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変態機甲兵〈オタク・ロボ〉 ジュゲム file-05 ドラフト!

アキバで拉致られババンバン♪ ⑤

なろうとカクヨムで公開中のジュゲムの下書き版です!ノベルの更新に重きを置いて、挿し絵はかなりテキトーになりますwww

※なろうやカクヨムに公開した部分は太字になりますw

Episode-file-05


 薄暗がりに乾いた足音とかすかに金属がきしむ音が響いた。
 丸っこい影がやや前傾姿勢でとぼとぼと進む。
 のろくとも終着地点はあっという間だ。

「あ~ぁ、とうとう来ちゃったよ、言われるがままにわけわかんないところまで……! ううっ、あ、でもここって誰もいないんだっけ? じゃあどっかに脇道とか……!」

 問答無用で暗闇に伸びる搭乗口をひとりで渡らされ、いまだに逃げ道など探してキョロキョロと辺りを見渡す肥満のうっかりパイロットだ。
 この背後を振り返ってもふたりの自衛官たちの姿はうっすらとした影だけで、今はもうじぶんしか確かなものがない。
 ゲームオーバーだと心底げんなりして、仕方もなく前へと向き直った。もはやそこにしか道はない。目の前のシビアな現実と向き合う以外には……!

「うわぁ、マジで引く……! ハリボテだったら良かったのに、ホンマモンじゃん、マジでいくらかかったの? そもそもでロボってこんな実用段階だったんだ? これでどうすんの??」

 正面に巨大な神像のごとくに立ちはだかる人型ロボ……!
 その中心で大きく開かれたコクピットのハッチ、この内側からぼんやりと光を放つ操縦席に入ればいいのはわかるのだが、そこに入るだけの理由が個人的には一切見当たらない。怖いくらいに皆無だ。
 やっぱり引き返そうかと踵を返しかけたところで、折しも低い地響きを立てて軽合金製の地面が地の底深くへと落ちていく。

「あっ? え、ちょ、ちょっと……そんなぁ!」

 それきりに足下にぽっかりと開けた谷底とその暗闇に、下をのぞき込んでもこの床らしきが見えない。ううっ、こりゃマジで危いぞ!と後ずさる小心者はひたすら絶句してしまう。
 まんまと帰り道までふさがれて、表情が見えない対岸の中年自衛官をマジマジとみやるオタクの青年、モブだった。
 どうせ真顔なのだろうが。

「鬼だ……! ひとをオタク呼ばわりして、こんな仕打ちまで。人権無視で訴えてやりたい。でももう、無理か……入るしかないんだよね、この中に? はああっ……」

 ため息ついて重たい身体を動かした。
 特注品で身体にピッタリのスーツは手足の動きをスムーズにトレースしてくれるから、この身動きにおいて苦労はしない。むしろ楽なくらいだった。
 おかげで思ったよりもちょっと高くにあるコクピットへの段差も楽によじ登れた。おそらくは他にもっと楽な登り口なりがあるのかも知れないが、暗いからよくわからない。まずは頭から中に潜り込んでその場に四つん這いになり、すると勢い、でかい尻だけが外に丸出しの状態となったか。気のせいか尻のあたりがヒヤッとするのを感じる。あんまりひとには見せられないやと即座に引っ込めようとした途端に、静けさの中におかしな破裂音が鳴った。
 ブッ……!
 あっと気まずい表情になってその場に突っ伏すモブだ。

「ああん、無理して変な態勢になったら、おなかに力が入っておならが出ちゃった……! サイアク、聞かれてないかな?」

 後ろを振り返ってもあいにくでかいケツ越しの狭い視界は闇の中だ。これと反応がないから聞かれてないことを願いながら、周りの状況にやっとこの意識を持っていく。察するに、分厚い金属の装甲部にじぶんはまだいて、操縦席はもっと奥にあった。内部は明るい。

「うわ、くっさいなっ、我ながら! 何食べたっけ? ほんとにサイアクだ。厄日だよ。早く中に入ろっ……」

 まさかじぶんの屁に追い立てられてられるとは……。
 ちょっとだけ顔を赤らめて気まずい表情のオタクのでぶちんはいそいそとロボのコクピットに搭乗。思ったよりもずっと奥行きと広がりがあるのに目を丸くするのだった。

「ええ、こんなに広いんだ? 思ってたのと全然ちがうっ、天井も高いし? これなら楽に立てるよね? よっと……!」

 慎重にこの中に降り立つと、まずはその場で立ち上がってみるモブだ。そう知識はなくとも男子たる者、メカ自体は嫌いではない。その彼なりコクピットとは概して狭いものであり、なおかつ息苦しいものとのイメージがあったのだが、しっかりとふたつの脚で直立姿勢を保つことができた。存外に広い。おかげでどこにも圧迫感がなく、楽に息もできることに目を見張るでぶちんだ。

「へー……! もはやちょっとした部屋じゃん? おれが住んでるぼろアパートの方が狭いくらいだよ、天井もこんな高いし!」

 この利き手を上げてみるに、指先が天井には届かなかった。
 マジで部屋だ。見た感じ、たぶんおおよそで半球状の天井と内壁なのだろうが、じぶんがいるのはこのへりっ側で、真ん中の中央に操縦席があり、そこはゴチャゴチャとした操作盤に囲まれたやたらにガッチリした造りのシートがある。
 オタクが引くほどガチのヤツだ。仮にコクピットの形状が球状だとしたら、丁度この中心に座席が来るイメージだろうか。そして操縦席にはもうひとつ、特筆すべき特徴があった。目をさらにまん丸くしてそれを臨むモブである。

「うわ、凄すぎ! マジで引くって……! ああでもこれって、いわゆる復座式、タンデムってやつだよね? 座席がふたつあるもん。てことは、二人乗りなんだ? あっ……」

 席が縦に二つならんだレイアウトのコクピットは、さながらジェット戦闘機のようだが、よくよく見てみればそれとはだいぶ様相が異なるようにも思える。復座式のこの後ろのシートは、より一段高くにあって、下段のそれを高くから見下ろす位置関係だ。そこで思い出される、監督官のセリフで、ちょっと身構えてその上段の席をうかがう人見知りだ。
 この中にはすでに誰かしらがいるようなことを、あの真顔の誘拐犯はほのめかしていたはずだ。足下の下段の席には誰もいない。

「先住者って、おかしなこと言ってたよな、あのおじさん? このロボの主みたいな? ぬしってなに?? あれ、でも……」

 後列のシートにもどこにも人影らしきは見当たらず、操縦席の背もたれがまんまはっきりと見て取れる。ぐるりと取り囲んだ操作盤や前後の隙間に隠れているのかと首を伸ばしておっかなびっくりのぞき込むが、どこにも人の気配は感じられなかった。やはり無人のコクピットだ。

「……誰もいない、よね? なあんだ、でもじゃあどうすればいいんだ? こうして乗ってみたまではいいものの……」



 室内は全体新品でどこもかしこもピッカピカだ。真新しい革製品のニオイが鼻に付く。余計な緊張が解けてそれなりリラックスしてきたオタクくんは、メカニカルな見てくれがまぶしい操縦席にちょっとだけハイになって自然とこの手をかけていた。

 ここらへんはやはり男の子か。しかもオタク。
 でぶった身体がおかしなところに引っかからないように気をつけながら、この身を潜り込ませた。まずはふたつある内の手近にある前列側のシートに、そっとこの尻をつける……!

「……おっ、おお! うっそ、すっげーいいカンジ!! マジでおれのケツにピッタリじゃんっ!! まさかこれも特注品!?」

 ひとに言わせれば無駄にでかいケツが、迷うことなくこの中心にピタリと据わった。おまけビクともしない。どっしりとしたいい座り心地だった。まさしく正真正銘のパイロットシートか。
 ひとには三桁には届かないと言い張る図体をここまでしっかりと受け止める堅牢な造りと、いまだかつて経験したことがない高級感のある感触にしばし悦に入る。
 あの監督官たちが言っていたとおり、確かにやたらなお金がかかっていた。ならば後ろの席の感触も確かめたい。高くから見下ろした感じとかも含めて……。 

「わはぁっ、アキバのショールームで高いゲームチェアに座った時よりよっぽど快適じゃん! あの時は店員にイヤな顔されたけど、これならぜんぜんっ、うわ、これだけうちに欲しい!!」

 ドスンドスン!とでかい尻を座面にいくら打ち付けてもまるで動じない。驚くほど頑丈な造りになおさらハイになって心から感激する、目的を完全に見失うオタクくんだ。
 だがするとそこに、不意に背後からぶっきらぼうな声がかけられてくる。中年男性の。いきなりだった。

「……おい、うるさいぞ、落ち着け! ここはガキの遊び場じゃねえんだ、この世間じゃおまえみたいな浮かれたデブは傍目には滑稽にしか見えないって、そういう自意識はねえのか?」

「あっ、ごめんなさい! そんなつもりじゃっ、確かにちょっと浮かれてたけど、でもおれひとりだったからぁ……て、え?」

 背後からの不機嫌なツッコミに、そのつっけんどんな言いようよりもまずその声を発した人間の存在に、ハッと驚愕するモブだ。この真後ろの後列座席から、それは発されていた。
 だがしかし、ここには自分以外には……?

「あれ、誰もいないはず、だよね……え、ええっと、は?」

 おそるおそるにゆっくりと振り返ったその先には、いた。
 おじさんが。
 あたりまえにそこにふんぞり返っていた。見間違いではなく。
 それはまごうことなき、立派なおじさんだ。
 だがそれを目の当たりにしても、ちょっと理解が追いつかないで頭の中が真っ白になるモブだ。一瞬、時間が止まった。
 想定外どころでない、それは天変地異にひとしかったか?
 額のあたりをつと汗が伝う感覚をやけに意識する。だがどう考えても理解ができない。いいや絶対にわかるだろう、見落とすはずがないこんなむさ苦しいおじさん!
 振り向いた先にいたのは、いかにも鍛えてそうなガッチリ体系でじぶんと同じようなスーツを着込んだ謎の親父だ。

 こんなのどこから沸いてきたんだ?

 本当に謎である。完全に固まって二の句がつげない。顔面に脂汗がびっしりと浮かぶ若いでぶちんに、一段高いところから上から目線で見下ろしてくる当のオヤジは皮肉っぽい笑みだ。

「は? じゃねえだろ? おまえナニしにきたんだ? ナニか? まあそうか、コイツのパイロットなんだもんな!」

 言っていることもさっぱりだ。偉そうな口ぶりして!
 完全パニックのモブは椅子から危うく転げかけるのを必死に背もたれにしがみつく。本来なら椅子ごと転がっていただろう。

「ななななななっ、なんで! え、だって、え、だって!! なんでいるの? いなかったじゃん! いなかったって!! うそだよっ、絶対にっ、いなかったじゃんっっ、こんな不審者っっっ!!!」

 ふたつの眼を限界まで見開いて、恐怖に恐れおののくオタクだ。必死の形相の叫びには、これを余裕のさまで見下ろしていたおじさんの額にあからさまな血管が浮かぶ。わかりやすいことちょっとだけ左目をひくつかせて忌々しげに言い放った。

「おじさっ……おうし、わかった! 一発殴らせろ! ツラだせ、歯も食いしばれ! 話はそれからだ」

「狂人じゃんっ! あ、良く見たら原始人? でも服、着てるよね? おれとおんなじヤツ? なんで?? いいやとにかくこんな部外者のおじさんがいるなんて聞いてないよっ、ここのセキュリティどうなってるの!? 監督官のおじさーん! ねえっ、村井さあーんっ!!」

 背もたれにしがみついたまんま、背後の開け放たれたままのコクピットの外へ声高に助けを求めるモブだ。だがこれに後ろで舌打ちがするのと同時に低い音が鳴り響く。悲鳴をかき消す騒音は視界の先の暗闇すらもかき消した。
 目の前がただちに真っ白い壁で閉ざされてしまうのだから……!
 詰まるところ、コクピットハッチが閉ざされる稼働音だったのだとわかる。結果、完全な密室状態のできあがりだ。
 信じがたい表情で向き直る新人パイロットは声を震わせる。

「えええっ、おじさん……おまけに誘拐魔だったりするの? うそでしょ、おれほんとに厄日なんだ。てか、ちょっと待って! やっぱりおかしいっ、おかしいじゃんっ、さっきは誰もいなかったはずなのに、なんでこんなことになってんの!!?」

 テンションの上がり下がりが激しい年少の青年に、落ち着いた年配のイケオジ?が渋い面構えにかすかな苦笑いを浮かべて返す。これまた意味がわからなかったが。

「いただろう。はなっから? おまえが今になって見えるようになったって、ただそれだけだ! 俺はいつだってここにいる。なんたってそう……!」

 たっぷりと間を置いて、言い切った言葉がまた極めつけだった。

「この俺さまはここの主だからな!」

「…………ぬし?????」

 どこかで聞き覚えがある言葉だったかなと思うモブは、じぶんがほんとうにどうにもならないところまで来てしまっていることを思い知らされていた。もう戻れないだろうことも。
 上から見下ろすおやじは不敵な笑みだ。
 果たして敵か味方か、まともな人間なのか?
 あんまり期待できないと半眼の目つきで見上げるモブだ。
 そしてここから先は、ひとには言えないような阿鼻叫喚か驚天動地のパニックがひたすらに繰り広げられる――。
 厄日が本気を出すのであった。



 

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