オリジナルのノベル「ルマニア戦記」とおんなじ世界線で完全おふざけのおはなしをやってみようw いわゆるケモ〇モちっくなヤツ???
「くまくまベアーズ♥」

(NHKで)アニメ化を勝手に目指しているガチの創作コンテンツ「ルマニア戦記」のスピンオフ?同一世界線のおはなしの完全におふざけのケモホモちっくなヤツをやってみますwww
登場人物/メカ





(NHKで)アニメ化を勝手に目指しているガチの創作コンテンツ「ルマニア戦記」のスピンオフ?同一世界線のおはなしの完全におふざけのケモホモちっくなヤツをやってみますwww
オープニング オーケストラマーチ
出撃!
ノリのいいポップかロック調の主題歌?
「ルマニア WAR RECORD」
さあ飛び立て! 青空突き抜け!
どんなに窮地に立たされても、かならず笑って立ち向かう
クマの一撃!食らってみるかい?
きっと腰抜け面食らう!
昨日の敵は、今日の友!
「デッキの一コマ」
トゥーントゥトゥントゥン トゥーントゥトゥントゥン トゥーントゥトゥントゥン トゥトゥトゥン ×4
トゥトゥトゥン トゥトゥトゥン トゥトゥトゥン トゥトゥトゥン トゥトゥトゥン トゥトゥトゥン トゥントゥントゥン ×2
エンディング
「その先へ…」
その先の、先の、先の、先の、先へ…
間奏♪ ディリーリー ディリーリー ディリーリー リーリー
果てしのない道のり、
この果てしなく、続く道、見渡せども、限りなく、疲れ果て、道に迷い、歩みが止まる、時もあるさ
でもきっと行ける ひとりじゃないから きみとなら どこまでも おそれずに この道の ひたすらまっすぐ その先へ
転調♪
越えてゆこう どんな困難 この行く手を はばむとも ふたりならかならず やりきれる きっとそう やりきれる
この道の先へ ずっさその先へ ふたりなら いつまでも きっとそう ずっとそう その先へ ただその先へ
「戦士の休息」
明日はどっちだ? 道に迷った戦士たち
今日の戦いくぐり抜け、戦火に行く手をはばまれる
それでも未来を信じ抜く パイロットたちは恐れない
「夢追い人 無限の彼方」
夢 希望 未来 それは誰しも見られる
でもそれは夜空の星とおなじ
「復讐リベンジ♪」
ダダダ・ダンダン ダダダ・ダンダン ダダダ・ダンダン ダンダンダン ×2
ボコられたって ハブられたって そんなの勝手にやらせとけ
イジられたって 笑われたって そんなのまったく関係ない
くじけずに行け ゴールはまだ先 世界は広くて果てしない
そこだけで見るな 前見て進め 進んだヤツだけその手が届く
中心じゃあない でもこの世界で お前の自由を手に入れろ
進んだ数だけ扉は開く 広く高くどこまでも さあ
ワルにはなるなよ バカでもいいけど 努力だけは怠るな
落ちるヤツは落ちるだけ 諦めなけりゃ 自由になれる
輝いた未来が まぶしく照らす 誰もがうらやむ 努力の軌跡
誰もイジれぬ お前の輝き それこそ おまえの復讐リベンジ!
ムーディなラブソング、ないしノリのいいお下劣ラブソング?
ドタバタラプソディー♪
愛してるんだ 伝わらなくとも♪
LOVE The MACHO LOVE♪
伝わらないこの思い 伝えきれないこの気持ち
ああ このまま どうか どこかへ 連れ去ってくれ
遠くへ
遠い、遠い、遠い、遠い、遠いどこかへ…
あなたといきたい
どうか遠くへ ずっと遠くへ わたしを どこかへ どこかへ どこかへ あなたがいるなら それだけでえいい
所属する軍のナショナルカラーのグリーンをベースにしているのですが、ダークグレーとか黒とかでもいいような?あんまり色が暗いと悪役みたいになっちゃうのかな(^_^;)
後ろから見るとかなりアレなカンジになるのですが、慣れですかね??おしりの上にちょこんと出ているシッポがキュートですw
たぶん被らないけど、パイロットスーツに合わせたヘルメット(クマメット?)もデザインしました(^o^)
#026
Part1
当初の駐屯先であった大陸中央部の砂漠の陸軍基地から、もろもろの都合でこの大陸北岸の、さらに西の外れへ――
やや辺鄙な港湾都市にその巨大な船体を休めることとなった、ベアランドたちの大型巡洋艦だ。
そのいきさつまでにもひともんちゃくあったのは伝え聞くが、数日が経ち、船外に出る下船許可が下りるまでには状況は落ち着いていた。とは言え、いつスクランブルが掛かるかはわからないので、あまり遠出はするなとのお触れは出ていたが……。
前回の航空部隊同士の戦いがやや消化不良気味だったので、この決着をつけるべくしてかの敵がふたたび襲来するのは、現場の隊員ならたやすく予期しえただろう。
無機質な軍艦の中でまんじりとしないより、心身ともリラックスするためにひさしぶりに街に繰り出せるのはきっといいことであった。
同じ部隊のクマ族のベテランコンビもやたら上機嫌なさまで、どこそこに行こうと算段しているようだ。
どうやら近場にクマ族向けの有名な観光地があるらしい。
だがあんまりそういったことに興味がないこの隊長自身は、船外ではなく見知った船内の見慣れた場所へと足を運んでいたが。
それでもこの内心はうきうきとした鼻歌交じりにだ。
そうこうしている内に何やら前方に見知ったようなクマ族の背中を見かけて、気楽に声をかけるベアランドだ。
あちらもご機嫌な鼻歌交じりで、その足取りが軽かった。
「あ、やあ! そこのきみってニッシーだろ? おはよう! ずいぶんとご機嫌だけど、さては街にお散歩に行くのかい、パイロットスーツ以外の姿をはじめて見たけど、えらくラフだな? でもそれなら違和感なく溶け込めるよね! 似合ってるよ♡」
いつものぎちぎちに全身を固めた地味な見た目の上下のつなぎではない、むしろやたらにラフな半袖半ズボンの若いクマ族くんの格好に、見え透いたおべっかを言ってやる部隊長さんだ。
これにふとこちらを振り返った当のクマ族は、はじめぎょっとしたさまで目を見張らせたりした。
「あん? ああ、どうもっ……て、でかいな! アーマーじゃん!! いや、つうかなんすかその格好、隊長さんこれまでそんな大仰なスーツなんて着てなかったじゃないすか? うわ、上から下までガチガチじゃん、なんか引くわあ……!」
言いながらひとのことを上から下までねめ回す新人パイロットの呆れたような言葉には、思わず苦笑いになるベアランドだ。
おろしたての新型スーツは、控えめに言ってもこの見てくれが頑丈で大げさで、おまけかさばるし重たくもあった。
個人的にはがっちりした着心地がとてもしっくりしてかなりのお気に入りなのだが、傍から見るにはしんどいらしい。
その前にあったふたりのおじさんたちも口々にそんな反応(クレーム)をくれていた。
「ひどいな! みんなおんなじことを言ってくれるよ。もしかしたらこれが正規のパイロットスーツになるかもしれないのに? でも犬族たちはこんな重たいの着たりしないのかなw ま、ぼくらいかついクマ族にはまさしくうってつけってことで!」
「はあ、おれはかんべん願いたいかな……? それよりなんでそんな格好なんすか、まさかそれで街まで降りるとか?」
そんなやや怪訝なさまで見てくる傭兵パイロットにまたも曖昧に笑っていかつい肩を左右ともすくめさせる。
「いやさ、ほら、せっかくだからこの格好でコクピットシート周りとのマッチングをしようかと思って? いざぶっつけ本番じゃ何かと不安だし、リドルも付き合ってくれるって言うからさ!」
「マジすか? せっかくの休日なのに、しんどいわあ! ちゃんと休んでくださいよ。隊長がそんなんじゃ他が気を抜けないし」
「いや、そんなことないんじゃないのかな?」
部下のおじさんたちは思い思いの格好に身を包み、新しく入った新人のブタ族を伴ってとっくにこの船を下りている。
対して若いクマ族のチーフメカニックくんは、外に出るよりメカをいじってるほうが楽しいと言い切っているから、無理に連れ出すこともできなかったわけで。ちなみにもうひとりのベテランのクマ族のチーフメカニックも同様の理由で居残りのはずだ。
第二小隊のオオカミ族の隊長たちはよくわからないがきっと好きに方々を巡っているのだろう。気配はとっくになかった。
そういえばこのクマ族の相棒である、若い犬族の女社長はどうしたのだろうかと内心で思っていると、それとおぼしき気配を背後に感じるクマ族の隊長さんだ。軽やかな足取りの足音がタッタと近づいてくる。おまけ甲高い声音がこれに続いた。
「あれ、ふたりでこんなところで立ち話? あんたその隊長さんと話すことなんて何もないでしょうよ? それにやだ、襟付きの服くらい着たらどうなの? 学生さんでもあるまいに!」
顔を出すなり言いたい放題言って澄まし顔でふたりのクマ族たちを見上げてくる、それは勝ち気な女パイロットだ。
対してラフな格好を揶揄されてちょっと鼻白むクマ族の平社員だった。それってモラハラじゃねえのかとでも言いたげなさまでせいぜい不満げな口ぶりする。
「学生じゃねえ、ゲーマーだぜ! 普段の服装にまで口出しされたくねえや、いかに雇い主の社長さまでも? そっちこそどうなんだよ、遊ぶ気満々じゃん! おれ、連れ回されんの??」
「当たり前でしょう? あんたはあたしのボディガード兼パイロットなんだから。雇用形態の契約書類に目を通さなかったの? だとしたらあんたの落ち度だから、黙って従いなさい。ほら、さっさと行くよ!」
そんないつものつんけんした口ぶりで部下の愚痴をはたき落とすサラに、笑って相づち打つベアランドだ。
「仲がいいね! ま、せったくだから楽しんでくればいいよ。ぼくも余裕があったら街に繰り出してみようかな? 居残り組みのリドルやイージュンと一緒に♡ 街で出くわしたらよろしくね!」
「はあ、でかくてとろくさいクマ族さんは御免被るんですけど? あたしの足に付いてこれるなら構わないけど、うちにもとろくさいのがいるから、そっちのすばしっこそうなチーフメカニックくんとならトレードしても構わないかしら!」
「おれが御免被るぜ! なんで非番の時まであんなクソでかいクマのおやじと……マジ死ぬって……」
↑失敗して、結果、↓下の挿し絵に差し替えられましたw
げんなりして肩を落とすニッシーだ。
なおのこと苦笑いの隊長さんはしたり顔して言ってくれる。
「あははw じゃ、とにかく楽しんでおいでよ。たぶんそっちに行くことはないだろうから、ふたりとも気兼ねなくさ!」
「もちろんそうさせてもらいます。ふふ、とってもものわかりのいい隊長さま! あとでお土産のひとつでも差し入れしてやれるかもしれないから、どうぞ期待せずに待っててくださいね?」
「何だよ、じぶんだってめちゃめちゃ観光気分じゃん……!」
気楽にピースサインを肩越しに見せてくれる女ボスに、がっくりとうなだれながらすごすごと歩いていく肥満気味のクマ族だ。
「うん。期待はしないよ。なんかコワイから! あはは♡」
ふたりの傭兵コンビをお気楽に見送ってみずからも目的の場所へと向かうベアランドだ。入ればいつもと変わらぬ喧噪と活気にあふれたアーマーデッキには、すでにふたりのチーフメカニックたちがこの隊長の登場を真顔で待ち構えていた。
Part2
クマ族のエースパイロットの新型機をはじめ、各隊のアーマーを収容する広大なデッキフロアは、巨大な戦艦の中でもこの船底に位置した。
その中でもみずからのアーマーが格納された大型機専用の中央デッキに向かう。するとそこには専属の若いチーフメカニックの他にも、オオカミ族たちの小隊のチーフメカを担当するはず、ベテランのクマ族のおやじまでが何食わぬ顔して立っていた。
ちょっと意外そうな顔でこれを見るベアランドだ。
「あれ、イージュン? どうしたんだい、そんな気むずかしい顔して?? 第二小隊のチーフメカニックはこんなところに用なんてないはずだろうさ!」
こちらとしてもそんなおやじに用はないと口にはしないまでも、この口ぶりと態度で言ってしまっていたものか?
ちょっとむすりとしたさまのベテランのクマ族メカニックマンは、口をへの字にしていかにも不服げなさまだ。
「……なにって、お前さんのところのお邪魔虫どもの大型機のメンテもしているだろう? これおれは。用がないなんてことはないんだよ、失敬な! あとちなみに、当のお邪魔虫、あののろまなクマ助くんはどこにいる?」
となりに立つリドルが苦笑いで見ているが、こちらも同様に肩をすくめさせるクマ族の隊長さんは、ついさっき別れたばかりの若い新人パイロットのクマ族のことを思い浮かべながら答えた。
「ああ、ニッシーならついさっき、ボスのサラに連れられてこの船を降りていったよ? なんでも彼女のボディガードなんだってさ! パイロットやらエスコートやら、新人の平社員くんは何かと大変だねw」
「どうでもいいけどな! あのバカ、完全にあの女社長の犬族の尻にしかれてやがるだろう? 情けないはなしだ。こちらとしてはちょっと聞きたいことがあったんだが、ついでにおまえさんの意見も聞いてみたいところだよな。後でちょっといいか?」
「ん、まあ、構わないけど? ぼくに聞いたところで何もわからないんじゃないのかな?? それにこっちはこっちでやることあるから、どのくらい後かわからないよ」
仲間達が続々と船を降りて羽を伸ばしに行っているのに、じぶんだけがここに来た理由をそれと大きな身体をガチャガチャと揺らして示してみせる。するとだが相手のクマ族のおやじはそれでかまわないさと真顔でうなずく。おまけこれまでよりもずっとごちゃごちゃとした見てくれのいかついパイロットスーツを微妙な顔つきで見ながら言ってくれた。
「思ったよりもずっと大げさなスーツだよな? まだテストケースなのか、もとよりそんな邪魔くさいもの犬族たちが着たがりやしないだろう? 特にあのやかましいオオカミ族の隊長とか!」
「まあ、そもそもであれのかさばるプロテクターを外して軽量化させたスーツで戦場に出るなんてのも珍しくないらしいからね? あくまでぼくらいかついクマ族向けの仕様なんじゃないのかな。でもニッシーやダッツやザニー中尉たちも、これを見たらばみんな口々に嫌がっていたけども!!」
わはは!と破顔して楽しげにぶっちゃけるのに、対するオヤジのクマ族もイヤそうな顔してでかい頭を左右に振ってくれた。
「悪いが、おれも御免被る! ま、おれは着ることなんてありやしないが、生存確率を上げるためには致し方ないことなのかもしれないな? 昨今、アーマーの性能が格段に向上している都合、中身のパイロットもそれなりに身なりを整えないと、釣り合いが取れ無いんだろう。特に、その、な?」
意味深な目つきをこちらは隣の若いクマ族に送っての言葉に、それを受けるチーフメンテナンスは素直にはいと受け答える。
「は! とてもお似合いであります、少尉どの! 最新鋭のアーマーに乗るのであれば、そのくらいに頑丈なスーツを着ていただかないとさすがに心配でしたので……!! そちらは対Gスーツとしてもとても有効な性能があると聞いております」
「ま、毎度毎度出撃するたびにあんな無茶苦茶なことをしているんだから、このくらいの保険は掛けてもらわないとな? まったく割に合わない! てか、おまえさん、ほんとに似合っていやがるよな? 冗談みたいな見てくれしてるのに!!」
「はは、そうかい? ま、冗談みたいなぼくの相棒のアーマーとこれでちょうど釣り合いが取れるのかな? イージュンが言ってるみたいに! 前のヤツもあれはあれで愛着があったんだけど」
いかつい肩をことさらに大きく揺らして笑う隊長さんだ。
これを白けたさまで見ながらまた意味深な目つきでベテランのメカニックが言ってくるのには、ちょっと苦笑いでこの視線を逸らしたりする。
「聞きたいことはまだ他にもある。まあその、聞いた話じゃ、また新しいアーマーが入ってくるんだろう? しかもふたつも! 懲りないよな。さてはあの熟練コンビのクマ族ども向けなんだろうが、おまけにコイツが出所が一切不明のとってもいかがわしい機体と来てやがる……そうなんだよな?」
「ああ、よく知ってるね? ひょっとしてリドルから聞き出したのかい? とは言え、まだ本決まりじゃないから中尉どのたちには言っちゃだめだよ? ぬか喜びさせちゃ気の毒だし。出所が不明なのは、そんなのもうみんな慣れっこだろう?? まずこのぼくの相棒のランタンがアレっちゃアレだし♡」
むしろ出所がはっきりしている機体の方が少ないじゃないか!
しまいにはそんなことまでぶっちゃける隊長さんの発言には、小隊付きのメカニックの青年が苦笑いでうなずく。これにはそのとなりのオヤジもあきれ顔でうなずいて、また苦言だかクレームだかをぶちまけれてくれるのだ。
「まさしくだな! あのボンクラの新人くんの大型機はおろか、その連れの犬族の高機動型のももはや正体不明のアンノウン、見たことも聞いたこともありやしない! もっと言ったらおれが担当している第二小隊のやせオオカミのやつも、それに近いぞ? マニュアルもメンテナンス向けの仕様説明書もへったくれもないんだからな! ブラックボックスだらけだ!! ヘタにいじれないだろう?」
「とか言いながら、そういうのがとっても好きなんじゃないのかい? でっかいクマのおじさんが寝る間も惜しんでこれまたどでかいアーマーと取っ組み合いしてるって、もっぱらの噂だよ。みんなありがたく思わないとね!」
「どうでもいい。好きでやってることだからな? だがせめて協力はしてもらいたい。やるからにはだな!」
プロのメカニックとしての矜恃みたいなものをでかい鼻づらに浮かべるオヤジは、鼻先でふんと息をついて、そこでまたちょっと口をとがらせたりする。不満げなさまに大きくうなずくベアランドだ。
「まあ、中にはそんなものつっぱのける恩知らずなヤツらもいるわけだが……! 近づくと露骨にイヤな顔をしやがるからな? だがあいつらの機体も、やっぱりわけがわからないよな、それが後部デッキを占領しちまってるときたもんだ! よくこうもポンポンと受け入れやがるよな、本来ならそこのおまえさんのデカブツで手一杯のはずなのによ!!」
「あのゴリラくんとネコちゃんのアーマーか! 確かに型式も国製も不明でそのくせびっくりするくらいに高性能なんだけどw でも大丈夫、そこらへんはうちのリドルが興味あるみたいで、探りを入れてるようだから、ね?」
おとなしくふたりの話を聞いていた物腰の穏やかな青年メカニックは、明るい表情ながらあいまいにうなずく。
「ああ、はいっ、まあ……! ヒマを見てお邪魔してはじめは遠くから見学させてもらって、少尉どのに調達してもらった高級バナナを差し入れしていたら、ゴリラ族のベリラさんは近頃は普通に話しかけてくれるようになりました。相棒のネコ族のイッキャさんの目を盗んで触らせてくれたりもしますし?」
「バナナ? おまえ、それって餌付けじゃね? あのゴツいゴリラ相手によくもまあ、そそのかしてるそっちの隊長さんも隊長さんだが、ならネコちゃんは何をくれてやったら仲良くなれんのかね?」
「お金じゃないのかい? はは、別にモノなんてあげなくてもリドルの腕があればなんとでもできるよ。アーマーにメカニックはつきものじゃないか? しょせんパイロットだけじゃ運用なんてできないんだから! 黙ってたっていずれ必要とされたさ♡」
「そんなもんかね? いや、これからまたふたつも増えるかもしれないってのに、そんな余計なもんにかまけていたら身体がいくつあっても足りないんじゃないのか? まあいいや、実際にきたなら、そのうちのひとつくらいは受け持ってやるよ。ただし、あの落ち着きがなくて反応がやかましそうなグレーのじゃなくて、むっつりした赤毛のおやじのほうをだな?」
何食わぬ顔でそのくせにしれっと言ってのけるのを、若干吹き出し加減に了解する隊長さんだ。
「そういう認識なんだ? イージュンこそほんとに好き者だよね! 実はそれが言いたかったてあたり? 博士もある程度は協力してくれるだろうけど、リドルとノウハウの共有ができたならそれに超したことはないから、大歓迎だよ! 感謝感激!!」
満面笑顔で舌なめずりまでするエースパイロットのクマ族に、ベテランのクマ族メカニックマンは何食わぬさまでとぼける。
「ふん。来たらの話だ。それにまだ他にも聞きたいことはある。若造の大型機はあらかた攻略したんだが、ひとつだけ良くわからんことがあって、そのあたりをだな? 当人に聞いてもわからないとかぬかしやがるから、ガチのパイロット目線の意見を聞きたいんだよ。あいつをとっちめて無理矢理に突き止めるのも手なんだが、あのボンクラくんときたら必要な時以外はこっちに顔を出しやがらない! なめてやがる」
「メカニックのおじさんがそんなおっかないからじゃないのかい? まあいいや、それじゃ早速、このスーツとコクピットとのマッチングをしちゃおうか。リドル、イージュンと一緒にコントロールでシミュレートをしておくれよ。シビアなのでかまわないから、機体の射出出撃から敵の編隊との会敵、交戦までひととおりに……! 半日くらいかけてくれてもかまわないから」
「はっ、了解であります! 少尉どの!」
「はあ、おまえも好きだよな? 半日は長いだろう。途中で抜けさせてもらうかもしれないが、終わったら声をかけてくれ」
「はっ、了解であります! イージュン曹長!」
「おまえは真面目すぎる。だったらおれはもう一度あっちの大型機の最終チェックに入るから、そっちはふたりでよろしくやっててくれ。じゃあな!」
ドスドスと大きな足音を響かせて、じぶんたちとは反対側で向かい合わせに収容固定されている大型の機体へと歩み去るでかくてまあるい背中をにんまりとした笑顔で見送るベアランドだ。
「どの口が言うんだか、ひとのこと言えやしないじゃないかw」
そうしてみずからはくるりと頭を巡らせて、己の愛機の固定されたハンガーへと大股で進んでいく。ここからではそのコクピットブロックは見上げるほど高くにあるのだが……。
「あ、少尉どの! ちゃんと昇降機を使って上がってくださいね! 自分は管制室からモニターしておりますので、およそ30分後にスタートとさせていただきまして?」
いつものノリでジャンプしてタラップをまとめて飛び越えようとしたのをまんまと呼び止められて、舌を出して振り返る。
「……おっと、そうだった! あ、でもだったら緊急発進モードで10分以内にスタートってことにしようよ? 本気で半日もかけてやるつもりもないからさ♡ どうにか集中して二時間くらいでやっつけちゃおう!」
「了解であります!」
そんな軽口混じりにしたお気軽な演習のつもりだったのだが、それが10分後には現実のそれになることを、この時はまだ誰も知る由はなかった。
Part3
今回、試験的に導入された新しいパイロットスーツは、従来の軽量軽装を主眼としたものとはまるでコンセプトが異なる全身重装備型で、言わばクマ族向けのものであった。
これによるコクピット周りのマッチングテストは、だがこれが思いも寄らぬ形で現実の出撃シークエンスを実行するこことあいなるのだった。
ただの演習ではない、ベアランドの隊長機のみによる単機での緊急出動(スクランブル)だ。
港に着岸したままの母艦から今回は自力で飛び立ったクマ族の隊長機は、上空およそ500メートルの高度でその大型の機体をぐるりと左に旋回しながら眼下に広がる乾いた大陸の景色と向き合う。
そこでレーダーの索敵範囲を有効射程のはるか彼方にまで広げながら、母艦のブリッジへと通信を開くベアランドだ。
「ふうむ、とりあえずこうして出撃してはみたものの、肝心の目標らしきがどこにも見当たらないな? 艦長、未確認の反応ってのは、つまりは所属不明のアーマーのことでいいんだよね?」
どこを見るでもなく漠然と目の前のディスプレイを眺めながらの問いかけに、ほどなく正面の青空の一角に見知ったスカンク族のベテラン艦長の顔が、大写しで映し出される。
「……うむ。こちらでもこの反応のみを確認したのだが、おそらくは二機の所属不明機、どちらもアーマーであるものと推測はされる。ただしこちらに対しての敵対的行動や意思があるのかは不明。むしろ両者が交戦している可能性が高いとの観測がされるのだが……!」
「なるほど! それをぼくに偵察してこいってことなんだよね? あいにく出撃できるのはこのランタンだけだったし……!」
「うむ。だが少尉、くれぐれも無理な戦闘行動は取らなくていい。せいぜい牽制をかけるくらいのものでだな?」
真顔でこちらを見下ろしながらの返答には、了解と目でうなずいて、あたらめて正面のディスプレイと向き合うクマ族の隊長さんだ。まさかこうしていきなり実戦になりかけるとはね?と内心で苦笑いしながら、母艦のデッキのコントロール・ルームで待機しているだろう若いメカニックのクマ族に向けて言った。
「リドル! こっちのモニターついでに戦況のモニターもしておくれよ。できるだろ? どうせイージュンもいるんだろうし!」
半ばテキトーに言い放ったセリフには、即座に若いクマ族の青年の声と、ベテランのクマ族のそれが応じてくれる。
「は! 了解であります! 少尉どの! 幸いブリッジからリアルタイムのデータもいただいているので、問題なくこちらからサポートできるものと思われます!!」
「どうせってなんだよ? 居て悪かったな! いきなり出撃していきやがって、なんかめんどくせーことになってるみたいだが、おもしろそうだからオレも付き合ってやるよ。そっちで取ったデータを解析してやるからさっさと目標捕捉して、とりあえずこの画像をよこせよ。ついでに音声も当然な? アーマーのエンジン音からも推測できることはたくさんある。アーマー壊すなよ?」
「もちろん! あいにくと今はひとりっきりで、ベテランの中尉どのたちのサポートも望めないから無理はしないさ。あちらさんが必ずしも敵対的とは限らないしね? どっちも正体不明ってあたりがなんか引っかかるんだけど……!」
ベテランのスカンク族の艦長から切り替わったこれまたベテランのクマ族のおやじのむすりとした表情を見上げながら了解してくれるのに、おやじの横からひょいとこの顔を出す若いクマ族が落ち着いたさまで補足をしてくれる。
「ちなみに少尉どの、ブリッジからのデータによると正体不明機はこのどちらかがかなりの大型機クラスであると見込まれるとのことです! 場合によっては少尉どのの機体と同規模くらいな? ですので予想される会敵ポイントにはすでにかなり近くまで接近しているので、モニターの視界からでもそれらを確認できるのではないでしょうか?」
これにも了解してうなずくベアランドだ。
そう。見ていると確かにそれっぽいのが正面のモニターのど真ん中にあるのだが、あいにくはっきりこれと見分けがつくようなさまではなかった。なんか怪しいのがあるくらいなカンジだ。
それを怪しげに見ながらカメラの焦点にズームをかける。
「まあ、あそこらへん、確かにへんなケムリか煙幕みたいなものがあるのかな? でもあいにくでレーダーにはっきりとした反応が出てこないや! マイクでエンジン音が拾えるかい? あれ、消えちゃった……!」
それはほんの一瞬だけ……!
コクピットに短い警告音が鳴ったきり、ピタリと静かになる。
ケムリの中から何かしらが飛び出したのはわかったが、それが何かを確かめる前にモニターから消失してしまうのだ。
別々の方向に別れて散っていったのではないかと思われたが、あまりに突然のことでどちらも補足するまでに至らなかった。
「ちゃんとモニターしろよ! 完全に見失っちまってるだろう? こっちじゃさっぱり追跡ができない、ステルス性がヤバイくらいに高いんじゃないのか? ヘタに深追いできないだろうっ……」
「うん……まあ、そうなんだけど、しっかり相手には補足されちゃったんじゃないのかな? でも大型っぽいのはちょっとだけこの姿らしきが見えたから、そっちを追いかけるとしようか。もう一機はこの際もうほっといて!」
「あっ、いえ、ですが、少尉どの! ここは一度帰還されたほうがよろしいのではないでしょうか?」
顔つきからしてちょっと心配そうなチーフメカニックくんの言葉には、ただあいまいにだけうなずいて周囲の気配とモニターに目を懲らす隊長だ。
「ん……いや、でもね、それじゃわざわざ出向いて来た意味がなくなっちゃうじゃないか? 探りを入れてほしいって艦長からの直々の命令ではあるし、そんなヘタは打たないさ。なんか補足できたみたいだし!」
「え、いたのか? どれどれ! 見して見して!! 早く!!」
「うわっ、イージュン曹長、そんな興奮しないでください! ブリッジの方にも回線をつなげているんですから、筒抜けですよ」
「じゃあ音声オフっちまえよ? かまわねえだろ」
「え、でも現場の正確な状況とそれに即した解析データと、パイロットやメカニックのガチの意見を参考にしたいんじゃないのかい? それじゃ今から見せてあげるから、落ち着きなよ! ほら、あそこにある白い煙幕みたいなヤツ……ね、わかるかい?」
ことがアーマー絡みとなるとなんでも前のめりで興味津々のベテランのメカニックに急かされながら、正面モニターの左の端のほうに捉えたそれはうっすらとした雲かもやみたいなものにメインカメラの焦点を合わせる。みずからの機体の向きもそちらに正対させながら、注意深く違和感の正体を探るベアランドだ。
「ああやってアレだけぽつんと不自然にあるのは、つまりは人工的に発生にしたものなんだよな? ちょっと背後のほうがムズムズするんだけど、なるべくそっちに頭のレーダー集中させるから、ふたりとも解析よろしく!」
見ればある特定の地点からもくもくと吹き出る白い湯煙の中から、やがて黒い影がうっすらと浮き出るさまを怪しげに見るのだが、それがはっきりと姿を現した時には静けさの中にそれは少なからぬ緊張が走った。予想していたよりだいぶやっかいな有様にだ。通信機越しに呆れたようなおやじのだみ声が漏れてくる。
「……は? おい、なんだよありゃ! マジで見たことねえぞ! バカみてえな形状のヤツが、しれっと空を飛んでやがるっ、しかも超大型!! エンジンいくつ積んでやがるんだよ!?」
「想像がつきません! でもあれは、人馬タイプ……でいいのでありましょうか? 見たことがないです! あ、脚が4本で、腕は一対、胴体に頭があって、大型の機体を浮かせるのに大型のロータードライブが都合三基! 少尉どの、各部に高出力の射撃兵装らしきがうかがえるので、これ以上の接近は危険かと思われます! 機動力もかなりのものが予想されますので、機体の防御フィールドを最大限に展開しつつ……!」
言ってしまえば臆病で心配性な青年が最後に飲み込んだ言葉が何かを理解しつつ、目の前のモニターに映し出される奇々怪々な見てくれのアーマーにまじまじと見入る隊長さんだ。
やがて困ったさまで苦笑い気味のため息を漏らす。
「参ったな……! よもやこんなのに出くわしちゃうとは? 見るからに冗談みたいな見てくれしてるけど、造りがやたらにしっかりしているよな? おまけに空飛んでるってあたり、かなりのお化けアーマーだ。このランタンにひけをとらないよね!」
この額にうっすらとイヤな汗をかいているのを意識しながら、各種レーダーの出力を最大限に上げてモニターの解析データを凝視する。外野にのんきに実況中継をお願いしている場合ではないと意識を切り替えた。艦長には悪いがブリッジとの通信は閉ざして、目の前の現実とだけ向き合うよう努めることにする。
おまけにまだ一機、背後に控えているのをちらちら意識しながら、そちらはいっそブリッジのクルーたちに任せてしまうべく短くテキストの打電を送る。同じものを受け取ったデッキのメカニックたちもただちに了解して返してくれた。
「いいんじゃね? そのくらいやってもらわないとな! ブリッジからの観測データはこっちでも見ててやるから、おまえはそっちのデカブツくんに集中しろよ、でかいヤツ同士で!」
「少尉どの! くれぐれも無理はなさらぬように、防御主体であればおそらく無難にやり過ごせるものかと思われますが……」
この性格柄か、何かにつけて無難で消極的なチーフメカニックの進言に、もうちょっと士気の上がる声がけはしてもらえないものかなと思いつつ、苦笑いのエースパイロットは臨戦態勢で正面のメインモニターに向き合う。
「ははっ、まずは相手の意図を確かめたいところだよね? いかに攻撃は最大の防御とは言え、出会っていきなり先制パンチってのも、あまり建設的ではないってもので……ん!」
あわよくば互いの意思の疎通が図れないかと見ているさなか、奇しくも正体不明のアーマーが何かしらの信号らしきを発してきたのに真顔で注目する。
この全身が真っ黒で、いかめしい不細工ヅラした頭部のメインカメラをビカリとひときわに輝かせる正体不明の大型アーマーだ。リドルが言っていたようにひとの上半身と馬の胴体を掛け合わせたような見るも怪奇なありさまのそれなのだが、しかしながらこの反応としてはしごく普通のものを返してくれていた。
「……あれって、さては交信のサイン、とりあえず通信回線を開いたりしてくれてるのかな? どこだろう、軍用の暗号回線とかじゃなくて、通常のラジオ帯域とか、まさかね? だとしたらベタな商用の無線通信だったり……やっぱり!」
一般の商業回線のチューニングであっさりヒット!
帯域を固定してこちらからも通信チャンネルを開放する。
だがそれでいざ向こうからの音声入力に耳を澄ますよりも鼓膜を圧するような馬鹿みたいな声量の声高な挨拶に思わず面食らうクマ族だ。
もはやカウンター気味の不意打ちであった。
「ルネッサ~~~ンスっっっ!!!」
やけに声を張り上げた力一杯の第一声だ。
「つっ!? ……は???」
左右の耳がキンとして思わずのけぞる。
とっさに身体が反応するが思考がすっかり停止していた。
いかんせん意味がわからなすぎて。
スピーカーの向こうのメカニックたちも静まり返っている。
あれ、本当にやっかいなのと当たってしまったのではないか?と内心で途方に暮れかける隊長さんに、通常回線越しの相手はまた元気に張ったバリトンボイスでカンカラと大笑い!
おまけにまたも意味不明な応答をかえしてくれるのだった。
「ぶあっはっはっは!! おや、これは失敬! ん、反応が薄いな? そうか、この高貴なる我が輩の絵面がないから理解ができないものか? 庶民には? ならばどれどれ……!」
これにつきさっぱり目つきがきょとんとなるベアランドだ。
直後、ピピッ!とさらなる通信チャンネルの接続音がして音声ばかりかご丁寧に画像での通話回線がひらかれる。そこで目にしたものにいよいよ目がまん丸くなる隊長さんだった。
「あれ……本当に意味がわからないじゃないか? いったいどこの所属なのやら、これってこのアストリオンでも西大陸のやつでもありゃしないよね! しかもおまけに……!」
「はあっはっはっは!! ご機嫌うるわしゅう、しもじものパイロットどもよ! おや、返事がないな? フフン、なるほど、察するに、このわたしの愛機のあまりの偉容に恐れおののいているのではないかな? よいよい、無理もない! はあっはっははははは!!」
ついさっきまで艦長のスカンク族が映っていたあたりに大写しで出てきたバストアップの男の画像に、絶句するベアランドだ。
おなじく左右のスピーカーの向こうでちょっとしたどよめきみたいなものが伝わって、ベテランのクマ族のおやじがあきれたような言葉を発してきた。あいにくでこの顔が映らないが声つきからその表情がどんなものだかありありと伝わってくる。
「は、なんだコイツ? さっぱり意味がわからないじゃないか?? 何様なんだよ、偉そうに! おい、一発ぶちかまして黙らしてやれよ! なんかめんどくせえから?」
「あちゃ~、まさかのイノシシ族か! よりにもよって……え、そんなわけにもいかないんじゃないのかい? あいての気性も考えたら、ここはなるたけ穏便に済ませたほうが無難な気がするんだけどね?? あれって伊達や酔狂じゃない見た目と迫力があるし、パイロットがこれじゃどうにもこうにもだよw おまけにまさかの貴族キャラ!!」
「少尉どの! あの、なんか怖いです……あまり深追いはしないほうがよいのではないでしょうか?」
プロット
ベアランド単機での出撃?
所属不明機?
ダン シャルク公爵? ボヤージュ?
パズル クロウ
※モデルは実在の芸人さんだけども、まったく似ていないキャラたちがアーマー(戦闘ロボ)に乗っかって戦いますw
今回のイメージは、かえ〇亭vsララ〇ド!?
※近頃はYouTubeliveで創作活動を垂れ流ししていますw
興味がある方は見て見てね♥ キャラとも絡めるし、一次創作の作者さんで設定があるひとはイラリクもOK!ただし描けるものだけwww 以下は説明の動画と、実際のliveの様子です。まだやりはじめたばっかりなので、誰にも見てもらえない過疎っぷりが痛々しいですね(T_T)
#025
Part1
ブッヴ、ヴヴヴーン……!
常時薄暗く、周りをディスプレイや計器類でびっしりと埋め尽くされたコクピットの中は、狭苦しさに息が詰まるようだ。
ただ低く、くぐもったエンジン音がこの背後から伝わる。
搭乗者であるクマ族用に大きめにあつらえれられたパイロットシート越しに、かすかな振動も伝わってきた。
するとこれだけで今現在のこの機体の調子がどんなものだか、それと察するパイロットだ。
口元にはかすかに余裕の笑みがある。
まだ開発途上の域をでない新型の大型アーマーだった。
だがこれがすこぶるつきに快調で、ひとつも機体警戒アラートを発することなく、沖合の洋上から目指す大陸の北岸へと進路を進める。
おかげでこの母艦である中型級空母から出撃して、しばらくはすんなりと視界のすっきりと開けた高空を進むことができた。
かくして沖合から中央大陸の海岸線を広く眺める景色を見下ろすみずからのアーマーのコクピットで、ちょっと緊張した面持ちでディスプレイを見つめるクマ族の新人パイロットだ。
一言も発さずに目の前のモニターや計器類を見つめていると、不意に短いアラーム音が弾けて右手のモニターに意識を向ける。
するとほぼ同じタイミングで、左手側のモニターには相棒の見慣れた赤い機影が、その特徴的なシェイプをした機体の一部を映り込ましてくるのが視界の端に見て取れる。
まずは先行して出撃したじぶんに、後続のアーマーパイロットがややもせずに追いついて通信回線を開くのだった。
「カノンさん、注意して! ここはもう戦闘空域だよ。そんな大きな機体でボケッとしてると流れ弾を食らっちゃうから!!」
「おうっ、言われなくともわかっておるんじゃ! なにせここからもう目視ができるじゃろう? あっちの高空で激しいアーマー同士の空中戦が、今まさに大空一杯に繰り広げられておるんじゃっ……!!」
みずからの機体の映すレーダーサイトには、敵味方複数のアーマーを示す、赤やら青色の点やらがそれぞれに複雑な軌跡を描いて交錯している。
正面からやや右の空域、じぶんから見ておよそ一時から二時の方角にかけて、目にもとまらぬ高速の回避軌道が青一色のキャンバスに幾筋も描き込まれていた。
加えてビームや弾丸の閃光も無数に重なる。
ごくりと生唾を飲むクマ族の少尉、カノンである。
ちょっとビビったさまでぼんやりとした感想を述べていた。
「あ、あの中に今からこのおれたちも混じるんじゃのう? まだ新型のこの慣れない機体で、ちゃんと付いていけるんじゃろうか??」
ブルルッ……!
そう武者震いしたのはマイク越しにも伝わったか?
そのクセいささか緊張感にとぼしい本音に、すかさず右手のスピーカーからは相方の甲高い声音が入る。
「カノンさん、わたしたちはあの中には混じらんよ。そういう通達が入っているの、まさか知らないの? そうやん、精鋭ぞろいのキュウビ部隊には、いついかなる場合においてもこの手出しはいっさい無用!……って、そういう話やったでしょうに。わたしらの艦長からもそう言われてたし……!」
「そ、そうじゃった! この相手もやたらに手強いからヘタに近寄ると無駄にケガをするんじゃったか? 確かにあの敵のやたらに目立つ大型の機体、なにやら普通じゃない迫力があるんじゃ。こうして改めて画面越しに見てみるに……」
ぽっちゃり体型のクマ族のメガネ男子は、困惑顔で目の前の大型ディスプレイが映し出すリアルタイムの映像に見入る。
そうした中でも拡大表示したある特定の大型のアーマーには、ほとほと困惑したさまでなおのことこれをまじまじと凝視。
「〝グリーン・デビル〟……じゃったか? おれのこのガマよりもでかいんじゃろうか? とんでもない出力がありそうじゃ!」
「だからそっちはどうでもいいんよ! わたしたちはわたしたちのやるべきことをやらないと。新手が来た! ほぼ真正面!!」
若いネコ族の女子パイロットの甲高い注意喚起に、手元のレーダーサイトの発する鋭い警告音が重なった。
これにつと視線を落とすなり、ほぼ真正面、この十二時の方角に新たな敵の反応が〝二つ〟現出したのを、ただちに見てとるクマ族のカノンだ。
ちょっと慌てた反応返しながら、グッと奥歯をかみしめて気を落ち着かせるように努める。
「わっ、いきなりビックリじゃ! 二機じゃの? ううん、なんじゃ、これは? 敵軍の機体認識のアーカイブ・データに適合するものがひとつもないんじゃが……これはっ……」
困惑した顔で正面のディスプレイに映した敵影を拡大表示しては、なおさらに目を白黒させる後衛パイロットだ。
これに前衛を務めるネコ族がいつにました金切り声で応える。
「新型機だよ! 見ればわかるやんっ、あんなのどっちも見たことないもの。そうだよ、このわたしたちとおんなじ、未知の機体……!!」
戦場にお目見えしてまだそう間もないことでは条件が一緒なのだから、ビビることはない!とみずからに言い聞かせるイワックだ。相棒ののんびりしたクマ族にも言わんとしていることが伝わっているかと内心で心配にもなる。
戦況解析とモニタリングを司る機体制御補助コンピューターを操ると、手前のディスプレイに即座に出された解析データを目にして内心で舌打ちしていた。
「奥のやたらでかいヤツはようわからんし、でかい同士でカノンさんがやり合うんやろうけど、手前のヤツは……! 敵のデータではビーグルⅥっちゅうんが一番近いらしいけど、こんなの実機のモニター解析データが少なすぎて参考にならんて! 友軍のアーマーのデータで見ると……えっ?」
即座にモニターに表示される結果に反射的小さな悲鳴を発してしまって、うわ、聞かれてしまったか?と思わず相棒の顔を映したサブモニターをチラ見してしまう。
幸いにもまったく無関心なさまでうんうんとうなっているクマ族だ。さてはこちらにはまったく興味感心がないものらしく。
それはそれでちっと小さく舌打ちして厳しい視線をまた正面に戻す。
「一番近いと推測される機体が、〝ゼロシキ〟!? いいや、それってあのキュウビ部隊のキツネ族のエースパイロットさまが乗ってるっちゅう機体じゃろ? シャレにならんて……!!」
折しも話に上がったばかりの精鋭部隊、中でも凄腕パイロットが操る高速機動型アーマーの逸話は、アーマーパイロットならば誰しもが聞き及ぶところだ。
同じ戦域に実物がいて、常軌を逸した曲芸まがいの戦闘行動を繰り返している……が、あえてそちらは見ないようにしていた。
緊張していた四肢にグッと力を入れ直して、キッと強いまなざしで正面モニターを睨みつける。
強くおのれに言い聞かせるイワックだ。
「相手がなんであれやるしかないんよ! 高速機動ならこの機体も負けるはずないて、何よりこのわたしが負けるはずないて! カノンさん、行くよ! 援護よろしく!!」
「おう、こっちもよろしくじゃ! やつらにわしらアゼルタの新型機の威力を見せつけてやるんじゃあ!!」
いざ意気をあげて戦場に立ち向かう男女コンビのアーマーパイロットたちだった。
そしてこれに相対するのもまた、ふたりの若い男女のアーマーパイロットコンビなのであった。
Part2
「はああっ、いくよ! エンジン全開っ、フルスロットル!!」
イヌ族の若い女パイロット、サラは生まれついての勝ち気な性格を全面に押し出してキバをむきながらに吠える!
ついでに後ろの相棒が乗る機体に向けてしれっと言い放った。
「で、当然、ここからはあたしが先行して先制攻撃ぶちかますから、平社員のあんたはしっかりサポートすんのよ? 敵もちょうど二機で、後ろのでかいのは後方支援型だろうから、そいつを牽制しながら適宜にこちらへの援護射撃! わかってるわよね?」
「わかってるって! 平社員だけ余計だぜっ、戦場でヒラも社長もありしゃしねえだろう? しっかし、ほんとにオレたちとおんなじ機体編成なんだな。サイズから何からドンピシャじゃん!」
そんなクマ族の相棒の返事を軽く受け流す女社長の前衛パイロットは、ペロリと舌なめずりして捨て台詞よろしく発した気合いの声もろともにアクセル全開に機体を発進させる。
「あんたのカンて当てになるの? ま、わかってるんならちゃんとやることやってよね! あたしもあたしのやること全力で振り切るからっ、それじゃよろしく!!」
「ケガすんなよ! こっちもうまくやるからボーナスの査定よろしく!!」
味方のでかい機体をその場に残して単機で先行したこちらに対して、あちらも大型の支援機を後方に待機させたまま、小型の高速機動型らしきが前進してきた。
まっすぐこちらめがけて!
これには真顔で睨んだその口元に、ニッと不敵な笑みが浮かぶ勝ち気なイヌ族の女社長だ。
「へえ、気が合うじゃん? 相手してくれるんだ! あんたのその派手な機体って、いわゆる高速機動型の突撃強襲機(アサルト・アーマー)ってヤツでしょ? あたしのと一緒でさ!!」
全身が派手な赤色で塗りたくられた相手の機体めがけて、こちらはこの全身が派手なピンクで塗りたくられたファッショナブルな機体が、まっすぐに空を切り裂いてゆく。
周囲からやかましく警告音が鳴り響くが、それをかき消す金切り声で叫ぶサラだ。
「じゃあこのドンピンと勝負しようよ! 見た目の派手さじゃ負けないし、性能やテクでも負けやしないから!! そらあああああっ!!」
殺意をみなぎらせてターゲットサイトを睨む勇猛果敢な若き女パイロットだ。
有効射程もぎりぎりですかさず引き金を引きしぼって、戦いの火ぶたをみずから切って落とすのだった。
Part3
空中戦仕様における近接戦闘特化型の高速機動型機と、これを後方から援護するための火力強化型の大型支援用機――
その用途をまったく同一にした機体構成によるアーマーユニットの一騎打ちは、まずは前衛の格闘戦を担う機体同士の激しい空中戦、目にも止まらぬドッグ・ファイトからはじまった。
エンジン全開!!
アーマーがなす高速旋回機動によって、激しいGの抵抗をその小柄な身に受けながら、ギリギリと奥歯を食いしばって眼前のターゲットサイトを凝視するネコ族の女子パイロット、イワックだ。
迎え撃つ派手なピンクの機影を必死に正面ディスプレイの真ん中に据えるべく、みずからの機体を操る。
が、相手の派手な色合いの高速機動型アーマーときたら、その出だしから一方的に無鉄砲な突撃機動を畳がけてくれるあまり、こちらにはおよそ冷静な射撃操作をさせてくれない。
ものすごいプレッシャーだ。
思わず舌打ちして金切り声を発しかけたところに、ディスプレイの端っこに何かしらのサインと短い発信音を聞き付ける。
それが背後の僚機からの合図だと即座に察するネコ族だ。
苦い表情で正面をにらみ付けながら低い唸りを上げた。
「くっ、無駄ダマなんて撃ちたくはないけど、撃たないと何もはじまらないんよ! それじゃあ、カノンさん、ゆくよ!!」
言いざまみずからのアーマーが構えたハンドカノンを一斉射!
まだ狙いが甘い三つの赤い弾光は、虚しくも敵の残像のみを捉えて大空の彼方へと飛散する。
だがそれとほぼ同時に、短い警告音がまたもや鳴って、左右のサブ・ディスプレイが黄色く発光するのを確認!
味方の後方支援機からの援護射撃がなされたサインであり、ただちに右手の空を旋回してこちらに機体を向ける敵機へとめがけて鋭い閃光が走るのを、正面のモニター画像の中でも認める。
惜しくもギリギリでかわされるが、この機を逃すまいと正面に向けた意識をまた別方向からの警告音に邪魔されるイワックだ。
友軍機からのものではなかった。
ならば相手側の支援機からの長距離射撃であると反射的に悟って、とっさに機体に急旋回をかけてこの射線から逃れるネコ族の真紅の機体だ。
また鋭い舌打ちが漏れ出た……!
「チィッ……! 考えることはみんな同じなんよね? でもあたしとカノンさんのほうが息が合ってる! そやったらこのまま押し切るよ、カノンさん!!」
背後に控える味方のクマ族の乗る大型機へと気合いを発して、みずからもまた正面を睨み据えるネコ族の女子パイロット、イワック・ラー准尉である。
果たしてこの相手方となるこちらはイヌ族の女子パイロット、サラはけんか腰のセリフをやかましく浴びせ倒していた。
「へえ、それって見かけ倒しじゃないんだ? よく動くじゃん! でもその機体、小回りは利くけど直線のスピードはそんなでもないよね? あんた腰が引けてるんだって、せこせこしないで勝負しなよ! あと後方、もっとちゃんと援護しな! それでボーナスなんざ、ちゃんちゃらおかしくておはなしにならないよ!!」
相手までか味方にまでも罵声が飛ぶのがいかにも血の気の多いやり手の女社長だ。するとそれには通信機越しに若い男のクマ族の不本意そうな声音がゴチャゴチャ聞こえるが、一切無視してみずからの正面にひたすら集中!
激しい上下運動をして味方からの援護射撃の射線をかわす赤い機体に狙いをつけた。ギリギリまで距離を詰めての撃破に意識を切り替える。もとよりそのつもりの彼女だった。
そしてこの後方、若い灰色のクマ族のパイロット、ニッシーはにやけたツラで文句を垂れながらも、その両手はいそがしく周りのコンソールのスイッチを軽快な手つきでなで回す。
目つきはぬかりもなく鋭くして周囲のモニターをくまなくにらみ付けていた。元ゲーマーのカンが今が大事な局面、言うなればボス戦であると告げている。初見であろうと遅れを取るつもりはなかった。
「ちぇっ、好き勝手に言ってくれるなっての! こっちはまだ慣れないおニューの機体なんだぜ? おまけにオレは新米パイロットで、じゅうぶんやってるっつうの!! にしても良く動き回るよな? こんなにあっちこっちに動き回られたら狙いもろくにつけられやしないぜっ、ほらだったらもっと圧をかけて動きを止めてくれよ、社長!! んっ……!?」
調子よくガヤを飛ばしている最中にも、不意に正面ディスプレイ上には、このど真ん中に注意喚起のサインと強めの警告音を聞き付ける。
画面ずっと奥に控える敵の大型機が、こちらに狙いを定めているのだとひと目で判断できた。こちらも大型機だからそんなに急激な回避行動は取れない。まだ十分な間があったからさして気にもとめていなかったのだが、算段が狂ったと低い舌打ちする若い灰色熊だ。
「おいおい、気が早いな? まだ有効射程の範囲外だから意味ねえだろ? それともそこからでも届くってのか?? はん、いいぜ、だったらやってやるよ! カモン!! 撃ち合いなら誰にも負けねえっ、やれるもんならやってみやがれ!!!」
ターゲットのロックサインがまだ射程外表示のイエローの十字マークに手早く起動操作をかけて、相手のブサイクな見てくれの茶色い大型ーアーマーに意識を集中!
味方が演じている空中チャンバラは画面の右端に追いやって、みずからのでかい獲物を大写しにしてこの正面に据える。
大型の高出力キャノンは発射から再チャージまで時間がかかるため、無駄撃ちは禁物だ。絶好の機会を狙いながらターゲットに意識を集中。黙り込む室内に無機質な電子音と低いエンジン音がこもる。
ごくりと息を飲みながらこの利き手のトリガーを引き絞るタイミングは、奇しくも相手の大型機とまったくの同時であった。
時を同じく、こちらもまたおのれの真正面のディスプレイに意識を集中する、全身が焦げ茶の毛色のクマ族――
カノンはこれまで地味な灰色だった敵のマーカーが、今やオレンジの点滅をしてこちらにレーダーを集中させていることに、なぜだかちょっとだけ安堵のため息をついていた。
危うく相方のネコ族に怒られるところじゃった……!と、軽く額の汗をぬぐったりもする。
相手方の支援機を牽制するべくこれに狙いを定めたのはいいものの、これがまったくの射程外で全ての操作を機体制御コンピュータから無効化扱いされて慌てふためいていた、ついさっきだ。
言えば完全にしくじっていたが、思いも寄らないことこれにまんまとあちらが応じてくれて、結果、めでたく大型同士のガチンコ勝負の様相になだれこんでいる。
そうでなければ今頃、相棒のアーマーが完全に2対1の構図でピンチに陥っていたやもしれなかった……!
とりあえずでこっちの牽制は成功していたんじゃな!と、内心でほっと胸をなで下ろす若いクマ族だ。改めて正面に据えたターゲットシグナルに意識を注ぐ。
アーマーが自立機動できる限界ギリギリの大気圏高度から落ちてきた相手機と比べて、沖合海面の空母から出撃したこちらは、位置的にやや低いところから敵機を見上げるかたちだ。
長距離の撃ち合いではやや不利な立ち位置をどうやって挽回するべきかと考えながら、無意識にアクセルをふかして距離を詰めてしまい、かろうじて相手をこの射程圏内に納めてしまう。
小さく、あちゃあ!とか言ってしまう根っからのうっかり者だ。そんなものだから相棒には悪いがこちらに専念させてもらうことにする、まだ新米の少尉どのである。
「ん~ぬぬっ、位置が悪いが今からメインのエンジンふかてしまったんじゃ撃ち合いに支障が出るんじゃ! 全てのちからを背中のハイパーキャノンに集めて相手を撃破するんじゃ!! おれはこのおれのガマ・ガーエルを信じておるんじゃあ!!」
気合いを発して、必殺の一撃見舞うタイミングを推し量る。
攻撃は最大の防御!
一撃で決められれば文句なしだが、万一にこれをかわされたら逆にこちらがピンチになる。かわすにも方法はさまざまあり、その場に即した最良の一手を放ち続けたものが戦場では生き残る。
安易なラッキーパンチばかりを望んでいては、最悪ははじめの一手で詰んでしまうのだ。
機体に展開する防御シールドとキャノンのエネルギー調整を意識しながら、命中率がゼロから10%、20%、30%と跳ね上がっていくスコープの中の敵影がくっきりと浮かび上がったところで、思い切って大きな賭けに出る若い新人パイロットだ。
「信じてるんじゃあ! ガマ!! フルパワーであいつを撃破するんじゃあああああっ!!!」
ありったけのパワーを注ぎ込んで、大きな機体がこの右肩に背負う大出力のビームカノンを最大出力で一斉射!!
たっぷり3秒トリガーを引きしぼって、大慌てで回避行動に取りかかった。
手元のメインエンジンの出力ゲージはまだ50%を切ってはいなかったので、比較的スムーズに推進エンジンをふかすことができた。
この時、無理に防御シールドを張ってしまおうものならなおさら機体の高度が下がってしまうと、覚悟を決めて高度を上げる回避機動を取る。相手めがけたビームはまだお互いの距離もあり、あえなく手前でシールドにはじかれてしまったことと、高くから撃ち下ろされた相手側のビームは思いの外に出力不足で、こちらにはその3割も届かなかった結果がはじき出される。
これらの結果を考え合わせてさらに出力された互いの射撃性能値を前に、メガネの奥の目つきが厳しくなるカノンだ。
「むむ、命中率はトントンなのにキャノンの威力があちらのほうが上と出ているんじゃあ! ろくに届いておらんのに! こんなの納得いかんのじゃあ! じゃったらもっと近寄ってミドル寄りのロングから見舞ってやらなければならないんじゃの!? ううん、負けないんじゃあ!!」
見かけの機体構造からはこの推進システムがよくわからない正体不明機に特攻をかけるくらのい意気込みで、シートに踏ん張ったみずからの四肢に力を入れ直す若いクマ族の少尉だった。
メガネの奥でまばたきすることもないつぶらな瞳で一心に相手の大型機に見入る。もはや味方のネコ族の女の子のことなどそっちのけで熱くなるばかりだ。
これに上空から臨む、相手のクマ族も激しく息巻いて野次を飛ばしていた。
「おいおい、せっかく相手してやってるのにえらい肩すかししてくれるじゃねえか? そんなもんなの? だったらおれのこのジンの敵じゃありゃしねえっ! 次で決めてやるぜっ!!」
みずからの機体の堅さ頑丈さ、この防御力が想像以上であることにいささか気が大きくなっているニッシーだ。
ただでさえでかいのにおまけ電磁シールドがガチガチに固くて展開もスムーズにできたのには、ある種のゲームのチートキャラにも似た感覚と快感を覚えていた。
これならヤれる!!
鼻息荒く目の前の敵アーマーを凝視する平社員だ。
社長さんのことはすっかり失念して目の前の敵とのビームの乱打戦にのめりこんでいた。ゲーマーの悪い癖なのかも知れない。
根は小心者でついさっきまではビビってバリアをガンガンに張りまくっていたものだから、肝心のキャノンの出力調整がおろそかになっていたが、今回は違うと前のめりに眼前の大型ディスプレイに張り付く。
まさしくゲーマーの戦闘態勢だ。
「カモンカモン! さあ撃ってこいよっ、今度はばっちりかましてやるから!! そらっ!!」
機体が内蔵した大出力のエンジンの作り出すエネルギーを各部に配置して微調整しながら戦闘機動をやりくりするのだが、おおよそは機体の制御コンピュータ任せでもここぞという時はパイロットのカンとその決断が大きく結果に左右する。
そのここぞの場面がまさに今であり、必殺の気迫を込めて相手機の挙動にかじりつくクマ族ゲーマー、ならぬ、パイロットだ。
じりじりと距離を詰めてくる相手の大型機めは、この決め手の高出力キャノンで勝負をかけてくるのはもはや見え見えだった。
こちらもでかい図体同士でぶつかりあった挙げ句、被害が甚大になるのが決まり切っている格闘戦だなんてものはまっぴらごめんである。大出力エンジンと火薬を満載した大型機をいざ間近で撃破した時の反動と衝撃を考えたら、自機の誘爆を回避するのにもギリギリロングで仕留めるに限る!
この一撃で仕留める!!
そうターゲットスコープに意識を集中している最中、不意に味方機からの通信が入るのに怪訝な視線を向けるクマ族だ。
音声ではなくてテキストで入ってきたその内容は、ちょっと目を疑うような簡潔な一文だった。
「え、撤退? このタイミングで?? なんでだよっ……!」
軽くパニックしかけたところに、相棒の犬族の女子からも通信が入る。
「どうなってる? いきなり撤退とか言ってるんだけど、あんたんとこにも入ってる? あとこれ、どっから出された命令??」
「は? どこからって……???」
てっきりおなじクマ族のあのいかつい隊長さんからのものだと思っていたニッシーだが、その隊長さんはまだよその敵さんと激しいデッドヒートを繰り広げている。
うかうかしていたらこっちもやられるんじゃないかと視線を正面に戻すと、敵の機体もまるで動くそぶりを見せずにぴたりと硬直しているようだ。コクピットに短い警告音が鳴って、ディスプレイの一角に派手な花火が上がるのに、なおさら怪訝な顔で目をしばたたかせる若いクマ族のパイロットだった。
混乱するのは相手の若い猫族とクマ族のコンビも同様だ。派手なピンクの機体相手に派手な空中戦のドッグファイトを演じていた猫族は、後方の母艦からの命令に驚きながらみずからの背後を振り返る。ただの見間違いかと思った命令は、確かに派手に明滅する撤退信号でそれが現実であると知らしめてくれた。よそで撃ち合いに興じているとおぼしきクマ族の相棒に金切り声を発していた。
「どうしてっ、こんな状況で撤退やて! カノンさん!!」
通信機のスピーカー越しに困惑した相棒の声が返ってくる。
「わかっておる、だがええんじゃろうか? こんな状態でっ……!」
どうしたものかと意識が混乱する中で戦況は膠着状態となって両者にらみ合いだ。緊張の糸が途切れた状態で、ただ時が流れてゆく。
そのまた一方、クマ族の隊長、ベアランドは何食わぬさまで混乱と動揺が走る戦場をぐるりと一瞥する。どこともしれぬ空を見ながら出所が不明の命令を了解する。
「艦長……? あっちの艦長さんもものわかりがいいね! だったら遠慮なく、そうさせてもらうけど、あちらさんは……」
絶え間ない猛攻を仕掛けてきた敵の高速機動型のアーマーは一時だけその手を緩めたかと思えば、部下の機体を引き連れて思いの外あっけなく戦域から離脱していく。
「なんだ! みんなものわかりがいいヤツばかりじゃないか? なんだかんだ言って心の内ではわかってるのかねw」内心で笑いながら味方に帰投を促す隊長さんだ。
「今回は軽い顔合わせってところなのかな、新人の若手くんたちには。あっちの若手っぽかったし?」
味方が全機とも戦線を離脱したところでみずからの大型の機体を反転させる隊長だった。
次回に続く……!
#024
Part1
朝から快晴。
打ち寄せる波もいたって穏やか。
言うなれば比較的大型の軍用艦だから揺れなどさして気になることはないが、たまには外に出て日光浴くらいしたいものだ。
なのに周りを金属の分厚い装甲板で囲まれた薄暗いアーマー格納庫の中で、息をつまらせながら待機しているのに若干の嫌気がさす若いネコ族の女子パイロットだった。
油臭く湿った空気は肺に取り入れるのも億劫だ。
どうせならもうみずからのアーマーに乗り込んでしまおうかと待機所からデッキに顔を出す。
外に出るとなおさらに油と金属の匂いが色濃くなるのに眉をしかめながら、細くて長いキャットウォークを早足で音も立てずにするすると渡っていく。
「……!」
見渡す道の途中で見知ったでかい影が立ちはだかるのが薄暗闇にもわかるが、邪魔だなと思いながらそのすぐ手前までつけた。
ビクともしない影はこちらに見向きもしない。
これをじっとその横顔を見上げてしばし無言でみつめるネコ族の女子だ。
あいにくであちらは微動だにしないのだが……。
相手はクマ族のこちらもまだ若い男で、それがのんきなさまでいつまでも突っ立ているのにやがてかすかなため息を漏らす。
大抵が性格のおおざっぱなクマ族だからなのか、生まれつき鈍感なのか、仕方もなしにこちらから声をかけた。
欲を言えばさっさと気が付いて道を開けてほしかったのだが。
もはやいつものことながら。
「カノンさん。道、開けてくれない? こんな細い通路でそんなとこに突っ立ってられたら、邪魔でどうにもならんのよ。ね?」
問うてもまるで無関心なさまに、相手がうすらとぼけているわけではなくてご機嫌に音楽か何かを聴いているのだと気づく。
良く耳を澄ましてみればその口元からいささか調子っぱずれな鼻歌が聞こえるし、左右の耳もイヤホンで塞がれていた。
こいつなめとんのか?
内心でイラッとしながら、ちょんちょんと相手の肘のあたりを指先で小突く女の子だ。
これにようやく相手に気が付いたらしい大柄なクマ族、それもかなりの肥満の部類に入るだろう太っちょのアーマーパイロットの青年は、そこではじめてちょっと意外そうな顔でこのネコ族のパイロットスーツを見下ろす。
それでどうやらやっと認識してくれたものらしい。
やっぱなめとるやん!
見上げるネコ族の目つきが険しくなる。
「……おお、イワック、いたのか? 背が小さいし普段から気配がないからわからんかったのじゃ。で、なにをしておるんじゃ? そんなところにぼさっと突っ立って??」
でかい大男が男にしてはちょっとクセのある高めの声でかなりのんきなさまでぬかしてくれたセリフに、またため息ついてだらだらと文句を垂れるネコ族のイワックだ。
「はあ、それはこっちのセリフなんよね! もう準待機から戦闘待機に変わっているんだから、わたしらパイロットはさっさと持ち場につかなきゃならんのよ。そもそもカノンさんのアーマーはこの下の一番デッキにあるんだから、そっちの通路を使えばいいってわたしいつも言ってるはずよね? あっちのほうが道幅も広いし!」
責めるような目つきと言葉つきできつめに言ってやるが、相手の神経ことさら鈍感なクマ族はまるでひとごとみたいにえへらとかわしてくれる。まるで気にしたふうがないのが丸わかりだ。
ネコ族のイライラゲージがまた一つ上がった。
「おお、悪いがこの下の通路はメンテのキョカスが使うからほぼ一方通行なんじゃ。あいつはおれよりもでかくて太っちょるから、これと鉢合わせたら引き返す意外に道がないんじゃ。ちょっと遠回りだけど確実なルートだから、それにこの高いところからの景色がおれはとっても好きなんじゃあ!」
「はあ? おかげでカノンさんの専用道になっとるがね! わたしが迷惑してるんよ、何度言ったらわかってくれるの? あと景色って、こんな薄暗くて殺風景なアーマーデッキじゃ、見るものなんてなんにもありゃしないがね。ほんとにあきれるくらいにのんきだよね? そんなんでこの先一緒に戦っていけるのか、ほんとに不安になってくるよっ……!」
思わず嘆いてしまうネコ族の女子に、とことんマイペースのクマ族どんまい男子はどんとみずからの胸を叩いて大口叩く。
「ははん。心配ないんじゃ、イワックは心配性が過ぎる。ネコ族はほんに小心者ばかりじゃの! おれのようにゆったりかまえていないと、何かにつけて神経をすり減らして戦場では生き残っていけないのじゃむしろ。心配せんでもおまえの背中はこのおれがきっちりと守ってやるのじゃあ!」
「口先だけで終わる時があるからこわいんよ。ああもう、後衛よりも前衛のほうがより危険にさらされるし、致命打も受けやすいのもほんとに理解できてるんかね? このわたしが敵にやられて落とされちゃったら、次はカノンさんの番なんだよ?」
「その時はその時じゃあ! 地獄でまた会おうなんじゃ!」
「ああ、もうほんとに……! あのさ、せめてあの世にしてよ。天国とか贅沢言わないから! はあっ、もういいや、さっさと戦闘配置につこうよ。どいて。邪魔だから。はじめに出るのはでかくて足がのろいカノンさんのアーマーでしょ?」
これ以上やりあったら頭の回路がショートしてしまうと内心のイライラを必死に押さえて不毛な立ち話を終わらせるのに、相手ものんきなさまで鷹揚にうなずいてくれる。
「おう。おまえの出撃ルートはきっちりとこのおれが確保しておいてやるんじゃ。ほんに腕が鳴るのう! バリバリの新型機を拝領して今日がようやくの実戦なんじゃから、このおれたちは? 言ったらコンビでそろって初陣なんじゃな! 記念すべき!!」
「初陣……なのかな? あんまり実感がないけど、慣れない実験機の演習死ぬほどやってきたから! それじゃとにかく頑張ろうね。あたしの背中、カノンさんに任せるよ。間違えて撃ったら許さないからね? 大事な時にいつもテンパるんだからさ」
「おわわ、化け猫のたたりは勘弁ねがうんじゃあ! イワックは本当に化けて出て来そうだからこわいんじゃ。でもその時はおれも死んでる可能性が高いから、やっぱり地獄で会うんじゃな? わざわざ化けて出なくてもばっちし会えるんじゃ!」
「だから地獄はやめようよ。あと縁起でも無いこと言わないで。わたしこんなところでさらさら死ぬ気ないし。もういいからとにかくがんばろ」
しまいには肩を落として微妙な顔つきの相棒に、片や明るい笑顔でおう!と応ずるクマ族のカノンだ。それがくるりと大きな背中を向けてのっしのっしと通路を揺らして歩いて行く。
でかい影が隠していたじぶんの機体へのタラップをようやくこの視界の中に取り戻して、そちらに向かいながら相棒のクマ族の背中に言葉をかけるネコ族だった。
「カノンさん! 耳のイヤホンちゃんと取りなよ! それ付けたまんまじゃ艦長に怒られるからね? 軍の規則で私物の持ち込みは禁止になってるでしょうに、アーマーのコクピットにはさ!」
おう!と片腕上げて気楽に応ずる背中がそのまま暗闇に溶けるのを見送って、タラップをタッタと早足で降りるとその先でキャノピーの大きく開かれたみずからの機体にただちに身を滑り込ませるイワックだ。
後からバタバタと忙しい足音が聞こえるのに、今頃になってメカニックたちが駆けつけてきたのかとこれを横目で見ながら、さっさとコクピットのキャノピーを閉じた。
今の今までのんきにタバコだとかを吸っていたのだろうから、ヤニ臭い匂いをかがされるのはゴメンである。
どうして男ってこんなんばっかりなんだろうと恨み言こぼしながら、出撃の時を待つネコ族の女子パイロットだった。
Part2
耳にガンガンと響くかまびすしいサイレンが、広いデッキ内に延々とこだまする。
だが外部から分厚い装甲で隔離密閉されたアーマーのコクピットの中は、穏やかな静けさに包まれていた。
ようやく気を落ち着けてみずからのパイロットシートに身をゆだねるネコ族の女子パイロットだ。
そのイワックは、今は澄ました顔でただ目の前の大画面のモニターディスプレイを見つめていた。
よくよく耳を澄ませばこのコクピットのキャノピー越しになにやらガヤガヤとした気配や声らしきも聞こえてきたが、もはや何もないものとして完全に無視する。
どうせろくなものでもないのだろうから。
良く見知った間柄のメカニックマンたちが無駄な気勢を吐いているだけに違いない。
そういわゆる体育会系男子のノリで。
正直、付き合ってやる気分じゃなかった。
折しもそこで短い警告音が鳴って、アーマーの出撃シークエンスが開始されたことを知らされる彼女は、しごく落ち着いた心もちでディスプレイに映し出される景色のみを眺める。
軍用艦としてはとかく特徴的なでっぷりとしたフォルムの中規模航空母艦は、このアーマー射出カタパルトが艦の中央にひとつだけ据えられており、まずはこの遮蔽されたアーマー・デッキの先端部分に大きな口がガポリと開いていくのがわかる。
暗闇に太い光りの束が差し込み、画像を拡大すればその先に青い空と海がまぶしく広がるのがわかるだろう。
それがつまりはアーマーの出撃時の発射口で、カタパルトはこの内部から外へとジェットコースターのレールのようにまっすぐ長くせり出すのだった。
それに機体を預けて果ては強力なGを受けながら一瞬にして青空の彼方へとたたき出されるのだが、大気との摩擦抵抗で激震する機体の安定確保や減速なしでの最大戦速機動などはおよそ一朝一夕にできるものではない。
新型の機体でようやく満足な出撃アプローチができるようになったイワックは、じぶんよりも大型のアーマーで今しもそれに臨もうとする相棒のクマ族の機体を無言で見つめていた。
じぶんの乗る機体よりも下側のデッキに固定された全体がやけにゴツゴツとしたいびつなカタチのアーマーは、その機体各部の固定ボルトを外されて、まさしくデッキ中央のカタパルト射出台へとそのでかい身柄を移送されていくところである。
出撃まではおよそ秒読み段階。
発進コースクリア、機体、カタパルトともにオールグリーンのパイロットランプが表示されるのも横目で確認。
まずは先行して出撃する同僚に、行ってらっしゃい!と心の中で激励するネコ族の細めた目元がだがわずかに見開かれる。
直後、すっかり静けさに満ちていたはずコクピットに、その大型機のコクピットからの通信回線が開かれた。
出撃間際なのに。
それだから出し抜け耳朶を打つ甲高いハイトーンボイスに思わず面食らうネコ族の女の子だ。
「ああー、こちら、ガマ・ガーエルのカノン! おい、イワック、聞いておるか? なんだか静か過ぎて息が詰まるんじゃあ! ちょっとはしゃべってくれんかのう? でないと出撃をミスってしまうかもしれん、おれはこう見えて繊細な心の持ち主なんじゃ! とってもとってもデリケートなんじゃあ!!」
「はっ? 知らないよ! めちゃくちゃしゃべっとるじゃん! あのね、そんなんじゃ舌噛むよ? いいからさっさと行ってよ、後がつかえているんだからさ!!」
「そういういらちは戦場では孤立して往生するんじゃが! もっと気を楽にして臨まないと、実力の半分もだせんのじゃろう? 気が強くとも緊張しいなんじゃから、おかげで後ろから見てるおれもガチガチにテンパってしまうんじゃ! 射撃精度がだだ下がりなんじゃあ!! たのむ、おれを安心させてほしいのじゃ!」
「ほんとに知らないよ! そんなのカノンさんの勝手な都合じゃん、わたしにどげんしろっちゅうのよ? ああ、もうっ、ここで言い合っても仕方ないんだからさっさと行ってよ! 行って! でないといつまでたってもこのわたしがっ……!」
出撃前からしょうもない言い争うになってしまう若気の至りの若者たちだった。
だがすると不意の短い警告音が鳴って、これを仲裁するべくした第三者が忽然と現れる。
真正面のディスプレイに四角く開いた窓枠にバストアップの大写しで現れた犬族の士官の姿に、ハッと緊張するイワックだ。
落ち着いた真顔にかすかな笑みを浮かべるベテランの上官はこの戦艦の艦長で、詰まるとこで場を仕切る最高責任者である。
これまでのやり取りがダダ漏れで筒抜けだったのがわかって、内心でバツが悪い思いに駆られる根が真面目なネコ族の准尉は、これに反射的に利き手で敬礼をしてしまう。
空いているほうの手でさりげなくパネルを操作してこの見かけ渋い中年イヌ族の隣に同僚の若手パイロットのクマ族を並べてやるが、すると思ったとおりぼけっとしたさまで口が半開きのでぶちん丸メガネの少尉どのだった。
おい、ちゃんとしろよ、デブ!
内心でヤジって表面上は落ち着きはらった体裁を取りなす。
そんなじぶんの内心を見透かしたかのようなかすかな苦笑いを目元と口元に浮かべる艦長のシブおじは、怒るでもなくむしろおどけたふうなやんわりした口調でスピーカーを震わせてくれた。
「……フフッ、ほんとに元気なぼうやたちねぇ? 失敬、ひとりおじょうちゃんもいたものかしら? で、あなたたち、出撃も何もまずは艦長であるこのわたしに挨拶するのがスジなんじゃないの? ブリッジの出撃命令も聞かずに出ていっちゃうつもりなのかしら? この状況もろくすっぽわからないまんま??」
「あっ、いやあ……!」
「ほうれ、だから言ったんじゃあ! 短気は損気じゃって!!」
「言ってないよ! カノンさんは黙ってて!! 艦長、お言葉ですが敵がこちらに向かってくるとの情報を得ての出撃だと聞いております。ならばなるべく迅速に出撃して、これを速やかに迎撃するのが得策なのではないかと考えられますが……!」
大まじめに思ったことをまんま率直に言ってやるに、モニターの中の渋い中年士官はちょっと意外そうにこれを聞いてくれる。
「あらま、ほんとにいらちなのね? まあいいわ。あなたの言ってることもちろん間違いではないけど、急いてはことを仕損じるとも言うのよね。ふたりともちょっと深呼吸してお聞きなさい」
「はい……?」
何やらもったいつけた相手の言葉に、きょとんとした目で見上げるネコ族の女子なのだが、対して相棒のクマ族などはすっとぼけたさまで生まれついての天然ぶりを発揮させる。
ただちに相棒ににらみ付けられた。
「ならおれはもう出てしまってもいいじゃろうかのう? さっきからカタパルトがゴーサインを出しっぱなしなんじゃが?」
「カノンさん! 空気読んでよ! リスタートすればいいじゃんさっ、艦長の話を聞いてからでいいでしょうがっ!?」
「ふふ、まあそんなに大した話じゃないのだけどね。そう、このわたしからあなたたちに言うべきことは、ベストを尽くすこと、決してあきらめないこと、そしてどんな手を使ってでも生き延びることよ。あなたたちの代わりはどこにもいないんだから、ね? ちゃんとここに生きて戻ってこられたなら、それだけで後はもう何も望むことはないわ」
「はい??」
てっきり迎撃するにあたっての作戦概要や敵アーマーの諸元などが指示されるのかと思いきや、なんだかやけにおっとりとした言いようでぼんやりしたオーダーである。
これにはじめ目をパチパチとしばたたかせてしまうイワックだった。
優しいまなざしのおじさんの隣で、同僚のクマ族もぽかんとしたありさまだ。
言わんとしていることはわかるのだが、あんまり戦場を陣頭指揮する司令官の口から出たとは思えないゆるいお題目である。
「ま、平たく言っちゃえば、テキトーでいいから死なない程度に頑張って、今をどうにか乗り切りなさいってお話よ。戦場は誰しも命がけだけど、実際に命を落とすのは馬鹿らしいってこと。ね、この意味、あなたたちにもようくわかるでしょ?」
果ては完全に肩の力の抜けたさまでひょうひょうとぶっちゃけ発言かますそれは大ベテランのイヌ族艦長だ。
対してちょっと当惑したさまでこの目をひたすら白黒させるネコ族のパイロットだった。
「え? ちょ、なんですかその軍人らしからぬふざけたもの言いは? テキトーって、上官が言ったら一番ダメなワードでしょ! ハザマー艦長はいっつもそうやってちゃらんぽらんだけど、もっとまじめにやってくれないとわたしたちが困りますよっ、遊びで戦争してるわけじゃないがね! だってこどもの遠足とはものがちがうでしょうが!?」
「ま、遠足でひとは殺さないものね? 死ぬこともないし」
日頃からとかくひょうひょうとしておどけた態度口ぶりがデフォルトの食えないおじさんに思わず噛みつくが、相手はニヒルな笑みで口元をニッとゆがませるばかり。
カノンが天然発言するのもむなしく響いた。
「いいや、おれはそんなハザマー艦長のゆるいところとっても好きじゃあ、頭ごなしに言われるよりよっぽど腑に落ちるし、元気が湧いてくるんじゃが? 出撃はちゃんと母艦に返ってくるまでが出撃なんじゃ! イワックもそうは思うわんのか?」
「それは遠足のときに校長先生が生徒に向かって言うヤツだよ? ここは戦場なんだから、そんなゆるいノリじゃ乗り越えられるはずないんよ。もういいよ、さっさと行って、カノンさん!」
「おう、いいんじゃが? 何を不機嫌になっとるんじゃ?」
「いいから!」
プイと横を向いて視線を逸らす同僚の女の子に、きょとんとしたさまでクマ族は艦長のイヌ族と画面越しに目を見合わせる。
ひどい苦笑いで頭の帽子のツバを目元へと落とす艦長のハザマーは、片方の細めた目だけでふたりを見て意味深な口ぶりだ。
「ほんとにいらちなおじょうちゃんね。でも無理はしないで、欲張らずにやれるだけのことに努めるのよ? 今回はそれで十分。こちらの有効射程ギリギリいっぱいで迎撃機動に専念、決して深追いはしないこと……! ふたりともくれぐれも気をつけてね。それじゃあ、いってらっしゃい!」
「なっ……!?」
それって、家を出るこどもにオカンがいうことやがね!
内心でもやもやがイライラに変わる渋い面のイワックに、今しもカタパルトを大空へと走らせる相棒のカノンが追い打ちする。
「よっし! そいじゃあ、カノン、ガマ・ガーエルで出るのじゃ! 頑張って元気に、行って来まあああ~~~すっ!!」
「ああもうっ、すっかり遠足のノリになっとるがね! こっちはすぐ横でメカニックたちがどんちゃん騒ぎしてるし!! まじめなやつがひとりもいないがね!!」
「ふふふ、あなた、そんないらちだとケガするんじゃないの?」
「しません! それじゃあイワック、アマ・ガーエル、カノン機に引き続いて行ってまいります! とっとと出撃するがね!!」
いつもより短いスパンで出撃する二機のアーマーコンビ。
これを今はモニターではなく肉眼でブリッジからこの航跡を見やる艦長のハザマーだ。
苦い笑いはそのままに、ふと視線を落としてふたりに問いかける。通信はとうに切れたままにだ。
「こんな不甲斐ない艦長さんでごめんなさいね。でもね、あなたたちの悪いようにはしないから。約束する。わたしはね、疲れてしまったのよ。あなたたちのような前途ある若者たちが戦場で力尽きていくのを見続けることに……! だから、そう――」
手元の小型ディスプレイにいくつかの画像を映し出すイヌ族は、そこに虚無的な目線を投じてひそかな決意を吐露した。
「どんなにわずかな希望でも、それが決して許されないことであっても、それに賭けることにしたのよ。わたしはね? この意味のない長い戦いをここで終わらせるために。だから生き延びてちょうだい、今のこの時を、道は必ず、あるはずだから……!」
静かに手元のディスプレイを閉じるハザマーは、それまでにない険しい視線で部下たちの消えて行った遠い空を見上げる。
どこまでも晴れ渡る青い空に、刹那、二つのきら星がかすかなまたたきを見せたか?
若者たちの戦いが今、はじまった――。
オマケ
※カノンくんのメガネなしバージョンですw
Part3
灼熱の大陸のすべてが乾いた内陸平野部から、目指すは、はるかな海岸線のさらにその先、水平線の向こうまで……!
この機体をひたすらまっすぐに北上させていたクマ族のパイロット、ニッシーは、やがて手元のディスプレイが表示するレーダーサイトに次次と現出する反応をそれと察知!
海岸線もすぐ間近の高空に、複数のアーマーの機体反応をレーダーが検知したことを短い警告音とともに認識する。
おのれから見ておおよそ北西、厳密には北北西の方角か?
その高度にしておよそ1,500から5,000メートルの間で、複数の赤やら青やらの点が、明滅しながら複雑に交錯している。
青や緑は友軍機、それ以外の赤やオレンジは敵軍のそれだ。
周囲のモニターがただちにそれら複数のデータを表示するのをマジマジと凝視して、それらがやはり友軍の機体と敵軍のものだとはっきりと識別。
大空を舞台にすでにそこでは熾烈なアーマー同士の戦いが行われているのを、目の前のメインモニターでも視認する!
戦いの様子を克明に映し出す映像を食い入るように見ながら、すっとんきょうな声をあげる新人のクマ族パイロットだ。
「わお! 見ろよ社長っ、もうはじまってやがるぜ! すげえ派手にやり合ってんじゃん? おまけにどれも見たことないアーマーばっかじゃね? おっかね、あんな中に混じってやんのかよ、おれたち??」
「バカね! あんな中もこんな中も、やるしかないじゃない? そのためにアーマーに乗ってるんだから、ここ戦場よ? まさか今さら臆病風に吹かれたなんていいやしないわよね?」
ちょっと面食らったさまでおどけた口ぶりする社員に、だが雇用主の女社長は、その本気なんだか軽口なんだかわからない文句をあっさりとはたき返す。
若いくせ、静かな口調ながら有無を言わさぬ迫力があった。
当のクマ族は苦笑いでペロリと赤い舌を出す。
まだ余裕はあるようだった。
「へへ、さすがにブルっちまうよな? ゲームと違ってやり直しがきかないってあたり! 遊びと実戦は違うって言うけど、やっぱりそうなんだな? ちょっと足下が震えてやがるぜ……!」
「それって武者震いってことでいいのよね? わざわざ高い金かけて高性能なアーマーを一式そろえてやってるんだから、無駄になんてするんじゃないわよ。それに前線に立つのはこのわたしで、あんたは後ろからネチネチとタマ撃ってればいいんだから、ビビることなんてないでしょう!」
それぞれの機体特性から、女社長の高機動型アーマーが前線での攻撃機動全般を担い、平社員の新米くんが間接攻撃を主体とした大型アーマーでの援護射撃と防御機動に専念するユニット運用とは、あらかじめに決められていた。
目の前のアーマーバトルがあまりに激しいものだから、これに横槍を入れるタイミングが掴みかねたが、意を決して地獄のさなかに突撃しようと操縦桿を倒し込むイヌ族の女戦士サラだ。
だがその出鼻を部下のクマ族、ニッシーのとぼけた調子でくじかれてしまう。いまいち緊張感のない新米パイロットだった。
「……あ、ちょっと待った! なあ社長、良く見たら反応ほかにもあるけど、これって敵じゃね? レーダーのサイト最大に広げてたからたまたま拾っちまったけど、このふたつ、そうだろ?」
「え? 待って、そんな反応こっちには……!」
およそ一時くらいの方角とあいまいなことを言われて、はじめ怪訝な顔でそちらに視線を向けるサラだが、すぐにもみずからのレーダー内にもその敵影をキャッチして目つきが鋭くなる。
新手の出現を確認!
二つの反応が出て来た方角から、沖合の洋上に母艦があるのだろうことを推測しながら、舌打ち混じりに思案を巡らせる女社長だ。部下の平社員がまたもとぼけたことを言うのに、はっきりとこの寝ぼけた提案を却下する。
「なあ、このままそっちに混ざっていいもんなのか、おれたち? めんどくさいからあっちのはパスってことで??」
「は? ダメに決まってるでしょう! それじゃまんまと敵にこの背中をさらすことになるじゃん! あっちはあっちで盛り上がってるから、こっちはこっちで好きにやっちまえばいいのよ、その場の判断はじぶんでつけるようにいわれてるんだから?」
いいざま機体を反転させる雇用主の女イヌ族に、これをすんなりと受け入れるクマ族の若手は、手元のディスプレイ表示を見比べながらにげんなりしたさまで応じる。
「おいおい、こっちのも見たことねえ機体だぞ? どっちも機体識別がイエローのアンノウン、ノーデータだってよ! コクピットシステムの予測計算や操作補助があてにならねえじゃねえか? サイアクだぜ!!」
「バカね、それはこっちもおんなじでしょ? 戦場ではじめて確認される機体同士、望むところじゃない! 近くに母艦がいるかもしれないから、そっちも考慮に入れながら先制攻撃でアタックかますわよ! ほら、平社員、さっさとついてきな!!」
「ヒラってなんだよ! 早いって!! 社長っ、こっちはこんなおデブちゃんなんだから、ねえ、ちょっと待って!!」
奇しくも若手パイロットのコンビたちがこの広い戦場で遭遇、激しい戦いの火花を散らせることになるのだった……!
Part4
ビーッ、ビーッ、ビッビビーーーーーッッ!!
アーマーのコクピットにしては比較的広いキャビン内に、けたたましい警告音が立て続けに鳴り響いた!
断続的かつ、頻繁になされる高音質のアラートに、だがさして慌てるでもなく手元の操縦桿を握って、目の前の大型ディスプレイに冷静な視線を巡らせるパイロットのベアランドだ。
てっきりこの中央大陸北岸の海岸線を真下に見下ろしながら、敵アーマー部隊とは真正面から会敵するものと思っていたのが、まさかの背後からの急襲を受けてしまう。
これにいささか面食らいながらもバカ笑いしてみずからの身体をくくりつけたシートをギシギシと揺らすクマ族の隊長だった。
すさまじいスピードで目の前の広いモニターの視界を左から右へと彗星のごとくに駆け抜ける、ひとすじの真っ白い軌跡……!
その先にかすかにきらめくのは、それは見慣れた敵の機影だ。
果たしてこれが何度目の邂逅か?
みずからの出身である東の大陸を出てこれまですっかり常連さんになった強敵の白いギガ・アーマーの勇姿を前に、目を見張ってさも感心したような声を上げるベアランドだ。
明るい声色がどこか楽しげですらあったか。
「わはは、いつにもまして速いな! おかげでターゲット・ナビゲーションの補正がちょっと追いつかないよ! さてはまたエンジンをチューンナップしてきたんだ? ただでさえバカでっかいエンジン積んでるくせに、毎度毎度ごくろうさま♡」
一瞬でこの機首を切り返し、またあらぬ方角へと大空を切り裂くジェット・フライヤー、と見せかけて、実は人型のロボットにも変形する何かとクセ者の敵アーマーだ。
乗っていたのは確かキザなもの言いの若いキツネ族だったかと思い返しながら、ぬかりなくみずらの大型アーマーを左に回頭させる。
途端にディスプレイの端から端を一気に過ぎ去る白い影に、たまらずにヒュウっ!とおどけた歓声を発してしまった。
これは並のアーマーとパイロットでは太刀打ちできないな!と心底感じ入る、こちらも並大抵ではないエースパイロットだ。
「まったく楽しいったらありゃしないな! あの手この手で絶対に飽きさせてくれないんだから。部下たちのヘンテコなアーマーもそうだけど? こっちも奮発して歓迎してあげないとね!」
ペロリと舌なめずりして目の前の視界を縦横無尽に駆け巡る敵アーマーに、自機のハンドカノンの狙いを絞るベアランドだ。
そのクマ族の隊長に、おなじくクマ族のベテランパイロットが通信を入れてきた。もとより回線は開きっぱなしだったので、あちらにもこちらの様子は筒抜けだったのだろう。
赤毛のおじさんパイロット、ザニー中尉が音声だけでのんびりした言葉を右側のスピーカーから発してくる。
「ほぇ、なんややけに楽しそうですなあ、隊長? ぼくら遊んでるんとちゃうはずなのに。まあ、こっちも楽しませてはもらってはりますけどぉ」
「ほんまにしつこいわあ! いっつもおるやん、青やら赤やらようわからんアーマーが? オレら目の敵にされてるんちゃう??」
「かもね♡ そっちはそっちでふたりにお願いするよ。こっちはこっちでやっておくから。敵さんもそのつもりだろうし、新手が来たらこっちにも新人のおふたりさんがいるわけだらかね!」
左右からのおじさんたちの声を聞き流しながら、したり顔してうなずく若いクマ族の隊長。手元のレーダーサイトの片隅でまた新たな反応がポツポツと出始めるのを目の端でそれと視認する。
だがそれらにはさしたる興味もなさげに目の前にのみこの意識を集中していた。
それにまたザニーがいつもののんびりしたもの言いでありながら、何やら渋めた声つきをくれる。
「噂をすれば影でまたチョロチョロと出てきはりましたなぁ? ようわからん機体が? これ新型ちゃいます? 敵のデータに照合きかんのがふたつ、でもふたつだけなんや。隊長ぉ、これ新人くんたちに任せてもうてええんですかぁ?」
「うん。まあ、こっちも新型なんだろうから、いいんじゃないのかな? あいにく新人くんの面倒を見てやるほどの余裕はないし、敵さんたちが許してくれないだろうしね? 何事も油断禁物! そろそろ無駄口たたかずにまじめにやろう♡」
「ほえ、どの口を言うてはるのやら? まあそれならぼくらもそうさせてもらいますわ。通信は閉じますよって、なんかあったら呼んでもろうて、それじゃあ……!」
ちょっと言葉の端に何やら含ませるおじさんの声が途切れるが、やはり気にするでもなくモニターに集中する隊長さんだ。
「いい調子だな、まあ所詮は茶番なんだけど、それでもそれなりにやってやらなけりゃね? ぼくらが戦う意義は、もっと違うところにあるはずなんだから、その時まではね……!!」
刹那、上方から一気に急降下する敵機からの激しい銃撃が降り注ぐのを、真顔で見上げて周囲のコンソールを手早く操作してこれを間一髪でやり過ごす。
ただちに周りから距離を取るべく機体の高度を上昇させた。
隊長同士、一対一の戦いに持っていくべくにだ……!
他方、隊長機との通信を終えてそれぞれの任務に転じる赤い機体のアーマーの中で、普段からむっつりした顔が、今はどこか余計にむすりとしたおじさんのベテランパイロットに、この横合いから青いアーマーの灰色グマのおじさんが言った。
「きよるできよるでぇ、敵さん! ……ん、どしたん?」
長年の仲だから何かしら感じるところがあるのか?
それとなく聞いてやるに、通信機越しにはどんよりした気配が返る。
「……なんも。ちょいかんに障っただけや。まじめにやらなあかんのは、誰のことやっちゅうおはなしやろ、ほんまに……」
「?」
音声だけではくみ取れずに相手の顔を画像で確認してやろうかとするダッツ中尉だが、ディスプレイが発する耳障りな警告音にすぐさま意識をそちらに持って行かれる。
直後、青と赤同士のアーマーコンビによるタッグマッチがただちに広く際限のない青空の下で繰り広げられる。
その戦い火花は、また一方で新型同士のアーマーたちへの戦いへとも伝播していった。
※次回に続く……!
ニッシー、サラ(高度説明、フィート?→方位は360にして、Ftにするたとえば方位335 高度5000ft?) → カノン、イワック → ベアランド、ザニー、ダッツ
プロット
カノン、イワック登場。戦艦航空巡洋艦「ガーエル」
メカニック、ネコ族男イットス(相棒はイヌ族男、ハッター)、クマ族?男キョカス、ネコ族?男サーダイ
臨戦態勢→出撃→海上で会敵(サラ、ニッシー)
#023
Part1
翌日、正午過ぎ――。
第一小隊への出撃命令は、予期せぬタイミングで発令された。
これと行く当てもなく本国を出航した大型巡洋艦は、今やしてどこにも歓迎されることもなく、ただ虚しく時間を過ごすのみかと思われていたのだが、人気ない砂漠で休めていたその羽根をふたたび大空へと羽ばたかせることになる。
アーマー隊の緊急出撃で慌ただしくなるハンガー・デッキで、既にみずからの大型の機体のコクピットで戦いの準備につく若いクマ族の隊長だ。
太いベルトでみずからの身体をがっちりとシートにくくりつけるベアランドは、いつでも出撃ができる臨戦態勢のままでブリッジに通信回線を開く。
「こちら第一小隊隊長、ベアランド。ブリッジのンクス艦長に通信求む! いいかい?」
はっきりとマイクに向けて言ってやるのに、さしたる間もなくあちらからはやけに渋い老人の声で返事が返ってくる。
「……何だね? ベアランドくん」
その返事とほぼ同時に目の前の大型ディスプレイに当人の顔がバストアップで映し出された。
大ベテランの老年のスカンク族の艦長だ。
それが真顔でこちらを見ている絵面に臆することもない若いクマ族のエースパイロットは、まっすぐに見つめながらもの申す。
「いくらなんでもいきなりすぎるんじゃないのかい? いきなり艦を離陸させた挙げ句、何の説明もないままに出撃だなんて? そもそもでどこに向かうのかも、標的が何なのかも知らされてないんだけど、ぼくたちは?」
若干の呆れみたいなものがうかがえる表情と声つきで言ってやるに、真顔を少しも崩すこともないモニターの中の上官どのは、しれっとしたさまでまたもや不可解な言葉を返してくれた。
「ああ、それは今現在、検討中だ。おおよそで向かう先は決まっているのだが、もろもろの都合でこれを変更せざる負えない場合もある。パイロット諸君には手間をかけるが、それぞれ状況に合わせて最善の行動をしてほしい……!」
「え?」
これには思わずきょとんとしてモニターの中のスカンク族をマジマジと見返してしまうクマ族の隊長だが、周囲のスピーカーからもおなじような反応の声が、次次とだだ漏れてきた。
「ほええ、決まっとらんのかい? でもそやったら、隊長、ぼくらどこで誰と戦えばええんですかぁ?」
「アホちゃう? わけわからへんやんけ!」
「ぶううっ! だったらなんでわざわざ離陸したんだぶう?」
他の隊員たちからのもっともなブーイングに、ブリッジにまで聞こえてなければいいんだけどなと思ったのもつかの間、しっかりとそれについての反応が返ってきた。
ただしこちらは艦長ではなく、通信士の若いイヌ族のそれだ。
「いやいや、みなさんお言葉ですがね、こちらとしてもこのままでは艦の補給もままならないし、潮時なのは確かなんですよ! 何より……その、アストリオン政府からの正式な要請でありますし、周辺の自治都市群からの強い要請でもあります!」
「え、それって、もうぼくらに用はないからとっとと消え失せてくれって、そういうことなのかい? 昨日の今日で?」
ちょっと唖然とした隊長のクマ族の言葉に、また別の場所からリアクションが返ってきた。
こちらはこのデッキフロアのコントロール・ルームから、いいトシのおじさんのクマ族のメカニックのそれだ。
「おいおい、つい先日、どこぞの街に出没した反乱軍の残党のアーマーどもを駆逐してやったのは、このおれたちだろう? 用済みだからって、はい、さよなら!は、あんまりなんじゃないのか? 文句言ってやれよ!」
これもブリッジにダダ漏れなんじゃないのかと内心で思いながら、この意見自体はこちらにしているのだろうからあっけらかんと返してやる。
「誰に? まあ、でも用がないのはお互いさまなんだから、別にいいんじゃないのかな? こんな大食らいの戦艦、補給のことをマジメに考えたら、もっと資源が豊富で物流のいいどこかの港湾都市あたりにつけるのが、やっぱり妥当だと思えるし……」
半ばから真顔で考え込むクマ族の隊長さんに、ふたたびブリッジの御大将から渋い調子のセリフが告げられてきた。
「無論、そのつもりではある。ただしこの行く先はかなり限られるのだが……!」
重たい言葉の続きを、若いブリッジのクルーが引き継いだ。
「ああ、候補地としてはいくつかあるのだが、その最有力であり、この大陸の西岸域で一番大きな港街である、ベリファには直接つけることを拒否されている。そのためこの比較的近隣に所在する、いずれかの港湾を目指すことになる予定なのだが……了解、願えるだろうか、ベアランド少尉どの?」
艦長や通信士ではない第三者の声に、長らく不在だったこの艦の副艦長どののイヌ族のそれだと気がついて、自然とその口元のあたりが苦くほころびる隊長だった。
いろんなことを考えてしまう。
「そうか、大陸の西岸域は現政権に反旗をひるがえした新興勢力の本拠地があって、これと紛争が激化中だから、ヘタに刺激したくないんだよね? 確かにこんな大きな軍艦があからさまに出て来たら、敵も身構えるってもので! アストリオンとしても都合が悪いんだ? つまりは決め打ちなのかな、これって?」
副艦がこれまでどこで何をしていたのか、いろいろと勘ぐってしまうが、そこはあえて聞かずにぼやかしておく。
そもそも永世中立を謳うこの国がやすやすとこのよそ者のじぶんたちを受け入れたのは、何かしらの裏工作とさまざまな目論見があってのことなのは容易に予測ができた。
それこそが本来の進撃ルートでは立ち寄ることなどなかったはずの土地なのだ……!
「とりあえずはこの中央大陸の北西方面に向けて、ぼくらはこの艦の護衛としてこれを警戒警護、エスコートすればいいってわけだ。それにつき敵は出るか出ないかわからないとして?」
ざっくばらんに今回の出撃内容をまとめてやるに、ブリッジから通信士のイヌ族による補足説明がまたぬかりもなく入った。
「ただしですね? このアーマーによる戦闘は、本大陸、えー、つまりはアストリオン領空領土内ではなく、極力この外で、えー、つまるところ領海、できれば公海上でやってほしいとのことであります! えー、えー、できますでしょうか?」
この顔を見なくてもかなり当惑しているのがわかるビーグル族のどこかうろたえたような言葉に、目がいよいよ丸くなるクマ族のエースパイロットだった。
「え、それ、いくらなんでも注文が過ぎるんじゃないのかい? 公海上って、そこに出るまでに遭遇しちゃったらどうにもならないし、だったらこの砂漠地帯でやり合ったほうが話が早いよ。誰にも迷惑かからないってあたり。敵がこっちの都合に合わせてくれるのなら別だけど?」
周りのスピーカーがまたもざわめくのを気にかけながら、正面に映るスカンク族の艦長の顔を見やったところ、相変わらず真顔の老人は澄ました顔で言ってのけた。
「この艦の存在自体が迷惑だと認識されている、と言ってしまえば元も子もないのだが、わかるだろう。とにかく本艦は、これより最大戦速でこの大陸の北の公海上まで直進。その後に艦の安全を確保しつつ、受け入れ先の港湾都市に接岸する。以上だ」
「受け入れ先が見つからなかったら?」
「その時は、その時だ。案ずるより産むが易し、とにかくやってみるより他あるまい。諸君らの健闘を祈る」
「あーと、そっちの副艦さんはいったいどんな交渉をアストリオンのお偉いさんがたとやってきたんだい? さすがに、あっ!」
かなり強引に話しを打ち切ろうとする艦長に思わず食い下がるアーマー隊の隊長だが、あいにくと通信自体が強引に断ち切られてしまった。
目の前のウィンドウが真っ暗な砂嵐となり、変な間があいて、仕方も無しに周りのスピーカーに問いかけるベアランドだ。
「……てことらしいんだけど、みんなわかったかな? えー、とにかく大急ぎでこの大陸から出て、そこで場合に寄ってはアーマーバトルなんだって! この隊長としては、そんなのいないことを願うばかりだけど……!」
周りからはなんとなく疲れたような声が届くが、気を取り直してコントロール・ルームに声をかけるベアランドだ。
「ま、てことで、ただちに出撃の準備を頼むよ! 今回は新顔さんが二名ほどまざっているから、そこらへんも気をつけてお願いするね! リドルに、イージュン!!」
するとコントロール・ルームからはただちに了解の応答と共に、テキパキとしたアーマーの出撃シークエンスへとデッキ・オペレーションが移行される。
自分の機体が格納されたハンガー・デッキの対面にあるデッキの大型の機体がロックを解除され、まずは出撃態勢へと移るのをはじめ物珍しげに眺めていた隊長だが、やがてムッとあやしげに眉をひそめることとなるのだった。
喧噪にまみれたデッキがなおさらにやかましい怒号に満たされるのはこの直後のことだ。
挙げ句、たまぎる悲鳴と罵詈雑言が交錯し……!
おかげでこの後に続くはず隊長機の出撃は、この予定を大幅にオーバーすることとなる。
のっけから波乱含みの展開で、クマ族が主力の飛行部隊はその先でまたさらなる波乱に見舞われることとなるのだった。
Part2
大型機専用のハンガー・デッキから解放された大型の機体は、そこからゆっくりと中央デッキの中心部である、機体射出チェンバーへと移動、その後に機体各部をしっかりと固定される。
あとはこの機体が射出されるのを待つのみなのだが、そのアーマーのコクピット・シートにがっちりと身体を固定されたまま、額にじっとりと大粒の汗を浮かべるパイロットだ。
今日が初陣だという若手のクマ族のパイロット、ニッシーは挙動不審なさまでせわしなくその視線をうろつかせながら、やがてひどくうわずった声でデッキのコントロール・ルームへとおそるおそるに問いかけた。
何故か半泣きだった。
「あ、あのっ、これって、なんか思ってたのとまるで違うんスけど? なんスか、おれのこのアーマー、カタパルトで出撃するんじゃないんですか? なんかすげー大仰なシステムに周りをがっちり固められちまってるんスけど??」
ただならぬ危機感を感じているのか、かなり焦ったさまで訴える新人くんに、だが正面のディスプレイにぬっと現れるベテランのクマ族のおやじは、冷め切った表情でにべもない返事だ。
これになおのことクマ族の新人パイロットの顔が青ざめる。
「……は、見たまんまだろ? あー、ニッシーくん、あいにくときみの機体はでかすぎて通常のカタパルトシステムじゃどうにもならない。よって専用の射出ドライバーを使うことになるのだが、もうすでに技術的な面はクリアしているから、安心していい。そっちの大型機の隊長どのが身をもって証明してくれているからな。ただし機体、人員ともに多少の負荷はかかるから、せいぜい舌を噛まないように気をつけるんだぞ?」
「え、いやいや! 聞いてないんスけど? 射出ドライバーって、いわゆるマスドライバーみたいに強制的にモノを遠くにぶん投げるってことっスか? 技術的って、安全面は? いやいや、マジ、無理だって! こっちは中に人間乗ってるんだから! マジで死ぬって!!」
かなり取り乱したさまでわめき立てる新人パイロットだ。
するとコントロール・ルームからは、また別の落ち着いた声が届く。
こちらもクマ族でじぶんよりも若いメンテナンスの補足説明なのだが、あいにくでまったくもって安心するには至らなかった。
「落ち着いてくださいっ、ニッシーさん! 確かに機体にかなりの負荷が掛かるかなり危険なドライブシステムで、パイロットの負担も相当なものなのですが、この出力さえ落とせば、そう無理もなく射出できるものと思われます! 加えてそちらは今回が初めての出撃射出となりますが、本来はちゃんと予行演習がしたかったです! なのでご武運を祈ります!!」
「なっ、おまえ、ちょっと待てよ! まさかの運頼みになってるんじゃねえのかっ、それって!? マジでないって、ちょっと社長! いっぺんやめさせてくれっ、このままだとおれたぶん死んじまうっ!! たったひとりしかいないこの平社員がっ!?」
この場にはいないイヌ族の女社長に助けを求めるが、あいにくと別のデッキで出撃待機している相棒からの返事はなかった。
代わりに聞こえてくるのは、メカニックのクマ族たちのやけに落ち着き払ったひとごとみたいなやり取りだ。
「イージュンさん、今回は大事を取って、出力30パーセントくらいで臨んだほうがいいと思うのですが、どうでしょうか?」
「もっといけんじゃね? 半分くらいよりちょい多めでいいだろう? あんまり大事にしても機体が慣れないし、いざって時に泡を食うことになりかねない。そっちはもう80パーセントとか余裕でやってんだろう? あんな完全な自殺行為をさ!」
「自殺行為言った! 自殺行為言ったあ!! ぎゃあっ、やだやだ! 降ろしてくれっ、おれまだやり残したことが山ほどあるんだっ! てかこんなところで無駄に死にたくない!!」
しまいにはガチャガチャとシートベルトに手をかけ始めるニッシーだが、その後に続いた冷酷な老人の声に、完全に身体が凍り付く。
「ふん。どうでもいいだろう。とっとと放り出せ! そもそもわたしが設計したわたしのアーマーのための高速弾道射出システムだ。そんなゴミも同然のちんけなアーマーごとき、どうなろうが知ったことではない……!」
「……はい? なんスか? 今のむかつくジジイのセリフ! てめえこっち来てみろよっ、てめえが設計したとか言ったよな? このくされキチガイが!! てめえが造ったあのブサイクなアーマーと違って、こっちはデリケートなんだよ!! なんかあったらタダじゃおかねえからな!!」
「フッ……、アーマーがゴミなら、パイロットはクズだな? いい、とっとと撃ち出せ! 遠慮などいらない、空中で派手に爆散するくらいの出力でただちに放り出してしまえ!!」
売り言葉に買い言葉でデッドヒートするいいトシの博士に、ちょっと引きかけるリドルは苦笑いで手元のスイッチを操作する。
「はあ、まあ、はじめは大事を取って、半分以下でいきたいと思います。ニッシーさんの精神衛生面も考慮して! とりあえずじゃあ、35パーくらいで?」
「50でいいだろう? あんまり新米を甘やかすもんじゃない」
「100で行け! わたしが許す!! ヤツの機体を跡形もないくらい木っ端みじんにしてやれ!!」
「てめえマジでぶっ殺す!! 表に出やがれ! あとおれを表に出して!! お願いだから無茶しないで!!」
さまざまな怒号が飛び交うデッキに、ついにはまた第三者の声までが混じる。
「あー、どうでもいいけど、後がつっかえているから、みんな早くしてくれないかな? もう予定の時刻をだいぶオーバーしてるけど? このままだとアーマーの出撃を待たずして、このトライ・アゲイン自体がまんま海に出ちゃうんじゃないのかい?」
呆れた感じのアーマー隊隊長のクマ族の言葉に、社長の女イヌ族の声までもが重なった。
「あんたいい加減にしなさいよ! あんたが出ないとこっちも出撃できないんだからね? 出撃オーダーちゃんと見てないの? あんたの機体はでかくてのろいから、そのぶん早くに出ないと交戦ポイントに乗り遅れるのよ! 戦況は刻々と変わるんだから、それじゃただの足手まといじゃない!」
「そ、そんなっ、あんまりだぜ! おれ初心者なんだから……」
辛辣なセリフに部下のクマ族の若者は半泣きで訴えるものの、すかさずにした横からの横槍にまんまとうっちゃられる。
「申し訳ありません! 少尉どの! ですがトライ・アゲインが最大戦速に移るのはそちらのアーマー隊が出撃を終えた後になりますので、まだ猶予はあるものと思われます! どうか今しばらくお待ちくださいっ」
「つうか、出撃前に最大戦速なんかに移行されたら、このデッキの中が大嵐になってメチャクチャになっちまうだろう? デッキの扉とか全部どっかに飛んでいっちまって? あと吐き出したそのどんガメが加速したこの船に後ろからはね飛ばされちまうし。それこそが木っ端みじんに? てか、ブリッジからそろそろクレームが来るんじゃないか? とっとと出しちまえよ」
「ああっ、ちょっと、ちょっと待って! まだ心の準備が! あとそこのジジイ、ちゃんとその首洗って待ってやがれよ!!」
「いいっ、とっと出せ! その目障りなゴミをわたしの視界から遠ざけろ、出力の調整などはみじんも必要ない!! それっ!」
「あっ、ちょっと博士! 勝手にいじらないでください!! あ、今、なにを押しました? あ、出撃モード実行しちゃった! ニッシーさん、身体をしっかりとシートに預けて意識を飛ばされないように気をつけてください! 出力、あ……」
「あ? あってなに? ちょっと、ちょっ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!?」
若いメカニックの手元のディスプレイが表示する出力ゲージはじぶんが思っていたものよりもかなり高いものであったのだが、あえて口にはしなかった。
もはや本人がその身でもって体感しているのだから……!
心の中でごめんなさいと言いつつ、すぐに気持ちを切り替えて、次の段取りに移るリドルであった。
Part3
それまで人里離れた荒野に停泊していた重巡洋艦が緊急離陸の後、これが擁するアーマー部隊の飛行艇第一小隊の緊急発進!
そのほとんどがクマ族で一部、イヌ族とブタ族が混ざる混成部隊は、その出だしだけつまづきはしたものの、おおむねは順調にこの母艦を飛び立ったものと思われた。
口火を切った若いクマ族の新人パイロットに続いて、小隊隊長のこちらもまだ若手のクマ族が飛び立つのだが、その裏では、ちょっとした小競り合いがあったのをこの隊長は知らなかったか。
部下の社員、厳密には契約パイロットのクマ族のニッシーが、ひいひい言いながらも無事に飛び立ったことを確認。
その後にみずからもこのアーマーを飛び立たせるべく発進準備に臨もうとする、雇い主の女社長だ。
だがこの時、若いイヌ族の女子パイロットであるサラは、デッキの出撃カタパルトへの進入許可が、知らぬ間にレッドサインの不可で取り消された状態となるディスプレイ表示を、冷めたまなざしで眺めていた。
そのためか機体にもロックがかかっていることを確認。
それから今しもそのカタパルトを使用して艦から飛び立とうとしている赤い機体のアーマーを不可解げに見つめるのだった。
確か発進順のオーダーとしては、相棒のクマ族が飛び立ってから、その次にじぶんの機体が発艦のはずだったのだが……?
間違いは無い。
手元のサブディスプレイにもはっきりとそのように表示されているだから。
それだからムッとした不服げな目つき顔つきで、おまけセリフにもそれがわかるくらいの声のトーンで、当のベテランのクマ族が乗るアーマーに向けてもの申した。
こういうところ、たとえ相手が目上でも引け目を感じたりはしない、至って勝ち気なやり手の起業家兼パイロットだ。
「あのう、次ってこのわたしのアーマーの発進のはずなんですけど? そっちは隊長のクマ族さんが出てからのはずなんでは?」
なるべくつんけんしないように言ったつもりなのだが、その言葉の端々に不平不満があるのはしっかりと伝わったか?
相手のおじさんパイロットはちょっと失笑気味のくぐもった笑いをマイクにこもらせて、さもおかしげに返してくれた。
「ほえ、なんや、お嬢ちゃんがやけにまごまごしてるから、先にいってもうてややんかと思ったんやがな? ちゃうかった? ぼくらの隊長さんも、もう出てもうてるし……!」
いっかな悪びれるでもなくさっさとカタパルトに乗り込んで発進シークエンスに入る派手な赤いアーマーに、こちらも派手さでは負けず劣らずの全身ピンクの機体のアーマーの女主は、マイクに拾われないくらいのかすかな舌打ちしてどうしたものかと思案する。
だがどうにも思いつかずにかすかに細い肩をすくめさせた。
大きな戦艦の左右にあるメイン・カタパルトの管制は本来、ブリッジ・クルーが指揮するのだが、確か一度だけ見たことがあった、同じイヌ族のビーグル種のなにがしかは、今やすっかりと息をひそめて我関せずのありさまだ。
これにもチッと舌打ちする彼女だが、やはりどうにもできずに相手のベテランパイロットを見送ることにした。
ここで揉めるよりも、早くこの次ぎに出て先行している平社員のクマ族パイロットと合流することが先決だと考えたからだ。
出撃を控えて、今は遠くの反対側の一番デッキに機体を回しているもうひとりのベテランパイロットのクマ族のオヤジが、通信回線越しに皮肉めいたヤジを飛ばしてきた。
またも舌打ちするサラだ。
「ひゃは! いじわるしいなや? そんな若いお嬢ちゃんに、嫌われてまうで? でもさっさと出えへんかったんはそっちの責任やさかい、しゃあないんちゃうの? せやろ、なあ?」
「ふっ、そういうこっちゃ! じゃ、お先に。お嬢ちゃんはそないに無理せんとゆっくりきいや? あのボンボンの新人のパイロットくんと仲良うしてな! 若い子がそないに気い張らんと、難しいことはこのぼくらに任せてくれたらええさかいに……!」
穏やかな物腰で、そのクセひとを小馬鹿にしてるのがありありとわかる物の言いようだ。
これにはさすがにカチンと来て言い返そうとするのだが、低い笑いを残してカタパルトを高速発進させるクマ族たちだった。
「ちょっと、おじさんたち! あっ、行っちゃった、なによ、それってやり逃げなんじゃない? 若い女だからって、言いたいこと言ってくれちゃって。モラハラじゃん……!」
思わず不満を漏らすのに、天井のスピーカーからおそるおそるしたイヌ族の士官の声が咳払いとともに降ってくる。
「おほんっ、あー、それではサラ准尉、発進準備はよろしいでしょうか? コースはすでにクリアなので、そちらのタイミングで発艦願います!」
「今やってるでしょう! ちょっと、あんた今の今までだんまり決め込んでおいて、今さらなんなのよ。ブリッジで聞いてたんでしょう? あと准尉って、わたし社長なんですけど?」
「あー、あー、おほん、おほんっ……」
鋭い目つきで見上げて毒づいてやるに、天井からはひどく気まずげにした咳払いだけが虚しく響く。
これにじぶんがやっていることがただの八つ当たりだと気付かされて、内心で強く舌打ちする女社長だった。
向こうに悪気がないのはわかるのだが、どうしても言葉がきつくなってしまうのを抑えきれない。
社長や社員では収まりが悪いので、軍務規定上、便宜的に士官クラスの階級をあてがわれるのは聞いていたが、いざこうして実際に耳にすると心地が良いものではなかった。
「わたしとヒラ(平社員)のあいつが同じ階級だってのも、引っかかるのよね? せめて少尉さんくらいにしてほしかったわ。でもそうなるとあのクマの隊長さんに並んじゃうんだ? さっきのおっさんたちは中尉だっけ? 階級あっちのほうが上じゃん! ほんとにわけがわからないわっ……」
ぶつくさと文句を垂れながら、みずからの機体をカタパルト・システムに乗り上げ、これをロックする。
機体を固定していたハンガーとのロック解放確認。
その後に機体をデッキ後方まで後退させてそこから高速発進の態勢に移る。もはやブリッジからの応答がないのをいいことに、じぶんの好き勝手なタイミングで発進準備を進めるサラだ。
薄暗いデッキ内にまっすぐな一本のレールとこれを照らすライトだけが浮かび上がり、ずっと先に見える外部へと解放されたデッキの射出口がディスプレイの中央に固定された。
システム・オールグリーンの緑色の表示を横目で確認しては、さっさと手元のレバーを引き上げてカタパルトを発進させる女社長、もとい准尉どのだった。
「それじゃあ、さっさと行かせてもらうわよ! サラ・フリーラ・シャッチョス! ドンペリ・ピンク発進!!」
派手なピンクの機体が轟音と共に青空を一直線に切り裂いてゆく!
Part4
気を失っていたのは、果たしてどのくらいのことなのか?
うすらぼんやりした意識の中で、不意にどこからかかまびすしく鳴り響く警告音が脳内を揺さぶる。
直後、ふっと目の前に広がる青一色の青空を映すディスプレイ画面にようやくこの焦点が合わさる若手のクマ族パイロット、ニッシーだった。
ぼやっとしている間もなく警告音はさらに甲高くコクピット内にこだまする!
「ん、あ、あれ……? おれ、どうして……??」
いまだに意識が判然としないが、さすがに惚けてばかりもいられない。
反射的に目をパチパチとしばたたかせた。
喪失していた意識と記憶を必死に呼び起こす。
しまいには手元のレバーが勝手に左へと振れて、この機体も左へと大きく傾ぐのに大慌てでこれを両手の中に取り戻すのだ。
反射的に右に切り返して水平を保とうとするが、あいにくで機体が言うことを聞いてくれない。またどこからかピピピッ!と警告音が鳴って、何かしらの注意喚起らしきをされてしまう。
本人的にはわけがわからないのだが?
内心でパニックになりかけながら、いつぞやのでかいクマ族のメカニックマンの言葉が、ぬっとばかりにこの脳裏に浮かび上がってきた。
いわく、はじめに艦を出撃したらば、機体が安定すると同時にこのコースを大きく左右どちらかへと開けること。
でなければ後続のクマ族の第一小隊隊長のバケモノじみたアーマーに問答無用ではね飛ばされるぞ、と……!
「うわっ、ヤバイヤバイ! もう来てんの? いやっ、おれそんな気ぃ失ってた? とにかく回避しなくちゃっ……あっ」
機体の予期せぬ傾きがこの回避運動を自動でやってくれていたことに今になって思い当たるが、後続のアーマーがギリギリではじめの直線コースをかすめていったのはそれとほぼ同時だった。
間一髪で大惨事を免れたようだ。
思わず胸をなで下ろして、ディスプレイの中で一瞬にして小さい点になっていくそれは猛烈なスピードの友軍機の大型アーマーの後ろ姿を目をまん丸くして見送る新人パイロットくんだ。
驚きにひどい呆れが混ざってか声がひっくり返っていた。
「速ええな! バカみたいなスピード出てんじゃん? おれもあんなんで飛び出して来たの? うっそ、マジかよ、ただの自殺行為じゃんか、おっかねえ!! て、この機体はどうなんだ?」
機体のレーダーの索敵範囲からすっかり外れてこちらからは目視すらもできなくなった味方の隊長機はもはや置いておいて、とりあえずはじぶんの身の回りに意識を向ける。
一時的な回避機動は解除されて、今はコントロールが手元に戻った操縦桿を握り直すと周囲のディスプレイと各種計器類に視線を流してゆく。
どこにもこれと目立った異常はなし。
手元のマルチディスプレイでパイロットのバイタルデータにも何らアラートが出てないことを確認。
この身体にも機体にも先ほどの無理矢理な出撃による異常や不具合は検知されないことを確認して、またほっと大きく胸をなでおろす。
ひとまず額の汗をぬぐって、この後に自分がなすべきことをあらためていちから思い起こすニッシーだ。
ここらへんが実にとろくさいのがいかにも新人らしいが、こんなところを見られたら、あの口やかましい若手の女社長の相棒が黙ってやしないなと苦い顔つきになる。
それでふっとこのあとの行動を思い出す平社員は、後ろの後部モニターを振り返って、そこに当の雇用主の姿を探していた。
作戦中はふたりで戦闘行動をするためになるべく速やかに合流、目標のポイントへと進軍するはずなのだった。
ただしこんな大きな機体だから簡単に見つけられて、放っておいてもあちらから来てくれるだろうことはわかりきっていたが、それっぽいモーションは取っておかないと今期のボーナスの査定に響くかなとレーダーの索敵モードをより広範囲に広げるサラリーマンだ。
追いつかれるよりも先に相手を感知してこちらから通信回線を開くくらいのことはしてやりたい。
でないとなにを言われるかわかったものじゃないのだから。
そうして意識を正面モニターのレーダーサイトに集中するとすぐさま反応が出てくるのだが、思ったのとちょっと違うのにかすかに眉をひそめる灰色グマのでぶちんくんだ。
母艦がいた方向から凄まじい勢いで距離を詰めてくるアーマーの反応は何故かふたつあり、それがあっと言う間に追いついておまけあっさりとこちらを追い抜かしてゆく。
派手な真っ赤と真っ青な機体のアーマーはベテランのクマ族たちのそれで、先に追い越して行った隊長の後を追いかけているのだとわかったが、この時、開こうとしていた回線をむしろそっと閉ざすニッシーだ。
相手はアーマーのヘッドのカメラをピカピカと光らせてこちらに何かしらの合図らしきを送っていたが、それにつき出会ってからこれまであんまりいいイメージを抱いていないビビリの新人パイロットは、あえて見なかったフリを決め込む。
結果、無言でやり過ごした。
あちらも急いでいる都合、これに何かしらの文句を言うべくもなく。
すっかり正面のモニターの中で小さな点と点になるのを見送っていると、また背後から新たに近づいてくる機体があるのをレーダーが検知!
今度こそはと正面のディスプレイに背面カメラの画像をまわし込むと、そこには見知らぬ緑色のぼろっちいアーマーが、やや低空を直進で進んでいるのが見て取れる。
しばし微妙な顔つきで考えているうちに、それが若いブタ族の乗るものであるのが予測できるニッシーだ。
おそらく間違いないだろう。
名前がいまいち思い出せなかったが、無論、無視した。
構ってやる義理はない。
それきり変化のないコクピットの中でしばしのだんまり。
「…………???」
発艦順のオーダーからしたらじぶんの次だったはず相棒の機体がいまだ確認できないのに内心ではたと首を傾げてしまう。
だがその直後には、そんなことを悠長に考えている場合ではないのをひときわに大きな音量の警告音に気付かされる。
それまでのどかな青一色だった画面が、不意に赤やら緑やらのアラートでやかましく塗りたくられていた。
同時に味方ではない機体の情報がいくつもの警告とともに目の前でめまぐるしく展開される!
これにまずは目を白黒させてひたすらにのけぞるクマ族だ。
シロウト丸出しだった。
「うえっ、ちょっ、会敵!? こんなとこで? 待てって、どっから来たんだよ? 西側?? 敵は北にいるんだろ! 言ってたのとぜんぜん違うじゃん!! おおい社長っ、今どこにいるんだよ!?」
完全にパニックになりかけてあたふたと操縦桿やら周りのスイッチやらを意味もなくなで回すが、これとはっきりした迎撃行動を起こすまでもなく、ただモニターの中の小さな点がアーマーのそれらしい色かたちを整えるのをマジマジと見つめてしまう。
頭の中が真っ白になる新兵くんだ。
まともな回避行動を起こす発想さえ浮かばない。
本来なら致命的な初動ミスなのだが、この時ばかりはそれが功を奏したことをこの時の彼は知る由もなかった……!
他方、単独で高空を進軍する機体めがけて一直線にみずからの機体のエンジンスロットを全開にしていたパイロット、まだ若いのらしいキツネ族の上級士官は、手元のモニターが表示するデータを一瞥するにつけかすかな舌打ちをする。
目の前の大画面ディスプレイに映る機体を目視でそれと確認すると、口元に苦いほころびを刻んで視線をぷいと反らせた。
もはやそれきり興味はないとでも言いたげ、この手元の操縦桿をぞんざいに左へと傾ける。
正面に捉えていた機体がただちに右手のディスプレイへと流れるのもいっさい見もせずに、意識を青い空へとただ向ける。
相手機がこれといった迎撃行動に出ないこともあって、完全にこれをないものとして片付けていた。
すると多少のラグがあってその場に駆けつけた二機の後続たちが、ちょっと戸惑った感じで互いのカメラを見合わせて、その後この隊長機に食らいつくべくエンジンを再点火する。
その内の赤い機体のベテランパイロットが通信を開いてくるのも、さして気にもとめずに高速機動型の愛機のジェットエンジンをふかすキツネ族だ。
後ろからするタヌキ族のオヤジのしゃがれただみ声には適当にだけ相づち打った。
「おや、なんかいかにも敵っぽいのがいやすが、いいんですかい? ダンナ、無視しちまっても? こんなでけえのよ!」
半笑いの声からするに、そう言ってる当人も大した興味はなさげだ。
だからこちらもまったく気のないさまで吐き捨ててくれる。
「……よい。捨て置け。無駄弾よ。我が目的はひとつのみ。他はすべてくれてやる。貴様らの好きにすればよいだろう……」
「いやいや、それやってると完全に置いていかれちまうんで! あとそれで言ったらこのおれっちらの目的もこんなデカブツくんなんかじゃなしに、なあ、ごのじ(五の字)よう?」
「はあ、ほんとにでかいな? おまけに見たことないし、新型機か? ん? なんか言ったか、ぶんのじ(文の字)??」
赤いアーマーのタヌキ族がしたり顔して同僚の青いアーマーのイタチ族に回線を振るが、こちらはこちらで物珍しげに敵とおぼしき機体を背後に眺めていた。
やはりさしたる興味はないさまでだ。
「ちゃんと集中しろよ! これから楽しくなるんだ。なんたってこの赤と青のアーマーコンビの頂上決戦をやるんだからな!」
「?」
あんまりピンと来てないふうな相棒は白けた間があくのに、威勢のいいタヌキおやじはツバ飛ばしてまくし立てる。
「だからダンナの狙ってるヤツにいつもくっついてるあの赤と青の機体、今になって思い出したんだが、あいつらってな、結構な有名人だろ?」
「赤と青? ああ、そういやいたな、いつも決まって横からうざがらみしてくるやつらだろ? このおれたちとなんでかおんなじカラーリングしてやがるなと思ったけど、それがなんなんだ?」
首を傾げているらしいのんびりした相棒に、せっかちなでぶの中年オヤジはなおのことやかましく食らいつく。
「だから! 近頃さっぱり聞かないと思ってたんだが、東の空で敵なしとかほざいていたクマ族野郎のコンビどもだよ! それで間違いないだろう? いわく、赤い疾風のザニーと、青い迅雷のダッツてな! へへ、おもしれえじゃねえか、ひさかたぶりにこのブンブさまの腹と肩が鳴るってもんよ!!」
「腹が鳴るのは違くないか? あと腕だろ? ああ、そういやそんなやつらもいたっけかな? ふうん……てか、あの機体、今ここで見逃しても結局この先でやり合うじゃないのか、おれたちと??」
「そんなの他の奴らにやらせときゃいいんだよ!! 集中しろって! とにかくこのおれさまたち泣く子も黙る空の猛者、赤鬼のブンブと青鬼のゴッペに敵うものはいねえってのをあまねく大空に知らしめてやるんだからな!!」
「そう言ってるのはおれたちだけだろう? てか、おまえだけな。あと、いいのか、ダンナ、もう見えなくなっちまうぞ?」
「おっ、あ、ダンナ! そりゃないぜ! このおれの機体がドンガメなのを知ってるくせに、ほんとにキツネの若様はドSが過ぎるぜえ~~~~!!」
「いいから、さっさとエンジンふかせよ!」
結果として目の前の大型機には目もくれずにさっさと戦域を離脱していく敵のアーマーたちだった。
その先で激しい戦いがはじまるのは、もはや新米のニッシーの知る限りではない。
こちらはこちらで結構な展開が待ち構えているのだから。
しばらく目の前のディスプレイに釘づけで身体を凝固させいてたクマ族の新人パイロットは、レーダーの有効半径から三機の敵影が完全に消え去ると深くため息をついてどっと背後のシートにもたれかかる。
顔面が冷や汗でびっしょりだが、息つく間もなくまた新たな警告音がコクピット内に鳴り響く。
いい加減、心臓に悪いタイミング続きだった。
それだから反射的にビクンと跳ね起きて視線を右往左往させるニッシーである。
「またかよ! 今度はなんだよっ!? ん、社長のアーマーか! 今さらかよっ、今までなにやってたんだよ、やい社長!!」
やっと味方らしい味方が現れたことに泣き言を言う平社員だが、相手の直属の上司の機体からは冷たい返事がカウンター気味に返ってくる。
甲高い女のイヌ族の声音がキン!とクマ族の男の耳朶を打つ。
「悪かったわね! こっちもいろいろあるのよ! まったく空気読めないおっさんたちに勝手にオーダー変えられて、挙げ句にブタ族ののろくさい補給機の護衛まで押しつけられて! 元はと言えばあんたがもたもたしてたことが原因なんだから、文句なんて言われる筋合いひとつもありゃしないわ!!」
「うひいっ、なんか怒ってる?? わ、悪かったよ! でもおれ新人なんだかんな? ちょっとは手加減してくれよ……!」
「そんな泣き言、この戦場で通用すると思っているの? 言っておくけどそんなボンクラ、一日だって生き延びていけやしないからね! さっさと態勢を立て直して、目標のポイントまでアーマーを走らせるわよ。出だしでしくじるなんてありえない。ちゃんと戦功を立てて周りのなめたヤツらを黙らせないと!!」
「あひいっ、やっぱり怒ってる? でもおれそんなテンションになれないぜっ、だって初陣だもん。まだこのアーマーにだって慣れてないし。初日は多めに見てもらわないと……」
「あんた、まさかコンビニのバイトの初日気分で戦場に出て来たの? ありえないわ。そのアーマーから降りてさっさと帰りなさいよ! わざわざ高い金を出して使えないバイトなんて雇った覚えはひとつもありゃしないわ!!」
「ひいいっ、絶対怒ってるぜ! おれそんなに悪いことした? わかった、わかった、わかりました! おおせの通りにするから、その機嫌悪いのどうにか直してくれよ、社長! これから命がけの戦いになるってのに、そんなんじゃテンションだだ下がりでほんとに生きた心地がしないぜっ……! わあ、待ってくれって! 置いていかないで!! おれ右も左もわからない新米なんだから!!」
「右か左かくらいはバイトだってわかるでしょう? イライラさせてるのあんたじゃん! いいこと、その機体にキズのひとつでもつけたら、全額あんたのボーナスからさっ引くからね! あとあたしの足を引っ張らないこと! いいわね、あんたは新米だけどその機体はバリバリの一級品なんだから、それに見合った働きをするのよ? できないなら給料減額!! 機体と待遇を死守しなさい!!」
「ひいいいいいいっ!? 待って、それは厳しすぎるって、あとマジで待って、待ってってば! 社長、コワイから置いていかないでえええっ!!!」
とかくやかましいでこぼこパイロットコンビが会敵するのは、これからしばしした後のことになる。
まこと今日が初出撃のニッシーからしたら、もはや忘れられないど派手な戦場デビューであった。
次回に続く……!
サラ ザニー ダッツ
ニッシー ベアランド ザニーダッツ キュウビ部隊 サラ
沿岸で会敵?
#023 プロット
翌日、早朝、トライ・アゲイン緊急離陸。
アーマー隊、飛行部隊の緊急出撃命令。
出撃 第一小隊 ベアランド、ダッツ、ザニー、タルクス
新加入組、サラ、ニッシー
出撃間際、艦長のンクスと状況の説明。
離陸理由、近隣の街からの要請。アストリオン政府からの要請。内陸ではなく、海沿いの港湾都市付近に着岸されたし。
ビグルス 補給の都合もあるからそうでないと不都合
ンクス アーマーも数がそろってきたから本格的な戦闘行動に移りたい
ベアランド めぼしいところは? 北東の港湾都市 ???
新興勢力 ブルメガ? アゼルタが加勢して攻勢
ジーロが応戦するも厳しい状況? タキノン?
出撃 → ニッシー、大型機で強制射出型ドライバーにクレーム イヌ族の博士と大げんか 無理矢理射出される。
第一小隊は出撃して キュウビ小隊と遭遇?
サラは出撃時に、ザニーとちょっとした小競り合い?
サラとニッシーは新型機で初陣となるが、これにおなじく新型機で初陣となる、イワックとカノンの男女コンビと会敵する。航空巡洋艦「ガーエル」 たまたまトライ・アゲインが向かった先の公海上に停泊中の敵艦と遭遇?
※↑タイトルが一部「伏せ字〇×」になっているのは、ワケがあって、グーグル・アドセンスが「戦争」を主題、コンテンツにしている内容には、広告収益を与えられない!!とのことで…
やむなくこのようなカタチをとっています(^^;)
てか、これでいいのか???
#022
Part1
翌朝。
反政府ゲリラの残党を掃討する作戦から一夜明けて、いつものように朝起きてみずからの居室(セル)がある居住区画から、いざ仕事場のデッキ・ブロックまで降りて来たらば――。
そこはいつになくものものしくした、第一アーマー小隊のハンガー・デッキである。
そのひどくやかましい様子に、まずは目を丸くするクマ族の第一小隊隊長のベアランドだ。
見た感じいつもとはまるで違う景色とそこに見慣れないでかいアーマーらしきがあるのに、驚くよりも半ば感心したさまでこれをしげしげと眺めてしまう。
これまではずっと空だったはず大型機の専用ハンガーに、いつの間にやら運び込まれていたものだ。
「……ああ、もう運び込んでいたんだ? 昨日の晩に艦長に了解を取り付けたばっかりなのに、早いな! それにこんなバカでっかいの、ハンガーに収容するのも一苦労だっただろうにさ?」
思ったままの感想を口にしながら、自然とこのパイロットの姿を目で探してしまうが、あいにくとどこにもそれらしき人間の姿はない。
確か聞いた話ではお客さんは二人組で、若い男女のパイロット・コンビだったと聞いているのだが……?
するとその代わりに同じようにこちらもまた微妙な顔つきでその大型アーマーを見上げる、巨漢でかつ肥満体のクマ族のチーフメカニックのおやじと目が合ってしまうベアランドだ。
何やらイヤな予感がするが、おはようの挨拶もそこそこに、やはりであちらからはひどく冷めた視線と文句が飛んできた。
予感的中だ。
「おい、どうするんだよ、これ? こんないかついものを持ち込んでくれやがって、運び込むのにも一苦労だったぞ?」
かなり迷惑そうな物の言いように、こちらはひどい苦笑いで応じるばかりの若い隊長さんだ。
「あはは。そうは言っても好きでしょ? イージュン、こんなでかいおもちゃを目にしたら、機械屋としての血が騒ぐってもんでさ! でも思ったよりもでかくてビックリしてるけど、これって一人乗りなのかな? 確か相方はまた別のアーマーを持っているらしいから、おのずとそうなるんだろうけど……」
「ふん。このおれたちとおんなじ、クマ族の若造だったぞ? なんか冴えないカンジのな! 相方は見ていない。イヌ族らしいが、女とか言ってたかな? 他のメカニックのはなしによると」
朝っぱらからやけにかったるそうなおやじの話に、また目を大きく見開く隊長だ。
「そうなんだ? はあ~……! まあ何であれ、こんな見てくれ立派でどでかいの、戦力としては期待大なんじゃないのかな? 艦長もビックリしてるかもね! メンテするメカニックはなおさらだろうけど……」
そう言いながらデブのおやじの反応を見てみるに、浮かない顔つきでまた当のでかいアーマーを見上げるチーフ・メカニックは、小さな舌打ちしながらこちらに冷ややかな視線をくれる。
「おまえんとこのチーフはそっちのでかいのにてんてこ舞いで、こんなものにまでは手が出せないんだろ? てか、あいつそれでなくても、あのゴリラとネコのわけわかんないアーマーにちょっかい出そうとして、追い返されてたじゃないか? おれもひとのこと言えないが、あいつも大概だぞ? しゃあねえな……!」
いかにも渋々と言った感じでありながら、内心ではその実、嬉々としているのではないかと疑うベアランドだった。
実際、パイロットスーツばりに仕立てのいいメカニックスーツのお尻からちょこんと飛び出たまん丸いシッポが、上下にピクピクと小刻みに動いているのだから……!
ネコ族やイヌ族がそうであるように、上機嫌の時にはシッポがぶんぶんと元気に振れるのは、彼らクマ族も同様だった。
ただシッポが短いからわかりにくいだけで、目の前のおやじさんは今やでかいおもちゃを手に入れたお子様ばりにその胸の内がときめいているのに違いない。
良く見たら、この口元がかすかにゆるんでいた。
やっぱり生粋の機械屋なんだなと納得するベアランドだ。
「それじゃ、そういうことで、イージュンにお願いするよ。うちのリドルはやることがてんこ盛りだから! あのゴリラくんとネコちゃんにまでちょっかい出してるのは意外だったけど? あ、あと他にもまた新しいアーマーがこれと一緒に来ているんだよね。そっちはまだ見てないんだけど……どんなだろ?」
「どんなだっていいだろ! さすがにそこまで手は回らないから、あっちのゴリラやネコちゃんみたいに自分でやってもらえばいいんじゃないのか? あいつらそれをいいことに最後尾のアッパーデッキを占有しちまってるんだから! まあ確かに、あそこなら邪魔にはならないが、飛行ユニットもろくに持たない陸戦型アーマーどもが、あんなとこに居ても仕方がないんだがな?」
「ロフトに上がって艦の守備隊として動くぶんには都合がいいんじゃないのかい? 流しの若い傭兵さんが何故だか艦長の信認もあるみたいだし、それだからこその特別待遇だよ。気になるならリドルと一緒に押しかけてみればいいんじゃないのかな?」
冗談めかして言ったセリフに、これにはただちに不機嫌面でフン!と鼻を鳴らしちゃ、への字口で応じるメカニックだ。
「は! あんなひとの言うことを聞かなそうな生意気な若造どもはゴメン被る。おれはせいぜいこっちのとろそうなクマ族のあんちゃんのアーマーと遊ばせてもらうさ。第二小隊のあのオオカミはやたらに口やかましいし、部下のワンちゃんどもは気が弱すぎて始末に負えない。ははん、まったくストレス解消には持ってこいのシロモノだよな!」
「結局そっちのパイロットの好き嫌いの問題じゃないのかい? 構わないけど、あんまりいじめたら泣かれちゃうよ。こんなゴリゴリのクマ族のおじさんにさ! まあいいや、それじゃこっちも用事があるから、失礼させてもらうよ。リドルや中尉どのたちが待っているんだ。これから大事なミーティングがあるからね? 昨日の出撃の総括も込みにした!」
「デッキでやるのか? わざわざ? 昨日の総括って、そっちのベテラン勢はふたりともお留守番だったのに? そういやあの坊主、こっちには目もくれずにそっちのアーマーにさっさと向かって行ったな。少しは手伝えってもんなのによ!」
「いろいろと忙しいんだよ、あの子は。今回のブリーフィング・ルームには特別な場所を用意してあるから。その都合もね! あっと、噂をすればなんとやら、向こうでリドルが呼んでるや!」
背後からの呼びかけにそちらを振り返って、その先にあるみずからの大型アーマーを見上げるアーマー隊大隊長だ。
彼らが乗る船には大型アーマー用のハンガーデッキがふたつあり、この隊長の彼のものと、今回、新しく運び込まれたものが残っていたもうひとつに収まるかたちとなった。
それじゃと軽く手を振って、みずからのアーマーの元へと大股で歩いていく背中に、背後のおやじからは普通に上っていけよ!と声が掛けられるが、返事をするよりも適当にパイロットスーツを着込んだ尻の頭に顔を出す、まあるいシッポを動かしてやる。
相手は気付いたものか?
相棒の大型アーマーの格納されたハンガー・デッキに近づくと、このコクピット・ブロックに相当する、ずっと高い場所から若いクマ族の青年メカニックが手を振っているのを認める。
その左右には、ベテランのクマ族のおじさんたちが真顔でこっちを見下ろしているのも見て取れた。
みんなそろっているようだ。
すぐに合流するとうなずくベアランドだが、左右にあるデッキのタラップやエレベーターをちらりとだけ一瞥して、またすぐに真上に向き直ると、ちょっとだけ苦笑いになる。
素直にそちらを使えばいいのだが、めんどくさいのでショートカットをすることにした。
普通はやらないやつだ。
さっき普通に上がれよと言われたばかりなのに、その場でおもむろ思い切りにこの上体をかがめさせて、両脚にぐっと力を込めるやんちゃな若い隊長さんだ。
直後には、フロアからドバン!と上階にあるデッキのフロアにまで一足飛びに大ジャンプする。
およそ尋常でない跳躍力だった。
過酷な状況下でのアーマーの運用と戦闘を強いられるパイロットは、一般の民間人よりも強靱な肉体と、優れた身体能力を有しているのは知られているが、このクマ族に関しては、その範疇にはちょっと収まらないのだろう。
乗っているアーマーもただごとでなければ、この本人自体もただものではないのだ。
涼しい顔して一瞬で目の前に現れたでかいクマ族の隊長さんに、反射的にびっくりしてのけ反るメカニックマンだった。
この左右のおじさんたちも、のわっと上体がのけ反っていたが、その顔には出さないで平静を装っていられるのは、きっともう慣れているからだろうか。
悪びれることもない笑顔の隊長に、ちょっとだけ呆れた顔つきで敬礼をするリドルだった。
「おはようございます! 少尉どの、お待ちしておりました。ですがこちらのデッキには、できればまともな方法で上がっていただきたいのですが……!」
そんな苦笑いの青年クマ族のセリフに、この横からおじさんのクマ族たちもちょっと困惑顔しては口々に言ってくれる。
「ほんまやわ、隊長、ウサギさんちゃうんやから、もっとふつうに上がってきてくださいよ。重たいクマ族はそないな無茶なジャンプはせえへんよって。心臓に悪いわ……!」
「ザニー、ザニー! ウサギ族でもあないなジャンプはようせんって! この隊長さんだけや。ほんまにこのおばけアーマーと一緒で、規格がゴリゴリにおかしいんやって……!」
そんなゴチャゴチャ言ってるおじさんたちにはとりあえず苦い笑いで返して、ハッチの大きく開かれたみずからのアーマーのコクピット内を目で示すベアランドだった。
「それじゃあ、早速はじめようか! 今回のブリーフィング・ルームは、ぼくのこのランタンのコクピットだね! さあさ、みんな遠慮せずに入ってよ」
そのように促しながら、まずはじぶんから大きくハッチが開かれた操縦室の中へと潜り込んでいく。
真ん中の操縦席にただちに慣れた調子で腰を据えると、外からこの中をのぞき込む三人のクマ族たちに目で合図する。
通常のアーマーのコクピットは、パイロットひとりがせいぜいのところなのだが、このクマ族の隊長のそれは縦にも横にも余裕があり、まだ三人くらいは楽に入れるだけのスペースがあった。
まずメカニックのリドルがお邪魔します!とベアランドのすぐ隣につけて、おっかなびっくりに残りのおじさんたちがのそのそと内部に入り込んでくる。
クマ族は一般に大柄で人一倍に場所を取るのだが、それでもまだ十分な広さがあるコクピットに、ちょっと驚いたさまの中尉どのたちだ。
着座した隊長の左右に陣取って、物珍しげに周囲のディスプレイやこの手元のコンソール、操作盤などを眺め回している。
年季の入ったおじさんたちにしてみれば、最新式のアーマーのコクピット自体が珍しいのかも知れない。
「ほえ、ほんまにコクピットでやりはるんかと思ったら、こないに広いんですか? これなら納得やわ……!」
「こないなもんコクピットちゃうやろ! 広すぎやて、ここで普通に寝泊まりできるんちゃう? ビックリやわ! ちゅうか、ここまで来たらぶっちゃけデッドスペースなんちゃうか?」
「ははは、確かにね! ふたりはこの中に入るの初めてだろうけど、どうか気楽にしてってよ。それじゃ、早速、ミーティングに入ろうか。タルクスはあえて呼んでないけど、あの子はぼくと直にあの時の現場を見ているからさ? だから今回は、ダッツとザニー両中尉どのたちの見解を聞きたいんだよね♡」
ベアランドの言葉にこの横につけるリドルがはいと了解して、手元のコンソールを手早くパチパチと操作する。
するとそれまで開かれていたコクピットの分厚いハッチが音もなく閉ざされていき、これによって正面に現れた大型のディスプレイモニターにすぐにも明かりが灯る。
同時に左右、背後にもある大小のモニター類にも光りが灯って、照明がなくとも十分な視界が保たれることになる。
はじめ外部の様子を映していたモニターの中にいくつものウィンドウが立て続けに現れて、それらの中にさまざまな動画や各種のデータが次次と映し出された。
中にあるのは、見知らぬ街中に紛れ込む、どこかで見たことがあるような特徴的なカタチをした黒い二機のアーマーたちだ。
それらが空から俯瞰した図で表示されるのを、みんなでしげしげと見入るクマ族たちである。
つまりは新しく艦に編入された傭兵部隊のネコ族とゴリラ族のものだったが、これの考察をクマ族だらけの第一小隊でしようというのが、今回のミーティングの主な目的だった。
やるからにはマジメにやるのだが、半ば面白い動画をみんなで見て盛り上がろうという、ちょっとしたレクリエーションか気晴らし的な意味合いも、あるにはあっただろうか。
昨日、現場の戦場を上からつぶさにモニターして、それらの動画や各種のデータを採取した張本人のクマ族の隊長さんが言う。
「見ればわかると思うんだけど、とにかく面白いんだよね! あのゴリラくんとネコちゃんの、どっちともw こんなゴミゴミした狭い街中の通りをけっこうな勢いで走り抜けてるじゃないか? おまけに敵を軽々と撃破しながら!」
嬉々とした言いように、真顔のリドルが補足の説明を付け加える。
「第二小隊のウルフハウンド少尉どのが三機撃破、残りの七機を、イッキャさんが四機、ベリラさんが三機の内訳となります! すべてビーグルⅤです。ちなみに本作戦でのこちら側の損害は、皆無となります」
「めっちゃ優秀ですやんけ。ちゅうか、あの若いワンちゃんたちは何してはったんですか? 新型のアーマー乗りがふたりもおって、ひとつも星をあげられへんなんて?」
「そゆことゆうたるなよ! あるて、そんなこと。無傷で返ってこれたんだからそれだけでもええやんけ?」
ベテランのおじさんたちのとかく皮肉めいた言いように、だがこれには隊長である若いクマ族があっけらかんと答える。
元はこのベテラン勢が来るまでは彼の直属の部下でもあった新人の隊員たちだ。名誉を傷つけたままではしのびない。
「ああ、それ、コルクたちは悪くないよ? ぼくが上からそうするようにお願いしちゃったから! シーサーの了解も得てね。なんせ相手のビーグルⅤがコルクたちのⅥとおんなじカラーリングだったから、まぎらわしくて仕方なくてさ! 同士討ちとか目も当てられないだろう? よそさまも加わってる今回の作戦じゃ」
これに果たして納得したのかしないのか、やや微妙な顔つきのザニー中尉だ。
「なんでそないなめんどくさいカラーリングにしてもうたんですか? こっちのビーグルⅤが茶色っちゅうのは、知ってたことなんちゃいます? ちゅうか、なんでビーグルⅤなんですの? それ、ぼくらのお国の現行の主力兵器やないですかぁ」
それにはリドルが答える。
「はい。友邦国のアストリオンにルマニアがアーマーを輸出しているのは有名な話であります。ただしこちらの環境に適応した砂漠地戦仕様であり、あのようなカラーになります。反政府勢力がビーグルⅤを使用しているのは、どれもこれらが敵により拿捕された機体であるものと思われます!」
「あのぶうちゃんもそないなこと言ってたよな? せやなくて、なんでワンちゃんたちのⅥは、あないなカラーなんや?」
ダッツの相棒と同様にした問いかけには、ベアランドがまたもあっけらかんと返すのだった。
「ああ、はじめはピカピカの銀色だったのに、それじゃ目立って仕方がないからって、イージュンが気を利かして全身渋く塗ってくれたんだよね! カラーは本人の好みによるんじゃないのかな? ただ単に! 当のコルクやケンスはそこらへんあまりこだわりとかないみたいだしw 隊長のシーサーは興味ないしww」
「ほえぇ……」
呆れた感じで互いに目を見合わせるおじさんたちはもはやほっといて、さっさとこの話を進める隊長さんだ。
「それよりも、ほら! あのふたりの操るアーマー、めちゃくちゃ動きが機敏で敵のビーグルⅤを圧倒してやしないかい? コンビとしての連携もきっちり取れてるし、若い割にはとっても練度が高いアーマー乗りたちだよ。この機体もかなり高性能で、これと言った弱点も見当たらないし! ね?」
みんなに問いかけるに、おじさんたちからは低いうなりみたいな声が聞こえるが、メカニックマンとしての見地でものを見ているリドルがこれに強く同調する。
昨日の内に彼なりに戦績データを解析していた若いクマ族の青年は、このアーマー乗りたちとその保有するアーマーをかなり高く評価しているようだった。
「はい! ベアランドさんが言うとおり、とっても優秀な機体であります。特に市街地戦に特化しているらしく、至近距離での格闘戦と、距離を置いた中距離の間接攻撃とこの役割をはっきりと分担している点も、とても合理的であります。おそらく高出力エンジンにより発生させたフィールドバリアも併用しながら、機体の防御力を最大限に高めているものと思われます!」
「ああ、それってこの機体に搭載されたフィールドジェネレーターとおんなじ機能を持っているってことだよね? 上から見ていてやけにセンサーの反応が鈍いと思ってたら、周りにバンバン電磁フィールド張ってたんだ! 恐れ入ったね♡ おまけに特殊なギミックが機体各部にてんこ盛りみたいだしw」
いかにも楽しげにした若いクマのパイロットの感想に、じっと黙って目の前のモニターの動画に見入っていた赤毛のおじさんグマが、やがて真顔で応じる。
「……ほえ、あのゴリラくんのごっつい機体、敵からの銃撃をものともせずに近寄っていきよるの、機体の強度が高いだけちゃいますよね? なんか肩のあたり、プロペラみたいなんがグルグルまわってはるし、妙な武器を持ってはるの、あれをクルクルまわしてタマをはじいたり相手をどついたりしてはるんや? えらいいかつい戦い方しよるわ! まさしくゴリ押しやんけ」
みずからの乗る機体が防御力重視の仕様であるからか、とても興味深そうにまさしくゴリラみたいな見てくれのアーマーに見入るベテランパイロットだ。
それとは逆に、攻撃力重視の機体を操る灰色グマのおじさんが、もう一方のネコ型っぽい見てくれのアーマーに言及した。
「こっちはこっちで、えらい命中精度で弾丸ぶっばなしとるで! 死角から攻められても飛んだり跳ねたり、おまけに無茶苦茶な角度から応戦しとるやんけ? どないなっとるんや、機体のバランス制御! 長距離射程の装備はなさそうやけど、あないにめまぐるしく動かれては狙いを定めるのもしんどいて!」
ふたりともしっかりと傭兵部隊の実力を感じているようだ。
これを聞く部隊長のエースパイロットは、やけにしたり顔して了解する。
「確かにね! あのふたりの実力に関しては、アーマーも含めてもはや十分なんだろう。スタンドプレイに走られるのは困りものだけど、別個の部隊として稼働するには問題がないはずで……。出身がイマイチわからないのがアレなんだけど、あれだけ特徴があるアーマーなら探れないこともないのかな? 時にリドル、あの博士の意見とかは聞けているのかい?」
基本は艦の最後尾のエンジンブロックにこもりっきりの、イヌ族の老博士のことを聞いてみるに、問われたチーフメカニックはちょっと困った顔でこの首を左右に振るのだった。
「いえ、シュルツ博士は少尉のアーマー以外には興味がないとのことで、とりあってはもえらませんでした。逆に余計なものに関わるなと怒られてしまいまして……!」
「ああ、あの博士らしいな! まあいいや、ゴリラくんとネコちゃんのことはこのあたりにしておいて、自分たちのことに専念しよう。ダッツとザニーはこれからは、ぼくよりもむしろタルクスと連携しなくちゃいけなくなるし、戦い方のバリエーションも増やしていかないとね?」
おおよそでミーティングを締めくくりながら、手元のスイッチをパチッとはじいて周りのモニター群の明かりを消すと、閉ざされたコクピットハッチを再び開いてそこから外気を取り込む。
あいにくと新鮮な空気ではなくて機械油くさい気流に鼻先をヒクヒクさせながら、開かれた視界の先にあった見慣れない大型アーマーを見て、そこでまたしても苦笑いになる隊長だった。
背後のベテランのおじさんの内のひとりが、おなじくそれを見てぽつりと感想を述べる。
「ほえ、わけわからんアーマーならまだおりましたわな……! しかもまたふたつも? あのネコちゃんたちの紹介っちゅうはなしやったけど、ほんまに信用してええんですか?」
「ほんまにわけわからん! ちょっと様子を見てみたけど、どっちも見たことも聞いたこともないアーマーやったで? あんなもん、パイロットどないなやつやねん? ほんまにこんなんとおれたち連携せなあかんのですか、隊長??」
なおさら苦笑いになるベアランドは、一度大きく肩をすくめてミーティングの終わりを告げた。
「今回のネコちゃんとゴリラくん同様、実際にお手並みを拝見させてもうしかないよね? すぐに機会はやってくるんだろうし。ちなみにパイロットはどっちも若いクマ族とイヌ族の男女コンビらしいよ? ネコちゃんによると、おまけに会社経営みたいな? なんだろうね。ま、会えばわかるよ。あとみんなが先に出ていってくれないと、この席から立ち上がれないから、さ!」
言われてぞろぞろとコクピットを退出していく仲間たちを見送って、みずからはだが手元の操作盤を操作する。
右手のサイドモニターにまた何かしらを映し出すクマ族だ。
「ふうむ、でもあのどっちもやたらに金が掛かっているアーマーの存在を考慮したら、うちの経歴複雑な艦長とあのふたりのアーマー乗りの接点て、たぶんこのあたりに集約されるんだよな……おそらくは?」
それきり真顔でしばし考え込むのであった。
Part2
新型のアーマーのまっさらなコクピットは、とても居心地が良くて快適で、この新品の革張りの操縦席もまるで高級ホテルの重厚なソファのような座り心地で格別だった。
じぶんが居た安普請のボロアパートの備え付けのベッドよりもはるかに寝心地が良くて、気が付いたら、うとうとしたまどろみの中ですっかり寝落ちしてしまった、新人パイロットだ。
だらしなくも大口開けて、でかいいびきを立てながら爆睡していると、心地よい夢の中でどこからか誰かしらの声が聞こえてきた。
どうやら見知らぬ男の声のようだ。
バンバン!と何かを叩く音も聞こえてくる。
シートがほぼフラットになるくらいにまでリクライニングさせて完全に寝こけていた若者は、かすかに表情をピクつかせて、この夢の中から聞こえてくる正体不明のおどろおどろしい声にうならせられる。
その声は言った。
「おい! 中のパイロット、とっとと出てこい!! いつまで中にこもっていやがるんだ? 機体の格納は終わったんだから、あとはおまえがアーマーの個人ロックを解除して、こっちに引き渡すだけなんだよ! いいからこのコクピットのハッチ開けろ!!」
さながら憎悪に満ちた罵詈雑言か?
やけに現実感がある長ゼリフに、ただならぬ違和感を感じる。
弛緩しきっていた手足がピクピクとなるパイロットだ。
さすがにいびきをやめて、無意識ながらも周囲の状況にぼんやりながら注意を向ける。どこからか確かな殺気めいたものまで感じて、薄目で身の回りを確認するのだった。
するとまず目に飛び込んで来るのは、正面ディスプレイに大写しになった巨漢のクマ族の恐ろしい顔面のドアップだった……!
これに一瞬で眠気が覚める若者だ。
ただし状況の正確な把握にまでは至っていなかったが。
「……!? はあっ、お、鬼っ? 鬼がいやがるっ!?」
バッと上体を起こして周囲に目を向けると、この前面のみならず、左右の大型ディスプレイにもおなじ形相のドアップの顔面が張り付いて、こちらをにらみ付けている。
完全にパニックになる若いクマ族だった。
「ひいっ、なんかおっかねえ鬼みたいなのが3匹もいやがるぞっ!? 3匹!!? どうなってるんだよこの戦艦!!」
とりあえずじぶんが新型のアーマーに搭乗して、この大型の最新鋭艦にまで乗り込んだのは覚えているのだが、その後がさっぱりで今のこの状況である。
慌てふためくばかりのパイロットに、モニターにでかでかと映し出された当の鬼、もとい実際はどでかいクマ族のおやじさんが冷めた目つきで言ってくる。
「鬼ってなんだよ? は、いませんけど、鬼なんて? ひょっとしてこの俺のことを言っているんなら、おまえ、それなりに覚悟はできているんだよな? あとさっさと面を見せろ。開けろよ、このハッチ」
もはや怒りを通り越した、何かしらの呆れか嘆きみたいなものまでにじませてくる年配のクマ族の言葉に、顔からサッと血の気が引いていく若いクマ族だ。
「は、はいっ? あの、えっと、あれ? 今って……おれ、ひょっとして寝ちゃってた??」
「ひょっとしなくてもそうだろう? まあさぞかしいい寝起きの面をしてるんだろうな? とにかく、開けろ。話はそれからだ」
とかく冷静な相手の言いように、だが内心で完全にパニくっててるパイロットは操作盤を操る手元もあやふやで、まったく関係のないスイッチやレバーを引いてしまう。
さらにパニックに陥った。
「え、あ、あのっ、ちょっと待って! 今開けます! 開けますから!! えっと、えっと……これか! あ、ハッチの前に立っているんなら、ちょっとそこからのいてくださいっ!!」
画面に向かって反射的にペコペコと謝りながら、ようやくコクピットハッチのスイッチを探り当てる。
その結果、ゆっくりと音を立てて開いていく大きな扉の向こうには、この真正面にそれは鬼さながらの迫力で、見るからに巨漢のいかついクマ族が腕組みして待ち構えていた。
不意なハッチの開閉に跳ねられるほど間抜けではないらしく。
そそくさとシートベルトを外してなるたけ速やかにコクピットからデッキに降り立つ。
そこでどうやらメカニックマンらしいその巨漢の男と向き合うのだが、これとまともに目を合わせることができずに、ひたすら萎縮するばかりのパイロットスーツだ。
のっけからやらかしてしまったみずからの不甲斐なさに嘆くことしきりなのだが、うまく弁明する言葉も見つからない。
うわ、詰んだ……!
内心で白旗を揚げていた。
おまけ本来ならば、みずから名前を名乗ってしかるべきなのだろうが、不覚にも不機嫌ヅラした目の前のオヤジからそれを聞かされることになる……!
「今日は。気分はどうだい、良く寝られたからいいんだろう? こっちはこんなでかいアーマーをデッキに収容するのにてんてこ舞いだったのに、パイロットさまはお気楽さまでいいもんだ。なあ、ニッシーくん? 何か言うことはあるかな?」
まっすぐ真顔で見つめられて問われるのに、なおさら目を合わせられずにすくみ上がる青年クマ族、ニッシーだった。
「あ、いや、とくに、その、言うことは……すんませんでした。反省してます。二度とないように努めますので、ご気分を害されたのなら、なにとぞご勘弁を……とにかくすんませんでした」
完全に観念したさまでうなだれる若いパイロットに、熟練の整備士は軽く咳払いすると、とかく鷹揚にうなずいてくれる。
「ああ、そう。そうね。うん。わかったのならいいのだけど、まずはここにサインして、これからお世話になるこのクマ族のメンテナンスのおじさんに礼儀正しく挨拶をしようか? これって基本だよね?」
差し出されたボードに慌てて飛びついてみずからの名前をサインするクマ族のニッシーは、おなじクマ族のおやじにおそるおそるにそれを差し出して返す。
その上で、改めておのれの名を名乗るのだった。
おそるおそるに。
「ええ、あの、じぶんは、ニッシーであります! フルネームは、ニッシー・ロックデーモ・ナイ! 階級はありません! じぶんは正規の軍人ではなく、民間の戦場派遣会社の所属でありますので。加えてまだ新人であります。ですのでご教授、ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!!」
生粋の軍人ではないから敬礼ではなく深々とお辞儀して、おっかなびっくりにこの顔をあげる。
相変わらず仏頂面したデブのおやじは、何食わぬさまで新人の自己紹介を受け流しておいてから、その上でダメ押しみたいなセリフを低い調子でささやいてくれる。
「あ、そう。軍人でなくても敬礼くらいは覚えておけよ。あとメカニックの機嫌を損ねるようなマネはするな。命取りだぞ? こいつは脅しじゃない。心からの忠告だ。この意味、ペーペーの新人くんでもわかるよな?」
これに心底、震え上がる若手のパイロットだ。
返す言葉が思わずうわずってしまう。
「は、はいっ! もちろんでありますっ、ひいいっ、あの、いえ、あの、その、えっと……!」
しまいには言葉に詰まるのに、はじめそれを怪訝に見ていたベテランのメカニックは、ああ、と納得して返す。
「ああ、そうか。そういやまだ名乗っていなかったな? 俺はおまえのアーマーのメインのメカニック担当の、イージュンだ。見ての通りのクマ族のおじさんで、ついでにベテランだな。以後、よろしく。ペーペーのニッシーくん! 新人だろうが容赦しねえからな?」
「は、はいっ……どうぞ、お手柔らかに……」
最後にドスの利いた低い声でトドメを刺されて、完全に意気消沈するど新人のクマ族だった。
がっくりと視線が床にまで落ちていたから、この目の前のおやじの口元がかすかに緩んでいたのに気が付かなかっただろう。
努めて真顔のおやじさんはバンバンと新人の肩をぶっ叩いて、お互いの上下関係をはっきりと確かなものにしてくれる。
「ま、ここでのことなら何でもこの俺に聞いてくれればいい。おまえはこの俺の仕事に差し支えないようにすればいいだけだ。このあたりはギブ・アンド・テイクってやつだよな? あとそうだな、一番大事なことを教えてやるよ。これが一番の協力だ」
「?」
顔色の冴えない新人は、怯えた表情で目の前のおやじの真顔を見返す。どんな恐ろしい要求が出てくるのかと身構えていると、ひどく深刻な顔つきになるクマ族のおやじはやがて言った。
「死ぬなよ。これが一番肝心。あと、アーマーを無駄に傷つけるな。それすなわちおまえの身体が傷つけられたと思え。言ったら一蓮托生なんだから、当然だよな。あと俺も面倒だし……!」
最後にニヤリと笑ってくれるのに、感情がまんまと揺さぶられる単純な新人パイロットのニッシーだ。
「は、はいっ! 肝に銘じます!! あとっ、あと師匠と呼ばせてください、イージュンのおやっさん!!」
挙げ句、いきなりなついてシッポを振ってくるのには、ちょっと意外げに目を見張るイージュンなのだが、内心ではにんまりとほくそ笑むのだった。
「良かった。こいつとんでもねえバカだ! おまけにすんげえ鍛え甲斐がありやがる……!」
「はい?」
「ん、いや。あっと、あっちから誰か来るぞ? 誰だあいつ? とんでもねえ派手なパイロットスーツ着てやがるな?」
おやじのクマ族の視線に従って背後を振り返る若いクマ族は、その先に確認したそれは良く見知った人物の姿に声を上げる。
「ああ、社長! こっちこっち! そんなとこで何してんだよ? ひょっとして迷子になったってか?」
デッキの通路をスタスタと歩いてくる細身のパイロットスーツは、その特徴的なフォルムから女性のそれだとわかる。
しかも全身派手なオレンジ色の。
言えば肥満体のでっぷりした若いクマ族のすぐ目の前につけるイヌ族の女パイロットは、すらりとした立ち姿で、とかくきっぱりとした口調で返す。
「バカね! あんたがいつまで経っても来ないから、こっちからわざわざ探しに来てやったんじゃない? はじめにこっちに集合って言っておいたでしょう。あんたみたいな平社員がこの社長のわたしを待たせるだなんて、どういうつもりよ?」
口を開くなりそんなベラベラと勢い良くまくし立てられて、ちょっとげんなり顔して肩をすくめさせるニッシーだ。
「ああ、はいはいっ……!」
その背後から、イージュンがややいぶかしげにふたりの新人パイロットを見比べる。
「社長? え、こいつおまえの雇い主なのか、まさかの? おまえとそんなにトシ変わらねえじゃん? てか、社長がなんでパイロットスーツなんか着てるんだよ?」
思ったまんまの疑問をそのまんま口にするおじさんだ。
これに慣れたそぶりのイヌ族の女子は、軽く一礼してビジネスライクなスマイルで答えてくれる。
「あたしもパイロットなんで。まだ小さい会社だから、社長でもバリバリ現役で戦場に繰り出します。お見受けしたところ、メカニックの方ですか? うちのバカ、もとい社員が失礼しました。わたしは戦場派遣会社「ミカン・ペースト」の代表取締役社長、サラと申します。以後、お見知りおきを……!」
「バカってなんだよ? ピンチだったんだぞ、社長だったらもっと早く駆けつけてくれよ!」
ぶうたれるクマ族を冷ややかな視線で見返す女社長は、声高にピシャリと言い放つ。
しかも思い切りの断言だ。
有無を言わさぬ迫力があった。
「そんなのいちいち面倒見切れるわけないでしょう! どうせあんたがヘマしたに決まってるんだから。おおかたアーマーのコクピットでそのまま寝落ちとかして、そっちのでかいメカニックさんに迷惑かけたって、そんなところなんじゃないの?」
ズバリで図星を突かれて黙り込むニッシーに、軽く咳払いするイージュンがその言葉を引き取った。
「まんまだよ。それじゃその新人くんを引き連れて、さっさとしかるべきところへ行ってくれ。お互いヒマじゃないんだろう? こっちはこれからやる事がてんこ盛りなんだ。なんせこのバカでかいアーマーをいちいちチェックしないとならないんだからな」
それきり背を向けるでかい背中に、了解してこちらもさっさときびすを返す女社長のイヌ族だ。
これにクマ族の平社員が慌てて追いすがる。
「お、おいっ、どこ行くんだよ? こんなバカでかい戦艦、おれたちみたいなよそ者がヘタにうろついてたら怪しまれるんじゃないのか?」
「いいのよ。もうとっくに怪しまれてるから。あのおっさんもそんな顔してたじゃん? こっちはこっちでやる事あるから、こんなところでのんびりしてなんかいられないのよ!」
「だからどこ行くんだよ! 待てって! 道もわからないのにそんなスタスタ早足でよく歩けるよな? おまえらイヌ族ってほんと……!」
ブチブチと文句をたれるのに、険しい表情で振り返るイヌ族の女パイロットは立ち止まってただちに詰め寄ってくる。
視線が泳ぐクマ族に低い声で言った。
「だったらあんたが誰かに道を聞けばいいんじゃない? 社員なんだからそれくらい当然でしょ? ほら!」
「だ、誰かって、誰もいやしねえじゃねえかっ?」
うろたえるクマに食ってかかるイヌはしれっと言ってのける。
「いるじゃん? そこに、ほら!」
「え……?」
おのれの背後を視線で示されて、そちらを振り返ると、そこには今しもこちらに向かってドタバタと駆けってくる誰かしらの人影がある。
よく見れば何故か太ったブタ族のそれで、それがまた何故だか満面の笑みで迷わず一直線に走り寄ってくるのだ。
ぽかんとした表情でそれを見るニッシーは、あのはじめの巨漢のメカニックといい、ここにはやっぱりまともなヤツがいないんじゃないのか?と本気で疑ってしまうのだった。
Part3
見知らぬブタ族は、とかく人なつこい笑みで困惑するクマ族のニッシーのもとにまで駆け寄ると、元気に声をかけてくる。
「ぶう! おはようなんだぶう!! て、あれ、てっきり灰色のクマさんだからダッツ中尉かと思ったら、まるで別人なんだぶう! あとおまけに知らない女のイヌ族もいるんだぶう! おまえたち誰なんだぶうぅ?」
おそろしく脳天気なさまで問われて、完全に腰が引ける平社員だった。
「やべえやべぇ、なんかおかしなブタ族がいやがるぞ? 誰って、そっちこそ誰なんだよ! おれはブタ族に知り合いなんかいやしねえって、そもそもなんでこのルマニアの戦艦にアストリオンのブタ族なんかがいやがるんだよ! 密航者か?」
「そんなわけねーじゃん! あんた、少しは頭を働かせたらどうなの? アストリオンとルマニアは非公式につながってるの、みんな知ってるでしょう? ちっともおかしくないわよ」
背後から冷めた言葉を浴びせられるものの、まだ動揺が収まらないでやたらにひとなつこいブタ族にビビリまくるクマ族だ。
「このおれのいるアストリオンは永世中立なんだぶう! でもルマニアとは相互に不可侵の戦時協定を結んでいるんだぶう! だからみんなおともだちなんだぶう! よろしくなんだぶう! ところでおまえは誰なんだぶう!」
「ぶうぶううっせえ! おまえこそ誰なんだよっ、おまえみたいなうさんくさいブタ族なんぞと仲良くする義理はねえぜっ、このおれには!!」
「あんたほんとにバカなの? せっかくなんだからこのブタ族さんにいろいろ教わればいいじゃない。ルマニアの連中にヘタに世話になるより気が楽だわ。いつまでいられるかわからないんだし、こんな大仰な巡洋艦!」
三者三様で、まったくもって話がかみ合わない。
途方に暮れるニッシーに、ブタ族が底抜けに明るいさまでまたもや言った。だがこれでやっと話が進展し始める。
「おれはアストリオンのロイヤル・ガード・ムンクの、タルクス准尉なんだぶう! ここには国家元首のイン様の命令で、援軍として乗り込んでいるんだぶう! 見たところおまえたちもアーマー乗りみたいだけど、どこから来たんだぶう?」
「うわ、マジでぶうぶううっせえ! なんなんだよ、あとなんでそんなになれなれしいんだよ? おまえ今、名前名乗ったか? 話がややこしくてまったく聞き取れなかったんだけど!?」
なかばやけっぱちでわめき散らすくクマ族の平社員に、イヌ族の若い女社長が冷静に割って入った。
「タルクスって言ってたでしょ? しかもそう、アストリオンのロイヤル・ガード・ムンクだなんて超エリートじゃん! 見た目じゃさっぱりわからないけど? それじゃあよろしくお願いするわ。わたしはサラ。そしてこっちが、ただの平社員だから気にしないで」
「ぶう? 平社員??」
途端にきょとんとしたさまのブタ族に、現状まったくうだつのあがらない平社員のクマ族、ニッシーはやや憤慨してわめく。
「平社員ってなんだよ! おれにはニッシーっていう立派な名前がある! あとそれだと説明するのが返ってめんどくせえだろう? 社員にわざわざ平とかつけるなよ、モラハラだからな?」
「はいはい。ただ事実をそのまま言ってやっただけでしょう? あんたはわたしに雇われているいち社員で、わたしは社長。ただそれだけのことよ。それよりも今は、このタルクスにここを案内してもらうのが先決だわ」
「こんなのに頼って平気なのか? つうか、何を案内してもらうんだよ?」
あからさまに不満顔の平社員に、まるで意にも介さない社長さんはこのクマ族の肩越しにみずからの鼻先を突き出して、相手のブタ族のアーマー乗りの様子をしげしげと観察する。
簡易的に造られた狭苦しいデッキの通路では、デブの相棒とふたりで並ぶことはほぼ不可能だった。おなじく恰幅のいいブタ族などとはすれ違うことも難しいだろう。
これに対して通路の真ん中にでんと仁王立ちするタルクスは、とことんフレンドリーなさまで笑顔がまぶしいくらいだった。
初対面を相手に警戒心がまるでないのが、見ていて心配になるくらいにだ。
「ぶうっ、サラに、ニッシーっていうんだぶうか? よろしくなんだぶう! おれもここではまだ日が浅いけど、知ってることはなんでも答えるから、なんでも聞いてくれなんだぶう!」
「サンキュー! だったら早速だけど、わたしたちは今日ここに赴任したばかりで、まずは上と顔合わせをしたいんだけど、あいにくとここの艦長とは直接は会えないって言われてるのよね? まずはこっちのアーマー隊のお偉いさんたちと話をしろってことなんだけど、わかる?」
何食わぬさまをしたサラの問いかけに、当のタルクスはこれに大きくうなずいては親身になって返事をしてくれる。
ほんとにバカ正直でただのいいやつなんだ!とこれを真正面でマジマジと見るニッシーは、目がひたすらにまん丸くなる。
ただし感心するよりも呆れのほうが勝っていたか?
「それならたぶん、このおれのいる第一アーマー小隊のでっかいクマ族の隊長さんのことなんだぶう! おれもその隊長さんに会いに来たんだけど、あいにくここにはもういないみたいなんだぶう! おれも探しているから、一緒に行くんだぶう! たぶんみんなでブリーフィングルームか、食堂あたりにいるはずなんだぶう! 何故かおれだけ仲間はずれにされて、やっとひとり見つけたと思ったら、まるで違うただの平社員だったんだぶう! あの中尉どのはもっとイケてる渋いおじさんなんだぶう!!」
「おい、平社員ってなんだ? おまえなんかに平社員呼ばわりされるいわれはねえぞ! あとぶうぶうべらべら良くしゃべるよな? そんなんだから仲間はずれにされてんじゃねえのか? 距離感もだいぶイカれてるみたいだしな? なあ、ぶうちゃん?」
かなり剣つくばったもの言いで威嚇するのだが、まるで気にもしない根明なブタ族めは、なおさらその身を乗り出して相手のクマ族の格好を上から下までじろじろとねめ回すのだった。
「ところでどうしてニッシーはそのパイロットスーツを着ているんだぶう? 懐かしいから人違いでなくとも声をかけてしまうんだぶう! クマ族が着ているのははじめて見たから、とってもめずらしいんだぶう!」
「は?」
「……あ!」
怪訝に聞き返す自分の真後ろで、社長のサラが変な声をだすのに、これまた怪訝にそっちを振り返る。
何だよ?と目で問いかけるに、ちょっとバツが悪そうな顔をしたイヌ族の女子は、仕方もさなげに言うのだった。
「そっか。アストリオンのブタ族なら当然わかるわよね? これじゃごまかしようがないわ。あんたのそのスーツ、軍用の払い下げ品だってあたし言ってたわよね? 入社したての新人に新品のアーマースーツをくれてやるような余裕はないからって……」
「ああ、言ってたな? それが? どうしたんだよ、ちゃんとこの身体にピッタリで着心地も悪くはないぜ? なんかケモノくせえけど、おれだってひとのこと言えやしねえからな? これと問題はないってもんで、あ、でもそっか、このケツのシッポのあたりがやけにキツくて窮屈ってぐらいか?」
「ああ、それ、たぶんブタ族用のスーツだからでしょ。アストリオンの軍の払い下げ品の専用サイトで見つけた備品だったのよ、それって。ほぼ新品で出されてたから。ブタ族用ならデブのあんたにもきっとお似合いかと思って……!」
「は、なんだよそれ! ブタ族用? これ、元はぶうちゃんが着てたスーツなのか??」
社長の思いも寄らぬぶっちゃけ発言に、びっくり仰天するニッシーだ。加えてタルクスが満面の笑みで言ってくれた補足説明には、なおさらげんなりとなる。
「とっても似合っているんだぶう! ものはとってもいいものなんだぶう! それは一世代前の仕様で、今はこのおれが着ているスーツが正式なアストリオンの装備なんだぶう! でもそれも根強いファンがいるとってもいいパイロットスーツなんだぶう!」
「え、じゃあ、このケツが窮屈なのは、クマじゃなくてブタ族用にあつらえたものだからってことか? 最悪じゃねえか!!」
「おれたちブタ族とは限らないんだぶう! もしかしたらイノシシ族かもしれないし、イノブタやアグーかもしれないんだぶう!!」
「変わりゃしねえだろうが! このおれはクマ族なんだよっ!! なにが悲しゅうてよその族のスーツを着なけりゃならねえんだっ、これって立派なアイデンティティー・クライシスだぜ!」
さんざんに嘆く社員に、見かねた社長が声を荒げる。
「ヒラのくせにそんな美品をあてがってもらって文句言うんじゃないよ! 型落ちのスーツでもアストリオン製ときたら結構なプレミアがつくんだからね? ケツの穴が小さいくらい、じぶんでどうにかしなさいよ。だからって壊しでもしたら、ボーナスから修理費まんまさっ引くからね!」
「ケツの穴って……! テンション下がるぜっ……」
ぴしゃりと言われて黙るクマ族の新人パイロットだ。
それきりがっくりと肩を落とすのに、相変わらず陽気なブタ族がこの肩をポンと叩いてぬかしてくれる。
「それじゃふたりともこのおれの後についてくるんだぶう! たぶん大食いばかりのクマ族部隊だから、みんな食堂に集まっているはずなんだぶう! おれもハラが減ってきたから、みんなで朝ご飯を食べるんだぶう!!」
「なんか、目的が違ってきてやしねえか?」
「ま、なんでもいいんじゃない?」
意気揚々と先頭に立ってスタスタと歩いて行くブタ族に、お互いに肩をすくめてこの後についていく、若いクマ族とイヌ族のコンビだった。
Part4
ブタ族のタルクスに導かれるままに艦のデッキフロアから、乗組員たちの平時の居住区画であるセンターブロックの大食堂まで案内された、ふたりの新人パイロットたちだ。
そこでアーマー部隊を取り仕切る隊長のクマ族と、晴れて対面することになる。
大きな戦艦の食堂とは言いながらも、そこはやたら広大なスペースがあり、特に士官クラスが集う場所はまたさらに奥へと歩いてゆくのに内心で呆れかえる若いクマ族のニッシーだった。
この戦艦自体がもはや尋常ではない規模であり、まだ経験の浅い新人パイロットにしか過ぎないじぶんにはどうにも不釣り合いなところだとしか思えない。
それだから今も、目の前にしている見た目がやたらにいかつくて大柄なクマ族のパイロットに、この身が完全にすくみあがっているのを意識していた。
なのに目の前の若いイヌ族の女子であるはず、相棒のサラはまるで気にしたふうもなく、堂々と相手のクマ族と相対しているのに感心とも呆れともつかない感情を抱いてしまう。
小柄な相棒の背中に隠れてビクビクしながら相手の様子をうかがうが、でかい食卓についているのはみんなじぶんと同じクマ族であり、どれもいかつくて迫力があるそれはただならぬ猛者たちであるのがもはや素人目にもそれとわかった。
きっとじぶんなどとはまったく住む世界が違うクマ族なのだと勝手に思い込むへたれの若者だ。
その別世界のクマ族の隊長とおぼしき男はまだ比較的若いように見えたが、口を開けば威圧感たっぷりな低い声音に、なおのこと身体が萎縮するニッシーだった。
自分たちをここまで案内したブタ族によると、ベアランドというらしい若いクマ族の隊長は屈託のないさまで言うのだった。
「やあ、ふたりとも思ったよりも早い到着だったね? 昨日の今日で、ちょっとびっくりしちゃったよ。しかもあんなに大型のアーマーまで連れてきてくれるだなんて! おまけにこんなに若いコンビだったんだ? イヌ族の女子に、そっちのほうは、ぼくらとおんなじクマ族でいいんだよね? てか、なんでそんな後ろに隠れているんだい?」
そんな不思議そうな顔つきで問いかけられて、思わずひいっと声が出るしがない平社員のクマ族に、女社長のイヌ族が一度冷めた視線を背後に流しながらもあらためて前へと応じるのだった。
「お招きにあずかりまして光栄です。わたくしは戦場派遣会社「ミカン・ペースト」の代表取締役社長、サラ、サラ・フリーラ・シャッチョスと申します。アーマーのパイロット兼任で、わたし自身は高速機動型のアーマーを1機保有。攻撃主体のフリーランサーとなります。それでは以後、お見知りおきを……!」
軽やかに一礼して、ベアランドをはじめとしたクマ族ばかりの小隊メンバーたちにこの視線を流して送る。
どうやら食事中だったらしく、大皿に盛られたごちそうをおあずけされているクマ族の中年パイロットたちは、どちらも微妙な感じで互いに目を見合わせたりしている。
ここらへん、若い女のイヌ族のパイロットにはさしたる興味を向けてもらえないのはこれまでの経験上わかりきっていた。
それだから気にもとめずに、背後の相棒の平社員、もといクマ族のパイロットにも自己紹介するようにうながすサラだ。
だがこれにもじもじしてばかりいるニッシーである。
余計に尻込みしはじめる相棒に、目つきのキツくなるサラはこのつま先をかかとで踏んづけて、前へと突き出す。
「ほら、さっさと自己紹介しなさいよ! あんたの番でしょう? まさかおんなじクマ族がコワイだなんて言わないでしょうね」
「あっつ、いや、コワイだろう、こんなのフツーに! あ、いや、ははは! あの、おれはただの平社員のニッシーです。まだペーペーの新人パイロットなんで、どうぞお気になさらずにお願いします!」
「新人? 確かにふたりともまだ若いみたいだけど、まるで経験がないってわけでもないんだろう? あんな大型のアーマーを持ってるってからには。そういやイージュンにはもう会ったのかい? でっかいクマ族のおやじさんのメカニックマン!」
とっても気さくに聞いてくれるクマ族の隊長さんに、問われた新米パイロットはなおさら落ち込んださまで視線を逸らす。
「ああ、はい……! しっかり絞られました。しょっぱなからおれがヘマしちまったんで。ついでに気が付いたら師匠と弟子の間柄にもなってました。この先が不安でなりません……」
「?」
ひどく落胆したさまに目がきょとんとなるクマの隊長だが、新人のパイロットを前にイージュンがちょっとした茶目っ気を出したのだろうくらいに了解して、みずからの部下たちへと視線を向ける。
「紹介するよ。ぼくの小隊のメンバーで、ベテランのザニー中尉と、ダッツ中尉だよ。よろしくね! なぜか少尉のぼくが隊長なんだけど、そこらへんは気にしないでおくれよ。あと、そっちのアストリオンのタルクスと、こっちがうちのチーフメカニックの、リドルだよ。まあ、顔合わせはまだ他にもいろいろいるんだけど、その都度、じぶんたちでやっていってよ。あと察するに、この艦のブリッジには上がれなかったんだね?」
ちょっとだけ苦く笑うベアランドに、浮かない顔のサラはこくりとうなずく。
「はい。とりあえずこちらのアーマー隊の方々によろしく言っておいてくれとのことでしたので。わたしたちのようなよそ者のアーマー乗りはそう簡単には艦長には会えないとのことでした」
「おれは会わなくたってぜんぜんいいけどな? あっつ!」
背後からニッシーがぼやくのには、またこのつま先を踏んづけて、やや不満げな顔をクマ族の面々に向けるサラだ。
これにそれまで黙っていた傍観者のクマ族、赤毛のベテランがおもむろにこの口を開く。
「ほえ、そんなのあたりまえなんちゃう? たかが新参者の傭兵さんなんておいそれとブリッジにあげられへんやろ。ここ、仮にも軍の最新鋭艦で、おまけに旗艦、フラッグ・シップやで? そうでなくとも軍内部じゃ有名人のおひとで、現場方じゃ一、二を争うっちゅう実力者なんやから。いちパイロットにしかすぎへんお嬢ちゃんなんかお呼びにならへんわ……!」
「せやな! 戦場派遣なんちゃらなんてようわからん怪しいヤツやったらなおさらや! きみら、顔洗って出直してきたほうがええんちゃうか? いくら社長さんやか平社員やか知らんけど、対等に張り合うには早すぎるて! ひゃはっ」
二マリとした表情で少々辛辣なもの言いに、もうひとりの灰色のクマ族も茶化してこれをせせら笑うかのようだ。
それきり興味なさげに視線をそらすと、それきりどちらもおもむろに目の前の食事に手をつけ始めた。
これには隊長のベアランドが苦笑いでかすかに肩をすくめるが、まあ仕方がないよね?と目つきで言って憮然としたサラに返した。
「まあ、ブリッジに上がれなくとも、場合によったらあっちから降りてきてくれるかもしれないよ? 戦績次第かな? そのあたりについてはそっちの社長さんは結構な腕前みたいだけど、クマ族の彼はこれと目立ったデータが見当たらないね?」
「あ、ああ、それはっ……!」
ジロリと見られて挙動不審になるクマ族のパイロットに、イヌ族の女アーマー乗りがこの視線をさえぎって間に入る。
「ああ、コイツはほんとに新人で、これからが生まれてはじめての初陣になりますから。このあたしがスカウトした第一号の社員、派遣アーマー乗りなんで」
「それって傭兵と何が違うんだぶう? あとひとりだけなんだぶう?」
横合いから無邪気に横槍を入れるブタ族に痛いところを突かれながら、顔にはまったく出さないサラがさらりと返す。
「ふたりよ。まだ興したばかりの会社だから、あたしと経理と、このバカ、じゃなくて平社員しかいない少数精鋭部隊なのよ。問題ないでしょ? アーマーだけはしっかりしたのをちゃんとそろえているし」
「アーマーだけじゃ仕方がないんじゃないのかい? ほんとにパイロットとしての経験が皆無なのか、それって……」
ちょっと驚いたさまでおなじく目を見張るとなりの若いクマ族のメカニックと思わず顔を見合わせる隊長に、やはり澄ましたさまでその鼻先を上向ける女社長だ。
「どうぞご心配なく。みなさまの足を引っ張るようなマネはいたしませんから。必ずやご期待に添える働きをして見せますので」
これには大口開けて肉やら野菜やら腹に詰め込んでいた赤毛と灰色のベテランぐまが、いかがわしげに口をとがらせる。
「えらい自信やな? それ戦場で空回りするヤツなんちゃう? おっかないわ。そもそもがその彼のどこらへんが見込みあるっちゅうんや、ぼくにはただのビビリくんにしか見られへんのけど」
「きみ、どこでスカウトされたんや? なんで断らへんかってん? いくら体力あるクマ族さんでもいきなりはしんどいでえ、聞いただけでしんどいしんどい! フラグ立ってるて!」
「まあ、ちょっと興味あるかな? 未経験の初見であんなデカブツを扱おうだなんて、ある意味自殺行為に近い気がするし。実際の戦場はゲームみたいには行かないから……」
ふたりのベテラン勢にはあんまり挑発しないようにと目で制しながら、ちょっと危ぶむような色がこの顔に出るベアランドだ。
それがニッシーと呼ばれる若い新米パイロットの吐いた言葉には、えっと思い切り声に出てしまう。
「あ、おれ、ゲーセンでスカウトされたんすけど? すんません。提示された額に思わず飛び付いちまって、挙げ句の果てが今のこれっすわ……思ってたよりも大事になっちまって、正直、逃げたいけど、契約があるから逃げられないです……」
「あたりまえでしょう! あんたもういくら経費使い込んでるのよ? せめて今の赤字とあのアーマーの取得費用をペイするまでは死んでもらっちゃ困るのよ。逃げるなんてありえない!」
「敵前逃亡は死刑なんだぶう!」
何の悪気もなく言ってくれたタルクスのツッコミに震え上がるニッシーだが、渋い面でこちらを見ているベアランドには居場所がないような心地で肩をすくめる。
「ゲーセンで? えっと、それっていわゆる、ゲームセンターって理解でいいのかい? なんで?」
はっきりと困惑が顔に出るアーマー隊隊長に、あくまでも澄ましたさまでしれっと言ってのける女社長だった。
「あ、これ、今はあるあるなんですよ? ゲーセンで高得点をたたき出してるゲームランカーを軍のエージェントがパイロットとしてスカウトってのは。実例がここにもいるように?」
そんなまるで当たり前みたいに言われても、やはり困惑顔で今度は当人に聞くベアランドだ。
「なんで?」
「なんででしょう……」
「あるあるなん?」
「知らん。聞いたことあらへん」
ダッツとザニーもお互いの鼻っ面をつきあわせるのに、どこまでもしらを切るサラは、ここでまたきっぱりと言い切った。
「パイロットとしての特性を測る上でこれ以上に出来たシステムないって、軍や保障会社の人事が言ってるくらいですからね? 今じゃもっぱらそれ向けに開発されたゲームがあるくらいだし。それにこのヒラは、あたしが望んでいたニーズを満点で実現してくれた逸材ですから!」
「ヒラってなんだよ? それって褒めてるんだよな?」
ちょっと微妙な空気があたりを満たすが、そんな中におじさんたちのくっくと身体を震わせる含み笑いがうっすらと響いた。
「ふふっ、ほんまにしんどいこっちゃ! きみらわかってゆうてんのか、ゲームと現実はまるで違うで?」
「アホちゃう? 戦場なめすぎ、夢見過ぎやって、嬢ちゃんもうっかりくんも!」
怪訝に見返す気丈な女社長のイヌ族に、赤毛のベテランパイロットは利き手の人差し指をクイクイとやりながら意味深に笑う。
「これまでさんざん言われてきたことやからあれなんやけど、まさしくやわ。いわく、撃っていいのは、撃たれる覚悟があるヤツだけ……その覚悟を、そないなゲーセン上がりのえせパイロットくんごときが持てるっちゅうんか?」
「大丈夫です。コイツはバカですから!」
「は?」
迷わずきっぱりと即答するサラを、このすぐ隣でニッシーが不満げな顔で見るが、ザニーとダッツの両中尉どのたちは失笑気味に視線をそらしてもはやそれきりだった。
両者を見比べて口元のあたりやや苦笑いになるベアランドが、かすかにこの肩を揺らすとはなしを締めくくる。
「まあ、実戦で実証してもらうほかありはしないよね? それはさておき、ぼくらは朝食中なのだけど、せっかくだからきみたちも一緒にどうだい? もちろんそこのタルクスも!」
「ぶう! おなかペコペコなんだぶう!!」
「おおっ、ありがてえ! おれもペコペコだぜ、しかもこんなたくさんのごちそうの山、まるで夢みたいだって、あれ?」
隊長からの誘いにブタ族が大喜びで空いている席に着こうとするが、あまり乗り気でないようなイヌ族の女子は、その場から一歩引いてみずからの細い首を左右に振るのだった。
相棒のクマ族は舌なめずりしてすっかりその気なのに、横目できつく睨んでこれを制止する。
「いいえ。せっかくのお誘いですが、わたしたちはまだやることがあるので……! 荷物の整理だとか居場所の確保だとかが済んでから、ごちそうになりたいと思います。それでは」
ぺこりと一礼して頑なに拒否する社長さんに部下の平社員はかなり不満げだったが、しぶしぶと出した利き足を引っ込める。
さっさとごちそうにありつくブタ族を恨めしげに見ていた。
相手のすげない態度を気にすることもないベアランドは了解してまたサラに問う。
「わかった。でもそうは言ってもふたりはこの艦のことはまだ不慣れなんだよね? じぶんたちにあてがわれた専用のセル(居室)だとか、わかるのかい? パイロットだからアンダーフロアのデッキよりにあるんだろうけど、広いよ? あと荷物とか、じぶんのアーマーに積んで来たのかな? あの大きなアーマーならいくらでも入るんだろうけど……」
若いのに世話好きなクマ族の気遣いに、とかく性格サバサバとしたイヌ族の社長は何食わぬ顔で応じる。
負けん気が強いのが態度にわりかしはっきりと出ていた。
「恐れ入ります。でもご心配なく。そのためのこの平社員ですから。これから荷下ろしして、さっさと身支度整えます。ほら行くよ、平社員!」
「な、なんだよっ! さっきからヒラヒラヒラヒラ! また戻るのかよ? 道わかるのか? またあのでかいクマのおやっさんにどやされるのは勘弁だぜっ! あとおれ、道おぼえてねえからな?」
途端にドタバタやりはじめる若い男女コンビに、また肩をすくめてはしょうもなさげに隣のメカニックの青年を見る隊長だ。
するとその若いクマ族は、すんなりとうなずいて了解する。
みずからすっくと席を立つと、ちょっとした内輪もめをしているイヌとクマに声を掛けた。
「じぶんが案内させていただきます! 個人の端末に艦内情報やおおよその見取り図は入っているのですが、見慣れない人間がうろついていると無駄に怪しまれたりするので、顔が知れているじぶんがいたほうが何かと都合がいいと思われますので……!」
するとはじめとても意外そうに若いメカニックマンを見るふたりなのだが、ベアランドが大きくうなずく。
「そのリドルの言うとおりだよ。まずは部屋まで案内してもらって、そこで一息ついてから仕事に取りかかればいいよ。それじゃあリドル、ふたりのことはよろしくたのんだよ!」
「はい! お任せくださいっ、少尉どの」
元気に了解してふたりに向き直る若いクマ族に、ここは素直に納得する女社長であった。
おまけ目の前の相手がじぶんよりも年下だろうと踏んで、けっこうなため口で好き勝手な言いようしてくれる。
「あ、そう。それじゃよろしく頼むわ。部屋ってどのくらいの広さがあるの? ひょっとして相部屋とか言わないわよね?」
「お、おまえ、あんまりワガママ言ってるなよ? ここ、言ったらまだアウェーだぜ、おれたち?」
「社長におまえとかいわないでよ。平社員のぶんざいでさ!」
「おまえもひとのこと平社員とか言って、バカにしてるだろ!」
「あんたは実際に平社員なんだから、何も悪くないでしょう?」
「このじぶんも伍長でありますから、言ったら平社員さんみたいなものであります! おなじ階級同士、よろしくお願いします」
「軍人さんが入って来たらわけわかんねえ! それって平社員なの? いや平社員ってなんだよ? 社員にわざわざヒラとかつけんなよ!!」
「うるさいわね? 平社員はどこまで行ったって平社員でしょう? いいからさっさと歩きなさいよ、この社長をエスコートするのがあんたの役目じゃないの? 平社員なんだから!」
やかましい言い合いは彼らが食堂を離れるまで続いた。
Part5
はじめの食堂を後にすると、若いメカニックの案内のおかげで目的の場所にはいともたやすくたどり着いた、新人のパイロットコンビたちだ。
艦内は恐ろしいほどの広さがありこの構造が込み入っていたが、マップの案内を見るまでもなくすんなりとふたりのアーマー乗りにあてがわれた個室へと導かれる。
その道中に何度かすれ違った船員たちに振り向かれはしたが、リドルという若いクマ族の青年がいてくれたことで問題なくスルーできた。
話にあった個人が所有できる小型端末は、艦から専用のものが提供されるとのことで、そこには個人用の専用IDなどが入っているから紛失には気をつけてくださいという、クマ族にしてはやけにやせ形のメカニックの言葉には、ちょっと不審げに聞き返すイヌ族の女社長のサラだった。
「そうなんだ。あ、でもちょっと待って? わたしたち、そんな端末なんて渡されてないんだけど? それがないとこの艦のマップ確認や本人の証明もできないんでしょ、どうすればいいの?」
そのように聞き返すに、前から振り返るクマ族の青年は、屈託のない笑顔でとても明瞭に答えてくれる。
「いえ、ご心配なく。端末はそれぞれの部屋にひとつずつ備え付けてありますので、どうぞそちらをご利用ください。はじめに個人認証だけやってもらえれば、問題なく使用できるはずです! それではどうぞ、お部屋の確認をおねがいします」
イヌ族の女アーマー乗りに部屋の入り口をはいと示して見せると、そのドア横のプレートにある名前がみずからのものと一致することを確認して、軽くうなずくサラだった。
相棒のクマ族の部屋は、ちょうどその向かいにあるのも確認。
とりあえず相部屋ではなかったことに軽く胸をなでおろした。
扉の前に立つと自動ドアではなかったことに少しして気が付いて、メカニックの青年とちょっとだけ苦い顔を見合わせる女社長だ。社員のクマ族は、さえない表情でどことも知れない場所を眺めていたが、腹の音を鳴らしてがっくりとこの肩を落とす。
さてはさきほどの食堂のごちそうにありつけなかったのをいまだに悔やんでいるらしいが、さっさとあんたもやることやりなさいよ!キツい目で睨んで、みずからの手で自室のドアを開けた。
ニッシーのことはもはや完全に無視して、まずはおのれにあてがわれた部屋の様子をぐるりと見回すサラである。
見た感じまだ新品の室内は、イヌ族の彼女からしてもさしたるニオイがないまっさらな状態で、過不足のない調度品とそれなりの広さがあった。
ひとりで生活するには快適だろうことがうかがえる。
部屋の中央に立ってしばらく周りを見回してから、とても満足のいった調子で感想を口にする社長さんだった。
「ふうん、思ったよりも悪くないじゃん! 広さもそれなりあるし、ベッドが格納タイプだからへんなデッドスペースも生まれないし。下のデッキが近いとは言っても、ヘタな騒音も伝わってこないみたいだしねぇ?」
悦に入った感じで言ってやると、ちょっと離れたところから返事を返すメカニックの青年に、妙な顔をして出口を見返すイヌ族の女子だった。
「ねえ、なんでいつまでもそんなドアの外にいるの? 別に入ったってかまわないわよ? 女子の部屋だからって遠慮してるなら、そんなの余計な気遣いだし! ほら、入っておいでよ? 今さら廊下で立ち話もなんでしょう?」
そう言って入室を促すのに、さっさと身を乗り出して入ってきたのは、招いてもいないはずのやぼったいぼさ髪のクマ族の男だった。
「へえ、意外と広いじゃん? 良かったな、社長、こんだけあれば何するにも不自由しねえだろ、てことはこのおれの部屋もおんなじで広いんだよな!」
「なんであんたが入ってくんのよ! 平社員!!」
ほぼ反射的にカウンターのストレートを相手のアゴに向けて放つ気の強い女社長だった。対して慌てて身をのけ反らすクマ族の平社員、もといニッシーであった。
当のメカニックのクマ族の青年が、後から苦笑いで入ってくると、右手の壁にある小型端末らしきを指さして言うのだ。
「これが端末です。新品ですよね? 認証作業ははじめの内にやってしまえば、デッキブロックの出入りや、食堂やその他の施設もフリーパスで使えるようになります。やらないといつまで経ってもよそ者扱いされてしまうので。おふたりの荷物を取りにデッキに降りることもできませんからね……!」
にこやかに説明してくれるそれは性格の律儀で温厚なクマ族に、こっちのほうが社員としてほしいわー、とか口にしながら、笑顔で首を振るサラであった。
みずからの足下を見ながらに言ってくれる。
「ううん。その必要はあいにくとないみたい。見て、ちゃんと荷物が届いているじゃん! ラッキーよね?」
「ラッキーって、なんでそんなもん届いているんだよ? そんなサービスまで完備してるのか、この軍艦は?」
ひどく不可思議そうな顔つきする社員のクマ族と、おなじくきょとんとしたさまのメカニックのクマ族に向けて、そこは生まれつき商魂のたくましい女イヌ族である。
いけしゃあしゃあと言ってくれた。
「こっちにアーマーで乗り込んで来た時に、たまたまデッキでおんなじイヌ族の若いパイロットたちと遭遇したんだけど、なんか見てたらやけに気が弱そうだったから、ためしに荷物運びをお願いしてみたのよね! そしたらこの通り、ちゃんときれいに全部運び込んでくれたんだわ。後でちゃんとお礼を言っておかないとね?」
ぱちりとウィンクするやり手の女社長に、どん引きするニッシーとやや苦笑いのリドルだ。
メカニックの彼にはそのパイロットたちに思い当たるところが少なからずあって、頭の中では第二小隊の若手のイヌ族コンビを思い描いていた。特に気が弱そうというところがもろに当てはまって、なおさら苦い表情になるのだった。
「はあ、たぶん、コルク准尉どのと、ケンス准尉どのたちですね、それって? どちらも第二小隊のパイロットさんです。災難だったな。これ、けっこう荷物としては大きいですよね。ぼくも手伝わなけりゃならないと思ってたから、後でお礼を言っておかなくちゃ……!」
「やだ、あんたってほんとに律儀ね! マジで気に入ったわ。どう、あたしのところに引き抜かれない? そんな若いのにもうこんなでかい軍艦のメカニックだなんて、腕もそれなりのものなんでしょう? 悪い条件は言いやしないから、良かったらこのわたしのアーマーのメカニックもやってみてよ?」
出し抜け思いも寄らぬ提案に、びっくりした顔のメカニックマンだったが、これに横から新米パイロットのクマ族がしたり顔してたたみがける。
「そうだな、おれも歓迎するぜ? おまえとならいいコンビを組めそうだ! 年下だろ? あとついでにこのおれの荷物を運び込むのも手伝ってくれよ? もとからそのつもりだったんだろ、な、な?」
調子のいいことをぬかすのに、これにも笑顔ではいとうなずくお人好しの青年クマ族であったが、社長のサラによってきっぱりと拒否された。
「あんたはじぶんでやんなさいよ! もしくはあのデカブツのおじさんメカニックに運んでもらったら? あんたのアーマーを専門で見てくれるんでしょう? よかったわね。まあでもその前にまずはじぶんの部屋の中をのぞいてみれば?」
「?」
はじめ辛辣なサラのそのくせどこか意味深なもの言いに目を丸くするニッシーだったが、その後の言葉には狂喜乱舞して部屋を飛び出していくのだった。
「とりあえずあんたの荷物も運んでくれるようにお願いはしておいたから。新しく入ったでかいアーマーって言えば、わからないことなんてないでしょう? このぶんなら、たぶんやってくれたんじゃない? ほんとに気弱な感じでやたらに首を縦に振っていたから。特に毛むくじゃらで顔色の暗いイヌ族のほう!」
「それ、絶対にコルクさんだ……! ほんとに災難だったな」
ちょっとかわいそうに思いながら、この話を第二小隊のオオカミ族の隊長が聞いたら、なんだかめんどくさいことになるんじゃないだろうか?と気がかりにもなってくるリドルだ。
そんな暗い顔の横で、パッと顔つきが明るくなるもうひとりのクマ族は、ガッツポーズを取って部屋を後にしていく。
「ひゃっほー! 社長最高だぜ!! 腹すかしたまんまで力仕事だなんて一番の拷問だもんな? とっとと荷物をほどいてさっさと食堂に行ってやるぜ! 戦艦グルメをひとりじめ!!」
好き勝手にほざいて向かいの部屋に入った途端にまたそこから調子外れな絶叫が聞こえてくる。
残されたクマ族の青年と目を見合わせてちょっとだけ肩をすくめる社長さんだった。
どうやら律儀で気弱なイヌ族たちは、見ず知らずのクマ族の荷物までもきちんと運び込んでくれたのらしい。
何はともあれでとりあえずやることは終えたらしいと理解するクマ族のメカニックマンは、一礼して部屋を後にすることを伝える。
もう引き留める理由もない若い女社長も笑顔でうんとうなずくのだが、それがなぜか真顔になってリドルに聞くのだった。
これにはたと首を傾げる青年クマ族だ。
「あ、そうだ。この戦艦の乗組員に、もしかしてゴリラ族って複数いたりする? いわゆるパイロットとかじゃなくてさ?」
「はい? ゴリラ族の方、ですか……?」
怪訝に首を傾げる彼に、イヌ族のサラは何やら険しい視線を投げかけるが、それが実はじぶんではなく、その奥の入り口に向けてのことだと察してそちらを振り返るリドルだ。
するとそこには、いつの間にかある人物が立っていたのに目を丸くする。そんな気配はまるで感じられなかったはずなのだが。
扉の前には華奢でやや小柄な身体つきをしたネコ族の男が立っていた。
果たして一体、いつからそこにいたのか?
ネコ族とは言いながら、かなり特徴的な見た目と格好をしているで、それがごく最近にこの船に乗り込んできたアーマー乗りのひとりだとすぐにも理解はするものの、はじめ言葉に詰まる若いクマ族だった。
小隊のメンバーたちとの今朝方のブリーフィングでの会話にもあった通り、まったく知らないわけではない。
実際、この彼自身も彼らの乗るアーマーへの興味本位から、このアーマーデッキに足を運んだりしたこともあるのだが、その時はろくに会話するまでもなく、あっさりと追い返されてしまったのだ。
それだからちょっと気まずいカンジで尻込みしていると、すぐ隣にまでつけるこの部屋の主の女社長のイヌ族が、毅然としたさまで言ってくれる。
「レディの部屋に来たのなら、ノックくらいしてくれるものなんじゃない? いくら見知った仲でもね! あと、その後ろに隠れているヤツも、とっとと姿を現したら?」
若いのに堂々としたさまにちょっと感心してしまうリドルだが、何食わぬ顔をした当のネコ族は悪びれるでもなく、かすかにこの肩をすくめさせた。
そうして鋭い目つきをおのれに横に差し向けると、見えない壁の向こうで何かしらの気配が動いて、高いところからのっそりともうひとりの影がこの顔を出てくる。
異様に大きな身体つきした相棒のゴリラ族のパイロットだった。全身が毛むくじゃらで、筋骨隆々としたマッチョマンだ。
それがちょっと照れたような顔でこちらに会釈してくる。
気配を消していたのになんでわかったの?とでも言いたげな顔つきに、イヌ族のサラは冷めた調子で答える。
「イヌ族が鼻が利くのはみんな知ってるでしょう? あんたみたいにでかくて体臭がきついゴリラ族だったらなおさらだわ!」
「えっ、そうなんですか? ぼく、ぜんぜん気がつきませんでした! ベリラさんて、臭うんだ??」
サラの言葉を真に受けた挙げ句、なんか違う方向でまでビックリするクマ族の青年に、ゴリラがあからさまにげんなりしたさまでガックリとしょげる。
「うほ、おれってそんなに臭うかな……? ちょっとショックなんだけど」
「気にするなだにゃ! オレはおまえがそんなに体臭きついだなんて、思ったことないのだにゃ!」
目つきの冷めたネコ族がどうでもよさげにあしらうのに、サラがくっくと鼻先で笑う。
「冗談よ。体臭っていうよりは、むしろバナナの匂いよね? いつも食べてるから身体に染みついているんでしょう! ちょっと問題よね。そんなんで隠密行動なんてされても一発で見抜かれちゃうわ、わたしたちみたいなイヌ族なんかにはね!」
「うほ? そうなの? 確かにさっきも食べたばっかりだけど、そんなに臭うかな? でもバナナはいい匂いだから、問題ないよね? エチケット的には?」
なんか的外れな言い分に、なおさら目つきが冷たくなるネコ族のイッキャだ。
「ダイエットするにゃ! 全身から甘い匂いのするアーマーパイロットなんて、なめられるだけなのだにゃ。オレの評価も下がるのだにゃ!」
「オシャレでいいんじゃない? 汗臭かったりケモノ臭かったりするよりは女子受けぜんぜんマシなはずよ。ていうか、ふたりしてわざわざ何の用なの? ひょっとしてご近所さんだからご挨拶だとか?」
あまり歓迎しているそぶりがない素っ気ないイヌ族の女子のセリフに、なんかいずらい雰囲気を感じてしまうクマ族のメカニックは愛想笑い浮かべてイッキャに向かう。
部屋を出て行くにもこのネコ族が邪魔でどうにもならない。
向かいの部屋のサラの相棒のクマ族は、すっかり影をひそめていた。気がついていないのか、関わる気がないのか?
「おふたりはデッキが艦の後方だから、こちらのエリアにいるんですよね? てか、勝手に荷物を持ち込んで占拠したとかブリッジ・クルーのビグルスさんが怒ってましたけど?」
控えめなそぶりと目つきでどいてくださいとお願いしたつもりが、相手はまるで気にもせずで入り口前で仁王立ちだ。
むすりとした顔つきのネコ族は、若いクマ族など眼中にないさまでとなりのイヌ族に向けてものを申す。
「悪いがちょっと話があるのだにゃ。ここではなんだから、下のデッキで話すのだにゃ!」
「ここではできない話なの? ふうん、ま、別に構わないけど、今すぐにってのは急なはなしよね。まあ、あなたたちにはここを紹介してもらった恩義もあるから、聞いてやらないこともないけれど……?」
いかがわしげな目つきのサラは、横で困ったそぶりのリドルと目が合うと、かすかに細い肩をすくめさせて了解した。
「オッケー! なんかメカニックくんが困ってるから、今からでも聞いてあげるわ。行きましょう。じゃ、メカニックくんはここでさよならね! いろいろ親切にありがとう♡」
軽くシッポをひとふりしてその場を後にしようとするサラに、これを後ろから見送ることになるリドルは、なぜだかちょっと心配になって、思わず声をかけてしまった。
「あ、あの、じぶんもご一緒させてください! その、イッキャさんやベリラさんのアーマーに興味があるので、ちょっとだけ眺めさせてもらいたいなって……! よろしければ?」
意外なことを申し出るクマ族のメカニックに、振り返るイヌ族の女社長はちょっと目を丸くして見返すが、相手がことさら真顔なのにクスリと笑ってネコ族とゴリラ族のコンビに申し出る。
「オッケー! わたしは構わないわ。オブザーバーとしての参加を認めてあげるけれど、そっちも問題ないわよね? それとも何か聞かれちゃまずいことでもあるってのかしら?」
「…………」
するとふたりはしばし微妙な顔つきでお互いに見合うのに、あ、なんかマズイことを話すんだな?と内心で感づくリドルなのだが、顔には出さないで三人の後に続いた。
向かいの部屋のクマ族の平社員にも声をかけたほうがいいかなとは思ったが、サラがさっさとその場を離れるのにこのふたりの関係性みたいなものもなんか理解したような気がして、黙ってこの後に続くのだった。
※次回に続く……!
ニッシー、サラ、タルクスに案内されて、食堂の第一小隊メンバーと合流。二人は個人の居室(セル)にリドルの案内で向かう。相部屋だったのに、サラが反発?
イッキャとベリラに遭遇?ニッシー(ジンジャ・エル)とイージュンの掛け合い
サラ合流 タルクス合流
22プロット
今回からさらに戦場派遣会社「ミカン・ペースト」の女社長サラと平社員のニッシーが新たに加わる。←先に入ってきたイッキャの紹介。ニッシーの搭乗するアーマーは、大型機なので、ペアランドのランタンと同じ、大型機用のハンガー・デッキに収まる。出撃時も、通常のカタパルトは使用できないので、ベアランドと同じ強制射出システムを共用。本人はすごくイヤがる。
ニッシーのパイロットスーツはわけあり。←タルクスがバラす。
ベアランドは収集したデータをランタンのコクピット内でリドル、ザニー、ダッツと共にミーティングで考察する。
ミーティング後に、ニッシーとサラが登場。
ニッシーの大型機は、イージュンが担当することになる。
ベリラとイッキャは基本は艦の守備部隊として、後方のアッパーデッキを勝手に占有。←リドル
敵の示威行動… アーマー出撃、カノンとイワックと会敵?
主役のクマキャラ、「ベアランド」のこれまでの変遷…
主役メカの変遷…
※今回から新しく第一小隊のメンバーになった、ブタ族のタルクスくんの乗るアーマーのデザインが決まりました(^^)
メインキャラなのに見た目が雑なモブキャラだった、メカニックマンの「リドル」くんのデザインを全身刷新しました!!
遅ればせながら、イヌ族の若手パイロットキャラ、コルクとケンスの搭乗する新型(?)の戦闘ロボのイメージ決定!ただしこちらは飛行型で、#021以降の陸戦型仕様とはちょっと異なりますw
#021
Part1
超弩級の大型軍用艦の広い艦内に、それはけたたましい音量のサイレンが鳴り響いた……!
耳をつんざき腹に響くような重厚な音圧は、それが現在、艦内全域が戦闘態勢に突入したことを知らしめるものだ。
それだから音の大小はあれ、今やブリッジから機関室まで、ところ構わず鳴り響いているのに違いない。
そしてそれはまたもちろん、このパイロットたちが出撃を待つアーマーデッキにまでガンガンと轟いていた。
「いくら臨戦態勢とは言っても、今回はぼくらアーマー隊の出撃だけで、このトライ・アゲイン自体は動かないんだから、こんなに盛大に鳴らさなくてもいいもんなのにね……!」
みずからの大型アーマーのコクピットの中にその身をあずける第一小隊の隊長であるクマ族のパイロットが、そんな自嘲気味に言っては周囲のモニターに視線を送る。
分厚い何重もの装甲に閉ざされたコクピットの内部には本来、外部からの騒音など聞こえないものなのだが、スピーカー越しにははっきりと聞き取れるのだった。
そのほかの異音も、この耳には届いていたが。
正面の大型モニターの真ん中のあたりを四角く切り取ったウィンドウの中で、その真ん中に映っていた若いクマ族のチーフメカニックが、こちらもやや苦笑い気味に応じてくれる。
前面の天井に埋め込まれたスピーカーからそちらの音声が聞こえてくるが、この彼の声以外にも、サイレンやら怒鳴り声やらがやかましくまとわりつくのに、これを聞かされるエースパイロットどのもやや苦笑いだ。
「はい。ですがこの警報はじきに止むものと思われます。とりあえず今回の作戦のメインとなります、第二小隊のアーマーが各機出撃しましたら……!」
そう言いながら何かしら含むところがあるような表情のチーフメカニックのリドルに、したり顔したニヤニヤが止まらないクマ族の若いパイロット、ベアランドは言ってやる。
「そちらさんは、いざ出撃するにもてんてこまいみたいだね? さっきからそっちでやかましくギャアギャアとわめいているの、イージュンだろ? さては第二小隊の隊長のシーサーと揉めているんだw ま、いつものことだよね?」
ちょっと困り顔ではぁとうなずくリドルは、みずからの背後、コントロール・ルームの二番滑走路の管制ブースを巨体で占拠してコンソールに食らいついては、今も怒鳴り散らしているベテランのメカニックマンに、ちらりと困った視線を投げかける。
やがて仕方もなしに真顔で返すのだった。
「……はい。じぶんはこちらの管制に専念します! はじめの予定の通り、そちらのセンターデッキからベアランド少尉どのが出撃、その後に一番滑走路から今回はタルクス准尉どのが、じぶんのビーグルⅣでの出撃となります! それではどちらも準備よろしいでしょうか?」
「もちろん! てか、今回は、じゃなくてこれからずっとだろ? リドルのビーグルは戦場での補給担当としてこれをタルクスがまんま引き継いだんだから。ちゃんと引き継ぎはふたりで済ませたんだよね?」
ただちにはい!とうなずくリドルの声に、右手のスピーカーからは新しく小隊に編入された、こちらはブタ族の若いパイロットの声が重なる。
「こっちも準備OKなんだぶう! いつでもオーライなんだぶう!! ちなみにこれがオレの初陣なんだぶうっ!!」
とっても陽気で元気一杯の返事に、対してこちらはちょっと意外げに聞き返すベアランドだ。
「へえ、初陣って、戦場にアーマーで繰り出すのはこれが初めてなのかい? 大丈夫かな……リドル、ちゃんとレクチャーは済ませてあるんだよね、その機体、とにかくいじくり回して機体制御がめんどくさくなってるんだろ? いかに補給機とは言え!」
正面のモニターに問いかけるのに、かしこまった若いメカニックマンはやや戸惑いながらの返答だ。
「は、はい! ひととおりは……ですが自分は本来のパイロットではありませんので、補給機としての機動所作だけであります。だからそれ以上のことは……」
「それで十分だよ。あとはタルクスがどうかにしてくれるだろ? 仮にもこのアストリオンの正規兵のパイロットなんだから」
「もちろんなんだぶー! バッチコイなんだぶうっ!!」
ちょっとおっちょこちょいな感じのノリの返事に、右手のモニターに映ったブタ族くんをちらりと見てしまう隊長さんだ。
モニターに映ったその顔を見るには、初陣とは言いながらどこにも余計な力が入っていない慣れたそぶりで余裕綽々の表情のブタだ。ちょっとだけ肩をすくめて小声で独り言を漏らす。
「ま、基本は補給活動だもんね。そっち向きの訓練はきっちり受けてるわけで、無茶するわけじゃないから。あれ、本来のタルクスのアーマーって、いつ頃届くのかな? あと他にも援軍が来るってはなしだったけど……」
ちょっと考え込んでいたら、サイレンや怒号の中に混じって、何やら気の抜けたようなおじさんの声までも入って来た。
正面のスピーカーからだ。
四角いウィンドウの真ん中に腰を据えるリドルの両脇に、いつからか半分だけ見切れたふたりぶんのパイロットスーツ姿があって、おそらくはこの白地に赤のラインの入ったクマ族のベテランパイロットのなまり混じりのセリフであった。
「隊長、今回はぼくらはお留守番でええんですかあ? なんやヒマで死にそうなんですけどぉ……」
そんなどこかおとぼけたザニー中尉の言葉に、半ば呆れ顔で返す隊長の少尉どのだ。
「死ぬことはないだろう? せっかくなんだから楽しんでおきなよ。あいにくで遊べるようなレジャーはないけど」
適当にうっちゃってやったセリフに、もう片方の白地に青のラインが入ったパイロットスーツ姿が、ダッツ中尉が答える。
やっぱり独特ななまり混じりでだ。
「はいはーい、ほなら、ヒマつぶしにおれらでぶうちゃんの監督をやっときますよって、隊長はこころおきなくじぶんのお仕事に専念しはってください! ひゃは、なんやごっつおもろいことになりそうやんけ、ぶうちゃん、ビシバシいくでえ!!」
「あ、それじゃよろしく頼むよ。そのタルクスは主にふたりの補給役になるんだものね! とりあえず第二小隊が出てから出たいんだけど、まだかかるのかな? えらい手こずってる??」
ちょっと不審げに聞くベアランドに、正面で問われた若いクマ族は苦笑いでまたちらりとだけこの背後に視線を向ける。
結果、何を言うでもなく肩をすくめさせるのに、それと了解する隊長だ。
代わりにまたこの場で気になっていたことを聞いてやった。
「ああ、そう言えば、シーサーたちとは別働隊で出撃することになってた、あのゴリラくんとネコちゃんのコンビはどうしているのかな? ひょっとしてもう出撃していたりするのかい、あのどっちも正体不明の謎のアーマーで? こっちのシーサーたちがもたもたしているあいだにさっさとさ?」
これにまたしても困惑顔する若いメカニックマンは、本来のアーマー部隊を統括指揮するクマ族の隊長を前にやや言いづらそうに言ってくれた。
ちょっと目をまん丸くして聞くベアランドだ。
「ああ、はい。そちらのおふたりでしたら、もう既に甲板後部のリフターデッキを使用して艦外に出られております! 加えておふたりいわく、第二小隊とは連携を取らない完全に独立した部隊として行動するとのことで、こちらからの管制もあまり聞き入れてはもらえませんでした……!」
「あ、そ、みんな勝手だなあ! あれ、でも艦の守備隊や飛行部隊が使うようなあの射出型のリフターじゃ、せいぜいこの甲板の上の屋根に登るってだけのことじゃないのかな? どうやってそこから目的地に向かうんだい??」
「はい。もともとどちらも本艦デッキのカタパルトを使用できるような機体ではありませんので、本来なら緊急発着用のアンダーデッキから地上に降りるのが相当なのでしょうが、なんでもその、ショートカットをするとのことでして……」
自分で言いながらもなおさら困惑顔するリドルに、なおさらきょとんとした顔で聞き返すベアランドだ。
「ショートカット? え、何を言っているんだい??」
心底不可解げな隊長に、ひたすら困惑するばかりのメカニックだが、この横からベテランのパイロットが助け船を出す。
「ほえ、ほれ、小僧くん、説明するのはしんどいから、むしろ見てもろうたほうが早いんちゃう?? それしかないやろ、今ちょうど、その最中なんやし……!」
ザニーにそう促されて、仕方も無しに手元のコンソールを操作する若いクマ族だ。微妙な顔つきで言いながら、四角くくりぬかれたウィンドウの画像が、がらりと別のものに切り替わる。
「そちらは本艦ブリッジからの映像になります……! ええ、見ての通りで、二機のアーマー、艦の甲板の屋根から崖に飛びついて、そちらからさらにこの西側の断崖と山を超えてゆくものだと思われます。むちゃくちゃですね……」
「あらら、素直に地面のルートを伝っていくんじゃなくて、山越えで文字通りのショートカットをしようってのかい? あんな切り立った断崖、アーマーで越えるのはムリってものだけど、実はその先にいい抜け道があったりするのかな? 山岳や丘陵地帯を大回りしないで平野まで突っ切れるのならば、それは確かに近道ではあるのだけど……?」
「じぶんにはわかりかねます……」
若いメカニックが困惑して返すさなかにも、二対の戦闘ロボは器用に断崖を登って、その先の林の中へと姿をくらましてゆく。
この一部始終をのんびり眺めながら、とりあえずで了解するベアランドだ。
「ブリッジの艦長はどんな顔してこの映像を見ているのかね? まあいいや、現場で合流すればいいことだし、上空から見ていればちゃんとモニターできるよね! 今回はこのふたりのお目付役で、この実力のほどをそれとはかるのがぼくらの役目だし。リドルもこちらからの映像を見て確かめておいておくれよ? あとついでに、ザニーとダッツも!」
「了解!」
正面の映像がふたたび切り替わって、元に戻ったコントロールルームの中でピシリと敬礼するメカニックマンだ。
なんならあのイヌ族の博士さんにも見てもらいたいくらいだが、あいにくと当人はみずからの研究室にこもっているらしい。
さてはじぶんの研究対象以外にはまったく興味はないらしく。
そうこうしているうちに、あんなにかまびすしく鳴り響いていた警報が、今やぱったりと途絶えていた。
どうやら第二小隊のオオカミとイヌ族コンビがようやく出撃を済ませたものらしい。
お次はじぶんの番だと了解するクマ族の隊長は周りのモニターから余計な情報を削除して、前面のメインモニター一杯に大写しで映っていた正面のアーマー射出口が開いていくのを視認する。
先に見えるのは乾燥地帯の枯れ果てた大地と、青い空だ。
空飛ぶ軍艦は今は陸地に停泊しているから、いつもと比べたらずっと低い位置からの出撃となった。
画面から消え失せて、今や声だけとなったメカニックが天井のスピーカーからはきはきと指示を飛ばしてくる。
「それでは今回はミッションの性質上、少尉どのはアーマーの強制射出システムを使用しないでの、自力での発進となります! ゲート、フルオープン確認、アーマーの各部ロック解除、各種システム、機体ともにオールグリーン、いつでもどうぞ!!」
「了解!」
コンソール手前で赤く灯っていたパイロットランプが、管制からのゴーサインと同時に緑色に切り替わる。
こちらもきっぱり応じてから、みずからの握る操縦桿を手元に引き寄せるクマ族の隊長だ。
それまで機体を固定されていたデッキからその巨体を持ち上げるアーマーが、そのまま微速前進、ゆっくりと正面口からこの外部へとせり出してゆく。
完全に艦の外へと離脱してから、特殊な飛行システムを搭載した大型の機体がさらにゆっくりと大空をめざして上昇してゆく。
一番最後に戦場に駆けつけるくらいでいい今回のような作戦なら、このくらいゆっくりとした立ち上がりでも問題はなかった。
背後から後続のブタ族くんの機体も無事に発艦したのを見届けて、目的のポイントへと向けて機体を回頭、そこまでまっすぐに突っ切るコースでアーマーを前進させるベアランドだった。
はるか足下に見える地面の荒野では、先行したウルフハウンドたちの第二小隊が丘陵地帯から早くも平野へと突入するのを確認もする。はじめのもたつきを完全に挽回する急ピッチだ。
何かと性急で強引なオオカミ族の隊長どのに、あの気弱な若いイヌ族くんたちが泣かされていなければいいなとやや苦笑いで思いながら、それ以外の周囲に視線を向ける。
肝心のふたりの傭兵部隊の姿を見失っていたが、それもこの先で見つけられるだろうと、意識をはるか平野の先でポツポツと見渡せる街らしきに向けた。
中でもこの一番手前に見えるものが、今回の作戦域となる予定のポイントであった。
通称・ポイントX……!
戦場まではそう遠くはない。
Part2
時刻はおよそ正午過ぎ。
コクピット前面の視界モニター一杯に雲一つとなく晴れ渡った青空が広がる。
空高くから広く平野を見渡せる高度にまで機体を上昇させて、この眼下に広がる乾ききった茶色一色の砂漠地帯の景色を眺めるクマ族のパイロットだ。
母艦の周囲を取り巻いていた切り立った山岳や丘陵地帯から抜け出して、今は緑のまばらな荒野に一本だけ長く走る灰色の直線、あまり整備の行き届いていない国道らしきを注目――。
やがてそこにふたつばかりの違和感を見つけることとなる。
広角のロングで捉えた画像の中ではただの小さな黒い点であったものだが、これをいざ望遠でズームアップすると、例のあの黒い不格好な二体のアーマーであることがはっきりとわかる。
道なりに荒野を西へとひた走る二機のアーマーの後ろ姿をしげしげと眺めながら、ちょっと感心した口ぶりの隊長さんだ。
「あらら、もうあんなところにいるよ、あのおふたりさん! 本当に基地の周りの山岳地帯をまっすぐ突っ切って平野に出てきたんだ。まいったね……!」
誰にともなし言ってやったセリフに、右手のスピーカーからただちに明るい返事が返ってくる。
「おれたちみたいな空を飛べる飛行型ユニットでもないのに山越えだなんてすごいんだぶう! おまけに今は陸地をすごいスピードで走っているんだぶう!!」
後続の僚機から発信されるごくごくのんきで陽気なブタ族の返答に、こちらもしごく素直にうなずくベアランドだ。
「ほんどだな。あんな見るからに特徴的なスタイルのアーマーで長い距離を移動できるのか不思議でならなかったんだけど、ちゃんとどっちも脚部に高速機動用のモジュールが仕込んであったんだ? でも見たところはやりのホバーなんかじゃなくて、いわゆる単純な車輪(ホイール)式の走行タイプみたいだね?」
正面モニターの画像からそうじぶんなりに推測してやるに、すると今度はこの背後につけた機体よりか、ずっと後方に控えている母艦のデッキから返事が返ってきた。
チーフメカニックの若いクマ族、リドルのものだ。
こちらでモニターしている画像やデータをまんまあちらでも共有しているので、同時におなじものを見ながらそれぞれに考察や解析ができるのだった。一緒にいるはずの居残り組のダッツやザニーはだんまりだったが、ひょっとしたら別の管制ブースで後ろのタルクスに絡んでいるのかもしれない。
「はい。じぶんにもそのように思われます! ですがその場合、タイヤの構成素材がなんであるのかが気になりますが? とりあえず舗装路だから可能なことなのかもしれません……!」
「つまりはあくまで市街地用の装備ってことか……う~ん、さすがにそこまではここからじゃ見分けがつかないな? あんまり近づいたら気になるだろうし、敵に居場所を教えちゃうようなものだからね? 実際に戦闘に入らなければ、おちおち近づいてモニターもできないよ。でもネコちゃんの機体はスムーズに走ってるけど、でっかいゴリラくんの機体は、なんか大変そうだな? ずっと上体よれながら必死に食らいついているような??」
ちょっと首を傾げながらの感想に、するとまたよそからこちらはおじさんの声で補足が入る。
あの二体の謎のアーマーに興味があるのは彼らだけではなかったようで、みずからが担当する第二小隊の出撃を無事に見送って、今やすっかり手ぶらになった中年クマ族のチーフ・メカニックマンだ。
それが何やら少し冷めた調子で言ってくれる。
「走行用の内部機構(モジュール)とは言っても、おかざりみたいなもんだろう。おれが見たところじゃ、どっちもガチガチの格闘戦を主眼に置いた機体だ。よってちゃちなお飾り程度のカッチカチのタイヤがせり出してるくらいなもんだな! 乗り心地は最悪だろうよ? 酔い止めは飲んでるのかね?」
冷めた視線でかなりの皮肉交じりの文句に、あいまいにうなずいて了解するベアランドだ。無言でも苦笑しているのが気配でわかる若手のメカニックも、おおよそで同意見なのだろう。
「まあ、なんでも機能を詰め込むのは限界があるからね? ムリでもなんでもあのくらいのスピードで長いこと航行ができるのなら、及第点なんじゃないのかな。今のところは?」
そうしたり顔して言ってやるのに、左のスピーカーからはやはり皮肉めいたおじさんのだみ声である。
「ああ。ただしメカニックの立場からしたら、あまりおすすめできたもんじゃありゃしないな。特にあのでかいゴリラくんの機体、あんなの無理矢理すぎて居住性が最悪だろ! およそタイヤの大きさが釣り合ってないんだよ、ケツが痛くて仕方ない」
「あはは……!」
反対側のスピーカーからリドルのお追従笑いみたいなものが聞こえるが、たぶんその通りなのだろう。
内心で思わず、お気の毒さま……!とそのモニターの中の二機のアーマーの後ろ姿を眺めるクマ族だった。
一方、その当のふたりのアーマー乗りたちといえば――。
激しく小刻みに揺れるアーマーのコクピット内で、大きな身体を前のめりの姿勢で正面のモニターに食らいつくゴリラ族のパイロットだ。
太い手足をシートやペダル周りに踏ん張らせて、身体の姿勢を保ちながら、ひたすらに目の前のモニターをガン見していた。
地図の上では主要な国道ルートとは言っても、実際はおよそでこぼこで道としての役目を果たしてもいない道なき道だ。
あいにく荒れ地を走るようには作られていないみずからのアーマーのちゃちな三輪型車輪機構では、ちょっと油断したらすぐにでもバランスを崩して転倒しかねない……!
額にイヤな汗を浮かべながら、必死に前を走る相棒のアーマーの後ろ姿を追いかけるが、ちょっと弱音を吐きそうだった。
だがそんなもの言ったところで、前の機体は振り向きもせずにさっさと行ってしまうのだろう。
長年の付き合いで、相手の性格は熟知していた。
ちょっとそっちに気を取られていたら、ガクンと大きく機体が揺れて、ただでさえ前のめりだった頭が思わず正面のモニターに突撃しそうになる。さてはくたびれてひからびた舗装路に大きめの亀裂(クラック)が走っていたのだろう。
思わず舌打ちして、ちょっと距離の空いた相棒の背中に向けて文句をたれていた。
「うわっと! なんだよ……うほ、あのさぁ、イッキャ、道にクラック走ってるんなら、教えてくんない? こっちはただでさえこんなバランス悪いのにムリしてるんだから、転倒しちゃうじゃないか。この速度だったら最悪、大破とかもありえるよ?」
なるべく内心のイライラを声に出さないようにお願いしたはずなのだが、前の機体からはかすかな舌打ちめいたものがして、その後につっけんどな返答が返ってきた。
おもわず眉間にシワが寄って、げんなりするゴリラだ。
「それはおまえが間抜けなだけなんだにゃ! 四の五の言わずにさっさとついてくるにゃ! 気付いていると思うが、背後で上からあのクマの隊長が見ているにゃ! 間抜けなさまは見せられない。できたらもっとスピードをあげて、あいつらを巻いてやりたいくらいなんだにゃ!!」
「それじゃこっちが置いていかれちゃうよ! まったく、山を越えたらショートカットだとか言っておいて、目的地まではさして変わらないじゃないか? ぶっちゃけあのオオカミさんの部隊のほうが早く着いているかもよ?」
「それはむしろこちらの思惑どおりなんだにゃ!」
ちっとも悪びれるでもないネコ族の返事に、ちょっと怪訝に口をとがらせて聞き返すゴリラ族のベリラだ。
「え? なんで??」
ふたりきりの部隊の中ではリーダー格となる小柄なネコ族、イッキャはニヤリとしてみずからのコクピットの前面モニターの中で太い首を傾げるゴリラ、もといベリラに返した。
「まずはじめはあのオオカミとイヌ族のコンビたちに戦わせておいて、敵の意識がそちらに向いている隙に、おれたちはこの背後から忍び寄って奇襲攻撃をかけるにゃ! まんまと挟み撃ちにしてやるのだにゃw 慌てたやつらは総崩れになるのにちがいがないのだにゃ! 楽勝なのだにゃ!」
「はあ~……! 相変わらずそういう悪知恵が働くよね? まともにやってもおれたちならそう苦労はしないはずなのに、あの上で見張っているクマの隊長さんはどう思うのかな? もはやコソコソしながらなのは性分なのかな、このおれたちの……!」
何やら自嘲気味な相棒のセリフに、まるで気にするでもないネコ族はしれっとした口ぶりで言ってくれた。
「要は勝てばいいのだにゃ! 相手は手負いの敗残兵なのだから、オオカミたちが正面で戦っている間に、裏からさっさとケリをつけてやるにゃ! このおれとおまえのアーマーの力を持ってすれば、簡単なのだにゃ!」
「だったらこんなこそ泥みたいなやり口でなくてもいいんじゃない? 前の陸軍基地を襲った時もそうだったけど、いちいちめんどくさいんだよなあ、イッキャのやってることって……!」
思わず思ったまんまを口にしたら、不意に前を走るアーマーがさらにスピードを上げはじめた。おまけに捨て台詞みたいな言葉を発して、通信を閉ざすリーダーのネコ族だ。
「おまえが何も考えないから、このおれが作戦を立てているのだにゃ! 文句は一切、受け付けないのだにゃ、おまえは黙ってこのおれについてくればいいのだにゃ!」
「あ、ちょっと、待ってって! そんなに急いだらせっかくのズボラ奇襲大作戦がうまくいかないんじゃない? てか、あの上で見ているクマさんたちのアーマーが目立って、はなっからそんなの成立してないような……? あ、だから待ってってば! 置いてかないでよ、イッキャ!!」
荒野をひたすらに走る二機のアーマーは、そのはるか先に目的地となる街、通称ポイントXがあるのをこの機体の頭部のカメラの視界に捉えつつあった。
Part3
今回のアーマー部隊出撃の目的、その目標は、近隣のオアシス都市に反政府ゲリラのアーマーが複数出現したことにより、この討伐と街からの撃退を要請されたことによるものだった。
この中央大陸「アストリオン」の友邦国の軍艦として今はこの大陸連邦の領空領土に無条件でお邪魔させてもらっている都合、無下にはできないとのンクス艦長の判断であった。
ちなみにもっと厳密に言うのであれば、ゲリラのアーマーとはそもそもは彼らが占領しようとしていた、今は完全に廃墟と化している元陸軍基地の守備隊たちであり、その敗残兵が野党と化して近隣の街の脅威となっていると言うのがより正確なところだ。
ただしこの基地の占領(破壊?)に関してはもろもろ他の要素も強く関わっているのだが、傍から見れば彼ら、ベアランドたちの行いによるものと思われるのは致し方がないところではある。
それによる後始末という側面も強くあったが、そのあたりについては今さら言っても仕方が無いし、その当事者と思われるアーマー乗りたちも、今回の作戦にはしっかりと参加しているのだから、どうこう言うつもりはないクマ族の隊長だった。
それはある意味、本人がきちんと責任をもってその責務を果たすということでもあっただろう。
ひたすらに続く悪路の果てがついに見えてきた……!
母艦のトライ・アゲインを飛び出してからこれまでずっと代わり映えしない、干からびた乾燥地帯をひた走ってきた機体のメインモニターが、その中に不意に四角いアラートゾーンを現出!
自機が目標地点に近づいたことをパイロットに警告する。
それをチラとだけ一瞥して、コクピットの中で軽快なランニングのステップを踏むオオカミ族の小隊長どのは、ペロリと舌なめずりして鼻息をフンとだけ鳴らす。
ちょうどウォーミングアップは済んだところであった。
通常のアーマーのコクピットは真ん中に操縦席があって、そこにパイロットは着座するものなのだが、彼のそれはかなり独特な仕様で、シートから立ち上がった状態でのランニングスタイルの機体操作が可能なものとなっていた。
それは身体がでかくて鈍重なクマ族などにはおよそ考えられないものだ。
直感と瞬発力重視のセンスが何より求められる機体の操縦機構は、目下、この彼だけのものである。
目標が目前に迫ろうともみずからの走りのペースを緩めないオオカミ族の隊長、ウルフハウンドは、後続の二機の僚機、若いイヌ族の隊員たちへと向けて、戦場に到達したことを教えてやる。
「おい、ワンちゃんども、準備は出来ているな? 目標の敵アーマーは街中の至る所に潜んでいると思われるが、構うことはありゃしねえ、見つけ次第にこれを各個に撃破だ! 数は不明だが、中古のビーグルⅤごときはオレらの敵じゃねえ、間違っても反撃なんざくらうんじゃねえぞ? あと今回はよそ者の部隊も参加しちゃいるが、そんなヤツらに遅れを取ることは許されねえ。どっちもしっかりと星を稼げよっ!」
半ば吐き捨てるように言うことだけ言って、それきり目の前のモニターに映る景色に意識を集中するオオカミだ。
すると天井のスピーカーからは、ちょっとの間を置いて、かなり困惑したふうな部下の声が響いてきた。
はじめのひどく動揺した息づかいとその次にやけにおどおどとしたものの言いようが、それだけで全身毛むくじゃらで臆病者のコルクのものだとわかる。
内心イラッとはするものの、へんにどやしても返ってパニックするだけだろうから、黙って聞き流してやった。
「……えっ、あの、その、ええっと……しょ、少尉どの、それだけでありましょうか? なにか、その、作戦は……?」
モニターにその表情を映さなくても臆病風に吹かれているのがわかる新米のパイロットに、やはり内心で舌打ちしながら、ぶっきらぼうに返してやる。
「そんなものは必要ありゃしねえだろうが? ただ街の中をしらみつぶしに探索して、敵を見つけたらただちにこれを撃破する! ただそれだけだ。十分だろう?」
「えっと、その、あの、だって、あの……」
まったく要領を得ないイヌ族の代わりに、これの同僚でこちらはやけにさっぱりとした見てくれの細身のイヌ族のケンスが通信を開いた。普段からの落ち着いた若者は、はっきりとした言葉付きで相棒の言わんとしていたことを端的に申してくれる。
「ウルフハウンド少尉どの! それではこのじぶんたちは、隊長どのを背後からサポートする役割でよろしいのでしょうか?」
性格が何かととっちらかった毛むくじゃらと比べたらずっと律儀でまともな部下の質問に、だがぞんざいに答えてやる上官だ。
「そんなわけがあるか! おまえらみたいなひよっこにサポートとしてもらうなんざ、どんなシチュエーションなんだ? このオレの足を引っ張らないこと。各自に判断して状況を乗り切ることがおまえらの役目だ! ごたくはいいからとっととやれ!」
「あ、隊長! 行っちゃった……!! いやでも、そんなこといきなり言われたって、おれ、どうしたらいいかわからないよ……」
目標地点の街、ポイントXに到達するやいなや強引に正面突破をはかるウルフハウンドの銀色の機体は、それきり砂煙と共に街中へと消えて行った。
後には新米の若手パイロットの新型アーマーが二機とも虚しく取り残される。途方にくれるコルクだったが、どうしたものかと正面モニターの右上に映る、同僚のイヌ族に目線をやった。
モニター越しにこの目が合うケンスは、ちょっと肩をすくめ加減にして、半ば呆れたような調子で言ってくれた。
「あっと言う間にいっちまったな? 高速機動用のホバージェットもなしに二本の脚で! アーマーをあんな風に走らせることができるヤツなんて、オレはお前以外に見たことがないよ! てか、あれってぶっちゃけお前よりも速いんじゃないのか?」
皮肉か冗談まじりみたいなセリフに、顔色がいまいち冴えない毛むくじゃらのイヌ族は、うわずった声で応じる。
「ああっ、おれも敵わないと思う……! でも正直、うらやましい。おれもあんな風にアーマーを走らせたい。このホバー、直線的な動きしかできないし、飛んだり跳ねたりしてタマをかわしたりできないんだもの!!」
「それが普通なんだよ! ドタバタ動いたりするのが苦手なアーマーが速く走るためにあるんだから。そもそも飛行型のオレたちのアーマーじゃ、走るどころか歩くのだって一苦労じゃないか」
もっともらしい同僚のセリフに、ため息まじりの毛むくじゃらは心底、心もとなげに弱音を吐く。
「これからどうすればいいんだろう……! ウルフハウンド少尉どのとははぐれちゃったし、おれ、自信がないよ。なんで飛行部隊のおれたちが、こんなおかしな陸戦仕様のアーマーで、こんな街中で戦わなくちゃならないんだろ?」
「しっ! 隊長どのに聞かれてるかも知れないぜ? あと他にもベアランド少尉どのたちも上で見張ってるんだろ? こんなサマ見られたら、後で何て言って笑われるか。とにかくオレたちも戦いに参加しよう、オレが先行するから、おまえは後からバックアップをすればいいさ!」
「い、いや! おれが先に行くよ。後ろが誰もいないとコワイから! ケンスが見張っててよ、ふたりで強力して乗り切ろう!」
「ははっ、おまえほんとに面白いよな! 了解!」
隊長どのの突入から遅れておよそ2分半後、部下たちのアーマーも散発的な発砲音が鳴り響く乾いた戦場に突入していった。
Part4
中央大陸の南西部に位置し、アストリオンの現政権中央府とこれに反抗する西岸域一帯の新興都市国家群がにらみ合う緩衝地帯となる地域で、その中でも最大の規模を誇る商業都市が今回の戦場となっていた。
この大陸出身のブタ族のタルクスから言わせると、アルベラと呼ばれるらしいが、基本よそ者ばかりで地元の地理に長けていない隊員たちからは、便宜上、ポイントXと呼ばれていた。
街を東西に分ける大通りが南北に長く走り、中央の広場から蜘蛛の巣状に細い路地が走る田舎にありがちなレトロな街並みの中は、突然の野党のアーマーの襲撃にあって、今はどこも人気なく静まり返っていた。
避難命令が出されているのか戒厳令が敷かれてるのか知らないが、アーマー同士の戦いをする身からすればありがたいことだ。
およそ人的な被害を出さずに済むあたり。
物的損害に関しては、無論、出さないように努めるものだが、相手はそうも言ってはくれないのだから、もはや多少の被害は止む無しと諦めてもらうしかない。
そうすっかりとたかをくくった隊長のオオカミ族、ウルフハウンドはぬかりなく周囲のモニターを睨みながら、スピーカー越しに聞こえる外部からの音にも左右の耳をそばだてる。
広くて見晴らしのいい大通りには人影どころかアーマーのそれもなくてて、敵はこぞって建物の裏手の影に潜んでいるのがはじめの予測のとおりだった。
それこそ街中をしらみつぶしに探し出して敵を撃破すると言ったとおりの展開である。
古い建物に周囲を囲まれた路地裏で、アーマーが一機通るのがせいぜいのところをさしたる足音も立てずにみずからの機体を進ませるウルフハウンドは、この目前、T字路の先に大きな影が揺らぐのを素早く察知する。
現状、敵は攻める気がまるでなく、逃げに走ってばかりで完全に一方的な追いかけっこになっていた。
ゆっくりとした抜き足差し足の動作から一気に素早い突撃のモーションに移って、角の突き当たりに飛び出すとほぼ同時に左に機体を回頭させる。
モニターには慌ててそこから逃げようとする、それは良く見知ったはずアーマーの背中が大写しで映し出されるが、迷うことなくその背中めがけてハンドカノンを斉射していた。
前のめりにつんのめった敵機が道の真ん中で見事に爆発炎上、この原型もわからないくらいに大破する。
機体の戦況解析コンピュータが状況から敵機撃破を解析判定するまでもなく、またひとつ星を上げたことを確信する隊長は、ぬかりなく周りを見回しながら軽くガッツポーズを取る。
調子は上々だ。
「よっしゃ! これで三機目!! ロートルの機体が相手とは言え、まるで歯ごたえがありゃしねえな? よりにもよって友軍のはずのビーグルⅤとは、全部で何機いやがるんだ? おっと、いつものクセで突っ走り気味か。味方のワンちゃんたちは……!」
手前のモニターの状況表示一覧を一瞥するなり、難しい顔で愚痴をこぼす小隊長どのだ。
「なんだあいつら、どっちもまだ星がついてねえじゃねえか? 仮にも新型の機体で情けがねえ! ん、星がついたか? いや、こいつは……! 傭兵どものうさんくさいアーマーか。どうやらオレたちとは逆の街の北側から入ってきたみたいだが……!」
ますます険しい顔つきでモニターを睨みつけるウルフハウンドだが、そこによそからの通信を知らせる、短いアラームが鳴る。
頭上から聞こえてきたどこか脳天気な声に、どことなしに天井に視線を上向けるオオカミ族だ。
「シーサー、聞こえるかい? ずいぶんと派手にやってるみたいだけど、ちょっとだけいいかな。おりいってお願いがあるんだけど……!」
「あん、なんだよ、大将? 今忙しいんだから、後にしてくれ! こっちは戦いの真っ最中なんだ。のんきに世間話なんかしてるヒマはねえぜっ……」
露骨にイヤそうな顔で返してやるのに、相手の第一小隊のクマ族の隊長さんときたらば、まるで臆面も無く話を続ける。
「いや、そっちのコルクとケンスのことなんだけど、今は分かれているんだろ。別行動なんだ? それでなんだけど……」
相手の隊長がしつこく続けようとするのをただちに阻止する気が短いオオカミは、反射的に声を荒げていた。
「悪いがガキのおもりなんかする気はねえよ。足を引っ張られるのもゴメンだ! オレは一匹狼な性分なんだよ。甘ったれたワンちゃんどもなんか引き連れていたくはねえっ」
「ひどいな! そんなに見所なくもないだろう、ふたりとも? いやそうじゃなくて、今回はあのふたりには引っ込んでてもらおうと思ってさ! なんせ状況が状況だから?」
「?」
意外なことを言い出すクマ族に、灰色オオカミはいぶかしくモニターに映ってもいない相手をじっとにらみ付ける。
そんな相手の剣幕を雰囲気から感じているのか、ちょっと困ったふうなクマの隊長は苦笑い気味のセリフを続ける。
「今、シーサーたちが戦っているビーグルⅤって、機体のカラーリングがぼくらが見慣れたナショナルカラーのグリーンじゃなくて、茶色、ブラウン主体じゃないか? タルクスに聞いたら、ルマニアから輸入したあれって、いわゆる砂漠仕様であんなカラーリングらしいんだけど、今のコルクやケンスのビーグルⅥのそれとまんまかぶってるじゃないか? 見てわかるとおり?」
「……だからなんだよ?」
怪訝に聞くオオカミに、心配性なクマはどこかいいずらそうにまた続けた。
「ひょっとしたら、同士討ちとかになっちゃわないかと? 特にコルクがパニックしたりして。とにかくふたりには一度引っ込んでもらって、なんならシーサーにも引っ込んでもらいたいんだよね?」
「は? 何を言っているんだよ??」
ちょっと険悪に聞き返すのに、まるでてらいもなくみずからの都合をぶっちゃけてくれるそれはのんきなクマのリーダーだ。
「今回の作戦の目的は、確かに民間に紛れ込んだ残党のアーマーの撃退だけど、裏テーマとしては、あのネコちゃんとゴリラくんの腕試しってのもあるじゃないか?」
「そんなのこのオレの知ったことじゃありゃしねえよ! あんな得体の知れねえヤツらに任せてたら被害が拡大するだけじゃねえのか? 好き勝手に暴れ回って結果、街が半壊だなんてことになっても責任が取れねえだろうっ」
いっそ吐き捨ててやるのに、しかしながら天井のスピーカーからはしごく落ち着いた返事が返ってきた。
「……そうは言うけど、シーサー、今、ビーグルⅤを派手に大破させたよね? 街中で大爆発させるみたいな?」
手痛い指摘にぐっと言葉に詰まるウルフハウンドは、苦々しい顔でこの天井のどこともしれない空をにらみ付ける。
「良く見ていやがるな? いやらしいったらありゃしねえ! そこまで派手じゃなかっただろう? 建物はどこもまだ半壊なんかしちゃいねえぜっ」
「その前の二機も、思いっきり大破させてたじゃないか? もう十分だよ。今回はこの場をあのおふたりさんにゆずって、後は三人で残党のアーマーが逃げられないように包囲網を作っておいてくれないかな。コルクとケンスにはこちらから言っておくから! それじゃ、そういうことでよろしくね♡」
「あっ、何を勝手なこと……切りやがった! たく、しょうがねえな……」
好き勝手なことを言ってそれきり通信を閉ざす同僚のクマ族だ。これに不満顔で天井を見上げるオオカミ族だが、舌打ちして機体を反転、来た道をゆっくりと引き返していくのだった。
Part5
※主役の乗るメカをリテイクすることになりました!
理由はブサイクすぎるから(^^;)
補給機のタルクスを伴ってみずからが街の上空に到達したときには、すでに戦況は刻々と変化していた。
こちらにおおむね有利に事態が進んでいるのはほぼ想定していた通りだが、街に入るなりに肝心の黒いアーマーを二機とも見失ってしまったのには、内心で少なからず焦るベアランドだ。
大通りからゴミゴミとした路地裏に入り込まれては、真っ黒い機体は保護色も同然でほとんど見分けが付かない。
どうにかすべくうんぬんかんぬん頭をひねって、どうにか第二小隊のオオカミ族の了解を取り付けるまでこぎ着けた。
クマ族の隊長はしたり顔してみずからのアーマーのモニター越しに見下ろした街の様子と、この手元の戦況表示ディスプレイをしげしげと見比べる。
「ああ、早々とシーサーが三機も撃墜しちゃったけど、これでいいんだよね。コルクとケンスは今回は残念だったけど! おかげで肝心のあのコンビさんたちに集中できるよ。なんか気が付いたらもう一機、撃破しちゃってるし?」
おおよそで十機はいるものと思われた敵の数は、これでほぼ半減したことになる。ネコ族とゴリラ族のアーマーコンビは、第二小隊のウルフハウンドたちとは打って変わって、こちらはとてもしっかりとした連携プレイで敵を追い詰めているようだ。
ギリギリまで機体の高度を下げてこの様子をうかがうベアランドに、このすぐ後方に控えた補給機のパイロット、ブタ族のタルクスが明るい声音で通信を開いてきた。
「こんなに近づいているのに気付かれていないなんてすごいんだぶう! あの勘の鋭そうなオオカミの隊長さんも気がついていなかったんだぶう! すごいステルス性能なんだぶー!!」
「あ、でも限界はあるよ? 通常の戦闘中なら難しいんじゃ無いかな? 今回みたいに戦わないで傍観しているだけなら、エネルギーのロスを心配しないでフィールド・ジェネレーターをフル稼働できるから、結果としての副産物だよね、これって」
「機体の周囲に張り巡らせたフィールドバリアでステルスまで生み出すだなんて、でかい戦艦のエンジンでも難しいんだぶう? アーマー単体でこれができるだなんて、そんなのうちのボスのイン様のゲシュタルトンくらいしか思いつかないんだぶう! あ、今のはただのひとりごとなんだぶう!」
ちょっと慌ててすっとぼけるブタ族の若手パイロットに、クマのエースパイロットは苦笑いして受け答えた。
「とにかくなりをひそめていないとバレちゃうから、しっかりこのランタンの後ろに隠れていてくれよ? みんな市街地戦に夢中で空なんか見上げる余裕なんてないから気付かれないのもあるわけだし。あとそっちの国家元首さまが秘密裏に開発してるって言う決戦兵器みたいな大型アーマーは、知識としては入っているからそんな隠さなくともいいしね。みんな噂じゃ知ってるんだろ? ある種の都市伝説か陰謀論的な?」
「失言だったんだぶう~!」
茶化した言いように、こちらも苦笑いで応じるブタ族だ。
「ははは! とにかくここからは、あのネコちゃんとゴリラくんの戦いに集中しないとね? なんせこれが今回の一番の目的でもあるんだから、て、言ってる間にまた一機撃破されちゃったみたいだよ! おそらくはネコちゃんのアーマーが敵を追い立てて、その先で先回りしてるゴリラくんのあのいかついアーマーが仕留めているのかな? あ、ネコちゃんのアーマー、発見!!」
言っているさなかにも、眼前のモニター一杯に映し出された入り組んだ街中の裏手の通りの画像の中に、小型の真っ黒いアーマーが軽やかなステップで駆け抜けるのを認めるベアランドだ。
おまけその先の1ブロックほど離れた場所にある、ちょっとした広場らしきに、この相棒となる大型のこれまた真っ黒いアーマーも補足する。
それだからなるべくこの絵をズームで拡大して離れた母艦のメカニックたちにもわかるように努めるのだが、標的は結構なスピードで街中を右へ左へと縦横無尽に駆け抜けていく……!
そのさなかにもまた一機、見慣れたはずの機影でも茶色なのが違和感だらけのビーグルⅤをいともたやすく撃破するのに内心で舌を巻くクマ族の隊長さんだ。
戦場の第一線で現役バリバリの量産型アーマーは言うなれば彼らルマニア軍の主力兵器に位置づけられるのだが、まるでいいところなしのやられキャラと化している。
背後のタルクスはもはや状況がめまぐるしくて目が追いつかないらしい。すっかり黙ったきりだった。
かくして外野からこれをモニターするのも一苦労だと、額にうっすらと汗を浮かべるクマ族たちの一方で――。
☆
足場の整った市街地に入ったことにより、それまでの荒れ果てた砂地よりも格段に動きが良くなった自慢のアーマーのコクピットの中で、素早い手さばきでレバーとコンソールを巧みに操るネコ族だ。
目の前の高精細モニターに映し出したターゲットスコープの真ん中で、無様にその背中をさらす敵アーマーに向けてロックオンしたハンドカノンの引き金をただちに引き絞る。
コンピュータが相手の撃破を解析判定する間もなくその場をダッシュして、身軽なアーマーを暗闇に溶け込ませるのだった。
まるで人間かのような素早い身のこなしでアーマーを疾駆させるが、次の標的へと意識を向ける目つきの鋭いネコの耳元に、手元のスピーカーからは相棒のゴリラ族の、やけにのんびりとした音声通信が入ってくる。
「……イッキャ? 今どこにいるの? こっちはずっと待ちぼうけしてるんだけど、早いとこ敵さんをこっちに誘い込んでよ。さっきからひとりでずっと楽しんでない? さっき後ろから一機現れてビックリしたんだけど、あれってイッキャは関係ないよね? ま、あっさり片付けてやったから問題なかったけど……」
なんかやる気なさげなクレームじみた催促に、若干ムッとした表情になるネコ族のイッキャは、通信相手の身体がでかくて何かとマイペースなゴリラ、もといベリラに向けて返した。
「問題ないのならそれでいいのだにゃ! おまえはそこで黙って敵が現れるのを待ち構えておくのだにゃ! このオレが確実に敵どもを追い込んでいるのだから、四の五の言うななのだにゃ」
「その敵が来ないんですけど? こっちはなんか良くわからない広場だか公園だかでずっとひとりきりなんですけど? そんなに広くもないからさ、敵を倒すついでに、なんか子供の遊具みたいなのもペチャンコにしちゃったんですけど? これって後で弁償とか言われないよねぇ?」
「そんなものはこのオレたちには関係がないのだにゃ! 放っておけばいいのだにゃ!」
「もちろん、そのつもりだけど。でもイッキャばっかりずるくない? ひとりで星を稼いでるじゃないか。こっちにも何機かちょうだいよ、あと、こっちのセンサーで見ているに、イッキャ、ひょっとしてダミーを飛ばしてたりしない? すごいやりづらいんだけど、それやられると??」
ぐちぐちと文句をたれる相棒のゴリラに、額のあたりにうっすらと血管が浮き上がるネコ族は、声にもイライラを出しながらついにはつっけんどんに言い放った。
「何をどうしようがこのオレの自由なのだにゃ! おまえにどうこう言われる筋合いはないのだにゃ! そう言うおまえこそこっちのセンサーではやたらに明るい波形がでているが、エネルギーを無駄にロスしているんじゃないのかにゃ?」
鋭くツッコんでやるのに、受け答えるゴリラ、もといベリラは慌てるようなこともなく開き直った言いようで返した。
「これがあるからここまでほとんど無傷でこれたんじゃない。おれたち。超高出力のジェネレーターが結界さながらのバリアフィールドを展開、おまけに機体の電磁カモフラージュまでしてくれるだなんてさ……!」
「だが絶対ではないのだにゃ! あと上でオレたちを見張っているクマの隊長も、おんなじようなことをやっているようなのだにゃ? それじゃとっとと片をつけるのだにゃ! 残りを追い立ててまとめて大通りに誘導するから、おまえもそこから通りに出るのだにゃ! ここからは早い者勝ちなのだにゃ!!」
言うなり通信をブチ切るネコ族は、機体に激しいステップを踏ませつつも空へと向けて何発かの銃弾を見舞う。
それが号砲だとでも言うかのようにだ。
これに即座に応じるゴリラが乗っていたいかついアーマーが、前屈みのすさまじい勢いで狭い裏路地を疾駆する。
そこからわずか数分で、全ての決着はつくこととなるのだ。
かくして無事、作戦終了……!
※次回に続く……!
ベアランド、タルクス、(リドル、ダッツ、ザニー)
ベリラ、イッキャ……
ウルフハウンド小隊、
ポイントX アルベラ 西 エルスト? 北 カイトス?
艦内 サイレン ベアランド タルクス リドル ダッツ ザニー
21プロット
概要‐ベアランドたちの降り立った基地の周辺の町(仮称Point X)に残存兵のアーマーが襲撃、これを撃退すべく出撃!
敵アーマー、ルマニアのビーグルⅤ(カラーは緑ではなく、黄土色?)
メインは第二小隊のウルフハウンド少尉率いる陸戦部隊アーマー。ここに今回から参加した傭兵部隊のイッキャとベリラのアーマーコンビも出撃。ベアランドは今回はこのふたりのお目付役として、上空からアーマーでこの行動、戦いぶりを監視。
ダッツとザニーは今回はお留守番。補給部隊として出撃したタルクスにリモートでツッコミする。
敵、アーマー部隊を撃破したところで、終了。
22 サラとニッシーがいきなり登場?
×ブリッジクルー 今回は特に出番なし。
◎デッキクルー 第二小隊(ウルフハウンド(ギャングスター)、コルク、ケンス(共に、ビーグルⅥ陸戦型仕様機=ホバーユニット装備型))、傭兵部隊(イッキャ(リトル・ガンマン)、ベリラ(カンフー・キッド))がメイン。
第一小隊 ベアランド(ランタン)、タルクス(補給機改装型ビーグルⅣ)
ベアランド、センタードライバーから、システムを使用しないで自力で発進、タルクス、レフトデッキから出撃~
ウルフハウンド小隊、ライトデッキから各機出撃
イッキャとベリラは、アッパーデッキから、基地を囲む断崖を伝って、現場に潜入?
ルマニアがある東大陸から戦いの場を移し、主役のベアランドたちが現在いる、中央大陸・「アストリオン」のキャラクターたち! #019以降のキャラとメカたち~
●アストリオン国家元首。ブタ族。「イン・ラジオスタール・ザッツ・ガックン・アストリオン」現代正当後継者。
◎可変型イン専用大型ギガ・アーマー。「ゲシュタルトン」
◎ブタ族。インの直属の若手の部下。「タルクス・ザキオッカス」
◎リドルの補給機を暫定的にタルクスに引き継ぎ。
ビーグルⅣ(全面改修型補給機)
◎タルクス専用ギガ・アーマー。「オーク・プロト・ワン」
●タヌキ族。「モーグ・ズク・シャーキンス」
◎バンブギン量産型?ギガ・アーマー。「王将」
●キツネ族。「カッター・ウォルタリバーン・ビジュバンス」
◎可変型ギガ・アーマー。「ハットトリック」
※上記の二人はコンビで、以下はトリオの一般兵。
●クマ族(ヒグマ系?)「ダイル・オルベガ少尉」
◎空中戦仕様型ギガ・アーマー。「Hi-GUMA(ヒグマ)」
●イヌ族(シバイヌ系?)「アッキス・コントラ少尉」
●イヌ族(シェパード系?)「キクター・ムカン・シーン少尉」
●クマ族(灰色熊系?)パイロット。「ハンマー大尉」
◎近接戦闘特化型ギガ・アーマー、「クラッシャー」
●クマ族(ヒグマ系?)パイロット。「オムスン准尉」
◎近・中距離戦闘型ギガ・アーマー。「????」
●イヌ族(??系)「モルザス准尉」
◎可変型・ギガ・アーマー。「????」
●クマ族(ツキノワグマ系?)「カノン・シューン」
◎大型・中・長距離支援用ギガ・アーマー。「ガマ・ガーエル」
○ネコ族(??系)「イワック・ラー」
◎空中戦仕様型ギガ・アーマー。「アマ・ガーエル」
スピンオフ系のお話で、ハンマーの部隊と戦う予定の敵キャラのメカ関係です。ちなみにキャラはまったく出来上がっていません(^^;)
○イヌ族(??系)「サラ・フリーラ・シャッチョス」
◎空中戦仕様ギガ・アーマー。「ドンペリ・ピンク」
●クマ族(ヒグマ系?)「ニッシー・ロックデーモ・ナイ」
◎大型・長距離支援用ギガ・アーマー。「ジン・ジャエル」
●イヌ族(雑種・ミックス系)「タッカー少尉」
◎水上作戦仕様ギガ・アーマー。「イルカ」
●イヌ族(雑種・ミックス系)「トッシー少尉」
◎水上作戦仕様ギガ・アーマー。「オルカ」
●クマ族(シロクマ)「ザッキー・カラーノ少尉」
◎万能型?ギガ・アーマー。「オルソ・ビアンコ」
●オオカミ族「シーバ・アンタルシア」
◎ギガ・アーマー「」
ニコ生で応援してくれたり絡んだりしてくれてるひとたちを作者のおじさんが勝手な偏見と妄想でイメージしたキャラやメカシリーズw ちゃんとキャラとして出来上がれば本編やスピンオフで出てくる可能性大? たぶん出てくるよね(^o^)だってせっかく創ったんだもんwww