アキバで拉致られババンバン♪ ④
Episode-file-04
知らぬ間に拉致られ、気がつけばマッパで監禁されていた謎の個室から、現場は歩いてほどもないところにあった――。
窓もなく薄暗い通路を二度くらい曲がった先の突き当たり。
見るからに頑丈そうな両開きのドアがあり、先導する監督官が脇の操作盤を手早く操作することで、音もなく重厚な金属扉が開かれてゆく。背後を女性自衛官の監査官に詰められていたから身動きもできないままのオタクは促されるままにこの内部へと足を踏み入れる。
モノはいきなりそこにあった……！
「はあああぁぁぁぁ～～～……！」
言葉よりもまず長いため息が漏れるモブだった。
正直、途方に暮れていた。
あまりにも現実離れした現実が、がそこにはあったから。
泣きたい。
はじめ惚けた顔でそれを見上げるパイロットスーツのオタクは、改めておのれが直面している事態の異常さに驚愕するのだ。
「うわあ、マジであるよ？ 何コレ、ロボ？ ガチじゃん！ いくらかかってるの？ ここまであからさまだと、なんか引いちゃうよな、こんな巨大ロボ!!」
目の前にそびえ立つ、おおよそひとのカタチをした、巨大な戦闘兵器、なのだろうか？ 果たしてこの意味も理由もさっぱりわからなくしたどこにでもいる平凡なオタクはたじろぐばかりだ。
いかにもメカっぽい全身がずんぐりむっくりしたロボットは、ただ静かにそこに直立している。それだけで半端じゃない存在感なのだが、何故かまだどこかしら夢うつつな気分のモブだ。
ひょっとして悪夢を見ているのではないかと、じぶんのほっぺたをつねったりしてみるのだが、痛みだけが伝わって、他には何も変わらない。現実だ。
仕方もなしに周りに視線を向けるのだが、これと言って目にとまるものはなかった。巨大な灰色の屋内に、巨大な人型ロボが仁王立ちしている。周りに物音やひとの気配がないのが多少の違和感だったか。オタクの身からすれば、こういうシーンではやかましい騒音とたくさんのスタッフや資材がそこかしこを忙しく動き回っているイメージなのだが……。じぶんたち以外にはそこには誰もいなかった。静けさに満たされた格納庫だ。
「……だからなんか現実感がないんだ？ ほんとに動くのかな、コレ？ ただのハリボテだったりして??」
思わず思ったままを口にすると、そのつぶやきに背後に立つ中年の自衛官、村井がまじめな言葉を返す。その後に続く女性の監査官の指摘にも耳が痛く感じるモブだ。余計な物音がしないから小声でも楽に会話ができる。大きな空間につぶやきが響いてなんかおっかないカンジだ。
「そんなわけがないだろう？ 紛れもなく本物だよ。税金いくら投入していると思っているんだ。もはやシャレでは済まされない額だよ」
「あなたが今、身にまとっているスーツもおなじようにただごとではない公金が投入されています。開発から実用化にこぎ着けるまでの年月も含めて、考慮していただければ幸いです」
「ううっ、そんなこと言われても、おれ、ただのオタクだから……！ オタクってなんだよ？ てか、やけに静かだけど他にひとっていないんですか？」
白けたまなざしで背後を振り返るに、真顔の監督官はおごそかに応じる。なんだか芝居じみているようだが、そのあたりは気にしないことにした。なんか慣れつつあった。
「重要な機密を守る上での対処だよ。この戦闘兵器のパイロットについては厳重なプライベートの保護、ないし報道規制が敷かれている。当然だな。一般の整備班やその他の運用スタッフときみが顔を合わせることは原則禁止だ。問題があるかね？」
「い、いやあっ、なんか大げさな気が？ おれの正体ってバレちゃダメなの？ こんな馬鹿げたことをしているのに?? さすがにムリでしょ……」
困惑するオタクに、冷静な監査官が応じる。
「いいえ、そちらのロボから顔を出さなければ、物理的に身バレすることはないものかと? ご自分から正体を明かすような真似をされるとこの身柄を保護することにならざるおえないので、くれぐれも機密の漏洩にだけはお気を付けください」
「保護？ それって、拉致られてこうやって監禁されるってこと？ もうやってるじゃん！ なんだよっ……」
げんなりしてがっくりと肩を落とすモブだ。その肩をぐっと掴んで、嫌気がさすほどに真顔のおじさんが言ってくれる。
「胸を張りたまえ！ きみは選ばれしオタク、国を救うべくした正義のパイロットなのだから。戦場がきみを呼んでいる」
「呼ばれたくないです。おれ、民間人ですよ？ それがどうして……！ あれってほとんになんなの？？」
再び正面に戻って目の前にある現実に向き合うが、どうにこうにもで立ちすくむデブのパイロットスーツだ。村井が言う。
「ジュゲムと呼んでくれたまえ。あれの正式な名称だ。ただし口外は無用。いわゆる我々の中だけでのコードネームだな。世間一般では第三種災害対応兵器ぐらいなものか？」
「第三種……! あのぉ、それって……？」
「オタクダくん。きみは真のオタクだ。あれが呼んでいる……!」
