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DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 キャラクターデザイン ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア○記/Lumania W○× Record #022

   新キャラ登場!!

   新メカも登場!!

 #022

  Part1


 翌朝

 反政府ゲリラの残党を掃討する作戦から一夜明けて、いつものように朝起きてみずからの居室(セル)がある居住区画から、いざ仕事場のデッキ・ブロックまで降りて来たらば――。

 そこはいつになくものものしくした、第一アーマー小隊のハンガー・デッキである。

 そのひどくやかましい様子に、まずは目を丸くするクマ族の第一小隊隊長のベアランドだ。

 見た感じいつもとはまるで違う景色とそこに見慣れないでかいアーマーらしきがあるのに、驚くよりも半ば感心したさまでこれをしげしげと眺めてしまう。

 これまではずっと空だったはず大型機の専用ハンガーに、いつの間にやら運び込まれていたものだ。

「……ああ、もう運び込んでいたんだ? 昨日の晩に艦長に了解を取り付けたばっかりなのに、早いな! それにこんなバカでっかいの、ハンガーに収容するのも一苦労だっただろうにさ?」

 思ったままの感想を口にしながら、自然とこのパイロットの姿を目で探してしまうが、あいにくとどこにもそれらしき人間の姿はない。

 確か聞いた話ではお客さんは二人組で、若い男女のパイロット・コンビだったと聞いているのだが……?

 するとその代わりに同じようにこちらもまた微妙な顔つきでその大型アーマーを見上げる、巨漢でかつ肥満体のクマ族のチーフメカニックのおやじと目が合ってしまうベアランドだ。

 何やらイヤな予感がするが、おはようの挨拶もそこそこに、やはりであちらからはひどく冷めた視線と文句が飛んできた。

 予感的中だ。

「おい、どうするんだよ、これ? こんないかついものを持ち込んでくれやがって、運び込むのにも一苦労だったぞ?」

 かなり迷惑そうな物の言いように、こちらはひどい苦笑いで応じるばかりの若い隊長さんだ。

「あはは。そうは言っても好きでしょ? イージュン、こんなでかいおもちゃを目にしたら、機械屋としての血が騒ぐってもんでさ! でも思ったよりもでかくてビックリしてるけど、これって一人乗りなのかな? 確か相方はまた別のアーマーを持っているらしいから、おのずとそうなるんだろうけど……」

「ふん。このおれたちとおんなじ、クマ族の若造だったぞ? なんか冴えないカンジのな! 相方は見ていない。イヌ族らしいが、女とか言ってたかな? 他のメカニックのはなしによると」

 朝っぱらからやけにかったるそうなおやじの話に、また目を大きく見開く隊長だ。

「そうなんだ? はあ~……! まあ何であれ、こんな見てくれ立派でどでかいの、戦力としては期待大なんじゃないのかな? 艦長もビックリしてるかもね! メンテするメカニックはなおさらだろうけど……」

 そう言いながらデブのおやじの反応を見てみるに、浮かない顔つきでまた当のでかいアーマーを見上げるチーフ・メカニックは、小さな舌打ちしながらこちらに冷ややかな視線をくれる。

「おまえんとこのチーフはそっちのでかいのにてんてこ舞いで、こんなものにまでは手が出せないんだろ? てか、あいつそれでなくても、あのゴリラとネコのわけわかんないアーマーにちょっかい出そうとして、追い返されてたじゃないか? おれもひとのこと言えないが、あいつも大概だぞ? しゃあねえな……!」

 いかにも渋々と言った感じでありながら、内心ではその実、嬉々としているのではないかと疑うベアランドだった。

 実際、パイロットスーツばりに仕立てのいいメカニックスーツのお尻からちょこんと飛び出たまん丸いシッポが、上下にピクピクと小刻みに動いているのだから……!


 ネコ族やイヌ族がそうであるように、上機嫌の時にはシッポがぶんぶんと元気に振れるのは、彼らクマ族も同様だった。 

 ただシッポが短いからわかりにくいだけで、目の前のおやじさんは今やでかいおもちゃを手に入れたお子様ばりにその胸の内がときめいているのに違いない。

 良く見たら、この口元がかすかにゆるんでいた。

 やっぱり生粋の機械屋なんだなと納得するベアランドだ。

「それじゃ、そういうことで、イージュンにお願いするよ。うちのリドルはやることがてんこ盛りだから! あのゴリラくんとネコちゃんにまでちょっかい出してるのは意外だったけど? あ、あと他にもまた新しいアーマーがこれと一緒に来ているんだよね。そっちはまだ見てないんだけど……どんなだろ?」

「どんなだっていいだろ! さすがにそこまで手は回らないから、あっちのゴリラやネコちゃんみたいに自分でやってもらえばいいんじゃないのか? あいつらそれをいいことに最後尾のアッパーデッキを占有しちまってるんだから! まあ確かに、あそこなら邪魔にはならないが、飛行ユニットもろくに持たない陸戦型アーマーどもが、あんなとこに居ても仕方がないんだがな?」

「ロフトに上がって艦の守備隊として動くぶんには都合がいいんじゃないのかい? 流しの若い傭兵さんが何故だか艦長の信認もあるみたいだし、それだからこその特別待遇だよ。気になるならリドルと一緒に押しかけてみればいいんじゃないのかな?」

 冗談めかして言ったセリフに、これにはただちに不機嫌面でフン!と鼻を鳴らしちゃ、への字口で応じるメカニックだ。

「は! あんなひとの言うことを聞かなそうな生意気な若造どもはゴメン被る。おれはせいぜいこっちのとろそうなクマ族のあんちゃんのアーマーと遊ばせてもらうさ。第二小隊のあのオオカミはやたらに口やかましいし、部下のワンちゃんどもは気が弱すぎて始末に負えない。ははん、まったくストレス解消には持ってこいのシロモノだよな!」

「結局そっちのパイロットの好き嫌いの問題じゃないのかい? 構わないけど、あんまりいじめたら泣かれちゃうよ。こんなゴリゴリのクマ族のおじさんにさ! まあいいや、それじゃこっちも用事があるから、失礼させてもらうよ。リドルや中尉どのたちが待っているんだ。これから大事なミーティングがあるからね? 昨日の出撃の総括も込みにした!」

「デッキでやるのか? わざわざ? 昨日の総括って、そっちのベテラン勢はふたりともお留守番だったのに? そういやあの坊主、こっちには目もくれずにそっちのアーマーにさっさと向かって行ったな。少しは手伝えってもんなのによ!」

「いろいろと忙しいんだよ、あの子は。今回のブリーフィング・ルームには特別な場所を用意してあるから。その都合もね! あっと、噂をすればなんとやら、向こうでリドルが呼んでるや!」

 背後からの呼びかけにそちらを振り返って、その先にあるみずからの大型アーマーを見上げるアーマー隊大隊長だ。

 彼らが乗る船には大型アーマー用のハンガーデッキがふたつあり、この隊長の彼のものと、今回、新しく運び込まれたものが残っていたもうひとつに収まるかたちとなった。

 それじゃと軽く手を振って、みずからのアーマーの元へと大股で歩いていく背中に、背後のおやじからは普通に上っていけよ!と声が掛けられるが、返事をするよりも適当にパイロットスーツを着込んだ尻の頭に顔を出す、まあるいシッポを動かしてやる。

 相手は気付いたものか?

 相棒の大型アーマーの格納されたハンガー・デッキに近づくと、このコクピット・ブロックに相当する、ずっと高い場所から若いクマ族の青年メカニックが手を振っているのを認める。

 その左右には、ベテランのクマ族のおじさんたちが真顔でこっちを見下ろしているのも見て取れた。

 みんなそろっているようだ。

 すぐに合流するとうなずくベアランドだが、左右にあるデッキのタラップやエレベーターをちらりとだけ一瞥して、またすぐに真上に向き直ると、ちょっとだけ苦笑いになる。

 素直にそちらを使えばいいのだが、めんどくさいのでショートカットをすることにした。

 普通はやらないやつだ。

 さっき普通に上がれよと言われたばかりなのに、その場でおもむろ思い切りにこの上体をかがめさせて、両脚にぐっと力を込めるやんちゃな若い隊長さんだ。

 直後には、フロアからドバン!と上階にあるデッキのフロアにまで一足飛びに大ジャンプする。

 およそ尋常でない跳躍力だった。

 過酷な状況下でのアーマーの運用と戦闘を強いられるパイロットは、一般の民間人よりも強靱な肉体と、優れた身体能力を有しているのは知られているが、このクマ族に関しては、その範疇にはちょっと収まらないのだろう。

 乗っているアーマーもただごとでなければ、この本人自体もただものではないのだ。

 涼しい顔して一瞬で目の前に現れたでかいクマ族の隊長さんに、反射的にびっくりしてのけ反るメカニックマンだった。

 この左右のおじさんたちも、のわっと上体がのけ反っていたが、その顔には出さないで平静を装っていられるのは、きっともう慣れているからだろうか。

 悪びれることもない笑顔の隊長に、ちょっとだけ呆れた顔つきで敬礼をするリドルだった。

「おはようございます! 少尉どの、お待ちしておりました。ですがこちらのデッキには、できればまともな方法で上がっていただきたいのですが……!」

 そんな苦笑いの青年クマ族のセリフに、この横からおじさんのクマ族たちもちょっと困惑顔しては口々に言ってくれる。

「ほんまやわ、隊長、ウサギさんちゃうんやから、もっとふつうに上がってきてくださいよ。重たいクマ族はそないな無茶なジャンプはせえへんよって。心臓に悪いわ……!」

「ザニー、ザニー! ウサギ族でもあないなジャンプはようせんって! この隊長さんだけや。ほんまにこのおばけアーマーと一緒で、規格がゴリゴリにおかしいんやって……!」

 そんなゴチャゴチャ言ってるおじさんたちにはとりあえず苦い笑いで返して、ハッチの大きく開かれたみずからのアーマーのコクピット内を目で示すベアランドだった。

「それじゃあ、早速はじめようか! 今回のブリーフィング・ルームは、ぼくのこのランタンのコクピットだね! さあさ、みんな遠慮せずに入ってよ」

 そのように促しながら、まずはじぶんから大きくハッチが開かれた操縦室の中へと潜り込んでいく。

 真ん中の操縦席にただちに慣れた調子で腰を据えると、外からこの中をのぞき込む三人のクマ族たちに目で合図する。

 通常のアーマーのコクピットは、パイロットひとりがせいぜいのところなのだが、このクマ族の隊長のそれは縦にも横にも余裕があり、まだ三人くらいは楽に入れるだけのスペースがあった。  

 まずメカニックのリドルがお邪魔します!とベアランドのすぐ隣につけて、おっかなびっくりに残りのおじさんたちがのそのそと内部に入り込んでくる。

 クマ族は一般に大柄で人一倍に場所を取るのだが、それでもまだ十分な広さがあるコクピットに、ちょっと驚いたさまの中尉どのたちだ。

 着座した隊長の左右に陣取って、物珍しげに周囲のディスプレイやこの手元のコンソール、操作盤などを眺め回している。

 年季の入ったおじさんたちにしてみれば、最新式のアーマーのコクピット自体が珍しいのかも知れない。

「ほえ、ほんまにコクピットでやりはるんかと思ったら、こないに広いんですか? これなら納得やわ……!」

「こないなもんコクピットちゃうやろ! 広すぎやて、ここで普通に寝泊まりできるんちゃう? ビックリやわ! ちゅうか、ここまで来たらぶっちゃけデッドスペースなんちゃうか?」

「ははは、確かにね! ふたりはこの中に入るの初めてだろうけど、どうか気楽にしてってよ。それじゃ、早速、ミーティングに入ろうか。タルクスはあえて呼んでないけど、あの子はぼくと直にあの時の現場を見ているからさ? だから今回は、ダッツとザニー両中尉どのたちの見解を聞きたいんだよね♡」

 ベアランドの言葉にこの横につけるリドルがはいと了解して、手元のコンソールを手早くパチパチと操作する。

 するとそれまで開かれていたコクピットの分厚いハッチが音もなく閉ざされていき、これによって正面に現れた大型のディスプレイモニターにすぐにも明かりが灯る。

 同時に左右、背後にもある大小のモニター類にも光りが灯って、照明がなくとも十分な視界が保たれることになる。

 はじめ外部の様子を映していたモニターの中にいくつものウィンドウが立て続けに現れて、それらの中にさまざまな動画や各種のデータが次次と映し出された。

 中にあるのは、見知らぬ街中に紛れ込む、どこかで見たことがあるような特徴的なカタチをした黒い二機のアーマーたちだ。

 それらが空から俯瞰した図で表示されるのを、みんなでしげしげと見入るクマ族たちである。

 つまりは新しく艦に編入された傭兵部隊のネコ族とゴリラ族のものだったが、これの考察をクマ族だらけの第一小隊でしようというのが、今回のミーティングの主な目的だった。

 やるからにはマジメにやるのだが、半ば面白い動画をみんなで見て盛り上がろうという、ちょっとしたレクリエーションか気晴らし的な意味合いも、あるにはあっただろうか。

 昨日、現場の戦場を上からつぶさにモニターして、それらの動画や各種のデータを採取した張本人のクマ族の隊長さんが言う。

「見ればわかると思うんだけど、とにかく面白いんだよね! あのゴリラくんとネコちゃんの、どっちともw こんなゴミゴミした狭い街中の通りをけっこうな勢いで走り抜けてるじゃないか? おまけに敵を軽々と撃破しながら!」

 嬉々とした言いように、真顔のリドルが補足の説明を付け加える。

「第二小隊のウルフハウンド少尉どのが三機撃破、残りの七機を、イッキャさんが四機、ベリラさんが三機の内訳となります! すべてビーグルⅤです。ちなみに本作戦でのこちら側の損害は、皆無となります」

「めっちゃ優秀ですやんけ。ちゅうか、あの若いワンちゃんたちは何してはったんですか? 新型のアーマー乗りがふたりもおって、ひとつも星をあげられへんなんて?」

「そゆことゆうたるなよ! あるて、そんなこと。無傷で返ってこれたんだからそれだけでもええやんけ?」

 ベテランのおじさんたちのとかく皮肉めいた言いように、だがこれには隊長である若いクマ族があっけらかんと答える。

 元はこのベテラン勢が来るまでは彼の直属の部下でもあった新人の隊員たちだ。名誉を傷つけたままではしのびない。

「ああ、それ、コルクたちは悪くないよ? ぼくが上からそうするようにお願いしちゃったから! シーサーの了解も得てね。なんせ相手のビーグルⅤがコルクたちのⅥとおんなじカラーリングだったから、まぎらわしくて仕方なくてさ! 同士討ちとか目も当てられないだろう? よそさまも加わってる今回の作戦じゃ」

 これに果たして納得したのかしないのか、やや微妙な顔つきのザニー中尉だ。

「なんでそないなめんどくさいカラーリングにしてもうたんですか? こっちのビーグルⅤが茶色っちゅうのは、知ってたことなんちゃいます? ちゅうか、なんでビーグルⅤなんですの? それ、ぼくらのお国の現行の主力兵器やないですかぁ」

 それにはリドルが答える。

「はい。友邦国のアストリオンにルマニアがアーマーを輸出しているのは有名な話であります。ただしこちらの環境に適応した砂漠地戦仕様であり、あのようなカラーになります。反政府勢力がビーグルⅤを使用しているのは、どれもこれらが敵により拿捕された機体であるものと思われます!」

「あのぶうちゃんもそないなこと言ってたよな? せやなくて、なんでワンちゃんたちのⅥは、あないなカラーなんや?」

 ダッツの相棒と同様にした問いかけには、ベアランドがまたもあっけらかんと返すのだった。

「ああ、はじめはピカピカの銀色だったのに、それじゃ目立って仕方がないからって、イージュンが気を利かして全身渋く塗ってくれたんだよね! カラーは本人の好みによるんじゃないのかな? ただ単に! 当のコルクやケンスはそこらへんあまりこだわりとかないみたいだしw 隊長のシーサーは興味ないしww」

「ほえぇ……」

 呆れた感じで互いに目を見合わせるおじさんたちはもはやほっといて、さっさとこの話を進める隊長さんだ。

「それよりも、ほら! あのふたりの操るアーマー、めちゃくちゃ動きが機敏で敵のビーグルⅤを圧倒してやしないかい? コンビとしての連携もきっちり取れてるし、若い割にはとっても練度が高いアーマー乗りたちだよ。この機体もかなり高性能で、これと言った弱点も見当たらないし! ね?」

 みんなに問いかけるに、おじさんたちからは低いうなりみたいな声が聞こえるが、メカニックマンとしての見地でものを見ているリドルがこれに強く同調する。

 昨日の内に彼なりに戦績データを解析していた若いクマ族の青年は、このアーマー乗りたちとその保有するアーマーをかなり高く評価しているようだった。

「はい! ベアランドさんが言うとおり、とっても優秀な機体であります。特に市街地戦に特化しているらしく、至近距離での格闘戦と、距離を置いた中距離の間接攻撃とこの役割をはっきりと分担している点も、とても合理的であります。おそらく高出力エンジンにより発生させたフィールドバリアも併用しながら、機体の防御力を最大限に高めているものと思われます!」

「ああ、それってこの機体に搭載されたフィールドジェネレーターとおんなじ機能を持っているってことだよね? 上から見ていてやけにセンサーの反応が鈍いと思ってたら、周りにバンバン電磁フィールド張ってたんだ! 恐れ入ったね♡ おまけに特殊なギミックが機体各部にてんこ盛りみたいだしw」

 いかにも楽しげにした若いクマのパイロットの感想に、じっと黙って目の前のモニターの動画に見入っていた赤毛のおじさんグマが、やがて真顔で応じる。

「……ほえ、あのゴリラくんのごっつい機体、敵からの銃撃をものともせずに近寄っていきよるの、機体の強度が高いだけちゃいますよね? なんか肩のあたり、プロペラみたいなんがグルグルまわってはるし、妙な武器を持ってはるの、あれをクルクルまわしてタマをはじいたり相手をどついたりしてはるんや? えらいいかつい戦い方しよるわ! まさしくゴリ押しやんけ」

 みずからの乗る機体が防御力重視の仕様であるからか、とても興味深そうにまさしくゴリラみたいな見てくれのアーマーに見入るベテランパイロットだ。

 それとは逆に、攻撃力重視の機体を操る灰色グマのおじさんが、もう一方のネコ型っぽい見てくれのアーマーに言及した。

「こっちはこっちで、えらい命中精度で弾丸ぶっばなしとるで! 死角から攻められても飛んだり跳ねたり、おまけに無茶苦茶な角度から応戦しとるやんけ? どないなっとるんや、機体のバランス制御! 長距離射程の装備はなさそうやけど、あないにめまぐるしく動かれては狙いを定めるのもしんどいて!」

 ふたりともしっかりと傭兵部隊の実力を感じているようだ。

 これを聞く部隊長のエースパイロットは、やけにしたり顔して了解する。

「確かにね! あのふたりの実力に関しては、アーマーも含めてもはや十分なんだろう。スタンドプレイに走られるのは困りものだけど、別個の部隊として稼働するには問題がないはずで……。出身がイマイチわからないのがアレなんだけど、あれだけ特徴があるアーマーなら探れないこともないのかな? 時にリドル、あの博士の意見とかは聞けているのかい?」

 基本は艦の最後尾のエンジンブロックにこもりっきりの、イヌ族の老博士のことを聞いてみるに、問われたチーフメカニックはちょっと困った顔でこの首を左右に振るのだった。

「いえ、シュルツ博士は少尉のアーマー以外には興味がないとのことで、とりあってはもえらませんでした。逆に余計なものに関わるなと怒られてしまいまして……!」

「ああ、あの博士らしいな! まあいいや、ゴリラくんとネコちゃんのことはこのあたりにしておいて、自分たちのことに専念しよう。ダッツとザニーはこれからは、ぼくよりもむしろタルクスと連携しなくちゃいけなくなるし、戦い方のバリエーションも増やしていかないとね?」 
 
 おおよそでミーティングを締めくくりながら、手元のスイッチをパチッとはじいて周りのモニター群の明かりを消すと、閉ざされたコクピットハッチを再び開いてそこから外気を取り込む。

 あいにくと新鮮な空気ではなくて機械油くさい気流に鼻先をヒクヒクさせながら、開かれた視界の先にあった見慣れない大型アーマーを見て、そこでまたしても苦笑いになる隊長だった。

 背後のベテランのおじさんの内のひとりが、おなじくそれを見てぽつりと感想を述べる。

「ほえ、わけわからんアーマーならまだおりましたわな……! しかもまたふたつも? あのネコちゃんたちの紹介っちゅうはなしやったけど、ほんまに信用してええんですか?」

「ほんまにわけわからん! ちょっと様子を見てみたけど、どっちも見たことも聞いたこともないアーマーやったで? あんなもん、パイロットどないなやつやねん? ほんまにこんなんとおれたち連携せなあかんのですか、隊長??」

 なおさら苦笑いになるベアランドは、一度大きく肩をすくめてミーティングの終わりを告げた。

「今回のネコちゃんとゴリラくん同様、実際にお手並みを拝見させてもうしかないよね? すぐに機会はやってくるんだろうし。ちなみにパイロットはどっちも若いクマ族とイヌ族の男女コンビらしいよ? ネコちゃんによると、おまけに会社経営みたいな? なんだろうね。ま、会えばわかるよ。あとみんなが先に出ていってくれないと、この席から立ち上がれないから、さ!」

 言われてぞろぞろとコクピットを退出していく仲間たちを見送って、みずからはだが手元の操作盤を操作する。

 右手のサイドモニターにまた何かしらを映し出すクマ族だ。

「ふうむ、でもあのどっちもやたらに金が掛かっているアーマーの存在を考慮したら、うちの経歴複雑な艦長とあのふたりのアーマー乗りの接点て、たぶんこのあたりに集約されるんだよな……おそらくは?」

 それきり真顔でしばし考え込むのであった。


  Part2


 新型のアーマーのまっさらなコクピットは、とても居心地が良くて快適で、この新品の革張りの操縦席もまるで高級ホテルの重厚なソファのような座り心地で格別だった。

 じぶんが居た安普請のボロアパートの備え付けのベッドよりもはるかに寝心地が良くて、気が付いたら、うとうとしたまどろみの中ですっかり寝落ちしてしまった、新人パイロットだ。

 だらしなくも大口開けて、でかいいびきを立てながら爆睡していると、心地よい夢の中でどこからか誰かしらの声が聞こえてきた。

 どうやら見知らぬ男の声のようだ。

 バンバン!と何かを叩く音も聞こえてくる。


 シートがほぼフラットになるくらいにまでリクライニングさせて完全に寝こけていた若者は、かすかに表情をピクつかせて、この夢の中から聞こえてくる正体不明のおどろおどろしい声にうならせられる。 

 その声は言った。

「おい! 中のパイロット、とっとと出てこい!! いつまで中にこもっていやがるんだ? 機体の格納は終わったんだから、あとはおまえがアーマーの個人ロックを解除して、こっちに引き渡すだけなんだよ! いいからこのコクピットのハッチ開けろ!!」

 さながら憎悪に満ちた罵詈雑言か?

 やけに現実感がある長ゼリフに、ただならぬ違和感を感じる。

 弛緩しきっていた手足がピクピクとなるパイロットだ。

 さすがにいびきをやめて、無意識ながらも周囲の状況にぼんやりながら注意を向ける。どこからか確かな殺気めいたものまで感じて、薄目で身の回りを確認するのだった。

 するとまず目に飛び込んで来るのは、正面ディスプレイに大写しになった巨漢のクマ族の恐ろしい顔面のドアップだった……!

 これに一瞬で眠気が覚める若者だ。

 ただし状況の正確な把握にまでは至っていなかったが。

「……!? はあっ、お、鬼っ? 鬼がいやがるっ!?」

 バッと上体を起こして周囲に目を向けると、この前面のみならず、左右の大型ディスプレイにもおなじ形相のドアップの顔面が張り付いて、こちらをにらみ付けている。

 完全にパニックになる若いクマ族だった。

「ひいっ、なんかおっかねえ鬼みたいなのが3匹もいやがるぞっ!? 3匹!!? どうなってるんだよこの戦艦!!」

 とりあえずじぶんが新型のアーマーに搭乗して、この大型の最新鋭艦にまで乗り込んだのは覚えているのだが、その後がさっぱりで今のこの状況である。

 慌てふためくばかりのパイロットに、モニターにでかでかと映し出された当の鬼、もとい実際はどでかいクマ族のおやじさんが冷めた目つきで言ってくる。

「鬼ってなんだよ? は、いませんけど、鬼なんて? ひょっとしてこの俺のことを言っているんなら、おまえ、それなりに覚悟はできているんだよな? あとさっさと面を見せろ。開けろよ、このハッチ」

 もはや怒りを通り越した、何かしらの呆れか嘆きみたいなものまでにじませてくる年配のクマ族の言葉に、顔からサッと血の気が引いていく若いクマ族だ。

「は、はいっ? あの、えっと、あれ? 今って……おれ、ひょっとして寝ちゃってた??」

「ひょっとしなくてもそうだろう? まあさぞかしいい寝起きの面をしてるんだろうな? とにかく、開けろ。話はそれからだ」

 とかく冷静な相手の言いように、だが内心で完全にパニくっててるパイロットは操作盤を操る手元もあやふやで、まったく関係のないスイッチやレバーを引いてしまう。

 さらにパニックに陥った。

「え、あ、あのっ、ちょっと待って! 今開けます! 開けますから!! えっと、えっと……これか! あ、ハッチの前に立っているんなら、ちょっとそこからのいてくださいっ!!」

 画面に向かって反射的にペコペコと謝りながら、ようやくコクピットハッチのスイッチを探り当てる。

 その結果、ゆっくりと音を立てて開いていく大きな扉の向こうには、この真正面にそれは鬼さながらの迫力で、見るからに巨漢のいかついクマ族が腕組みして待ち構えていた。

 不意なハッチの開閉に跳ねられるほど間抜けではないらしく。 

 そそくさとシートベルトを外してなるたけ速やかにコクピットからデッキに降り立つ。

 そこでどうやらメカニックマンらしいその巨漢の男と向き合うのだが、これとまともに目を合わせることができずに、ひたすら萎縮するばかりのパイロットスーツだ。

 のっけからやらかしてしまったみずからの不甲斐なさに嘆くことしきりなのだが、うまく弁明する言葉も見つからない。

 うわ、詰んだ……!

 内心で白旗を揚げていた。

 おまけ本来ならば、みずから名前を名乗ってしかるべきなのだろうが、不覚にも不機嫌ヅラした目の前のオヤジからそれを聞かされることになる……!

「今日は。気分はどうだい、良く寝られたからいいんだろう? こっちはこんなでかいアーマーをデッキに収容するのにてんてこ舞いだったのに、パイロットさまはお気楽さまでいいもんだ。なあ、ニッシーくん? 何か言うことはあるかな?」

 まっすぐ真顔で見つめられて問われるのに、なおさら目を合わせられずにすくみ上がる青年クマ族、ニッシーだった。

「あ、いや、とくに、その、言うことは……すんませんでした。反省してます。二度とないように努めますので、ご気分を害されたのなら、なにとぞご勘弁を……とにかくすんませんでした」

 完全に観念したさまでうなだれる若いパイロットに、熟練の整備士は軽く咳払いすると、とかく鷹揚にうなずいてくれる。

「ああ、そう。そうね。うん。わかったのならいいのだけど、まずはここにサインして、これからお世話になるこのクマ族のメンテナンスのおじさんに礼儀正しく挨拶をしようか? これって基本だよね?」

 差し出されたボードに慌てて飛びついてみずからの名前をサインするクマ族のニッシーは、おなじクマ族のおやじにおそるおそるにそれを差し出して返す。

 その上で、改めておのれの名を名乗るのだった。

 おそるおそるに。

「ええ、あの、じぶんは、ニッシーであります! フルネームは、ニッシー・ロックデーモ・ナイ! 階級はありません! じぶんは正規の軍人ではなく、民間の戦場派遣会社の所属でありますので。加えてまだ新人であります。ですのでご教授、ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!!」

 生粋の軍人ではないから敬礼ではなく深々とお辞儀して、おっかなびっくりにこの顔をあげる。

 相変わらず仏頂面したデブのおやじは、何食わぬさまで新人の自己紹介を受け流しておいてから、その上でダメ押しみたいなセリフを低い調子でささやいてくれる。

「あ、そう。軍人でなくても敬礼くらいは覚えておけよ。あとメカニックの機嫌を損ねるようなマネはするな。命取りだぞ? こいつは脅しじゃない。心からの忠告だ。この意味、ペーペーの新人くんでもわかるよな?」

 これに心底、震え上がる若手のパイロットだ。

 返す言葉が思わずうわずってしまう。

「は、はいっ! もちろんでありますっ、ひいいっ、あの、いえ、あの、その、えっと……!」

 しまいには言葉に詰まるのに、はじめそれを怪訝に見ていたベテランのメカニックは、ああ、と納得して返す。

「ああ、そうか。そういやまだ名乗っていなかったな? 俺はおまえのアーマーのメインのメカニック担当の、イージュンだ。見ての通りのクマ族のおじさんで、ついでにベテランだな。以後、よろしく。ペーペーのニッシーくん! 新人だろうが容赦しねえからな?」

「は、はいっ……どうぞ、お手柔らかに……」

 最後にドスの利いた低い声でトドメを刺されて、完全に意気消沈するど新人のクマ族だった。

 がっくりと視線が床にまで落ちていたから、この目の前のおやじの口元がかすかに緩んでいたのに気が付かなかっただろう。

 努めて真顔のおやじさんはバンバンと新人の肩をぶっ叩いて、お互いの上下関係をはっきりと確かなものにしてくれる。

「ま、ここでのことなら何でもこの俺に聞いてくれればいい。おまえはこの俺の仕事に差し支えないようにすればいいだけだ。このあたりはギブ・アンド・テイクってやつだよな? あとそうだな、一番大事なことを教えてやるよ。これが一番の協力だ」

「?」

 顔色の冴えない新人は、怯えた表情で目の前のおやじの真顔を見返す。どんな恐ろしい要求が出てくるのかと身構えていると、ひどく深刻な顔つきになるクマ族のおやじはやがて言った。

「死ぬなよ。これが一番肝心。あと、アーマーを無駄に傷つけるな。それすなわちおまえの身体が傷つけられたと思え。言ったら一蓮托生なんだから、当然だよな。あと俺も面倒だし……!」

 最後にニヤリと笑ってくれるのに、感情がまんまと揺さぶられる単純な新人パイロットのニッシーだ。

「は、はいっ! 肝に銘じます!! あとっ、あと師匠と呼ばせてください、イージュンのおやっさん!!」

 挙げ句、いきなりなついてシッポを振ってくるのには、ちょっと意外げに目を見張るイージュンなのだが、内心ではにんまりとほくそ笑むのだった。

「良かった。こいつとんでもねえバカだ! おまけにすんげえ鍛え甲斐がありやがる……!」

「はい?」

「ん、いや。あっと、あっちから誰か来るぞ? 誰だあいつ? とんでもねえ派手なパイロットスーツ着てやがるな?」

 おやじのクマ族の視線に従って背後を振り返る若いクマ族は、その先に確認したそれは良く見知った人物の姿に声を上げる。

「ああ、社長! こっちこっち! そんなとこで何してんだよ? ひょっとして迷子になったってか?」

 デッキの通路をスタスタと歩いてくる細身のパイロットスーツは、その特徴的なフォルムから女性のそれだとわかる。

 しかも全身派手なオレンジ色の。

 言えば肥満体のでっぷりした若いクマ族のすぐ目の前につけるイヌ族の女パイロットは、すらりとした立ち姿で、とかくきっぱりとした口調で返す。

「バカね! あんたがいつまで経っても来ないから、こっちからわざわざ探しに来てやったんじゃない? はじめにこっちに集合って言っておいたでしょう。あんたみたいな平社員がこの社長のわたしを待たせるだなんて、どういうつもりよ?」

 口を開くなりそんなベラベラと勢い良くまくし立てられて、ちょっとげんなり顔して肩をすくめさせるニッシーだ。

「ああ、はいはいっ……!」

 その背後から、イージュンがややいぶかしげにふたりの新人パイロットを見比べる。

「社長? え、こいつおまえの雇い主なのか、まさかの? おまえとそんなにトシ変わらねえじゃん? てか、社長がなんでパイロットスーツなんか着てるんだよ?」

 思ったまんまの疑問をそのまんま口にするおじさんだ。

 これに慣れたそぶりのイヌ族の女子は、軽く一礼してビジネスライクなスマイルで答えてくれる。

「あたしもパイロットなんで。まだ小さい会社だから、社長でもバリバリ現役で戦場に繰り出します。お見受けしたところ、メカニックの方ですか? うちのバカ、もとい社員が失礼しました。わたしは戦場派遣会社「ミカン・ペースト」の代表取締役社長、サラと申します。以後、お見知りおきを……!」

「バカってなんだよ? ピンチだったんだぞ、社長だったらもっと早く駆けつけてくれよ!」

 ぶうたれるクマ族を冷ややかな視線で見返す女社長は、声高にピシャリと言い放つ。

 しかも思い切りの断言だ。

 有無を言わさぬ迫力があった。

「そんなのいちいち面倒見切れるわけないでしょう! どうせあんたがヘマしたに決まってるんだから。おおかたアーマーのコクピットでそのまま寝落ちとかして、そっちのでかいメカニックさんに迷惑かけたって、そんなところなんじゃないの?」

 ズバリで図星を突かれて黙り込むニッシーに、軽く咳払いするイージュンがその言葉を引き取った。

「まんまだよ。それじゃその新人くんを引き連れて、さっさとしかるべきところへ行ってくれ。お互いヒマじゃないんだろう? こっちはこれからやる事がてんこ盛りなんだ。なんせこのバカでかいアーマーをいちいちチェックしないとならないんだからな」 

 それきり背を向けるでかい背中に、了解してこちらもさっさときびすを返す女社長のイヌ族だ。

 これにクマ族の平社員が慌てて追いすがる。

「お、おいっ、どこ行くんだよ? こんなバカでかい戦艦、おれたちみたいなよそ者がヘタにうろついてたら怪しまれるんじゃないのか?」

「いいのよ。もうとっくに怪しまれてるから。あのおっさんもそんな顔してたじゃん? こっちはこっちでやる事あるから、こんなところでのんびりしてなんかいられないのよ!」

「だからどこ行くんだよ! 待てって! 道もわからないのにそんなスタスタ早足でよく歩けるよな? おまえらイヌ族ってほんと……!」

 ブチブチと文句をたれるのに、険しい表情で振り返るイヌ族の女パイロットは立ち止まってただちに詰め寄ってくる。

 視線が泳ぐクマ族に低い声で言った。

「だったらあんたが誰かに道を聞けばいいんじゃない? 社員なんだからそれくらい当然でしょ? ほら!」

「だ、誰かって、誰もいやしねえじゃねえかっ?」

 うろたえるクマに食ってかかるイヌはしれっと言ってのける。

「いるじゃん? そこに、ほら!」

「え……?」

 おのれの背後を視線で示されて、そちらを振り返ると、そこには今しもこちらに向かってドタバタと駆けってくる誰かしらの人影がある。

 よく見れば何故か太ったブタ族のそれで、それがまた何故だか満面の笑みで迷わず一直線に走り寄ってくるのだ。

 ぽかんとした表情でそれを見るニッシーは、あのはじめの巨漢のメカニックといい、ここにはやっぱりまともなヤツがいないんじゃないのか?と本気で疑ってしまうのだった。


 Part3

 見知らぬブタ族は、とかく人なつこい笑みで困惑するクマ族のニッシーのもとにまで駆け寄ると、元気に声をかけてくる。

「ぶう! おはようなんだぶう!! て、あれ、てっきり灰色のクマさんだからダッツ中尉かと思ったら、まるで別人なんだぶう! あとおまけに知らない女のイヌ族もいるんだぶう! おまえたち誰なんだぶうぅ?」

 おそろしく脳天気なさまで問われて、完全に腰が引ける平社員だった。

「やべえやべぇ、なんかおかしなブタ族がいやがるぞ? 誰って、そっちこそ誰なんだよ! おれはブタ族に知り合いなんかいやしねえって、そもそもなんでこのルマニアの戦艦にアストリオンのブタ族なんかがいやがるんだよ! 密航者か?」

「そんなわけねーじゃん! あんた、少しは頭を働かせたらどうなの? アストリオンとルマニアは非公式につながってるの、みんな知ってるでしょう? ちっともおかしくないわよ」

 背後から冷めた言葉を浴びせられるものの、まだ動揺が収まらないでやたらにひとなつこいブタ族にビビリまくるクマ族だ。

「このおれのいるアストリオンは永世中立なんだぶう! でもルマニアとは相互に不可侵の戦時協定を結んでいるんだぶう! だからみんなおともだちなんだぶう! よろしくなんだぶう! ところでおまえは誰なんだぶう!」

「ぶうぶううっせえ! おまえこそ誰なんだよっ、おまえみたいなうさんくさいブタ族なんぞと仲良くする義理はねえぜっ、このおれには!!」

「あんたほんとにバカなの? せっかくなんだからこのブタ族さんにいろいろ教わればいいじゃない。ルマニアの連中にヘタに世話になるより気が楽だわ。いつまでいられるかわからないんだし、こんな大仰な巡洋艦!」

 三者三様で、まったくもって話がかみ合わない。

 途方に暮れるニッシーに、ブタ族が底抜けに明るいさまでまたもや言った。だがこれでやっと話が進展し始める。

「おれはアストリオンのロイヤル・ガード・ムンクの、タルクス准尉なんだぶう! ここには国家元首のイン様の命令で、援軍として乗り込んでいるんだぶう! 見たところおまえたちもアーマー乗りみたいだけど、どこから来たんだぶう?」

「うわ、マジでぶうぶううっせえ! なんなんだよ、あとなんでそんなになれなれしいんだよ? おまえ今、名前名乗ったか? 話がややこしくてまったく聞き取れなかったんだけど!?」

 なかばやけっぱちでわめき散らすくクマ族の平社員に、イヌ族の若い女社長が冷静に割って入った。

「タルクスって言ってたでしょ? しかもそう、アストリオンのロイヤル・ガード・ムンクだなんて超エリートじゃん! 見た目じゃさっぱりわからないけど? それじゃあよろしくお願いするわ。わたしはサラ。そしてこっちが、ただの平社員だから気にしないで」

「ぶう? 平社員??」

 途端にきょとんとしたさまのブタ族に、現状まったくうだつのあがらない平社員のクマ族、ニッシーはやや憤慨してわめく。

「平社員ってなんだよ! おれにはニッシーっていう立派な名前がある! あとそれだと説明するのが返ってめんどくせえだろう? 社員にわざわざ平とかつけるなよ、モラハラだからな?」

「はいはい。ただ事実をそのまま言ってやっただけでしょう? あんたはわたしに雇われているいち社員で、わたしは社長。ただそれだけのことよ。それよりも今は、このタルクスにここを案内してもらうのが先決だわ」

「こんなのに頼って平気なのか? つうか、何を案内してもらうんだよ?」

 あからさまに不満顔の平社員に、まるで意にも介さない社長さんはこのクマ族の肩越しにみずからの鼻先を突き出して、相手のブタ族のアーマー乗りの様子をしげしげと観察する。

 簡易的に造られた狭苦しいデッキの通路では、デブの相棒とふたりで並ぶことはほぼ不可能だった。おなじく恰幅のいいブタ族などとはすれ違うことも難しいだろう。

 これに対して通路の真ん中にでんと仁王立ちするタルクスは、とことんフレンドリーなさまで笑顔がまぶしいくらいだった。

 初対面を相手に警戒心がまるでないのが、見ていて心配になるくらいにだ。

「ぶうっ、サラに、ニッシーっていうんだぶうか? よろしくなんだぶう! おれもここではまだ日が浅いけど、知ってることはなんでも答えるから、なんでも聞いてくれなんだぶう!」

「サンキュー! だったら早速だけど、わたしたちは今日ここに赴任したばかりで、まずは上と顔合わせをしたいんだけど、あいにくとここの艦長とは直接は会えないって言われてるのよね? まずはこっちのアーマー隊のお偉いさんたちと話をしろってことなんだけど、わかる?」

 何食わぬさまをしたサラの問いかけに、当のタルクスはこれに大きくうなずいては親身になって返事をしてくれる。

 ほんとにバカ正直でただのいいやつなんだ!とこれを真正面でマジマジと見るニッシーは、目がひたすらにまん丸くなる。


 ただし感心するよりも呆れのほうが勝っていたか?

「それならたぶん、このおれのいる第一アーマー小隊のでっかいクマ族の隊長さんのことなんだぶう! おれもその隊長さんに会いに来たんだけど、あいにくここにはもういないみたいなんだぶう! おれも探しているから、一緒に行くんだぶう! たぶんみんなでブリーフィングルームか、食堂あたりにいるはずなんだぶう! 何故かおれだけ仲間はずれにされて、やっとひとり見つけたと思ったら、まるで違うただの平社員だったんだぶう! あの中尉どのはもっとイケてる渋いおじさんなんだぶう!!」

「おい、平社員ってなんだ? おまえなんかに平社員呼ばわりされるいわれはねえぞ! あとぶうぶうべらべら良くしゃべるよな? そんなんだから仲間はずれにされてんじゃねえのか? 距離感もだいぶイカれてるみたいだしな? なあ、ぶうちゃん?」

 かなり剣つくばったもの言いで威嚇するのだが、まるで気にもしない根明なブタ族めは、なおさらその身を乗り出して相手のクマ族の格好を上から下までじろじろとねめ回すのだった。

「ところでどうしてニッシーはそのパイロットスーツを着ているんだぶう? 懐かしいから人違いでなくとも声をかけてしまうんだぶう! クマ族が着ているのははじめて見たから、とってもめずらしいんだぶう!」

「は?」

「……あ!」

 怪訝に聞き返す自分の真後ろで、社長のサラが変な声をだすのに、これまた怪訝にそっちを振り返る。

 何だよ?と目で問いかけるに、ちょっとバツが悪そうな顔をしたイヌ族の女子は、仕方もさなげに言うのだった。

「そっか。アストリオンのブタ族なら当然わかるわよね? これじゃごまかしようがないわ。あんたのそのスーツ、軍用の払い下げ品だってあたし言ってたわよね? 入社したての新人に新品のアーマースーツをくれてやるような余裕はないからって……」

「ああ、言ってたな? それが? どうしたんだよ、ちゃんとこの身体にピッタリで着心地も悪くはないぜ? なんかケモノくせえけど、おれだってひとのこと言えやしねえからな? これと問題はないってもんで、あ、でもそっか、このケツのシッポのあたりがやけにキツくて窮屈ってぐらいか?」

「ああ、それ、たぶんブタ族用のスーツだからでしょ。アストリオンの軍の払い下げ品の専用サイトで見つけた備品だったのよ、それって。ほぼ新品で出されてたから。ブタ族用ならデブのあんたにもきっとお似合いかと思って……!」

「は、なんだよそれ! ブタ族用? これ、元はぶうちゃんが着てたスーツなのか??」

 社長の思いも寄らぬぶっちゃけ発言に、びっくり仰天するニッシーだ。加えてタルクスが満面の笑みで言ってくれた補足説明には、なおさらげんなりとなる。

「とっても似合っているんだぶう! ものはとってもいいものなんだぶう! それは一世代前の仕様で、今はこのおれが着ているスーツが正式なアストリオンの装備なんだぶう! でもそれも根強いファンがいるとってもいいパイロットスーツなんだぶう!」

「え、じゃあ、このケツが窮屈なのは、クマじゃなくてブタ族用にあつらえたものだからってことか? 最悪じゃねえか!!」

「おれたちブタ族とは限らないんだぶう! もしかしたらイノシシ族かもしれないし、イノブタやアグーかもしれないんだぶう!!」

「変わりゃしねえだろうが! このおれはクマ族なんだよっ!! なにが悲しゅうてよその族のスーツを着なけりゃならねえんだっ、これって立派なアイデンティティー・クライシスだぜ!」

 さんざんに嘆く社員に、見かねた社長が声を荒げる。

「ヒラのくせにそんな美品をあてがってもらって文句言うんじゃないよ! 型落ちのスーツでもアストリオン製ときたら結構なプレミアがつくんだからね? ケツの穴が小さいくらい、じぶんでどうにかしなさいよ。だからって壊しでもしたら、ボーナスから修理費まんまさっ引くからね!」

「ケツの穴って……! テンション下がるぜっ……」

 ぴしゃりと言われて黙るクマ族の新人パイロットだ。

 それきりがっくりと肩を落とすのに、相変わらず陽気なブタ族がこの肩をポンと叩いてぬかしてくれる。

「それじゃふたりともこのおれの後についてくるんだぶう! たぶん大食いばかりのクマ族部隊だから、みんな食堂に集まっているはずなんだぶう! おれもハラが減ってきたから、みんなで朝ご飯を食べるんだぶう!!」

「なんか、目的が違ってきてやしねえか?」

「ま、なんでもいいんじゃない?」

 意気揚々と先頭に立ってスタスタと歩いて行くブタ族に、お互いに肩をすくめてこの後についていく、若いクマ族とイヌ族のコンビだった。


  Part4 


 ブタ族のタルクスに導かれるままに艦のデッキフロアから、乗組員たちの平時の居住区画であるセンターブロックの大食堂まで案内された、ふたりの新人パイロットたちだ。

 そこでアーマー部隊を取り仕切る隊長のクマ族と、晴れて対面することになる。

 大きな戦艦の食堂とは言いながらも、そこはやたら広大なスペースがあり、特に士官クラスが集う場所はまたさらに奥へと歩いてゆくのに内心で呆れかえる若いクマ族のニッシーだった。

 この戦艦自体がもはや尋常ではない規模であり、まだ経験の浅い新人パイロットにしか過ぎないじぶんにはどうにも不釣り合いなところだとしか思えない。

 それだから今も、目の前にしている見た目がやたらにいかつくて大柄なクマ族のパイロットに、この身が完全にすくみあがっているのを意識していた。

 なのに目の前の若いイヌ族の女子であるはず、相棒のサラはまるで気にしたふうもなく、堂々と相手のクマ族と相対しているのに感心とも呆れともつかない感情を抱いてしまう。

 小柄な相棒の背中に隠れてビクビクしながら相手の様子をうかがうが、でかい食卓についているのはみんなじぶんと同じクマ族であり、どれもいかつくて迫力があるそれはただならぬ猛者たちであるのがもはや素人目にもそれとわかった。

 きっとじぶんなどとはまったく住む世界が違うクマ族なのだと勝手に思い込むへたれの若者だ。

 その別世界のクマ族の隊長とおぼしき男はまだ比較的若いように見えたが、口を開けば威圧感たっぷりな低い声音に、なおのこと身体が萎縮するニッシーだった。

 自分たちをここまで案内したブタ族によると、ベアランドというらしい若いクマ族の隊長は屈託のないさまで言うのだった。

「やあ、ふたりとも思ったよりも早い到着だったね? 昨日の今日で、ちょっとびっくりしちゃったよ。しかもあんなに大型のアーマーまで連れてきてくれるだなんて! おまけにこんなに若いコンビだったんだ? イヌ族の女子に、そっちのほうは、ぼくらとおんなじクマ族でいいんだよね? てか、なんでそんな後ろに隠れているんだい?」

 そんな不思議そうな顔つきで問いかけられて、思わずひいっと声が出るしがない平社員のクマ族に、女社長のイヌ族が一度冷めた視線を背後に流しながらもあらためて前へと応じるのだった。

「お招きにあずかりまして光栄です。わたくしは戦場派遣会社「ミカン・ペースト」の代表取締役社長、サラ、サラ・フリーラ・シャッチョスと申します。アーマーのパイロット兼任で、わたし自身は高速機動型のアーマーを1機保有。攻撃主体のフリーランサーとなります。それでは以後、お見知りおきを……!」

 軽やかに一礼して、ベアランドをはじめとしたクマ族ばかりの小隊メンバーたちにこの視線を流して送る。

 どうやら食事中だったらしく、大皿に盛られたごちそうをおあずけされているクマ族の中年パイロットたちは、どちらも微妙な感じで互いに目を見合わせたりしている。

 ここらへん、若い女のイヌ族のパイロットにはさしたる興味を向けてもらえないのはこれまでの経験上わかりきっていた。

 それだから気にもとめずに、背後の相棒の平社員、もといクマ族のパイロットにも自己紹介するようにうながすサラだ。

 だがこれにもじもじしてばかりいるニッシーである。

 余計に尻込みしはじめる相棒に、目つきのキツくなるサラはこのつま先をかかとで踏んづけて、前へと突き出す。

「ほら、さっさと自己紹介しなさいよ! あんたの番でしょう? まさかおんなじクマ族がコワイだなんて言わないでしょうね」

「あっつ、いや、コワイだろう、こんなのフツーに! あ、いや、ははは! あの、おれはただの平社員のニッシーです。まだペーペーの新人パイロットなんで、どうぞお気になさらずにお願いします!」

「新人? 確かにふたりともまだ若いみたいだけど、まるで経験がないってわけでもないんだろう? あんな大型のアーマーを持ってるってからには。そういやイージュンにはもう会ったのかい? でっかいクマ族のおやじさんのメカニックマン!」

 とっても気さくに聞いてくれるクマ族の隊長さんに、問われた新米パイロットはなおさら落ち込んださまで視線を逸らす。

「ああ、はい……! しっかり絞られました。しょっぱなからおれがヘマしちまったんで。ついでに気が付いたら師匠と弟子の間柄にもなってました。この先が不安でなりません……」

「?」

 ひどく落胆したさまに目がきょとんとなるクマの隊長だが、新人のパイロットを前にイージュンがちょっとした茶目っ気を出したのだろうくらいに了解して、みずからの部下たちへと視線を向ける。

「紹介するよ。ぼくの小隊のメンバーで、ベテランのザニー中尉と、ダッツ中尉だよ。よろしくね! なぜか少尉のぼくが隊長なんだけど、そこらへんは気にしないでおくれよ。あと、そっちのアストリオンのタルクスと、こっちがうちのチーフメカニックの、リドルだよ。まあ、顔合わせはまだ他にもいろいろいるんだけど、その都度、じぶんたちでやっていってよ。あと察するに、この艦のブリッジには上がれなかったんだね?」

 ちょっとだけ苦く笑うベアランドに、浮かない顔のサラはこくりとうなずく。

「はい。とりあえずこちらのアーマー隊の方々によろしく言っておいてくれとのことでしたので。わたしたちのようなよそ者のアーマー乗りはそう簡単には艦長には会えないとのことでした」

「おれは会わなくたってぜんぜんいいけどな? あっつ!」

 背後からニッシーがぼやくのには、またこのつま先を踏んづけて、やや不満げな顔をクマ族の面々に向けるサラだ。

 これにそれまで黙っていた傍観者のクマ族、赤毛のベテランがおもむろにこの口を開く。

「ほえ、そんなのあたりまえなんちゃう? たかが新参者の傭兵さんなんておいそれとブリッジにあげられへんやろ。ここ、仮にも軍の最新鋭艦で、おまけに旗艦、フラッグ・シップやで? そうでなくとも軍内部じゃ有名人のおひとで、現場方じゃ一、二を争うっちゅう実力者なんやから。いちパイロットにしかすぎへんお嬢ちゃんなんかお呼びにならへんわ……!」

「せやな! 戦場派遣なんちゃらなんてようわからん怪しいヤツやったらなおさらや! きみら、顔洗って出直してきたほうがええんちゃうか? いくら社長さんやか平社員やか知らんけど、対等に張り合うには早すぎるて! ひゃはっ」

 二マリとした表情で少々辛辣なもの言いに、もうひとりの灰色のクマ族も茶化してこれをせせら笑うかのようだ。

 それきり興味なさげに視線をそらすと、それきりどちらもおもむろに目の前の食事に手をつけ始めた。

 これには隊長のベアランドが苦笑いでかすかに肩をすくめるが、まあ仕方がないよね?と目つきで言って憮然としたサラに返した。

「まあ、ブリッジに上がれなくとも、場合によったらあっちから降りてきてくれるかもしれないよ? 戦績次第かな? そのあたりについてはそっちの社長さんは結構な腕前みたいだけど、クマ族の彼はこれと目立ったデータが見当たらないね?」

「あ、ああ、それはっ……!」

 ジロリと見られて挙動不審になるクマ族のパイロットに、イヌ族の女アーマー乗りがこの視線をさえぎって間に入る。

「ああ、コイツはほんとに新人で、これからが生まれてはじめての初陣になりますから。このあたしがスカウトした第一号の社員、派遣アーマー乗りなんで」

「それって傭兵と何が違うんだぶう? あとひとりだけなんだぶう?」

 横合いから無邪気に横槍を入れるブタ族に痛いところを突かれながら、顔にはまったく出さないサラがさらりと返す。

「ふたりよ。まだ興したばかりの会社だから、あたしと経理と、このバカ、じゃなくて平社員しかいない少数精鋭部隊なのよ。問題ないでしょ? アーマーだけはしっかりしたのをちゃんとそろえているし」

「アーマーだけじゃ仕方がないんじゃないのかい? ほんとにパイロットとしての経験が皆無なのか、それって……」

 ちょっと驚いたさまでおなじく目を見張るとなりの若いクマ族のメカニックと思わず顔を見合わせる隊長に、やはり澄ましたさまでその鼻先を上向ける女社長だ。

「どうぞご心配なく。みなさまの足を引っ張るようなマネはいたしませんから。必ずやご期待に添える働きをして見せますので」

 これには大口開けて肉やら野菜やら腹に詰め込んでいた赤毛と灰色のベテランぐまが、いかがわしげに口をとがらせる。

「えらい自信やな? それ戦場で空回りするヤツなんちゃう? おっかないわ。そもそもがその彼のどこらへんが見込みあるっちゅうんや、ぼくにはただのビビリくんにしか見られへんのけど」

「きみ、どこでスカウトされたんや? なんで断らへんかってん? いくら体力あるクマ族さんでもいきなりはしんどいでえ、聞いただけでしんどいしんどい! フラグ立ってるて!」

「まあ、ちょっと興味あるかな? 未経験の初見であんなデカブツを扱おうだなんて、ある意味自殺行為に近い気がするし。実際の戦場はゲームみたいには行かないから……」

 ふたりのベテラン勢にはあんまり挑発しないようにと目で制しながら、ちょっと危ぶむような色がこの顔に出るベアランドだ。

 それがニッシーと呼ばれる若い新米パイロットの吐いた言葉には、えっと思い切り声に出てしまう。

「あ、おれ、ゲーセンでスカウトされたんすけど? すんません。提示された額に思わず飛び付いちまって、挙げ句の果てが今のこれっすわ……思ってたよりも大事になっちまって、正直、逃げたいけど、契約があるから逃げられないです……」

「あたりまえでしょう! あんたもういくら経費使い込んでるのよ? せめて今の赤字とあのアーマーの取得費用をペイするまでは死んでもらっちゃ困るのよ。逃げるなんてありえない!」

「敵前逃亡は死刑なんだぶう!」

 何の悪気もなく言ってくれたタルクスのツッコミに震え上がるニッシーだが、渋い面でこちらを見ているベアランドには居場所がないような心地で肩をすくめる。

「ゲーセンで? えっと、それっていわゆる、ゲームセンターって理解でいいのかい? なんで?」

 はっきりと困惑が顔に出るアーマー隊隊長に、あくまでも澄ましたさまでしれっと言ってのける女社長だった。

「あ、これ、今はあるあるなんですよ? ゲーセンで高得点をたたき出してるゲームランカーを軍のエージェントがパイロットとしてスカウトってのは。実例がここにもいるように?」

 そんなまるで当たり前みたいに言われても、やはり困惑顔で今度は当人に聞くベアランドだ。

「なんで?」

「なんででしょう……」

「あるあるなん?」

「知らん。聞いたことあらへん」

 ダッツとザニーもお互いの鼻っ面をつきあわせるのに、どこまでもしらを切るサラは、ここでまたきっぱりと言い切った。

「パイロットとしての特性を測る上でこれ以上に出来たシステムないって、軍や保障会社の人事が言ってるくらいですからね? 今じゃもっぱらそれ向けに開発されたゲームがあるくらいだし。それにこのヒラは、あたしが望んでいたニーズを満点で実現してくれた逸材ですから!」

「ヒラってなんだよ? それって褒めてるんだよな?」

 ちょっと微妙な空気があたりを満たすが、そんな中におじさんたちのくっくと身体を震わせる含み笑いがうっすらと響いた。

「ふふっ、ほんまにしんどいこっちゃ! きみらわかってゆうてんのか、ゲームと現実はまるで違うで?」

「アホちゃう? 戦場なめすぎ、夢見過ぎやって、嬢ちゃんもうっかりくんも!」

 怪訝に見返す気丈な女社長のイヌ族に、赤毛のベテランパイロットは利き手の人差し指をクイクイとやりながら意味深に笑う。

「これまでさんざん言われてきたことやからあれなんやけど、まさしくやわ。いわく、撃っていいのは、撃たれる覚悟があるヤツだけ……その覚悟を、そないなゲーセン上がりのえせパイロットくんごときが持てるっちゅうんか?」

「大丈夫です。コイツはバカですから!」

「は?」

 迷わずきっぱりと即答するサラを、このすぐ隣でニッシーが不満げな顔で見るが、ザニーとダッツの両中尉どのたちは失笑気味に視線をそらしてもはやそれきりだった。

 両者を見比べて口元のあたりやや苦笑いになるベアランドが、かすかにこの肩を揺らすとはなしを締めくくる。

「まあ、実戦で実証してもらうほかありはしないよね? それはさておき、ぼくらは朝食中なのだけど、せっかくだからきみたちも一緒にどうだい? もちろんそこのタルクスも!」

「ぶう! おなかペコペコなんだぶう!!」

「おおっ、ありがてえ! おれもペコペコだぜ、しかもこんなたくさんのごちそうの山、まるで夢みたいだって、あれ?」

 隊長からの誘いにブタ族が大喜びで空いている席に着こうとするが、あまり乗り気でないようなイヌ族の女子は、その場から一歩引いてみずからの細い首を左右に振るのだった。

 相棒のクマ族は舌なめずりしてすっかりその気なのに、横目できつく睨んでこれを制止する。

「いいえ。せっかくのお誘いですが、わたしたちはまだやることがあるので……! 荷物の整理だとか居場所の確保だとかが済んでから、ごちそうになりたいと思います。それでは」

 ぺこりと一礼して頑なに拒否する社長さんに部下の平社員はかなり不満げだったが、しぶしぶと出した利き足を引っ込める。

 さっさとごちそうにありつくブタ族を恨めしげに見ていた。

 相手のすげない態度を気にすることもないベアランドは了解してまたサラに問う。

「わかった。でもそうは言ってもふたりはこの艦のことはまだ不慣れなんだよね? じぶんたちにあてがわれた専用のセル(居室)だとか、わかるのかい? パイロットだからアンダーフロアのデッキよりにあるんだろうけど、広いよ? あと荷物とか、じぶんのアーマーに積んで来たのかな? あの大きなアーマーならいくらでも入るんだろうけど……」

 若いのに世話好きなクマ族の気遣いに、とかく性格サバサバとしたイヌ族の社長は何食わぬ顔で応じる。

 負けん気が強いのが態度にわりかしはっきりと出ていた。

「恐れ入ります。でもご心配なく。そのためのこの平社員ですから。これから荷下ろしして、さっさと身支度整えます。ほら行くよ、平社員!」

「な、なんだよっ! さっきからヒラヒラヒラヒラ! また戻るのかよ? 道わかるのか? またあのでかいクマのおやっさんにどやされるのは勘弁だぜっ! あとおれ、道おぼえてねえからな?」

 途端にドタバタやりはじめる若い男女コンビに、また肩をすくめてはしょうもなさげに隣のメカニックの青年を見る隊長だ。

 するとその若いクマ族は、すんなりとうなずいて了解する。

 みずからすっくと席を立つと、ちょっとした内輪もめをしているイヌとクマに声を掛けた。

「じぶんが案内させていただきます! 個人の端末に艦内情報やおおよその見取り図は入っているのですが、見慣れない人間がうろついていると無駄に怪しまれたりするので、顔が知れているじぶんがいたほうが何かと都合がいいと思われますので……!」

 するとはじめとても意外そうに若いメカニックマンを見るふたりなのだが、ベアランドが大きくうなずく。

「そのリドルの言うとおりだよ。まずは部屋まで案内してもらって、そこで一息ついてから仕事に取りかかればいいよ。それじゃあリドル、ふたりのことはよろしくたのんだよ!」

「はい! お任せくださいっ、少尉どの」

 元気に了解してふたりに向き直る若いクマ族に、ここは素直に納得する女社長であった。

 おまけ目の前の相手がじぶんよりも年下だろうと踏んで、けっこうなため口で好き勝手な言いようしてくれる。

「あ、そう。それじゃよろしく頼むわ。部屋ってどのくらいの広さがあるの? ひょっとして相部屋とか言わないわよね?」

「お、おまえ、あんまりワガママ言ってるなよ? ここ、言ったらまだアウェーだぜ、おれたち?」

「社長におまえとかいわないでよ。平社員のぶんざいでさ!」

「おまえもひとのこと平社員とか言って、バカにしてるだろ!」

「あんたは実際に平社員なんだから、何も悪くないでしょう?」

「このじぶんも伍長でありますから、言ったら平社員さんみたいなものであります! おなじ階級同士、よろしくお願いします」

「軍人さんが入って来たらわけわかんねえ! それって平社員なの? いや平社員ってなんだよ? 社員にわざわざヒラとかつけんなよ!!」

「うるさいわね? 平社員はどこまで行ったって平社員でしょう? いいからさっさと歩きなさいよ、この社長をエスコートするのがあんたの役目じゃないの? 平社員なんだから!」

 やかましい言い合いは彼らが食堂を離れるまで続いた。

 
  Part5

 はじめの食堂を後にすると、若いメカニックの案内のおかげで目的の場所にはいともたやすくたどり着いた、新人のパイロットコンビたちだ。

 艦内は恐ろしいほどの広さがありこの構造が込み入っていたが、マップの案内を見るまでもなくすんなりとふたりのアーマー乗りにあてがわれた個室へと導かれる。

 その道中に何度かすれ違った船員たちに振り向かれはしたが、リドルという若いクマ族の青年がいてくれたことで問題なくスルーできた。

 話にあった個人が所有できる小型端末は、艦から専用のものが提供されるとのことで、そこには個人用の専用IDなどが入っているから紛失には気をつけてくださいという、クマ族にしてはやけにやせ形のメカニックの言葉には、ちょっと不審げに聞き返すイヌ族の女社長のサラだった。

「そうなんだ。あ、でもちょっと待って? わたしたち、そんな端末なんて渡されてないんだけど? それがないとこの艦のマップ確認や本人の証明もできないんでしょ、どうすればいいの?」

 そのように聞き返すに、前から振り返るクマ族の青年は、屈託のない笑顔でとても明瞭に答えてくれる。

「いえ、ご心配なく。端末はそれぞれの部屋にひとつずつ備え付けてありますので、どうぞそちらをご利用ください。はじめに個人認証だけやってもらえれば、問題なく使用できるはずです! それではどうぞ、お部屋の確認をおねがいします」

 イヌ族の女アーマー乗りに部屋の入り口をはいと示して見せると、そのドア横のプレートにある名前がみずからのものと一致することを確認して、軽くうなずくサラだった。

 相棒のクマ族の部屋は、ちょうどその向かいにあるのも確認。

 とりあえず相部屋ではなかったことに軽く胸をなでおろした。

 扉の前に立つと自動ドアではなかったことに少しして気が付いて、メカニックの青年とちょっとだけ苦い顔を見合わせる女社長だ。社員のクマ族は、さえない表情でどことも知れない場所を眺めていたが、腹の音を鳴らしてがっくりとこの肩を落とす。

 さてはさきほどの食堂のごちそうにありつけなかったのをいまだに悔やんでいるらしいが、さっさとあんたもやることやりなさいよ!キツい目で睨んで、みずからの手で自室のドアを開けた。

 ニッシーのことはもはや完全に無視して、まずはおのれにあてがわれた部屋の様子をぐるりと見回すサラである。

 見た感じまだ新品の室内は、イヌ族の彼女からしてもさしたるニオイがないまっさらな状態で、過不足のない調度品とそれなりの広さがあった。

 ひとりで生活するには快適だろうことがうかがえる。

 部屋の中央に立ってしばらく周りを見回してから、とても満足のいった調子で感想を口にする社長さんだった。

「ふうん、思ったよりも悪くないじゃん! 広さもそれなりあるし、ベッドが格納タイプだからへんなデッドスペースも生まれないし。下のデッキが近いとは言っても、ヘタな騒音も伝わってこないみたいだしねぇ?」

 悦に入った感じで言ってやると、ちょっと離れたところから返事を返すメカニックの青年に、妙な顔をして出口を見返すイヌ族の女子だった。

「ねえ、なんでいつまでもそんなドアの外にいるの? 別に入ったってかまわないわよ? 女子の部屋だからって遠慮してるなら、そんなの余計な気遣いだし! ほら、入っておいでよ? 今さら廊下で立ち話もなんでしょう?」

 そう言って入室を促すのに、さっさと身を乗り出して入ってきたのは、招いてもいないはずのやぼったいぼさ髪のクマ族の男だった。

「へえ、意外と広いじゃん? 良かったな、社長、こんだけあれば何するにも不自由しねえだろ、てことはこのおれの部屋もおんなじで広いんだよな!」

「なんであんたが入ってくんのよ! 平社員!!」

 ほぼ反射的にカウンターのストレートを相手のアゴに向けて放つ気の強い女社長だった。対して慌てて身をのけ反らすクマ族の平社員、もといニッシーであった。

 当のメカニックのクマ族の青年が、後から苦笑いで入ってくると、右手の壁にある小型端末らしきを指さして言うのだ。

「これが端末です。新品ですよね? 認証作業ははじめの内にやってしまえば、デッキブロックの出入りや、食堂やその他の施設もフリーパスで使えるようになります。やらないといつまで経ってもよそ者扱いされてしまうので。おふたりの荷物を取りにデッキに降りることもできませんからね……!」

 にこやかに説明してくれるそれは性格の律儀で温厚なクマ族に、こっちのほうが社員としてほしいわー、とか口にしながら、笑顔で首を振るサラであった。

 みずからの足下を見ながらに言ってくれる。

「ううん。その必要はあいにくとないみたい。見て、ちゃんと荷物が届いているじゃん! ラッキーよね?」

「ラッキーって、なんでそんなもん届いているんだよ? そんなサービスまで完備してるのか、この軍艦は?」

 ひどく不可思議そうな顔つきする社員のクマ族と、おなじくきょとんとしたさまのメカニックのクマ族に向けて、そこは生まれつき商魂のたくましい女イヌ族である。

 いけしゃあしゃあと言ってくれた。

「こっちにアーマーで乗り込んで来た時に、たまたまデッキでおんなじイヌ族の若いパイロットたちと遭遇したんだけど、なんか見てたらやけに気が弱そうだったから、ためしに荷物運びをお願いしてみたのよね! そしたらこの通り、ちゃんときれいに全部運び込んでくれたんだわ。後でちゃんとお礼を言っておかないとね?」

 ぱちりとウィンクするやり手の女社長に、どん引きするニッシーとやや苦笑いのリドルだ。

 メカニックの彼にはそのパイロットたちに思い当たるところが少なからずあって、頭の中では第二小隊の若手のイヌ族コンビを思い描いていた。特に気が弱そうというところがもろに当てはまって、なおさら苦い表情になるのだった。

「はあ、たぶん、コルク准尉どのと、ケンス准尉どのたちですね、それって? どちらも第二小隊のパイロットさんです。災難だったな。これ、けっこう荷物としては大きいですよね。ぼくも手伝わなけりゃならないと思ってたから、後でお礼を言っておかなくちゃ……!」

「やだ、あんたってほんとに律儀ね! マジで気に入ったわ。どう、あたしのところに引き抜かれない? そんな若いのにもうこんなでかい軍艦のメカニックだなんて、腕もそれなりのものなんでしょう? 悪い条件は言いやしないから、良かったらこのわたしのアーマーのメカニックもやってみてよ?」

 出し抜け思いも寄らぬ提案に、びっくりした顔のメカニックマンだったが、これに横から新米パイロットのクマ族がしたり顔してたたみがける。

「そうだな、おれも歓迎するぜ? おまえとならいいコンビを組めそうだ! 年下だろ? あとついでにこのおれの荷物を運び込むのも手伝ってくれよ? もとからそのつもりだったんだろ、な、な?」

 調子のいいことをぬかすのに、これにも笑顔ではいとうなずくお人好しの青年クマ族であったが、社長のサラによってきっぱりと拒否された。

「あんたはじぶんでやんなさいよ! もしくはあのデカブツのおじさんメカニックに運んでもらったら? あんたのアーマーを専門で見てくれるんでしょう? よかったわね。まあでもその前にまずはじぶんの部屋の中をのぞいてみれば?」

「?」

 はじめ辛辣なサラのそのくせどこか意味深なもの言いに目を丸くするニッシーだったが、その後の言葉には狂喜乱舞して部屋を飛び出していくのだった。

「とりあえずあんたの荷物も運んでくれるようにお願いはしておいたから。新しく入ったでかいアーマーって言えば、わからないことなんてないでしょう? このぶんなら、たぶんやってくれたんじゃない? ほんとに気弱な感じでやたらに首を縦に振っていたから。特に毛むくじゃらで顔色の暗いイヌ族のほう!」

「それ、絶対にコルクさんだ……! ほんとに災難だったな」

 ちょっとかわいそうに思いながら、この話を第二小隊のオオカミ族の隊長が聞いたら、なんだかめんどくさいことになるんじゃないだろうか?と気がかりにもなってくるリドルだ。

 そんな暗い顔の横で、パッと顔つきが明るくなるもうひとりのクマ族は、ガッツポーズを取って部屋を後にしていく。

「ひゃっほー! 社長最高だぜ!! 腹すかしたまんまで力仕事だなんて一番の拷問だもんな? とっとと荷物をほどいてさっさと食堂に行ってやるぜ! 戦艦グルメをひとりじめ!!」

 好き勝手にほざいて向かいの部屋に入った途端にまたそこから調子外れな絶叫が聞こえてくる。

 残されたクマ族の青年と目を見合わせてちょっとだけ肩をすくめる社長さんだった。

 どうやら律儀で気弱なイヌ族たちは、見ず知らずのクマ族の荷物までもきちんと運び込んでくれたのらしい。

 何はともあれでとりあえずやることは終えたらしいと理解するクマ族のメカニックマンは、一礼して部屋を後にすることを伝える。

 もう引き留める理由もない若い女社長も笑顔でうんとうなずくのだが、それがなぜか真顔になってリドルに聞くのだった。

 これにはたと首を傾げる青年クマ族だ。

「あ、そうだ。この戦艦の乗組員に、もしかしてゴリラ族って複数いたりする? いわゆるパイロットとかじゃなくてさ?」

「はい? ゴリラ族の方、ですか……?」

 怪訝に首を傾げる彼に、イヌ族のサラは何やら険しい視線を投げかけるが、それが実はじぶんではなく、その奥の入り口に向けてのことだと察してそちらを振り返るリドルだ。

 するとそこには、いつの間にかある人物が立っていたのに目を丸くする。そんな気配はまるで感じられなかったはずなのだが。

 扉の前には華奢でやや小柄な身体つきをしたネコ族の男が立っていた。

 果たして一体、いつからそこにいたのか?

 ネコ族とは言いながら、かなり特徴的な見た目と格好をしているで、それがごく最近にこの船に乗り込んできたアーマー乗りのひとりだとすぐにも理解はするものの、はじめ言葉に詰まる若いクマ族だった。

 小隊のメンバーたちとの今朝方のブリーフィングでの会話にもあった通り、まったく知らないわけではない。

 実際、この彼自身も彼らの乗るアーマーへの興味本位から、このアーマーデッキに足を運んだりしたこともあるのだが、その時はろくに会話するまでもなく、あっさりと追い返されてしまったのだ。

 それだからちょっと気まずいカンジで尻込みしていると、すぐ隣にまでつけるこの部屋の主の女社長のイヌ族が、毅然としたさまで言ってくれる。

「レディの部屋に来たのなら、ノックくらいしてくれるものなんじゃない? いくら見知った仲でもね! あと、その後ろに隠れているヤツも、とっとと姿を現したら?」

 若いのに堂々としたさまにちょっと感心してしまうリドルだが、何食わぬ顔をした当のネコ族は悪びれるでもなく、かすかにこの肩をすくめさせた。

 そうして鋭い目つきをおのれに横に差し向けると、見えない壁の向こうで何かしらの気配が動いて、高いところからのっそりともうひとりの影がこの顔を出てくる。

 異様に大きな身体つきした相棒のゴリラ族のパイロットだった。全身が毛むくじゃらで、筋骨隆々としたマッチョマンだ。

 それがちょっと照れたような顔でこちらに会釈してくる。

 気配を消していたのになんでわかったの?とでも言いたげな顔つきに、イヌ族のサラは冷めた調子で答える。

「イヌ族が鼻が利くのはみんな知ってるでしょう? あんたみたいにでかくて体臭がきついゴリラ族だったらなおさらだわ!」

「えっ、そうなんですか? ぼく、ぜんぜん気がつきませんでした! ベリラさんて、臭うんだ??」

 サラの言葉を真に受けた挙げ句、なんか違う方向でまでビックリするクマ族の青年に、ゴリラがあからさまにげんなりしたさまでガックリとしょげる。

「うほ、おれってそんなに臭うかな……? ちょっとショックなんだけど」

「気にするなだにゃ! オレはおまえがそんなに体臭きついだなんて、思ったことないのだにゃ!」

 目つきの冷めたネコ族がどうでもよさげにあしらうのに、サラがくっくと鼻先で笑う。

「冗談よ。体臭っていうよりは、むしろバナナの匂いよね? いつも食べてるから身体に染みついているんでしょう! ちょっと問題よね。そんなんで隠密行動なんてされても一発で見抜かれちゃうわ、わたしたちみたいなイヌ族なんかにはね!」

「うほ? そうなの? 確かにさっきも食べたばっかりだけど、そんなに臭うかな? でもバナナはいい匂いだから、問題ないよね? エチケット的には?」

 なんか的外れな言い分に、なおさら目つきが冷たくなるネコ族のイッキャだ。

「ダイエットするにゃ! 全身から甘い匂いのするアーマーパイロットなんて、なめられるだけなのだにゃ。オレの評価も下がるのだにゃ!」

「オシャレでいいんじゃない? 汗臭かったりケモノ臭かったりするよりは女子受けぜんぜんマシなはずよ。ていうか、ふたりしてわざわざ何の用なの? ひょっとしてご近所さんだからご挨拶だとか?」

 あまり歓迎しているそぶりがない素っ気ないイヌ族の女子のセリフに、なんかいずらい雰囲気を感じてしまうクマ族のメカニックは愛想笑い浮かべてイッキャに向かう。

 部屋を出て行くにもこのネコ族が邪魔でどうにもならない。

 向かいの部屋のサラの相棒のクマ族は、すっかり影をひそめていた。気がついていないのか、関わる気がないのか?

「おふたりはデッキが艦の後方だから、こちらのエリアにいるんですよね? てか、勝手に荷物を持ち込んで占拠したとかブリッジ・クルーのビグルスさんが怒ってましたけど?」

 控えめなそぶりと目つきでどいてくださいとお願いしたつもりが、相手はまるで気にもせずで入り口前で仁王立ちだ。

 むすりとした顔つきのネコ族は、若いクマ族など眼中にないさまでとなりのイヌ族に向けてものを申す。

「悪いがちょっと話があるのだにゃ。ここではなんだから、下のデッキで話すのだにゃ!」

「ここではできない話なの? ふうん、ま、別に構わないけど、今すぐにってのは急なはなしよね。まあ、あなたたちにはここを紹介してもらった恩義もあるから、聞いてやらないこともないけれど……?」

 いかがわしげな目つきのサラは、横で困ったそぶりのリドルと目が合うと、かすかに細い肩をすくめさせて了解した。

「オッケー! なんかメカニックくんが困ってるから、今からでも聞いてあげるわ。行きましょう。じゃ、メカニックくんはここでさよならね! いろいろ親切にありがとう♡」

 軽くシッポをひとふりしてその場を後にしようとするサラに、これを後ろから見送ることになるリドルは、なぜだかちょっと心配になって、思わず声をかけてしまった。

「あ、あの、じぶんもご一緒させてください! その、イッキャさんやベリラさんのアーマーに興味があるので、ちょっとだけ眺めさせてもらいたいなって……! よろしければ?」

 意外なことを申し出るクマ族のメカニックに、振り返るイヌ族の女社長はちょっと目を丸くして見返すが、相手がことさら真顔なのにクスリと笑ってネコ族とゴリラ族のコンビに申し出る。

「オッケー! わたしは構わないわ。オブザーバーとしての参加を認めてあげるけれど、そっちも問題ないわよね? それとも何か聞かれちゃまずいことでもあるってのかしら?」

「…………」

 するとふたりはしばし微妙な顔つきでお互いに見合うのに、あ、なんかマズイことを話すんだな?と内心で感づくリドルなのだが、顔には出さないで三人の後に続いた。

 向かいの部屋のクマ族の平社員にも声をかけたほうがいいかなとは思ったが、サラがさっさとその場を離れるのにこのふたりの関係性みたいなものもなんか理解したような気がして、黙ってこの後に続くのだった。


               ※次回に続く……!

 



ニッシー、サラ、タルクスに案内されて、食堂の第一小隊メンバーと合流。二人は個人の居室(セル)にリドルの案内で向かう。相部屋だったのに、サラが反発? 

イッキャとベリラに遭遇?

ニッシー(ジンジャ・エル)とイージュンの掛け合い
サラ合流 タルクス合流


 




   22プロット

 今回からさらに戦場派遣会社「ミカン・ペースト」の女社長サラと平社員のニッシーが新たに加わる。←先に入ってきたイッキャの紹介。ニッシーの搭乗するアーマーは、大型機なので、ペアランドのランタンと同じ、大型機用のハンガー・デッキに収まる。出撃時も、通常のカタパルトは使用できないので、ベアランドと同じ強制射出システムを共用。本人はすごくイヤがる。

 ニッシーのパイロットスーツはわけあり。←タルクスがバラす。

 ベアランドは収集したデータをランタンのコクピット内でリドル、ザニー、ダッツと共にミーティングで考察する。

 ミーティング後に、ニッシーとサラが登場。

 ニッシーの大型機は、イージュンが担当することになる。

 ベリラとイッキャは基本は艦の守備部隊として、後方のアッパーデッキを勝手に占有。←リドル

 敵の示威行動… アーマー出撃、カノンとイワックと会敵?

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ルマニア○記/Lumania W○× Record #019


 Part1

 これまでの話の流れ……

 強敵であるライバルのキツネ族、キュウビ・カタナ少佐率いるキュウビ部隊を海上の空中戦で辛くも撃退、そのまま目指すアストリオン中央大陸に上陸したベアランド達、第一小隊の面々。

 途中、小隊のチーフメカニックの青年クマ族、リドルの補給機からの補給を受けて、いざひたすら目標となる「ポイントX」へと向けて、それぞれのアーマーを進ませるのだった。


 その始まりこそ、強敵の敵アーマー部隊の襲来と激しい空中戦で幕を開けたが、いざそれが過ぎ去れば、あとはすんなりと目標となる地点――。

 中央大陸の広大な砂漠地帯のおよそ真ん中にあるターゲット地点まで無事、この駒を進めることができたベアランドたちクマ族小隊だった。

 かくしてみずからが搭乗するアーマーのコクピットの中、上空からこの目標地点をモニター越しに見下ろしながら、ちょっと気の抜けた感じの言葉を漏らす部隊長だ。


「ふうん、いざたどり着いたのはいいものの、思っていたのとは大部この様相が違うな? 敵基地を空から強襲する作戦ってはずだったのに、まるで敵さんからの歓迎がないじゃないか……! おまけに見た感じ、なんだかひどくさびれた感じがするけど、実はもう無人だったりするのかな、あのベース??」


 そんな疑問を口にしながら左右のスピーカーに耳を澄ますが、ちょっとの間を置いて聞こえたのは部下のおじさんクマ族たちの、これまたどこか気の抜けたような返事だった。

 モニターにはあいにくこの顔が映らないが、さてはどちらも冴えない表情しているのがよくわかる。

 まずは明るい赤毛のクマ族が、のんきなものいいで言った。

「ほえ、なんやようわりませんが、敵さんのわんさかおる秘密の軍事基地っちゅうよりは、ただの野ざらしの廃墟みたいにぼくには見えますさかいに。知らんけど? 実際、ひとっこひとりおらへんのちゃいますぅ?」

「せやんな! ただのくたびれたあばら屋やで、あんなん! あないなボロッボロの建物、軍事拠点とは言われへんやんけ? マジでひとの気配あらへんし!!」

 名うてのベテラン・パイロット専用にあつらえた赤い機体に乗り込んだザニー中尉の言葉に続いて、こちらもまた専用の青い機体のおなじく中尉どののダッツも、思ったまんまの感想を口にしてくれる。

 これにひとしきり納得して頷く隊長のベアランドも、手元のコンソール周りを見回しながらなおのこと不可思議に考え込む。

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「そうだね……! 各種センサー類はなんらの反応や異常も感知しないし、こうしてぼくらに上空を制圧されてもまるで無反応。あえておびき寄せているのにしても、ここまで偽装する必要はないし、リスクが高すぎるよ。それどころかあれってのはもはや、陸軍基地の体裁をなしてないものね!」

「ほんまにボッコボコにされてんのとちゃいます? どこの誰かはわからんけど、実際に戦闘の形跡なんちゅうもんもそこかしかに見られますやんけ! ほんまに誰や!?」

 何かと性格がツッコミ性分で口やかましいダッツに、それとは逆にこちらはボケ気質で、のんびりした口調のザニーが返す。

「知らんがな。せやけど手間が省けたのには違いないような? てっきりぼくらが空と基地の周りをまとめて制圧して、後からやって来るあの口うるさいオオカミの隊長さんとこの第二小隊が、ガチガチの特攻かけるんかと思ってたんやけど?」

「せやったんか??」


「知らんけど」

「なんやねん!」

 そんなのんきなおじさんたちの好き勝手ないいようにまだどこか顔つきの冴えない小隊長は、だがやんわりとそれを否定する。


「いいや。今のシーサー達の機体はあくまで海上作戦仕様のそれだから、おいそれとこの陸上まではね? 海岸線からずっと内陸のここまでどのくらい時間がかかるかわらないし、一旦は母艦に戻って、『トライ・アゲイン』と一緒に来るはずだよ。そうさ、今頃は元の地上戦仕様にリドルやイージュンたちが、それこそてんてこまいで換装し直しているんじゃないのかな?」

「そないですか。でも灰色オオカミさんの機体はいざ知らず、わんちゃんたちのビーグルⅥは、元はぼくらとおんなじ機体の空中戦特化型やから、さてはそっちに戻しはるんですか?」

「はあ、せやったら空中戦仕様ばっかりになってまうやんけ!」


 どこまでものんきなおじさんたちの言いように、ちょっと困った感じの若手のクマ族は、おざなりな返事を返してやる。

「さすがにそれはね? ちゃんと陸上作戦用のパーツがあるはずだし、中尉たちのとおんなじ同型機とは言っても、ぶっちゃけあの子たちのはあんまり空中戦には向かないみたいだから……! てか、全身フルカスタムのその機体は、一発でこれがビーグルⅥだって見抜けるひと、そうそういないんじゃないのかな?」

「ふふん、それもそうですな! 昔のちみっちゃいビーグルⅤとはちごうてぼくらクマ族さん専用に作られた機体やから。言わば新型のⅥのプロトタイプそれこそが元祖みたいなもんで。おかげさんでめっさ気に入っておりますわぁ」

「そいつは良かった! 裏じゃ走る棺桶だなんて呼ばれてたⅤは、そもそもしてこのぼくら大柄なクマ族が乗るにはおよそ適していないボディサイズだったからね? 今のリドルが乗ってる旧式のⅣとは、あきらかに犬族たち向けにサイズダウンしたみたいな……」

「せやせや! 軍の犬族のお偉いさんがなんやわしらクマ族をきろうてそうしたって、もっぱら噂になってたやんけ! う~ん、なんやめっちゃむかつく話やけど」

「知らんがな。今はどうでもいいこっちゃ。で、どないします、隊長??」 


 左のスピーカー、もはや緊張感なんてものがどこにもないザニー中尉の問いかけに、果たして困り顔でうなるベアランドだ。

 このまま後続の本隊が来るのを待つのも芸がないかと、仕方もなしに荒れ果てた見てくれの目標地点を機体の右手で指さして、状況の確認をするように部下のおじさんたちを促す。



「なんだかこれはこれで返って手間が増えた気がするけど、ぼくらで基地の状況を把握して後続の母艦を誘導しよう。安全が確保されないままじゃ、艦長も艦をおいそれとこの場に着艦させられないし、どうせその役を負うのははじめにここにたどり着いた、このぼくらなんだし?」

 はいはい、と冴えないおじさんたちの返事を左右から聞きながら、いざどこに着地したものかと正面のメインモニターを凝視する。すると普段からのんびりしたもの言いが性格おっとりしているようで、その実は意外と目端の利く、明るい赤毛のクマ族のザニーが気をきかして言うのだった。


「そないですか。でもせやったらまずはじめにこのぼくらが降りますよって、隊長はどうぞ後から降りてきてください。不意打ちなんてあらへんのやろうけど、みんなそろうて待ち伏せくろうたら面倒ですさかいに?」

「せやんな! じゃ、お先に、隊長! わははっ」

「あ、そうか、了解! 確かに見れば見るほどにいかがわしい感じだけど、やっぱり投棄されているんだよな、あの基地って?」

「実際に中をのぞいたらわかるんちゃいます? じゃ、ぼくらが場所を確保したら、そのごっついかついアーマーで降りてきてもろうて。それともじきに艦が来るまでそこで待ちはります?」

「いいよ。ぼくもなんやかんやで興味があるから。せっかくだからみんなであのでっかいお化け屋敷の探索としゃれこもう♡」


 およそ迷いのない慣れた操作で、深い渓谷の谷間に造られた軍事拠点に向けて降りていく二機のアーマーを見ながら、みずからはぬかりなく周囲を見回しながらに冗談を言ってやる。

 あいにく無言のスピーカーからは、ゆるい空気とぬるい息づかいだけが聞こえた。


 おじさんたちはどうやら苦笑気味らしい。

 やがてすんなりと地面に着地した二機のアーマーからOKの手振りと頭部カメラのライトの明滅を見て取って、自身も大型の機体を谷間の底へと下ろしていく、若いクマ族の隊長さんだった。


 Part2


 仲間たちの誘導によって、空から地上に降り立った大型アーマーからこのコクピットハッチを開けるなり、まずは周囲のありさまをマジマジとおのれの肉眼で確認するベアランドだ。

 すでにこの脇に降り立っていた仲間のダッツとザニーはみずからのアーマーからも降りて、真下の日に焼けた大地がむき出しの地面からこちらを見上げていた。

 あたりは乾燥した砂漠地帯だ。

 乾いた空気が鼻先をなでるのを感じながら、やはり危険らしき兆候はないことを確認してこのクマ族の隊長も自機から地面へと降り立つのだった。

 しっかりとした固い大地の感触を久しぶりに踏みしめる。

 正面の視界一杯に廃墟よろしく荒廃した敵軍の軍事基地、この右を見れば見渡す限りが切り立った断崖絶壁、その反対に視線をやればそこには広くて平たい乾いた地平が拓けている。

 いわゆる空軍やアーマーの離着陸向けの滑走路なのだろうが、放棄されてどのくらいが経ったものか、そこかしこに砂漠の砂らしきが降り積もっていた。

 この場が放棄されているのが丸わかりだ。


 また乾いた風が吹くと、あたりに砂埃が舞うのにちょっとだけ顔つきをしかめるクマ族たちだった。

 ただでさえ剛毛で毛深い身体にまとわりついた乾いた細かな砂のつぶは、真水では洗い流すのがひと苦労だ。アーマーのコクピットに戻る前にひととおり払い落としておかなければならない。

 顔の前の砂気混じりの空気をうざったげに手で払いながら、いつもののんびりしたさまでザニーがとぼけたセリフを吐く。

 すぐに相棒のダッツに横から突っ込まれたが。

「ほんまにお化け屋敷みたいやんな? 静か過ぎてちょっと気味が悪いわ。なんや出てきよったらどないしよう?」

「なんやってなんや? なんもおらへんやろ。あんなんただの廃墟やんけ! どこをどう見てもよう?」

「知らんわ。ほなら隊長、どないしましょ。やっぱり内部をのぞかないけませんか? ……隊長、どないしました?」

 そう背後を振り返った赤毛のクマ族の中尉どのに問われて、何の気無しの返事を返す隊長さんなのだが、みずからが見つめるてんで見当違いの方角を指で示しながらに逆に問いかけていた。

「ああ、いやっ……! というか、あっちのあそこに停めてあるあれってのは、いわゆるジープ、だよね? しかもおそらくは友軍の?」

「はい? ああ、ほんまや、一台あんなとこにおったんや。ほならバッくれた敵さんがたまたま残していったんちゃいますか?」

 遠くの滑走路とひび割れた地面の境界線のあたりに停められた、明らかに軍用車両然としたそれに、今になって気づいたらしきおじさんのベテランパイロットも、はあ、と気のない返事だ。


「いや、でも敵軍の車両は、アゼルタのは基本あんな色はしてないはずだから。ぼくらとおんなじ系統の緑色で、元はルマニアの車両なのかな? あれだけやけに見てくれきちんとしているんだけど、外部から乗り込んできたのかね、ぼくらとおんなじで? まだ砂埃をかぶってないから、比較的つい今し方にさ……!」

「ちゅうても誰もおらへんやんけ。持ち主はどこ行ったんや? てことは不審者がおるっちゅうことなんか? めんどいのう!」

 怪訝なさまでダッツも後ろから顔を出して文句をたれるのに、なんとも言えない顔つきのベアランドは肩をすくめるばかりだ。


「まあ、何であれ用心するにこしたことはないね? 敵対者とは限らないけど、誰かしら第三者がここにいることは間違いなさそうだ。しかもあちらさんもこのぼくらの存在に気づいているだろうし、ね?」

「はあ、無防備にめっさ砂煙を巻き上げてアーマーで降りてきてまいましたからな? そんなもんで隠れるんならやっぱり……」

「あっこのお化け屋敷しかないやんけ! ほんまにめんどいわ。白兵戦なんかアーマーのパイロットがやることちゃうやんけ」

「だから敵対者とは限らないだろう? まあいいや、それなり気をつけながら、予定通りにいざ探検に繰り出すとしようよ。基地の状況の把握と安全の確保が第一だ。お客さんは無理に正体を追求しなくとも、後続の味方に任せてもいいわけだし」

「了解」


 果たして目の前の廃墟とし化した目標の軍事拠点へと、三人で大股でのっしのっしと歩き出すいかついクマ族小隊だ。

 あちこちが朽ちかけたコンクリの建物の、出入り口の一つと思われるものへと歩み寄って、その大型の鉄製の扉を見上げる。

 分厚い鋼鉄の扉はだがこれが微妙にゆがんでいて、外側へと若干傾いでいるのが見て取れる。おまけにひとがひとり通れるくらいの隙間が空いているのに、先頭に立つザニーがちょっとおっかなそうに中の暗闇をのぞき込む。


「ほえ、とりあえずここから入れそうですわ。お客さんもこっから入ってたりして? ほんなら誰から入ります??」

「暗いな? てか、誰からでもいいよ」


「おまえから行けよ! いいトシのおっさんがお化けがコワイとか言うんちゃうやろ? そら、邪魔やからさっさと行けって、早うせいやっ、て、おわっ、いきなりコケんなや!!」

 相棒の灰色熊にムリクリ押されて内部に入った途端にそろって何かにけつまずいたらしい。せわしないおじさんたちの後からのっそりとひときわ大柄な身体を潜り込ませるベアランドだ。

「ふたりとも落ち着きなよ。いいおじさんがみっともないてか、あらら、ほんとに真っ暗だな……!」

 あたりはやはり真っ暗闇で、照明はおろかどこにも非常灯の明かりらしきすらなかったが、少しすれば目が闇に慣れるだろうとぼんやりした辺りを見回してみる。

 人の気配はどこにもなく、すっかりと廃れたそれこそが廃墟であるのが肌身で感じ取れた。

 ゴタゴタしながらその場に立ち上がるおじさんたちとまだ慣れない視界で気配だけで意思の疎通を図るが、いいや、直後にはみんなでぱちぱちとお互いの目を見合わせることになっていた。

「……おっ、明かりがついたね? いきなり! お客さんの仕業かな? 察するにどうやら中の様子に詳しいようだ。何でだろ? それにこの基地の主電源と動力部はまだ生きてるらしい。敵勢から奪還した後はそのまま本来の主のアストリオン側に引き渡す予定だったから、よしよし、破壊された廃屋をただくれてやるよりはまだ面目ってものがたったね!」

 舌なめずりしてひとりでほくそ笑む隊長に、はじめまぶしげに天井の照明を見上げる部下のおじさんたちは、これがやけに微妙な顔つきでうさん臭げにあたりを見回す。

「ちゅうか、なんかイヤな感じですわ。まんまと内部におびき寄せられたような、あっちの手のひらの上で遊ばれてるような、敵でないんなら堂々と姿を現せばよろしいのに……!」

「ほんまやな! いけ好かんわ。みんなでドツキ回したらな!」

「いいじゃないか。こうやってわざわざ明かりを点けてくれるあたり、不意打ちする気はないってわけで、ひょっとしたらそもそもぼくらのことに気付いてなかったりするんじゃないのかな? 何かぼくらとは別の目的で侵入したんだと推測できるよ、もはや♡ 見つけたら仲良くしてあげよう」

「ほんまですか? そやかてぼくらはどないするんです、これと言って目的もなしにいたずらに入り込んでしもうて」

「目的ないんか? なんで入ったんや??」

「探索だろ? ほんとに敵はいないのか、現実に投棄された基地なのか、内部にあぶないモノが残されたりしてないか……なさそうだけど」

 気楽に雑談しながらこれと行く当てもなしに建物の内部の奥深くへと無防備なさまでのそのそ歩いて行くクマ族たちだ。

 とは言えさすがにアーマーのパイロットともなるとそれぞれに腕に覚えありの強者だったから、ちょっとやそっとのものと出くわしても無難に対処ができる。

 で、入ってから三つ目の角を右に折れたところでだ。


 思いも寄らぬものとまんまと真正面で出くわして、思わず悲鳴を発するザニーと謎の闖入者だった。


 Part3



 これと言った気配もさしたる足音もなしに、だがそれは忽然といきなり彼らの目の前に現れた……!

 もとい、もっとしっかりと周囲に気を払ってさえいれば、事前に察知ができたのかも知れない。

 なにはともあれ、無作為に見たまんまのT字路となる通路の角をひょいと右に折れた先で、まさかの謎の先客、潜入者との突然の邂逅を果たした明るい赤毛のクマ族のおじさんだった。

 一番先頭に立って先導していたものだから、正体不明の相手とは、一番はじめに接近遭遇を果たすこととなるザニー中尉だ。

 おまけに真正面からもろにこれと衝突した挙げ句、のわっと背後にのけぞっては後続の二人の仲間のクマ族にこの背中をすっかりと預けることとあいなる。

 ドンっという鈍い衝撃音と、ザニーのくぐもった悲鳴と、何故か、ぶうっ!といったおかしな悲鳴が、ほぼ同時に発生する。

 ただしこの頃には辺りにはしっかりと照明が灯っていたこともあり、緊迫感は希薄なのだが。


 相手はいかついクマ族のおやじの体当たりをこちらもまた不意だったのか、それはまともに食らって派手に背後にのけ反っては、ただちにそのまま背中からそれは大げさに転倒していた。

 すってんころりん!

 さながらマンガみたいなありさまでだ。

「うわっ、いきなりなんだい? 大丈夫かい、ザニー中尉! あと、いまのぶうっておかしな悲鳴みたいなのは……誰だろ??」

 見れば、ずてんと大の字で仰向けにひっくり返る何者かを、全身の赤毛を逆立たせてびっくり仰天! そんないまだに身体ごとのけ反るザニーの背中越しに、はてなと見下ろす隊長さんだ。

 拍子抜けしてちょっと呆れた感じに見つめてしまった。

 すると仲間のもうひとりの中尉どの、灰色熊のダッツがこれまた呆れまじりの罵声を浴びせる。

 こちらはおのれの相方のクマ族に向けてだったが。


「おう、しっかりせいや! おもっいきりぶつかってもうてるやんけ? 油断しすぎやろ、ちゅうか、いま誰とぶつかったんや? なんやおもっくそぶちのめしてるやんけ! ええんか?」

「し、知らんわ! ほええ、びっくりしたぁ! ほんまにどないなこっちゃ、いきなりぶつかってこられてよけるヒマあらへんかった。不意打ちすぎるやろ……!?」


 ふうっと胸をなで下ろしながらようやく落ち着いた様子のベテランパイロットのおじさんに、背後からこれを支える若手のクマ族は小首を傾げながらに視線で謎の第三者を指し示して言った。

「不意打ちだったのかな? 今のって?? ともあれ見たところじゃ相手は、まあ、どうやら敵さんなんかじゃないみたいだね? だってそうとも、あれっておそらくは……」

 不可思議な目線で見ているさなか、地べたに尻餅ついた何者かからはおかしな悲鳴ともうめきともつかない声が発せられる。



「ぶううううううっ! いきなりなんなんだブウっ!? ブッ、ふっ、不審者がいるんだブウっ、しかも三人も!? おまけにみんなでかくてとっても人相が悪そうなクマ族なんだブウっ!! わわっ、おっかないんだブウっ、ピンチなんだブウウっ!!」

 あんまり聞き慣れないもの言いと驚きようで、はじめこちらをひっくり返ったまんま顔だけで見上げてくる何者かは、顔面を真っ青にしながら反射的にその場にいそいそと立ち上がる。

 見るからにひどく動揺している不審者だった。


 おまけやけにたじろいださまで明らかに視線では逃げ道を探し始めるのに、対してちょっと困惑した顔で、とりあえずこちらに敵意はないことを両手を挙げて見せるベアランドである。

 寄っかかるザニーをとりあえず背後に押しのけて、みずからが正面に立ってこの場のとっちらかった状況をとりなした。
 
「いやいや、そんなに怖がることないだろう? ほら、言ったら味方同士じゃないか、ぼくら? なんたって見たとおりルマニアの正規軍のぼくらに、そっちはこの大陸の、そうさ見たところじゃアストリオン公国の正規兵だろう、そこのきみってば?」

「ほんまや! あんまり見たことないアーマースーツ着とるけど、もろブタ族やんけ! じぶん? ぶうちゃん丸出しや!!」

「ほえ、アストリオンはブタ族が主流っちゅうんは、ほんまやったんですか? せや、やたらにぶうぶうゆうてるし、一番はじめに出会うたのがこのぶたさんちゅうことは、ほんまに多数派なんや? ちゅうか、人相が悪そうなクマ族ってどえらい人聞き悪いことゆうてるけど、じぶんみたいな顔面ぶっさいくなぶうちゃんに言われたないわ、そないなこと?」


 ようやく事態がそれと飲み込めたらしく、ここに至ってちょっとしかめ面でお互いの顔を見合わせる中尉どのたちだ。

 おかげでなおのこと人相が悪く見えるが、それを横目で見ながらやれやれと肩をすくめる隊長のおなじくクマ族だった。

 それから目の前でおびえてすくみ上がるばかりの当のブタ族、その実はまだ若いのだろう青年兵士に向けて言うのだった。

「まあまあ。ひと口にブタ族とは言っても、いろいろあるらしいんだけどね? そうか、きみって見たところかなり正当派の純血のブタ族と見受けるけど、そんなブタ族さんがこんなところで何をしているんだい? おまけにたったのひとりきりで??」

 とりあえず同盟を結んでいる友邦国家の人間同士、なるべく紳士的に臨んでやるのだが、三匹、もとい三人のクマ族の中でも特に背が高くてがっちりした体格のクマさんのもの言いには、これが如実に引きつった表情で二歩三歩と後ずさる若いブタ族だ。

「ひいいっ、た、食べられてしまうんだブウっ!! ぶぶうっ、誰か、助けてくれなんだブウ!!!」

「そんなわけがないじゃないか! ほんとに人聞きが悪いな!?」

 不覚にもついには目をむいてわめいてしまう。

 かくして閑散とした通路に響き渡るおのれの声に、はっと我を取り戻すクマ族の隊長だ。

 一度わざとらしく咳払いなんかして、改めて目の前のブタ族に向き直るのだった。 

「おほん! いいから落ち着きなよ、いい加減に? お互いに偶然にもこうして鉢合わせしてしまったわけだけど、それぞれにそれなりの理由があってのことだろう? だったらきみはどこの誰で、何の目的でここに潜入しているんだい? そう、あとついでにここがこんな状態なのも、それと説明ができるなら是非とも聞かせてもらいたいもんだよな……!」

「ぶっ、ぶううううっ……! 敵ではないんだブウ? いきなりだからびっくりしてまったブウけど、怪しい見てくれだから味方とはわからなかったんだブウ、ほんとに味方なんだブウ?」


 ひとの言葉をどうにも信用しかねるように不信感があらわなぶたっ鼻をひくひくとひくつかせるブタ族である。

 対してこちらはみずからの太い首をはてなと傾げるクマ族だ。

「? 怪しい見てくれって、あ、後ろのふたりのおじさんたちのことかい? ひょっとして?? まあ、確かにこのぼくなんかと比べたらだいぶ派手なカッコをしてはいるけど……」

 言いながらぐるりと背後を見回すのに、これに目と目が合うふたりの部下のおじさんたちは、どちらも納得したような釈然としないような何やらビミョーな面持ちだ。

「ほぇ、つまりはこのぼくらのカッコのことゆうてるんですか、そこのぶうちゃん? なるほど、かつての王宮付きの特務戦術曲技団、ひと呼んで〝サーカス・ナイツ〟の衣装やから確かにレアなんやと思うけど、そないにビビらんでもよろしいのに」

「なんやっ、人相が悪いやらカッコがダサいやら、ほんまに言いたい放題やんけ! ほんまに焼き豚にして食ろうたろか?」

「ダサいとまでは言われてへんのちゃう??」

「ひええっ! やっぱりおっかないんだぶう!!」

「やめなよ。話が進まないじゃないか? ん、それじゃこちらから話すよ。とにかく良く聞いてくれ。ぼくらはルマニアから派遣された、独立遊撃戦術戦隊のアーマー部隊パイロットで、後ろにいるのが仲間のザニー中尉とおなじくダッツ中尉どのだよ。ちなみにこのぼくが隊長のベアランド、少尉だよ。よろしくね!」

 相手からの自己紹介にあって、それまでの驚きの表情の中に今度はまた違った別種の驚きみたいなものが浮かぶブタくんだ。

「隊長、ベアランド? ブゥ、えらい中尉がふたりもいて、なのにこの若い少尉どのが隊長さんなんだブウか? 確かに一番強そんなカンジはしてるんだブウけど……?」


 いざここまでにいたる複雑な経緯も含め、いろいろとワケありの寄せ集め部隊だからほうぼうに違和感はあるのだが、いちいち説明するのが面倒なのでこの顔つき苦めるだけの隊長さんだ。

 挙げ句、後ろでひそひそ話が聞こえてくるのにはいっそうのこと苦笑いになる。



「ほうれ、困惑しとるで? あのぶうちゃん! そりゃそうや、階級下の若手のクマさんが階級上のベテランのおっさんふたりも従えとるもんやから、わけわからへんのやろ! それをゆうてるこのおれもわけわからんし!!」

「ええんちゃう? いざ外に出て、おのおのが乗っかってるギガ・アーマー見たら、それで一発でわかるんやろうし。あないにいかついお化けアーマーや。それをひとりで切り盛りしてるっちゅうたら、アーマー乗りならすぐにも目の前のおひとの実力のほどっちゅうもんが、イヤでも理解できるんやろ」

「ははは……っ、で、そっちはどうなんだい? さすがにもう落ち着いただろ?」

 左右の肩をすくめ加減に聞いてやるに、相手のやや小柄だが丸っこい太った体格のブタ族は、まだ緊張の取れない真顔でありながら鼻息荒く言葉を返してきた。

 とりあえず落ち着いては来たようだ。

 それだからビッと敬礼返しながらにうわずった声を張り上げる若手のぶうちゃん、もとい兵士である。

「これは失礼しましたんだブウ! じぶんはアストリオン大公国宮廷直属・近衛師団所属のガードムンク、タルクス・ザキオッカス准尉なんだブウ! 見ての通りのアーマー・パイロットで、友邦国の援軍に加勢するべくはるばる駆けつけて来たんだブウ!!」

「へえ、そう言えばそんなこと言ってたっけ? ぼくらの艦長(ボス)?? 確かにここでお互いに落ち合う予定ではあったんだけど、なんか大番狂わせでどっちらけちゃったな? なにせ攻略するべき基地はこんなありさまだし、あときみ、合流部隊はたったひとりだけなのかい? おまけにアーマーもなしに??」

 そんなちょっと白けたふうな顔で見返しながら、だったら基地の外に停めてあったあのジープはきみのやつかい? とついでに聞いてやったところ、ビクンと大きく跳ね上がってなおさらに声を荒げるブタ族くんなのだった。

「ブウ? ああ、あいにくじぶんの新型アーマーはまだ調整が間に合わなくて……あ! そうじゃなくて、じぶんは大事な役目を負ってここにはせ参じたんだブウ!! ある大切なVIPの護衛とこれを無事にルマニアからの援軍部隊に引き渡すために! ブウ、でもそれなのに肝心のそのひとが……!」

「ビップ? あ、それってひょっとして……」

 頭のどこかに引っかかりを覚えたらしいクマ族のビミョーな表情に、なおさら切羽詰まった形相のブタ族がわめいた。

 クマ族たちはみんな顔を見合わせてしまうのだが。

「ぶううっ、絶対に無事に送り届けるようにと言われたその要人と、気が付いたらはぐれてしまったんだブウっ!! 一生の不覚なんだブウっ、何かあったらただじゃ済まされないんだブウっ! だから大慌てで探していたんだブウっ!!」

「なんや、それであないに勢い込んでぶつかってきたっちゅうんか? えらい人騒がせなこっちゃ、こっちは心臓破けるくらいにびっくらこいてもうて、しんどいわあっ……このブウちゃん!」

「迷惑なこっちゃで! あと大事な任務をもろしくじっとるやんけ? ほんまに大丈夫なんか、じぶん??」


「ビップってのがやけに引っかかるけど、ぼくの頭の中の人物と一致するなら、ちょっと同情しちゃうかな? 話には聞いていたけど、すっかり忘れていたよ。ここど合流する予定だったんだ、あの根性ひねくれた天才博士、もういいトシした犬族のマッド・サイエンティストとは……!」

「?」


 おじさんたちが背後で顔を見合わせるのに、肩をすくめて会えばわかるよ、とことさらにビミョーな顔で視線をよそへと流すベアランドだ。げんなりした雰囲気がなぜか全身から伝わった。

 それから改めてブタ族の若い士官と向き合う。


「この中ではぐれたのかい? だったらそう遠くには行ってないだろう、相手はけっこうな年寄りで、軍人でもないんだから」

「博士のことを知っているんだブウ? とりあえず中を探索して、動力室を探り当ててこの電源を復活させたら、そこで忽然とその姿を消していたんだブウ! 外で気配がするとかなんとか最後に言い残して……」

「気配? あ、それってもしかしたら……! この中でかくれんぼするのならかなりの一苦労だけど、それだったらむしろ来た道をまんま戻ってこの外に出ればいいんじゃないのかな? 他に行くあてなんてないだろうし、あの根性ひねくれた博士さんの興味を引きそうなものって、もはやアレしかないわけだし!」

「?」


 なおさら首を傾げて目を見合わせる仲間のクマ族たちには、とにかく出ればわかるよ、とひたすら苦笑いの隊長さんだ。

 それだから新しく仲間に加わったブタ族を引き連れて来た道をまんま後戻りすることとなる。


「さあ、それじゃタルクス、だったっけ? ぼくらと一緒に来ればいいよ。お目当ての要人にはきっとそこで再会ができるから。ちょっと急ごう。まかり間違っておかしなことされたら厄介だし、あの偏屈で有名な天才開発者の興味本位なんかでさ!」

「わ、わかったんだブウ! よろしくお願いするんだブウ!!」

「ほんまにぶうぶうやかましいぶうちゃんだぶう、やのうて、ブタくんやわ。おかげでうつってまいそうや」

「ちゅうか、もろにうつされとるやんけ! にしてもここまで来てまた戻るんか? なんやめんどいのう」

 ちょっと早足で先を急ぐ若いクマ族に、ベテランのクマ族たちとブタ族がぞろぞろと続いて廃墟と化した基地の通路のチリやらゴミやらをドタバタと踏みしだく。

 かくして何事もなく外に出たところで、そこでまた新たなる人物と遭遇するベアランドたち一行なのだった。 

 

 Part4



 もと来た道を来たままにたどって、早足で最初の建物の入り口にまでたどり着いた、ベアランドたち第一小隊の面々だ。

 半開きの扉から見える外界の乾いた景色はそこにこれと言った変化は見受けられない。なのではあるが、いざ外に出る時にはちょっとだけ慎重にあたりを見回してからの行動となった。

 この直前、外部でおかしな物音と、かすかな振動が伝わったのに皆が一様にその顔つきをしかめる場面もあって。

 その時、キョロキョロと鼻先を揺らしながらのダッツ中尉の言葉には、その場の誰もがいぶかしく首を傾げていた。


「いま、なんや発砲音みたいなもんがせんかった? ちょっと振動みたいなもんも伝わってきたし?? この足下、ちょい揺れたよな、なあ」

「知らんけど。なんや他にもおるんかの、おかしなもんが?」

「いや、今のはきっとぼくのランタンだね? どうやら外の何かしらに反応して自己防衛動作を発動したみたいだ。すぐに戻って来いって、異常感知のアラームも出てるし。ほら!」

 自前の携帯端末の黒い画面の真ん中に、短く赤い警告文が出ているのを示しながら、入り口の手前で深呼吸してまずみずからが慎重に内部から乾いた外の大地に足を踏み出す。

「ん……!」

 相変わらず乾いた風が吹くあたりには、これと目立った変化は見受けられなかったろう。

 だがしかるに、それまではなかったはずのものが、ひとりの人影らしきがほどなく離れた場所に、ぽつん、とあるのを見つけるのだ。

 用心してうかがうに、それ自体にはこれと危険性みたいなものは感じられなかった。見たところはあるひとりの小柄な男性らしきそれは、場違いな全体が白一色で裾と袖のやけに長い特徴的な見てくれした衣服で、つまりは白衣のそれだとわかる。

 人気もなく殺伐としたこの場にはおよそふさわしくない、そのいかにもドクター然とした様相に、頭の中にあった人物のそれとすっかり合致するのを確信するクマ族の隊長だ。

 おなじくそちらを見ている背後のおじさんたちが、さては怪訝な表情してるのがはっきりと気配で伝わったが、さらにその後ろからは、ぶひっと興奮したブタ族の声まで上がったりする。

「ぶううっ、いたんだブウ! あのひとなんだブウ! 博士っ!!」

「やっぱりね! いや、でもあの博士にわざわざ反応したってわけじゃあないんだよな、このぼくのランタンは? まあ、あれも立派な危険人物には違いはないんだけど……?」

 ちょっと間の抜けた顔つきでジロジロと眺めてしまうのに、当の相手はなぜだかどこかあさっての方角を向いたまま、こちらにはてんで見向きもしない。

 気配ではとっくに気付いているはずなのだが?


 それに焦った護衛のブタ族くんがドタドタと駆けよってわめき立てて、はじめてこちらに身体を向ける白衣の人物だった。

「ぶうううっ! まさかこんなところにいたんだブウか? おかげで心配したんだブウっ、あんなにこのおれからは離れないでいてくれって、何度もお願いしてたのに!! ぶうっ!!」

 ブタ族の護衛、タルクスのそれはあわ食った言葉にあって、だがあいにくでこれをただ怪訝な表情で見上げる相手の博士だ。

 小柄で華奢な身を白衣に包んだ、かなり年配の犬族をちょっと真顔になって見つめながら、背後のおじさんクマ族たちには、ほらね?と意味深な目線をくれるベアランドである。


「VIPとも言われていた通り、かなりの重要人物ではあるんだけど、同時にまたかなりの問題児でもあるんだよね! あ、その顔つきからしたら、ふたりとも会うのは今日がはじめてなのかい? なら用心したほうがいいよ、いろんな意味合いで、ね?」

 声のトーンを落として何やらやけに含むところがあるもの言いに、やや困惑気味のおじさんたちは冴えない面持ちで返す。

「なんやどないなひとかと思いきや、ただの貧相な犬族のおじいですやんけ? 吹けば飛ぶよな? なにがあかんのですか?」

「いや、それやったら噂くらいでは聞いたことありますわ。こうしてじかに見るのははじめてやけど。人畜無害っぽいちみっちゃいワンちゃん、ちゅうか、味方の技術者のえらい先生ちゃいます? それがこないな前線にまでわざわざ出てきはったんや」

 反応ひどく冷め切ってこれと興味感心が希薄なベテラン勢に、それにつきすでに一度面識がある若手のエースパイロットは、若干のうんざり顔でついにはみずからの口元をひん曲げる。

「それってどんな噂だったんだい? 確かにルマニアきっての天才的科学者だけど、その性格や人となりが破綻しまっくってて、むしろそっちのほうが有名なんだよね。他に類を見ないほど独創的で革新的なアーマーの設計理論と思想がとにかくひとりよがりで独善的、かつこの言動が冷血にして非人道的な文字通りのマッド・サイエンティストってね……!」

 ちょっとため息まじりでまた問題の上着の白衣が見かけ紳士然とした犬族をみてやるのに、こちらのことなどまるで意にも介さないような憮然とした態度面持ちの博士だ。

 小柄だから見上げるブタ族に向けてぞんざいに言い放つ。


「やかましいぞ、この目障りなブタ族め。ひとを責めるよりもまずじぶんのふがいなさを恥じればいいだろう。護衛とは名ばかりで何の役にも立たない足手まといのこわっぱめが、片腹痛いわ」

 みじんも容赦がない毒舌、聞きようによってはいわれのないただの誹謗中傷だ。それだからこれを真正面でもろに食らったブタ族のパイロット、タルクスは身体ごとのけ反っておののいた。

 後ろで聞いてるクマ族たちからしてもどん引きだ。

「ぶううっ!? なんてことを言うんだぶうっ! 信じられないぶうっ、確かに護衛ではあるけど、そんな相手の一挙手一投足をいちいち見張ってなんかいられないんだぶうっ!! そっちこそ子供じゃないんだからちょっとは歩み寄ってくれないとっ……」

 傍から聞いているぶんには納得のもの言いなのだが、独りよがりが服を着て歩いているかの犬族さまにはまるで通じない。

 言い切る前にあっさりとはたき落とされていた。

 おまけなおさら窮地に追い立てられる新兵くんだ。

「黙れ、たわけが。およそ無駄口と耳障りな鼻息だけだろう、きさまにできることは? おまけに図体ばかりでろくに空気が読めもしない、クマ族などという余計なものをぞろぞろと引き連れてきおって、つくづく役に立たないエスコートだな。言葉の意味、わかっているのか?」 

「ぶううううううっ!?」

 あえなく卒倒しかけて言葉を失う友邦国の友軍パイロットに、やむなく横からこの口を挟む若いクマ族の隊長さんだ。

「あらら、このままじゃお互いの友好関係が崩れちゃいそうだな? せっかくの援軍のパイロットくんとの! おまけに身内であるはずぼくらまでぶった切られちゃってるけど、ならさっさとこの身柄を引き渡してもらっちゃおうか! とっとと首根っこ掴んで黙らせたほうがいい……!」

「はあ、なんや気い悪いわあ! 言いたい放題やんけ?」

「ほええ、あないに噛みつかれてまうんですかぁ? 普通に口を聞いただけでえ? ほんまにしんどいわあ……」


「まあまあ、このぼくが相手をすればいいだけのことだから」

 頼んます! とただちに敬礼されてすっかり任されてしまう。  

 ちょっと苦笑いしてから改めて小柄な犬族の老人に向き直る。


 すると何か言うよりもこちらを低くからジロリと見上げてくる博士ときたら、有無も無きまま仏頂面して悪態の口火を切った。
 
 やはり味方相手でもおかまいなしだ。


「ん、そもそもが貴様、何を間抜け面してそんなところに立っている? お前がいるべき場所はとうに決まっているはずだろう。まったく職務放棄もはなはだしい。まともなヤツが誰一人としておりはしないのか、このわたしを除いては?」

「ひどいな! みんないたってまともだろうさ、博士ひとりをのぞいては? あ、じゃなくて、博士、無事で良かったよ。護衛のこのタルクスとはぐれてどこぞかで迷ってるって話だったから? 見たところじゃ余計なこともまだしてないみたいだし、ぼくのランタンとかにさ!」

 ほとほと困って苦笑いの対応に終始するクマ族に、札付きのクレーマーの犬族は不機嫌極まりないさまでのたまう。

「ふん、迷っていたのはそこの愚図のブタ族だろう。余計なこととはなんだ? 久しぶりの対面にある種の感慨にふけっていただけのこと。そうとも、このわたしの最高傑作たるギガ・アーマーとのだな?」

「ああ、王陣の番兵ならいたって健在だよ。バンブギン……あいにく今はランタンて呼ばれてるけど。やっぱり懐かしいのかい? あとぼくのこともしっかり覚えていてくれたみたいだし」


「ふん。貴様らのくだらない番犬など造った覚えは無い。大仰な名など、ただのお飾りでなんの意味も持ちはしないのだから。あいにく貴様の名前も覚えてはいないしな。ただ現状で唯一あれを動かせるパイロットとしての意義なら、無論、理解はしている。それ以外、貴様に意味などありはしないだろう?」

「ほんとにひどいな!! 名前くらい覚えておいてくれよ、ベアランド、こんなに覚えやすい名前もあったもんじゃないんだからさ。ぼくらの国じゃあ、ね、シュルツ博士? どうしてこんなところで合流したのか理由を聞きたいけど、どうせろくなことじゃないんだろう?」

 ひどく苦い顔してあえて聞くまいと視線を逸らしてから、改めて小柄な犬族に問いかけた。

「ああ、そうだ、ぼくのランタンが今し方に警戒行動に出たはずなんだけど、まさか博士を相手にしてってわけじゃないよね? いくら危険人物か知らないけど、たかが人間相手に反応することはないはずだから。だったらこの場で果たして何に警戒したのか、博士、何か心当たりがあったりはしないかい?」

「知るか。このわたしの知ったことではない。わたしの興味は目下あそこにあるアレにしかないのだから。見たところではそれなりマシに扱えているようだな? メンテナンスはさぞかし腕がいいようだ。余計なアレンジを加えていないところを見ると……」

 何を聞こうがどこまでも小憎らしく横柄な態度でつっぱのける博士は、あくまで自分の言い分をまくし立てるのみだ。

 対して顔つきがげんなりとなる隊長だった。

「はあ、頭のてっぺんからつま先まで完全オリジナルで、他に共有できる機体がないんだから、アレンジなんかやりようがないじゃないか。それに見たらビックリするよ。ただし内気な子だからお手柔らかにね……あ、聞いてるかい? 博士!」

 およそ他人の言葉を聞いてるのかいなのか、さっさとその場からきびすを返す犬族の老人にいよいよ匙を投げかけるクマ族だ。

「ふん……貴様らの艦はまだ来ないのか? そろって愚図ばかりだな。早くドックに収納してあれの運用データを見たいところなのだが。貴様の評価はその後でだ。良ければ名前の一つでも覚えてやる……!」

「今さっき名乗ったばかりじゃないか! あ、ボディ、たぶん熱くなってるから不用意に触らないでくれよ。手が焼けちゃうし、ヘタにいじられたくもないから! ああ、ほんとにこらえ性がないじいさんだな! 完全に自分を中心にして世界が回ってると思ってるよ……」

 最後の悪態は小声でこの足下にだけ落として、左手にそろって直立する三体のアーマーの、中でもこの一番奥に控える大型の巨人へと早足でにじり寄る小柄な影をみやる。

 背後でおじさんたちが文句をぶうたれるの聞き流しながら、ぐるりと辺りに視線を送る隊長だ。

「なんや、おれらのアーマーは完全に素通りしていきよったで、あのおいぼれのせんせ? ほんまに気い悪いわ! 仮にもアーマーの設計者ゆうんなら少しは気にせいよ」

「ええんちゃう? 絡まれたら厄介やし。こっちもあないな偏屈なおじいと絡みたないし。少尉どのにお任せやわ」

「まあ、そうだね……!」

 辺りにおかしな気配がないことを改めて確認しながら、ちょっとだけ内心で首を傾げる部隊長だ。

 鼻先をくすぐる乾いた風にかすかな違和感じみたものがあるのは気のせいか?と風の吹き寄せる彼方を見やる。

 虚空に目を懲らしてもそこに何も答えるものはない。

 ならじきに母艦が来るだろうことを考慮して、そちらに意識を向けるのだった。ここまではおおむねで良好だ。

 ブタ族の青年に博士のおもりを今しばらく頑張ってもらって、それぞれがみずからの持ち場に戻るように指示する。 

 背後の建物、放棄された基地の裏手の絶壁、その頂上から静かに見つめる何者かの目線があるのは気付かないまま……!


                  ※次回に続く…!

アストリオン・中央大陸(ルマニア・東大陸/アゼルタ・西大陸)
アストリオン・種族構成・ブタ族、イノシシ族、イノブタ族などがおよそ半数を占める。アストリオン自体は宗教色の強い、宗教国家でもある。元首・イン ラジオスタール アストリアス(家)

アストリオン・大陸構成
東側 アストリオン 60%
中央砂漠 空白地帯 25%
西側 ピゲル大公家 15%
 西側は過去にあったルマニア(タキノンが領事だった?→後のタルマとの確執になる?)とアゼルタのゴタゴタで独立を宣言したピゲル公爵の独立領となり、後にアゼルタと同盟関係になる。

主人公、ベアランドたちが目指すのは、大陸の北岸地域から侵入して、大陸内陸部の中央砂漠にあるアーマー基地。今は西の大公家と結びついたアゼルタの支配下にあるのだが…?
 実は無人化している?? レジスタンス(ベリラ、イッキャ?)の暗躍…!?

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ルマニア戦記/Lumania War Record #017

#017


 Part1


 若いクマ族の小隊長が見ているさなか、おじさんのベテラン・クマ族コンビと、対してこちらはまだ若手なのだろう、敵アーマー・パイロットたちによる、新型アーマー同士の空中戦は、いざ始まればすぐにもこの大勢が決しようとしていた。

 経験値の差もさることながら、それぞれのアーマー自体の性能差がもはや歴然、結果はやはり、はなから知れていたらしい。

 よってあと少しで勝敗がつくのではと思われたところでだ。

 だが不意に、それぞれのコクピット内に短い警告音、甲高いアラートが鳴り響く……!

 これに反射的に目にした手元のレーダーサイトには、目指す大陸の西海岸域方面から出現したとおぼしき、また新たなる複数の敵影が、こちらに向けてまっすぐ急接近するのがはっきりと見て取れる。

 これによりようやく今回の本命が登場、本番が始まったのだなと気を引き締めて正面のモニターに臨む、隊長のベアランドだ。

 当人としても、そろそろだろうと予期はしていた。

 迫り来る影は、いつぞやに見たものとまさしく同一であることを、それとしっかり視認もする……!

 強敵だった。


 ベアランド小隊(第一小隊) 隊長・ベアランド少尉(クマ族)、部下・ダッツ中尉(クマ族)、ザニー中尉(クマ族)と、その搭乗するアーマーのイメージ図。ベテランクマ族コンビのアーマーに、めでたく色が付きました!

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 接近する影は都合、三つ。

 そのどれもが以前に会敵したことがあるものと同じであることを、正面のメインモニターに一時的に浮かび上がる、戦況表示ディスプレイがそれと教えてくれる。

 アーマーの頭脳たる高度集積戦術コンピューターが相手機のデータを適宜に解析、覚えていたものと100%の確率で完全適合。

 それらの中でもこの先陣を切ってこちらに突撃してくる高速機動型のアーマーは、これがなかなかにあなどれない実力者であることを、もはやその身をもって経験している隊長さんだ。

 これはさしもの腕利きのベテランクマ族コンビでも、油断していたら一撃でのされかねないな……!!


 と、それまで背後に控えさせていたみずからの大型アーマーを、慎重にゆっくりと微速前進させる。

 どちらも戦いの最前線を渡り歩いてきた有力者たちなだけに、何かと我が強い、ダッツとザニーの両中尉どのたちだ。


 よってこれにさてなんと言ってこの場を説明したものかと内心で頭をひねるのだが、何か言うよりもあちらのほうから何やらして、いささか気の抜けような声が通信機越しに入ってきた。

「はえ、なんやようわからんけど、相手のひょろっこいアーマー、どちらも下がっていきよるでぇ? カトンボが気配を殺して姿をくらますみたいによう? 隊長ぉ、どないしましょ??」

「え、そうなのかい? あ、ほんとだ! あっさり引いていくね? まったく引き際がいいやら、やる気がないのやら??」

 これまでダッツとザニーの相手をしていたはず、モニターの正面に捉えられていた二機の飛行型アーマーは、そのどちらともが新手が入ってくるのと入れ替わりに、この機体を我先にとその場の戦闘空域から離脱して遠ざかっていく。

 すぐにもただの点と点になるのだった。

 事実、目の前のレーダーサイトからも、この機影がことごとくして消失……! 

 援軍の到着に、これ幸いとしっぽを巻いて逃げるかのごとくにだ。傍目にはあからさまな敵前逃亡かのようにも見えたが、新手の敵影ときれいに入れ替わるさまからすれば、必ずしもそういうわけではないらしい。

 はなからそうする算段だったのかと首を傾げるベアランドだ。

 そう、つまるところで主力がこの場に到着するまでのただの時間稼ぎ、言うなれば〝噛ませ犬〟だったのか?

 するとこのあたりにつき、もうひとりのベテランのクマ族のパイロットザニーがこともなげに言ってくれる。

「ほぇ、ほんだらばあないなザコちゃんアーマー、ほっといてええんちゃう? それよりもまた勢いのあるのがようさんよそから来ておるさかいに? 言うてまえばあちらさんが本命なんやろ」

 こちらの隊長にではなく、同僚のおじさんに向けて言ったものとおぼしきセリフには、思わず苦笑いして同意する。

「あ、するどいな! それじゃここからは、あの後からぞろぞろやって来たのにみんなで集中だね! ちなみにぼくは既にやり合ったことがあるんだけど、どれもなかなかの強敵ぞろいだよ?」

 その瞬間、通信機越しにやや張り詰めた空気が伝わるが、おびえよりも低いうなり声とやる気がみなぎる。

 ここら辺、やはりどちらもやり手のアーマーパイロットだ。

 先日のまだなりたての犬族の新人コンビたちとは明らかに戦場での身のこなしが違う。これにまずは安心しつつも、また脳裏にある種の不安もよぎるベアランドだ。

 そうこうしている間にも、迫り来る敵アーマーがこちらとの交戦空域に入ったことが、甲高いビープ音ともに知らされる。

 中でも特にスピードの速い高速機動型のアーマーが、やはり単身で突っ込んでくるかたちだった。

 前に会った時のままのそれはやる気の有り余るさまに、対して内心でひどくげんなりとなるクマ族だ。

 どうにも執念深いことで、もはや目の敵にされているのがありありと伝わってくる。

 これに即座に対応しようとするベテラン勢には、あ、いや、ちょっと待って!と、やや慌ててツバを飛ばす悩める隊長さんだ。

「あ、待った、それは無視してくれて構わないや! なんたって速くて強くて厄介だし、どうせこのぼくがお目当てなんだからさ? 中尉たちは後からおっかけてくるあっちの子分のアーマーたちをお願いするよ。あれはあれでまた厄介なんだけど……!」

「ほえ? 無視してええんですか? ぼくらはその後にやってくるやつらを相手にせいっちゅうことでぇ?」

「なんやようわからん! あないなただ速いだけのジェットフライヤー、おれらの敵やあらへんやけ? そないなもん、どないして避けなあかんの??」

 通信機越しに左右のスピーカーからはどちらもややいぶかしがった返事が返るのに、内心で動揺しながらもあくまでベテラン勢を刺激しないような言葉を選ぶ、ベアランドだ。

「ああ、いや、あちらさんはもともとこのぼくだけに用があるみたいだから、そっちのほうははなっから完全に無視してくれちゃうと思うんだよね? だからその、無理して中尉たちが横から絡まなくてもいいってわけで! あとあれってのはああは見えて、現実はそう、ただのフライヤーじゃあ、ないからっ……!!」

 これまでの戦いから、この歴戦の勇者たちの力をもってしても、ひょっとしたら危ういかもしれないと直感的に悟っていた。

 その動揺を悟られまいと平静を装った態度そぶりに努めるのだが、あいにくと相手のおじさんクマ族たちからは、何故だろう、わずかな沈黙が通信機のスピーカー越しに伝わってくる。

 その瞬間、果たして何を考えたものか?

 ふたりのベテランパイロットたちは、みずからの顔を映したモニター越しの視線のやり取りだけで、何やら互いにはっきりとした意思の疎通をしてくれたらしい。

 この時、イヤな予感が脳裏によぎりまくる隊長さんなのだが、果たして同時にその顔に不敵な笑みを浮かべる中尉どのたちだ。

 よってこちらの忠告もそっちのけで、向かってくる見てくれ戦闘機タイプの敵めがけてみずからのアーマーを急速発進させる。

 もうやる気が満々だった。

 この部隊リーダーの意図などは完全に無視だ。

 はじめげんなりしてそのさまを見るベアランドは、焦りと困惑で思わず声をうわずらせる。

「ああっ、だから、それは無視していいんだって! このぼくの担当なんだからさ!! 強いしとっても厄介なんだから!!」

「わはは、せやったらなおさらおもいろやんけ! 隊長の相手だけやのうて、こっちもしっかりサービスしてほしいもんや、バリバリ歓迎してやるさかいに!!」

「せやんな、ほな隊長さんはそこでよう見といてください。ぼくらでしっかりおもてなししてやりますよって。元よりあないなジェットフライヤーごときに遅れを取るよなこのぼくらやないですさかいに……!」

「いやいや、だから違うんだって!! ああ、もう、ろくにお互いの連携が取れないんじゃひどい混戦になっちゃうじゃないか? これってれっきとした上官に対しての命令無視だよ!?」

 しまいにはちょっと嘆いてしまうのに、ずっと年上で経験に勝るパイロットたちは、やはりいっかなに聞く耳を持たない。

 どちらのスピーカーからか、上官ちゅうかそっちのほうが階級下やんけ!みたいな本音が漏れていたが、それはあえて聞こえなかったことにする若手の部隊長だ。 

 そんなものだから慌てる隊長が見ているさなかにもさっさと敵の先鋒、その実をして一番の強敵と交戦状態に突入していた。

 挙げ句、左右のスピーカーからどわっと驚いた声が上がったのは、その直後のことだ……!

「んん、なんやそれ!? ちょちょ、ちょい待ちぃ!!」

「ほえ、なんや、いきなり変形しおったで? ただのジェットフライヤーちゃうんかったんけ?? ぬぐおおおおおっ!?」

「ああっ、もう、だから言ったじゃないか!!」

 およそ危惧していた通りの展開に、思わず天を仰いでがなってしまう。

 二機の僚機のすぐ手前まで猛然と突撃をかけてきた戦闘機型の敵機は、あわや衝突すると思わせてこの直前でピタリと急停止!

 もとい、そのカタチをまったくもって別のモノへと変えながらに、おまけ悠然と空中に立ち止まってくれる。

 ただし制止したのはコンマ1秒以下だ。

 そのいかにもアーマー然とした人型のプロポーションを見せつけた直後、直角の軌道を描いてさらに高い上空へと舞い上がる。

 それは見事な操縦テクニックだったが、それとあわせて実はただの戦闘機が瞬時に戦闘ロボットへと華麗なる変身を遂げたのには、あんぐりと口を開けたまま、目を白黒させるばかりのふたりの熟練パイロットたちだった。

 ただその瞬間、口では驚きの声を発しながらもアーマーの操作自体はぬかりなく対処していたのはさすがだが、見ているこちらは冷や冷やものだった。

 おまけそれで肝を冷やすほどの臆病者でもないクマ族のおやじたちに、タチが悪いやつらばかりだと内心で舌打ちしてしまう。

 上空でこちらを見下ろす敵のアーマー、おそらくはこれが隊長機とおぼしき機体は、やはり悠然としたさまでその場で対峙するかにこのアーマーをまたもや空中に制止させる。

 その視線の先にあるのはこちらの大型アーマーなのだろうが、相変わらず空気が読めない仲間のクマ族たちが、うなりを発して上空の相手を威嚇する。

 声は届かないが雰囲気としてはばっちり伝わったのだろう。

 かくして相手をしてやるとでも言うかにしてふたりを待ち受ける、それはこしゃくな敵方の隊長機だ。

「まったく、どいつもこいつも好き勝手にやってくれちゃって! どうする、無理矢理に割って入って乱戦に持っていくか? あっちの後続は……あらら、しっかりスキをうかがっているね! これじゃヘタなことなんてできやしないか……!」

 後からやってきた後続の敵のアーマーは、どちらも一定の距離を保ってこちらの様子をうかがっているのが、なおさらカンに障る。

 さては親分格の指示なのだろうが、だいぶ聞き分けのいいあたりがこちらとはまるで正反対だ。

 それがまたなおさらカンに障って仕方が無いクマ族の隊長は、実際に大きな舌打ちしてしまう。

 この先の展開に、一気に暗雲がかかってくるのを、もはやはっきりと意識していた。



※以下のイラストははじめの線画バージョンです(^^)
 すでにOpenSeaでNFTとして販売中!

https://opensea.io/assets/matic/0x2953399124f0cbb46d2cbacd8a89cf0599974963/88047277089427635657081635585532914949557992380650193262688159140125509419018/



Part2


 混乱するクマ族たちのアーマー部隊に対して、また一方――。

 その直前にあった先の知れた戦いに割って入った敵方のエースパイロットは、とかく冷めたまなざしで正面のメインモニターの中の情景を眺める。

 キツネ族の若い士官は見下ろす眼下の敵の機体、青と赤の色違いの同型アーマーをつまらないものを見るようにしばしねめつけたが、やがて仕方もなさげに吐き捨てた。

「ふん、こしゃくなやつばらどもめ……! だがそうやってこのわたしの前に立ちはだかると言うことは、それ相応の覚悟は出来ているのだろうな?」 

 あくまでみずからのターゲットをその奥の緑色の大型アーマーのみに絞っていたのを、ようやく手前の二機に意識を向ける。

 そこに後方からは、後続の同僚機からの通信が入った。

 こちらはトシのいったおやじのものらしきだみ声がキツネ族の男のピンと尖った耳に親しげにまとわりつく。 

「へっへ、ダンナ! 見た感じだいぶごちゃついてるみたいだが、俺たちはここで高見の見物してていいんですかい?」

「は、いいもなにも、そうするしかありゃしないだろ? ヘタに手出しなんぞしたら巻き添え食ってこっちが落とされちまう!」

 もうひとりの年配の男の声が入るのに、何食わぬさまのクールなキツネ族の隊長は冷然と言ってのけるのだった。

「フ、無論だ。こちらへの手出しは一切、無用……! 中尉たちはそこで立ち見しているがいい。このわたしとあれの戦いを邪魔立てするやつばらだけはそちらに任せる」

「了解っ! ……てことは、おこぼれはこっちでいただいちまっていいってわけですかい? そんじゃ、おい、あの青いのと赤いの、どっちをやる? どっちも面白そうで捨てがたいが……!」

「は、おれはどっちでも構わねえよ! ダンナに落とされちまわなかったらの話だが、せいぜい楽しませてくれるのかねぇ?」


 他愛のない世間話でもするかのように獲物を物色する部下たちに、何かと無愛想な部隊長は適当な相づちだけ打ってくれる。

「もとよりザコを相手にするつもりはない。危うくなればあやつが我が物顔をして出てくるのだ。その時は……」

「こっちでおいしく料理させてもらいますわ! 見たところそれなりに戦績上げてそうだから、でかい星が挙げられそうだぜ」

「はっ、調子に乗ってヘマすんなよ、ブンの字? この前みたいな情けないザマ、二度とゴメンだぜ?」

「ああ、誰に言ってやがんだ、五の字よ? もうアーマーも元通り、こっちに死角はありゃしないぜ! もとよりあんな見え見えの手はもう二度と食わない」


 タヌキ族とイタチ族のベテランのパイロットたちの掛け合いに、まるで聞く耳を持たないキツネ族の青年は冷めたさまで通信を終わらせた。

「頼みにはしている。どちらも全力を尽くすがいい。あのような見かけ倒しのアーマーによもや遅れを取ることはあるまいが、かく言うこのわたしも全身全霊をもってあれを迎え撃つ……!」

「了解!!」


 言うが速いか急降下で襲いかかるキツネ族のアーマーに、対するクマ族のベテランパイロットたちのアーマーが真っ向から応じる。

 おのおのが命を賭けたしのぎを削るアーマー・バトル、その第二回戦の火ぶたが切って落とされた。

 ベアランドたちの強敵として立ちはだかるライバルキャラ!
隊長にして凄腕パイロットのキツネ族、キュウビ・カタナとその部下のベテランパイロット、タヌキ族のチャガマ・ブンブ、イタチ族のスカシ・ゴッペとそれらが乗るギガ・アーマーのイメージ!


 Part3

 これまで幾多の戦場の最前線で腕を鳴らしてきた、百戦錬磨のベテラン・パイロットのダッツとザニーだ。
 
 だがこれを相手に果敢にも単機で挑む敵のアーマーは、やはりあなどれない強さをふたりの勇猛なクマ族に対しても見せつけるのだった。

 互いに肩を並べた横一列のフォーメーションでぬかりなくハンドカノンの銃口を向ける青と赤のアーマーの周囲を、それはすさまじいまでの速度の機動をかけて攪乱、半ば翻弄する白の飛行型可変アーマーである。

 変幻自在に戦闘機とアーマーにその姿形を変えては、目にも止まらぬ高速機動で熟練のパイロットたちをあざ笑うかにターゲットサイトからその姿をくらます。

 かくして強い舌打ちが左右のスピーカーから漏れるのに、みずからもかすかな舌打ちが出てしまう隊長のベアランドだ。

「ああ、もう完全に押されてるいるよな? にしてもよくもあんなにガチャガチャと変形しながらあちこち動き回れたもんだよ! もはや操作ミスったら一瞬で空中分解しちゃうんじゃないのかな? これはどうにも……!」

 苦い顔つきで何事かアクションを起こしかけたところで、左のスピーカーからさも苛立たしげなおやじの文句ががなられる。

「ちょちょちょっ! ほんまムカつくわ! やたらに動き回って気が付いたらいっつも背後の死角におるやんけ!? どないなっとるんや? あないにふざけた高速機動、反則やろ!!」

「落ち着きや……! 空中戦ならぼくらの十八番やろ? せやったら、そや、そないにちょこまか動き回れんようにさしたらええんちゃう?」

「どないして? あないに速うやられてもうたら、キャノンの照準もろくすっぽ合わせられへんで??」

「そやから落ち着きや。ぼくらはふたりおるんやから、こないに固まっておらんでもやりようがあるやろ? もとより昔から空中戦で鳴らしたこのクマさんコンビやさかい、あないな新参者に負けるわけがあらへんちゅうもんや……!!」

「せやったな! あないなワケわからんくされアーマー、ふたりでボッコボコにしたろ!!」

 左右のスピーカーからやかましく流れる、ふたりのおじさんの部下たちのやり取りに内心でヒヤヒヤしながら、さてこれはどうしたものかといよいよ考えあぐねる隊長さんだ。

 おまけにこちらの階級がひとつ下なのもあって、実質上官のあちらは聞く耳持たないような節が少なからずあったりするもまた事実だ。

「ああ、もう参ったな……!!」


 険しい表情で正面のメインモニターを睨みつけるベアランドだが、そうやって観ているさなかにも青と赤のアーマーは散開して大空を左右へと散らばる。

 さては単機である敵機を左右から挟み撃ちにする算段なのだろうが、相手がうまいこと乗ってくれるものかと固唾を飲んだ。


 かくして敵の白いアーマーを真ん中に挟んで、この同心円上で広く展開する、ダッツとザニーの両中尉どのたちだ。

 都合、二対一で優位に立っているように見えるが、内実はそうでもないことは手をこまねいてこれを見るばかりの隊長の少尉どのにも、またすぐさまはっきりと見て取れるようになる。

 そう。相手はまさしくもっての強敵なのだった……!


「よっしゃ、捉えたで! ざまあカンカンっ……!?」

「これで終いや……! んっ?」


 薄暗いアーマーのコクピットの中でみずからの射撃が必中することを確信するベテランのクマ族たちだが、引き金に人差し指が触れる寸前、この照準サイトがロックオンのオレンジから危険注意の激しい赤の点滅へと切り替わる。

 しっかりと相手を挟み撃ちにした状態で、プレッシャーを掛けながらもこの攻撃機動(アタック)はことごとく失敗に終わっていた。

 両者ともにだ。

 今や完全にロボットの人型形態に固定された相手機は、空中で微動だにしない直立状態でありながら、空中戦を得意とするクマ族たちが照準を絞った直後にはこの姿をターゲットスコープから忽然とくらましていた……!

 こちらの思惑を見透かしたかにした機体さばきでまるでふたりのクマ族の同士討ちを狙うかのごとくにだ。

 静観していた若いクマ族の頭に乗っかるふたつの耳に、ややもせぬ内にひどく苛立ったおじさんたちの文句が絡みついた。

「おおい、さっきからやたらに真っ赤なのがチョロチョロ見切れておって、ほんまうざいでじぶん? わざとやっておるんか?」

「こっちのセリフやろが? 引き金しぼろうとした途端にブサイクなツラを出してきおって、青い機体が青空にまんま溶けてもうて見づらいったらあらへんわ! ほんまに撃ったろうか?」

 互いに相手を牽制しながら毒づき合うおじさんコンビだ。

「稚拙な……! どうした、貴様は動かないのか?」

 他方、敵方の隊長であるキツネ族のエリートパイロットは、左右前後からのプレッシャーをものともせずに、いまだ戦いには参戦していない緑の大型アーマーを正面のディスプレイに捉えて睨みすえる。それからまたつまらないものを見るかに左右のディスプレイの色違いの敵アーマーを一瞥してくれるのだった。

「フッ、無駄に距離ばかりを取って、まるで覇気を感じぬ。つまらん。もしや貴様らはただのお遊戯会をしているのか……」

 言いざま、機体の両手に保持したハンドカノンを一斉射!

 それが的確に二機の機影を捉える。


 あわや撃墜かと隊長のクマ族が見ているさなか、どちらもギリギリでこの直撃を避けたものの、ダッツはただちに泡を食ったセリフをがなり散らす。

「んなっ! コイツ、むっちゃくちゃやんけ!! おおい、さっきからいいように遊ばれとるで、若い隊長さんの目の前でごっつ情けないわ!! どないしたろかっ」

「せやから落ち着けや。ええわ、照準が定まらへんのやったら、いっそ撃ってまえばええ。ただしお互いギリギリまで引きつけてからや。このぼくの言うてること、わかるやろ?」

「ん、せやけど……! ええんか? 万一逃げられてもうたら、こっちは火力がでかいぶんにじぶんにまで届いてまうで?」

「せやな。ただしその代わりにこっちは防御力っちゅうんが人一倍やさかい。いけるやろ?」

 互いのアーマーの性能の違いを考慮した思考を巡らせるのに、ザニーが相棒を促して決定づける。

「一発勝負や。あの隊長さんにしっかりと見せたろ、このぼくらの腕前が決してあなどれんっちゅうことを……!」

「よっしゃ、了解や!」

 相棒の応答をきっかけ、両者の機体が敵影へと向けてじりじりとこの距離を詰める。もはやただならぬやる気がうかがえた。

 手に汗握って外野からそのさまを見守るベアランドだ。

 相手の高速機動型アーマーはこれを悠然と直立静止したままで待ち構えるが、まるでビクともしないのがふてぶてしかった。

 おのおのが殺気をこめてアーマーの機銃の照準を中心に居座る敵アーマーに定める。

 撃てば必中の間合いだった。

 まずダッツの青い機体が正面に構えた大型のライフルを一斉射!

「おおら、いてまえ!!」

 一直線に敵を貫くと思われた赤い光弾は、だが結果として敵影をかすめもせずに虚しく宙を走る。

 そしてその先にあったものは……!


 それを尻目に見やる敵パイロット、キツネ族のキュウビ・カタナはさもつまらなさげにこの尖った鼻先から息を吐く。

「フン、同士討ちとは……無様だな……む?」

 一直線に流れる敵弾は、同じ敵の赤い機体へと吸い込まれるようにヒットしたのを確信もするが、同時にかすかな違和感をも感知して機体をそちらへと巡らせていた。

 その刹那、ただちに四肢に力をこめて回避機動へと転じる。

 味方からの流れ弾を真正面に受けるかたちになって、全身に冷や汗をかく普段からポーカーフェイスの赤毛のクマは、この時ばかりはいびつな口元からキバがのぞく。

「こなくそっ、やっぱりよけるんかい! だがこっちもやられへんで、シールドパワー全開でしのいで食らわしたるわ!!」

 機体の胴体前部に装備したシールド・ジェネレーターを真紅に輝かせて流れ弾をはじき返すや、みずからのハンドカノンの銃弾をただちに正面の白い機体へとお見舞いする!

「おうし、やったれ! むうっ、あ、あわわわわわわっ!?」

 青い機体の相棒がここぞとかけ声を発するが、これがすぐさま慌てくさったおじさんの悲鳴へと変わる。

 これまで同士討ちを危惧してこの攻撃がままならなかったクマ族たちだ。それをあえて同士討ちに見せかけることで起死回生の反撃を狙ったのだが、そのトリッキーな攻撃ですらもあっさりと躱されて、それがまたダッツの機体へと襲いかかることになろうとは……!!

 すっかり勝ちを確信していた灰色熊は、狭いコクピットの中で機体の制御を失うくらいに操縦桿をバタつかせて味方からの流れ弾をぎりぎりで背後へとやり過ごす。

 だが敵からの攻撃を受ければ即墜落くらいにきりもみ状態で落下しかけた機体を大汗かいてコントロールする。

 敵からの追撃がなかったのは幸いだったが、もはや旗色が悪いのは誰の目にも明らかだった。

 悲鳴と怒号がかまびすしく交差する薄暗いコクピットの中で、若いクマ族の隊長は、険しい表情で操縦桿を強く握りこむ。

「あらら、もう任せてはいられないな! 中尉どのたちには悪いけど、こっちから割り込ませてもらうよ。でないと……ん!」

 敵の隊長格とおぼしき可変式飛行型アーマーに狙いを定めて大型の自機を進ませようとしたところに、奇しくもレーダーサイトに新たな動きと短いアラームが鳴り響く。

 こちら同様、距離を取って様子見していたはずの残りの敵影、二機がともに味方と敵に割り込む形で急速接近してくる。

 どうやら向こうはこちらと同じ思惑のようだが、味方の助けに入ると言うよりは、むしろ苦戦してばかりのダッツとザニーに止めを刺すくらいの勢いだった。

 そして案の定、敵の青と赤のアーマーが入るのと入れ替わりで、白の隊長機はまんまとその場を離脱、この姿を正面モニターからくらましていた。


 これを半ば呆れた顔で見ていたベアランドは、その後にこのみずからの機体の向きを背後へと巡らせる。

「やっぱりこっちが狙い、本命だったか……! ほんとにしつこい隊長さんだよね? ルマニアの大陸の僻地からこんな海の果てまで、呆れちゃうよ、このぼくってのはそんなに魅力的かい?」

 見れば上空からひらりと舞い降りる敵の隊長機のアーマーへと向けて、皮肉っぽく笑ってそう問うてやる。

 そう果たしてこれで何度目の対峙となるものか?

 背後でベテランのクマ族たちが新手を相手に声を荒げるのはもうそちらに任せしまって、本来のターゲットとなるアーマーと正面切ってやりあうべく、これと真っ向から対峙する。

 もう何度目かになる決戦の幕が切って落とされた……!

     
                  ※次回に続く……!







Part4


「ライトニング……!!」

「こういう使い方はリドルは嫌がるのかな……?」


 



 

 





 



 

 






#17プロット
 
 ライバルキャラ、キュウビ、ブンブ、ゴッペ再登場!
 キュウビ VS ダッツ & ザニー  空中戦!
 前哨戦の犬族キャラ、モーリィとリーンはしれっと退却。
 
 ベテランのクマ族コンビはエースパイロットのキツネ族には大苦戦、やむなく隊長のベアランドと交代…!
 ベアランド VS キュウビ

 ダッツ & ザニー VS ブンブ & ゴッペ

 持久戦の末に、キュウビ小隊退却…!
 とりあえずベアランド隊の勝利?

 補給機(リドル操縦)にダッツとザニーが補給(プロペラントタンク装備?)された上で、アストリオン北部海岸線から大陸に侵入、そのまま内陸の目的地へと向かう……
 

「アストリオン上陸作戦」プロット
  アストリオン情勢

アストリオン・中央大陸(ルマニア・東大陸/アゼルタ・西大陸)
アストリオン・種族構成・ブタ族、イノシシ族、イノブタ族などがおよそ半数を占める。アストリオン自体は宗教色の強い、宗教国家でもある。元首・イン ラジオスタール アストリアス(家)

アストリオン・大陸構成
東側 アストリオン 60%
中央砂漠 空白地帯 25%
西側 ピゲル大公家 15%
 西側は過去にあったルマニア(タキノンが領事だった?→タルマとの確執になる?)とアゼルタのゴタゴタで独立を宣言したピゲル公爵の独立領となり、後にアゼルタと同盟関係になる。

主人公、ベアランドたちが目指すのは、大陸の北岸地域から侵入して、大陸内陸部の中央砂漠にあるアーマー基地。今は西の大公家と結びついたアゼルタの支配下にあるのだが…?
 実は無人化している?? レジスタンス(ベリラ、イッキャ?)の暗躍…!

Part2 ベアランド小隊、
 敵キャラ、モーリーとリーンに遭遇
 
          ↑
#17→     キュウビ小隊、出現!!
    キュウビVSダッツ、ザニー…!


    移行、アストリオンに上陸……
  基地の占領完了と同時に、アストリオンからの守備部隊と合流?←ジーロ艦に合流したダイル?

   タルクス、シュルツ博士登場!

プロット
ベアランド小隊、出撃 ベアランド、ダッツ、ザニー
ウルフハウンド小隊、出撃 ウルフハウンド、コルク、ケンス

ブリッジ 艦長 ンクス、オペレーター ビグルス
     副艦長は何故か不在?

 友邦国のアストリオンの北岸域から侵入
 内陸の基地を奪還、そのまま寄港するべく

 海と空の戦い キュウビ小隊出現

カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record NFTart NFTartist Novel オリジナルノベル OpenSeaartist SF小説 キャラクターデザイン ファンタジーノベル メカニックデザイン ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア戦記/Lumania War Record #016

#016


Part1


 小隊に新しくベテランのクマ族たちが加わって、貧弱だった部隊編成が見違えるほどに強化されたのだが、これが実際にみなでそろって出撃するのは、それから実に三日も後のことであった。

 もろもろの都合、母国を遠く離れた彼らの母艦が公海上にしばしの足止めを食らうことになったのと、パイロットが万全だからとこの機体の調整までが万全とまでは行かなかったことがあり。

 加えて全てが新型開発機ばかりのアーマー部隊は、この機体のマッチングに非常な手間暇がかかるのだ。

 よって晴れてハンガーデッキの格納庫から海風をともなった外界を臨めたのは、およそ70時間も後のことなのであった。

 言ってしまえば寄せ集め部隊なのだが、性格おおざっぱなクマ族たちが仕切り直しをするには、およそ十分な時間である。

 ベアランド小隊(第一小隊) 隊長・ベアランド少尉(クマ族)、部下・ダッツ中尉(クマ族)、ザニー中尉(クマ族)

 広く視界の開けた専用の中央カタパルトからモニター越しの外界を眺めるアーマー部隊の隊長は、楽しげに舌なめずりした。

「さあて、いよいよ出撃だね! 予定通り、ここからずっと先に見えるあの大陸の内陸部を目指すんだけど、ぼくのランタンはいいとして、そっちのビーグルは燃料、大丈夫かな? どっちも股の下にくっついてた、あのばかでっかいプロペラントを外しちゃったでしょ?」

 見た目にずいぶんな幅を利かせていた燃料タンクをすっかりと取り外されていたのを思い返して、なにげに聞いてやるのに、左右のスピーカーからは問題ないとのおじさんたちの返事がただちに返ってくる。

「かましまへん。よっぽど過酷な最前線ならいざ知らず、まだ序の口でありますよって……! せやからどうかぼくらのことは気にせんといてください」

「ここも最前線なんちゃう? まあ問題あらしまへんわ。おれたち新人のワンちゃんたちとちゃいますから! ふふん、見といてください、バリバリ活躍してやりまっせ!!」

「そいつは良かった♡ それじゃあミーティングのとおり、ぼくらは派手に暴れ回るとしようか! あらかた近海の敵を蹴散らしてから、母艦をともなっていざ目指す南の大陸、アストリオンに上陸と……!!」

「了解!!」

 あいにくとここからではどちらも機体が見えないのだが、左右のハンガーデッキに分かれて待機している、青と赤の機体のクマ族たちからの返事に満足して、みずからも出撃に備えるベアランドだ。

 すると上面のスピーカーからは短いアラームと共に、この艦の主の声が響いてくる。

「ん、ブリッジのンクスだ。各機とも準備いいな? ただいまより〝アストリオン上陸作戦〟を開始する。各自健闘を祈る! 第一、第二部隊、共に必ず本艦に戻ってくるように……!!」

「もちろん! 了解♡ ……て、横にいるはずのあの副官どのは今はいないんだね? どこで何をしているんだか」

 小声で言ってマイクには入らないように配慮したはずが、正面のモニターの中のスカンク族の上官どのは、これが小さく咳払いするのに、ちょっと苦笑いで了解する隊長だ。

 無用な詮索はしないことだと……!

 画面の横のほうでちょっとだけ見切れている犬族のオペレーターが発進のコールを送るのに、また了解して正面に向き直る。

「少尉どの! こちらは制御室のリドルです! ランタン、発進準備OK、ランチャーカタパルト、今回は70で行きます!! よろしいですか?」

 艦長に代わって響いてきた、カタパルトデッキのアーマー発進制御室に詰めている若いクマ族の言葉には笑顔で応じる隊長だ。

「そんな遠慮しないで100でいいのに! それじゃ、先に行ってるよ! ふたりとも後から急いで追いかけて来てくれ、こっちはいざ走り出したら止まれないからね?」

「了解! て、ランチャーなんちゃらって、なんのこっちゃ?」

「知らん。見てればわかるんちゃう?」


「なら見て驚けよ。ただごとじゃありゃしないから……!」

「あはは! それじゃ、システム発動、健闘を!!」

「了解!!」


 どうやら第二部隊の巨漢のクマ族のメカニックも通信に混じっているらしいのに、なおさら笑顔になって身体中に力を入れる。

 一瞬後には巨大なGが全身に掛かりながら機体が弾丸のようにカタパルトからはき出されるのを体感していた。

 ベアランド機出撃!!

 カタパルトから発射されて、これがあっという間に見えなくなる隊長機の後ろ姿に、後から発進を控えた部下のクマ族たちは、騒然となってこれを見送った。

「はああっ、ちょ、ちょいまち! なんや今のあれぇ? あの隊長、いったいなにしてはるん??」

「わからん。あんなのアーマーの発進とちゃうんやない? ほんまにどうないなことになってはりますのん??」

 カタパルトの左右で困惑した通信を交わすクマ族たちに、デッキの中央コントロール・ルームの巨漢のクマが答えた。

「ふん、しょせんは人間わざじゃありゃしないのさ。あの機体じゃなければ空中分解必至の、弾丸ミサイル級の強引なマスドライバー発進、もとい、強制発射システムだ。おい、間違っても真似しようだなんて思うなよ?」

「思わへんて! あないなもんシャレにならへんやないですか? ちびりそうや、発進するのがこわなってきた!!」

「いいえ、ご心配なく、そちらのカタパルトシステムはごく通常のものですから! それではダッツ中尉、ザニー中尉、どちらも準備はよろしいですか?」

「ほえ、ちょい焦ったけどかまへんよ。お好きなタイミングでどうぞ。ぼくら同時の発進でかまへんから。はよせんと追いつかないやろ、あれ?」

「それ以前にこっちの第二部隊が待ってるんだ。早いところカタパルトを空けてくれ。ほら、とっとと出しちまえよ!」

「あ、はい、それでは健闘を祈ります! 両機ともカウント3で同時発進、3、2、1、カタパルト・Go!!」

「了解!!」

 全身を青と赤で塗りたくられたいかつい人型の機体が、左右のカタパルトから青空へと向けて同時に飛び立っていく!

 先に飛び立って行った緑色の隊長機を追って、どちらもまっすぐに白い軌跡の飛行機雲を描くのだった。

 これこそがいかついクマ族のみで編成されたアーマー小隊の記念すべき初陣であり、後に赤、青、緑の鬼の三原色部隊と恐れられる飛行編隊の誕生なのであった。


 Part2



 雲一つもなくした快晴の青空。

 轟音を立てて緑色の巨大な機体が大気を切り裂く。

 周りの空気との激しい摩擦で赤い蒸気めいたものをその全身にまとわりつかせながらにだ。

 耳を澄ませば風切り音もしてきそうなコクピットの中、目指す大陸の目前でゆっくりと操縦桿に手を伸ばして、しっかりとこの両手に掴み取る。

 深呼吸をひとつして機体のコントロールをみずからに手に持ち直すクマ族だ。

「よっしと……! 予定通りのポイントに無事到着、このぼくが一番乗りだね!! 敵さんもまだ見当たらないし?」
 
 まずは母艦から単機で先行して、無理矢理な出力と加速度にもてあそばれる機体とこの速度が、やがて通常に落ちるところまで安定させてから、いざ周囲の状況を見回すベアランドだ。

 レーダーサイトには今のところこれと言った反応がないが、じきにやかましく警告音が鳴り響くのはわかりきっていた。

 弾道ミサイルさながらの強引にして急速なアーマー発進は、敵の裏をかくのには便利だが、味方をことごとく置いてけぼりしてしまうのがたまにキズだ。

 よって静かなモニターの向こうに広がる大陸を見ながら、誰にともなしひとりごとみたいな文句を発する隊長のクマ族だった。

「は~ん、こうして見てみると、目標の空軍基地ってのはほんとに内陸にあるんだな? ここからじゃまだ確認ができないよ。もっと高度を上げれば見えるのかな? どうしたもんだか……! このまま単機で先行しても良さそうだけど、やっぱりベテランのパイロットさんたちを待ってたほうがいいよね?」

 言っているそばからレーダーサイトに複数の反応が出現!

 敵を表す赤の点(ドット)と、味方を表すそれとがほぼ同時にサイトの中に前と後ろからポツポツと発生するのだった。

 中でもサイトの後ろ側、背後から追いついてきた味方の友軍機の二機のアーマーのパイロットたちからただちに通信が入る。

 お国言葉のなまりが激しいおじさんのクマ族たちだ。

 緊張感をみじんも感じないお気楽なセリフを発してくれた。


「戦場の青いイナズマ! ダッツ・ゴイスン、ただいま到着! やっと追いつきましたわあ、隊長さん、早すぎやって!! 」

「ほんまに早いわあ! ひとりで何をそんなに急いでますのん? ひと呼んで赤い旋風のザニー・ムッツリーニ、おなじく到着しました、そいで敵さんも、もうぼちぼち来てはるんですな?」

 はじめに青い機体のクマ族の威勢のいい文句が耳朶を打つ。

 到着するなり回りの状況を適宜に把握しているこちらは赤い機体のクマ族のベテランパイロットの言葉に、すぐさま了解してモニターがマークする敵の機影を確認するベアランドだ。

ベアランドの乗機、バンブギン、通称ランタンと、ザニーとダッツの乗機、ビーグルⅥ・プロトタイプ(まだ描き掛け)


 おそらくはどこか遠くの洋上の母艦か、さらに遠くの大陸の西海岸の敵基地から飛び立ったものとおぼしき航空機いくつかが、こちらに向けて急速に接近してくるのをそれと認める。

 よって完全に慣れきったおじさんたち同様、こちらもいささかも焦ることもなくして、こともなげに言ってやるのだった。


「ああ、ジェット・フライヤーか! ああいう航空機タイプって、大抵は無人機なんだよね? 本命のアーマーが到着するまでの時間稼ぎぐらいなもので。だったら、さっさと落としちゃお♡ それじゃ主役のアーマーが来たら、各自で対応お願いね!」

 言いながら操縦桿のトリガーを二回、三回と引いて、迫り来るジェット機をことごとく打ち落とす隊長の緑の大型アーマーだ。

 そのまるで容赦がなくあっさりとしたさまに半ば感心したようなおじさんクマ族たちの返事が返る。

「了解! にしてもなんやちょろい作戦みたいやんな? 思うたよりも敵さんおらへんし、このまま海岸線の先まであっさり突破できそうやわ!!」

「せやんな、隊長さんのそのアーマーやったら敵なんかおらへんのちゃう? あ、来ましたで、本命のアーマー部隊! なんかひょろっちいのがこっちに向かって来てはるけど、あんなんおったったけ??」

「ん、ああ、あの見覚えのあるカトンボは、敵の新型機だね! 以前に会敵したことがあって、そんなには苦戦しなかったんだけど、あれとおんなじか別の同型機なのかな? どっちにしろそっちのビーグルで十分に対応できると思うよ」

 正面のメインモニターの中央に捉えた、どちらも見覚えるのある特徴的な細身のデザインの二機の軽量級アーマーに、だがこちらはまるで感心なさげに答えるベアランドだ。

 形状がまったく同じ見てくれのふたつの敵影は、おそらくは以前にやり合ったものと同一の機体なのではないかと思われた。

 前回、さして苦労することもなく撃退していたこともあり、こちらの経験豊富なベテラン勢ならそう手こずることもないだろうと確信する隊長さんだ。

 これに手練れのクマ族のパイロットたちが即座に応ずる。

「カトンボでっか? ふう~ん、なるほどや、ほなここはこのぼくらに任せてもらいましょうか、よって隊長さんはそこで気楽に見といてください」

「よっしゃ、やったるでえ! あないなひょろっちいザコちゃんアーマー、一発どついたらそれでしまいや!!」

 モニターの左右で不敵な笑みを浮かべる赤毛のクマと灰色グマをいかにも頼もしげに見ながら、こちらは若干の苦笑いになる茶色の若いクマ族だ。

「あんまり油断してると機体にキズをつけちゃうかも知れないよ? まだ初戦なんだからなるべく手堅く行ってよね! それじゃ、お言葉に甘えてぼくは高みの見物させてもらうけど、第二小隊のシーサーがなんか下からやかましく言ってるから、ちょっと高度を上げてぼくらはもっと上空でやり合おうか?」

 天井のスピーカーから何やらやかましい文句が入って来たのは、後発の第二小隊が追いついたその直後のことだ。

 小隊隊長のウルフハウンドのものだったが、これに傍で聞いていた赤い機体のパイロットのクマ族が了解してくれる。

「ああ、それやったらこっちにもテキストで入電しておりますな? なんやえらい怒ってはるようやけど?」

「尻にくっつけとる新人のワンちゃんたちがやりづらあてしゃあないから、おれたちみたいな邪魔もんはどっか遠くに行ってくれゆうてはるんやろ? なんやめっちゃひとりよがりやんなあ、そないなもんはそっちで面倒みたれよ!」

「まあまあ、言ってること自体は間違ってはいないんだから! あんまり混戦状態になったら同士討ちもありうるし、距離はちゃんと取っておこう。それにこのぼくのカンだとそろそろやっかいなのも出てきそうな頃だから、いざそっちに対応するためにも、スペースはなるたけ広く取っておかないとね♡」

「はあ? なんのこっちゃ? お、カトンボが早速こっちに来よったで! 相方、ようやっとこの腕の見せ所や、ぼくらの得意の空中殺法、ヤツらにガツンとお見舞いしたろ!」

「ガッテン!!」

 さすがにお互い息の合った熟練パイロットたちだ。

 同時にこの機体を海上からさらに上空へと舞い上がらせていく。

 するとこれを追いかけるかたちで敵の二体のアーマーも次次に上空へと導かれるように機体を上昇、一定の距離を保ちながら互いににらみ合うかたちとなった。 

 やかましく通信交わしながら機体高度を一気に上空にまで押し上げて新型機同士の一騎打ち、もとい、コンビ対コンビの空中戦タッグマッチが始まるのだった。


Part3


 ところ変わってこちらは対戦相手となる、敵側のアーマーパイロット、犬族のモーリィがいまいましげな愚痴ともひとりごとともつかないセリフを正面のモニターに向けてがなっていた。

 年の頃で言えば青年の若手パイロットはとかく血気盛んだ。

「ん、ちょい待ち、あっこにやなヤツがおるでぇ? いつぞやのでっかいお化けアーマー! おまけに子分を2匹も連れとるやんけ!! しんどいわあ、このまま知らん顔して帰ったろか? やってられへんやろ!!」

 あっさりと敵前逃亡をほのめかすのに、これを受ける相棒のこれまた犬族の、もさもさ顔したリーンが明るく答える。

「銃殺刑にされるんちゃう? せやったら少しは相手をしたらな! あのでっかいのは手をつけられへんとしても、子分さんはどうにかできるんちゃうん? なんや見たこともないようなアーマーやけど!」

「はん、しょせんはひとさまの領土やゆうて、みんなで開発機の実験しとるんかいな? えげつないわあ! せやけどあっちはやる気まんまんらしいから、それなり相手してやらな失礼になるんかの? ええわ、そやったらこっちも星を挙げて正規軍の仲間入りさせてもらお!」

「なんや、結局はやるんかいな!」


「当ったり前やろ! ちょうど二対二でええ勝負できそうやし、大ボスはずっと後ろに構えてはるから手を出す気はないんちゃう? 前もやる気なさそうやったから、ひょっとしたら本調子ちゃうのかも知れへんやん。こっちは本命の後続部隊が来よるまで持たせたればいいゆうてはったから、のんびり持久戦としゃれ込ませてもらお!」

「せやんな! ちゅうかわしら真打ち登場までの噛ませ犬かい」

「ええわ、ほな噛ませ犬もあなどれんちゅうことを見せたるわい!」

 再び登場! 関西弁の犬族キャラコンビ、モーリィとリーンの若手パイロット! アーマーは新型のロータードライブ型!!


 さも息の合った漫才みたいな掛け合いをしながら、じりじりと相手との距離を詰める、二体の飛行型アーマーだ。

 緑の大型アーマーを奥に控えさせた状態でこの前に立ちはだかる二機の青と赤のアーマーに、それぞれが個々に狙いを定める。

 果たしてはじめに仕掛けるのはどちらなのか?

 抜けるような青空の下で息もつかせぬ緊張感が高まった。

 これを傍から見ていた隊長のベアランドは、その静かな立ち会いに、それでも結果は知れていると周囲への警戒を怠らない。

「悪いけどその華奢で非力なアーマーじゃ、うちの大ベテランのおじさんたちには敵わないよね。むしろ問題はその後で……! 西岸の本拠地からより強力な増援部隊が来るのは明白で、本番はきっとそこからなんだ」

 そう言っているさなかにも眺めているモニターの中では、青いアーマーが瞬時に素早い機動に入るのだった。

 こちらにより先行していた敵のアーマーに向けて、ただちに一直線の突撃機動、激しいチャージをかける!

 空中での接近戦を果敢に挑むのをただじっと眺めていた。

 胸の内ではちょっとした胸騒ぎを感じながらにだ。

 大気を震わす轟音が鳴り響いた。

 戦場の青いイナズマ!ダッツと、赤い旋風、ザニーの専用ギガ・アーマーの図、とりあえずこんなカンジ?


 みずからを青いイナズマと言った通り、強力なターボジェットエンジンをいくつも搭載したアーマーは、そのずんぐりした見てくれによらない、急速発進と加速度で一瞬にして敵アーマーとの間を詰める。

 そのままショルダーチャージでも仕掛けそうな勢いだったが、すんでの所で急停止してアーマーの右手に装備したハンドカノンを相手めがけて振りかざす、ダッツの青いアーマーだ。

 その名を「ブルー・サンダー」。

 歴戦の勇者である中尉が、その幾多の戦火の中で勝ち得た、数ある異名の中の一つだと、そうベアランドは聞かされていた。

 まさしくだなと思う反面、さっさとケリをつけないでもったいつけたように相手にその銃口をちらつかせただけなのには、内心であれれ?と首を傾げてしまう。

 言ってしまえばまだ本気の本調子ではない、およそ遊んでいるような印象を受けるのだった。

「あらら、大丈夫かね? 窮鼠猫を噛むって言うし、あんまりなめてちゃいけないんじゃないのかな??」

 ちょっと突っ込んでやろうかと通信をオンにした途端、左側のスピーカーからやかましいがなり声が響いて面食らう隊長だ。

『見たかおんどれぇ! ビビッてんちゃうんか? 次はマジでやったるから覚悟せいよ、おおら行くで、おらおうらおらぁ!!』

「わっ! びっくりした……まあ、心配ないみたいだね?」

 結果、何も言わずに通信をオフにする隊長さんだった。

 ダッツからの猛攻に明らかに動揺する灰色の飛行型アーマーの中で、若い犬族のモーリィはあられもない悲鳴を上げてどたばたとのたうちまわっていた。

「わ、なんや! いきなりそないなむちゃくちゃしくさりおって、ぶつかってまうやないか!? は、挑発としるんけ? ええ根性やな、ええわ、やったるわ!! おおおおおおおおおうらあっ!!」

 機体の小回りを活かした空中の接近戦ならいくらでも勝ち目があるとあえて相手の挑発に乗ってやる若手のビーグル族だが、負けん気が強いのが今は仇となりつつあるようだった。

 空中での制止機動や上下運動が得意なロータードライブの利点を最大限に用いて右へ左へと機体を揺らして相手を翻弄するはずが、目の前のスピードとパワーが取り柄なだけのジェットドライブタイプはなんら苦も無くこちらの動きについて来ている。

 むしろこちらが翻弄されかけて、相手の構えた銃口の照準をずらすのに今はただただ必死のモーリィだった。

 ギリッと厳しく結んだ口元から、果ては言葉にならない悲鳴じみたものが漏れ出る。

 これにこちらが押していることを確信してますます本調子になる青のアーマー、ベテランパイロットのクマ族のダッツは舌なめずりして正面のモニターに凄みを利かせた。

「かっか、いい気味や! 小型で小回りが利くからこないなドッグファイトやったらじぶんのほうが有利やと思っとったんやろ? ざまあかんかん!! ジェットのパワーを最大限にかましながらの縦横無尽の空中殺法がこの青いイナズマこと、ダッツ・ゴイスンさまの最も得意とするところやからの! じぶん、もうフラグ立っとるでぇ? 観念しいや!!」

 あと一押し、ないしふた押ししたらばっちり照準を定められると勢い込んだところに、甲高いアラーム、警告音が鳴り響く!

「んっ、ちっ! おおい、いいところなんやから邪魔させんなや! あとのヤツはおのれの領分ちゃんけ?」

『わあっとるわ! そうやって間で遊ばれとるからやりづらいだけで、もうこっちもええとこまで追い詰めとる……!』

 片やお互いに距離を置いての銃撃戦にいそしんでいた赤いアーマーの相棒が、通信機越しにやや不機嫌な返事をよこしてくる。

『レッド・ストーム』と自身の異名から取ってつけた赤いジェットドライブ・タイプのアーマーは、相棒の青い機体のそれとは一部の仕様が異なるだけで、見た目ほぼ同一タイプの機体だった。

 背後から赤い一条の閃光が一直線に走ると、それきりやかましい警告音がピタリと鳴り止む。

 後方支援に回っている敵アーマーの射撃マークが外れたのが直感的に理解できたが、実際にてんで見当違いの方向に銃弾がばらまかれるのに相方の援護が適正に働いたのを現実にも理解する。

 舌なめずりするダッツは鋭い視線をモニターの正面に据えた。

 相手の灰色の機体は前後左右へと激しく回避運動をするのに、そのさまが今は獲物の子鹿が震えているかのように見えていた。

 そしてこのさまを傍から自機のコクピットの中でのんびりと構えて見ていたベアランドは、決着がじきに着くだろうことをそれと予感していた。

 言うだけあってさすがベテランのクマ族コンビは、それは腕利きのパイロットたちだ。

 激しい戦火を幾度もくぐり抜けて来ただけのことはある。

 思っていた通りかそれ以上の出来に内心で満足しつつ、目ではてんでよその方向を見ながらに、またもうひとつの予感が現実になりつつあることをそれと確信するベアランドだ。

「やっぱり、おいでなすったか……! まさしく今回の本命、さしずめ真打ち登場って感じなのかな?」

 目の前のレーダーサイトには、大陸の北西部の方角からこちらに向けて急スピードで接近する、三機のアーマーらしき点滅が灯っていた。

 抜けるような青空の下、暗雲が立ちこめるのをただひとりだけ実感しつつある若いクマ族の隊長だった。


  次回に続く……!




状況 海上 ベアランド 単機でアストリオンの北岸域へ…
  ダッツ、ザニーと合流の後、敵方のモーリー、リーンと交戦
  第二部隊が合流、上空へ ← キュウビ小隊

「アストリオン上陸作戦」プロット
  アストリオン情勢

アストリオン・中央大陸(ルマニア・東大陸/アゼルタ・西大陸)
アストリオン・種族構成・ブタ族、イノシシ族、イノブタ族などがおよそ半数を占める。アストリオン自体は宗教色の強い、宗教国家でもある。元首・イン ラジオスタール アストリアス(家)

アストリオン・大陸構成
東側 アストリオン 60%
中央砂漠 空白地帯 25%
西側 ピゲル大公家 15%
 西側は過去にあったルマニア(タキノンが領事だった?→タルマとの確執になる?)とアゼルタのゴタゴタで独立を宣言したピゲル公爵の独立領となり、後にアゼルタと同盟関係になる。

主人公、ベアランドたちが目指すのは、大陸の北岸地域から侵入して、大陸内陸部の中央砂漠にあるアーマー基地。今は西の大公家と結びついたアゼルタの支配下にあるのだが…?
 実は無人化している?? レジスタンス(ベリラ、イッキャ?)の暗躍…!

Part2 ベアランド小隊、
 敵キャラ、モーリーとリーンに遭遇 
          ↑
Part3     キュウビ小隊、出現!!
    キュウビVSダッツ、ザニー…!

    移行、アストリオンに上陸……
  基地の占領完了と同時に、アストリオンからの守備部隊と合流?←ジーロ艦に合流したダイル?

プロット
ベアランド小隊、出撃 ベアランド、ダッツ、ザニー
ウルフハウンド小隊、出撃 ウルフハウンド、コルク、ケンス

ブリッジ 艦長 ンクス、オペレーター ビグルス
     副艦長は何故か不在?

 友邦国のアストリオンの北岸域から侵入
 内陸の基地を奪還、そのまま寄港するべく

 海と空の戦い キュウビ小隊出現

カテゴリー
DigitalIllustration NFTart NFTartist Novel オリジナルノベル OpenSeaartist キャラクターデザイン ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス 寄せキャラ

ルマニア戦記/Lumania War Record #015

#015

Part1


 一難去って、また一難……!

 戦場の嵐はどうにかこれをくぐり抜けたはずなのに、また新たな嵐に飲み込まれてしまう不運のアーマー部隊だった。

 一時的にお世話になるべく立ち寄った、新型の僚艦。

 その第一艦橋にみなで顔を出すなりこれに烈火のごとく怒り出すブリッジの主、ジーロ・ザットン大佐に恐れおののくふたりの部下たちの盾になりながら、どうにかこの怒りを納めようと悪戦苦闘するクマ族の隊長、ベアランドだ。

 内心ではそんなに怒ることもないだろうにと首を傾げながらも、後から艦に合流して上がって来た副隊長のウルフハウンドと共に、どうにかこうにか荒れ狂う艦長どのをなだめすかしてその場のお茶を濁すのだった。

 昔は教官と生徒であった間柄で知らない仲ではない。

 よって性格いささか難ありなこのおじさんの対処法はどちらもそれなりに心得ていた。

 かくして不機嫌ヅラでブリッジを後にする艦長の背中をいったんは静かに見送って、心身共に疲れ果てている部下たちを副隊長に任せたら、この後をひとりで追いかけるアーマー隊長である。

 いくつか聞きたいことがあったし、部下を抜きにしたもっと冷静な話し合いをあの切れ者の指揮官とは持ちたかった。

 相手は艦長室にこもるようなことを言っていたが、その性格柄で当てにならないと予想するかつての教え子は、何の気も無しにまったくの別方向へとこの足を向けていた。

 そこはこの艦の最上階のブリッジのさらに上、いわゆるてっぺんの天井、ロフト部分だ。

 すると思った通りに外部へのドアはロックが外されていて、外に出ると道なりにタラップをのぼってこの屋上部分へと顔を出す。

 見晴らしのいい真っ平らな鋼の屋根には、これまた思ったとおりの人物が、真ん中に仰向けで寝そべっていた。

 どうやらぼんやりと青空を眺めているようだ。

 やっぱりね……!

 これにはちょっとしたり顔してそちらに歩み寄る隊長さんだ。

 こちらから話しかけるよりも先にあちらのほうが反応した。

「どうしてわかった? 俺は艦長室に行くと言ったはずだが」

 すぐ間近から犬族の仏頂面を見下ろしながら、ぺろりと舌を出して応じるクマ族だ。

「どうしてって、教官どの、もといジーロ艦長が性格ねじくれた気分屋なのはみんな知ってるじゃない? ぼくなんかそれこそ昔からの旧知の仲なんだからね!」

「ふん、わるかったな……! 何の用だ? あいにく気ままなクマ族の相手なんかする気分じゃない」

 ますますしかめ面の上官どのにもお気楽なクマの隊長はいたずらっぽい笑みでウィンクくれてやる。

「そう言わずに! 久しぶりなんだからちょっとはお話しようよ、まじめな話ってヤツをさ?」

 短い舌打ちが聞こえたが聞こえなかったふりする隊長はしれっと言ってやる。

「さっきはずいぶんとお冠だったけど、あれじゃ若い芽がつぶされちゃうよ。上官とは言えパワハラだったんじゃないのかい?」

「…………」

 返事がないのにこれまたしれっと聞いてやる。

「まさかとは思うけど、コルクと何かあったのかい? あの性格気弱な毛むくじゃらの犬族くんと、過去にさ??」

「どうしてそう思う? 俺は初対面だと記憶している」

 むすりとした顔で青空見上げたままのジーロに、ベアランドは真顔で言葉を投げかける。

 ある意味、一番気に掛かった事柄だった。 

「そうか。でもあの子のことをはじめて目にしたって時に、なんだかちょっと驚いたような顔をしてたよね? 艦長?」

 また短い舌打ちが聞こえる。

「ッ……イヤなところをしっかりと見ていやがるんだな? この食わせ物のデカぐまめ! いいや、なんのことはない」

「?」

「そうさ、ただの他人のそら似ってヤツだ……! おまえにプライベートをあれこれ詮索されるいわれはないぞ? 気にするな。あいつとはあかの他人同士だよ」

 そんな幾分かトーンを落とした返答には、なるほどと納得して頷きながらもまたその首を傾げるクマ族だ。

「そうか、そりゃそうだよね。う~ん、それなのにひどいな、あの怒りようは?」

「八つ当たりをした覚えはない。ちゃんと必要なことを言ってやった。あんなビビリじゃそれなりに免疫つけなきゃこの先やっていけないだろう? おままごとをしているわけじゃないんだ」

「そりゃあね……!」

 浮かない顔の艦長は胸の内から取り出した何かしら眺めながら至って気のない返事なのに、ちょっとだけ引っかかりを覚えながらも話を変えるベアランドだった。

「ああ、そういや、ぼくらのボスとはなんの密談をしていたんだい? この先のことに関わるんだろうから、ちょっとはこっちにも教えてもらいたいんだけど」

「そんなものはそっちのボスに聞け! ンクス艦長、先生からはあっさりと断られたよ。悪い話じゃないと思うんだが、あちらにはあちらの思惑があるんだと」

「ふうん、あっさりと引き下がるんだ? らしくないなあ!」

「ほっとけ……ん!」

 それまでの穏やかな潮風が一転、身の回りがいきなり騒がしくなるのに両耳をピンと立てて回りの気配を探る艦長だ。

 これに身の回りをぐるりと見回してそれと認めるベアランドはちょっと意外そうに騒音の元となっている見慣れた同僚の機体を眺める。海を渡る機体と、空を飛ぶ二機のアーマーたちが見る間に小さくなっていくのを見送った。

「なんだ、もう帰っちゃうんだ、シーサーたち? せっかくこの艦の中をみんなで見て回る許可を得ていたのに!」

 これには足下から不機嫌そうなおじさんが言ってくれる。

「お前もさっさと帰れよ。あとなんであんな目立つところにあんなブサイクなアーマーを停めてやがるんだ。さっきから目障りでしかたがありゃしない」

「そんな青空を眺めながら文句を言わないでおくれよ。あそこにしか停められなかったんだから! 間違って塩水に漬けちゃったらうちのメカニックくんたちがきっと嘆くし♡」

 聞きたいことが空振りだらけだなと苦笑いしながら、また他に話を向けてやる隊長さんだ。

「そういや、この艦のアーマーらしきが見当たらないけど、ベテランのパイロットとその新型機ってのはデマだったのかい? 個人的にはちょっとだけ期待してたんだけど」

 するとこれには何故だかちょっと苦い顔つきしてひん曲がった口元で答えるジーロだった。

「あるさ。あるにはあるが、ただそれにつき若干の問題があって、出すに出せないってだけのことであって……!」

 そこで不意にむくりと起き上がって、でかいクマ族を見上げる犬族の艦長だ。そうして何かしら意味深な目つきと共に言ってくれるのだった

「そうか、だったらお前にいい土産話をくれてやる。せっかくだからな? 面白いものを見せてやるから、付いて来いよ」

「?」

 怪訝な顔で背中を見送るクマ族に、老獪な犬族はニヒルな笑みをその口元に浮かべて促した。

「だから、お前が見たいって言うヤツらに会わせやるって言っているんだ。おまけにこのアーマーにもな? 俺の気が変わらない内にさっさと来い」

 こうして言われるままにこの後を付いていくクマ族の隊長は、その先で思いも寄らない者たちと会うことになる。

 やがてひとりだけ母艦に帰投するアーマーの中で、この顔に苦笑いが張り付いて取れないベアランドであった。


Part2

 無事に戦いを終えてみずからの母艦に戻ったベアランド小隊であったが、その日の夜半にはまた再び出撃することとあいなるのだった。

 敵襲などではなく、友軍の僚艦にふたたび呼ばれてのことだ。

 例の偏屈な犬族の艦長にまたみんなでお説教を食らうのではあるまいな?とはじめ微妙な顔つきのクマ族の隊長さんだが、こちらの大ベテランの艦長から聞かされたのは、それは意外な先方からの提案であった。

 とは言えでさては何かしらの打算があるのではないかとこれまたビミョーな顔つきのベアランドなのだが、小隊の部下たちを引き連れてまた新型の巡洋艦へと向けて夜空に飛び立つのだった。

 ただし今回はベアランドの大型機だけで、ふたりの犬族たちの機体は航空空母に置き去りにしたままの、単機での発進だ。

 よってこの2名をみずからの機体のコクピットに同乗させての発艦だった。

 これに部下であるコルクとケンスは、さっぱりわけがわからないとひどい困惑顔をしながら、あちらに着いていざその場で命じられた命令には、なおさらギョッとして当惑することしきりだ。

 ついてほどなく、また母艦へととんぼ返りすることになる第一部隊は、今度は三機編成のアーマー小隊となってみずからの新型重巡洋艦の空母へとたどり着くことになる。

 ちなみにこの時、はじめ三名だったはずの隊員は、何故かこれが五名へと増えており……!

 詰まるところ以前に犬族の艦長どのが言っていた〝お土産〟が、早くももたらされた結果であった。

 大型のアーマーを専用の機体ハンガーに着艦収容させて、クマ族のパイロットは、ただちにこのコクピットからメカニックスタッフであふれかえるデッキフロアへと降り立つ。

 そこにはすでに新しく持ち帰った機体をこれ用のハンガーに収容させていた二名の犬族たちが、ピシッと敬礼して待ち構えていた。ここらへんはすこぶる礼儀正しい新人パイロットだ。

 軽くだけ敬礼して返す隊長のクマ族は、見上げてくる若い犬族たちにおおらかな口ぶりで声をかけた。

「ふたりともおつかれさん! で、どうだった? あの仏頂面の犬族のおやじさんからもらった新型機は? はじめてでおまけ夜間飛行じゃちょっとしんどかったかね、いくらきみらのアーマーと同型機とは言え……!」

 するとこれに敬礼を解いてから応じる長身の犬族、ケンスは戸惑い気味に答えた。

 その隣の同僚の犬族のコルクも何やら困惑気味の表情だ。

 どうやらこのふたりには、あまり相性が良くはない機体だったらしい。

 その様子だけでもはやなるほどと納得する隊長さんだ。

「機体の反応はとても良好でした。おれたちのと遜色ないです。ただ、操縦桿やスイッチのたぐいがとても重くて、やたらに固かったですね! あれじゃいざ戦闘になった時に大変だ……」

「お、オレも、とても苦労しました! あんなのオレたちの手には負えませんっ、ここまで飛ばしてくるのでやっとだったから……!」

「そうか。なるほどね! 知ってのとおりでクマ族のパイロットさんたちだから、そっち向けに操作盤回りがきつめにチューニングしてあるんだよ。ぼくらからしたら、犬族用のはむしろ設定がゆるゆるで、ちょっと肘が当たっただけで固定武装やら何やらが暴発しちゃうからね!」

 冗談めかした言いように、暗い顔つきのケンスが苦笑いして背後に立つ新しいアーマーを見上げた。

「そもそもが、コイツはおれたちのと同型機なんですか? まったく見てくれが違うように思えるんですけど……なあ?」

 横の相棒に問うのに、問われた毛むくじゃらの犬族はうんうんと激しく頷いて同意する。

 すると問われたクマ族の隊長も、ふたつ並んだ機体を見上げながらにやんわりとこの疑問に応じた。



「まあ、これっていわゆる試作機、プロトタイプってヤツでさ、きみらのビーグルⅥの元となった機体らしいよ? これを量産型に改良・改修したのがあっちの機体で、ある意味兄弟みたいなもんなんだよ♡ いたるところゴツゴツしてて、いかにもクマ族向けって感じだけども」

「犬族とクマ族で兄弟ってあんまりピンと来ないですけど……」

「あ、あの頭も、なんかクマっぽい……!」

「ああ、通称、ベア・ヘッドだって! この機体、ビーグルとは言いながら、ヘッドはぼくのとおんなじまあるいクマ型なんだよね。なんかブサイクな♡ でもぼくのランタンほどじゃありゃしないか!」

 茶化して笑う隊長に、やはり苦笑いの部下たちだった。

 この時、背後のほうで何やらごそごそと気配がし出すのに、そちらに気を向けようとしたベアランドだが、折しも横合いから声を掛けられてみんなでそちらに向かうこととなる。

 はじめに部下たちが同乗していた機体に、帰りはまた別のふたりの隊員たちを乗せていたのだが、それをすっかり失念していたのをようやく思い出すベアランドだ。

 それでもベテランの軍人たちなのだから、ほっておいても平気だろうとあえて気にかけずに、今はこちらに近寄ってくる同僚の副隊長に身体を向け直した。

 オオカミ族のウルフハウンドは気楽なさまで声を掛けてくる。

「おう、もう帰ったのかよ? 早かったな! ふうん、ずいぶんとブサイクな機体だが、それなりに使えるんだよな? おまえたちが乗って来たんだろ??」

「ハッ!」

 かしこまってまた敬礼する新人たちに、鷹揚な態度の第二部隊隊長はにんまり顔してこの喉を鳴らした。

「くっく、いい反応だな。多少は戦い慣れてきたってことか。学生さんがいっちょ前のパイロット面してやがる! それじゃ早速だが、こいつらは預からせてもうらうぜ?」

「ああ、そうか、明日付でふたりともシーサーの第二小隊に編入されるんだものね? ぼくのほうにふたり、ベテランが入ってきたから。なんか名残惜しいな♡ ぼくのこと忘れないでね?」

「忘れるも何もみんなおんなじ艦に所属の一個中隊じゃねえか? これからも毎日顔を合わせるんだからよ。明日から所属が別になるんだが、もう今からみっちりとミーティングだ! 戦い方も変わってくるから、そこらへんも覚悟して従ってもらうぜ?」

「ああ、なるほど。どっちも機体の仕様が飛行型から地上戦、ないし海上戦用に変わるんだっけ? 道理でふたつともこの区画に見当たらないわけだ。あの銀色のまっちろい機体?」

 表情をややこわばらせるふたりに明るい笑顔で言って、副隊長のオオカミ族には了解したと頷く隊長のベアランドだ。

「それじゃ、行っておいで。副隊長がキビシイからってへこたれちゃダメだよ? しっかりとそのシッポに食らいついて一人前のパイロットにならなくちゃ!」

 最後にびしっと敬礼してただちに灰色オオカミに連れられていく犬族たちを見送る隊長さんだった。

 それきり立ち尽くすが、しんみりとした気分に浸るには回りの喧噪がやかましすぎる。

 それで気持ちを切り替えると、ぐるりと頭を巡らせて、ふたたび自分のアーマーへと向き直るのだった。

 見ればそこには、新顔のふたりのパイロットたちが陽気なさまで立ち話をしている。

 何故だか楽しそうにピョンピョンとフロアで跳ねている、見てくれのそれはでっぷりとした大柄な年配のクマ族たちだ。

 これにはやたらな親近感が沸いてにんまりした笑顔が隠せない隊長さんである。

 こちらはこちらでまた忙しくなるのに違いなかった。

Part3


 巨大な軍用艦の食堂は、一度に大勢の乗組員が利用できるようにそれは大きな区画面積があり、一部には士官やパイロット用の専用フロアだなんてものまでが用意されていた。

 これに普段はさしたる意識もせずにそこらで食事を摂っているクマ族の隊長さんなのだが、あえて今だけはその人気のない専用スペースを陣取ることにする。

 つまりは今日付で編入されてきた新人の隊員たちをともなって、軽いミーティングの場を設けるためだった。

 先にデッキフロアから上がって、すでにミーティングを行っているはずの同僚のオオカミ族が率いる第二部隊はどこにも見当たらないので、おそらくはどこぞかのブリーフィング・ルームにでも詰めているのだろう。

 みなが大柄で大食漢ばかりのクマ族たちとは違って、その体つきがスマートな種族が大半のオオカミや犬族たちには、食べながらミーティングをするという発想や慣習がないのかも知れない。

 食堂の横長のテーブルのあちらとこちらに分かれて座るベアランドは、これと対面するふたりのベテランパイロットたちを実に頼もしげに見つめては、クックと喉の奥を震わせるのだった。



「ふたりともほんとに良く食べるな! 見ていてあっぱれだよ。小食なコルクたちに見習わせてやりたいくらいだ♡ よっぽどおなかが空いてたんだね? まあ、わからなくもないけど……」

 性格何かと難ありな犬族の艦長の巡洋艦に居た時の悲惨なありさまを思い返しながら、肩を揺らして笑ってしまう隊長さんだ。

「それじゃ、食べながらで構わないから、今からおおざっぱなブリーフィングをさせてもらうよ。改めて自己紹介をば♡ じぶんはこのアーマー部隊の隊長を務める、ベアランド少尉だ。ぼくらはとりあえず第一小隊、この戦艦の中では、いわゆる航空アーマー部隊ってヤツだよね、てことで以後よろしく!」

 これにテーブル上にどかんと置かれていた山盛り一杯の食事から、二人そろって顔を上げるクマ族たちは反射的に立ち上がろうとするのを、やんわりと制止するベアランドはまた続けた。

「あ、いいよ、敬礼はさっき済ませたばかりじゃない? そのまま食べ続けてていいから。どうせ面通しくらいのおざなりなものしかやらないんだし、いちいち細かいこという必要もないってものだしね? なんたってこんなにいかつい見てくれした大ベテランのパイロットさんたちじゃさ!」

 どちらもじぶんとおんなじ大柄なクマ族の上に、ふたりともこの艦内ではおよそ見かけないような一風変わった見てくれのスーツに身を包んでいるのを、いかにも頼もしげなニコニコ顔で眺める隊長さんだ。

 見ようによってはかなり異様な、いっそ囚人服だとかを思わせる横縞柄のパイロット・スーツは、これぞまさに知る人ぞ知るべくした王宮や内政府直属の守備部隊の専属衣装だった。

 すなわちよほどの熟練した手練れのみが身につけることを許された、アーマー曲技曲芸部隊、人呼んで『サーカス・ナイツ』の出身であることを、どのくらいのクルーが知っているのだろう。
 
 一説には暗殺だとかいった闇の仕事もこなすのだとか……?

 こうして目にすることもなかなかに無いはずのものなのだ。

 軍内部ではある種の「伝説」とまで化した戦闘集団だった。

 それだから見ていてわくわくが止まらない若いクマ族の隊長は、太い首を傾げながらにしみじみと言うのだ。

「う~ん、それがどうしてあのおじさん、もとい偏屈な犬の艦長さんのとこにいたのかねえ? あんまり詳しくは聞けなかったけど、なんかワケありっぽいのかな♡ おまけにこのNo.8とNo.9とはさ! 上位10位以内の上級ランカーだなんて、普通はなかなかお目にかかれないんもんだろうに?」

 見た目がかなり特殊なデザインしたスーツの胸ポケットのあたり、それぞれに固有のナンバーが描き込まれているのを読み上げては、ひとしきり感心するのだった。

 これにどちらも一度は立ち上がりかけながら、また口の中いっぱいに食べ物を詰め込んでモグモグやっていたふたりの中年のクマ族たちである。


 それがやがてごくんと口の中のものを飲み下したらば、やや苦笑い気味の照れたような笑顔を向けてくる。

「いやいや、そないに大したもんちゃいますわ! なりはこないですが、おれらしがないアーマー乗りってだけのことでして。なあ?」

「せやな。ぼくらアーマーをうまく扱うことだけが取り柄のただのおっさんですわ。お恥ずかしいはなしやけど……!」

「そんなこと♡ 『高空の大鷹と大鷲』とまで恐れられた、クマ族きっての熟練パイロットコンビ、よっぽどのもぐりじゃなければ知らないヤツなんていやしないよ!」

 まんざらお世辞でもなさそうな隊長からの発言に、また互いの顔を見合わせてこちらもまんざらでもなさそうな上機嫌で照れ笑いするおじさんたちだ。

「そないに言われると照れてまいますわ! ええ隊長さんに拾うてもらえてこっちは大助かりですさかいに。この軍艦、飯もめっちゃうまいし、ええことずくめやわ!!」

「ほんまや。今後ともどうぞよろしゅう。せやからぼくらも改めて自己紹介をさせてもらいますわ。噂ほどの腕があるかは知りませんが、ぼくはヒグマのザニー、ザニー・ムッツリーニ、階級は中尉であります……!」


「せやったら、じぶんはグリズリーのダッツ、ダッツ・ゴイスン中尉であります! よろしう願いますわ、ほんまに! マっジでがんばりますさかいに!!」


 息の合ったふたりからの歯切れのいい名乗りにあって、こちらもますます上機嫌で受け答えるベアランドだ。

「どうも♡ こちらこそ、頼りにしてるよ! だったらほら、遠慮しないでもっと食べてよ、じきにお代わりも来るだろうから。おなかペコペコなんでしょ?」


 鷹揚なクマ族の隊長からの催促に、いささか気後れすることもなくがっつりと頷くこちらも豪快なクマ族たちだ。

「はあ、それは、そんなら喜んでいただかせてもらいますわ!」

「ほんまにええ隊長さんや! でもなんで部隊を率いるっちゅうリーダーが、おれらよりも年下でおまけ格下の少尉さんなんや? このひと??」

 目の前のごちそうに再び取りかかりながらこちらをチラチラと目の端でうかがってくる灰色のクマ族に、向かって左隣の赤毛のクマ族はあいまいな顔つきでただこの頭を傾げさせる。

 おおらかな口ぶりの隊長はこれに気にするでも無く答えた。

「まあ、そのへんは今はどうか大目に見てよ♡ これから頑張って階級上げるように努めるから。ふたりとおんなじか、いっそ大尉さんくらいがいいのかな? 正直、個人的にはあんまりこだわりがないんだけど、そこらへん」

「ええです。気にしませんわ。ちゅうか、少尉どの、やのうて隊長さんが乗ってたあのアーマーを見たら、納得やわ。あないにバケモノじみたいかついギガ・アーマー、そこいらのパイロットには乗られへんのやさかい。実力は保証されとるっちゅうわけで」

「せやな! ビックリやわ!! あないなお化けじみたもんひとりで乗りこなすなんてありえへんで、ほんまに。ちゅうかマジでひとりでやってますのん? おっかないわあ……!!」

 おじさんのクマ族がふたりしてうんうんとうなずき合うのに、こちらも照れた笑いでうなずく若いクマ族だ。

「どういたしまて。とは言えで、そっちのアーマーもかなりのモノではあるんだけどね? 初期型のビーグルⅥとは言っても、現行の機体よりもよっぽど性能が良さそうだよなあ。実際に乗ってたコルクとケンスがとても扱いきれないって嘆いていたし?」

「フフッ、犬族のワンちゃんたちにはしゃあないですわ。なんちゅうてもベア・ヘッド! クマ族のぼくら専用にチューニングした機体なんやから。装甲からエンジン出力から桁違いですわ」

「あないなもん、ほんまにおれたちやから乗りこなせるっちゅうもんでの? せやから腹ごなしもして元気もりもり、クマ族コンビの実力っちゅうもんをいかんなく発揮してやりますわ!!」

 本当に息の合ったおじさんコンビに、心からの明るい笑顔になるベアランドだ。

「楽しみにしてるよ。ほんとに元気になってくれて良かった♡ 一時はどうなることかと思ってたからさ? ジーロ艦長のとこで独房にふたりそろってぶち込まれてたのを見た時には……!」

 いたずらっぽい笑みでウィンクしてやるに、途端に気まずげな顔を見合わせて、互いの肩をすくめさせるおじさんコンビだ。

「ああ、それはお恥ずかしいところを見られてしもうたわ……」

 ペロリと赤い舌を出して困惑顔する赤毛のクマ族に、対する焦げ茶色のクマ族は、はたと考えながらに聞いてくれる。

「うん。でもあれってのは、つまりはふたりともひどい船酔いで完全グロッキーだったんだよね? 今にして思えば??」

「せや! あの渋ちんの艦長さんが、空も飛ばんとずっと海面にへばりついておったから、航空巡洋艦やっちゅうてるのに!!」

 いまいましげに呻く灰色熊に、横のヒグマがおなじく険しい顔色で同意する。

「おお、燃費が悪うなるから空飛ぶんは必要に迫られてからゆうてたよな? ほんまにしんどいわ。ぼくらふたりとも海軍さんやのうて丘の陸軍出身やさかいに、あないにぐらんぐらん揺れる中ではしんぼうでけへんかった」

「地獄やったわ! それにくらべてこっちの空母はちゃんと空飛んでますやんか、マジで天国やわ! おかげでまるで揺れへんし、うるっさい波の音もちっとも聞こえへん!!」

「ああ、だからさっきはあんなピョンピョン跳ね飛んで地面を確かめてたのか。このクラスの重巡洋艦は空飛んでたほうがむしろ燃費がいいって言うからね? 試験飛行も兼ねてるから、次に降りる時はちゃんとした大地の上じゃないのかな。ふたりともこっちに来て正解だったんだ。ジーロ艦長には感謝しなくちゃね!」

「いいや、もう二度と関わりたくありませんわ」

「マジで!」 


 深いため息ついたかと思えば、それきりまたみずからの食事にいそしむベテランたちに、じぶんもお腹が減ってきたことを自覚する隊長さんだが、折しもそこに無人の移動カートに乗せられた山盛り一杯のごちそうがまた新たに到着した。

 これにヒュー!と歓迎の口笛を鳴らすおじさんたちだ。

 まだ食べる気まんまんなのらしい。

 そんなとても景気のいいクマ族たちに心底嬉しくなるこちらもクマ族のベアランドだったが、食べ物が満載のカートからがっちりと大盛りのプレートを持ち上げながら、その後ろにくっついてきた人影をそれと認めたりもする。

 四人目のチームメイトであるメカニック担当の青年クマ族なのだが、この後ろにまた大柄の中年のクマ族がいたりもするのにはやや不可思議な目線を向けるのだった。

 ちなみに士官用のフロアは目隠しの衝立(ついたて)がこの周囲にぐるりと張り巡らされているので、外からはこの中の様子がよくはわからない。

 よってつまるところふたりともこのやけに食べ物が豪快に盛られた自動カートの行く先に当たりを付けて、この後をくっついてここまで導かれたのらしかった。

 それを理解した上でふたりの凄腕のメカニックマンたちを迎えるベアランドだ。

「お、さすがにいいカンしてるね! 待ってたよ、リドル。あと第二小隊専属のチーフまでいるけど、一緒にお食事かい? ま、構わないけど、どう見てもグルメでグルマンのイージュンがいたらば、ごちそうの取り合いでケンカになっちゃいそうだな!」

 こんな冗談めかしたセリフにあって、だが当の本人は何やら浮かない顔つきで大きな肩をすくめさせるのみだ。

 クマ族の中でも飛び抜けて大柄な肥満体型である第二小隊チーフメカニックに、この前に立つとさながら子供のように映る細身の若いクマ族のこちらは第一小隊が専属のチーフメカニックマンは、ちょっとだけ苦笑いで答えた。

 あんまりにも勢いよく食事を平らげている右手のクマ族たちにどうやら引いているらしい。

「は、リドル・アーガイル、ただいま参りました。みなさんお食事中のところ失礼させていただきます。ぼくは食事はもう下のデッキで適当に済ませているのですが……」

「済ませているって、たかが小ぶりなハンバーガーをひとつだけつまんだくらいだろう? あんなものは食事とはいいやしない」


 後ろから巨漢のクマ族にいじられてなおさら苦笑いのリドルだ。これにベアランドが了解して右手の椅子を引いてみせた。

「いいからいいから! ならきみもちゃんと食事を摂らなきゃ♡ ふたりの新入隊員さんたちに紹介するついでにね! あと、そっちのイージュンもついでに紹介しておこうか。あいにくと第二部隊のメカニックだから、直接は用がないんだろうけど?」

「む、ついでにとは失敬だな? まあいいさ。オレはまだやることがあるからとっとと失礼させてもらう。用があったのはあんたらではなくて、あの生意気なオオカミ族と気弱なワンちゃんたちなんだ。アーマーのことでお願いしたいことがあってさ」

 浮かない調子で言って口をへの字に曲げるチーフメカニックに、これまた意外そうな目で見上げる第一小隊の隊長さんだ。

「ああ、そうなんだ? でも見ての通りで、あいにくとここには誰もいやしないよ。たぶんみんなよそのブリーフィング・ルームに詰めているんだろ。急ぎの用ならこっちで呼び出してあげようか?」

 みずからのスーツの腰にある士官専用の通信端末を示しながらの言葉に、冴えない顔した巨漢のクマ族は太い首を横に振った。

「いや、あの灰色オオカミは何かとめんどくさいから、あんたから言ってやってくれないか? それにどっちかと言ったら新人のワンちゃんコンビにお願いがあるんだ。そう、あの犬族たちのろくに塗装されていないアーマー、せっかくだからそれなりに色をつけてやりたいと思ってさ」

「あ、やっぱり未塗装だったのでありますか? 全身銀色でやけに目立つ機体色なのがおかしいとは思っていたのですが……!」

 うながされるままに椅子に座った若いクマ族が熟年のクマ族を見上げて問うのに、傍で聞いていてただちになるほどと納得するベアランドだ。

「やっぱりそうなんだ? はあん、でもあの機体、どちらも飛行型から地上戦、ないし海上戦仕様に機体の仕様を換えられちゃうんだよね? てことはもう終わったのかい??」

「いまやってる真っ最中だよ。両脚のホバーユニットの換装自体はわけないことだから、あとは背中の邪魔なフライトユニットも取り外してより地上戦仕様にふさわしく仕立ててやる。武装と装甲をより強化するかたちでね?」

「そいつはありがたいや! あの子たちも喜ぶんじゃないのかな? 頼れるメカニックがついてくれて一安心だよ。今後ともよろしくね! それじゃ、後でそっちに顔を出すようにふたりには伝えておくからさ♡」

「ああ、よろしく頼む。ただしオレの居住区のセル(個室)ではなくて、下のハンガーデッキに来るように伝えてくれ。来るのは明日以降で構わないから。それじゃ、オレはさっさとおいとまさせてもらうよ。あとはどうぞご自由に。こちとらやらなきゃならないことがまだまだ山積みなんだ」

「うん。ご苦労様♡ それじゃ、またね」

「ご苦労様であります! イージュン曹長どの!!」

 巨漢のクマ族がのっしのっしとこの視界からいなくなるのを見届けて、改めて残りのメンツを見回す隊長だ。

「よし、それじゃこちらも食べながら、いざ本題に入ろうか。せっかくこうしてみんなそろったんだから」

 するとぼんやりした顔で口をもぐもぐ動かしていた赤毛のクマ族が、ごくんと口の中の食べ物を飲み下して、今しも食堂から立ち去っていくでかいクマ族の背中を見ながらに言った。

「んん、いまのおひと、なんやえらい存在感がありましたが、イージュンってゆうてはりましたか?」

「せや、そやったらめっちゃ有名人やんな! 泣く子も黙る鬼のメカニック、イージュン・ビーガルっちゅうたら、知らんひとおらへんで、この界隈じゃ? さっすがにこんだけいかついフラッグ・シップともなるといたるところ猛者ばっかりや!」

 灰色のクマ族も興味津々でおっかなびっくりにその背中を追いかけるのに、もうとっくにこれを見慣れている隊長さんは、肩をすくめ加減にしてあいまいに応じるばかりだ。

「まあ、本来はよその軍艦に配属されてたのを今だけ特別に入ってもらったんだけどね? ここって基本人手不足だから。いつまでいてくれるんだか♡ それはさておき、こっちの紹介もさせてもらうよ。ぼくら第一小隊のチーフメカニックくんのことをさ」

 あらためて己の横に着く若いクマ族を示しながらの言葉に、ふたりのベテランが目をまん丸くして大口を開けた。

「へ、チーフメカニックさんでありますか? この見た感じいかにもお子ちゃまっぽい、クマ族の男の子が??」

「うそやん! まるでそんなふうには見えへんで? 隊長、冗談ゆうにもほどがありますて!!」

「ああ、いや、別にそう言うわけでは……!」

 ある意味まっとうな反応するベテランのパイロットたちに、苦笑いで右手の若いメカニックのクマ族を見つめるベアランドだった。するとこれにはリドル本人がすかさず席を立って、ピシリとした一人前の敬礼をしてくれる。

「ハッ、申し遅れました! じぶんはリドル・アーガイル、伍長であります! こちらでは第一小隊のチーフメカニックとしての任務に当たっております。見ての通りのまだ若輩者でありますが、どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます!!」

 そうきっぱりと宣言してくれるのをきょとんと見上げるばかりのクマ族たちだが、その後にとどめとばかり隊長から言い放たれた一言、ある有名な犬族の伝説的メカニックの名前にひたすらびっくりして互いの目を見合わせることになる。

「そないな大したおひとの愛弟子なんでっか? それは……!」

「うそ~ん、マジでビックリや!!」

「いや、その、それほどでも……!」


「基本的にはこのぼくのアーマーを面倒見てくれているんだけど、だったらなおさら納得だろ? あのお化けアーマーのメインメカニックマンなんだからさ♡ このトシで!」

 かしこまるリドルの肩をぽんぽんと叩きながらしたり顔するベアランドに、神妙な顔で正面に向き直る赤毛のクマ、ザニーはやがて真顔でうなずいた。

 ダッツはやや困惑顔のままだが、相棒が納得するからにはさしたる異論はないらしい。

「それは、信頼してええっちゅうことなんですな? メカニックの腕はパイロットの生命に直接関わるもんやから。隊長のお墨付きなら文句は言いようがあらへんですわ」

「うん♡ 全幅の信頼を寄せてくれて構わないよ。ビーグルシリーズくらいなら、片手でちょちょいのちょいさ!」

「ほんまに? なんかおっかないわあ!」


「いいえ、見るからにはちゃんと見るので、それで一見したところ、おふたりのアーマーは背中のフライトユニット以外にもプロペラントタンクが増設してありますが、あれは通常任務においても必要なものなのですか? あくまで航続距離を伸ばすのが目的ならば、激しい空中戦ではむしろ邪魔になるものかと思われますが……!」

「ほんまもんやわ! せやんな、明日からの任務には必要ないものやさかい、取っ払ってもろうてかまへんよ」

「せやったらじぶんのも頼むわ! あないにでかいワンちゃんのシッポみたいなもん、カッコわるうてしゃあないて!!」

 すぐにも意気投合しはじめるパイロットとメカニックを嬉しげに見るベアランドは、そこでちょっと考えながらに口を挟んだ。

「ん、明日から、かい? はじめに見た感じだと、どっちもあと2、3日は休養を取らないとダメかと思っていたんだけど、そんなに急いでいいもんかね? しばらくはぼくひとりのワンマン部隊の覚悟をしていたのだけど」

「そうなのでありますか? じぶんにはおふたりともどこも不調はないように見受けられますが。もちろんアーマー自体はいつでも出撃可能です!」

「あはは、明日からが楽しみだね! それではダッツ中尉、ザニー中尉、今後ともよろしく頼むよ♡ 北の空で敵無しと謳われた空中戦のプロの活躍ぶり、ほんとに頼りにしてるからさ」

 隣の若いクマ族同様に席を立ち上がるクマ族の隊長は、そう言って右手をテーブル越しのベテランのクマ族たちに差し出した。


 これにすかさず立ち上がって交互に固い握手を交わしてくれる赤毛と灰色熊だ。

 ただし素手で食べ物を掴んでいた利き手はどちらもぐっしょりと濡れていたが。

 ちっとも気にしないで座り直すとみずからもナイフとフォークは無視してごちそうを掴み上げるベアランドだ。

 横のメカニックにも自由に食べるように言って、鼻歌交じりに口いっぱいにパンやら肉やらをほおばる。

 明日からが楽しみで仕方がない隊長さんなのであった。



           ※次回に続く……!

リドル、イージュン登場 お代わりのワゴンの後から
ケンス、コルク、←シーサー ミーティング
ダッツ、ザニー、ベアランド、
イージュン、ケンスとコルクに用がある。ビーグルⅥ塗装? 

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ルマニア戦記/Lumania War Record #013

#013

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 遙かな水平線はどこまでも穏やかに澄み渡っていた。

 空も見渡す限りが雲ひとつもなくした、まるきりの快晴だ。

 いっそここが血なまぐさい〝戦場〟だということを忘れてしまうくらいに平和なありさまに、巨大な空飛ぶ戦闘ロボットのコクピットで、その様子を今やぼんやりと眺めるばかりの若いクマ族のパイロットである。

 やがてちょっとだけ気の抜けたような言葉を発するのだった。

「はあん。いざ目標の当該戦域に着いたのはいいものの、人っ子ひとりいやしないなあ? ほんとに気配すらないよ。なのにどうしてここが戦場だって言えるんだか……!」

 目の前のメインモニターのすべてが青一色で、さっきから代わり映えしないのんびりした景色と、手元の各種レーダーの画面を交互に見比べながら、やはりこのどこにも敵影らしきがないのを認めてどうしたものかと考えあぐねる。

 後続の犬族の新人パイロットたちが追いつくのはまだ少し先のことだろう。

 最新鋭の大型巡洋艦が擁するハイパワーのマスドライバーをまんま流用した、アーマーの強制射出発進システムは先手を打つには打って付けだが、単機で先行しすぎるあまり後続機の援軍がすぐには望めないのが玉に瑕(キズ)だ。

 どの場面においてもまずはひとりで強襲急撃、その後も孤軍奮闘しなければならない。

 果たしてその覚悟を持って出撃したはずが、いざ来てみればそこはひたすら何もないただの公海のど真ん中だ。

 本来の戦闘域となるはず海上の孤島、ロックスランドからもかなり西にポイントを移したここでは、ただ広い海原が続くばかりで何をどうすればいいのかさっぱり見当がつかない。

「あれ、場所、間違っちゃったかなあ? さてはリドルのやつ、慌てて射出のポイントをミスってたりして??」

 ありもなさそうなことをつぶやいて、みずからの太い首をしきりと傾げてしまうベアランドだ。

 おのれの周囲を囲むように配置されたモニター群をぐるりと左から右へと眺め回しては、どこかしらに何らかの変化がないかと目を懲らす。

 左右の耳を澄ましてもアラームなどの警報は響かない。

 ただ右側のサブモニターの一角だけ、海面にある種の異物があるのが視認できたが、それをちょっとだけ拡大して、またすぐに視線を逸らすクマ族だった。

「なんか一個だけでっかいフロートが浮かんでいるけど、あれってロックスランドのヤツがここまで漂流してきちゃったんだよね? 完全に破壊されてすっかり廃墟みたいになっちゃってるけど、あのフロート自体がただ浮かんでいるだけで、まるで意味がないものなんだからさ……!」

 そこにあるのが不自然なこと極まりもなくした巨大な灰色の人工物らしきを、しかしさして気にすることもなくスルーする、性格とてもおおざっぱなエースパイロットさまだ。

 少しは気に掛けても良さそうなものをあえて放置していると、そこに折しもどこからかアラームと共に、誰かしら年配の男性らしき声が響いてくる。

「……おい、聞こえるか? でかグマ?」

 突如として聞こえてきた聞き覚えのある声とその言い回わしに、おっ!と頭の上のふたつの耳をピクつかせるベアランドだ。

「お、その声は、ジーロ艦長だよね? この現場の指揮権を持った最高責任者の! どこにいるんだい? ま、なんとなくで想像がつかなくはないけれども♡」

 右手のモニターの一角を今一度、軽く一瞥しながらの言葉に、頭上のスピーカーからは小さな舌打ちがして、ちょっとトーンを落とした返事が返ってくる。

「じゃあ、そういことなんだろう? それよりも、ちょっと耳を貸せよ。大事なお話がある……!」

 ピピッ!

 不意にまた軽いアラームが鳴って、正面のモニターの中に短いメッセージのウィンドウが浮かび上がってきた。

 それを見るなりクックとおかしげにこの喉を鳴らすクマ族だ。

「あ。これって、上級士官用の秘匿回線の通信コードだよね? わざわざこんなの使わなくたっていいものを、ほんとに用心深い艦長さんだよな! 返って怪しいったらありゃしないよ♡」

 苦笑いで思ったままを口にするのに、スピーカーからはまた舌打ち混じりの文句が返ってきた。

「いいから、とっとと開けよ。肝心なことをまだ何も知らされていないお前さんに、親切に教えてやるんだ。ありがたく思え!」

「はいはい! と、それじゃ、どうぞ?」

 言われた通りに複雑なパスコードでブロックされた軍用の特殊回線をつなぐと、スピーカーからはまた同一人物による、こちらはややくぐもった感じの音声が響いてくる。

 さては手のひらサイズの小型の通信機を使って小声で通信しているのだろうと察するクマ族だ。

 よってそのひそひそ話にこの耳を傾けた。

 すると相手の犬族のベテラン軍人の大佐どのは、何やら一度、もっともらしげに咳払いしてから続けてくれる。

「んんっ! まあ、知っての通りで、ここに来るように指示したのは何を隠そうこのオレなんだが、その場所だけでさっぱり後のことは伝わっていないだろう? 説明してやるから良く聞け。で、言うとおりにしろよ? それにつき余計な質問はなしだ。お前は黙って言われたことだけをやればいい……!」

 かなり上から目線のパワハラめいた口ぶりになおのこと苦笑いが強くなるベアランドだが、とりあえずは了解してうなずいた。

「ははん、相変わらず自分勝手な言いぐさだよな! まあいいや、ここはおとなしく艦長の指示に従うよ。さっぱり何が何だかわからないし、意味もなくここに導いたわけじゃないんだろ?」

 相手からの返事がないのにしたり顔したクマ族は明るい口調でまた言ってやる。

「さうさ、なんたって知るひとぞ知る、いかなる劣勢もものともしない先読みと知略に長けたキレ者ぶりで有名な、ジーロ・ザットン大佐だものね! あるいは勝つためには手段を選ばない冷血の極悪人、悪党ジーロ、だったっけ?」

 ちょっとどころかかなり冷やかしめいた口ぶりになるのに自分でもペロリと舌を出してしまうが、これに相手はまるで気にしたふうでもなくて冷めた口調で返した。

 モニターに相手の顔が映らないから実際のところはどうだかわからないが、このくらいで機嫌を損ねるような底の浅い人物でもないと理解はしているクマ族の青年だ。 

「お前に言われたくはないね。あいにくとこっちはわけあってこの姿を見せてはやれないんだが、いざとなったら多少の手助けはしてやるから、覚悟してかかれよ。言うまでもないが、そこはもうれっきとした〝戦場〟だ。で、見たところおまえひとりだけのようだが、後の僚機の部下どもはどうしたんだ? 確かふたり、新人のパイロットと新型機がいたはずだろう? どっちもまだ若い犬族の??」

「よくご存知で! なに、もうちょっとしたら追いつくよ、今しゃかりきになって追っかけてきてるはずだから♡ たぶんね?」

 いたずらっぽく余裕しゃくしゃくの返答を返してやったら、ちょっとだけ間を開けて、どこか呆れたような返事の艦長どのだ。

「まったく、そんなのろくさそうなでかい図体の機体でどうしてここに一番乗りしてやがるんだよ、おまえは? 相変わらずやることが人並み外れていやがるな、このバケモノめ! まあいい、どっちかと言ったら新型機とこのおまけの新人くんに興味があるんだが、お前のそのご自慢のアーマー、ルマニア軍が最新兵器の実力とやらもとくと見させてもらおうか、その……」

 またちょっとだけ間を開けて、そこから何かしら含んだようなものの言いをしてくれる犬族のおやじさんだった。

「いわゆるそうだな、その『王陣の番兵』シリーズってヤツのちからをだな……! ああ、軍がかねてより秘密裏に開発してる、巨大な能力を秘めた最終兵器のひとつなんだろう、そいつは?」

「あはは、ほんとによくご存知で! まったくどこから聞き付けてくるんだか? ぶっちゃけまだ開発途上の機体ではあるから、いざぶっつけ本番で実戦でテストしてるみたいな? あんまり参考になるかはわからないけどさ!」

「ほんとにふざけていやがるな……! ん、いいよ、そんなに静まり返ってくれなくとも! おい、全員聞き耳立てているのがまるわかりだぞ? どいつもこいつも、みんな仕事しろ!!」

 呆れかえったセリフの後に続いた、ひどくうざったげな文句が回線越しのこちらではなくて、実はむしろおのれの周りに向けてのものだと察するベアランドは、思わず吹き出してしまう。

「ふふっ、てっきり艦長室でコソコソやってるのかと思ったら、しっかりとブリッジのシートにふんぞり返っていたんだ! だったらこんな秘匿回線なんかわざわざ使う必要ないのにさ?」

「うるさい。余計なお世話だ! おっと、失敬。いいから、良く聞けよ。立場的に公言しにくいこともいろいろあるんだ。現実と建前ってのはとかく乖離(かいり)しているもんでな?」

「了解♡ で、ぼくは一体どうすればいいんだい? 見渡す限りが海ばかりでこれと何も見当たらないんだけど、この下に敵の潜水艦でもいるのかい? それってあんまり相性良くないなあ」

 ぐるりと周りのモニターに映る景色を見回すクマ族のパイロットに、ちょっとだけ苛立たしげな声色の犬族の艦長が続ける。

「だから、それを今から教えてやるって言っているんだよ! 良く聞け、もう肝心なポイントは過ぎ去ってしまっているんだ。放っておいても感づくかと思ったら、こういうところは至って鈍感なんだよな、おまえらクマ族ってのは? 世話が焼けるよ」

「へ? もう過ぎてるって、まだ何もありゃしないじゃないか?? そっちに見える怪しいフロートの漂流物以外は、なんにもありゃしないよ。あ、ひょっとしてその廃墟に向けてビームをぶちかませばいいのかい?」

 ちょっととぼけた返事を返すのに、あちらからはただちにかぶせ気味のがなり声が聞こえてくる。

 ひそひそ話はどこへやら?

「間違ってもやるなよ! いいから、黙って言った通りにしろ。まずは転進、北に向いてる機体の方向を南西に向けろ。取り舵一杯! ほら、お前から見たら20時の方角だよ、わかるだろ?」

 相手からの言いようにちょっと戸惑い気味のベアランドだ。

 太い首を傾げながら、低速で前進していた機体を停止させる。

 言われた通りにおのれの左後ろへとモニターの景色を回転させて、ついぞ代わり映えしない青一色の世界を微速前進するよう大型なアーマーの機体をコントロールする。

 やはりその首を傾げながらにだ。

「ふーん、て、やっぱり何もありゃしないけどな? ねえ、これでいいんだよね、ジーロ艦長? 聞いているかい?」

「ああ、いいんだよ。そのまま微速前進で、すぐにわかるだろ。あ、だからそこでストップだ! 止まれって、また過ぎちまうぞ? おいこのでかグマ!!」

 途端に声を荒げる相手の言葉をまずはきょとんとした目つきで聞いてしまうクマ族だ。

 果たしてモニターの中にはそれらしきものはいっかな見当たらないのだが……?

「え、ここで止まるのかい? でも何もないけど? なんか海面一帯に白いもやか霧みたいなのがぼんやりとかかってるくらいで、なんにも怪しいものは見当たらないんだけど……」

「それが目標なんだよ! ちゃんと見えてるじゃないか? さてはさっきもそうやって見て見ぬフリして見過ごしたのか? このとんちきクマ助め! いいか、その海面を覆った白い濃霧こそが今回の目標を差し示す確たる証拠であり目印だ」

 これをはなはだ意外に聞くアーマーのパイロットはあまり納得のいかないさまで聞き返した。

「え、でもこれって、この下の海底火山か何かの影響による自然現象だよね? そういうポイントがあるってあらかじめ聞いてたし! 視界不良で戦闘するには不向きだからみんな避ける場所じゃないのかな?? 身を隠すには打って付けかも知れないけど、こんなところに潜んでもまるきり意味がないし!」

 もっともらしい意見を述べてやるのに、頭上のスピーカーからはため息交じりの返事が返った。

「その自然現象と、人工によるカモフラージュのスモークとをおまえはどうやって見分けるんだよ? 現実問題、その下には海底火山なんてものは存在しない! わかるか? だとしたら……」

「何かしらが潜んでいるのかい? でもそんなのむしろここに居るって言っているようなもんだよね? 常に一定のポイントで盛大に煙を吐き出しているのなら? どうして……」

 言いながらこれと怪しい動きは見当たらない濃霧に満たされた海域をいっそ怪しく見てしまうクマ族だ。

 これに犬族のベテランはあっけらかんと返した。

「人工による目隠しのスモークごときなら、いっそまとめて取っ払っちまえばいいだけのことだろ? おまえさんのそのバカみたいに出力のでかい機体なら造作もないはずだ。とりあえず周りの海面に向かって一斉射撃してみろよ? 海面の温度が上昇して気流が生じれば、周りのもやもいっぺんに消し去れるはずだ! ただしくれぐれも目標のブツには当てるなよ?」

 わかったふうなことを言ってくれる上官どのに、だが当のパイロットの若いクマ族はいぶかしげなさまで考えあぐねる。

「そんなこと言っても……! それじゃ適当にぶっぱなしちゃっていいのかい??」

 目標をこれと定めないままに射撃することに戸惑いを隠せないでいると、スピーカーからはぴしゃりと警告がなされる。

「あ、ただし中心は避けろよ? 今のおまえから見てそのまっすぐ先に問題の目標物はある。よってあくまでその周囲の海面に向けてだ。当てたら後悔するぞ? 必ずや!!」

「……何があるんだい? まあいいや、それじゃ、ランタン、とりあえずは手前の海面に向かって、軽く一斉射だ! そうれっと!!」

 こうなれば仕方もない。

 言われるがままにこの機体の各所、両腕や頭部から腹部にかけて搭載されたエネルギーブラスターをありったけ足下の海面に向かって撃ち込んでくれる。

 直後、至る所で大きな水柱が立ち上り、灼熱のビームが海面を激しく波立たせた余波でそこから熱波までが一気に立ち上る。

 それがあたりの白い霧を巻き込んでただちに上空へと走り抜けていく。機体にかすかな揺れを感じるほどの、激しい乱気流があたりをごうごうと震わせた。


 その場に居合わせたらきっと大やけどだ。

「あ、ほんとだ、霧の中からなんか出て来たよ! おまけにえらい大きいなっ、て、えっ……」

 かくして白いスモークが跡形も無く消え去った後には、青一色の海面と、その真ん中に思いも寄らぬそれは巨大な物陰が姿を現すことになる。

 かくしてそれをはっきりと目の前のモニターで視認して、思わず大きく目を見張らせるベアランドだった。

 その特殊で特異な形状をした人工の造形物に、はっと息を飲んでしまうアーマー部隊の隊長さんだ。

「こいつは、まさか……!」

Part2


 突如として海面に現れたのは、それは複雑でいびつな見てくれをした人工の建造物で、かつかなりの大規模なものであった。

 よってモニター越しのただの一瞥でそれが何であるのかを識別する、クマ族のアーマーパイロットだ。

 さらにその建物の全容を見定めるべく、みずからが搭乗する戦闘ロボット、でっぷりと大型でブサイクな人型をしたギガ・アーマーを上空へと遠ざけてこれと距離を置く。

 その全体のありさまを見て、はっきりとすべてを理解した。

「あらら、こんな人気のない公海上に、よもやこんな大げさな施設があるだなんてビックリだな? だってこれって最新型のエネルギープラントだろ? 艦長!」

 あいにくと目の前のモニターにはこれと映像がなかったから、あえて天井のスピーカーに向けて問うてやるに、するとそちらからはとかくしれっとした感じの返答が返ってきた。

「ああ、見ての通りだ。あとこんな誰もいない公海上だからこそだろ? こんな厄介でかさばる施設、よっぽど僻地の山奥かこんなところじゃなきゃおちおち建てられやしない……!」

「まあ、それはそうかも知れないけど、でもここって本来はどこの国にも属さない、いわゆる〝公海〟だろ? さすがにマズイんじゃないのかな、せめて自国の領海にでも置かないことにはさ、あとあと揉めるのが見え見えなんだけど……!」

 ちょっと困惑気味に頭を傾げるベアランドだが、どこぞの戦艦のブリッジにいるのだろうジーロは平然たる口ぶりだ。

「どこの国にも属さない特殊な企業体が運営してるとなれば話は別だろ? 何しろ電力エネルギーをまんま高濃度圧縮して固体化したエナジーブロック、いわゆる〝プラズマ・ペレット〟を産出するハイパワー・ブラストエンジン・プラントだ。おまえさんたちの乗ってるアーマーの高出力エンジンにも欠かせない? ま、裏には特定の国や利権が絡んでいるんだが、位置的にはどこが手ぐすね引いてるかおおよそで想像がつくだろ、それに我らが本国もまんまと乗っかってるってわけで……」

「タチが悪いな? ロックスランドのいざこざは実はこっちがメインの縄張り争いだったりするのかい? つまるとこでこのぼくらルマニアと、西の大陸のアゼルタ、あとすぐ南にある中央大陸のアストリオンと、まさしく三つどもえの??」


 少なからず嫌気がさした感じのアーマーパイロットに、新型巡洋艦の艦長どのはなおも平然たる口ぶりだ。

「安心しろ、アストリオンとこっちは今のところ共闘関係だ。よって敵はアゼルタの侵攻軍だな。南の大陸の西海岸側をほぼ占拠してふんぞり返ってる? 目の前のプラントも今はそっちに占拠されてるんだよな。ちなみに敵さんの目的は、そのプラントばかりでなくて、実はこの下にもある」

「は? 下ってなんだい? それってこの海面のそのまた下の海の中か、あるいはいっそのこともっと下の海底ってこと??」

「ご名答! この海底には貴重な資源がわんさと埋まっているんだと! これまたアーマーや戦艦の建造に必要なヘビーレアメタルやらオイルやらが? それを掘り出すための上物がそのプラントで、いわばそれ自体が目隠しの隠蔽工作みたいなもんだ。どうだ、一粒で二度おいしいとは、まさにこのことだろう?」

 思いも寄らないぶっちゃけ発言の連発に、聞いていて心底嫌気がさすベアランドだ。

「ほんとにタチが悪いな!! 占拠されてたロックスランドがあんなあっさりと取り返せたのはつまりはこっちが主戦場で、あっちはどうでもよかったってことなのか!? ほんとに!!」

ああ、そうだよ。だから気を付けろよ? そうやって隠していた姿を現してしまった都合、奥に潜んでいた敵さんがたが蜂の巣をつついたみたいにわらわらと飛び出してくるから、な?」

「ちょっと! そういうことはもっと早く言っておくれよ!! いくら新型だからって限度はあるんだからさっ、て、うわわっ! ほんとに一杯出て来たぞ!!」

 目の前のモニターがいきなりこの状況の急激な変化を映し出すのに、慌てて前のめりに機体の操作パネルに食らいつく。

 身体中に緊張が走るクマ族の頭上で相変わらずのんびりした犬族のおやじの声がだだ漏れてきた。

 現場の最高指揮官が、まるで他人事みたいにぬかしてくれる。

「もうじき後続の援軍が来るんだろ? それまでひとりでテキトーにしのいでおけよ。おまえの機体じゃパワーがありすぎてかすめただけでも大惨事だ。間違ってもプラントには当てるなよ? ただし敵さんはそれを見越してプラントを盾にして仕掛けてくるんだが、そんなに必死には攻めてきやしないだろ」

「何で? まあ、確かに数だけはわんさといるけど、だからってあんまり統制が取れてない感じだなあ? あまり攻め気を感じないような、前の敵さんの新型機の時もそうだったけど……」

「あちらもあちらでいろいろとあるんだよ。なんせ本拠地であるアストリオンの占領地、今はレジスタンス活動が活発化してそっちの沈静化に手一杯らしい。こっちにはろくな補給もできないってくらいにな? 補給と退路を断たれた状態じゃ、あとはずっと西に海を渡った本国に逃げ戻るしかありやしないわな? だがそれもここで手傷を負ってはままならないってわけで……」


 顔の見えない艦長のどこか気の抜けた説明に、怪訝な表情で考えあぐねるベアランドである。

「まさかここをさっさと放棄して逃げ出す算段してるってわけかい? そんなあっさりと……! でもだったら、とっととトンズラしてしまえばいいじゃないか?」

「おいおい、仮にも一国の正規軍だぞ? ろくな理由もなしに敵前逃亡なんてできるわけないだろ。で、その理由を今まさに作ってやっているんだよ、このオレたちで。ルマニア軍の最新鋭の大型巡洋艦と、おまえの最新型アーマーでな! せいぜい派手にかましてやれ、プラントは傷つけないように、あと無理して敵さんを撃墜しなくてもいいから、のらりくらりとだな。とどめのだめ押しは援軍が到着してらからだ。このオレの言うとおりにしておけば、誰も損をしないでこの場をきれいに納められる」

 相手はどこまでも好き勝手なことをぬけぬけと言ってくれるのに、半ばやけっぱちでがなる隊長さんだった。


「ちょっと! なんかさっきからいいようにばかり言ってくれてるけど、やるのはこっちなんだからね? 見渡す限りが敵だらけじゃないか!! えいくそっ、ランタン、蹴散らすぞ、パワーは抑えめでいいから派手にビームを光らせてくれっ!!」

「おお、さすがに飲み込みが早いな! その調子で場をつないでくれよ。それにしてもまだ追いつかないのか、後続の部隊は? でかグマ、おまえどんだけ無茶して飛び込んできたんだよ?」

「知らないよ! てか、このことを前もって知ってたらみんなでお手々つないでのんびりと来たさ!! ジーロ艦長、いざとなったら助けてくれるんだよね? そっちにも当然、艦載機のアーマーはあるんだから!!」

 アーマーのコクピットでがなり散らすばかりのパイロットに、どこぞでふんぞり返った艦長は何食わぬさまで返すばかりだ。

 その最中に不意に甲高い電子音が鳴り響く。

「悪いな。今はそっちはどうにも動かせない状態だ。理由はあえて言わんが。聞いたらがっかりするぞ? それだからこそこうして身を隠しているわけで……!」

「……おっと! このコールは!!」

 はっと息を飲むクマ族に、スピーカー越しの犬族がこちらもさも了解したふうに言ってくれる。

「来たようだな? ようやくのご到着か。どれ、どんなものだかじっくりと見させてもらうか……!」

 再び通信のコールが鳴ると、シートの右側あたりのスピーカーから聞き覚えのあるこちらはまだ若い犬族の声が響いてくる。

「た、隊長! 少尉どのっ、ただいま到着しました! オレです、コルクです! ケンスもいます!!」


「はいっ、遅ればせながらこれより両機とも参戦します! てか、すんごい状況ではありませんか? 見渡す限りが敵ばかりだ!! なんかでっかい海上ベースみたいなのもあるし!?」

 到着するなり内心の困惑したありさまがありありとわかる若手のアーマーパイロットたちに、どうしたものかとこちらも困惑してしまう若いクマ族の隊長さんだが、スピーカー越しの傍観者がいらぬ横槍を入れてくれる。

「おう、期待してるぞ! せいぜい気張って戦功を立ててくれたまえ。新型機なんだからわけないだろ。混乱したこの場をどうにか立て直すにはそこのでかいクマ助のお化けアーマーよりもおまえたちのまともな機体のほうが打って付けだ。それにつきちゃんとやり方は教えてやるから、言われたとおりにやれよ」

「また勝手なことを……!」

 内心で舌打ちしてしまうが、途端に動揺した声がまた左右から響いて本当に舌打ちしてしまうベアランド
だ。

「だっ、誰? 少尉どのの声じゃなかった??」

「ああ、他に誰かいるのか? だが友軍の識別信号はあの隊長の機体のしかないよな??」

「いや、気にしなくていいよ! ちょっとしたおっ節介なギャラリーがいるだけのことだから! 今は目の前に集中だ。ちなみにこの近くにいるらしいんだけど、ふたりとも知ってるだろ? いろいろと有名な犬族のベテラン艦長さん!!」

 冗談めかした隊長の言いようにスピーカーからは緊張感みたいなものがまたしてもありありと伝わって来た。

「そ、それって……!」

「ジーロ・ザットン……!?」

 まだ若い新兵の間でもその名は響き渡っているらしい。

 ただしそれが果たしてどのようなものかはかなりビミョーな気がしないでもないクマ族の隊長は、あたりに群がる敵のアーマーに威嚇射撃をしながら犬族たちのアーマーに向けて言い放った。

「どうやら敵さんはあんまり乗り気じゃないらしい! 理由はいろいとあるんだが、目の前の海上プラントには発砲しないように気を付けながら各個に敵を迎撃、できるものなら撃破して構わないから!! ただし深追いはするなよ? ぼくのランタンの射線上に出ないようにしながら左右から援護してくれ!!」

「了解!!」


 海洋上に広く散開する敵影はどれもがみな距離を取っていて、激しいドッグファイトを仕掛けてくるような動きもない。

 相手は持久戦に持ち込む腹づもりが見え見えなのに、さてどうしたものかと目の前のモニターに見入るベアランドだ。

 でかい海上プラントを背後にした飛行型のアーマーやジェットフライヤーは散発的な発砲をするばかりで、その他の敵影は海上でちらほらと様子見してるのが丸わかりだ。

 まるでやる気がないのにいっそじらされてしまうやる気も体力も旺盛なクマ族だった。我慢比べの持久戦ならこちらも自信はなくはないが、この燃費がバカにならない仲間の飛行型アーマーはそうも言ってはいられないのが実情である。

「あちゃ~、膠着状態になっちゃったな? ふたりとも頑張って機体を制御してくれよ? 小回りが利くロータードライブじゃないからしんどいだろうけど、こっちはバリア全開で敵の弾を片っ端からはじいてやるから、この後ろにいればいいよ!」

「りょっ、了解! え、でもっ……あ、あの、あの!」

「このままお互いにだんまりしてにらめっこですか? あとあの目の前にあるバカでかいプラントは実際に稼働しているものなんですか? なんだってこんなところに??」

「説明は後にしてくれ! 悪いけど今はそれどころじゃ、あと作戦はこの海域のどこかに雲隠れしてる犬族の名将どのが立ててくれるらしいから? ん、コルク、何か言いたいのかい?」

 右手の方から過呼吸なのがまるわかりなど緊張した息づかいが聞こえてきて、思わずそっちを見てしまうベアランドだ。

 実際に右手のモニターの中にワイプで犬族の新人パイロットの画像を映し出してやるに、完全に狼狽しきった毛むくじゃらのワンちゃんが大汗かいて干上がった声を発する。

 いくらなんでも緊張しすぎだろうと心配に見てしまう隊長のクマ族をよそに、うわずった声を上げる犬族の准尉は言いたかったことを一気にはき出してくれた。

「あの、そのっ、あの! ううううっ、うるふ、ウルフハウンド少尉どのも後から合流予定でありますっ! 第二部隊もこちらにっ、海を渡って、ですからその、あのそのあのっ……!!」

「え、ああ、そう! シーサーの第二小隊も来てくれるんだ? そいつはまた……そっちが合流してくれたらしょせんは多勢に無勢のこの戦況もどうにか巻き返せるかな? シーサー、問答無用で一撃見舞ったりなんかしないよね?? 大丈夫かな……」

 ちょっと驚きながらもそれはそれでやや考え込んでしまうのに、天井のスピーカーからうざったげな声が降ってくる。

「よせやい。これ以上味方が増えたら敵さんがたがいよいよテンパっちまうだろう? あのやせオオカミが来る前に終わらせちまうのが無難だな。どれ、こうして見たところじゃ新人くんどもはそれなりに使えそうだから、そいつらに一働きしてもらおうか」

「ああん、さっきからほんとに言いたい放題だよね! 新人のアーマー乗りに何をやらせるつもりなんだい? おまけにこんなとっちらかった状況で!!」

 しまいにはちょっと忌々しげにのど仏をうならせるクマ族に、犬族の艦長さんはすました声であくまでとぼけた返事だ。

「そんなやたらに目立つまっちろいアーマーで、はじめどうしたもんかと思ったが、どっちもちゃんとおまえに言われた通りに動いてるだろ? 飛行型と言ってもしょせん問題だらけで初期のテストパターンしか出回ってないレアな機体をだな。挙げ句にゃ開発途上で放棄されてまだ未塗装なんじゃないのか? 仮にも旗艦に配備された機体なんだから、色ぐらいちゃんと塗ってやったらどうなんだよ……!」

 おまけ呆れたふうな感想を長々と述べるのに、これを聞かされるクマの隊長は目をまん丸くしてむしろこの左右の隊員たちに聞いてしまう。

「え、きみたちのその銀色の機体って、実はまだ未塗装のヤツだったのかい? てっきりそういう派手なカラーリングなんだと思ってたんだけど??」

「えっ、いや、おれたちも何にも聞いて……そうだったのか?」

「え、え、え? いや、そう、なの??」

 左右で困惑した声が応じるのに、肩をすくめるベアランドだ。

 これにまたしても上から響いてくる犬族の声もやや困ったような心底呆れた響きがあった。

「おいおい、そろいもそろってなにをとぼけていやがるんだよ? オレたちルマニア軍のアーミーカラーは昔から渋いモスグリーンに決まっているだろう? 自由にこの色を決められるのはよほどの戦功を立てた歴戦のエースパイロットさまだ。そんなヤツがどこにいる? でかグマ、おまえはまた別だぞ? もともとの規格がイカレてやがるんだから!」

「ひどいな! まあいいけど、だったらどうすればいいんだい? 早くしないと第二小隊が追いついちゃうし、シーサーが黙っちゃいないよ。海上作戦仕様の機体じゃプラントを器用に避けて戦うのもしんどいだろうし、無傷では済まないんじゃないのかな?」

「そいつはごめんこうむる! おい、新人ども、それじゃはじめにここに来たヤツでいいや、機体に積んだ装備が軽いからより早く飛べたんだろ? 火力は低いほうがいい、この場合は。その手持ちのハンドカノンで構わないから、オレが言ったものをただちにしっかりと狙い撃て。いいな?」

「コルクのことだよね! 聞いてるかい? ケンスは強力なロングのキャノンを装備してるだろ? わかるよね!」

「コルク、艦長どのの命令だ! しくじるなよっ?」

「え、え、え、あの、あの、え? おれ??」

 一連のやかましくしたやりとりの最後に面食らった感じの声があぶなっかしくこだまする。ベアランドは天を仰いでしまうが、犬の艦長さんがぴしゃりと言い放った。

「お前しかいないだろ? おまえだよ。いいな、それじゃ良く聞けよ。やることはいたって簡単だ。それじゃその目の前のプラントを良く見て……」

 この後に下された命令に、その場の空気がただちに凍り付くこととなる。

 はじめ怪訝に耳をピクつかせるベアランドの右手で、思い切りに息を吸い込んでそれきり反応に窮する若い犬族の沈黙がもはや痛いくらいに伝わった。

 ヤバイな……!

 百戦錬磨の犬族の艦長が言うほどにはすんなりとは行かないだろうことがはっきりと予想されるクマ族の隊長さんは、かくなる上はじぶんでどうにかするしかないかなとギュッと両手の操縦桿を握り締める。

 皮肉なほどに晴れ渡った青空に、しかし確実に暗雲が立ちこめつつあるのをこの場のどのくらいが予期していただろう。

 直後には、怒号と悲鳴が交錯するそこはまさしくもっての戦場なのであった……!

                次回に続く……!!

イラスト・ギャラリー

https://opensea.io/assets/matic/0x2953399124f0cbb46d2cbacd8a89cf0599974963/88047277089427635657081635585532914949557992380650193262688159124732346630154/

 ↑二枚目のイラストの線画版です。OpenSeaにてNFTアートとして販売中!!




 


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DigitalIllustration NFTart NFTartist OpenSeaartist Uncle Bear Tom キャラクターデザイン

OpenSeaNFT/UncleBearCorrection!

OpenSeaで公開しているコレクションの内、一押しのアンクルベアシリーズの売り出しを敢行!爆安でやってます!!

https://opensea.io/collection/unclebeartom
↑コレクションのURLです。画像にもリンクあり(^^)

 ETHで0.001っていうのは、およそで3$前後、日本円で300¥前後なんですかね?
 他にもありますがまた新しい仲間や別ポーズやシチュエーションを加える予定です。めでたく売れたらまた別のパターンを加えてもいいんですかね(^^)
 ちなみにカラー版よりも元となる線画のほうが高かったりするんですが、これは個人的なこだわりみたいなものがあるからで。

カラー版もリリースする予定です(^o^)

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DigitalIllustration NFTart Uncle Bear Tom

NFTアートに挑戦!! Uncle Bear シリーズ

Uncle Bear Tom -Uncle Bear Series-

 またしてもただの思いつきでおっぱじめてしまったキャラクターシリーズですね! 今回ははやりの暗号資産系artに挑戦ということで、自作のクマのキャラクターでいろいろとやってみるつもりです。果たして奇跡の一発逆転はありうるのか??

アンクル ベア トム -Uncle Bear Tom-

 シリーズのメインとなる(?)イメージキャラ、お得意のクマキャラをデザインしました。陽気で頼れるおじさん的なクマの親父さんです。ちょっとメタボなのが萌えポイントなのか?
 これのまずは線画とシンプルなべた塗りのカラーバージョンを出品して、反応がどのくらいあるのか、今後の試金石として重要な役割を担ったキャラクターです。果たして需要はあるのか??

Uncle Bear Tom/line drawing edition

 まずは最初の出品となる予定の、線画バージョンです。

Uncle Bear Tom/standard color edition

 次にべた塗りでカラーリングした、基本的なイメージとしてのキャラクター画像ですね。なんか違う?

Uncle Bear Tom/vivid color edition

 シンプルでもっとはっきりした色使いのキャラの画像です。
前述のスタンダードと比べてどちらがいいでしょうか?

 Uncle Bear Sam アンクルベア サム

 今度はシロクマがイメージのアンクルベアです。

 ※記事は随時に更新されます!

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DigitalIllustration DownLoadContents おデブなクマのブゥさん キャラクターデザイン ワードプレス

おデブなクマのブゥさん♡ 新規イラスト第二弾!

おデブなクマさんサーファーズ! ブゥとビフのコンビで鮮烈デビュー!! 無料の画像DLデータも公開します(^o^)

 前回の記事で作成したブゥさんのサーファースタイルに、おデブなクマさんシリーズのビフも飛び込み参加させました♡
 デブデブサーファーコンビの爆誕です(^^)/

 ボディやボードのロゴを取っ払った、シンプルバージョンです。イラストソフトがあればお好きなロゴを入れることもできます♡ 塗り絵にも(^^)/ ダウンロードデータは以下より↓

 さらにロゴを入れた完全(?)バージョン! 画像の下から無料の画像データがダウンロードできます(^^)

 とりあえずベタ塗りしました(^o^)

 ベタ塗りパターン① オーソドックスなカラーリングです。

記事は随時に更新されます(^^)

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DigitalIllustration DownLoadContents キャラクターデザイン ワードプレス

おデブなクマのブゥさん♥ 新作イラストリリース!

おデブなクマのブゥさんこと、Bear Booのイラストを新しくいたずらにはじめちゃいました(^o^) とりあえず夏っぽいヤツですねw

 とりあえず夏っぽいヤツで、サーファーのスタイルなのですが、いわゆる前回シリーズのLGBTQイメージの展開もするかどうか思案中です(>_<) イラストは無料でDL可能な画像データとして公開予定! ご自身の利用目的の範囲での健全なご利用をお願いします<(_ _)> 当該画像の著作権は譲渡不可です。

サーファースタイル・ブゥさん・線画

サーファースタイル・ブゥさん・ロゴ入り線画 塗り絵にもなります!

サーファースタイル・ブゥさん・ロゴ入りベタ塗り シンプル・カラー①

記事とイラストは随時に更新されます♥ イラリクOK!