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DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 キャラクターデザイン ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア○記/Lumania W○× Record #022

   新キャラ登場!!

   新メカも登場!!

 #022

  Part1


 翌朝

 反政府ゲリラの残党を掃討する作戦から一夜明けて、いつものように朝起きてみずからの居室(セル)がある居住区画から、いざ仕事場のデッキ・ブロックまで降りて来たらば――。

 そこはいつになくものものしくした、第一アーマー小隊のハンガー・デッキのやかましい様子に、まずは目を丸くするクマ族の第一小隊隊長のベアランドだ。

 見た感じいつもとまるで違う景色とそこに見慣れないでかいアーマーらしきがあるのに、驚くよりも半ば感心したさまでこれをしげしげと眺めてしまう。

 これまではずっと空だったはず大型機の専用ハンガーに、いつの間にやら運び込まれていたものだ。

「……ああ、もう運び込んでいたんだ? 昨日の晩に艦長に了解を取り付けたばっかりなのに、早いな! それにこんなバカでっかいの、ハンガーに収容するのも一苦労だっただろうにさ?」

 思ったままの感想を口にしながら、自然とこのパイロットの姿を目で探してしまうが、あいにくとどこにもそれらしき姿はない。

 確か聞いた話ではお客さんは二人組で、若い男女のパイロット・コンビだったと聞いているのだが。

 するとその代わりに同じようにこちらもまた微妙な顔つきでその大型アーマーを見上げる、巨漢でかつ肥満体のクマ族のチーフメカニックのおやじと目が合ってしまうベアランドだ。

 何やらイヤな予感がするが、おはようの挨拶もそこそこに、やはりであちらからはひどく冷めた文句が飛んできた。

 予感的中だ。

「おい、どうするんだよ、これ? こんないかついものを持ち込んでくれやがって、運び込むのにも一苦労だったぞ?」

 かなり迷惑そうな物の言いように、こちらはひどい苦笑いで応じるばかりの若い隊長さんだ。

「あはは。そうは言っても好きでしょ? イージュン、こんなでかいおもちゃを目にしたら、機械屋としての血が騒ぐってもんでね! でも思ったよりもでかくてビックリしてるけど、これって一人乗りなのかな? 確か相方はまた別のアーマーを持っているらしいから、おのずとそうなるんだろうけど……」

「ふん。このおれたちとおんなじ、クマ族の若造だったぞ? なんか冴えないカンジのな! 相方は見ていない。イヌ族らしいが、女とか言ってたかな? 他のメカニックのはなしによると」

 朝っぱらからやけにかったるそうなおやじの話に、また目を大きく見開く隊長だ。

「そうなんだ? はあ~……! まあ何であれ、こんな見てくれ立派でどでかいの、戦力としては期待大なんじゃないのかな? 艦長もビックリしてるかもね! メンテするメカニックはなおさらだろうけど……」

 そう言いながらデブのおやじの反応を見てみるに、浮かない顔つきでまたでかいアーマーを見上げるチーフ・メカニックは、小さな舌打ちしながらこちらに冷めた視線をくれる。

「おまえんとこのチーフはそっちのでかいのにてんてこ舞いで、こんなものにまでは手が出せないんだろ? てか、あいつそれでなくても、あのゴリラとネコのわけわかんないアーマーにちょっかい出そうとして、追い返されてたじゃないか? おれもひとのこと言えないが、あいつも大概だぞ? しゃあねえな……!」

 いかにも渋々と言った感じでありながら、内心ではその実、嬉々としているのではないかと疑うベアランドだった。

 実際、パイロットスーツばりに仕立てのいいメカニックスーツのお尻からちょこんと飛び出たまん丸いシッポが、上下にピクピクと小刻みに動いているのだから。


 ネコ族やイヌ族がそうであるように、上機嫌の時にはシッポがぶんぶんと元気に振れるのは、彼らクマ族も同様だった。 

 ただシッポが短いからわかりにくいだけで、目の前のおやじさんは今やでかいおもちゃを手に入れたお子様ばりにその胸の内がときめいているのに違いない。

 良く見たら、この口元がかすかにゆるんでいた。

 やっぱり生粋の機械屋なんだなと納得するベアランドだ。

「それじゃ、そういうことで、イージュンにお願いするよ。うちのリドルはやることがてんこ盛りだから! あのゴリラくんとネコちゃんにまでちょっかい出してるのは意外だったけど? あ、あと他にもまた新しいアーマーがこれと一緒に来ているんだよね。そっちはまだ見てないんだけど……どんなだろ?」

「どんなだっていいだろ! さすがにそこまで手は回らないから、あっちのゴリラやネコちゃんみたいに自分でやってもらえばいいんじゃないのか? あいつらそれをいいことに最後尾のアッパーデッキを占有しちまってるんだから! まあ確かに、あそこなら邪魔にはならないが、飛行ユニットもろくに持たない陸戦型アーマーどもが、あんなとこに居ても仕方がないんだがな?」

「ロフトに上がって艦の守備隊として動くぶんには都合がいいんじゃないのかい? 流しの若い傭兵さんが何故だか艦長の信認もあるみたいだし、それだからこその特別待遇だよ。気になるならリドルと一緒に押しかけてみればいいんじゃないのかな?」

 冗談めかして言ったセリフに、これにはただちに不機嫌面でフン!と鼻を鳴らしちゃ、への字口で応じるメカニックだ。

「は! あんなひとの言うことを聞かなそうな生意気な若造どもはゴメン被る。おれはせいぜいこっちのとろそうなクマ族のあんちゃんのアーマーと遊ばせてもらうさ。第二小隊のあのオオカミはやたらに口やかましいし、部下のワンちゃんどもは気が弱すぎて始末に負えない。ははん、まったくストレス解消には持ってこいのシロモノだよな!」

「結局そっちのパイロットの好き嫌いの問題じゃないのかい? 構わないけど、あんまりいじめたら泣かれちゃうよ。こんなゴリゴリのクマ族のおじさんにさ! まあいいや、それじゃこっちも用事があるから、失礼させてもらうよ。リドルや中尉どのたちが待っているんだ。これから大事なミーティングがあるからね? 昨日の出撃の総括も込みにした!」

「デッキでやるのか? わざわざ? 昨日の総括って、そっちのベテラン勢はふたりともお留守番だったのに? そういやあの坊主、こっちには目もくれずにそっちのアーマーにさっさと向かって行ったな。少しは手伝えってもんなのによ!」

「いろいろと忙しいんだよ、あの子は。今回のブリーフィング・ルームには特別な場所を用意してあるから。その都合もね! あっと、噂をすればなんとやら、向こうでリドルが呼んでるや!」

 背後からの呼びかけにそちらを振り返って、その先にあるみずからの大型アーマーを見上げるアーマー隊大隊長だ。

 彼らが乗る船には大型アーマー用のハンガーデッキがふたつあり、この隊長の彼のものと、今回、新しく運び込まれたものが残っていたもうひとつに収まるかたちとなった。

 それじゃと軽く手を振って、みずからのアーマーの元へと大股で歩いていく背中に、背後のおやじからは普通に上っていけよ!と声が掛けられるが、返事をするよりも適当にパイロットスーツを着込んだ尻の頭に顔を出す、まあるいシッポを動かしてやる。

 相手は気付いたものか?

 相棒の大型アーマーの格納されたハンガー・デッキに近づくと、このコクピット・ブロックに相当する、ずっと高い場所から若いクマ族の青年メカニックが手を振っているのを認める。

 その左右には、ベテランのクマ族のおじさんたちが真顔でこっちを見下ろしているのも見て取れた。

 みんなそろっているようだ。

 すぐに合流するとうなずくベアランドだが、左右にあるデッキのタラップやエレベーターをちらりとだけ一瞥して、またすぐに真上に向き直ると、ちょっとだけ苦笑いになる。

 素直にそちらを使えばいいのだが、めんどくさいのでショートカットをすることにした。

 普通はやらないやつだ。

 さっき普通に上がれよと言われたばかりなのに、その場でおもむろ思い切りにこの上体をかがめさせて、両脚にぐっと力を込めるやんちゃな若い隊長さんだ。

 直後には、フロアからドバン!と上階にあるデッキのフロアにまで一足飛びに大ジャンプする。

 およそ尋常でない跳躍力だった。

 過酷な状況下でのアーマーの運用と戦闘を強いられるパイロットは、一般の民間人よりも強靱な肉体と、優れた身体能力を有しているのは知られているが、このクマ族に関しては、その範疇にはちょっと収まらないのだろう。

 乗っているアーマーもただごとでなければ、この本人自体もただものではないのだ。

 涼しい顔して一瞬にして目の前に現れたでかいクマ族の隊長さんに、反射的にびっくりしてのけ反るメカニックマンだった。

 この左右のおじさんたちも、のわっと上体がのけ反っていたが、その顔には出さないで平静を装っていられるのは、きっともう慣れているからだろうか。

 悪びれることもない笑顔の隊長に、ちょっとだけ呆れた顔つきで敬礼をするリドルだった。

「おはようございます! 少尉どの、お待ちしておりました。ですがこちらのデッキには、できればまともな方法で上がっていただきたいのですが……!」

 そんな苦笑いの青年クマ族に、この横からおじさんのクマ族たちもちょっと困惑顔しては口々に言ってくれる。

「ほんまやわ、隊長、ウサギさんちゃうんやから、もっとふつうに上がってきてくださいよ。重たいクマ族はそないな無茶なジャンプはせえへんよって。心臓に悪いわ……!」

「ザニー、ザニー! ウサギ族でもあないなジャンプはようせんって! この隊長さんだけや。ほんまにこのおばけアーマーと一緒で、規格がゴリゴリにおかしいんやって……!」

 そんなゴチャゴチャ言ってるおじさんたちにはとりあえず苦い笑いで返して、ハッチの大きく開かれたみずからのアーマーのコクピット内を目で示すベアランドだった。

「それじゃあ、早速はじめようか! 今回のブリーフィング・ルームは、ぼくのこのランタンのコクピットだね! みんな遠慮せずに入ってよ」

 そのように促しながら、じぶんから大きくハッチが開かれた操縦室の中へと潜り込んでいく。

 真ん中の操縦席にただちに慣れた調子で腰を据えると、外からこの中をのぞき込む三人のクマ族たちに目で合図する。

 通常のアーマーのコクピットは、パイロットひとりがせいぜいのところなのだが、このクマ族の隊長のそれは縦にも横にも余裕があり、まだ三人くらいは楽に入れるだけのスペースがあった。  

 まずメカニックのリドルがお邪魔しますとベアランドのすぐ隣につけて、おっかなびっくりに残りのおじさんたちがのそのそと内部に入り込んでくる。

 クマ族は一般に大柄で人一倍に場所を取るのだが、それでもまだ十分な広さがあるコクピットに、ちょっと驚いたさまの中尉どのたちだ。

 着座した隊長の左右に陣取って、物珍しげに周囲のディスプレイやこの手元のコンソール、操作盤などを眺め回している。

 年季の入ったおじさんたちにしてみれば、最新式のアーマーのコクピット自体が珍しいのかも知れない。

「ほえ、ほんまにコクピットでやりはるんかと思ったら、こないに広いんですか? これなら納得やわ……!」

「こないなもんコクピットちゃうやろ! 広すぎやて、ここで普通に寝泊まりできるんちゃう? ビックリやわ! ちゅうか、ここまで来たらぶっちゃけデッドスペースなんちゃうか?」

「ははは、確かにね! ふたりはこの中に入るの初めてだろうけど、どうか気楽にしてってよ。それじゃ、早速、ミーティングに入ろうか。タルクスはあえて呼んでないけど、あの子はぼくと直に現場を見ているからさ? だから今回は、ダッツとザニー両中尉どのたちの見解を聞きたいんだよね♡」

 ベアランドの言葉にこの横につけるリドルがはいと了解して、手元のコンソールを手早くパチパチと操作する。

 するとそれまで開かれていたコクピットの分厚いハッチが音もなく閉ざされていき、これによって正面に現れた大型のディスプレイモニターにすぐにも明かりが灯る。

 同時に左右、背後にもある大小のモニター類にも光りが灯って、照明がなくとも十分な視界が保たれることになる。

 はじめ外部の様子を映していたモニターの中にいくつものウィンドウが立て続けに現れて、それらの中にさまざまな動画や各種のデータが次次と映し出された。

 中にあるのは、見知らぬ街中に紛れ込む、どこかで見たことがあるような特徴的なカタチをした黒い二機のアーマーたちだ。

 それらが空から俯瞰した図で表示されるのを、みんなでしげしげと見入るクマ族たちである。

 つまりは新しく艦に編入された傭兵部隊のネコ族とゴリラ族のものだったが、これの考察をクマ族だらけの第一小隊でしようというのが、今回のミーティングの主な目的だった。

 やるからにはマジメにやるのだが、半ば面白い動画をみんなで見て盛り上がろうという、ちょっとしたレクリエーションか気晴らし的な意味合いも、あるにはあっただろうか。

 昨日、現場の戦場を上からつぶさにモニターして、それらの動画や各種のデータを採取した張本人のクマ族の隊長さんが言う。

「見ればわかると思うんだけど、とにかく面白いんだよね! あのゴリラくんとネコちゃんの、どっちともw こんなゴミゴミした狭い街中の通りをけっこうな勢いで走り抜けてるじゃないか? おまけに敵を軽々と撃破しながら!」

 嬉々とした言いように、真顔のリドルが補足の説明を付け加える。

「第二小隊のウルフハウンド少尉どのが三機撃破、残りの七機を、イッキャさんが四機、ベリラさんが三機の内訳となります! すべてビーグルⅤです。ちなみに本作戦でのこちら側の損害は、皆無となります」

「めっちゃ優秀ですやんけ。ちゅうか、あの若いワンちゃんたちは何してはったんですか? 新型のアーマー乗りがふたりもおって、ひとつも星をあげられへんなんて?」

「そゆことゆうたるなよ! あるて、そんなこと。無傷で返ってこれたんだからそれだけでもええやんけ?」

 ベテランのおじさんたちのとかく皮肉めいた言いように、だがこれには隊長である若いクマ族があっけらかんと答える。

 元はこのベテラン勢が来るまでは彼の直属の部下でもあった新人の隊員たちだ。名誉を傷つけたままではしのびない。

「ああ、それ、コルクたちは悪くないよ? ぼくが上からそうするようにお願いしちゃったから! シーサーの了解も得てね。なんせ相手のビーグルⅤがコルクたちのⅥとおんなじカラーリングだったから、まぎらわしくて仕方なくてさ! 同士討ちとか目も当てられないだろう? よそさまも加わってる今回の作戦じゃ」

 これに果たして納得したのかしないのか、やや微妙な顔つきのザニー中尉だ。

「なんでそないなめんどくさいカラーリングにしてもうたんですか? こっちのビーグルⅤが茶色っちゅうのは、知ってたことなんちゃいます? ちゅうか、なんでビーグルⅤなんですの? ぼくらのお国の現行の主力兵器やないですか、それ」

 それにはリドルが答える。

「はい。友邦国のアストリオンにルマニアがアーマーを輸出しているのは有名な話であります。ただしこちらの環境に適応した砂漠地戦仕様であり、あのようなカラーになります。反政府勢力がビーグルⅤを使用しているのは、どれもこれらが敵により拿捕された機体であるものと思われます!」

「あのぶうちゃんもそないなこと言ってたよな? せやなくて、なんでワンちゃんたちのⅥは、あないなカラーなんや?」

 ダッツの相棒と同様にした問いかけには、ベアランドがまたもあっけらかんと返すのだった。

「ああ、はじめはピカピカの銀色だったのに、それじゃ目立って仕方がないからって、イージュンが気を利かして全身渋く塗ってくれたんだよね! カラーは本人の好みによるんじゃないのかな? ただ単に! 当のコルクやケンスはそこらへんあまりこだわりとかないみたいだしw 隊長のシーサーは興味ないしww」

「ほえぇ……」

 呆れた感じで互いに目を見合わせるおじさんたちはもはやほっといて、さっさとこの話を進める隊長さんだ。

「それよりも、ほら! あのふたりの操るアーマー、めちゃくちゃ動きが機敏で敵のビーグルⅤを圧倒してやしないかい? コンビとしての連携もきっちり取れてるし、若い割にはとっても練度が高いアーマー乗りたちだよ。この機体もかなり高性能で、これと言った弱点も見当たらないし! ね?」

 みんなに問いかけるに、おじさんたちからは低いうなりみたいな声が聞こえるが、メカニックマンとしての見地でものを見ているリドルがこれに強く同調する。

 昨日の内に彼なりに戦績データを解析していた若いクマ族の青年は、このアーマー乗りたちとその保有するアーマーをかなり高く評価しているようだった。

「はい! ベアランドさんが言うとおり、とっても優秀な機体であります。特に市街地戦に特化しているらしく、至近距離での格闘戦と、距離を置いた中距離の間接攻撃とこの役割をはっきりと分担している点も、とても合理的であります。おそらく高出力エンジンにより発生させたフィールドバリアも併用しながら、機体の防御力を最大限に高めているものと思われます!」

「ああ、それってこの機体に搭載されたフィールドジェネレーターとおんなじ機能を持っているってことだよね? 上から見ていてやけにセンサーの反応が鈍いと思ってたら、周りにバンバン電磁フィールド張ってたんだ! 恐れ入ったね♡ おまけに特殊なギミックが機体にてんこ盛りみたいだしw」

 いかにも楽しげにした若いクマのパイロットの感想に、じっと黙って目の前のモニターの動画に見入っていた赤毛のおじさんグマが、やがて真顔で応じる。

「……ほえ、あのゴリラくんのごっつい機体、敵からの銃撃をものともせずに近寄っていきよるの、機体の強度が高いだけちゃいますよね? なんか肩のあたり、プロペラみたいなんがグルグルまわってはるし、妙な武器を持ってはるの、あれをクルクルまわしてタマをはじいたり相手をどついたりしてはるんや? えらいいかつい戦い方しよるわ! まさしくゴリ押しやんけ」

 みずからの乗る機体が防御力重視の仕様であるからか、とても興味深そうにまさしくゴリラみたいな見てくれのアーマーに見入るベテランパイロットだ。

 それとは逆に、攻撃力重視の機体を操る灰色グマのおじさんが、もう一方のネコ型っぽい見てくれのアーマーに言及した。

「こっちはこっちで、えらい命中精度で弾丸ぶっばなしとるで! 死角から攻められても飛んだり跳ねたり、おまけに無茶苦茶な角度から応戦しとるやんけ? どないなっとるんや、機体のバランス制御! 長距離射程の装備はなさそうやけど、あないにめまぐるしく動かれては狙いを定めるのもしんどいで!」

 ふたりともしっかりと傭兵部隊の実力を感じているようだ。

 これを聞く部隊長のエースパイロットは、やけにしたり顔して了解する。

「確かにね! あのふたりの実力に関しては、アーマーも含めてもはや十分なんだろう。スタンドプレイに走られるのは困りものだけど、別個の部隊として稼働するには問題がないはずで。出身がイマイチわからないのがアレなんだけど、あれだけ特徴があるアーマーなら探れないこともないのかな? 時にリドル、あの博士の意見とかは聞けているのかい?」

 基本は艦の最後尾のエンジンブロックにこもりっきりの、イヌ族の老博士のことを聞いてみるに、問われたチーフメカニックはちょっと困った顔でこの首を左右に振るのだった。

「いえ、シュルツ博士は少尉のアーマー以外には興味がないとのことで、とりあってはもえらませんでした。逆に余計なものに関わるなと怒られてしまいまして……!」

「ああ、あの博士らしいな! まあいいや、ゴリラくんとネコちゃんのことはこのあたりにしておいて、自分たちのことに専念しよう。ダッツとザニーはこれからは、ぼくよりもむしろタルクスと連携しなくちゃいけなくなるし、戦い方のバリエーションも増やしていかないとね?」 
 
 おおよそでミーティングを締めくくりながら、手元のスイッチをパチッとはじいて周りのモニター群の明かりを消すと、閉ざされたコクピットハッチを再び開いてそこから外気を取り込む。

 あいにくと新鮮な空気ではなくて機械油くさい気流に鼻先をヒクヒクさせながら、開かれた視界の先にある見慣れない大型アーマーを見て、そこでまたしても苦笑いになる隊長だった。

 背後のベテランのおじさんがの内のひとりが、おなじくそれを見てぽつりと感想を述べる。

「ほえ、わけわからんアーマーならまだおりましたわな……! しかもまたふたつも? あのネコちゃんたちの紹介っちゅうはなしやったけど、ほんまに信用してええんですか?」

「ほんまにわけわからん! ちょっと様子を見てみたけど、どっちも見たことも聞いたこともないアーマーやったで? あんなもん、パイロットどないなやつやねん? ほんまにこんなんと連携せなあかんのですか、隊長??」

 なおさら苦笑いになるベアランドは、一度大きく肩をすくめてミーティングの終わりを告げた。

「今回のネコちゃんとゴリラくん同様、実際にお手並みを拝見させてもうしかないよね? すぐに機会はやってくるんだろうし。ちなみにパイロットはどっちも若いクマ族とイヌ族の男女コンビらしいよ? ネコちゃんによると、おまけに会社経営みたいな? なんだろうね。ま、会えばわかるよ。あとみんなが先に出ていってくれないと、この席から立ち上がれないから、さ!」

 言われてぞろぞろとコクピットを退出していく仲間たちを見送って、みずからはだが手元の操作盤を操作する。

 右手のサイドモニターにまた何かしらを映し出すクマ族だ。

「ふうむ、でもあのどっちもやたらに金が掛かっているアーマーの存在を考慮したら、うちの経歴複雑な艦長とあのふたりのアーマー乗りの接点て、たぶんこのあたりに集約されるんだよな……おそらくは?」

 それきり真顔でしばし考え込むのであった。


  Part2


 まっさらな新型アーマーのコクピットは、とても居心地が良くて快適で、この新品の革張りの操縦席もまるで高級ホテルの重厚なソファのような座り心地で格別だった。

 じぶんが居た安普請のボロアパートの備え付けのベッドよりもはるかに寝心地が良くて、気が付いたら、うとうとしたまどろみの中ですっかり寝落ちしてしまった、新人パイロットだ。

 だらしなくも大口開けて、でかいいびきを立てながら爆睡していると、心地よい夢の中でどこからか誰かしらの声が聞こえてきた。

 どうやら見知らぬ男の声のようだ。

 バンバン!と何かを叩く音も聞こえてくる。


 シートがほぼフラットになるくらいにまでリクライニングさせて完全に寝こけていた若者は、かすかに表情をピクつかせて、この夢の中から聞こえてくる正体不明のおどろおどろしい声にうならせられる。 

 その声は言った。

「おい! 中のパイロット、とっとと出てこい!! いつまで中にこもっていやがるんだ? 機体の格納は終わったんだから、あとはおまえがアーマーの個人ロックを解除して、こっちに引き渡すだけなんだよ! いいからコクピットのハッチ開けろ!!」

 さながら憎悪に満ちた罵詈雑言か?

 やけに現実感がある長ゼリフに、ただならぬ違和感を感じる。

 弛緩しきっていた手足がピクピクとなるパイロットだ。

 さすがにいびきをやめて、無意識ながらも周囲の状況にぼんやりながら注意を向ける。どこからか確かな殺気めいたものまで感じて、薄目で身の回りを確認するのだった。

 するとまず目に飛び込んで来るのは、正面ディスプレイに大写しになった巨漢のクマ族の恐ろしい顔面のドアップだった……!

 これに一瞬で眠気が覚める若者だ。

 ただし状況の正確な把握にまでは至っていなかったが。

「……!? はあっ、お、鬼っ? 鬼がいやがるっ!?」

 バッと上体を起こして周囲に目を向けると、この前面のみならず、左右の大型ディスプレイにもおなじ形相のドアップの顔面が張り付いて、こちらをにらみ付けている。

 完全にパニックになる若いクマ族だった。

「ひいっ、なんかおっかねえ鬼みたいなのが3匹もいやがるぞっ!? 3匹!!? どうなってるんだよこの戦艦!!」

 とりあえずじぶんが新型のアーマーに搭乗して、この大型の最新鋭艦にまで乗り込んだのは覚えているのだが、その後がさっぱりで今のこの状況である。

 慌てふためくばかりのパイロットに、モニターにでかでかと映し出された当の鬼、もとい実際はどでかいクマ族のおやじさんが冷めた目つきで言ってくる。

「鬼ってなんだよ? は、いませんけど、鬼なんて? ひょっとしてこの俺のことを言っているんなら、おまえ、それなりに覚悟はできているんだよな? あとさっさと面を見せろ。開けろよ、このハッチ」

 もはや怒りを通り越した、何かしらの呆れか嘆きみたいなものまでにじませてくる年配のクマ族の言葉に、顔からサッと血の気が引いていく若いクマ族だ。

「は、はいっ? あの、えっと、あれ? 今って……おれ、ひょっとして寝ちゃってた??」

「ひょっとしなくてもそうだろう? まあさぞかしいい寝起きの面をしてるんだろうな? とにかく、開けろ。話はそれからだ」

 とかく冷静な相手の言いように、だが内心で完全にパニくっててるパイロットは操作盤を操る手元もあやふやで、まったく関係のないスイッチやレバーを引いてしまう。

 さらにパニックに陥った。

「え、あ、あのっ、ちょっと待って! 今開けます! 開けますから!! えっと、えっと……これか! あ、ハッチの前に立っているんなら、ちょっとそこからのいてくださいっ!!」

 画面に向かって反射的にペコペコと謝りながら、ようやくコクピットハッチのスイッチを探り当てる。

 その結果、ゆっくりと音を立てて開いていく大きな扉の向こうには、この真正面にそれは鬼さながらの迫力で、見るからに巨漢のクマ族が腕組みして待ち構えていた。

 不意なハッチの開閉に跳ねられるほど間抜けではないらしく。 

 そそくさとシートベルトを外してなるたけ速やかにコクピットからデッキに降り立つ。

 そこでどうやらメカニックマンらしいその巨漢の男と向き合うのだが、これと目を合わせることができずに、ひたすら萎縮するばかりのパイロットスーツだ。

 のっけからやらかしてしまったみずからの不甲斐なさに嘆くことしきりなのだが、うまく弁明する言葉も見つからない。

 うわ、詰んだ……!

 内心で白旗を揚げていた。

 おまけ本来ならば、みずから名前を名乗ってしかるべきなのだろうが、不覚にも不機嫌ヅラした目の前のオヤジからそれを聞かされることになる……!

「今日は。気分はどうだい、良く寝られたからいいんだろう? こっちはこんなでかいアーマーをデッキに収容するのにてんてこ舞いだったのに、パイロットさまはお気楽さまでいいもんだ。なあ、ニッシーくん? 何か言うことはあるかな?」

 まっすぐ真顔で見つめられて問われるのに、なおさら目を合わせられずにすくみ上がる青年クマ族、ニッシーだった。

「あ、いや、とくに、その、言うことは……すんませんでした。反省してます。二度とないように努めますので、ご気分を害されたのなら、なにとぞご勘弁を……とにかくすんませんでした」

 完全に観念したさまでうなだれる若いパイロットに、熟練の整備士は軽く咳払いすると鷹揚にうなずいてくれる。

「ああ、そう。そうね。うん。わかったのならいいのだけど、まずはここにサインして、これからお世話になるこのクマ族のメンテナンスのおじさんに礼儀正しく挨拶をしようか? これって基本だよね?」

 差し出されたボードに慌てて飛びついてみずからの名前をサインするクマ族のニッシーは、おなじクマ族のおやじにおそるおそるにそれを差し出して返す。

 その上で、改めておのれの名を名乗るのだった。

 おそるおそるに。

「ええ、あの、じぶんは、ニッシーであります! フルネームは、ニッシー・ロックデーモ・ナイ! 階級はありません! じぶんは正規の軍人ではなく、民間の戦場派遣会社の所属でありますので。加えてまだ新人であります。ですのでご教授、ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!!」

 軍人ではないから敬礼ではなく深々とお辞儀して、おっかなびっくりにこの顔をあげる。

 相変わらず仏頂面したデブのおやじは、何食わぬさまで新人の自己紹介を受け流しておいてから、その上でダメ押しみたいなセリフを低い調子でささやいてくれる。

「あ、そう。軍人でなくても敬礼くらいは覚えておけよ。あとメカニックの機嫌を損ねるようなマネはするな。命取りだぞ? こいつは脅しじゃない。心からの忠告だ。この意味、ペーペーの新人くんでもわかるよな?」

 これに心底、震え上がる若手のパイロットだ。

 返す言葉が思わずうわずってしまう。

「は、はいっ! もちろんでありますっ、ひいいっ、あの、いえ、あの、その、えっと……!」

 しまいには言葉に詰まるのに、はじめそれを怪訝に見ていたベテランのメカニックは、ああ、と納得して返す。

「ああ、そうか。そういやまだ名乗っていなかったな? 俺はおまえのアーマーのメインのメカニック担当の、イージュンだ。見ての通りのクマ族のおじさんで、ついでにベテランだな。以後、よろしく。ペーペーのニッシーくん! 新人だろうが容赦しねえからな?」

「は、はいっ……どうぞ、お手柔らかに……」

 最後にドスの利いた低い声でトドメを刺されて、完全に意気消沈するど新人のクマ族だった。

 がっくりと視線が床にまで落ちていたから、この目の前のおやじの口元がかすかに緩んでいたのに気が付かなかっただろう。

 努めて真顔のおやじさんはバンバンと新人の肩をぶっ叩いて、お互いの上下関係をはっきりと確かなものにしてくれる。

「ま、ここでのことなら何でもこの俺に聞いてくれればいい。おまえはこの俺の仕事に差し支えないようにすればいいだけだ。このあたりはギブ・アンド・テイクってやつだよな? あとそうだな、一番大事なことを教えてやるよ。これが一番の協力だ」

「?」

 顔色の冴えない新人は、怯えた表情で目の前のおやじの真顔を見返す。どんな恐ろしい要求が出てくるのかと身構えていると、ひどく深刻な顔つきになるクマ族のおやじはやがて言った。

「死ぬなよ。これが一番肝心。あと、アーマーを無駄に傷つけるな。それすなわちおまえの身体が傷つけられたと思え。言ったら一蓮托生なんだから、当然だよな。あと俺も面倒だし……!」

 最後にニヤリと笑ってくれるのに、感情がまんまと揺さぶられる単純な新人パイロットのニッシーだ。

「は、はいっ! 肝に銘じます!! あとっ、あと師匠と呼ばせてください、イージュンのおやっさん!!」

 挙げ句、いきなりなついてシッポを振ってくるのには、ちょっと意外げに目を見張るイージュンなのだが、内心ではにんまりとほくそ笑むのだった。

「良かった。こいつとんでもねえバカだ! おまけにすんげえ鍛え甲斐がありやがる……!」

「はい?」

「ん、いや。あっと、あっちから誰か来るぞ? 誰だあいつ? とんでもねえ派手なパイロットスーツ着てやがるな?」

 おやじのクマ族の視線に従って背後を振り返る若いクマ族は、その先に確認したそれは良く見知った人物の姿に声を上げる。

「ああ、社長! こっちこっち! そんなとこで何してんだよ? ひょっとして迷子になったってか?」

 デッキの通路をスタスタと歩いてくる細身のパイロットスーツは、その特徴的なフォルムから女性のそれだとわかる。

 全身派手なオレンジ色の。

 言えば肥満体のでっぷりしたクマ族のすぐ目の前につけるイヌ族の女パイロットは、すらりとした立ち姿で、とかくきっぱりとした口調で返す。

「バカね! あんたがいつまで経っても来ないから、こっちからわざわざ探しに来てやったんじゃない? はじめにこっちに集合って言っておいたでしょう。あんたみたいな平社員がこの社長のわたしを待たせるだなんて、どういうつもりよ?」

 口を開くなりそんなベラベラと勢い良くまくし立てられて、ちょっとげんなり顔して肩をすくめさせるニッシーだ。

「ああ、はいはいっ……!」

 その背後から、イージュンがややいぶかしげにふたりの新人パイロットを見比べる。

「社長? え、こいつおまえの雇い主なのか、まさかの? おまえとそんなにトシ変わらねえじゃん? てか、社長がなんでパイロットスーツなんか着てるんだよ?」

 思ったままの疑問をそのまま口にするおじさんだ。

 これに慣れたそぶりのイヌ族の女子は、軽く一礼してビジネスライクなスマイルで答えてくれる。

「あたしもパイロットなんで。まだ小さい会社だから、社長でもバリバリ現役で戦場に繰り出します。お見受けしたところ、メカニックの方ですか? うちのバカ、もとい社員が失礼しました。わたしは戦場派遣会社「ミカン・ペースト」の代表取締役社長、サラと申します。以後、お見知りおきを……!」

「バカってなんだよ? ピンチだったんだぞ、社長だったらもっと早く駆けつけてくれよ!」

 ぶうたれるクマ族を冷ややかな視線で見返す女社長は、声高にピシャリと言い放つ。

 しかも思い切りの断言だ。

 有無を言わさぬ迫力があった。

「そんなのいちいち面倒見切れるわけないでしょう! どうせあんたがヘマしたに決まってるんだから。おおかたアーマーのコクピットでそのまま寝落ちとかして、そっちのでかいメカニックさんに迷惑かけたって、そんなところなんじゃないの?」

 ズバリで図星を突かれて黙り込むニッシーに、軽く咳払いするイージュンがその言葉を引き取った。

「まんまだよ。それじゃその新人くんを引き連れて、さっさとしかるべきところへ行ってくれ。お互いヒマじゃないんだろう? こっちはこれからやる事がてんこ盛りなんだ。なんせこのバカでかいアーマーをいちいちチェックしないとならないんだからな」 

 それきり背を向けるでかい背中に、了解してこちらもさっさときびすを返す女社長のイヌ族だ。

 これにクマ族の平社員が慌てて追いすがる。

「お、おいっ、どこ行くんだよ? こんなバカでかい戦艦、おれたちみたいなよそ者がヘタにうろついてたら怪しまれるんじゃないのか?」

「いいのよ。もうとっくに怪しまれてるから。あのおっさんもそんな顔してたじゃん? こっちはこっちでやる事あるから、こんなところでのんびりしてなんかいられないのよ!」

「だからどこ行くんだよ! 待てって! 道もわからないのにそんなスタスタ早足でよく歩けるよな? おまえらイヌ族ってほんと……!」

 ブチブチと文句をたれるのに、険しい表情で振り返るイヌ族の女パイロットは立ち止まってただちに詰め寄ってくる。

 視線が泳ぐクマ族に低い声で言った。

「だったらあんたが誰かに道を聞けばいいんじゃない? 社員なんだからそれくらい当然でしょ? ほら!」

「だ、誰かって、誰もいやしねえじゃねえかっ?」

 うろたえるクマに食ってかかるイヌはしれっと言ってのける。

「いるじゃん? そこに、ほら!」

「え……?」

 おのれの背後を視線で示されて、そちらを振り返ると、そこには今しもこちらに向かってドタバタと駆けってくる誰かしらの人影がある。

 よく見れば何故か太ったブタ族のそれで、それがまた何故だか満面の笑みで迷わず一直線に走り寄ってくるのだ。

 ぽかんとした表情でそれを見るニッシーは、あのはじめの巨漢のメカニックといい、ここにはやっぱりまともなヤツがいないんじゃないのか?と本気で疑ってしまうのだった。


 Part3

 見知らぬブタ族は、とかく人なつこい笑みで困惑するクマ族のニッシーのもとにまで駆け寄ると、元気に声をかけてくる。

「ぶう! おはようなんだぶう!! て、あれ、てっきり灰色のクマさんだからダッツ中尉かと思ったら、まるで別人なんだぶう! あとおまけに知らない女のイヌ族もいるんだぶう! おまえたち誰なんだぶうぅ?」

 おそろしく脳天気なさまで問われて、完全に腰が引ける平社員だった。

「やべえやべぇ、なんかおかしなブタ族がいやがるぞ? 誰って、そっちこそ誰なんだよ! おれはブタ族に知り合いなんかいやしねえって、そもそもなんでこのルマニアの戦艦にアストリオンのブタ族なんかがいやがるんだよ! 密航者か?」

「そんなわけねーじゃん! あんた、少しは頭を働かせたらどうなの? アストリオンとルマニアは非公式につながってるの、みんな知ってるでしょう? ちっともおかしくないわよ」

 背後から冷めた言葉を浴びせられるものの、まだ動揺が収まらないでやたらにひとなつこいブタ族にビビリまくるクマ族だ。

「このおれのいるアストリオンは永世中立なんだぶう! でもルマニアとは相互に不可侵の戦時協定を結んでいるんだぶう! だからみんなおともだちなんだぶう! よろしくなんだぶう! ところでおまえは誰なんだぶう!」

「ぶうぶううっせえ! おまえこそ誰なんだよっ、おまえみたいなうさんくさいブタ族なんぞと仲良くする義理はねえぜっ、このおれには!!」

「あんたほんとにバカなの? せっかくなんだからこのブタ族さんにいろいろ教わればいいじゃない。ルマニアの連中にヘタに世話になるより気が楽だわ。いつまでいられるかわからないんだし、こんな大仰な巡洋艦!」

 三者三様で、まったくもって話がかみ合わない。

 途方に暮れるニッシーに、ブタ族が底抜けに明るいさまでまたもや言った。だがこれでやっと話が進展し始める。

「おれはアストリオンのロイヤル・ガード・ムンクの、タルクス准尉なんだぶう! ここには国家元首のイン様の命令で、援軍として乗り込んでいるんだぶう! 見たところおまえたちもアーマー乗りみたいだけど、どこから来たんだぶう?」

「うわ、マジでぶうぶううっせえ! なんなんだよ、あとなんでそんなになれなれしいんだよ? おまえ今、名前名乗ったか? 話がややこしくてまったく聞き取れなかったんだけど!?」

 なかばやけっぱちでわめき散らすくクマ族の平社員に、イヌ族の若い女社長が冷静に割って入った。

「タルクスって言ってたでしょ? しかもそう、アストリオンのロイヤル・ガード・ムンクだなんて超エリートじゃん! 見た目じゃさっぱりわからないけど? それじゃあよろしくお願いするわ。わたしはサラ。そしてこっちが、ただの平社員だから気にしないで」

「ぶう? 平社員??」

 途端にきょとんとしたさまのブタ族に、現状まったくうだつのあがらない平社員のクマ族、ニッシーはやや憤慨してわめく。

「平社員ってなんだよ! おれにはニッシーっていう立派な名前がある! あとそれだと説明するのが返ってめんどくせえだろう? 社員にわざわざ平とかつけるなよ、モラハラだからな?」

「はいはい。ただ事実をそのまま言ってやっただけでしょう? あんたはわたしに雇われているいち社員で、わたしは社長。ただそれだけのことよ。それよりも今は、このタルクスにここを案内してもらうのが先決だわ」

「こんなのに頼って平気なのか? つうか、何を案内してもらうんだよ?」

 あからさまに不満顔の平社員に、まるで意にも介さない社長さんはこのクマ族の肩越しにみずからの鼻先を突き出して、相手のブタ族のアーマー乗りの様子をしげしげと観察する。

 簡易的に造られた狭苦しいデッキの通路では、デブの相棒とふたりで並ぶことはほぼ不可能だった。おなじく恰幅のいいブタ族などとはすれ違うことも難しいだろう。

 これに対して通路の真ん中にでんと仁王立ちするタルクスは、とことんフレンドリーなさまで笑顔がまぶしいくらいだった。

 初対面を相手に警戒心がまるでないのが、見ていて心配になるくらいにだ。

「ぶうっ、サラに、ニッシーっていうんだぶうか? よろしくなんだぶう! おれもここではまだ日が浅いけど、知ってることはなんでも答えるから、なんでも聞いてくれなんだぶう!」

「サンキュー! だったら早速だけど、わたしたちは今日ここに赴任したばかりで、まずは上と顔合わせをしたいんだけど、あいにくとここの艦長とは直接は会えないって言われてるのよね? まずはこっちのアーマー隊のお偉いさんたちと話をしろってことなんだけど、わかる?」

 何食わぬさまをしたサラの問いかけに、当のタルクスはこれに大きくうなずいては親身になって返事をしてくれる。

 ほんとにバカ正直でただのいいやつなんだ!とこれを真正面でマジマジと見るニッシーは、目がひたすらにまん丸くなる。


 ただし感心するよりも呆れのほうが勝っていたか?

「それならたぶん、このおれのいる第一アーマー小隊のでっかいクマ族の隊長さんのことなんだぶう! おれもその隊長さんに会いに来たんだけど、あいにくここにはもういないみたいなんだぶう! おれも探しているから、一緒に行くんだぶう! たぶんみんなでブリーフィングルームか、食堂あたりにいるはずなんだぶう! 何故かおれだけ仲間はずれにされて、やっとひとり見つけたと思ったら、まるで違うただの平社員だったんだぶう! あの中尉どのはもっとイケてる渋いおじさんなんだぶう!!」

「おい、平社員ってなんだ? おまえなんかに平社員呼ばわりされるいわれはねえぞ! あとぶうぶうべらべら良くしゃべるよな? そんなんだから仲間はずれにされてんじゃねえのか? 距離感もだいぶイカれてるみたいだしな? なあ、ぶうちゃん?」

 かなり剣つくばったもの言いで威嚇するのだが、まるで気にもしない根明なブタ族めは、なおさらその身を乗り出して相手のクマ族の格好を上から下までじろじろとねめ回すのだった。

「ところでどうしてニッシーはそのパイロットスーツを着ているんだぶう? 懐かしいから人違いでなくとも声をかけてしまうんだぶう! クマ族が着ているのははじめて見たから、とってもめずらしいんだぶう!」

「は?」

「……あ!」

 怪訝に聞き返す自分の真後ろで、社長のサラが変な声をだすのに、これまた怪訝にそっちを振り返る。

 何だよ?と目で問いかけるに、ちょっとバツが悪そうな顔をしたイヌ族の女子は、仕方もさなげに言うのだった。

「そっか。アストリオンのブタ族なら当然わかるわよね? これじゃごまかしようがないわ。あんたのそのスーツ、軍用の払い下げ品だってあたし言ってたわよね? 入社したての新人に新品のアーマースーツをくれてやるような余裕はないからって……」

「ああ、言ってたな? それが? どうしたんだよ、ちゃんとこの身体にピッタリで着心地も悪くはないぜ? なんかケモノくせえけど、おれだってひとのこと言えやしねえからな? これと問題はないってもんで、あ、でもそっか、このケツのシッポのあたりがやけにキツくて窮屈ってぐらいか?」

「ああ、それ、たぶんブタ族用のスーツだからでしょ。アストリオンの軍の払い下げ品の専用サイトで見つけた備品だったのよ、それって。ほぼ新品で出されてたから。ブタ族用ならデブのあんたにもきっとお似合いかと思って……!」

「は、なんだよそれ! ブタ族用? これ、元はぶうちゃんが着てたスーツなのか??」

 社長の思いも寄らぬぶっちゃけ発言に、びっくり仰天するニッシーだ。加えてタルクスが満面の笑みで言ってくれた補足説明には、なおさらげんなりとなる。

「とっても似合っているんだぶう! ものはとってもいいものなんだぶう! それは一世代前の仕様で、今はこのおれが着ているスーツが正式なアストリオンの装備なんだぶう! でもそれも根強いファンがいるとってもいいパイロットスーツなんだぶう!」

「え、じゃあ、このケツが窮屈なのは、クマじゃなくてブタ族用にあつらえたものだからってことか? 最悪じゃねえか!!」

「おれたちブタ族とは限らないんだぶう! もしかしたらイノシシ族かもしれないし、イノブタやアグーかもしれないんだぶう!!」

「変わりゃしねえだろうが! このおれはクマ族なんだよっ!! なにが悲しゅうてよその族のスーツを着なけりゃならねえんだっ、これって立派なアイデンティティー・クライシスだぜ!」

 さんざんに嘆く社員に、見かねた社長が声を荒げる。

「ヒラのくせにそんな美品をあてがってもらって文句言うんじゃないよ! 型落ちのスーツでもアストリオン製ときたら結構なプレミアがつくんだからね? ケツの穴が小さいくらい、じぶんでどうにかしなさいよ。だからって壊しでもしたら、ボーナスから修理費まんまさっ引くからね!」

「ケツの穴って……! テンション下がるぜっ……」

 ぴしゃりと言われて黙るクマ族の新人パイロットだ。

 それきりがっくりと肩を落とすのに、相変わらず陽気なブタ族がこの肩をポンと叩いてぬかしてくれる。

「それじゃふたりともこのおれの後についてくるんだぶう! たぶん大食いばかりのクマ族部隊だから、みんな食堂に集まっているはずなんだぶう! おれもハラが減ってきたから、みんなで朝ご飯を食べるんだぶう!!」

「なんか、目的が違ってきてねえか?」

「ま、なんでもいいんじゃない?」

 意気揚々と先頭に立ってスタスタと歩いて行くブタ族に、お互いに肩をすくめてこの後についていく、若いクマ族とイヌ族のコンビだった。


  Part4 


 ブタ族のタルクスに導かれるままに艦のデッキフロアから、乗組員たちの平時の居住区画であるセンターブロックの大食堂まで案内された、ふたりの新人パイロットたちだ。

 そこでアーマー部隊を取り仕切る隊長のクマ族と晴れて対面することになる。

 大きな戦艦の食堂とは言いながらも、そこはやたら広大なスペースがあり、特に士官クラスが集う場所はまたさらに奥へと歩いてゆくのに内心で呆れかえる若いクマ族のニッシーだった。

 この戦艦自体がもはや尋常ではない規模であり、まだ経験の浅い新人パイロットにしか過ぎないじぶんにはどうにも場違いなところだとしか思えない。

 それだから今も、目の前にしている見た目がやたらにいかつくて大柄なクマ族のパイロットに、この身が完全にすくみあがっているのを意識していた。

 なのに目の前の若いイヌ族の女子である、相棒のサラはまるで気にしたふうもなく、堂々と相手のクマ族と相対しているのに感心とも呆れともつかない感情を抱いてしまう。

 小柄な相棒の背中に隠れてビクビクしながら相手の様子をうかがうが、でかい食卓についているのはみんなじぶんと同じクマ族であり、どれもいかつくて迫力があるそれはただならぬ猛者たちであるのがもはや素人目にもそれとわかった。

 きっとじぶんなどとはまったく住む世界が違うクマ族なのだと勝手に思い込むへたれの若者だ。

 その別世界のクマ族の隊長とおぼしき男はまだ比較的若いように見えたが、口を開けば威圧感たっぷりな低い声音に、なおのこと身体が萎縮するニッシーだった。

 自分たちをここまで案内したブタ族によると、ベアランドというらしい若いクマ族の隊長は屈託のないさまで言うのだった。

「やあ、ふたりとも思ったよりも早い到着だったね? 昨日の今日で、ちょっとびっくりしちゃったよ。しかもあんなに大型のアーマーまで連れてきてくれるだなんて! おまけにこんなに若いコンビだったんだ? イヌ族の女子に、そっちのほうは、ぼくらとおんなじクマ族でいいんだよね? てか、なんでそんな後ろに隠れているんだい?」

 そんな不思議そうな顔つきで問いかけられて、思わずひいっと声が出るしがない平社員のクマ族に、女社長のイヌ族が一度冷めた視線を背後に流しながらもあらためて前へと応じるのだった。

「お招きにあずかりまして光栄です。わたくしは戦場派遣会社「ミカン・ペースト」の代表取締役社長、サラ、サラ・フリーラ・シャッチョスと申します。アーマーのパイロット兼任で、わたし自身は高速機動型のアーマーを1機保有。攻撃主体のフリーランサーとなります。それでは以後、お見知りおきを……!」

 軽やかに一礼して、ベアランドをはじめとしたクマ族ばかりの小隊メンバーたちにこの視線を流して送る。

 どうやら食事中だったらしく、大皿に盛られたごちそうをおあずけされているクマ族の中年パイロットたちは、どちらも微妙な感じで互いに目を見合わせたりしている。

 若い女のイヌ族のパイロットにはさして興味を向けてもらえないのはこれまでの経験上わかりきっていた。

 それだから気にもとめずに、背後の相棒の平社員、もといクマ族のパイロットにも自己紹介するようにうながすサラだ。

 だがこれにもじもじしてばかりいるニッシーである。

 余計に尻込みしはじめる相棒に、目つきのキツくなるサラはこのつま先をかかとで踏んづけて、前へと突き出す。

「ほら、さっさと自己紹介しなさいよ! あんたの番でしょう? まさかおんなじクマ族がコワイだなんていわないでしょうね」

「あっつ、いや、コワイだろう、こんなのフツーに! あ、いや、ははは! あの、おれはただの平社員のニッシーです。まだペーペーの新人パイロットなんで、どうぞお気になさらずにお願いします!」

「新人? ふたりともまだ若いみたいだけど、まるで経験がないってわけでもないんだろう? あんな大型のアーマーを持ってるってからには。そういやイージュンにはもう会ったのかい? でっかいクマ族のおやじさんのメカニックマン!」

 とっても気さくに聞いてくるクマ族の隊長さんに、問われた新米パイロットはなおさら落ち込んださまで視線を逸らす。

「ああ、はい……! しっかり絞られました。しょっぱなからおれがヘマしちまったんで。ついでに気が付いたら師匠と弟子の間柄にもなってました。この先が不安でなりません……」

「?」

 ひどく落胆したさまに目がきょとんとなるクマの隊長だが、新人のパイロットを前にイージュンがちょっとした茶目っ気を出したのだろうくらいに了解して、みずからの部下たちへと視線を向ける。

「紹介するよ。ぼくの小隊のメンバーで、ベテランのザニー中尉と、ダッツ中尉だよ。よろしくね! なぜか少尉のぼくが隊長なんだけど、そこらへんは気にしないでおくれよ。あと、そっちのアストリオンのタルクスと、こっちがうちのチーフメカニックの、リドルだよ。まあ、顔合わせはまだ他にもいろいろいるんだけど、その都度、やっていってよ。あと察するに、この艦のブリッジには上がれなかったんだね?」

 ちょっとだけ苦く笑うベアランドに、浮かない顔のサラはこくりとうなずく。

「はい。とりあえずこちらのアーマー隊の方々によろしく言っておいてくれとのことでしたので。わたしたちのようなよそ者のアーマー乗りはそう簡単には艦長には会えないとのことでした」

「おれは会わなくたってぜんぜんいいけどな? あっつ!」

 背後からニッシーがぼやくのには、またこのつま先を踏んづけて、やや不満げな顔をクマ族の面々に向けるサラだ。

 これにそれまで黙っていた傍観者のクマ族、赤毛のベテランが口を開く。

「ほえ、そんなのあたりまえなんちゃう? たかが新参者の傭兵さんなんておいそれとブリッジにあげられへんやろ。ここ、仮にも軍の最新鋭艦で、おまけに旗艦、フラッグ・シップやで? そうでなくとも軍内部じゃ有名人のおひとで、現場方じゃ一、二を争うっちゅう実力者なんやから。いちパイロットにしかすぎへんお嬢ちゃんなんかお呼びにならへんわ」

「せやな! 戦場派遣なんちゃらなんてようわからん怪しいヤツやったらなおさらや! きみら、顔洗って出直してきたほうがええんちゃうか? いくら社長さんやか平社員やか知らんけど、対等に張り合うには早すぎるて! ひゃはっ」

 二マリとした表情で少々辛辣なもの言いに、もうひとりの灰色のクマ族も茶化してこれをせせら笑うかのようだ。

 それきり興味なさげに視線をそらすとどちらもおもむろに目の前の食事に手をつけ始めた。

 これには隊長のベアランドが苦笑いでかすかに肩をすくめるが、まあ仕方がないよね?と目つきで言って憮然としたサラに返した。

「まあ、ブリッジに上がれなくとも、場合によったらあっちから降りてきてくれるかもしれないよ? 戦績次第かな? そのあたりについてはそっちの社長さんは結構な腕前みたいだけど、クマ族の彼はこれと目立ったデータが見当たらないね?」

「あ、ああ、それはっ……!」

 ジロリと見られて挙動不審になるクマ族のパイロットに、イヌ族の女アーマー乗りがこの視線をさえぎって間に入る。

「ああ、コイツはほんとに新人で、これからが生まれてはじめての初陣になりますから。このあたしがスカウトした第一号の社員、派遣アーマー乗りなんで」

「それって傭兵と何が違うんだぶう? あとひとりだけなんだぶう?」

 横合いから無邪気に横槍を入れるブタ族に痛いところを突かれながら、顔にはまったく出さないサラがさらりと返す。

「ふたりよ。まだ興したばかりの会社だから、あたしと経理と、このバカ、じゃなくて平社員しかいない少数精鋭部隊なのよ。問題ないでしょ? アーマーだけはしっかりしたのをそろえているし」

「アーマーだけじゃ仕方がないんじゃないのかい? ほんとにパイロットとしての経験が皆無なのか、それって……」

 ちょっと驚いたさまでおなじく目を見張るとなりの若いクマ族のメカニックと思わず顔を見合わせる隊長に、やはり澄ましたさまでその鼻先を上向ける女社長だ。

「どうぞご心配なく。みなさまの足を引っ張るようなマネはいたしませんから。必ずやご期待に添える働きをして見せますので」

 これには大口開けて肉やら野菜やら腹に詰め込んでいた赤毛と灰色のベテランぐまが、いかがわしげに口をとがらせる。

「えらい自信やな? それ戦場で空回りするヤツなんちゃう? おっかないわ。そもそもがその彼のどこらへんが見込みあるっちゅうんや、ぼくにはただのビビリくんにしか見られへんのけど」

「きみ、どこでスカウトされたんや? なんで断らへんかってん? いくら体力あるクマ族さんでもいきなりはしんどいでえ、聞いただけでしんどいしんどい! フラグ立ってるて!」

「まあ、ちょっと興味あるかな? 未経験の初見であんなデカブツを扱おうだなんて、ある意味自殺行為に近い気がするし。実際の戦場はゲームみたいには行かないから……」

 ふたりのベテラン勢にはあんまり挑発しないようにと目で制しながら、ちょっと危ぶむような色がこの顔に出るベアランドだ。

 それがニッシーと呼ばれる若い新米パイロットの吐いた言葉には、えっと思い切り声に出てしまう。

「あ、おれ、ゲーセンでスカウトされたんすけど? すんません。提示された額に思わず飛び付いちまって、挙げ句の果てが今のこれっすわ……思ってたよりも大事になっちまって、正直、逃げたいけど、契約があるから逃げられないです……」

「あたりまえでしょう! あんたもういくら経費使い込んでるのよ? せめて今の赤字とあのアーマーの取得費用をペイするまでは死んでもらっちゃ困るのよ。逃げるなんてありえない!」

「敵前逃亡は死刑なんだぶう!」

 何の悪気もなく言ってくれたタルクスのツッコミに震え上がるニッシーだが、渋い面でこちらを見ているベアランドには居場所がないような心地で肩をすくめる。

「ゲーセンで? えっと、それっていわゆる、ゲームセンターって理解でいいのかい? なんで?」

 はっきりと困惑が顔に出るアーマー隊隊長に、あくまでも澄ましたさまでしれっと言ってのける女社長だった。

「あ、これ、今はあるあるなんですよ? ゲーセンで高得点をたたき出してるゲームランカーを軍のエージェントがパイロットとしてスカウトってのは。実例がここにもいるように?」

 まるで当たり前みたいに言われても、やはり困惑顔で今度は当人に聞くベアランドだ。

「なんで?」

「なんででしょう……」

「あるあるなん?」

「知らん。聞いたことあらへん」

 ダッツとザニーもお互いの鼻っ面をつきあわせるのに、どこまでもしらを切るサラは、ここでまたきっぱりと言い切った。

「パイロットとしての特性を測る上でこれ以上に出来たシステムないって、軍や保障会社の人事が言ってるくらいですからね? 今じゃもっぱらそれ向けに開発されたゲームがあるくらいだし。それにこのヒラは、あたしが望んでいたニーズを満点で実現してくれた逸材ですから!」

「ヒラってなんだよ? それって褒めてるんだよな?」

 ちょっと微妙な空気があたりを満たすが、そんな中におじさんたちのくっくと身体を震わせる含み笑いがうっすらと響いた。

「ふふっ、ほんまにしんどいこっちゃ! きみらわかってゆうてんのか、ゲームと現実はまるで違うで?」

「アホちゃう? 戦場なめすぎ、夢見過ぎやって、嬢ちゃんもうっかりくんも!」

 怪訝に見返す気丈な女社長のイヌ族に、赤毛のベテランパイロットは利き手の人差し指をクイクイとやりながら意味深に笑う。

「これまでさんざん言われてきたことやからあれなんやけど、まさしくやわ。いわく、撃っていいのは、撃たれる覚悟があるヤツだけ……その覚悟を、そないなゲーセン上がりのえせパイロットくんごときが持てるっちゅうんか?」

「大丈夫です。コイツはバカですから!」

「は?」

 迷わずきっぱりと即答するサラを、このすぐ隣でニッシーが不満げな顔で見るが、ザニーとダッツの両中尉どのたちは失笑気味に視線をそらしてもはやそれきりだった。

 両者を見比べて口元のあたりやや苦笑いになるベアランドが、かすかにこの肩を揺らすとはなしを締めくくる。

「まあ、実戦で実証してもらうほかありはしないよね? それはさておき、ぼくらは朝食中なのだけど、せっかくだからきみたちも一緒にどうだい? もちろんそこのタルクスも!」

「ぶう! おなかペコペコなんだぶう!!」

「おおっ、ありがてえ! おれもペコペコだぜ、しかもこんなたくさんのごちそうの山、まるで夢みたいだって、あれ?」

 隊長からの誘いにブタ族が大喜びで空いている席に着こうとするが、あまり乗り気でないようなイヌ族の女子は、その場から一歩引いてみずからの細い首を左右に振るのだった。

 相棒のクマ族は舌なめずりしてすっかりその気なのに、横目できつく睨んでこれを制止する。

「いいえ。せっかくのお誘いですが、わたしたちはまだやることがあるので……! 荷物の整理だとか居場所の確保だとかが済んでから、ごちそうになりたいと思います。それでは」

 ぺこりと一礼して頑なに拒否する社長さんに部下の平社員はかなり不満げだったが、しぶしぶと出した利き足を引っ込める。

 さっさとごちそうにありつくブタ族を恨めしげに見ていた。

 相手のすげない態度を気にすることもないベアランドは了解してまたサラに問う。

「わかった。でもそうは言ってもふたりはこの艦のことはまだ不慣れなんだよね? じぶんたちにあてがわれた専用のセル(居室)だとか、わかるのかい? パイロットだからアンダーフロアのデッキよりにあるんだろうけど、広いよ? あと荷物とか、じぶんのアーマーに積んで来たのかな? あの大きなアーマーならいくらでも入るんだろうけど……」

 若いのに世話好きなクマ族の気遣いに、とかく性格サバサバとしたイヌ族の社長は何食わぬ顔で応じる。

 負けん気が強いのが態度にわりかしはっきりと出ていた。

「恐れ入ります。でもご心配なく。そのためのこの平社員ですから。これから荷下ろしして、さっさと身支度整えます。ほら行くよ、平社員!」

「な、なんだよっ! さっきからヒラヒラヒラヒラ! また戻るのかよ? 道わかるのか? またあのでかいクマのおやっさんにどやされるのは勘弁だぜっ! あとおれ、道おぼえてねえからな?」

 途端にドタバタやりはじめる若い男女コンビに、また肩をすくめてはしょうもなさげに隣のメカニックの青年を見る隊長だ。

 するとその若いクマ族は、すんなりとうなずいて了解する。

 みずからすっくと席を立つと、ちょっとした内輪もめをしているイヌとクマに声を掛けた。

「じぶんが案内させていただきます! 個人の端末に艦内情報やおおよその見取り図は入っているのですが、見慣れない人間がうろついていると無駄に怪しまれたりするので、顔が知れているじぶんがいたほうが何かと都合がいいと思われますので……!」

 するとはじめとても意外そうに若いメカニックマンを見るふたりなのだが、ベアランドが大きくうなずく。

「そのリドルの言うとおりだよ。まずは部屋まで案内してもらって、そこで一息ついてから仕事に取りかかればいいよ。それじゃあリドル、ふたりのことはよろしくたのんだよ!」

「はい! お任せくださいっ、少尉どの」

 元気に了解してふたりに向き直る若いクマ族に、ここは素直に納得する女社長であった。

 おまけ目の前の相手がじぶんよりも年下だろうと踏んで、けっこうなため口で好き勝手な言いようしてくれる。

「あ、そう。それじゃよろしく頼むわ。部屋ってどのくらいの広さがあるの? ひょっとして相部屋とか言わないわよね?」

「お、おまえ、あんまりワガママ言ってるなよ? ここ、言ったらまだアウェーだぜ、おれたち?」

「社長におまえとかいわないでよ。平社員のぶんざいでさ!」

「おまえもひとのこと平社員とか言って、バカにしてるだろ!」

「あんたは実際に平社員なんだから、何も悪くないでしょう?」

「じぶんも伍長でありますから、言ったら平社員さんみたいなものであります! おなじ階級同士、よろしくお願いします」

「軍人さんが入って来たらわけわかんねえ! それって平社員なの? いや平社員ってなんだよ? 社員にわざわざヒラとかつけんなよ!!」

「うるさいわね? 平社員はどこまで行ったって平社員でしょう? いいからさっさと歩きなさいよ、この社長をエスコートするのがあんたの役目じゃないの? 平社員なんだから!」

 やかましい言い合いは彼らが食堂を離れるまで続いた。

 
  Part5

 はじめの食堂を後にすると、若いメカニックの案内のおかげで目的の場所にはいともたやすくたどり着いた新人のパイロットコンビたちだ。

 艦内は恐ろしいほどの広さがありこの構造が込み入っていたが、マップの案内を見るまでもなくすんなりとふたりのアーマー乗りにあてがわれた個室へと導かれる。

 その道中に何度かすれ違った船員たちに振り向かれはしたが、リドルという若いクマ族の青年がいてくれたことで問題なくスルーできた。

 話にあった個人が所有できる小型端末は、艦から専用のものが提供されるとのことで、そこには個人用の専用IDなどが入っているから紛失には気をつけてくださいという、クマ族にしてはやけにやせ形のメカニックの言葉には、ちょっと不審げに聞き返すイヌ族の女社長のサラだった。

「そうなんだ。あ、でもちょっと待って? わたしたち、そんな端末なんて渡されてないんだけど? それがないとこの艦のマップ確認や本人の証明もできないんでしょ、どうすればいいの?」

 そのように聞き返すに、前から振り返るクマ族の青年は、屈託のない笑顔でとても明瞭に答えてくれる。

「いえ、ご心配なく。端末はそれぞれの部屋にひとつずつ備え付けてありますので、どうぞそちらをご利用ください。はじめに個人認証だけやってもらえれば、問題なく使用できるはずです! それではどうぞ、お部屋の確認をおねがいします」

 イヌ族の女アーマー乗りに部屋の入り口をはいと示して見せると、そのドア横のプレートにある名前がみずからのものと一致することを確認して、軽くうなずくサラだった。

 相棒のクマ族の部屋は、ちょうどその向かいにあるのも確認。

 とりあえず相部屋ではなかったことに軽く胸をなでおろした。

 扉の前に立つと自動ドアではなかったことに少しして気が付いて、メカニックの青年とちょっとだけ苦い顔を見合わせる女社長だ。社員のクマ族は、さえない表情でどことも知れない場所を眺めていたが、腹の音を鳴らしてがっくりとこの肩を落とす。

 さてはさきほどの食堂のごちそうにありつけなかったのをいまだに悔やんでいるらしいが、さっさとあんたもやることやりなさいよ!キツい目で睨んで、みずからの手で自室のドアを開けた。

 ニッシーのことはもはや完全に無視して、まずはおのれにあてがわれた部屋の様子をぐるりと見回すサラである。

 見た感じまだ新品の室内は、イヌ族の彼女からしてもさしたるニオイがないまっさらな状態で、過不足のない調度品とそれなりの広さがあった。

 ひとりで生活するには快適だろうことがうかがえる。

 部屋の中央に立ってしばらく周りを見回してから、とても満足のいった調子で感想を口にする社長さんだった。

「ふうん、思ったよりも悪くないじゃん! 広さもそれなりあるし、ベッドが格納タイプだからへんなデッドスペースも生まれないし。下のデッキが近いからって騒音も伝わってこないみたいだしねぇ?」

 悦に入った感じで言ってやると、ちょっと離れたところから返事を返すメカニックの青年に、妙な顔をして出口を見返すイヌ族の女子だった。

「ねえ、なんでいつまでもそんなドアの外にいるの? 別に入ったってかまわないわよ? 女子の部屋だからって遠慮してるなら、そんなの余計な気遣いだし! ほら、入っておいでよ? 今さら廊下で立ち話もなんでしょう?」

 そう言って入室を促すのに、さっさと身を乗り出して入ってきたのは、招いてもいないはずのやぼったいぼさ髪のクマ族の男だった。

「へえ、意外と広いじゃん? 良かったな、社長、こんだけあれば何するにも不自由しねえだろ、てことはこのおれの部屋もおんなじで広いんだよな!」

「なんであんたが入ってくんのよ! 平社員!!」

 ほぼ反射的にカウンターのストレートを相手のアゴに向けて放つ気の強い女社長だった。対して慌てて身をのけ反らすクマ族の平社員、もといニッシーであった。

 当のメカニックのクマ族の青年が、後から苦笑いで入ってくると、右手の壁にある小型端末らしきを指さして言うのだ。

「これが端末です。新品ですよね? 認証作業ははじめの内にやってしまえば、デッキブロックの出入りや、食堂やその他の施設もフリーパスで使えるようになります。やらないといつまで経ってもよそ者扱いされてしまうので。おふたりの荷物を取りにデッキに降りることもできませんからね……!」

 にこやかに説明してくれるそれは性格の律儀で温厚なクマ族に、こっちのほうが社員としてほしいわー、とか口にしながら、笑顔で首を振るサラであった。

 みずからの足下を見ながらに言ってくれる。

「ううん。その必要はあいにくとないみたい。見て、ちゃんと荷物が届いているじゃん! ラッキーよね?」

「ラッキーって、なんでそんなもん届いているんだよ? そんなサービスまで完備してるのか、この軍艦は?」

 ひどく不可思議そうな顔つきする社員のクマ族と、おなじくきょとんとしたさまのメカニックのクマ族に向けて、そこは生まれつき商魂のたくましい女イヌ族である。

 いけしゃあしゃあと言ってくれた。

「こっちにアーマーで乗り込んで来た時に、たまたまデッキでおんなじイヌ族の若いパイロットたちと遭遇したんだけど、なんか見てたらやけに気が弱そうだったから、ためしに荷物運びをお願いしてみたのよね! そしたらこの通り、ちゃんときれいに全部運び込んでくれたんだわ。後でちゃんとお礼を言っておかないとね?」

 ぱちりとウィンクするやり手の女社長に、どん引きするニッシーとやや苦笑いのリドルだ。

 メカニックの彼にはそのパイロットたちに思い当たるところが少なからずあって、頭の中では第二小隊の若手のイヌ族コンビを思い描いていた。特に気が弱そうというところがもろに当てはまって、なおさら苦い表情になるのだった。

「はあ、たぶん、コルク准尉どのと、ケンス准尉どのたちですね、それって? どちらも第二小隊のパイロットさんです。災難だったな。これ、けっこう荷物としては大きいですよね。ぼくも手伝わなけりゃならないと思ってたから、後でお礼を言っておかなくちゃ……!」

「やだ、あんたってほんとに律儀ね! マジで気に入ったわ。どう、あたしのところに引き抜かれない? そんな若いのにもうこんなでかい軍艦のメカニックだなんて、腕もそれなりのものなんでしょう? 悪い条件は言いやしないから、良かったらこのわたしのアーマーのメカニックもやってみてよ?」

 出し抜け思いも寄らぬ提案に、びっくりした顔のメカニックマンだったが、これに横から新米パイロットのクマ族がしたり顔してたたみがける。

「そうだな、おれも歓迎するぜ? おまえとならいいコンビを組めそうだ! 年下だろ? あとついでにこのおれの荷物を運び込むのも手伝ってくれよ? もとからそのつもりだったんだろ、な、な?」

 調子のいいことをぬかすのに、これにも笑顔ではいとうなずくお人好しの青年クマ族であったが、社長のサラによってきっぱりと拒否された。

「あんたはじぶんでやんなさいよ! もしくはあのデカブツのおじさんメカニックに運んでもらったら? あんたのアーマーを専門で見てくれるんでしょう? よかったわね。まあでもその前にまずはじぶんの部屋の中をのぞいてみれば?」

「?」

 はじめ辛辣なサラのそのくせどこか意味深なもの言いに目を丸くするニッシーだったが、その後の言葉に狂喜乱舞して部屋を飛び出していくのだった。

「とりあえずあんたの荷物も運んでくれるようにお願いはしておいたから。新しく入ったでかいアーマーって言えば、わからないことなんてないでしょう? このぶんなら、たぶんやってくれたんじゃない? ほんとに気弱な感じでやたらに首を縦に振っていたから。特に毛むくじゃらで顔色の暗いイヌ族のほう!」

「それ、絶対にコルクさんだ……! ほんとに災難だったな」

 ちょっとかわいそうに思いながら、この話を第二小隊のオオカミ族の隊長が聞いたら、なんだかめんどくさいことになるんじゃないだろうか?と気がかりにもなってくるリドルだ。

 そんな暗い顔の横で、パッと顔つきが明るくなるもうひとりのクマ族は、ガッツポーズを取って部屋を後にしていく。

「ひゃっほー! 社長最高だぜ!! 腹すかしたまんまで力仕事だなんて一番の拷問だもんな? とっとと荷物をほどいてさっさと食堂に行ってやるぜ! 戦艦グルメをひとりじめ!!」

 好き勝手にほざいて向かいの部屋に入った途端にまたそこから調子外れな絶叫が聞こえてくる。

 残されたクマ族の青年と目を見合わせてちょっとだけ肩をすくめる社長さんだった。

 どうやら律儀で気弱なイヌ族たちは、見ず知らずのクマ族の荷物までもきちんと運び込んでくれたのらしい。

 何はともあれでとりあえずやることは終えたらしいと理解するクマ族のメカニックマンは、一礼して部屋を後にすることを伝える。

 もう引き留める理由もない若い女社長も笑顔でうんとうなずくのだが、それがなぜか真顔になってリドルに聞くのだった。

 これにはたと首を傾げる青年クマ族だ。

「あ、そうだ。この戦艦の乗組員に、もしかしてゴリラ族って複数いたりする? いわゆるパイロットとかじゃなくてさ?」

「はい? ゴリラ族の方、ですか……?」

 怪訝に首を傾げる彼に、イヌ族のサラは何やら険しい視線を投げかけるが、それが実はじぶんではなく、その奥の入り口に向けてのことだと察してそちらを振り返るリドルだ。

 するとそこには、いつの間にかある人物が立っていたのに目を丸くする。そんな気配はまるで感じられなかったはずなのだが。

 扉の前には華奢でやや小柄な身体つきをしたネコ族の男が立っていた。

 果たして一体、いつからそこにいたのか?

 ネコ族とは言いながら、かなり特徴的な見た目と格好をしているで、それがごく最近にこの船に乗り込んできたアーマー乗りのひとりだとすぐにも理解はするものの、はじめ言葉に詰まる若いクマ族だった。

 小隊のメンバーたちとの今朝方のブリーフィングでの会話にもあった通り、まったく知らないわけではない。

 実際、この彼自身も彼らの乗るアーマーへの興味本位から、このアーマーデッキに足を運んだりしたこともあるのだが、その時はろくに会話するまでもなく、あっさりと追い返されてしまったのだ。

 それだからちょっと気まずいカンジで尻込みしていると、すぐ隣にまでつけるこの部屋の主の女社長のイヌ族が、毅然としたさまで言ってくれる。

「レディの部屋に来たのなら、ノックくらいしてくれるものなんじゃない? いくら見知った仲でもね! あと、その後ろに隠れているヤツも、とっとと姿を現したら?」

 若いのに堂々としたさまにちょっと感心してしまうリドルだが、何食わぬ顔をした当のネコ族は悪びれるでもなく、かすかにこの肩をすくめさせた。

 そうして鋭い目つきをおのれに横に差し向けると、見えない壁の向こうで何かしらの気配が動いて、高いところからのっそりともうひとりの影がこの顔を出てくる。

 異様に大きな身体つきした相棒のゴリラ族のパイロットだった。全身が毛むくじゃらで、筋骨隆々としたマッチョマンだ。

 それがちょっと照れたような顔でこちらに会釈してくる。

 気配を消していたのになんでわかったの?とでも言いたげな顔つきに、イヌ族のサラは冷めた調子で答える。

「イヌ族が鼻が利くのはみんな知ってるでしょう? あんたみたいにでかくて体臭がきついゴリラ族だったらなおさらだわ!」

「えっ、そうなんですか? ぼく、ぜんぜん気がつきませんでした! ベリラさんて、臭うんだ??」

 サラの言葉を真に受けた挙げ句、なんか違う方向でまでビックリするクマ族の青年に、ゴリラがあからさまにげんなりしたさまでガックリとしょげる。

「うほ、おれってそんなに臭うかな……? ちょっとショックなんだけど」

「気にするなだにゃ! オレはおまえがそんなに体臭きついだなんて、思ったことないのだにゃ!」

 目つきの冷めたネコ族がどうでもよさげにあしらうのに、サラがくっくと鼻先で笑う。

「冗談よ。体臭っていうよりは、むしろバナナの匂いよね? いつも食べてるから身体に染みついているんでしょう! ちょっと問題よね。そんなんで隠密行動なんてされても一発で見抜かれちゃうわ、わたしたちイヌ族なんかにはね!」

「うほ? そうなの? 確かにさっきも食べたばっかりだけど、そんなに臭うかな? でもバナナはいい匂いだから、問題ないよね? エチケット的には?」

 なんか的外れな言い分に、なおさら目つきが冷たくなるネコ族のイッキャだ。

「ダイエットするにゃ! 全身から甘い匂いのするアーマーパイロットなんて、なめられるだけなのだにゃ。オレの評価も下がるのだにゃ!」

「オシャレでいいんじゃない? 汗臭かったりケモノ臭かったりするよりは女子受けぜんぜんマシなはずよ。ていうか、ふたりしてわざわざ何の用なの? ひょっとしてご近所さんだからご挨拶だとか?」

 あまり歓迎しているそぶりがない素っ気ないイヌ族の女子のセリフに、なんかいずらい雰囲気を感じてしまうクマ族のメカニックは愛想笑い浮かべてイッキャに向かう。

 部屋を出て行くにもこのネコ族が邪魔でどうにもならない。

 向かいの部屋のサラの相棒のクマ族は、すっかり影をひそめていた。気がついていないのか、関わる気がないのか?

「おふたりはデッキが艦の後方だから、こちらのエリアにいるんですよね? てか、勝手に荷物を持ち込んで占拠したとかブリッジ・クルーのビグルスさんが怒ってましたけど?」

 控えめなそぶりと目つきでどいてくださいとお願いしたつもりが、相手はまるで気にもせずで入り口前で仁王立ちだ。

 むすりとした顔つきのネコ族は、若いクマ族など眼中にないさまでとなりのイヌ族に向けてものを申す。

「悪いがちょっと話があるのだにゃ。ここではなんだから、下のデッキで話すのだにゃ!」

「ここではできない話なの? ふうん、ま、別に構わないけど、今すぐにってのは急なはなしよね。まあ、あなたたちにはここを紹介してもらった恩義もあるから、聞いてやらないこともないけれど……?」

 いかがわしげな目つきのサラは、横で困ったそぶりのリドルと目が合うと、かすかに細い肩をすくめさせて了解した。

「オッケー! なんかメカニックくんが困ってるから、今からでも聞いてあげるわ。行きましょう。じゃ、メカニックくんはここでさよならね! いろいろ親切にありがとう♡」

 軽くシッポをひとふりしてその場を後にしようとするサラに、これを後ろから見送ることになるリドルは、なぜだかちょっと心配になって、思わず声をかけてしまった。

「あ、あの、じぶんもご一緒させてください! その、イッキャさんやベリラさんのアーマーに興味があるので、ちょっとだけ眺めさせてもらいたいなって……! よろしければ?」

 意外なことを申し出るクマ族のメカニックに、振り返るイヌ族の女社長はちょっと目を丸くして見返すが、相手がことさら真顔なのにクスリと笑ってネコ族とゴリラ族のコンビに申し出る。

「オッケー! わたしは構わないわ。オブザーバーとしての参加を認めてあげるけれど、そっちも問題ないわよね? それとも何か聞かれちゃまずいことでもあるってのかしら?」

「…………」

 するとふたりはしばし微妙な顔つきでお互いに見合うのに、あ、なんかマズイことを話すんだな?と内心で感づくリドルなのだが、顔には出さないで三人の後に続いた。

 向かいの部屋のクマ族り平社員にも声をかけたほうがいいかなとは思ったが、サラがさっさとその場を離れるのにこのふたりの関係性みたいなものもなんか理解したような気がして、黙ってこの後に続くのだった。


               ※次回に続く……!

 



ニッシー、サラ、タルクスに案内されて、食堂の第一小隊メンバーと合流。二人は個人の居室(セル)にリドルの案内で向かう。相部屋だったのに、サラが反発? 

イッキャとベリラに遭遇?

ニッシー(ジンジャ・エル)とイージュンの掛け合い
サラ合流 タルクス合流


 




   22プロット

 今回からさらに戦場派遣会社「ミカン・ペースト」の女社長サラと平社員のニッシーが新たに加わる。←先に入ってきたイッキャの紹介。ニッシーの搭乗するアーマーは、大型機なので、ペアランドのランタンと同じ、大型機用のハンガー・デッキに収まる。出撃時も、通常のカタパルトは使用できないので、ベアランドと同じ強制射出システムを共用。本人はすごくイヤがる。

 ニッシーのパイロットスーツはわけあり。←タルクスがバラす。

 ベアランドは収集したデータをランタンのコクピット内でリドル、ザニー、ダッツと共にミーティングで考察する。

 ミーティング後に、ニッシーとサラが登場。

 ニッシーの大型機は、イージュンが担当することになる。

 ベリラとイッキャは基本は艦の守備部隊として、後方のアッパーデッキを勝手に占有。←リドル

 敵の示威行動… アーマー出撃、カノンとイワックと会敵?

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ルマニア○記/Lumania W○× Record #021

 リドルの補給機をタルクスが引き継いで出撃!

※今回から新しく第一小隊のメンバーになった、ブタ族のタルクスくんの乗るアーマーのデザインが決まりました(^^)

 メインキャラなのに見た目が雑なモブキャラだった、メカニックマンの「リドル」くんのデザインを全身刷新しました!!

第二小隊のギガ・アーマー、ビーグルⅥのデザイン完成!

遅ればせながら、イヌ族の若手パイロットキャラ、コルクとケンスの搭乗する新型(?)の戦闘ロボのイメージ決定!ただしこちらは飛行型で、#021以降の陸戦型仕様とはちょっと異なりますw


 #021


  Part1


 超弩級の大型軍用艦の広い艦内に、それはけたたましい音量のサイレンが鳴り響いた……!

 耳をつんざき腹に響くような重厚な音圧は、それが現在、艦内全域が戦闘態勢に突入したことを知らしめるものだ。

 それだから音の大小はあれ、今やブリッジから機関室まで、ところ構わず鳴り響いているのに違いない。

 そしてそれはまたもちろん、このパイロットたちが出撃を待つアーマーデッキにまでガンガンと轟いていた。

「いくら臨戦態勢とは言っても、今回はぼくらアーマー隊の出撃だけで、このトライ・アゲイン自体は動かないんだから、こんなに盛大に鳴らさなくてもいいもんなのにね……!」

 みずからの大型アーマーのコクピットの中にその身をあずける第一小隊の隊長であるクマ族のパイロットが、そんな自嘲気味に言っては周囲のモニターに視線を送る。

 分厚い何重もの装甲に閉ざされたコクピットの内部には本来、外部からの騒音など聞こえないものなのだが、スピーカー越しにははっきりと聞き取れるのだった。

 そのほかの異音も、この耳には届いていたが。

 正面の大型モニターの真ん中のあたりを四角く切り取ったウィンドウの中で、その真ん中に映っていた若いクマ族のチーフメカニックが、こちらもやや苦笑い気味に応じてくれる。

 前面の天井に埋め込まれたスピーカーからそちらの音声が聞こえてくるが、この彼の声以外にも、サイレンやら怒鳴り声やらがやかましくまとわりつくのに、これを聞かされるエースパイロットどのもやや苦笑いだ。

「はい。ですがこの警報はじきに止むものと思われます。とりあえず今回の作戦のメインとなります、第二小隊のアーマーが各機出撃しましたら……!」

 そう言いながら何かしら含むところがあるような表情のチーフメカニックのリドルに、したり顔したニヤニヤが止まらないクマ族の若いパイロット、ベアランドは言ってやる。

「そちらさんは、いざ出撃するにもてんてこまいみたいだね? さっきからそっちでやかましくギャアギャアとわめいているの、イージュンだろ? さては第二小隊の隊長のシーサーと揉めているんだw ま、いつものことだよね?」

 ちょっと困り顔ではぁとうなずくリドルは、みずからの背後、コントロール・ルームの二番滑走路の管制ブースを巨体で占拠してコンソールに食らいついては、今も怒鳴り散らしているベテランのメカニックマンに、ちらりと困った視線を投げかける。

 やがて仕方もなしに真顔で返すのだった。

「……はい。じぶんはこちらの管制に専念します! はじめの予定の通り、そちらのセンターデッキからベアランド少尉どのが出撃、その後に一番滑走路から今回はタルクス准尉どのが、じぶんのビーグルⅣでの出撃となります! それではどちらも準備よろしいでしょうか?」

「もちろん! てか、今回は、じゃなくてこれからずっとだろ? リドルのビーグルは戦場での補給担当としてこれをタルクスがまんま引き継いだんだから。ちゃんと引き継ぎはふたりで済ませたんだよね?」

 ただちにはい!とうなずくリドルの声に、右手のスピーカーからは新しく小隊に編入された、こちらはブタ族の若いパイロットの声が重なる。

「こっちも準備OKなんだぶう! いつでもオーライなんだぶう!! ちなみにこれがオレの初陣なんだぶうっ!!」

 とっても陽気で元気一杯の返事に、対してこちらはちょっと意外げに聞き返すベアランドだ。

「へえ、初陣って、戦場にアーマーで繰り出すのはこれが初めてなのかい? 大丈夫かな……リドル、ちゃんとレクチャーは済ませてあるんだよね、その機体、とにかくいじくり回して機体制御がめんどくさくなってるんだろ? いかに補給機とは言え!」

 正面のモニターに問いかけるのに、かしこまった若いメカニックマンはやや戸惑いながらの返答だ。

「は、はい! ひととおりは……ですが自分は本来のパイロットではありませんので、補給機としての機動所作だけであります。だからそれ以上のことは……」

「それで十分だよ。あとはタルクスがどうかにしてくれるだろ? 仮にもこのアストリオンの正規兵のパイロットなんだから」

「もちろんなんだぶー! バッチコイなんだぶうっ!!」

 ちょっとおっちょこちょいな感じのノリの返事に、右手のモニターに映ったブタ族くんをちらりと見てしまう隊長さんだ。

 モニターに映ったその顔を見るには、初陣とは言いながらどこにも余計な力が入っていない慣れたそぶりで余裕綽々の表情のブタだ。ちょっとだけ肩をすくめて小声で独り言を漏らす。

「ま、基本は補給活動だもんね。そっち向きの訓練はきっちり受けてるわけで、無茶するわけじゃないから。あれ、本来のタルクスのアーマーって、いつ頃届くのかな? あと他にも援軍が来るってはなしだったけど……」

 ちょっと考え込んでいたら、サイレンや怒号の中に混じって、何やら気の抜けたようなおじさんの声までも入って来た。

 正面のスピーカーからだ。

 四角いウィンドウの真ん中に腰を据えるリドルの両脇に、いつからか半分だけ見切れたふたりぶんのパイロットスーツ姿があって、おそらくはこの白地に赤のラインの入ったクマ族のベテランパイロットのなまり混じりのセリフであった。

「隊長、今回はぼくらはお留守番でええんですかあ? なんやヒマで死にそうなんですけどぉ……」

 そんなどこかおとぼけたザニー中尉の言葉に、半ば呆れ顔で返す隊長の少尉どのだ。

「死ぬことはないだろう? せっかくなんだから楽しんでおきなよ。あいにくで遊べるようなレジャーはないけど」

 適当にうっちゃってやったセリフに、もう片方の白地に青のラインが入ったパイロットスーツ姿が、ダッツ中尉が答える。

 やっぱり独特ななまり混じりでだ。

「はいはーい、ほなら、ヒマつぶしにおれらでぶうちゃんの監督をやっときますよって、隊長はこころおきなくじぶんのお仕事に専念しはってください! ひゃは、なんやごっつおもろいことになりそうやんけ、ぶうちゃん、ビシバシいくでえ!!」

「あ、それじゃよろしく頼むよ。そのタルクスは主にふたりの補給役になるんだものね! とりあえず第二小隊が出てから出たいんだけど、まだかかるのかな? えらい手こずってる??」

 ちょっと不審げに聞くベアランドに、正面で問われた若いクマ族は苦笑いでまたちらりとだけこの背後に視線を向ける。

 結果、何を言うでもなく肩をすくめさせるのに、それと了解する隊長だ。

 代わりにまたこの場で気になっていたことを聞いてやった。

「ああ、そう言えば、シーサーたちとは別働隊で出撃することになってた、あのゴリラくんとネコちゃんのコンビはどうしているのかな? ひょっとしてもう出撃していたりするのかい、あのどっちも正体不明の謎のアーマーで? こっちのシーサーたちがもたもたしているあいだにさっさとさ?」

 これにまたしても困惑顔する若いメカニックマンは、本来のアーマー部隊を統括指揮するクマ族の隊長を前にやや言いづらそうに言ってくれた。

 ちょっと目をまん丸くして聞くベアランドだ。

「ああ、はい。そちらのおふたりでしたら、もう既に甲板後部のリフターデッキを使用して艦外に出られております! 加えておふたりいわく、第二小隊とは連携を取らない完全に独立した部隊として行動するとのことで、こちらからの管制もあまり聞き入れてはもらえませんでした……!」

「あ、そ、みんな勝手だなあ! あれ、でも艦の守備隊や飛行部隊が使うようなあの射出型のリフターじゃ、せいぜいこの甲板の上の屋根に登るってだけのことじゃないのかな? どうやってそこから目的地に向かうんだい??」

「はい。もともとどちらも本艦デッキのカタパルトを使用できるような機体ではありませんので、本来なら緊急発着用のアンダーデッキから地上に降りるのが相当なのでしょうが、なんでもその、ショートカットをするとのことでして……」

 自分で言いながらもなおさら困惑顔するリドルに、なおさらきょとんとした顔で聞き返すベアランドだ。

「ショートカット? え、何を言っているんだい??」

 心底不可解げな隊長に、ひたすら困惑するばかりのメカニックだが、この横からベテランのパイロットが助け船を出す。

「ほえ、ほれ、小僧くん、説明するのはしんどいから、むしろ見てもろうたほうが早いんちゃう?? それしかないやろ、今ちょうど、その最中なんやし……!」

 ザニーにそう促されて、仕方も無しに手元のコンソールを操作する若いクマ族だ。微妙な顔つきで言いながら、四角くくりぬかれたウィンドウの画像が、がらりと別のものに切り替わる。

「そちらは本艦ブリッジからの映像になります……! ええ、見ての通りで、二機のアーマー、艦の甲板の屋根から崖に飛びついて、そちらからさらにこの西側の断崖と山を超えてゆくものだと思われます。むちゃくちゃですね……」

「あらら、素直に地面のルートを伝っていくんじゃなくて、山越えで文字通りのショートカットをしようってのかい? あんな切り立った断崖、アーマーで越えるのはムリってものだけど、実はその先にいい抜け道があったりするのかな? 山岳や丘陵地帯を大回りしないで平野まで突っ切れるのならば、それは確かに近道ではあるのだけど……?」

「じぶんにはわかりかねます……」

 若いメカニックが困惑して返すさなかにも、二対の戦闘ロボは器用に断崖を登って、その先の林の中へと姿をくらましてゆく。 

 この一部始終をのんびり眺めながら、とりあえずで了解するベアランドだ。

「ブリッジの艦長はどんな顔してこの映像を見ているのかね? まあいいや、現場で合流すればいいことだし、上空から見ていればちゃんとモニターできるよね! 今回はこのふたりのお目付役で、この実力のほどをそれとはかるのがぼくらの役目だし。リドルもこちらからの映像を見て確かめておいておくれよ? あとついでに、ザニーとダッツも!」

「了解!」

 正面の映像がふたたび切り替わって、元に戻ったコントロールルームの中でピシリと敬礼するメカニックマンだ。

 なんならあのイヌ族の博士さんにも見てもらいたいくらいだが、あいにくと当人はみずからの研究室にこもっているらしい。

 さてはじぶんの研究対象以外にはまったく興味はないらしく。

 そうこうしているうちに、あんなにかまびすしく鳴り響いていた警報が、今やぱったりと途絶えていた。

 どうやら第二小隊のオオカミとイヌ族コンビがようやく出撃を済ませたものらしい。

 お次はじぶんの番だと了解するクマ族の隊長は周りのモニターから余計な情報を削除して、前面のメインモニター一杯に大写しで映っていた正面のアーマー射出口が開いていくのを視認する。

 先に見えるのは乾燥地帯の枯れ果てた大地と、青い空だ。

 空飛ぶ軍艦は今は陸地に停泊しているから、いつもと比べたらずっと低い位置からの出撃となった。

 画面から消え失せて、今や声だけとなったメカニックが天井のスピーカーからはきはきと指示を飛ばしてくる。

「それでは今回はミッションの性質上、少尉どのはアーマーの強制射出システムを使用しないでの、自力での発進となります! ゲート、フルオープン確認、アーマーの各部ロック解除、各種システム、機体ともにオールグリーン、いつでもどうぞ!!」

「了解!」

 コンソール手前で赤く灯っていたパイロットランプが、管制からのゴーサインと同時に緑色に切り替わる。

 こちらもきっぱり応じてから、みずからの握る操縦桿を手元に引き寄せるクマ族の隊長だ。

 それまで機体を固定されていたデッキからその巨体を持ち上げるアーマーが、そのまま微速前進、ゆっくりと正面口からこの外部へとせり出してゆく。

 完全に艦の外へと離脱してから、特殊な飛行システムを搭載した大型の機体がさらにゆっくりと大空をめざして上昇してゆく。

 一番最後に戦場に駆けつけるくらいでいい今回のような作戦なら、このくらいゆっくりとした立ち上がりでも問題はなかった。

 背後から後続のブタ族くんの機体も無事に発艦したのを見届けて、目的のポイントへと向けて機体を回頭、そこまでまっすぐに突っ切るコースでアーマーを前進させるベアランドだった。

 はるか足下に見える地面の荒野では、先行したウルフハウンドたちの第二小隊が丘陵地帯から早くも平野へと突入するのを確認もする。はじめのもたつきを完全に挽回する急ピッチだ。

 何かと性急で強引なオオカミ族の隊長どのに、あの気弱な若いイヌ族くんたちが泣かされていなければいいなとやや苦笑いで思いながら、それ以外の周囲に視線を向ける。

 肝心のふたりの傭兵部隊の姿を見失っていたが、それもこの先で見つけられるだろうと、意識をはるか平野の先でポツポツと見渡せる街らしきに向けた。

 中でもこの一番手前に見えるものが、今回の作戦域となる予定のポイントであった。

 通称・ポイントX……!

 戦場まではそう遠くはない。


  Part2


 時刻はおよそ正午過ぎ。

 コクピット前面の視界モニター一杯に雲一つとなく晴れ渡った青空が広がる。

 空高くから広く平野を見渡せる高度にまで機体を上昇させて、この眼下に広がる乾ききった茶色一色の砂漠地帯の景色を眺めるクマ族のパイロットだ。
 
 母艦の周囲を取り巻いていた切り立った山岳や丘陵地帯から抜け出して、今は緑のまばらな荒野に一本だけ長く走る灰色の直線、あまり整備の行き届いていない国道らしきを注目――。

 やがてそこにふたつばかりの違和感を見つけることとなる。

 広角のロングで捉えた画像の中ではただの小さな黒い点であったものだが、これをいざ望遠でズームアップすると、例のあの黒い不格好な二体のアーマーであることがはっきりとわかる。

 道なりに荒野を西へとひた走る二機のアーマーの後ろ姿をしげしげと眺めながら、ちょっと感心した口ぶりの隊長さんだ。

「あらら、もうあんなところにいるよ、あのおふたりさん! 本当に基地の周りの山岳地帯をまっすぐ突っ切って平野に出てきたんだ。まいったね……!」

 誰にともなし言ってやったセリフに、右手のスピーカーからただちに明るい返事が返ってくる。

「おれたちみたいな空を飛べる飛行型ユニットでもないのに山越えだなんてすごいんだぶう!  おまけに今は陸地をすごいスピードで走っているんだぶう!!」

 後続の僚機から発信されるごくごくのんきで陽気なブタ族の返答に、こちらもしごく素直にうなずくベアランドだ。

「ほんどだな。あんな見るからに特徴的なスタイルのアーマーで長い距離を移動できるのか不思議でならなかったんだけど、ちゃんとどっちも脚部に高速機動用のモジュールが仕込んであったんだ? でも見たところはやりのホバーなんかじゃなくて、いわゆる単純な車輪(ホイール)式の走行タイプみたいだね?」

 正面モニターの画像からそうじぶんなりに推測してやるに、すると今度はこの背後につけた機体よりか、ずっと後方に控えている母艦のデッキから返事が返ってきた。

 チーフメカニックの若いクマ族、リドルのものだ。

 こちらでモニターしている画像やデータをまんまあちらでも共有しているので、同時におなじものを見ながらそれぞれに考察や解析ができるのだった。一緒にいるはずの居残り組のダッツやザニーはだんまりだったが、ひょっとしたら別の管制ブースで後ろのタルクスに絡んでいるのかもしれない。

「はい。じぶんにもそのように思われます! ですがその場合、タイヤの構成素材がなんであるのかが気になりますが? とりあえず舗装路だから可能なことなのかもしれません……!」

「つまりはあくまで市街地用の装備ってことか……う~ん、さすがにそこまではここからじゃ見分けがつかないな? あんまり近づいたら気になるだろうし、敵に居場所を教えちゃうようなものだからね? 実際に戦闘に入らなければ、おちおち近づいてモニターもできないよ。でもネコちゃんの機体はスムーズに走ってるけど、でっかいゴリラくんの機体は、なんか大変そうだな? ずっと上体よれながら必死に食らいついているような??」

 ちょっと首を傾げながらの感想に、するとまたよそからこちらはおじさんの声で補足が入る。

 あの二体の謎のアーマーに興味があるのは彼らだけではなかったようで、みずからが担当する第二小隊の出撃を無事に見送って、今やすっかり手ぶらになった中年クマ族のチーフ・メカニックマンだ。

 それが何やら少し冷めた調子で言ってくれる。

「走行用の内部機構(モジュール)とは言っても、おかざりみたいなもんだろう。おれが見たところじゃ、どっちもガチガチの格闘戦を主眼に置いた機体だ。よってちゃちなお飾り程度のカッチカチのタイヤがせり出してるくらいなもんだな! 乗り心地は最悪だろうよ? 酔い止めは飲んでるのかね?」

 冷めた視線でかなりの皮肉交じりの文句に、あいまいにうなずいて了解するベアランドだ。無言でも苦笑しているのが気配でわかる若手のメカニックも、おおよそで同意見なのだろう。

「まあ、なんでも機能を詰め込むのは限界があるからね? ムリでもなんでもあのくらいのスピードで長いこと航行ができるのなら、及第点なんじゃないのかな。今のところは?」

 そうしたり顔して言ってやるのに、左のスピーカーからはやはり皮肉めいたおじさんのだみ声である。

「ああ。ただしメカニックの立場からしたら、あまりおすすめできたもんじゃありゃしないな。特にあのでかいゴリラくんの機体、あんなの無理矢理すぎて居住性が最悪だろ! およそタイヤの大きさが釣り合ってないんだよ、ケツが痛くて仕方ない」

「あはは……!」

 反対側のスピーカーからリドルのお追従笑いみたいなものが聞こえるが、たぶんその通りなのだろう。

 内心で思わず、お気の毒さま……!とそのモニターの中の二機のアーマーの後ろ姿を眺めるクマ族だった。

 一方、その当のふたりのアーマー乗りたちといえば――。


 激しく小刻みに揺れるアーマーのコクピット内で、大きな身体を前のめりの姿勢で正面のモニターに食らいつくゴリラ族のパイロットだ。

 太い手足をシートやペダル周りに踏ん張らせて、身体の姿勢を保ちながら、ひたすらに目の前のモニターをガン見していた。

 地図の上では主要な国道ルートとは言っても、実際はおよそでこぼこで道としての役目を果たしてもいない道なき道だ。

 あいにく荒れ地を走るようには作られていないみずからのアーマーのちゃちな三輪型車輪機構では、ちょっと油断したらすぐにでもバランスを崩して転倒しかねない……!

 額にイヤな汗を浮かべながら、必死に前を走る相棒のアーマーの後ろ姿を追いかけるが、ちょっと弱音を吐きそうだった。

 だがそんなもの言ったところで、前の機体は振り向きもせずにさっさと行ってしまうのだろう。

 長年の付き合いで、相手の性格は熟知していた。

 ちょっとそっちに気を取られていたら、ガクンと大きく機体が揺れて、ただでさえ前のめりだった頭が思わず正面のモニターに突撃しそうになる。さてはくたびれてひからびた舗装路に大きめの亀裂(クラック)が走っていたのだろう。

 思わず舌打ちして、ちょっと距離の空いた相棒の背中に向けて文句をたれていた。

「うわっと! なんだよ……うほ、あのさぁ、イッキャ、道にクラック走ってるんなら、教えてくんない? こっちはただでさえこんなバランス悪いのにムリしてるんだから、転倒しちゃうじゃないか。この速度だったら最悪、大破とかもありえるよ?」

 なるべく内心のイライラを声に出さないようにお願いしたはずなのだが、前の機体からはかすかな舌打ちめいたものがして、その後につっけんどな返答が返ってきた。

 おもわず眉間にシワが寄って、げんなりするゴリラだ。

「それはおまえが間抜けなだけなんだにゃ! 四の五の言わずにさっさとついてくるにゃ! 気付いていると思うが、背後で上からあのクマの隊長が見ているにゃ! 間抜けなさまは見せられない。できたらもっとスピードをあげて、あいつらを巻いてやりたいくらいなんだにゃ!!」

「それじゃこっちが置いていかれちゃうよ! まったく、山を越えたらショートカットだとか言っておいて、目的地まではさして変わらないじゃないか? ぶっちゃけあのオオカミさんの部隊のほうが早く着いているかもよ?」

「それはむしろこちらの思惑どおりなんだにゃ!」

 ちっとも悪びれるでもないネコ族の返事に、ちょっと怪訝に口をとがらせて聞き返すゴリラ族のベリラだ。

「え? なんで??」

 ふたりきりの部隊の中ではリーダー格となる小柄なネコ族、イッキャはニヤリとしてみずからのコクピットの前面モニターの中で太い首を傾げるゴリラ、もといベリラに返した。

「まずはじめはあのオオカミとイヌ族のコンビたちに戦わせておいて、敵の意識がそちらに向いている隙に、おれたちはこの背後から忍び寄って奇襲攻撃をかけるにゃ! まんまと挟み撃ちにしてやるのだにゃw 慌てたやつらは総崩れになるのにちがいがないのだにゃ! 楽勝なのだにゃ!」

「はあ~……! 相変わらずそういう悪知恵が働くよね? まともにやってもおれたちならそう苦労はしないはずなのに、あの上で見張っているクマの隊長さんはどう思うのかな? もはやコソコソしながらなのは性分なのかな、このおれたちの……!」

 何やら自嘲気味な相棒のセリフに、まるで気にするでもないネコ族はしれっとした口ぶりで言ってくれた。

「要は勝てばいいのだにゃ! 相手は手負いの敗残兵なのだから、オオカミたちが正面で戦っている間に、裏からさっさとケリをつけてやるにゃ! このおれとおまえのアーマーの力を持ってすれば、簡単なのだにゃ!」

「だったらこんなこそ泥みたいなやり口でなくてもいいんじゃない? 前の陸軍基地を襲った時もそうだったけど、いちいちめんどくさいんだよなあ、イッキャのやってることって……!」

 思わず思ったまんまを口にしたら、不意に前を走るアーマーがさらにスピードを上げはじめた。おまけに捨て台詞みたいな言葉を発して、通信を閉ざすリーダーのネコ族だ。

「おまえが何も考えないから、このおれが作戦を立てているのだにゃ! 文句は一切、受け付けないのだにゃ、おまえは黙ってこのおれについてくればいいのだにゃ!」

「あ、ちょっと、待ってって! そんなに急いだらせっかくのズボラ奇襲大作戦がうまくいかないんじゃない? てか、あの上で見ているクマさんたちのアーマーが目立って、はなっからそんなの成立してないような……? あ、だから待ってってば! 置いてかないでよ、イッキャ!!」

 荒野をひたすらに走る二機のアーマーは、そのはるか先に目的地となる街、通称ポイントXがあるのをこの機体の頭部のカメラの視界に捉えつつあった。


 Part3

 今回のアーマー部隊出撃の目的、その目標は、近隣のオアシス都市に反政府ゲリラのアーマーが複数出現したことにより、この討伐と街からの撃退を要請されたことによるものだった。

 この中央大陸「アストリオン」の友邦国の軍艦として今はこの大陸連邦の領空領土に無条件でお邪魔させてもらっている都合、無下にはできないとのンクス艦長の判断であった。

 ちなみにもっと厳密に言うのであれば、ゲリラのアーマーとはそもそもは彼らが占領しようとしていた、今は完全に廃墟と化している元陸軍基地の守備隊たちであり、その敗残兵が野党と化して近隣の街の脅威となっていると言うのがより正確なところだ。

 ただしこの基地の占領(破壊?)に関してはもろもろ他の要素も強く関わっているのだが、傍から見れば彼ら、ベアランドたちの行いによるものと思われるのは致し方がないところではある。

 それによる後始末という側面も強くあったが、そのあたりについては今さら言っても仕方が無いし、その当事者と思われるアーマー乗りたちも、今回の作戦にはしっかりと参加しているのだから、どうこう言うつもりはないクマ族の隊長だった。

 それはある意味、本人がきちんと責任をもってその責務を果たすということでもあっただろう。


 ひたすらに続く悪路の果てがついに見えてきた……!

 母艦のトライ・アゲインを飛び出してからこれまでずっと代わり映えしない、干からびた乾燥地帯をひた走ってきた機体のメインモニターが、その中に不意に四角いアラートゾーンを現出!

 自機が目標地点に近づいたことをパイロットに警告する。

 それをチラとだけ一瞥して、コクピットの中で軽快なランニングのステップを踏むオオカミ族の小隊長どのは、ペロリと舌なめずりして鼻息をフンとだけ鳴らす。

 ちょうどウォーミングアップは済んだところであった。

 通常のアーマーのコクピットは真ん中に操縦席があって、そこにパイロットは着座するものなのだが、彼のそれはかなり独特な仕様で、シートから立ち上がった状態でのランニングスタイルの機体操作が可能なものとなっていた。

 それは身体がでかくて鈍重なクマ族などにはおよそ考えられないものだ。

 直感と瞬発力重視のセンスが何より求められる機体の操縦機構は、目下、この彼だけのものである。

 目標が目前に迫ろうともみずからの走りのペースを緩めないオオカミ族の隊長、ウルフハウンドは、後続の二機の僚機、若いイヌ族の隊員たちへと向けて、戦場に到達したことを教えてやる。

「おい、ワンちゃんども、準備は出来ているな? 目標の敵アーマーは街中の至る所に潜んでいると思われるが、構うことはありゃしねえ、見つけ次第にこれを各個に撃破だ! 数は不明だが、中古のビーグルⅤごときはオレらの敵じゃねえ、間違っても反撃なんざくらうんじゃねえぞ? あと今回はよそ者の部隊も参加しちゃいるが、そんなヤツらに遅れを取ることは許されねえ。どっちもしっかりと星を稼げよっ!」

 半ば吐き捨てるように言うことだけ言って、それきり目の前のモニターに映る景色に意識を集中するオオカミだ。

 すると天井のスピーカーからは、ちょっとの間を置いて、かなり困惑したふうな部下の声が響いてきた。

 はじめのひどく動揺した息づかいとその次にやけにおどおどとしたものの言いようが、それだけで全身毛むくじゃらで臆病者のコルクのものだとわかる。

 内心イラッとはするものの、へんにどやしても返ってパニックするだけだろうから、黙って聞き流してやった。

「……えっ、あの、その、ええっと……しょ、少尉どの、それだけでありましょうか? なにか、その、作戦は……?」

 モニターにその表情を映さなくても臆病風に吹かれているのがわかる新米のパイロットに、やはり内心で舌打ちしながら、ぶっきらぼうに返してやる。

「そんなものは必要ありゃしねえだろうが? ただ街の中をしらみつぶしに探索して、敵を見つけたらただちにこれを撃破する! ただそれだけだ。十分だろう?」

「えっと、その、あの、だって、あの……」

 まったく要領を得ないイヌ族の代わりに、これの同僚でこちらはやけにさっぱりとした見てくれの細身のイヌ族のケンスが通信を開いた。普段からの落ち着いた若者は、はっきりとした言葉付きで相棒の言わんとしていたことを端的に申してくれる。

「ウルフハウンド少尉どの! それではこのじぶんたちは、隊長どのを背後からサポートする役割でよろしいのでしょうか?」

 性格が何かととっちらかった毛むくじゃらと比べたらずっと律儀でまともな部下の質問に、だがぞんざいに答えてやる上官だ。

「そんなわけがあるか! おまえらみたいなひよっこにサポートとしてもらうなんざ、どんなシチュエーションなんだ? このオレの足を引っ張らないこと。各自に判断して状況を乗り切ることがおまえらの役目だ! ごたくはいいからとっととやれ!」

「あ、隊長! 行っちゃった……!! いやでも、そんなこといきなり言われたって、おれ、どうしたらいいかわからないよ……」

 目標地点の街、ポイントXに到達するやいなや強引に正面突破をはかるウルフハウンドの銀色の機体は、それきり砂煙と共に街中へと消えて行った。

 後には新米の若手パイロットの新型アーマーが二機とも虚しく取り残される。途方にくれるコルクだったが、どうしたものかと正面モニターの右上に映る、同僚のイヌ族に目線をやった。

 モニター越しにこの目が合うケンスは、ちょっと肩をすくめ加減にして、半ば呆れたような調子で言ってくれた。

「あっと言う間にいっちまったな? 高速機動用のホバージェットもなしに二本の脚で! アーマーをあんな風に走らせることができるヤツなんて、オレはお前以外に見たことがないよ! てか、あれってぶっちゃけお前よりも速いんじゃないのか?」

 皮肉か冗談まじりみたいなセリフに、顔色がいまいち冴えない毛むくじゃらのイヌ族は、うわずった声で応じる。

「ああっ、おれも敵わないと思う……! でも正直、うらやましい。おれもあんな風にアーマーを走らせたい。このホバー、直線的な動きしかできないし、飛んだり跳ねたりしてタマをかわしたりできないんだもの!!」

「それが普通なんだよ! ドタバタ動いたりするのが苦手なアーマーが速く走るためにあるんだから。そもそも飛行型のオレたちのアーマーじゃ、走るどころか歩くのだって一苦労じゃないか」 

 もっともらしい同僚のセリフに、ため息まじりの毛むくじゃらは心底、心もとなげに弱音を吐く。

「これからどうすればいいんだろう……! ウルフハウンド少尉どのとははぐれちゃったし、おれ、自信がないよ。なんで飛行部隊のおれたちが、こんなおかしな陸戦仕様のアーマーで、こんな街中で戦わなくちゃならないんだろ?」

「しっ! 隊長どのに聞かれてるかも知れないぜ? あと他にもベアランド少尉どのたちも上で見張ってるんだろ? こんなサマ見られたら、後で何て言って笑われるか。とにかくオレたちも戦いに参加しよう、オレが先行するから、おまえは後からバックアップをすればいいさ!」

「い、いや! おれが先に行くよ。後ろが誰もいないとコワイから! ケンスが見張っててよ、ふたりで強力して乗り切ろう!」

「ははっ、おまえほんとに面白いよな! 了解!」

 隊長どのの突入から遅れておよそ2分半後、部下たちのアーマーも散発的な発砲音が鳴り響く乾いた戦場に突入していった。

 
  Part4


 中央大陸の南西部に位置し、アストリオンの現政権中央府とこれに反抗する西岸域一帯の新興都市国家群がにらみ合う緩衝地帯となる地域で、その中でも最大の規模を誇る商業都市が今回の戦場となっていた。

 この大陸出身のブタ族のタルクスから言わせると、アルベラと呼ばれるらしいが、基本よそ者ばかりで地元の地理に長けていない隊員たちからは、便宜上、ポイントXと呼ばれていた。

 街を東西に分ける大通りが南北に長く走り、中央の広場から蜘蛛の巣状に細い路地が走る田舎にありがちなレトロな街並みの中は、突然の野党のアーマーの襲撃にあって、今はどこも人気なく静まり返っていた。

 避難命令が出されているのか戒厳令が敷かれてるのか知らないが、アーマー同士の戦いをする身からすればありがたいことだ。

 およそ人的な被害を出さずに済むあたり。

 物的損害に関しては、無論、出さないように努めるものだが、相手はそうも言ってはくれないのだから、もはや多少の被害は止む無しと諦めてもらうしかない。

 そうすっかりとたかをくくった隊長のオオカミ族、ウルフハウンドはぬかりなく周囲のモニターを睨みながら、スピーカー越しに聞こえる外部からの音にも左右の耳をそばだてる。

 広くて見晴らしのいい大通りには人影どころかアーマーのそれもなくてて、敵はこぞって建物の裏手の影に潜んでいるのがはじめの予測のとおりだった。

 それこそ街中をしらみつぶしに探し出して敵を撃破すると言ったとおりの展開である。

 古い建物に周囲を囲まれた路地裏で、アーマーが一機通るのがせいぜいのところをさしたる足音も立てずにみずからの機体を進ませるウルフハウンドは、この目前、T字路の先に大きな影が揺らぐのを素早く察知する。

 現状、敵は攻める気がまるでなく、逃げに走ってばかりで完全に一方的な追いかけっこになっていた。

 ゆっくりとした抜き足差し足の動作から一気に素早い突撃のモーションに移って、角の突き当たりに飛び出すとほぼ同時に左に機体を回頭させる。

 モニターには慌ててそこから逃げようとする、それは良く見知ったはずアーマーの背中が大写しで映し出されるが、迷うことなくその背中めがけてハンドカノンを斉射していた。

 前のめりにつんのめった敵機が道の真ん中で見事に爆発炎上、この原型もわからないくらいに大破する。

 機体の戦況解析コンピュータが状況から敵機撃破を解析判定するまでもなく、またひとつ星を上げたことを確信する隊長は、ぬかりなく周りを見回しながら軽くガッツポーズを取る。

 調子は上々だ。

「よっしゃ! これで三機目!! ロートルの機体が相手とは言え、まるで歯ごたえがありゃしねえな? よりにもよって友軍のはずのビーグルⅤとは、全部で何機いやがるんだ? おっと、いつものクセで突っ走り気味か。味方のワンちゃんたちは……!」

 手前のモニターの状況表示一覧を一瞥するなり、難しい顔で愚痴をこぼす小隊長どのだ。

「なんだあいつら、どっちもまだ星がついてねえじゃねえか? 仮にも新型の機体で情けがねえ! ん、星がついたか? いや、こいつは……! 傭兵どものうさんくさいアーマーか。どうやらオレたちとは逆の街の北側から入ってきたみたいだが……!」

 ますます険しい顔つきでモニターを睨みつけるウルフハウンドだが、そこによそからの通信を知らせる、短いアラームが鳴る。  

 頭上から聞こえてきたどこか脳天気な声に、どことなしに天井に視線を上向けるオオカミ族だ。

「シーサー、聞こえるかい? ずいぶんと派手にやってるみたいだけど、ちょっとだけいいかな。おりいってお願いがあるんだけど……!」

「あん、なんだよ、大将? 今忙しいんだから、後にしてくれ! こっちは戦いの真っ最中なんだ。のんきに世間話なんかしてるヒマはねえぜっ……」

 露骨にイヤそうな顔で返してやるのに、相手の第一小隊のクマ族の隊長さんときたらば、まるで臆面も無く話を続ける。

「いや、そっちのコルクとケンスのことなんだけど、今は分かれているんだろ。別行動なんだ? それでなんだけど……」

 相手の隊長がしつこく続けようとするのをただちに阻止する気が短いオオカミは、反射的に声を荒げていた。

「悪いがガキのおもりなんかする気はねえよ。足を引っ張られるのもゴメンだ! オレは一匹狼な性分なんだよ。甘ったれたワンちゃんどもなんか引き連れていたくはねえっ」

「ひどいな! そんなに見所なくもないだろう、ふたりとも? いやそうじゃなくて、今回はあのふたりには引っ込んでてもらおうと思ってさ! なんせ状況が状況だから?」

「?」

 意外なことを言い出すクマ族に、灰色オオカミはいぶかしくモニターに映ってもいない相手をじっとにらみ付ける。

 そんな相手の剣幕を雰囲気から感じているのか、ちょっと困ったふうなクマの隊長は苦笑い気味のセリフを続ける。

「今、シーサーたちが戦っているビーグルⅤって、機体のカラーリングがぼくらが見慣れたナショナルカラーのグリーンじゃなくて、茶色、ブラウン主体じゃないか? タルクスに聞いたら、ルマニアから輸入したあれって、いわゆる砂漠仕様であんなカラーリングらしいんだけど、今のコルクやケンスのビーグルⅥのそれとまんまかぶってるじゃないか? 見てわかるとおり?」

「……だからなんだよ?」

 怪訝に聞くオオカミに、心配性なクマはどこかいいずらそうにまた続けた。

「ひょっとしたら、同士討ちとかになっちゃわないかと? 特にコルクがパニックしたりして。とにかくふたりには一度引っ込んでもらって、なんならシーサーにも引っ込んでもらいたいんだよね?」

「は? 何を言っているんだよ??」

 ちょっと険悪に聞き返すのに、まるでてらいもなくみずからの都合をぶっちゃけてくれるそれはのんきなクマのリーダーだ。

「今回の作戦の目的は、確かに民間に紛れ込んだ残党のアーマーの撃退だけど、裏テーマとしては、あのネコちゃんとゴリラくんの腕試しってのもあるじゃないか?」

「そんなのこのオレの知ったことじゃありゃしねえよ! あんな得体の知れねえヤツらに任せてたら被害が拡大するだけじゃねえのか? 好き勝手に暴れ回って結果、街が半壊だなんてことになっても責任が取れねえだろうっ」

 いっそ吐き捨ててやるのに、しかしながら天井のスピーカーからはしごく落ち着いた返事が返ってきた。

「……そうは言うけど、シーサー、今、ビーグルⅤを派手に大破させたよね? 街中で大爆発させるみたいな?」

 手痛い指摘にぐっと言葉に詰まるウルフハウンドは、苦々しい顔でこの天井のどこともしれない空をにらみ付ける。

「良く見ていやがるな? いやらしいったらありゃしねえ! そこまで派手じゃなかっただろう? 建物はどこもまだ半壊なんかしちゃいねえぜっ」

「その前の二機も、思いっきり大破させてたじゃないか? もう十分だよ。今回はこの場をあのおふたりさんにゆずって、後は三人で残党のアーマーが逃げられないように包囲網を作っておいてくれないかな。コルクとケンスにはこちらから言っておくから! それじゃ、そういうことでよろしくね♡」

「あっ、何を勝手なこと……切りやがった! たく、しょうがねえな……」

 好き勝手なことを言ってそれきり通信を閉ざす同僚のクマ族だ。これに不満顔で天井を見上げるオオカミ族だが、舌打ちして機体を反転、来た道をゆっくりと引き返していくのだった。


 Part5

 ※主役の乗るメカをリテイクすることになりました!
  理由はブサイクすぎるから(^^;)

 補給機のタルクスを伴ってみずからが街の上空に到達したときには、すでに戦況は刻々と変化していた。

 こちらにおおむね有利に事態が進んでいるのはほぼ想定していた通りだが、街に入るなりに肝心の黒いアーマーを二機とも見失ってしまったのには、内心で少なからず焦るベアランドだ。

 大通りからゴミゴミとした路地裏に入り込まれては、真っ黒い機体は保護色も同然でほとんど見分けが付かない。

 どうにかすべくうんぬんかんぬん頭をひねって、どうにか第二小隊のオオカミ族の了解を取り付けるまでこぎ着けた。

 クマ族の隊長はしたり顔してみずからのアーマーのモニター越しに見下ろした街の様子と、この手元の戦況表示ディスプレイをしげしげと見比べる。

「ああ、早々とシーサーが三機も撃墜しちゃったけど、これでいいんだよね。コルクとケンスは今回は残念だったけど! おかげで肝心のあのコンビさんたちに集中できるよ。なんか気が付いたらもう一機、撃破しちゃってるし?」

 おおよそで十機はいるものと思われた敵の数は、これでほぼ半減したことになる。ネコ族とゴリラ族のアーマーコンビは、第二小隊のウルフハウンドたちとは打って変わって、こちらはとてもしっかりとした連携プレイで敵を追い詰めているようだ。

 ギリギリまで機体の高度を下げてこの様子をうかがうベアランドに、このすぐ後方に控えた補給機のパイロット、ブタ族のタルクスが明るい声音で通信を開いてきた。

「こんなに近づいているのに気付かれていないなんてすごいんだぶう! あの勘の鋭そうなオオカミの隊長さんも気がついていなかったんだぶう! すごいステルス性能なんだぶー!!」

「あ、でも限界はあるよ? 通常の戦闘中なら難しいんじゃ無いかな? 今回みたいに戦わないで傍観しているだけなら、エネルギーのロスを心配しないでフィールド・ジェネレーターをフル稼働できるから、結果としての副産物だよね、これって」

「機体の周囲に張り巡らせたフィールドバリアでステルスまで生み出すだなんて、でかい戦艦のエンジンでも難しいんだぶう? アーマー単体でこれができるだなんて、そんなのうちのボスのイン様のゲシュタルトンくらいしか思いつかないんだぶう! あ、今のはただのひとりごとなんだぶう!」

 ちょっと慌ててすっとぼけるブタ族の若手パイロットに、クマのエースパイロットは苦笑いして受け答えた。

「とにかくなりをひそめていないとバレちゃうから、しっかりこのランタンの後ろに隠れていてくれよ? みんな市街地戦に夢中で空なんか見上げる余裕なんてないから気付かれないのもあるわけだし。あとそっちの国家元首さまが秘密裏に開発してるって言う決戦兵器みたいな大型アーマーは、知識としては入っているからそんな隠さなくともいいしね。みんな噂じゃ知ってるんだろ? ある種の都市伝説か陰謀論的な?」

「失言だったんだぶう~!」

 茶化した言いように、こちらも苦笑いで応じるブタ族だ。

「ははは! とにかくここからは、あのネコちゃんとゴリラくんの戦いに集中しないとね? なんせこれが今回の一番の目的でもあるんだから、て、言ってる間にまた一機撃破されちゃったみたいだよ! おそらくはネコちゃんのアーマーが敵を追い立てて、その先で先回りしてるゴリラくんのあのいかついアーマーが仕留めているのかな? あ、ネコちゃんのアーマー、発見!!」

 言っているさなかにも、眼前のモニター一杯に映し出された入り組んだ街中の裏手の通りの画像の中に、小型の真っ黒いアーマーが軽やかなステップで駆け抜けるのを認めるベアランドだ。

 おまけその先の1ブロックほど離れた場所にある、ちょっとした広場らしきに、この相棒となる大型のこれまた真っ黒いアーマーも補足する。

 それだからなるべくこの絵をズームで拡大して離れた母艦のメカニックたちにもわかるように努めるのだが、標的は結構なスピードで街中を右へ左へと縦横無尽に駆け抜けていく……!

 そのさなかにもまた一機、見慣れたはずの機影でも茶色なのが違和感だらけのビーグルⅤをいともたやすく撃破するのに内心で舌を巻くクマ族の隊長さんだ。

 戦場の第一線で現役バリバリの量産型アーマーは言うなれば彼らルマニア軍の主力兵器に位置づけられるのだが、まるでいいところなしのやられキャラと化している。

 背後のタルクスはもはや状況がめまぐるしくて目が追いつかないらしい。すっかり黙ったきりだった。

 かくして外野からこれをモニターするのも一苦労だと、額にうっすらと汗を浮かべるクマ族たちの一方で――。

              ☆

 足場の整った市街地に入ったことにより、それまでの荒れ果てた砂地よりも格段に動きが良くなった自慢のアーマーのコクピットの中で、素早い手さばきでレバーとコンソールを巧みに操るネコ族だ。

 目の前の高精細モニターに映し出したターゲットスコープの真ん中で、無様にその背中をさらす敵アーマーに向けてロックオンしたハンドカノンの引き金をただちに引き絞る。

 コンピュータが相手の撃破を解析判定する間もなくその場をダッシュして、身軽なアーマーを暗闇に溶け込ませるのだった。

 まるで人間かのような素早い身のこなしでアーマーを疾駆させるが、次の標的へと意識を向ける目つきの鋭いネコの耳元に、手元のスピーカーからは相棒のゴリラ族の、やけにのんびりとした音声通信が入ってくる。

「……イッキャ? 今どこにいるの? こっちはずっと待ちぼうけしてるんだけど、早いとこ敵さんをこっちに誘い込んでよ。さっきからひとりでずっと楽しんでない? さっき後ろから一機現れてビックリしたんだけど、あれってイッキャは関係ないよね? ま、あっさり片付けてやったから問題なかったけど……」

 なんかやる気なさげなクレームじみた催促に、若干ムッとした表情になるネコ族のイッキャは、通信相手の身体がでかくて何かとマイペースなゴリラ、もといベリラに向けて返した。

「問題ないのならそれでいいのだにゃ! おまえはそこで黙って敵が現れるのを待ち構えておくのだにゃ! このオレが確実に敵どもを追い込んでいるのだから、四の五の言うななのだにゃ」

「その敵が来ないんですけど? こっちはなんか良くわからない広場だか公園だかでずっとひとりきりなんですけど? そんなに広くもないからさ、敵を倒すついでに、なんか子供の遊具みたいなのもペチャンコにしちゃったんですけど? これって後で弁償とか言われないよねぇ?」

「そんなものはこのオレたちには関係がないのだにゃ! 放っておけばいいのだにゃ!」

「もちろん、そのつもりだけど。でもイッキャばっかりずるくない? ひとりで星を稼いでるじゃないか。こっちにも何機かちょうだいよ、あと、こっちのセンサーで見ているに、イッキャ、ひょっとしてダミーを飛ばしてたりしない? すごいやりづらいんだけど、それやられると??」

 ぐちぐちと文句をたれる相棒のゴリラに、額のあたりにうっすらと血管が浮き上がるネコ族は、声にもイライラを出しながらついにはつっけんどんに言い放った。

「何をどうしようがこのオレの自由なのだにゃ! おまえにどうこう言われる筋合いはないのだにゃ! そう言うおまえこそこっちのセンサーではやたらに明るい波形がでているが、エネルギーを無駄にロスしているんじゃないのかにゃ?」

 鋭くツッコんでやるのに、受け答えるゴリラ、もといベリラは慌てるようなこともなく開き直った言いようで返した。

「これがあるからここまでほとんど無傷でこれたんじゃない。おれたち。超高出力のジェネレーターが結界さながらのバリアフィールドを展開、おまけに機体の電磁カモフラージュまでしてくれるだなんてさ……!」

「だが絶対ではないのだにゃ! あと上でオレたちを見張っているクマの隊長も、おんなじようなことをやっているようなのだにゃ? それじゃとっとと片をつけるのだにゃ! 残りを追い立ててまとめて大通りに誘導するから、おまえもそこから通りに出るのだにゃ! ここからは早い者勝ちなのだにゃ!!」

 言うなり通信をブチ切るネコ族は、機体に激しいステップを踏ませつつも空へと向けて何発かの銃弾を見舞う。

 それが号砲だとでも言うかのようにだ。

 これに即座に応じるゴリラが乗っていたいかついアーマーが、前屈みのすさまじい勢いで狭い裏路地を疾駆する。

 そこからわずか数分で、全ての決着はつくこととなるのだ。

 かくして無事、作戦終了……!


                ※次回に続く……!









 ベアランド、タルクス、(リドル、ダッツ、ザニー)

 ベリラ、イッキャ……

 ウルフハウンド小隊、

 ポイントX アルベラ  西 エルスト? 北 カイトス?
 

 

 艦内 サイレン ベアランド タルクス リドル ダッツ ザニー

 21プロット
概要‐ベアランドたちの降り立った基地の周辺の町(仮称Point X)に残存兵のアーマーが襲撃、これを撃退すべく出撃!
 敵アーマー、ルマニアのビーグルⅤ(カラーは緑ではなく、黄土色?)
 メインは第二小隊のウルフハウンド少尉率いる陸戦部隊アーマー。ここに今回から参加した傭兵部隊のイッキャとベリラのアーマーコンビも出撃。ベアランドは今回はこのふたりのお目付役として、上空からアーマーでこの行動、戦いぶりを監視。
 ダッツとザニーは今回はお留守番。補給部隊として出撃したタルクスにリモートでツッコミする。
 敵、アーマー部隊を撃破したところで、終了。
 22 サラとニッシーがいきなり登場?


×ブリッジクルー 今回は特に出番なし。

◎デッキクルー 第二小隊(ウルフハウンド(ギャングスター)、コルク、ケンス(共に、ビーグルⅥ陸戦型仕様機=ホバーユニット装備型))、傭兵部隊(イッキャ(リトル・ガンマン)、ベリラ(カンフー・キッド))がメイン。   
 第一小隊 ベアランド(ランタン)、タルクス(補給機改装型ビーグルⅣ) 

 ベアランド、センタードライバーから、システムを使用しないで自力で発進、タルクス、レフトデッキから出撃~

 ウルフハウンド小隊、ライトデッキから各機出撃

 イッキャとベリラは、アッパーデッキから、基地を囲む断崖を伝って、現場に潜入?









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DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 キャラクターデザイン ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス

新規のキャラクター、メカニックデザイン

スピン・オフを含め、これから出てくる予定のキャラをまとめています!

中央大陸・アストリオン勢

ルマニアがある東大陸から戦いの場を移し、主役のベアランドたちが現在いる、中央大陸・「アストリオン」のキャラクターたち! #019以降のキャラとメカたち~

~アストリオン国家元首とその直属の配下たち~

●アストリオン国家元首。ブタ族。「イン・ラジオスタール・ザッツ・ガックン・アストリオン」現代正当後継者。

◎可変型イン専用大型ギガ・アーマー。「ゲシュタルトン」

◎ブタ族。インの直属の若手の部下。「タルクス・ザキオッカス」

◎リドルの補給機を暫定的にタルクスに引き継ぎ。
 ビーグルⅣ(全面改修型補給機)

◎タルクス専用ギガ・アーマー。「オーク・プロト・ワン」

●タヌキ族。「モーグ・ズク・シャーキンス」

◎バンブギン量産型?ギガ・アーマー。「王将」

●キツネ族。「カッター・ウォルタリバーン・ビジュバンス」

◎可変型ギガ・アーマー。「ハットトリック」

※上記の二人はコンビで、以下はトリオの一般兵。
●クマ族(ヒグマ系?)「ダイル・オルベガ少尉」

◎空中戦仕様型ギガ・アーマー。「Hi-GUMA(ヒグマ)」

●イヌ族(シバイヌ系?)「アッキス・コントラ少尉」

●イヌ族(シェパード系?)「キクター・ムカン・シーン少尉」

H部隊

クマ族(灰色熊系?)パイロット。「ハンマー大尉」

◎近接戦闘特化型ギガ・アーマー、「クラッシャー」

クマ族(ヒグマ系?)パイロット。「オムスン准尉」

◎近・中距離戦闘型ギガ・アーマー。「????」

●イヌ族(??系)「モルザス准尉」

◎可変型・ギガ・アーマー。「????」

K部隊

●クマ族(ツキノワグマ系?)「カノン・シューン」

◎大型・中・長距離支援用ギガ・アーマー。「ガマ・ガーエル」

○ネコ族(??系)「イワック・ラー」

◎空中戦仕様型ギガ・アーマー。「アマ・ガーエル」

L部隊

○イヌ族(??系)「サラ・フリーラ・シャッチョス」

◎空中戦仕様ギガ・アーマー。「ドンペリ・ピンク」

●クマ族(ヒグマ系?)「ニッシー・ロックデーモ・ナイ」

◎大型・長距離支援用ギガ・アーマー。「ジン・ジャエル」

T部隊

●イヌ族(雑種・ミックス系)「タッカー少尉」

◎水上作戦仕様ギガ・アーマー。「イルカ」

イヌ族(雑種・ミックス系)「トッシー少尉」

◎水上作戦仕様ギガ・アーマー。「オルカ」

タキノン艦所属 A部隊

●クマ族(シロクマ)「ザッキー・カラーノ少尉」

◎万能型?ギガ・アーマー。「オルソ・ビアンコ」

●オオカミ族「シーバ・アンタルシア」

◎ギガ・アーマー「」

P/R PP部隊

敵か味方か…?

謎のトリオ…!

出番はいつのことやら??

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ルマニア戦記/Lumania War Record #017

#017


 Part1


 若いクマ族の小隊長が見ているさなか、おじさんのベテラン・クマ族コンビと、対してこちらはまだ若手なのだろう、敵アーマー・パイロットたちによる、新型アーマー同士の空中戦は、いざ始まればすぐにもこの大勢が決しようとしていた。

 経験値の差もさることながら、それぞれのアーマー自体の性能差がもはや歴然、結果はやはり、はなから知れていたらしい。

 よってあと少しで勝敗がつくのではと思われたところでだ。

 だが不意に、それぞれのコクピット内に短い警告音、甲高いアラートが鳴り響く……!

 これに反射的に目にした手元のレーダーサイトには、目指す大陸の西海岸域方面から出現したとおぼしき、また新たなる複数の敵影が、こちらに向けてまっすぐ急接近するのがはっきりと見て取れる。

 これによりようやく今回の本命が登場、本番が始まったのだなと気を引き締めて正面のモニターに臨む、隊長のベアランドだ。

 当人としても、そろそろだろうと予期はしていた。

 迫り来る影は、いつぞやに見たものとまさしく同一であることを、それとしっかり視認もする……!

 強敵だった。


 ベアランド小隊(第一小隊) 隊長・ベアランド少尉(クマ族)、部下・ダッツ中尉(クマ族)、ザニー中尉(クマ族)と、その搭乗するアーマーのイメージ図。ベテランクマ族コンビのアーマーに、めでたく色が付きました!

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 接近する影は都合、三つ。

 そのどれもが以前に会敵したことがあるものと同じであることを、正面のメインモニターに一時的に浮かび上がる、戦況表示ディスプレイがそれと教えてくれる。

 アーマーの頭脳たる高度集積戦術コンピューターが相手機のデータを適宜に解析、覚えていたものと100%の確率で完全適合。

 それらの中でもこの先陣を切ってこちらに突撃してくる高速機動型のアーマーは、これがなかなかにあなどれない実力者であることを、もはやその身をもって経験している隊長さんだ。

 これはさしもの腕利きのベテランクマ族コンビでも、油断していたら一撃でのされかねないな……!!


 と、それまで背後に控えさせていたみずからの大型アーマーを、慎重にゆっくりと微速前進させる。

 どちらも戦いの最前線を渡り歩いてきた有力者たちなだけに、何かと我が強い、ダッツとザニーの両中尉どのたちだ。


 よってこれにさてなんと言ってこの場を説明したものかと内心で頭をひねるのだが、何か言うよりもあちらのほうから何やらして、いささか気の抜けような声が通信機越しに入ってきた。

「はえ、なんやようわからんけど、相手のひょろっこいアーマー、どちらも下がっていきよるでぇ? カトンボが気配を殺して姿をくらますみたいによう? 隊長ぉ、どないしましょ??」

「え、そうなのかい? あ、ほんとだ! あっさり引いていくね? まったく引き際がいいやら、やる気がないのやら??」

 これまでダッツとザニーの相手をしていたはず、モニターの正面に捉えられていた二機の飛行型アーマーは、そのどちらともが新手が入ってくるのと入れ替わりに、この機体を我先にとその場の戦闘空域から離脱して遠ざかっていく。

 すぐにもただの点と点になるのだった。

 事実、目の前のレーダーサイトからも、この機影がことごとくして消失……! 

 援軍の到着に、これ幸いとしっぽを巻いて逃げるかのごとくにだ。傍目にはあからさまな敵前逃亡かのようにも見えたが、新手の敵影ときれいに入れ替わるさまからすれば、必ずしもそういうわけではないらしい。

 はなからそうする算段だったのかと首を傾げるベアランドだ。

 そう、つまるところで主力がこの場に到着するまでのただの時間稼ぎ、言うなれば〝噛ませ犬〟だったのか?

 するとこのあたりにつき、もうひとりのベテランのクマ族のパイロットザニーがこともなげに言ってくれる。

「ほぇ、ほんだらばあないなザコちゃんアーマー、ほっといてええんちゃう? それよりもまた勢いのあるのがようさんよそから来ておるさかいに? 言うてまえばあちらさんが本命なんやろ」

 こちらの隊長にではなく、同僚のおじさんに向けて言ったものとおぼしきセリフには、思わず苦笑いして同意する。

「あ、するどいな! それじゃここからは、あの後からぞろぞろやって来たのにみんなで集中だね! ちなみにぼくは既にやり合ったことがあるんだけど、どれもなかなかの強敵ぞろいだよ?」

 その瞬間、通信機越しにやや張り詰めた空気が伝わるが、おびえよりも低いうなり声とやる気がみなぎる。

 ここら辺、やはりどちらもやり手のアーマーパイロットだ。

 先日のまだなりたての犬族の新人コンビたちとは明らかに戦場での身のこなしが違う。これにまずは安心しつつも、また脳裏にある種の不安もよぎるベアランドだ。

 そうこうしている間にも、迫り来る敵アーマーがこちらとの交戦空域に入ったことが、甲高いビープ音ともに知らされる。

 中でも特にスピードの速い高速機動型のアーマーが、やはり単身で突っ込んでくるかたちだった。

 前に会った時のままのそれはやる気の有り余るさまに、対して内心でひどくげんなりとなるクマ族だ。

 どうにも執念深いことで、もはや目の敵にされているのがありありと伝わってくる。

 これに即座に対応しようとするベテラン勢には、あ、いや、ちょっと待って!と、やや慌ててツバを飛ばす悩める隊長さんだ。

「あ、待った、それは無視してくれて構わないや! なんたって速くて強くて厄介だし、どうせこのぼくがお目当てなんだからさ? 中尉たちは後からおっかけてくるあっちの子分のアーマーたちをお願いするよ。あれはあれでまた厄介なんだけど……!」

「ほえ? 無視してええんですか? ぼくらはその後にやってくるやつらを相手にせいっちゅうことでぇ?」

「なんやようわからん! あないなただ速いだけのジェットフライヤー、おれらの敵やあらへんやけ? そないなもん、どないして避けなあかんの??」

 通信機越しに左右のスピーカーからはどちらもややいぶかしがった返事が返るのに、内心で動揺しながらもあくまでベテラン勢を刺激しないような言葉を選ぶ、ベアランドだ。

「ああ、いや、あちらさんはもともとこのぼくだけに用があるみたいだから、そっちのほうははなっから完全に無視してくれちゃうと思うんだよね? だからその、無理して中尉たちが横から絡まなくてもいいってわけで! あとあれってのはああは見えて、現実はそう、ただのフライヤーじゃあ、ないからっ……!!」

 これまでの戦いから、この歴戦の勇者たちの力をもってしても、ひょっとしたら危ういかもしれないと直感的に悟っていた。

 その動揺を悟られまいと平静を装った態度そぶりに努めるのだが、あいにくと相手のおじさんクマ族たちからは、何故だろう、わずかな沈黙が通信機のスピーカー越しに伝わってくる。

 その瞬間、果たして何を考えたものか?

 ふたりのベテランパイロットたちは、みずからの顔を映したモニター越しの視線のやり取りだけで、何やら互いにはっきりとした意思の疎通をしてくれたらしい。

 この時、イヤな予感が脳裏によぎりまくる隊長さんなのだが、果たして同時にその顔に不敵な笑みを浮かべる中尉どのたちだ。

 よってこちらの忠告もそっちのけで、向かってくる見てくれ戦闘機タイプの敵めがけてみずからのアーマーを急速発進させる。

 もうやる気が満々だった。

 この部隊リーダーの意図などは完全に無視だ。

 はじめげんなりしてそのさまを見るベアランドは、焦りと困惑で思わず声をうわずらせる。

「ああっ、だから、それは無視していいんだって! このぼくの担当なんだからさ!! 強いしとっても厄介なんだから!!」

「わはは、せやったらなおさらおもいろやんけ! 隊長の相手だけやのうて、こっちもしっかりサービスしてほしいもんや、バリバリ歓迎してやるさかいに!!」

「せやんな、ほな隊長さんはそこでよう見といてください。ぼくらでしっかりおもてなししてやりますよって。元よりあないなジェットフライヤーごときに遅れを取るよなこのぼくらやないですさかいに……!」

「いやいや、だから違うんだって!! ああ、もう、ろくにお互いの連携が取れないんじゃひどい混戦になっちゃうじゃないか? これってれっきとした上官に対しての命令無視だよ!?」

 しまいにはちょっと嘆いてしまうのに、ずっと年上で経験に勝るパイロットたちは、やはりいっかなに聞く耳を持たない。

 どちらのスピーカーからか、上官ちゅうかそっちのほうが階級下やんけ!みたいな本音が漏れていたが、それはあえて聞こえなかったことにする若手の部隊長だ。 

 そんなものだから慌てる隊長が見ているさなかにもさっさと敵の先鋒、その実をして一番の強敵と交戦状態に突入していた。

 挙げ句、左右のスピーカーからどわっと驚いた声が上がったのは、その直後のことだ……!

「んん、なんやそれ!? ちょちょ、ちょい待ちぃ!!」

「ほえ、なんや、いきなり変形しおったで? ただのジェットフライヤーちゃうんかったんけ?? ぬぐおおおおおっ!?」

「ああっ、もう、だから言ったじゃないか!!」

 およそ危惧していた通りの展開に、思わず天を仰いでがなってしまう。

 二機の僚機のすぐ手前まで猛然と突撃をかけてきた戦闘機型の敵機は、あわや衝突すると思わせてこの直前でピタリと急停止!

 もとい、そのカタチをまったくもって別のモノへと変えながらに、おまけ悠然と空中に立ち止まってくれる。

 ただし制止したのはコンマ1秒以下だ。

 そのいかにもアーマー然とした人型のプロポーションを見せつけた直後、直角の軌道を描いてさらに高い上空へと舞い上がる。

 それは見事な操縦テクニックだったが、それとあわせて実はただの戦闘機が瞬時に戦闘ロボットへと華麗なる変身を遂げたのには、あんぐりと口を開けたまま、目を白黒させるばかりのふたりの熟練パイロットたちだった。

 ただその瞬間、口では驚きの声を発しながらもアーマーの操作自体はぬかりなく対処していたのはさすがだが、見ているこちらは冷や冷やものだった。

 おまけそれで肝を冷やすほどの臆病者でもないクマ族のおやじたちに、タチが悪いやつらばかりだと内心で舌打ちしてしまう。

 上空でこちらを見下ろす敵のアーマー、おそらくはこれが隊長機とおぼしき機体は、やはり悠然としたさまでその場で対峙するかにこのアーマーをまたもや空中に制止させる。

 その視線の先にあるのはこちらの大型アーマーなのだろうが、相変わらず空気が読めない仲間のクマ族たちが、うなりを発して上空の相手を威嚇する。

 声は届かないが雰囲気としてはばっちり伝わったのだろう。

 かくして相手をしてやるとでも言うかにしてふたりを待ち受ける、それはこしゃくな敵方の隊長機だ。

「まったく、どいつもこいつも好き勝手にやってくれちゃって! どうする、無理矢理に割って入って乱戦に持っていくか? あっちの後続は……あらら、しっかりスキをうかがっているね! これじゃヘタなことなんてできやしないか……!」

 後からやってきた後続の敵のアーマーは、どちらも一定の距離を保ってこちらの様子をうかがっているのが、なおさらカンに障る。

 さては親分格の指示なのだろうが、だいぶ聞き分けのいいあたりがこちらとはまるで正反対だ。

 それがまたなおさらカンに障って仕方が無いクマ族の隊長は、実際に大きな舌打ちしてしまう。

 この先の展開に、一気に暗雲がかかってくるのを、もはやはっきりと意識していた。



※以下のイラストははじめの線画バージョンです(^^)
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Part2


 混乱するクマ族たちのアーマー部隊に対して、また一方――。

 その直前にあった先の知れた戦いに割って入った敵方のエースパイロットは、とかく冷めたまなざしで正面のメインモニターの中の情景を眺める。

 キツネ族の若い士官は見下ろす眼下の敵の機体、青と赤の色違いの同型アーマーをつまらないものを見るようにしばしねめつけたが、やがて仕方もなさげに吐き捨てた。

「ふん、こしゃくなやつばらどもめ……! だがそうやってこのわたしの前に立ちはだかると言うことは、それ相応の覚悟は出来ているのだろうな?」 

 あくまでみずからのターゲットをその奥の緑色の大型アーマーのみに絞っていたのを、ようやく手前の二機に意識を向ける。

 そこに後方からは、後続の同僚機からの通信が入った。

 こちらはトシのいったおやじのものらしきだみ声がキツネ族の男のピンと尖った耳に親しげにまとわりつく。 

「へっへ、ダンナ! 見た感じだいぶごちゃついてるみたいだが、俺たちはここで高見の見物してていいんですかい?」

「は、いいもなにも、そうするしかありゃしないだろ? ヘタに手出しなんぞしたら巻き添え食ってこっちが落とされちまう!」

 もうひとりの年配の男の声が入るのに、何食わぬさまのクールなキツネ族の隊長は冷然と言ってのけるのだった。

「フ、無論だ。こちらへの手出しは一切、無用……! 中尉たちはそこで立ち見しているがいい。このわたしとあれの戦いを邪魔立てするやつばらだけはそちらに任せる」

「了解っ! ……てことは、おこぼれはこっちでいただいちまっていいってわけですかい? そんじゃ、おい、あの青いのと赤いの、どっちをやる? どっちも面白そうで捨てがたいが……!」

「は、おれはどっちでも構わねえよ! ダンナに落とされちまわなかったらの話だが、せいぜい楽しませてくれるのかねぇ?」


 他愛のない世間話でもするかのように獲物を物色する部下たちに、何かと無愛想な部隊長は適当な相づちだけ打ってくれる。

「もとよりザコを相手にするつもりはない。危うくなればあやつが我が物顔をして出てくるのだ。その時は……」

「こっちでおいしく料理させてもらいますわ! 見たところそれなりに戦績上げてそうだから、でかい星が挙げられそうだぜ」

「はっ、調子に乗ってヘマすんなよ、ブンの字? この前みたいな情けないザマ、二度とゴメンだぜ?」

「ああ、誰に言ってやがんだ、五の字よ? もうアーマーも元通り、こっちに死角はありゃしないぜ! もとよりあんな見え見えの手はもう二度と食わない」


 タヌキ族とイタチ族のベテランのパイロットたちの掛け合いに、まるで聞く耳を持たないキツネ族の青年は冷めたさまで通信を終わらせた。

「頼みにはしている。どちらも全力を尽くすがいい。あのような見かけ倒しのアーマーによもや遅れを取ることはあるまいが、かく言うこのわたしも全身全霊をもってあれを迎え撃つ……!」

「了解!!」


 言うが速いか急降下で襲いかかるキツネ族のアーマーに、対するクマ族のベテランパイロットたちのアーマーが真っ向から応じる。

 おのおのが命を賭けたしのぎを削るアーマー・バトル、その第二回戦の火ぶたが切って落とされた。

 ベアランドたちの強敵として立ちはだかるライバルキャラ!
隊長にして凄腕パイロットのキツネ族、キュウビ・カタナとその部下のベテランパイロット、タヌキ族のチャガマ・ブンブ、イタチ族のスカシ・ゴッペとそれらが乗るギガ・アーマーのイメージ!


 Part3

 これまで幾多の戦場の最前線で腕を鳴らしてきた、百戦錬磨のベテラン・パイロットのダッツとザニーだ。
 
 だがこれを相手に果敢にも単機で挑む敵のアーマーは、やはりあなどれない強さをふたりの勇猛なクマ族に対しても見せつけるのだった。

 互いに肩を並べた横一列のフォーメーションでぬかりなくハンドカノンの銃口を向ける青と赤のアーマーの周囲を、それはすさまじいまでの速度の機動をかけて攪乱、半ば翻弄する白の飛行型可変アーマーである。

 変幻自在に戦闘機とアーマーにその姿形を変えては、目にも止まらぬ高速機動で熟練のパイロットたちをあざ笑うかにターゲットサイトからその姿をくらます。

 かくして強い舌打ちが左右のスピーカーから漏れるのに、みずからもかすかな舌打ちが出てしまう隊長のベアランドだ。

「ああ、もう完全に押されてるいるよな? にしてもよくもあんなにガチャガチャと変形しながらあちこち動き回れたもんだよ! もはや操作ミスったら一瞬で空中分解しちゃうんじゃないのかな? これはどうにも……!」

 苦い顔つきで何事かアクションを起こしかけたところで、左のスピーカーからさも苛立たしげなおやじの文句ががなられる。

「ちょちょちょっ! ほんまムカつくわ! やたらに動き回って気が付いたらいっつも背後の死角におるやんけ!? どないなっとるんや? あないにふざけた高速機動、反則やろ!!」

「落ち着きや……! 空中戦ならぼくらの十八番やろ? せやったら、そや、そないにちょこまか動き回れんようにさしたらええんちゃう?」

「どないして? あないに速うやられてもうたら、キャノンの照準もろくすっぽ合わせられへんで??」

「そやから落ち着きや。ぼくらはふたりおるんやから、こないに固まっておらんでもやりようがあるやろ? もとより昔から空中戦で鳴らしたこのクマさんコンビやさかい、あないな新参者に負けるわけがあらへんちゅうもんや……!!」

「せやったな! あないなワケわからんくされアーマー、ふたりでボッコボコにしたろ!!」

 左右のスピーカーからやかましく流れる、ふたりのおじさんの部下たちのやり取りに内心でヒヤヒヤしながら、さてこれはどうしたものかといよいよ考えあぐねる隊長さんだ。

 おまけにこちらの階級がひとつ下なのもあって、実質上官のあちらは聞く耳持たないような節が少なからずあったりするもまた事実だ。

「ああ、もう参ったな……!!」


 険しい表情で正面のメインモニターを睨みつけるベアランドだが、そうやって観ているさなかにも青と赤のアーマーは散開して大空を左右へと散らばる。

 さては単機である敵機を左右から挟み撃ちにする算段なのだろうが、相手がうまいこと乗ってくれるものかと固唾を飲んだ。


 かくして敵の白いアーマーを真ん中に挟んで、この同心円上で広く展開する、ダッツとザニーの両中尉どのたちだ。

 都合、二対一で優位に立っているように見えるが、内実はそうでもないことは手をこまねいてこれを見るばかりの隊長の少尉どのにも、またすぐさまはっきりと見て取れるようになる。

 そう。相手はまさしくもっての強敵なのだった……!


「よっしゃ、捉えたで! ざまあカンカンっ……!?」

「これで終いや……! んっ?」


 薄暗いアーマーのコクピットの中でみずからの射撃が必中することを確信するベテランのクマ族たちだが、引き金に人差し指が触れる寸前、この照準サイトがロックオンのオレンジから危険注意の激しい赤の点滅へと切り替わる。

 しっかりと相手を挟み撃ちにした状態で、プレッシャーを掛けながらもこの攻撃機動(アタック)はことごとく失敗に終わっていた。

 両者ともにだ。

 今や完全にロボットの人型形態に固定された相手機は、空中で微動だにしない直立状態でありながら、空中戦を得意とするクマ族たちが照準を絞った直後にはこの姿をターゲットスコープから忽然とくらましていた……!

 こちらの思惑を見透かしたかにした機体さばきでまるでふたりのクマ族の同士討ちを狙うかのごとくにだ。

 静観していた若いクマ族の頭に乗っかるふたつの耳に、ややもせぬ内にひどく苛立ったおじさんたちの文句が絡みついた。

「おおい、さっきからやたらに真っ赤なのがチョロチョロ見切れておって、ほんまうざいでじぶん? わざとやっておるんか?」

「こっちのセリフやろが? 引き金しぼろうとした途端にブサイクなツラを出してきおって、青い機体が青空にまんま溶けてもうて見づらいったらあらへんわ! ほんまに撃ったろうか?」

 互いに相手を牽制しながら毒づき合うおじさんコンビだ。

「稚拙な……! どうした、貴様は動かないのか?」

 他方、敵方の隊長であるキツネ族のエリートパイロットは、左右前後からのプレッシャーをものともせずに、いまだ戦いには参戦していない緑の大型アーマーを正面のディスプレイに捉えて睨みすえる。それからまたつまらないものを見るかに左右のディスプレイの色違いの敵アーマーを一瞥してくれるのだった。

「フッ、無駄に距離ばかりを取って、まるで覇気を感じぬ。つまらん。もしや貴様らはただのお遊戯会をしているのか……」

 言いざま、機体の両手に保持したハンドカノンを一斉射!

 それが的確に二機の機影を捉える。


 あわや撃墜かと隊長のクマ族が見ているさなか、どちらもギリギリでこの直撃を避けたものの、ダッツはただちに泡を食ったセリフをがなり散らす。

「んなっ! コイツ、むっちゃくちゃやんけ!! おおい、さっきからいいように遊ばれとるで、若い隊長さんの目の前でごっつ情けないわ!! どないしたろかっ」

「せやから落ち着けや。ええわ、照準が定まらへんのやったら、いっそ撃ってまえばええ。ただしお互いギリギリまで引きつけてからや。このぼくの言うてること、わかるやろ?」

「ん、せやけど……! ええんか? 万一逃げられてもうたら、こっちは火力がでかいぶんにじぶんにまで届いてまうで?」

「せやな。ただしその代わりにこっちは防御力っちゅうんが人一倍やさかい。いけるやろ?」

 互いのアーマーの性能の違いを考慮した思考を巡らせるのに、ザニーが相棒を促して決定づける。

「一発勝負や。あの隊長さんにしっかりと見せたろ、このぼくらの腕前が決してあなどれんっちゅうことを……!」

「よっしゃ、了解や!」

 相棒の応答をきっかけ、両者の機体が敵影へと向けてじりじりとこの距離を詰める。もはやただならぬやる気がうかがえた。

 手に汗握って外野からそのさまを見守るベアランドだ。

 相手の高速機動型アーマーはこれを悠然と直立静止したままで待ち構えるが、まるでビクともしないのがふてぶてしかった。

 おのおのが殺気をこめてアーマーの機銃の照準を中心に居座る敵アーマーに定める。

 撃てば必中の間合いだった。

 まずダッツの青い機体が正面に構えた大型のライフルを一斉射!

「おおら、いてまえ!!」

 一直線に敵を貫くと思われた赤い光弾は、だが結果として敵影をかすめもせずに虚しく宙を走る。

 そしてその先にあったものは……!


 それを尻目に見やる敵パイロット、キツネ族のキュウビ・カタナはさもつまらなさげにこの尖った鼻先から息を吐く。

「フン、同士討ちとは……無様だな……む?」

 一直線に流れる敵弾は、同じ敵の赤い機体へと吸い込まれるようにヒットしたのを確信もするが、同時にかすかな違和感をも感知して機体をそちらへと巡らせていた。

 その刹那、ただちに四肢に力をこめて回避機動へと転じる。

 味方からの流れ弾を真正面に受けるかたちになって、全身に冷や汗をかく普段からポーカーフェイスの赤毛のクマは、この時ばかりはいびつな口元からキバがのぞく。

「こなくそっ、やっぱりよけるんかい! だがこっちもやられへんで、シールドパワー全開でしのいで食らわしたるわ!!」

 機体の胴体前部に装備したシールド・ジェネレーターを真紅に輝かせて流れ弾をはじき返すや、みずからのハンドカノンの銃弾をただちに正面の白い機体へとお見舞いする!

「おうし、やったれ! むうっ、あ、あわわわわわわっ!?」

 青い機体の相棒がここぞとかけ声を発するが、これがすぐさま慌てくさったおじさんの悲鳴へと変わる。

 これまで同士討ちを危惧してこの攻撃がままならなかったクマ族たちだ。それをあえて同士討ちに見せかけることで起死回生の反撃を狙ったのだが、そのトリッキーな攻撃ですらもあっさりと躱されて、それがまたダッツの機体へと襲いかかることになろうとは……!!

 すっかり勝ちを確信していた灰色熊は、狭いコクピットの中で機体の制御を失うくらいに操縦桿をバタつかせて味方からの流れ弾をぎりぎりで背後へとやり過ごす。

 だが敵からの攻撃を受ければ即墜落くらいにきりもみ状態で落下しかけた機体を大汗かいてコントロールする。

 敵からの追撃がなかったのは幸いだったが、もはや旗色が悪いのは誰の目にも明らかだった。

 悲鳴と怒号がかまびすしく交差する薄暗いコクピットの中で、若いクマ族の隊長は、険しい表情で操縦桿を強く握りこむ。

「あらら、もう任せてはいられないな! 中尉どのたちには悪いけど、こっちから割り込ませてもらうよ。でないと……ん!」

 敵の隊長格とおぼしき可変式飛行型アーマーに狙いを定めて大型の自機を進ませようとしたところに、奇しくもレーダーサイトに新たな動きと短いアラームが鳴り響く。

 こちら同様、距離を取って様子見していたはずの残りの敵影、二機がともに味方と敵に割り込む形で急速接近してくる。

 どうやら向こうはこちらと同じ思惑のようだが、味方の助けに入ると言うよりは、むしろ苦戦してばかりのダッツとザニーに止めを刺すくらいの勢いだった。

 そして案の定、敵の青と赤のアーマーが入るのと入れ替わりで、白の隊長機はまんまとその場を離脱、この姿を正面モニターからくらましていた。


 これを半ば呆れた顔で見ていたベアランドは、その後にこのみずからの機体の向きを背後へと巡らせる。

「やっぱりこっちが狙い、本命だったか……! ほんとにしつこい隊長さんだよね? ルマニアの大陸の僻地からこんな海の果てまで、呆れちゃうよ、このぼくってのはそんなに魅力的かい?」

 見れば上空からひらりと舞い降りる敵の隊長機のアーマーへと向けて、皮肉っぽく笑ってそう問うてやる。

 そう果たしてこれで何度目の対峙となるものか?

 背後でベテランのクマ族たちが新手を相手に声を荒げるのはもうそちらに任せしまって、本来のターゲットとなるアーマーと正面切ってやりあうべく、これと真っ向から対峙する。

 もう何度目かになる決戦の幕が切って落とされた……!

     
                  ※次回に続く……!







Part4


「ライトニング……!!」

「こういう使い方はリドルは嫌がるのかな……?」


 



 

 





 



 

 






#17プロット
 
 ライバルキャラ、キュウビ、ブンブ、ゴッペ再登場!
 キュウビ VS ダッツ & ザニー  空中戦!
 前哨戦の犬族キャラ、モーリィとリーンはしれっと退却。
 
 ベテランのクマ族コンビはエースパイロットのキツネ族には大苦戦、やむなく隊長のベアランドと交代…!
 ベアランド VS キュウビ

 ダッツ & ザニー VS ブンブ & ゴッペ

 持久戦の末に、キュウビ小隊退却…!
 とりあえずベアランド隊の勝利?

 補給機(リドル操縦)にダッツとザニーが補給(プロペラントタンク装備?)された上で、アストリオン北部海岸線から大陸に侵入、そのまま内陸の目的地へと向かう……
 

「アストリオン上陸作戦」プロット
  アストリオン情勢

アストリオン・中央大陸(ルマニア・東大陸/アゼルタ・西大陸)
アストリオン・種族構成・ブタ族、イノシシ族、イノブタ族などがおよそ半数を占める。アストリオン自体は宗教色の強い、宗教国家でもある。元首・イン ラジオスタール アストリアス(家)

アストリオン・大陸構成
東側 アストリオン 60%
中央砂漠 空白地帯 25%
西側 ピゲル大公家 15%
 西側は過去にあったルマニア(タキノンが領事だった?→タルマとの確執になる?)とアゼルタのゴタゴタで独立を宣言したピゲル公爵の独立領となり、後にアゼルタと同盟関係になる。

主人公、ベアランドたちが目指すのは、大陸の北岸地域から侵入して、大陸内陸部の中央砂漠にあるアーマー基地。今は西の大公家と結びついたアゼルタの支配下にあるのだが…?
 実は無人化している?? レジスタンス(ベリラ、イッキャ?)の暗躍…!

Part2 ベアランド小隊、
 敵キャラ、モーリーとリーンに遭遇
 
          ↑
#17→     キュウビ小隊、出現!!
    キュウビVSダッツ、ザニー…!


    移行、アストリオンに上陸……
  基地の占領完了と同時に、アストリオンからの守備部隊と合流?←ジーロ艦に合流したダイル?

   タルクス、シュルツ博士登場!

プロット
ベアランド小隊、出撃 ベアランド、ダッツ、ザニー
ウルフハウンド小隊、出撃 ウルフハウンド、コルク、ケンス

ブリッジ 艦長 ンクス、オペレーター ビグルス
     副艦長は何故か不在?

 友邦国のアストリオンの北岸域から侵入
 内陸の基地を奪還、そのまま寄港するべく

 海と空の戦い キュウビ小隊出現

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ルマニア戦記/Lumania War Record #016

#016


Part1


 小隊に新しくベテランのクマ族たちが加わって、貧弱だった部隊編成が見違えるほどに強化されたのだが、これが実際にみなでそろって出撃するのは、それから実に三日も後のことであった。

 もろもろの都合、母国を遠く離れた彼らの母艦が公海上にしばしの足止めを食らうことになったのと、パイロットが万全だからとこの機体の調整までが万全とまでは行かなかったことがあり。

 加えて全てが新型開発機ばかりのアーマー部隊は、この機体のマッチングに非常な手間暇がかかるのだ。

 よって晴れてハンガーデッキの格納庫から海風をともなった外界を臨めたのは、およそ70時間も後のことなのであった。

 言ってしまえば寄せ集め部隊なのだが、性格おおざっぱなクマ族たちが仕切り直しをするには、およそ十分な時間である。

 ベアランド小隊(第一小隊) 隊長・ベアランド少尉(クマ族)、部下・ダッツ中尉(クマ族)、ザニー中尉(クマ族)

 広く視界の開けた専用の中央カタパルトからモニター越しの外界を眺めるアーマー部隊の隊長は、楽しげに舌なめずりした。

「さあて、いよいよ出撃だね! 予定通り、ここからずっと先に見えるあの大陸の内陸部を目指すんだけど、ぼくのランタンはいいとして、そっちのビーグルは燃料、大丈夫かな? どっちも股の下にくっついてた、あのばかでっかいプロペラントを外しちゃったでしょ?」

 見た目にずいぶんな幅を利かせていた燃料タンクをすっかりと取り外されていたのを思い返して、なにげに聞いてやるのに、左右のスピーカーからは問題ないとのおじさんたちの返事がただちに返ってくる。

「かましまへん。よっぽど過酷な最前線ならいざ知らず、まだ序の口でありますよって……! せやからどうかぼくらのことは気にせんといてください」

「ここも最前線なんちゃう? まあ問題あらしまへんわ。おれたち新人のワンちゃんたちとちゃいますから! ふふん、見といてください、バリバリ活躍してやりまっせ!!」

「そいつは良かった♡ それじゃあミーティングのとおり、ぼくらは派手に暴れ回るとしようか! あらかた近海の敵を蹴散らしてから、母艦をともなっていざ目指す南の大陸、アストリオンに上陸と……!!」

「了解!!」

 あいにくとここからではどちらも機体が見えないのだが、左右のハンガーデッキに分かれて待機している、青と赤の機体のクマ族たちからの返事に満足して、みずからも出撃に備えるベアランドだ。

 すると上面のスピーカーからは短いアラームと共に、この艦の主の声が響いてくる。

「ん、ブリッジのンクスだ。各機とも準備いいな? ただいまより〝アストリオン上陸作戦〟を開始する。各自健闘を祈る! 第一、第二部隊、共に必ず本艦に戻ってくるように……!!」

「もちろん! 了解♡ ……て、横にいるはずのあの副官どのは今はいないんだね? どこで何をしているんだか」

 小声で言ってマイクには入らないように配慮したはずが、正面のモニターの中のスカンク族の上官どのは、これが小さく咳払いするのに、ちょっと苦笑いで了解する隊長だ。

 無用な詮索はしないことだと……!

 画面の横のほうでちょっとだけ見切れている犬族のオペレーターが発進のコールを送るのに、また了解して正面に向き直る。

「少尉どの! こちらは制御室のリドルです! ランタン、発進準備OK、ランチャーカタパルト、今回は70で行きます!! よろしいですか?」

 艦長に代わって響いてきた、カタパルトデッキのアーマー発進制御室に詰めている若いクマ族の言葉には笑顔で応じる隊長だ。

「そんな遠慮しないで100でいいのに! それじゃ、先に行ってるよ! ふたりとも後から急いで追いかけて来てくれ、こっちはいざ走り出したら止まれないからね?」

「了解! て、ランチャーなんちゃらって、なんのこっちゃ?」

「知らん。見てればわかるんちゃう?」


「なら見て驚けよ。ただごとじゃありゃしないから……!」

「あはは! それじゃ、システム発動、健闘を!!」

「了解!!」


 どうやら第二部隊の巨漢のクマ族のメカニックも通信に混じっているらしいのに、なおさら笑顔になって身体中に力を入れる。

 一瞬後には巨大なGが全身に掛かりながら機体が弾丸のようにカタパルトからはき出されるのを体感していた。

 ベアランド機出撃!!

 カタパルトから発射されて、これがあっという間に見えなくなる隊長機の後ろ姿に、後から発進を控えた部下のクマ族たちは、騒然となってこれを見送った。

「はああっ、ちょ、ちょいまち! なんや今のあれぇ? あの隊長、いったいなにしてはるん??」

「わからん。あんなのアーマーの発進とちゃうんやない? ほんまにどうないなことになってはりますのん??」

 カタパルトの左右で困惑した通信を交わすクマ族たちに、デッキの中央コントロール・ルームの巨漢のクマが答えた。

「ふん、しょせんは人間わざじゃありゃしないのさ。あの機体じゃなければ空中分解必至の、弾丸ミサイル級の強引なマスドライバー発進、もとい、強制発射システムだ。おい、間違っても真似しようだなんて思うなよ?」

「思わへんて! あないなもんシャレにならへんやないですか? ちびりそうや、発進するのがこわなってきた!!」

「いいえ、ご心配なく、そちらのカタパルトシステムはごく通常のものですから! それではダッツ中尉、ザニー中尉、どちらも準備はよろしいですか?」

「ほえ、ちょい焦ったけどかまへんよ。お好きなタイミングでどうぞ。ぼくら同時の発進でかまへんから。はよせんと追いつかないやろ、あれ?」

「それ以前にこっちの第二部隊が待ってるんだ。早いところカタパルトを空けてくれ。ほら、とっとと出しちまえよ!」

「あ、はい、それでは健闘を祈ります! 両機ともカウント3で同時発進、3、2、1、カタパルト・Go!!」

「了解!!」

 全身を青と赤で塗りたくられたいかつい人型の機体が、左右のカタパルトから青空へと向けて同時に飛び立っていく!

 先に飛び立って行った緑色の隊長機を追って、どちらもまっすぐに白い軌跡の飛行機雲を描くのだった。

 これこそがいかついクマ族のみで編成されたアーマー小隊の記念すべき初陣であり、後に赤、青、緑の鬼の三原色部隊と恐れられる飛行編隊の誕生なのであった。


 Part2



 雲一つもなくした快晴の青空。

 轟音を立てて緑色の巨大な機体が大気を切り裂く。

 周りの空気との激しい摩擦で赤い蒸気めいたものをその全身にまとわりつかせながらにだ。

 耳を澄ませば風切り音もしてきそうなコクピットの中、目指す大陸の目前でゆっくりと操縦桿に手を伸ばして、しっかりとこの両手に掴み取る。

 深呼吸をひとつして機体のコントロールをみずからに手に持ち直すクマ族だ。

「よっしと……! 予定通りのポイントに無事到着、このぼくが一番乗りだね!! 敵さんもまだ見当たらないし?」
 
 まずは母艦から単機で先行して、無理矢理な出力と加速度にもてあそばれる機体とこの速度が、やがて通常に落ちるところまで安定させてから、いざ周囲の状況を見回すベアランドだ。

 レーダーサイトには今のところこれと言った反応がないが、じきにやかましく警告音が鳴り響くのはわかりきっていた。

 弾道ミサイルさながらの強引にして急速なアーマー発進は、敵の裏をかくのには便利だが、味方をことごとく置いてけぼりしてしまうのがたまにキズだ。

 よって静かなモニターの向こうに広がる大陸を見ながら、誰にともなしひとりごとみたいな文句を発する隊長のクマ族だった。

「は~ん、こうして見てみると、目標の空軍基地ってのはほんとに内陸にあるんだな? ここからじゃまだ確認ができないよ。もっと高度を上げれば見えるのかな? どうしたもんだか……! このまま単機で先行しても良さそうだけど、やっぱりベテランのパイロットさんたちを待ってたほうがいいよね?」

 言っているそばからレーダーサイトに複数の反応が出現!

 敵を表す赤の点(ドット)と、味方を表すそれとがほぼ同時にサイトの中に前と後ろからポツポツと発生するのだった。

 中でもサイトの後ろ側、背後から追いついてきた味方の友軍機の二機のアーマーのパイロットたちからただちに通信が入る。

 お国言葉のなまりが激しいおじさんのクマ族たちだ。

 緊張感をみじんも感じないお気楽なセリフを発してくれた。


「戦場の青いイナズマ! ダッツ・ゴイスン、ただいま到着! やっと追いつきましたわあ、隊長さん、早すぎやって!! 」

「ほんまに早いわあ! ひとりで何をそんなに急いでますのん? ひと呼んで赤い旋風のザニー・ムッツリーニ、おなじく到着しました、そいで敵さんも、もうぼちぼち来てはるんですな?」

 はじめに青い機体のクマ族の威勢のいい文句が耳朶を打つ。

 到着するなり回りの状況を適宜に把握しているこちらは赤い機体のクマ族のベテランパイロットの言葉に、すぐさま了解してモニターがマークする敵の機影を確認するベアランドだ。

ベアランドの乗機、バンブギン、通称ランタンと、ザニーとダッツの乗機、ビーグルⅥ・プロトタイプ(まだ描き掛け)


 おそらくはどこか遠くの洋上の母艦か、さらに遠くの大陸の西海岸の敵基地から飛び立ったものとおぼしき航空機いくつかが、こちらに向けて急速に接近してくるのをそれと認める。

 よって完全に慣れきったおじさんたち同様、こちらもいささかも焦ることもなくして、こともなげに言ってやるのだった。


「ああ、ジェット・フライヤーか! ああいう航空機タイプって、大抵は無人機なんだよね? 本命のアーマーが到着するまでの時間稼ぎぐらいなもので。だったら、さっさと落としちゃお♡ それじゃ主役のアーマーが来たら、各自で対応お願いね!」

 言いながら操縦桿のトリガーを二回、三回と引いて、迫り来るジェット機をことごとく打ち落とす隊長の緑の大型アーマーだ。

 そのまるで容赦がなくあっさりとしたさまに半ば感心したようなおじさんクマ族たちの返事が返る。

「了解! にしてもなんやちょろい作戦みたいやんな? 思うたよりも敵さんおらへんし、このまま海岸線の先まであっさり突破できそうやわ!!」

「せやんな、隊長さんのそのアーマーやったら敵なんかおらへんのちゃう? あ、来ましたで、本命のアーマー部隊! なんかひょろっちいのがこっちに向かって来てはるけど、あんなんおったったけ??」

「ん、ああ、あの見覚えのあるカトンボは、敵の新型機だね! 以前に会敵したことがあって、そんなには苦戦しなかったんだけど、あれとおんなじか別の同型機なのかな? どっちにしろそっちのビーグルで十分に対応できると思うよ」

 正面のメインモニターの中央に捉えた、どちらも見覚えるのある特徴的な細身のデザインの二機の軽量級アーマーに、だがこちらはまるで感心なさげに答えるベアランドだ。

 形状がまったく同じ見てくれのふたつの敵影は、おそらくは以前にやり合ったものと同一の機体なのではないかと思われた。

 前回、さして苦労することもなく撃退していたこともあり、こちらの経験豊富なベテラン勢ならそう手こずることもないだろうと確信する隊長さんだ。

 これに手練れのクマ族のパイロットたちが即座に応ずる。

「カトンボでっか? ふう~ん、なるほどや、ほなここはこのぼくらに任せてもらいましょうか、よって隊長さんはそこで気楽に見といてください」

「よっしゃ、やったるでえ! あないなひょろっちいザコちゃんアーマー、一発どついたらそれでしまいや!!」

 モニターの左右で不敵な笑みを浮かべる赤毛のクマと灰色グマをいかにも頼もしげに見ながら、こちらは若干の苦笑いになる茶色の若いクマ族だ。

「あんまり油断してると機体にキズをつけちゃうかも知れないよ? まだ初戦なんだからなるべく手堅く行ってよね! それじゃ、お言葉に甘えてぼくは高みの見物させてもらうけど、第二小隊のシーサーがなんか下からやかましく言ってるから、ちょっと高度を上げてぼくらはもっと上空でやり合おうか?」

 天井のスピーカーから何やらやかましい文句が入って来たのは、後発の第二小隊が追いついたその直後のことだ。

 小隊隊長のウルフハウンドのものだったが、これに傍で聞いていた赤い機体のパイロットのクマ族が了解してくれる。

「ああ、それやったらこっちにもテキストで入電しておりますな? なんやえらい怒ってはるようやけど?」

「尻にくっつけとる新人のワンちゃんたちがやりづらあてしゃあないから、おれたちみたいな邪魔もんはどっか遠くに行ってくれゆうてはるんやろ? なんやめっちゃひとりよがりやんなあ、そないなもんはそっちで面倒みたれよ!」

「まあまあ、言ってること自体は間違ってはいないんだから! あんまり混戦状態になったら同士討ちもありうるし、距離はちゃんと取っておこう。それにこのぼくのカンだとそろそろやっかいなのも出てきそうな頃だから、いざそっちに対応するためにも、スペースはなるたけ広く取っておかないとね♡」

「はあ? なんのこっちゃ? お、カトンボが早速こっちに来よったで! 相方、ようやっとこの腕の見せ所や、ぼくらの得意の空中殺法、ヤツらにガツンとお見舞いしたろ!」

「ガッテン!!」

 さすがにお互い息の合った熟練パイロットたちだ。

 同時にこの機体を海上からさらに上空へと舞い上がらせていく。

 するとこれを追いかけるかたちで敵の二体のアーマーも次次に上空へと導かれるように機体を上昇、一定の距離を保ちながら互いににらみ合うかたちとなった。 

 やかましく通信交わしながら機体高度を一気に上空にまで押し上げて新型機同士の一騎打ち、もとい、コンビ対コンビの空中戦タッグマッチが始まるのだった。


Part3


 ところ変わってこちらは対戦相手となる、敵側のアーマーパイロット、犬族のモーリィがいまいましげな愚痴ともひとりごとともつかないセリフを正面のモニターに向けてがなっていた。

 年の頃で言えば青年の若手パイロットはとかく血気盛んだ。

「ん、ちょい待ち、あっこにやなヤツがおるでぇ? いつぞやのでっかいお化けアーマー! おまけに子分を2匹も連れとるやんけ!! しんどいわあ、このまま知らん顔して帰ったろか? やってられへんやろ!!」

 あっさりと敵前逃亡をほのめかすのに、これを受ける相棒のこれまた犬族の、もさもさ顔したリーンが明るく答える。

「銃殺刑にされるんちゃう? せやったら少しは相手をしたらな! あのでっかいのは手をつけられへんとしても、子分さんはどうにかできるんちゃうん? なんや見たこともないようなアーマーやけど!」

「はん、しょせんはひとさまの領土やゆうて、みんなで開発機の実験しとるんかいな? えげつないわあ! せやけどあっちはやる気まんまんらしいから、それなり相手してやらな失礼になるんかの? ええわ、そやったらこっちも星を挙げて正規軍の仲間入りさせてもらお!」

「なんや、結局はやるんかいな!」


「当ったり前やろ! ちょうど二対二でええ勝負できそうやし、大ボスはずっと後ろに構えてはるから手を出す気はないんちゃう? 前もやる気なさそうやったから、ひょっとしたら本調子ちゃうのかも知れへんやん。こっちは本命の後続部隊が来よるまで持たせたればいいゆうてはったから、のんびり持久戦としゃれ込ませてもらお!」

「せやんな! ちゅうかわしら真打ち登場までの噛ませ犬かい」

「ええわ、ほな噛ませ犬もあなどれんちゅうことを見せたるわい!」

 再び登場! 関西弁の犬族キャラコンビ、モーリィとリーンの若手パイロット! アーマーは新型のロータードライブ型!!


 さも息の合った漫才みたいな掛け合いをしながら、じりじりと相手との距離を詰める、二体の飛行型アーマーだ。

 緑の大型アーマーを奥に控えさせた状態でこの前に立ちはだかる二機の青と赤のアーマーに、それぞれが個々に狙いを定める。

 果たしてはじめに仕掛けるのはどちらなのか?

 抜けるような青空の下で息もつかせぬ緊張感が高まった。

 これを傍から見ていた隊長のベアランドは、その静かな立ち会いに、それでも結果は知れていると周囲への警戒を怠らない。

「悪いけどその華奢で非力なアーマーじゃ、うちの大ベテランのおじさんたちには敵わないよね。むしろ問題はその後で……! 西岸の本拠地からより強力な増援部隊が来るのは明白で、本番はきっとそこからなんだ」

 そう言っているさなかにも眺めているモニターの中では、青いアーマーが瞬時に素早い機動に入るのだった。

 こちらにより先行していた敵のアーマーに向けて、ただちに一直線の突撃機動、激しいチャージをかける!

 空中での接近戦を果敢に挑むのをただじっと眺めていた。

 胸の内ではちょっとした胸騒ぎを感じながらにだ。

 大気を震わす轟音が鳴り響いた。

 戦場の青いイナズマ!ダッツと、赤い旋風、ザニーの専用ギガ・アーマーの図、とりあえずこんなカンジ?


 みずからを青いイナズマと言った通り、強力なターボジェットエンジンをいくつも搭載したアーマーは、そのずんぐりした見てくれによらない、急速発進と加速度で一瞬にして敵アーマーとの間を詰める。

 そのままショルダーチャージでも仕掛けそうな勢いだったが、すんでの所で急停止してアーマーの右手に装備したハンドカノンを相手めがけて振りかざす、ダッツの青いアーマーだ。

 その名を「ブルー・サンダー」。

 歴戦の勇者である中尉が、その幾多の戦火の中で勝ち得た、数ある異名の中の一つだと、そうベアランドは聞かされていた。

 まさしくだなと思う反面、さっさとケリをつけないでもったいつけたように相手にその銃口をちらつかせただけなのには、内心であれれ?と首を傾げてしまう。

 言ってしまえばまだ本気の本調子ではない、およそ遊んでいるような印象を受けるのだった。

「あらら、大丈夫かね? 窮鼠猫を噛むって言うし、あんまりなめてちゃいけないんじゃないのかな??」

 ちょっと突っ込んでやろうかと通信をオンにした途端、左側のスピーカーからやかましいがなり声が響いて面食らう隊長だ。

『見たかおんどれぇ! ビビッてんちゃうんか? 次はマジでやったるから覚悟せいよ、おおら行くで、おらおうらおらぁ!!』

「わっ! びっくりした……まあ、心配ないみたいだね?」

 結果、何も言わずに通信をオフにする隊長さんだった。

 ダッツからの猛攻に明らかに動揺する灰色の飛行型アーマーの中で、若い犬族のモーリィはあられもない悲鳴を上げてどたばたとのたうちまわっていた。

「わ、なんや! いきなりそないなむちゃくちゃしくさりおって、ぶつかってまうやないか!? は、挑発としるんけ? ええ根性やな、ええわ、やったるわ!! おおおおおおおおおうらあっ!!」

 機体の小回りを活かした空中の接近戦ならいくらでも勝ち目があるとあえて相手の挑発に乗ってやる若手のビーグル族だが、負けん気が強いのが今は仇となりつつあるようだった。

 空中での制止機動や上下運動が得意なロータードライブの利点を最大限に用いて右へ左へと機体を揺らして相手を翻弄するはずが、目の前のスピードとパワーが取り柄なだけのジェットドライブタイプはなんら苦も無くこちらの動きについて来ている。

 むしろこちらが翻弄されかけて、相手の構えた銃口の照準をずらすのに今はただただ必死のモーリィだった。

 ギリッと厳しく結んだ口元から、果ては言葉にならない悲鳴じみたものが漏れ出る。

 これにこちらが押していることを確信してますます本調子になる青のアーマー、ベテランパイロットのクマ族のダッツは舌なめずりして正面のモニターに凄みを利かせた。

「かっか、いい気味や! 小型で小回りが利くからこないなドッグファイトやったらじぶんのほうが有利やと思っとったんやろ? ざまあかんかん!! ジェットのパワーを最大限にかましながらの縦横無尽の空中殺法がこの青いイナズマこと、ダッツ・ゴイスンさまの最も得意とするところやからの! じぶん、もうフラグ立っとるでぇ? 観念しいや!!」

 あと一押し、ないしふた押ししたらばっちり照準を定められると勢い込んだところに、甲高いアラーム、警告音が鳴り響く!

「んっ、ちっ! おおい、いいところなんやから邪魔させんなや! あとのヤツはおのれの領分ちゃんけ?」

『わあっとるわ! そうやって間で遊ばれとるからやりづらいだけで、もうこっちもええとこまで追い詰めとる……!』

 片やお互いに距離を置いての銃撃戦にいそしんでいた赤いアーマーの相棒が、通信機越しにやや不機嫌な返事をよこしてくる。

『レッド・ストーム』と自身の異名から取ってつけた赤いジェットドライブ・タイプのアーマーは、相棒の青い機体のそれとは一部の仕様が異なるだけで、見た目ほぼ同一タイプの機体だった。

 背後から赤い一条の閃光が一直線に走ると、それきりやかましい警告音がピタリと鳴り止む。

 後方支援に回っている敵アーマーの射撃マークが外れたのが直感的に理解できたが、実際にてんで見当違いの方向に銃弾がばらまかれるのに相方の援護が適正に働いたのを現実にも理解する。

 舌なめずりするダッツは鋭い視線をモニターの正面に据えた。

 相手の灰色の機体は前後左右へと激しく回避運動をするのに、そのさまが今は獲物の子鹿が震えているかのように見えていた。

 そしてこのさまを傍から自機のコクピットの中でのんびりと構えて見ていたベアランドは、決着がじきに着くだろうことをそれと予感していた。

 言うだけあってさすがベテランのクマ族コンビは、それは腕利きのパイロットたちだ。

 激しい戦火を幾度もくぐり抜けて来ただけのことはある。

 思っていた通りかそれ以上の出来に内心で満足しつつ、目ではてんでよその方向を見ながらに、またもうひとつの予感が現実になりつつあることをそれと確信するベアランドだ。

「やっぱり、おいでなすったか……! まさしく今回の本命、さしずめ真打ち登場って感じなのかな?」

 目の前のレーダーサイトには、大陸の北西部の方角からこちらに向けて急スピードで接近する、三機のアーマーらしき点滅が灯っていた。

 抜けるような青空の下、暗雲が立ちこめるのをただひとりだけ実感しつつある若いクマ族の隊長だった。


  次回に続く……!




状況 海上 ベアランド 単機でアストリオンの北岸域へ…
  ダッツ、ザニーと合流の後、敵方のモーリー、リーンと交戦
  第二部隊が合流、上空へ ← キュウビ小隊

「アストリオン上陸作戦」プロット
  アストリオン情勢

アストリオン・中央大陸(ルマニア・東大陸/アゼルタ・西大陸)
アストリオン・種族構成・ブタ族、イノシシ族、イノブタ族などがおよそ半数を占める。アストリオン自体は宗教色の強い、宗教国家でもある。元首・イン ラジオスタール アストリアス(家)

アストリオン・大陸構成
東側 アストリオン 60%
中央砂漠 空白地帯 25%
西側 ピゲル大公家 15%
 西側は過去にあったルマニア(タキノンが領事だった?→タルマとの確執になる?)とアゼルタのゴタゴタで独立を宣言したピゲル公爵の独立領となり、後にアゼルタと同盟関係になる。

主人公、ベアランドたちが目指すのは、大陸の北岸地域から侵入して、大陸内陸部の中央砂漠にあるアーマー基地。今は西の大公家と結びついたアゼルタの支配下にあるのだが…?
 実は無人化している?? レジスタンス(ベリラ、イッキャ?)の暗躍…!

Part2 ベアランド小隊、
 敵キャラ、モーリーとリーンに遭遇 
          ↑
Part3     キュウビ小隊、出現!!
    キュウビVSダッツ、ザニー…!

    移行、アストリオンに上陸……
  基地の占領完了と同時に、アストリオンからの守備部隊と合流?←ジーロ艦に合流したダイル?

プロット
ベアランド小隊、出撃 ベアランド、ダッツ、ザニー
ウルフハウンド小隊、出撃 ウルフハウンド、コルク、ケンス

ブリッジ 艦長 ンクス、オペレーター ビグルス
     副艦長は何故か不在?

 友邦国のアストリオンの北岸域から侵入
 内陸の基地を奪還、そのまま寄港するべく

 海と空の戦い キュウビ小隊出現

カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record NFTart NFTartist Novel オリジナルノベル Official Zombie OfficialZombie/オフィシャル・ゾンビ OpenSeaartist SF小説 Uncategorized オフィシャル・ゾンビ キャラクターデザイン ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス 寄せキャラ

ルマニア戦記/Lumania War Record #014

#014

 #014

Part1


 その時、実際の現場にはどれほどの〝間〟が流れたのか? 

 それぞれの体感としてはそれは長い沈黙の後、この海域のどこぞかに姿をくらましているものとおぼしき新型の巡洋艦の艦長、犬族のベテラン軍人の声が、再びコクピット内にこだました。

「……どうした? 返事が聞こえないぞ? 聞こえたんだろ? いいから、とにかく撃っちまえよ。お前の機体のメインアームで構わないから、目の前のでかいプラントに一撃見舞ってやれ!」

「ハッ……!?」

 果たして上官からのおよそ予想だにもしない命令に、部下である若い犬族のパイロットは、ろくな返事もできないままにひたすらに己の耳を疑っていた。

 よもや現実のことかとだ?

 これに傍で聞いていた相棒と、混乱した現場を取り仕切る若いクマ族の隊長さんも少なからず動揺して耳を澄ましてしまった。

 するとその沈黙に、ややもせずしてまた年配の大佐どのの、ちょっとイラッとした声色が響く。

「おい、でかグマ! おまえの部下どもは耳が聞こえないのか? 上官の命令にろくな返事ができてないだろう! このオレは至って単純な命令しか出してないぞ。目の前の敵に占拠されたプラントを攻撃しろって、ただそれだけだ。簡単だろ、あんなでかいの空からならおよそ外しようがない」

 ああ、やっぱり、そう言ってるんだ!

 本気なんだとようやく納得しながら、ずいぶんと乱暴なことをぬかしてくれるなと内心で呆れてもしまうベアランドだ。

 左右のスピーカーからは、ごくり、と息を飲んだり、ひどく狼狽したりした息づかいが、はっきりと伝わってくる。

 いよいよもって混乱してきた状況にひどい苦笑いの隊長ながら、とかく落ち着き払って右手のスピーカーに声をかけた。

「だってさ、コルク? 聞こえているよね、どうやら本気らしいから、ちゃんと返事しないと!」

 おそらくは狭いコクピットの中で息を殺して縮こまっているのだろう、毛むくじゃらのワンちゃんに向けて言ってやるのに、当の本人からは切羽詰まったようなうわずった返事が返ってきた。

「はっ、はいっ! 了解っ、あ、ですが、あの、そのっ、あの! し、しかしっ……!」

 まともにろれつが回っていなかった。

 もはや完全にパニックしたコルクの慌てぶりに天井を仰いでしまうベアランドだが、見上げた先のスピーカーからはやや憤慨したオヤジの声が降ってきたのには、なおさら天を仰いでしまう。

「しかしもカカシもあるか! おい、こいつはれっきとした上官命令だぞ? 貴様、命令を無視しようってのか! 何も遠慮することはない、こっちの本気を見せてやるためにやつらに一発かましてやればいいだけのことだっ、それで大きく潮目は変わる」

 決まり切ったことだろうと言わんばかりにきっぱりと断言してくれる艦長どのだ。およそ有無を言わさない迫力があった。

 これに若い犬族がなおさら萎縮してしまうのが、モニターの中の様子を見なくてもそれとわかる隊長さんが、仕方も無しに仲裁に入る。

「いや、しかしだね、艦長? そうは簡単に言ってくれるけど、民間の施設にぼくらみたいな軍が介入、しかも実弾を見舞うだなんてのはどうにも穏やかでない……てか、あれって実際に稼働してる大容量かつ大出力のエネルギープラントなんだよね??」

 そんなところに攻撃しようだなんておよそ正気の沙汰じゃないのは、まだ若い新人の隊員でなくともそれとわかりそうなものだが、相手の百戦錬磨のベテランはまるで意に介したふうでもなくあっさりとこのクマ族の意見をはたき落としてくれる。

「おい、誰がプラントそのものを攻撃しろだなんて言った? 撃つのはプラントの本体ではなくて、これをコントロールしている制御室、コントロール・ルームだ。当たり前だろう? あの海上ベースの真ん中におっ立っている高いタワーのてっぺんだよ! とにかくそいつを破壊しろ!!」

「そういうことは先に言いなよ! さっきっからさ、大事な部分がまるっきり事後説明になってるじゃないか? でも制御室を壊したりして、平気なのかい?」

 苦い顔でうなるクマ族に、相手の顔の見えない犬族はそ知らぬさまでこれまたぬけぬけとぬかしてくれる。

「平気だろ、プラントの内側にサブのコントロール・ルームがあって、そっちがむしろそのプラントの本丸だ。内密に海底資源をくみ上げるのもそっちでやってるんだからな。よってその表に見えてるのはお飾りみたいなもんなんだよ。ただし目立つぶんそこを叩いちまえば周りの敵にプレッシャーを掛けられるし、みんなとっとと逃げ出していくさ。文字通り、シッポを巻いてな?」

「はあ、そんなにうまいこと行くもんかね? コルク、コルク! 聞いてるかい?」

 押し黙ったままの犬族に話を振ってやるに、やはりテンパったままの当のコルクは、ひどく苦しげな返答を返してくる。

「で、ですが、あの、あのコントロール・ルームには、民間人のクルーがいるのではっ? なのにそこをじぶんが撃ったりしたら……!!」

 もっともな意見だったが、内心で首を傾げる隊長さんだ。

「ああ、いや、そんなに派手にど真ん中にぶち込む必要もないんじゃないかい? ちょっと天井とか、目標のやや下あたりにめがけてさ、あんまり被害が出ないくらいのを……!」

 そもそもがこんな状況だからとっくに退避している可能性もありそうなもので、性格的な心配性が過ぎるだけとも考えられた。

 だがこれに天井のスピーカーからは、いよいよいらだった犬族のオヤジ様のかんしゃくが降り注いでくる!

「いいから、オレは撃てって言っているんだよ! 構うことはない、躊躇してると敵さんが勢いづいてくるぞ? 早くやれよっ、おいっ、この能なしのボンクラどもがっ!!」

「ひっ、ひいっ……! おれっ、おれ! ひいいっ……」

「コルク! いいから落ち着けよ!!」

 同僚のケンスの声も響くが、あいにくと毛むくじゃらの犬族くんはまるで周りが見えていないようだ。

 合わせて困った隊長と怒った艦長の声も交差する。

「コルク! よく聞けっ、狙うんならちゃんとタワーのてっぺんだよ? そこ以外は致命打になるから! いろんな意味で!!」

「早くやれよ! おい貴様、命令違反をするつもりか!? ならそいつはこのオレをジーロ・ザットンと知ってのことだろうな!!」

「ひいっ、じ、ジーロ・ザットン……! と、父さんっ、おれ、おれ、どうしたらっ……!!」

「……?」

 出会ったばかりではまだ少年にも見えた青年が、ついには情けのないかすれた悲鳴を漏らす。

 ちょっと怪訝に聞くベアランドだったが、天井からそれをかき消すような怒号がするのには、うげっ!とうめいてもしまう。

「マズイな……! あの艦長さんてば、すっかり頭に血がのぼっちゃってるよ!」

 勝つためには手段を選ばない冷血漢とも噂される人物は、いざとなったら相当に手荒なこともやってのけるに違いない。

 この場が荒れるのはもはや必然だ。

 で、結果、ろくでもないことをでかい声でまくしたてる大佐どのなのであった。いわく――。

「ああ、だったらもういい! こっちでやるさ、ここまで来たらもうこそこそ隠れている必要はないからなっ、全艦戦闘態勢! 緊急浮上だ! おい、話は聞いているな、砲手長? 艦首が海面から出たらオレが言ったポイントをただちにぶち抜いてやれ!」 

 ブリッジのクルーから立て続け、おそらくは艦の砲手のセクションへ向けて声高に言い放たれた怒声にぎょっと目を見開くベアランドだ。強硬手段の強権行使はとどまるところを知らない。

「ああ、そうだよっ……は? 主砲じゃない、副砲、おまけのサブキャノンでだよ!! きれいにうわっぺりだけ吹き飛ばしてやれ!! あ、間違ってもエネルギーの貯蔵庫は撃つなよ? 目の前のクマ助どころかこっちまで巻き込まれちまうぞ!!」

「うわ、すごいこと言ってるな! コルク、ケンス、たぶん背後の海面にでかい巡洋艦が顔を出してくるから、その射線上から機体を退避させるんだ! やっこさん、かまわずぶっぱなしてくるぞ? あと、一歩間違ったら大爆発が巻き起こるから、その時は全力で緊急回避だ! ぼくは、ええいっ、めんどくさいな!!」

 こちらの命令通りに二機の僚機が左右に分かれていくのをモニター越しに確認しながら、本来ならじぶんもさらに上空へと退避すべきところを、あえてモニターをぐるりと半回転させて、この真後ろへと機体の頭を巡らせる。

 巨大なエネルギープラントを背後にして臨んだ海面からは、今しもそこに大型の戦艦の甲板が急浮上するのが見て取れた。

 思った通りに遠くの東の海域から流れ着いてきた巨大な人工の漂流物、廃墟と化したはずギガフロートを真ん中からまっぷたつに割る形で、新型の巡洋艦がその姿を現すのだった。

 おまけにこの鋼の船体を現すなりにブリッジの下に据え付けられた砲塔が盛大に海水はき出しながら、この仰角をこちらに上げてくるのに思わず舌打ちしてしまう。

「ちっ、やる気まんまんだね! でもそんなのでプラントを狙い撃ちしたら、示威行動以前に自殺行為になっちまうだろうさ? かくなる上は、仕方ない! こっちも腹をくくるしかないや、行けるよね、ランタン!!」

 左右から困惑した部下の犬族たちの声が響くが、今はそれらを一切無視して機体の制御に専念するクマ族の隊長だ。

 機体をゆっくりと上昇させて、前方に出現した戦艦の目標となっているプラントの制御タワーのてっぺんへとみずからの機体の高度を上げていく。

 さらには丁度相手の射線上にこの機体の胴体の中心が重なるポイントで、ぴたりと姿勢を固定させた。

 ふうっと息継ぎをして、前のめりに正面のモニターをにらみつける。

「いいね、エネルギー全開でバリアを展開だ! あのおじさんの砲撃をまともに真正面で受け止めるよ!! お前なら戦艦の艦砲射撃でも十分に耐えうるところを証明しておくれよ!! ついでにお前のちからをみんなに見せつけてやれ!!」

 やや苦し紛れな言葉をがなってみずからを鼓舞する。

 機体のエンジンをふかすことなく無理をしてここまで出て来たからパワーは満タン! おそらくは大丈夫なのだろうが、後で聞いた若手のメカニックがなんて嘆くのか見物だった。

「さあて、面白くなってきちゃったね……!」

 自然と口元に笑みがこぼれるが、天井のスピーカーからは例の冷めたオヤジの声がする。

「おい、何のマネだ、でかグマ? それじゃあお前ごとタワーを撃ち抜くことになるが、それでいいってのか??」

「いいや、ご心配なく! しっかりと受け止めてやるからさ!! そうでもしないとこの場は収まらないだろう? まったくこれも織り込み済みだったりするんじゃないだろうね?」

「ふんっ……!」

 威力が知れているアーマーの固定武装ならいざ知らず、でかい戦艦の艦砲射撃だなんてものをまともに食らったら軍事要塞でもない民間仕様のプラントごときはひとたまりもない。

 てっぺんをぶち抜くついでに崩落したタワーの一部がこの真下の貯蔵施設を直撃、結果として見事に誘爆、すべてが粉みじんに爆発炎上だなんてのは考えたくもないが、この確率としてはやはり無視できないものがあっただろう。

 結果的に部下の不始末の尻ぬぐいをやらされているのかと内心でげんなりするベアランドだが、こちらも負けん気は強いもので皮肉っぽく言ってやるのだった。

「要は相手に脅し、示威行動ってヤツをやってやりたいんだろう? 遠慮無くやればいいさ、これなら安心して撃てるんだろ! まさか外したりはしないよね?」

 結果はどうあれ、軍艦の艦砲射撃が民間のプラントめがけて放たれたとなれば、このインパクトはばっちりだ。

 部下たちも含めて周りはみんなどん引きするに違いない。

 頭上のスピーカーからは、いよいよもって腹立たしげな罵声がクマ族の左右の耳を打つ。

「ああ、いいから撃っちまえ! 仰角そのまま、パワーは落とすなよ? いっそ主砲をくれてやりたいところだが、今日のところはサブで勘弁してやるよ、でかグマ! じゃ、しっかりと歯を食いしばって気合い入れろよ? ほらよっ……てぇーーー!!」

 半ばやけっぱちじみた発射の号令と共に、こちらのコクピット内にはけたたましいアラームの警報が鳴り響く!

 まさしくロックオンされた艦砲射撃が撃ち放たれるのが、あたかもスローモーションで正面の大型モニターにリアルタイムで映し出された。

 対してこれを目をつむることもなくじっと凝視して、ひたすらこの身体を力ませるベアランドだ。

 まぶしい閃光が眼下の海面の中心で光ったと思ったら、直後には目の前が真っ白に染まっていた。

 機体がかすかに揺れるが、メインのキャノンでなかったぶんにさほどの変化、ダメージらしきは感じられない。

 また直後、すぐに目の前には元通りの光景が広がっていた。

 機体の各種センサーを即座にチェックするが、どこにもこれと目立った変化らしきはない。あっさりとやり過ごしたらしい。

 背後のカメラに映るプラントにも、これと変化はなし……!

 するとこれには大した物だとほっと一息、一安心してシートにでかい尻を落ち着け直す隊長さんだ。

「ふうっ、さすがに最新兵器は違うよね! ランタン、よくやったぞ。目の前のおじさんの顔を見てみたいもんだよ……!」

 そんな軽口叩いてやると、今しも目の前のモニターの中心が四角く切り取られて、そこにくだんの犬族の艦長どのが、ただちに顔面度アップで現れる……!!

 ひどく冷めた目つき顔つきをして、不機嫌なのが丸わかりな口調で言葉を発してくれた。

「ひとつも変化なし……まったく、とんだバケモノだな! どこにもかすり傷すらにありゃしないとは……! やっぱり主砲をくれてやれば良かった。ちょうどいい実験になっただろう?」

「それはまた今度にしてよ♡ でないとリドルに泣かれちゃうから。うちの優秀なメカニックくんにさ。で、少しは気が済んだかい? ほんとに呆れた艦長さんだな。そんなんでこの場の始末は任せていいんだよね?」

 上官相手に臆するでもなく茶化した言いようのアーマー部隊の隊長に、なおさら気分悪げな犬族はひん曲がった口元で応じた。

「ふん、こうして出て来ちまった以上、そのつもりだよ。始末も何も、戦況はもう明らかだろ? 回りを見てみろ」

 ぶっきらぼうにアゴを揺すってみせる上官どのに、回りのモニターの変化を自分でもそれと見て取るベアランドは納得顔でうなずいた。

「ん! ……ああ、なるほど? みんな蜘蛛の子を散らすみたいにこの場を離脱していってるよ! 見事な引き際だ、てか、いいのかね、大事なプラントほっぽりだして?」

「元からその算段だったんだろ? そこからは見えない海上基地の背後に停留していた空母だかなんだかが、まんまとこの戦域を離脱したから、みんなでそっちに合流するんだ。こっちの艦砲射撃を撤退命令代わりにしてな」

「なるほど、きっといいタイミングだったっんだね♡ で、南のアストリオンに逃げ帰るってのかい?」

「無理だろ。そっちにはおまえらを乗せてきた最新鋭の航空巡洋艦がにらみを利かせてる。トライ、なんて言ったか? そいつを見越してわざわざ南に回り込んでからこちらに入ってきてくれと先生にはお願いしてあるんだ。まったく新兵器さまさまだな!」

 投げやりな言いようで皮肉めいたことをぬかす艦長だ。

 すっかりとへそを曲げたさまのおじさんに、ベアランドはひどい苦笑いで肩を揺らす。 

「いやはや、ほんとに回りを利用するのがお上手だよね? でもぼくらのトライ・アゲインとは合流はしないんだろ、ジーロ艦長は、あくまでどちらも単艦での戦闘行動を希望してるって聞いてるから?」

「ああ、あいにくと一匹狼な性分なんでな。元から少ない戦力を無理に集中しても方々で破綻するのが落ちだろ。だが、そちらに補給してやるくらいの度量はあるさ。寄って行けよ、おまえはどうあれ、使えない新人の部下たちは燃料の補給なりをしないと帰れないんだろう。あっちがここまで迎えに来てくれない都合」

「まあ、そうだね……!」

 仕方もなさげにしてくれたみたいなウェルカムにちょっと内心で考え込む隊長さんは、おかけで返事が歯切れ悪かった。そこにまた追加のお誘いもあって、ますます考え込んでしまう。

「あと、ついでにこのブリッジに上がってこいよ。いろいろと言いたいことがある。もちろん、ふたりのお間抜けな部下たちも連れてだな?」

「ああ、そう? まあ、いいんだけど……いや、どうかな……」

「いいや、その前にまず面を拝ませてもらおうか、その間抜け面をだな? 使えなくてもそのくらいはできるだろう??」

 かなり言い方に毒があるおじさんの要望に、いよいよどうしたものかと考えあぐねる隊長さんだが、これと断る理由もないものかと左右のスピーカーに言ってやる。

「まいったな、あんまりプレッシャーをかけないでおくれよ? ケンス、コルク! こちらの艦長さまが対面を希望しているよ。これから実際に会うんだけど、その前にどんな顔をしてるのか確かめてごらん!」

「は、はい!」

「あ、あのっ、了解……!」

 慌てた感じの返事がしてひどく緊張した空気が伝わるのに、完全に新人たちが名うての艦長さんに飲まれているがわかる性格のんびりしたクマ族だ。もはや苦笑いするしかない。

 ややもせずひどく白けたセリフが耳朶を打った。

「ふうん、なるほどね、そんなふざけた間抜け面をしてやがったのか、どいつもこいつも……ん?」

「?」

 憎々しげに言いながら、正面モニターの犬族が視線を左から右に流すにつれて、このベテランの艦長さんの表情がやや曇るのを、ちょっと不可思議に見るクマ族の隊長さんだ。

 一瞬だけ変な間が流れて、憮然とした犬族のキャプテンはなぜだかみずからの胸元にこの右手をやるのだった。

 何かをぎゅっと握りしめるみたいな動作だが、それが何かはここからではわからない。

 すると折しもモニターの向こうのブリッジでクルーの声が響いた。

 当該戦域に敵影はもはやないことの確認、これによる戦闘態勢の解除、最後にベアランドたち援軍との合流とこの受け入れを全艦に通達して、艦長との通信は終わった。

 後には死んだかのような沈黙が左右のスピーカーから伝わるが、まるで気にしたふうもなくこの部下たちにてきぱきと僚艦への合流待機を指示するベアランドだ。

 波乱はまだ続くものと覚悟はして、かつての悪漢ぶりが変わらない艦長との再会を楽しみにするクマ族だった。

 部下である若手の犬族たちがベテランの犬族にいびられるのをどうやって阻止してやろうかと考えを巡らせる。

 後からウルフハウンドたちの第二部隊も駆けつけるらしいから、数ではこっちが優勢だろうとあっけからんと構えるのだった。

 左右のスピーカーは依然として冷たい沈黙を守ったままだったが……!

Part2

 
 一時は混乱を極めたドタバタの戦闘劇がおざなりの内にも幕を閉じて、そのまま母艦に帰投するのかと思いきや、僚艦の艦長のはからいでそちらに一時的にお世話になることになる、ベアランドたち、第一アーマー小隊だった。

 実際にはお説教を受けに行くというのが本当のところなのだが、これに部下たちの僚機が補給してもらえるのはありがたい。

 無事に敵軍から奪還した、謎の海上エネルギープラント施設については、そのまま本来の所有となるはずの南の大国、「アストリオン」の正規軍に引き渡すとのことで、そちらとの合流もかねてのこの現状らしかった。

 この場の指揮権を一手に握る大佐どの、ジーロの独断であるが、それにつきコメントなどは差し控えるクマ族の隊長だ。

 面倒ごとに首を突っ込むのはまっぴらだった。

 そうでなくとも、ただ今のこの状況が面倒なのだから……!

 部下たちの飛行型アーマーが無事に巡洋艦のアーマードックに収容されるのを見届けてから、みずからはこの艦首のなるたけ拓けたスペースに向けて大型のアーマーを垂直着陸、着艦させる。

 通常のアーマーよりもかなり大型な機体は、これ専用のアーマーハンガーがなくてはまともに収容することがかなわなかった。

 洋上に浮かんでいる戦艦のバランスを崩さないように注意しながら、この機体のバランスも水平に保ちつつ、その場にピタリと固定……!

 待機モードに出力を落として、みずからはこのコクピットハッチから、艦の甲板へと速やかに降り立つ。

 タラップもないのを器用にアーマーの手足にホップステップ、最後のジャンプでダン!と鋼の甲板に着地。

 そこに待ち受けていたスタッフたちには、特にやってもらうようなことはないと気軽に言づてすると、さっさとその場から艦の中央にあるアーマードックに向かうベアランドだ。

「まあ、そもそもがリドルくらいじゃないとまともにメンテなんて出来やしないんだよな、このぼくのランタンは♡ あっと、いたいた、新人のパイロットくんたち! あらら、ガチガチだな……!」

 そちらに入る出入り口には、すでにみずからのアーマーから降り立っていたふたりの部下たちが、こちらに向けて律儀に敬礼!

 ピシッとした直立不動の姿勢で待ち構えていた。

 苦笑いの隊長は、肩をすくめて軽くだけ敬礼を返してやる。

「そんなにかしこまってくれることもありやしないだろ? まあ、気持ちとしては穏やかでないのは理解できるけど。だとしても、悪いのは自分たちなんだからさ!」

 仕方がないさと茶化したウィンクくれてやるに、ふたりのまだ若い犬族たちはげんなりとしたさまでうなだれるばかりだ。

 意気消沈とはまさしくこのことだろう。

 余計に苦笑いになって肩をすくめるベアランドだが、そのままふたりを伴って艦のアーマードックへと入っていく。

 するとさっきまでの心地の良い潮風が、よどんだ油臭い空気に取って代わって、おまけそこかしこでやかましい音が鳴り響くのは、どこもおんなじ風景だった。

 じぶんたちが世話になっている航空母艦と比べたら、天井の照明がだいぶ抑え気味なのに、薄暗い足下を気にしながらあたりを見回すベアランドだ。

 大型の巡洋艦にしてはアーマーがさして目に付かず、部下たちの新型アーマーばかりがやたらに目立っていた。

 これには、はてなと小首を傾げる隊長さんである。

「あれ、この艦の艦載機(アーマー)が見当たらないな? 確かきみらとおんなじ、ジェット・ドライブ・タイプの〝ビーグルⅥ〟の使い手がいるって聞いていたんだけど? おまけにこのぼくとおんなじクマ族だって聞いていたから、ちょっと会えるのを楽しみにしてたんだけど……!」

 そんな隊長のセリフには、きょとんとした顔を見合わせるばかりの新人たちだが、やがてすっきりとした見た目で長身の犬族のケンスが言った。

「はあ、そうなんですか? 見た限りはおれたちの以外はないですよね。こんなにでかいアーマードックなのに! でも、スタッフさんたちは珍しそうにあれこれ見てましたよ? こっちの機体と仕様がまるで違うみたいなことも言ってたし……」

「お、オレも、いろいろと聞かれた、聞かれました! プロペラントがどうだとか、航続距離がどうだとか、ぜんぜんうまく答えられなかったけど……!」

「まあ、設計者じゃないんだからね? でもアーマーの補給をしてもらう都合、できる限りのことは答えてあげないと……てか、補給作業とはあんまり関係ないような質問なのかな、それって? もうおおよそのところ終わってるっぽいし」

 メカニックのスタッフらしき犬族たちが何人も集まって、この二機のアーマーの足下で談義しているのを遠目に認めて、ちょっとこの声をひそめる隊長さんだ。

 あんなのに捕まったりしたら厄介だぞ、と遠巻きにやり過ごすべく気配を押し殺す。

 暗いからあんまり見通しのよくない現場の突き当たりの壁のあたり、この艦の中心となるメインブロックのブリッジタワーなのだろう区画を見つめて、目的地へのルートを見当した。

 おまけさっきからまったく顔色の良くない犬族たちに、この艦の強面の艦長を茶化したようなことを言ってやる。

「あはは、ほんとにケチ臭いったらありゃしないよね? こんなでっかい航空巡洋艦が空も飛ばずに、艦内の明かりもこんなに落としてさ! こんなんじゃ転んでケガしちゃうよ♡ まあ、あの渋ちんの艦長さんらしいっちゃあ、らしいんだけどさ! 表情も暗かったもんね?」

「……!」

 そんな軽口に、ふたりの部下たちは暗い表情を見合わせるばかりだが、これに意外な方向からツッコミが入れられた。

「ふん、しぶちんで悪かったな? 余計なことは言わんでいいから、さっさとこっちに上がって来いよ……!」

 聞き覚えのある声がエコーを伴った拡声音で頭上から降ってくるのには、思わず部下たちとお互いの目を見合わせるクマ族だ。

「……おっ! 聞かれちゃってたみたいだね? しっかりとマイクでこの声を拾われてたんだ。ほんとに陰険だな! ヘタな軽口も叩けやしないんだから♡」

 ペロリと舌を出して左右の肩を揺らすのには、やはり部下よりもこの艦の最上階でふんぞり返っているのだろう、ベテランの犬族の艦長どのが答えてくれる。

「余計なことは言わなくていい。さっさとこちらに上がってこい。第一艦橋(メインブリッジ)だ。そこからまっすぐ進んだ先にエレベーターが二基あるから、専用のものはお前たちのために解放してある。3分以内だ。以上!」

 言うだけ言ったら、ブツリと途切れる無愛想な館内放送に、大きく肩をすくめさせるベアランドだ。

「だってさ! さては画像もモニターされてたんだね? それじゃ、さっさとイヤなことは済まして、この新鋭艦の内部を楽しくお散歩でもさせてもらおうか。ふたりとも付いておいで」

 こうなれば仕方も無い。

 ふたりの部下たちを伴って、言われたとおりのまっすぐ突き当たりのタラップから上階の回廊、この左手の突き当たりに見えたエレベーターホールまで早足でたどり着く。

 アナウンスの通り、エレベーターは二基あって、右が通常のクルー用で、残りの一基は、途中の階層をパスしたブリッジまでの直行便だった。

 ブリッジ・クルー専用のそれがあるのは、じぶんたちの母艦のそれと同様だ。

 そのためか明らかに大きさが異なるものの、許容量がだいぶ小さめな見てくれをしたものの扉が開け放たれるているのを、その身をかがめてしげしげとのぞき込む大柄なクマ族だった。

 左の頬のあたりを人差し指でポリポリとかきながら、ちょっと考え込んでしまう。



「ああ、なんか、ずいぶんとちっちゃいエレベーターだよね? ブリッジ・クルー専用とは言ってもこんなに狭くすることもないだろうに。ぼくみたいないかついクマ族なんかよりも、すっかり犬族主体に考えちゃってるよ。確かにこんな軍用艦の乗組員は、おおかたでスリムな犬族たちがメインにしてもさ……!」

 みんなで乗れるかなと背後の部下たちを見下ろすのに、かしこまったきりのふたりの犬族たちときたらば、さも困惑したさまでお互いの顔を見合わせるばかりだ。

 そうしてやがて、おずおずと言うのだった。

 まずはこざっぱりしとた見てくれの犬族のケンスが、遠慮がちにものを申す。

「でしたら、どうぞ隊長どのがお先に行ってください……! おれたちは、なあ?」

 となりの相棒に向き合うのに、顔色の真っ青な毛むくじゃらの犬族は力なくこれに同意するのだった。先の戦闘でどやされてしまったここの犬族の艦長に会うのがよほど気が引けるのらしい。
  
「は、はいっ、おれたちは後からブリッジにうかがいます……

 もはや死にかけみたいな部下のありさまをどうしたものかと見つめてしまう隊長さんだ。

「はあ、とか言いながら、ふたりしてバックレたりするんじゃないだろうね? いいかい、敵前逃亡は銃殺刑だよ? まあ、この艦の中じゃ逃げようもないんだけど、発進許可がなければアーマーも出せやしないんだし。まあそうか……」

 ちょっと呆れ顔でふたりを見ながら、また狭いエレベーターに向き直るベアランドだ。これに背中から身を預けるかたちで乗り込むと、部下の犬族と相対した。

「ふうん、どうにか乗れなくもないのかな? まさか重量オーバーだなんて言わないよね? それじゃ、さっさとみんなで怒られに行こうか! それっ!!」

 ふたりの部下たちが気を抜いているところを無理矢理に太い腕を伸ばして捕まえて、この身にがっちりと押さえ込んでやる。

「わあ!」

「ひゃああっ!?」

 びっくりする犬族どもにしてやったりといたずらっぽい笑みで言ってやる。

「イヤなことはとっとと済ませちゃおうよ! 3分以内に来いって言われていることだし、もたもたしてられないから。確かに陰険でおっかない艦長さんではあるけれど、取って食われたりはしないんだからさ♡ あっと、これも聞かれてたりするのかな?」


 腕の中でもがくふたりをぎゅっときつくホールドしながら、さっさとエレベーターを起動させるクマ族だ。

 ブリッジまでの直行便はものの十秒足らずで艦の最上階までパイロットたちを送り届けてくれる。

 その先のブリッジでくだんの艦長と対面するベアランドたちだが、思ったよりも機嫌の悪い大佐どのに内心で肩をすくめる隊長さんだった。背後でいっそうに身をすくめる犬族たちとこってりとしぼられることになるのがもはや明白だ。

 部下でなくとも逃げ出してやりたい気分になりつつ、旧知の仲のベテラン軍人に立ち向かうエースパイロットだった。

                 
              ※次回に続く……!




 

 


プロット
ベアランド小隊、ジーロ艦に着艦。
ランタン 船首部に ビーグルⅥ アーマーハンガーに
アーマーハンガーのコルクとケンスと合流、ジーロの艦内放送でブリッジに招かれる。
ブリッジタワー、エレベーターが二基、その内の一気はブリッジまでの直行便、ただし狭い。
三人でブリッジへ。不機嫌なジーロとのやり取り。
なんやかんやでお茶をにごしていながら結局は命令を遵守できなかった部下、特にコルクへと話が移り……!
以下、#015へ? ※お説教中にウルフハウンドも合流。
部下ふたりは副隊長に任せて、ベアランドはジーロとの話し合いに。船酔い状態で完全グロッキーなダッツとザニーのクマキャラコンビがちょっとだけ登場? 

TO DO
アストリオンのマップ作成、ダッツとザニーのアーマー、ビーグルⅥプロトタイプの作画、ケンスとコルクのビーグルⅥ量産型の作画。ジーロの巡洋艦、????の作画。
  

 

 

本文とイラストは随時に更新されます!


カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record NFTart NFTartist Novel オリジナルノベル SF小説 ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア戦記/Lumania War Record #013

#013

Part


 遙かな水平線はどこまでも穏やかに澄み渡っていた。

 空も見渡す限りが雲ひとつもなくした、まるきりの快晴だ。

 いっそここが血なまぐさい〝戦場〟だということを忘れてしまうくらいに平和なありさまに、巨大な空飛ぶ戦闘ロボットのコクピットで、その様子を今やぼんやりと眺めるばかりの若いクマ族のパイロットである。

 やがてちょっとだけ気の抜けたような言葉を発するのだった。

「はあん。いざ目標の当該戦域に着いたのはいいものの、人っ子ひとりいやしないなあ? ほんとに気配すらないよ。なのにどうしてここが戦場だって言えるんだか……!」

 目の前のメインモニターのすべてが青一色で、さっきから代わり映えしないのんびりした景色と、手元の各種レーダーの画面を交互に見比べながら、やはりこのどこにも敵影らしきがないのを認めてどうしたものかと考えあぐねる。

 後続の犬族の新人パイロットたちが追いつくのはまだ少し先のことだろう。

 最新鋭の大型巡洋艦が擁するハイパワーのマスドライバーをまんま流用した、アーマーの強制射出発進システムは先手を打つには打って付けだが、単機で先行しすぎるあまり後続機の援軍がすぐには望めないのが玉に瑕(キズ)だ。

 どの場面においてもまずはひとりで強襲急撃、その後も孤軍奮闘しなければならない。

 果たしてその覚悟を持って出撃したはずが、いざ来てみればそこはひたすら何もないただの公海のど真ん中だ。

 本来の戦闘域となるはず海上の孤島、ロックスランドからもかなり西にポイントを移したここでは、ただ広い海原が続くばかりで何をどうすればいいのかさっぱり見当がつかない。

「あれ、場所、間違っちゃったかなあ? さてはリドルのやつ、慌てて射出のポイントをミスってたりして??」

 ありもなさそうなことをつぶやいて、みずからの太い首をしきりと傾げてしまうベアランドだ。

 おのれの周囲を囲むように配置されたモニター群をぐるりと左から右へと眺め回しては、どこかしらに何らかの変化がないかと目を懲らす。

 左右の耳を澄ましてもアラームなどの警報は響かない。

 ただ右側のサブモニターの一角だけ、海面にある種の異物があるのが視認できたが、それをちょっとだけ拡大して、またすぐに視線を逸らすクマ族だった。

「なんか一個だけでっかいフロートが浮かんでいるけど、あれってロックスランドのヤツがここまで漂流してきちゃったんだよね? 完全に破壊されてすっかり廃墟みたいになっちゃってるけど、あのフロート自体がただ浮かんでいるだけで、まるで意味がないものなんだからさ……!」

 そこにあるのが不自然なこと極まりもなくした巨大な灰色の人工物らしきを、しかしさして気にすることもなくスルーする、性格とてもおおざっぱなエースパイロットさまだ。

 少しは気に掛けても良さそうなものをあえて放置していると、そこに折しもどこからかアラームと共に、誰かしら年配の男性らしき声が響いてくる。

「……おい、聞こえるか? でかグマ?」

 突如として聞こえてきた聞き覚えのある声とその言い回わしに、おっ!と頭の上のふたつの耳をピクつかせるベアランドだ。

「お、その声は、ジーロ艦長だよね? この現場の指揮権を持った最高責任者の! どこにいるんだい? ま、なんとなくで想像がつかなくはないけれども♡」

 右手のモニターの一角を今一度、軽く一瞥しながらの言葉に、頭上のスピーカーからは小さな舌打ちがして、ちょっとトーンを落とした返事が返ってくる。

「じゃあ、そういことなんだろう? それよりも、ちょっと耳を貸せよ。大事なお話がある……!」

 ピピッ!

 不意にまた軽いアラームが鳴って、正面のモニターの中に短いメッセージのウィンドウが浮かび上がってきた。

 それを見るなりクックとおかしげにこの喉を鳴らすクマ族だ。

「あ。これって、上級士官用の秘匿回線の通信コードだよね? わざわざこんなの使わなくたっていいものを、ほんとに用心深い艦長さんだよな! 返って怪しいったらありゃしないよ♡」

 苦笑いで思ったままを口にするのに、スピーカーからはまた舌打ち混じりの文句が返ってきた。

「いいから、とっとと開けよ。肝心なことをまだ何も知らされていないお前さんに、親切に教えてやるんだ。ありがたく思え!」

「はいはい! と、それじゃ、どうぞ?」

 言われた通りに複雑なパスコードでブロックされた軍用の特殊回線をつなぐと、スピーカーからはまた同一人物による、こちらはややくぐもった感じの音声が響いてくる。

 さては手のひらサイズの小型の通信機を使って小声で通信しているのだろうと察するクマ族だ。

 よってそのひそひそ話にこの耳を傾けた。

 すると相手の犬族のベテラン軍人の大佐どのは、何やら一度、もっともらしげに咳払いしてから続けてくれる。

「んんっ! まあ、知っての通りで、ここに来るように指示したのは何を隠そうこのオレなんだが、その場所だけでさっぱり後のことは伝わっていないだろう? 説明してやるから良く聞け。で、言うとおりにしろよ? それにつき余計な質問はなしだ。お前は黙って言われたことだけをやればいい……!」

 かなり上から目線のパワハラめいた口ぶりになおのこと苦笑いが強くなるベアランドだが、とりあえずは了解してうなずいた。

「ははん、相変わらず自分勝手な言いぐさだよな! まあいいや、ここはおとなしく艦長の指示に従うよ。さっぱり何が何だかわからないし、意味もなくここに導いたわけじゃないんだろ?」

 相手からの返事がないのにしたり顔したクマ族は明るい口調でまた言ってやる。

「さうさ、なんたって知るひとぞ知る、いかなる劣勢もものともしない先読みと知略に長けたキレ者ぶりで有名な、ジーロ・ザットン大佐だものね! あるいは勝つためには手段を選ばない冷血の極悪人、悪党ジーロ、だったっけ?」

 ちょっとどころかかなり冷やかしめいた口ぶりになるのに自分でもペロリと舌を出してしまうが、これに相手はまるで気にしたふうでもなくて冷めた口調で返した。

 モニターに相手の顔が映らないから実際のところはどうだかわからないが、このくらいで機嫌を損ねるような底の浅い人物でもないと理解はしているクマ族の青年だ。 

「お前に言われたくはないね。あいにくとこっちはわけあってこの姿を見せてはやれないんだが、いざとなったら多少の手助けはしてやるから、覚悟してかかれよ。言うまでもないが、そこはもうれっきとした〝戦場〟だ。で、見たところおまえひとりだけのようだが、後の僚機の部下どもはどうしたんだ? 確かふたり、新人のパイロットと新型機がいたはずだろう? どっちもまだ若い犬族の??」

「よくご存知で! なに、もうちょっとしたら追いつくよ、今しゃかりきになって追っかけてきてるはずだから♡ たぶんね?」

 いたずらっぽく余裕しゃくしゃくの返答を返してやったら、ちょっとだけ間を開けて、どこか呆れたような返事の艦長どのだ。

「まったく、そんなのろくさそうなでかい図体の機体でどうしてここに一番乗りしてやがるんだよ、おまえは? 相変わらずやることが人並み外れていやがるな、このバケモノめ! まあいい、どっちかと言ったら新型機とこのおまけの新人くんに興味があるんだが、お前のそのご自慢のアーマー、ルマニア軍が最新兵器の実力とやらもとくと見させてもらおうか、その……」

 またちょっとだけ間を開けて、そこから何かしら含んだようなものの言いをしてくれる犬族のおやじさんだった。

「いわゆるそうだな、その『王陣の番兵』シリーズってヤツのちからをだな……! ああ、軍がかねてより秘密裏に開発してる、巨大な能力を秘めた最終兵器のひとつなんだろう、そいつは?」

「あはは、ほんとによくご存知で! まったくどこから聞き付けてくるんだか? ぶっちゃけまだ開発途上の機体ではあるから、いざぶっつけ本番で実戦でテストしてるみたいな? あんまり参考になるかはわからないけどさ!」

「ほんとにふざけていやがるな……! ん、いいよ、そんなに静まり返ってくれなくとも! おい、全員聞き耳立てているのがまるわかりだぞ? どいつもこいつも、みんな仕事しろ!!」

 呆れかえったセリフの後に続いた、ひどくうざったげな文句が回線越しのこちらではなくて、実はむしろおのれの周りに向けてのものだと察するベアランドは、思わず吹き出してしまう。

「ふふっ、てっきり艦長室でコソコソやってるのかと思ったら、しっかりとブリッジのシートにふんぞり返っていたんだ! だったらこんな秘匿回線なんかわざわざ使う必要ないのにさ?」

「うるさい。余計なお世話だ! おっと、失敬。いいから、良く聞けよ。立場的に公言しにくいこともいろいろあるんだ。現実と建前ってのはとかく乖離(かいり)しているもんでな?」

「了解♡ で、ぼくは一体どうすればいいんだい? 見渡す限りが海ばかりでこれと何も見当たらないんだけど、この下に敵の潜水艦でもいるのかい? それってあんまり相性良くないなあ」

 ぐるりと周りのモニターに映る景色を見回すクマ族のパイロットに、ちょっとだけ苛立たしげな声色の犬族の艦長が続ける。

「だから、それを今から教えてやるって言っているんだよ! 良く聞け、もう肝心なポイントは過ぎ去ってしまっているんだ。放っておいても感づくかと思ったら、こういうところは至って鈍感なんだよな、おまえらクマ族ってのは? 世話が焼けるよ」

「へ? もう過ぎてるって、まだ何もありゃしないじゃないか?? そっちに見える怪しいフロートの漂流物以外は、なんにもありゃしないよ。あ、ひょっとしてその廃墟に向けてビームをぶちかませばいいのかい?」

 ちょっととぼけた返事を返すのに、あちらからはただちにかぶせ気味のがなり声が聞こえてくる。

 ひそひそ話はどこへやら?

「間違ってもやるなよ! いいから、黙って言った通りにしろ。まずは転進、北に向いてる機体の方向を南西に向けろ。取り舵一杯! ほら、お前から見たら20時の方角だよ、わかるだろ?」

 相手からの言いようにちょっと戸惑い気味のベアランドだ。

 太い首を傾げながら、低速で前進していた機体を停止させる。

 言われた通りにおのれの左後ろへとモニターの景色を回転させて、ついぞ代わり映えしない青一色の世界を微速前進するよう大型なアーマーの機体をコントロールする。

 やはりその首を傾げながらにだ。

「ふーん、て、やっぱり何もありゃしないけどな? ねえ、これでいいんだよね、ジーロ艦長? 聞いているかい?」

「ああ、いいんだよ。そのまま微速前進で、すぐにわかるだろ。あ、だからそこでストップだ! 止まれって、また過ぎちまうぞ? おいこのでかグマ!!」

 途端に声を荒げる相手の言葉をまずはきょとんとした目つきで聞いてしまうクマ族だ。

 果たしてモニターの中にはそれらしきものはいっかな見当たらないのだが……?

「え、ここで止まるのかい? でも何もないけど? なんか海面一帯に白いもやか霧みたいなのがぼんやりとかかってるくらいで、なんにも怪しいものは見当たらないんだけど……」

「それが目標なんだよ! ちゃんと見えてるじゃないか? さてはさっきもそうやって見て見ぬフリして見過ごしたのか? このとんちきクマ助め! いいか、その海面を覆った白い濃霧こそが今回の目標を差し示す確たる証拠であり目印だ」

 これをはなはだ意外に聞くアーマーのパイロットはあまり納得のいかないさまで聞き返した。

「え、でもこれって、この下の海底火山か何かの影響による自然現象だよね? そういうポイントがあるってあらかじめ聞いてたし! 視界不良で戦闘するには不向きだからみんな避ける場所じゃないのかな?? 身を隠すには打って付けかも知れないけど、こんなところに潜んでもまるきり意味がないし!」

 もっともらしい意見を述べてやるのに、頭上のスピーカーからはため息交じりの返事が返った。

「その自然現象と、人工によるカモフラージュのスモークとをおまえはどうやって見分けるんだよ? 現実問題、その下には海底火山なんてものは存在しない! わかるか? だとしたら……」

「何かしらが潜んでいるのかい? でもそんなのむしろここに居るって言っているようなもんだよね? 常に一定のポイントで盛大に煙を吐き出しているのなら? どうして……」

 言いながらこれと怪しい動きは見当たらない濃霧に満たされた海域をいっそ怪しく見てしまうクマ族だ。

 これに犬族のベテランはあっけらかんと返した。

「人工による目隠しのスモークごときなら、いっそまとめて取っ払っちまえばいいだけのことだろ? おまえさんのそのバカみたいに出力のでかい機体なら造作もないはずだ。とりあえず周りの海面に向かって一斉射撃してみろよ? 海面の温度が上昇して気流が生じれば、周りのもやもいっぺんに消し去れるはずだ! ただしくれぐれも目標のブツには当てるなよ?」

 わかったふうなことを言ってくれる上官どのに、だが当のパイロットの若いクマ族はいぶかしげなさまで考えあぐねる。

「そんなこと言っても……! それじゃ適当にぶっぱなしちゃっていいのかい??」

 目標をこれと定めないままに射撃することに戸惑いを隠せないでいると、スピーカーからはぴしゃりと警告がなされる。

「あ、ただし中心は避けろよ? 今のおまえから見てそのまっすぐ先に問題の目標物はある。よってあくまでその周囲の海面に向けてだ。当てたら後悔するぞ? 必ずや!!」

「……何があるんだい? まあいいや、それじゃ、ランタン、とりあえずは手前の海面に向かって、軽く一斉射だ! そうれっと!!」

 こうなれば仕方もない。

 言われるがままにこの機体の各所、両腕や頭部から腹部にかけて搭載されたエネルギーブラスターをありったけ足下の海面に向かって撃ち込んでくれる。

 直後、至る所で大きな水柱が立ち上り、灼熱のビームが海面を激しく波立たせた余波でそこから熱波までが一気に立ち上る。

 それがあたりの白い霧を巻き込んでただちに上空へと走り抜けていく。機体にかすかな揺れを感じるほどの、激しい乱気流があたりをごうごうと震わせた。


 その場に居合わせたらきっと大やけどだ。

「あ、ほんとだ、霧の中からなんか出て来たよ! おまけにえらい大きいなっ、て、えっ……」

 かくして白いスモークが跡形も無く消え去った後には、青一色の海面と、その真ん中に思いも寄らぬそれは巨大な物陰が姿を現すことになる。

 かくしてそれをはっきりと目の前のモニターで視認して、思わず大きく目を見張らせるベアランドだった。

 その特殊で特異な形状をした人工の造形物に、はっと息を飲んでしまうアーマー部隊の隊長さんだ。

「こいつは、まさか……!」

Part2


 突如として海面に現れたのは、それは複雑でいびつな見てくれをした人工の建造物で、かつかなりの大規模なものであった。

 よってモニター越しのただの一瞥でそれが何であるのかを識別する、クマ族のアーマーパイロットだ。

 さらにその建物の全容を見定めるべく、みずからが搭乗する戦闘ロボット、でっぷりと大型でブサイクな人型をしたギガ・アーマーを上空へと遠ざけてこれと距離を置く。

 その全体のありさまを見て、はっきりとすべてを理解した。

「あらら、こんな人気のない公海上に、よもやこんな大げさな施設があるだなんてビックリだな? だってこれって最新型のエネルギープラントだろ? 艦長!」

 あいにくと目の前のモニターにはこれと映像がなかったから、あえて天井のスピーカーに向けて問うてやるに、するとそちらからはとかくしれっとした感じの返答が返ってきた。

「ああ、見ての通りだ。あとこんな誰もいない公海上だからこそだろ? こんな厄介でかさばる施設、よっぽど僻地の山奥かこんなところじゃなきゃおちおち建てられやしない……!」

「まあ、それはそうかも知れないけど、でもここって本来はどこの国にも属さない、いわゆる〝公海〟だろ? さすがにマズイんじゃないのかな、せめて自国の領海にでも置かないことにはさ、あとあと揉めるのが見え見えなんだけど……!」

 ちょっと困惑気味に頭を傾げるベアランドだが、どこぞの戦艦のブリッジにいるのだろうジーロは平然たる口ぶりだ。

「どこの国にも属さない特殊な企業体が運営してるとなれば話は別だろ? 何しろ電力エネルギーをまんま高濃度圧縮して固体化したエナジーブロック、いわゆる〝プラズマ・ペレット〟を産出するハイパワー・ブラストエンジン・プラントだ。おまえさんたちの乗ってるアーマーの高出力エンジンにも欠かせない? ま、裏には特定の国や利権が絡んでいるんだが、位置的にはどこが手ぐすね引いてるかおおよそで想像がつくだろ、それに我らが本国もまんまと乗っかってるってわけで……」

「タチが悪いな? ロックスランドのいざこざは実はこっちがメインの縄張り争いだったりするのかい? つまるとこでこのぼくらルマニアと、西の大陸のアゼルタ、あとすぐ南にある中央大陸のアストリオンと、まさしく三つどもえの??」


 少なからず嫌気がさした感じのアーマーパイロットに、新型巡洋艦の艦長どのはなおも平然たる口ぶりだ。

「安心しろ、アストリオンとこっちは今のところ共闘関係だ。よって敵はアゼルタの侵攻軍だな。南の大陸の西海岸側をほぼ占拠してふんぞり返ってる? 目の前のプラントも今はそっちに占拠されてるんだよな。ちなみに敵さんの目的は、そのプラントばかりでなくて、実はこの下にもある」

「は? 下ってなんだい? それってこの海面のそのまた下の海の中か、あるいはいっそのこともっと下の海底ってこと??」

「ご名答! この海底には貴重な資源がわんさと埋まっているんだと! これまたアーマーや戦艦の建造に必要なヘビーレアメタルやらオイルやらが? それを掘り出すための上物がそのプラントで、いわばそれ自体が目隠しの隠蔽工作みたいなもんだ。どうだ、一粒で二度おいしいとは、まさにこのことだろう?」

 思いも寄らないぶっちゃけ発言の連発に、聞いていて心底嫌気がさすベアランドだ。

「ほんとにタチが悪いな!! 占拠されてたロックスランドがあんなあっさりと取り返せたのはつまりはこっちが主戦場で、あっちはどうでもよかったってことなのか!? ほんとに!!」

ああ、そうだよ。だから気を付けろよ? そうやって隠していた姿を現してしまった都合、奥に潜んでいた敵さんがたが蜂の巣をつついたみたいにわらわらと飛び出してくるから、な?」

「ちょっと! そういうことはもっと早く言っておくれよ!! いくら新型だからって限度はあるんだからさっ、て、うわわっ! ほんとに一杯出て来たぞ!!」

 目の前のモニターがいきなりこの状況の急激な変化を映し出すのに、慌てて前のめりに機体の操作パネルに食らいつく。

 身体中に緊張が走るクマ族の頭上で相変わらずのんびりした犬族のおやじの声がだだ漏れてきた。

 現場の最高指揮官が、まるで他人事みたいにぬかしてくれる。

「もうじき後続の援軍が来るんだろ? それまでひとりでテキトーにしのいでおけよ。おまえの機体じゃパワーがありすぎてかすめただけでも大惨事だ。間違ってもプラントには当てるなよ? ただし敵さんはそれを見越してプラントを盾にして仕掛けてくるんだが、そんなに必死には攻めてきやしないだろ」

「何で? まあ、確かに数だけはわんさといるけど、だからってあんまり統制が取れてない感じだなあ? あまり攻め気を感じないような、前の敵さんの新型機の時もそうだったけど……」

「あちらもあちらでいろいろとあるんだよ。なんせ本拠地であるアストリオンの占領地、今はレジスタンス活動が活発化してそっちの沈静化に手一杯らしい。こっちにはろくな補給もできないってくらいにな? 補給と退路を断たれた状態じゃ、あとはずっと西に海を渡った本国に逃げ戻るしかありやしないわな? だがそれもここで手傷を負ってはままならないってわけで……」


 顔の見えない艦長のどこか気の抜けた説明に、怪訝な表情で考えあぐねるベアランドである。

「まさかここをさっさと放棄して逃げ出す算段してるってわけかい? そんなあっさりと……! でもだったら、とっととトンズラしてしまえばいいじゃないか?」

「おいおい、仮にも一国の正規軍だぞ? ろくな理由もなしに敵前逃亡なんてできるわけないだろ。で、その理由を今まさに作ってやっているんだよ、このオレたちで。ルマニア軍の最新鋭の大型巡洋艦と、おまえの最新型アーマーでな! せいぜい派手にかましてやれ、プラントは傷つけないように、あと無理して敵さんを撃墜しなくてもいいから、のらりくらりとだな。とどめのだめ押しは援軍が到着してらからだ。このオレの言うとおりにしておけば、誰も損をしないでこの場をきれいに納められる」

 相手はどこまでも好き勝手なことをぬけぬけと言ってくれるのに、半ばやけっぱちでがなる隊長さんだった。


「ちょっと! なんかさっきからいいようにばかり言ってくれてるけど、やるのはこっちなんだからね? 見渡す限りが敵だらけじゃないか!! えいくそっ、ランタン、蹴散らすぞ、パワーは抑えめでいいから派手にビームを光らせてくれっ!!」

「おお、さすがに飲み込みが早いな! その調子で場をつないでくれよ。それにしてもまだ追いつかないのか、後続の部隊は? でかグマ、おまえどんだけ無茶して飛び込んできたんだよ?」

「知らないよ! てか、このことを前もって知ってたらみんなでお手々つないでのんびりと来たさ!! ジーロ艦長、いざとなったら助けてくれるんだよね? そっちにも当然、艦載機のアーマーはあるんだから!!」

 アーマーのコクピットでがなり散らすばかりのパイロットに、どこぞでふんぞり返った艦長は何食わぬさまで返すばかりだ。

 その最中に不意に甲高い電子音が鳴り響く。

「悪いな。今はそっちはどうにも動かせない状態だ。理由はあえて言わんが。聞いたらがっかりするぞ? それだからこそこうして身を隠しているわけで……!」

「……おっと! このコールは!!」

 はっと息を飲むクマ族に、スピーカー越しの犬族がこちらもさも了解したふうに言ってくれる。

「来たようだな? ようやくのご到着か。どれ、どんなものだかじっくりと見させてもらうか……!」

 再び通信のコールが鳴ると、シートの右側あたりのスピーカーから聞き覚えのあるこちらはまだ若い犬族の声が響いてくる。

「た、隊長! 少尉どのっ、ただいま到着しました! オレです、コルクです! ケンスもいます!!」


「はいっ、遅ればせながらこれより両機とも参戦します! てか、すんごい状況ではありませんか? 見渡す限りが敵ばかりだ!! なんかでっかい海上ベースみたいなのもあるし!?」

 到着するなり内心の困惑したありさまがありありとわかる若手のアーマーパイロットたちに、どうしたものかとこちらも困惑してしまう若いクマ族の隊長さんだが、スピーカー越しの傍観者がいらぬ横槍を入れてくれる。

「おう、期待してるぞ! せいぜい気張って戦功を立ててくれたまえ。新型機なんだからわけないだろ。混乱したこの場をどうにか立て直すにはそこのでかいクマ助のお化けアーマーよりもおまえたちのまともな機体のほうが打って付けだ。それにつきちゃんとやり方は教えてやるから、言われたとおりにやれよ」

「また勝手なことを……!」

 内心で舌打ちしてしまうが、途端に動揺した声がまた左右から響いて本当に舌打ちしてしまうベアランド
だ。

「だっ、誰? 少尉どのの声じゃなかった??」

「ああ、他に誰かいるのか? だが友軍の識別信号はあの隊長の機体のしかないよな??」

「いや、気にしなくていいよ! ちょっとしたおっ節介なギャラリーがいるだけのことだから! 今は目の前に集中だ。ちなみにこの近くにいるらしいんだけど、ふたりとも知ってるだろ? いろいろと有名な犬族のベテラン艦長さん!!」

 冗談めかした隊長の言いようにスピーカーからは緊張感みたいなものがまたしてもありありと伝わって来た。

「そ、それって……!」

「ジーロ・ザットン……!?」

 まだ若い新兵の間でもその名は響き渡っているらしい。

 ただしそれが果たしてどのようなものかはかなりビミョーな気がしないでもないクマ族の隊長は、あたりに群がる敵のアーマーに威嚇射撃をしながら犬族たちのアーマーに向けて言い放った。

「どうやら敵さんはあんまり乗り気じゃないらしい! 理由はいろいとあるんだが、目の前の海上プラントには発砲しないように気を付けながら各個に敵を迎撃、できるものなら撃破して構わないから!! ただし深追いはするなよ? ぼくのランタンの射線上に出ないようにしながら左右から援護してくれ!!」

「了解!!」


 海洋上に広く散開する敵影はどれもがみな距離を取っていて、激しいドッグファイトを仕掛けてくるような動きもない。

 相手は持久戦に持ち込む腹づもりが見え見えなのに、さてどうしたものかと目の前のモニターに見入るベアランドだ。

 でかい海上プラントを背後にした飛行型のアーマーやジェットフライヤーは散発的な発砲をするばかりで、その他の敵影は海上でちらほらと様子見してるのが丸わかりだ。

 まるでやる気がないのにいっそじらされてしまうやる気も体力も旺盛なクマ族だった。我慢比べの持久戦ならこちらも自信はなくはないが、この燃費がバカにならない仲間の飛行型アーマーはそうも言ってはいられないのが実情である。

「あちゃ~、膠着状態になっちゃったな? ふたりとも頑張って機体を制御してくれよ? 小回りが利くロータードライブじゃないからしんどいだろうけど、こっちはバリア全開で敵の弾を片っ端からはじいてやるから、この後ろにいればいいよ!」

「りょっ、了解! え、でもっ……あ、あの、あの!」

「このままお互いにだんまりしてにらめっこですか? あとあの目の前にあるバカでかいプラントは実際に稼働しているものなんですか? なんだってこんなところに??」

「説明は後にしてくれ! 悪いけど今はそれどころじゃ、あと作戦はこの海域のどこかに雲隠れしてる犬族の名将どのが立ててくれるらしいから? ん、コルク、何か言いたいのかい?」

 右手の方から過呼吸なのがまるわかりなど緊張した息づかいが聞こえてきて、思わずそっちを見てしまうベアランドだ。

 実際に右手のモニターの中にワイプで犬族の新人パイロットの画像を映し出してやるに、完全に狼狽しきった毛むくじゃらのワンちゃんが大汗かいて干上がった声を発する。

 いくらなんでも緊張しすぎだろうと心配に見てしまう隊長のクマ族をよそに、うわずった声を上げる犬族の准尉は言いたかったことを一気にはき出してくれた。

「あの、そのっ、あの! ううううっ、うるふ、ウルフハウンド少尉どのも後から合流予定でありますっ! 第二部隊もこちらにっ、海を渡って、ですからその、あのそのあのっ……!!」

「え、ああ、そう! シーサーの第二小隊も来てくれるんだ? そいつはまた……そっちが合流してくれたらしょせんは多勢に無勢のこの戦況もどうにか巻き返せるかな? シーサー、問答無用で一撃見舞ったりなんかしないよね?? 大丈夫かな……」

 ちょっと驚きながらもそれはそれでやや考え込んでしまうのに、天井のスピーカーからうざったげな声が降ってくる。

「よせやい。これ以上味方が増えたら敵さんがたがいよいよテンパっちまうだろう? あのやせオオカミが来る前に終わらせちまうのが無難だな。どれ、こうして見たところじゃ新人くんどもはそれなりに使えそうだから、そいつらに一働きしてもらおうか」

「ああん、さっきからほんとに言いたい放題だよね! 新人のアーマー乗りに何をやらせるつもりなんだい? おまけにこんなとっちらかった状況で!!」

 しまいにはちょっと忌々しげにのど仏をうならせるクマ族に、犬族の艦長さんはすました声であくまでとぼけた返事だ。

「そんなやたらに目立つまっちろいアーマーで、はじめどうしたもんかと思ったが、どっちもちゃんとおまえに言われた通りに動いてるだろ? 飛行型と言ってもしょせん問題だらけで初期のテストパターンしか出回ってないレアな機体をだな。挙げ句にゃ開発途上で放棄されてまだ未塗装なんじゃないのか? 仮にも旗艦に配備された機体なんだから、色ぐらいちゃんと塗ってやったらどうなんだよ……!」

 おまけ呆れたふうな感想を長々と述べるのに、これを聞かされるクマの隊長は目をまん丸くしてむしろこの左右の隊員たちに聞いてしまう。

「え、きみたちのその銀色の機体って、実はまだ未塗装のヤツだったのかい? てっきりそういう派手なカラーリングなんだと思ってたんだけど??」

「えっ、いや、おれたちも何にも聞いて……そうだったのか?」

「え、え、え? いや、そう、なの??」

 左右で困惑した声が応じるのに、肩をすくめるベアランドだ。

 これにまたしても上から響いてくる犬族の声もやや困ったような心底呆れた響きがあった。

「おいおい、そろいもそろってなにをとぼけていやがるんだよ? オレたちルマニア軍のアーミーカラーは昔から渋いモスグリーンに決まっているだろう? 自由にこの色を決められるのはよほどの戦功を立てた歴戦のエースパイロットさまだ。そんなヤツがどこにいる? でかグマ、おまえはまた別だぞ? もともとの規格がイカレてやがるんだから!」

「ひどいな! まあいいけど、だったらどうすればいいんだい? 早くしないと第二小隊が追いついちゃうし、シーサーが黙っちゃいないよ。海上作戦仕様の機体じゃプラントを器用に避けて戦うのもしんどいだろうし、無傷では済まないんじゃないのかな?」

「そいつはごめんこうむる! おい、新人ども、それじゃはじめにここに来たヤツでいいや、機体に積んだ装備が軽いからより早く飛べたんだろ? 火力は低いほうがいい、この場合は。その手持ちのハンドカノンで構わないから、オレが言ったものをただちにしっかりと狙い撃て。いいな?」

「コルクのことだよね! 聞いてるかい? ケンスは強力なロングのキャノンを装備してるだろ? わかるよね!」

「コルク、艦長どのの命令だ! しくじるなよっ?」

「え、え、え、あの、あの、え? おれ??」

 一連のやかましくしたやりとりの最後に面食らった感じの声があぶなっかしくこだまする。ベアランドは天を仰いでしまうが、犬の艦長さんがぴしゃりと言い放った。

「お前しかいないだろ? おまえだよ。いいな、それじゃ良く聞けよ。やることはいたって簡単だ。それじゃその目の前のプラントを良く見て……」

 この後に下された命令に、その場の空気がただちに凍り付くこととなる。

 はじめ怪訝に耳をピクつかせるベアランドの右手で、思い切りに息を吸い込んでそれきり反応に窮する若い犬族の沈黙がもはや痛いくらいに伝わった。

 ヤバイな……!

 百戦錬磨の犬族の艦長が言うほどにはすんなりとは行かないだろうことがはっきりと予想されるクマ族の隊長さんは、かくなる上はじぶんでどうにかするしかないかなとギュッと両手の操縦桿を握り締める。

 皮肉なほどに晴れ渡った青空に、しかし確実に暗雲が立ちこめつつあるのをこの場のどのくらいが予期していただろう。

 直後には、怒号と悲鳴が交錯するそこはまさしくもっての戦場なのであった……!

                次回に続く……!!

イラスト・ギャラリー

https://opensea.io/assets/matic/0x2953399124f0cbb46d2cbacd8a89cf0599974963/88047277089427635657081635585532914949557992380650193262688159124732346630154/

 ↑二枚目のイラストの線画版です。OpenSeaにてNFTアートとして販売中!!




 


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ルマニア戦記/Lumania War Record #012

#012

↑一番はじめのお話へのリンクです(^^) ノベル自体はもろもろの都合であちこち虫食いだらけなのですが、できるところからやっていくストロングスタイルでやってます(^^;)

NFTアートはじめました!!

OpenSeaで昨今はやりのNFTのコレクションを公開、こちらのノベルの挿絵などをメインにアートコレクションとして売り出していきます! NFTアートと併せてノベルの認知向上を目指していきます(^^) 世界に発信、まだ見ぬ需要を掘り起こせ!!

https://www.lumania01.com/?page_id=4152

#012

 

 公海上の上空を最大戦速で駆け抜けた大型の巡洋艦は、やがてその速度を落として目標のXゾーン、戦況が混乱した戦闘海域もこの最深部へと突入する。

 試験運用も兼ねた主力エンジンの回転出力を落とすと、それまで艦内にやかましく響き渡っていたうなりと振動も一段落する。

 これにより無機質な電子音が鳴り響くブリッジにオペレーターの声が響くのが、頭上のスピーカー越しにもそれと聞き取れる。

 みずからのアーマーのコクピットのパイロットシートに腰を据える大柄なクマ族のパイロットは、目を閉じたままでじっと耳を澄ました。


「報告! 本艦、ただいまより当該の戦闘空域に突入! 全方位索敵、高度500、エンジン出力50に低下、機関安定状態を維持、周囲の状況にこれと目立った変化は見当たりません!」

「……うむ。高度そのまま、全艦、第一次戦闘待機から完全臨戦状態に移行。取り舵20、微速前進、周囲の警戒を怠るな!」

「了解! 全艦に通達、本艦はただいまより戦闘状態に突入、各自の持ち場にて任務の遂行をされたし。繰り返す、本艦はこれより全艦戦闘モードに突入、各自、周囲の警戒を厳にせよ!!」

「全艦、フル・モード! 艦長、メインデッキ、アーマー部隊、第一、第二、いずれも発進準備OKです!」

 すっかりと聞きなじんだ声の中に、会話の最後のあたりではじめて耳にするようなものが混じったが、それが先日、新しく艦に乗艦した副官の犬族のものだと察するクマ族の隊長さんだ。

※LumniaWarRecord #012 illustration No.1 ※ OpenSeaのコレクション「LumniaWarReccord」にてNFT化。ちなみにポリゴンのブロックチェーンです(^^) イラストは随時に更新されます。

「はは、こんな声してたんだ。なんかまだ堅い感じだけど、さては緊張してるのかな? 見た目まだ若い士官さんだったもんね! それじゃこっちもまだ若い新人のパイロットくんたちは、やっぱり緊張してたりするのかな?」

 そう目を閉じたままに、離れた別のメインデッキでみずからのアーマーで待機している、新人の部下たちに聞いてみる隊長だ。

 するといきなりのフリに、これとはっきりした返事はなかったが、ごくり、と息を飲むような気配が伝わってそれと了解する。

 余計な軽口はプレッシャーになるだけだろう。
 
 実戦を前に皆、自分のことでおよそ手一杯なのだから。

 それでいいやと納得していると、頭上のスピーカーから重々しげな声が響いてくる。

「皆、聞いているな? こちらは艦長のンクスだ。第一小隊、ベアランド少尉、用意はいいか? 先行する君たちの部隊に今回の戦闘はすべて任せることになる。本艦はアーマーがまだ手薄な都合、第二小隊は艦の護衛に残しておかねばなるまいからな」

 ベテラン軍人の不景気な声色に、だがこちらはしたり顔して明るくうなずくクマ族だ。

 おまけ肩を揺らしてハッハと笑った。

「あはは! 了解。ぼくらやってることはイタチごっこかモグラたたきみたいなもんだもんね? 終わりが見えない持久戦じゃ、戦力しぼっていくしかありゃしないよ。第二小隊のシーサーが我慢できたらの話だけど♡ そっか、あっちも隊員が新しく補充されたんだっけ? まだ見てないんだけどなあ……」


 ちょっと太い首を傾げて考え込むのに、また頭上からは別の声が早口にまくし立ててくる。

 これには閉じていた両目を開けてはっきりと返す隊長だ。

「ああ、少尉どの! 第三デッキの発射口、もとい、発進ゲートをオープンにします。外から丸見えになっちまうからいざって時のために注意しておいてくださいよ! あとそちらの発進シークエンスは特殊過ぎるので、後はデッキの若い班長どのにすべてを引き継ぎます! よろしいですか?」

「ん、了解! ドンと来いだよ♡ それじゃ、アイ ハブ コントロール! 新型機のお二人さんも行けるよね?」

 また左右のメインデッキ、第一と第二のカタパルトでそれぞれアーマーを発進待機させている犬族たちに問いかけた。

 すると今度はどちらもしっかりとした返事が返ってくる。

「りょ、りょーかいっ!!」

「いつでも行けます! 少尉どのが先にぶっ飛んだらこの後に着いて行けばいいんですよね? でもオレたちこんなしっかりとしたカタパルトははじめてだから、ドキドキしてますよ!!」

「ハハ! じゃあ発進のタイミングはこっちに合わせておくれよ、あとこっちのドライバーは不発もあり得るから、いざとなったら冷静に各自で判断すること! もたもたしてたら敵が来ちゃうから、先行して制空権を確保することは大事だよ?」

「了解!」

Lumania War Record #012 novel’s illustration No.2
OpenSeaのコレクション「LumaniaWarRecord」でNFT化。
こちらは通常のイーサリアム・ブロックチェーンです。
ノベルの挿絵と同時に更新していきます
。 


 新人でもこのあたりはしっかりと心得ているらしい。

 そんな歯切れのいい返答に満足してうなずくと、耳元のあたりでまた別の若い青年の声がする。

 発進作業をブリッジから引き継いだクマ族のメカニックマンのものだった。

「ベアランド少尉、発進引き継ぎました! リドルですっ」

 ただちに正面のモニターに四角いワイプが浮き出て、そこに見慣れた若い細身のクマ族の顔が映し出される。

 見慣れた光景から、デッキの管制塔の映像だとわかった。

 本来はブリッジの仕事をメカニックが兼任しているのだが、そこにちょっとしたひとだかりができているのが見てとれた。

 すぐ背後から物珍しげにでかいふとっちょのクマ族のベテランメカニックマンまでのぞいているのに苦笑いが出る。

「ふふっ、そんな見世物じゃないんだからさ……!」


 するとこちらは真顔で物々しげな物言いのメカニックの青年が、畳がけるようにまくし立てた。

「アーマーとのマッチング完了、マスドライブ・システム、目標と照準を設定、コースクリア! オールグリーン、いつでも行けます!! そちらも体勢はそのままでフロート・フライト・システムをプラマイゼロに、発射時のショックに備えてください! タイミングはそちらに任せますが、本格的な運用は今回がはじめてなので、出力はこちらで調整、まずは最大時の半分の50でいきます!!」

「ああ、了解っ、てか、電磁メガ・バースト式のマスドライバーでアーマーをかっ飛ばすなんて、このぼくらがはじめてなのかね? 砲弾やミサイルだったら聞いたことあるけど! でもどうせだったら100でやってごらんよ、遠慮はいらないから?」

 軽口みたいなことを半ば本気で言ってやるのに、如実にワイプの中のひとだかりにざわめきが走った。

 おまけ若い班長の顔が見る間に青ざめていく……!

Lumania War Record #012 novel’s illustration No.3
OpenSeaのコレクション「LumaniaWarRecord」でNFT化。
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「そ、そんな! 無茶言わないでください!!」

「自殺行為だろう……!」

 悲鳴を上げるリドルのそれに、画面に映らないところからベテランの艦長の声がまじる。

 これに座席の右側のスピーカーからも、おそるおそるにした声が聞こえてきた。

「……てか、そんなやっかいなやり方で出撃する必要あるんですかね? 無理せず自力で飛び立ったほうがいいような?? マスドライバーって、響きからして危ない気がするんですけど」

「お、おれ、絶対に無理っ! 衝撃で機体ごとぺちゃんこになっちゃうもんっ……!!」

 左右からするおののいた声に苦笑いがますますもって濃くなるいかついクマ族の隊長さんだ。


「大丈夫だよ! そんなに華奢にはできてないさ、このぼくもこのランタンも! でもあいにくとでかくて頑丈なぶんにのろくさいから、こうやってスタート・ダッシュを決めないと戦略的に優位に立てないんだ。その場にのんびり突っ立って拠点防衛してるわけじゃないんだからさ?」

「いいえ、だからって無茶はしないでくださいっ、もう十分に無理はしているんですから! 出力は50で固定ですっ」

 好き勝手にはやし立てる周りのスタッフの声を押しのけてリドルが声高に宣言する。

 それにもめげずにまだ食い下がるベアランドだ。

「90! いや、だったら80に負けてあげるよ♡ 機体はそっちが整備してきっちり仕上げているんだから、できなくはないだろう? でなきゃ泣く子も黙るブルースのおやっさんの愛弟子の名がすたるってもんだし!!」

「お言葉ですが、師匠だったらこんな無茶、絶対に反対してますよ! アーマーはおもちゃじゃないんだから!! やってること大陸間弾道ミサイルの打ち上げと一緒ですからね? およそ人間技じゃありゃしないっ!!」

「了解、だったら75で手を打つよ、今日のところはね♡」

「っ!! わかりました、60で行きます! これ以上は引き下がりませんからね!!」

「毎度あり♡」


 やかましい駆け引きの末にワイプの人だかりが消えて、正面モニターの明かりが一段落とされる。

 ただちに秒読みが始まった。


「第一小隊、発進を許可する。さっさと出撃したまえっ!」

 せかすような艦長のンクスの声を合図に、スロットルレバーを全開に押し開けるベアランドだ。

「了解! それじゃベアランド、ランタンっ、こよれり当該戦域に向けていざ発進!!」

 轟音と共に緑色の大きな機体が巨大な巡洋艦の発進口から射出される! 風切り音を伴って空の彼方へと飛んでいくのだった。

 それから若干のタイムラグを置いて、二機の機体がそれぞれに艦を飛び立っていく。

 すべてがぶっつけ本番。

 新人の隊長と新人の隊員による、新型機のみで構成された異色の編成チーム、この本格的な部隊運用がはじまった。

               ※次回に続く……!

ノベルは随時に更新されます。



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ルマニア戦記/Lumania War Record #011

#011

「寄せキャラ」登場!!

※「寄せキャラ」…実在の人物、多くはお笑い芸人さんなどのタレントさんをモデルにした、なのにまったく似ていないキャラクター群の総称。主役のメインキャラがオリジナルデザインなのに対しての、こちらはモデルありきのキャラクターたちです。
 似てない部分をどうにかキャラでごまかすべく、もとい、ノリで乗り切るべくみんなでがんばっています(^o^)

  新メカ登場!!

Part1


「あ~ぁ、まいったなあ! あのクマのおじさんったら、やたらに話が長いんだから、余計なお説教くらっちゃったよ…!」

 ブリッジから直接また元のデッキに戻るはずが、艦橋を出た途端に出くわしたクマ族の軍医どのにがっちりと行く道を阻まれて、そこから思いの外に時間を取られてしまった。
 いざ艦の船底に位置するアーマーの格納されたハンガーデッキに出ると、そこはもうすでに一仕事終わったかのような落ち着きがあるありさまなのに、ぺろりと赤い舌を出してしまう。

「うへぇ、新しい航空タイプのアーマーが空から着艦するところをこの目で見てみたかったんだけど、間に合わなかったか…! ちゃんと無事に着いたんだよね、どっちも?」

 目ではそれと確認ができないが、この足下では何やらやたらにガタガタした物音や複数の気配があるのに、着艦したアーマーが既に専用のハンガーに格納されていることを察するクマの隊長さんだ。
 ならばこれとセットであるはず新人の隊員たちの姿を探すが、この視界にまずとまったのは新顔の犬族ではなく、日頃から良く見知ったオオカミ族の同僚のウルフハウンドであった。
 血気盛んな副隊長はみずからの一仕事を終えて今はしごくまったりとくつろいださまだ。
 そこに迷わず大股で歩み寄るベアランドはただちに明るく語りかける。

「あ、シーサー! もう戻ってたんだ? 無事で何より! それでどうだい、足回りを一新したきみの海洋戦仕様のおニューの機体は?」


 するとデッキの手すりにもたれ掛かってどこかよそを眺めていたオオカミ族は、金属の床を大きく踏みならして近づいてくるずぼらで大柄なクマ族に済まし顔して答えた。

「…ん、ああ、悪くないぜ? あの態度のでかくていけ好かないデカブツのメカニックめ、言うだけのことはあっていい腕をしてやがる。ただ元のノーマルとの換装に丸一日かかるとか言うのがいささか難ありなんだが…」

「ああ、そのくらいはいいじゃない♡ こっちも仕上がりは上々だったよ、偶然出会った敵の新型も軽くひねってやれたしね!」

「ほう? そいつは興味深いな、つまりはそっちのとおんなじ飛行型だろ? てか、どこも新型だらけだな、この艦の増援も新型機だろう? 俺が戻るのとほぼ一緒に入ってきたヤツら!」

「ああ、そうなんだ。でもそれ、あいにくとぼくはまだ拝めてないんだけど、それにつき新人のパイロットくんたちを知らないかい? どっちも若い犬族くんだって言う?? あ、そういやさっきここでは初めて見る顔の士官さんとすれちがったっけ? やっぱり犬族の???」

 のほほんとした隊長の問いに、それにはさして興味がなさげな副隊長の灰色オオカミはやや首を傾げて応える。

「ん、ああ、そういやいたな? マリウスとかっていう、この艦の副官さんなんだとよ。さっき合流したばっかの新型に便乗して今さらのご登場だ。つうかこれまで何してたんだか…」

「へえ、そうなんだ? 確かぼくらより一個上の階級の中尉さんだったよね? えらく深刻な顔してたけど、さては上司がスカンク族の艦長の部下じゃ犬族としてはそりゃ気が重いのかな。ブリッジじゃガスマスク首から下げてるオペレーターもいるし!」

「ふざけた話だな? だがあっちのはそういうわけじゃないんだろ。およそシャレが通じねえって顔してたからな。あと中尉じゃなくて、大尉だったはずだぜ、やっこさん? つうか階級章の見分けくらいひと目でつくようにしとけよ、大将!!」

「あはは! そうだったっけ? ちっちゃいのにやたらゴチャゴチャしてるからわかりづらいんだよ、あれってば。それはさておき、新顔のアーマーのパイロットくんたち見てないかい? ぼくの部隊に編入だから、さっさと顔合わせしとかないとさ♡」

「ああ…まあ、それっぽいの見たには見たが、なんだかな…」

「?」


 かくして何やらやけに白けたさまで視線をよそへと流す相棒に妙な違和感を感じながら、ふたりのパイロットたちが向かった先を言われたとおりにたどる隊長だ。
 相棒の証言のとおり、ちょっと意外な場所にいた2人組の犬族たちへとゆっくりと近づいていく。

 そこでほけっと立ち尽くす2人の新人パイロットたちは、見ればこの隊長であるじぶんの大型アーマーを格納した特大サイズのハンガーデッキを見上げてひたすらに驚いているようだ。
 ふたりとも目がまん丸で口が半開きだった。
 体型やや太めでやたらにふさふさした長毛の犬族に、もうひとりはすらりとした長身でこざっぱりした短毛の犬族である。

 何事か小声でぼそぼそと言い合っているのに、苦笑いで頭のまあるい耳を澄ます隊長だ。
 するとぼさ髪の犬族がおっかなびっくりに軍の秘密兵器たるギガ・アーマーを見ながら言う。

「す、すごいな、こんなの見たことない…! すっごく大きくて、なんかとってもおっかない…!! おれ、おれこんなの動かす自信ない。まるでそんなイメージが湧かないっ…!」

「ああ、確かにな? つうか、なんでこんなにでかくてグロテスクなんだ? こんなんで空なんか飛べるのか? 俺たち飛行編隊に編入されるんだろ。いったいどんな隊長なんだろうな…??」

「あっ、お、おっかないクマ族なのかな、やだなっ…!!」

 ひどくビクついたさまで身を縮こめる毛むくじゃらに、ちょっと冷めた調子で肩をすくめる相棒だ。
 赴任したてで場慣れしていないのが傍目にもそれとわかる。
 見るからにそわそわしたさまの新人たちは、しまいにはこれって何人乗りなんだろうな?なんて頭をひねり始めるのだった。  

 おやおや…!

 およそ軍人らしからぬ世間知らずな学生さんみたいなありさまにはじめ苦笑いがやまない隊長だ。

 言葉の通りで異様な見てくれをしたまさしく怪物アーマーをおっかなびっくりに見上げたまま、こちらにはまるで気付かないのがおかしくもありどこか心配でもあり…。
 それだからせいぜい当人たちを驚かさないよう穏やかな口調で語りかけてやった。

「ふふん、ひとりだよ♡ 通常サイズの汎用型アーマーと一緒で、きみらのとおんなじだよね! と言うか、ふたりともこんなところで何をしているんだい?」

 不意の登場だ。

 これにふたりの犬族たちはハッとこちらを振り返るなりにすぐさま敬礼!

「え、あ、うわっ、じょ、上官どのに、けっ、敬礼!」

「わわわわわっ!!」

 およそこれが軍属とは思えない大した慌てっぷりに、本当に吹き出してしまうベアランドだ。
 じぶんは軽くだけ敬礼を返して楽にしなよと態度でうながす。

「ふははっ! いやいや、そんなに偉くはありゃしないよ♡ ぼくだって言ったらまだ新人さんなんだから! にしてもきみら、ほんとに若いよな?」

 学生にしか見えないよと冗談まじりで言ってやったら、当人たちは思いの外に神妙な顔で黙り込んでしまう。
 あれ、ひょっとして図星を突いてしまったのか…?とやや複雑な心境になる隊長は、あえてそれ以上は触れないで話を戻した。

「…ん、まあ、みんないろいろあるよね! ところで、このぼくのランタン、もとい、ギガ・アーマーがそんなに珍しいのかい? 見てたらさっきからずっと眺めてるけど??」

「あっ、は、はい! て、た、たたっ、隊長どのでありますか!? うわっ…」

「あ、え、わわわわわっ、ごごご、ごめんなさいっ!!」

 それはそれはひどい慌てっぷりにいっそこっちが恐縮してしまうクマの隊長だ。

「あらら、まいったな。何をそんなにあやまることがあるんだい? ま、確かにこんな見てくれではあるけれど、それでもそっちのアーマーほどじゃありゃしないだろう? ブサイクででかくて強面で! さすがは軍部肝入りの新兵器ってカンジだよね♡」

 いまだおっかなびっくりの新人たちだが、それでも長身の方はまだ性格がしっかりしているらしい。ただちに気を取り直してじぶんよりもずっと背の高い大柄なクマ族に向き合う。
 となりのボサボサはごくりと生唾飲み込んだきりだ。

「失礼しました! えっと、その、ひとりで、でありますか? こんなデカブツ、じゃなくて、大型のアーマー! この機体制御ならびに火器管制その他もろもろを、たったのひとりで…!?」

「ぜっ、絶対に、ムリ…!!」

 騒然となる新人たちにでっかいクマの隊長さんはいやいや!とへっちゃらな顔でのほほんと応える。

「もちろん! ま、確かにこのクラスならメインとサブの副座式、いわゆるタンデム型のコクピットシステムってやつが言わばお決まりのイメージなんだろうけど、それはそれでコンビの熟練度ってものが問われるだろ? あとこのぼくに合わせろってのもなかなかにしんどいみたいだしね、あはは♡」

「はあ…!」

「ひ、ひとりでなんてムリだよ! でもこんなおっかないクマ族の隊長さんと2人乗りなんて、おれ、できる気がしない…」

 絶句したり震え上がったりと見ていて飽きない新人たちだ。  
 おかげで強面のクマさんが思わず破顔してしまう。

「おっかなくなんかないよ、いやだな!」

 こう見えて人懐っこい性格なんだから!とウィンクしてやるに、言われたワンちゃんたちはびっくりしたさまで互いの目を見合わせる。
 どうやらこの見てくれも性格もこれまでには会ったことがないタイプの上官であるらしい。おそらくは群を抜いて。
 よって種族や階級の違いなどおよそお構いなしのクマの少尉どのは、鷹揚なさまでまた続けるのだった。

「ま、ぶっちゃけまだ開発途上の機体だから、これってば。それでもうまいことひとりでやれるようにはなっているんだよ? オートパイロットシステムって擬人化AIやら何やら…ま、きみたちにはわかんないよね!」

 屈託の無い笑みでさも頼れる兄貴然とした隊長に、固かった表情が次第にほぐれてくる新人たちだ。
 ベアランドはよしよしとしたり顔してうなずいてやる。

「まあ、要は慣れだよね! こんなブサイクでいかつい見てくれしてるけど、実に頼れる相棒なんだよ。どのくらい頼れるかは、実際に見てのお楽しみとして♡ それじゃ、次はきみたちのも見せてほしいな、期待の次期主力量産機ってヤツをさ?」

 意味深な目付きをくれてやるに、当のふたりはまた神妙な顔つきして互いの目を見合わせる。
 それきり無言だ。
 その微妙な雰囲気をそれと理解する隊長だった。


「ああ、ま、とにかくよろしくね! ぼくらこれからひとつのチームになるんだから。ん、てことで、隊長のベアランドだよ。きみらのことはすでに戦績表(スコア)をもらってるからある程度は把握してるんだけど…えっと」

 ふたりの犬族たちの顔を見比べるクマ族の隊長は大きくうなずいてしごく納得したさまで続ける。

「そうだな、そっちのモジャモジャくんがコルクで、そっちのノッポくんがケンスだろ! 階級はとりあえず准尉で、実はまだアーマーのパイロットになってから一年も経たないんだっけ? なのに新型機のパイロットだなんてふたりともすごいよなあ!!」

 あっけらかんと言い放ったセリフにしかしながら言われた当人たちはただちに恐縮してすくみ上がる。

「い、いえっ、飛んでもありません! 俺たちそんなに大したもんじゃあ、前の隊長からはお互いに貧乏くじを引かされたって笑われてましたから。こんなアーマーをひとりで任されている少尉どのとは比べるべくもありませんっ…!」

「よ、よろしくお願いします! あの、その、ベア……ド、隊長っ…おれ、一生懸命がんばりますっ、まだ知らないことばかりですけど、ケンスと、一緒にっ…」

 よほどのあがり症なのかぎこちない挨拶をする毛むくじゃらの犬族に、こざっぱりした短毛種の犬族があいづち打ってあらためて自己紹介してくれる。

「今日付でこちらに赴任してまいりしまた、ケンス・ミーヤン准尉であります! あとこっちが…」

「あ、こ、ここ、コルク・ナギであります! あ、あと、じゅっ、准尉でありますっ!!」

「うん、知ってるよ。よろしくね♡ さてと、新型兵器の見学会はもう終わりでいいかい? 今度はそっちの新型くんの紹介をしてほしいんだけど、あいにく長旅で疲れてるだろうから休ませてやれってここの艦長からは言われているんだ。てことで、ここは一時解散かな?」

「は、はいっ…!」


 まだ力が抜けていないふたりを楽しく見てしまうベアランドだが、脳裏にふとある人物の顔がよぎってまた口を開く。

「そうだ、あとでこの艦の中をざっと見て回ろうよ、探検がてら! ぼくもここに来て日が浅かったりするんもだからさ…あ、そっか!」


 何かしら思い出したふうな隊長に、目をぱちくりと見合わせる隊員たちだ。
 新隊長のベアランドはペロリと舌を出して見上げてくる犬族たちにいたずらっぽい笑みで言う。

「そうだった、まずは軍医のおじさん先生に、メディカル・ルームに連れてくるように言われていたんだった! そうさぼくらメンタルやフィジカルのケアも大事な任務の一環だろ? ちょっと口うるさくて力加減のわからないおじちゃんなんだけど、性格は温厚で優しいクマ族の大ベテランだから♡」

「は、はあ…」

「また、クマ族…!」

 さては大柄で屈強な輩が多いクマ族に苦手意識でもあるのか、ボサ髪の犬族が青い顔色でうつむく。
 まるでお構いなしのベアランドは笑ってさっさとこのきびすを返した。

「へーきへーき! 見たカンジはとってもチャーミングなドクターだから♡ 案内してあげるよ。ひょっとしたら二番隊の隊長のシーサーもいるかもしれないし! そこで解散だね」

 それきりさっさと大股で歩き出すマイペースな隊長に緊張でシッポが下がり気味の犬族たちがとぼとぼとくっついていく…!

 かくしてこれが何かと問題ありな第一次・ベアランド小隊、人知れずした結成の瞬間であった。

Part2


 翌日、早朝――。

 まだ人気のまばらな艦の船底のハンガーデッキに、全身が濃緑色のパイロットスーツ姿の大柄なクマ族が、ひとり。

 無言で目の前のハンガーに格納される戦闘用の人型アーマーをただじっと見つめていた。
 その全高が10メートルを軽く超えるアーマーは横並びに二体あり、どちらも同じ見てくれと仕様の同型機に見える。
 かねてよりウワサの新型機だ。

 難しい表情で空中機動戦闘特化型の量産汎用機を見上げていたベアランドは、フッと軽いため息みたいなものをついてはどこか冴えない感じの感想を漏らす。

「あ~ん、何だかなあ…! 見たカンジは悪くはないんだけど、どうにも判断てものがしかねるよねぇ? この新型くん♡ 乗ってる子たちに聞いてもあんまりパッとした反応がなかったし…」

 これの専属パイロットである新人の隊員たちは、経験が浅いのも手伝ってまだ新型機の性能を全ては引き出せていないし、満足に把握も出来ていないらしい。

 おのれのと同様に、試験的な運用から実証まですべて現場任せなのかと呆れてしまう隊長に、申し訳なさそうに身を縮こめるばかりの犬族たちだ。

「ふうむ、やっぱり動いてるところを見るのが一番なのかね? 現行の量産型に乗っていた時はふたりともそれなりにいいスコア(戦績)を出してるから、パイロットにはこれと問題がないとして…おっ!」

 ウワサをすれば影で、口に出していた犬族がふたりしてそろってこの顔を出してくる。タイミングばっちりだ。

 どちらも同郷の言えば幼なじみらしいのだが、それが戦闘のコンビネーションを確実なものとする大きな要因であるならば、なんとも皮肉なことだと内心で思う隊長だった。

 背後で気配を感じたままこれと迎えることもなくのんびりと突っ立っていると、ふたりとも今はすっかり落ち着いたさまでこの両脇にそっと寄り添ってくる。
 視線を上に向けたまま、かわいいもんだなとかすかに口の端で苦笑するベアランドだ。

 ほんとに学生さんじゃないか…!

 あえて詳しくは聞かないが、履歴書にある公称の年齢と実際の年齢に少なからぬ誤差があることをあらためて確信していた。

 チラとそちらに視線を向けてやる。

 すると見てくれの暑苦しい毛むくじゃらの犬族は相変わらず冴えない顔つきで、まだどこか眠たそうだ。
 こんなぼんやりしたカンジで個人のスコアで星(ホシ)を少なからず付けているのがにわかに信じがたい思いの隊長だが、それはこれから確かめてやれると密かな楽しみにもしていた。

 他方、相棒とは打って変わってこの性格しっかりとして見てくれもシュッとしたノッポの犬族くんも、短いパイロット歴ながら撃墜マークのホシはしっかりと獲得していた。
 どちらも実際の年齢を考慮したら驚くべきことだと喉の奥でうなるベアランドだ。この現実の言い知れぬ皮肉さ。

 まだ子供なのにね…!

 そんな隊長の複雑な胸の内も知らないノッポくん、しっかり者のケンスがそこで一息つくとハキハキとした言葉を発した。

「おはようございます! 隊長!! ずいぶんとお早いんですね。出撃までまだだいぶ時間がありますが…?」

「お、おはようございますっ、ベア…あ…隊長っ」

 この相棒に続けてどさくさ紛れで声を発したのはいいものの、歯切れが悪くておまけもごもごと尻切れトンボで終わってしまうボサ髪のコルクだ。
 まだ寝ぼけているのか、隣でケンスがあちゃあ!みたいな顔しているのが見なくてもそれと分かった。

 ははん、書類上の経歴でウソはつけても実際は隠しきれないもんなんだよな♡

 内心でまた苦笑いして目線をそちらにくれるベアランドだ。

「ベアランドだよ♡ そっちこそ、早いじゃないか? 実際の出撃命令が出るのはまだ2時間くらい先だろ。とりあえずこの30分くらい前に集合って、そう言っておいたはずなのにさ」

「あ、その、緊張のせいか、目が冴えちゃって、おれたち…! 今さら寝付けないから、いっそスタッフさんたちの邪魔にならない時間にスタンバっておこうかなって…」

 まず臆病者の毛むくじゃらに言ってやるとこれがすぐさま目を逸らされるのを気にしないでもう片方の相棒に向く。
 ケンスはちょっとバツが悪そうな苦笑いで困ったさまだ。
 まさか隊長さんと鉢合わせするとは思っていなかったらしい。

「そっか、ふたりとも相部屋なんだよな。居心地はどうだい?」

 あえてまた右手の太めの毛むくじゃらに向かって言ってやると、言われた当人はビクっと反応しながらしきりとうなずいてつたない返答を吐き出す。

「は、はいっ、と、とっても快適、ですっ、あんなにきちんとした個室は、生まれてはじめてかもっ、べ、ベアランド、隊長…」

 すかさずこの横から個室じゃなくて相部屋だろ!と訂正されるコルクに苦笑いでうなずく隊長のクマ族だ。
 上官の名前がちゃんと言えてるんだから問題はない。

「うん。そっか、そいつは良かった♡ ふたりとも朝食はこれからだろ? 後でみんなでブリーフィングがてらにどうだい。直前じゃゲップが出ちゃうし、みんなで食べたほうがおいしいよ」

「は、はいっ!」

 見てくれのおっかないクマ族の隊長を前にするとどうしても肩から力が抜けない新人くんたちだが、これから実際の出撃を待っているのだから仕方ないと了解する。
 いざひとたびこの船を飛び立てば、そこはまさしく命がけの戦場だ。

「まあ、それはさておき、いい機体、なんだよね…? この面構えはぼくのランタンなんかよりずっと男前だし! まあ、いろいろとビミョーなうわさが飛び交ってる実験機ではあるけれど…次期主力機候補ってのがかなり眉唾(まゆつば)、みたいなさ?」

「…!」

 若くして軍に入隊して(させられて?)まだ右も左もわからないだろう新兵が、それでもうわさばなしくらいはその耳にすることはあるのだろう。
 昨日の少ない会話の中では、ちょっと前まで指揮を執っていた中尉どのはとても部下思いのいいおやじさんだったらしい。
 だったらなおさらだとここはちゅうちょ無くものを言ってやる新隊長だ。

「ちなみに知ってるかい? これって本来はもっとずっと別のところで使うために開発された機体の言わば雛形(ひながた)みたいなもんで、あくまでテストケースに位置づけられるものなんだって? まあ、ホントかどうかはさておいて…」

 振り返って見たふたりの新隊員の内、向かって左のぽっちゃりがうつむくのに対して反対側のほっそりが反射的に何もないはずの天井を見上げたのをそれと確認して、なるほどとうなずく。

 前任者はほんとにいい隊長さんだったんだね♡

「このビーグルⅥ(シックス)は戦場では希な機体でとどまるんだろうけど、だからって見下げたもんじゃありゃしないさ。なんたって軍の技術の粋を集めた機体なんだから! そうだろ?」

「はい…!」

 これにはふたりともしっかりとうなずくのに心配しなくていいよとこちらも力強くうなずく。

「これの本チャンがいわゆるビーグルⅦ(セブン)で、もしそっちに乗る機会があったらむしろラッキーじゃないか。ここでの経験をまんまフィードバックできるし、より負荷がかかる重力大気圏内での運用経験はそれはとんでもないアドバンテージだよ♡ どこでだってきっと互角以上に戦えるから…!」

 言っていること果たして理解できているのかできていないのか、冴えない表情を見合わせる新人たちにともあれで明るく笑うベアランドだ。

「ま、じきにわかるさ! それよりも本来の主力機を手に入れるのが先かな? ちょっと前にそれに近いのと偶然に会敵したんだけど、なかなかいいカンジだったよ。これにはだいぶ手こずったみたいだけど、その分に楽に扱えるよ、きみたちなら…」

 いよいよ顔つきが困り果てるばかりの部下たちに上官のクマ族も思わずこの苦笑いを強める。

「はは、いきなりあれやこれや言われても処理しきれないか! ま、今はとにかく目の前のことに集中すればいいよ。…ん、あっと、またお客さんだね♡」

「…!」

 頭のまん丸い耳を左右ともピクピクさせるベアランドが目でそれと示す先に、犬族たちもそこに新たな気配と足音がするのを察知する。
 また別の方向から軽やかなステップで走り寄ってくる細身のスタッフらしきを怪訝に見つめるのだった。

 その格好からしたら若いメカニックマンらしきは、三人の目の前でぴたりと立ち止まると即座に敬礼する。
 それからハキハキした口調で挨拶を発するのにはビビリの毛むくじゃら、コルクがシッポを立たせて後ずさりした。

「おはようございます! みなさんもうおそろいでしたか、こんなに朝早いのに!」

「ああ、まあね! いざこの船が戦闘空域に突入したらみんなでバタバタするから、落ち着いてやるにはこのくらいからでないとさ。いう言うリドルも早いじゃないか、てか、この新型は受け持ちじゃないよね?」

 事実上、じぶんのアーマーの専属メカニックとしてこの艦に乗り込んでいる若いクマ族に聞くと、それにはまっすぐにまじめな応えを返す根っからの機械小僧だ。

「はい! ですがじぶんもやはり興味がありましたので。スタッフさんが取り付く前にこっそりのぞいてみようと…! あはは、でもまさかこのパイロットの方達に会えるとは思いませんでした! スーツが違うからひと目でわかりますね?」

「ああ、確かにね! ふたりともここじゃ他にいないタイプの新型のパイロットスーツだ。色も全然違うし? でもそれもいろいろと難ありなんだよね?」

 しげしげと頭から足下を見回す隊長に、ふたりのクマ族に見つめられる部下たちはちょっと困惑したさまでうなずく。
 毛むくじゃらはなおのこと深くうつむいてしまった。

「はあ、まあ、おれたちみたいな犬族にはほんとにありがた迷惑な機能ですよね。スーツにトイレの機能を搭載しちまうなんて。みんな嫌がっておれたちみたいな新人に回されてきたようなもんだから、正直、使う気になれないですよ…!」

 げんなりしたケンスの言葉に、おなじくげんなり顔のコルクがひたすらうんうんとうなずく。
 苦笑いでしか答えてやれないベアランドは吹き出し加減だ。

「ふふっ、ニオイの問題は当然クリアしてるんだろ? アーマーにだって簡易式のそれはあるんだから、いらないっちゃあいらないんだけど、さては用を足すヒマも惜しんで戦えってことなのかね? ひどいはなしだよ!」

 冗談ごととじゃないですよとうんざり顔の犬族たちにそのうちに新しいスーツが支給されるよと気休めを言って、ベアランドはリドルを目で示して紹介する。

「丁度よかった、ふたりともこの子、ぼくの専属のメカニックははじめてだろ? リドルだよ。ぼとくおんなじでクマ族の男の子! あと、見ての通りで若いんだけど、たぶんきみらとおんなじくらいじゃないのかな? よろしくしてやってよ♡」

「はいっ、リドル・アーガイル伍長であります! ベアランド隊のチーフメカニックを主たる任務としておりますが、特に新型の少尉どの専用のアーマーを任されております。以後、よろしくお願いします!!」


 言いざままたもやびしっときれいな敬礼するのに、ふたりの若い犬族たちもこれに慌てて敬礼を返す。

「ケンス・ミーヤンであります! どうぞよろしく!」

「ああっ、こ、コルク、ナギであります! じゅ、准尉ですっ」

「あはは、なんだかとっても人柄の良さそうな隊員さんたちですね? 実はもっとおっかないひとたちを想像していたんですけど、良かったです!」

 朗らかな笑みで胸をなでおろすリドルに、ベアランドは肩を揺らして合点する。


「ははは! でもこう見えてもふたりともとっても優秀なんだよ? ちゃんと星も持ってるし、こうして新型機を任されるくらいなんだから! ま、リドルもアーマーの操縦はできるし、ホシだって持ってるんだからどっこいどっこいなんだけど!!」

 豪快に笑ってぬかした隊長のセリフに、だがこれを聞かされる周りの犬族たちがただちに色めき立った。
 ギョッとした顔で目の前に立つ若いメカニックマンをひたすら凝視してしまう。

「は、はいっ? このメカニックマンどの、撃墜マークを獲得しているのでありますか?? おれたちと同じ戦場で!??」

「え、え、ええっ、なんで?? メカニックなのに…???」

 ひどい困惑とともにジロジロと見つめられて、当の細身のクマ族の青年はこちらもひどい当惑顔でこの身をすくませる。

「あ、いえ、その…! ベアランドさん、そのはなしは無しでお願いします。このぼくも欲しくて獲ったものではないので…」

「?????」

 なおさらギョッとなる犬族たちに苦い笑いを向けて曖昧に肩をすくめる隊長だ。あらためて三人に向けて言ってやった。

「はは、まあ、いろいろあるんだよね、人生! それはさておき、朝食にしようか。みんなそろったんだから丁度いいや。リドルはこの機体がお目当てなんだろうけど、パイロットの生の意見や感想を聞くのもきっとためにはなるだろう?」

「あ、はい! それはぜひとも。よろしいでしょうか?」

 いかにもひとのよさげであどけない表情のクマ族のメカニックマンの言葉に、こちらもまだあどけなさが残る犬族の新人パイロットたちが目を見合わせる。頭の中は大パニックだ。
 もはやうなずくより他になかった。

「ようし、それじゃあみんなでレッツ・ゴー!! まだ出撃までには時間があるからたらふく食べようよ、あといろいろと楽しいミーティングもね? 聞きたいこといろいろあるんだ♡」

 これよりおよそ二時間後、ベアランド小隊は初出撃することとなる…! 




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ルマニア戦記/Lumania War Record #010

#010

「寄せキャラ」登場!

 ※「寄せキャラ」…実在の人物、多くはお笑い芸人さんなどのタレントさんをモデルにした、なのにまったく似ていないキャラクター群の総称。主役のメインキャラがオリジナルデザインなのに対しての、こちらはモデルありきのキャラクターたちです。
 似てない部分をどうにかキャラでごまかすべく、もとい、ノリで乗り切るべくみんなでがんばっています(^o^)

 「新メカ」も登場!

Part1

 空はどこまでも澄んで、穏やかだった。

 眼下に広がる海も、見渡す限りが青く穏やかに見える。

 その最果ての水平線が、空と交わる先でゆるいカーブを描いているのをそれと実感。ここがおよそ戦場とは思えないほどに、今は全てが静かに落ち着き払っていた。

 かくしてそんなのんびりとした雰囲気に釣られて、軽い鼻歌交じりに周囲の景色、ぐるりとみずからを取りまく大小のモニターを見回す犬族のパイロットだ。
 それはご機嫌なノリで意味も無く手元のコンソールパネルのスイッチをガチャガチャといじくり回す。

「ふーん、ふっふ、ふんふん、ふんのふんのふんっと…!」

 まったく意味のない動作の連続で、無意味な操作音がピッピとコクピット内に鳴り響く。シートベルトでがっちりと固定されたシートの背後から、細長いシッポの先がブンブンと振れていた。

 本当にご機嫌なさまだ。

 あんまり調子に乗って機体の推進制御レバーにも手が触れたらしい。微速前進で空中に安定していたはずの機体が突如、ビクッと姿勢を崩すのに、ちょっと慌てたさまで両手をレバーに戻して機体の水平を保つ。

 苦笑いでぺろりと赤い舌を出すビーグル種の犬族だ。

「おっと、あかんあかん! 調子に乗ってもうた。これからガチの戦闘やのに!!」

 ピッと不意に短い電子音が鳴って、同僚の機体からの通信、茶々が入った。すぐ斜め後ろをおなじく微速前進で追従する相棒の犬族のパイロットの、これまた調子のいいツッコミだ。

「どしたん? ずいぶんとご機嫌やけど、なんかええことあったんか? これからバトルやのに?? 浮かれとる場合ちゃうやろ」

「ああっ、せや、せやけどいいカンジやろ? これのどこが戦争なんだかわからへんぐらいに平和になっとるやん! ほな鼻歌のひとつも出てまうわ」

「今だけやろ? よそのエリアじゃもうバリバリ戦闘に入っとるらしいで。なんや新型の空飛ぶ戦艦が入ってきもうて、ごっついアーマーも投入されとるらしいやん!」

「せやな。この万年戦闘水域の中心、本島のロックスランドをあっさり一日で落としたんやったっけ? あないに苦労して占領したのにムカつくわあ! ほんまにどついたろか」

 苦笑いがさらに強くなる犬族、モーリィは正面のモニターの中で小さく区切られた窓の中の相棒に、皮肉っぽくみずからの右のほほのキバをニィッとむいてみせる。

 おなじく苦笑いの相棒、こちらもまだ若いのだろう毛足の長い特徴的な顔つきをした犬族のリーンは、茶目っ気のある笑みで返す。

「好きにしたらええやろ! それよかそろそろみたいやんな? 早速レーダーにひとつそれっぽい反応が入ってきとるやろ?」

「さよか! ほな、ぼちぼちいったろか!」
 

 ビピッ、ピッピッピッピ!

 正面から右手のモニターにバストアップの映像が移った相棒が言った通り、自機のアーマーのレーダーサイトに反応がひとつ引っかかったことが、今しもアラームの警告音(ビープ)で知らされる。

 こちらよりまたさらに上空の空におかしな反応がひとつ。

 正面のモニターに映し出されたその映像にみずからの突き出た鼻先をひくひくとひくつかせる犬族だ。はてと小首を傾げながら、怪訝なさまで独り言めいた言葉をつぶやく。

「あれぇ、なんやようわからんヤツがおるわあ? なんやあれ、やけにいかつい見てくれしとるけど、あんなんこっちのデータベースに載っておらへんやん? アンノウンやて!」

「みたいやんなあ? こっちもおんなじ、ノーデータや! 現在、諸元とこの想定される性能を解析中……あ、そやから詳しう解析するためにようモニターしてくれっちゅうとるぞ?」

「知らんわ! そんなのこっちの知ったこっちゃあらへん。なんで命がけの戦闘しとる最中にそないなことせなあかんねん! わしらまだ予備軍扱いで、正規には採用されとらへんのやさかい」

「そやんなあ、それがいきなりあないな新型の敵さんと会敵なんて、しんどいわあ! どないする? ま、アーマーがピッカピカの新型なんはこっちも一緒なんやがのう」

「はん、新型っちゅうてもこないなもんは実験段階の開発途上機やん。そやからわしらみたいなペーペーでも任されとるんやし、それやのにあっちはやけにいかつない? もうちょいズームで、うお、でかっ! めっちゃごっついやん!! なにあれぇ?」

「うわ、なんかきしょない? なんであないなでかいもんが平気で空飛んでんねん? わいらのアーマーのサイズの優に倍はありよるで? ほんまに何で飛んでんのや、ローターエンジン付いとるか? ジェットドライブやったら燃費悪すぎやろ!」

「なんか、飛んでるゆうよりも空に浮いてるカンジせえへん? マジできしょいわ、わけわからへん。マジでどないしょ」

「逃げるわけにもいかへんもんなあ? 仮にも新型機で出撃しといて。この「ドラゴンフライ」の性能も見とかなあかんやろ? なんか大人とこどもくらいも機体に体格差あるんやけど」

「ドラゴンフライて、トンボやったっけ? あっちからしたらこないなチャチな機体、まさしく「かとんぼ」にしか見えへんのちゃうか、まともな足もついとらへん中途半端なもんは? 足っちゅうか、こんなんただのほっそいほっそい棒やん!!」

「空飛ぶんには足なんてあっても邪魔なだけなんやろ? 空中じゃ歩かれへんのやさかい、そやったらそないなもんは、ないほうが身軽になって飛びやすいっちゅうわけで!」

「言いようやんな! まあええわ、よっしゃ、それじゃその身軽なん使こうてふたりで一発かましたろか! あっちはあんなんやから素早くなんか動かれへんのやろ? 見てくれおっかないだけで図体でかいだけのでくの坊や。ははん、だったら楽勝やん!」

 息の合った掛け合いで漫才みたいなやり取りを一息に決めて、モニターの中の敵影にこれと視線を定める犬族のモーリーだ。
 自分がリーダーだとばかりに盛んに意気を吐くが、これにちゃっかりしたお調子者らしい相方が、それはそれは好き勝手な言いようほざいてくれる。

「ふたりっちゅうか、まずはひとりでいっときぃ、じぶんが! そのあいだにこっちでしっかりモニターしとるさかい、存分にその新型の力を試してみぃ! そしたらついでにそれもモニターしたるから、なんや、これってまさに一挙両得やんな?」

「は? いやいやいや! 何を勝手を言うとんねん?」

 まるでひとを使いっ走りみたいにそそのかしてくれるのに慌てて抗議するのだが、相手はまるで聞く耳を持たない。

「ないないっ、あんないかついもんに単機で突っ込むなんて自殺行為やろ! ふたりで挟み撃ちするくらいでないと無理やて、わしひとりでまんまと返り討ちにあったらどないすんねん?」

「そん時はさっさとトンボ帰りやわ! ほなさいなら!!って、ドラゴンフライなだけに? うまいこと言うたやろ? ほな、まずはひとりでいっときぃ、遠慮せんでええから、ほら、あちらさんもあないに手持ち無沙汰なままでじぶんのこと待っとるでえ? せやから今がチャンスやて!!」

「なんのチャンスやねん? あほちゃうか?? むりむり、あかんあかん! 死んでまうて、見れば見るほど、まともちゃうやんか! あないなグロいバケモン……あ!」

「あ、感づかれたんちゃうんか? じぶんがさっさと行かへんさかい、とうとうあちらからご指名がかかったんやな。ほな、ひとりでいっときぃ」


「なんでやねん!! おおい、マジで来よったで! 完全にロックオンされとるがな! あほなこと言うとらんでさっさと応戦や! 漫才ちゃうんやからつまらんボケは通用せんで、うお、マジでごっついやん!! シャレにならんて!!」

「しんどいわあ~、じぶんほんまに手の掛かる子やんなぁ? しゃあない、後ろから援護したるさかい、前衛はまかせたで!」

「なんでやねん!!」

 コクピット内にやかましい警告音が鳴り響く。
 それを戦いのゴングと了解して、ただちみにみずからの正面の操縦桿を握りしめるビーグルだ。モニターの向こうの相棒に目配せして、ガチの戦闘に入ることを互いに確認!

 二機の新型機がおのおの左右に分かれて旋回上昇軌道に入る。

 未知の敵との遭遇。

 かくして息つくヒマもない銃弾とビームの応酬が前衛芸術さながら、青一色の空のキャンバスにくっきりと描き出される。

 「戦争」がはじまった。


Part2
 主人公登場!!

 主役のクマキャラ、若いクマ族のパイロットのベアランドです。初代から数えてこれでテイク4くらいですね!

若いメカニックマンの男の子、リドルははじめの見てくれがかなり雑だったので、下のキャラに顔だけリテイクしています。
 作者的にはそれなりにお気に入りです♡

 Part2

 今はまだ、静かな世界だ。

 空も、海も、果てしなく青く、ひたすらに広がるばかり。

 ここは大陸からはかなり離れた沖合の海洋だ。
 本来ならどこの国にも属さない中立の公海水域なのだが、今やそこは広範囲にわたって敵味方が入り乱れる戦場と化していた。

 元は岩山ばかりが目立つ小さな小島と、その周りをぐるりと取り囲む形で配置された、人工の島々、ギガ・フロート・プラットフォームで形成された、世に言うルマニアの『拡大領域』だ。

 端的に言ってしまえば、海に浮かべた正方形や長方形の巨大なプラットホーム、ギガ・フロート上にそれぞれ任意の構造物を建造した前線基地とその周辺施設群なのだが、今やこの半分が敵方の手に落ちているというのがその実のところである。

 いざ無理矢理に領有権を主張したところで、本国から遠く離れた離れ小島は、地続きでないだけに援護や補給がままならない。

 大陸西岸の属州の港湾で補給を終えて、すぐさまこの混乱した戦線に加勢した巨大な空飛ぶ船艦のはたらきで、この中枢の小島の要塞は見事に奪還したものの、これを中心に西と東で支配権が分かれるフロートの各施設をただちに攻略および守護!

 そこかしこに潜伏する敵を掃討するのがみずからの役目である若きクマ族のエースパイロットは、周囲の青一色の景色ばかりを映し出すモニターに視線を流しながら、何気なくしたひとりごとを口にする。


「う~ん、こうして見てみるに、どこにもこれと言った戦艦らしき影が見当たらないなあ……! でっかいのがこれっぽっちも。友軍もそうだし、敵軍の戦艦、潜水艦なのかな、どこにもそれらしい気配がないんだよねぇ。頼みのレーダーはどれもさっぱり無反応だし。どうしたもんだか……」

「はい? 戦艦、でありますか? 友軍となると、ジーロ・ザットン将軍のものでありましょうか? 確かどちらかのフロートに付けているらしいとは聞いておりますが? それと少尉どの、こちらのトライ・アゲインとおなじで、最新鋭の航空型巡洋艦だったと記憶しておりますが……」

 今は離れた母艦からの応答、通信機越しの見知ったメカニックマンからの返事に、ちょっと小首をかしげてまたこれに応じる。

「まあね? この戦域の指揮を任されてるトップの指揮官なんだから、もっと目立つところに陣取っていてほしいんだけど、切れ者で何考えてるかわからないところがあるからさ、あのおじさん♡ ぶっちゃけ悪いウワサもバンバン飛び交ってるからね! いざとなったら手段を選ばない、冷血艦長の悪党ジーロって!!」

「あはは、そうなのでありますか? 恐れ多くてじぶんの口からは何とも。ですがあちらも目立つ最新の大型戦艦なのですから、よほど高空を飛んでいない限りは目で視認ができないだなんてこともないものだと思われます。かろうじてレーダーの目はごまかせたとしても?」


「うん、ぼくもそんなにお間抜けさんではないからね? まさか海の中に潜っているだなんてことはないはずだから、やっぱり巧妙に隠れているんだよね。となると、あやしいのはいっそあの本島のロックスランドの入り組んだ岩礁地帯か、もしくは……!」

 やや考えあぐねるクマの少尉どのがそう言いかけたさなか、不意にピピピッ!と甲高い警告音がコクピット内に鳴り響く。

 レーダーに反応あり! つまりは敵と遭遇したことを示すものだった。これに通信機の向こうで息をのんだ気配があり、ちょっと緊張したさまの若いクマ族のメカニックマンの声がする。

 今現在、自機がいるのがわりかし高空なのと、周囲に敵影がなかったので妨害電波らしきもないらしく、遠くの母艦で留守番している若いクマ族のハイトーンな声色がきれいに聞こえていた。

「反応、ありましたか? はい、こちらでも確認しました! ギガ・アーマー、二機の模様です。状況からして少尉どのとおなじ飛行型タイプでありますね。あれ、でもこれって……」

 まだ実験開発段階の都合、こちらの機体状況をつぶさにリアルタイムでモニターしている機械小僧のちょっと戸惑ったさまに、釣られて苦笑いのベアランドも太い首をうなずかせてまた言う。

「うん。ノーデータ。『アンノウン』だって! いきなり未確認の機体と遭遇しちゃったよ! いわゆる新型機ってヤツだよね。まいったな、てか、新型で正体不明なのはこっちもおんなじなのかな? あれって見たところどちらも同型の機体だよね、なんかえらい見てくれしてるけど……!」

「えらい見てくれ、でありますか? こちらでは画像の解析がまだできていないのでわかりませんが、飛行タイプのアーマーならば比較的小型、軽量級なのでありましょうか??」

 メカニックマンの推測に小首をかしげて目の前のモニターをのぞき込むクマのパイロットは、何やらあいまいな返答だ。

「う~ん、そのどちらもだね! なんか中途半端な見てくれしてるよ。やけに? なんなんだろ、ボディと飛行ユニット、あれってロータードライブなのかな、今流行(はやり)のさ? そこだけそれなりしっかりしているんだけど、それ以外の手足がオマケみたいな感じでくっついてるよ。脚なんかあれってばただの『棒』なんじゃないのかな??」

「はい? 棒、でありますか?? いやはや、まったくわかりません。少尉どのっ、新型機ならばなるべくこの性能と仕様をモニターするべきなのでしょうが、随伴するサポートの機体がいない今の状況ではいささか難しいものがあります。こちらでなるべく解析トレースしますので、無理のない機体運用をお願いします。そのバンブギン、いえ、ランタンもこの性能試験の真っ最中でありますので!」

「わかってるよ! とにかくいざ会敵したからには真っ向からやり合わなけりゃならないんだから、おのずとデータも入ってくるさ! 相手がひ弱な見た目だからって、遠目からビームの一発で終わらせようだなんて横着はしないから。それじゃこの子の運用データもろくすっぽ取れないしね?」


「了解! 敵影、どちらも動きに変化ありませんが、こちらには気づいているものと思われます。いかがいたしますか?」

「どうするって、こちらから仕掛けるしかないんだろう、この場合は? さいわいあちらさんの頭上を押さえているからやりやすいよ♡ それじゃあ行ってみようか、そうれっ……!!」

 言うなり躊躇なく手元の操縦桿を思い切りに押し倒す少尉どのだ。それによりアーマーとしてはかなり大型なみずからの機体が頭から前のめりに空中をダイブ! こちらよりは低空を飛んでいる二機の敵機めがけて一気に突撃する体勢に入る。

 戦いがはじまった。

 さすがに空中での格闘戦はまだ慣れていないので、機体に装備されたビームカノンを相手めがけて一斉射!!

 この頭上からの不意の攻撃にあって、相手機はどちらも泡を食った感じでひょろひょろっとそれぞれが回避機動に入る。
 ほんとうにひ弱なカトンボみたいなありさまだった。
 ちょっと拍子抜けしたクマのパイロットは、目をまん丸くしてそんな相手のありさまをしげしげと見入る。


「なんだい、あんまり統制が取れてない感じだな、どっちも? ひょっとしてまだペーペーの新人くんだったりして?? あんまり攻め気を感じないんだけど、ちょっとおどしたらあっさりと逃げ出したりするのかな……? まあいいや、とにかくやることやるだけだよね!」

 そんな考えているさなかにも、頭上のスピーカーからはすかさずに若いメカニックマンによるのサポートが入る。

「少尉どのっ、敵機、二手に分かれました! さては挟み撃ちするつもりなのでしょうか? ですがそのランタンに装備されたカノンはほぼ全ての方位に向けて射撃が可能なので、どうか落ち着いて対処願います!!」


「はいはいっ、わかってるよ! 誰に言っているんだい? 余計な茶々は入れないでいいから、黙って相手のモニターに専念しておいでよ。こっちは心配ご無用! ぼくとこのランタンにお任せだね!! とにかく慣れるだけ慣れないと、相手がガンガン攻め込むタイプじゃないみたいだから、まずは距離を取っての打ち合いに専念するよ。両手のハンドカノンの威力をできるだけ発揮させるから、そっちもちゃんとモニターしておいておくれよ!」

「了解!!」

 自機の周りをぐるりと取り囲んで、互いに一定の距離を置いたまま時計回りに旋回する二機のアーマーに、対して機体の両腕に装備されたハンドカノンをぬかりなく構えて冷静に狙いを定めるベアランドだ。

 相手はやはり警戒しているものらしく、あちらからはいまだ仕掛けてくる様子がない。通常のそれよりも大型で、異様な見てくれしたこちらのさまに多少なりとも動揺しているのかもしれないと思うクマの少尉どのだ。さてはまんまと萎縮している感じか。

「ああん、やっぱりやる気が感じられないなあ? そうかい、だったらこっちからガンガン攻めさせてもらうよっ!!」

 2対1と数では劣勢だが、決してこの分は悪くないとみずからの腕前と機体の性能にそれなりの自負がある大柄なクマ族は、ペロリと舌なめずりして自分から見て右手にあるモニターの中の機体にこの意識を集中する。

 まずは一機ずつ、着実に対処するつもりで利き手のレバーのトリガーをゆっくりと引き絞った。
 直後、赤い複数の閃光弾が青空にまっすぐの軌跡を描いて走り抜ける! その先には標的となった見慣れない灰色のアーマーが、複雑な軌道を描いてこちらもただちに回避機動に転じる。
 ひとの手に追い立てられる、それこそ虫の蚊もさながらにだ。

 全弾回避! ハズレだった。

 それなりに狙いを定めたつもりのクマの少尉は、チッと小さな舌打ちして見かけ通りの身軽な機体を恨めしげに見やる。
 運動性能はかなりのものらしい。やはりそんなに簡単にはいかないかと、どこか余裕ぶっていた気持ちをグッと引き締めた。

※以下、挿絵の作製の段階ごとに更新したものをのっけていきます(^^) これまでは随時に画像を差し替えていたのですが、試しにですね♡

 もとの雑な構図の下書きに、もうちょっと具体的なイメージを書き込みました。でもまだまだざっくりしてますね!

 さらに描き込み♡ ちょっとわかるようになってきたでしょうか? これをさらに具体的に描き込みできればいいのですが、最終的な着地点は決まっていまいちびみょーなところに収まるのがシロートの悲しい性です(^_^;)

 とりあえず下絵は完了? 色まで付けられるかはビミョーです。べた塗りくらいはできるのか?? 色つけの課程も随時に公開していく予定です。ちなみに作画の課程はツイキャスとかで無音で公開していたりするので、興味がありましたら♡

 主役のクマキャラ、ベアランドだけベタ塗りで色を付けてみました(^^) 余裕があったらもうちょっと加工してそれっぽくしてみたいのですが、かなりビミョー、たぶん単純なベタ塗りでおわってしまいそうです。ちなみにインスタライブでやりました♡

 全体べた塗りしました(^^) これで合っているのかどうか作者ながらにビミョーです(^_^;) これより先に加工するかはまだ未定ですね…!


 他方、ベアランドからの猛攻に追い立てられる哀れなカトンボの立場のアーマーパイロット、見た目はとかくメジャーな犬種の犬族のモーリィは、悲鳴を上げてジタバタわめきまくる。
 狭いコクピット内に警告音と鳴き声がやかましく交錯する。
 端から見たらばまったく訳がわからないありさまだった。

「おわわわわっ、あかんあかんあかんあかん! なんでそないにぎょうさんビームばっか撃ちまくってくんねん!? しかもこのわしにだけ!! 不公平やろっ、あほんだら! あっちの相方のほうにも何発か見舞ったれや!!」

「なんでやねんっ! そっちでなんとかしいや!!」

 モニターの真ん中にでんと居座るでかい機体に向けて思わず口走ったがなり文句に、相棒の犬族からすかさず苦笑い気味のガヤが入る。
 現在、大型の敵のアーマーを挟んで対極に位置するこちらと同型のアーマーは、ひとりだけ我関せずのひょうひょうとしたありさまでのんきに空を飛んでいるのを苦々しげににらみつけるビーグルだ。ひん曲がった口元からうなり声がもれた。

「うぬうううっ、そやったらちょっとはじぶんも援護しいや! なんでわしだけこんないにガンガン派手にビーム当てられやならへんのや!? まだ当たってへんけど!! でもこないにきつうやられたら反撃もままならへんやろ!! おわあっ!?」

 言っているさなかにも、相手からは盛大なビームのシャワーがひっきりなしにこれでもかと送られてくる。とんでもない大出力のハイパワーエンジンを搭載していることをまざまざと見せつけられる思いの犬族だった。

 通信機越しの相棒がまたもや驚きのガヤを発する。
 いたってのんきな言いようがこれまたしゃくに障るビーグルだ。

「あちゃちゃ、マジでシャレにならへんのちゃう? こっちの射程圏内の外からでも余裕のパワーがありそうやん! おまけに三発四発、同時に見舞ってきよるもんなあ!? あんなんじぶんようよけきれとるわ!!」

「感心しとる場合ちゃう! マジで蜂の巣にされてまうやん!! どないしょっ、ちゅうか、じぶんも相手の背後(バック)取ってるんやから反撃せいや!! なんでわしだけひとりでこないないかついバケモンの相手をさせられにゃならんねん!!?」

 もっともな訴えに、仲間の犬族はやはりしれっとしたさまで応じてくれる。もはやかなりすっとぼけたものの言いようでだ。

「無理やろ。あいにくこっちの射程圏内の外っかわに敵さんおるんやから? 撃っても届かへんて。危なくて近寄れへんやろ。新品のアーマーを傷だらけにしてもうたら怒られそうやしなあ!」

「何言うとんねん! 戦争やぞ、ガチの!! ちゅうても確かにあぶのうて近寄れへんか! このアーマーの装備じゃミドルレンジのハンドガンがせいぜいやけど、あっちはバリバリ、ロングレンジのキャノンの威力かましてるやん! マジ反則やて!!」

 今や逃げ惑うばかりのまさしくカトンボのアーマーだ。
 味方からのまともな援護も望めないままに、絶望的な逃避行を続けている。敗色は濃厚だ。それを見て全てを悟ったかのごとく、相棒の犬族がしれっと問うてくる。

「どないする? さっさとシッポ巻いて逃げてまうか? 敵さんどんくさい見た目しとるし、スピードやったらこっちが上みたいやんか、そやったらいくらか援護したるで??」

「マジか!? じぶんすごいな!! そういうところ、ほんまに尊敬してまうわ!! でも一発も見舞わないまんまに逃げ出すんいうんはあかんやろ? 取り上げられてまうで、この新品の新型アーマー! どれだけ使いもんになるかわからへんのやけど?」

「じゃあ、やれるだけやってもうて、さっさとバックれんのがええんちゃうか? 射程圏外からでも無駄ダマ、バリバリ撃ってまうノリで? あちらさんはそれほど本気な感じがせえへんから、いざ背中見せて逃げ出しても追っかけてこうへんのちゃう??」

 もはや身もフタもない言いようにしまいにはうんざりするモーリィだが、内心ではそれが正解かと判じてもいるらしい。

「納得いかへんわあ、理不尽ここにきわまれりっちゅう感じやん? いざ新型で出撃したら、あないにわけのわからへん新型に鉢合わせするなんちゅうんは! なんかわしだけ目の敵にしとるし!!」


 完全にさじを投げた調子の相棒の意見にいやいやで同調する、こちらもまだ新人のパイロットだ。機転と経験で現状を打開するよりも逃げるが勝ちと相手機との距離を取ることに専念する。

 攻撃はもはや二の次だ。

 かろうじて敵の背後を取っている相棒の機体が形ばかりの援護射撃をくれたらば、それを合図に即座にこの場をとんずらするべく、前屈みでモニターの中の大型の緑色した機体を注視する。

 対してこれを迎え撃つクマ族の若いエースパイロットは、数で勝るはずの相手がそのくせ逃げ腰なのをはっきりと見て取って、とうとう呆れたさまの物言いだ。

「あらら、これじゃ勝負にならないね? 相手さん、完全にやる気がありゃしないよ、逃げてばっかりでろくすっぽ撃ってこないもん! こんなんじゃ敵のアーマーのモニターどころかこっちの性能試験もままならないや。どうしたもんだか……」

 乗り気がしないさまではたと考えあぐねるのに、こちらも若いクマ族のメカニックがスピーカー越しにもそれとわかる、いささか戸惑い加減で言ってくれる。

「少尉どの! あまり戦いを長引かせればこちらの機体の機密を敵軍に無駄にさらすことにもなりかねません。距離を置いての戦いはこちらも得意とするところではありますが、できるなら一気に間を詰めての早期の決着を考えたほうがよいのでは? 片方が墜ちればもう片方には逃げられる可能性が高いのですが…!」

「ああ、まあそれは仕方がないよ。ぼくもホシを稼ぐばかりが能ではないからね! この機体は確かに万能で性能が高いけど、だからって殺戮兵器じゃないんだから…!! これってただのきれい事かな? ま、それじゃ、見ててごらん!」

 どうやら何事か決意したさまで左手のモニターの中のメカニックマンにチラリとだけ目配せすると、いざ正面に向き直って高く意気を発するクマ族だ。

「さあてお立ち会いっ、初見の相手はみんなこぞって度肝を抜かれること受け合いだよ! このランタンの攻撃パターンの多彩さをぞんぶんに思い知らせてやるさ、それじゃ狙いをしっかりと定めまして……ん、いくぞ!!」

 モニターのど真ん中に捉えたくだんの敵アーマーにしっかりとロックオンしたことを確認するなり、そこにまっすぐに突き出したみずからのアーマーの右手と、すかさず怒号を発して利き手のトリガーを思いっ切りに引き絞る!!

「食らえっ、ロケットパアアアアアアアアーーーンチ!!!」


 かくして戦場は大混乱の様相を呈するのだった。

 相手のひっきりなしのビーム攻撃からほうほうの体で逃げ回る犬族だが、不意に何かしらの嫌な気配を察するなり、コクピット内に鳴り響く警告音にびっくりしてこの背後を振り返る。

 バックに配置された中型のモニターには少し距離を置いてこちらを追いかける大型の飛行アーマーが、そこでなにやらしでかしているのを激しいライトの明滅とともに知らせてくれる。

 ビームではない、何かが急接近しているのがわかった。

 かくしてそれが相手の腕から繰り出された、それはそれはどでかいゲンコツのグーパンチ、まさしく『ロケット・パンチ』だと見て取るや、この全身がひいいっと総毛立つビーグルだ。

「ななななっ、なんそれ!? うそやろっ、あかんやつやん!! マンガちゃうんやから、ロケット・パンチなんて反則過ぎるやろ!!」


 まっすぐにこちらめがけて飛んでくるでかい右手首、巨大な鋼鉄のカタマリに恐れおののくモーリィは、必死にペダルを踏み込んで機体を急旋回させる。追尾式だったらアウトだが、そこまでマンガではないことを心の底から願った。スピーカーからさすがにこちらもちょっと慌てたさまの相棒の声がする。

「なんや、そないなビックリ機能があったんかいな! ドッキリやん! 離れてて正解やったわ!! でもうまいことよけられたみたいやで? あっさり通り過ぎてるやんか、おまけにカウンターのチャンスやったりして!!」

「簡単にいうなや! でもそやったらこのスキに一発食らわしたるわ! じぶんもよう援護せいよっ、ん、なんやっ、あわわわわわわわわわわわっ!?」

 ぐるりと機体を旋回させてどうにか立て直した視界の先に浮かぶ謎のアーマーめがけて、すかさず手持ちのハンドガンを狙おうとしたところ、またしても激しいビープ音に見舞われる!

 なにもないはずの背後からの不意の警告に、ギョッとして振り返るビーグルの顔に絶望の影が走る。


 どうにかやり過ごしたと思ったはずの巨大なグーパンチからのしつこいビームの一斉射撃だ。完全に裏をかかれていた。

 これをよける間もなく機体に激しい振動を感じて肝が冷える。

 機体を襲う激しい揺れに背後に備えたフライトユニットが一部被弾したこと、画面に激しいノイズが走るのに頭部のカメラも被弾したことを一瞬にして理解すると、右手に装備したハンドガンを宙に投げ出して機体を急降下、海に墜ちるくらいの覚悟でその場からの緊急離脱をはかる!!

 命よりも大事なものはないとそれだけが頭の中にあった。

「ひいっ、そんなん反則やんか! よけたパンチから攻撃しよるなんて、卑怯すぎるやろこのあかんたれ!! 助けてくれっ!」

「おう、そやったら多少は稼いでやるからさっさと機体を立て直しい! まだキズは浅いやろ!! 基地までならギリギリ帰れるはずやっ、相手の注意を引いてやるさかい、ん、こっちに来よったで、ホシには興味がないんちゅうんかい、ええ根性やの!!」

「おおきにっ、おいっ、死ぬんやないぞ! 枕元に立たれてもしんどいわっ!! おわっ、また行きよったで、今度は左手のロケット・パンチやん!!」

 意気が合った犬族のコンビは口やかましい掛け合いがますますヒートアップする。いつもひょうひょうとしていたはずの相棒がいつになく熱いさまで口からツバ飛ばしていた。

「そないにワンパターンな攻撃を何度も食らうかいっ、追尾式でないならそないに出所がはっきりしとるテレフォンパンチなんて当たらへんてっ! よいしっょ、よけたで!! 背後から食らわされる前に一発見舞ったる!! そうれや!!」

「おうっ、やったやん! て、まるで効いてへんやん!! 当たってるよな、今のそのハンドガンの弾? あ、ちゅうかまさかあの敵さん、バリアっちゅうやつまで備えとるんか!?」

 意気盛んに食らいつく相棒の奮闘ぶりを目を丸くして見つめるビーグルの目つきが途端に怪しげな半眼のそれになる。
 旗色が悪いのはどう見ても変わらないようだ。

「くうっ、まだまだあるで! 胸のキャノンはハンドガンと威力がよう変わらへんから、この頭のレーザー食らわしたる!!」

「そないなもん効果あるんか??」

 他方、終始距離を置いてまるでやる気がなかったはずの敵のアーマーが俄然やる気を出して食らいついてくるさまに、ここに来てちょっとだけ感心するベアランドだが、いかんせんこの戦力差はどうにもならないなと内心で肩をすくめていた。 

「ああん、これはいよいよもって弱いモノいじめになってきちゃったね? モチベーションが下がることおびただしいよ! ん、てかあのアーマーの頭で赤くピカピカ光ってるのって、いわゆるレーザーなのかな??」


 やる気だけはあるようで、そのクセさっぱり空回りしている相手の機体のさまを不可思議に見やるが、それならばとこちらも手元の操縦桿を引き寄せてモニターの中のターゲット・スコープに狙いを付ける。

「なんか弱々しいけど、実は対人用だなんて言いやしないよね? 対アーマーだったらこのくらいの威力はないと! それ!!」

 いかつい大型アーマーのクマの頭部を模したような不細工なヘッドの左右の耳、もとい近接射撃用のビームカノンが激しく火を噴く!
 これには大慌てで機体を急降下させる敵の飛行型アーマーだ。

「あかんわ! まるでお話にならへんっ、こんなん大人と子供の力比べやんかっ、まるっきり!!」

「おうっ、もうええで! ええからさっさと逃げてまえっ、こないな化け物とやりあう義理なんてわしらみたいな安月給の非正規雇用にはあらへんわっ! バリバリ給料もろてる正規軍のひとらにやってもらお!!」

「ほんまやんなあ! あやうく死んでまうところやったわ、ちゅうか、シッポ巻いて逃げるっちゅうんわこういうことを言うんやんな! ほな、さいなら!!」

「おう、もう二度と会わへんで!!」

 ふたりの犬族は捨て台詞を吐くなりに最大戦速で戦域からの離脱、脇目も振らずに空の彼方へと消えていく。ものの10分にも満たない戦いは呆気のない幕切れを迎えた。

「あらら、逃げられちゃったよ! なんかすばしっこさだけは人並み以上だったね? 火力はそうでもないけど、このランタンでなければちょっと手こずるのかな? ま、何はともあれどっちもいいパイロットだよ、このぼくの見立てによるならば♡」

 逃げ去る敵のアーマーたちを見送りながら苦笑交じりにホッと息をつくクマ族の青年パイロットだ。これにはきはきとした口調のメカニックマンが通信機越しにねぎらいの言葉をかけてくれる。

「おつとめ、ご苦労さまでした! 少尉どの。被弾は確認しておりませんが、どうぞお気を付けてお帰りください。星は取れませんでしたがとてもいいデータが取れたものと思われます。おいしいお飲み物を用意しておきますので、寄り道などはなさいませんように」

「うん、ありがとう。とびっきりに冷えたおいしいカフェオレでも用意しておくれよ。たっぷりとしたとっても甘いヤツをね! それじゃ、これよりベアランド機、母艦のトライアゲインに向けて無事に帰還しますっと! めでたしめでたしだね♡」

 広く晴れ渡る青空のした、全身緑色のでっぷりと不細工な見てくれした大型アーマーが悠然とその帰路につく。

 それまで戦いがあったのが嘘のような穏やかなさまでだ。

 果たしてそれはほんのつかの間、嵐の前の静けさのごとくしたかりそめの平穏であったか。

 Part3

 母艦であるトライ・アゲインに帰還したクマ族の少尉、ベアランドを待ち受けていたのはくだんの同じクマ族の青年メカニックマンのリドル伍長であった。

 アーマーのコクピットハッチを開けるなり、そこにすかさず明るい笑顔で出迎えてくれる若い専属チーフメカニックに、こちらも明るい笑顔で応じるエースパイロットだ。

 ハッチから半身を乗り出した顔の前にスッと突き出された飲み物入りのボトルを反射的に利き手で受け取って、コクピットから全身を抜き出すとそれをそのままグビグビと一息に飲み干すでかいクマさんである。

「おっ、ありがとさん! んっ、んっ、んんっ、ん! ぷはあ、おいしいね! リドルの煎れるカフェオレは絶品だよ♡ お砂糖の加減も実にいいあんばいだしね!」

「はっ、ありがとうございます! 任務、ご苦労様でありました。あとはこちらですべて引き継ぎますので、何かこれと気になった点はありましたでしょうか? あとンクス艦長より、後でブリッジに上がってくるようにとの要請がありました。今後のことについてのお知らせがあるとのことで?」


「ありがとう! そうかい、おおよそはこれから合流する予定の増援部隊についてなんだろうけど、楽しみだね♡ それじゃ早速顔を出してこようかな? ん、まだシーサーの機体は戻ってないんだ? あの勝手にリニューアルされちゃったヤツ??」

 飲み干したボトルをまた受け取り直すクマの青年機械工は、見上げる大柄なクマのパイロットにまたはきはきとした返答を返す。

「はい! ウルフハウンド少尉どのは本艦の周囲を索敵警戒中、ついでに機体の稼働性能実験も兼ねたモニターの真っ最中だと思われます。あいにくこの担当はじぶんではなくビーガル副主任なので、詳しくはわからないのですが……!」

 了解するクマの隊長さんは苦笑い気味にうなずく。

「ああ、あのでかいクマのおやじさんね! シーサーとはそりが合わないみたいだけど、じきに仲良くなれるんじゃないのかな。なんたってリドルとおんなじ、あのブルースのおやっさんのお弟子さんだったて話だから、腕は確かなんだしね♡ シーサーもそんなに分からず屋じゃありやしないさ!」 

「はい! じぶんもそのように思います。それではこの場はこのじぶんが引き継ぎますので、ベアランド少尉どのはメディカルルームでお休みになってください。チェックは必ず受けるようにとのこちらは軍医どのの要請でありすので。じぶんが怒られてしまいます」

「ああ、あの陽気なおデブのおじちゃん先生か! おんなじクマ族相手だと力の加減がまるでやってもらないでちょっと痛かったりするんだよな。ま、そっちには後で行くって言っておいてよ、先に肝心のブリッジ、あの強面のスカンクの艦長さまのほうを済ませてくるからさ! それじゃあとはよろしくね♡」

「了解!!」

  最新鋭の大型戦艦の船底に位置するアーマーのハンガーデッキから、この最上階に相当するブリッジ、本船を指揮する責任者である艦長がいる第一艦橋まで歩いてたどり着くのはかなりの骨だ。階段なら優に数百段とあり、タラップなら気が遠くなるような頭上を見上げてこれをひたすらよじのぼらねばならない。

 よってショートカットとなるこのデッキ部から艦橋まで直通の専用エレベーターでそこに向かうクマ族のパイロットだった。
 これを使えるのはごく限られた一部のクルーのみだ。
 パイロットなら正、副隊長以上、メンテナンスの人員では艦橋から許可が降りねば原則利用禁止。

 高速エレベーターはものの十秒足らずでおよそ100メートルの高低差を駆け抜けてくれる。

 音もなく開いた扉の先には、広い通路ごしの真正面に艦橋への大きな専用気密シールド隔壁、大きく「01」と数字の描かれた両開きのスライドドアがあった。

 人気のない通路を大股の三歩で横断。


 するとあらかじめ登録してあった本人の生体認証でその到着を感知したドアが耳障りでない程度のおごそかな音を立てて左右へと開かれていく…!
 わざわざこんな音がするのは振り返らずとも艦橋への出入りがあったことを察知させるための措置なのだろうと思いながら、ずかずかとこれまた大股で中へと踏み込むクマ族の隊長さんだ。

 戦闘態勢の解かれた平時のブリッジ内は明るくて平穏な空気に満たされていたが、いつもなら入るなりに方々から掛けられてくるクルーたちの挨拶がないのにふと首をかしげるベアランドだ。
 みんな息を潜めているのか、誰もこちらを振り返らずにみずからの職務に専念、しているように見せかけてその実、この注意はどこかあさってのほうに向いているようにも見える…??

 なおさら首を傾げさせるクマ族だが、あたりを一度見渡してそこでまっすぐ正面に捉えたものにしごく納得がいく。


「ああ、なるほどね…! うちのボスが例のワケあり艦長さんと通信中なのか。なんか不穏な空気かもしてるけど、さては何を話してるのかね?」

 その場でぴたりと足を止めて頭の上のふたつの耳をそばだてるベアランドだ。不用意に話しかけて会話を中断させるより、盗み聞きしてやろうとにんまり顔で気配を押し殺す。

 艦長席にどっかりと陣取った椅子からはみ出した大きなシッポが特徴的なスカンク族の老年のベテラン艦長は、ついぞこちらを振り返ることはなかったが、それが見上げる正面の大型スクリーンの中で大写しとなる相手の艦長職らしき中年の犬族は、こちらをちらとだけ一瞥してくれたようだ。


 さては感づいているものか?

 相変わらず抜け目がなくていやらしいおじさんだな!と内心で舌を巻く。

 自然と苦笑いでしばしの沈黙からやがてスカンクの艦長がもの申すのに周りのクルー同様、黙ってこれにじっと耳を傾けた。

「……しかしだな、当該戦域の指揮を任されている責任者がいまだ雲隠れしたままと言うのは、現場の指揮にも関わるものだろう? 新型の戦艦戦力を温存したいのはわからないでもないが、指揮官としてはその姿を示してしかるべきものだよ……!」

 どこか浮かないさまの口ぶりしたベテランだ。
 そうたしなめるようにして頭上のモニターへと問いかける。
 そこに顔面度アップで大写しの白い毛並みの犬族は、こちらもいささか暗い顔つきして視線をどこかあさってへと向けて返すのだった。

「いやあ、こちらもいろいろと理由(わけ)ありでして……! 姿を見せたいのはやまやまなのですが、肝心のアーマー部隊がろくすっぽ稼働できないありさまで。面目ない。先生、もとい、ンクス艦長の応援をいただいてまことに感謝することしきりです。ついでに優秀なアーマー部隊も少し分けていただけたらば、感謝感激雨あられなのでありますが……?」

 ひょうひょうとした口ぶりでおまけのらりくらりとした言い訳をモニターのスピーカー越しに垂れ流してくれる犬族だ。
 言葉ほどには申し訳なくも感謝しているようにも思われない。
 それを察しているらしいこちらのスカンク族も冷めた調子でまた返す。背後で聞くクマ族、ベアランドは思わず吹き出しそうになるが、どうにかこらえて艦長席の影ごしに正面モニターの切れ者艦長のしれっとした顔つきをのぞいていた。


「パイロットを選り好みしすぎなのだろう、しょせんキミは? みずからができるからと言って、それを他者にまで求めてばかりいては誰もついては来られまい。加えてそう、己の本心をこれと明かさないとなればなおさらだ……」

「いやあ、なんでもお見通しなんですなあ、こいつはまいった! 確かに返す言葉もありません。艦はこれを本拠地としているから隠していたのですが、心強い援軍があるならば今後は堂々と顔を出せるでしょう。話じゃ、ほかにも援軍はあるようだし?」

「うむ。キミの古くからの戦友であったよな? ならばアーマーの補充はそちらに頼めばよいのではないか? あいにくこちらにはその余力がない」


「はあ、しかしながら同輩には極力、借りをつくりたくないのでありますが。あいつはがめつい。食欲から性欲から、何かと欲張りなのはよくご存知でしょう? そのせいもあってかこのクルーもクセが強いヤツらばかりだし」

 淡々とした会話の中にどこかピリピリとした空気が漂う……。

「ふうーん、あのおじさんもこっちに出張って来るんだ? なんだか騒がしくなりそうだな♡」

 話の流れから誰のことなのかおおよそで想像がつくクマ族の隊長さんは、したり顔してこのまあるい頭をうなずかせる。
 そろそろ出てもいいもんかなとタイミングを見計らった。

「腕のいいパイロットといいアーマーはできればセットで保持したいものです。戦場では何かと不足しがちなものではありますが。わたしは部下が無駄に命を落とすことがないようにこのあたりには特段に気を遣っておりまして、そのせいで今回のような不足の事態を招いたのはまことに遺憾であります。そのあたり、折り入って頼みがあったのですが、今はとどめておきます。いらんクレームを付けて来そうなくせ者がいるようなので……!」

 あ、やっぱりバレてる……!

 モニターの中の犬族の艦長さんが何食わぬさまして、そのクセしっかりとこちらに視線を向けているのに苦笑いが一層濃くなる大型クマ族だ。するとやっぱりこれを察知していたらしいスカンクがこちらを見もせずに言ってくれる。

「出てきたまえ、ベアランド君。この彼はキミも旧知の仲だろう? そちらに増援として行く必要もあるかもしれない、今のうちに顔合わせをしておいたほうが話がスムーズにゆくだろう」

「おっ、さすがはせんせい! よくわかってらっしゃる。おい、出てこいよでかグマ! じゃなくてベアランド、だったか?」

 でかグマ……!

 ひさしぶりに耳にする呼び名だった。
 これを口にするのは頭上の有名軍人さま以外にはいない。
 かくてふたりに促されて仕方なしに顔を出すそれは大柄な熊族の隊長さんだ。苦笑いして真っ向からモニターの中の艦長職と向き合った。



「あはは♡ こいつはまいったな、ぼくのこと覚えててくれたんだ、教官どの? 悪漢ジーロ、もとい、ジーロ・ザットン大佐どの? 性格ぐれてる鬼教官どのが、現場に復帰されたとは聞いてはいたんだけど。まあ、あんまりいいウワサは聞かないよね!」

「おかげさんでな? 生意気な生徒に好き勝手言われて、そのままおめおめと引き下がるほどにはひとができていないんだ、このぼくは。言うだけのことがあるものか、きちんとこの目で拝ませてもらいたいもんだし。そちらさまはとっても優秀な戦績を納めているらしいな?」

 最後のは皮肉なんだろうと受け流しながら、苦笑いで応じる。

「それはどうだか? ご想像にお任せするよ。だからってまさかこのぼくをトレードしようだなんて言いやしないよね、腹の内がさっぱり読めないこのやり手の艦長さんときたら?」

「ふん、それほどとぼけてもいないさ。どうせならもっと従順で扱いやすいヤツのほうがいい。おまえさんのようなやることなすことおおざっぱで力任せなクマ族よりは、そうさな、慎重でありながら機敏でかつ鼻の効く、ま、このおれのような犬族あたりがベストなんだろうな」

「?」


 何か含むところがありそうな言いように、隣の艦長席のスカンクとちょっとだけ目を見合わせるクマ族だ。
 小首をかしげながらにぼそりと小声で隣に声を掛ける。

「犬族? ああ、そういやそんな新人くんたちがじきにこっちに来るんだっけ? このぼくの部隊に配属される予定の??」

「うむ。今日中に合流の予定だが。まったく抜け目がないことだ。機密情報をどこで聞きつけてくるものやら…!」

「フフ、まんまと横取りされないよに気をつけないとね! まずは新人くんたちをしっかりと歓迎してあげないと」

「そのあたりはキミに一任する


「了解♡」

 そんなしてふたりでごにょごにょとやっていたら、モニターの向こうの犬族が何やら浮かない顔してしれっと言ってくれる。

「ああ、まあそのあたりのことは後々に。その前にそちらの隊長どのには新人くんたちを引き連れて、一度こちらに顔を出してもらいたいもんだ。よろしいですよね、先生? こちらも丸裸でこの艦を敵にさらすわけにもいかない都合……」

「丸裸?」

 どういうことなんだと右手の艦長席のンクスに改めて目を向けるが、大ベテランの艦長はさてと肩をすくめさせるのみだった。
 そこにフッと鼻先で笑うみたいなノイズを残して白い犬族がおもむろに敬礼してくれる。

「では! 久しぶりの再会、まことにうれしく感慨深く思います。とりあえずそっちのパイロットも含めて。互いの健闘と勝利を祈りまして、今回の通信を終わらせていただきます。あと、アーマー部隊はすぐにでも遣わせていただきたいものであります。でないとこちらの身動きがとれませんので……では」

 何やら好き勝手なことをひとしきりほざいて相手の犬族の艦長からの通信は一方的に閉ざされることとなる。
 しばしの沈黙の後、クマ族の隊長はおおきく左右の肩をすくめさせる。

「まったく相変わらずだよね、あのおじさん! いいトシなんだからもうちょっと丸くなってもいいもんなのに」

「キミのひとのことは言えないのではないか? まあ、ある意味打って付けなのかもしれないが……」

 こちらも多分に含むところがありそうな物言いのキャプテンに、当のチーフパイロットはあっけらんかと応じてくれる。

「何が? そう言えば艦長はあのおじさんの直属の上官だったりするんだよね、その昔は? だったらぼくって孫弟子あたりにあたるんだ? あんまり自覚がないんだけど」

「なくてよろしい。今の話の流れでもう伝えるべきことは伝わったはずだ。それにつき何か質問はあるかね?」

 真顔で問うてくるンクスに、のんびりしたクマの隊長さんはさあと頭を傾げさせる。

「まあ、例の新人くんたちはこっちで引き受けちゃっていいんだよね? ブリッジにもしょっ引いて来いって言うんなら、連れてくるけど、いざ現場方の最高責任者さまがお相手とあっては、きっと震え上がっちゃうんじゃないのかな♡」


「その必要はない。すべてキミに一任する。言ったとおりだ」

 まったくしゃれっ気のない冷めた顔の艦長に内心で肩をすくめるクマさんだが、折しもそこで静まり返っていた周りのオペレーター陣にちょっとした動きがあったようだ。

 不意の電子音とともにいくらかの応答を交えて、中でも特に見覚えのある犬族の男がすぐさまこちらに振り返って報告を入れる。

「艦長、増援部隊、ビーグルの新型が二機、まもなく艦に合流するとのことであります! 受け入れは二番デッキでよろしいでしょうか?」

「うむ。両機とも、大いに歓迎すると伝えてくれ」


「お、新型のビーグルか! それって例のアレだよね? 何かと問題ありってうわさの♡ ちょっと見るのが楽しみだな、もちろん新人のパイロットくんたちもだけど! それじゃ早速、ハンガーにとんぼ返りして出迎えに行ってくるとするよ」

「ああ、アーマー単体の長旅だったのだからまずは休ませてやるといい。部屋は用意してあるはずだ。あとキミも、ちゃんと休養を取ることだ。パイロットとしてはこれもまた重要な責務ではあるのだからな?」

「了解♡」

 くるりときびすを返してブリッジを後にするアーマー部隊隊長だった。艦長からの忠告に軽く右手を挙げて答えながら、さてこれから忙しくなるぞっ!と舌なめずりしてズカズカと来た道を戻っていく。
 やがて艦に合流することになる増援部隊のありさまに想定以上の驚きがあることをまだ知らない彼だったが、波乱に満ちた戦いの予感は心のどこかにはもうすでにあったのかもしれない。


 以下、#011へ続く…!



 


Part3の流れ、プロット
ベアランド、母艦トライアゲインに帰還。
リドルの出迎え。
ウルフハウンドはまだ出撃中。くだり~
ベアランド、ブリッジに上がる。
艦長、ンクス、戦域統括官のジーロと通信中。
ベアランド、艦長と会話。
援軍の説明。
#011へ~…


 





 ドラゴンフライの兵装
 ミドルレンジのハンドガン
 ショートブレード
 胸部装備 実弾カノン
 頭部装備 レーザーカノン



状況
 ベアランド ランタンのコクピット内から
 リドルと交信
 ジーロ・ザットン ダッツとザニー
 モーリィ、リーンと交戦この

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プロット

モーリー リーン 登場
ベアランド隊と会敵