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DigitalIllustration SF小説 ガンダム ファンタジーノベル ワードプレス 俺の推し! 機動戦士ガンダム

俺の推し!③

ガンダム二次創作パロディ!ドレンが主役だ!!

noteでプロットだとかを公開中!!

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「機密宙域/難民コロニーの謀略」

謎の攻撃・軍事衛星の怪……!

 Scene1


 緊急事態発生!

 それはまったくの予期せぬ出来事であった。
 この知らせを受けた時、まだ自室でまどろんでいたこの俺だ。 

 シャア艦隊旗艦付き副司令、その名をドレン。

 そう!

 ひとから語られるほどの名はなくとも確かな働きをする右腕として、推しの少佐、シャア・アズナブルそのひとからは、確かな信頼を得ているものと自負するおじさんだ。

 まあ、たぶんだが……!

 ことの一報を受けてから、ものの五分でブリッジまで復帰したこの俺の視界に入ったのは、スリープモードからゆっくりと立ち上がるブリッジの景色と、まだまばらなクルーたちの人影だ。

 艦橋中央の高い位置に据えられたキャプテン・シートにはいまだ主の姿はなく、中央戦略オペレーターもこのひとりが席につくくらいか。

 フロアを強く蹴ってブリッジ奥の入り口から、おのれの定位置であるMS作戦指示ブースへとひとっ飛びで取り付く。
 MSの作戦行動における補助を担う特設の指揮所ブースは、この真横に付ける操舵士のそれとほぼ一体だ。
 そしてそこにはすでに若い大柄な若者が、仁王立ちしてこの年配の副艦長を最敬礼で迎えてくれる。

 いやはや、寝坊なんてしたことないんだろうな!

 勝手に感心しつつはじめ無言で敬礼を返す俺は、この若い操舵士が温厚でひとのいいのにつけ込んで頼み事をしてしまう。 

「早いな! だが今現在、エンジンは微速前進、ほぼ止まっているんだろ? 舵は俺が握ってやるから、悪いがひとつ頼まれてくれないか? もちろん、少佐の許可は得ている!」

「……!」

 この真顔でのお願いには、すぐさま太い首をこくりとうなずかせる下士官の操舵士だ。
 もとい、はじめちょっとだけ困惑の色を太い眉のあたりに浮かべたが、さてはこのおじさんに舵を譲るのが心配だったのか?
 バルダはみずからの舵取りを手早くオートに切り替えて、その場を駆け足するかのように俊敏に無重力をかき分けていく。
 途中ブリッジに入ってきた少佐に敬礼して、即座にその姿を消した。
 だがすぐに帰ってくるだろう。
 ちょっとしたオマケを引き連れて――。

 一方、真紅の衣装を華麗に着こなす仮面の貴公子は、どこにも無駄のない身のこなしでみずからの身をブリッジ中央の艦長席に沈めると、高くから周りを睥睨する。

 仮面に邪魔されてその視線の先までは追えないが、優雅でもきりりとスキのない眼差しでこの場のすべてを掌握しているのだろう。

 ただちに背筋をピンと正す俺は、ビシッと敬礼を返しつつ少佐からの指示を待つ。こちらに視線をくれているらしい我が推しは、かすかに細いアゴをうなずかせて無言で了解してくれる。
 あえて声に出さないのが彼らしくクールだった。

 くううっ、シビれる!! シビれます、少佐っ!!

 その若き将は一部のスキもないさまでブリッジ内の空気を凜と震わせる。張りのある低音はよどみもなくひたすら心地よくこの耳に響く。俺の気のせいじゃないだろう。

「状況は? 偵察のザク隊が被弾したとのことだが?」 

「は、はっ! 三番艦からの報告によりますと、三機編成の偵察部隊の内一機が何者かの攻撃により中程度の破損! 幸い撃墜にまでは至らず。現在は全機帰投、この収容を終えているとのことです。パイロットに目立ったケガはなし!!」

「そうか……! ザクとは言え大事な機体なのだが、これ以上の戦力ダウンは避けたいものだな? 対処は貴様に任せる。敵の詳細は?」

 半ばから背後に振り返って、そこで僚艦との通信にいそしむ戦術オペレーターに話の続きを振る少佐だ。

 良かった。さすがわかってらっしゃる!

 取り急ぎブリッジに上がったばかりでまだすべてを把握できているわけでないこの俺は、ふうっと胸をなで下ろして、ただちにみずからの任務に取りかかる。
 こちらはこちらでやることがあるのだ。
 よって、さっきより背後のブースからぶうぶうと文句を垂れている、真っ黒いヘルメット野郎に迷惑げな視線を向けた。

 うるっせえな! 空気読めよ!!

「わかってる! そっちはもう出せるのか?」

 やや不機嫌に聴いてしまうが、あちらも負けず劣らず不機嫌に返してくるヒゲづらのエースパイロットだ。

「とっくだよ。さっから言ってるだろう? さっさと発艦許可を出しやがれ……!」

 ひどいむくれっ面でぞんざいなモノの言いに内心で舌打ちする俺は、背後の少佐をちらと伺う。
 まだ声をかけずらいタイミングだなと察してまた前に向かった。リック・ドム小隊の隊長機、ガイアに確認!

「今回は単機での出撃だが、敵の詳細はいまだ不明! マッシュとオルテガ機は艦隊の守備の都合、出すわけにいかんのだが、待機だけはさせておくか?」

「かまわねえよ。寝かせておけ。そもそもが三番艦のザク隊どもの不始末だろう。ならこのオレだけで十分だ……!」

「了解。ただし油断はするなよ? 無理に交戦をする必要もない! 三番艦からはきっちりとフォローを入れさせる!」

「いらねえだろ。足手まといはいたところで余計な世話が焼けるだけだ。この09のスピードに付いてこれもしねえのろまどもに用はない……んっ」

「ゼロキュウ……ああっ」

 相手のセリフの一部に引っかかって、すぐさまこれを理解する俺は内心どころか現実に舌打ちしてしまう。イラッっとして。

 いやだから素直にドムって言えよ! このガノタが!!

 モニターの中のMS隊長に内心で毒づきながら、そのヒゲづらが何やら怪訝にこっちを見返しているのに気づく。

「どうした?」

「いや、隣にいるはずのあの目障りなのがいねえな? いっつもちょくちょく横から顔を出してきやがるのに」

「目障りってなんだ! いいや、それならもうじき帰ってくるだろう……ほら、来たぞ?」

「……ん、なんでそいつがそこにいるんだ??」

 ちょうどいいタイミングで戻ってきた操舵士と、それに連れらてブリッジに上がって来た見知った人間の顔に、なおさら怪訝にモニターの中で眉をひそめるリック・ドム隊隊長だ。
 確かにヤツが不可解に思うのも無理はない。
 本来ならブリッジにいるはずなどがない他部署のクルーだ。
 正規のブリッジクルー以外がこの艦橋に立ち入ることなど、およそ許されることではないのだからな……!
 だからこそ目を丸くしたガイアが問うてくる。

「なんでおまえがそこにいるんだ? ついさっきまですぐそこでこの機体の発艦準備してただろう??」

 ガイアたちリック・ドムの整備専門のエンジニアで、つまりは黒い三連星専属となる若いメカニックマン、デーミスの存在が不思議でならないらしい。
 俺はにんまりとほくそ笑んで応じる。

「今回だけ特別だ! おそらくは? もろもろの都合で、そこのバルダに連れて来てもらった。いわゆるオブザーバーというヤツだな! 専門的なメカニックの知識を持った人間がいたらどうなるか、なかなかに興味深いだろう?」

「なんだそりゃ? あまり期待はできねえが、好きにすればいいだろう。それよりも発艦許可! いつまで待たせるんだ?」

 ちょっと呆れた感じでありながらとりあえず納得した風なガイアを前に、借りてきた猫みたいに大柄な身体を縮こまらせるブサイクくんは所在なげにその声をか細く震わせる。

「じ、じぶんはここにいて良いのでありましょうか? す、すんごい浮いてる気がします……!」

「浮いているさ! だが気にするな! いいんだよ、我らが少佐も認めてくれているんだから!」

「しょ、少佐っ……!!」

 おっかなびっくりで周りの様子を見ているデーミスは、この背後に視線を向けてなおのこと挙動不審に陥る。
 しまいには横からバルダにどうどうと背中をなでられてた。
 こっちのほうがいくぶんかお兄ちゃんの先輩なんだな!

 横合いからMSの通信オペレーターが少佐に声を発する。
 さてはしびれを切らしたガイアが催促したな。

「少佐! ガイア大尉のリック・ドム壱番機が本艦からの発艦許可を求めています!」

 するとこれには背後の艦隊統御オペと会話をしていた少佐は、こちらに仮面のクールな面差しを向けて静かに言うのだ。

「ドレン、そちらは貴様に任せていたはずだ……!」

 あ! 俺は内心の焦りを顔には出さずに静かにメットをうなずかせる。メットのひさしで相手からの視界を遮るかたちにだな。

 おっと、そうだった! いかんいかん!!

 周りの若い部下たちにも悟られまいとやたらにはっきりと腹の底から声を絞りだして高く号令を発する!

「ガイア機、ただちに出撃せよ!!」

 手元のディスプレイでは何か言いたげなリック・ドムの隊長どのが真顔でこっちを見ていたが、目をあわせないようにまっすぐブリッジから臨める夜空をひたすら凝視する。

 何やら小さなため息みたいなのが聞こえたか?

 無視する俺に感情のない棒読みの返事が返る。

「了解」

 リック・ドム出撃!

 おおっ!と子供のように目を輝かせるデーミスの肩のあたりをがっちりと掴んで、おまえの推しの活躍をしっかりとその目と脳裏に刻み込んでおけよ!とひたすら強く念じる俺だった。

 暗闇に走るロケットブースターの長い軌跡を目で追いながら、ぽつりとつぶやきもする推し活おじさんである。

「ああ、こんな特等席で一番のファンが応援しているんだから、ちゃんとファンサしろよ? 黒い三連星のガイアよ……!」

 たった今、戦いの火ぶたは切って墜とされた……!

Scene2

 PartA


 ガイアのリック・ドムが旗艦から出撃して、当該の宙域地点にまで到達するのにはさほどの時間はかからなかった。

 ひたすら一直線の軌道の先――。


 そこは本来は何も目立ったものがないはずのいわば宇宙の公海上なのだが、一番機の各種レーダーにもこれと目立った反応らしきはなし……!
 それをこちらの戦術パネルの観測計器表示でも視認しつつ、息をひそめてことの成り行きを見守るふたりの若い兵卒と、遠くの現場のベテランMSパイロットへとも向けて静かに問いかける。

「ううむ、標準宙海図の座標軸上ではそこが我が方のザク隊が襲撃を受けた交戦ポイントとはなるのだが、それらしい標的はこれと見当たらないな? 敵対的な意思があるのはほぼ確定だから、それらしい形跡があっても良さそうなものなのだが……?」

 巡洋艦の索敵レーダー網にも、MSの各種レーダーにもやはりさしたる反応がないのに不可解に思うこの俺、ドレンだ。
 まさか二度も不意打ち食らうまいと目を皿にして計器類を凝視するに、スピーカー越しに小型モニターの中で冷めた顔したヒゲのおやっさんが憮然と返してくる。

「ま、見ての通りだ。動体センサー、熱源反応、各種レーダー波長これと変化なし。とどのつまりで、何もねえな?」

 みずからのヘルメットのバイザーをオープンにして素顔をさらしてくれるヒゲづらのエースパイロットは、浮かないさまでじっと視線をこちらのカメラに向けてくれる。

 その視線をカメラのモニター越しに受けて、思わず思ったことをまんま口にしてしまう俺だ。

「そうだな! ……ん、ところで、おまえの今のそれってのは、ファンサか?」

 絶賛警戒態勢中なのにわざわざメットのシールドを全開にして表情がわかりやすいようにしているのが、あえて見ている側を意識してのことなのか?

 いかんせん偏光バイザーで目隠しされたメットではパイロットの表情が分かりづらい。ここらへん、当人からしても息苦しいから極力下ろさないなんてヤツもいるらしいから、さしたる意識はないのかもしれないが……どうなんだ?

「は? 何を言ってやがる? まじめにやれ。ま、このオレの勘からしたら、少々きな臭くはあるがな? やけに静かなあたり。あとしいてひとつ言うのであれば……」

 違ったか。しごく納得しながら歴戦の凄腕パイロットの言葉に耳を傾ける。周りの操舵士とメカニックもごくりと息をのんだ。

「ここから見て11時やや上方の方角、アステロイドでもなんでもない、でかい宇宙ゴミがいくつもあるだろう? コロニーの残骸みたいな? だが植民地サイドでもなんでもないこの宙域にこんなものがあるのは、オレからしたら違和感でしかない。よそから流れ着いたにしても、ゴミの構成自体が不自然だ……!」

「そうなのか? ザク隊のドライブレコーダーのデータでは、どれもすでに存在していたオブジェクトだが。攻撃自体は真裏の反対側、背中から攻撃を受けている! それでも関係があると?」


 俺の問いかけに、周りの若いヤツらもまた神妙な顔つきでモニターの中のヘルメットに注目する。するとそんな視線を邪魔っけに思ったのか、ヘルメットのバイザーをしれっと下ろして意味深な口ぶりするリック・ドムの隊長さんだ。

「ああん、それじゃ、試しにやってみようか? 無駄ダマ撃つのは気が引けるが、こいつがきっかけになるかも知れない……! そっちもモニターを怠るなよ?」

 タタタタタッ、ダン!

 手早い操作でみずからのMSに攻撃シークエンスをたたき込むガイアだ。どうやら肩に担いだジャイアント・バズーカを任意のポイントに向けて射撃するらしい。

 さては話にもあった例のでかい残骸にか?

 幸いにも当該の宙域はミノフスキー粒子の濃度が低いために、通信にはさしたる障害がない。 
 リック・ドムからの解析データをまんまで受け取れていた。

「そおらよっ!!」

 ドオンッ!!

 真空の宇宙空間ではそもそも伝播する空気がないから音は伝わらない。発射時の派手な発砲音は当然マイクに拾われることはないのだが、この振動を受ける機体の揺れとコクピットの空気を伝ってかすかなそれらしきものが、画面越しにも見て取れたか?

 固唾を呑んで見守るこちらは無言になるが、バイザー越しのドムのパイロットはメットの中でニヤリと笑ったようだ。

「当たりだな……!」

 言うが早いか、自機のセンサーが警告を発するよりも早くに機体に回避機動を取らせる凄腕のパイロットだ。

 決断が早い!

 この俺あたりからすれば、神業みたいな手さばきでレバーとスイッチを指先の感覚だけでまさぐり機体の姿勢を制御しつつ、間髪入れずに足下のペダルを限界一杯まで踏み抜いた!
 股の下から掴み上げた操縦桿を胸元一杯まで引き上げる!
 背中のロケットブースターを全開にしてフルスピードで宇宙の虚空に大きな弧を描くリック・ドムだ。

 片や、突如としてレーダーサイト内に現出した熱源反応から立て続けに吐き出される一陣の烈風!!
 こちらからは荒いモザイクのかかった何かしらの塊の連なりとして映るが、それが音速の何倍もの速さで斉射された弾丸の軌跡だと理解するのは、一瞬のタイムラグの後のことだ。
 軍人ならかろうじて理解が追いつく。

 行く手を阻む大気(空気)の障壁がないから、威力もスピードも減速減退なしで迫る鋼鉄の銃弾である。
 だからこそこれを事前の回避行動もなしに避けるのはしごく困難、その上でかすりもさせずにまた元の位置に機体を静止させるのはさすがだな!

 無謀に突っ込むこともなく、ピタリと止まった機体のレーダーを前方の敵影に向ける余裕と胆力もまたさすがだ。
 それきりにただ黙ってこちらからの回答を待っているのが小憎らしいベテランに、モニターに表示される観測データを読み取る俺は頭をフル回転させながら声を絞り出す。
 ぶっちゃけ、ちょっと後悔していた。

 しまった! マッシュの二番機も付けておくべきだったか?

 敵機情報の収集解析が得意な偵察支援機タイプならば、もっと正確な一次データが取得できたのだが……!

「ガイア機、何者かと会敵、ただちに戦闘状態に突入!」

 状況を高らかに宣言することで、ブリッジ内の緊張感が高まる。すぐ隣でパチパチと目を見合わせる若輩者たちに焦るなよと目配せして、モニターの中で冷静にこちらを見返す黒いヘルメットに返す俺だ。

「MSではないな! 連邦の機体のマシンガンではどれも適合しない威力推定値と連射速度ならびに弾数だ。より大型の戦艦クラスの機銃カテゴリーに相当! おそらくは……!」
 
 正面の作戦図表ディスプレイの中で、今しもゆっくとりその形が特定されてゆく未確認オブジェクトを凝視。
 そのいびつな形状の敵影に言葉を失う俺だった。

 コイツは、どうして……??

 頭の中が疑問符で一杯になるが、答えは闇の中だ。
 不気味な沈黙の中に、短く舌打ちが響く。
 ふたたびヘルメットのバイザーを開けたエース級のパイロットはやはり厳しい表情でそれに見入る。

 察するに、この胸の内の思いは同じようだな?

「なんかめんどくせえのが出てきやがったな? 意味がわからん。こんなご丁寧に偽装して、目的不明もいいところだ……」

 もやもやした思いをはっきりと言葉にしてくれる。


 これに俺もただうなずいていた。


 ことここにおよび、前回の連邦部隊と同様、厄介な敵が立ちはだかるのをはっきりと理解する、おじさんたちなのだった。



Scene2

 PartB


 航海宇宙図(スペース・マップ)上では何もないはずの宙域で、突如としてこの行く手を阻む、敵対的な謎の存在……!

 これに単身で挑んだ黒い三連星のガイアのリック・ドムの前に現れたのは、所属不明の攻撃型軍事衛星であった。
 ドムからのリアルタイムの情報解析により、このおおよその形が雑なワイヤーフレームで描き出されたディスプレイの図面に、みんなでしげしげと見入ってしまうブリッジ組の俺たちだ。

 それはあまりにも意外なものだった。

 よって通信ディスプレイの中のヒゲづら、現場組のガイアも渋い顔つきでそれを見ながらに舌打ち混じりで言うのだ。

『なんかえらいやかましいヤツが出てきやがったな? いろいろと厄介なものを載っけてやがるだろ、どいつもMSの装備よりも格上のヤツだな……!』

 ガイア機の観測機器による解析が進むにつれ、こちらのモニターの中の乱雑なフレーム表示もそれらしい形を整えていく。
 見た感じがバリバリの軍事衛星のそれは、機体の各部に強力な装備らしきを備えているのがこれまた一目瞭然だ。
 ガイヤが言っていたとおりのMSのそれよりも、むしろ戦艦にこそ搭載されているべきものだな!

 まことに厄介なこときわまりない。

 この俺も表情を苦めて現場のパイロットに注意喚起する。

「威力が強力だということは、当然この射程においてもあちらが上ということだ! 注意されたし、ガイア大尉! おそらくは拠点防衛用の攻撃衛星なのだろうが、今の単機ではバリバリ戦闘態勢でいきった駆逐艦に挑むのとそう大差もないだろう? どうする??」

 この期に及んでいささか間抜けながらそんな問いかけをしてしまうに、あちらからはさも呆れた顔つきでこちらを見返してくるガイア大尉どのだ。

『この手のヤツは通称でハリネズミとか言うんだよな? 確かに厄介な装備がてんこ盛りだが、あるのはあれ一機のみだろう。なら怖がることはありやしない! おまえ、このオレを誰だと思っている?』

 百戦錬磨のドムのパイロットがくれるただの強がりでもない自信に満ちた返答に、即座に了解してうなずく俺だ。

「了解! できる限りのサポートはする。ただし危うい場合は即座の撤退も勧告するからそのつもりでな? ちなみにこの正体はおおよそでわかったが、その背景がさっぱりわからん!」

 またも難しい表情で年齢柄の肥満による太い首周りを傾げてしまう俺に、あちらのヒゲづらは嫌気がさした表情でメットのバイザーを下ろしてしまう。

 通信終了か?

 だがおちおち考えるまでもなく、場が動いた。
 横で息をひそめていた若い兵卒たちがなおさら緊張して、目の前のモニターに釘付けとなる。できたらもっと参考になる意見なりを言ってほしいのだが、ほぼ新人に近いのだからはなから期待しても無駄なのか。あきらめかけたところでだが奇しくも新人のメカニックマンがこの口を開いた。

「敵衛星、攻撃再開! たぶん、多連装ポッドからのミサイルであります!! 一番機に向けて複数発射! 大尉どの! ただちに回避されたしであります!!」

「おっ、おおっ……!」

 オペレーターもさながらでいきなりそれらしいことを言い出すのを、ちょっとどっちらけて見るこのおじさんだったが、向こうの現場のおじさんはしっかりとこれに反応してくれた。

『言われなくてもやっている! ブリッジクルーでもないヤツが出しゃばるな!! 手持ちのバズで打ち落とすのはちと困難だが、こいつの機動力なら無難にやり過ごしてやれる!!』

 この時点ですでに身体に相当なGを掛けているらしい重MSのパイロットだ。アクセルペダルをぶち抜く勢いで自慢の愛機のリック・ドムを急速旋回させていた。
 そう、いかに追尾機能があるミサイルでも急な加速で旋回機動されればこれにぴたりと追いつくのは困難だろう。
 加速度はそのままで突き進むのだから、ミサイル自体が追尾できる角度にもレーダーの探知範囲にも限度がある。
 推進剤も無限ではないのだからな。

 都合、三発撃たれたミサイルはどれも初速が遅く、すっかりこの目標を見失っているものと思われたのだが……!

 突如、リック・ドムのコクピットに緊急を知らせるアラートが響いて敵ミサイルに変化があることが、こちらでもリアルタイムに知覚できる。三つあったはずの敵マークが激しく明滅を繰り返し、おまけにいくつにも分裂、その数を一気に増加!
 およそ倍どころじゃない勢いでだ。
 どうやら複数弾頭を備えた多弾頭ミサイルが、この内蔵した小型弾頭をガイア機めがけて盛大にぶちまけたらしい。
 数も知れない無数の矢印がガイアのリック・ドムへと殺到する。もはや完全に囲まれていた。


「くっ、こいつは……!」

 ほぞをかむ思いとはこのことか。
 よもやここまで厄介だったとは!

 本当に軍事拠点を防衛するかの勢いだが、何を守るんだ?
 
 その場の全員が目を見開いていただろう。
 急制動をかけてバックしたんじゃ間に合わないタイミングだ。
 その瞬間、鋭い舌打ちがしたのを聞き逃さない俺は、手に汗握ってモニターに声を上げていた。

「よけろっ、大尉!!」


『簡単に言うんじゃない! どうやって避けるんだよ? ええい、ふざけやがって! 多少の被弾は覚悟で突っ込むか??』

 息の荒い反発が鼓膜をしたたかに打つ。

 要するに破れかぶれでミサイルの嵐を突っ切って、本体の衛星に一発食らわしてやるってことだよな? この短絡オヤジめ!!

 かなりやばいことをどさまぎで抜かしてくれる隊長機に、この俺は愕然として返す言葉もなかったが、すぐ隣で顔を真っ赤に赤らめる黒い三連星推しのメカニックが再び声を張り上げた。


「……はっ! 大尉どのっ! 胸部の拡散粒子砲があるであります!! 収束率ゼロの最大解放、かつオートのフルバーストで三連射でありますっ!! 正面から突破できるでありますっっ!!」

「はっ、なんだ? 何を言っている!?」

 いきなりしゃべり始めたな!

 はじめちんぷんかんぷんで聞き返してしまうこの俺だが、正面のモニターをにらんだままのメカニック、デーミスはまるで気にもとめない。
 そんなあたふたするこちらをほっといて、だが当のドムのパイロットめは即座に理解したらしい。若いメカニックの若造の意見に四の五の言わずにただちに了解、即応する。


『! む、なるほど! その手があったな!! あんな字面だけ立派でそのクセに目くらまし程度にしかならないへなちょこ装備には頼る気がしないが、こいつら相手なら!!』

 MSドムの胴体(ボディ)の胸部あたりに一門装備された拡散型ビーム兵器――。

 その名も『拡散粒子砲』はその響きだけで言ったらかなりの決め技みたいに聞こえるが、実際はさほどの威力があるわけではなかった。
 言ってしまえばオマケみたいなもので、MS相手の決め手にはならず、実際は目くらましとして使用されることが大半だ。


 ただし今回のような小型のミサイル群が相手となるとてきめんにこの効果を発揮! メカニックが言うように短い間隔の三回連続の拡散ビームの斉射で、群がる矢印をまとめてはたき落としてガイア機の正面に突破口を切り開くのだった。

「で、でかしたっ、デーミス!! すごいじゃないか!!」

『やったのは俺だろう? ま、そいつの手柄でもあるが!』


 すぐ隣の新人くんに言ったのをまんざらでもなさげ、気分良さげに応じる隊長は、ミサイルの嵐を見事にかいくぐった先の空間を見据えながらにまた続ける。

『どうれ、しっかり捉えたぞ? また反撃される前に一発お見舞いしてやるが、かまわないよな? ……ちっ、外したか!』

 言いざま、自機の真正面に捉えた敵攻撃衛星めがけてドムのジャイアント・バズーカを斉射するガイアだが、すぐにも舌打ちして目つきを細める。いつに間にやらかまたメットのバイザーを上げていたから素顔が丸見えだ。

 はあん、どうやらしゃべる時は、バイザーを開けるクセがあるらしいな? このエースパイロットどのは!

「あいにくターゲットの衛星本体ではありませんが、この側面のミサイルポッドを撃破したものと思われます! 外された理由は、この衛星が自機の姿勢制御システムで機体を急旋回、本体への直接のダメージを辛くも避けたものと推測!!」

 ドムの搭載する観測機器類とメインカメラからの画像にかじりつく若いメカニックのデーミスが、即座に状況を解析!

 あれ、なんかコイツさっきからやけにしゃべるな?

 若干だけ気にかかりながらもおそらくはそのとおりなのだろうと了解しつつ、俺も俺なりにカメラの向こうのヒゲの隊長さんに言ってやる。

「長々と解説ご苦労! あともうひとつ言うならば、敵さんが体勢を変えてくれたからポッドの反対側に位置する近接戦闘用のバルカン砲の射線上からもまんまと外れてくれた! 畳がけるなら今だな!!」

 絶好のチャンスだと意気込むのだが、あいにくカメラの向こうの真顔のパイロットはあまり乗り気ではないらしい。

『まだ頭のビーム・キャノンがあるだろう? あれが一番厄介だ! 近づいて確実に一撃くれてやりたいところだが、この距離なら虎の子のバズでトドメもさしてやれるか……ん!!』

 さらにバズーカを見舞ってやるべく射撃体勢に入るガイアのドムの真正面、機体の姿勢の保持に苦労しているらしい衛星めが、この頭に装備したビームカノンらしきを身震いさせる。

 さては射撃の兆候か!?

 これに反射的に息を呑む俺たちの目の前で、思いも寄らない挙動を見せる敵攻撃衛星だ。てっきりビームで反撃と思わせて、これに反射的に身構えるガイアの表情が愕然となる。

『なんだっ、こついめっ、分離しやがったぞ! ビームの砲座だけが本体から外れて飛び出しやがった!! わけがわからんっ!!

 ちょっと泡を食ったさまの隊長にだがそれを冷静に見つめる俺である。果てはひどく納得してしきりとうなずくのだった。

「今どき分離式の砲座ぐらいなくもないだろう? むしろこれで納得がいった! はじめのザク隊が背後から攻撃を受けたのはこういうことだったんだな? 遠隔攻撃可能な軍事衛星か!」

『む? ああそうか、だったらこっちもそれなりに応戦させてもらう! もとよりクロスレンジで詰めてしまえばこちらのものだ、あとついでに……!!』

 言うなり間髪おかずで衛星本体に急接近するガイアのドムは、その右肩に装備したヒートブレードを空いた左手でスラリと抜くなりこれを真横に一閃させる!
 ただしそれは衛星本体を狙ったものではなく、その真上のもはや何もない空間であった。やや不可解に見るこの俺に、舌打ちまじりで言ってくれる当のドム隊隊長さまだ。

『ああん、手応えがねえな? 有線式の移動砲台ならエネルギーの供給と機体制御を兼ねた接続ラインを切っちまえばそれで終わりのはずだろう? 何もねえぞ!』

「ん、どういうことだ? まさか無線式? だがこの衛星自体はあくまで無人で放置された固定配置型のはずだろう?」

 ちょっと動揺してしまうおじさんたちに、この時、背後からは不意に凜とした涼やかな声が走る。それまで黙ってこの場を静観していた少佐が、ついにその口を開くのだった。

「ドレン! ……いや、無線式でないこともないだろう、可能性として? ならば分離した砲台自体は生きているものとして、標的が二つに分かれただけだ。とりあえず手近の衛星本体を停止、分かれた砲台は後からの対処でかまうまいさ……!」

 突如とした推しの背後からの的確な指示に慌てて迎合してしまうしがない一ファンであり下士官の俺に、あいにく反骨精神むき出しのヒゲづらパイロットがしかめ面で応じる。

「はっ、は! 了解であります、大尉っ!」

「ふん! 聞こえてら! だったらそうらよっ……どうだ?」

 一度は空しく空を斬ったしゃく熱のロングブレードを、再び一気に衛星の本体部めがけてざっくりと打ち下ろすガイアのリック・ドム! 片手でも楽々と衛星の装甲を貫いていた。
 デーミスから聞いた話じゃ、一番機は特に近接戦闘に特化した仕様でパワーがあるというが、まさしくだな。

 衛星の本体もその中心部に深々と突き刺さるのがこちらからもそのカメラ越しに見て取れた。これにより衛星自体の挙動もおおよそがピタリと停止するのが見て取れる。

 おそらくはこの中枢の制御システムをヒットしたのか?

 それでてっきり片が付いたかと思いきや、すぐ横のメカニックが甲高い声を発した。

 おいおい……!

「砲台、いまだ健在! 生きているであります!!」

 ただちに鳴り響く鋭い警告音と共に、ガイアのリック・ドムのほぼ背後からの反撃、白熱する強力なビームが斉射される。
 威力はほぼ駆逐艦のそれに相当するものと思われた。
 ただし本体から分離した単体での攻撃では射撃精度が劣るものなのか、どこかあさっての方角に射線が向いていたが、角度を補正、ただいまは次の二撃目へとチャージしているのだろう。


 絶妙な間がブリッジを覆う……!

 これにキャプテンシートに深くその身を落としていた我らが少佐、シャア・アズナブルがかすかに身じろぎして言うのだ。

「これは、におうな……! もはやこのわたしも出たほうがいいものか? ガイア大尉!」

 ともすれば今にもその腰を上げそうな言いようでだな?
 推しの出撃が目の当たりにできるのかと、俺は緊張してことの成り行きを見つめるばかりだが、あいにくでドムのやさぐれパイロットは真っ向から拒否の姿勢だ。

「余計なお世話だっ! それ、ざまあカンカン!!」


 わざと相手の攻撃を誘っていたのか?

 相手からの二撃目のビーム斉射と同時に機体を翻すガイアのリック・ドムは背後にした衛星本体にこのビームを直撃させる。
 言うなればまんまと相撃ちだが、これにより完全に衛星の機能を停止させるに至るのだった。
 中枢の制御システムが完全にダウンしたのが傍目にもそれとわかるほどの損傷度合い。復元は到底不可能だな。

 ああ、にも関わらず……!

「分離した砲台、いまだ健在であります!! しっかり動いているであります!! 位置を変えつつもさらに三度目の砲撃体勢、注意されたしでありますっ!!」

 デーミスの再三の注意喚起にカメラの向こうのヘルメットが口やかましく文句をがなり立てる。
 盛大にツバをまき散らして元気な中年だ。
 口の端が泡立ってやがる。
 どうやらバイザーにツバが飛ぶのがイヤでメットをオープンにしているようだな、このオヤジは?


『デーミス、おまえちょっと黙ってろ! ちいっ、あんな小さな的を射抜かなけりゃならんのか? そもそもなんで動いてやがる、あのビーム砲台は?? 本体はこうしてしっかりとつぶしてあるんだぞ!!』

「わからん! こっちが聞きたいくらいだ! どこかに操作している人間がいるのか、あるいはどこか遠方から遠隔操作されているのか……?」

 可能性としてはどちらも低いのだが、この時、またすぐ横合いの方から強い視線を感じてそちらに目を向ける俺だった。
 角度的にデーミスじゃないな? 今やすっかり前のめりで後頭部をさらしているメカニックくんだ。
 見るとそれまでずっと沈黙を守っていたはず操舵士のバルダのやつが、やたらな目ぢからでこの俺を見つめている。

 てか、にらんでるのか?

 何を言いたいのかさっぱりだが、図体でかいのに性格が無口でおとなしいこの若者ときたら、ひたすら無言で手元のディスプレイ類の一角を指し示す。
 はじめはてなと思う俺だが、無言のバルダは何ごとが必死に訴えているようだ。


 いや、おまえはもっとしゃべれよ! どんだけシャイなんだ?  

 内心でツッコミながら手元のディスプレイの表示を凝視する。 
 それでようやく理解ができた。

「……んっ、何かしら通信を傍受しているのか、ひょっとして? どこからか?? いや、バルダ、もっと早くに言えよ、あと言いたいことはちゃんと口に出せ!!」

「砲台停止、攻撃機動が解除された模様、熱源反応が低下してるであります! 加えて破壊された衛星から停戦信号らしきを感知したであります!!」


 とかく出しゃばりなメカニックからの早口の戦況報告にいよいよ愕然となる副艦長だ。

 てか、おまえのそれ、本来のオペレーターの役目を奪っているだろう? 連れてきたの失敗だったか??

 他のブリッジクルーからの突き上げみたいなのを予感しながら、苦い顔つきで考えを巡らせた挙げ句に路頭に迷う。

「衛星から? まだ生きているのか!? ん、おい、こいつは停戦というよりか、むしろ救難信号なんじゃないのか?? ええいわけがわからないぞっ!!」

『なら撃っていいか? めんどくせーから?』

「ちょっと待て! 今通信の内容をきちんと解析してもらうから! 少佐っ……!!」

 背後を振り返ると、すっくとシートから立ち上がったシャア少佐そのひとが、こくり、無言でただ深くうなずく。
 その単純な動作のたったひとつで、混乱しかけたこの俺とブリッジの空気が静かに落ち着きを取り戻す。
 これには内心で最敬礼で向き会うこのおじさんである。

 おおっ、さすがです! さすがすぎますっ、少佐!!

 結果、少佐の出撃を見送ることとなるこの俺、ドレンだった。



 シーン3
 


 その後、無口な航海士のバルダのさらなる指さしの指摘により、何もないはずのかの宙域の広範囲に
実はかなり高濃度のミノフスキー粒子が散布されていることが発覚……!

 現場のMSパイロットはとぼけていたが、どうやら勘づいていたみたいだな? あのヒゲづらガノタめ!

 それ故、本来は通信などできないはずのその先からのSOSの傍受に、騒然となるブリッジ・クルーたちであったのだが、その謎は聡明な我らがシャア少佐によりただちに解明されるに至る。

 少佐いわく――。

「大尉のリック・ドムにより破壊された例の守備衛星、この一部によくわからない見てくれのモジュールがあっただろう? わたしの推測するところによると、これはおそらくは強力な指向性を備えた光通信システムの中継機だな……!」

「光通信……? それはつまりは単純な光学パルスを通信に転用したものでありますか? いわゆるモールス信号のような?」

 少佐の言わんとするところを頭の中で懸命に整理整頓しながらの俺の返答に、我が敬愛する赤い君子はこくりとうなずく。

 良かった! 合ってたんだ!! 俺の勘!!

「うむ、原理としてはそれに近いな。さすがにもう少し高度に洗練された高速通信モジュールなのだろうが。無論デジタルだ。通常の条件下ならば、ミノフスキー粒子には可視光を阻害する性質はないものだからな? 強力なレーザー光の波長を応用した通信は、互いにこの光線を傍受できる範囲内であれば十分に可能なのだ。従ってあれと同じものが等間隔にミノフスキー粒子の散布されたこの宙域に無数に配置されているとすれば、いずこか任意の場所からこちらに通信を送ることは可能だろう」

「な、なるほど……!」

 額に冷や汗を浮かべて深くうなってしまう俺だ。
 少ない情報からこれほどまでに的確な予想を立てるその洞察力、感服するばかりの副艦長だが、そのすぐ横で若いヤツらがごちゃごちゃとやっているのにちょっとだけこの気をそがれる。

 どうやらデーミスがこの親分のドムの隊長と小声で掛け合いしているらしいが、バルダも目線で圧を掛けているようだ。
 こいつも額にじっとりと汗をかいている。

 あれ、なんかヤバいのか?

「あ、いやっ、大尉どのっ! ダメでありますっ、そんな勝手に? 通信システムのハッキングと同期はこちらの曹長どのができるとのことでありますがっ、ブリッジの許可なくは、え、バルダ曹長、もうやっているのでありますか??」

『だからデータをそっちに送っているだろう! おかげで通信感度がすこぶる良好だ。ノイズがなくなっただろう? モジュールと機体の距離が近ければこうやって通常回線でも介入できる! ある種の発明だな? それじゃさっさと先行するぞ!』

「あっ、え? だからダメでありますっ! 機体のチェックをさせてほしいでありますっ! 単機での戦闘行動はっ……!」

 何を勝手なことをやっているんだよ、おまえらは?

 白けたまなざしを向けるに、どうやらガイアのヤツが何がいるとも知れない厳戒宙域に突入しているらしい。
 勝手な自己の判断でだ。
 呆れて言葉も出ない俺だが、背後のキャプテンシートの少佐からの無言の視線が痛くて浮き足立ってしまう。

「ん、勝手に何をやっているんだ、おまえら? まずは状況の説明をしろ!!」

 チラチラと背後を見ながら言ってやるに、慌てふためいたメカニックのデーミスが青ざめた表情でこちらを振り返る。
 その横では操舵士のバルダがやけに険しい顔つきでコンソールのディスプレイを見つめていた。
 なんかイヤな気配を感じる俺だ。
 操舵士は本来の航路図表のディスプレイを凝視している。
 この俺の作戦指揮ブースの操作盤ではない、おのれの真正面にあるヤツだ。つまりは、このムサイの進路にも関わるような、何かしらがあるということなのか?

 この疑念を言葉にするよりも、やけにクリアな音声で遠くの戦闘宙域にいるはずのリック・ドムの一番機、ガイアからの音声が入ってきた。

『おいっ、聞いているか! ブリッジのやつら!! とんでもねえのが出てきやがったぞ? おい、デーミス、聞こえているか?』

「はっ、はい! 聞こえているでありますっ! 隣で中尉どのも聞き耳立てているであります!! それで大尉どのは、そちらは何がどうなされたのでありましょうかっ!?」

 即座に聞き返す若いメカニックに、ベテランのMSパイロットは呆れたようなさまで言葉をつなぐ。
 見れば当たり前のようにメットのバイザーをオープンにしていたから、その表情がまんまで見て取れた。
 よって両目を大きく見開かせるヒゲづらの中年パイロットだ。
 そいつがぶっきらぼうに言い放った。

 ちょっと信じがたいようなセリフをだ……!

 え??

 はじめ何のことだかさっぱりわからないできょとんとしてばかりの俺だった。

『見えるか? ちょっとでかすぎてこの09のカメラに収まりきらないが、この形状の一部だけでそいつが何だかわかるだろう? それこそが見たまんまだな! なあほら……!!』

 MS09、すなわちドムの隊長さんの言葉にうながされて子分のメカニックが目の前のディスプレイをのぞき込んで、すぐさまにその身をピキリと硬直させる。その横でおなじくこの状況を注視していた若い操舵士までもが、ごくりと生唾を飲むのが気配でわかった。
 真顔のデーミスが緊張に声を震わせながらに報告。

「こ、これはっ、大変であります! ドレン中尉どの、何もないと思われた宙域に、とんでもないものが出現してきたのでありますっ!!」

「とんでもないもの? なんだ一体? そもそもがこの宙域に、このムサイの進路に影響するようなものがあるはずが……!!」

 メカニックと一緒になってディスプレイをのぞき込む俺の全身が直後にはぴたりと硬直する。
 刹那、思考が真っ白になるおじさんだ。
 この時、遠くの宇宙ではおなじくおじさんの凄腕パイロットがどこかどっちらけたさまでうそぶいた。

『ありゃあ、どう見てもコロニー……だよな? ああ、そうだ、まんまガチガチのスペース・コロニーだ。植民地サイドでもなんでもないこんな野良の宇宙空間に……!』

 現場でまさにそのものを肉眼で見ている人間の言葉に、だがまだ信じられない思いの俺は、たぶん青ざめた表情で隣の航海士を見つめる。
 無口な若者は、おなじく緊張した面差しをこちらに向けて、ただ静かにこくりとうなずくのだった。

「……!」

 おいおい、冗談だろう??

 ドムのカメラが捉えている画像がこのムサイのブリッジのメインモニターにもでかでかと映されて、そこにはやはりあのおなじみの特大サイズのシルエットが、詰まるところで人類史上最大規模の人工建造物がこれまたでかでかと映し出される。

 でかすぎてその全容が見て取れないくらいのヤツがだな!

 こたびの戦争の戦禍にさらされて放棄された廃墟のコロニーなんかではなく、まんま現役のヤツだと遠目にも視認できた。

 まことにありえない光景だ……!

 ことここに至り、背後で静観を決め込んでいたはずの少佐がすっくと席から立ち上がる。
 その気配を背中にひしひしと感じ取る俺は、だがこの背後を振り返れないままに彼の言葉を聞くのだった。

「ドレン。わたしも出るぞ! このわたしが合流するまで大尉には現状維持を厳命しておけ。決して功を焦るなとな……?」

「は、はい?」

 どうやら赤い彗星の異名を持つ希代の英雄には、そこに他とは違う景色が見えているのかも知れない。
 ちょっと意外に聞いてしまうこの俺に、だが前のサブモニターからはオヤジの舌打ちが聞こえてくる。

『チッ……! キザ野郎が出てくるのか? だが悪いが現状維持はちと厳しいかもしれないぞ? なんたってここにはあのコロニー以外にも余計なものがありやがる』

「な、なんだ、何を言っている?」

 黒いメットの中で険しい顔つきをしたヒゲづらのぼやきに、それまでずっと沈黙を守っていた航海士のバルダがぼそりと言うのだった。

「います……!」

「?」

 おのずとゆっくりと視線を向ける俺に、ひどく真顔の航海士はギュッとみずからの操舵輪を握りしめる。

「感あり、おそらくは連邦の艦船……!」

 は、なんで!?

 ギョッとして聞かされる俺に、またしても現場のエース級がほざいてよこす。この声色がやけに冷たいあたり、余裕はあまりないことがいやが上にも聞き取れた。

『ふん、いつぞやとおなじ、マゼラン級とサラミス級だな……! コロニーがでかすぎてこの間にある豆粒みたいなの、すっかり見落としてただろう? あいにくで向こうさんのレーダーに引っかかってるみたいだ。索敵範囲はあちらが上だからな? ちなみにSOSってのは、どっちから発信されているんだ?』

「ば、バカ!! もっと早くに言えよ!? いや、あのコロニーと連邦とで小競り合いしているってことか? 状況からしてコロニー側から発信されたものなんだよな? どうして……少佐!!」

 内心混乱しながら背後を振り返ると、そこにはもぬけの殻となったキャプテンシートがある。
 彗星は身のこなしが素早い。
 そこからおよそ三分と経たずに出撃する少佐の06ザクⅡだ。
 かくて事態は風雲急を告げる急展開となる。


 再生計画 コロニーと難民 そして隠された真実と思惑

Scene1


 ブリッジ内に慌ただしくした警告音が響き渡る……!

 それはこの艦隊の総司令、シャア・アズナブル少佐の出撃時にだけ発される特別な警報だ。
 専用の赤いMSで出撃間際、少佐との会話は、何やら少し示唆に富むかのような、思わせぶりなものであった。
 俺は出撃シークエンスを一息にクリアして、今しも飛び立たんばかりのエースパイロットへ敬礼してこれを見送る。

「ご武運を! 新装したカタパルトシステムが早くも役に立ちましたな! ですがあちらはわからないことだらけですので……!」

 そのMS搭乗時であってもパイロットスーツを着込むことがない、日頃の赤い制服のままの青年将校は、その仮面に不敵な光をたたえつつ、おまけ口元には自信に満ちた微笑みまである。

 どこまでも華麗でおじさんの目にはまぶしいくらいだ。

『なに、おおよその考察はできるさ。ドレン、貴様も知っているとおり、コロニー公社が戦禍で破損したコロニーを再生するのに秘匿された宙域でこれを行っていることは、もはやもっぱらの噂だ……!』

「はあ、それは……! だとしたら、そこにこの我々がたまたま出くわしてしまったと? ですが連邦の戦艦は……」

 怪訝に首を傾げながらの返事にも、余裕の笑みを崩すことがない我らが赤い彗星だ……!

『再生されたコロニーはこの大戦による難民の受け皿も兼ねているらしい。確かに一石二鳥なのだろうが、それ以外の思惑もそこにはあったりするわけだ。往々にしてな……!』

「?」

『そう、まさしく実験場には打ってつけというわけだな? このわたしのにらんだとおりならば! 連邦に先を越されるわけにはいくまい。ドレン、大尉にはすぐに合流すると伝えておけ!』

「は、は!!」


 赤いMSが一筋の紅い航跡を残して艦から飛び立つ。
 大型のバックパックブースターをフルバーストで進軍するザクはわずか四分弱で目的の宙域へと到達していた。

 片や、当の混乱した宙域では、単機で孤立したガイアのリック・ドムが今しも連邦の艦船との戦闘を開始しようとしていた。

「た、たぶん大丈夫だと思われるであります!」

 目の前のコンソールをジロジロと必死になめ回しながらの若いメカニックのうめくようなOKに、俺はちょっといぶかしく聞き返してしまう。となりで同じく若い操舵士が緊迫した面持ちで後輩のメカニックくんの手元を見つめるが、あいにく畑違いの舵取りにはさっぱりわけがわからないだろう。

 そう。何を隠そう、この俺もさっぱりなのだから!

「本当か? とりあえず被弾はしていないはずだから不慮のマシントラブルさえなければ問題ないはずだが、弾薬とかは余裕あるのか?? スピード優先でメインのバズーカだけなんだろう」

 顔中汗だらけで振り返る思春期まっただ中の青年は、よく見たらこの顔がいたるところニキビだらけだな。
 ならこれ以上はニキビが増えないようにヘタなストレスは与えたくないのだが、スピーカー越しに当のドムのパイロットめがわんさとわめいてくれる。

『問題ない。コイツを整備したのは誰なんだ? デーミス、おまえだろう。もっとじぶんの腕に自信を持て。このオレはとっくに信用している。残弾なら予備弾倉がある。加えてヒートブレードの扱いならこのオレの右に出る者はいないんだぞ?』

 気持ちばかり若くしたかっこつけおじさんが、いけしゃあしゃあと抜かしてくれるのに若いヤツらは感銘を受けているらしい。
 が、あいにく年寄りのこちらはどこか冷めた眼差しでうさんくさく聞いてしまう。

 老害ってこういうことを言うのか?

「マッシュとオルテガの助けはいらないんだな? 今さらなんだが、弾倉の交換のタイミングを間違えたら蜂の巣だぞ! ならもう今のうちに交換しちまえよ、テキトーにぶっぱなして!!」

 背後の戦術オペレーターあたりが聞いたら露骨に眉をしかめそうなことをぶっちゃけてやるに、むしろ当のガイアが顔つきをしかめやがる。

『は? 悪いが無駄弾は撃たない主義なんだよ、このオレは。ふん、バズは戦艦を仕留めるのに温存しておきたいから、MSはあらかたブレードでぶった切ることになるな? このバズのどでかい銃口でこれ見よがしに牽制しながら! いわゆる心理戦てヤツだ。でかい獲物はこういう使い道もあるから便利だよな?』

 手元のレーダーじゃ今しも敵MS小隊が近づいているのを捉えてるくせに、内心の焦りをおくびにも出さない歴戦の猛者はでかい口を叩きたい放題だ。むしろすぐとなりの新人メカニックのデーミスが冷や汗びっしょりで見上げてくる。コンソールにひっしとしがみついてるから図体でかいくせに目線が上目遣いだ。

 落ち着け! それ以上汗かくとなおさらお肌が荒れるぞ?

 だいぶ切羽詰まった調子のセリフに重々しくうなずく俺だった。状況として芳しくはないが、絶望するほどではない。

「敵、MS六機! 量産機タイプの二個小隊であります……!」

「厳しいか? おまえの敬愛する黒い三連星のちからをもってしても?? ま、今はただの一連星、ヒトツボシなのか?」

『やかましい。貧弱なジムの二個小隊くらいこのオレひとりで釣りがくる! デーミス、おまえいつからオペレーターになったんだ? 小僧は黙って見ていろ。すぐに終わらせる……!』

 完全に囲まれておいてよくそんなでかい口がたたけるな?

 無駄ダマだなんて言わないで素直に一機でも叩き落としておけば良かったものを、単機で仁王立ちしてのんきに敵勢を待ち構える重MSの使い手に呆れまじりに言ってやった。

「おい、そうやって好き勝手にやらせてやれば、敵艦からの余計な援護射撃を食らわないでいいだろうって算段なのか? だがあいにくで敵さんはおまえよりも目の前のコロニーに気があるらしいから、そっちにはケツを向けたまんまだろ。いいから敵MSに集中しろよ! 少し時間を稼げば我らが少佐が駆けつけてくれるから、その時点で形成逆転だ!!」

『けっ、そんな都合良く星をゆずってやるものか! キザなボンボンに現場のたたき上げの底力を見せてやる。今さらロートルの06ごときに出番を譲ってやるほどお人好しじゃないんだよ』

「敵MS発砲! これは、なぶり殺しにするかのごとく距離を置いての間接攻撃でありますっ……!!」

「さすがにわかっているな? パワーと体格差があるドム相手の戦い方ってヤツを! 大尉、冗談は抜きにして時間稼ぎに専念すればいい、少佐はじきに到着するはずだっ……おいっ!?」

 にわかに緊迫するブリッジの空気をあざ笑うかにしたドム小隊隊長機の挙動だ。不意の急速旋回の後に一気に背後のロケットブースターを一斉点火! はじめに発砲してきた敵のジムめがけて頭から突撃!!

 そんな無茶苦茶な!?

 1対6ってのは連邦の白い悪魔とかいうバケモノのみがこなせるようなもので、現実には相当にシビアな戦力差だ。

 この周りをぐるりと囲まれてしまえば、常に誰かしらに背中をさらすことになるのだから?
 だがそれすらも計算ずくだったものらしい『星』の異名持ちは、およそ迷うこともなく操縦桿を片手に握ったままアクセルペダルをべた踏みだ。メットのバイザーを下ろした中ではどんな目で獲物を睨み付けているのやら?


『ほう、連邦のヤツらもいっちょまえにバズなんぞ持っているんだな? だが使い方がなってねえ、そういうデカブツは無駄に距離を置きすぎるとよけられやすいし、今みたいな乱戦や接近戦になっちまえばとたんに使い勝手が悪くなるんだよ!!』

 はじめから狙ってたんだな!

 数の有利にかまけて威嚇がてらに撃ってきたヤツにカウンターで反撃、慌てた相手は二撃目を放つもこの狙いがまるで定まらない。おかげで難なく敵の懐に潜り込むガイアの格闘戦特化型リック・ドムだ!


『馬鹿野郎が! さっさと邪魔なバズを放って肩のサーベルを構えやがれ!! 軽くて華奢なそいつじゃでかいお荷物抱えたまんまではまともに剣なんざ振れないだろうがっ、でないと……』

 既に肩から抜き出していた長いヒートブレードが、ギュルンと唸りを上げて横凪に一閃される!!
 それであっさりと敵のジムはこの上半身と下半身がおさらばしていた。チーズケーキをカットするくらいにすんなりとだ。
 直後に派手に爆散!
 その時にはとっくに回避機動に移っているガイアのドムは、次の獲物を求めて頭のモノアイをギラリと光らせる。

 一機撃墜!!

 もはや鬼神のごとき手さばきと烈火のごとき勢いだ。

『こうなっちまうんだぜ? 高い授業料だな! じゃあ次はどいつが教えてほしい? そこのバズ持ち! おまえの番だな!!』

 わざわざバイザーを上げて言いざま、今度はみずから狙いを付けて敵MSにケンカをふっかける暴れん坊だ。

 完全に一人舞台になりつつあったが、敵もそれなりに態勢を取り直してはいる。自機から見て一番遠くにいるバズーカ装備のジムに突進するリック・ドムを、ただ黙って見過ごしてはくれなかった。それぞれが黒いほうき星めがけてみずからの獲物の狙いを定め、やがてはトリガーを引き絞らんとする。
 傍で息を呑んで見守るデーミスが何事が言いかけたのと同時に、先手を打ってこれを黙らせる凄腕の隊長だ。

『わかってる! こうしろって言うんだろう? ほらよっ!!』

「このままじゃ蜂の巣にされるぞっ! 何をしているんだ? あれ、一発も当たらない??」


 まっすぐの直線軌道のさなかにこの身体をひねって横回転のスピンを加えるリック・ドムが、その胸部に備える拡散粒子砲を周囲に盛大にぶちまけたのを後になって思い当たる俺である。
 してやったりと言いたげなガイアのセリフがそれを裏付けた。

『……ククッ、まんまとだな? おかげでエネルギーゲージがゼロだが、こんなものこうでしか使わねえ、ありがとさんよ!』

 そうか、白熱するビームの拡散粒子でいわゆる目くらましを食らわせたのか! 攻撃力はなくとも敵の射線を逸らすのには十分だ。もうしばらく撃てないらしいが。

 二機目のジムは殊勝にも右肩のバズを放り出して左手にシールドと右手にサーベルを構えるが、頭部のバルカンで相手からの突進を牽制するくらいの冷静さは欲しかったか。
 シールドを機体の前面に構えて鉄壁のガードを装うが、ガイアの近接戦闘特化型のMSの威力をなめていたのが命とりだ。
 結果、サーベルを交えるまでもなくヒートソードのひと突きであっさりと盾ごとその胴体を貫かれていた。
 ドムの身の丈ほどもある長尺のソードは射程がサーベルの比ではないくらいに長いのだ。
 果たして一瞬のうちに味方を二機も失った敵部隊は、それでもろくも算を乱して混乱に陥る。

 およそろくな連携が取れていないな。

 運悪く隊長機でもやられちまったのか?

「よ、よしっ! うまいことこっちのペースだが……」

 だからってあまり距離を置かれるとむしろ敵艦のビーム砲を食らいそうだな? いや、もはやその心配もないものか??

 ここまで多勢に無勢を押し返されるとは夢にも思っていないのだろう駆逐艦を伴った巡洋艦は、むしろこの艦砲をあろうことかコロニーに向けて放つのだった。


 え、あいつら何をしているんだ!?

 仮にも正規の軍用艦が民間相手にあまりの乱暴狼藉ぶりに言葉もなくなる俺であったが、そんなものつゆほども気にしない根っからの乱暴者ががなる。バイザーが全開のメットの中でむき出しの表情が赤らんだ鬼みたいなヒゲおやじがツバを飛ばした。

『おおらっ、逃げてばかりいないでかかってきやがれっ! 連邦のへっぽこMSどもがっ、数があればいいってものじゃないんだよっ!! フォーメーションもまともに組めないのかっ!?』


 ノーマル兵装で片手のビームガンを連射するジムに、右肩に担いだジャイアント・バズーカの銃口だけで圧倒するガイアのドムは難なくソードの射程にまで肉薄する。
 そうして左手を大振りの一撃で敵勢を半減させるかと思いきや、突如と反射的に身を翻すリック・ドムだ。


『……ん! なんだっ? こいつは、まさか……もう来やがったのか!!』

 薄暗いコクピット内で周囲のディスプレイをじろりと眺め回すガイアの視線が、ある一点で険しく細められる。
 乾いた舌打ちが漏れ出た。
 聞き間違いじゃないな。
 ゴクリと生唾を飲み込むこの俺だ。
 気がつけばもう流れがガラリと変わっていた。
 その瞬間、激しいザクマシンガンの一斉射を背中から浴びて、ただちに爆発四散する敵MSだ。その直前のドムの不可解な動きは、つまりでこれを回避するためだったんだな?

 マシンガン! そう!! 

 紅い彗星、シャア・アズナブル参上の瞬間であった。

「少佐!!」

 これぞまさしく真打ち登場!!


 この寸前まで奮戦してたドム隊の隊長どのには悪いが、思わず目の前でガッツポーズを取るテンションハイな参謀のおじさん。 
 カメラ越しのヒゲづらはやけに心外そうだが、ことここに至り、勝利をはっきりと確信するこの副官、ドレンだ。

 そしてはじまる怒濤の快進撃!


 すべてが混沌とした宙域の戦いは、あっけないほどにあっさりとした決着を迎えるのだった……!!


 Scene2


「少佐!!」

 戦場に着くや否や電光石火の早業で早くも一機撃墜!

 その主役然とした華麗なる登場に、思わず声を上げてしまうこの俺、ドレンだ。

 赤い彗星とは良くも言ったもので、全身を赤くカラーリングされたザクⅡがスラリとした立ち姿を夜空に浮かべる。
 それはさながら一枚の絵画のごとき壮麗さで、見る者の心を打ち振るわせた。きっとこのおじさんだけじゃないだろう?

 うおお、めちゃくちゃカッコイイぞ、ザクなのに!!

 感動のあまり言葉も出なくなる俺だが、戦場でこれを間近に見るヒゲのおやじのパイロットは迷惑げに文句を垂れるのだった。

『余計なマネを! オレの獲物を横取りしやがったぞ? 旧式の06の分際で! 恥ずかしくねえのか、あの赤いザクってのは?』

「その旧式にまんまと星を横取りされるおまえのほうが間抜けなんだろう! 何はともあれ喜べよ? 星持ちの異名のパイロットがふたり、もはや鬼に金棒でこちらの勝ちは決まったようなもんだろうさ?」

 リック・ドムのコクピットで毒づくガイアにご機嫌なテンションでブリッジから突っ込む俺だが、この横で黒い三連星びいきのメカニックが口をとがらせた。

「えー、今のは十分に大尉どのが撃墜できたものと思われます! このじぶんにも横取りのように見えたのでありますがっ……」

 ブリッジの空気になじんできたのか、ブサイクづらで一人前に文句を言う新人くんだ。これにはちと苦笑いで返すこの副官だったが、遠くの大尉も気乗りしないさまでこれをいなす。

「そう言うな! こういうのは所詮は早い者勝ちだろうさ?」

『デーミス、余計なことを言うんじゃない。こっちがみじめになるだろう? というかおまえ、いい加減にデッキに戻れ……!』

 ほぼ自分付きの専属メカニックを黙らせてから改めてモニターを見上げる熟練パイロットだ。モニターの中で悠然とした一枚絵みたいな立ち姿を見せつける、赤いMSに改めて顔をしかめる。

『来なくてもいいものを……! このオレの取り分が減るだけだろう、残りは三機、あと戦艦が都合ふたつか……』

「あまりひとりで無理をしようとするなよ? せっかく少佐が駆けつけてくれたのだから、これとしっかりと連携して……!」

『御免こうむる! あんなすかしたキザ野郎とじゃまともなフォーメーションなんて組めやしねえだろう。何より旧型の06じゃ、この09に付いてはこれないだろうよ?』

 もういい加減にドムって言えよ、マジで面倒くさいから!

 好き勝手な言いようが独善的に過ぎる不良パイロットに、はじめ呆れて言葉に詰まるのだが、当の少佐みずからがこの通信に介入してくる。
 思わず敬礼してこれを聞いてしまう俺だった。
 果たしてこの口元の不敵な笑みを絶やさないカリスマは、余裕の有り余る口ぶりで歴戦の勇者に応じる。

 赤い彗星と黒い三連星の隊長格がいるってのは、これと対戦する相手側からしたらどんなものなんだろうな? かなり混乱しているらしい残りのジムのパイロットたちの心境をおもんばかってみるが、余計なお世話か。だが赤いザクが登場してからの敵の慌てふためきようはかなりあからさまだった。

 出だしの勢いのまま畳がけるでもない不動の専用ザクの内部で、思わせぶりなセリフをマイクに放つ戦場の赤いバラ。
 その挙動に視線が釘付けの俺には他にたとえようがなかった。

『フッ……! 大尉、このわたしと無理に歩調を合わせる必要はない。それほどの局面でもないのだからな? だがこのザクⅡを見くびっているのならば、そこには異論を唱えたいところではあるが……!』

 これには今や完全な引き立て役でしかない地味で貧相なヒゲおやじが憮然としてモニターを見上げる。見下ろす少佐は涼やかな眼差しを仮面の奥に隠したままにさらりと続けた。

『さて、ジオンはこの機体で幾多の戦局を勝ち抜いたことをあの連邦の後発MSたちに知らしめてくれようか、大尉も良く見ておくがいい。君たちの持つ異名もこの機体で勝ち得た名声だったはずなのだからな……!』

 かすかな沈黙……!

 次には怒濤の攻撃がはじまるのがたやすく予想されたが、かすかな舌打ちしてヒゲづら、もといリック・ドムのパイロットめがほざく。

『ケッ、キザなボンボン風情がいかにも知った風なことを! この09に付いてこれるならやってみろって話だ、むしろどれだけ凄いのやらとくと見させてもらおうか? うわさの赤い彗星の腕前とやらを、この黒い三連星のガイアを前にしてな!!』

 憎々しげに言いながらしっかりと少佐の専用ザクⅡをカメラの中央に据えるガイアだ。
 頭のツノからつま先までぴたりと収まる画角で固定……!
 見ている側としてはまことにありがたいが、それだとじぶんのMSの機動に問題があったりはしないか?と頭の片隅で疑問がよぎったりする。

 あれ、これってメインカメラの画像だよな? よそ見をしながら戦闘行動に入るのか? いくら少佐が気になるからって??

「大尉、まだ敵のMSは三機残っているんだよな? よそ見が過ぎやしないか、ちゃんと目の前に集中しろよ! そっちの少佐の絵面はもういいから!!」

『……もういいのか?』

 手元の小型モニターの中でバイザーを全開にしたオヤジがとぼけた調子で聞いてきやがるのに、なんか強烈な嫌味みたいなものを察して思わずがなる副艦長だ。

「いいに決まってるだろ! アイドルのコンサートじゃあるまいに? 少佐のひとり舞台なんか仕立ててどうするんだっ、おまえも仕事しろよ!! 素敵なカメラワークはもういいからっ!?」

『かぶりつきだな? どうせあそこらへんのはここからじゃ手が届かないから譲ってやってもいい。競争をしてるわけじゃなし、このオレもきっちりと仕事はするさ……ほら、はじまったぞ?』

 開き直った物言いがなんかどっちらけだな?

 おまけ何やらたぶんに含むところがある言いようでメインカメラの画像を少しだけ揺らすのに、思わず身を乗り出してブリッジのメインモニターに食い入る推し活おじさんだった。

 公私混同、他のブリッジクルーに会わす顔がないな……!

「どれどれっ? うおっ、画面がでかいから余計に迫力がありやがるなっ、少佐!! わおっ、さすがに早いっっ!!」

 ザクマシンガンを正面に構えたままのザクⅡが、余計な予備動作や機体の挙動にブレなど一切見せないままに急速発進!!
 疾風のごとき身のこなしで残る連邦の残党どもに襲いかかった。まずは手持ちのマシンガンの連射で敵MSの動きを封じつつぎりぎりまで接近、背後へ抜き去り際に左手に構えたヒートホークを素早く振り抜く!


 ブゥーーーン! ドッギャアァーーン!!

 がら空きの背中をばっさりと断つしゃく熱の刃だ。
 背中のメイン動力を破壊されたジムはただちに爆発炎上、だがこの時には少佐の赤いザクは既に次の獲物へと肉薄していた。

 速い!! どの瞬間もマックスの最高速で突き抜ける赤いザク!!

 動きにまるで無駄がないし、コース取りもブレることなく完璧だ。今となっては旧型の量産機が見違えるような目にもとまらぬキレッキレの直線鋭角的攻撃機動をブリッジの画面一杯に見せつけてくれた。
 編集なしでこの見応えはもはや異常だ!


 少佐、一生ついていきますっ!!

 さすがに他のクルーに聞かせるにははばかられるセリフは心の中だけで叫んで、この画像を間近で抑えているカメラクルー、ならぬMSのパイロットにうわずった声をあげる。

「すっ、凄いぞっ! じゃなくて、ガイア! おまえは何をしているんだ? とっとと……うお、もう二機目をターゲットに、今度は真正面から!?」

 言葉とは裏腹に大画面のモニターから目が離せない俺だ。

 同じ凄腕のパイロットだからこその強みなのか、完璧なカメラワークで赤いザクを中心にぴたりと据えたリック・ドムのメインカメラは少佐の描く芸術的高速機動の軌跡をありのまま克明に宇宙のキャンバスに描写する。
 戦場カメラマンなら引く手あまただな。
 退役後の身の振り方が見えた気がしたのは気のせいか。
 ともあれ必死に後退するジムめがけて問答無用のヒートホークの引導を叩きつけるザクは、確実に正確にこのコクピットを破壊していた。うおおっ……!

 早くも三機撃墜!!

 まさしく鬼神のごとき強さだ。
 ひたすら目を見張る俺に現場でこのさまを見つめる熟練の大尉は、ひゅう!と口笛ならしてあざけった賞賛を送る。
 ただちにメインカメラの画像を切り替えてどことも知れない宇宙の暗闇を捉えるリック・ドムのメイン画像だ。

 だいぶ遠くにほうほうの体で戦場を逃げ出していく敵MSがあったが、敵前逃亡は極刑ものだろうと怪しく見るこの俺にスピーカー越しにやさぐれたガイアの野郎が言ってくる。


『はん、コイツであいこだな? それ、ドン! このオレの狙いははなからもっとでかい星だ、悪いがいただかせてもらうぜ?』

 敵MSの背中を瞬時にロックオンした手持ちのバズーカの砲弾をリリースしたガイアは、これをもって撃墜を宣言。
 言いつつカメラの画像が急速に流れていくのに、怪訝に思う俺は思わずわめき返す。あまりにも性急なことの運びに内心で赤い警告ランプが点っていた。すぐこの側で流れを追っているデーミスや操舵士のバルダも同じ危惧を感じてはいたはずだ。

「お、おいっ、そんなろくにトドメを刺したかを確かめもせずに!? いくらバズーカの狙いが確かでも、これを撃破できるか絶対の確証なんてないんだぞ!!」

 通常なら相手機が大破したことをこれと視認した上でないと次の行動には移れないはずだ。この場合は!
 半ば非難めいた口ぶりとなるこちらに、いっかな悪びれるでもないベテランはぺろりと舌を出しやがった。
 メットの素顔をさらしたまんまだから丸わかりだ。

『心配ない! 万一に外したとしても、ここには一騎当千の赤い彗星さまがいるんだろう? だったら……!』

「それって……!」

 後始末は少佐に任せて、じぶんだけさっさとでかい獲物、つまりは連邦の戦艦を仕留めに走るってことか? なんてヤツ!!

 スタンドプレーが著しいわがままな部下にも落ち着き払ったさまの少佐は、しごく納得のいったさまで肩をすくめさせる。

『これは……してやられたな? まあそちらは大尉に任せてもいい。わたしもわたしなり、この場においては大きな釣果を狙ってはいるものだからな……!』

『はあん、そいつはどうも、ありがとうよ! もったいつけた言いようがいちいちかんに障るが、言わせてやるさ? その代わりに戦艦キラーの誉れはこの黒い三連星がいただかせてもらう! マゼランもサラミスもコイツの餌食にしてな!!』

「欲張り過ぎだろう!! 相手はとんでもない勢いで弾幕張りまくってるぞ!? 単機では無理だ! なんだっ、バルダ?」


 少なからぬ危機感と共に声を荒げる俺に、横からちょんちょんと操舵士の若いのがこの肩口をつついてくる。その表情から察するに、どうやら様子が変だと言いたいものらしい。

「あ、あのっ……!!」

 そう、普段から船の舵取りをしているバルダからすると、連邦の艦がガイアの猛追撃を受けていながらこの進路をいまだ転進しないこと、劣勢に立たされた自軍のMS部隊がSOSを発信(していたと思われる)するのを最期まで無視し続けたこと。
 そして今やただ闇雲に弾薬を何もない虚空にばらまいていることがとても不審に映るのらしい。


 ヤツらは果たして誰を相手にしているのか……?

 いやはや、この目を見ただけでここまで読み解けるこの俺は、部下に対しての理解力が半端ないな!

「まさか、あのコロニー以外にも、ここには何かがあるってことなのか? 一体、何が……!?」

 混乱しながら必至に考えを巡らせる俺の耳元に、不意に回線越しの乾いた息が吹きかかる。ヒゲのオヤジの口から発せられたそれは、何やらひどい驚愕の色を帯びてこの耳朶に絡みついた。

『んっ、なんだ、コイツはっ……!?』

 でかい獲物を眼前にしたガイアの目論見はもろくも崩れ去る。
 ただならぬ緊張感が走る中、自身の愛機のコクピットで少佐がかすかに身じろぎする。

 その冷たき仮面の視線の先に映るものは何か?

 勝利を目前、思いも寄らない事態に直面する、この俺たちなのであった……!!

 







 

 

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