オフィシャル・ゾンビ
ーOfficial Zombieー
オフィシャル・ゾンビ 10
これまでのおおざっぱないきさつ――
ある日、いきなり人外の亜人種である〝ゾンビ〟の宣告をされてしまったお笑い芸人、鬼沢。おなじくゾンビにして、その公式アンバサダーを名乗る後輩芸人の日下部によってバケモノの正体を暴かれ、あまつさえ真昼の街中に連れ出されてしまう。
そしてその果てに遭遇した、おなじくゾンビだというベテランの先輩お笑い芸人、ジュードーコバヤカワには突如として実地訓練がてらの実戦バトルを強要され、初日からまさかの〝ゾンビ・バトル〟へと引きずり込まれてしまうのだった…!
苦戦の末に一時は優位に立った思われた鬼沢だが、直後に思いも寄らない反撃に遭い、およそ予想だにしない能力と真の姿をあらわにしたコバヤカワの脅威にさらされることになる…!!






やたらに威勢の良いオヤジのがなりと共に、コバヤカワの周囲にもくもくとした白い煙幕みたいなもやが立ちこめる。
間近で見ていてよもやこれもあの異様な悪臭を放つのか?とタヌキの姿の全身が思わず総毛立つ鬼沢だったが、幸いにもイヤなニオイらしきはないのにホッと胸をなで下ろす。
先の生々しい経験がすっかりトラウマと化していた。
ただし見ているさなかにも中年のオヤジの身体はまったく別の何かへとカタチを変えていくのだ……!!
結果、なんとも形容のしがたい複雑怪奇な出で立ちをさらけ出すベテラン芸人に、自身も中堅どころの芸人である鬼沢はこのタヌキの顔面が驚きで目がまん丸になる。
かなり特殊な見てくれをしているのでひょっとしたらアレなのではとある程度の予想がついたりするが、認めたくない思いがそれをはっきり言葉にするのをためらわせた。
もしそうだとしたらあんまりにもヤバイし、その旨、ベテランの先輩相手に突っ込むのもかなり気が引けた。
「う、さっきのあの強烈なニオイって、ま、まさか、そんなことはないよね? コバヤさん、俺の勘違いならいいんだけど、ひょっとしてそれって……うそでしょ??」
嘘だと言ってほしい願う後輩の願いもむなしく、真正面で仁王立ちする先輩はきっぱりと大きくうなずいて断言してくれた。
「おうよ、見ての通りじゃ!! この全身を渋い黒でまとめたかっちょいい毛並みに、背後で雄々しくそり立つ巨大なシッポ! おまけに代名詞のくっさい屁はおのれもその身をもって体験済みやろう? これぞまごうことなきスカンクのゾンビさまよ!! どうやっ、恐れ入ったか!? だが鬼沢、おのれがびびるのはこれからやぞ!!!」
少しも照れるでもなくぶちまけられたぶっちゃけ発言に、内心でどん引きする鬼沢はひいっと悲鳴が漏れる。
「う、うそでしょう!? スカンクだなんて!! そんなのもアリなの!? それじゃさっきのってほんとにおならで攻撃されてたんだ! 冗談なんかじゃなくって!! なんだよコバヤさんっ、いくら先輩でもこんなのタチが悪すぎるよ!!」
見知ったはずの後輩芸人の心からの抗議と嘆きに険しい表情のスカンク、芸名がジュウドーコバヤカワだなんて冗談そのもののオヤジが真顔で返してくれる。