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ルマニア戦記 #005

#005

 現地時間、AM3:30 

 作戦開始の時刻になった。
 まだ東の地平から朝日の気配も感じられぬ夜更けに、田舎の前線基地の外れにある見るからにオンボロなアーマーの格納庫には勇ましいロボット兵器のエンジン音がかまびすしく鳴り響く。
 まだ世間的には公表すらされていない二機の新型開発機に一機の旧型機種が今しもスタートを切るべく横並びの直立不動で起立する。
 あいにく部隊にはまだ隊長格らしきが不在なもので、このデッキの主たるベテランのブルドックの親父の声を待つのだった。
 それだから最新鋭機のよりいかつい見てくれした機体に身を落ち着ける若手のでかいクマのパイロットも陽気な鼻歌交じりに、例の味のあるしわがれ声が景気のいい号砲を放つのを今か今かと待ち受ける。

「ふっふふ~ん♪ さてはて、これでこの問題だらけのオンボロデッキともめでたくお別れだな! 配備先の新造戦艦にはそれ専用のハンガーデッキがあるっていうから、ずいぶんと気が楽になるよ。ただし頼りになるブルースのおやっさんはいないんだけど……」

 これを最後にしばらく世話になったこの基地とは永遠におさらばなのだが、となればベテランのメカニックとも長いお別れ、それなりに礼を言いたいところだ。だがあいにくと耳に入ってきたのは同僚の何かとつっけんどんなオオカミのものだった。

「おう、そろそろいいよな? つーか、そっちの合図がなけりゃこっちの出るタイミングがわからねえだろ。いいからぼけっとしてないでよろしく頼むぜ、ベアランドの隊長さんよ!」

「え、ああっ、そうだな……! て、隊長? あれ、シーサー、今なんて??」

 出し抜けのセリフにぽかんと口を開けてしまう。
 部隊を仕切る立場となる辞令などまだどこからも出されていないはずだ。ただの噂では聞いたことがあるが、実感が持てないところに無愛想な相棒から言われてひたすら目がキョトンとなる。

「隊長だよ! 何度も言わせやがるなっ、はん、しっかりしやがれ、体力バカの野放図なクマと張り合っても疲れるだけだし、こちとら生まれつき一匹オオカミな性分だから、隊長さんだなんて性に合いやしない。納得の上で譲ってやるんだぜ? だから今日から名実ともにあんたがこの部隊の大将だ!! そら、それじゃ先に行ってるぜっ!」

 一方的に言いたいことだけぶちまけると全身が銀灰色のスマートな機体がただちに前のめりにヒビだらけの滑走路を駆けっていく。通常のギガアーマーにはありえない身のこなしと駆け足のアーマーは、それこそあっという間に夜の暗闇にその姿を消し去ってしまった。半ばあっけにとられてそれを見送るベアランドだ。

「あっ、シーサー! それじゃこの先の中継地点で無事に会おう! ……て、いいのかね? このぼくなんかで??」

 ※ストーリーと挿し絵は随時に更新されていきます!

 己が部隊を仕切るのに適しているとも自覚していない呑気な若造だ。そう自分に問いかけてしまうのに、残る一機のアーマーからなおらに若い青年の言葉が掛けられてくる。

「はっ! いいのではありませんか? 自分もウルフハウンド少尉がおっしゃっていた通り、ベアランド少尉どのがきっと適任なのだと思われますので。どうかこの即席部隊を無事に目的地まで導いてください。それでは自分もウルフハウンド少尉を追って発進します。こちらはかろうじて空を飛べますが、巡航速度はどちらにも負けてしまいますので……では!」

「あっ、みんな気が早いな! でもリドル、おまえはあくまで補給機のパイロットなんだからムリなんかするんじゃないよ! 戦いはシーサーと基地の外で合流する第三部隊のみんなに任せてさ! あー、なんか緊張してきちゃったな? 責任重大だっ……」

 唯一空を飛んでの戦闘が可能な機体として部隊では独立した行動をする都合、ひとりだけ取り残されて居心地が悪くなる。ドックに残っているのはあとはじぶんとここのメカニックマンの親父さんだけだ。それとなんと別れを惜しんだものか考える間もなく当の野太くしわがれた声が二つの鼓膜をビンと震わせる。

「ふん、今さら何を力んでいやがる? いつだって太平楽なクマ助が、柄にもねえこと言うんじゃねえ。こっちは可愛い弟子を預けてやるんだ、もっと堂々と構えてくれねえとおちおち昼寝もできやしねえだろうが! やっと御役御免で悠々自適な老後を過ごそうってのによ」

「ははっ! まいったな? まだそんな落ちぶれてもいないくせに! いずれまた可愛い息子さんには会わせてあげるから、それまでボケずに頑張っててくれよ、おやっさん? 危ない橋を渡るのはリドルじゃなくてぼくらパイロットの仕事なんだからさ! あいつは腕がべらぼうに立つスーパーメカニックってことで」

「フッ、そう願う。だがシビアな戦場はそんな建前ばかりじゃ通用しねえだろ? あいつだってそれなりには覚悟を決めているはずだ。何はともあれよろしく他のむぜ、クマ助、ベアランドよ」

「約束するよ……! それじゃ、ベアランド小隊、新たなる戦地を目指してこれより出陣、互いの幸運を祈る!」

 物言いが達観した声の主はその姿こそ見えなかったが、きっとどこかで見守ってくれているとわかっていた。ブルドック族特有のしわくちゃな顔がなおさらしわくちゃになるのを見せまいとして、どこか物陰にひそんでいるのだと。

 まだ未明の暗い空に、最後の新型アーマーもゆっくりと滑走路を滑空してはやがて暗い空へと飛び立っていく。
 目指すは大陸西岸の僻地の属領。
 新たなる戦いが幕を開けようとしていた。

 ※こちらのお話はまだ執筆途中です。挿し絵ともども、随時に更新していきます!

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