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変態機甲兵〈オタク・ロボ〉 ジュゲム file-08 ドラフト!

いきなり実戦ダダンダン!①

※太字の部分は、なろうとカクヨムで公開済みです。そちらが加筆と修正された完成版となります(^o^)

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Episode‐file‐08


 突如として目の前に出現した、妖しくも青白く光る、巨大なチャック……!

 みたいな、それは空間の歪曲経路(ワームホール)の進入口なのだろうか?

 そこからまたいきなり目の前に開いた、真っ暗い穴をくぐり抜けたその先には、思ってもみない世界が拓けていた――。

「え、いきなり場所が変わった!? でも、ここって……!」

 わけがわからない流れに身を任せて、終始わけがわからないことになっていたが、ひとつだけわかることがあった……!
 ロボのコクピットの内部、視界のほぼ全てをカバーしている高解像度ディスプレイに囲まれた操縦席。そこでこれが克明に映し出す景色をぐるりと見回すでぶちんのパイロット、モブはごくりと息を飲んで事態を把握する。
 それは少なからずした驚きと共にだ……!

「おれ、知ってるよ。だってここって、アキバだよね? 言わずと知れた秋葉原! マジで良く見た景色だし、こんなおかしなことになる前にこのおれがいたところじゃん、良く考えたら……?」

 そう。元はと言えば、ここの行きつけのとある特殊なコンセプトカフェにいたところ、何故か縁もゆかりもないどこぞの自衛隊施設(?)に裸で拉致られていたのだ。ほんとにわけもわからないまま。
 今にしてはっきりと自覚しながら、まだちょっとどこか違和感があるのにこの肉の厚い首を傾げたりもするデブのオタクであった。首回りのガードが思い切り肉に食い込んでいる。苦しい。ここだけサイズをやり直してほしかった。

「んっ……!」

 背後で気配がするのに、後ろにも同乗者がいるのを思い出してチラリ、そちらに目を向ける。そこで相変わらずにふんぞり返るおじさん、自称・ぬしと互いの目を見合わせるのだ。
 当のおやじは何食わぬ顔で聞いてくれたか。
 これになおさら目を見張らせる新米くん。


「覚えがあるのか? つまりはここが今回の戦場なんだが――」

「え、戦場って、意味わかんないよ! だってアキバだよ? ただの街中の繁華街じゃん? 都内でもけっこう名の知れた? そんなトコで誰が何と戦うっていうの? オタクとオタク?? そりゃその昔はオタクの聖地とか言われてたらしいけど、いまはもうそんなことないんじゃないのかな……?」

 きょとんとした顔つきでそんなマジマジと見てしまうのに、一段高くから見下ろしてくるおじさんは、ニヤリとだけ笑ってこれがさも意味深な口ぶりである。

「じきにわかるさ……! 見てりゃいい。ちんちん、ちゃんと立たせておけよ? いつでもイケるようにな!」

「ちんちんて……! あんっ、もう、これもほんとに意味がわかんないよ! 相変わらずこっちのおじさんとおねーさんもおれのことジロジロ見てるし……!」

 正面の操作盤にふたつある小型ディスプレイの中で今も真顔の監視者たちの顔をちらりとだけ見て、目だけは合わすまいと苦い表情になる新人パイロットだ。この間も左手ではしっかりとじぶんのイチモツ握りしめているわけで……! かすかなため息ついていた。
 仕方もなしにこの視線を正面の大画面モニターに向ける。身の回りをぐるりと360度で映し出す全天投影型のディスプレイだ。つくづく金がかかっているのがわかる。無駄なくらいに。そしてそこには良く見慣れた行きつけの街の景色があった。普段と何ら変わらないありさまでだ。だがそれをよくよく見ているに付け、やがてちょっとした違和感の正体に思い当たるモブだった。

「ここっていわゆるあの大通りで、もうちょっと先に行けば、秋葉原の駅前の交差点だよね? あれ、でもまだこんな時間なのに、あたりにまるでひとがいないんだけど、どうなってるの? 平日の午後とは言え……?」

 見上げれば高精細ディスプレイ越しの空には抜けるような青空が一杯に広がる。時間でいったら昼過ぎなのだろうか? 周りの表示をきょろきょろと見回して、そこに時計らしき四桁のカウンターを見つけて注目する。

「んっと、PM15:22……! まだ三時半くらいなんだ? おれっていつ拉致られたんだっけ? あれ、今日はバイトが非番のお休みで、それで……」

 ヒマをもてあまして午前中にもう行きつけのお店をのぞいていたのだと思い出したところで、後ろから注意をされる。

「コラ、手元がおろそかになってるだろう! 何度も言わせるな? おまえが集中しなければ、こいつの挙動もおろそかになっちまうんだぞ? こんなデカいのがよたよた歩いて周りの公共物を破壊だなんてシャレならねえだろ、責任問題だ。挙げ句無関係の民間人やら個人所有の財産やらを巻き添えにしちまったとなったら……!」

 渋い声でおっかない注意喚起にビクんと反応して振り返るモブだ。口を尖らせた顔に不満たらたらなのがはっきりと出ていた。

「っ! そんなこと言われたって、責任もへったくれもありやしないよっ、おれだって本来は無関係のただの民間人なんだからね? 違うなんて言わせないっ、まだなんにも理解も納得もできてやしないんだからっっ!! ふうっ……!」

 改めて正面に向き直ってみずからの股間を優しくマッサージ。
ちょっと慣れてきて空いている利き手のやり場に困るくらいだが、何を言おうが説得力がないのははっきりと自覚していた。背後から指摘されてむっつりするオタクである。

「ふん、どんなツラで何を言おうがどっちらけだな? てめえのナニをシコシコとしごきながらじゃ! おかげで安定しているしここまでテレポートもできたから俺としては文句ないが、無事に任務をこなしたいならもっと前のめりになって周りの意見に耳を傾けろよ? やること自体は至極カンタン! 普段からやっていることと何ら変わりはありゃしないんだ」

「ぜっ、ぜんぜん違うっ! おんなじわけないじゃん、こんなのっ……!? あと、しれっとテレポートとか言ってるけど、これってどう見てもただ事じゃないよね? ここってほんとにあの秋葉原?」

 あたりを見回してまた太い首を傾げるでぶちん。
 すると背後でなおのことふんぞり返ったおやじはでかい背中でシートをギシギシ鳴らしながら解説してくれる。

「他にあるのか? まあ、こうして見たところでひとがいないってのは、とりもなおさずここが立ち入り禁止区域に指定されて民間人はおいそれとほっつき歩けないからだ。みんなどこぞに待避するなり建物に立てこもるなりして自衛しているんだろ。戦場だからな? 当然報道規制も敷かれているから、ここにいるのは実質、俺たちだけ、のはずだ。おそらくな?」

「戦場? 報道規制って……!」

 怪訝な丸顔が眉をひそめるのに、背後で見下ろす角刈りの四角い顔面が天を仰いで説明ゼリフを朗々と吟じてくれる。

「よく見ろ、街中だけじゃなし、でかい事故や事件がらみじゃかならず上空に出張って待機してる報道のヘリらしきがひとつもないだろう? 警察や自衛隊も含めて! それだけぎちぎちのがっちがちに制限がかけられているんだよ。本来なら機動隊なりなんなりを編成して現場の対処に当たるはずが、それじゃ対応できないって包囲網の形成に努めているんだ。現状、俺たちはそのど真ん中にいるから、誰からの目にもとまらないし、邪魔もされない。おかげさんでやりやすいだろう? ナニのやり放題だw」

「やり放題って! やりたくてやってるわけじゃないんだらかね? ふううっ、あんまりでかい声出させないでよ、へんなタイミングでイッちゃうかもしれないじゃん、ああ、ふう……! おれ、ほんとにナニやってるの??」

「ナニだろう? とにかく周囲への警戒を怠るな! 現状は落ち着いているように見えるが、いつナニがどう変わるかもわかりゃしない!」

「ナニってナニ?」


 もう振り返ることもなく聞き返すモブに、意外と聞き分けとカンがいいヤツだなとニヤリと笑うぬしのおじさんだ。下手に振り返って前方不注意になるようならそろそろ怒鳴ってやろうかと思っていた手前。文句を言いながら状況が深刻なのを肌で感じているのかと推察する。こいつは鍛え甲斐がありそうだと丸っこい背中を見つめていると、目の前でデブがぶるっと身震いした。確かにカンがいいようだ。

「おじさん、なんか後ろでヘンなこと考えてない? あっ、なんだ!」

 周囲の状況ではなくて、目の前のモニターにいきなり警告のウィンドウが開かれたのに反射的にのけぞる。あんまり見慣れない字面が並んでいるのに混乱していると、手前の小型モニターの左側のおじさん、監督官の村井が深刻な面持ちで口を開いた。

『突然で済まないが、もう戦いの準備はできているのだよね? オタクダくん。立った今、防衛省の特務外局、この特務広報課・第一広報室より第三種災害に関わる緊急特別臨時警報が発令された……! ジュゲムおよびこのパイロットは戦闘態勢にただちに突入、戦闘機動へ移行のこと、厳に了解されたし!!』

 開口一番、とんでもなく速いジャブだった。早すぎて何を言ってるのかひとつも聞き取れないくらいだ。おおよそ10インチくらいのディスプレイの中でひどく真剣な面持ちした、後ろにでんと居座ってるのよりかはまだちょっと若めの働き盛りのおじさんおにいさんが早口でまくし立てる。

『そう、これは単なる予備待機や自主避難勧告ないし予行演習などのたぐいではなく、現実に第一次災害対応態勢を正式に発令するものとなる。言わば初の第三種災害に対応対抗するべくしたわれら特務自衛隊の出動、現実の対応行動となるものだ……!』

 まじめな自衛官だった。言っていることだけは。
 対してやたらに堅苦しい文言の連続で正直、ちんぷんかんぷんのモブだったが、目を白黒させてうわずった声を上げてしまう。

「えっ、何を言ってるんだかさっぱりわかんない! 悪いけど第三種災害がそもそも意味不明だし、防衛省とか特務自衛隊とかさらっと言ってるけど、おれそんなの何も聞かされてないよ? ここでナニをしろとしか言われてないんだから! ムリだって!!」

 向こうから見たカメラの画角ではおそらくフレームアウトしているのだろうが、実質はみずからの股間をねちねちといじり回しながら悲鳴を発するデブのオタクである。すると監督官と代わって今度は右手の若い女性の監査官が口を開いた。
 またもやしての波状攻撃に泣きたくなるモブだ。
 どうせこの後に背後からも続くのだろう。
 やたらにきっついのが……!

『いえ、どうか落ち着いてください……! 現在、あなたが搭乗している特殊装備(ジュゲム)は当該戦域におき、単機で行動しているために残念ながら周囲からのサポートを受けられる状況にはありません。従って現状、頼れるのはあなたご自身のみです。ですので冷静に。わたしは応援しています。ここから……!』

「えっ、そんだけ……?」

 いざおもむろに口をきいたわりには歯切れが悪いメガネっ子のおねーさんだ。これと言って打開策らしきが何もなかった。ただのまんまのお気持ち表明だ。
 そんなのわかりきったことだろう?ときょとんとなるでぶちんに、背後からやはりトドメの一撃がブッ刺されてきた。やはり不意打ちでくらってしまうにわかパイロットだ。

「わっはっは! そうら、いい加減に諦めて覚悟を決めろ! 泣こうがわめこうが事態は待ってくれやしねえ、やるしかないんだ。おら、手元がまたおろそかになってるだろう? いいからサポートはこのぬしさまが後ろからしっかりとかましてやるから、おまえはおまえのやるべきことに専念しろ!」

 なんでもちから一杯にぶっちゃけてくれるおじさん。メガネが光るおねーさんも画面の中でこくりとうなずく。対して顔つきやたら気まずいモブだった。

「……いや、それってつまりは、ナニをしろってことなんだよね? こうやって他人に見られながら? ただのふざけた罰ゲームじゃんっ……!」

 もしくはイジメだろうとがっくりと肩を落とすが、左手のモーションはちゃんと生きていることを背後から認める教官どのは、これをさも鷹揚におおらかに諭してくれる。

「それでいい。ちゃんとやることやっていれば、こんな急場でもしっかりとしのげる。伊達におっ立たせているわけじゃないんだ、おまえのそのちんちんは!」

「ああん、言ってることなんにもわかんないっ! 誰かどうにかしてよっ、え? わ、なんだ、今度はなにっ……!?」

 正面のモニターにでかでかと映し出された、小難しい警告文がずらずら並んだ説明書(マニュアル)みたいな表示窓が消失して、目の前にあの見慣れた景色が復活する。だがその直後、そこに今度はいくつものアラート表示のポインタが浮かび上がり、おまけピーピーと高音の警告音までが鳴り響く! そのどれもがただごとではないことを示唆していた。

「なんだよなんだよっ、もうやめてよ! あんもうっ……!」

 ロボは高さがあるので足下の地面とはかなりの距離感があるのだが、見ればその大通りの歩道寄り、複数立ち並んだ路面店の建物かこの脇道あたりに警告表示が集中しているのがわかる。
 ただしそれ以外は何がなにやらさっぱりなのに、ちょっと左手の手つき(タッチ)があやふやになるパイロットだ。
 股間の操縦桿から意識を取られる新人にふたたび左の小型画面から声高な注意喚起がなされる!

『むっ? これは、ジュゲムのオタク・レーダーが何かしらの標的対象(ターゲット)を感知したようだ! パイロットは最大級の警戒を! オタクダくん、これはまさしく現実の実戦だっ!!』

「へっ? いやそんな、いきなり実戦とか言われても……!?」

 突如、甲高く言い放たれた、それは現実離れしたセリフに頭の中が真っ白になる。身体から力が抜けて背中から座席の背もたれにどっと倒れ込む肥満体ながら、そこにこの背後から落ち着いたおやじのだみ声がかぶさってきた。いいから落ち着けと言わんばかりに。

「いいからシコってろ! そいつが主務操縦士たるおまえの役目だ。そうすりゃコイツが応えてくれるさ。ただし、目の前の現実からも目を離すなよ? じきにはっきり見えてくるだろう、おまえが戦うべき真の相手ってヤツが……!」

『はい。どうか気をつけてください。オタクダ准尉! このジュゲムが反応したということは、すぐ近くに第三種災害の原因要素が存在するということに他なりません。これがおそらくは複数、そちらに近づいているものと見られます……!』
 
「じゅっ、じゅんい? じゅんいって言ったの? え、だからジュンイってなに? ……み、みんな、なに言ってるの?」

 もはやみずからの股間の感覚がどこかにすっ飛んでいるような心地で、慄然と操縦席にまたがるモブだ。逃げたくても片手じゃこのごついベルトを外せない。やばい。ともすればそのまま卒倒しかけるオタクの青年だが、背後の教官がとかく落ち着き払った調子でなだめてくれるのだった。

「落ち着けモブ! 気をしっかりと持て! だからつまりは第三種災害の火種、何かしらのヘンタイしたクリーチャのお出ましだろ! そうだひと呼んで変態新種生物!!!」

「へ、へんたい? くりい、ちゃ? な、なに、それ???」

 本当にわからない。何もかもがさっぱりだ。あんぐりと口を開けて後ろに聞き返しかけたところに、一段とやかましいビープ音が鳴り響く。音はこの足下のあたりから鳴っていた。これに足下からやや離れたところを映す右手のディスプレイ映像の中で、地面で実際に何かしらの変化があるのがわかった。じきにそちらがズームアップで正面モニターに拡大されるのに思わず身を乗り出してこれを凝視する肥満のメインパイロットだ。

「えっ、あっ、ひとがいる! 誰だろ、おじさんかな? 見たことあるような青い制服の……あれって、警察、お巡りさん??」

 目を皿のようにまん丸くして正面の拡大映像をひたすらに注視するモブだった。見たところでは中年の警察官とおぼしき人物が、背中をこちらに向けたまま、ゆっくりとしたモーションで後ずさりしている図と理解する。無論、動画のライブ映像でだ。
 それにつき音声がないのであまり判然としないが、何やら緊迫した雰囲気なのだけは伝わってきた。
 この落ち着いた背中の見た目とやや小太りな体型からして背後のおやじと同年代か? それがどこぞかへ向けて何かしらの言葉を発しているらしいが、あいにくと聞こえない。装甲が厚いこのロボの内側では集音器を経ずに外部の音を聞くのはほぼ無理なのだろう。
 かと言ってコクピットハッチを開けて顔を出すのは御法度だ。
 どこかに外部マイクのスイッチはないかとチラチラと周囲に視線を向けるが、はじめて乗る人型ロボのコクピットはさっぱりこの使い方がわからない。わかるのはこのレバーだけだった。
 全体の図から判断して、突然現れたと思えた警察官は右手の脇道あたりから出てきたらしい。
 おそらくは何かしらから待避、逃れるみたいな感じで?

「え、どうなってるの? 周りの音が拾えないからなんにもわからないよ! ねえ、おじさん? ぬしのおじさん??」

 ちらりと背後に視線を向けると、やけに険しい目つきでおなじく正面のディスプレイを睨み付ける後部座席の教官だ。何やら思案に暮れているらしくこの顔つきがだいぶ渋かった。
 ここらへんからも不穏な気配を感じ取るオタクのでぶちんだ。

「えっ、と、あっちのお店じゃなくて、その脇の裏道から出てきたんだよね? まだひとなんていたんだ? でも逃げ遅れってわけじゃなくて、見たとこ警察官だもんね? おじさーん、聞いてるー??」

 左手の基本動作だけは忘れないように気を付けて、前方の画面を注視したままで背後へと問いかける。これに舌打ち混じりでおやじの声が返るが、ちょっと緊迫した色合いがやはりあった。

「ッ、うるさいっ! ちゃんと前に集中しろ、目を逸らすなよ? もうじき出てくるから……! 来るぞっ!!」

「え、なに? 何か出てくるの? あの脇道から? なにがっ……!?」

 おやじの叱責に続いて、ひときわに甲高い警告音がコクピット内に鳴り響く! ディスプレイの至る所に警告を意味するのだろう英語やら何やらが何度も点滅したかと思えば、一瞬の静寂の後にそれが現れた。のっそりと。そう……!
 それは現れたのだが――。
 想像を絶していた。
 はじめそれに焦点が合わないモブである。
 手前で何かわめいている警官の背中が大きく上下する。
 両手をまっすぐ胸の前に伸ばして何かしらの構えを取っているのが、実は自身の装備である拳銃をかの標的へと向けて突き出しているのだとようやく理解した。この背中越しだから良く分からなかったが、およそ尋常ではない状況だ。

「けっ、拳銃! 誰に向けてっ? え、なに、なんか、出てきた……!」

 えっ?

 はじめ人間の人影のように見えたシルエットだ。はじめだけ。
 だが違った。つかの間、息を飲むモブは、すっかり左手の動作を忘れてしまう。天井のほうで低い警告音が鳴ったが、気になどしていられなかった。目をむきだして目の前のありさまに意識を奪われる二十歳過ぎだ。最近やっとお酒を飲めるようになった。

「え、なに、あれ…………ねぇ???」

 やっと言葉にして吐き出すものの、応えるものはいない。
 カタチとしてはひとっぽいが、決して人間のそれではない見てくれのなにかに言葉を失うパイロット。冷や汗がだらだらと額やら背中やらを伝うのを意識しながら、もう一度、言葉にした。

「だからねえっ、あれ、なに? なんなのあれ? なんなんだって聞いてるんだよっ、なんだよあれっ、あれっ……!!」

 がたがたと身体が震える新米パイロットに、背後の一段高い教官席からベテランのおやじが答える。ひどく落ち着いた口調がやけに重たく響いた。静寂の中ではこの耳が痛いくらいにだ。

「……見ての通りだ。見たまんまだろ。他に何がある? 今回はああいうタイプってだけのことだ。カタチなんてその都度変わるんだから、ガタガタ言っても仕方がねえ、アレをやるんだよ。おまえと、この俺とで……! 股間、ちゃんと立たせておけよ?」

 最後にしっかりと注意喚起して、それきり視線を逸らすおじさんだった。大口開けたままでこれを見上げるモブは顔面が真っ青だ。パイロットスーツを着込んだ肥満体を傍目にもわかるくらいに身震いさせながら、また正面へと向き直った。正直、股間もへったくれもなかった。

「な、な、なんだよ、アレ、なんかいる、いるけど、なんだかわからない、おまわりさんはへーきなの? あんなの、あんなの、あんなのっ…………」

 バケモンじゃんっっっ!!!!!!

 思い切り叫んだのとほぼ同時のタイミングだった。
 外部の音がこちらで拾えるようになったのは――。
 背後のぬし、あるいは前の自衛官たちのどちらかの操作だったのかはわからないが、うっすらとした風の音とひとの叫び声、その直後に短い発砲音のごときものがコクピットにこだます。
 それも複数回に渡って……!

「撃った! 撃ったよ! はじめて見たっ、お巡りさんが拳銃撃ってるの!! いいんだよね? あんなのひとじゃないんだから、撃っていいんだよねっ! ねえっ……あ、効いてない?」

 かなり距離が縮まった位置関係にあったので無難に当てているように見えたのだが、果たして命中していたのか?
 きっと手持ちの弾丸を撃ち尽くして、騒然となる警官の背中に怯えのような震えが走るのをはっきりと見た気がするモブだ。心臓がキュッとなるのを意識する。痛い。見てるのが辛かった。映画やドラマならまだしも、今、目の前に繰り広げられているのは現実なのだ。本気で泣きたかった。かくしてだ。警官が相手にしているよくわからないものは全身を震えさせて、ゴアッと良くわからない声を上げていた。人間の声帯から出せるとは思えない濁った音声はそこにただならぬ怒りが宿っていたか。
 拳銃を突き出したまま立ちすくむ警官は牽制の怒号を発しながら、身体を小刻みに震わせながら拳銃を腰のホルダーに納めると次は短い棒きれ、警棒らしきを取り出した。冷静なのが見ていて涙ぐましかったが、できたらもう逃げてほしいと思うモブだ。

「わあっ、わあっ、わあああっ! どうなっちゃうの? おじさんっ、あっちのおじさんがピンチだよっ!! あのおまわりさん、警棒であんなのと立ち向かおうとしてるよ? 逃げろっていわないと!!」

 涙目で振り返る丸顔に、えらが張った角刈りおやじは冷めた表情で言葉も冷たい。

「もう遅えだろ。良く見とけ。あと股間! ちゃんとシゴいておまえも次に備えろ……!」

「ふあっ、ふあ、なんなの、あれ? なんなの、あれぇ???」

 大パニックの新人パイロットは激しく感情が揺さぶられるが、正面の壮絶な絵面から目を逸らすことができずに過呼吸みたいにあえぎはじめる。背後から見ていて明らかに腰が引けているお巡りさんは絶体絶命、このままではどうなるかわからない。

 あっ……!

 のろのろと動いていたひとっぽいものが、キバをむいて中年の警官に襲いかかったのは不意のタイミングだった。挙動がおかしい。まだお互いの距離はあったはずなのに、気がついたらすぐこの目の前に迫っていたと当の警官にも見えていたはずだ。想像を絶する光景を目の当たりにして息もできなくなるでぶのオタクであった。

「わっ、わ、わっ! わああっ、おまわりさあああああーーーんっっっ!!!」

「いいからっ、さっさとシコってろ!!!」

 絶叫するモブ。
 叱責するぬし。
 事態はさらなる混迷を深めることとなるのだった……! 







随時に更新!待っててね♥



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変態機甲兵〈オタク・ロボ〉 ジュゲム file-07 ドラフト!

アキバで拉致られババンバン♪ ⑦

なろうとカクヨムで公開中のジュゲムの下書き版です!  ノベルの更新に重きを置いて、挿し絵はもはやかなりテキトーになりますwww

※太字の部分は、なろうとカクヨムで公開済みです。そちらが加筆と修正された完成版となります(^o^)

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Episode‐file‐07


「…………んっ!」

 あたりは静寂に包まれていた。
 むしろこの耳が痛いくらいな静けさに……!
 そのひたすらに静まり返ったロボのコクピットで、今やふたりきり、無言で見つめ合うオタクとオヤジだ。
 しばしあって、下段の主力操縦席から上段の補助操縦席を見上げるデブのパイロットが、ゴクリと生唾を飲み込む――。

 え、このおれにしか見えない…………それって…………!?

 さまざまな思いや疑念が交錯する中、ようやくまとまりかけたものをどうにか言葉にして吐き出すモブだ。

「え、じゃあこのおじさん、ぬしって…………ゆ、ユーレイだったりするの? まさかの?? おれ、ひょっとして見えちゃいけないものが見えてたりする??」

 少なからずこの声色が震える。気のせいか背筋のあたりが冷たくなるのを感じていた。だが対して上からぞんざいな態度で見下ろしてくるおやじは、わざとらしげに自身の肩をすくませる。
 やれやれ!とばかりにだ。

「ハッ! ……おい、この俺が幽霊ならおまえにだって見えないんじゃないのか? 本来はそこに存在しないってことなんだろ? だがあいにくとここにピンピンしている。そっちのモニターのヤツらには見えちゃいないのだろうから、そいつらに言われるぶんにはまだわかるが……! もろもろの都合から、そういったことも配慮してのこの〝主〟さま呼ばわりなんだ。この俺の存在をうまく言い表せる言葉は、現状においてこれしかない。違うか?」

 なんなら触ってみるか?
 みずからの右手を無造作に差し出してくるおじさん。
 そのいかにも男らしくゴツゴツした拳とたくましい腕ぶりした右腕に、はじめ思わず伸ばしかけたこの指先だが、赤子のようなぷにぷにのでぶちんの手のひらを慌てて引っ込めるモブだ。
 いいや、掴めたら掴めたで何されるかわかんない!
 すっかり疑心暗鬼のデブである。

「う、確かに、そもそもでこのぬしって言い方もさっぱり意味がわからないし……! はじめの登場からして怪しかったけど、この身体が透けてるわけでもないし、バリバリ存在感あるものね? 無駄なくらいに! でもだからって納得もしずらいよ、とにかくまともじゃない、ぜったいに!」

「実在はする……! 実体はあるんだ。ただしおまえの前でのみか? 他のヤツらには知覚こそできないが、状況からしてこの認知、存在の認識はできる。厄介なことにもな? それこそこの俺が、ここのぬしたる所以だな! さあ、わかったらさっさとシコってこいつを起動させろ。あんまり長引くと補助動力のスタンバイが時間切れで無効になる!」

「なんにも納得できない! おれこんな状況でほんとにやんなきゃならないのっ? わっ、なんか上から降ってきた! わわ、これって……あれれっ!?」

 不意に天井からバサリと落ちてきた何かしらにびっくりするモブだが、それが身体にまとわりついて座席に縛り付けられるのになおさらあわわと面食らう。後ろからする楽しげなおやじの言葉になおのことびっくりだ。

「ほれ見たことか! あんまりグタグタやってるから向こうさんたちが痺れを切らしたんだろ。強制的な拘束具の着用、とどのつまりで、やること早くやれってな?」

「そ、そんなあ! こんな無理矢理? それにこのベルトおかしくない? てか、ベルトじゃないって、こんなのっ!」

 身動きができないほどではないが、編み目の粗い網状のそれは、言ったら頑丈なカーボンファイバー製くらいの捕縛網か?
 パイロット自身の身体全体におっかぶさって座席にこれをしっかりと束縛する。ただし傍目にもわけがわからない状態だった。
 ある種のプレイでもあるまいに邪魔なだけで。
 これでは落ち着いてこの操縦、ナニができるとも思えない、どころかむしろやりたくもない操縦者だ。
 困惑して前に向くに、モニターの中で真顔でこちらを見据える監督官のおじさんは目つきがやや険しい。そんな問答無用の気配にあって、またもやおまたのちんちんがすくむでぶのオタクだ。
 正直、苦手な雰囲気だった。マジでやりづらい。
 背後の助手が見かねて今度は救いの手を差し伸べてくれた。
 意外とやさしいおじさんだ。

「ふんっ、そんな状態じゃ落ち着いてぬけるものもぬけないか? そいつはパイロットに万が一があった時の緊急対処装置だから、厳密には安全具じゃない。場合によっちゃ高圧電流とか流れるからな? 俺が取っ払ってやるから、さっさと本来のベルトを締めろ。わかるだろ? あいつには俺からメールで文句を打ってやる! おい、勝手に余計なこと、すんなよっ……と!」

「メール? そういうやり取りはできるんだ? ああ、実体があるならできるか! あ、あみあみが天井に戻ってく? で、おれはベルトをするの? イヤだけど、しょうがないのか……!」

 半ば仕方もなにしたうんざり顔で、座席の脇にあった装置具からジャラジャラしたやたら太くていかついベルトを取り出しす。 
 やたらな重みがあっておまけにおかしな形状だった。
 それをおっかなびっくりに慣れない手つきでみずからの身体にガチャガチャとくくりつけるモブだ。
 いかんせん慣れないモノホン仕様なのだが、ちゃんとこの取り扱い方がモニター上で律儀に表示されて、すんなり装着できる。  
 めでたく固定完了。
 その間もモニターの中の監督官は真顔で手元のあたりをちらりと見つめ、おそらくは背後のオヤジとのメールの内容を確認したのだろう。のみならず何かあちらからも打ち返したみたいだ。
 それで半分くらい隠れていたベルトの装着チュートリアルが消えたらこくりとうなずいた。
 その真顔が見ていてなんかイラつくモブだ。

『……了解した。どうやらぬしとは無事に接触できたようだな。それではそちらをジュゲムの操縦教官として、早速実技に入ってもらおう。わたしたちもとくと見届ける。さあ、やりたまえ』

「さあって! ナニをやれって言ってるのか、ちゃんと分かってるんだよね、このおじさんも? アレだよ? アレ! ……なんかやりづらいっ! やっぱこんなのムリだって……」

 まさかギャラリーを前にしてやるようなことでは、さすがにこれは倫理的に問題があるだろうとほとほとげんなりする。そんな悩める新人パイロットながら、背後からこれをサポートするべくしたベテランの教官どのがさも楽しげにアドバイスをくれた。おそろしくテキトーな。なおさら顔つき暗くなるモブだ。

「いいから、前のやつらのことは気にするな! むしろプレイだと思えば、興奮するってもんじゃないのか? おまえさん、SMの趣味とかはなしか? 自衛隊というお堅い職業柄、さすがにAVを流しながらは無理があるから、そういう性癖を身につけるのもありっちゃあ、ありだろ? 羞恥プレイ♡ わはは! なんて顔で見やがるんだよ? ああ、わかったわかった……!」

「こう見えて、デブってのはわりかしガラスのハートなんだよっ、どうするの? えっ……」


 フッ……!と、いきなり目の前の大画面モニターで大写しだったはずふたりの自衛官たちの顔が消失したのに、はじめ目をぱちくりさせるモブだ。後ろで投げやりな返事するおじさん、ぬしが何かしら配慮をしてくれたのか? どこに行ったのかと辺りを見回して、それがもっと手前の、身の回りをぐるりと取り囲んだ操作盤の小型モニターにそれぞれ映し出されていることにちょっと落胆する。
 プライバシーはみじんも尊重されていなかった。
 自身もそんなに期待はしていなかったのだが。

「あん、なんだよっ、小さくなったところで、もっと距離が縮まってるじゃん! むしろ気まずい……! すぐ間近で意味ないよこんなの、まさか、モノが見えたりしないよね?」

「わがままばかり言うんじゃない! マジの羞恥プレイをしているわけじゃないんだ、おまえにその気がないならな? もったいつけずにさっさとやれ、何もモノまで見せてやることはないんだぞ?」

「そりゃあそうだけど……! あおりでこの股間だけバッチリと映すみたいなふざけたカメラ、足下に仕込んでたりしないよね? あ、ちょっと、そこで黙んないでよ! ああっ、近くに来ちゃった監督官さんたちが怪訝な顔してる。やだな、傍から見たら、今のおれってヘンな一人芝居してるみたいに見えてるの?」

 今やより近くでお互い見つめ合うような状態だ。いっそ生々しさみたいなものまで覚えてげんなりする。すると果たして真顔の監督官、村井がこの口を開いた。おまけズケズケと好き勝手な物言いに、なおのこと目つきがビミョーなものとなるモブだ。

『……ふむ、察するに、なにか話がおかしな方向にズレているのかね? 別に我々も好きでこんなことをしているわけではないのだが。これは職務だ。れっきとした。もちろんきみのそれも職務なのだから、胸を張って堂々とやればいい。ナニをだな?』 

 どういう感情で言っているのかほんとに聞いてみたかった。
 きっと何も考えていないのだろう。
 ほんとにふざけていると半眼の目つきのモブ。

『こうして税金まで投入しているのだから、国民の代表として、なんら恥じ入ることはない。愛と正義の名のもとにその股間をさらすことができる、きみは国内、いや、世界でもただひとりのパイロットなのだ……!』

「このひと、黙らせることできない? 見せる必要はないんだよね? ね? ああん、もうなんにも集中できないっ……!」

「わかった。メールを打ってやる! だまれ、っと!」

 後ろですかさずおじさんがキーボードを操る音がしたらそれきり真顔の監督官が沈黙する。効果あり。だがすると代わりにこの右手の小型画面にバストアップで映る若い女性の監査官が口を開いてきた。
 やはり真顔でだ。波状攻撃さながら。やめてほしかった。

『申し訳ありません。集中を阻害させるようなことは極力慎むつもりではありますが、この私たちもあなたをサポートする実働要員として、これは見ないわけにはいかないのです。ですから私たちのことは極力気になさらずに、小宅田さん、今はどうかあなたの全力でそのみずからの股間に集中してください……!』 

 若くて冴えないデブの男に若いバリキャリ女が真顔で言うようなことではおよそなかったが、本人は自覚があるのだろうか?
 あくまで事務的な口調で続いたセリフにデブのまん丸いなで肩がビクンと跳ね上がる。ほんとうにやめてほしかった。

『プライバシーに関わる部分は最新のモザイク処理なりをして、最低限度の配慮はされています。ですから安心して職務を全うしてください。そしてどうか税金を無駄にしないでください』

「二言目にはカネじゃんっ! このおねーさんもどうかしてるよっ!! ああんもう、ほんとうに泣きそうっ!」

 ふぎゃああっ!と嘆くオタクに、無情にも背後のおやじがきっちりとトドメを刺す。この波状攻撃は止めようがない。

「おい、泣くよりも他にやることがあるだろう、このロボのパイロットとして? やらなきゃ何もはじまらないし、何もおわらないんだぞ? おまえがやらなきゃせいぜいあと一分しか持たないぜ、コイツの予備動力? そうしたら……どうなるか教えてやろうか?」

 声音を一段落として迫るような渋いツラのおやじに、ちらっとだけ気弱な視線を流してすぐさま前に向き直るでぶちんパイロットだ。やはり敵前逃亡は許されない。

「聞きたくない! どうせろくでもないんでしょ? いまだってろくでもないのに、もういいよっ、おれなんか……!」

 もう破れかぶれでグッと下唇を噛むオタクだ。決死の表情でみずからの利き手、ではないほうの左手をみずからの股間へと差し向ける。ヒラヒラしたスカート状の目隠しの中にクリームパンみたいに肥えた手のひらをズボッと突っ込んだ。目指すは……!

「ああんっ、とうとう、握っちゃったよ……! こんな人前で、まさかこんなことになるなんて、やり方、フツーでいいんだよね? おれたぶんノーマルなヤツしか知らないよ? 道具とかは使わないでいつも通りにやるからね? なんでこんなこと聞かなけりゃならないんだよっ、ほんとうに泣きそう、あっ、ふう……!」

 完全に縮み上がっていたイチモツをタマごと掴んでようしよしと優しくなでつける。こんな時でもちゃんと感じるのが悲しかった。男として。男だからか。ほんとに泣きたい。手のひらのぬくもりで冷たかったみずからの分身があたたまっていくのを肌で感じながら、ふとこの背後を振り返るモブだ。

「た、起たせればいいんだよね? とりあえずはその、いわゆるボッキってやつを……! いやでもこんな状態で勃つかなんてわからないよ、おれ? そんなおかしな性癖なんて持ち合わせてないから! ああん、ぜったいにおねーさんの顔なんて見れない。見れないよ。今どんな顔してるの?」

「知らねーよ。じぶんで見ればいいだろう。結構な性癖だぞ?」

「性癖じゃないっ! 男としての尊厳が、いろんな意味で大事なものを喪失しそうな、そんな危機感を感じているんだからっ、あっ、あと、大事なことがまだあるんだけど?」

「……なんだ?」

「おれ、包茎だよ? かまわない?」

「知らねーよ!!!」

「大事なことでしょう? これって?? あ、でも心配しないで、仮性だから。手術とかまではしなくてもいいヤツ……!」

「そっちのねーちゃんが横向いちまったぞ?」

「ああん、ごめんなさいごめんなさい! とっととヤルから許してっ! とっとと……うふううっ、あ、あっ!?」


 焦って左手のモーションの勢いがまたいちだんと速くなったあたりで、奇しくも周囲のディスプレイに強いノイズが走った。座席の下のあたり、奥底から低い唸りがとどろくのを感じる。それはエンジンの稼働音とでもいうものか? 徐々に強く、このコクピット全体を震わせるまでになる……!

「おう、やっと勃たせやがったのか! 仮性でも立派なもんだ! 快調快調!! ようしっ、これなら楽に動かせるな? ちなみにまだイッてないんだよな?」

「いっ、イッてない……けど! イッちゃダメなの? ああん、もうやだよっ、これって立派なセクハラじゃない!?」

「いいから、だったら今のうちにきれいに皮をむいておけよ? よりダイレクトにビンビンに感じられるように! 何事も感度が大事だ! 男子が発情する上で、妄想を爆発させる上で、アソコの暴発を防ぐためにもな!! エロがまんまパワーになるコイツには快感こそが何よりのガソリン、原動力になるんだ。わかるだろ?」

 どうやら当人もノって来たらしい。おっかないこと。それはご機嫌なおじさんの自衛官とは思えないぶっちゃけ発言に、前のめりの姿勢でどうにか後ろを振り向くモブは涙目で声を震わせる。

「わかんないっ! てか、あんまりヘンなこと言わないでよっ、他にもギャラリーいるんだから! あとおれやるときは必ず皮はむいてるから、言われるもでもないし! そんなことまで他人からとやかく言われたくない!!」

「いいのか? 右の画面のおねーちゃん、どっかに行っちまったぞ?」

「ああんっ、ごめんなさいごめんなさい! あれ、いるじゃん? ああ、なんかごめんなさいっ……ほんとに泣きたい!」

『……構いません。どうかそのまま萎縮させないように、そのままを保ってください。わたしは、応援してます……』


「お、応援? なんなの、これ……??」

 頭の中でいろんな?と!がひたすらにガチャガチャと渦巻くが、左手の画面の真顔の監督官がまじめな口調で言ってくれた。
 ほんとにイカれた自衛官たちだ。後ろのも含めて。

『……んっ、ジュゲムの主動力源が解放されたのがたった今、確認された。現在、パイロットの行為と同期、同調、各部のエナジー・バランスゲージも上昇、ジュゲム、半覚醒から覚醒領域に突入! やれやれ、オタクに祝福あれだ……!』

 そこでかすかな苦笑いになったのか? 聞こえないくらいのため息をついたらしい村井がまた真顔になって小型画面から彼なりのエールを送ってくれる。エールなのだろう。たぶん。

『ならばそう、きみのこれからの働きに期待しているよ、税金たんまりつぎ込まれるから、どうかはっりきって励んでくれたまえ、その行為に!』

 眉をひそめるオタクは気持ちが乗るどころかこの手元がすべりかけて態勢まで崩す。しっかりとはめた太いベルトが座席からズリ落ちるのを防いでくれたが、この視線のやり場を完全に見失っていた。

「ううっ、なんかビミョー過ぎるんだよな、言ってることが? オナニーに補助金て出るものなの? こんなのSNSに上がったらメタメタ炎上しない? これが世の中のためになるの? なんで? あと、おれはこのロボでいったい何と戦うの???」

 手元の快感を忘れかけていると背後から指導警告が出される。
 背後からはこの頭が邪魔して見えないと思っていたのが、おそらくはこの背中の気配と身動きの微妙な変化で捉えてるのか?
 イヤな鬼教官どのだった。 

「こらっ、手元をおろそかにするな! はじめに言ったとおり、そいつがこのロボの操縦桿であり、引き金なんだ!! 萎えたら即、起動停止! 敵にスキを与えることになるぞ? 場合によっちゃたちまち致命傷だ! 戦場はおまえが思っているよりもずっとシビアなんだからな?」

「ひ、引き金ってのははじめて聞いたんだけど? そ、それっていわゆる射精……! ほんとにまんまをやらなきゃならないの? だって、ナニに対して???」

 とんでもない状況だ。まさしく想像を絶するほどの。心底困惑顔で聞いてやるに、つかの間の静寂の後、後部座席でしたり顔したおやじは口元にニヒルな笑みで意味深なことぬかしてくれる。

「じきにわかる。おれたちの戦場に着いたらな……!」

 完全に立ち上がったみずからのイチモツを自然と強く握り締めて、愕然と瞳を戦かせるモブだった。不安しかない。あとこうなるとこの腰回りのスカートが邪魔だなとちらりと前の小型画面のふたりに目を向ける、どうやらこの腰から下には目が行ってないものだと解するオタクだ。今はまさしくひと目を忍んでやる行為そのものだが、ためしに目隠しの前掛けぱらりとめくってみたら、それで気持ちがだいぶ楽になった。普段は感じられることがない、なんとも言えない開放感がある。クセになりそうだ。

「ああ、なんかもう、見られてもいいや……! 仕方ないもんね? おれのせいじゃない、すべてはこのおじさんたちが強要していることなんだから、言ったらこの国が悪いんだよ……!」

 開き直ってみずからの操縦桿をまんま突き出すでぶちんパイロットだ。傍から見たら相当な絵面なのだが、おかまいなしにイチモツをゆっくりと上下動させる。いつものまんまにだ。それでロボ自体も揺れが強くなるのが面白かった。ドドンっ!今にも動き出しそうなくらいだ。
 それでこの薄暗く閉ざされた格納庫からどうやって移動するのかと考え始めた頃に、背後からまた思いもよらない命令を発せられるモブだった。

「ようし、それじゃさっさと発進させるか! 機体の出力調整は逐一、現場でやればいい、コイツの操作方法も含めてだな? おいデブ、じゃなくてモブ! 覚悟は決まったな? いきなり実戦だがビビるなよ、まずはちんちんテレポートだ。ここから現場まで一気に発射もとい、出撃する! チャック解放、よーい!!」

「! チャック?? へ、なに言ってるの? チャックってあのチャック? ないじゃんそんなの? どこにも??」

 またしても手元がおろそかになりかけるのを周りからの視線に注意されて握り直すバカオタク。背後のおふざけ教官、ぬしは不敵な笑みでこれを見下ろす。

「ある! 見てビビるなよ? それじゃ、開口部の誘導と現出点の補正は今日のところは全部こっちでやってやるから、おまえは気合いを入れて目の前の現象、および自身の発情行為に全力で取り組め! ただし、イッたらおしまいだ! ちゃんと加減はしろ!」

「はあっ? ヤレって言いながらイッたらダメだとか、意味がわからないよっ、もはや何から何まで!? あっふ、やばっ!」

 みずからのちんちん掴んだままでひたすら狼狽する新人パイロットの痴態にも、おかまいなしに上段からまくしたてる鬼の教官さまだ。

「おい、イクのは最後だぞ? いいからヤることヤれ! いいか、チャックってのは空間を任意に切り開いて一気にコイツを別空間に解放、ぶちまけさせるある種の裏技、ショートカットだな? オタクにわかりやすく言うなら瞬間移動かワープ!」

「なに言ってるんだかさっぱりわかんないっ! チャックって、そこからアレをぽろんて出すためであって、こんなでっかいロボがそれで移動とかありえないじゃんっ、だいたいどこにそんなのが……あ、あった!!?」

 目の前の大画面モニターに映し出された薄暗がりの中に、突如として青白い光源が発生! いきなりだ。はじめ一本の縦の線状だったそれが、みるみる内に太くてギザギザな、デコボコした任意のカタチを形成していく。まさしくズボンのジッパー、あの股間のチャックみたいな形状にである。何もない虚空に、それだけがジャジャーン!と出現した。ウソみたいにだ。

「はっ、なにこれ!? ほんとにチャックみたいなのが出てきたよ? え、どういうこと? おれこのままヤッてていいの?」

 ぽかんとした表情でそれを見つめてしまう何も知らないオタクくんに、背後で何でも知ってるおじさんがさも得意げに言ってくれる。

「おまえがナニをしているから出てきたんだよ! やめちまったら即、パワーダウンしてはいさよならだ! 決して手を止めるなよ? ようし、ちんちん、手元の操縦桿がイキってることを常に意識しながら、目の前のチャックに強く念を込めろ……!」

「……へ???」

「フッ、そうすりゃ、導いてくれるさ、おまえとこのロボもろとも、あるべきところへとな! 一瞬にして! その場所こそがおまえが全身全霊でナニをするべき真の戦場だ!!」

 言ってることが何一つ理解できなかった。
 むしろ理解しちゃダメな気がするでぶちんだ。
 完全にそれのカタチで目の前に現れた怪現象に、完全にどん引きして身をすくませる。股間のナニだけはすくませないようにキャッチ・アンド・リリース繰り返しながら、途方に暮れていた。
 もう帰りたい。
 後ろのおじさんが背中を蹴飛ばすくらいの勢いで号令を発する。もはや従うほかない悲しきオタクのフリーターだ。
 もう泣いてた。

「どうらっ、そのギザギザしたチャックの奥に意識を集中しろっ、左手のイチモツ軽くだけシコリながら! そうそうっ、いい調子だ!! 慣れてるな? おまえ才能があるぞっ、はじめてでここまでコイツの調子を出させるオタクはそうはいない!!」

 ほんとにどうかしてるうしろの教官は実は呪縛霊かなにかなのかと疑ってしまうモブだが、そのオナニーおばけが声高に言い放つ。圧倒されるオタク、ついでにそのちんちんだ。あぶない。

「そうらっ、それじゃあ一緒にいくぞ!! せえーのっ……!!」

「えっ、え? イクって、ここでフィニッシュ!? イッちゃっていいの? ちがうっ?? わかんないって!!」

「だからイッちゃだめだと言ってるだろうが! このばかちんのでぶちんが!!! 行くのは戦場だ! 座標軸確定、ゆくぞっ、チャック解放! 広がった空間歪曲口にただちにロボ挿入!!」

「そっ、そうにゅう!? なんかヤらしい!! わっ、わっ、わああああああああああっっっっ!!?」

 上からジャラララララララ~~~っ!と開かれているチャックの向こうは真っ暗闇で、その中にまぶしい光をともなって頭から吸い込まれていく大型ロボだ。その中でこの様子をリアルタイムで見ていたオタクのパイロットは、瞬きひとつした後にはおのれがまったく別の場所に立ってたことを事実として知らされる。

「え? え、え?? ここって…………!!?」

 まさしく戦場であった――。

 



 

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変態機甲兵〈オタク・ロボ〉 ジュゲム file-06 ドラフト!

アキバで拉致られババンバン♪ ⑥

なろうとカクヨムで公開中のジュゲムの下書き版です!  ノベルの更新に重きを置いて、挿し絵はもはやかなりテキトーになりますwww

※太字の部分は、なろうとカクヨムで公開済みです。そちらが加筆と修正された完成版となります(^o^)

 

 ゴ、ゴゴゴゴゴッーーーンンンッ……!

 期せずして、固く閉ざされたコクピット・ハッチ――。
 金属製の分厚い装甲板は、人間の手では押し返せないだろう。
 それきりに静まり返った半球状型のメカニカルな室内に、みずからの息遣いだけがやけにはっきりと意識される。

「ぬっ、ぬしっ…………!?」

 ついさっきまでののほほんとした雰囲気が一転、異様な緊張感に包まれる戦闘ロボ?のコクピットだ。
 今や完全に外界と隔離隔絶されてしまった密閉空間……!
 そこで謎のおやじと対峙することになったオタクは、ひどい困惑顔で言葉に詰まるのだった。無理もない。
 何しろここはよく分からないロボの操縦室で、よくわからないままにパイロットスーツを着させられたじぶんが、よくわからないままにこの操縦席に座らされて、挙げ句になんだかさっぱりわからないおじさんと、何故だかこうして向かい合っている……。 

 は??? である。

 およそ筆舌に尽くしがたい状況だ。もはやどこをどう取っても、何人たりとも理解不能! 控えめに言っても詰みだろう。
 とにかくしんどい。
 とは言えここで降参しても事態は何ら変わらないのは明白。
 抱え込んだ背もたれにしっかりと上体預けて、見上げる眼前の強敵と向き合うデブだ。
 はじめひとりきりだったはずなのに、おじさんはどこからともなくいきなり出現した言わばちん入者だった。
 少なくとも呼んだ覚えはない。
 そう何しろ当の本人は、のっけから言動が粗野で横暴!
 バリバリにマッチョのあからさまな体育会系気質で、このモブが一番苦手とする部類の人種であるのだから……。
 強いて老害とまでは言わないまでも、こんなの間違っても味方じゃないだろうと猜疑心の塊みたいな目つきで、ずっと年上のおまけ高飛車なおっさんを見つめる。

 じいっと……!

 じぶんと同じパイロットスーツを身につけているあたりから、おそらくは自衛隊の人間なのだろうか?

「自衛官? うそでしょ、こんなのが! おまけになんか、ぬしとか言ってるし……?」

 焦燥感と共にもやもやした感情がこの胸の内を占める。
 相手の出方を見ていてもこれと目立った動きがないので、仕方もなくこちらから言葉を発していた。

「…………おっ、おじさん、だれ? なんでそこにいるの??」

 ぶっちゃけわからないことだらけなのだが中でも一番の疑問点だ。警戒心をまるで隠しもしない険しい表情で聞いてやるに、偉そうに腕組みなんかして後部座席にでんと陣取ったその人物は、口元にニヒルな笑みを浮かべてこちらを見下ろしてくる。
 実際に高くから見下ろされてはいるのだが、あからさまな上から目線にちょっとイラッとくるモブだった。
 このじぶんと同じパイロットスーツを着込んでいるのがむしろ怪しい。でもどうやらビミョーに色違いみたいだな?と思ったあたりで、やっと角刈り頭のおっさんはこの口を開いた。

「なんでもナニも、はじめからここに居たと言ってるだろう? おまえが気づくのが遅かっただけだ。この寝ぼけ小僧が!」

「ね、ねぼけっ? いやいやいやいやいやっ! 寝ぼけてなんかないって!! ちゃんと見たもん、おれ!! はじめはいなかった! こんなふざけたおじさんどこにも!! 寝ぼけてたってわかるじゃんっ、こんな加齢臭がキツそうなこきたない中年!!」

「まず世の中年みんなに謝れよ? 今どきはアウトな発言だろう、やっぱり寝ぼけていやがるな! おっし、じゃあツラ出せ、そのパンパンに肥えた肉まんヅラ往復で優しくビンタしてやるから、それで目が覚めるだろ? それこそパンパンってな!」

「優しくってなに? うそつけ、そっちのほうがアウトじゃん!? タチが悪いよっ!! おれ言っておくけど暴力に対する耐性ゼロだから、そんなことされたら一生、使い物にならなくなるよっ? もう黒歴史化してるけど身内のコネで入った上場企業だってそれで一発退場してるし、この体格の人間が無力化したら誰にも手に負えなくなるんだからねっっ!!!」

「やかましいっ、その腐った根性叩きなおすならなおさら力ずくしかねえだろうが! おまえ、世の中をなんだと思ってやがる? おまえを中心に回る世界じゃねえだろ、ちっとは我慢なり努力なりを覚えろ。せめてまだ若くて足腰がちゃんと立つ内に!」

「こんな得たいの知れない不審者なんかに言われたくないっ! まずじぶんがなんなのかはっきりさせてよっ!! おれはおれなり頑張ってるし、何より今はこんなワケわかんないことになってるし!! おれこの被害者ポジションは死んでも死守するよ!!!」

 売り言葉に買い言葉だ。かなりしょうもない。
 オタクとオヤジがやかましいラリーをひとしきりやってから、顔を上気させて荒い鼻息をつくモブに、見下ろすおやじはこのいかつい両肩をすくめさせる。ため息もついたか?

「……ふうっ、まったく呆れたデブだな。死んだら死守もへったくれないだろうが? ま、ある意味、見上げたもんだが……おい、褒めちゃいないからな? ふん、それじゃ改めて教えてやるが、さっきも名乗ったとおりだぞ? ん、おれは見てのとおりで、ここの主だ。以上!」

 断言!!!

 それでただちにラリー再開かと思いきや、頭から湯気でも出しそうなでぶちんが何やらふと思いついたか?
 その特徴的な太い眉をひそめて怪訝な顔つきするのだ。
 これに正体不明の男ときたら、広い背中を背もたれに預けたままでアゴまで突き出す。完全な上から目線だ。おまけにまたもやしての、大きなため息……!

「ぜんっぜんわかんないじゃんっ!! そんなのなんにも名乗ってなんかないって! あ、じゃあじゃあ、ひょっとして、ぬしさんて名前なの? キラキラ名字? ならせめて大名とか将軍とか公家さんとか、ほかにいくらだって……」

「はあぁっ、たく! このデブ、ほんとうに寝ぼけてやがるのか? そんなわけがねーだろ。いいや、ならまずはてめえの名前から名乗ったらどうんなんだ? あいにくおれはまだ聞いてないぞ。初対面の相手に対する礼儀としてだ、減らず口のでぶちんくん?」

「礼儀っ? 不審者が言う?? おじさんみたいな社会不適合者の見本みたいなひとが言ったら一番ダメなヤツなんじゃない?」

「ぐだぐだうるせーぞ。そんなだから、そのでぶった身体に一発入れられちまうんだろう! この世の中、どこでだって役立たずの大口叩きはサンドバッグにされるのがせいぜいだ。他に使い道がねーからな? おまえもそう思うだろう、その顔にそう描いてある! いやっ、どうでもいいか……!」 

 四角い角刈り頭をボリボリかいて目線を外すおじさん。
 どうやら図星だったらしいオタクくんは、その顔にはっきりと焦燥の影が浮かぶのだが、負けじと反発してただちにやり返す。

「な、なんだよっ、減らず口はそっちじゃん! あとそう言うおじさんだって、そのでかい態度でしっかり大口叩いてるからね? なんでそんな偉そうな口をきけるのか理由が聞きたいよっ、体育会系の人間、ほんとにキライだっ!!」

「わかったわかった! あいにくとこの態度がでかいのは生まれつきだ。諦めろ。あとおまえの名前についてはもちろん知ってる、とっくの昔にな? ちゃんとこっちにも個人情報として上がってるし……そうだ」

 それきりどこか遠くを見るような目つきになって、おまけどこともしれない虚空をじっと見据える不審者だ。これにつられて思わずみずからの背後を振り返るモブなのだが、周囲にはどこにもこれと言った変化はなかった。
 何を見ているとも知れないおやじは、なおも虚空に焦点を合わせて何やら読み上げてくれる。

「ふん、そうだったな、オタクダ……小宅田、盛武だな? 名字はこの際、置いておいて、このモブってのはずいぶんとアレだな? 他人が見たらいじらないわけにいかねえだろ? ご立派な字面がまたなんとも、おい、親は嫌がらせで付けたのか?」

 ちょっとモラハラめいた皮肉っぽい感想には、真顔で答えるモブだった。親の顔は良く思い出せない。だから恨みもない。

「そんなわけないじゃん。でもオタクでモブだなんて、確かに皮肉だよね? でもおれ、嫌いじゃないし……! だっていかにもこのおれっぽいじゃん! これってヘンかな? 不審者のおじさんからしても? おれ、まだ納得してないからね??」

 落ち着いた口ぶりで言いながらじっと冷めた眼差しで見上げてくる肥満のオタクに、精悍な面構えのいい歳のおじさんがへの字口してまた目を向けてくる。

「わかった、わかった! つうか、ここの説明はまるきり外で聞いてないのか? あいつめ……! というか、おまえも良くそんな間抜け面でのこのことここに乗り込んできたな? そんなにガッチリと身を固めて! よくもまあ、ここまでデブのパイロットははじめて見たぞ。正直、まったく似合ってない! 金をドブに捨ててるも同然だろ、どのツラさげて身につけたんだ? そんなサイズよくあったな?」

 言い方がことごとくモラってるオヤジの文句をそれなり聞き流す耐性がついてきたらしい新人パイロットだ。
 渋いツラで視線をよそに背ける。苦々しく言った。

「勝手に身体を採寸されて、おまけにさんざん強要されて、やむなくこうなったんだよ! 好きでやってるわけじゃないから、勘違いしないでね。それじゃついでに聞かせてもらうけど、おれどうなっちゃうの? ぬしって確かに聞いた覚えがあるけど、それだけじゃさっぱりじゃん。おじさん、ほんとに怪しい人間じゃないんだよね??」

「これからわかるだろ。習うより慣れろだ! おれの教育方針、主としての矜持ってヤツだな。わからんか。だが慣れるしかない、なんせ、やることはシンプルでとってもカンタンだからな? アレだ。まさかそのくらいは聞かされているんだろう?」

「アレ…………???」

 キョトンとした顔で微妙な間が生じるのに、呆れたさまで口をさらにへの字にするおっさん、通称でぬしは両手を万歳させる。

「やれやれ! こいつは教育のしがいがありやがるな? 場合によっちゃ調教か? 何にしても若いんだからそう問題はなさそうだが、ちゃんと節度をもってきれいにやりきれよ? 万一に汚したら、じぶんできれいにすること。立つ鳥、後を濁さずだ! そこらへんをケアするグッズはもろもろちゃんと常備されているんだ。思ったのが無ければ申請すれば用意もしてくれる……税金でな!」

「え、なに、言ってるの? さっきから?? おじさん???」

 怪訝も怪訝の表情でひたすら見つめてくる丸顔に、四角い角刈りがニヒルに笑って促しくれる。
 それじゃはじめるぞとばかりに……!

「いいから、気持ちを切り替えろ。それじゃ、主電源入れるぞ。コクピットシステム、スタンバイ、待機モード解除、各種ディスプレイオン! おい、下手に計器に触れるなよ? 遮断されていた外部との通信も開放、信号、アナログからデジタルに切り替え、外部接続切り離し……ようし、オラ、とっとと前向け、前! 回れ、右っ! 左か?」

「え、なに、なにっ、なにっっ!? ちょっと……わっ!!」 

 後部座席にふんぞり返るおやじの一方的な号令によって、それまで電源が落とされていた周囲の操作盤やディスプレイに次々と明かりが点されてゆく。それまでただの白い壁だったはずの壁面がぼんやりとした暗い色を灯すが、このロボの周りの景色を映しているのだとすぐにわかる。周囲は薄暗い格納庫だ。

「え、すごっ、マジでロボのコクピットみたいだ、じゃなくて、マジなんだ! こんなのアニメの世界じゃんっ……!!」

 言えば360度ほぼ全ての視界をまんまリアルタイムで投影した全方位型モニターに圧倒されるオタクだ。前に向き直った姿勢でピキリと硬直してしまうが、そんなのお構いなしで背後のオヤジのがなりが耳朶を打つ。
 室内にこもる低い機動音と共に言い放たれたそれに、だがはじめ、えっ?とこの耳を疑うモブだった。

「第一操縦席操縦者(メインパイロット)、ただちにスロットルレバー用意! おい、ぼっとしてるな、おまえのことだぞ? おら、さっさと用意しろ、操縦桿(ちんちん)!!」

「へっ? ちんち……なに言ってるの? 操縦桿? そんなのどこにもないじゃない?」

 身の回りをキョロキョロと見回してから、思わずまた背後を振り返って目を丸くするでぶちんに、これを見下ろすおやじは真顔でしれっと言ってのける。

「あるだろう、おまえのが? その股のあいだに? ちゃんと立派なのがぶら下がってるんだろう、そこに? いやだから、その真ん中のヤツ、その竿だ。しっかりとしごいて立たせておけよ、でないとまともに機動しないだろう、コイツが!」

「は? は?? は??? はあああああああっっっ!!?」

 一瞬だけみずからの下半身に目をやって、そこから戦いた瞳を背後に向けるモブだった。相手はただただ真顔で見下ろして来る。何やら絶望に近いものがあったのは、気のせいじゃないだろう。
 おやじ、自称・ぬしは舌打ちまじりにぬかしてくれた。

「ちっ……こいつめ、ほんとに何も聞かされてないんだな? まったく、面倒にもほどがあるだろう。ここは幼稚園じゃねえんだぞ! いいから、主電源が入らなければコイツのコアが覚醒しないから、とっととやれ、ナニを、ここまで言われればわかるだろ? アレだよ、アレ! 男の子ならみんな大好きなアレだ、そら、できたら利き手でないほうでやれよ? 利き手がふさがるといろいろ細かい操作がしずらいだろ、まだはじめの内は……」

「ま、待って! ほんとにわけがわからないんだけど、アレって、え、まさかアレ、アレのこと言ってるの?? え、違うよね? アレっ???」

「それだよ。いまおまえがその頭の中で思い描いているヤツ、行為、そいつで間違いない。おまえぐらいの年齢なら毎日だってありえるだろ? それでいい。さっさと握ってちゃっちゃと気持ちよくスタンバイさせろ! 
そうとも、何を隠そう、それこそがコイツの操縦桿だっ!!」

「なっ、なな、な……あれ、ナニ、これ?」

 あらためてじぶんの下半身に目を落とすに、今さらになってそのパイロットスーツのおかしな部分に目がとまるパイロットだ。
 ガッチリした見た目のわり、この腰回りの部分だけがやけに自由で拘束感がないなと思ったら、そこだけ造りがおかしな見てくれになっている。言えばスカートみたいにぐるりと布が張り巡らされて、目隠しの前掛けみたいなのがヒラヒラと垂れ下がっているのだが、その下の感覚がやけに自由ですっきりとしている。
 それが逆に違和感だ。
 スカート?の裾の端っこ指先でつまんでみて、おそるおそるにめくったその下を覗きこむモブの身動きがピタリと止まった。
 ぎこちなく振り返るオタクは顔つきが困惑の極致だ。

「…………なに、コレ? スカートめくったら、モノがまんまあるんですけど? おれのナニが、タマもチンもことごとく丸見えなんですけど、え、なんで???」

「あん、何でもナニも、もとからそういう仕様だからだろ? 一刻一秒を争う状況下で、いざナニをしようって時にいちいちパンツなんてズリ下ろしてたら手間だから、搭乗者(パイロット)のイチモツは常に丸出しの状態なんだよ! だから外から見えないようにその前掛け(ガード)があるんだろうが、かろうじての目隠しで? スカートとか言うんじゃない」

 ごたくはいいからさっさと握れと真顔の目つきで催促してくれるぬしのおじさんに、新米パイロットのでぶちん、モブはぎょっとした顔つきで口をパクパクさせる。理解が追いつかなかった。

「一刻一秒を争う状況でナニ? ……えっ、あ、え、マジで、どういうことになってるの? いきなり握れって、ナニをしろとか、まったく意味がわからないんだけど?? おれって、ロボのパイロットなんだよね???」

「だからだろう! いいか、こいつはいわゆるエロを原動力として稼働制御するオタクシステム実装型ロボットなんだ。世に言う自家発電、エコシステムの極みだな! つまりはおまえの発情、ないし欲情と妄想によるエロパワーでのみ動かすことができるんだよ。だから最低限、勃起せんことにゃ一歩たりとも動きやしない。逆に言ったら、パイロットは常にじぶんのイチモツを握り締めておかなきゃならないんだ! 萎えたら即、パワーダウンだからな!! ただちに起動停止でおまえさんの勃起待ちになる」

 なに言ってんの?????

 絶句するモブに、高くから見下ろしてくるおじさんは容赦ない。早口でまくし立ててくれた。

「いいから、さっさと得意のポジションに入って自慢のブツを起ち上げろ。いつもやってんだろ! 人目を忍んでコソコソと?あ、シートベルトはしっかりと締めろよ。頑丈な四点式フルハーネスだ。ロボは意外と揺れるから、握りが安定しないとおちおちナニもできないだろ? そうでなくともパイロットはベルト必着! 結構手間がかかるから、握る前で良かったな?」

「ボッキとかナニとか、さっきからほんとになに言ってるの?? おれやらないよ、そんなこと? やるわけないじゃん! ひとまえでそんなこと!!」

 やっと事態が飲み込めたとおぼしきオタクは、同時に激しく反論もする。無理もない。目を覚ましてからこれまでまともな展開がひとつもないと憤慨しつつ、背後で教官よろしくふんぞり返るおやじに牙をむいた。

「だだだっ、だって、それって、それってば、お、オナ、ニー、でしょ? だだ、ダメに決まってんじゃん! そんなのっ!? ここってほんとに自衛隊!!?」

 声を裏返らせる若者に、酸い甘いもかみ分けてそうな渋いツラした年長者が少しの衒いもなしに応じる。ひどい話だ。

「おう。いわゆる自慰行為、またの名をマスターベーションとも言うな? 老いも若きも男子たる者みんな大好き、それすなわちオナニーだ! 別に恥じることないだろう、性欲なんて誰しもみんな持っているんだ。どこぞの医者に言わせりゃ、メンタルヘルスにも大きく関わる大事なひととしての営みだろ? ただの日常茶飯事だ。最近じゃセルフ・プレジャーなんてキラキラした言葉も出始めたとか? 言ってることは変わりゃしないのにな!」

「はっきり言った! このおじさんはっきり言った!! まともじゃ考えられないよっ!! ぜったいに自衛官なんかじゃない!!!」

 顔を真っ赤に赤らめてみずからの股間を自然と押さえてしまうモブだった。ひどい危機感にさいなまれる。なんかひととして大事なものを失うような、ひたすら絶望的な未来が待ち受けている、その入り口にみずからが立たされているような?

「俺のことはどうでもいいだろう? はっきりしていることは、この場でおまえが気持ちよくならにゃ話がはじまらんてことだ。イチミリもな? 別にひとがよがってるところ見て楽しむような性癖はないから、好きなだけ盛大にやってくれて構わない。見やしねえ。そういう場所だし、そういう仕事なんだしな! これのパイロットたる者の宿命だ。ほれ、手が止まってるだろ、いいから、行為再開! ただしぬくのはまだだぞ? まだイクな!! あとベルトも締めろ」

「最初からやってない!!! やるわけないって! 頭おかしいだろっ、エロで動くロボなんて聞いたことないって! そんなのありえないって!!」

 絶対やらないと固く誓うモブなのだが、あいにくとさらなる追い打ちが仕掛けられることになる。おまけに外部からだ。

「んっ……!」

 はじめに背後のおじさん、後部座席のぬしが何かしらに気づいたかの反応をした直後、コクピットの前面の大画面モニターに大きくふたつの顔が浮かび上がる。大きく二つに区切った四角い表示窓枠に、忘れもしない、あのふたりのおとなたちが映し出される……!

「あっ! か、監督官のおじさんと、監査官のおねーさん! ちょ、ちょっと、助けてよっ、偉いことになってる! おれ、すごいこと言われちゃってる!! このおじさんにっ!!!」

 またしてもあの無表情な真顔で登場したバストアップの中年自衛官とおぼしき監督官に必死に訴えるのに、相手はとかく澄ました表情で返してくる。

「……おじさん? はて、意味があまりよく分からないが。オタクダくん、そちらの状況はどうなっている? ロボ、ジュゲムのスタンバイまでは確認できたが、肝心のコアの起動が未確認だ。まだやってないのかね、その、済まない、面倒だからはっきりと言わせてくれ。きみの操縦桿の起ち上げ、つまるところでオナニーは?」

「わああああっ!? このおじさんまでなに言ってるの??? しかもこんな若いおねーさんの前で!!!」

 慌てふためくモブなのだが、股間を押さえる手にグッと力が入る。突然の異性の存在を意識したらちょっと反応しかけるのを慌てて押さえつけるだが、あいにくとモニターにドアップのメガネ女子はまるきりの無表情だ。相変わらずメガネが光っている。
 挙げ句に表情ひとつ変えない監督官の村井が悪びれることも無くぬかした。


「事態は急を要する。とっととやりたまえ。国の未来がかかっているんだ。それともまだナニか不足があるのかね?」

 ほんとに逃げ道がないとあんぐり口を開けて反応に窮するモブに、かわりに後ろのおじさんがほざいてよこした。

「ん、おまえ、ひょっとして座りよりも寝ながらじゃないとできないってタチか? ガキンチョが! なんならその座席取っ払えるから、床にまんまベタで寝るか? あいにく布団までは用意できないが?」

「うう、うっさいな! 余計な茶々入れないでよ!! 村井さんっ、おれこのおじさん嫌い!! どうにかしてよっ!!?」

 必死に助けを求めるのに、大きな画面でドアップの自称・監督官はやはり無表情だ。こちらを見つめる視線に怪訝なものがあるのに微妙な違和感を感じるモブであったか。

 あれ? なにこのヘンな間は??

 奇妙に思ってるそばから相手が不可解なことを言い出すのに、なおのこと怪訝に顔つきをひそめるパイロットである。

「済まない。こちらからはこの状況が確認できないのだが、そのロボの主には会えたのだね? 外部電源からの予備動力の稼働は確認できたから接触はしたものと推測はされるが……?」

「は? なに言ってるの? いるでしょう、そこに、後ろでこんなしっかりとふんぞり返ってるじゃん! おじさんが!!」

 ビッと後ろを指さしての訴えにもモニターの中の監督官は無表情だ。おじさんとおじさんの目線が合ってない。当のぬしはそしらぬ顔して耳の穴をほじくってる。監査官のおねーさんもまるで無反応でメガネを光らせたままだ。そのメガネどうなってんのと思いつつ、監督官に改めて向き直るモブ。

「えっ、どうしたの、話が通じてないみたいだけど?」

 股間のブツが萎縮するのを意識しながら聞き返すと、そこから返ってくるのは思いも寄らない言葉だった。唖然呆然と乗り出していた身がシートの背もたれにどっともたれる。
 監督官は多少困惑の色を浮かべながら冷静に言うのだ。

「あいにくとそれはきみにしか見えないのだ。ぬしはじぶんが認めたパイロットの前にしかその姿を現さない……!」

「は…………???」

 こんなにはっきり見えているのに何を言っているんだとただひたすらに相手の顔を見つめてしまう。ふざけているのかと。
 だがこれにその右手の表示窓で沈黙を守っていたメガネっ子の監査官、若いおねーさんがおもむろにこの口を開く。
 それにもまじまじと目を見開いてしまうモブだった。

「申し訳ありません。そちらの監督官の言葉にもあったとおり、わたしにもあなたがいうおじさん、もとい、ぬしの姿は確認することができません。後部座席は無人の状態としか認識が……」

 細い首をかすかに振って口ごもるのに、信じられない思いで額に汗を浮かべるデブチンのパイロットだ。

「え、なんで??」


 ものすごく重たい沈黙がその場を支配する。
 もはやナニどころではなくなった空気と状況に戦慄するモブはおそるおそるに背後を振り返る。やはりふんぞり返るおじさん。
 じぶんにはしっかりと見えている。
 それなのに――。

「そ、それじゃあこのおじさん、ぬしって…………!」

 どこかあさっての方向を向いていたのがこちらに視線を向けて、ニンマリと意味深な笑みを浮かべるオヤジだった。
 混迷を深めるロボのコクピット、オタクとオヤジの攻防戦はまだはじまったばかりだ……!

随時に更新されます(^o^)w

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変態機甲兵〈オタク・ロボ〉 ジュゲム file-05 ドラフト!

アキバで拉致られババンバン♪ ⑤

なろうとカクヨムで公開中のジュゲムの下書き版です!ノベルの更新に重きを置いて、挿し絵はかなりテキトーになりますwww

※なろうやカクヨムに公開した部分は太字になりますw

Episode-file-05


 薄暗がりに乾いた足音とかすかに金属がきしむ音が響いた。
 丸っこい影がやや前傾姿勢でとぼとぼと進む。
 のろくとも終着地点はあっという間だ。

「あ~ぁ、とうとう来ちゃったよ、言われるがままにわけわかんないところまで……! ううっ、あ、でもここって誰もいないんだっけ? じゃあどっかに脇道とか……!」

 問答無用で暗闇に伸びる搭乗口をひとりで渡らされ、いまだに逃げ道など探してキョロキョロと辺りを見渡す肥満のうっかりパイロットだ。
 この背後を振り返ってもふたりの自衛官たちの姿はうっすらとした影だけで、今はもうじぶんしか確かなものがない。
 ゲームオーバーだと心底げんなりして、仕方もなく前へと向き直った。もはやそこにしか道はない。目の前のシビアな現実と向き合う以外には……!

「うわぁ、マジで引く……! ハリボテだったら良かったのに、ホンマモンじゃん、マジでいくらかかったの? そもそもでロボってこんな実用段階だったんだ? これでどうすんの??」

 正面に巨大な神像のごとくに立ちはだかる人型ロボ……!
 その中心で大きく開かれたコクピットのハッチ、この内側からぼんやりと光を放つ操縦席に入ればいいのはわかるのだが、そこに入るだけの理由が個人的には一切見当たらない。怖いくらいに皆無だ。
 やっぱり引き返そうかと踵を返しかけたところで、折しも低い地響きを立てて軽合金製の地面が地の底深くへと落ちていく。

「あっ? え、ちょ、ちょっと……そんなぁ!」

 それきりに足下にぽっかりと開けた谷底とその暗闇に、下をのぞき込んでもこの床らしきが見えない。ううっ、こりゃマジで危いぞ!と後ずさる小心者はひたすら絶句してしまう。
 まんまと帰り道までふさがれて、表情が見えない対岸の中年自衛官をマジマジとみやるオタクの青年、モブだった。
 どうせ真顔なのだろうが。

「鬼だ……! ひとをオタク呼ばわりして、こんな仕打ちまで。人権無視で訴えてやりたい。でももう、無理か……入るしかないんだよね、この中に? はああっ……」

 ため息ついて重たい身体を動かした。
 特注品で身体にピッタリのスーツは手足の動きをスムーズにトレースしてくれるから、この身動きにおいて苦労はしない。むしろ楽なくらいだった。
 おかげで思ったよりもちょっと高くにあるコクピットへの段差も楽によじ登れた。おそらくは他にもっと楽な登り口なりがあるのかも知れないが、暗いからよくわからない。まずは頭から中に潜り込んでその場に四つん這いになり、すると勢い、でかい尻だけが外に丸出しの状態となったか。気のせいか尻のあたりがヒヤッとするのを感じる。あんまりひとには見せられないやと即座に引っ込めようとした途端に、静けさの中におかしな破裂音が鳴った。
 ブッ……!
 あっと気まずい表情になってその場に突っ伏すモブだ。

「ああん、無理して変な態勢になったら、おなかに力が入っておならが出ちゃった……! サイアク、聞かれてないかな?」

 後ろを振り返ってもあいにくでかいケツ越しの狭い視界は闇の中だ。これと反応がないから聞かれてないことを願いながら、周りの状況にやっとこの意識を持っていく。察するに、分厚い金属の装甲部にじぶんはまだいて、操縦席はもっと奥にあった。内部は明るい。

「うわ、くっさいなっ、我ながら! 何食べたっけ? ほんとにサイアクだ。厄日だよ。早く中に入ろっ……」

 まさかじぶんの屁に追い立てられてられるとは……。
 ちょっとだけ顔を赤らめて気まずい表情のオタクのでぶちんはいそいそとロボのコクピットに搭乗。思ったよりもずっと奥行きと広がりがあるのに目を丸くするのだった。

「ええ、こんなに広いんだ? 思ってたのと全然ちがうっ、天井も高いし? これなら楽に立てるよね? よっと……!」

 慎重にこの中に降り立つと、まずはその場で立ち上がってみるモブだ。そう知識はなくとも男子たる者、メカ自体は嫌いではない。その彼なりコクピットとは概して狭いものであり、なおかつ息苦しいものとのイメージがあったのだが、しっかりとふたつの脚で直立姿勢を保つことができた。存外に広い。おかげでどこにも圧迫感がなく、楽に息もできることに目を見張るでぶちんだ。

「へー……! もはやちょっとした部屋じゃん? おれが住んでるぼろアパートの方が狭いくらいだよ、天井もこんな高いし!」

 この利き手を上げてみるに、指先が天井には届かなかった。
 マジで部屋だ。見た感じ、たぶんおおよそで半球状の天井と内壁なのだろうが、じぶんがいるのはこのへりっ側で、真ん中の中央に操縦席があり、そこはゴチャゴチャとした操作盤に囲まれたやたらにガッチリした造りのシートがある。
 オタクが引くほどガチのヤツだ。仮にコクピットの形状が球状だとしたら、丁度この中心に座席が来るイメージだろうか。そして操縦席にはもうひとつ、特筆すべき特徴があった。目をさらにまん丸くしてそれを臨むモブである。

「うわ、凄すぎ! マジで引くって……! ああでもこれって、いわゆる復座式、タンデムってやつだよね? 座席がふたつあるもん。てことは、二人乗りなんだ? あっ……」

 席が縦に二つならんだレイアウトのコクピットは、さながらジェット戦闘機のようだが、よくよく見てみればそれとはだいぶ様相が異なるようにも思える。復座式のこの後ろのシートは、より一段高くにあって、下段のそれを高くから見下ろす位置関係だ。そこで思い出される、監督官のセリフで、ちょっと身構えてその上段の席をうかがう人見知りだ。
 この中にはすでに誰かしらがいるようなことを、あの真顔の誘拐犯はほのめかしていたはずだ。足下の下段の席には誰もいない。

「先住者って、おかしなこと言ってたよな、あのおじさん? このロボの主みたいな? ぬしってなに?? あれ、でも……」

 後列のシートにもどこにも人影らしきは見当たらず、操縦席の背もたれがまんまはっきりと見て取れる。ぐるりと取り囲んだ操作盤や前後の隙間に隠れているのかと首を伸ばしておっかなびっくりのぞき込むが、どこにも人の気配は感じられなかった。やはり無人のコクピットだ。

「……誰もいない、よね? なあんだ、でもじゃあどうすればいいんだ? こうして乗ってみたまではいいものの……」



 室内は全体新品でどこもかしこもピッカピカだ。真新しい革製品のニオイが鼻に付く。余計な緊張が解けてそれなりリラックスしてきたオタクくんは、メカニカルな見てくれがまぶしい操縦席にちょっとだけハイになって自然とこの手をかけていた。

 ここらへんはやはり男の子か。しかもオタク。
 でぶった身体がおかしなところに引っかからないように気をつけながら、この身を潜り込ませた。まずはふたつある内の手近にある前列側のシートに、そっとこの尻をつける……!

「……おっ、おお! うっそ、すっげーいいカンジ!! マジでおれのケツにピッタリじゃんっ!! まさかこれも特注品!?」

 ひとに言わせれば無駄にでかいケツが、迷うことなくこの中心にピタリと据わった。おまけビクともしない。どっしりとしたいい座り心地だった。まさしく正真正銘のパイロットシートか。
 ひとには三桁には届かないと言い張る図体をここまでしっかりと受け止める堅牢な造りと、いまだかつて経験したことがない高級感のある感触にしばし悦に入る。
 あの監督官たちが言っていたとおり、確かにやたらなお金がかかっていた。ならば後ろの席の感触も確かめたい。高くから見下ろした感じとかも含めて……。 

「わはぁっ、アキバのショールームで高いゲームチェアに座った時よりよっぽど快適じゃん! あの時は店員にイヤな顔されたけど、これならぜんぜんっ、うわ、これだけうちに欲しい!!」

 ドスンドスン!とでかい尻を座面にいくら打ち付けてもまるで動じない。驚くほど頑丈な造りになおさらハイになって心から感激する、目的を完全に見失うオタクくんだ。
 だがするとそこに、不意に背後からぶっきらぼうな声がかけられてくる。中年男性の。いきなりだった。

「……おい、うるさいぞ、落ち着け! ここはガキの遊び場じゃねえんだ、この世間じゃおまえみたいな浮かれたデブは傍目には滑稽にしか見えないって、そういう自意識はねえのか?」

「あっ、ごめんなさい! そんなつもりじゃっ、確かにちょっと浮かれてたけど、でもおれひとりだったからぁ……て、え?」

 背後からの不機嫌なツッコミに、そのつっけんどんな言いようよりもまずその声を発した人間の存在に、ハッと驚愕するモブだ。この真後ろの後列座席から、それは発されていた。
 だがしかし、ここには自分以外には……?

「あれ、誰もいないはず、だよね……え、ええっと、は?」

 おそるおそるにゆっくりと振り返ったその先には、いた。
 おじさんが。
 あたりまえにそこにふんぞり返っていた。見間違いではなく。
 それはまごうことなき、立派なおじさんだ。
 だがそれを目の当たりにしても、ちょっと理解が追いつかないで頭の中が真っ白になるモブだ。一瞬、時間が止まった。
 想定外どころでない、それは天変地異にひとしかったか?
 額のあたりをつと汗が伝う感覚をやけに意識する。だがどう考えても理解ができない。いいや絶対にわかるだろう、見落とすはずがないこんなむさ苦しいおじさん!
 振り向いた先にいたのは、いかにも鍛えてそうなガッチリ体系でじぶんと同じようなスーツを着込んだ謎の親父だ。

 こんなのどこから沸いてきたんだ?

 本当に謎である。完全に固まって二の句がつげない。顔面に脂汗がびっしりと浮かぶ若いでぶちんに、一段高いところから上から目線で見下ろしてくる当のオヤジは皮肉っぽい笑みだ。

「は? じゃねえだろ? おまえナニしにきたんだ? ナニか? まあそうか、コイツのパイロットなんだもんな!」

 言っていることもさっぱりだ。偉そうな口ぶりして!
 完全パニックのモブは椅子から危うく転げかけるのを必死に背もたれにしがみつく。本来なら椅子ごと転がっていただろう。

「ななななななっ、なんで! え、だって、え、だって!! なんでいるの? いなかったじゃん! いなかったって!! うそだよっ、絶対にっ、いなかったじゃんっっ、こんな不審者っっっ!!!」

 ふたつの眼を限界まで見開いて、恐怖に恐れおののくオタクだ。必死の形相の叫びには、これを余裕のさまで見下ろしていたおじさんの額にあからさまな血管が浮かぶ。わかりやすいことちょっとだけ左目をひくつかせて忌々しげに言い放った。

「おじさっ……おうし、わかった! 一発殴らせろ! ツラだせ、歯も食いしばれ! 話はそれからだ」

「狂人じゃんっ! あ、良く見たら原始人? でも服、着てるよね? おれとおんなじヤツ? なんで?? いいやとにかくこんな部外者のおじさんがいるなんて聞いてないよっ、ここのセキュリティどうなってるの!? 監督官のおじさーん! ねえっ、村井さあーんっ!!」

 背もたれにしがみついたまんま、背後の開け放たれたままのコクピットの外へ声高に助けを求めるモブだ。だがこれに後ろで舌打ちがするのと同時に低い音が鳴り響く。悲鳴をかき消す騒音は視界の先の暗闇すらもかき消した。
 目の前がただちに真っ白い壁で閉ざされてしまうのだから……!
 詰まるところ、コクピットハッチが閉ざされる稼働音だったのだとわかる。結果、完全な密室状態のできあがりだ。
 信じがたい表情で向き直る新人パイロットは声を震わせる。

「えええっ、おじさん……おまけに誘拐魔だったりするの? うそでしょ、おれほんとに厄日なんだ。てか、ちょっと待って! やっぱりおかしいっ、おかしいじゃんっ、さっきは誰もいなかったはずなのに、なんでこんなことになってんの!!?」

 テンションの上がり下がりが激しい年少の青年に、落ち着いた年配のイケオジ?が渋い面構えにかすかな苦笑いを浮かべて返す。これまた意味がわからなかったが。

「いただろう。はなっから? おまえが今になって見えるようになったって、ただそれだけだ! 俺はいつだってここにいる。なんたってそう……!」

 たっぷりと間を置いて、言い切った言葉がまた極めつけだった。

「この俺さまはここの主だからな!」

「…………ぬし?????」

 どこかで聞き覚えがある言葉だったかなと思うモブは、じぶんがほんとうにどうにもならないところまで来てしまっていることを思い知らされていた。もう戻れないだろうことも。
 上から見下ろすおやじは不敵な笑みだ。
 果たして敵か味方か、まともな人間なのか?
 あんまり期待できないと半眼の目つきで見上げるモブだ。
 そしてここから先は、ひとには言えないような阿鼻叫喚か驚天動地のパニックがひたすらに繰り広げられる――。
 厄日が本気を出すのであった。



 

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SF小説 ファンタジーノベル ワードプレス 変態機甲兵〈オタク・ロボ〉ジュゲム

変態機甲兵〈オタク・ロボ〉 ジュゲム file-04 ドラフト!

アキバで拉致られババンバン♪ ④

なろうで公開中のジュゲムの下書きですw なろうで公開済みの部分は太字になります。

Episode-file-04


 知らぬ間に拉致られ、気がつけばマッパで監禁されていた謎の個室から、その現場は歩いてほどもないところにあった――。

 窓もなく薄暗い通路を二度くらい曲がった先の突き当たりだ。

 そこには、見るからに頑丈そうな両開きの金属製の扉があり、そこまで先導する監督官が、この扉の脇にある操作盤らしきを手早く操作することで、音もなく重厚なドアが左右に開かれてゆく。この時、背後を女性自衛官の監査官に詰められていたから身動きもできないままのオタクだ。逃げ道はない。
 促されるままにおずおずとこの内部へと足を踏み入れる。
 ドア越しにもパッと見でかなり広い空間だとはわかったが、全体的に薄暗くてはっきりとは見通しが効かなかった。
 かろうじてこの真正面がぽつりぽつりとライトアップされていたので、そこだけがそれと認識できるだろうか。で――。

 モノはそこにあった……!

 とぼとぼと部屋に入ってこの顔を上げたらいきなりのことである。見て丸わかりの言われたままのブツの登場にしばし圧倒されるオタクくんだ。もはや見まがいようもない、あまりにも露骨なありさまであったか。 

「はあああぁぁぁぁ~~~……!」

 言葉よりもまず長いため息が漏れるモブだった。
 正直、途方に暮れていた。
 あまりにも浮き世離れした現実が、がそこにはあったから。
 泣きたい。
 はじめ惚けた顔でそれを見上げるパイロットスーツのオタクは、改めておのれが直面している事態の異常さに驚愕するのだ。

「うわあ、マジであるよ? 何コレ、ロボ? ガチじゃん! いくらかかってるの? ここまであからさまだと、なんか引いちゃうよな、こんな巨大ロボっ……!!」

 目の前にそびえ立つのは、おおよそひとのカタチをした、巨大な戦闘兵器、ロボットなのだろうか? 
 果たしてこの意味も理由もさっぱりわからなくした、どこにでもいるはず平凡なオタクはたじろぐばかりだ。
 いかにもメカっぽい全身がずんぐりむっくりしたロボットは、ただ静かにそこに直立している。それだけで半端じゃない存在感なのだが、何故かまだどこかしら夢うつつな気分のモブだった。
 ひょっとして悪夢を見ているのではないかと、じぶんのほっぺたをつねったりしてみるのだが、ジクリとした痛みだけが伝わって、他には何も変わらない。
 悲しいかな、まごうことなき現実だ。
 仕方もなしに周りに視線を向けるのだが、これと言って他に目にとまるものはなかった。薄暗くした巨大な灰色の屋内に、巨大な人型ロボが仁王立ちしている。
 ただその事実だけが突きつけられる空間。
 泣きたい。マジで。
 周りに物音やひとの気配がないのが多少の違和感だったか。
 オタクの身からすれば、こういうシーンでは決まってやかましい騒音とたくさんのスタッフや資材が、そこかしこを忙しく動き回っている活発で雑多としたイメージなのだが……。
 あいにくとじぶんたち以外にはそこには誰もいなかった。
 非常なまでの静けさに満たされた大型ロボの格納庫だ。

「あぁ……だからなんか現実感がないんだ? じゃあ、ほんとに動くのかな、コレ? ただのハリボテだったりして??」

 思わず思ったままを口にすると、そのつぶやきをこのすぐ背後から聞きつけた中年の自衛官、村井がまじめな言葉を返す。
 またそのすぐ後に続く女性の監査官の指摘にも耳が痛く感じるモブだ。余計な物音がしないから小声でも楽に会話ができる。
 大きな空間につぶやきが響いてなんかおっかないカンジだ。

「そんなわけがないだろう? 紛れもなく本物だよ、アレは……! いやはや、もっと当事者意識を持ってもらいたいな。税金いくら投入していると思っているんだ。もはやシャレでは済まされない額だよ」

「あなたが今、身にまとっているスーツもおなじようにただごとではないだけの公金が投入されています。開発から実用化にこぎ着けるまでの年月も含めて、考慮していただければ幸いです」

「ううっ、そんなこと言われても、おれ、ただのオタクだから……! オタクってなんだよ? てか、やけに静かだけど他にひとっていないんですか、ここ?」


 しまいにはどっちらけて白けたまなざしで背後を振り返るに、真顔の監督官はおごそかに応じる。わざわざ一拍空けてから。
 なんだか芝居じみているようだが、そのあたりは気にしないことにした。なんかもう慣れつつあった。

「それはつまり、重要な機密を守る上での厳正なる対処だよ。この戦闘兵器のパイロットについては厳重なプライベートの保護、ないし報道規制が敷かれている。当然だな。これに則り、一般の整備班やその他の運用スタッフときみが顔を合わせることは原則禁止だ。国家機密厳守の観点から。問題があるかね?」

「い、いやあっ、なんか大げさな気が? おれの正体ってそんなバレちゃダメなの? こんな馬鹿げたことをおおっぴらにしているのに?? 拉致監禁もされちゃったし。マッパにもされて、さすがにムリでしょ……」

 額に汗を浮かべて困惑するオタクに、冷静な監査官が応じる。

「いいえ、そちらのロボからあなた自身が顔を出さなければ、物理的に身バレすることはないものかと? ご自分から正体を明かすような真似をされるとこの身柄を保護することにならざるおえないので、くれぐれも機密の漏洩にだけはお気を付けください」

「保護? それって、また拉致られてこうやって監禁されるってこと? もうやってるじゃん! なんだよっ……」

 物腰の穏やかだがやけに他人行儀なあくまで他人事みたいな言い回しに、なんだかげんなりしてがっくりと肩を落とすモブだ。その肩をぐっと掴んで、嫌気がさすほどに真顔のおじさんが力一杯に言ってくれる。トドメとばかりに。

「もっと胸を張りたまえ! きみこそは選ばれしオタク、国を救うべくした正義のパイロット、いうなればヒーローなのだから。戦場がきみを呼んでいる」

「呼ばれたくないです。いやあ、あのですね、おれ、民間人ですよ? それがどうして……! あれってほとんになんなの??」

 再び正面に戻って目の前にある現実に向き合うが、どうにもこうにもで立ちすくむデブのパイロットスーツだ。村井が言う。

「ジュゲムと呼んでくれたまえ。あれの正式な名称だ。ただし口外は無用。いわゆる我々関係者の中だけでのコードネームだな。世間一般では、第三種災害対応兵器、ぐらいなものか?」

「第三種……! あのぉ、それって……あれ?」

 ゴチャゴチャやってる間に薄暗闇の中にどこかで耳慣れない物音がする。ゴゴゴッ……と低い重低音が響く方に目を向けると、問題のロボがこの腹のあたりを鳴らしているのだとわかる。
 今しもボディの真ん中にあたる部分、おなかのパーツが外部へとせり出して、ぽっかりと大きな穴をあけるのだった。
 おそらくはこのコクピットへのハッチとなる開口式装甲が開いて内部に通ずる入り口が開いたのだとは、シロウトながらに理解ができた。だが他にひとがいないはずなのになんでとは思うオタクくんだ。怪訝に眉をひそめてしまう。身体もこわばった。
 そんなモブの心境も素知らぬさまで、監督官が意味深な物の言いで促すのだ。

「オタクダくん。やはりきみは真のオタクだ。あれが呼んでいる……!」

「い、いやあ、そんなこと言われても、アレに乗んなきゃいけないの? このおれが?? ろくな免許もないのに……」

 完全に顔が引きつっていたが、真顔の自衛官はまじめな口ぶりで言い切ってくれる。

「免許なら、きみは既に持っているさ。オタクとはそういうものなのだから……! きみでしか乗りこなせないものが、今こうしてきみの搭乗を待っている。搭乗口を開こう。きみでしかわたれない一本道だ」

「は、はいっ?」

 言いながら背後の監査官に目配せすると、こくりうなずく神楽が背後の壁にある操作盤らしきに手を伸ばす。
 直後、何もなかった空間にガガガーっと低い音を立ててせり出して来たのは、言葉の通りの金属製の渡り通路だ。
 かろうじてひとが一人通れるくらいの。
 謎のロボの周りに設営された足場なりに接合されて道を開く。
 いよいよ逃げ場がなくなったことを実感しながら、ちょっと目つきが遠くを見るようになるモブはすぐそこのはずなのに果てしない距離感を感じていた。行きたくはない。間違っても。
 背後に立つおじさんは許してはくれなかった。
 もう乗り込むことが前提で話を進める村井だ。
 止められないし、その背後に立つおねーさんのメガネも光っていた。泣きたい。

「ううっ、乗るんだ、ほんとうにっ……! でも乗って、どうしたらいいの、おれ??」

 絶望感にさいなまれるオタクに、その背中をぐっと押さえながら非常の監督官が最後の言葉を投げかける。
 それにムッと眉をひそめるモブだった。
 意味がわからない。

「内部には先住者がいるかもしれないが、いや、おそらくはいるのだろうが、それはあのロボの主だから、安心してくれていい。きっときみをよろしく指導してくれるはずだ。失礼のないように。それでは、グッドラック!!」

「…………はっ!??」

 前途多難なオタクの戦いが、今、幕を開けた。