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DigitalIllustration SF小説 ガンダム ファンタジーノベル ワードプレス 俺の推し! 機動戦士ガンダム

俺の推し!③

ガンダム二次創作パロディ!ドレンが主役だ!!

noteでプロットだとかを公開中!!

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「機密宙域/難民コロニーの謀略」

謎の攻撃・軍事衛星の怪……!

 Scene1


 緊急事態発生!

 それはまったくの予期せぬ出来事であった。
 この知らせを受けた時、まだ自室でまどろんでいたこの俺だ。 

 シャア艦隊旗艦付き副司令、その名をドレン。

 そう!

 ひとから語られるほどの名はなくとも確かな働きをする右腕として、推しの少佐、シャア・アズナブルそのひとからは、確かな信頼を得ているものと自負するおじさんだ。

 まあ、たぶんだが……!

 ことの一報を受けてから、ものの五分でブリッジまで復帰したこの俺の視界に入ったのは、スリープモードからゆっくりと立ち上がるブリッジの景色と、まだまばらなクルーたちの人影だ。

 艦橋中央の高い位置に据えられたキャプテン・シートにはいまだ主の姿はなく、中央戦略オペレーターもこのひとりが席につくくらいか。

 フロアを強く蹴ってブリッジ奥の入り口から、おのれの定位置であるMS作戦指示ブースへとひとっ飛びで取り付く。
 MSの作戦行動における補助を担う特設の指揮所ブースは、この真横に付ける操舵士のそれとほぼ一体だ。
 そしてそこにはすでに若い大柄な若者が、仁王立ちしてこの年配の副艦長を最敬礼で迎えてくれる。

 いやはや、寝坊なんてしたことないんだろうな!

 勝手に感心しつつはじめ無言で敬礼を返す俺は、この若い操舵士が温厚でひとのいいのにつけ込んで頼み事をしてしまう。 

「早いな! だが今現在、エンジンは微速前進、ほぼ止まっているんだろ? 舵は俺が握ってやるから、悪いがひとつ頼まれてくれないか? もちろん、少佐の許可は得ている!」

「……!」

 この真顔でのお願いには、すぐさま太い首をこくりとうなずかせる下士官の操舵士だ。
 もとい、はじめちょっとだけ困惑の色を太い眉のあたりに浮かべたが、さてはこのおじさんに舵を譲るのが心配だったのか?
 バルダはみずからの舵取りを手早くオートに切り替えて、その場を駆け足するかのように俊敏に無重力をかき分けていく。
 途中ブリッジに入ってきた少佐に敬礼して、即座にその姿を消した。
 だがすぐに帰ってくるだろう。
 ちょっとしたオマケを引き連れて――。

 一方、真紅の衣装を華麗に着こなす仮面の貴公子は、どこにも無駄のない身のこなしでみずからの身をブリッジ中央の艦長席に沈めると、高くから周りを睥睨する。

 仮面に邪魔されてその視線の先までは追えないが、優雅でもきりりとスキのない眼差しでこの場のすべてを掌握しているのだろう。

 ただちに背筋をピンと正す俺は、ビシッと敬礼を返しつつ少佐からの指示を待つ。こちらに視線をくれているらしい我が推しは、かすかに細いアゴをうなずかせて無言で了解してくれる。
 あえて声に出さないのが彼らしくクールだった。

 くううっ、シビれる!! シビれます、少佐っ!!

 その若き将は一部のスキもないさまでブリッジ内の空気を凜と震わせる。張りのある低音はよどみもなくひたすら心地よくこの耳に響く。俺の気のせいじゃないだろう。

「状況は? 偵察のザク隊が被弾したとのことだが?」 

「は、はっ! 三番艦からの報告によりますと、三機編成の偵察部隊の内一機が何者かの攻撃により中程度の破損! 幸い撃墜にまでは至らず。現在は全機帰投、この収容を終えているとのことです。パイロットに目立ったケガはなし!!」

「そうか……! ザクとは言え大事な機体なのだが、これ以上の戦力ダウンは避けたいものだな? 対処は貴様に任せる。敵の詳細は?」

 半ばから背後に振り返って、そこで僚艦との通信にいそしむ戦術オペレーターに話の続きを振る少佐だ。

 良かった。さすがわかってらっしゃる!

 取り急ぎブリッジに上がったばかりでまだすべてを把握できているわけでないこの俺は、ふうっと胸をなで下ろして、ただちにみずからの任務に取りかかる。
 こちらはこちらでやることがあるのだ。
 よって、さっきより背後のブースからぶうぶうと文句を垂れている、真っ黒いヘルメット野郎に迷惑げな視線を向けた。

 うるっせえな! 空気読めよ!!

「わかってる! そっちはもう出せるのか?」

 やや不機嫌に聴いてしまうが、あちらも負けず劣らず不機嫌に返してくるヒゲづらのエースパイロットだ。

「とっくだよ。さっから言ってるだろう? さっさと発艦許可を出しやがれ……!」

 ひどいむくれっ面でぞんざいなモノの言いに内心で舌打ちする俺は、背後の少佐をちらと伺う。
 まだ声をかけずらいタイミングだなと察してまた前に向かった。リック・ドム小隊の隊長機、ガイアに確認!

「今回は単機での出撃だが、敵の詳細はいまだ不明! マッシュとオルテガ機は艦隊の守備の都合、出すわけにいかんのだが、待機だけはさせておくか?」

「かまわねえよ。寝かせておけ。そもそもが三番艦のザク隊どもの不始末だろう。ならこのオレだけで十分だ……!」

「了解。ただし油断はするなよ? 無理に交戦をする必要もない! 三番艦からはきっちりとフォローを入れさせる!」

「いらねえだろ。足手まといはいたところで余計な世話が焼けるだけだ。この09のスピードに付いてこれもしねえのろまどもに用はない……んっ」

「ゼロキュウ……ああっ」

 相手のセリフの一部に引っかかって、すぐさまこれを理解する俺は内心どころか現実に舌打ちしてしまう。イラッっとして。

 いやだから素直にドムって言えよ! このガノタが!!

 モニターの中のMS隊長に内心で毒づきながら、そのヒゲづらが何やら怪訝にこっちを見返しているのに気づく。

「どうした?」

「いや、隣にいるはずのあの目障りなのがいねえな? いっつもちょくちょく横から顔を出してきやがるのに」

「目障りってなんだ! いいや、それならもうじき帰ってくるだろう……ほら、来たぞ?」

「……ん、なんでそいつがそこにいるんだ??」

 ちょうどいいタイミングで戻ってきた操舵士と、それに連れらてブリッジに上がって来た見知った人間の顔に、なおさら怪訝にモニターの中で眉をひそめるリック・ドム隊隊長だ。
 確かにヤツが不可解に思うのも無理はない。
 本来ならブリッジにいるはずなどがない他部署のクルーだ。
 正規のブリッジクルー以外がこの艦橋に立ち入ることなど、およそ許されることではないのだからな……!
 だからこそ目を丸くしたガイアが問うてくる。

「なんでおまえがそこにいるんだ? ついさっきまですぐそこでこの機体の発艦準備してただろう??」

 ガイアたちリック・ドムの整備専門のエンジニアで、つまりは黒い三連星専属となる若いメカニックマン、デーミスの存在が不思議でならないらしい。
 俺はにんまりとほくそ笑んで応じる。

「今回だけ特別だ! おそらくは? もろもろの都合で、そこのバルダに連れて来てもらった。いわゆるオブザーバーというヤツだな! 専門的なメカニックの知識を持った人間がいたらどうなるか、なかなかに興味深いだろう?」

「なんだそりゃ? あまり期待はできねえが、好きにすればいいだろう。それよりも発艦許可! いつまで待たせるんだ?」

 ちょっと呆れた感じでありながらとりあえず納得した風なガイアを前に、借りてきた猫みたいに大柄な身体を縮こまらせるブサイクくんは所在なげにその声をか細く震わせる。

「じ、じぶんはここにいて良いのでありましょうか? す、すんごい浮いてる気がします……!」

「浮いているさ! だが気にするな! いいんだよ、我らが少佐も認めてくれているんだから!」

「しょ、少佐っ……!!」

 おっかなびっくりで周りの様子を見ているデーミスは、この背後に視線を向けてなおのこと挙動不審に陥る。
 しまいには横からバルダにどうどうと背中をなでられてた。
 こっちのほうがいくぶんかお兄ちゃんの先輩なんだな!

 横合いからMSの通信オペレーターが少佐に声を発する。
 さてはしびれを切らしたガイアが催促したな。

「少佐! ガイア大尉のリック・ドム壱番機が本艦からの発艦許可を求めています!」

 するとこれには背後の艦隊統御オペと会話をしていた少佐は、こちらに仮面のクールな面差しを向けて静かに言うのだ。

「ドレン、そちらは貴様に任せていたはずだ……!」

 あ! 俺は内心の焦りを顔には出さずに静かにメットをうなずかせる。メットのひさしで相手からの視界を遮るかたちにだな。

 おっと、そうだった! いかんいかん!!

 周りの若い部下たちにも悟られまいとやたらにはっきりと腹の底から声を絞りだして高く号令を発する!

「ガイア機、ただちに出撃せよ!!」

 手元のディスプレイでは何か言いたげなリック・ドムの隊長どのが真顔でこっちを見ていたが、目をあわせないようにまっすぐブリッジから臨める夜空をひたすら凝視する。

 何やら小さなため息みたいなのが聞こえたか?

 無視する俺に感情のない棒読みの返事が返る。

「了解」

 リック・ドム出撃!

 おおっ!と子供のように目を輝かせるデーミスの肩のあたりをがっちりと掴んで、おまえの推しの活躍をしっかりとその目と脳裏に刻み込んでおけよ!とひたすら強く念じる俺だった。

 暗闇に走るロケットブースターの長い軌跡を目で追いながら、ぽつりとつぶやきもする推し活おじさんである。

「ああ、こんな特等席で一番のファンが応援しているんだから、ちゃんとファンサしろよ? 黒い三連星のガイアよ……!」

 たった今、戦いの火ぶたは切って墜とされた……!

Scene2

 PartA


 ガイアのリック・ドムが旗艦から出撃して、当該の宙域地点にまで到達するのにはさほどの時間はかからなかった。

 ひたすら一直線の軌道の先――。


 そこは本来は何も目立ったものがないはずのいわば宇宙の公海上なのだが、一番機の各種レーダーにもこれと目立った反応らしきはなし……!
 それをこちらの戦術パネルの観測計器表示でも視認しつつ、息をひそめてことの成り行きを見守るふたりの若い兵卒と、遠くの現場のベテランMSパイロットへとも向けて静かに問いかける。

「ううむ、標準宙海図の座標軸上ではそこが我が方のザク隊が襲撃を受けた交戦ポイントとはなるのだが、それらしい標的はこれと見当たらないな? 敵対的な意思があるのはほぼ確定だから、それらしい形跡があっても良さそうなものなのだが……?」

 巡洋艦の索敵レーダー網にも、MSの各種レーダーにもやはりさしたる反応がないのに不可解に思うこの俺、ドレンだ。
 まさか二度も不意打ち食らうまいと目を皿にして計器類を凝視するに、スピーカー越しに小型モニターの中で冷めた顔したヒゲのおやっさんが憮然と返してくる。

「ま、見ての通りだ。動体センサー、熱源反応、各種レーダー波長これと変化なし。とどのつまりで、何もねえな?」

 みずからのヘルメットのバイザーをオープンにして素顔をさらしてくれるヒゲづらのエースパイロットは、浮かないさまでじっと視線をこちらのカメラに向けてくれる。

 その視線をカメラのモニター越しに受けて、思わず思ったことをまんま口にしてしまう俺だ。

「そうだな! ……ん、ところで、おまえの今のそれってのは、ファンサか?」

 絶賛警戒態勢中なのにわざわざメットのシールドを全開にして表情がわかりやすいようにしているのが、あえて見ている側を意識してのことなのか?

 いかんせん偏光バイザーで目隠しされたメットではパイロットの表情が分かりづらい。ここらへん、当人からしても息苦しいから極力下ろさないなんてヤツもいるらしいから、さしたる意識はないのかもしれないが……どうなんだ?

「は? 何を言ってやがる? まじめにやれ。ま、このオレの勘からしたら、少々きな臭くはあるがな? やけに静かなあたり。あとしいてひとつ言うのであれば……」

 違ったか。しごく納得しながら歴戦の凄腕パイロットの言葉に耳を傾ける。周りの操舵士とメカニックもごくりと息をのんだ。

「ここから見て11時やや上方の方角、アステロイドでもなんでもない、でかい宇宙ゴミがいくつもあるだろう? コロニーの残骸みたいな? だが植民地サイドでもなんでもないこの宙域にこんなものがあるのは、オレからしたら違和感でしかない。よそから流れ着いたにしても、ゴミの構成自体が不自然だ……!」

「そうなのか? ザク隊のドライブレコーダーのデータでは、どれもすでに存在していたオブジェクトだが。攻撃自体は真裏の反対側、背中から攻撃を受けている! それでも関係があると?」


 俺の問いかけに、周りの若いヤツらもまた神妙な顔つきでモニターの中のヘルメットに注目する。するとそんな視線を邪魔っけに思ったのか、ヘルメットのバイザーをしれっと下ろして意味深な口ぶりするリック・ドムの隊長さんだ。

「ああん、それじゃ、試しにやってみようか? 無駄ダマ撃つのは気が引けるが、こいつがきっかけになるかも知れない……! そっちもモニターを怠るなよ?」

 タタタタタッ、ダン!

 手早い操作でみずからのMSに攻撃シークエンスをたたき込むガイアだ。どうやら肩に担いだジャイアント・バズーカを任意のポイントに向けて射撃するらしい。

 さては話にもあった例のでかい残骸にか?

 幸いにも当該の宙域はミノフスキー粒子の濃度が低いために、通信にはさしたる障害がない。 
 リック・ドムからの解析データをまんまで受け取れていた。

「そおらよっ!!」

 ドオンッ!!

 真空の宇宙空間ではそもそも伝播する空気がないから音は伝わらない。発射時の派手な発砲音は当然マイクに拾われることはないのだが、この振動を受ける機体の揺れとコクピットの空気を伝ってかすかなそれらしきものが、画面越しにも見て取れたか?

 固唾を呑んで見守るこちらは無言になるが、バイザー越しのドムのパイロットはメットの中でニヤリと笑ったようだ。

「当たりだな……!」

 言うが早いか、自機のセンサーが警告を発するよりも早くに機体に回避機動を取らせる凄腕のパイロットだ。

 決断が早い!

 この俺あたりからすれば、神業みたいな手さばきでレバーとスイッチを指先の感覚だけでまさぐり機体の姿勢を制御しつつ、間髪入れずに足下のペダルを限界一杯まで踏み抜いた!
 股の下から掴み上げた操縦桿を胸元一杯まで引き上げる!
 背中のロケットブースターを全開にしてフルスピードで宇宙の虚空に大きな弧を描くリック・ドムだ。

 片や、突如としてレーダーサイト内に現出した熱源反応から立て続けに吐き出される一陣の烈風!!
 こちらからは荒いモザイクのかかった何かしらの塊の連なりとして映るが、それが音速の何倍もの速さで斉射された弾丸の軌跡だと理解するのは、一瞬のタイムラグの後のことだ。
 軍人ならかろうじて理解が追いつく。

 行く手を阻む大気(空気)の障壁がないから、威力もスピードも減速減退なしで迫る鋼鉄の銃弾である。
 だからこそこれを事前の回避行動もなしに避けるのはしごく困難、その上でかすりもさせずにまた元の位置に機体を静止させるのはさすがだな!

 無謀に突っ込むこともなく、ピタリと止まった機体のレーダーを前方の敵影に向ける余裕と胆力もまたさすがだ。
 それきりにただ黙ってこちらからの回答を待っているのが小憎らしいベテランに、モニターに表示される観測データを読み取る俺は頭をフル回転させながら声を絞り出す。
 ぶっちゃけ、ちょっと後悔していた。

 しまった! マッシュの二番機も付けておくべきだったか?

 敵機情報の収集解析が得意な偵察支援機タイプならば、もっと正確な一次データが取得できたのだが……!

「ガイア機、何者かと会敵、ただちに戦闘状態に突入!」

 状況を高らかに宣言することで、ブリッジ内の緊張感が高まる。すぐ隣でパチパチと目を見合わせる若輩者たちに焦るなよと目配せして、モニターの中で冷静にこちらを見返す黒いヘルメットに返す俺だ。

「MSではないな! 連邦の機体のマシンガンではどれも適合しない威力推定値と連射速度ならびに弾数だ。より大型の戦艦クラスの機銃カテゴリーに相当! おそらくは……!」
 
 正面の作戦図表ディスプレイの中で、今しもゆっくとりその形が特定されてゆく未確認オブジェクトを凝視。
 そのいびつな形状の敵影に言葉を失う俺だった。

 コイツは、どうして……??

 頭の中が疑問符で一杯になるが、答えは闇の中だ。
 不気味な沈黙の中に、短く舌打ちが響く。
 ふたたびヘルメットのバイザーを開けたエース級のパイロットはやはり厳しい表情でそれに見入る。

 察するに、この胸の内の思いは同じようだな?

「なんかめんどくせえのが出てきやがったな? 意味がわからん。こんなご丁寧に偽装して、目的不明もいいところだ……」

 もやもやした思いをはっきりと言葉にしてくれる。


 これに俺もただうなずいていた。


 ことここにおよび、前回の連邦部隊と同様、厄介な敵が立ちはだかるのをはっきりと理解する、おじさんたちなのだった。



Scene2

 PartB


 航海宇宙図(スペース・マップ)上では何もないはずの宙域で、突如としてこの行く手を阻む、敵対的な謎の存在……!

 これに単身で挑んだ黒い三連星のガイアのリック・ドムの前に現れたのは、所属不明の攻撃型軍事衛星であった。
 ドムからのリアルタイムの情報解析により、このおおよその形が雑なワイヤーフレームで描き出されたディスプレイの図面に、みんなでしげしげと見入ってしまうブリッジ組の俺たちだ。

 それはあまりにも意外なものだった。

 よって通信ディスプレイの中のヒゲづら、現場組のガイアも渋い顔つきでそれを見ながらに舌打ち混じりで言うのだ。

『なんかえらいやかましいヤツが出てきやがったな? いろいろと厄介なものを載っけてやがるだろ、どいつもMSの装備よりも格上のヤツだな……!』

 ガイア機の観測機器による解析が進むにつれ、こちらのモニターの中の乱雑なフレーム表示もそれらしい形を整えていく。
 見た感じがバリバリの軍事衛星のそれは、機体の各部に強力な装備らしきを備えているのがこれまた一目瞭然だ。
 ガイヤが言っていたとおりのMSのそれよりも、むしろ戦艦にこそ搭載されているべきものだな!

 まことに厄介なこときわまりない。

 この俺も表情を苦めて現場のパイロットに注意喚起する。

「威力が強力だということは、当然この射程においてもあちらが上ということだ! 注意されたし、ガイア大尉! おそらくは拠点防衛用の攻撃衛星なのだろうが、今の単機ではバリバリ戦闘態勢でいきった駆逐艦に挑むのとそう大差もないだろう? どうする??」

 この期に及んでいささか間抜けながらそんな問いかけをしてしまうに、あちらからはさも呆れた顔つきでこちらを見返してくるガイア大尉どのだ。

『この手のヤツは通称でハリネズミとか言うんだよな? 確かに厄介な装備がてんこ盛りだが、あるのはあれ一機のみだろう。なら怖がることはありやしない! おまえ、このオレを誰だと思っている?』

 百戦錬磨のドムのパイロットがくれるただの強がりでもない自信に満ちた返答に、即座に了解してうなずく俺だ。

「了解! できる限りのサポートはする。ただし危うい場合は即座の撤退も勧告するからそのつもりでな? ちなみにこの正体はおおよそでわかったが、その背景がさっぱりわからん!」

 またも難しい表情で年齢柄の肥満による太い首周りを傾げてしまう俺に、あちらのヒゲづらは嫌気がさした表情でメットのバイザーを下ろしてしまう。

 通信終了か?

 だがおちおち考えるまでもなく、場が動いた。
 横で息をひそめていた若い兵卒たちがなおさら緊張して、目の前のモニターに釘付けとなる。できたらもっと参考になる意見なりを言ってほしいのだが、ほぼ新人に近いのだからはなから期待しても無駄なのか。あきらめかけたところでだが奇しくも新人のメカニックマンがこの口を開いた。

「敵衛星、攻撃再開! たぶん、多連装ポッドからのミサイルであります!! 一番機に向けて複数発射! 大尉どの! ただちに回避されたしであります!!」

「おっ、おおっ……!」

 オペレーターもさながらでいきなりそれらしいことを言い出すのを、ちょっとどっちらけて見るこのおじさんだったが、向こうの現場のおじさんはしっかりとこれに反応してくれた。

『言われなくてもやっている! ブリッジクルーでもないヤツが出しゃばるな!! 手持ちのバズで打ち落とすのはちと困難だが、こいつの機動力なら無難にやり過ごしてやれる!!』

 この時点ですでに身体に相当なGを掛けているらしい重MSのパイロットだ。アクセルペダルをぶち抜く勢いで自慢の愛機のリック・ドムを急速旋回させていた。
 そう、いかに追尾機能があるミサイルでも急な加速で旋回機動されればこれにぴたりと追いつくのは困難だろう。
 加速度はそのままで突き進むのだから、ミサイル自体が追尾できる角度にもレーダーの探知範囲にも限度がある。
 推進剤も無限ではないのだからな。

 都合、三発撃たれたミサイルはどれも初速が遅く、すっかりこの目標を見失っているものと思われたのだが……!

 突如、リック・ドムのコクピットに緊急を知らせるアラートが響いて敵ミサイルに変化があることが、こちらでもリアルタイムに知覚できる。三つあったはずの敵マークが激しく明滅を繰り返し、おまけにいくつにも分裂、その数を一気に増加!
 およそ倍どころじゃない勢いでだ。
 どうやら複数弾頭を備えた多弾頭ミサイルが、この内蔵した小型弾頭をガイア機めがけて盛大にぶちまけたらしい。
 数も知れない無数の矢印がガイアのリック・ドムへと殺到する。もはや完全に囲まれていた。


「くっ、こいつは……!」

 ほぞをかむ思いとはこのことか。
 よもやここまで厄介だったとは!

 本当に軍事拠点を防衛するかの勢いだが、何を守るんだ?
 
 その場の全員が目を見開いていただろう。
 急制動をかけてバックしたんじゃ間に合わないタイミングだ。
 その瞬間、鋭い舌打ちがしたのを聞き逃さない俺は、手に汗握ってモニターに声を上げていた。

「よけろっ、大尉!!」


『簡単に言うんじゃない! どうやって避けるんだよ? ええい、ふざけやがって! 多少の被弾は覚悟で突っ込むか??』

 息の荒い反発が鼓膜をしたたかに打つ。

 要するに破れかぶれでミサイルの嵐を突っ切って、本体の衛星に一発食らわしてやるってことだよな? この短絡オヤジめ!!

 かなりやばいことをどさまぎで抜かしてくれる隊長機に、この俺は愕然として返す言葉もなかったが、すぐ隣で顔を真っ赤に赤らめる黒い三連星推しのメカニックが再び声を張り上げた。


「……はっ! 大尉どのっ! 胸部の拡散粒子砲があるであります!! 収束率ゼロの最大解放、かつオートのフルバーストで三連射でありますっ!! 正面から突破できるでありますっっ!!」

「はっ、なんだ? 何を言っている!?」

 いきなりしゃべり始めたな!

 はじめちんぷんかんぷんで聞き返してしまうこの俺だが、正面のモニターをにらんだままのメカニック、デーミスはまるで気にもとめない。
 そんなあたふたするこちらをほっといて、だが当のドムのパイロットめは即座に理解したらしい。若いメカニックの若造の意見に四の五の言わずにただちに了解、即応する。


『! む、なるほど! その手があったな!! あんな字面だけ立派でそのクセに目くらまし程度にしかならないへなちょこ装備には頼る気がしないが、こいつら相手なら!!』

 MSドムの胴体(ボディ)の胸部あたりに一門装備された拡散型ビーム兵器――。

 その名も『拡散粒子砲』はその響きだけで言ったらかなりの決め技みたいに聞こえるが、実際はさほどの威力があるわけではなかった。
 言ってしまえばオマケみたいなもので、MS相手の決め手にはならず、実際は目くらましとして使用されることが大半だ。


 ただし今回のような小型のミサイル群が相手となるとてきめんにこの効果を発揮! メカニックが言うように短い間隔の三回連続の拡散ビームの斉射で、群がる矢印をまとめてはたき落としてガイア機の正面に突破口を切り開くのだった。

「で、でかしたっ、デーミス!! すごいじゃないか!!」

『やったのは俺だろう? ま、そいつの手柄でもあるが!』


 すぐ隣の新人くんに言ったのをまんざらでもなさげ、気分良さげに応じる隊長は、ミサイルの嵐を見事にかいくぐった先の空間を見据えながらにまた続ける。

『どうれ、しっかり捉えたぞ? また反撃される前に一発お見舞いしてやるが、かまわないよな? ……ちっ、外したか!』

 言いざま、自機の真正面に捉えた敵攻撃衛星めがけてドムのジャイアント・バズーカを斉射するガイアだが、すぐにも舌打ちして目つきを細める。いつに間にやらかまたメットのバイザーを上げていたから素顔が丸見えだ。

 はあん、どうやらしゃべる時は、バイザーを開けるクセがあるらしいな? このエースパイロットどのは!

「あいにくターゲットの衛星本体ではありませんが、この側面のミサイルポッドを撃破したものと思われます! 外された理由は、この衛星が自機の姿勢制御システムで機体を急旋回、本体への直接のダメージを辛くも避けたものと推測!!」

 ドムの搭載する観測機器類とメインカメラからの画像にかじりつく若いメカニックのデーミスが、即座に状況を解析!

 あれ、なんかコイツさっきからやけにしゃべるな?

 若干だけ気にかかりながらもおそらくはそのとおりなのだろうと了解しつつ、俺も俺なりにカメラの向こうのヒゲの隊長さんに言ってやる。

「長々と解説ご苦労! あともうひとつ言うならば、敵さんが体勢を変えてくれたからポッドの反対側に位置する近接戦闘用のバルカン砲の射線上からもまんまと外れてくれた! 畳がけるなら今だな!!」

 絶好のチャンスだと意気込むのだが、あいにくカメラの向こうの真顔のパイロットはあまり乗り気ではないらしい。

『まだ頭のビーム・キャノンがあるだろう? あれが一番厄介だ! 近づいて確実に一撃くれてやりたいところだが、この距離なら虎の子のバズでトドメもさしてやれるか……ん!!』

 さらにバズーカを見舞ってやるべく射撃体勢に入るガイアのドムの真正面、機体の姿勢の保持に苦労しているらしい衛星めが、この頭に装備したビームカノンらしきを身震いさせる。

 さては射撃の兆候か!?

 これに反射的に息を呑む俺たちの目の前で、思いも寄らない挙動を見せる敵攻撃衛星だ。てっきりビームで反撃と思わせて、これに反射的に身構えるガイアの表情が愕然となる。

『なんだっ、こついめっ、分離しやがったぞ! ビームの砲座だけが本体から外れて飛び出しやがった!! わけがわからんっ!!

 ちょっと泡を食ったさまの隊長にだがそれを冷静に見つめる俺である。果てはひどく納得してしきりとうなずくのだった。

「今どき分離式の砲座ぐらいなくもないだろう? むしろこれで納得がいった! はじめのザク隊が背後から攻撃を受けたのはこういうことだったんだな? 遠隔攻撃可能な軍事衛星か!」

『む? ああそうか、だったらこっちもそれなりに応戦させてもらう! もとよりクロスレンジで詰めてしまえばこちらのものだ、あとついでに……!!』

 言うなり間髪おかずで衛星本体に急接近するガイアのドムは、その右肩に装備したヒートブレードを空いた左手でスラリと抜くなりこれを真横に一閃させる!
 ただしそれは衛星本体を狙ったものではなく、その真上のもはや何もない空間であった。やや不可解に見るこの俺に、舌打ちまじりで言ってくれる当のドム隊隊長さまだ。

『ああん、手応えがねえな? 有線式の移動砲台ならエネルギーの供給と機体制御を兼ねた接続ラインを切っちまえばそれで終わりのはずだろう? 何もねえぞ!』

「ん、どういうことだ? まさか無線式? だがこの衛星自体はあくまで無人で放置された固定配置型のはずだろう?」

 ちょっと動揺してしまうおじさんたちに、この時、背後からは不意に凜とした涼やかな声が走る。それまで黙ってこの場を静観していた少佐が、ついにその口を開くのだった。

「ドレン! ……いや、無線式でないこともないだろう、可能性として? ならば分離した砲台自体は生きているものとして、標的が二つに分かれただけだ。とりあえず手近の衛星本体を停止、分かれた砲台は後からの対処でかまうまいさ……!」

 突如とした推しの背後からの的確な指示に慌てて迎合してしまうしがない一ファンであり下士官の俺に、あいにく反骨精神むき出しのヒゲづらパイロットがしかめ面で応じる。

「はっ、は! 了解であります、大尉っ!」

「ふん! 聞こえてら! だったらそうらよっ……どうだ?」

 一度は空しく空を斬ったしゃく熱のロングブレードを、再び一気に衛星の本体部めがけてざっくりと打ち下ろすガイアのリック・ドム! 片手でも楽々と衛星の装甲を貫いていた。
 デーミスから聞いた話じゃ、一番機は特に近接戦闘に特化した仕様でパワーがあるというが、まさしくだな。

 衛星の本体もその中心部に深々と突き刺さるのがこちらからもそのカメラ越しに見て取れた。これにより衛星自体の挙動もおおよそがピタリと停止するのが見て取れる。

 おそらくはこの中枢の制御システムをヒットしたのか?

 それでてっきり片が付いたかと思いきや、すぐ横のメカニックが甲高い声を発した。

 おいおい……!

「砲台、いまだ健在! 生きているであります!!」

 ただちに鳴り響く鋭い警告音と共に、ガイアのリック・ドムのほぼ背後からの反撃、白熱する強力なビームが斉射される。
 威力はほぼ駆逐艦のそれに相当するものと思われた。
 ただし本体から分離した単体での攻撃では射撃精度が劣るものなのか、どこかあさっての方角に射線が向いていたが、角度を補正、ただいまは次の二撃目へとチャージしているのだろう。


 絶妙な間がブリッジを覆う……!

 これにキャプテンシートに深くその身を落としていた我らが少佐、シャア・アズナブルがかすかに身じろぎして言うのだ。

「これは、におうな……! もはやこのわたしも出たほうがいいものか? ガイア大尉!」

 ともすれば今にもその腰を上げそうな言いようでだな?
 推しの出撃が目の当たりにできるのかと、俺は緊張してことの成り行きを見つめるばかりだが、あいにくでドムのやさぐれパイロットは真っ向から拒否の姿勢だ。

「余計なお世話だっ! それ、ざまあカンカン!!」


 わざと相手の攻撃を誘っていたのか?

 相手からの二撃目のビーム斉射と同時に機体を翻すガイアのリック・ドムは背後にした衛星本体にこのビームを直撃させる。
 言うなればまんまと相撃ちだが、これにより完全に衛星の機能を停止させるに至るのだった。
 中枢の制御システムが完全にダウンしたのが傍目にもそれとわかるほどの損傷度合い。復元は到底不可能だな。

 ああ、にも関わらず……!

「分離した砲台、いまだ健在であります!! しっかり動いているであります!! 位置を変えつつもさらに三度目の砲撃体勢、注意されたしでありますっ!!」

 デーミスの再三の注意喚起にカメラの向こうのヘルメットが口やかましく文句をがなり立てる。
 盛大にツバをまき散らして元気な中年だ。
 口の端が泡立ってやがる。
 どうやらバイザーにツバが飛ぶのがイヤでメットをオープンにしているようだな、このオヤジは?


『デーミス、おまえちょっと黙ってろ! ちいっ、あんな小さな的を射抜かなけりゃならんのか? そもそもなんで動いてやがる、あのビーム砲台は?? 本体はこうしてしっかりとつぶしてあるんだぞ!!』

「わからん! こっちが聞きたいくらいだ! どこかに操作している人間がいるのか、あるいはどこか遠方から遠隔操作されているのか……?」

 可能性としてはどちらも低いのだが、この時、またすぐ横合いの方から強い視線を感じてそちらに目を向ける俺だった。
 角度的にデーミスじゃないな? 今やすっかり前のめりで後頭部をさらしているメカニックくんだ。
 見るとそれまでずっと沈黙を守っていたはず操舵士のバルダのやつが、やたらな目ぢからでこの俺を見つめている。

 てか、にらんでるのか?

 何を言いたいのかさっぱりだが、図体でかいのに性格が無口でおとなしいこの若者ときたら、ひたすら無言で手元のディスプレイ類の一角を指し示す。
 はじめはてなと思う俺だが、無言のバルダは何ごとが必死に訴えているようだ。


 いや、おまえはもっとしゃべれよ! どんだけシャイなんだ?  

 内心でツッコミながら手元のディスプレイの表示を凝視する。 
 それでようやく理解ができた。

「……んっ、何かしら通信を傍受しているのか、ひょっとして? どこからか?? いや、バルダ、もっと早くに言えよ、あと言いたいことはちゃんと口に出せ!!」

「砲台停止、攻撃機動が解除された模様、熱源反応が低下してるであります! 加えて破壊された衛星から停戦信号らしきを感知したであります!!」


 とかく出しゃばりなメカニックからの早口の戦況報告にいよいよ愕然となる副艦長だ。

 てか、おまえのそれ、本来のオペレーターの役目を奪っているだろう? 連れてきたの失敗だったか??

 他のブリッジクルーからの突き上げみたいなのを予感しながら、苦い顔つきで考えを巡らせた挙げ句に路頭に迷う。

「衛星から? まだ生きているのか!? ん、おい、こいつは停戦というよりか、むしろ救難信号なんじゃないのか?? ええいわけがわからないぞっ!!」

『なら撃っていいか? めんどくせーから?』

「ちょっと待て! 今通信の内容をきちんと解析してもらうから! 少佐っ……!!」

 背後を振り返ると、すっくとシートから立ち上がったシャア少佐そのひとが、こくり、無言でただ深くうなずく。
 その単純な動作のたったひとつで、混乱しかけたこの俺とブリッジの空気が静かに落ち着きを取り戻す。
 これには内心で最敬礼で向き会うこのおじさんである。

 おおっ、さすがです! さすがすぎますっ、少佐!!

 結果、少佐の出撃を見送ることとなるこの俺、ドレンだった。



 シーン3
 


 その後、無口な航海士のバルダのさらなる指さしの指摘により、何もないはずのかの宙域の広範囲に
実はかなり高濃度のミノフスキー粒子が散布されていることが発覚……!

 現場のMSパイロットはとぼけていたが、どうやら勘づいていたみたいだな? あのヒゲづらガノタめ!

 それ故、本来は通信などできないはずのその先からのSOSの傍受に、騒然となるブリッジ・クルーたちであったのだが、その謎は聡明な我らがシャア少佐によりただちに解明されるに至る。

 少佐いわく――。

「大尉のリック・ドムにより破壊された例の守備衛星、この一部によくわからない見てくれのモジュールがあっただろう? わたしの推測するところによると、これはおそらくは強力な指向性を備えた光通信システムの中継機だな……!」

「光通信……? それはつまりは単純な光学パルスを通信に転用したものでありますか? いわゆるモールス信号のような?」

 少佐の言わんとするところを頭の中で懸命に整理整頓しながらの俺の返答に、我が敬愛する赤い君子はこくりとうなずく。

 良かった! 合ってたんだ!! 俺の勘!!

「うむ、原理としてはそれに近いな。さすがにもう少し高度に洗練された高速通信モジュールなのだろうが。無論デジタルだ。通常の条件下ならば、ミノフスキー粒子には可視光を阻害する性質はないものだからな? 強力なレーザー光の波長を応用した通信は、互いにこの光線を傍受できる範囲内であれば十分に可能なのだ。従ってあれと同じものが等間隔にミノフスキー粒子の散布されたこの宙域に無数に配置されているとすれば、いずこか任意の場所からこちらに通信を送ることは可能だろう」

「な、なるほど……!」

 額に冷や汗を浮かべて深くうなってしまう俺だ。
 少ない情報からこれほどまでに的確な予想を立てるその洞察力、感服するばかりの副艦長だが、そのすぐ横で若いヤツらがごちゃごちゃとやっているのにちょっとだけこの気をそがれる。

 どうやらデーミスがこの親分のドムの隊長と小声で掛け合いしているらしいが、バルダも目線で圧を掛けているようだ。
 こいつも額にじっとりと汗をかいている。

 あれ、なんかヤバいのか?

「あ、いやっ、大尉どのっ! ダメでありますっ、そんな勝手に? 通信システムのハッキングと同期はこちらの曹長どのができるとのことでありますがっ、ブリッジの許可なくは、え、バルダ曹長、もうやっているのでありますか??」

『だからデータをそっちに送っているだろう! おかげで通信感度がすこぶる良好だ。ノイズがなくなっただろう? モジュールと機体の距離が近ければこうやって通常回線でも介入できる! ある種の発明だな? それじゃさっさと先行するぞ!』

「あっ、え? だからダメでありますっ! 機体のチェックをさせてほしいでありますっ! 単機での戦闘行動はっ……!」

 何を勝手なことをやっているんだよ、おまえらは?

 白けたまなざしを向けるに、どうやらガイアのヤツが何がいるとも知れない厳戒宙域に突入しているらしい。
 勝手な自己の判断でだ。
 呆れて言葉も出ない俺だが、背後のキャプテンシートの少佐からの無言の視線が痛くて浮き足立ってしまう。

「ん、勝手に何をやっているんだ、おまえら? まずは状況の説明をしろ!!」

 チラチラと背後を見ながら言ってやるに、慌てふためいたメカニックのデーミスが青ざめた表情でこちらを振り返る。
 その横では操舵士のバルダがやけに険しい顔つきでコンソールのディスプレイを見つめていた。
 なんかイヤな気配を感じる俺だ。
 操舵士は本来の航路図表のディスプレイを凝視している。
 この俺の作戦指揮ブースの操作盤ではない、おのれの真正面にあるヤツだ。つまりは、このムサイの進路にも関わるような、何かしらがあるということなのか?

 この疑念を言葉にするよりも、やけにクリアな音声で遠くの戦闘宙域にいるはずのリック・ドムの一番機、ガイアからの音声が入ってきた。

『おいっ、聞いているか! ブリッジのやつら!! とんでもねえのが出てきやがったぞ? おい、デーミス、聞こえているか?』

「はっ、はい! 聞こえているでありますっ! 隣で中尉どのも聞き耳立てているであります!! それで大尉どのは、そちらは何がどうなされたのでありましょうかっ!?」

 即座に聞き返す若いメカニックに、ベテランのMSパイロットは呆れたようなさまで言葉をつなぐ。
 見れば当たり前のようにメットのバイザーをオープンにしていたから、その表情がまんまで見て取れた。
 よって両目を大きく見開かせるヒゲづらの中年パイロットだ。
 そいつがぶっきらぼうに言い放った。

 ちょっと信じがたいようなセリフをだ……!

 え??

 はじめ何のことだかさっぱりわからないできょとんとしてばかりの俺だった。

『見えるか? ちょっとでかすぎてこの09のカメラに収まりきらないが、この形状の一部だけでそいつが何だかわかるだろう? それこそが見たまんまだな! なあほら……!!』

 MS09、すなわちドムの隊長さんの言葉にうながされて子分のメカニックが目の前のディスプレイをのぞき込んで、すぐさまにその身をピキリと硬直させる。その横でおなじくこの状況を注視していた若い操舵士までもが、ごくりと生唾を飲むのが気配でわかった。
 真顔のデーミスが緊張に声を震わせながらに報告。

「こ、これはっ、大変であります! ドレン中尉どの、何もないと思われた宙域に、とんでもないものが出現してきたのでありますっ!!」

「とんでもないもの? なんだ一体? そもそもがこの宙域に、このムサイの進路に影響するようなものがあるはずが……!!」

 メカニックと一緒になってディスプレイをのぞき込む俺の全身が直後にはぴたりと硬直する。
 刹那、思考が真っ白になるおじさんだ。
 この時、遠くの宇宙ではおなじくおじさんの凄腕パイロットがどこかどっちらけたさまでうそぶいた。

『ありゃあ、どう見てもコロニー……だよな? ああ、そうだ、まんまガチガチのスペース・コロニーだ。植民地サイドでもなんでもないこんな野良の宇宙空間に……!』

 現場でまさにそのものを肉眼で見ている人間の言葉に、だがまだ信じられない思いの俺は、たぶん青ざめた表情で隣の航海士を見つめる。
 無口な若者は、おなじく緊張した面差しをこちらに向けて、ただ静かにこくりとうなずくのだった。

「……!」

 おいおい、冗談だろう??

 ドムのカメラが捉えている画像がこのムサイのブリッジのメインモニターにもでかでかと映されて、そこにはやはりあのおなじみの特大サイズのシルエットが、詰まるところで人類史上最大規模の人工建造物がこれまたでかでかと映し出される。

 でかすぎてその全容が見て取れないくらいのヤツがだな!

 こたびの戦争の戦禍にさらされて放棄された廃墟のコロニーなんかではなく、まんま現役のヤツだと遠目にも視認できた。

 まことにありえない光景だ……!

 ことここに至り、背後で静観を決め込んでいたはずの少佐がすっくと席から立ち上がる。
 その気配を背中にひしひしと感じ取る俺は、だがこの背後を振り返れないままに彼の言葉を聞くのだった。

「ドレン。わたしも出るぞ! このわたしが合流するまで大尉には現状維持を厳命しておけ。決して功を焦るなとな……?」

「は、はい?」

 どうやら赤い彗星の異名を持つ希代の英雄には、そこに他とは違う景色が見えているのかも知れない。
 ちょっと意外に聞いてしまうこの俺に、だが前のサブモニターからはオヤジの舌打ちが聞こえてくる。

『チッ……! キザ野郎が出てくるのか? だが悪いが現状維持はちと厳しいかもしれないぞ? なんたってここにはあのコロニー以外にも余計なものがありやがる』

「な、なんだ、何を言っている?」

 黒いメットの中で険しい顔つきをしたヒゲづらのぼやきに、それまでずっと沈黙を守っていた航海士のバルダがぼそりと言うのだった。

「います……!」

「?」

 おのずとゆっくりと視線を向ける俺に、ひどく真顔の航海士はギュッとみずからの操舵輪を握りしめる。

「感あり、おそらくは連邦の艦船……!」

 は、なんで!?

 ギョッとして聞かされる俺に、またしても現場のエース級がほざいてよこす。この声色がやけに冷たいあたり、余裕はあまりないことがいやが上にも聞き取れた。

『ふん、いつぞやとおなじ、マゼラン級とサラミス級だな……! コロニーがでかすぎてこの間にある豆粒みたいなの、すっかり見落としてただろう? あいにくで向こうさんのレーダーに引っかかってるみたいだ。索敵範囲はあちらが上だからな? ちなみにSOSってのは、どっちから発信されているんだ?』

「ば、バカ!! もっと早くに言えよ!? いや、あのコロニーと連邦とで小競り合いしているってことか? 状況からしてコロニー側から発信されたものなんだよな? どうして……少佐!!」

 内心混乱しながら背後を振り返ると、そこにはもぬけの殻となったキャプテンシートがある。
 彗星は身のこなしが素早い。
 そこからおよそ三分と経たずに出撃する少佐の06ザクⅡだ。
 かくて事態は風雲急を告げる急展開となる。


 再生計画 コロニーと難民 そして隠された真実と思惑

Scene1


 ブリッジ内に慌ただしくした警告音が響き渡る……!

 それはこの艦隊の総司令、シャア・アズナブル少佐の出撃時にだけ発される特別な警報だ。
 専用の赤いMSで出撃間際、少佐との会話は、何やら少し示唆に富むかのような、思わせぶりなものであった。
 俺は出撃シークエンスを一息にクリアして、今しも飛び立たんばかりのエースパイロットへ敬礼してこれを見送る。

「ご武運を! 新装したカタパルトシステムが早くも役に立ちましたな! ですがあちらはわからないことだらけですので……!」

 そのMS搭乗時であってもパイロットスーツを着込むことがない、日頃の赤い制服のままの青年将校は、その仮面に不敵な光をたたえつつ、おまけ口元には自信に満ちた微笑みまである。

 どこまでも華麗でおじさんの目にはまぶしいくらいだ。

『なに、おおよその考察はできるさ。ドレン、貴様も知っているとおり、コロニー公社が戦禍で破損したコロニーを再生するのに秘匿された宙域でこれを行っていることは、もはやもっぱらの噂だ……!』

「はあ、それは……! だとしたら、そこにこの我々がたまたま出くわしてしまったと? ですが連邦の戦艦は……」

 怪訝に首を傾げながらの返事にも、余裕の笑みを崩すことがない我らが赤い彗星だ……!

『再生されたコロニーはこの大戦による難民の受け皿も兼ねているらしい。確かに一石二鳥なのだろうが、それ以外の思惑もそこにはあったりするわけだ。往々にしてな……!』

「?」

『そう、まさしく実験場には打ってつけというわけだな? このわたしのにらんだとおりならば! 連邦に先を越されるわけにはいくまい。ドレン、大尉にはすぐに合流すると伝えておけ!』

「は、は!!」


 赤いMSが一筋の紅い航跡を残して艦から飛び立つ。
 大型のバックパックブースターをフルバーストで進軍するザクはわずか四分弱で目的の宙域へと到達していた。

 片や、当の混乱した宙域では、単機で孤立したガイアのリック・ドムが今しも連邦の艦船との戦闘を開始しようとしていた。

「た、たぶん大丈夫だと思われるであります!」

 目の前のコンソールをジロジロと必死になめ回しながらの若いメカニックのうめくようなOKに、俺はちょっといぶかしく聞き返してしまう。となりで同じく若い操舵士が緊迫した面持ちで後輩のメカニックくんの手元を見つめるが、あいにく畑違いの舵取りにはさっぱりわけがわからないだろう。

 そう。何を隠そう、この俺もさっぱりなのだから!

「本当か? とりあえず被弾はしていないはずだから不慮のマシントラブルさえなければ問題ないはずだが、弾薬とかは余裕あるのか?? スピード優先でメインのバズーカだけなんだろう」

 顔中汗だらけで振り返る思春期まっただ中の青年は、よく見たらこの顔がいたるところニキビだらけだな。
 ならこれ以上はニキビが増えないようにヘタなストレスは与えたくないのだが、スピーカー越しに当のドムのパイロットめがわんさとわめいてくれる。

『問題ない。コイツを整備したのは誰なんだ? デーミス、おまえだろう。もっとじぶんの腕に自信を持て。このオレはとっくに信用している。残弾なら予備弾倉がある。加えてヒートブレードの扱いならこのオレの右に出る者はいないんだぞ?』

 気持ちばかり若くしたかっこつけおじさんが、いけしゃあしゃあと抜かしてくれるのに若いヤツらは感銘を受けているらしい。
 が、あいにく年寄りのこちらはどこか冷めた眼差しでうさんくさく聞いてしまう。

 老害ってこういうことを言うのか?

「マッシュとオルテガの助けはいらないんだな? 今さらなんだが、弾倉の交換のタイミングを間違えたら蜂の巣だぞ! ならもう今のうちに交換しちまえよ、テキトーにぶっぱなして!!」

 背後の戦術オペレーターあたりが聞いたら露骨に眉をしかめそうなことをぶっちゃけてやるに、むしろ当のガイアが顔つきをしかめやがる。

『は? 悪いが無駄弾は撃たない主義なんだよ、このオレは。ふん、バズは戦艦を仕留めるのに温存しておきたいから、MSはあらかたブレードでぶった切ることになるな? このバズのどでかい銃口でこれ見よがしに牽制しながら! いわゆる心理戦てヤツだ。でかい獲物はこういう使い道もあるから便利だよな?』

 手元のレーダーじゃ今しも敵MS小隊が近づいているのを捉えてるくせに、内心の焦りをおくびにも出さない歴戦の猛者はでかい口を叩きたい放題だ。むしろすぐとなりの新人メカニックのデーミスが冷や汗びっしょりで見上げてくる。コンソールにひっしとしがみついてるから図体でかいくせに目線が上目遣いだ。

 落ち着け! それ以上汗かくとなおさらお肌が荒れるぞ?

 だいぶ切羽詰まった調子のセリフに重々しくうなずく俺だった。状況として芳しくはないが、絶望するほどではない。

「敵、MS六機! 量産機タイプの二個小隊であります……!」

「厳しいか? おまえの敬愛する黒い三連星のちからをもってしても?? ま、今はただの一連星、ヒトツボシなのか?」

『やかましい。貧弱なジムの二個小隊くらいこのオレひとりで釣りがくる! デーミス、おまえいつからオペレーターになったんだ? 小僧は黙って見ていろ。すぐに終わらせる……!』

 完全に囲まれておいてよくそんなでかい口がたたけるな?

 無駄ダマだなんて言わないで素直に一機でも叩き落としておけば良かったものを、単機で仁王立ちしてのんきに敵勢を待ち構える重MSの使い手に呆れまじりに言ってやった。

「おい、そうやって好き勝手にやらせてやれば、敵艦からの余計な援護射撃を食らわないでいいだろうって算段なのか? だがあいにくで敵さんはおまえよりも目の前のコロニーに気があるらしいから、そっちにはケツを向けたまんまだろ。いいから敵MSに集中しろよ! 少し時間を稼げば我らが少佐が駆けつけてくれるから、その時点で形成逆転だ!!」

『けっ、そんな都合良く星をゆずってやるものか! キザなボンボンに現場のたたき上げの底力を見せてやる。今さらロートルの06ごときに出番を譲ってやるほどお人好しじゃないんだよ』

「敵MS発砲! これは、なぶり殺しにするかのごとく距離を置いての間接攻撃でありますっ……!!」

「さすがにわかっているな? パワーと体格差があるドム相手の戦い方ってヤツを! 大尉、冗談は抜きにして時間稼ぎに専念すればいい、少佐はじきに到着するはずだっ……おいっ!?」

 にわかに緊迫するブリッジの空気をあざ笑うかにしたドム小隊隊長機の挙動だ。不意の急速旋回の後に一気に背後のロケットブースターを一斉点火! はじめに発砲してきた敵のジムめがけて頭から突撃!!

 そんな無茶苦茶な!?

 1対6ってのは連邦の白い悪魔とかいうバケモノのみがこなせるようなもので、現実には相当にシビアな戦力差だ。

 この周りをぐるりと囲まれてしまえば、常に誰かしらに背中をさらすことになるのだから?
 だがそれすらも計算ずくだったものらしい『星』の異名持ちは、およそ迷うこともなく操縦桿を片手に握ったままアクセルペダルをべた踏みだ。メットのバイザーを下ろした中ではどんな目で獲物を睨み付けているのやら?


『ほう、連邦のヤツらもいっちょまえにバズなんぞ持っているんだな? だが使い方がなってねえ、そういうデカブツは無駄に距離を置きすぎるとよけられやすいし、今みたいな乱戦や接近戦になっちまえばとたんに使い勝手が悪くなるんだよ!!』

 はじめから狙ってたんだな!

 数の有利にかまけて威嚇がてらに撃ってきたヤツにカウンターで反撃、慌てた相手は二撃目を放つもこの狙いがまるで定まらない。おかげで難なく敵の懐に潜り込むガイアの格闘戦特化型リック・ドムだ!


『馬鹿野郎が! さっさと邪魔なバズを放って肩のサーベルを構えやがれ!! 軽くて華奢なそいつじゃでかいお荷物抱えたまんまではまともに剣なんざ振れないだろうがっ、でないと……』

 既に肩から抜き出していた長いヒートブレードが、ギュルンと唸りを上げて横凪に一閃される!!
 それであっさりと敵のジムはこの上半身と下半身がおさらばしていた。チーズケーキをカットするくらいにすんなりとだ。
 直後に派手に爆散!
 その時にはとっくに回避機動に移っているガイアのドムは、次の獲物を求めて頭のモノアイをギラリと光らせる。

 一機撃墜!!

 もはや鬼神のごとき手さばきと烈火のごとき勢いだ。

『こうなっちまうんだぜ? 高い授業料だな! じゃあ次はどいつが教えてほしい? そこのバズ持ち! おまえの番だな!!』

 わざわざバイザーを上げて言いざま、今度はみずから狙いを付けて敵MSにケンカをふっかける暴れん坊だ。

 完全に一人舞台になりつつあったが、敵もそれなりに態勢を取り直してはいる。自機から見て一番遠くにいるバズーカ装備のジムに突進するリック・ドムを、ただ黙って見過ごしてはくれなかった。それぞれが黒いほうき星めがけてみずからの獲物の狙いを定め、やがてはトリガーを引き絞らんとする。
 傍で息を呑んで見守るデーミスが何事が言いかけたのと同時に、先手を打ってこれを黙らせる凄腕の隊長だ。

『わかってる! こうしろって言うんだろう? ほらよっ!!』

「このままじゃ蜂の巣にされるぞっ! 何をしているんだ? あれ、一発も当たらない??」


 まっすぐの直線軌道のさなかにこの身体をひねって横回転のスピンを加えるリック・ドムが、その胸部に備える拡散粒子砲を周囲に盛大にぶちまけたのを後になって思い当たる俺である。
 してやったりと言いたげなガイアのセリフがそれを裏付けた。

『……ククッ、まんまとだな? おかげでエネルギーゲージがゼロだが、こんなものこうでしか使わねえ、ありがとさんよ!』

 そうか、白熱するビームの拡散粒子でいわゆる目くらましを食らわせたのか! 攻撃力はなくとも敵の射線を逸らすのには十分だ。もうしばらく撃てないらしいが。

 二機目のジムは殊勝にも右肩のバズを放り出して左手にシールドと右手にサーベルを構えるが、頭部のバルカンで相手からの突進を牽制するくらいの冷静さは欲しかったか。
 シールドを機体の前面に構えて鉄壁のガードを装うが、ガイアの近接戦闘特化型のMSの威力をなめていたのが命とりだ。
 結果、サーベルを交えるまでもなくヒートソードのひと突きであっさりと盾ごとその胴体を貫かれていた。
 ドムの身の丈ほどもある長尺のソードは射程がサーベルの比ではないくらいに長いのだ。
 果たして一瞬のうちに味方を二機も失った敵部隊は、それでもろくも算を乱して混乱に陥る。

 およそろくな連携が取れていないな。

 運悪く隊長機でもやられちまったのか?

「よ、よしっ! うまいことこっちのペースだが……」

 だからってあまり距離を置かれるとむしろ敵艦のビーム砲を食らいそうだな? いや、もはやその心配もないものか??

 ここまで多勢に無勢を押し返されるとは夢にも思っていないのだろう駆逐艦を伴った巡洋艦は、むしろこの艦砲をあろうことかコロニーに向けて放つのだった。


 え、あいつら何をしているんだ!?

 仮にも正規の軍用艦が民間相手にあまりの乱暴狼藉ぶりに言葉もなくなる俺であったが、そんなものつゆほども気にしない根っからの乱暴者ががなる。バイザーが全開のメットの中でむき出しの表情が赤らんだ鬼みたいなヒゲおやじがツバを飛ばした。

『おおらっ、逃げてばかりいないでかかってきやがれっ! 連邦のへっぽこMSどもがっ、数があればいいってものじゃないんだよっ!! フォーメーションもまともに組めないのかっ!?』


 ノーマル兵装で片手のビームガンを連射するジムに、右肩に担いだジャイアント・バズーカの銃口だけで圧倒するガイアのドムは難なくソードの射程にまで肉薄する。
 そうして左手を大振りの一撃で敵勢を半減させるかと思いきや、突如と反射的に身を翻すリック・ドムだ。


『……ん! なんだっ? こいつは、まさか……もう来やがったのか!!』

 薄暗いコクピット内で周囲のディスプレイをじろりと眺め回すガイアの視線が、ある一点で険しく細められる。
 乾いた舌打ちが漏れ出た。
 聞き間違いじゃないな。
 ゴクリと生唾を飲み込むこの俺だ。
 気がつけばもう流れがガラリと変わっていた。
 その瞬間、激しいザクマシンガンの一斉射を背中から浴びて、ただちに爆発四散する敵MSだ。その直前のドムの不可解な動きは、つまりでこれを回避するためだったんだな?

 マシンガン! そう!! 

 紅い彗星、シャア・アズナブル参上の瞬間であった。

「少佐!!」

 これぞまさしく真打ち登場!!


 この寸前まで奮戦してたドム隊の隊長どのには悪いが、思わず目の前でガッツポーズを取るテンションハイな参謀のおじさん。 
 カメラ越しのヒゲづらはやけに心外そうだが、ことここに至り、勝利をはっきりと確信するこの副官、ドレンだ。

 そしてはじまる怒濤の快進撃!


 すべてが混沌とした宙域の戦いは、あっけないほどにあっさりとした決着を迎えるのだった……!!


 Scene2


「少佐!!」

 戦場に着くや否や電光石火の早業で早くも一機撃墜!

 その主役然とした華麗なる登場に、思わず声を上げてしまうこの俺、ドレンだ。

 赤い彗星とは良くも言ったもので、全身を赤くカラーリングされたザクⅡがスラリとした立ち姿を夜空に浮かべる。
 それはさながら一枚の絵画のごとき壮麗さで、見る者の心を打ち振るわせた。きっとこのおじさんだけじゃないだろう?

 うおお、めちゃくちゃカッコイイぞ、ザクなのに!!

 感動のあまり言葉も出なくなる俺だが、戦場でこれを間近に見るヒゲのおやじのパイロットは迷惑げに文句を垂れるのだった。

『余計なマネを! オレの獲物を横取りしやがったぞ? 旧式の06の分際で! 恥ずかしくねえのか、あの赤いザクってのは?』

「その旧式にまんまと星を横取りされるおまえのほうが間抜けなんだろう! 何はともあれ喜べよ? 星持ちの異名のパイロットがふたり、もはや鬼に金棒でこちらの勝ちは決まったようなもんだろうさ?」

 リック・ドムのコクピットで毒づくガイアにご機嫌なテンションでブリッジから突っ込む俺だが、この横で黒い三連星びいきのメカニックが口をとがらせた。

「えー、今のは十分に大尉どのが撃墜できたものと思われます! このじぶんにも横取りのように見えたのでありますがっ……」

 ブリッジの空気になじんできたのか、ブサイクづらで一人前に文句を言う新人くんだ。これにはちと苦笑いで返すこの副官だったが、遠くの大尉も気乗りしないさまでこれをいなす。

「そう言うな! こういうのは所詮は早い者勝ちだろうさ?」

『デーミス、余計なことを言うんじゃない。こっちがみじめになるだろう? というかおまえ、いい加減にデッキに戻れ……!』

 ほぼ自分付きの専属メカニックを黙らせてから改めてモニターを見上げる熟練パイロットだ。モニターの中で悠然とした一枚絵みたいな立ち姿を見せつける、赤いMSに改めて顔をしかめる。

『来なくてもいいものを……! このオレの取り分が減るだけだろう、残りは三機、あと戦艦が都合ふたつか……』

「あまりひとりで無理をしようとするなよ? せっかく少佐が駆けつけてくれたのだから、これとしっかりと連携して……!」

『御免こうむる! あんなすかしたキザ野郎とじゃまともなフォーメーションなんて組めやしねえだろう。何より旧型の06じゃ、この09に付いてはこれないだろうよ?』

 もういい加減にドムって言えよ、マジで面倒くさいから!

 好き勝手な言いようが独善的に過ぎる不良パイロットに、はじめ呆れて言葉に詰まるのだが、当の少佐みずからがこの通信に介入してくる。
 思わず敬礼してこれを聞いてしまう俺だった。
 果たしてこの口元の不敵な笑みを絶やさないカリスマは、余裕の有り余る口ぶりで歴戦の勇者に応じる。

 赤い彗星と黒い三連星の隊長格がいるってのは、これと対戦する相手側からしたらどんなものなんだろうな? かなり混乱しているらしい残りのジムのパイロットたちの心境をおもんばかってみるが、余計なお世話か。だが赤いザクが登場してからの敵の慌てふためきようはかなりあからさまだった。

 出だしの勢いのまま畳がけるでもない不動の専用ザクの内部で、思わせぶりなセリフをマイクに放つ戦場の赤いバラ。
 その挙動に視線が釘付けの俺には他にたとえようがなかった。

『フッ……! 大尉、このわたしと無理に歩調を合わせる必要はない。それほどの局面でもないのだからな? だがこのザクⅡを見くびっているのならば、そこには異論を唱えたいところではあるが……!』

 これには今や完全な引き立て役でしかない地味で貧相なヒゲおやじが憮然としてモニターを見上げる。見下ろす少佐は涼やかな眼差しを仮面の奥に隠したままにさらりと続けた。

『さて、ジオンはこの機体で幾多の戦局を勝ち抜いたことをあの連邦の後発MSたちに知らしめてくれようか、大尉も良く見ておくがいい。君たちの持つ異名もこの機体で勝ち得た名声だったはずなのだからな……!』

 かすかな沈黙……!

 次には怒濤の攻撃がはじまるのがたやすく予想されたが、かすかな舌打ちしてヒゲづら、もといリック・ドムのパイロットめがほざく。

『ケッ、キザなボンボン風情がいかにも知った風なことを! この09に付いてこれるならやってみろって話だ、むしろどれだけ凄いのやらとくと見させてもらおうか? うわさの赤い彗星の腕前とやらを、この黒い三連星のガイアを前にしてな!!』

 憎々しげに言いながらしっかりと少佐の専用ザクⅡをカメラの中央に据えるガイアだ。
 頭のツノからつま先までぴたりと収まる画角で固定……!
 見ている側としてはまことにありがたいが、それだとじぶんのMSの機動に問題があったりはしないか?と頭の片隅で疑問がよぎったりする。

 あれ、これってメインカメラの画像だよな? よそ見をしながら戦闘行動に入るのか? いくら少佐が気になるからって??

「大尉、まだ敵のMSは三機残っているんだよな? よそ見が過ぎやしないか、ちゃんと目の前に集中しろよ! そっちの少佐の絵面はもういいから!!」

『……もういいのか?』

 手元の小型モニターの中でバイザーを全開にしたオヤジがとぼけた調子で聞いてきやがるのに、なんか強烈な嫌味みたいなものを察して思わずがなる副艦長だ。

「いいに決まってるだろ! アイドルのコンサートじゃあるまいに? 少佐のひとり舞台なんか仕立ててどうするんだっ、おまえも仕事しろよ!! 素敵なカメラワークはもういいからっ!?」

『かぶりつきだな? どうせあそこらへんのはここからじゃ手が届かないから譲ってやってもいい。競争をしてるわけじゃなし、このオレもきっちりと仕事はするさ……ほら、はじまったぞ?』

 開き直った物言いがなんかどっちらけだな?

 おまけ何やらたぶんに含むところがある言いようでメインカメラの画像を少しだけ揺らすのに、思わず身を乗り出してブリッジのメインモニターに食い入る推し活おじさんだった。

 公私混同、他のブリッジクルーに会わす顔がないな……!

「どれどれっ? うおっ、画面がでかいから余計に迫力がありやがるなっ、少佐!! わおっ、さすがに早いっっ!!」

 ザクマシンガンを正面に構えたままのザクⅡが、余計な予備動作や機体の挙動にブレなど一切見せないままに急速発進!!
 疾風のごとき身のこなしで残る連邦の残党どもに襲いかかった。まずは手持ちのマシンガンの連射で敵MSの動きを封じつつぎりぎりまで接近、背後へ抜き去り際に左手に構えたヒートホークを素早く振り抜く!


 ブゥーーーン! ドッギャアァーーン!!

 がら空きの背中をばっさりと断つしゃく熱の刃だ。
 背中のメイン動力を破壊されたジムはただちに爆発炎上、だがこの時には少佐の赤いザクは既に次の獲物へと肉薄していた。

 速い!! どの瞬間もマックスの最高速で突き抜ける赤いザク!!

 動きにまるで無駄がないし、コース取りもブレることなく完璧だ。今となっては旧型の量産機が見違えるような目にもとまらぬキレッキレの直線鋭角的攻撃機動をブリッジの画面一杯に見せつけてくれた。
 編集なしでこの見応えはもはや異常だ!


 少佐、一生ついていきますっ!!

 さすがに他のクルーに聞かせるにははばかられるセリフは心の中だけで叫んで、この画像を間近で抑えているカメラクルー、ならぬMSのパイロットにうわずった声をあげる。

「すっ、凄いぞっ! じゃなくて、ガイア! おまえは何をしているんだ? とっとと……うお、もう二機目をターゲットに、今度は真正面から!?」

 言葉とは裏腹に大画面のモニターから目が離せない俺だ。

 同じ凄腕のパイロットだからこその強みなのか、完璧なカメラワークで赤いザクを中心にぴたりと据えたリック・ドムのメインカメラは少佐の描く芸術的高速機動の軌跡をありのまま克明に宇宙のキャンバスに描写する。
 戦場カメラマンなら引く手あまただな。
 退役後の身の振り方が見えた気がしたのは気のせいか。
 ともあれ必死に後退するジムめがけて問答無用のヒートホークの引導を叩きつけるザクは、確実に正確にこのコクピットを破壊していた。うおおっ……!

 早くも三機撃墜!!

 まさしく鬼神のごとき強さだ。
 ひたすら目を見張る俺に現場でこのさまを見つめる熟練の大尉は、ひゅう!と口笛ならしてあざけった賞賛を送る。
 ただちにメインカメラの画像を切り替えてどことも知れない宇宙の暗闇を捉えるリック・ドムのメイン画像だ。

 だいぶ遠くにほうほうの体で戦場を逃げ出していく敵MSがあったが、敵前逃亡は極刑ものだろうと怪しく見るこの俺にスピーカー越しにやさぐれたガイアの野郎が言ってくる。


『はん、コイツであいこだな? それ、ドン! このオレの狙いははなからもっとでかい星だ、悪いがいただかせてもらうぜ?』

 敵MSの背中を瞬時にロックオンした手持ちのバズーカの砲弾をリリースしたガイアは、これをもって撃墜を宣言。
 言いつつカメラの画像が急速に流れていくのに、怪訝に思う俺は思わずわめき返す。あまりにも性急なことの運びに内心で赤い警告ランプが点っていた。すぐこの側で流れを追っているデーミスや操舵士のバルダも同じ危惧を感じてはいたはずだ。

「お、おいっ、そんなろくにトドメを刺したかを確かめもせずに!? いくらバズーカの狙いが確かでも、これを撃破できるか絶対の確証なんてないんだぞ!!」

 通常なら相手機が大破したことをこれと視認した上でないと次の行動には移れないはずだ。この場合は!
 半ば非難めいた口ぶりとなるこちらに、いっかな悪びれるでもないベテランはぺろりと舌を出しやがった。
 メットの素顔をさらしたまんまだから丸わかりだ。

『心配ない! 万一に外したとしても、ここには一騎当千の赤い彗星さまがいるんだろう? だったら……!』

「それって……!」

 後始末は少佐に任せて、じぶんだけさっさとでかい獲物、つまりは連邦の戦艦を仕留めに走るってことか? なんてヤツ!!

 スタンドプレーが著しいわがままな部下にも落ち着き払ったさまの少佐は、しごく納得のいったさまで肩をすくめさせる。

『これは……してやられたな? まあそちらは大尉に任せてもいい。わたしもわたしなり、この場においては大きな釣果を狙ってはいるものだからな……!』

『はあん、そいつはどうも、ありがとうよ! もったいつけた言いようがいちいちかんに障るが、言わせてやるさ? その代わりに戦艦キラーの誉れはこの黒い三連星がいただかせてもらう! マゼランもサラミスもコイツの餌食にしてな!!』

「欲張り過ぎだろう!! 相手はとんでもない勢いで弾幕張りまくってるぞ!? 単機では無理だ! なんだっ、バルダ?」


 少なからぬ危機感と共に声を荒げる俺に、横からちょんちょんと操舵士の若いのがこの肩口をつついてくる。その表情から察するに、どうやら様子が変だと言いたいものらしい。

「あ、あのっ……!!」

 そう、普段から船の舵取りをしているバルダからすると、連邦の艦がガイアの猛追撃を受けていながらこの進路をいまだ転進しないこと、劣勢に立たされた自軍のMS部隊がSOSを発信(していたと思われる)するのを最期まで無視し続けたこと。
 そして今やただ闇雲に弾薬を何もない虚空にばらまいていることがとても不審に映るのらしい。


 ヤツらは果たして誰を相手にしているのか……?

 いやはや、この目を見ただけでここまで読み解けるこの俺は、部下に対しての理解力が半端ないな!

「まさか、あのコロニー以外にも、ここには何かがあるってことなのか? 一体、何が……!?」

 混乱しながら必至に考えを巡らせる俺の耳元に、不意に回線越しの乾いた息が吹きかかる。ヒゲのオヤジの口から発せられたそれは、何やらひどい驚愕の色を帯びてこの耳朶に絡みついた。

『んっ、なんだ、コイツはっ……!?』

 でかい獲物を眼前にしたガイアの目論見はもろくも崩れ去る。
 ただならぬ緊張感が走る中、自身の愛機のコクピットで少佐がかすかに身じろぎする。

 その冷たき仮面の視線の先に映るものは何か?

 勝利を目前、思いも寄らない事態に直面する、この俺たちなのであった……!!

 







 

 

カテゴリー
DigitalIllustration SF小説 ガンダム コント ワードプレス 俺の推し! 機動戦士ガンダム

俺の推し!②

機動戦士ガンダム・二次創作ドレンが主役だ!!

二次創作サイトのハーメルンでも公開中! アンケートでお話の方向性を募集してます! 感想も募集中!!応援してね♡ https://syosetu.org/novel/381100

   ↓第一話からはこちら↓

 ↓オリジナルのノベルもやってるよ☆↓

宇宙(そら)のフロントライン リック・ドムの黒い三連星 ①

 黒い三連星のドムのヘッドのイメージ…
 なんかドムより可変MSのアッシマーっぽい?描き方??
 ちなみに後ろにも目、サブのカメラがありますw
黒い三連星のドム
一番機(ガイア機) ノーマルポジション
二番機(マッシュ) 索敵能力強化、射撃性能強化型
三番機(オルテガ) 近接戦闘・格闘特化型?

Scene2

 PartB


 四方八方、見渡す限りが宇宙ゴミだらけの暗礁宙域は、もうじき終わりを迎えつつあるようだった。

 あえて敵艦のレーダーによる補足を避けるために難しいコース取りを選んだのだが、迫り来る大小無数の残骸デブリもこれをものともせず。まっすぐの道のりをひたすらに突き進む、リック・ドム部隊だ。

 隊の頭を張る一番機の隊長、ガイアは、ここまでワンミスもなしに部隊を先導してのけたことに内心でにんまりとほくそ笑む。
 それだから背後の僚機たちへと意気揚々と通信を開いた。
 隠密機動でもここまで近づけば、敵方のレーダーに捕捉もされるだろう。視界の悪いこのゴミの海を抜けたらすぐさまドンパチなのだからもう遠慮することはないと、あえてでかいボリュームでがなってやる。

「ようし、もうじき始まるな? コクピット内の空気がヒリついてやがる……! だったら野郎ども、用意はいいか? デブリを抜けたら一気にしかけるぞ!!」

 景気良く号令を発する隊長に、僚機の部下たちからもおなじく威勢の良い返事が返ってくる。
 二番機のマッシュ中尉から了解とともに補足がなされた。

「了解! こっちのレーダーでもきっちりと三つ、反応を抑えているぜ? おそらくは話しの通りの駆逐艦、みんなおなじみのサラミス級ってところか!」
 
 元は同じタイプのMS(ドム)でも、索敵能力がより強化された機体を操る都合、隊長のガイア機よりも状況の解析はお手の物だ。
 MS部隊を最低でも一個小隊は擁しているだろう駆逐艦が三隻というのはちょっと骨なのだが、いくつもの死線をくぐり抜けてきたベテランパイロットたちは少しも臆したところがない。

 部隊の最後尾でしんがりを勤めるオルテガ機からもバカに明るい男のだみ声が入ってきた。

「あっは、それじゃガイアの兄い! ひとりあたま一隻でいいんだよなあ? 軽い軽い!! がっはっは!」

 頼もしい兄弟たちの返答に口元またにんまりとほくそ笑みながら、正面のメインモニターの先にあるだろう敵影をにらみつけ、その場においてのひらめきを口にする隊長さんだ。

 はじめにサラミス級が3とは聞かされていたが、状況としてこれをまんま鵜呑みにしているわけではなかった。

「おい野郎ども良く聞け、対空砲火がやかましい駆逐艦が三つも固まってられたら少々厄介だが、実際はそんなことはねえとこの俺は踏んでいるぜ? おそらくは2で、残りのはせいぜいちゃちな補給艦ぐらいなもんだろう。場合によっては護衛艦が1で、残りのふたつが補給艦とかもあるかもな!!」

「ああ、なるほど、確かにヤツらも補給はしないわけにいかないからな? 最寄りのコロニーから都合良く物資の援助、最悪強奪がかなうとも限らない。艦自体は地球から上がって来たのか?」

「どうでもいいことだろう。スクラップにしちまうことには変わるまいだ。もとよりアースノイドに遠慮はいらねえ……!」

 百戦錬磨のMSパイロットとしての経験と勘も踏まえての憶測に、なるほどと納得顔の二番機だ。加えて背後のしんがりからまた明るいだみ声が返ってくる。

「がっはは、いいや、補給艦が2なんてことあるのかな、ガイ兄? そんなもん支援物資たんまり抱え込んでちゃ、ただのどんガメの足手まといでしかありゃしないぜぇ??」

 それじゃ楽勝過ぎる!とことさら馬鹿笑いする巨漢の弟分に、長兄のガイアはニヤリとしながら意味深に返してやった。

「どっちも補給物資ばかりとは限らないだろう? ああ、ひょっとしたらMS(モビルスーツ)ってこともあるかもしれないぜ? 新型のよ?? ふふん、2ならそのラインがより濃厚だ……!」

 冗談交じりに口にしたセリフに、回線の向こうでは驚いた感じの静寂があるが、真ん中の機体の次男坊こと自称・隻眼のクールガイ、マッシュがしれっと口を挟む。

「おっと! 悪いな隊長、水を差すようでなんだが、それぞれの反応からすると、戦艦が2で補給艦が1だ! 熱反応が高いのが真ん中とこの右、左のはのっぺりしたブルー一色だ。やけにでかいな? まあ、それだけ物資が満載ってことか!」

「いいなあ! どうせならまとめて横取りしちまおうか? おれ達だけでこっそりと、げひっ!」

 口からよだれでも垂らしてそうな欲望まみれの物言いに、だがあんまり気乗りしない風な隊長はあっさりと受け流す。

「やめとけ。取りに戻るのが面倒だ! 補給艦はほっといて、問題は護衛のサラミスだ。当然MS隊が張り付いてるはずなんだが、まだ出てこないのか? もたもたしてたらブリッジにこのバズをドン!ではいさよならだぞ? 連邦め、よっぽどシロートの寄せ集めなのか、ふん、このドムがなめられたもんだな!!」

 互いの物理的心理的障害となる暗礁宙域を抜けたら一直線に視界が開ける。もうじき二番機ほどにレーダーの範囲が広くない通常仕様の自機でも相手を捕捉できるくらいになるだろう。
 ならば敵陣営にも動きがあって当然なのに首を傾げるガイアの耳元で、この背後に付けるマッシュがすこしいぶかしげに応じてくれた。

「ああ、そっちの反応は皆無だな? 戦艦の観測能力からしたら確かにおかしいっちゃあおかしいが、いいや、奴さんにオレ達がうまく近づきすぎてるのかもしれないぜ? まあいずれ蜂の巣をつついたみたいな大騒ぎになるんだろうがっ……ん、いや、待てよ? コイツはっ!!」

「ん、どうした? マッシュ?? ん、なっ……ぬあ!?」

 直後、それまでの静寂を突き破り、突如として激しく鳴り響く大小無数の警告音!

 反射的に見たモニターの中、この中央でかすかな光が明滅して、やがてはげしい光の洪水が目の前を満たした……!!

 まだ暗礁宙域を抜けきっていないのにも関わらず、いきなりの先制攻撃に目を見開くガイアだ。駆逐艦の攻撃レンジにはまだおよばない目測だったのだが、ビーム砲の一斉射が見舞われたのにこれを理解するよりも先に身体が反応していた。
 敵の射線上と己の間に障害のデブリを挟む回避機動を取るが、すぐさま背中のバーニア最大噴射で現空域を離脱!

 強力なビームの一撃は宇宙ゴミなどものともせずにこの射線上のものを蒸発させていた。ドムの装甲でも直撃は危うい。

「くっ、駆逐艦のビームじゃねえだろうがっ、この威力は!!」

 これまでの算段が多いに狂ったことが予期されたが、おなじく大きく回避機動を取ってフォーメーションを崩す二番機からの入電で嫌な予感が確定となる。 

「チッ……こいつはっ、巡洋艦だ! マゼラン級!! やばいぞすっかり射程に入っちまってるっ、護衛のサラミス(駆逐艦)は前進、MS部隊はこっちに張り付いてやがるな!!」

「ええいっ、話がまるで違うじゃねえか!! 補給艦の護衛に巡洋艦なんざ聞いたことがねえっ、何を積んでやがる? ……いいや、野郎ども、立て直しだ!! デブリを盾にしながら巡洋艦の攻撃を回避、近づいてくるMSと駆逐艦は各個に撃破だ!! まずは丸裸にしてから残った巡洋艦を蜂の巣にしてやるぜっ!! 補給艦なんざどうでもいいっ、それよりもっ!!」

 怒りにまかせた怒鳴り声を発して、目の前のサブディスプレに向けて渾身の中指を立てる隊長、ガイアだった。

「このくされあほんだらぁっ!! どう始末を付けてくれやがる? このオレ様のおろしたてのMSに傷なんざつこうものなら、その寝ぼけたツラ思い切りどつき倒してやるからな!! 覚悟しろっ!」

 モニターの向こうで思わずのけぞる肥満したおやじに啖呵を切ってにらみつけてくれる。あわてふためく相手はあわあわと何事か言ってくるが、あいにくノイズ混じりでよく聞こえなかった。

「この埋め合わせはきっちりとやってらもうぞ! マッシュ、オルテガ! フォーメーションは一時解除だっ、あの駆逐艦が不用意に間を詰めてきたら一気に畳みがける!! タイミングとちるなよ? MS相手でも暗礁の中ならこっちの地の利がでかいから、無理せず落ち着いてやれ! モグラ叩きだ!!」

「了解!!」

 気づけばドタバタの内に戦いの幕が切って落とされた。
 素人目には多勢に無勢の戦いだが、歴戦の猛者たちは怯むことなく敢然とこれに立ち向かう。
 緊迫した空気の中、離れた場所から通信してくる戦闘補助要員のおじさんの声がむなしく響いた。

『おい、どうした! 何があったんだ? だから状況を説明してくれよっ、おいって!!』

「うるさい黙ってろ! 誰のせいなんだよっ? このケツデカ!!」

 忌々しいことこちらの射程外からの連続のビーム砲撃を回避しつつ、迫り来る敵駆逐艦とのドッグファイト!! おまけにMSとの命がけの追いかけっこだ。果たしてどちらが鬼なのやら?

 何にせよ罰ゲームもはなはだしい。


 モニターの中で見知ったおやじが動転してるのが見ていて楽しいあたり、まだまだ余裕があると我ながら口元のあたりにんまりとするガイアだった。無駄玉は撃たない主義だが、あえて駆逐艦めがけてMSの利き手に持たせた大口径のバズーカをうならせてやる。あいにくとハズレだったが、そのせいでそこにへばりついていた子分どもをまんまと引きはがせたようだった。

 わらわらと浮き出たMSらしき影が方々に散っていく……!

 その内のひとつがたちまち赤いバッテンマークが点ってディスプレイから消失する……!! 部下のおそらくはマッシュが自前のバズーカで手堅く仕留めたのだと察するガイアだ。MSの索敵能力が高いぶん、射撃性能もその腕もピカイチの狙撃手であった。

「はあん、あちらさんも火の車みたいだな? 今の丸っこいの、ありゃMSじゃねえだろう? くく、追いかけっこにもならねえかもしれねえな! 野郎ども、駆逐艦は引き受けてやるからまずはおまえらで雑魚を仕留めろ!!」

 予備弾倉には手を付けないと決めていざ敵の駆逐艦に狙いを定めてバーニアをふかす隊長機だ。まずは直線軌道で浅めのヒットアンドアウェイ! いっそのこと全体に揺さぶりをかけてやる腹づもりで轟然と迫る。

『だからぁ、何がどうしたって、言うんだよぉおおお!?』

 耳の奥にこだまするおやじの遠吠えには食い気味にがなる。

「いっぺん死ね!!!」


 何故かこの時、勝利を確信していたガイアであった。

Scene3

 PartA

 暗礁宙域を抜けた先はもはや敵陣で、敵は大型の巡洋艦に護衛の駆逐艦、それにおまけで補給艦らしきがくっついていた。

 非力な駆逐艦の寄せ集めというはじめの予想を大きく覆すものだが、そもそもでこの最初の予測がどこらへんから来たのかも怪しい今現在だ。これにより初手だけややしくじりはしたものの、無難に不利な戦況を挽回していく隊長機のガイア以下、黒い三連星のリック・ドム部隊であった。

 巡洋艦を背後に控えて単艦で突撃してきた駆逐艦のサラミスはいわゆる陽動部隊の囮とでも言ったところか?
 だがそんなものお茶の子さいさいで右へ左へと軽々と翻弄する隊長機のリック・ドムだ。
 機銃やビームによる対空砲火の弾幕をいともたやすく突破して敵艦のブリッジへと肉薄する!
 ほぼ同時、MSの右肩に担いだバズーカの照準を艦橋に合わせかけたところで激しい警告のブザーがヘルメットをつんざく。
 舌打ちして回避機動に転じていた。

「チッ、狙ってやがったのか? こすいマネをしやがる!」

 重力のない宇宙空間では上も下もないものだが、機体の機動力をいかんなく発揮して縦横無尽に飛び回るガイア機だ。
 後方でいやらしいビーム砲撃をかましてくる巡洋艦との間に駆逐艦を挟んでいるのがみそだった。相打ちを避ける都合、思ったようには砲火を集中させずにビームの弾幕をいなしている。
 さっきのはこちらがブリッジにアタックをかけるのを見越した上での待ち伏せ、狙い撃ちだったのだろうと合点。

 するとこの状況を今は暗礁宙域の向こう側でのんきに見ているだろう艦長代理の副官には、胸の内を図星で言い当てられてまた舌打ちした。


『おい、完全に狙われているんじゃないのか? そもそも連邦の戦艦は艦橋が複数あるんだから、ブリッジ潰しは必ずしも有効打とは言えないだろう。若干のあいだ機能を麻痺させるくらいで? だったらいっそのこと……!』

「チッ、メインのエンジン潰しちまったほうが早いってか? さっすが、シロートさまは考えることが単純明快でいらっしゃる。いいや、エンジン潰すのなら不意打ちでかつ安全な距離を取ってからだ! 至近じゃ即座に爆発炎上する艦の爆風と破片にこっちまで巻き込まれて誘爆するのが見え見えだからな? そこいらのMSやファイターと違ってただ墜とせばいいってものじゃないんだよ、図体でかい戦艦ってのは!」

『ほおぉ! ……そうなのでありますか、少佐?』

 ちょっと怯んだ顔でおまけ背後の艦隊長どのにお伺いを立てるのには、呆れてまたこの中指立ててしまうガイアだ。

「バーカ、そんなのは時と場合とそいつの考え方によりけりだ、絶対なんてねえ!」

 内心でぺろりと舌を出しながら周囲のディスプレイを見渡して今現在の状況を冷静に把握する。
 正面下側のサブディスプレイで目を白黒させているおやじと無意識に視線が合うが、そのせいかまたもやあわ食ったさまで画面の中の代理艦長、副官のドレンが声を荒げる。

『おい、少佐が首を傾げているぞ? いい加減なヤツめ! まあいい、とにかくそちらの状況、巡洋艦が1に駆逐艦、サラミスがおなじく1なんだな? あとは補給艦? 了解した! 援軍は今から送って間に合いそうか?』

 相手からしたらおおまじめでも、こちらからしたらよっぽどにとぼけた言いように再三で舌打ち返す隊長どのだ。

「けっ、今さら何を言ってやがる? とろいザクであの暗礁宙域を突破してこられるとでも?? もとより状況見て言えよ。これがそんなピンチに見えるってのか、てめえの節穴じゃあ???」

『み、ミスったのはそちらがうかつだったのもあるだろうが? 俺だけの責任じゃないはずだ!! ここから挽回する!!』

「ぬかしやがれ! てめえにゃはなから期待なんざしてねえよ」

 あっさりと言い捨てて相手の言い分はすっかり無視する。
 言い合いしててもらちがあかないし、優先すべきは他にいくらでもあった。現時点での戦況は、こちらが押せ押せで断然有利だ。結局MSどころか中途半端なボール型の改修型突撃砲台が五機だけで、マッシュとオルテガの両機によってあっさりと撃破。

 残すは目の前の駆逐艦だけ。

 これをきれいに片してから大ボスの巡洋艦なのだが、何かまだ忘れているのではないかと首を傾げたところで背後のマッシュ機から通信が入った。

「隊長! 奥の巡洋艦、まるで動かねえと思ったらどうやら陽動だったみたいだぞ? あいつ自体がこっちの気を引くための!」

「どういうことだ??」

 怪訝に聞き返すに、マッシュではなくサブモニターのおやじが声高に返してくれる。

『おや、補給艦はどこに行った? いたはずだよな!? まさか仲間の護衛を置いてさっさとそれだけ戦線を離脱したのか!!』

 モニターで確認したら、そこに確かに大きな巡洋艦の隣で地味に映ってたはずのそれらしき艦影がすっかり消え失せている。
 はじめ目を疑うガイアだ。

「なんだあ? 自衛もろくにできやしない補給艦だけでおめおめと逃げ出すなんざ、おいおい、積み荷はそんなに大事なものなのかよ?? 何を乗っけてやがる!? どうする?」

 思わずサブモニターの見知ったおやじに聞いてしまうに、小さな画面の中でしばしだけ逡巡したかのベテラン士官である。
 すぐにまじめな顔つきして返してくれた。

『無視していい! 今はそれどころじゃないだろう? 二手に分かれて追撃したところで燃料が保つまいだ。無駄な危険は犯さないに限る! おまえらが還って来れなければ意味がないんだ』

 その発言から優先順位が明らかに自分たちであることに自尊心が良い感じにくすぐられて自然と声のトーンが落ちるガイアだ。

「……ふうん、なら後で文句言うなよ? ま、このオレも言うほどにゃ興味はない。新型のMSって可能性、ゼロじゃないんだがよ?」

『そいつの中身が何であれ、連邦の木馬への到達自体は阻止したのだから目的は達成している。そこから転進して先行している敵艦に追いつくのは、今さらどのコース取りをしても不可能だろう? ならその新型は、どうぞよそでお披露目してもらおう!』

「あいよ。おかげでどこぞの誰かが結構な貧乏くじを引くことになるかもしれねえが、そんなのはそいつらの運だよな? オレたちが知ったこっちゃねえや……じゃ、オレは目の前のサラミスに専念させてもらうってことで!」


 大きな戦艦の残骸に一時だけ身を潜ませていたいかつい機体を素早く各部のバーニア噴かせて冷たい虚空に踊り出る。
 直後、駆逐艦の真上から攻めるかたちで、このメインブリッジを根元まで損壊させてやるべくバズーカ構えて急降下した。
 上も下もないのだが感覚的にはそういう感じになる。

 正面や側面から攻めるよりも真上は艦砲の守りが薄く、まばらな弾幕をすり抜けてあっさりとこの上面の屋根近くに降り立つドムである。それきり眉ひとつ動かさずに凄腕のMSパイロットはバズーカの引き金を引き絞るが、その半ばで不意に耳朶を打つ仲間の声に動揺が走る。舌打ちしてそこから機体を緊急離脱させていたのは死線を幾度もくぐり抜けてきた戦士の勘と反射神経だ。

「やばいぞっ、隊長! 回避だっ!! その駆逐艦ごとっ……!!」

「なっ、なんだとっ!!?」

「あっ、兄いぃっ!!」

 二番機から制止がかかる寸前、目の端でまばゆい光の閃光が幾筋も走るのは認めていた。てっきりじぶんめがけて放たれたビーム砲撃かと思ったが、それが思いも寄らぬところに集中してたちまち爆発炎上するのを両目をひんむいて凝視してしまう隊長だ。
 およそ言葉が出てこない。

「さ、サラミスを……!?」

 目の前で艦橋から胴体から激しく誘爆しながらすべてが炎に包まれ轟沈する敵艦。これにその場の全員が凍り付く。
 ヘルメットの中であわ食ったおやじの声が場違いに響いた。

『なんだっ、今のは、巡洋艦からのビーム砲? 同士討ちしたのか?? まさか、敵味方もろともに誘爆させて撃破しようってのか!?』

 それきり声が途絶えるのに、ゆっくり息を吐き出して応じるガイアだ。

「見ての通りだ……! ふざけやがって、ああ、だがおかげでちょっとだけ興味が出てきちまったな? そうとも、あの逃がしちまった船の中身ってヤツによ??」

 今となってはもはや手遅れなのだが、戦域からまんまと離脱していった敵の補給船の消えた行方を見つめてしまう。
 だが息つく間もなくさらなる状況の変化が警告音とともに巻き起こる。本番はこれからだった。

 二番機のマッシュが再度緊迫したセリフを発する。

「ガイア、MSが来るぞ! 反応三つ、ヤツら温存してやがったのか? しかも、待てよ……?」

「ああ、こっちでも感知してるぜ。おそらくはジムってヤツか? 今頃出してくるってあたり、さっきのサラミスはほんとに捨て駒だったんだな? 笑わせやがるぜ、万が一のチャンスを捨ててるあたり? ちゃちな雑魚の一個小隊ごときで、どうしてこのオレたち黒い三連星に抗えるって言うんだか……!」

「兄いの言う通りだぜ! でも兄い、のろっちいジムにしては、ちょっと早いみたいだぜ、この機動値演算からするには?」

『油断するなよ?』

「誰に言ってやがる? おい、マッシュ……!」

 顔つきむすりとして険しい隊長は戦況解析を随時にこなす二番機に目を向ける。すぐさま的確な返事が返ってきて納得しながら、今度は画面下のくたびれた二重あごに向けて聞いた。

「ああ、ジムには違わないが、こいつはこれまでのデータにない改良型だな! きっちりモニターしないと後々厄介なヤツだ」

「めんどくせえな? 他のヤツらにやらせろよ、じゃあどうする、ケツデカ、じゃなくて、ドレンの副官どの?」

『好きにしろよ? そちらの判断に任せる。なんだって現場優先だ! もちろん勝てるんだろ?』

「当たり前だろう? ちょっと機体をいじくったくらいのマイナーチェンジ機が、このオレ達専用にバージョンアップしたカスタム機にかなうはずがない。黙って見ていろ。それじゃあ野郎ども、今から最後の仕上げにかかるぞ!!」

「了解!!」

 大きな獲物を狩るべくした、三匹のどう猛なる番犬が暗い宇宙(そら)を縦横無尽にひた走る。

 小隊単独での敵戦艦二隻撃沈、MS多数撃破!
 
 黒い三連星の異名に花を添える暗礁宙域突貫の電撃作戦だ。
 期せずして連邦軍の逆襲計画のひとつを阻んだこともあり、以降、これが長きにわたり連邦軍の心胆寒からしめる伝説のひとつとなる
……!


 Part B

 本来は地上侵攻作戦が主たる目的で開発された機体のドムを、宇宙戦仕様に発展改良させたものがリック・ドムである。

 そしてそれをさらに大規模改修いっそのこと魔改造して機体各部の姿勢制御系バーニアや推力エンジンを極端に増設、かつ出力を大幅に上げた超高速高機動型のカスタムモデルが黒い三連星のガイアたちの専用機となる。

  通称、三つ星・エディションと呼ばれる、ごく限られたエース級向けのハイスペックモデル・シリーズだ。

 メインのエンジン出力や各部バーニアの配置数が上がれば上がるほど機体制御やパイロットに掛かる負荷が激しく困難なものになるのだが、乗り手の要求するままに人間の限界一杯まで機能を詰め込んだ機体は、もはや通常機よりも一回りも大型で異様に肥大化した見てくれとなっていた。

 そしてそのためか以後、彼等と同じ機体を使用したパイロットはおよそ皆無であったというほどに――。

 およそ常人では扱いがたい強化型MSを乗りこなすガイアにとり、連邦の量産型MS・ジムは可もなく不可もないまるで面白味のない凡庸な機体となる。ただし今回のものは宇宙戦特化型の改良機であるらしく、これまでの動きののたくらしたザクに毛が生えた程度のそれよりかは、ずっと機敏に稼働しているようだ。

 記憶にある通常仕様機と比べればだいぶ身体つきがゴツゴツとしたバーニアましましの高機動型は、自軍の新型と比較してもそれなりの評価ができた。バカみたいな加速と減速を繰り返してはそのクセ糸の切れた操り人形みたいな不自然な挙動が、ちょっと薄気味悪いなと見やりながらに小さく舌打ちが出る。

「……っ、ずいぶんとイカれた運動性能してやがるな? オレの09も大概だが、あいつらのもあれでわけがわからない機動力を無駄なくらいに発揮してるぞ? ちょっと狂気じみてるだろ、宇宙でダンスを踊ってるわけでもあるまいに全部のバーニアをフルで噴かしてやがる! およそMS運用のセオリー無視だ。パイロットは正気を保っているのかね? 自殺行為だろ!!」


 バズーカの狙いを付けるのがほとほと困難な乱雑不規則な機動に、接近戦を仕掛けると一定の距離を保ってこれを全力で回避。
 まさしく追いかけっこ状態だが、あちらからはこれと仕掛けてくるようなそぶりがなかった。
 ひたすら謎のにらみ合いだ。
 これまでのMS戦では経験がないイレギュラーな相手機の挙動と無機質な反応に、ついにはこれとまともに付き合うべきか迷いが出る隊長か。
 どうしたものかと考えあぐねるのに、よそから何の気もなしにしたようなおじさんがしれっと応じてくれる。
 対岸の火事さながらで、これまた思いも寄らないすっとぼけた返事にムッと眉をひそめるガイアだった。

『なあ、ならいっそ無人機だったりするんじゃないのか? 案外と? 敵艦から遠隔操作されるなり、コンピュータ制御で相手機を牽制するような挙動を機械的にするだけだとか! 事実、あちらからはいっかなに攻撃らしい攻撃をしてこないじゃないか?』

「はあっ? 何をバカな……! 何の意味があるんだ??」

 不審げに迷惑顔して聞き返すに、小型の画面の中の副官、ドレンは神妙な顔つきとなって返す。

『わからん! だが少し引っかかることがある。残る巡洋艦のやけに散漫な砲撃といい、新型と言っていいのかわからんそのジムの不可解な行動といい……!』

 ちょっと思案顔で一度は言いよどむ中年太りの士官は、やがてまっすぐな瞳で戦場のパイロットたちへと語りかける。

『だったら、三人とも聞いてくれ! これはあくまで推測だが、この俺が思うに……』

 戦闘はしばしの膠着状態に陥った。

 まるで攻め気のない消極的な敵MS部隊に、今となってはこれと戦う意義すら見いだしにくい敵巡洋艦と……!
 いっそのこと撤退命令を下してもいいくらいに思えるドレンだが、さすがにそれは百戦錬磨の猛者達が許すまいと言葉を呑む。

 暗礁宙域のこちら側、ムサイ級のブリッジで憮然と考え込む副官どのだ。特設の戦況解析ブースで各種ディスプレイに映されたリアルタイムの現況を見ながらひたすら思案に暮れる。
 すぐ隣で船の舵を取る青年の下士官が恐縮しながら伺ってくるのに冴えない表情で答える。


「あの、どうしましたか、中尉どの……?」

「いや、やっぱりつじつまが合わないと思ってな? おそらくは大尉たちがうまくやってくれるはずだが、俺たちは俺たちで飛んだ貧乏くじを引いちまったのかもしれない。はじめのサラミスのあたりで引っかかりはしたんだが……!」

 浮かないさまの口ぶりに、きょとんとした操舵士の内心の困惑ぶりを汲んでわかりやすく説明してやる上官だ。

「まず今ガイアたちが対しているMSはどれも無人機に違いがない。つかず離れずでへばりついてばかりで、三機ともがきっちり同じ挙動をしているんだからな? 有人ならそんな無意味なことにはならないさ。あと人が乗っていると仮定したら、ありえない加速機動と回避能力だ。人間なら対Gスーツが保たないだろう。黒い三連星が攻めあぐねるなんてあたりが特に!」

「は、はあっ……あ!」

 興味津々で上官の話を聞きながら、舵を取る手をそこそこにちょっと身を乗り出してディスプレイをのぞき見る若者だ。
 それで偶然に自軍のMSパイロットどのと目が合ってしまったらしく慌ててこの頭を引っ込めた。
 いかにも若いそぶりに苦笑いでもおおらかにドレンは応じる。モニターの中の不機嫌ヅラには目でまあまあと制しながら。

「そもそものところで言ってしまえば、はじめの駆逐艦もおそらくはただの無人艦だな! おまけでくっついていたボール型の戦闘艇もこれまた同じで。いくら何でもはばかられるだろう、乗員何百人もいる艦をたかがMSを撃破するために巻き添えだなんて? はじめからそのつもりの無人艦ならいざ知らずだ! いやはや俺、個人としてはそうであってほしい」

「はあっ……」

 上背のある若いもんが、無重力の艦内でポジションがあやふや、足が床についていなかった。はたと首を傾げて猫背気味に肩の落ちているその右の肩口、パンと叩いてドレンは笑う。

「もっと柔軟に考えろ! いざって時の臨機応変さがなければ艦の舵なんて取れないだろ? ちゃんと足を踏ん張って、あとちょくちょくこっちの戦略コンソールを気にしてるみたいだが、あんまりよそ見してるとどやされるぞ? 俺は何も言わないけど!」

 すっかり懇意にしている間柄の認識がある若者に屈託のない笑みを向ける気さくなおじさんだ。もうじき終わるから転進の準備をしておけとも言ってやる。

「ん、ほうら、おいでなすったぞ? 我らが黒い三連星の大立ち回りだ! 燃料タンクの容量はまだ余裕があるはずだから、転進したら最大戦速で飛ばしていい。どうせ追いついてくるだろ」

「りょ、了解……あ!」

 ちょっと困惑顔でいながらまたもや、目の前であっけらかんと破顔するおじさんの手元のディスプレイをのぞいてしまう。 
 すっかりのぞき見がクセになっている操舵士だが、まさしくその動きが出る瞬間であった。
 ダメだと言っているだろう?とドレンに尻をつねられて太い首をすくめさせる下士官くんだ。

「も、申し訳ありませんっ! あは、は……」

「気になるのは仕方ないよな? でもまあ気をつけてくれよ。バルダ曹長、おまえのことは信頼しているんだから……な!」

 傍から見ればただのじゃれ合いか?

 つかの間、お互いに苦い笑みで見合ってしまう。

 この時、画面の中でむすりとしたひげヅラのオヤジがヘルメットのバイザー越しに見ているのを、ふたりは気づけていたか?

 PartC

 戦闘はまさしく膠着状態。

 むなしく時間ばかりが過ぎていく……!

 ひどくイライラして暗く狭苦しいコクピットの中で荒い息つく隊長機のガイアだが、果たして理由はそれだけだったか?

「くそったれが、いい歳こいたくされデブが人前でイチャイチャなんかするんじゃねえよ!」

 思わず憎々しげな苦言を漏らして、それを不覚にも周りの同僚たちにも聞かれてしまう。

 二番機のマッシュからただちに入電!

「ん、どうした隊長? なんかさっきからイライラしてないか?? まあ気持ちはわからんでもないんだが……」

「兄い! おれもイライラするぜえっ、こいつらうぜえぇっ!!」

 すかさず左右の耳から入ってくるそれは気心知れた仲間たちのだが完全に的外れな返答には、ちょっと拍子抜けして怒っていた肩のあたりの力が抜けるガイアだ。
 言えば一蓮托生の戦友であると同時、わざわざシェアハウスしてまで寝食を共にするまさしく家族も同然の間柄なのだが、一個人としてのパーソナリティが深く関わるところについてはまるで共有ができていなかったりする。

 それで良かったのだろうが。


 人間的に欠けているところだらけのポンコツの寄り合い所帯なのだから、ぬるいなれ合いなんて望むべくもない。
 およそデリカシーだなんてものを持ち合わせていない性格粗野な弟分たちが、今となってはかわいくて仕方なかった。
 ありがたいと思いながらも、ちょっとだけひがみっぽく口元のヒゲがゆがむ。

「ふん、おまえらにはわかるまいが? 今のこのオレの複雑にしてデリケートな胸の内は? だがストレス感じてるのは確かだからさっさと解消しちまおう、ようし、一気に仕掛けるぞ! まずは敵MSを各個に撃破! 間髪置かずに敵巡洋艦にアタックをかける! いいか、一撃で沈めるぞ!!」

「了解!!」

 かけ声ひとつで一気に戦闘モードに突入する凄腕たちだ!
 だがあいにくとこの空気感が伝わらない遠くの母艦のブリッジで、おやじの副艦長どのがのほほんと茶々を入れてくれる。

『なるほど了解だ! だが各自、この俺が言ったことをちゃんと考慮しておいてくれよ? 油断は禁物、相手は捨て身だからな!  いざとなったらバックれちまって構いやしない!!』

「ぐぬ、ぬかしやがれ! ひとりだけ安全圏でぬくぬくイチャついてるヤツに言われたくはねえ!! さっさと片を付けたらきっちりとこの落とし前は付けてもらうぞっ!!?」

『お、おうっ? て、なんで怒っているんだ? あ、ひょっとして更年期ってヤツか、男の??』

「イチャつくってなんだ? あ、ガイア! タイミングちと早くありゃしないか??」

「えぇ? あのブリッジにそんなにイカしたおねーちゃんなんていたっけかい、ガイアの兄い?? おーい……!」

「かああっ、どうしてこのオレの周りはこんなにもデリカシーのないヤツらばっかりなんだっっ!!!」

 魂の叫び!

 すさまじい気迫だ。
 おかげで一気にブースターの出力を上げて高機動型ジムに詰め寄るガイアのリック・ドム!!
 ろくに反撃に転じるでもない相手機は無理な急加速の回避機動に機体を激しく震わせるが、何度もやられてとっくに動きを見切っていた隊長は歯をむき出して、さらなる急加速のGをおのが身に叩きつける!! 
 もはや逃がすまいとだ。

 機体制御がバカ丸出しの相手に飛び道具の照準を合わせるのは不可能だとわかっていたから、奥歯をかみしめて左手のマニピュレーション・レバーを力一杯に押し倒す!!
 虚空に突き上げられたMSの太い左腕が右肩に装備した長物の柄をガシリと掴んで、ただちに暗い夜空を一閃、ひと思いに力の限りなぎ払う!! 
 狙いはまさしく相手の胴体、こしゃくなジムのコクピットを一刀両断の勢いで機体の加速度もろともに叩きつけるガイアだ。

「逃がしゃしねえよ! どんなに逃げ足早かろうがこいつの長い射程から逃げられるヤツなんかいやしねえっ! ましてやこのタイミングではっ……!?」

 背中から抜き出してコンマ一秒後には全体が灼熱の赤熱色に染まるヒートブレードは、ドム自体の全高にも匹敵する長大な刃渡りで射程が長いのが一番の強みだ。
 ビームサーベル相手でもある程度ならチャンバラ可能だし、エネルギー効率を考えたらこれに勝るものはないとドム使いなら決して譲らない。

 狙い通りに敵モビルスーツの胴体を捉えた灼熱の熱棒はそのまま機体を紙切れみたいに寸断する、まさにその瞬間、ガイアのヘルメットの中で今や誰よりも聞き慣れたおやじの声が弾けた!

『ダメだっ! 離れろ!! ガイアっ、緊急回避っっ!!!』

 コクピットに鳴り響く警告音、明滅するモニター群、仲間達の叫び声、機体がきしむ摩擦音、敵MSの影がコクピットを飲み込む瞬間の息を呑むような静寂、直後のつんざくような警告音!!

 目をひんむいて左右に握ったレバーを殴り倒し、足下のブーストペダルを親の仇くらいに思い切りに蹴り上げた!!
 頭に来るおやじの怒鳴り声から瞬く間の出来事だ。
 緊急離脱によるGで身体から血の気が失せるが、意識を飛ばすことなく浮いた身体をコクピットシートに尻から叩きつける。

「なあっ……くそったれめ!!」

 横なぎの胴切りでそのコクピットごと真っ二つになる寸前、いきなりドムのボディにしがみついてきた敵のジムだ。
 背後の巡洋艦から光りが瞬くのを見るよりも早くに全身を貫く稲妻のごとき危機感から、反射的にブレードの振りかぶりを相手の胴からこの腕を断つモーションに切り替え切断! 
 同時に太い足で相手のボディを蹴り上げ、その反動ごと機体を急速旋回させて敵艦の射線上から離脱、考える間もなく真上に向けて急上昇していた。

「……!」

 足下で豆粒ほどになったジムが巡洋艦のビームの餌食となって爆発炎上するのをマジマジと見つめるガイアだ。

 無性に腹が立つ。

 何がって、憎いあんちきしょうが言ったまんまのありさまにまんまと翻弄されてる自分がだ。
 するとちょっと冷めた調子でその当人が補足するかに語ってくれるのを、苦い表情で聞いていた。
 ちょっと歯ぎしりしてしまう。

 ぬううっ……!!

『ほうら、言ったとおりだろ? やっぱり自爆覚悟の無人型MSだって……! ちょっと危うかったんじゃないのか、大尉? ともあれでネタが割れたらやることはひとつだよな! 親玉のマゼラン(巡洋艦)は自爆もありうるから気をつけてくれよ?』

「ふん、偉そうに……! マッシュ、オルテガ、残りは適当に相手をしてやれ! トドメはオレが刺してくれる。おおらっ!!」 

 一気に背中のブースターを噴かして敵巡洋艦のブリッジの真上にまでつけるガイアのリック・ドムだ。
 こんなに至近距離に詰めているのにまるで反応がない。
 これに目の前の巨大な鉄の棺桶が無人の空っぽであることを実感する。ふざけた話だと苦虫噛みつぶしたような表情でギリッと奥歯を噛む隊長である。

「けっ、無駄弾は撃ちたくねえな? このまま勝手に自爆するって言うんなら? いや、撃たないと撃沈にはならねえのか? さっきのジム、あれって撃墜扱いでいいんだよな? おいっ……」

 不機嫌にヘルメットの中でうそぶくのに、遠いブリッジからはどこか呆れたようなおやじの声が返る。

『まあ、そういうことでいいんじゃないのか? こっちでもモニターできてるし、他にいないんだし、実際にくたばっているんだし? 無人機でもな。サラミスもしかりで? あと、自爆モードはそいつの場合は他のヤツらも近づかないとおそらく発動しないぞ? ジムが全機大破して、さあいよいよってことにでもならない限りには??』

「ちっ! てめえで言っておいて、おまえが思う限りでだろ? ほんとにふざけた話だな! こいつめ、ひょっとしたらただの囮で、本隊は他にいたりするんじゃないのか? よもやあの補給艦も無人だなんて言いやすまいな……!」

 苦々しげなセリフに、あちらからはしごく落ち着いた説明台詞がなされる。

『いや、むしろあっちこそが本命だろ! まんまとしてやられた。よくて引き分けか? あれ自身はおそらくは補給艦に偽装した高速輸送艇あたりだ。積み荷はあえて言うまい! 今さらだものな?』

「ふんっ……! 予備弾倉には手を付けないつもりだったんだが、あえてくれてやるよ。メインのブリッジつぶせば無人機も止まるんだろう、自爆するのか? おめえら気をつけとけよ」

 今も無人機とやり合っている部下たちが元気な返事をくれるのを聞き流しながら、どうにもつまらない心持ちで右肩のバズの弾倉を交換して目の前に狙いを定める。
 あるのは敵艦のメインブリッジの言うなれば平たい屋根だが、もう考えもなしにただ引き金を引いていた。

 ドゴォンッ!!

 至近距離で艦橋が大破、距離をさらに置いて、二発目、三発目をお見舞いする。
 かくして全弾ぶっぱなす前に炎と煙に飲まれてゆく大型戦艦の最期を看取ってやるのだ。

 結果を見れば、ガイアたち黒い三連星の圧勝。

 だが――。

 静まり返るコクピットで、なぜだか異様にむなしかった。

 もとい理由はなんとなく思い当たるのだが、MS撃破と勝利に沸く仲間達の歓声を遠くに聴きながらひとりだけ深いため息なんかつく隊長だ。

「なんか、納得がいかねえ……なんだこれ?」

 白けたまなざしを目の前に向けるにつけ、そこのディスプレイの一角に映り込んだ母艦のブリッジのさまにしごく納得がいく。

「仲良さそうだな? やけによ、へぇ、そいつはまた……」

 言われた相手はカメラの画角から外れた誰かと目を見合わせて、こちらにきょとんとした顔を向けてくる。

『は? 何を言っているんだ?? まあとりあえず無事、ミッションクリアだ! 各機速やかに帰投してくれ。気をつけてな?』

「……そうだな。わかった。帰ってから話しをつけよう」

『は? さっきから何を言っているんだ??』

 気がつけばすっかりと意気消沈。
 傍から見れば謎のローテンションだった。
 もはやろくな言葉もない隊長機は、二番機、三番機を残してさっさと戦域を離脱する。
 来た時同様、暗礁宙域のど真ん中をぶち抜く直線コースだ。
 はじめ怪訝にそのさまを見つめるドレンだが、何かイヤな予感めいたものを感じて横の操舵士に即座の転進と、最大戦速での現宙域からの離脱を命じていた。

 背後から追ってくるドムの小隊に、なぜだか異様な寒気を感じていたのだから――。


 
 

ドレンとガイア ④


Scene1


 敵・連邦部隊との戦闘を終えたガイア率いるリック・ドム小隊は、通常なら航行困難な暗礁宙域を再び渡って母艦であるこのムサイ級巡洋艦の元へと、全機が問題もなく無事に還ってきた。

 いやはやさすがだな! まことにめでたい!!

 ただしこの着艦に当たって、隊長機がちょっとゴネついたらしいのだが? その理由を聞くにあたり、あいつらしいっちゃあ、いかにもあいつらしいものだったから、ブリッジからこの様子を見に来たこの俺、艦隊副長のドレンである。
 
 ま、もともと発艦していった宙域でこれを待つこともなく、さっさと艦隊進ませちまったからな! おまけに最大戦速で!!

 ベテランの凄腕パイロットばかりなのだからそうそう問題はないはずだが、怒るヤツは怒るし、あいつは当然、怒る。

「……というか、元から怒ってたよな?」

 内心で首を傾げながら艦の一番上に位置するメインブリッジから、艦底のMSデッキまで直通の艦内中央通路(通称・トンネル)を降りた先で、気圧差緩衝ブロック手前の扉の前に付ける。

 ここから先のMSデッキはいわゆる空気のない真空状態で、艦外の宇宙空間と直結していることも多いことから、デッキの内部が酸素を含んだ清浄な空気と正常な気圧に満たされるまでの安全が確保されないと進入ができない。

 ちなみ、そういった危険性を考慮して、この長い一本通路のトンネルを渡る時はノーマルスーツの着用が推奨されるのだが、あいにくとそういった面倒ごとが根っからイヤなおじさんである。
 はっは、この俺が熱烈に推してる少佐なんかは、このMS搭乗時にだってパイロットスーツなんか着てやしないんだから!

 ま、自己責任だな。

 ともあれこの内側の状況をリアルタイムで示す表示ディスプレイを見るには……? そこが安全圏にあることを示す、緑色が点ったパネルの状態表示をじっと見つめてその内容を読み取る。

「お、メインデッキは正常値クリアしてるんだな? 二番機と三番機はもう着艦済みと! そういやさっきそれっぽいパイロットスーツとすれ違ったような? あいつら、無視しやがって……! ガイアの一番機は今、入ってきたところか? ふうむ、あいつめ、あんな横暴そうな顔と態度で、こういうところはやけに部下想いなんだよな……」

 さっさとMSの収容を終わらせて仲間たちを休ませてやりたいという親心ならぬ隊長心なのかもしれないが、これにあたりちょっと頭の隅に引っかかるところがあるこの副艦長さまではある。

「あん、あいつら、やけに早くに自室に引き上げていったが、帰投後のメディカルチェック受けてないんじゃないのか? それで前もめてたよな??」

 手近に艦内放送のブースがあれば大声でがなってやるところだが、あいにくとそんなものはないし、目の前のゴツい気密扉が開いてしまう。そうだ、この先でちょっと減圧するんだったか? 
 めんどくさいからとっとと済ませてデッキに入ることにする。

 緩衝ブロックを抜けてMSデッキに出ると、そこはやたらとやかましい騒音と機械油のニオイに満たされていた。

 そうか、今は空気があるからちゃんと音が伝わるんだな!

 でないとこの俺も窒息死してしまうのだが、左右のハンガーに二番と三番のドムが収容されて、ちょうど真正面の真ん中のハンガーに隊長であるガイアの一番機が機体収容を完了したところらしい。仰向けの状態で機体各部をがっちりと固定されている。
 これからメカニックスタッフたちによる点検整備だ。
 おそらくは前準備なのか、ノーマルスーツ姿のメカニックマンたちがちょっと遠巻きに機体を眺めているな。
 各種の機体情報と戦闘データの収集もしているのだろう。

 ようし、良いタイミングだ。

 そう思っていたら、これまたいいタイミングでMSのコクピットのハッチが開かれる。分厚い装甲隔壁の内部からひょっこりと黒い専用のパイロットスーツに身を固めた主が顔を出すのだ


 お、ガイアだな……!

 ヘルメットを被っているから素顔が見えないが、三人の中ではやや小柄な小太りの野郎体型がそれだとわかる。

 ここからじゃまだ声が届かないなと左右を気にしながら、このまま向こうまで行ってしまっていいものかと考えあぐねる。

 部外者が出すぎたマネは危ないし迷惑だものな?

 が、この時、この俺よりも一足先にそのリック・ドムに向けて無重力のドック内を浮遊しながら泳いで渡る人影があった。
 デッキクルー用の簡易型ノーマルスーツを着たMSのメカニックマンだとひと目で見分けが付く。薄い緑色の生地に蛍光色の補強ラインが走る、独特な見てくれだからな。

「ん……! あんなヤツ、いたっけか?」

 そいつは空気があるからメットもなしでその素顔をまんまさらしていて、見た感じ、大柄なデブの若い兄ちゃんみたいだ。

 そう、おそらくは新人だな?

 遠目にもかなり個性的な顔立ちをしているが、もとよりイケメンである必要もない。顔つきのいかめしいひげヅラのおやじには打ってつけだ。ここからでは何を言っているのかわからないが、どうやら満面の笑みでみずからが担当するMSのパイロットであるガイアにねぎらいの言葉をかけているようだ。しきりと。
 まだそんなにさまになってない敬礼をひたすらに送っている。

 あれ、なんか、なつかれてたりするのか? 若いヤツに意外にも?? 人望あんのか、あんなんで!!

 傍から目を白黒させてそのさまを見てしまう俺だった。

 周囲のクルーの動きを見ながら、こちらも慎重に無重力のデッキ内を浮遊して泳いで渡る。

 そうれっ……と!

 だがおじさんの宇宙遊泳は傍目にはかなり滑稽なんだよな?
 仕方ない。
 それでいざ近づくと思ったよりもこの周囲が熱い熱気で満たされているのに、慌ててコース取りを変更した。

 あっち! まずい、ロケットエンジンやバーニアが集中している足下側じゃなくて、さっきの若いのが近づいて行ったみたいなメインカメラの頭上やコクピットと同一線上の脇腹あたりから攻めないとダメなのか! たく、あいつらバーニア無駄に噴かしすぎてやすまいな?

 パイロットとメンテナンスを真上から見る状態でしばしデッキに浮遊してしまう副艦長だ。みんな声を掛けずらいみたいだな。

「ようし、今度こそ……」

 整備用に張り巡らされたラインやら何やらを取っかかりにすっかり肥満気味の身体を真下に向けて固定、どのくらいの力加減で飛び立てば無難に目的地までたどりつけるか算段する。
 お山の大将と整備士くんの会話が気になるので耳をそばだてながら、タイミングを見計らった。
 さっきよりは近づいたからそれなり聞こえるのだが、やはりまだ若い新人のメカニックみたいだな?
 たどたどしい会話にちょっと好感が持てるおじさんだ。

「あっ、あのっ、あのあの、聞こえるでありましょうか? 大尉どのっ! たっ、大尉どのっ、あの~~~、あのであります、ガッ、ガイアっ、あの、おつかれさまでありますっ!! 無事のご帰還何よりでありますっ、聞こえてないのでありましょうかっ? だっ、だったら、大好きでありますっ、昔から大ファンでありますっ! 黒い三連星、めちゃくちゃカッコイイでありますっ!!!」

 ちょっと耳を疑う俺だった。

 コイツ、なに言ってるんだ?? 

 たぶん相手が聞こえてないのだろうから最後のあたりはぶっちゃけているのだろうが、あいにく背後で聞いてるヤツがいる。
 まあこのぶんなら周りにも触れ回ってみんな周知のことなんだろうが。でもそのクセ本人には伝えてないのか?
 ということは……。

「あいつも隠れて推し活してるのか! めちゃくちゃ不器用だな! というか、メカニックにそんなヤツがいるの、めちゃくちゃパイロット冥利につきるんじゃないのか? 打ってつけすぎる!!」

 感心を通り越してもはや感動すらおぼえる同じ推し活の同士のおじさんが見ている前で、健気な新人メンテナンスの若者は推しの凄腕パイロットの間近にまで迫った。

 胸の内バクバクなんだろうな? いやいや、顔が真っ赤だろう! なんでそんな老害みたない中年パイロットに?

 見ているこっちまでハラハラするが、果たして周りの気配にやっと気がついたらしい当の推し、もといリック・ドムの使い手のパイロットスーツは、おもむろにこのメットのバイザーを上げてその素顔をさらす。じぶんを真上から見下ろしている熱烈なファンに、じろりと冷めた視線を向けた。でぶちんくんの身体がびくっと硬直するのが後ろで見ていてわかったが、すぐにも脱力するのがこれもまたはっきりとわかった。かわいそうに。

「んっ、なんだ、またおまえか? いちいち出迎えになんて来なくていいと言っただろう! 仕事をしろ、おまえの仕事はコイツの面倒を見ることなんだから。違うか?」

「もっ、もちろんそのつもりでありますっ! でで、ですが、大尉どのの調子とご意見を伺うのも大事な仕事でありますっ! お心遣いありがとうございます!! とにかくご無事でなによりでありますっ、じぶんは、その、とても光栄でありましてっ、泣きそうでありますっ!!」

「は、何がだ? おまえ変なヤツだよな? まだ若いくせに腕はいいから文句はないが、もうちょっと肩の力抜いたらどうだ? 緊張しすぎなんだよ、見ていてこっちが疲れる! あとおまえ、名前なんつったっけ? デイビッド? 覚えてやるから」

 名前もまだろくに覚えてもらえてないのか。
 がっくりと落ちる肩に、もっとがんばれと念を送りながらこの推し活おじさんもただちに援護射撃に撃って出た。
 余計なお世話にならないように気をつけながら。

「ガイア大尉! おつとめご苦労!! また戦果を上げたな? 三人そろって老後は安泰だ。うらやましい限りだよ! よう、おまえもありがとうな! はは、俺にも名前、聞かせてくれないか?」

「なんだ、横からいきなり? ブリッジの人間がこんなところに我が物顔で出しゃばって来るんじゃねえよ、あとよくも置いて行きやがったな! おまえにはいろいろと話があるんだっ……」

「わかった! 後で聞く。それよりも今は取り込んでいるんだろう? な?」

 はいはいと肩をすくめさせながらニヤけた視線を緊張した面持ちで固まる若手のメカニックに向けると、なおさら緊張した不細工くんは無理に直立した姿勢を取って律儀な敬礼を返してきた。
 けっこうけっこう! これは俄然応援してやれるぞ。

 やることなすこと初初しいメカニックスーツの青年は、ちょっとうわずった調子で声を張り上げる。よっ、青春!

「はっ、は! お気遣いありがとございますっ!! じ、じぶんはっ、でい、デーミスと、いいますっ、MS09およびMS15系限定のメンテナンス技術兵としてこちらに配属されました! まだ若輩者ながら、どうかご指導よろしくお願いします!!」

「ほお、そうか。デーミスだな。やけに若いと思ったら、ドムとゲルググあたりに限定って、そりゃ仕方ないよな! こんな最前線のとっちらかった現場に放り込まれちまうのも? まあ本人的には、願ったり叶ったりなんだろうが……おほん!」

「デーミスか、とりあえず覚えてはやるよ。ザクは見れねえのか? 使い勝手が悪いヤツだな! 一番汎用性が高い機体なのに、現場なら基本中の基本だろうさ」

「は、はあっ、じぶんはその、大尉どのの大ファン、あ! じゃなくて、ドムのような独特かつ重厚な機体が好みでして、おまけにこのガタイですので、おまえはあっちのいかついのやれっ! てよく周りからも言われてしまいまして……!」

「おまえ、バカなのか?」

「おほん! 昨今は人員から何から逼迫(ひっぱく)していて、現場に早急に人手を送り出すためにはもはや仕方がないんだよ。新型機が出回っても現場がそれに付いていけなくちゃどうにもだろう? このデーミスみたいな即戦力は必要不可欠なんだ、おまえもちゃんとファンサ……じゃなくて、世話してやれよ。こんな有能な味方、そうはいないぞ?」

「何を言っているんだよ? おい新人、そういやおまえが言っていたこと、それなりには役に立ったぞ? 上から下までフル装備じゃなくて獲物をしぼって機体をスリムにしたほうが、障害物だらけの暗礁宙域を突破するには適当だろうっての、いざやったらみんな納得だ。ありがとうよ」

「そ、そんな、もったいないお言葉! はっ、めちゃくちゃ感動であります!!」

「俺だってそのくらい言うぞ? ちゃんとデーミスって呼んでやれ。バカは誰なんだか……! まあいい、話の前にやることやっておこう。忙しいところ悪いが、おまえも手伝ってくれないか? まずはこの大尉どのを医務室に連れて行く! 任務終了後のメディカルチェックはパイロットの義務なんだからな? ようし、暴れられたらあぶないからおまえもそっちから抑えてくれ、この素行不良のエースさまを!」

「なんでそうなる? 必要ない、オレはピンピンしてる。時間の無駄だろう、おいっ、なんだ!」

 ファンサービスがからきしできやしない有名パイロットを脇から抑えて、もう一方の脇を押さえろとデーミスにうながす。
 はじめ目を白黒させてたじろぐオタクの青年は、なおさらその顔を真っ赤にさせて、大きな深呼吸して覚悟を決めたのか?
 みずからの緑のノーマルスーツを黒いパイロットスーツへとぐぐっと強く押しつけた。しっかりと推しを確保だ。

 よしよし、しっかり感触を覚えておくんだぞ、なんなら頬ずりしたっていい! セクハラなんて言わせやしないさ。
 当人、わざわざヘルメットを脱いで来たってことは、それだけ身近にこのおっさん兵士の息づかいを感じたかったんだろう。
 健気で献身的なガチのファンだ。いくらだってやりがい搾取できるぞ? いや、させやしないが。本人も無自覚だからな!

「し、失礼いたします、ガイア大尉どの! わあ、思ったより小柄だけど筋肉質であります! さすがであります!! ジーク・ジオンでありますっ! めちゃくちゃ感動でありますっ!!」

 感情が爆発しているらしい。
 今や全身身震いさせて黒い猛獣にしがみつく怖い物知らずの若造に、ただごとでない親近感がわくおじさんだった。

「おまえ、ほんとうにバカなんだな! いや、いいことだ。上官としてとてもありがたい! 負ける気がしないからな! その調子でこれからも黒い三連星のバックアップは任せるぞ、もっとしっかり掴まないと逃げられる! 羽交い締めにしてやれ!!」

「りょ、了解! し、幸せでありますっ!!」

「な、何をしやがるっ、こら、離せっ! おい若造、調子に乗るなよ、このオレは黒い三連星のガイアだぞ!?」

「だからだよ! いいファンがついて鬼に金棒だろう? 連邦の白いヤツとの再戦も間近かもしれないが、少佐以外にも勝ちが見えてきたのかもしれないな! けっこうけっこう!!」

 作戦終わったばかりなのに元気に暴れる隊長を二人がかりで医務室まで送り届けて、無事に今回の強襲作戦を終わらせた艦隊副長の俺であった。かくして推しは違えどおなじ推し活の友を得て、殺伐とした戦場にある種の潤いを感じられたよい一日だ。

 ああ、まことにめでたい! まさしく推し活万歳だな!!

 最後にブリッジに戻ったら、艦内の戦闘態勢を解除していなかったことを推しの少佐にやんわり指摘されて、あえなくこの顔が真っ赤になるおじさんである。うわ……!
 ほんとにバカばっかりだ。
 合掌――


 Scene2

  Part A

 
 俺の名は、ドレン。

 赤い彗星こと、シャア・アズナブル少佐が率いるムサイ艦隊の副艦長を務めている。階級は中尉。忙しい軍務を日々こなしながら、影ながら推しである少佐の『推し活』に励んでいる男だ。

「ふううっ、なんだか今日は、一日ずっと散々だった気がするな? 気のせいか??」

 最初から最後までドタバタ続きだった連邦の別働部隊への強襲作戦がどうにか無事に終わり、今は艦内の自室にこもって明日への鋭気を養う中年太りのおじさんである。
 そう。戦局は厳しく、連邦のように物資や人員に恵まれてもいない我らジオン公国の巡洋艦では、交代制もへったくれもない。
 休めるときにしっかりと休んでおかないとな!
 戦士にも休息は必要だ。

 立場的には、ムサイ級が三隻からなる艦隊の中でも上から数えて二番目となるあたり、艦内での居室はそれなりの広さのものが与えられていた。ありがたいことに。
 
 ごく一般の兵卒ならば、それこそ個室ではなく棺桶みたいなかろうじて身動きが取れるくらいの、ごくごく狭小なプライベートスペースしか確保ができない。
 パイロットなど一部の士官クラスでもなければ、個室など望むべくもないのだ。現にブリッジ・クルーの中でも専用の個室付きは、この俺と艦隊総司令の少佐ぐらいなものだろうか。

 ちなみにパイロットなら、確か隊長のガイアが個室で、マッシュとオルテガはふたりで一つだったはずだ。仕方ない。

 巡洋艦の胴体主部の左舷と右舷のふたつに分かれた居住ブロックには、いざという時に艦の運営に支障を来さないよう、各人員とそれぞれの居室がバランス良く分けられていた。
 この俺、副艦長のドレンが左舷の個室ならば、反対の右舷のブロックには、総司令である少佐の艦長室が配置される。
 パイロットもまた同様で、ガイアが左舷にいれば、その手下、もとい部下達のマッシュとオルテガの居室が右舷みたいな感じでだな? その他のクルーたちもやはり偏りがないようにそれぞれがばらけて乗艦していた。

「…………」

 部屋の照明を落とした中で、何をするでもなくぼうっと天井を見つめていた俺だ。
 まんじりともせぬまま、今回の戦闘におけるガイアのリック・ドム小隊の主にMS戦に対する戦術レポートを枕元の小型ディスプレイに映して、それをぼんやり眺めたりもする。

 機体の戦闘記録レコーダから情報収集したものを戦術AIが独自に解析したものだな。だがすぐにディスプレイを消して無重力にこの身を投げ出した。重力がないから形ばかりのベッドなど意味をなさない。太い固定ベルトでこの肥満体をがっちり押さえ込まないと安定して安眠できないのだが、いざという時にすぐさま飛び起きれなくなるから、個人的にはあまり使いたくはなかった。

 結果として狭小なカプセル型の寝室をそれぞれに与えられる一般兵たちと同様に、対衝撃吸収軟性樹脂でボコボコと固められたこの部屋の角っこで、なおかつこの体勢を固定できるネット型の寝袋を利用するのが大半だった。

「ふあっ……! そろそろ寝るか……ん?」

 他にやることが思い浮かばないのでさっさと寝ようかと思ったその矢先に、部屋に来客があることを示す、チャイムが鳴った。

 誰だ? 今ごろ?

 頭の中では特定の人物の顔が思い浮かんでいた俺だが、ドア横の小型ディスプレイに映るその顔にやはりと納得する。

 ある程度の予測はしていたからな?

 それだからドア越しろくなやりとりもなしに無言で部屋のドアを開ける俺である。無重力の艦内ではこのすぐ目の前に頭が来る、やや小太りで小柄で、おまけむすりとした無愛想な中年男と無言でしばし見つめ合って、その首から下を見てはちょっとだけ意外そうに目を丸くする。

「珍しいな? パイロットスーツ以外の姿だなんて? おまえもそんな制服、持っていたのか……!」

 いつもは見慣れたMS用のカッチリとした専用の黒いパイロットスーツか、いっそのことプライベートの私服ぐらいしか見たことがないので、通常のジオン軍兵士の制服を着た黒い三連星の図はかなりのレアものだろう。

 だがすると浮かない顔で今にも唾棄でもしそうな不機嫌なさま(何でだよ??)の当人、ガイアはうそぶく。

「ふん、どうでもいいだろう? おかげさまでメディカルチェックの時に(パイロット)スーツはクリーニングに取り上げられた。わざわざ私服なんざ持ち込まないから、あいにくこれしかない」

「それはいいんだが、おまえも上級の士官なんだから、胸飾りくらいは付けたらどうなんだよ。それじゃ平の一兵卒じゃないか? めちゃくちゃ違和感があるぞ……ん、というか、なんだ、おまえ?」

 改めてそのひげヅラの顔を見やるにつけ、そこにまたこれまでとは違ったある種の違和感を感じて、しげしげとこの不機嫌ヅラに見入る俺だ。めんどくさそうにこの視線を外すガイアは、なおのこと不機嫌に口元をゆがめる。

「別に、なんでもありやしない……!」

 ……こいつ、今ごろ思春期か? 

 まるで素直でない不良のパイロットにいささか嫌気がさして、これに対する副艦長は声にもはっきりとそれが出ていた。

「その顔だよ! ケガしてるだろう、まさかケンカしたのか? おいおい、こんな御時勢にMSパイロットの顔面に一発当てるだなんてとんだイカれた野郎だな? 問題だろう、まさか仲間割れだなんていいやすまいな?」

 あいにく気遣うよりも咎めるみたいな物言いに、やれやれと肩をすくめるヒゲおやじは開き直って茶化してくれる。
 ほんとに素直じゃないな。

「心配するな、ちゃんと倍にして返してやった。この俺の圧勝で一人勝ちだ……!」

「そういう問題じゃないんだよ! 艦を預かるこの身としては、乗員の士気が乱れるような騒ぎや勝手は放っておけないっ、いくらじぶんが凄腕のパイロットだからって……」

 ドアの手前に立ちふさがって通せんぼしたまま、思わずきつく睨み付ける。するとこの俺の視線にむっつりしたへの字口のおやじはどこかそっぽを向いて、やがてめんどくさそうに言った。

「ああそうか、だがあいにく問題を起こしたのはオレじゃねえ。そう、たまたま運悪く見かけちまったからな……!」

「??」

 こいつにしては何やら意味深なもったいつけた口ぶりだ。
 不可思議に見る俺に、口元のあたりに明らかに打撲の痕跡があるけんかっ早いドムのパイロットめは続ける。

「デーミスの野郎がな……」

「デーミス? あの新人のメカニックくんか? いやいや、そんな問題を起こすようにはちっとも見えなかったぞ?」

 やはりいぶかしく聞き返すのに、気分が悪そうにして誰かしらに殴られたのだろう青黒く変色した右の口端をみずからの手の甲でぬぐうガイアは、ついには反吐を吐くかの口ぶりだ。

「けっ……なあ、覚えているか、あいつはあの時、スーツのメットを被っていなかっただろう? なんでだと思う??」

「なんでって……? そりゃ、デッキにはもう空気(酸素)が満たされていたし、ならこの俺と一緒だろう? メットとか被ってるとどうしても視界が狭くなるからな!」

 そのくらいしか理由が思い浮かばない俺は、なおのこときょとんとして目の前の凄腕パイロットを見返してしまう。
 いざって時には生命をつなぐ命綱だからそれは大事なものだが、戦闘態勢全解除の通常運航状態ならなくとも問題はない。
 なくしただなんて間抜けでもないことには。
 だがそれ以外にも別の可能性があることを次の言葉で知らされて、ただちにぎょっとなる俺だ。

 それはおよそ最悪のヤツにだな!

「あいつの首から下は、アザだらけだ……! 知っていたか?」

「なっ! そんな、それっておまえ、まさか……!!」

 いざという時に生命維持する上で必要不可欠なメットを持たない、その理由がよもや世の中において軍隊ならずともどこにでもはびこる人間の悪癖や性が原因なのだと理解して、身体中がカッと熱くなる。いやいや……!
 およそ許しがたい暴挙だ。
 あんな無垢な推し活青年に、陰湿かつ悪辣な暴力や嫌がらせだなんて、パイロットならずとも殺意を抱いてしまうだろう。

 あれ、殺してないよな??

 果たしてその現場をたまたま目撃してしまい、ほぼ反射的にみずからの拳を振り上げた熱血漢のMSパイロットだった。
 これにつき責めるような二の句が継げないこの俺は、周りの目を気にして部屋の中に入るようにこのMS隊長を促した。
 やむにやまれず内緒話だ。
 こうやって内々に処理しようとするのが愚かな悪習を絶てない理由なのかもしれないが、ことを荒立てるのも決してクレバーではない。
 あのまだ若く未来のあるメンテナンスの性格や立場を考えたら、なおさらだな……!

 正直、やったヤツらのことは許せないが、それよりも顔つきが ブサイクだがつぶらな瞳にきれいな輝きを宿した好青年のことが気にかかって仕方がないブサメンおじさんだった。
 まだ殺気がこの顔つきに色濃く残るガイアが言う。
 だいぶ本気で殴ったのだろう。
 おそらくは複数を?
 
「あいつはとりあえずオレの部屋に閉じ込めてかくまっている。メンタルやられちまってるようだが、まあ大丈夫だろう。メディカルチェックは受けさせるが、軍医のおやじには口止めしておいたほうが良さそうだな……」

「それは任せてくれていい。あいつは無事なんだな? だったら……」

 どうしたものかと暗澹たる思いに駆られる俺だが、折しもそこでまた新たな来客を知らせるチャイムが鳴るのだ。

 ほんとに誰だよ、こんな時間に?

 怪訝に思ってまたドアのインターホンのカメラを覗く俺は、ガイアへと視線を向ける。

「お客さんだ。ただしおまえさんへのだな? ほら!」

 ドアを開けると、そこには二人のドムのパイロットたちがいた。つまりはこの隊長の部下の、マッシュとオルテガだな!
 なんでここにいるがわかったのやら。

 加えてどちらも非番のくせにがっちがちのパイロットスーツに身を固めてるってあたりがやる気満々なのを教えてくれるが、ケンカ上等はもはや隊長譲りなのか?
 艦を降りたらルームシェアまでしてる一蓮托生の同士のアザありの顔面を見るなり、ますます殺気だって意気込む野郎どもだ。

「おい隊長、話は聞いたぜ? まったくこの黒い三連星に戦いを挑むだなんてどんな世間知らずの馬鹿野郎どもなんだ! こいつはきっちりとカタを付けてやらなくちゃな!!」

「ガイアの兄い、水くせえぜ! やるなら声をかけてくれよっ、今からだってこのおれがぶちのめしてやるからよぉ!!」

 力の加減がわかってるのなら構わないが、そうでないなら遠慮願いたい。見るからに堅気でない素顔をさらしたヤクザ崩れのパイロットたちは今にも殴り込みに行きかねない語気の荒さだが、冷めた口調のリーダー格に軽くいなされた。それでいい。

「悪いがもう終わった。ケリは付いている。わざわざ向こうのブロックから来やがったのか? 寝てりゃいいものを……」

 内心は嬉しいくせにそんなものをおくびにも出さないシャイなヒゲおやじは、ちょっと考えたそぶりをしてまた言い直した。

「悪いな、兄弟たち、でもだったらこのオレの部屋に行って、あいつを見てやってくれないか? デーミスのことを……若いが頼りになるメカニックだ。09のことを良く熟知してくれてやがる。わかるだろう?」

 お、ちゃんと名前を覚えているんだな?

 やっぱり面倒見のいい隊長さんは、言うなれば四番目の隊員とでも位置づけているのだろう若手の整備士を二番手と三番手の仲間たちに託す。
 いい判断だな。あいつのことを自室に隔離したことといい。

 これに対して、すぐさま熱い眼差しでこくりとうなずくや了解するバカどもだ。ヤクザ脳はどこまで行っても堅気になれない。

「……わかった! つまりはそのメカニックの若いのになめたマネをしくさった首謀者どもの名前を吐かせて、そいつらをきっちり締め上げればいいんだな? このおれとオルテガとで!!」

「ガッテン!! 死なない程度にまとめてぶちのめしてやるぜぇっ、二度とこのおれたちに刃向かえないようによぉ!! そのかわいそうなメカニックの前で裸にひんむいて泣かせてやらあ!!」

 やめてくれ。ああ、こいつらも中に引き入れてドアをきっちりと閉めておくべきだったな。でかい声で話しが全部筒抜けなのにほとほと嫌気がさす俺だ。
 顔が上気してる仲間たちの荒ぶったさまをむしろ冷めた目線で眺める隊長のガイアは、やはり冷めた口調で返す。

「……まあそれでも構わないが、にらみを利かせるくらいにしておいてやれ。それよりもあいつの身体を見てやってくれよ。そのへんの手当はお手の物だろう? 医務室の世話にはなりたくない。あと、あいつの名前は、デーミスだ。よく覚えとけ……!」

 覚えてる! ちゃんと覚えてる!! えらいぞ、それもれっきとしたファンサだからな!?

 そうとも、それだけであいつはとっても勇気づけられるし、周りの態度もおのずと変わってくるだろう。
 この俺もちゃんと名前で呼んでやろうと心に決めた。
 さしあたって、新しいヘルメットを用意してやらないとな?

 黒いパイロットスーツの二人組を目で追い払ってドアを閉めると、難しいツラのおやじと改めて真顔で向かい合う部屋の主だ。

「良くやってくれた。大事になる前に食い止められたからな? あと、あいつのことは俺が面倒を見るから、ダメならこちらで引き取る。パイロットが余計なことに気を割いてられないだろう」

 俺からの申し出に、何食わぬ顔のガイアは相変わらずの冷めた目つきで返す。とことん素直じゃないな。

「いいのか? まさかそれでおしまいってわけでもあるまいが? あいつは事実、傷ついているからな」

「人員の配置転換は容易だ。他に僚艦が二隻もいるんだからどうにでもなる。名前がわかればな?」

 この立場上でいくらでも対応してやれると太鼓判を押してやるに、はじめてへの字に曲げた口元をにんまりさせる心底、根性悪のエースパイロットさまだ。ぬけぬけと言った。

「任せろ。どいつも顔面をしたたかにどつき回してやったから、顔を見れば一目瞭然だ。前歯へし折ったヤツもいたよな? わざわざ名前なんか聞き出す必要はありやしねえ……!」

「わかった。すぐに対処する。よもや殺してないんだよな?」

 ほんとにドタバタ続きで嫌気がさすが、これが軍隊であり、戦場ってものなのだろう。何かまだ言いたいことがありそうなリック・ドム小隊の隊長のヒゲおやじを見つめながら、なぜかなじみのブリッジクルーの操舵士の顔を思い浮かべていた俺だ。

 あいつの名前、なんていったかな?

 ちゃんと覚えておかないと。あいつはそんな厄介ごとには無縁な感じだが、もし関わっていたとしたら俺はどうするのだろう?

 考えさせられてしまうが、おかげでその顔を見るのがちょっと怖くもなった。それでガイアにおそるおそるに尋ねたりするのだが、それでまた機嫌を悪くする隊長さんには顔つききょとんとなるばかりの俺である。

 まっこと、世の中ってのは一筋縄には行かないものらしく。 

  Part B


 やっと落ち着いたかと思ったら、またちょっと険悪な雰囲気が流れて、自室なのに居心地が悪く思う艦隊副司令のこの俺だ。

 相変わらず不機嫌にむっつりしたさまのドムのパイロットは、何故だか真顔でこっちをにらんでいる。

 気のせいじゃないよな?

 だがあの若手のメカニックのこと以外でまだ怒ることがあるのかと首を傾げる俺だったが、内心の思いを悟られないように適当に話題をはぐらかした。でないとめんどくさそうだ。

「まったく、こっちはそろそろ寝ようかと思っていたのに、飛んだ邪魔が入ったものだな……! とりあえず水でも飲むか? あるいは……やることなんてないよな??」

 とうとう相手に聞いてしまうが、ひとの話にあまり乗り気でもないヒゲづらは冷めた目つきでアゴを振った。

「……いらん。余計な気を遣うな。オレも邪魔しちまっているんだからな?」

 じゃあとっとと出て行けよ! なんてことも言えないままに、それきり言葉に詰まるこの俺だ。

 どうしたもんだか……?

 こうやって軍で顔を合わせている時以外は、どんな顔して会話していたのかとんと思い出せないで困惑することしきりだ。
 そんな困っている部屋の主を気の毒にでも思ったのか、仕方もなさそうな感じで招かれざる客のMS小隊隊長が口を開く。

「悪いな。やっぱり水をもらおうか。ちょっとした運動をしたから、喉が渇いてきた……! 酒はないのか?」

 やれやれ、勝手にひとんちに上がり込んで好き勝手言いやがるのはどこでも同じだな!

 ちょっと呆れて見返す俺だ。
 すると向こうはツイと目を逸らしやがる。
 思春期のガキじゃあるまいにだな。
 酒はないときっぱり断って、備え付けの冷蔵庫の中から二人分のボトルを取り出す。ひとつをゆっくりと来客の胸元へと放った。水が入った透明のボトルが音もなく無重力を渡ってその先の相手の手のひらにおさまる。無言でボトルを開けて、ふたりほぼ同時のタイミングで冷たい水を喉へと流し込んだ。

 あんまり味がしないな。

 会話に詰まったきりで、しまいには仕方もなし皮肉っぽい文句がだだ漏れるおじさんだ。

「ふう、ちょっとした運動って、若いの相手に大立ち回りしたんだろ? 顔にキズまで作って……! 一応手当するか? 救急箱ってどこにあったかなぁ?? そういや、今ごろあの若いメカニックもあいつらに手当してもらってるのか? 三者三様のブサイクどもが、あんまり絵面として思い浮かばないが……!」

 普段から片づいていない部屋の物置と化したベッド周りに視線を巡らせる。あいにくとそれらしいものが見当たらなかったが、当の怪我人は迷惑そうなツラで舌打ちくれる。

「デーミスと呼べ。顔が悪いのは罪なのか? いいや、余計なお世話だ。それにこんなものは放っておけばじきに治る。ヤツのことはあいつらに任せておけばいい。それよりもいいのか? あいつをおまえに……」

 お、意外と気に入っているんだな、あいつのこと?

 なにやら浮かない顔だが、さては行き場をなくしたあの若いメカニックをこちらで引き取ると言ったことを気にしているのか。

 別にそう大したことじゃない。

 せいぜいほとぼりが冷めるまで、あいつの気が紛れるまでだ。
 あと他にもこちらとしては目論見があるのだが、それを入り口のドア付近に背中を預ける凄腕のMSパイロットがズバリで言い当ててくれた。普段は性格がさつなくせに、こういうところは良く勘が働く。

「ふん。親切な人助けと見せかけておいて、実はあいつのメカニックとしての手腕に興味があるんだろう? 09と新型のゲルググのメンテに長けているって話だものな? つまりはそうだ、おまえの推しが乗るっていう噂の、アレだよ」

「さあて、どうだかな……?」

 しらばっくれはするものの、ちょっと白々しい猿芝居か。 
 噂でなくて事実なのだが、まだ機体の納入時期自体は未定だ。
 ぶっちゃけ本当に来るのか怪しいくらいだが、それと一緒に配属されるはずの専属のメンテナンス要員はほぼ絶望的らしい。
 
 我が軍はまことに人手が足りない。

 いざ来れば本艦の同じMSドックに収まるのだから、これの整備点検が専門職であるデーミスの手はいやが上にも借りることになるはずだ。もういっそのことそっちの主任にでもしてやりたいところだが、それはガイアたちが許さないだろう。
 そんな内心の思いをまた見抜いたのか、やけに冷めた顔で枯れたセリフをぬかしてくれるリック・ドムのパイロットだ。

「図星だな? 言っておくが、あいつはおまえの推しのあのキザな少佐には渡さんぜ? あくまでオレたちの主任メカニックだ。オレが決めた。あいつもそれを望んでいるのだろうしな」

「ぐうの音も出ないな……! その通りだ。だが少しくらいは手を貸してくれてもいいだろう? ああ、なんならこの部屋自由に使わせてやってもいいし! 俺もあいつのことは嫌いじゃない。変な意味じゃなくてだな?」

「あたりまえだ。変な意味? おまえ……ん、じゃあとりあえずあいつのことは任せる。いや、そうか、だったらオレの部屋をこのままあいつにやっちまって、オレがここに居座るってのもありじゃないのか? 変わらんだろう」

 乾いたヒゲづらが何食わぬさまでしれっと言ってのけたセリフには、すかさず食い気味に反応する俺だ。

「全然違う! 馬鹿なことを言っているヒマがあるなら、とっとと帰れよ、俺もさっさと寝させてもらうから! なあ?」

「ちっ、けちなヤツめ! 悪いがしばらくかまってくれ。知っての通りで不可抗力だ。ものがあるならうまいつまみでも作ってやろうか? ここなら簡易式のキッチンくらいあるんだろう。オレのところにはないんだが……」

「本来は必要ないだろう。しょせんこんなやりにくい無重力の中じゃ、俺も使ったことがない。トイレだってあっても掃除が面倒だからここのは使わないくらいだからな!」

 もうどうでもよくなって、なるようになれとばかり部屋の真ん中で大の字に身体を広げる副艦長だ。

 まったくお手上げだな!

 こっちまで不機嫌ヅラになっちまう。
 すると背後のドアを軽く蹴り上げて部屋の真ん中に身体を流してくるガイアが、器用に身体をねじってその顔をこの前へと近づけてくる。パイロットは体幹がいい。
 よく見ると髪も乱れているが、触ればどこかにたんこぶくらいありそうだな? やっぱりメディカルチェック受けたほうがいいんじゃないかと思い始めるのを、見透かしたかに目を細めて文句をたれる闖入者だ。

「何を考えてやがる? いらん心配をするな。このオレはあんなガキじゃない。ん、おまえそれ、見慣れない服を着ているな?」

 変にひとのことをジロジロ見ていると思ったら、そんなこと気にしてたのか? 飾りのないガイアの軍服と一緒で、のっぺりとした上下とも灰色のトレーナーの俺は答える。

「いいだろう。軍服で寝るのはしんどいから、最低限度のマナーだ。パンツ一丁じゃいざって時にはばかられる。これなら上から制服着られるし、ノーマルスーツも楽に着込めるしな?」

「貧相なダメおやじだな。役付の士官が部屋から出られまい? ヘタすりゃ幻滅されちまうぞ……」

「は、誰にだよ? いいトシしてみっともないのはわかっているが、部屋着なんてこんなもんだろう。少佐の前では間違ってもしないから大事はない! ボロは着てても心は錦って、どこかの国の格言だよな? この俺自体の中身は変わらないさ」

「規律がうんぬん言ってる人間がとんだ二枚舌だ。オレも嫌いじゃないが、若いヤツらの格好だろう。デーミスみたいな? あるいはおまえのお気に入りのあの若い操舵士とか? 最近ちらちら顔を出してくるよな……」

 意外な人間が出てきて目をぱちくりさせる参謀のおじさんだ。
 ちょっと含むところがある言いように怪訝に眉をひそめる。

「お気に入り? なんのことだよ、確かに気が利くヤツで頼りにはしてるが、バルダはただの操舵士で、たまたま近くにいるから顔が見切れているだけだぞ? 悪意なんてありゃしないんだ」

 とっさに出てきた当人の名前に安堵する俺に、あちらは不服げにヒゲだらけの口元をひん曲げる。

「どうだか? オレにはけっこうなアピールをかましているように見えるぞ。実際、仲良さそうだものな? ふうん……」

「何を言っているんだ? お互いに良好な関係を保っているならいいことじゃないか。こんなおじさんとあんな若いのが?」

「程度による。おい、おまえはデリカシーがないばかりか、感受性にも乏しいのか? あんなに間近にいやがるのに、やれやれ、とんでもない損をしているぞ……オレから言わせたらな?」

「さっぱりわからないな? いいや世の中、損得ばかりじゃないだろう」

 目の前のひげヅラの言わんとしていることがさっぱりでほとほと困り果てる中年太りのおじさんだ。
 ただがそれにいかめしい面構えをプイと横にそむけるヒゲのおやじは、おまけに何やらもったいつけた物言いで引導を渡してくれる。いやはや、意味がわからないぞ?
 
「損はしている。せっかくいいものやろうと思ったのに、その気が失せた。よってまた次回におあずけだ……バカめ!」

「はぁ、子供じゃあるまいに? いいものって何だよ??」

「いいものだ。泣いて喜ぶぞ? このオレの切り札だからな! 最前線でMSを駆る……! だからこそただでは惜しいだろう。欲しかったら相応のものと交換だ。別に物品でとは言わない」

「?」

 頭の中がハテナだらけで首を傾げるばかりの俺だ。
 片目をつむってこちらに視線を投じるドムの使い手は、獲物をロックオンしたかの顔つきで言葉の砲火を浴びせてくる。
 見事命中とまではいかないが、けっこうな至近弾だな?

「今どきじゃ下手な金品よりも情報のほうが価値があったりするだろう? だったら教えろよ、このオレにも、この戦いにおける真実、本当のこととかをな!」

「……??」

 この顔に暗い影が走るのが自分でもわかった。

 そう、まんまと痛いところを突かれてるよな?

 不覚にも表情が固まるこの副官さまだ。
 エースパイロットは追撃の手を緩めない。

「このまだるっこしい追撃戦の先にあるものだとかな。これまで連邦の木馬につかず離れずで追いかけっこを演じちゃいるが、追撃とか討伐とかもっともらしいこと言いつつも、その実のところで本当は何を狙っている? 本部のヤツらは? もしくは……」

 意識的に間を置くのに、まんまと生唾ごくりと飲み込む根がとっても正直者なおじさんである。
 感触ありの表情で、凄腕のMSハンターが核心に迫る。

「そうさな、あの素性の知れねえキザな仮面野郎の、その真の目的とは、なんだ??」

 この俺もまだすべては測りかねていることだ。
 ただしある程度の予測はしている。
 だがついて行くのみだな。

 赤い彗星、この俺の推しに……!!


 


服装

デーミス

ドム ゲルググ

バルダ

追撃戦 本当の目的? 



プロット
Scene1
ムサイ級 MSドック ← ドレン
黒い三連星のリック・ドム帰還 ガイア
MSデッキ 戦闘態勢解除につき、 空気あり
メディカルチェック メカニック(デーミス?)
メカニックはガイアの大ファン?ガイアは無関心

Scene2
ドレンの個室 ← ガイア(制服?)
少佐の戦闘データ(動画)入手
ガイアは操舵士とドレンの仲を疑っている?




ストーリーとイラストは随時に更新されます(^o^)たぶん