピタリと急停止!

 もとい、そのカタチをまったくもって別のモノへと変えながらに、おまけ悠然と空中に立ち止まってくれる。

 ただし制止したのはコンマ1秒以下だ。

 そのいかにもアーマー然とした人型のプロポーションを見せつけた直後、直角の軌道を描いてさらに高い上空へと舞い上がる。

 それは見事な操縦テクニックだったが、それとあわせて実はただの戦闘機が瞬時に戦闘ロボットへと華麗なる変身を遂げたのには、あんぐりと口を開けたまま、目を白黒させるばかりのふたりの熟練パイロットたちだった。

 ただその瞬間、口では驚きの声を発しながらもアーマーの操作自体はぬかりなく対処していたのはさすがだが、見ているこちらは冷や冷やものだった。

 おまけそれで肝を冷やすほどの臆病者でもないクマ族のおやじたちに、タチが悪いやつらばかりだと内心で舌打ちしてしまう。

 上空でこちらを見下ろす敵のアーマー、おそらくはこれが隊長機とおぼしき機体は、やはり悠然としたさまでその場で対峙するかにこのアーマーをまたもや空中に制止させる。

 その視線の先にあるのはこちらの大型アーマーなのだろうが、相変わらず空気が読めない仲間のクマ族たちが、うなりを発して上空の相手を威嚇する。

 声は届かないが雰囲気としてはばっちり伝わったのだろう。

 かくして相手をしてやるとでも言うかにしてふたりを待ち受ける、それはこしゃくな敵方の隊長機だ。

「まったく、どいつもこいつも好き勝手にやってくれちゃって! どうする、無理矢理に割って入って乱戦に持っていくか? あっちの後続は……あらら、しっかりスキをうかがっているね! これじゃヘタなことなんてできやしないか……!」

 後からやってきた後続の敵のアーマーは、どちらも一定の距離を保ってこちらの様子をうかがっているのが、なおさらカンに障る。

 さては親分格の指示なのだろうが、だいぶ聞き分けのいいあたりがこちらとはまるで正反対だ。

 それがまたなおさらカンに障って仕方が無いクマ族の隊長は、実際に大きな舌打ちしてしまう。

 この先の展開に、一気に暗雲がかかってくるのを、もはやはっきりと意識していた。



※以下のイラストははじめの線画バージョンです(^^)
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Part2


 混乱するクマ族たちのアーマー部隊に対して、また一方――。

 その直前にあった先の知れた戦いに割って入った敵方のエースパイロットは、とかく冷めたまなざしで正面のメインモニターの中の情景を眺める。

 キツネ族の若い士官は見下ろす眼下の敵の機体、青と赤の色違いの同型アーマーをつまらないものを見るようにしばしねめつけたが、やがて仕方もなさげに吐き捨てた。

「ふん、こしゃくなやつばらどもめ……! だがそうやってこのわたしの前に立ちはだかると言うことは、それ相応の覚悟は出来ているのだろうな?」 

 あくまでみずからのターゲットをその奥の緑色の大型アーマーのみに絞っていたのを、ようやく手前の二機に意識を向ける。

 そこに後方からは、後続の同僚機からの通信が入った。

 こちらはトシのいったおやじのものらしきだみ声がキツネ族の男のピンと尖った耳に親しげにまとわりつく。 

「へっへ、ダンナ! 見た感じだいぶごちゃついてるみたいだが、俺たちはここで高見の見物してていいんですかい?」

「は、いいもなにも、そうするしかありゃしないだろ? ヘタに手出しなんぞしたら巻き添え食ってこっちが落とされちまう!」

 もうひとりの年配の男の声が入るのに、何食わぬさまのクールなキツネ族の隊長は冷然と言ってのけるのだった。

「フ、無論だ。こちらへの手出しは一切、無用……! 中尉たちはそこで立ち見しているがいい。このわたしとあれの戦いを邪魔立てするやつばらだけはそちらに任せる」

「了解っ! ……てことは、おこぼれはこっちでいただいちまっていいってわけですかい? そんじゃ、おい、あの青いのと赤いの、どっちをやる? どっちも面白そうで捨てがたいが……!」

「は、おれはどっちでも構わねえよ! ダンナに落とされちまわなかったらの話だが、せいぜい楽しませてくれるのかねぇ?」


 他愛のない世間話でもするかのように獲物を物色する部下たちに、何かと無愛想な部隊長は適当な相づちだけ打ってくれる。

「もとよりザコを相手にするつもりはない。危うくなればあやつが我が物顔をして出てくるのだ。その時は……」

「こっちでおいしく料理させてもらいますわ! 見たところそれなりに戦績上げてそうだから、でかい星が挙げられそうだぜ」

「はっ、調子に乗ってヘマすんなよ、ブンの字? この前みたいな情けないザマ、二度とゴメンだぜ?」

「ああ、誰に言ってやがんだ、五の字よ? もうアーマーも元通り、こっちに死角はありゃしないぜ! もとよりあんな見え見えの手はもう二度と食わない」


 タヌキ族とイタチ族のベテランのパイロットたちの掛け合いに、まるで聞く耳を持たないキツネ族の青年は冷めたさまで通信を終わらせた。

「頼みにはしている。どちらも全力を尽くすがいい。あのような見かけ倒しのアーマーによもや遅れを取ることはあるまいが、かく言うこのわたしも全身全霊をもってあれを迎え撃つ……!」

「了解!!」


 言うが速いか急降下で襲いかかるキツネ族のアーマーに、対するクマ族のベテランパイロットたちのアーマーが真っ向から応じる。

 おのおのが命を賭けたしのぎを削るアーマー・バトル、その第二回戦の火ぶたが切って落とされた。

 ベアランドたちの強敵として立ちはだかるライバルキャラ!
隊長にして凄腕パイロットのキツネ族、キュウビ・カタナとその部下のベテランパイロット、タヌキ族のチャガマ・ブンブ、イタチ族のスカシ・ゴッペとそれらが乗るギガ・アーマーのイメージ!


 Part3

 これまで幾多の戦場の最前線で腕を鳴らしてきた、百戦錬磨のベテラン・パイロットのダッツとザニーだ。
 
 だがこれを相手に果敢にも単機で挑む敵のアーマーは、やはりあなどれない強さをふたりの勇猛なクマ族に対しても見せつけるのだった。

 互いに肩を並べた横一列のフォーメーションでぬかりなくハンドカノンの銃口を向ける青と赤のアーマーの周囲を、それはすさまじいまでの速度の機動をかけて攪乱、半ば翻弄する白の飛行型可変アーマーである。

 変幻自在に戦闘機とアーマーにその姿形を変えては、目にも止まらぬ高速機動で熟練のパイロットたちをあざ笑うかにターゲットサイトからその姿をくらます。

 かくして強い舌打ちが左右のスピーカーから漏れるのに、みずからもかすかな舌打ちが出てしまう隊長のベアランドだ。

「ああ、もう完全に押されてるいるよな? にしてもよくもあんなにガチャガチャと変形しながらあちこち動き回れたもんだよ! もはや操作ミスったら一瞬で空中分解しちゃうんじゃないのかな? これはどうにも……!」

 苦い顔つきで何事かアクションを起こしかけたところで、左のスピーカーからさも苛立たしげなおやじの文句ががなられる。

「ちょちょちょっ! ほんまムカつくわ! やたらに動き回って気が付いたらいっつも背後の死角におるやんけ!? どないなっとるんや? あないにふざけた高速機動、反則やろ!!」

「落ち着きや……! 空中戦ならぼくらの十八番やろ? せやったら、そや、そないにちょこまか動き回れんようにさしたらええんちゃう?」

「どないして? あないに速うやられてもうたら、キャノンの照準もろくすっぽ合わせられへんで??」

「そやから落ち着きや。ぼくらはふたりおるんやから、こないに固まっておらんでもやりようがあるやろ? もとより昔から空中戦で鳴らしたこのクマさんコンビやさかい、あないな新参者に負けるわけがあらへんちゅうもんや……!!」

「せやったな! あないなワケわからんくされアーマー、ふたりでボッコボコにしたろ!!」

 左右のスピーカーからやかましく流れる、ふたりのおじさんの部下たちのやり取りに内心でヒヤヒヤしながら、さてこれはどうしたものかといよいよ考えあぐねる隊長さんだ。

 おまけにこちらの階級がひとつ下なのもあって、実質上官のあちらは聞く耳持たないような節が少なからずあったりするもまた事実だ。

「ああ、もう参ったな……!!」


 険しい表情で正面のメインモニターを睨みつけるベアランドだが、そうやって観ているさなかにも青と赤のアーマーは散開して大空を左右へと散らばる。

 さては単機である敵機を左右から挟み撃ちにする算段なのだろうが、相手がうまいこと乗ってくれるものかと固唾を飲んだ。


 かくして敵の白いアーマーを真ん中に挟んで、この同心円上で広く展開する、ダッツとザニーの両中尉どのたちだ。

 都合、二対一で優位に立っているように見えるが、内実はそうでもないことは手をこまねいてこれを見るばかりの隊長の少尉どのにも、またすぐさまはっきりと見て取れるようになる。

 そう。相手はまさしくもっての強敵なのだった……!


「よっしゃ、捉えたで! ざまあカンカンっ……!?」

「これで終いや……! んっ?」


 薄暗いアーマーのコクピットの中でみずからの射撃が必中することを確信するベテランのクマ族たちだが、引き金に人差し指が触れる寸前、この照準サイトがロックオンのオレンジから危険注意の激しい赤の点滅へと切り替わる。

 しっかりと相手を挟み撃ちにした状態で、プレッシャーを掛けながらもこの攻撃機動(アタック)はことごとく失敗に終わっていた。

 両者ともにだ。

 今や完全にロボットの人型形態に固定された相手機は、空中で微動だにしない直立状態でありながら、空中戦を得意とするクマ族たちが照準を絞った直後にはこの姿をターゲットスコープから忽然とくらましていた……!

 こちらの思惑を見透かしたかにした機体さばきでまるでふたりのクマ族の同士討ちを狙うかのごとくにだ。

 静観していた若いクマ族の頭に乗っかるふたつの耳に、ややもせぬ内にひどく苛立ったおじさんたちの文句が絡みついた。

「おおい、さっきからやたらに真っ赤なのがチョロチョロ見切れておって、ほんまうざいでじぶん? わざとやっておるんか?」

「こっちのセリフやろが? 引き金しぼろうとした途端にブサイクなツラを出してきおって、青い機体が青空にまんま溶けてもうて見づらいったらあらへんわ! ほんまに撃ったろうか?」

 互いに相手を牽制しながら毒づき合うおじさんコンビだ。

「稚拙な……! どうした、貴様は動かないのか?」

 他方、敵方の隊長であるキツネ族のエリートパイロットは、左右前後からのプレッシャーをものともせずに、いまだ戦いには参戦していない緑の大型アーマーを正面のディスプレイに捉えて睨みすえる。それからまたつまらないものを見るかに左右のディスプレイの色違いの敵アーマーを一瞥してくれるのだった。

「フッ、無駄に距離ばかりを取って、まるで覇気を感じぬ。つまらん。もしや貴様らはただのお遊戯会をしているのか……」

 言いざま、機体の両手に保持したハンドカノンを一斉射!

 それが的確に二機の機影を捉える。


 あわや撃墜かと隊長のクマ族が見ているさなか、どちらもギリギリでこの直撃を避けたものの、ダッツはただちに泡を食ったセリフをがなり散らす。

「んなっ! コイツ、むっちゃくちゃやんけ!! おおい、さっきからいいように遊ばれとるで、若い隊長さんの目の前でごっつ情けないわ!! どないしたろかっ」

「せやから落ち着けや。ええわ、照準が定まらへんのやったら、いっそ撃ってまえばええ。ただしお互いギリギリまで引きつけてからや。このぼくの言うてること、わかるやろ?」

「ん、せやけど……! ええんか? 万一逃げられてもうたら、こっちは火力がでかいぶんにじぶんにまで届いてまうで?」

「せやな。ただしその代わりにこっちは防御力っちゅうんが人一倍やさかい。いけるやろ?」

 互いのアーマーの性能の違いを考慮した思考を巡らせるのに、ザニーが相棒を促して決定づける。

「一発勝負や。あの隊長さんにしっかりと見せたろ、このぼくらの腕前が決してあなどれんっちゅうことを……!」

「よっしゃ、了解や!」

 相棒の応答をきっかけ、両者の機体が敵影へと向けてじりじりとこの距離を詰める。もはやただならぬやる気がうかがえた。

 手に汗握って外野からそのさまを見守るベアランドだ。

 相手の高速機動型アーマーはこれを悠然と直立静止したままで待ち構えるが、まるでビクともしないのがふてぶてしかった。

 おのおのが殺気をこめてアーマーの機銃の照準を中心に居座る敵アーマーに定める。

 撃てば必中の間合いだった。

 まずダッツの青い機体が正面に構えた大型のライフルを一斉射!

「おおら、いてまえ!!」

 一直線に敵を貫くと思われた赤い光弾は、だが結果として敵影をかすめもせずに虚しく宙を走る。

 そしてその先にあったものは……!


 それを尻目に見やる敵パイロット、キツネ族のキュウビ・カタナはさもつまらなさげにこの尖った鼻先から息を吐く。

「フン、同士討ちとは……無様だな……む?」

 一直線に流れる敵弾は、同じ敵の赤い機体へと吸い込まれるようにヒットしたのを確信もするが、同時にかすかな違和感をも感知して機体をそちらへと巡らせていた。

 その刹那、ただちに四肢に力をこめて回避機動へと転じる。

 味方からの流れ弾を真正面に受けるかたちになって、全身に冷や汗をかく普段からポーカーフェイスの赤毛のクマは、この時ばかりはいびつな口元からキバがのぞく。

「こなくそっ、やっぱりよけるんかい! だがこっちもやられへんで、シールドパワー全開でしのいで食らわしたるわ!!」

 機体の胴体前部に装備したシールド・ジェネレーターを真紅に輝かせて流れ弾をはじき返すや、みずからのハンドカノンの銃弾をただちに正面の白い機体へとお見舞いする!

「おうし、やったれ! むうっ、あ、あわわわわわわっ!?」

 青い機体の相棒がここぞとかけ声を発するが、これがすぐさま慌てくさったおじさんの悲鳴へと変わる。

 これまで同士討ちを危惧してこの攻撃がままならなかったクマ族たちだ。それをあえて同士討ちに見せかけることで起死回生の反撃を狙ったのだが、そのトリッキーな攻撃ですらもあっさりと躱されて、それがまたダッツの機体へと襲いかかることになろうとは……!!

 すっかり勝ちを確信していた灰色熊は、狭いコクピットの中で機体の制御を失うくらいに操縦桿をバタつかせて味方からの流れ弾をぎりぎりで背後へとやり過ごす。

 だが敵からの攻撃を受ければ即墜落くらいにきりもみ状態で落下しかけた機体を大汗かいてコントロールする。

 敵からの追撃がなかったのは幸いだったが、もはや旗色が悪いのは誰の目にも明らかだった。

 悲鳴と怒号がかまびすしく交差する薄暗いコクピットの中で、若いクマ族の隊長は、険しい表情で操縦桿を強く握りこむ。

「あらら、もう任せてはいられないな! 中尉どのたちには悪いけど、こっちから割り込ませてもらうよ。でないと……ん!」

 敵の隊長格とおぼしき可変式飛行型アーマーに狙いを定めて大型の自機を進ませようとしたところに、奇しくもレーダーサイトに新たな動きと短いアラームが鳴り響く。

 こちら同様、距離を取って様子見していたはずの残りの敵影、二機がともに味方と敵に割り込む形で急速接近してくる。

 どうやら向こうはこちらと同じ思惑のようだが、味方の助けに入ると言うよりは、むしろ苦戦してばかりのダッツとザニーに止めを刺すくらいの勢いだった。

 そして案の定、敵の青と赤のアーマーが入るのと入れ替わりで、白の隊長機はまんまとその場を離脱、この姿を正面モニターからくらましていた。


 これを半ば呆れた顔で見ていたベアランドは、その後にこのみずからの機体の向きを背後へと巡らせる。

「やっぱりこっちが狙い、本命だったか……! ほんとにしつこい隊長さんだよね? ルマニアの大陸の僻地からこんな海の果てまで、呆れちゃうよ、このぼくってのはそんなに魅力的かい?」

 見れば上空からひらりと舞い降りる敵の隊長機のアーマーへと向けて、皮肉っぽく笑ってそう問うてやる。

 そう果たしてこれで何度目の対峙となるものか?

 背後でベテランのクマ族たちが新手を相手に声を荒げるのはもうそちらに任せしまって、本来のターゲットとなるアーマーと正面切ってやりあうべく、これと真っ向から対峙する。

 もう何度目かになる決戦の幕が切って落とされた……!

     
                  ※次回に続く……!







Part4


「ライトニング……!!」

「こういう使い方はリドルは嫌がるのかな……?」


 



 

 





 



 

 






#17プロット
 
 ライバルキャラ、キュウビ、ブンブ、ゴッペ再登場!
 キュウビ VS ダッツ & ザニー  空中戦!
 前哨戦の犬族キャラ、モーリィとリーンはしれっと退却。
 
 ベテランのクマ族コンビはエースパイロットのキツネ族には大苦戦、やむなく隊長のベアランドと交代…!
 ベアランド VS キュウビ

 ダッツ & ザニー VS ブンブ & ゴッペ

 持久戦の末に、キュウビ小隊退却…!
 とりあえずベアランド隊の勝利?

 補給機(リドル操縦)にダッツとザニーが補給(プロペラントタンク装備?)された上で、アストリオン北部海岸線から大陸に侵入、そのまま内陸の目的地へと向かう……
 

「アストリオン上陸作戦」プロット
  アストリオン情勢

アストリオン・中央大陸(ルマニア・東大陸/アゼルタ・西大陸)
アストリオン・種族構成・ブタ族、イノシシ族、イノブタ族などがおよそ半数を占める。アストリオン自体は宗教色の強い、宗教国家でもある。元首・イン ラジオスタール アストリアス(家)

アストリオン・大陸構成
東側 アストリオン 60%
中央砂漠 空白地帯 25%
西側 ピゲル大公家 15%
 西側は過去にあったルマニア(タキノンが領事だった?→タルマとの確執になる?)とアゼルタのゴタゴタで独立を宣言したピゲル公爵の独立領となり、後にアゼルタと同盟関係になる。

主人公、ベアランドたちが目指すのは、大陸の北岸地域から侵入して、大陸内陸部の中央砂漠にあるアーマー基地。今は西の大公家と結びついたアゼルタの支配下にあるのだが…?
 実は無人化している?? レジスタンス(ベリラ、イッキャ?)の暗躍…!

Part2 ベアランド小隊、
 敵キャラ、モーリーとリーンに遭遇
 
          ↑
#17→     キュウビ小隊、出現!!
    キュウビVSダッツ、ザニー…!


    移行、アストリオンに上陸……
  基地の占領完了と同時に、アストリオンからの守備部隊と合流?←ジーロ艦に合流したダイル?

   タルクス、シュルツ博士登場!

プロット
ベアランド小隊、出撃 ベアランド、ダッツ、ザニー
ウルフハウンド小隊、出撃 ウルフハウンド、コルク、ケンス

ブリッジ 艦長 ンクス、オペレーター ビグルス
     副艦長は何故か不在?

 友邦国のアストリオンの北岸域から侵入
 内陸の基地を奪還、そのまま寄港するべく

 海と空の戦い キュウビ小隊出現

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ルマニア戦記/Lumania War Record #016

#016


Part1


 小隊に新しくベテランのクマ族たちが加わって、貧弱だった部隊編成が見違えるほどに強化されたのだが、これが実際にみなでそろって出撃するのは、それから実に三日も後のことであった。

 もろもろの都合、母国を遠く離れた彼らの母艦が公海上にしばしの足止めを食らうことになったのと、パイロットが万全だからとこの機体の調整までが万全とまでは行かなかったことがあり。

 加えて全てが新型開発機ばかりのアーマー部隊は、この機体のマッチングに非常な手間暇がかかるのだ。

 よって晴れてハンガーデッキの格納庫から海風をともなった外界を臨めたのは、およそ70時間も後のことなのであった。

 言ってしまえば寄せ集め部隊なのだが、性格おおざっぱなクマ族たちが仕切り直しをするには、およそ十分な時間である。

 ベアランド小隊(第一小隊) 隊長・ベアランド少尉(クマ族)、部下・ダッツ中尉(クマ族)、ザニー中尉(クマ族)

 広く視界の開けた専用の中央カタパルトからモニター越しの外界を眺めるアーマー部隊の隊長は、楽しげに舌なめずりした。

「さあて、いよいよ出撃だね! 予定通り、ここからずっと先に見えるあの大陸の内陸部を目指すんだけど、ぼくのランタンはいいとして、そっちのビーグルは燃料、大丈夫かな? どっちも股の下にくっついてた、あのばかでっかいプロペラントを外しちゃったでしょ?」

 見た目にずいぶんな幅を利かせていた燃料タンクをすっかりと取り外されていたのを思い返して、なにげに聞いてやるのに、左右のスピーカーからは問題ないとのおじさんたちの返事がただちに返ってくる。

「かましまへん。よっぽど過酷な最前線ならいざ知らず、まだ序の口でありますよって……! せやからどうかぼくらのことは気にせんといてください」

「ここも最前線なんちゃう? まあ問題あらしまへんわ。おれたち新人のワンちゃんたちとちゃいますから! ふふん、見といてください、バリバリ活躍してやりまっせ!!」

「そいつは良かった♡ それじゃあミーティングのとおり、ぼくらは派手に暴れ回るとしようか! あらかた近海の敵を蹴散らしてから、母艦をともなっていざ目指す南の大陸、アストリオンに上陸と……!!」

「了解!!」

 あいにくとここからではどちらも機体が見えないのだが、左右のハンガーデッキに分かれて待機している、青と赤の機体のクマ族たちからの返事に満足して、みずからも出撃に備えるベアランドだ。

 すると上面のスピーカーからは短いアラームと共に、この艦の主の声が響いてくる。

「ん、ブリッジのンクスだ。各機とも準備いいな? ただいまより〝アストリオン上陸作戦〟を開始する。各自健闘を祈る! 第一、第二部隊、共に必ず本艦に戻ってくるように……!!」

「もちろん! 了解♡ ……て、横にいるはずのあの副官どのは今はいないんだね? どこで何をしているんだか」

 小声で言ってマイクには入らないように配慮したはずが、正面のモニターの中のスカンク族の上官どのは、これが小さく咳払いするのに、ちょっと苦笑いで了解する隊長だ。

 無用な詮索はしないことだと……!

 画面の横のほうでちょっとだけ見切れている犬族のオペレーターが発進のコールを送るのに、また了解して正面に向き直る。

「少尉どの! こちらは制御室のリドルです! ランタン、発進準備OK、ランチャーカタパルト、今回は70で行きます!! よろしいですか?」

 艦長に代わって響いてきた、カタパルトデッキのアーマー発進制御室に詰めている若いクマ族の言葉には笑顔で応じる隊長だ。

「そんな遠慮しないで100でいいのに! それじゃ、先に行ってるよ! ふたりとも後から急いで追いかけて来てくれ、こっちはいざ走り出したら止まれないからね?」

「了解! て、ランチャーなんちゃらって、なんのこっちゃ?」

「知らん。見てればわかるんちゃう?」


「なら見て驚けよ。ただごとじゃありゃしないから……!」

「あはは! それじゃ、システム発動、健闘を!!」

「了解!!」


 どうやら第二部隊の巨漢のクマ族のメカニックも通信に混じっているらしいのに、なおさら笑顔になって身体中に力を入れる。

 一瞬後には巨大なGが全身に掛かりながら機体が弾丸のようにカタパルトからはき出されるのを体感していた。

 ベアランド機出撃!!

 カタパルトから発射されて、これがあっという間に見えなくなる隊長機の後ろ姿に、後から発進を控えた部下のクマ族たちは、騒然となってこれを見送った。

「はああっ、ちょ、ちょいまち! なんや今のあれぇ? あの隊長、いったいなにしてはるん??」

「わからん。あんなのアーマーの発進とちゃうんやない? ほんまにどうないなことになってはりますのん??」

 カタパルトの左右で困惑した通信を交わすクマ族たちに、デッキの中央コントロール・ルームの巨漢のクマが答えた。

「ふん、しょせんは人間わざじゃありゃしないのさ。あの機体じゃなければ空中分解必至の、弾丸ミサイル級の強引なマスドライバー発進、もとい、強制発射システムだ。おい、間違っても真似しようだなんて思うなよ?」

「思わへんて! あないなもんシャレにならへんやないですか? ちびりそうや、発進するのがこわなってきた!!」

「いいえ、ご心配なく、そちらのカタパルトシステムはごく通常のものですから! それではダッツ中尉、ザニー中尉、どちらも準備はよろしいですか?」

「ほえ、ちょい焦ったけどかまへんよ。お好きなタイミングでどうぞ。ぼくら同時の発進でかまへんから。はよせんと追いつかないやろ、あれ?」

「それ以前にこっちの第二部隊が待ってるんだ。早いところカタパルトを空けてくれ。ほら、とっとと出しちまえよ!」

「あ、はい、それでは健闘を祈ります! 両機ともカウント3で同時発進、3、2、1、カタパルト・Go!!」

「了解!!」

 全身を青と赤で塗りたくられたいかつい人型の機体が、左右のカタパルトから青空へと向けて同時に飛び立っていく!

 先に飛び立って行った緑色の隊長機を追って、どちらもまっすぐに白い軌跡の飛行機雲を描くのだった。

 これこそがいかついクマ族のみで編成されたアーマー小隊の記念すべき初陣であり、後に赤、青、緑の鬼の三原色部隊と恐れられる飛行編隊の誕生なのであった。


 Part2



 雲一つもなくした快晴の青空。

 轟音を立てて緑色の巨大な機体が大気を切り裂く。

 周りの空気との激しい摩擦で赤い蒸気めいたものをその全身にまとわりつかせながらにだ。

 耳を澄ませば風切り音もしてきそうなコクピットの中、目指す大陸の目前でゆっくりと操縦桿に手を伸ばして、しっかりとこの両手に掴み取る。

 深呼吸をひとつして機体のコントロールをみずからに手に持ち直すクマ族だ。

「よっしと……! 予定通りのポイントに無事到着、このぼくが一番乗りだね!! 敵さんもまだ見当たらないし?」
 
 まずは母艦から単機で先行して、無理矢理な出力と加速度にもてあそばれる機体とこの速度が、やがて通常に落ちるところまで安定させてから、いざ周囲の状況を見回すベアランドだ。

 レーダーサイトには今のところこれと言った反応がないが、じきにやかましく警告音が鳴り響くのはわかりきっていた。

 弾道ミサイルさながらの強引にして急速なアーマー発進は、敵の裏をかくのには便利だが、味方をことごとく置いてけぼりしてしまうのがたまにキズだ。

 よって静かなモニターの向こうに広がる大陸を見ながら、誰にともなしひとりごとみたいな文句を発する隊長のクマ族だった。

「は~ん、こうして見てみると、目標の空軍基地ってのはほんとに内陸にあるんだな? ここからじゃまだ確認ができないよ。もっと高度を上げれば見えるのかな? どうしたもんだか……! このまま単機で先行しても良さそうだけど、やっぱりベテランのパイロットさんたちを待ってたほうがいいよね?」

 言っているそばからレーダーサイトに複数の反応が出現!

 敵を表す赤の点(ドット)と、味方を表すそれとがほぼ同時にサイトの中に前と後ろからポツポツと発生するのだった。

 中でもサイトの後ろ側、背後から追いついてきた味方の友軍機の二機のアーマーのパイロットたちからただちに通信が入る。

 お国言葉のなまりが激しいおじさんのクマ族たちだ。

 緊張感をみじんも感じないお気楽なセリフを発してくれた。


「戦場の青いイナズマ! ダッツ・ゴイスン、ただいま到着! やっと追いつきましたわあ、隊長さん、早すぎやって!! 」

「ほんまに早いわあ! ひとりで何をそんなに急いでますのん? ひと呼んで赤い旋風のザニー・ムッツリーニ、おなじく到着しました、そいで敵さんも、もうぼちぼち来てはるんですな?」

 はじめに青い機体のクマ族の威勢のいい文句が耳朶を打つ。

 到着するなり回りの状況を適宜に把握しているこちらは赤い機体のクマ族のベテランパイロットの言葉に、すぐさま了解してモニターがマークする敵の機影を確認するベアランドだ。

ベアランドの乗機、バンブギン、通称ランタンと、ザニーとダッツの乗機、ビーグルⅥ・プロトタイプ(まだ描き掛け)


 おそらくはどこか遠くの洋上の母艦か、さらに遠くの大陸の西海岸の敵基地から飛び立ったものとおぼしき航空機いくつかが、こちらに向けて急速に接近してくるのをそれと認める。

 よって完全に慣れきったおじさんたち同様、こちらもいささかも焦ることもなくして、こともなげに言ってやるのだった。


「ああ、ジェット・フライヤーか! ああいう航空機タイプって、大抵は無人機なんだよね? 本命のアーマーが到着するまでの時間稼ぎぐらいなもので。だったら、さっさと落としちゃお♡ それじゃ主役のアーマーが来たら、各自で対応お願いね!」

 言いながら操縦桿のトリガーを二回、三回と引いて、迫り来るジェット機をことごとく打ち落とす隊長の緑の大型アーマーだ。

 そのまるで容赦がなくあっさりとしたさまに半ば感心したようなおじさんクマ族たちの返事が返る。

「了解! にしてもなんやちょろい作戦みたいやんな? 思うたよりも敵さんおらへんし、このまま海岸線の先まであっさり突破できそうやわ!!」

「せやんな、隊長さんのそのアーマーやったら敵なんかおらへんのちゃう? あ、来ましたで、本命のアーマー部隊! なんかひょろっちいのがこっちに向かって来てはるけど、あんなんおったったけ??」

「ん、ああ、あの見覚えのあるカトンボは、敵の新型機だね! 以前に会敵したことがあって、そんなには苦戦しなかったんだけど、あれとおんなじか別の同型機なのかな? どっちにしろそっちのビーグルで十分に対応できると思うよ」

 正面のメインモニターの中央に捉えた、どちらも見覚えるのある特徴的な細身のデザインの二機の軽量級アーマーに、だがこちらはまるで感心なさげに答えるベアランドだ。

 形状がまったく同じ見てくれのふたつの敵影は、おそらくは以前にやり合ったものと同一の機体なのではないかと思われた。

 前回、さして苦労することもなく撃退していたこともあり、こちらの経験豊富なベテラン勢ならそう手こずることもないだろうと確信する隊長さんだ。

 これに手練れのクマ族のパイロットたちが即座に応ずる。

「カトンボでっか? ふう~ん、なるほどや、ほなここはこのぼくらに任せてもらいましょうか、よって隊長さんはそこで気楽に見といてください」

「よっしゃ、やったるでえ! あないなひょろっちいザコちゃんアーマー、一発どついたらそれでしまいや!!」

 モニターの左右で不敵な笑みを浮かべる赤毛のクマと灰色グマをいかにも頼もしげに見ながら、こちらは若干の苦笑いになる茶色の若いクマ族だ。

「あんまり油断してると機体にキズをつけちゃうかも知れないよ? まだ初戦なんだからなるべく手堅く行ってよね! それじゃ、お言葉に甘えてぼくは高みの見物させてもらうけど、第二小隊のシーサーがなんか下からやかましく言ってるから、ちょっと高度を上げてぼくらはもっと上空でやり合おうか?」

 天井のスピーカーから何やらやかましい文句が入って来たのは、後発の第二小隊が追いついたその直後のことだ。

 小隊隊長のウルフハウンドのものだったが、これに傍で聞いていた赤い機体のパイロットのクマ族が了解してくれる。

「ああ、それやったらこっちにもテキストで入電しておりますな? なんやえらい怒ってはるようやけど?」

「尻にくっつけとる新人のワンちゃんたちがやりづらあてしゃあないから、おれたちみたいな邪魔もんはどっか遠くに行ってくれゆうてはるんやろ? なんやめっちゃひとりよがりやんなあ、そないなもんはそっちで面倒みたれよ!」

「まあまあ、言ってること自体は間違ってはいないんだから! あんまり混戦状態になったら同士討ちもありうるし、距離はちゃんと取っておこう。それにこのぼくのカンだとそろそろやっかいなのも出てきそうな頃だから、いざそっちに対応するためにも、スペースはなるたけ広く取っておかないとね♡」

「はあ? なんのこっちゃ? お、カトンボが早速こっちに来よったで! 相方、ようやっとこの腕の見せ所や、ぼくらの得意の空中殺法、ヤツらにガツンとお見舞いしたろ!」

「ガッテン!!」

 さすがにお互い息の合った熟練パイロットたちだ。

 同時にこの機体を海上からさらに上空へと舞い上がらせていく。

 するとこれを追いかけるかたちで敵の二体のアーマーも次次に上空へと導かれるように機体を上昇、一定の距離を保ちながら互いににらみ合うかたちとなった。 

 やかましく通信交わしながら機体高度を一気に上空にまで押し上げて新型機同士の一騎打ち、もとい、コンビ対コンビの空中戦タッグマッチが始まるのだった。


Part3


 ところ変わってこちらは対戦相手となる、敵側のアーマーパイロット、犬族のモーリィがいまいましげな愚痴ともひとりごとともつかないセリフを正面のモニターに向けてがなっていた。

 年の頃で言えば青年の若手パイロットはとかく血気盛んだ。

「ん、ちょい待ち、あっこにやなヤツがおるでぇ? いつぞやのでっかいお化けアーマー! おまけに子分を2匹も連れとるやんけ!! しんどいわあ、このまま知らん顔して帰ったろか? やってられへんやろ!!」

 あっさりと敵前逃亡をほのめかすのに、これを受ける相棒のこれまた犬族の、もさもさ顔したリーンが明るく答える。

「銃殺刑にされるんちゃう? せやったら少しは相手をしたらな! あのでっかいのは手をつけられへんとしても、子分さんはどうにかできるんちゃうん? なんや見たこともないようなアーマーやけど!」

「はん、しょせんはひとさまの領土やゆうて、みんなで開発機の実験しとるんかいな? えげつないわあ! せやけどあっちはやる気まんまんらしいから、それなり相手してやらな失礼になるんかの? ええわ、そやったらこっちも星を挙げて正規軍の仲間入りさせてもらお!」

「なんや、結局はやるんかいな!」


「当ったり前やろ! ちょうど二対二でええ勝負できそうやし、大ボスはずっと後ろに構えてはるから手を出す気はないんちゃう? 前もやる気なさそうやったから、ひょっとしたら本調子ちゃうのかも知れへんやん。こっちは本命の後続部隊が来よるまで持たせたればいいゆうてはったから、のんびり持久戦としゃれ込ませてもらお!」

「せやんな! ちゅうかわしら真打ち登場までの噛ませ犬かい」

「ええわ、ほな噛ませ犬もあなどれんちゅうことを見せたるわい!」

 再び登場! 関西弁の犬族キャラコンビ、モーリィとリーンの若手パイロット! アーマーは新型のロータードライブ型!!


 さも息の合った漫才みたいな掛け合いをしながら、じりじりと相手との距離を詰める、二体の飛行型アーマーだ。

 緑の大型アーマーを奥に控えさせた状態でこの前に立ちはだかる二機の青と赤のアーマーに、それぞれが個々に狙いを定める。

 果たしてはじめに仕掛けるのはどちらなのか?

 抜けるような青空の下で息もつかせぬ緊張感が高まった。

 これを傍から見ていた隊長のベアランドは、その静かな立ち会いに、それでも結果は知れていると周囲への警戒を怠らない。

「悪いけどその華奢で非力なアーマーじゃ、うちの大ベテランのおじさんたちには敵わないよね。むしろ問題はその後で……! 西岸の本拠地からより強力な増援部隊が来るのは明白で、本番はきっとそこからなんだ」

 そう言っているさなかにも眺めているモニターの中では、青いアーマーが瞬時に素早い機動に入るのだった。

 こちらにより先行していた敵のアーマーに向けて、ただちに一直線の突撃機動、激しいチャージをかける!

 空中での接近戦を果敢に挑むのをただじっと眺めていた。

 胸の内ではちょっとした胸騒ぎを感じながらにだ。

 大気を震わす轟音が鳴り響いた。

 戦場の青いイナズマ!ダッツと、赤い旋風、ザニーの専用ギガ・アーマーの図、とりあえずこんなカンジ?


 みずからを青いイナズマと言った通り、強力なターボジェットエンジンをいくつも搭載したアーマーは、そのずんぐりした見てくれによらない、急速発進と加速度で一瞬にして敵アーマーとの間を詰める。

 そのままショルダーチャージでも仕掛けそうな勢いだったが、すんでの所で急停止してアーマーの右手に装備したハンドカノンを相手めがけて振りかざす、ダッツの青いアーマーだ。

 その名を「ブルー・サンダー」。

 歴戦の勇者である中尉が、その幾多の戦火の中で勝ち得た、数ある異名の中の一つだと、そうベアランドは聞かされていた。

 まさしくだなと思う反面、さっさとケリをつけないでもったいつけたように相手にその銃口をちらつかせただけなのには、内心であれれ?と首を傾げてしまう。

 言ってしまえばまだ本気の本調子ではない、およそ遊んでいるような印象を受けるのだった。

「あらら、大丈夫かね? 窮鼠猫を噛むって言うし、あんまりなめてちゃいけないんじゃないのかな??」

 ちょっと突っ込んでやろうかと通信をオンにした途端、左側のスピーカーからやかましいがなり声が響いて面食らう隊長だ。

『見たかおんどれぇ! ビビッてんちゃうんか? 次はマジでやったるから覚悟せいよ、おおら行くで、おらおうらおらぁ!!』

「わっ! びっくりした……まあ、心配ないみたいだね?」

 結果、何も言わずに通信をオフにする隊長さんだった。

 ダッツからの猛攻に明らかに動揺する灰色の飛行型アーマーの中で、若い犬族のモーリィはあられもない悲鳴を上げてどたばたとのたうちまわっていた。

「わ、なんや! いきなりそないなむちゃくちゃしくさりおって、ぶつかってまうやないか!? は、挑発としるんけ? ええ根性やな、ええわ、やったるわ!! おおおおおおおおおうらあっ!!」

 機体の小回りを活かした空中の接近戦ならいくらでも勝ち目があるとあえて相手の挑発に乗ってやる若手のビーグル族だが、負けん気が強いのが今は仇となりつつあるようだった。

 空中での制止機動や上下運動が得意なロータードライブの利点を最大限に用いて右へ左へと機体を揺らして相手を翻弄するはずが、目の前のスピードとパワーが取り柄なだけのジェットドライブタイプはなんら苦も無くこちらの動きについて来ている。

 むしろこちらが翻弄されかけて、相手の構えた銃口の照準をずらすのに今はただただ必死のモーリィだった。

 ギリッと厳しく結んだ口元から、果ては言葉にならない悲鳴じみたものが漏れ出る。

 これにこちらが押していることを確信してますます本調子になる青のアーマー、ベテランパイロットのクマ族のダッツは舌なめずりして正面のモニターに凄みを利かせた。

「かっか、いい気味や! 小型で小回りが利くからこないなドッグファイトやったらじぶんのほうが有利やと思っとったんやろ? ざまあかんかん!! ジェットのパワーを最大限にかましながらの縦横無尽の空中殺法がこの青いイナズマこと、ダッツ・ゴイスンさまの最も得意とするところやからの! じぶん、もうフラグ立っとるでぇ? 観念しいや!!」

 あと一押し、ないしふた押ししたらばっちり照準を定められると勢い込んだところに、甲高いアラーム、警告音が鳴り響く!

「んっ、ちっ! おおい、いいところなんやから邪魔させんなや! あとのヤツはおのれの領分ちゃんけ?」

『わあっとるわ! そうやって間で遊ばれとるからやりづらいだけで、もうこっちもええとこまで追い詰めとる……!』

 片やお互いに距離を置いての銃撃戦にいそしんでいた赤いアーマーの相棒が、通信機越しにやや不機嫌な返事をよこしてくる。

『レッド・ストーム』と自身の異名から取ってつけた赤いジェットドライブ・タイプのアーマーは、相棒の青い機体のそれとは一部の仕様が異なるだけで、見た目ほぼ同一タイプの機体だった。

 背後から赤い一条の閃光が一直線に走ると、それきりやかましい警告音がピタリと鳴り止む。

 後方支援に回っている敵アーマーの射撃マークが外れたのが直感的に理解できたが、実際にてんで見当違いの方向に銃弾がばらまかれるのに相方の援護が適正に働いたのを現実にも理解する。

 舌なめずりするダッツは鋭い視線をモニターの正面に据えた。

 相手の灰色の機体は前後左右へと激しく回避運動をするのに、そのさまが今は獲物の子鹿が震えているかのように見えていた。

 そしてこのさまを傍から自機のコクピットの中でのんびりと構えて見ていたベアランドは、決着がじきに着くだろうことをそれと予感していた。

 言うだけあってさすがベテランのクマ族コンビは、それは腕利きのパイロットたちだ。

 激しい戦火を幾度もくぐり抜けて来ただけのことはある。

 思っていた通りかそれ以上の出来に内心で満足しつつ、目ではてんでよその方向を見ながらに、またもうひとつの予感が現実になりつつあることをそれと確信するベアランドだ。

「やっぱり、おいでなすったか……! まさしく今回の本命、さしずめ真打ち登場って感じなのかな?」

 目の前のレーダーサイトには、大陸の北西部の方角からこちらに向けて急スピードで接近する、三機のアーマーらしき点滅が灯っていた。

 抜けるような青空の下、暗雲が立ちこめるのをただひとりだけ実感しつつある若いクマ族の隊長だった。


  次回に続く……!




状況 海上 ベアランド 単機でアストリオンの北岸域へ…
  ダッツ、ザニーと合流の後、敵方のモーリー、リーンと交戦
  第二部隊が合流、上空へ ← キュウビ小隊

「アストリオン上陸作戦」プロット
  アストリオン情勢

アストリオン・中央大陸(ルマニア・東大陸/アゼルタ・西大陸)
アストリオン・種族構成・ブタ族、イノシシ族、イノブタ族などがおよそ半数を占める。アストリオン自体は宗教色の強い、宗教国家でもある。元首・イン ラジオスタール アストリアス(家)

アストリオン・大陸構成
東側 アストリオン 60%
中央砂漠 空白地帯 25%
西側 ピゲル大公家 15%
 西側は過去にあったルマニア(タキノンが領事だった?→タルマとの確執になる?)とアゼルタのゴタゴタで独立を宣言したピゲル公爵の独立領となり、後にアゼルタと同盟関係になる。

主人公、ベアランドたちが目指すのは、大陸の北岸地域から侵入して、大陸内陸部の中央砂漠にあるアーマー基地。今は西の大公家と結びついたアゼルタの支配下にあるのだが…?
 実は無人化している?? レジスタンス(ベリラ、イッキャ?)の暗躍…!

Part2 ベアランド小隊、
 敵キャラ、モーリーとリーンに遭遇 
          ↑
Part3     キュウビ小隊、出現!!
    キュウビVSダッツ、ザニー…!

    移行、アストリオンに上陸……
  基地の占領完了と同時に、アストリオンからの守備部隊と合流?←ジーロ艦に合流したダイル?

プロット
ベアランド小隊、出撃 ベアランド、ダッツ、ザニー
ウルフハウンド小隊、出撃 ウルフハウンド、コルク、ケンス

ブリッジ 艦長 ンクス、オペレーター ビグルス
     副艦長は何故か不在?

 友邦国のアストリオンの北岸域から侵入
 内陸の基地を奪還、そのまま寄港するべく

 海と空の戦い キュウビ小隊出現

カテゴリー
DigitalIllustration NFTart NFTartist Novel オリジナルノベル OpenSeaartist キャラクターデザイン ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス 寄せキャラ

ルマニア戦記/Lumania War Record #015

#015

Part1


 一難去って、また一難……!

 戦場の嵐はどうにかこれをくぐり抜けたはずなのに、また新たな嵐に飲み込まれてしまう不運のアーマー部隊だった。

 一時的にお世話になるべく立ち寄った、新型の僚艦。

 その第一艦橋にみなで顔を出すなりこれに烈火のごとく怒り出すブリッジの主、ジーロ・ザットン大佐に恐れおののくふたりの部下たちの盾になりながら、どうにかこの怒りを納めようと悪戦苦闘するクマ族の隊長、ベアランドだ。

 内心ではそんなに怒ることもないだろうにと首を傾げながらも、後から艦に合流して上がって来た副隊長のウルフハウンドと共に、どうにかこうにか荒れ狂う艦長どのをなだめすかしてその場のお茶を濁すのだった。

 昔は教官と生徒であった間柄で知らない仲ではない。

 よって性格いささか難ありなこのおじさんの対処法はどちらもそれなりに心得ていた。

 かくして不機嫌ヅラでブリッジを後にする艦長の背中をいったんは静かに見送って、心身共に疲れ果てている部下たちを副隊長に任せたら、この後をひとりで追いかけるアーマー隊長である。

 いくつか聞きたいことがあったし、部下を抜きにしたもっと冷静な話し合いをあの切れ者の指揮官とは持ちたかった。

 相手は艦長室にこもるようなことを言っていたが、その性格柄で当てにならないと予想するかつての教え子は、何の気も無しにまったくの別方向へとこの足を向けていた。

 そこはこの艦の最上階のブリッジのさらに上、いわゆるてっぺんの天井、ロフト部分だ。

 すると思った通りに外部へのドアはロックが外されていて、外に出ると道なりにタラップをのぼってこの屋上部分へと顔を出す。

 見晴らしのいい真っ平らな鋼の屋根には、これまた思ったとおりの人物が、真ん中に仰向けで寝そべっていた。

 どうやらぼんやりと青空を眺めているようだ。

 やっぱりね……!

 これにはちょっとしたり顔してそちらに歩み寄る隊長さんだ。

 こちらから話しかけるよりも先にあちらのほうが反応した。

「どうしてわかった? 俺は艦長室に行くと言ったはずだが」

 すぐ間近から犬族の仏頂面を見下ろしながら、ぺろりと舌を出して応じるクマ族だ。

「どうしてって、教官どの、もといジーロ艦長が性格ねじくれた気分屋なのはみんな知ってるじゃない? ぼくなんかそれこそ昔からの旧知の仲なんだからね!」

「ふん、わるかったな……! 何の用だ? あいにく気ままなクマ族の相手なんかする気分じゃない」

 ますますしかめ面の上官どのにもお気楽なクマの隊長はいたずらっぽい笑みでウィンクくれてやる。

「そう言わずに! 久しぶりなんだからちょっとはお話しようよ、まじめな話ってヤツをさ?」

 短い舌打ちが聞こえたが聞こえなかったふりする隊長はしれっと言ってやる。

「さっきはずいぶんとお冠だったけど、あれじゃ若い芽がつぶされちゃうよ。上官とは言えパワハラだったんじゃないのかい?」

「…………」

 返事がないのにこれまたしれっと聞いてやる。

「まさかとは思うけど、コルクと何かあったのかい? あの性格気弱な毛むくじゃらの犬族くんと、過去にさ??」

「どうしてそう思う? 俺は初対面だと記憶している」

 むすりとした顔で青空見上げたままのジーロに、ベアランドは真顔で言葉を投げかける。

 ある意味、一番気に掛かった事柄だった。 

「そうか。でもあの子のことをはじめて目にしたって時に、なんだかちょっと驚いたような顔をしてたよね? 艦長?」

 また短い舌打ちが聞こえる。

「ッ……イヤなところをしっかりと見ていやがるんだな? この食わせ物のデカぐまめ! いいや、なんのことはない」

「?」

「そうさ、ただの他人のそら似ってヤツだ……! おまえにプライベートをあれこれ詮索されるいわれはないぞ? 気にするな。あいつとはあかの他人同士だよ」

 そんな幾分かトーンを落とした返答には、なるほどと納得して頷きながらもまたその首を傾げるクマ族だ。

「そうか、そりゃそうだよね。う~ん、それなのにひどいな、あの怒りようは?」

「八つ当たりをした覚えはない。ちゃんと必要なことを言ってやった。あんなビビリじゃそれなりに免疫つけなきゃこの先やっていけないだろう? おままごとをしているわけじゃないんだ」

「そりゃあね……!」

 浮かない顔の艦長は胸の内から取り出した何かしら眺めながら至って気のない返事なのに、ちょっとだけ引っかかりを覚えながらも話を変えるベアランドだった。

「ああ、そういや、ぼくらのボスとはなんの密談をしていたんだい? この先のことに関わるんだろうから、ちょっとはこっちにも教えてもらいたいんだけど」

「そんなものはそっちのボスに聞け! ンクス艦長、先生からはあっさりと断られたよ。悪い話じゃないと思うんだが、あちらにはあちらの思惑があるんだと」

「ふうん、あっさりと引き下がるんだ? らしくないなあ!」

「ほっとけ……ん!」

 それまでの穏やかな潮風が一転、身の回りがいきなり騒がしくなるのに両耳をピンと立てて回りの気配を探る艦長だ。

 これに身の回りをぐるりと見回してそれと認めるベアランドはちょっと意外そうに騒音の元となっている見慣れた同僚の機体を眺める。海を渡る機体と、空を飛ぶ二機のアーマーたちが見る間に小さくなっていくのを見送った。

「なんだ、もう帰っちゃうんだ、シーサーたち? せっかくこの艦の中をみんなで見て回る許可を得ていたのに!」

 これには足下から不機嫌そうなおじさんが言ってくれる。

「お前もさっさと帰れよ。あとなんであんな目立つところにあんなブサイクなアーマーを停めてやがるんだ。さっきから目障りでしかたがありゃしない」

「そんな青空を眺めながら文句を言わないでおくれよ。あそこにしか停められなかったんだから! 間違って塩水に漬けちゃったらうちのメカニックくんたちがきっと嘆くし♡」

 聞きたいことが空振りだらけだなと苦笑いしながら、また他に話を向けてやる隊長さんだ。

「そういや、この艦のアーマーらしきが見当たらないけど、ベテランのパイロットとその新型機ってのはデマだったのかい? 個人的にはちょっとだけ期待してたんだけど」

 するとこれには何故だかちょっと苦い顔つきしてひん曲がった口元で答えるジーロだった。

「あるさ。あるにはあるが、ただそれにつき若干の問題があって、出すに出せないってだけのことであって……!」

 そこで不意にむくりと起き上がって、でかいクマ族を見上げる犬族の艦長だ。そうして何かしら意味深な目つきと共に言ってくれるのだった

「そうか、だったらお前にいい土産話をくれてやる。せっかくだからな? 面白いものを見せてやるから、付いて来いよ」

「?」

 怪訝な顔で背中を見送るクマ族に、老獪な犬族はニヒルな笑みをその口元に浮かべて促した。

「だから、お前が見たいって言うヤツらに会わせやるって言っているんだ。おまけにこのアーマーにもな? 俺の気が変わらない内にさっさと来い」

 こうして言われるままにこの後を付いていくクマ族の隊長は、その先で思いも寄らない者たちと会うことになる。

 やがてひとりだけ母艦に帰投するアーマーの中で、この顔に苦笑いが張り付いて取れないベアランドであった。


Part2

 無事に戦いを終えてみずからの母艦に戻ったベアランド小隊であったが、その日の夜半にはまた再び出撃することとあいなるのだった。

 敵襲などではなく、友軍の僚艦にふたたび呼ばれてのことだ。

 例の偏屈な犬族の艦長にまたみんなでお説教を食らうのではあるまいな?とはじめ微妙な顔つきのクマ族の隊長さんだが、こちらの大ベテランの艦長から聞かされたのは、それは意外な先方からの提案であった。

 とは言えでさては何かしらの打算があるのではないかとこれまたビミョーな顔つきのベアランドなのだが、小隊の部下たちを引き連れてまた新型の巡洋艦へと向けて夜空に飛び立つのだった。

 ただし今回はベアランドの大型機だけで、ふたりの犬族たちの機体は航空空母に置き去りにしたままの、単機での発進だ。

 よってこの2名をみずからの機体のコクピットに同乗させての発艦だった。

 これに部下であるコルクとケンスは、さっぱりわけがわからないとひどい困惑顔をしながら、あちらに着いていざその場で命じられた命令には、なおさらギョッとして当惑することしきりだ。

 ついてほどなく、また母艦へととんぼ返りすることになる第一部隊は、今度は三機編成のアーマー小隊となってみずからの新型重巡洋艦の空母へとたどり着くことになる。

 ちなみにこの時、はじめ三名だったはずの隊員は、何故かこれが五名へと増えており……!

 詰まるところ以前に犬族の艦長どのが言っていた〝お土産〟が、早くももたらされた結果であった。

 大型のアーマーを専用の機体ハンガーに着艦収容させて、クマ族のパイロットは、ただちにこのコクピットからメカニックスタッフであふれかえるデッキフロアへと降り立つ。

 そこにはすでに新しく持ち帰った機体をこれ用のハンガーに収容させていた二名の犬族たちが、ピシッと敬礼して待ち構えていた。ここらへんはすこぶる礼儀正しい新人パイロットだ。

 軽くだけ敬礼して返す隊長のクマ族は、見上げてくる若い犬族たちにおおらかな口ぶりで声をかけた。

「ふたりともおつかれさん! で、どうだった? あの仏頂面の犬族のおやじさんからもらった新型機は? はじめてでおまけ夜間飛行じゃちょっとしんどかったかね、いくらきみらのアーマーと同型機とは言え……!」

 するとこれに敬礼を解いてから応じる長身の犬族、ケンスは戸惑い気味に答えた。

 その隣の同僚の犬族のコルクも何やら困惑気味の表情だ。

 どうやらこのふたりには、あまり相性が良くはない機体だったらしい。

 その様子だけでもはやなるほどと納得する隊長さんだ。

「機体の反応はとても良好でした。おれたちのと遜色ないです。ただ、操縦桿やスイッチのたぐいがとても重くて、やたらに固かったですね! あれじゃいざ戦闘になった時に大変だ……」

「お、オレも、とても苦労しました! あんなのオレたちの手には負えませんっ、ここまで飛ばしてくるのでやっとだったから……!」

「そうか。なるほどね! 知ってのとおりでクマ族のパイロットさんたちだから、そっち向けに操作盤回りがきつめにチューニングしてあるんだよ。ぼくらからしたら、犬族用のはむしろ設定がゆるゆるで、ちょっと肘が当たっただけで固定武装やら何やらが暴発しちゃうからね!」

 冗談めかした言いように、暗い顔つきのケンスが苦笑いして背後に立つ新しいアーマーを見上げた。

「そもそもが、コイツはおれたちのと同型機なんですか? まったく見てくれが違うように思えるんですけど……なあ?」

 横の相棒に問うのに、問われた毛むくじゃらの犬族はうんうんと激しく頷いて同意する。

 すると問われたクマ族の隊長も、ふたつ並んだ機体を見上げながらにやんわりとこの疑問に応じた。



「まあ、これっていわゆる試作機、プロトタイプってヤツでさ、きみらのビーグルⅥの元となった機体らしいよ? これを量産型に改良・改修したのがあっちの機体で、ある意味兄弟みたいなもんなんだよ♡ いたるところゴツゴツしてて、いかにもクマ族向けって感じだけども」

「犬族とクマ族で兄弟ってあんまりピンと来ないですけど……」

「あ、あの頭も、なんかクマっぽい……!」

「ああ、通称、ベア・ヘッドだって! この機体、ビーグルとは言いながら、ヘッドはぼくのとおんなじまあるいクマ型なんだよね。なんかブサイクな♡ でもぼくのランタンほどじゃありゃしないか!」

 茶化して笑う隊長に、やはり苦笑いの部下たちだった。

 この時、背後のほうで何やらごそごそと気配がし出すのに、そちらに気を向けようとしたベアランドだが、折しも横合いから声を掛けられてみんなでそちらに向かうこととなる。

 はじめに部下たちが同乗していた機体に、帰りはまた別のふたりの隊員たちを乗せていたのだが、それをすっかり失念していたのをようやく思い出すベアランドだ。

 それでもベテランの軍人たちなのだから、ほっておいても平気だろうとあえて気にかけずに、今はこちらに近寄ってくる同僚の副隊長に身体を向け直した。

 オオカミ族のウルフハウンドは気楽なさまで声を掛けてくる。

「おう、もう帰ったのかよ? 早かったな! ふうん、ずいぶんとブサイクな機体だが、それなりに使えるんだよな? おまえたちが乗って来たんだろ??」

「ハッ!」

 かしこまってまた敬礼する新人たちに、鷹揚な態度の第二部隊隊長はにんまり顔してこの喉を鳴らした。

「くっく、いい反応だな。多少は戦い慣れてきたってことか。学生さんがいっちょ前のパイロット面してやがる! それじゃ早速だが、こいつらは預からせてもうらうぜ?」

「ああ、そうか、明日付でふたりともシーサーの第二小隊に編入されるんだものね? ぼくのほうにふたり、ベテランが入ってきたから。なんか名残惜しいな♡ ぼくのこと忘れないでね?」

「忘れるも何もみんなおんなじ艦に所属の一個中隊じゃねえか? これからも毎日顔を合わせるんだからよ。明日から所属が別になるんだが、もう今からみっちりとミーティングだ! 戦い方も変わってくるから、そこらへんも覚悟して従ってもらうぜ?」

「ああ、なるほど。どっちも機体の仕様が飛行型から地上戦、ないし海上戦用に変わるんだっけ? 道理でふたつともこの区画に見当たらないわけだ。あの銀色のまっちろい機体?」

 表情をややこわばらせるふたりに明るい笑顔で言って、副隊長のオオカミ族には了解したと頷く隊長のベアランドだ。

「それじゃ、行っておいで。副隊長がキビシイからってへこたれちゃダメだよ? しっかりとそのシッポに食らいついて一人前のパイロットにならなくちゃ!」

 最後にびしっと敬礼してただちに灰色オオカミに連れられていく犬族たちを見送る隊長さんだった。

 それきり立ち尽くすが、しんみりとした気分に浸るには回りの喧噪がやかましすぎる。

 それで気持ちを切り替えると、ぐるりと頭を巡らせて、ふたたび自分のアーマーへと向き直るのだった。

 見ればそこには、新顔のふたりのパイロットたちが陽気なさまで立ち話をしている。

 何故だか楽しそうにピョンピョンとフロアで跳ねている、見てくれのそれはでっぷりとした大柄な年配のクマ族たちだ。

 これにはやたらな親近感が沸いてにんまりした笑顔が隠せない隊長さんである。

 こちらはこちらでまた忙しくなるのに違いなかった。

Part3


 巨大な軍用艦の食堂は、一度に大勢の乗組員が利用できるようにそれは大きな区画面積があり、一部には士官やパイロット用の専用フロアだなんてものまでが用意されていた。

 これに普段はさしたる意識もせずにそこらで食事を摂っているクマ族の隊長さんなのだが、あえて今だけはその人気のない専用スペースを陣取ることにする。

 つまりは今日付で編入されてきた新人の隊員たちをともなって、軽いミーティングの場を設けるためだった。

 先にデッキフロアから上がって、すでにミーティングを行っているはずの同僚のオオカミ族が率いる第二部隊はどこにも見当たらないので、おそらくはどこぞかのブリーフィング・ルームにでも詰めているのだろう。

 みなが大柄で大食漢ばかりのクマ族たちとは違って、その体つきがスマートな種族が大半のオオカミや犬族たちには、食べながらミーティングをするという発想や慣習がないのかも知れない。

 食堂の横長のテーブルのあちらとこちらに分かれて座るベアランドは、これと対面するふたりのベテランパイロットたちを実に頼もしげに見つめては、クックと喉の奥を震わせるのだった。



「ふたりともほんとに良く食べるな! 見ていてあっぱれだよ。小食なコルクたちに見習わせてやりたいくらいだ♡ よっぽどおなかが空いてたんだね? まあ、わからなくもないけど……」

 性格何かと難ありな犬族の艦長の巡洋艦に居た時の悲惨なありさまを思い返しながら、肩を揺らして笑ってしまう隊長さんだ。

「それじゃ、食べながらで構わないから、今からおおざっぱなブリーフィングをさせてもらうよ。改めて自己紹介をば♡ じぶんはこのアーマー部隊の隊長を務める、ベアランド少尉だ。ぼくらはとりあえず第一小隊、この戦艦の中では、いわゆる航空アーマー部隊ってヤツだよね、てことで以後よろしく!」

 これにテーブル上にどかんと置かれていた山盛り一杯の食事から、二人そろって顔を上げるクマ族たちは反射的に立ち上がろうとするのを、やんわりと制止するベアランドはまた続けた。

「あ、いいよ、敬礼はさっき済ませたばかりじゃない? そのまま食べ続けてていいから。どうせ面通しくらいのおざなりなものしかやらないんだし、いちいち細かいこという必要もないってものだしね? なんたってこんなにいかつい見てくれした大ベテランのパイロットさんたちじゃさ!」

 どちらもじぶんとおんなじ大柄なクマ族の上に、ふたりともこの艦内ではおよそ見かけないような一風変わった見てくれのスーツに身を包んでいるのを、いかにも頼もしげなニコニコ顔で眺める隊長さんだ。

 見ようによってはかなり異様な、いっそ囚人服だとかを思わせる横縞柄のパイロット・スーツは、これぞまさに知る人ぞ知るべくした王宮や内政府直属の守備部隊の専属衣装だった。

 すなわちよほどの熟練した手練れのみが身につけることを許された、アーマー曲技曲芸部隊、人呼んで『サーカス・ナイツ』の出身であることを、どのくらいのクルーが知っているのだろう。
 
 一説には暗殺だとかいった闇の仕事もこなすのだとか……?

 こうして目にすることもなかなかに無いはずのものなのだ。

 軍内部ではある種の「伝説」とまで化した戦闘集団だった。

 それだから見ていてわくわくが止まらない若いクマ族の隊長は、太い首を傾げながらにしみじみと言うのだ。

「う~ん、それがどうしてあのおじさん、もとい偏屈な犬の艦長さんのとこにいたのかねえ? あんまり詳しくは聞けなかったけど、なんかワケありっぽいのかな♡ おまけにこのNo.8とNo.9とはさ! 上位10位以内の上級ランカーだなんて、普通はなかなかお目にかかれないんもんだろうに?」

 見た目がかなり特殊なデザインしたスーツの胸ポケットのあたり、それぞれに固有のナンバーが描き込まれているのを読み上げては、ひとしきり感心するのだった。

 これにどちらも一度は立ち上がりかけながら、また口の中いっぱいに食べ物を詰め込んでモグモグやっていたふたりの中年のクマ族たちである。


 それがやがてごくんと口の中のものを飲み下したらば、やや苦笑い気味の照れたような笑顔を向けてくる。

「いやいや、そないに大したもんちゃいますわ! なりはこないですが、おれらしがないアーマー乗りってだけのことでして。なあ?」

「せやな。ぼくらアーマーをうまく扱うことだけが取り柄のただのおっさんですわ。お恥ずかしいはなしやけど……!」

「そんなこと♡ 『高空の大鷹と大鷲』とまで恐れられた、クマ族きっての熟練パイロットコンビ、よっぽどのもぐりじゃなければ知らないヤツなんていやしないよ!」

 まんざらお世辞でもなさそうな隊長からの発言に、また互いの顔を見合わせてこちらもまんざらでもなさそうな上機嫌で照れ笑いするおじさんたちだ。

「そないに言われると照れてまいますわ! ええ隊長さんに拾うてもらえてこっちは大助かりですさかいに。この軍艦、飯もめっちゃうまいし、ええことずくめやわ!!」

「ほんまや。今後ともどうぞよろしゅう。せやからぼくらも改めて自己紹介をさせてもらいますわ。噂ほどの腕があるかは知りませんが、ぼくはヒグマのザニー、ザニー・ムッツリーニ、階級は中尉であります……!」


「せやったら、じぶんはグリズリーのダッツ、ダッツ・ゴイスン中尉であります! よろしう願いますわ、ほんまに! マっジでがんばりますさかいに!!」


 息の合ったふたりからの歯切れのいい名乗りにあって、こちらもますます上機嫌で受け答えるベアランドだ。

「どうも♡ こちらこそ、頼りにしてるよ! だったらほら、遠慮しないでもっと食べてよ、じきにお代わりも来るだろうから。おなかペコペコなんでしょ?」


 鷹揚なクマ族の隊長からの催促に、いささか気後れすることもなくがっつりと頷くこちらも豪快なクマ族たちだ。

「はあ、それは、そんなら喜んでいただかせてもらいますわ!」

「ほんまにええ隊長さんや! でもなんで部隊を率いるっちゅうリーダーが、おれらよりも年下でおまけ格下の少尉さんなんや? このひと??」

 目の前のごちそうに再び取りかかりながらこちらをチラチラと目の端でうかがってくる灰色のクマ族に、向かって左隣の赤毛のクマ族はあいまいな顔つきでただこの頭を傾げさせる。

 おおらかな口ぶりの隊長はこれに気にするでも無く答えた。

「まあ、そのへんは今はどうか大目に見てよ♡ これから頑張って階級上げるように努めるから。ふたりとおんなじか、いっそ大尉さんくらいがいいのかな? 正直、個人的にはあんまりこだわりがないんだけど、そこらへん」

「ええです。気にしませんわ。ちゅうか、少尉どの、やのうて隊長さんが乗ってたあのアーマーを見たら、納得やわ。あないにバケモノじみたいかついギガ・アーマー、そこいらのパイロットには乗られへんのやさかい。実力は保証されとるっちゅうわけで」

「せやな! ビックリやわ!! あないなお化けじみたもんひとりで乗りこなすなんてありえへんで、ほんまに。ちゅうかマジでひとりでやってますのん? おっかないわあ……!!」

 おじさんのクマ族がふたりしてうんうんとうなずき合うのに、こちらも照れた笑いでうなずく若いクマ族だ。

「どういたしまて。とは言えで、そっちのアーマーもかなりのモノではあるんだけどね? 初期型のビーグルⅥとは言っても、現行の機体よりもよっぽど性能が良さそうだよなあ。実際に乗ってたコルクとケンスがとても扱いきれないって嘆いていたし?」

「フフッ、犬族のワンちゃんたちにはしゃあないですわ。なんちゅうてもベア・ヘッド! クマ族のぼくら専用にチューニングした機体なんやから。装甲からエンジン出力から桁違いですわ」

「あないなもん、ほんまにおれたちやから乗りこなせるっちゅうもんでの? せやから腹ごなしもして元気もりもり、クマ族コンビの実力っちゅうもんをいかんなく発揮してやりますわ!!」

 本当に息の合ったおじさんコンビに、心からの明るい笑顔になるベアランドだ。

「楽しみにしてるよ。ほんとに元気になってくれて良かった♡ 一時はどうなることかと思ってたからさ? ジーロ艦長のとこで独房にふたりそろってぶち込まれてたのを見た時には……!」

 いたずらっぽい笑みでウィンクしてやるに、途端に気まずげな顔を見合わせて、互いの肩をすくめさせるおじさんコンビだ。

「ああ、それはお恥ずかしいところを見られてしもうたわ……」

 ペロリと赤い舌を出して困惑顔する赤毛のクマ族に、対する焦げ茶色のクマ族は、はたと考えながらに聞いてくれる。

「うん。でもあれってのは、つまりはふたりともひどい船酔いで完全グロッキーだったんだよね? 今にして思えば??」

「せや! あの渋ちんの艦長さんが、空も飛ばんとずっと海面にへばりついておったから、航空巡洋艦やっちゅうてるのに!!」

 いまいましげに呻く灰色熊に、横のヒグマがおなじく険しい顔色で同意する。

「おお、燃費が悪うなるから空飛ぶんは必要に迫られてからゆうてたよな? ほんまにしんどいわ。ぼくらふたりとも海軍さんやのうて丘の陸軍出身やさかいに、あないにぐらんぐらん揺れる中ではしんぼうでけへんかった」

「地獄やったわ! それにくらべてこっちの空母はちゃんと空飛んでますやんか、マジで天国やわ! おかげでまるで揺れへんし、うるっさい波の音もちっとも聞こえへん!!」

「ああ、だからさっきはあんなピョンピョン跳ね飛んで地面を確かめてたのか。このクラスの重巡洋艦は空飛んでたほうがむしろ燃費がいいって言うからね? 試験飛行も兼ねてるから、次に降りる時はちゃんとした大地の上じゃないのかな。ふたりともこっちに来て正解だったんだ。ジーロ艦長には感謝しなくちゃね!」

「いいや、もう二度と関わりたくありませんわ」

「マジで!」 


 深いため息ついたかと思えば、それきりまたみずからの食事にいそしむベテランたちに、じぶんもお腹が減ってきたことを自覚する隊長さんだが、折しもそこに無人の移動カートに乗せられた山盛り一杯のごちそうがまた新たに到着した。

 これにヒュー!と歓迎の口笛を鳴らすおじさんたちだ。

 まだ食べる気まんまんなのらしい。

 そんなとても景気のいいクマ族たちに心底嬉しくなるこちらもクマ族のベアランドだったが、食べ物が満載のカートからがっちりと大盛りのプレートを持ち上げながら、その後ろにくっついてきた人影をそれと認めたりもする。

 四人目のチームメイトであるメカニック担当の青年クマ族なのだが、この後ろにまた大柄の中年のクマ族がいたりもするのにはやや不可思議な目線を向けるのだった。

 ちなみに士官用のフロアは目隠しの衝立(ついたて)がこの周囲にぐるりと張り巡らされているので、外からはこの中の様子がよくはわからない。

 よってつまるところふたりともこのやけに食べ物が豪快に盛られた自動カートの行く先に当たりを付けて、この後をくっついてここまで導かれたのらしかった。

 それを理解した上でふたりの凄腕のメカニックマンたちを迎えるベアランドだ。

「お、さすがにいいカンしてるね! 待ってたよ、リドル。あと第二小隊専属のチーフまでいるけど、一緒にお食事かい? ま、構わないけど、どう見てもグルメでグルマンのイージュンがいたらば、ごちそうの取り合いでケンカになっちゃいそうだな!」

 こんな冗談めかしたセリフにあって、だが当の本人は何やら浮かない顔つきで大きな肩をすくめさせるのみだ。

 クマ族の中でも飛び抜けて大柄な肥満体型である第二小隊チーフメカニックに、この前に立つとさながら子供のように映る細身の若いクマ族のこちらは第一小隊が専属のチーフメカニックマンは、ちょっとだけ苦笑いで答えた。

 あんまりにも勢いよく食事を平らげている右手のクマ族たちにどうやら引いているらしい。

「は、リドル・アーガイル、ただいま参りました。みなさんお食事中のところ失礼させていただきます。ぼくは食事はもう下のデッキで適当に済ませているのですが……」

「済ませているって、たかが小ぶりなハンバーガーをひとつだけつまんだくらいだろう? あんなものは食事とはいいやしない」


 後ろから巨漢のクマ族にいじられてなおさら苦笑いのリドルだ。これにベアランドが了解して右手の椅子を引いてみせた。

「いいからいいから! ならきみもちゃんと食事を摂らなきゃ♡ ふたりの新入隊員さんたちに紹介するついでにね! あと、そっちのイージュンもついでに紹介しておこうか。あいにくと第二部隊のメカニックだから、直接は用がないんだろうけど?」

「む、ついでにとは失敬だな? まあいいさ。オレはまだやることがあるからとっとと失礼させてもらう。用があったのはあんたらではなくて、あの生意気なオオカミ族と気弱なワンちゃんたちなんだ。アーマーのことでお願いしたいことがあってさ」

 浮かない調子で言って口をへの字に曲げるチーフメカニックに、これまた意外そうな目で見上げる第一小隊の隊長さんだ。

「ああ、そうなんだ? でも見ての通りで、あいにくとここには誰もいやしないよ。たぶんみんなよそのブリーフィング・ルームに詰めているんだろ。急ぎの用ならこっちで呼び出してあげようか?」

 みずからのスーツの腰にある士官専用の通信端末を示しながらの言葉に、冴えない顔した巨漢のクマ族は太い首を横に振った。

「いや、あの灰色オオカミは何かとめんどくさいから、あんたから言ってやってくれないか? それにどっちかと言ったら新人のワンちゃんコンビにお願いがあるんだ。そう、あの犬族たちのろくに塗装されていないアーマー、せっかくだからそれなりに色をつけてやりたいと思ってさ」

「あ、やっぱり未塗装だったのでありますか? 全身銀色でやけに目立つ機体色なのがおかしいとは思っていたのですが……!」

 うながされるままに椅子に座った若いクマ族が熟年のクマ族を見上げて問うのに、傍で聞いていてただちになるほどと納得するベアランドだ。

「やっぱりそうなんだ? はあん、でもあの機体、どちらも飛行型から地上戦、ないし海上戦仕様に機体の仕様を換えられちゃうんだよね? てことはもう終わったのかい??」

「いまやってる真っ最中だよ。両脚のホバーユニットの換装自体はわけないことだから、あとは背中の邪魔なフライトユニットも取り外してより地上戦仕様にふさわしく仕立ててやる。武装と装甲をより強化するかたちでね?」

「そいつはありがたいや! あの子たちも喜ぶんじゃないのかな? 頼れるメカニックがついてくれて一安心だよ。今後ともよろしくね! それじゃ、後でそっちに顔を出すようにふたりには伝えておくからさ♡」

「ああ、よろしく頼む。ただしオレの居住区のセル(個室)ではなくて、下のハンガーデッキに来るように伝えてくれ。来るのは明日以降で構わないから。それじゃ、オレはさっさとおいとまさせてもらうよ。あとはどうぞご自由に。こちとらやらなきゃならないことがまだまだ山積みなんだ」

「うん。ご苦労様♡ それじゃ、またね」

「ご苦労様であります! イージュン曹長どの!!」

 巨漢のクマ族がのっしのっしとこの視界からいなくなるのを見届けて、改めて残りのメンツを見回す隊長だ。

「よし、それじゃこちらも食べながら、いざ本題に入ろうか。せっかくこうしてみんなそろったんだから」

 するとぼんやりした顔で口をもぐもぐ動かしていた赤毛のクマ族が、ごくんと口の中の食べ物を飲み下して、今しも食堂から立ち去っていくでかいクマ族の背中を見ながらに言った。

「んん、いまのおひと、なんやえらい存在感がありましたが、イージュンってゆうてはりましたか?」

「せや、そやったらめっちゃ有名人やんな! 泣く子も黙る鬼のメカニック、イージュン・ビーガルっちゅうたら、知らんひとおらへんで、この界隈じゃ? さっすがにこんだけいかついフラッグ・シップともなるといたるところ猛者ばっかりや!」

 灰色のクマ族も興味津々でおっかなびっくりにその背中を追いかけるのに、もうとっくにこれを見慣れている隊長さんは、肩をすくめ加減にしてあいまいに応じるばかりだ。

「まあ、本来はよその軍艦に配属されてたのを今だけ特別に入ってもらったんだけどね? ここって基本人手不足だから。いつまでいてくれるんだか♡ それはさておき、こっちの紹介もさせてもらうよ。ぼくら第一小隊のチーフメカニックくんのことをさ」

 あらためて己の横に着く若いクマ族を示しながらの言葉に、ふたりのベテランが目をまん丸くして大口を開けた。

「へ、チーフメカニックさんでありますか? この見た感じいかにもお子ちゃまっぽい、クマ族の男の子が??」

「うそやん! まるでそんなふうには見えへんで? 隊長、冗談ゆうにもほどがありますて!!」

「ああ、いや、別にそう言うわけでは……!」

 ある意味まっとうな反応するベテランのパイロットたちに、苦笑いで右手の若いメカニックのクマ族を見つめるベアランドだった。するとこれにはリドル本人がすかさず席を立って、ピシリとした一人前の敬礼をしてくれる。

「ハッ、申し遅れました! じぶんはリドル・アーガイル、伍長であります! こちらでは第一小隊のチーフメカニックとしての任務に当たっております。見ての通りのまだ若輩者でありますが、どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます!!」

 そうきっぱりと宣言してくれるのをきょとんと見上げるばかりのクマ族たちだが、その後にとどめとばかり隊長から言い放たれた一言、ある有名な犬族の伝説的メカニックの名前にひたすらびっくりして互いの目を見合わせることになる。

「そないな大したおひとの愛弟子なんでっか? それは……!」

「うそ~ん、マジでビックリや!!」

「いや、その、それほどでも……!」


「基本的にはこのぼくのアーマーを面倒見てくれているんだけど、だったらなおさら納得だろ? あのお化けアーマーのメインメカニックマンなんだからさ♡ このトシで!」

 かしこまるリドルの肩をぽんぽんと叩きながらしたり顔するベアランドに、神妙な顔で正面に向き直る赤毛のクマ、ザニーはやがて真顔でうなずいた。

 ダッツはやや困惑顔のままだが、相棒が納得するからにはさしたる異論はないらしい。

「それは、信頼してええっちゅうことなんですな? メカニックの腕はパイロットの生命に直接関わるもんやから。隊長のお墨付きなら文句は言いようがあらへんですわ」

「うん♡ 全幅の信頼を寄せてくれて構わないよ。ビーグルシリーズくらいなら、片手でちょちょいのちょいさ!」

「ほんまに? なんかおっかないわあ!」


「いいえ、見るからにはちゃんと見るので、それで一見したところ、おふたりのアーマーは背中のフライトユニット以外にもプロペラントタンクが増設してありますが、あれは通常任務においても必要なものなのですか? あくまで航続距離を伸ばすのが目的ならば、激しい空中戦ではむしろ邪魔になるものかと思われますが……!」

「ほんまもんやわ! せやんな、明日からの任務には必要ないものやさかい、取っ払ってもろうてかまへんよ」

「せやったらじぶんのも頼むわ! あないにでかいワンちゃんのシッポみたいなもん、カッコわるうてしゃあないて!!」

 すぐにも意気投合しはじめるパイロットとメカニックを嬉しげに見るベアランドは、そこでちょっと考えながらに口を挟んだ。

「ん、明日から、かい? はじめに見た感じだと、どっちもあと2、3日は休養を取らないとダメかと思っていたんだけど、そんなに急いでいいもんかね? しばらくはぼくひとりのワンマン部隊の覚悟をしていたのだけど」

「そうなのでありますか? じぶんにはおふたりともどこも不調はないように見受けられますが。もちろんアーマー自体はいつでも出撃可能です!」

「あはは、明日からが楽しみだね! それではダッツ中尉、ザニー中尉、今後ともよろしく頼むよ♡ 北の空で敵無しと謳われた空中戦のプロの活躍ぶり、ほんとに頼りにしてるからさ」

 隣の若いクマ族同様に席を立ち上がるクマ族の隊長は、そう言って右手をテーブル越しのベテランのクマ族たちに差し出した。


 これにすかさず立ち上がって交互に固い握手を交わしてくれる赤毛と灰色熊だ。

 ただし素手で食べ物を掴んでいた利き手はどちらもぐっしょりと濡れていたが。

 ちっとも気にしないで座り直すとみずからもナイフとフォークは無視してごちそうを掴み上げるベアランドだ。

 横のメカニックにも自由に食べるように言って、鼻歌交じりに口いっぱいにパンやら肉やらをほおばる。

 明日からが楽しみで仕方がない隊長さんなのであった。



           ※次回に続く……!

リドル、イージュン登場 お代わりのワゴンの後から
ケンス、コルク、←シーサー ミーティング
ダッツ、ザニー、ベアランド、
イージュン、ケンスとコルクに用がある。ビーグルⅥ塗装? 

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ルマニア戦記/Lumania War Record #014

#014

 #014

Part1


 その時、実際の現場にはどれほどの〝間〟が流れたのか? 

 それぞれの体感としてはそれは長い沈黙の後、この海域のどこぞかに姿をくらましているものとおぼしき新型の巡洋艦の艦長、犬族のベテラン軍人の声が、再びコクピット内にこだました。

「……どうした? 返事が聞こえないぞ? 聞こえたんだろ? いいから、とにかく撃っちまえよ。お前の機体のメインアームで構わないから、目の前のでかいプラントに一撃見舞ってやれ!」

「ハッ……!?」

 果たして上官からのおよそ予想だにもしない命令に、部下である若い犬族のパイロットは、ろくな返事もできないままにひたすらに己の耳を疑っていた。

 よもや現実のことかとだ?

 これに傍で聞いていた相棒と、混乱した現場を取り仕切る若いクマ族の隊長さんも少なからず動揺して耳を澄ましてしまった。

 するとその沈黙に、ややもせずしてまた年配の大佐どのの、ちょっとイラッとした声色が響く。

「おい、でかグマ! おまえの部下どもは耳が聞こえないのか? 上官の命令にろくな返事ができてないだろう! このオレは至って単純な命令しか出してないぞ。目の前の敵に占拠されたプラントを攻撃しろって、ただそれだけだ。簡単だろ、あんなでかいの空からならおよそ外しようがない」

 ああ、やっぱり、そう言ってるんだ!

 本気なんだとようやく納得しながら、ずいぶんと乱暴なことをぬかしてくれるなと内心で呆れてもしまうベアランドだ。

 左右のスピーカーからは、ごくり、と息を飲んだり、ひどく狼狽したりした息づかいが、はっきりと伝わってくる。

 いよいよもって混乱してきた状況にひどい苦笑いの隊長ながら、とかく落ち着き払って右手のスピーカーに声をかけた。

「だってさ、コルク? 聞こえているよね、どうやら本気らしいから、ちゃんと返事しないと!」

 おそらくは狭いコクピットの中で息を殺して縮こまっているのだろう、毛むくじゃらのワンちゃんに向けて言ってやるのに、当の本人からは切羽詰まったようなうわずった返事が返ってきた。

「はっ、はいっ! 了解っ、あ、ですが、あの、そのっ、あの! し、しかしっ……!」

 まともにろれつが回っていなかった。

 もはや完全にパニックしたコルクの慌てぶりに天井を仰いでしまうベアランドだが、見上げた先のスピーカーからはやや憤慨したオヤジの声が降ってきたのには、なおさら天を仰いでしまう。

「しかしもカカシもあるか! おい、こいつはれっきとした上官命令だぞ? 貴様、命令を無視しようってのか! 何も遠慮することはない、こっちの本気を見せてやるためにやつらに一発かましてやればいいだけのことだっ、それで大きく潮目は変わる」

 決まり切ったことだろうと言わんばかりにきっぱりと断言してくれる艦長どのだ。およそ有無を言わさない迫力があった。

 これに若い犬族がなおさら萎縮してしまうのが、モニターの中の様子を見なくてもそれとわかる隊長さんが、仕方も無しに仲裁に入る。

「いや、しかしだね、艦長? そうは簡単に言ってくれるけど、民間の施設にぼくらみたいな軍が介入、しかも実弾を見舞うだなんてのはどうにも穏やかでない……てか、あれって実際に稼働してる大容量かつ大出力のエネルギープラントなんだよね??」

 そんなところに攻撃しようだなんておよそ正気の沙汰じゃないのは、まだ若い新人の隊員でなくともそれとわかりそうなものだが、相手の百戦錬磨のベテランはまるで意に介したふうでもなくあっさりとこのクマ族の意見をはたき落としてくれる。

「おい、誰がプラントそのものを攻撃しろだなんて言った? 撃つのはプラントの本体ではなくて、これをコントロールしている制御室、コントロール・ルームだ。当たり前だろう? あの海上ベースの真ん中におっ立っている高いタワーのてっぺんだよ! とにかくそいつを破壊しろ!!」

「そういうことは先に言いなよ! さっきっからさ、大事な部分がまるっきり事後説明になってるじゃないか? でも制御室を壊したりして、平気なのかい?」

 苦い顔でうなるクマ族に、相手の顔の見えない犬族はそ知らぬさまでこれまたぬけぬけとぬかしてくれる。

「平気だろ、プラントの内側にサブのコントロール・ルームがあって、そっちがむしろそのプラントの本丸だ。内密に海底資源をくみ上げるのもそっちでやってるんだからな。よってその表に見えてるのはお飾りみたいなもんなんだよ。ただし目立つぶんそこを叩いちまえば周りの敵にプレッシャーを掛けられるし、みんなとっとと逃げ出していくさ。文字通り、シッポを巻いてな?」

「はあ、そんなにうまいこと行くもんかね? コルク、コルク! 聞いてるかい?」

 押し黙ったままの犬族に話を振ってやるに、やはりテンパったままの当のコルクは、ひどく苦しげな返答を返してくる。

「で、ですが、あの、あのコントロール・ルームには、民間人のクルーがいるのではっ? なのにそこをじぶんが撃ったりしたら……!!」

 もっともな意見だったが、内心で首を傾げる隊長さんだ。

「ああ、いや、そんなに派手にど真ん中にぶち込む必要もないんじゃないかい? ちょっと天井とか、目標のやや下あたりにめがけてさ、あんまり被害が出ないくらいのを……!」

 そもそもがこんな状況だからとっくに退避している可能性もありそうなもので、性格的な心配性が過ぎるだけとも考えられた。

 だがこれに天井のスピーカーからは、いよいよいらだった犬族のオヤジ様のかんしゃくが降り注いでくる!

「いいから、オレは撃てって言っているんだよ! 構うことはない、躊躇してると敵さんが勢いづいてくるぞ? 早くやれよっ、おいっ、この能なしのボンクラどもがっ!!」

「ひっ、ひいっ……! おれっ、おれ! ひいいっ……」

「コルク! いいから落ち着けよ!!」

 同僚のケンスの声も響くが、あいにくと毛むくじゃらの犬族くんはまるで周りが見えていないようだ。

 合わせて困った隊長と怒った艦長の声も交差する。

「コルク! よく聞けっ、狙うんならちゃんとタワーのてっぺんだよ? そこ以外は致命打になるから! いろんな意味で!!」

「早くやれよ! おい貴様、命令違反をするつもりか!? ならそいつはこのオレをジーロ・ザットンと知ってのことだろうな!!」

「ひいっ、じ、ジーロ・ザットン……! と、父さんっ、おれ、おれ、どうしたらっ……!!」

「……?」

 出会ったばかりではまだ少年にも見えた青年が、ついには情けのないかすれた悲鳴を漏らす。

 ちょっと怪訝に聞くベアランドだったが、天井からそれをかき消すような怒号がするのには、うげっ!とうめいてもしまう。

「マズイな……! あの艦長さんてば、すっかり頭に血がのぼっちゃってるよ!」

 勝つためには手段を選ばない冷血漢とも噂される人物は、いざとなったら相当に手荒なこともやってのけるに違いない。

 この場が荒れるのはもはや必然だ。

 で、結果、ろくでもないことをでかい声でまくしたてる大佐どのなのであった。いわく――。

「ああ、だったらもういい! こっちでやるさ、ここまで来たらもうこそこそ隠れている必要はないからなっ、全艦戦闘態勢! 緊急浮上だ! おい、話は聞いているな、砲手長? 艦首が海面から出たらオレが言ったポイントをただちにぶち抜いてやれ!」 

 ブリッジのクルーから立て続け、おそらくは艦の砲手のセクションへ向けて声高に言い放たれた怒声にぎょっと目を見開くベアランドだ。強硬手段の強権行使はとどまるところを知らない。

「ああ、そうだよっ……は? 主砲じゃない、副砲、おまけのサブキャノンでだよ!! きれいにうわっぺりだけ吹き飛ばしてやれ!! あ、間違ってもエネルギーの貯蔵庫は撃つなよ? 目の前のクマ助どころかこっちまで巻き込まれちまうぞ!!」

「うわ、すごいこと言ってるな! コルク、ケンス、たぶん背後の海面にでかい巡洋艦が顔を出してくるから、その射線上から機体を退避させるんだ! やっこさん、かまわずぶっぱなしてくるぞ? あと、一歩間違ったら大爆発が巻き起こるから、その時は全力で緊急回避だ! ぼくは、ええいっ、めんどくさいな!!」

 こちらの命令通りに二機の僚機が左右に分かれていくのをモニター越しに確認しながら、本来ならじぶんもさらに上空へと退避すべきところを、あえてモニターをぐるりと半回転させて、この真後ろへと機体の頭を巡らせる。

 巨大なエネルギープラントを背後にして臨んだ海面からは、今しもそこに大型の戦艦の甲板が急浮上するのが見て取れた。

 思った通りに遠くの東の海域から流れ着いてきた巨大な人工の漂流物、廃墟と化したはずギガフロートを真ん中からまっぷたつに割る形で、新型の巡洋艦がその姿を現すのだった。

 おまけにこの鋼の船体を現すなりにブリッジの下に据え付けられた砲塔が盛大に海水はき出しながら、この仰角をこちらに上げてくるのに思わず舌打ちしてしまう。

「ちっ、やる気まんまんだね! でもそんなのでプラントを狙い撃ちしたら、示威行動以前に自殺行為になっちまうだろうさ? かくなる上は、仕方ない! こっちも腹をくくるしかないや、行けるよね、ランタン!!」

 左右から困惑した部下の犬族たちの声が響くが、今はそれらを一切無視して機体の制御に専念するクマ族の隊長だ。

 機体をゆっくりと上昇させて、前方に出現した戦艦の目標となっているプラントの制御タワーのてっぺんへとみずからの機体の高度を上げていく。

 さらには丁度相手の射線上にこの機体の胴体の中心が重なるポイントで、ぴたりと姿勢を固定させた。

 ふうっと息継ぎをして、前のめりに正面のモニターをにらみつける。

「いいね、エネルギー全開でバリアを展開だ! あのおじさんの砲撃をまともに真正面で受け止めるよ!! お前なら戦艦の艦砲射撃でも十分に耐えうるところを証明しておくれよ!! ついでにお前のちからをみんなに見せつけてやれ!!」

 やや苦し紛れな言葉をがなってみずからを鼓舞する。

 機体のエンジンをふかすことなく無理をしてここまで出て来たからパワーは満タン! おそらくは大丈夫なのだろうが、後で聞いた若手のメカニックがなんて嘆くのか見物だった。

「さあて、面白くなってきちゃったね……!」

 自然と口元に笑みがこぼれるが、天井のスピーカーからは例の冷めたオヤジの声がする。

「おい、何のマネだ、でかグマ? それじゃあお前ごとタワーを撃ち抜くことになるが、それでいいってのか??」

「いいや、ご心配なく! しっかりと受け止めてやるからさ!! そうでもしないとこの場は収まらないだろう? まったくこれも織り込み済みだったりするんじゃないだろうね?」

「ふんっ……!」

 威力が知れているアーマーの固定武装ならいざ知らず、でかい戦艦の艦砲射撃だなんてものをまともに食らったら軍事要塞でもない民間仕様のプラントごときはひとたまりもない。

 てっぺんをぶち抜くついでに崩落したタワーの一部がこの真下の貯蔵施設を直撃、結果として見事に誘爆、すべてが粉みじんに爆発炎上だなんてのは考えたくもないが、この確率としてはやはり無視できないものがあっただろう。

 結果的に部下の不始末の尻ぬぐいをやらされているのかと内心でげんなりするベアランドだが、こちらも負けん気は強いもので皮肉っぽく言ってやるのだった。

「要は相手に脅し、示威行動ってヤツをやってやりたいんだろう? 遠慮無くやればいいさ、これなら安心して撃てるんだろ! まさか外したりはしないよね?」

 結果はどうあれ、軍艦の艦砲射撃が民間のプラントめがけて放たれたとなれば、このインパクトはばっちりだ。

 部下たちも含めて周りはみんなどん引きするに違いない。

 頭上のスピーカーからは、いよいよもって腹立たしげな罵声がクマ族の左右の耳を打つ。

「ああ、いいから撃っちまえ! 仰角そのまま、パワーは落とすなよ? いっそ主砲をくれてやりたいところだが、今日のところはサブで勘弁してやるよ、でかグマ! じゃ、しっかりと歯を食いしばって気合い入れろよ? ほらよっ……てぇーーー!!」

 半ばやけっぱちじみた発射の号令と共に、こちらのコクピット内にはけたたましいアラームの警報が鳴り響く!

 まさしくロックオンされた艦砲射撃が撃ち放たれるのが、あたかもスローモーションで正面の大型モニターにリアルタイムで映し出された。

 対してこれを目をつむることもなくじっと凝視して、ひたすらこの身体を力ませるベアランドだ。

 まぶしい閃光が眼下の海面の中心で光ったと思ったら、直後には目の前が真っ白に染まっていた。

 機体がかすかに揺れるが、メインのキャノンでなかったぶんにさほどの変化、ダメージらしきは感じられない。

 また直後、すぐに目の前には元通りの光景が広がっていた。

 機体の各種センサーを即座にチェックするが、どこにもこれと目立った変化らしきはない。あっさりとやり過ごしたらしい。

 背後のカメラに映るプラントにも、これと変化はなし……!

 するとこれには大した物だとほっと一息、一安心してシートにでかい尻を落ち着け直す隊長さんだ。

「ふうっ、さすがに最新兵器は違うよね! ランタン、よくやったぞ。目の前のおじさんの顔を見てみたいもんだよ……!」

 そんな軽口叩いてやると、今しも目の前のモニターの中心が四角く切り取られて、そこにくだんの犬族の艦長どのが、ただちに顔面度アップで現れる……!!

 ひどく冷めた目つき顔つきをして、不機嫌なのが丸わかりな口調で言葉を発してくれた。

「ひとつも変化なし……まったく、とんだバケモノだな! どこにもかすり傷すらにありゃしないとは……! やっぱり主砲をくれてやれば良かった。ちょうどいい実験になっただろう?」

「それはまた今度にしてよ♡ でないとリドルに泣かれちゃうから。うちの優秀なメカニックくんにさ。で、少しは気が済んだかい? ほんとに呆れた艦長さんだな。そんなんでこの場の始末は任せていいんだよね?」

 上官相手に臆するでもなく茶化した言いようのアーマー部隊の隊長に、なおさら気分悪げな犬族はひん曲がった口元で応じた。

「ふん、こうして出て来ちまった以上、そのつもりだよ。始末も何も、戦況はもう明らかだろ? 回りを見てみろ」

 ぶっきらぼうにアゴを揺すってみせる上官どのに、回りのモニターの変化を自分でもそれと見て取るベアランドは納得顔でうなずいた。

「ん! ……ああ、なるほど? みんな蜘蛛の子を散らすみたいにこの場を離脱していってるよ! 見事な引き際だ、てか、いいのかね、大事なプラントほっぽりだして?」

「元からその算段だったんだろ? そこからは見えない海上基地の背後に停留していた空母だかなんだかが、まんまとこの戦域を離脱したから、みんなでそっちに合流するんだ。こっちの艦砲射撃を撤退命令代わりにしてな」

「なるほど、きっといいタイミングだったっんだね♡ で、南のアストリオンに逃げ帰るってのかい?」

「無理だろ。そっちにはおまえらを乗せてきた最新鋭の航空巡洋艦がにらみを利かせてる。トライ、なんて言ったか? そいつを見越してわざわざ南に回り込んでからこちらに入ってきてくれと先生にはお願いしてあるんだ。まったく新兵器さまさまだな!」

 投げやりな言いようで皮肉めいたことをぬかす艦長だ。

 すっかりとへそを曲げたさまのおじさんに、ベアランドはひどい苦笑いで肩を揺らす。 

「いやはや、ほんとに回りを利用するのがお上手だよね? でもぼくらのトライ・アゲインとは合流はしないんだろ、ジーロ艦長は、あくまでどちらも単艦での戦闘行動を希望してるって聞いてるから?」

「ああ、あいにくと一匹狼な性分なんでな。元から少ない戦力を無理に集中しても方々で破綻するのが落ちだろ。だが、そちらに補給してやるくらいの度量はあるさ。寄って行けよ、おまえはどうあれ、使えない新人の部下たちは燃料の補給なりをしないと帰れないんだろう。あっちがここまで迎えに来てくれない都合」

「まあ、そうだね……!」

 仕方もなさげにしてくれたみたいなウェルカムにちょっと内心で考え込む隊長さんは、おかけで返事が歯切れ悪かった。そこにまた追加のお誘いもあって、ますます考え込んでしまう。

「あと、ついでにこのブリッジに上がってこいよ。いろいろと言いたいことがある。もちろん、ふたりのお間抜けな部下たちも連れてだな?」

「ああ、そう? まあ、いいんだけど……いや、どうかな……」

「いいや、その前にまず面を拝ませてもらおうか、その間抜け面をだな? 使えなくてもそのくらいはできるだろう??」

 かなり言い方に毒があるおじさんの要望に、いよいよどうしたものかと考えあぐねる隊長さんだが、これと断る理由もないものかと左右のスピーカーに言ってやる。

「まいったな、あんまりプレッシャーをかけないでおくれよ? ケンス、コルク! こちらの艦長さまが対面を希望しているよ。これから実際に会うんだけど、その前にどんな顔をしてるのか確かめてごらん!」

「は、はい!」

「あ、あのっ、了解……!」

 慌てた感じの返事がしてひどく緊張した空気が伝わるのに、完全に新人たちが名うての艦長さんに飲まれているがわかる性格のんびりしたクマ族だ。もはや苦笑いするしかない。

 ややもせずひどく白けたセリフが耳朶を打った。

「ふうん、なるほどね、そんなふざけた間抜け面をしてやがったのか、どいつもこいつも……ん?」

「?」

 憎々しげに言いながら、正面モニターの犬族が視線を左から右に流すにつれて、このベテランの艦長さんの表情がやや曇るのを、ちょっと不可思議に見るクマ族の隊長さんだ。

 一瞬だけ変な間が流れて、憮然とした犬族のキャプテンはなぜだかみずからの胸元にこの右手をやるのだった。

 何かをぎゅっと握りしめるみたいな動作だが、それが何かはここからではわからない。

 すると折しもモニターの向こうのブリッジでクルーの声が響いた。

 当該戦域に敵影はもはやないことの確認、これによる戦闘態勢の解除、最後にベアランドたち援軍との合流とこの受け入れを全艦に通達して、艦長との通信は終わった。

 後には死んだかのような沈黙が左右のスピーカーから伝わるが、まるで気にしたふうもなくこの部下たちにてきぱきと僚艦への合流待機を指示するベアランドだ。

 波乱はまだ続くものと覚悟はして、かつての悪漢ぶりが変わらない艦長との再会を楽しみにするクマ族だった。

 部下である若手の犬族たちがベテランの犬族にいびられるのをどうやって阻止してやろうかと考えを巡らせる。

 後からウルフハウンドたちの第二部隊も駆けつけるらしいから、数ではこっちが優勢だろうとあっけからんと構えるのだった。

 左右のスピーカーは依然として冷たい沈黙を守ったままだったが……!

Part2

 
 一時は混乱を極めたドタバタの戦闘劇がおざなりの内にも幕を閉じて、そのまま母艦に帰投するのかと思いきや、僚艦の艦長のはからいでそちらに一時的にお世話になることになる、ベアランドたち、第一アーマー小隊だった。

 実際にはお説教を受けに行くというのが本当のところなのだが、これに部下たちの僚機が補給してもらえるのはありがたい。

 無事に敵軍から奪還した、謎の海上エネルギープラント施設については、そのまま本来の所有となるはずの南の大国、「アストリオン」の正規軍に引き渡すとのことで、そちらとの合流もかねてのこの現状らしかった。

 この場の指揮権を一手に握る大佐どの、ジーロの独断であるが、それにつきコメントなどは差し控えるクマ族の隊長だ。

 面倒ごとに首を突っ込むのはまっぴらだった。

 そうでなくとも、ただ今のこの状況が面倒なのだから……!

 部下たちの飛行型アーマーが無事に巡洋艦のアーマードックに収容されるのを見届けてから、みずからはこの艦首のなるたけ拓けたスペースに向けて大型のアーマーを垂直着陸、着艦させる。

 通常のアーマーよりもかなり大型な機体は、これ専用のアーマーハンガーがなくてはまともに収容することがかなわなかった。

 洋上に浮かんでいる戦艦のバランスを崩さないように注意しながら、この機体のバランスも水平に保ちつつ、その場にピタリと固定……!

 待機モードに出力を落として、みずからはこのコクピットハッチから、艦の甲板へと速やかに降り立つ。

 タラップもないのを器用にアーマーの手足にホップステップ、最後のジャンプでダン!と鋼の甲板に着地。

 そこに待ち受けていたスタッフたちには、特にやってもらうようなことはないと気軽に言づてすると、さっさとその場から艦の中央にあるアーマードックに向かうベアランドだ。

「まあ、そもそもがリドルくらいじゃないとまともにメンテなんて出来やしないんだよな、このぼくのランタンは♡ あっと、いたいた、新人のパイロットくんたち! あらら、ガチガチだな……!」

 そちらに入る出入り口には、すでにみずからのアーマーから降り立っていたふたりの部下たちが、こちらに向けて律儀に敬礼!

 ピシッとした直立不動の姿勢で待ち構えていた。

 苦笑いの隊長は、肩をすくめて軽くだけ敬礼を返してやる。

「そんなにかしこまってくれることもありやしないだろ? まあ、気持ちとしては穏やかでないのは理解できるけど。だとしても、悪いのは自分たちなんだからさ!」

 仕方がないさと茶化したウィンクくれてやるに、ふたりのまだ若い犬族たちはげんなりとしたさまでうなだれるばかりだ。

 意気消沈とはまさしくこのことだろう。

 余計に苦笑いになって肩をすくめるベアランドだが、そのままふたりを伴って艦のアーマードックへと入っていく。

 するとさっきまでの心地の良い潮風が、よどんだ油臭い空気に取って代わって、おまけそこかしこでやかましい音が鳴り響くのは、どこもおんなじ風景だった。

 じぶんたちが世話になっている航空母艦と比べたら、天井の照明がだいぶ抑え気味なのに、薄暗い足下を気にしながらあたりを見回すベアランドだ。

 大型の巡洋艦にしてはアーマーがさして目に付かず、部下たちの新型アーマーばかりがやたらに目立っていた。

 これには、はてなと小首を傾げる隊長さんである。

「あれ、この艦の艦載機(アーマー)が見当たらないな? 確かきみらとおんなじ、ジェット・ドライブ・タイプの〝ビーグルⅥ〟の使い手がいるって聞いていたんだけど? おまけにこのぼくとおんなじクマ族だって聞いていたから、ちょっと会えるのを楽しみにしてたんだけど……!」

 そんな隊長のセリフには、きょとんとした顔を見合わせるばかりの新人たちだが、やがてすっきりとした見た目で長身の犬族のケンスが言った。

「はあ、そうなんですか? 見た限りはおれたちの以外はないですよね。こんなにでかいアーマードックなのに! でも、スタッフさんたちは珍しそうにあれこれ見てましたよ? こっちの機体と仕様がまるで違うみたいなことも言ってたし……」

「お、オレも、いろいろと聞かれた、聞かれました! プロペラントがどうだとか、航続距離がどうだとか、ぜんぜんうまく答えられなかったけど……!」

「まあ、設計者じゃないんだからね? でもアーマーの補給をしてもらう都合、できる限りのことは答えてあげないと……てか、補給作業とはあんまり関係ないような質問なのかな、それって? もうおおよそのところ終わってるっぽいし」

 メカニックのスタッフらしき犬族たちが何人も集まって、この二機のアーマーの足下で談義しているのを遠目に認めて、ちょっとこの声をひそめる隊長さんだ。

 あんなのに捕まったりしたら厄介だぞ、と遠巻きにやり過ごすべく気配を押し殺す。

 暗いからあんまり見通しのよくない現場の突き当たりの壁のあたり、この艦の中心となるメインブロックのブリッジタワーなのだろう区画を見つめて、目的地へのルートを見当した。

 おまけさっきからまったく顔色の良くない犬族たちに、この艦の強面の艦長を茶化したようなことを言ってやる。

「あはは、ほんとにケチ臭いったらありゃしないよね? こんなでっかい航空巡洋艦が空も飛ばずに、艦内の明かりもこんなに落としてさ! こんなんじゃ転んでケガしちゃうよ♡ まあ、あの渋ちんの艦長さんらしいっちゃあ、らしいんだけどさ! 表情も暗かったもんね?」

「……!」

 そんな軽口に、ふたりの部下たちは暗い表情を見合わせるばかりだが、これに意外な方向からツッコミが入れられた。

「ふん、しぶちんで悪かったな? 余計なことは言わんでいいから、さっさとこっちに上がって来いよ……!」

 聞き覚えのある声がエコーを伴った拡声音で頭上から降ってくるのには、思わず部下たちとお互いの目を見合わせるクマ族だ。

「……おっ! 聞かれちゃってたみたいだね? しっかりとマイクでこの声を拾われてたんだ。ほんとに陰険だな! ヘタな軽口も叩けやしないんだから♡」

 ペロリと舌を出して左右の肩を揺らすのには、やはり部下よりもこの艦の最上階でふんぞり返っているのだろう、ベテランの犬族の艦長どのが答えてくれる。

「余計なことは言わなくていい。さっさとこちらに上がってこい。第一艦橋(メインブリッジ)だ。そこからまっすぐ進んだ先にエレベーターが二基あるから、専用のものはお前たちのために解放してある。3分以内だ。以上!」

 言うだけ言ったら、ブツリと途切れる無愛想な館内放送に、大きく肩をすくめさせるベアランドだ。

「だってさ! さては画像もモニターされてたんだね? それじゃ、さっさとイヤなことは済まして、この新鋭艦の内部を楽しくお散歩でもさせてもらおうか。ふたりとも付いておいで」

 こうなれば仕方も無い。

 ふたりの部下たちを伴って、言われたとおりのまっすぐ突き当たりのタラップから上階の回廊、この左手の突き当たりに見えたエレベーターホールまで早足でたどり着く。

 アナウンスの通り、エレベーターは二基あって、右が通常のクルー用で、残りの一基は、途中の階層をパスしたブリッジまでの直行便だった。

 ブリッジ・クルー専用のそれがあるのは、じぶんたちの母艦のそれと同様だ。

 そのためか明らかに大きさが異なるものの、許容量がだいぶ小さめな見てくれをしたものの扉が開け放たれるているのを、その身をかがめてしげしげとのぞき込む大柄なクマ族だった。

 左の頬のあたりを人差し指でポリポリとかきながら、ちょっと考え込んでしまう。



「ああ、なんか、ずいぶんとちっちゃいエレベーターだよね? ブリッジ・クルー専用とは言ってもこんなに狭くすることもないだろうに。ぼくみたいないかついクマ族なんかよりも、すっかり犬族主体に考えちゃってるよ。確かにこんな軍用艦の乗組員は、おおかたでスリムな犬族たちがメインにしてもさ……!」

 みんなで乗れるかなと背後の部下たちを見下ろすのに、かしこまったきりのふたりの犬族たちときたらば、さも困惑したさまでお互いの顔を見合わせるばかりだ。

 そうしてやがて、おずおずと言うのだった。

 まずはこざっぱりしとた見てくれの犬族のケンスが、遠慮がちにものを申す。

「でしたら、どうぞ隊長どのがお先に行ってください……! おれたちは、なあ?」

 となりの相棒に向き合うのに、顔色の真っ青な毛むくじゃらの犬族は力なくこれに同意するのだった。先の戦闘でどやされてしまったここの犬族の艦長に会うのがよほど気が引けるのらしい。
  
「は、はいっ、おれたちは後からブリッジにうかがいます……

 もはや死にかけみたいな部下のありさまをどうしたものかと見つめてしまう隊長さんだ。

「はあ、とか言いながら、ふたりしてバックレたりするんじゃないだろうね? いいかい、敵前逃亡は銃殺刑だよ? まあ、この艦の中じゃ逃げようもないんだけど、発進許可がなければアーマーも出せやしないんだし。まあそうか……」

 ちょっと呆れ顔でふたりを見ながら、また狭いエレベーターに向き直るベアランドだ。これに背中から身を預けるかたちで乗り込むと、部下の犬族と相対した。

「ふうん、どうにか乗れなくもないのかな? まさか重量オーバーだなんて言わないよね? それじゃ、さっさとみんなで怒られに行こうか! それっ!!」

 ふたりの部下たちが気を抜いているところを無理矢理に太い腕を伸ばして捕まえて、この身にがっちりと押さえ込んでやる。

「わあ!」

「ひゃああっ!?」

 びっくりする犬族どもにしてやったりといたずらっぽい笑みで言ってやる。

「イヤなことはとっとと済ませちゃおうよ! 3分以内に来いって言われていることだし、もたもたしてられないから。確かに陰険でおっかない艦長さんではあるけれど、取って食われたりはしないんだからさ♡ あっと、これも聞かれてたりするのかな?」


 腕の中でもがくふたりをぎゅっときつくホールドしながら、さっさとエレベーターを起動させるクマ族だ。

 ブリッジまでの直行便はものの十秒足らずで艦の最上階までパイロットたちを送り届けてくれる。

 その先のブリッジでくだんの艦長と対面するベアランドたちだが、思ったよりも機嫌の悪い大佐どのに内心で肩をすくめる隊長さんだった。背後でいっそうに身をすくめる犬族たちとこってりとしぼられることになるのがもはや明白だ。

 部下でなくとも逃げ出してやりたい気分になりつつ、旧知の仲のベテラン軍人に立ち向かうエースパイロットだった。

                 
              ※次回に続く……!




 

 


プロット
ベアランド小隊、ジーロ艦に着艦。
ランタン 船首部に ビーグルⅥ アーマーハンガーに
アーマーハンガーのコルクとケンスと合流、ジーロの艦内放送でブリッジに招かれる。
ブリッジタワー、エレベーターが二基、その内の一気はブリッジまでの直行便、ただし狭い。
三人でブリッジへ。不機嫌なジーロとのやり取り。
なんやかんやでお茶をにごしていながら結局は命令を遵守できなかった部下、特にコルクへと話が移り……!
以下、#015へ? ※お説教中にウルフハウンドも合流。
部下ふたりは副隊長に任せて、ベアランドはジーロとの話し合いに。船酔い状態で完全グロッキーなダッツとザニーのクマキャラコンビがちょっとだけ登場? 

TO DO
アストリオンのマップ作成、ダッツとザニーのアーマー、ビーグルⅥプロトタイプの作画、ケンスとコルクのビーグルⅥ量産型の作画。ジーロの巡洋艦、????の作画。
  

 

 

本文とイラストは随時に更新されます!


カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record NFTart NFTartist Novel オリジナルノベル SF小説 ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア戦記/Lumania War Record #013

#013

Part


 遙かな水平線はどこまでも穏やかに澄み渡っていた。

 空も見渡す限りが雲ひとつもなくした、まるきりの快晴だ。

 いっそここが血なまぐさい〝戦場〟だということを忘れてしまうくらいに平和なありさまに、巨大な空飛ぶ戦闘ロボットのコクピットで、その様子を今やぼんやりと眺めるばかりの若いクマ族のパイロットである。

 やがてちょっとだけ気の抜けたような言葉を発するのだった。

「はあん。いざ目標の当該戦域に着いたのはいいものの、人っ子ひとりいやしないなあ? ほんとに気配すらないよ。なのにどうしてここが戦場だって言えるんだか……!」

 目の前のメインモニターのすべてが青一色で、さっきから代わり映えしないのんびりした景色と、手元の各種レーダーの画面を交互に見比べながら、やはりこのどこにも敵影らしきがないのを認めてどうしたものかと考えあぐねる。

 後続の犬族の新人パイロットたちが追いつくのはまだ少し先のことだろう。

 最新鋭の大型巡洋艦が擁するハイパワーのマスドライバーをまんま流用した、アーマーの強制射出発進システムは先手を打つには打って付けだが、単機で先行しすぎるあまり後続機の援軍がすぐには望めないのが玉に瑕(キズ)だ。

 どの場面においてもまずはひとりで強襲急撃、その後も孤軍奮闘しなければならない。

 果たしてその覚悟を持って出撃したはずが、いざ来てみればそこはひたすら何もないただの公海のど真ん中だ。

 本来の戦闘域となるはず海上の孤島、ロックスランドからもかなり西にポイントを移したここでは、ただ広い海原が続くばかりで何をどうすればいいのかさっぱり見当がつかない。

「あれ、場所、間違っちゃったかなあ? さてはリドルのやつ、慌てて射出のポイントをミスってたりして??」

 ありもなさそうなことをつぶやいて、みずからの太い首をしきりと傾げてしまうベアランドだ。

 おのれの周囲を囲むように配置されたモニター群をぐるりと左から右へと眺め回しては、どこかしらに何らかの変化がないかと目を懲らす。

 左右の耳を澄ましてもアラームなどの警報は響かない。

 ただ右側のサブモニターの一角だけ、海面にある種の異物があるのが視認できたが、それをちょっとだけ拡大して、またすぐに視線を逸らすクマ族だった。

「なんか一個だけでっかいフロートが浮かんでいるけど、あれってロックスランドのヤツがここまで漂流してきちゃったんだよね? 完全に破壊されてすっかり廃墟みたいになっちゃってるけど、あのフロート自体がただ浮かんでいるだけで、まるで意味がないものなんだからさ……!」

 そこにあるのが不自然なこと極まりもなくした巨大な灰色の人工物らしきを、しかしさして気にすることもなくスルーする、性格とてもおおざっぱなエースパイロットさまだ。

 少しは気に掛けても良さそうなものをあえて放置していると、そこに折しもどこからかアラームと共に、誰かしら年配の男性らしき声が響いてくる。

「……おい、聞こえるか? でかグマ?」

 突如として聞こえてきた聞き覚えのある声とその言い回わしに、おっ!と頭の上のふたつの耳をピクつかせるベアランドだ。

「お、その声は、ジーロ艦長だよね? この現場の指揮権を持った最高責任者の! どこにいるんだい? ま、なんとなくで想像がつかなくはないけれども♡」

 右手のモニターの一角を今一度、軽く一瞥しながらの言葉に、頭上のスピーカーからは小さな舌打ちがして、ちょっとトーンを落とした返事が返ってくる。

「じゃあ、そういことなんだろう? それよりも、ちょっと耳を貸せよ。大事なお話がある……!」

 ピピッ!

 不意にまた軽いアラームが鳴って、正面のモニターの中に短いメッセージのウィンドウが浮かび上がってきた。

 それを見るなりクックとおかしげにこの喉を鳴らすクマ族だ。

「あ。これって、上級士官用の秘匿回線の通信コードだよね? わざわざこんなの使わなくたっていいものを、ほんとに用心深い艦長さんだよな! 返って怪しいったらありゃしないよ♡」

 苦笑いで思ったままを口にするのに、スピーカーからはまた舌打ち混じりの文句が返ってきた。

「いいから、とっとと開けよ。肝心なことをまだ何も知らされていないお前さんに、親切に教えてやるんだ。ありがたく思え!」

「はいはい! と、それじゃ、どうぞ?」

 言われた通りに複雑なパスコードでブロックされた軍用の特殊回線をつなぐと、スピーカーからはまた同一人物による、こちらはややくぐもった感じの音声が響いてくる。

 さては手のひらサイズの小型の通信機を使って小声で通信しているのだろうと察するクマ族だ。

 よってそのひそひそ話にこの耳を傾けた。

 すると相手の犬族のベテラン軍人の大佐どのは、何やら一度、もっともらしげに咳払いしてから続けてくれる。

「んんっ! まあ、知っての通りで、ここに来るように指示したのは何を隠そうこのオレなんだが、その場所だけでさっぱり後のことは伝わっていないだろう? 説明してやるから良く聞け。で、言うとおりにしろよ? それにつき余計な質問はなしだ。お前は黙って言われたことだけをやればいい……!」

 かなり上から目線のパワハラめいた口ぶりになおのこと苦笑いが強くなるベアランドだが、とりあえずは了解してうなずいた。

「ははん、相変わらず自分勝手な言いぐさだよな! まあいいや、ここはおとなしく艦長の指示に従うよ。さっぱり何が何だかわからないし、意味もなくここに導いたわけじゃないんだろ?」

 相手からの返事がないのにしたり顔したクマ族は明るい口調でまた言ってやる。

「さうさ、なんたって知るひとぞ知る、いかなる劣勢もものともしない先読みと知略に長けたキレ者ぶりで有名な、ジーロ・ザットン大佐だものね! あるいは勝つためには手段を選ばない冷血の極悪人、悪党ジーロ、だったっけ?」

 ちょっとどころかかなり冷やかしめいた口ぶりになるのに自分でもペロリと舌を出してしまうが、これに相手はまるで気にしたふうでもなくて冷めた口調で返した。

 モニターに相手の顔が映らないから実際のところはどうだかわからないが、このくらいで機嫌を損ねるような底の浅い人物でもないと理解はしているクマ族の青年だ。 

「お前に言われたくはないね。あいにくとこっちはわけあってこの姿を見せてはやれないんだが、いざとなったら多少の手助けはしてやるから、覚悟してかかれよ。言うまでもないが、そこはもうれっきとした〝戦場〟だ。で、見たところおまえひとりだけのようだが、後の僚機の部下どもはどうしたんだ? 確かふたり、新人のパイロットと新型機がいたはずだろう? どっちもまだ若い犬族の??」

「よくご存知で! なに、もうちょっとしたら追いつくよ、今しゃかりきになって追っかけてきてるはずだから♡ たぶんね?」

 いたずらっぽく余裕しゃくしゃくの返答を返してやったら、ちょっとだけ間を開けて、どこか呆れたような返事の艦長どのだ。

「まったく、そんなのろくさそうなでかい図体の機体でどうしてここに一番乗りしてやがるんだよ、おまえは? 相変わらずやることが人並み外れていやがるな、このバケモノめ! まあいい、どっちかと言ったら新型機とこのおまけの新人くんに興味があるんだが、お前のそのご自慢のアーマー、ルマニア軍が最新兵器の実力とやらもとくと見させてもらおうか、その……」

 またちょっとだけ間を開けて、そこから何かしら含んだようなものの言いをしてくれる犬族のおやじさんだった。

「いわゆるそうだな、その『王陣の番兵』シリーズってヤツのちからをだな……! ああ、軍がかねてより秘密裏に開発してる、巨大な能力を秘めた最終兵器のひとつなんだろう、そいつは?」

「あはは、ほんとによくご存知で! まったくどこから聞き付けてくるんだか? ぶっちゃけまだ開発途上の機体ではあるから、いざぶっつけ本番で実戦でテストしてるみたいな? あんまり参考になるかはわからないけどさ!」

「ほんとにふざけていやがるな……! ん、いいよ、そんなに静まり返ってくれなくとも! おい、全員聞き耳立てているのがまるわかりだぞ? どいつもこいつも、みんな仕事しろ!!」

 呆れかえったセリフの後に続いた、ひどくうざったげな文句が回線越しのこちらではなくて、実はむしろおのれの周りに向けてのものだと察するベアランドは、思わず吹き出してしまう。

「ふふっ、てっきり艦長室でコソコソやってるのかと思ったら、しっかりとブリッジのシートにふんぞり返っていたんだ! だったらこんな秘匿回線なんかわざわざ使う必要ないのにさ?」

「うるさい。余計なお世話だ! おっと、失敬。いいから、良く聞けよ。立場的に公言しにくいこともいろいろあるんだ。現実と建前ってのはとかく乖離(かいり)しているもんでな?」

「了解♡ で、ぼくは一体どうすればいいんだい? 見渡す限りが海ばかりでこれと何も見当たらないんだけど、この下に敵の潜水艦でもいるのかい? それってあんまり相性良くないなあ」

 ぐるりと周りのモニターに映る景色を見回すクマ族のパイロットに、ちょっとだけ苛立たしげな声色の犬族の艦長が続ける。

「だから、それを今から教えてやるって言っているんだよ! 良く聞け、もう肝心なポイントは過ぎ去ってしまっているんだ。放っておいても感づくかと思ったら、こういうところは至って鈍感なんだよな、おまえらクマ族ってのは? 世話が焼けるよ」

「へ? もう過ぎてるって、まだ何もありゃしないじゃないか?? そっちに見える怪しいフロートの漂流物以外は、なんにもありゃしないよ。あ、ひょっとしてその廃墟に向けてビームをぶちかませばいいのかい?」

 ちょっととぼけた返事を返すのに、あちらからはただちにかぶせ気味のがなり声が聞こえてくる。

 ひそひそ話はどこへやら?

「間違ってもやるなよ! いいから、黙って言った通りにしろ。まずは転進、北に向いてる機体の方向を南西に向けろ。取り舵一杯! ほら、お前から見たら20時の方角だよ、わかるだろ?」

 相手からの言いようにちょっと戸惑い気味のベアランドだ。

 太い首を傾げながら、低速で前進していた機体を停止させる。

 言われた通りにおのれの左後ろへとモニターの景色を回転させて、ついぞ代わり映えしない青一色の世界を微速前進するよう大型なアーマーの機体をコントロールする。

 やはりその首を傾げながらにだ。

「ふーん、て、やっぱり何もありゃしないけどな? ねえ、これでいいんだよね、ジーロ艦長? 聞いているかい?」

「ああ、いいんだよ。そのまま微速前進で、すぐにわかるだろ。あ、だからそこでストップだ! 止まれって、また過ぎちまうぞ? おいこのでかグマ!!」

 途端に声を荒げる相手の言葉をまずはきょとんとした目つきで聞いてしまうクマ族だ。

 果たしてモニターの中にはそれらしきものはいっかな見当たらないのだが……?

「え、ここで止まるのかい? でも何もないけど? なんか海面一帯に白いもやか霧みたいなのがぼんやりとかかってるくらいで、なんにも怪しいものは見当たらないんだけど……」

「それが目標なんだよ! ちゃんと見えてるじゃないか? さてはさっきもそうやって見て見ぬフリして見過ごしたのか? このとんちきクマ助め! いいか、その海面を覆った白い濃霧こそが今回の目標を差し示す確たる証拠であり目印だ」

 これをはなはだ意外に聞くアーマーのパイロットはあまり納得のいかないさまで聞き返した。

「え、でもこれって、この下の海底火山か何かの影響による自然現象だよね? そういうポイントがあるってあらかじめ聞いてたし! 視界不良で戦闘するには不向きだからみんな避ける場所じゃないのかな?? 身を隠すには打って付けかも知れないけど、こんなところに潜んでもまるきり意味がないし!」

 もっともらしい意見を述べてやるのに、頭上のスピーカーからはため息交じりの返事が返った。

「その自然現象と、人工によるカモフラージュのスモークとをおまえはどうやって見分けるんだよ? 現実問題、その下には海底火山なんてものは存在しない! わかるか? だとしたら……」

「何かしらが潜んでいるのかい? でもそんなのむしろここに居るって言っているようなもんだよね? 常に一定のポイントで盛大に煙を吐き出しているのなら? どうして……」

 言いながらこれと怪しい動きは見当たらない濃霧に満たされた海域をいっそ怪しく見てしまうクマ族だ。

 これに犬族のベテランはあっけらかんと返した。

「人工による目隠しのスモークごときなら、いっそまとめて取っ払っちまえばいいだけのことだろ? おまえさんのそのバカみたいに出力のでかい機体なら造作もないはずだ。とりあえず周りの海面に向かって一斉射撃してみろよ? 海面の温度が上昇して気流が生じれば、周りのもやもいっぺんに消し去れるはずだ! ただしくれぐれも目標のブツには当てるなよ?」

 わかったふうなことを言ってくれる上官どのに、だが当のパイロットの若いクマ族はいぶかしげなさまで考えあぐねる。

「そんなこと言っても……! それじゃ適当にぶっぱなしちゃっていいのかい??」

 目標をこれと定めないままに射撃することに戸惑いを隠せないでいると、スピーカーからはぴしゃりと警告がなされる。

「あ、ただし中心は避けろよ? 今のおまえから見てそのまっすぐ先に問題の目標物はある。よってあくまでその周囲の海面に向けてだ。当てたら後悔するぞ? 必ずや!!」

「……何があるんだい? まあいいや、それじゃ、ランタン、とりあえずは手前の海面に向かって、軽く一斉射だ! そうれっと!!」

 こうなれば仕方もない。

 言われるがままにこの機体の各所、両腕や頭部から腹部にかけて搭載されたエネルギーブラスターをありったけ足下の海面に向かって撃ち込んでくれる。

 直後、至る所で大きな水柱が立ち上り、灼熱のビームが海面を激しく波立たせた余波でそこから熱波までが一気に立ち上る。

 それがあたりの白い霧を巻き込んでただちに上空へと走り抜けていく。機体にかすかな揺れを感じるほどの、激しい乱気流があたりをごうごうと震わせた。


 その場に居合わせたらきっと大やけどだ。

「あ、ほんとだ、霧の中からなんか出て来たよ! おまけにえらい大きいなっ、て、えっ……」

 かくして白いスモークが跡形も無く消え去った後には、青一色の海面と、その真ん中に思いも寄らぬそれは巨大な物陰が姿を現すことになる。

 かくしてそれをはっきりと目の前のモニターで視認して、思わず大きく目を見張らせるベアランドだった。

 その特殊で特異な形状をした人工の造形物に、はっと息を飲んでしまうアーマー部隊の隊長さんだ。

「こいつは、まさか……!」

Part2


 突如として海面に現れたのは、それは複雑でいびつな見てくれをした人工の建造物で、かつかなりの大規模なものであった。

 よってモニター越しのただの一瞥でそれが何であるのかを識別する、クマ族のアーマーパイロットだ。

 さらにその建物の全容を見定めるべく、みずからが搭乗する戦闘ロボット、でっぷりと大型でブサイクな人型をしたギガ・アーマーを上空へと遠ざけてこれと距離を置く。

 その全体のありさまを見て、はっきりとすべてを理解した。

「あらら、こんな人気のない公海上に、よもやこんな大げさな施設があるだなんてビックリだな? だってこれって最新型のエネルギープラントだろ? 艦長!」

 あいにくと目の前のモニターにはこれと映像がなかったから、あえて天井のスピーカーに向けて問うてやるに、するとそちらからはとかくしれっとした感じの返答が返ってきた。

「ああ、見ての通りだ。あとこんな誰もいない公海上だからこそだろ? こんな厄介でかさばる施設、よっぽど僻地の山奥かこんなところじゃなきゃおちおち建てられやしない……!」

「まあ、それはそうかも知れないけど、でもここって本来はどこの国にも属さない、いわゆる〝公海〟だろ? さすがにマズイんじゃないのかな、せめて自国の領海にでも置かないことにはさ、あとあと揉めるのが見え見えなんだけど……!」

 ちょっと困惑気味に頭を傾げるベアランドだが、どこぞの戦艦のブリッジにいるのだろうジーロは平然たる口ぶりだ。

「どこの国にも属さない特殊な企業体が運営してるとなれば話は別だろ? 何しろ電力エネルギーをまんま高濃度圧縮して固体化したエナジーブロック、いわゆる〝プラズマ・ペレット〟を産出するハイパワー・ブラストエンジン・プラントだ。おまえさんたちの乗ってるアーマーの高出力エンジンにも欠かせない? ま、裏には特定の国や利権が絡んでいるんだが、位置的にはどこが手ぐすね引いてるかおおよそで想像がつくだろ、それに我らが本国もまんまと乗っかってるってわけで……」

「タチが悪いな? ロックスランドのいざこざは実はこっちがメインの縄張り争いだったりするのかい? つまるとこでこのぼくらルマニアと、西の大陸のアゼルタ、あとすぐ南にある中央大陸のアストリオンと、まさしく三つどもえの??」


 少なからず嫌気がさした感じのアーマーパイロットに、新型巡洋艦の艦長どのはなおも平然たる口ぶりだ。

「安心しろ、アストリオンとこっちは今のところ共闘関係だ。よって敵はアゼルタの侵攻軍だな。南の大陸の西海岸側をほぼ占拠してふんぞり返ってる? 目の前のプラントも今はそっちに占拠されてるんだよな。ちなみに敵さんの目的は、そのプラントばかりでなくて、実はこの下にもある」

「は? 下ってなんだい? それってこの海面のそのまた下の海の中か、あるいはいっそのこともっと下の海底ってこと??」

「ご名答! この海底には貴重な資源がわんさと埋まっているんだと! これまたアーマーや戦艦の建造に必要なヘビーレアメタルやらオイルやらが? それを掘り出すための上物がそのプラントで、いわばそれ自体が目隠しの隠蔽工作みたいなもんだ。どうだ、一粒で二度おいしいとは、まさにこのことだろう?」

 思いも寄らないぶっちゃけ発言の連発に、聞いていて心底嫌気がさすベアランドだ。

「ほんとにタチが悪いな!! 占拠されてたロックスランドがあんなあっさりと取り返せたのはつまりはこっちが主戦場で、あっちはどうでもよかったってことなのか!? ほんとに!!」

ああ、そうだよ。だから気を付けろよ? そうやって隠していた姿を現してしまった都合、奥に潜んでいた敵さんがたが蜂の巣をつついたみたいにわらわらと飛び出してくるから、な?」

「ちょっと! そういうことはもっと早く言っておくれよ!! いくら新型だからって限度はあるんだからさっ、て、うわわっ! ほんとに一杯出て来たぞ!!」

 目の前のモニターがいきなりこの状況の急激な変化を映し出すのに、慌てて前のめりに機体の操作パネルに食らいつく。

 身体中に緊張が走るクマ族の頭上で相変わらずのんびりした犬族のおやじの声がだだ漏れてきた。

 現場の最高指揮官が、まるで他人事みたいにぬかしてくれる。

「もうじき後続の援軍が来るんだろ? それまでひとりでテキトーにしのいでおけよ。おまえの機体じゃパワーがありすぎてかすめただけでも大惨事だ。間違ってもプラントには当てるなよ? ただし敵さんはそれを見越してプラントを盾にして仕掛けてくるんだが、そんなに必死には攻めてきやしないだろ」

「何で? まあ、確かに数だけはわんさといるけど、だからってあんまり統制が取れてない感じだなあ? あまり攻め気を感じないような、前の敵さんの新型機の時もそうだったけど……」

「あちらもあちらでいろいろとあるんだよ。なんせ本拠地であるアストリオンの占領地、今はレジスタンス活動が活発化してそっちの沈静化に手一杯らしい。こっちにはろくな補給もできないってくらいにな? 補給と退路を断たれた状態じゃ、あとはずっと西に海を渡った本国に逃げ戻るしかありやしないわな? だがそれもここで手傷を負ってはままならないってわけで……」


 顔の見えない艦長のどこか気の抜けた説明に、怪訝な表情で考えあぐねるベアランドである。

「まさかここをさっさと放棄して逃げ出す算段してるってわけかい? そんなあっさりと……! でもだったら、とっととトンズラしてしまえばいいじゃないか?」

「おいおい、仮にも一国の正規軍だぞ? ろくな理由もなしに敵前逃亡なんてできるわけないだろ。で、その理由を今まさに作ってやっているんだよ、このオレたちで。ルマニア軍の最新鋭の大型巡洋艦と、おまえの最新型アーマーでな! せいぜい派手にかましてやれ、プラントは傷つけないように、あと無理して敵さんを撃墜しなくてもいいから、のらりくらりとだな。とどめのだめ押しは援軍が到着してらからだ。このオレの言うとおりにしておけば、誰も損をしないでこの場をきれいに納められる」

 相手はどこまでも好き勝手なことをぬけぬけと言ってくれるのに、半ばやけっぱちでがなる隊長さんだった。


「ちょっと! なんかさっきからいいようにばかり言ってくれてるけど、やるのはこっちなんだからね? 見渡す限りが敵だらけじゃないか!! えいくそっ、ランタン、蹴散らすぞ、パワーは抑えめでいいから派手にビームを光らせてくれっ!!」

「おお、さすがに飲み込みが早いな! その調子で場をつないでくれよ。それにしてもまだ追いつかないのか、後続の部隊は? でかグマ、おまえどんだけ無茶して飛び込んできたんだよ?」

「知らないよ! てか、このことを前もって知ってたらみんなでお手々つないでのんびりと来たさ!! ジーロ艦長、いざとなったら助けてくれるんだよね? そっちにも当然、艦載機のアーマーはあるんだから!!」

 アーマーのコクピットでがなり散らすばかりのパイロットに、どこぞでふんぞり返った艦長は何食わぬさまで返すばかりだ。

 その最中に不意に甲高い電子音が鳴り響く。

「悪いな。今はそっちはどうにも動かせない状態だ。理由はあえて言わんが。聞いたらがっかりするぞ? それだからこそこうして身を隠しているわけで……!」

「……おっと! このコールは!!」

 はっと息を飲むクマ族に、スピーカー越しの犬族がこちらもさも了解したふうに言ってくれる。

「来たようだな? ようやくのご到着か。どれ、どんなものだかじっくりと見させてもらうか……!」

 再び通信のコールが鳴ると、シートの右側あたりのスピーカーから聞き覚えのあるこちらはまだ若い犬族の声が響いてくる。

「た、隊長! 少尉どのっ、ただいま到着しました! オレです、コルクです! ケンスもいます!!」


「はいっ、遅ればせながらこれより両機とも参戦します! てか、すんごい状況ではありませんか? 見渡す限りが敵ばかりだ!! なんかでっかい海上ベースみたいなのもあるし!?」

 到着するなり内心の困惑したありさまがありありとわかる若手のアーマーパイロットたちに、どうしたものかとこちらも困惑してしまう若いクマ族の隊長さんだが、スピーカー越しの傍観者がいらぬ横槍を入れてくれる。

「おう、期待してるぞ! せいぜい気張って戦功を立ててくれたまえ。新型機なんだからわけないだろ。混乱したこの場をどうにか立て直すにはそこのでかいクマ助のお化けアーマーよりもおまえたちのまともな機体のほうが打って付けだ。それにつきちゃんとやり方は教えてやるから、言われたとおりにやれよ」

「また勝手なことを……!」

 内心で舌打ちしてしまうが、途端に動揺した声がまた左右から響いて本当に舌打ちしてしまうベアランド
だ。

「だっ、誰? 少尉どのの声じゃなかった??」

「ああ、他に誰かいるのか? だが友軍の識別信号はあの隊長の機体のしかないよな??」

「いや、気にしなくていいよ! ちょっとしたおっ節介なギャラリーがいるだけのことだから! 今は目の前に集中だ。ちなみにこの近くにいるらしいんだけど、ふたりとも知ってるだろ? いろいろと有名な犬族のベテラン艦長さん!!」

 冗談めかした隊長の言いようにスピーカーからは緊張感みたいなものがまたしてもありありと伝わって来た。

「そ、それって……!」

「ジーロ・ザットン……!?」

 まだ若い新兵の間でもその名は響き渡っているらしい。

 ただしそれが果たしてどのようなものかはかなりビミョーな気がしないでもないクマ族の隊長は、あたりに群がる敵のアーマーに威嚇射撃をしながら犬族たちのアーマーに向けて言い放った。

「どうやら敵さんはあんまり乗り気じゃないらしい! 理由はいろいとあるんだが、目の前の海上プラントには発砲しないように気を付けながら各個に敵を迎撃、できるものなら撃破して構わないから!! ただし深追いはするなよ? ぼくのランタンの射線上に出ないようにしながら左右から援護してくれ!!」

「了解!!」


 海洋上に広く散開する敵影はどれもがみな距離を取っていて、激しいドッグファイトを仕掛けてくるような動きもない。

 相手は持久戦に持ち込む腹づもりが見え見えなのに、さてどうしたものかと目の前のモニターに見入るベアランドだ。

 でかい海上プラントを背後にした飛行型のアーマーやジェットフライヤーは散発的な発砲をするばかりで、その他の敵影は海上でちらほらと様子見してるのが丸わかりだ。

 まるでやる気がないのにいっそじらされてしまうやる気も体力も旺盛なクマ族だった。我慢比べの持久戦ならこちらも自信はなくはないが、この燃費がバカにならない仲間の飛行型アーマーはそうも言ってはいられないのが実情である。

「あちゃ~、膠着状態になっちゃったな? ふたりとも頑張って機体を制御してくれよ? 小回りが利くロータードライブじゃないからしんどいだろうけど、こっちはバリア全開で敵の弾を片っ端からはじいてやるから、この後ろにいればいいよ!」

「りょっ、了解! え、でもっ……あ、あの、あの!」

「このままお互いにだんまりしてにらめっこですか? あとあの目の前にあるバカでかいプラントは実際に稼働しているものなんですか? なんだってこんなところに??」

「説明は後にしてくれ! 悪いけど今はそれどころじゃ、あと作戦はこの海域のどこかに雲隠れしてる犬族の名将どのが立ててくれるらしいから? ん、コルク、何か言いたいのかい?」

 右手の方から過呼吸なのがまるわかりなど緊張した息づかいが聞こえてきて、思わずそっちを見てしまうベアランドだ。

 実際に右手のモニターの中にワイプで犬族の新人パイロットの画像を映し出してやるに、完全に狼狽しきった毛むくじゃらのワンちゃんが大汗かいて干上がった声を発する。

 いくらなんでも緊張しすぎだろうと心配に見てしまう隊長のクマ族をよそに、うわずった声を上げる犬族の准尉は言いたかったことを一気にはき出してくれた。

「あの、そのっ、あの! ううううっ、うるふ、ウルフハウンド少尉どのも後から合流予定でありますっ! 第二部隊もこちらにっ、海を渡って、ですからその、あのそのあのっ……!!」

「え、ああ、そう! シーサーの第二小隊も来てくれるんだ? そいつはまた……そっちが合流してくれたらしょせんは多勢に無勢のこの戦況もどうにか巻き返せるかな? シーサー、問答無用で一撃見舞ったりなんかしないよね?? 大丈夫かな……」

 ちょっと驚きながらもそれはそれでやや考え込んでしまうのに、天井のスピーカーからうざったげな声が降ってくる。

「よせやい。これ以上味方が増えたら敵さんがたがいよいよテンパっちまうだろう? あのやせオオカミが来る前に終わらせちまうのが無難だな。どれ、こうして見たところじゃ新人くんどもはそれなりに使えそうだから、そいつらに一働きしてもらおうか」

「ああん、さっきからほんとに言いたい放題だよね! 新人のアーマー乗りに何をやらせるつもりなんだい? おまけにこんなとっちらかった状況で!!」

 しまいにはちょっと忌々しげにのど仏をうならせるクマ族に、犬族の艦長さんはすました声であくまでとぼけた返事だ。

「そんなやたらに目立つまっちろいアーマーで、はじめどうしたもんかと思ったが、どっちもちゃんとおまえに言われた通りに動いてるだろ? 飛行型と言ってもしょせん問題だらけで初期のテストパターンしか出回ってないレアな機体をだな。挙げ句にゃ開発途上で放棄されてまだ未塗装なんじゃないのか? 仮にも旗艦に配備された機体なんだから、色ぐらいちゃんと塗ってやったらどうなんだよ……!」

 おまけ呆れたふうな感想を長々と述べるのに、これを聞かされるクマの隊長は目をまん丸くしてむしろこの左右の隊員たちに聞いてしまう。

「え、きみたちのその銀色の機体って、実はまだ未塗装のヤツだったのかい? てっきりそういう派手なカラーリングなんだと思ってたんだけど??」

「えっ、いや、おれたちも何にも聞いて……そうだったのか?」

「え、え、え? いや、そう、なの??」

 左右で困惑した声が応じるのに、肩をすくめるベアランドだ。

 これにまたしても上から響いてくる犬族の声もやや困ったような心底呆れた響きがあった。

「おいおい、そろいもそろってなにをとぼけていやがるんだよ? オレたちルマニア軍のアーミーカラーは昔から渋いモスグリーンに決まっているだろう? 自由にこの色を決められるのはよほどの戦功を立てた歴戦のエースパイロットさまだ。そんなヤツがどこにいる? でかグマ、おまえはまた別だぞ? もともとの規格がイカレてやがるんだから!」

「ひどいな! まあいいけど、だったらどうすればいいんだい? 早くしないと第二小隊が追いついちゃうし、シーサーが黙っちゃいないよ。海上作戦仕様の機体じゃプラントを器用に避けて戦うのもしんどいだろうし、無傷では済まないんじゃないのかな?」

「そいつはごめんこうむる! おい、新人ども、それじゃはじめにここに来たヤツでいいや、機体に積んだ装備が軽いからより早く飛べたんだろ? 火力は低いほうがいい、この場合は。その手持ちのハンドカノンで構わないから、オレが言ったものをただちにしっかりと狙い撃て。いいな?」

「コルクのことだよね! 聞いてるかい? ケンスは強力なロングのキャノンを装備してるだろ? わかるよね!」

「コルク、艦長どのの命令だ! しくじるなよっ?」

「え、え、え、あの、あの、え? おれ??」

 一連のやかましくしたやりとりの最後に面食らった感じの声があぶなっかしくこだまする。ベアランドは天を仰いでしまうが、犬の艦長さんがぴしゃりと言い放った。

「お前しかいないだろ? おまえだよ。いいな、それじゃ良く聞けよ。やることはいたって簡単だ。それじゃその目の前のプラントを良く見て……」

 この後に下された命令に、その場の空気がただちに凍り付くこととなる。

 はじめ怪訝に耳をピクつかせるベアランドの右手で、思い切りに息を吸い込んでそれきり反応に窮する若い犬族の沈黙がもはや痛いくらいに伝わった。

 ヤバイな……!

 百戦錬磨の犬族の艦長が言うほどにはすんなりとは行かないだろうことがはっきりと予想されるクマ族の隊長さんは、かくなる上はじぶんでどうにかするしかないかなとギュッと両手の操縦桿を握り締める。

 皮肉なほどに晴れ渡った青空に、しかし確実に暗雲が立ちこめつつあるのをこの場のどのくらいが予期していただろう。

 直後には、怒号と悲鳴が交錯するそこはまさしくもっての戦場なのであった……!

                次回に続く……!!

イラスト・ギャラリー

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 ↑二枚目のイラストの線画版です。OpenSeaにてNFTアートとして販売中!!




 


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「オフィシャル・ゾンビ」13

オフィシャル・ゾンビ
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オフィシャル・ゾンビ 13

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オフィシャル・ゾンビ 13


 夕方、日暮れ前――。

 くだんの目的地へと到着した。

 そこでただちに今回のミッションのおおよその目的と目標など、手短なブリーフィングがあり、それを淡々とした口調で説明する日下部だ。

 みんなで楽屋に集まっていざ放送局を後にしてから、この芸人ばかりの即席チームのリーダーとしての役割をやはり淡々とこなしていた。

 そしてそのすぐ隣では、何故だかちょっとびっくりした表情でぽかんと目の前の建物を見上げる鬼沢だった。

 そう、そこはこの彼にとっては、もはやはっきりとその見覚えがある、都心の五階建てのごく中規模なオフィス・ビルだ。

 まださほど年数は経っていないだろう無骨で頑丈な鉄筋コンクリの建物に、大小合わせて10社ほどの新興企業やら何やらが入っているはずの、いわゆる雑居ビルだった。

 その内のひとつの会社の取材が目的で、複数の収録スタッフと共に番組のロケで訪れたのは、あれは果たしていつのことだったか?


 当人しごく有名なテレビタレントでいろんなところに引っ張りだこだから、正直、そう詳しく中身までは覚えていないのだが、それでもまだ半年も過ぎていないはずだ。

「はあ~……! え、まさかここが目的地だったの? しかもこの五階って、まんまじゃん! でもいったい……なんで??」

 以前、この自分が訪れた時はそんなに怪しいような雰囲気はどこにもなかったはずだと、かつての記憶をうんうんと絞り出す。

 だがやはりこれと言ったものは脳裏には浮かんでこなかった。

 そんなほけっとして気の抜けたさまを、すぐ間近から怪訝に見る日下部が問うてくる。

「……おはなし、聞いてくれていますか、鬼沢さん? さっきから心ここにあらずってさまで、ねぇ、なんだかぼうっとしていますけど……?」


 これからアンバサダーとして肝心の作戦行動に入るのだから、しっかり聞いてくださいと念を押されるのだが、そんな忠告もてんで上の空の中堅芸人だ。

 それだからひどく困惑した顔をこの隣に向けると、やむなく困惑しきったその胸の内を吐露する。

 ここでのロケのことを内緒にしておく必要はないはずだから、覚えている限りのことをありのままにぶっちゃけた。

 すると日下部ばかりか、周りの関西弁のおじさんたちまでもが、驚いたさまで鬼沢の顔を見返してくるのだった。

「はえ、鬼沢くん、ここに来たことあったんかい? 偶然ちゅうか、えらいイタズラやの。運命なのか、悪運なのかしらんけど」

「偶然にしてはできすぎやない? ようわからんけど、呼ばれて来たみたいで気持ちが悪いわ! オニちゃん、なんか恨まれるようなひどいことしたんちゃうんか? ここのオーナーさんか誰かに??」


 関西弁でまくし立てられるのに、やはり困惑することしきりの関東芸人だった。おかげでちょっと腰が引けていたりする。

「まさか、そんなこと……! それにこのビルのオーナーさんには会ってなんかいないはずだし?」

 ひたすら首を傾げる鬼沢に、日下部もやや不審げなさまでものを言う。

「きっとただの偶然……なんですかね? でもどうあれやることはひとつで、変わりませんから。さっきも言ったとおり、ここのビルの最上階にいると思われるグールの討伐、ないし無害化、ただそれだけです」

「ああ、そうなんだ……! 最上階って、ほんとに俺がロケをしたところなんだよな? まさかあそこにこんなかたちで舞い戻ることになるなんて……それに討伐って、なんかな……!」

 そんな内心の複雑な思いが自然とこの口をついて出てくる。

 改めてその地上五階建ての建物の最上階を見つめる鬼沢だ。

 確か記憶では、建物のそれぞれのフロアに別々の企業が入っていて、五階はちょっと特殊な職種の個人経営の会社があり、そこの名物社長を取材する目的で来たのだった。

 屋上に大きな看板がでかでかとその企業名を宣伝していて、その目立つことおびただしいさまを目を細くして凝視してしまう。

 するとそんな自分の代わりに、この横に立つ先輩芸人の東田がこれをそのまま読み上げてくれた。

「えっと、五階っちゅうことは、あれやの? 『ドラゴン警備保障』、なんやありがちなような、ないような、ようわからんところやのう?」

「要は個人経営の警備会社っちゅうことやろ? でもいまどき流行らんのちゃうん? ふつうは大手の警備会社にお任せっちゅうもんで?? そっちのほうがお得やろうし!」

 なにやらとてもうさんくさげにそれを見上げるおじさんたちに、内心では同調する鬼沢も、しれっと本音を言ってのけた。

「まあそっか、てかうちもここらへんは大手のお世話になってるんだよなぁ? あの社長さんの前ではちょっと言えなかったけど! でもあっちは専属のガードマンみたいな、危険でより硬派なことを売りにしているところらしいんだけれども?」

「それはちょっと厄介かも知れませんね? いざゾンビになってしまえば、ただの人間相手に遅れを取ることはないでしょうけど、相手がプロの軍人みたいなことになると、手加減するのがしんどいですから。いたずらに殺すわけにも行かない手前……」


 おなじく頭上の看板を一瞥しながら、真顔の日下部が大まじめに言う言葉に、鬼沢は険しかったその表情がちょっとだけ緩む。

「殺したりはしないんだ? なんかホッとした。それにあの社長さん、そんなに悪いひとには見えなかったんだよな? とっても気さくでユーモアがあってさ、ちょっと体育会系でオラオラなカンジが正直、俺は引いちゃったりもしたんだけど、あとめちゃくちゃ日に焼けてた! いかにもやんちゃなケンカ商売してるみたいな??」

 昔の記憶がどんどんと呼び覚まされる売れっ子芸人さんの回想に、どこまでもこの真顔を崩さない日下部が、およそ面白みもない無味無臭な感想を述べてくれる。

「でもあいにくとその社長さんが今回のターゲットである確率が高いです……! これはかなり確かな情報源からもたさられたものなので、たぶんドンピシャですね? ですからいざこれと鉢合わせした時に、動揺したりするのはなしでお願いします」

「そうなんだ……!! てか、なんであの社長がターゲットだなんて断定ができるんだ? 確かな情報源って、そんなの世間一般の週刊誌では一番当てにならないヤツらの代名詞じゃん??」

 はじめ目を丸くして、またすぐにひどく疑わしげに眉をひそめたりもする鬼沢に、これには横合いから世話焼きおじさんの東田がもう何度目かの説明をしてくれた。

 ※お笑い漫才コンビ、バイソンのボケ担当、東田イメージです(^^) なかなかビミョーなのですが、ひょっとしたらモデルの芸人さんよりもいいおとこだったりして??


「ああ、確かな情報源ちゅうのはそやな、おそらくは〝パパラッチ〟や〝シーカー〟ちゅうヤツらからの情報なんやろ? 世の中にはそうヤツらがおるんよ。その手の情報を収集することに長けた、ぼくらゾンビほどではないにせよ、そっち向きの力を持った特殊な人間たちやな……!」

「せやな、わいらみたいに変身まではせんでも、特殊なちからを持った人間は他にもおるんやな! なんちゅうか、半分ゾンビみたいな? ハーフゾンビっちゅうのか……?」

 うんうんとひとり納得顔してうなずく津川に、対して間近で白けた視線を送る東田が、呆れ顔してこれを受け流す。

「ちゃうやろ! 鬼沢くんが混乱しよるから、あんまり適当なことをゆうてやるなよ? ぼくらとちごうて分類、カテゴリーはあくまでれっきとした人間扱いなんやから、ぼくらゾンビさんとはベツモノなんや、しょせんは……」

 かなり含むところがある言いようには、日下部も真顔でこれに同意するのだった。

 だがその一方で、ぎょっとしたさまでまた目をまん丸くする鬼沢だ。

「時には二類とか三類とか言われたりもしますよね? あえてゾンビの名称は伏せて……! 確かにおれたちとは別種のひとたちです。見えている世界が一緒なだけで。シーカーやパパラッチはおれたち同様、ゾンビやそのたぐいが肉眼で確認できるんです」

「え、そうなの? そんなひとたちがいるんだ?? てか、それってやばくないか? そうとは知らずに出くわしたら最悪見破られて、こっちの正体がバレバレになっちゃうじゃん!!」

 にわかに慌てふためく関東芸人にしかしながら関西出身のベテラン勢がでんと大きく構えたさまでなにほどでもないと応じる。

「だとしても問題ないやろ? 見えてるのはあくまでそいつだけで、他の大部分はさっぱりわからへんのやさかい。そないなもんはただの狂人のたわごとや。せやからそれを吹聴するよりも、むしろそれが専門のゾンビの管理機構にたれ込むほうが銭にもなるし、いい副業になるんやから、むしろ役得っちゅうもんやろ?」

「せやから〝パパラッチ〟や〝シーカー〟なんてケチ臭い名前で呼ばれてるんやもんなぁ? ほんまにうまいことやっとるんやで、入手した情報をしかるべきところに高値で売り渡しての! 他に競合する相手がそうそうおらへんさかい、こんなに安定した稼ぎどころは他にありやせんて。噂じゃそれが専業の芸人もおったはずやし、あとそれ自体がゾンビの正体を隠すうまい隠れ蓑になってもうたり……」

「…………」 

 微妙な会話の空白に怪訝な視線を関西弁の漫才コンビに向けるのに、東田が相方の言い渋ったことを露骨に言い直してくれる。

「あえてみずからをゾンビと名乗らんでも、むしろそっちの名目でうまいこと正体を隠し通しよるっちゅう利口な輩もおるんや。まずは正体を見せなそれとわからんもんやさかいに。この世の中、基本は自己申告やろ、何事も?」

「へー……! そんな意外な抜け道があるんだ? いわゆる例外規定的な?? なるほど、だったらこの俺もいっそのこと、そういうことにしちゃって……!!」


 おかしな知恵を付けてあげくは下手な算段までおっぱじめるそれはそれは浅はかな先輩芸人に、芸人としてはずっと後輩の日下部が、ちょっと顔色曇らせてすかさずこれをたしなめる。

「今さら無理ですよ。すっかりタヌキの正体さらしちゃってるじゃないですか? しかもよりにもよってこの公式アンバサダーである、おれの前で??」

「ああ、まあ、そうか……!」

 さすがにそれはないかとペロリと舌を出す坊主頭の芸人さんに、ボサ髪の若手くんは、だがそこで何やら驚いたことを抜かしてくれたりもするのだが……!

「あ、でもあのコバヤさんは、いまだにみずからを二類や三類と自称して、おのれがゾンビであること自体を公式には認めていないんですよね? びっくりしちゃうんですが……」

「は、無理だろ? 俺たちの目の前であんなにはっきりと変身しちゃってたじゃん!? あんな人間どこにもいないって!!」

 それこそがびっくり仰天してとっさに突っ込む本職はツッコミ芸人の鬼沢に、関西芸人たちまでもがやかましいガヤを発する。

「あほちゃう? 無理やて、あの兄さん、それはどうかとぼくらも思うわ。あないに気色の悪いおっかない見てくれで、往生際が悪すぎるて!! 人間があないに臭い屁なんかこくかいっ」

「ないの。ありえへんわ、あのコバヤの兄さんがゾンビでないやなんて! わけわからへん。正気の沙汰やないやろっ……」

 三人の芸人にして現役バリバリのゾンビたちに食いつかれて、肩をすくめるばかりの日下部だ。

 ちょっとだけ天を仰いでしまう。

 目の端に例の看板がまたチラついて、それをきっかけとして気を取り直すと、とりもなおさず作戦開始のゴーサインを出した。

「ああ、とにかく作戦に入ります。早くしないと日が完全に落ちて、いよいよあちらに有利な状況になりますから。地の利は元からあちら側にあるのだし。それではこれから突入しますが、ここはあえて二手に分かれての行動が得策と考えます。狭い建物の中に固まって突っ込むよりも、つまりはバイソンさんたちと、おれと鬼沢さんのペアでですね?」

「え、分かれちゃうの? 敵の本拠地に殴り込みかけるのに?? みんなで行ったほうが良くない? 日下部とふたりきりはなんか不安なんだよなあ、後輩の芸人だし、愛想が悪いし……」

 顔色があまりよろしくない鬼沢をよそに、こちらはしごく平然としたさまの東田がこくりとうなずく。

 了解するなりこの隣の相方に目配せもした。

「ええよ。そのほうがやりやすいやろ。コンビでの行動は漫才同様、慣れとるさかい。ぼくらはぼくらでやらせてもらうわ。ちゅうか、はなからそのつもりやったし……!」

「そやの、スマホのアプリ開いてよう見てみ! ちゃんと今回の案件の概要が出とるわ。日下部くんが執行者として確定されておるやろ。せやからギャラ狙いで他に寄ってくるアホももうおらんのやさかい。ここから先は早い者勝ちの実力勝負や! 負けへんで、ターゲットにかかる賞金、ギャラもけっこうな額やさかいに……!!」

 自身のケータイの画面を見ながらの津川のセリフには、目を白黒させるばかりの新人のアンバサダー見習いだ。

「賞金? ギャラってなんなの??」

「誰だってただ働きはまっぴらやろ? 命を賭けとるんやさかい、当然の報酬や。でなければ誰もアンバサダーなんてやりよるはずがあらへん。ただし今回は鬼沢くんがメインで活躍せなならん『訓練』の意味合いもあるんやから、ギャラは独り占めやなしにみんなで折半ちゅうのがいいんやろ。後後で揉めたりせんように?」

 落ち着いた口調の東田の言い分には、こちらも澄ました顔の日下部がどうでもよさげにみずからの言い分を重ねる。

「おれはどうでも構いません。まずはこのタスクをクリアしてしまうのが先決ですかね。あくまで情報の通りでグールが一体なら、さほど難しくはないでしょうから」

「なんか勝手に話しが進んでない?」

「さよか。それじゃぼくらは別ルートで潜入するから、ここでいったんお別れしよか。おい、いくで……!」

「お、そやな、それじゃオニちゃん、バイバイや! どっちが先にターゲットにたどり着くか、お互い競争やの!!」

「ほんとに勝手に進んでるよ! チームワークとかないんだ!?一切(いっさい)!! てか、何してるの、バイソンさんたち、なんかふたりして建物の壁にぴたっと取りついて……あれ? どうなってるの??」

 はじめは水平だった視線の向きが、どんどん上向きに変わって見上げるような角度でふたりのおじさんたちを見ている鬼沢は、内心の困惑がもはや隠せない。

 平気な顔でこれを見上げる日下部がなんでもなさげに言った。

「まあ、バイソンさんたちの能力なんですかね。ああやって壁伝いにはい上って、目的地に潜入するつもりなんでしょう」

「え、いやいや! どういう仕組みであんなことになるんだよ? てか、こんなまだ日も暮れない内からあんなパフォーマンス目立って仕方ないじゃんか、あ、ひとには見えないんだっけ? でもそれにしたって、意味がわからないよ、もうあんなに高くに張り付いてるし!!」

 あやしい手品かいっそ雑なドッキリを見ている心持ちの鬼沢はリアクションがはばかりない。

 これにあくまで冷静な日下部がぽつりと言った。

「バイソンさんたちは何に変わるんですかね? きっとそれの能力や性質によるところが大きいのでしょうから。ああやって垂直の絶壁を上れるってあたり、だいぶ限られますよね、動物にたとえのだとしたら……??」

「なにも動物とは限らないんじゃないのか? 案外と虫だったりしてさ? いっそのこと害虫のゴキブリとかナメクジとか……うわ、見たくないな!」

 じぶんで言っておきながらおえっと顔をしかめる鬼沢だ。

 これにただちに壁の中腹のあたりからやかましい関西弁のガヤが返ってくる。

「そないなはずがあるかい! イヤなこといいなや、テンション下がるわ、きみらもぼうっとしとらんで早うせいよ!!」

「とっととせな先にステージクリアしてまうで! そしたら当然ギャラはわいらの独り占めや!!」


 そのさまを半ば呆然と見上げる鬼沢が、またビミョーな顔つきで言う。

「あんなこと言ってるけど、ちゃんと中に入れるのかな? そもそもそこに非常口がないと入れないし、いざたどり着いた屋上に何かがいないとも限らないんじゃない??」

「いえ、待ち伏せされている可能性は低いと思いますよ。だとしてもベテランのアンバサダーコンビですから。コロナの都合で換気のために窓が開け放たれていることは多々あるし、非常口があればそれをこじ開けて入れます。原則として、原状回復が可能なちょっとやそっとの破壊工作なら認められているし、壁を思い切りぶち破ったりしなければ大丈夫です」

 見上げる目つきが段々と細くなる鬼沢に、みじんも動揺することのない日下部の返答だ。

 視線をすぐ隣に戻してあらためて聞いてやるに、あちらからはやはりあっけらかんとした回答が返ってきた。

「はーん、それじゃ、俺たちはどうするんだ? まさか建物の玄関から、真正面から強行突破だなんていいやしないよな??」

「いえ、そのまさかです……! 鬼沢さん、頭のキンコンカンを返してください。ここからはもうさっさと変身して、お互いにゾンビの状態で挑みます」

「へ? 変身しちゃうの? もうここで?? まだ五階の目的地にも着いてないのに、どうして?? セオリーって言っちゃなんだけど、このまま見えない状態で抜き足差し足して、ターゲットまで迫るんだろ?」

「いえ、それではらちがあきませんから。ゾンビのちから全開で一気に五階まで走っちゃいましょう! もうそれが一番手っ取り早いです」

 結構なぶっちゃけ発言に、目を白黒させるばかりの鬼沢だ。

「そんな雑でいいんだ? バイソンさんたち、立場ないよなあ」


 言ってるそばからさっさとひとの頭からこの金のワッカを回収すると、みずからの身体をいびつにふくれあがらせる日下部だ。

 これにみずからも意識を集中して、ひとならざる姿へと変化するお笑いタレントだった。

 十秒も経たずに、そこには2匹の大きな獣と人間の特徴を併せ持った、それは得体の知れない存在が仁王立ちすることになる。

 涼しい風がまた吹き抜けて、ちまたでは〝ゾンビ〟と呼ばれる獣たちを目的のビルへと誘った――。

 入り口付近からやけにイヤな感じの気配が漂うが、これに臆することもなく先をゆくクマに、おそるおそるでビクビクしながらこの後に続くタヌキだ。

 かくして戦いの幕は切って落とされた。

 果たしてその顛末やいかに?


              次回に続く……!



 

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「オフィシャル・ゾンビ」12

オフィシャル・ゾンビ
ーOfficial Zombieー

オフィシャル・ゾンビ 12

※作者は特にリアルな現代劇の服飾系が弱いので、キャラの格好をどうするかとかいつも悩んでいたりします…! どなたかいいアイディアがあったら教えてくださいw

https://opensea.io/collection/officialzombie2

※世界最大のNFTマーケットプレイス、”OpenSea”にてノベルのイラストを出品中!ただいまほぼ最安値なので、安いうちにホルダーになってもらえれば、いずれ価値が出てくるかも??
※この冒頭の線画のイラストは、どちらもポリゴンNFTで、10点作製、ひとつをお安く売り出して、残りは読者やファンの方へのギブアウェイ(無料で差し上げる=エアドロップ)予定です!

オフィシャル・ゾンビ 12

 都内の一等地にある、某大手民放テレビ局の、ここは一階。

 全国にまたがる放送ネット網の中では「キー局」とも呼ばれる巨大で特徴的な造形をした建物の、その正面玄関口だ。

 この全面が大きなガラス張りをしたエントランスから繋がるロビーは、とかくだだっ広い造りをしていて、そこにはとかく大勢のひとびとがせわしもなく行き交う。

 みなが出入り業者や、番組に出演するタレントとその関係者、および局内の局員や番組スタッフなど、実にさまざまな職種の人間たちだ。

 そのひとの流れの絶えない出入り口の手前に、今は都合三人の芸人さんが、何故かおのおの何食わぬさまでぽつぽつとその場に突っ立っている。

 よりにもよってこんな目立つ場所で、それぞれがそれなりに名の知れたお笑いタレントなのに、何故だろうか?
 
 今はその場を行き交う誰からも振り返られることも無くして、局内のフロアの奥に向けて、みながただじっとこの視線を送っていた。


 奥にはエレベーターホールがあり、やがてそちらからひとりのこれまた名の知れたお笑い芸人が、ひょっこりとこの姿を現す。

 その人物がやはり何食わぬ顔でトコトコと歩み寄ってくるのを、対してそれぞれが真顔で待ち受ける、三人の有名テレビタレントさんたちだった。

 昨今、世間一般からゾンビと総称される「亜人種」は、大抵がみずからの姿をひとには見られないようにする不可視化、「フェード」や「ステルス」の能力がある。

 それだからこのような人混みの中でも平気な顔で混じっていられるのだが、目の前に現れたこの四人目の亜人種は、どうやらちょっとだけこの毛色が異なっているらしい。

 まだなりたてで慣れていないのがわりかしはっきり顔と態度に出ている鬼沢に、ゾンビとしても芸人としてもずっと経験豊富な先輩の東田が声をかける。

「そうか、鬼沢くんはそのワッカをつけとらんと姿をうまいこと隠せないんやな? 本来は日下部くんのアイテムやろ、それ? そうとは知らんでさっきは失礼なことをゆうてもうたわ。すまん。それにこうしてよう見てみると、似合っとるわ、そのワッカ、ほんまに西遊記のおサルが頭に載っけとるあのワッカみたいやもんなあ? かわいいわぁ」

「ああ、どうも、お待たせしました……! てか、それって褒めてくれてるんですかね?」

 おそらくは茶化されているのだと理解しながら、まわりの人混みが気になって仕方ない鬼沢は、顔つきが浮かないさまでとても居心地が悪そうだ。

 これに東田の相方である津川が明るくはやし立てる。

 だがこちらに至ってはもはやただのガヤだった。


「でもオニちゃんがつけとると、おさるさんやなしに、三蔵法師さまがつけとるみたいで余計におもろいなあ! 坊主頭に金ピカのワッカがめっちゃ映えとるわ!! なんやきみだけ収録しとるみたいやんけ?」

「何の収録や? おいじぶん、さっきとゆうとることちゃうやんけ! まあええわ、それじゃあみんなそろったんやから、とっとと目的地へ向かえばええんやな?」

 覚めた調子の東田が出口に目線を流すのに、それまで憮然と立ち止まっていた日下部が、これまた覚めた調子でものを言う。

「はい。でもその前に、簡単なミーティングをしましょうか。場所柄ちょっと立て込んでいるんで、ごく簡単なのをですね……」

 するとこれに周りのひとだかりがやはり気になって仕方ない鬼沢が、うんざりしたさまで苦言を呈する。

 実はさっきから見知ったディレクターがこちらを見ているのに、内心ひやひやしながら首をすくめる新人ゾンビだ。

「歩きながらで良くない? なんか見知った顔のひともそこらにいるから、気が散って仕方ないもん。万一バレたらなんか気まずいし、このメンツでいるの、ちょっと説明がしずらいし……!」

 その一方、こんな状況ももう慣れたもので、平然としたさまの先輩芸人が了解する。

 ただし相方がすかさずツッコミを入れるのだが。

「ええよ。ここじゃ確かにやりずらいから、玄関を出てひとのあまりおらへんところでやろうか。どや、あそこのベンチ、ひとがおらへんやろ、あっこで」

「めんどいわ! どこでもええやろ? ちゅうか、日下部くんが場所をしっとるんやから、日下部くんが歩いてみんなを誘導してぇ! 歩きながらでええやんか、はようせんと日がすっかり暮れてまうで?」

「まあ、それじゃ、そういうことにしまして……!」

 ひとには感知されにくいとは言ってもやはり限度がある。

 どこであってもいざ口を開けばまるきり口さがない、コテコテの関西芸人たちのやかましさが多少は気になったのか、さっさとこの場を離れようときびすを返して歩き出す日下部だ。

 ちなみに芸歴で言ったらば一番の若手なのだが、アンバサダーとしての経験上、それが当たり前のごとくで今回はこの彼がリーダーを務める役回りとなった。

 それだから先頭に立ってガラス張りのエントランスを抜けて、赤い太陽の光を浴びる遠くの街並みへとその歩を進める。

「なんかもう勝手にはなしが進んでいるよな……!」

 はじめにここに来た時よりも、だいぶ日が傾いてることを知る鬼沢も、また仕方も無しにトコトコとこの後に続いて、大理石の床面からタイル張りの地面へとみずから歩みだす。

 どうやら目的地まではみんなで徒歩で向かうのらしい。

 昨今、名の知れたタレント同士の行動でも、いわゆる番組のロケではないのだから、その移動に際してはそれ用の送迎バスなどが用意されるわけではないのだ。

 それだからここらへん、ちょっとだけわずらわしく感じる有名タレントさんだった。

 そんなに遠くじゃなければいいなぁとか思いながら、このひとから見えない亜人の体裁では、移動にタクシーを使うのはそもそもが無理筋なのをおのずと理解した。

 公共の電車くらいなら、よほどラッシュの時間でもなければ、こっそりと無賃乗車は可能なのだろうか?

 バスは車内が狭いから難しいだろうなあ、とかひとりでブツブツとやっていると、背後からちょんちょんと指でこの右肩のあたりをつつかれる。

 これに何かと振り返ると、真顔の東田が先頭の日下部を目で示しながら、低い声で注意してくれた。

「んんっ、日下部くんが説明してくれよるから、鬼沢くんはよう聞いとかんと……! きみのための訓練がメインで、ぼくらはあくまでそのお手伝いなんやから。そやからこの先は極力じぶんで考えて、自力で対処せなあかんのやから?」

「あっ、はい、そうか……て、まだなんにも納得できてないんだけど! というか、そもそもが俺たち、これから何をしに、どこに行くんだったっけ??」

https://opensea.io/assets/matic/0x2953399124f0cbb46d2cbacd8a89cf0599974963/88047277089427635657081635585532914949557992380650193262688159095045532680202/

※イラストをOpenSeaにして出品中!応援して人気が出れば、こちらのNFTの価値も上がるはずなので、よろしければお安い内にホルダーになってみてください♡ギブアウェイも敢行予定!

 いぶかしくその背中を眺めるのに、先頭を歩く当の本人がこちらも真顔で振り返ると、こともなさげに言ってくれる。

「はい。急げば一時間もかかりませんよ。日が落ちきる前にことを済ませられたら御の字です。これから日が傾いて、明るく差し込む夕焼けは、闇に属する存在はこれを特に苦手としますから。目的は、いわゆる未確認のグールの探索とこの浄化、無害化です。おれたちアンバサダーとしては初歩中の初歩ですね?」

「は? なに言ってんの?? あとグールとかなんだっけ、ゴースト? 今にしてはじめて聞くものばっかりなんだけど、なんか思ってたのとだいぶ違うことになってたりしない……??」

 いわゆるテレビの番組だったらば、早くもテコ入れで、方向の修正がされてるヤツだろうと渋い面の鬼沢に、列の最後尾でとかくあっけらかんとした笑顔の津川がぶっちゃける。

「ははんっ、ええやんけ、ちゅうか、いきなりガチのゾンビとやりおうたオニちゃんには簡単な案件なんちゃう? ゴーストもグールもわしらゾンビの親戚みたいなもんで、これからイヤっちゅうほど遭遇するもんなんやで? せやから、ゴーストはいわゆる幽霊で、これがひとにでも取り憑いたらグール、グールがさらに凶悪化したらゾンビ、くらいの認識でええんちゃう?」

 何やらかなり雑とも思えるざっくばらんな説明には、これを聞かされる鬼沢がただちに目を丸くして言葉を詰まらせる。

 これに東田がすかさずフォローを当ててくれた。

 またこれに対して日下部も日下部で、ぬかりなく補足を付け足してくれる。

「え、そうなの?? いや、凶悪化って……!」

「えらい乱暴な言い方やが、とりあえず間違ってはおらへんよ。ゾンビにもいろいろおる。そこいらのゴーストやない、霊格のごっつ高い神様みたいなもんがくっついての上級ゾンビ、いまのぼくらがそうなるんかの? でももっぱらが、低級霊や悪人の邪気が取り憑いての低級ないし悪性ゾンビとか、いろいろの……」

「そうですね。ただしそこまで行く前にグールの状態で仕留めるのが理想です。でもそれはおれたちみたいなまっとうなゾンビにしかできないことですから。ちなみにゴーストは浮遊霊とか地縛霊とか、あらゆるタイプとパターンでどこにでもありうるものだから、元来、そんなに気にする必要性はないです」

「え……」

「ですから、よっぽどひとに取り憑いてグール化しそうなものならば、これを未然に排除するくらいでないと、おれたち自身の生活がままなりません。いわゆる除霊屋や、そのたぐいで済むものはすべてスルーしてしまって」

「え~とっ……」

 なおさらキョトンなる鬼沢に、どうやら世話好きな性格らしい東田がまた助け船を出してくれる。

「意識せんでも見えてまうのが厄介なんやけど、その内に気にならなくなるんちゃう? それこそが慣れっちゅうもんで。ま、いわゆるゾンビさんあるあるやな」

「やなあるあるやの! 収録の時に低級な霊のくせにやたらに絡んでくるアホもおるやろ? あと街ブラロケでちゃんと実体がありよる輩で、なんやこのひとグールなんちゃう?て疑ってまう時とか?? あれってボコってええんかなって!」

 最後尾でなにかとぶっちゃけまくってばかりの津川に、真顔の日下部が先頭からまた冷静な物言いをしてくれる。

「まあ、どっちにしろ、カメラが回ってる時はマズイんじゃないですか? アンバサダーのお仕事は人知れずこっそりとやるのが定石ってもので、そのためにフェードの能力がおれたちにはあるんだし。鬼沢さんも、その頭の「キンコンカン」がなくともできるように早く習得してくださいね」

「ん、まあ、家族が相手なら50パーくらいの確率でできるようにはなってきたんだけど……! ゾンビに、あのひとがたタヌキになった時の感覚をいざ生身で持ち続けるのは難しいんだよな? でも慣れなのかな? あ~あ、なんかやだなあ、もう勝手にアンバサダーを押しつけられちゃってるよ」

 しきりとその首を傾げる鬼沢に、すかさず背後から甲高い関西弁のガヤだかツッコミだかが入る。

「ええことやん! 国が後ろにおるっちゅうことは、自分も安泰、家族も安泰や! わしらもはじめはナチュラルさんやったけど、イヤが上にもオフィシャルにならななってもうたもんやから、きみかてどうせ時間の問題やろ! せやで、オニちゃん、きみ、普通に生活してて、たまたま絡まれた相手がグールで、これが厄介な職種の人間やったりした時のことを思うてみ!」

「厄介な?」

 いよいよその顔つきが怪訝なものになる鬼沢に、こちらもどこか苦い顔をした東田がやけに渋い口ぶりをして、しまいにはこの言葉を濁してまった。

「いわゆる公僕、わかりやすいところで言うたら、おまわりさんとかやな? どや、厄介やろ? 公的な権限を持った悪人ちゅうんは? ぼくらもそれで過去に取り返しのつかない過ちを、あやまちっちゅうのかの? 手ひどい目におうたんやから……」

 みずからの苦い過去を思い返すような顔と言葉付きする先輩芸人に、それにつき何やら思い当たる節がある後輩の芸人も、また微妙な顔をしてその首を逆方向に傾げるのだった。

「あ、そうか……! バイソンさんて以前、地元の大阪で事故か事件を起こしたみたいな報道されてましたっけ? あれって何年前? でもなんかうやむやのままでもみ消されちゃって、気が付いたらコンビで東京進出、みたいな? え、あれって、実はゾンビがらみのことだったの??」

 思わず立ち止まって遠慮がちな視線を後ろから前へと巡らせるのに、あいにく先頭を行く日下部は歩いたままでこちらを振り返ることはない。

 慌ててまたそれにくっついていく坊主頭のタレントに、最後尾で髪型ゆるい角刈りをしたおじさん芸人が、そこでなぜだか苦笑い気味な反省の弁みたいなものをたれる。

 これには相方の髪型で言ったらソフトバックの中年芸人も同調して、最後にやけに力のこもった言い回しで夕方の乾いた空気を震わせるのだった。

「ええねん。昔のことや。今さら何もいわへんよ。しょせんはこのわいの判断ミスで、自己責任や。相方にはえらい割を食わしてしもうたけど、今はこうしてちゃんと芸人さんできてる。おかげさんでゾンビとしてもいろいろやっとるけど」

「せやな。でもこの津川は何も悪いことはしとらへんよ。ミスったんはむしろこのぼくや。いまだに後悔しとるさかい。相方がほんまのピンチの時に、そばにおれへんかったちゅうことを……! そやからあの警官、今度おうたらこのぼくが、ほんまにぼっこぼこにしたるねん……!!」

 それきり場を重苦しい空気が包み込む。

 折しも涼しい風が吹いて、それをやけに冷たく感じる鬼沢は、背後のおじさん芸人たちにもそれはそれなりに深い事情があることを意識していた。

 わけありなのは、自分だけではないのだと。

 それにつき、ちょっと興味が湧いたがさすがにこの場で聞くのは気が引けて、意識を前へと向ける。

 先頭で黙ったきりの若手の芸人は知っているのだろうか?


 後でこっそり聞いてみようと、心の中でもやもやしたものを押し込める中堅芸人だ。

 それきり無言のままで、周りの人目からは見ることができない透明人間たちの秘密の行進はしばしのあいだ続いた。

 目的地ははじめのテレビ局から徒歩で30分くらいのところで、かくしてこの建物を間近から見上げる四人のテレビタレントだった。

 見た目に何の変哲もない五階建てのオフィスビルらしきをしげしげと見る関西出身のベテラン芸人たちの隣で、あれ、なんか見覚えがあるなあ、と小首を傾げる鬼沢だった。

「あれ、ここって……??」

 そんなおかしな既視感めいたものを感じながら、やはりこれまた見覚えがある周りの街並みから、まさしくつい最近に収録で訪れたことがある現場におのれが再び立っていることを今更ながらに自覚する。

 淡々とした日下部の説明に内心で飛び上がるのだった。

 今回もまた出だしから波乱の予感がするのは、もはや気のせいではないだのろう。

 果たして新人アンバサダー(?)鬼沢の運命やいかに?


                   次回に続く……!

※OpenSeaに出品している線画バージョンのイラスト(挿し絵)です(^^) 冒頭のものは色をつけはじたものを更新していくので、出来上がった線画はこちらに改めて展示しています!

https://opensea.io/collection/officialzombie2

   オフィシャル・ゾンビ 12
 設定もろもろ~

ゾンビ 亜人 亜人種 法律が未整備 人間とは異なる
グール ゾンビになりかけの状態 扱いは一般人と同等
ゴースト ゾンビのタネ?  幽霊 霊体 邪気 邪念 人間以外

今回のミッション  グールの退治 通報があり 
シーカー、パパラッチからの通報

 ゴースト退治は道すがらにみかけたら対処
珍しい存在ではない。ゾンビの状態だとふつーに見えるカンジ。
 ※数が膨大なので、ヤバイヤツだけ対処するのがのぞましい。

グール 都内某所 中程度の規模のオフィスビルで最上階の企業の社長? 背後にカルトの存在らしきがある?
社長室に壺がかざってある ダサいカタチ
企業体 警備保障 個人営業のガードマンみたいな?
ドラゴン警備保障 社長 ドラゴン滝沢 滝沢竜雄たきざわたつお グール化した社長を取り押さえる。部下もややグール化?
 フロア全体が悪い邪気に満たされている。
◎みんなでドラゴン警備保障に乗り込んで、社長をぼっこぼこ!
○補足、鬼沢は滝沢と面識あり。以前に番組のロケで、とても人柄のいいナイスミドルのイメージ。体育会系のノリがちょっと苦手?
 日焼けした笑顔のマッチョおじさん。

季節 三月 私服
日下部 スボン(スラックス?)、革靴、白のワイシャツ、ノーネクタイ、ジャケット 色は地味目
鬼沢  ズボン、スニーカーないし、革靴、薄手のトレーナー、上着(ニット)
バイソン津川 ジャージに近いイメージのトレーナーと、トレパン スニーカー
バイソン東田 スラックス、シャツ(ノーネクタイ)にチョッキ

◎パパラッチ 芸人 水中動く歩道 佐々木ネズミ 火山バラバラ 佐々木ネズミ 鬼沢と遭遇 偶然をよそおって 鬼沢と接触してゾンビ化した状態のタヌキの毛をむしり取られる。
 鬼沢が佐々木ネズミパパラッチ行為をされてかなり追い詰められる。 
火山バラバラ 普通の人間?

 シーン①
某テレビ局の一階エントランスで再集合。
 日下部 鬼沢 津川 東田 ひとくだり~
11でやれなかったくだり、バイソンの関西でのある事件…
日下部、東田、津川、  ← 鬼沢(キンコンカン) 合流

 シーン2
ドラゴン警備保障 へ 徒歩で向かう。フェードをかけた状態。
今回の詳しいミッションを鬼沢に説明、シーカー、パパラッチの解説。
 シーン3
オフィスビルに到着、グールの討伐。鬼沢日下部、バイソンの二手に分かれて行動。バイソンは壁伝いに最上階を目指す。
 鬼沢と日下部は正面玄関から入る~

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「オフィシャル・ゾンビ」11

オフィシャル・ゾンビ
ーOfficial Zombieー

オフィシャル・ゾンビ 11

 これまでのおおざっぱないきさつ――
 ある日いきなり異形の亜人種=ゾンビであることを告げられたお笑いコンビ、「アゲオン」のツッコミ担当、鬼沢。
 人気のお笑いタレントとして活躍する傍ら、裏ではゾンビの公式アンバサダーとしての活動を、同じく若手のお笑い芸人にしてゾンビのアンバサダー、日下部に要請されてしまう。
 露骨に嫌がる本人をよそに無理矢理にゾンビの正体を呼び起こされ、あまつさえ先輩の芸人、実は野良のゾンビだったというコバヤカワにはガチの真剣勝負を挑まれてしまうのだった。
 ドタバタした悪夢のような一日から数日――。
 またしても日下部につきまとわれる中堅タレントは、そこでまたあらたなる新顔のゾンビたちと引き合わされることに……!? 
 ドタバタお笑いバトルファンタジー、新展開に突入!!


 青くて高い空により近い場所で、初春の風が、より冷たくこの頬をなでた。

 とっくに通い慣れたはず某民放キー局の勝手知ったる建物の内でも、そこだけは人気のない拓けた高層階にひとりでたたずむ、やや中年にさしかかりのおじさんタレントだ。

 はじめひどく所在なげにたたずんでいながら、それにつきやがてしみじみとした抑揚の感想を漏らす。

「へぇ、意外といい見晴らしなんだな……! 天気もいいし。でもここっていつもは鍵が掛かってて、ひとは原則立ち入り出来ないはずなのに、なぜか今は空いてるんだ? あいつとの待ち合わせに指定されていたから、おかしいとは思っていたんだけど」

 見た感じはそこが屋上階と思わせて、実は本来の屋上との間の謎の空間となるここは、果たして何階となるのか。

 緊急時のヘリポートや番組のロケ現場ともなる空中庭園がある広い屋上階は、頑強な鉄骨の構造物で土台が築かれており、この土台部分の基礎を支えるのが、今いるコンクリの平たい床面だけが広がる、やたらに無機質で閑散とした場所だ。

 まずどこにも人気がない。

 そこでは四方を囲む壁の代わりに、鉄製の高いフェンスがぐるりと張り巡らされており、その分にあたりの景色がことのほか良く見えて、ある種の絶景スポットかとも思える。

 風通しがすこぶる良くてこんな天気の日なら一般向けに解放してもいいくらいだ。

 ひとりになりたい時はまさしく絶好の穴場だな、と密かに心の内に書き留める、人気お笑いコンビのツッコミ担当だった。

 中堅漫才コンビ・アゲオンの鬼沢と言えば、もはや全国的にもそれなりに名が通るだろう。

 トレードマークのきれいなまあるい坊主頭に、愛嬌のある笑顔で憎めないキャラクターとしてお茶の間にはそれなり好評を博しているとは、当の本人も少なからず自負しているくらいだ。

 テレビの露出は他の同期と比べても高い方だし。

 そんな自他共に認めるイケてるタレントさんが、今はやけに神妙な顔つきをして、そわそわとこの周りに視線を泳がせていた。

 要は誰かを待っているのだが、その当の待ち人がフロアの奥の暗がりから、のっそりと姿を現してくる。

 相変わらずの冴えない表情で無愛想なボサ髪の後輩芸人に、ちょっと緊張した面持ちの先輩は、そこで気を持ち直すと、あえてうんざりした調子でみずからの言葉を発した。

「ああ、おはよう、日下部! てか、そっちから呼び出しておいて待たせるなんてひどくないか、後輩として? 俺、先輩だよな、芸歴で言ったらお前なんかよりもずっと??」

 不機嫌なさまを隠さない物言いに、まっすぐに歩み寄る後輩はソーシャルディスタンスはぎりぎり保つ範囲でその足を止める。

 こちらもなんだか浮かないさまで苦笑い気味に言葉を発した。

「ああ、はい、すみません……! 芸人とゾンビの、この公式アンバサダーの掛け持ちしてると、どうしても時間にルーズになっちゃって……。でも来てくれてありがたいです、鬼沢さん。ひょっとしたら、すっぽかされちゃうかも知れないと思ってましたから。あの例のゴタゴタした一件がありましたからね?」

「ああ、いっそすっぽかしてやろうかと思ってたよ! でも逃げたところでお前が追っかけてくるんだろ? 公式のアンバサダーでございって、何食わぬ顔してさ! ちょっと癪だけど、逆らってもいいことなさそうだから。長いものには巻かれろって昔から良く言うしな?」

 いいトシのおっさんがひどいむくれっ面で何かしらをひどく揶揄したような言葉付きに、対するこちらもいいトシのこやじは、かすかにうなずく。

「いい心がけですね。確かにおれのバックにはれっきとした国がありますから……! で、あれから体調はどうですか? ひょっとしてゾンビの正体を他人に見破られかけてたりして、すったもんだとか? この場合の他人は家族も含むんですけど……」

「は、家族は他人じゃないだろ? おい、相変わらずイヤな言い方するよな。たく、そんなヘマするほどガキじゃないさ。お前からもらったあの妙な水晶石、クリスタルだったっけ? すっかり色があせてただの石ころみたいになっちゃてるけど、そのおかげか体調は悪くはないよ。コバヤさんから食らったどぎついトラウマみたいなのも、ひょっとしてあれが癒やしてくれたのかなぁ」

「良かったです。でもそのクリスタルはここで一度、回収させていただきます。うまくすれば今日また新しいのを仕入れられますよ。ちょうどうまい具合に、仕入れ先の納入業者さんが来てますから……!」

 そんな後輩芸人の意外なセリフには、ちょっと怪訝に聞き返す鬼沢だ。

「業者? なんだよ、あれって仕出し弁当みたいに局に搬入する業者さんがいたりするの? あんな怪しい石、弁当よろしく楽屋においてあったことなんて、あったっけ??」

「ああ、そのあたりはもう説明するよりも、実際に見てもらったほうが早いですから、これから本人さんたちと引き合わせます。それでは早速、そちらの楽屋挨拶に行きましょうか」

「は? どういうこと?? あとなんだよ、これ?」

 意味深な口ぶりする後輩が、やがてスッと差し向けてきた、いつぞやの見覚えのある金ピカの輪っかに、怪訝な表情がますますもって険しくなる鬼沢だ。

 確か、キンコンカン、とか言っただろうか?

 例の頭にすっぽりとはまるサイズの金色の輪っかを受け取るつもりが、相手の差し出す輪っかはあいにくこの手元ではなくて、直接にこの坊主頭にかぽりとはめられていた。

 およそ無断で、さも当たり前みたいに……!

 はじめ言葉が出てこない先輩芸人だ。

「あ、別にあのタヌキに変身するんじゃなくて、今回はただ気配を消すだけです。周りのひとから存在を認識されないように。それにもうこれに頼らなくとも変身はできるんじゃないですか?」

「……ああ、家の裏庭とか、自室の書斎とか、家族の目につかないところでちょこちょこまめにやってはいるけど……。じゃなくて気配を消すってなんで?」

「いざオフィシャルのアンバサダーとして最低限度の能力は身につけておかないと、そのための大切な実習です。あとここで待ち合わせをするときは、その機密保持の必要性からフェードの状態を保つことは必須です。だからっていちいちゾンビに変身するのはアレですから、このままの姿でですね。以前のコバヤさんがやっていたあれです。慣れればできますよ」

 真顔でなされるもっともらしい説明に、うんざりしたものが顔にわりかしはっきりと出る新人の公式アンバサダーさんだ。

「は、ここならそもそも人目にはつかないだろうさ? めんどくさいな! やってることどこぞのスパイかテロリストじゃんっ」

「これならたとえドローンで空撮されても間違って見切れてしまうことがありませんから、今はどこに誰の目があるかわからないじゃないですか。元の出で立ちが目立って仕方ない公式アンバサダーのお仕事は、原則この気配を消してでないとつとまりません……!」


「ほんとにめんどくさいな!! こんな恥ずかしいカッコで局内をうろつきたくなんかないよ、ああ、でもこれだと普通のひとには見えないんだっけ? 普通のひとってなんだよ!?」

「ふふ、ノリツッコミがお上手ですね。まあ、万一にバレても西遊記のコスプレくらいで済むんじゃないですか? それではさっそく局内に移動して、ぼくらとおなじアンバサダーの芸人さんたちの楽屋挨拶に行きましょうか。大事な一発目の顔合わせ、とは言っても、きっともう知ってるひとたちですよ?」

 あくまで真顔を崩さない日下部の物言いに、いよいよ拒否反応じみたものが目の下あたりにしわかクマとなって現れる鬼沢だ。

「おんなじってなんだ? 俺、まだ何もやるだなんて認めてないはずだけど? アンバサダー?? あと芸人さんって、コバヤさんみたいな実はゾンビのタレントさん、他にもまだいるの? 俺、そんなの全然、身の回りに覚えがないんだけど……!!」

「果たしてあちらからはどうなんですかね? 鬼沢さんが気づいてないだけで、世の中は複雑に裏と表が入り乱れているんです。すぐにわかりますよ。気のいいひとたちだから、人見知りな鬼沢さんでもすぐに打ち解けます。仲間なんですからね?」

「仲間って……! なんだよ勝手に決めつけて、俺の意見がどこにもないじゃん? ひとの都合は無視なのか? おい日下部、さっさと行くなよ、まだ話は終わって……ああん、もう、待っててば!!」

 さっさときびすを返して暗がりに姿を消す後輩に、先輩の人気タレントが半泣きの困惑顔してこの背中を追いかけていく。

 そうしていざ局内に戻ったら、そこからはふたりとも押し黙ったきりですっかりと気配を殺した隠密行動になる。

 途中で何人もすれ違ったが、やはり見知った人影は誰もこちらに視線をくれるようなことはなく、完全スルーでやり過ごしていくことになる。

 だがこのあたり普段から人気商売でならしいてるぶん、実は内心でビミョーな心持ちのタレントさんだ。

 おまけ驚いたのはエレベーターのようなごく狭い密室でも、まるで気配を感じ取られている様子がないことで、本当に透明人間になったかの心持ちになる。

 ちょっとした冒険をしてるみたいでわくわくもするが、隣で日下部が何事がつぶやくのに耳を済まして、途端に吹き出しそうになる鬼沢だ。

 いわく――。

「……オナラはしないでくださいね?」

「ぶっ、するわけないじゃん!! 今のは違うぞっ! コバヤさんじゃないんだからっ、あぶねっ、気づかれちゃうよ……!!」

 額にイヤな汗を浮かべながら、ある特定の階で動く密室から降りるふたりのゾンビたちだ。

 そうして長い廊下を進んだ先にたどり着いた、あるひとつの楽屋なのだが、やけにビミョーな面持ちでそれを見つめる鬼沢だった。

 そこはとてもなじみがある景色で、そうだつい最近、おのれが巻き込まれたいつぞやのドタバタのはじまりとなった、まさしくあの時のあの楽屋なのだ。

 ヘンな既視感みたいなものを覚えて、隣のアンバサダーに白けた視線を向ける。

「おい、ここってあの楽屋だよな? てことはまたおかしな規制線が張られてたりするのか、このあたりに? だったら気配なんて消す必要なかったんじゃないのか、おまけに確かにこの中にいるのって、知ってる芸人さんたちだし!!」

 ドアに掲げられた案内ボードには、それはしっかりと有名な漫才コンビの名前が書き込まれていた。

 じぶんたちよりもさらにベテランのそれだ。

 おかげでちょっと緊張してしまうが、一方でみじんも悪びれることもない日下部は先輩の文句をしれっと聞き流す。

「ああ、まあ、そう言わないでください。ここらへんある種のお約束で、言わば各局ごとのデフォルトなんですかね? この局はここがぼくらゾンビがらみの完全対応区域ってことで……!」

「ふんっ、あとさっきの屋上階の怪しい陰のフロアか? なんだよ、ある意味バレバレじゃん、知ってるヤツらからしたら! なんかどっちらけるよなあっ……」

「おほん、それじゃ、とっとと入りまーす。あ、ちゃんと円満に挨拶してくださいね、このあたりは持ちつ持たれつってヤツで、みんなお互い様なんですからっ……はい、失礼しまーす」

 いきなりドアをノックして楽屋に身を乗り出す日下部に、鬼沢はまだ心の準備ができてないと慌てふためくが、これに無理矢理に引っ張り込まれてしまった。

「あ、お、おはようございまーす! どうも、アゲオンの鬼沢です。お世話になってます。えっと、今後ともよろしくお願いします、その、バイソン、さん……?」

 いざとなるとその職業柄で身に染みついた習性からか、それっぽいことが口からすんなりと出る中堅芸人だ。

 そうしてじぶんよりもさらに芸歴が長いおじさんたちの顔を上目遣いでうかがう。

 あの見慣れた楽屋の風景はいつものままで、そこに今はふたりのおじさんたちがくつろいださまでこちらを見返してきていた。

※この挿し絵は完全に失敗しているので、以下におおよそのコンビのイメージをのっけておきます。これでいいのか?

※左がバイソンのボケ担当、東田と、右がバイソンのツッコミ担当、津川のおじさんコンビです(^^) 元ネタの芸人さんとはやっぱり似てないですね!

 番組収録の時と同様、普段からとかく落ち着いた真顔で、内心の思いを滅多に表情に出さない東田は、何でも顔色に出す素直な後輩の芸人くんにそう何事か問うてくれる。

 えっ? えっ?? と内心の狼狽ぶりがあからさまな鬼沢に、相変わらずのすまし顔した日下部がしれっとフォローを入れる。

「ですから、アレです。いまさっき回収すると言ったもの、鬼沢さん、持ってますよね? それです。元の持ち主の東田さんに返してあげてください。でないと次のものがもらえませんから」

「えっ、アレ?? あのクリスタルって、実は東田さんのものだったの? なんか、イメージに合わないんだけど……これ??」

 言われてぶったまげた顔でみずからの懐から濁った灰色の水晶石みたいなものを取り出す鬼沢だ。
 それをほれと手を差し出してくる先輩のボケ芸人さんにおっかなびっくりに手渡す。

 すると何食わぬ顔でそれを手にした東田は、おのれの手元をしばらく見つめてから、きょとんとした鬼沢を目の前にしてこの顔つきがさらに呆気にとられるような意外な仕草をしてくれる。

「イメージは関係あらへんやろ? ふうん、しっかりと回復の効果は使い切っとるんやな。そやったら、ああんっ、んんっと!」

「えっ、え? なんで??」

 カエルかトカゲみたいな無表情な顔つきで大きな口を開けると、そこに例のものをポイッと放り込んで一息に飲み下す東田だ。
 ギョッとなる鬼沢は腰を浮かせて大きくのけぞってしまう。

「た、食べちゃった……! それって食べ物だったの?? え、いやいや、ただの固いカチカチの鉱物だったよな、無味無臭の??」

 顔を引きつらせる鬼沢だが、周りの面々は何とでもなさげなさまなのに、自分も必死に心を落ち着けるよう努める。
 これに内心のパニックを見透かしたかの先輩芸人は、あくまでしれっとした口ぶりで言ってくれた。

「ええんよ、身体に取り込んだところで害はないし、ぼくの場合は特別や。もとからこの身体の一部やったさかい。こうして取り込んで、ふたたび再生したものを取り出すんよ。その繰り返しや」

「ははん、ちゅうてもはじめて見た子はみんなびっくりするやろ! 口から取り込んだもんはそのまんまケツからひねり出すんやから、なおさらビックリやわ!!」

 相方がすかさずツッコミを入れるのに、それを聞かされたふたりの後輩くんたちの気配がにわかにざわつく。

「え、お尻から?? それじゃまさか、あれって……!?」

「そうだったんですか?? まさかそんなことだったとは……」

 表情にくっきりと暗い影が浮き出る他事務所の後輩たちに先輩のおじさんは苦笑いしてこの首を振る。

「ちゃうちゃうっ、そないないわけあるかい! ケツが血だらけになるやろ。おいおかしな茶々入れんと、ふたりとも引いとるがな。あと鬼沢くんに新しいヤツをやったれよ。ほれ、口で説明するより目で見たほうが一目瞭然やんか、まさしくで?」

「んっ、おう、めんどいの! あないにでかいのは取り出すのが面倒やからほどほどのにしてや? それじゃふたりともよう見といてや。おい東田、どこや? 手が届かれへんところやろ??」

 座卓を挟んで相対していたコンビのおじさんたちの内、ツッコミ担当の津川がいざ腰を上げるとぐるりと相方の東田の背後に回り込んで、その背中に手を当ててもそもそとやりはじめる。

 それをはじめ訳もわからずに見ていた鬼沢だが、静かにそのさまを見つめる日下部とふたりで先輩のベテラン芸人のコンビ芸に固唾を飲む。
 お笑いと言うよりはビックリ人間ショーに近いさまをまざまざと見せつけられるのだった。

 相方の背中をどれどれとさすっていた津川が、やがてその真ん中あたりで何かしらの感触をこれと探し当てたらしい。
 無言でみずからの右手を東田の襟首からこの奥底へとずぽりと潜り込ませる。

「あった! これか、でかいのう? 目で見えんさかい邪魔なこの服、脱いだほうがええんちゃうか? 取りずらいでほんま!!」

「いいやろ、はよ取れや。企業秘密やさかいひとには見られたない。こそばゆいわ、はよ取れって、はようっ、あんっ……!」

「おかしな声出すなやっ、ひとが聞いたら勘違いされるやろ! ん、ほれ取れたぞ、これやろっ、でかいの!!」

 やがて津川がその手に取り出した緑色に輝く物体には、心底びっくり仰天する鬼沢があっと声を上げる。

「あっ! クリスタル!! どこから出したの? 東田さんの背中から出てきたぞ? まさかあの身体から生えてきたのか??」

「はい。そのまさかなんですかね……! ある程度予想はしていましたが、実際に見るとビックリです。あの服の下がどうなってるのか、想像するのがこわいですね……」

 目をひたすら白黒させる鬼沢にさめた視線の日下部が応じる。

 無機質な真顔に意味深な笑みを浮かべる東田はかすかにこの肩をすくめさせた。そうして相方が手にした緑色の光りを放つ例の水晶石を利き手に取って、これをしげしげと見定める。

 用が済んだとおぼしき津川は、もと自分がいた場所へともどってまたぺたりと尻を付けた。そうして感情が複雑な鬼沢にさも楽しげなしたり顔して言ってくれるのだ。

「わいらとゾンビ仲間の鬼ちゃんには特別サイズの一級品や! 大事にあつこうてや。あのクラスなら致命打でもぎりぎりしのげるで」

「ふん、そこまでちゃうやろ? まあ、こないなもんか。いい出来や。ほれ、あげるから大事に取っといてや。回復系のアイテムならゾンビ界イチの使い手、このバイソンが特製のクリスタル。ケガしたらたちまち効果を発揮して治してくれること請け合いや」

「ああっ、はい、どうもっ……! て、いいんですか? もう何度もお世話になっちゃってるけど」

 相手が差し出してきたものをまたおっかなびっくりに受け取る鬼沢だが、日下部からしれっと釘を刺された。

「いいんですよ。お互い様なんですから。鬼沢さんから提供する時もじきに来ます。アイテムの生成自体は鬼沢さんも素質があるみたいだから、きっと持ちつ持たれつでうまくいきますよ」

 これにははじめやや苦笑気味にうなずく東田だが、不意に何やら感じたものか鬼沢に驚いたふうな視線を向けてくれる。

「ふふん、そう願いたいもんやな。ん、にしても鬼沢くん、しょっぱなからキツい目に遭ってるみたいやな? さてはコバヤの兄さんにひどくいじめられたんやろ? さっき取り込んだ石の記憶にはっきりと残っとるわ。うわ、くっさいの食らわされとるのう!」

「うわ、最悪や! オニちゃん、あれ食ろうたの? てことはあの兄さん、あのおっかないゾンビの姿になったんや? うわ、くわばらくわばら!! 勘弁してほしいわ、ほんま」

 相方のセリフに過剰な反応して津川がガヤを発する。
 まるでバラエティ番組のやりとりを見てるかの心持ちの鬼沢だが、目をまん丸くして頭を大きく傾げていた。
 ちょっとした危機感みたいなものに内心で舌を巻く。

「石の記憶……? そんなのあるんですか? うわ、やばい、俺、変なことしてないかな、あれから家とかロケ現場で……! プライベートなことがもろバレじゃん!!」

「確かに肌身離さずとは言いましたが、ひとに見られたくないことをする時にまで持っている必要はありませんよね? それにしてもあの水晶にはそんな機能まであったんですか」

 バツが悪い顔で言葉が無くなる鬼沢だ。これに覚めた目つきを右から左に流す日下部に、東田が何食わぬさまで応ずる。

「ふん、何から何まですべてを記憶しとるわけやあらへんよ。ボイスレコーダーとちゃうんやから。ごく一部、特に印象に残ったことや、多くは精神的なショックや肉体的ダメージを食らった時なんかやな……! 特にコバヤの兄さんのアレは格別くっさい、やのうて、えげつないもんやから。鬼沢くんよう耐えたわ。ぼくなら心がぽっきり折れとる……!!」

「ほんまにきっついもんな! あれはシャレにならへんもん」

 ふたりしてうんうんとうなずき合うお笑いコンビに、鬼沢も自然と頷いてかつてのことを脳裏に思い返す。
 うげっと苦い顔で舌を出してしまった。

「うへっ、そうか、コバヤさんのあれをふたりともやられたことがあるんだ……! 確かにシャレにならないよな。俺も心が折れそうだった。あの時の記憶があの石に残ってたんだ……!!」

 先輩たちの反応にある種の共感を覚えるが、それとはまた別の共感を抱く日下部が意味深にうなずいて言った。

「便利な能力ですよね。いわゆるブラックボックスみたいな機能も果たすわけで、東田さんはこの記録の解析とおまけに未知の敵の情報収集ができるわけだし……」

「なんやストーカーみたいないわれようやな? 気ぃわるいわ。そのくらいの役得はあってもええやろ。まあええ、それよりも鬼沢くんがコバヤの兄さんと互角にやりあったちゅうんが、びっくりやわ。きみ、まだゾンビになりたてやのに、大したもんやろ」

「ほんまにどうやって戦ったんや? コバヤの兄さんの能力はわしらゾンビの中でも特殊でめちゃくちゃ強力やんけ! じぶん初心者なのにようやれたよな?」

 左右から興味津々の視線を浴びてちょっと恥ずかしくなる新人のゾンビは首を右へ左へしきりと傾げさせる。

「ああ、あの時はほんとに無我夢中で、ほとんど覚えてないんだけど、でもコバヤさんはナチュラルなんだっけ? 日下部やバイソンさんたちがオフィシャルのゾンビなのに? あれ、そもそもオフィシャルとナチュラルってどんな違いがあるの? 結局みんなゾンビはゾンビなんだよね??」

 新人ゾンビの疑問に、古株のゾンビたちがそれぞれに私見を述べる。

「ゾンビって言い方がそもそも難ありなんですけど。要は国の認定を受けているか、受けていないかの違いです。それ以上はまだ言いようが……! 今はまだ法律も出来上がっていない状態ですからね、ぼくらみたいな人間にして人間ならざる亜人種に関しては」

「ふん、みんなそれぞれに立場や考え方っちゅうものがあるからの。国にしばられたくない人間もおるっちゅうことや。そのぶん、公的な保護が受けられないわけやが、それでも身分や正体を隠しておられるだけ、マシかもしれんしの……」

「おお、このわしらもこっちに上がってくるまでは長らくナチュラルでしらばっくれておったからの! いざオフィシャルのゾンビを公言してから上京したわけやから。地元から追われるように……!」

 含むところがありそうな物言いに少なからぬ引っかかりを覚えながら、はあととりあえずは納得したさまの鬼沢だ。

「ああ、そうなんですか。俺、関西を主軸にして活動していたバイソンさんたちのこと、こっちにふたりが来てから意識しはじめたから。なおさらわからなくて……!」

 三人が難しい顔で見合わせるなか、いまだとぼけた白け顔の日下部がぬけぬけと言ってくれる。いいずらいことよくもまあと鬼沢は目をまん丸くした。

「あいつらは正体がバレたからいずらくなって仕方なしにこっちに来たってコバヤさんが言っていたけど、そうなんですか? おれとしてはバイソンさんたちみたいな芸達者なゾンビがコンビで来てくれて、とっても大歓迎ですけど。頼りになりますもんね」

「きみ、言い方がいちいちビミョーやな? そういう見方をされるのは不本意やけど、ないとは言い切れん。好きに思えばええよ」

「コバヤの兄さん、能力も口もとびっきりえげつないのう! ナチュラルなんやったらもっとおとなしくしとけっちゅう話やのに。ほんまにしんどいわ。鬼沢くん、いっぺんどついたってや!」

 しかめ面の先輩芸人に見つめられて泡を食う後輩の新人ゾンビだ。ひどい苦渋の顔つきでうなだれた。

「無理ですよ! どついたらカウンターであれ食らっちゃうんだから! もう二度とごめんだもん、あんなの」

「せやな、あれはゾンビどころの話じゃない、悪魔や! 心が折れる。あんなくっさいもん、人間がしたらあかん。ましてやそれを武器にして戦うなんて、悪夢や。ほんまに心が折れる」

 しごく共感してくれる東田に、日下部は苦い笑いで鬼沢と顔を見合わせる。

「ふふ、鬼沢さんに負けず劣らず、凄いトラウマがあるみたいですね? わからなくはないですけど」

「ゾンビどころか悪魔になっちゃった、コバヤさん。おんなじ事務所の後輩さんたちなのに、なんかひどい言われようしてるよ」

「事務所は関係あらへんやろ。あかんもんはあかん。化学兵器の使用が禁じられているように、あれも本来は禁じ手や。それなのにあの悪の大魔王ときたら、ゲラゲラ笑ってこきよるんやから手に負えん。あかん、ほんまに心が折れそうや」

「とうとうラスボスになっちゃった! ナチュラルってひとたちの中ではコバヤさんは特殊なんですか? なんでナチュラルなんだろう?」

 頭の中が疑問符だらけの鬼沢のセリフに、苦笑いで津川が受け答える。普段のキレ気味のツッコミらしからぬ冷静な返答だった。

「野良のネコはおっても野良のライオンはありえへんからのう。もとより力のあるなしでは分けられるもんやないんちゃう? あの兄さんはもちろん強いけど、みんなそれぞれに主義主張で仕方なしに別れとるんよ。そんで鬼沢くんは、オニちゃんはオフィシャルになるんやろ?」

「俺は……! どうなんだろう」

 また考えあぐねるのに、ボケらしからぬまじめな言葉が渋い声で言い渡される。東田は普段から真顔なぶん、余計に説得力があった。

「力があるっちゅうんは、便利なことやけど危険なことでもある。鬼沢くんはオフィシャルを名乗ったほうがええんちゃうか? きっと悪いやつに利用されてまうで、そんなぼやぼやした態度でおっては。そっちの日下部くんとコンビを組んどいたればええねん。日下部くんはアンバサダーの中ではかなりの使い手なんやから」

「どうでしょう? それなりに修羅場はくぐってきたつもりでけど。でもおれも、鬼沢さんにはアンバサダーとして活躍してもらいたです。」

 はぐらかした返答しながらこの時ばかりは鬼沢にまじめな目線を向ける日下部だ。これにしたり顔して津川が言ってくれるのは意外な言葉だった。

「見込みありそうやもんな? その訓練にこれからみんなで繰り出すんやし! ほな、そろそろいったればええんかい」

「?」
 
 何のことだと目が点になる鬼沢に、覚めた目つきの日下部がまた意外なことを言ってくれる。

「連絡、来てませんか? マネージャーさんから? この後の収録のことです……」

「え? なに、え、スマホになんか来てる! マネージャーからだ、え、この後の収録、バラしになりました……て!!」

「決め打ちやんな。それじゃいざアンバサダーの任務に入ろうか。鬼沢くんがおるんやから、ほどほどのが相手なんやろ? ゾンビやのうて、グールかゴーストあたりの?」

「さくっとやってさくっとギャラもらおうや! 四人もおったら楽勝やろ? おいしいところはオニちゃんにゆずってやるさかいに」

「へ? へ?? グール、ゴースト? 何言ってんの??」

 本来はあったはずの番組収録に参加するはずの面々だと今さらになって気が付く鬼沢だが、ことの変化にまるで付いていけなかった。
 なんだか知らないワードがしれっと出てきているし。

「やればわかります。あと本日の案件をもって鬼沢さんはオフィシャルのアンバサダーに決定です。でないとこの作戦に参加できませんから。いいですよね?」

「ええやろ。ほなとっとと行こうか。みんなで楽しいグループワークや! 世のため人のため、何よりぼくらみたいなゾンビのためっちゅう、難儀なもんやなあ? こないな世の中に誰がしたんや」

「ひとに見られへんようにフェードをかけて行ったほうがええんか? こそこそ裏口から出るのはめんどいから、それでええよな。ほな、とっととやったろ、グール狩りやら、ゴースト退治やら」

「え、え? なに? 勝ってにそんな……! あの……」

「いいから着いて来てください。簡単な案件ですから、前回みたいなとっちらかったことにはなりません。習うより慣れよで、ゾンビとしての経験をこなしていかないとアンバサダーは名乗れませんから、そちらとしてもギャラもでますし。下手なローカル番組よりも高額ですよ」

「え、いや、そうじゃなくて、あの、みんな……行っちゃった」

ひとりでその場に取り残されるタレントさんだ。
 換気の配慮がなされた楽屋に、ぴゅーと季節外れの木枯らしみたいなものが吹いた。
 タレントではなく、ゾンビとしてのお仕事が待っていたことに愕然となる鬼沢は、やがてみずからも重い腰を上げて出口へと向かう。

 しまり掛けた出入り口の扉に手を掛けて、はっとなる新人のゾンビだ。

「あ、あの頭のワッカ、日下部に返しちゃったよ! しまった、あれがないと透明人間になれないじゃん、俺!! 日下部っ、待ってくれっ……」

 ドタバタとした日常がまたはじまった。


  次回に続く……! 



クリスタル

回収 新しいものを入手

ナチュラル Official

コバヤ

演習その②

グループワーク

局外へ

プロット
  鬼沢 テレビ局の屋上?で、日下部と待ち合わせ。
 会話
  神具羅 金魂環  フェードを鬼沢にかける。
 会話
  移動~

  楽屋、挨拶、芸人コンビ、新キャラ登場!
  バイソン・ボケ   「東田 勇次」ひがしだ ゆうじ
       ツッコミ 「津川 篤紀」つがわ あつのり


ゾンビ   グール   ゴースト 

ゴースト退治
グール狩り  
  

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