カテゴリー
Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア戦記/Lumania War Record #009

#009

Part1

 ハンガーデッキでのすったもんだから、およそ二時間後――。

 スカンク族のベテラン艦長から、内密の話があると密かに招集をかけられていたアーマー部隊・正隊長のベアランドだ。

 それだから今は艦の艦橋(ブリッジ)もその真下にある、第一ブリーフィングルームで相棒のオオカミ族、メカニックの若いクマ族らと共にこれを待ち受ける。

 軍でも最大規模の新造戦艦だ。

 おまけ艦内でも一番の広さの会議室内には、およそ100人くらいは収容できるだろうテーブルと椅子があったのだが、そこに腰掛けるでもなく三人だけでぽつんとその場に立ち尽くしていた。

 ややもすれば、今は無人の壇上に、小柄な初老の紳士然とした本艦艦長どのが現れるはずだ。

 無機質な灰色の壁に掲げられたデジタルとアナログ式の時計は、どちらも約束の時間を少し過ぎていることを指し示していた。そちらにちらりとだけ視線をやって、ちょっと苦笑い気味に茶化した言葉を発する青年パイロットだ。

「あらら、約束の時間になっちゃったよ。やっぱりこんなでっかい軍艦の艦長さんともなると、いろいろと忙しいもんなんだな? こっちもこんなラフな格好できちゃったけど、別にかまわないよね♡」

 朝の荒くれた現場に顔出しした都合、はじめはしっかりと着込んでいたはずのパイロットスーツを、今は簡易式の状態に軽量化させているのを指しながら、隣でやや仏頂面のオオカミの同僚、ウルフハウンドに問いかける。
 すると朝っぱらのゴタゴタからまだ不機嫌面の灰色オオカミは、そんなしたり顔したクマにどうでもよさげに返した。

「構わねえだろ。俺だっておんなじ格好だし、身軽さにこだわる犬族のワン公どもなんてな、みんなアーマーに乗り込む時だってこのまんまがザラなんだぜ? 言うヤツに言わせれば、このスーツ自体がもう時代遅れのシロモノだなんて言うくらいだしな」

「ああ、よその戦艦じゃ、今時はみんなそれなりこだわって専用のスーツを仕立てているって言うもんね? 艦長さんの趣味嗜好とかでさ?」

 脳天気に笑う隊長に、またこの傍らの若いクマ族が目を丸くして言葉を発する。

「そうなのでありますか? 国や地域によってそれぞれ特色があるのは知っていましたが、おなじルマニアの軍の内部でもそんな違いが? でも自分としては、アーマーに搭乗する時はしっかりとした保護パーツを付けることをおすすめします!」

「ああ、これのいかつい胸当てと肩のパーツがこんな風に外れるなんて、はじめ知らなかったもんね。あ、でもそういうリドルこそ、そんなチャチなノーマルのスーツじゃなくて、ちゃんとしたパイロット向けのやつを仕立ててもらわないと! 補給機とは言え戦場には出るんだから、そこらへんはね?」

「あ、いえ、じぶんはあくまでただのメカニックでありますので、このままで……」

 細身で体力にいささか自信がないからか、途端に遠慮して頭を引っ込めるのに、体力自慢のでかい図体のクマの脇から、痩せたオオカミがのぞき込むようにして大きな口を開く。


「とか言いながら、おまえさん、しっかりとホシを取っているんだろう? 立派なパイロットじゃねえか! だったら身なりもそれなりにしておけよ、そのほうが何かと箔が付くだろう」

「いえっ……」

 すると何やらやけに浮かない顔のメカニックに不可思議そうなオオカミの副隊長だが、あいだに挟まれたクマの隊長はかすかに肩をすくめさせるのみだ。

「ふうむ、ちょっと考えなくちゃいけないんだろうな……! おっと、ようやく艦長どののお出ましだ! てか、ひとりきりなんだね。こんなに見てくれでっかい軍艦なんだから、副官のひとりくらいいてもいいはずなのにさ?」


 ベテランの艦長が無言で会議室の壇上に上がるのを見ながら不思議そうなベアランドのセリフには、この横からオオカミが若干揶揄したような調子で返す。

「ふん、よもや艦長がスカンクじゃ、誰も怖がってこの横に立ちたがるヤツがいないじゃねえのか? 犬族なんてみんな逃げ出すだろう。俺もまっぴらだしな!」

「そんな……! あれって世間でも名の知れた軍人さんじゃないか? 確かに鼻が利く人間はあんまり相性良くなさそうだけど、だからってね。あっ、でも確かここのブリッジのオペレーター、いかつい防毒マスクを身につけていたのがいたけど、あれって犬族だったっけ??」

 ひそひそ話をしていたのが、どうやらあちらにも聞こえていたらしい。かすかに咳払いして何食わぬ顔のスカンクの艦長どのだ。

「んっ、待たせて済まない。今はなにぶんにひとりだけなので、何かと手間を食ってな。そう、本来は犬族の優秀な副官がいるのだが、今はあいにくとよそでいろいろと調整中なのだ。いろいろと根回しというものをだな。ところできみたち、そんなに距離を取らないで、もっと近くに来たらどうなんだ?」

 暗に言い含めた言葉付きにまたこの肩をすくめる隊長さんだ。
 隣のオオカミが絶対にここから動かないと全身で拒否しているのにまた肩をすくめて、仕方もなしに曖昧な返答を返した。

「ま、どうかこのままで。お気を悪くしたなら謝るから。わざわざぼくらだけ呼んで話すってことは、それなりの機密事項なんだろうけど、なんとなく予想はつくしね? おおざっぱな今後のスケジュール、こんなカンジだから覚悟してくれって??」


 上官に対するにはいささかゆるくておまけ鷹揚な態度をしたでかいクマに、それを気にするでもない小柄なスカンクのおやじさんは背後のひときわおおきなシッポを一振りすると真顔で返す。

「ふむ。察しがいいな? そこまでわかっているなら手間は取らせない。なにかと機密が多い本艦ではあるから、この動向をあまり声高にアナウンスするわけにもいかないのだ。今は最小限度の人間で共有するだけでよしとして。だがベアランド隊長、私が招いたのはきみとウルフハウンド副隊長のみで、そこの若いクマ族くんまでは呼んだ覚えはないものだが……」

「ああ、この子は多めに見てあげてよ。こう見えてぼくらとおんなじ戦場に立つパイロットでもあるし! メカニックの頭を張る都合、今後のことは極力知っておいたほうがいいはずだから。大丈夫、信用できるのはこちらできちんと保障するから」

 でかい隊長の隣で身を小さくするクマのメカニックマンだが、もう片方のオオカミの副隊長は無言でうなずいてくれる。
 これに初老の艦長どのもまた無言でうなずいた。

「良かろう。では手短に話す。説明は一度しかしないので心して聞いてくれ。まず本艦の今後の予定、この進路についてなのだが……」

 言いながらスカンク族が背後に視線を巡らせるのに、自然とそちらに視線をうながされる三人だ。背後にはおおきなスクリーンがあって、真っ白だったそこに見慣れた大陸のある一部地域の拡大マップらしきが映し出される。

「今わたしたちがいるのが、このルマニア大陸西岸の第三軍港なのだが、本日中にここから南へと艦を発進させる。本格的な作戦行動に移るためにな」

「この艦が建造されていたのが、第七軍港だよね、おなじく西岸の? もろもろの都合で一度は北上したわけだけど、目的地はまったくの反対方向だったんだ。てことは……!」

 納得したさまのクマ族がくれる意味深な目付きに、真顔でうなずく艦長はさらに重々しげにこの言葉をつなぐ。


「大陸外での特務作戦だ。本艦、トライ・アゲインは中央大海、セントラル・オーシャンを南西寄りに南下、その先の第三大陸・アストリオンへと向かう。作戦の詳細は後日改めて通達するが、心しておいて欲しい。だがその前に、やるべきことがある」

「? アストリオンか、いわゆる『南の大陸』ってやつだよね? 本格的な軍事作戦をよそでまで展開するのはあまり乗り気になれないけど、直接『西の大陸』に行かないのだけはホッとしたよ。でも南に下るのには、それってちょっとした関門があるよね」


 相手の言わんとすることおおよそで了解した顔でも顔つきどこかビミョーなさまのベアランドに、隣からウルフハウンドがこちらもおおよそ納得したさまで言ってくれる。

「海上の拡大領地、『ギガ・フロンティア』ってヤツか? 海の上に無断でやたらでかいフロートベースをいくつも建造したのはいいもの、返ってごちゃついて今では敵さんのいい隠れ蓑になっちまってるっていう、あれだろ?」 

「過去の苦い経験から、軍事施設を人里離れた海上に建設したまではいいものの、四方を海に囲まれた要塞はデメリットばかりが目立つのだろう。かなりの苦戦を強いられているらしい」

「つまりはいざ考えなしの拡大路線がまんまと破綻しちゃってるいい例なんだろう? 放棄しちゃったら敵の前線基地にされちゃうし、いっそ海の底に沈めちゃえばいいんじゃないのかな?」

 歯に衣着せぬ言いようには、少しだけ眉をひそめる艦長だ。
 これにでかいクマの隊長が野放図な放言かましてくれる。
 いよいよスカンクの顔色が曇った。

「気安く言ってくれるな。そんなに簡単に沈められるような規模ではないのだぞ? それがいくつも海上に点在する、ある意味で本格的な戦闘行動向けの大規模演習地域だ」

「演習、じゃなくて、実戦だろ? なるほど、つまりはそこでこの艦のならし運転も兼ねての実戦行動をやらかすんだ。いざ南の大陸に向かうまでの演習を兼ねて? ぼくらパイロットやクルーの練度を上げるにはさも打って付けなのかね♡」

「うむ。ちなみにそちらでは人員の補充、アーマーの補強も予定している。次期主力機と目される汎用型の新型機種だ。パイロットの詳細はじきに隊長であるベアランドくんらのもとに届くだろう。目にしておいてほしい」

「期待できるのかね? 実戦での運用実績がおぼつかない新型機ばかりになっちまうんじゃねえのか、この艦のアーマーってヤツは??」

 いぶかしげに首をひねるオオカミ族に、ふたりのクマ族がのほほんとしたさまで応じる。

「さあ、これとセットでやって来る、パイロットくんたちの腕に期待ってところかな?」


「じぶんとしてもとても興味があります! 次期主力機は、確か完全飛行型の機体とのことですので。現行主力機のビーグル・ファイブの後継機だとかで?」

「ああ、そんな話だったっけ? いや、そっちはもっぱらビーガルのおじちゃんたちだとかが受け持つことになるんだろうけど。リドルはこっちのお世話で手一杯だろう?」

「とりあえずはここまでだが、質問があるなら答えよう。ないなら、解散だ。全員、ご苦労だった」

 かいつまんだ説明だけで終わった極秘のミーティングだ。
 しごくあっさりと会の閉幕を告げる艦長どのに、三人のクルーたちは無言で敬礼を返す。

 その日の夕刻、軍港を出発した巡洋艦は、沖合で大空へと浮上。夕闇の中を悠然と南へと向けて旅立つのだった。


 次回、#010へ続く…!

※まだ執筆途上です。随時に更新されます。(予定)


プロット
 ブリーフィングルーム ベアランド ウルフハウンド リドル       → ンクス艦長 今後の予定~ 
 ギガフロート フロンティア ロックランド
 アストリオン(南の大陸)

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA